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IEA HP 実施協定(ヒートポンプセンター)HPT マガジン 国内版第 42 号(平成 28 年 12 月 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター発行) HPT マガジン国内版は、ヒートポンプセンター(IEA ヒートポンプ実施協定の事務局、在スウェーデン)が発行する IEA Heat Pumping Technologies MAGAZINE を日本語要約したものです。原文の IEA HPT MAGAZINE は、ヒートポンプセン ターのホームページ http://heatpumpingtechnologies.org/news/からダウンロードが可能です。

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IEA HP 実施協定(ヒートポンプセンター)HPT マガジン

国内版第 42 号(平成 28 年 12 月 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター発行)

HPT マガジン国内版は、ヒートポンプセンター(IEA ヒートポンプ実施協定の事務局、在スウェーデン)が発行する IEA

Heat Pumping Technologies MAGAZINE を日本語要約したものです。原文の IEA HPT MAGAZINE は、ヒートポンプセン

ターのホームページ http://heatpumpingtechnologies.org/news/からダウンロードが可能です。

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目 次

1. IEA HPT MAGAZINE VOL.34 NO.2/2016 からピックアウト

1.1 Foreword

1

1.2 News in Focus

2

1.3 Market Report

4

1.4 特集記事1 6

特集記事2 9

特集記事3 12

特集記事4 16

特集記事5 18

特集記事6

23

2. ANNEXES(国際共同研究)

2.1 Ongoing Annexes

25

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1.IEA HPT MAGAZINE VOL.34 NO.2/2016からピックアウト

1.1 Foreword

スマートグリッドにおけるヒートポンプ

Heat Pumps in Smart Grids

PETER WAGENER

Operating Agent for Annex42

気候変動の影響が明らかになる中で、省エネと再生可能エネルギーの利用に関する規制が進ん

でいる。多くの国のヒートポンプ市場と政策立案者は、暖房と家庭用給湯に注目している。今後

は、需要家サイドのエネルギー消費量を調整する必要性が高まるだろう。

これからのエネルギー・システムは、供給側と需要側をこれまでとは全く異なる形で管理する

ため、スマートグリッドに係るヒートポンプの可能性を引き出すことが非常に重要である。

近年、住宅でのヒートポンプの実現に関しては、さまざまな国で複数の実証プロジェクトが開

始/実施されている。この中には、地域暖房または地域冷房とヒートポンプの組み合わせの実現

が含まれており、また、いくつかのスマートシティ・プロジェクトが進められている。

エネルギー・システムの柔軟性は、スマートグリッドでのヒートポンプの導入実現に不可欠な

要素である。エネルギー・システムは国によって異なるため、それぞれの国で提案されたシステ

ムの実現を妨げる障壁を明らかにすることが重要になる。こうしたプロセスを経て課題を解決す

る方法を定めることは、ヒートポンプのスマートな接続のために有効である。

今回の特集記事では、アネックス 42「スマートグリッドにおけるヒートポンプ」に係る報告

も多い。

アネックス 42の最終報告書は、2017年春にインターネット上で入手できるようになる。報告

書の内容については、2017年 5月にロッテルダムで開かれる IEAヒートポンプ会議の場で発表

される予定である。

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1.2 News in Focus

高効率と低コストを約束する新しい家庭用給湯器概念

New Residential Water Heater Concept Promises High Efficiency, Lower Cost

米エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所(ORNL)とフロリダ大学の科学者によるチ

ームは、住宅での給湯用に低コストかつ高効率のシステムを実現する新しい技術を開発した。

「Renewable Energy: An International Journal」上で発表された ORNLの論文に示された新

しい技術によれば、従来のガス焚きシステムよりイニシャルコストを低減できる。

図1.家庭用給湯器のプロトタイプ

「準開放型吸収ヒートポンプ・システムの効率分析」の主執筆者である ORNLの Kyle

Gluesenkampは、「このシステムはエネルギーを周囲空気と天然ガスから得るため、この新しい

概念を適用すれば、100%以上のエネルギー効率が得られる」と語った。

この設計では、通常は別個である給湯と除湿の機能を組み合わせている。準開放型の構造で

は、斬新な吸収器が従来の蒸発器の代わりとなり、薄膜を通じて空気から吸収した水蒸気を液化

する。水蒸気が吸収されると、潜熱の大半が家庭用給湯に利用される。

より簡素な準開放型システムであれば、周囲大気圧で稼働し、安価な半密閉型液体ポンプを利

用することができる。このシステムでは、蓄積する不凝縮ガスをパージする密閉型システムに見

られる真空ポンプが不要になる。また、メーカは機器の製作に際して、割高で重量のある金属で

はなく安価で軽量なポリマーを使用することができ、腐食の影響を減らすことになる。

Gluesenkampは、「準開放型構造は、既存のガス給湯器に代わるものを求める住宅所有者にと

って、今後数年以内に市販される非常に効率のよい新しいヒートポンプ給湯器を実現する」と述

べた。

UFの研究者は、準開放型ガス焚きヒートポンプのプロトタイプ開発を主導しており、商業用

途の可能性を評価するために ORNLの建物技術研究・統合センター(DOEの利用者施設)と UFの

施設を利用している。

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この研究の共同執筆者は、UFの Devesh Chughと Saeed Maghaddam、および ORNLの Omar

Abdelazizである。この研究は、DOEの支援を受けた。

図2.新しいガス焚きの吸収ヒートポンプの構成要素

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1.3 Market Report

米国の冷房:市場探訪

Space Cooling in the United States: A Market Deep Dive

Van D. Baxter、Karen Sikes、Gannate Khowailed(米国)

概要

米国の冷房市場は、より厳しい効率基準、好調な経済状況、着実に回復しつつある住宅市場、

暖かな気候帯への人口移動、および電力価格の低下などに直面している。これらの影響で、2015

年に空調機器(AC)と空気熱源ヒートポンプ(HP)の合計出荷台数が 680万台(2010年比 32%

増)に達した。執筆者らは本論文で、規制変更と経済的変化が出荷台数に及ぼす影響を調査し、

将来の市場への影響要因を明らかにする。

(1)はじめに

冷房産業の動向には、数多くの要因が影響を及ぼす。最も影響力のある要因は、米国エネルギ

ー省(DOE)と米国環境保護局が制定したエネルギー消費量と排出量を許容水準まで削減する規

制である。米国経済の健全性も、空調市場を牽引している。というのも、建物の新設、メーカの

研究開発予算、特定のシステム/機能に対する消費者の購買意欲、および産業奨励策の規模をあ

る程度左右するためである。本論文では、こうした要因が空調機器の年間出荷台数に及ぼす影響

を分析する。

図1.空調機器と空気熱源ヒートポンプの合計出荷台数の推移

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(2)省エネ規制の影響

省エネ規制を強化することで、機器の効率が向上することが期待される。

図2.セントラル空調機に対するDOEの省エネ規制の影響

(3)結論

2016年 6月までの出荷台数は、2015年をわずかに下回るものの、経済要因の改善を受けて

2016年の残りの期間は前年よりも増加すると思われる。これらの要因としては、新築建物での

冷房機器に対する消費者需要の増加、住宅修繕予算の増加などが挙げられる。来年も、この市場

の持続的成長を引き続き支える経済支援が示唆されている。空調機器メーカは、先を見越して、

低 GWP冷媒の採用を検討しつつ、大幅な効率向上を可能にする革新的な冷房システムを追求する

だろう。

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1.4 特集記事1

蓄熱は住宅暖房を含むスマートグリッドに対してヒートポンプの柔軟性を改善する

Thermal Storages Improve Heat Pump Flexibility for Smart Grids in Residential Heating

Philipp Schütz、Damian Gwerder、Lukas Gasser、Beat Wellig、Jörg Worlitschek(スイス)

概要

ヒートポンプは、電力網の負荷に応じてオンオフ切替えが可能になれば、スマートグリッドに

おいて柔軟に活用することができる。建物の熱需要を満たすため、ヒートポンプが生成する熱

は、貯蔵しなければならない。本論文では、蓄熱が統合される場合に、住宅用暖房システムに必

要な柔軟性の限界を探求する。シミュレーションによれば、期間成績係数を 10~20%低下させ

る代わりに、スマートグリッドにおける柔軟性を最大で50%引き上げることができる。

(1)はじめに

電力網の電圧と周波数を維持するには、電力の供給量と消費量をバランスさせなければならな

い。ヒートポンプによる暖房は、一次エネルギーを大量に消費する機器の 1つであることから、

エネルギー・バランスを維持する上で大きな存在となり得る。スマートグリッドへのヒートポン

プの統合を成功させるには、ヒートポンプは、建物の暖房負荷ではなく、電力網の要求に従って

運転できなければならない。居住者が不快な思いをしないように、生成された熱を建物や追加さ

れる蓄熱に貯蔵する必要がある。

本論文では、蓄熱が利用される場合に、スマートグリッドにどの程度の柔軟性が得られるかを

探る。最初のセクションでは、柔軟性の 3つの指標を紹介する。次いで、コンピュータ・モデル

とヒートポンプ制御について記述する。結論の章では、確認された柔軟性の限界と、柔軟性の拡

大による悪影響(効率の低下など)の修正方法について述べる。

図1.スマートグリッドにおける柔軟性の定義

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(2)柔軟性(Flexibility)

第1の指標は、暖房期間にヒートポンプが停止していた時間の割合である。

第2の指標は、暖房期間にヒートポンプが12時間以上停止していた日の割合である。

第3の指標は、暖房期間にランニングコストを最小にする電気料金である。

(3)シミュレーションによる検討結果

図2に蓄熱槽容量を変えた場合のヒートポンプが停止していた時間割合を、図3に蓄熱槽容量

に対するヒートポンプが12時間以上停止していた日の割合示す。

図2. 蓄熱槽容量に対するヒートポンプが停止していた時間割合

図3.蓄熱槽容量に対するヒートポンプが12時間以上停止していた日の割合

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(4)結論

蓄熱(追加システムまたは建物/暖房システムの慣性)は、柔軟性の面で大きな改善の可能性

をもたらす。重要な研究結果は、ヒートポンプの 50%以上の停止時間、16回を超える長い遮断

(long blocks)、および電力コストの 11%減である。しかし、柔軟性目標によっては、異なる

運転条件が最適となる。シミュレーションは、異なるオプションを費用効果的に明らかにし、個

別措置の影響を定量化するのに役立つ。現在の電力市場と価格決定制度では、柔軟性収入

(flexibility revenues)の経済的可能性は小さい。柔軟性を高めるには、さらなる追加奨励策

が求められる。

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1.4 特集記事2

ハイブリッドヒートポンプのスマート制御は電力網の混雑を解消するかもしれない

Smart Controls for Hybrid Heat Pumps May Solve Grid Congestion

Paul Friedel(オランダ)

概要

ハイブリッドヒートポンプ(ヒートポンプと化石燃料焚き予備加熱器の組み合わせ)は、柔軟

性の点で優れており、新たな可能性を秘めている。予備加熱器に切り替えることにより電力需要

を完全にゼロにすることができる一方で、ヒートポンプ単独運転の場合は、負荷を時間単位でシ

フトするに留まる。

オランダ市場を対象としたシミュレーション結果において、ハイブリッドヒートポンプは、暖

房コストおよび CO2排出量のいずれの削減にも寄与しないことがわかった。しかし、ハイブリッ

ドヒートポンプは、電力網の混雑緩和(Congestion)と過負荷の防止では非常に有用であること

がわかった。

(1)はじめに

ハイブリッドヒートポンプシステムは、ヒートポンプによる再生可能エネルギー利用と化石燃

料焚き予備加熱器の最適な組み合わせとなる。この予備加熱器を設置することで、暖房需要の大

半に効率的に対応することが可能になる。副次的効果として、ヒートポンプの容量は、ヒートポ

ンプ単独と比べて小さくすることができ、設置費用の大幅な低減につながる。

こうしたハイブリッドシステムは、業務用分野に長く採用されてきた。この 10年の間に、戸

建住宅向けハイブリッドシステムが欧州全域で販売されている。

Business Development Holland(BDH)は、オランダ市場を対象にスマート制御ハイブリッド

システムの可能性を調査するためのシミュレーション研究を実施した。これを大規模に設置した

場合、CO2排出量、暖房費用、および電力網負荷への全体的な影響は、非常に大きくなると考え

ることができる。

(2)ハイブリッドヒートポンプシステムの制御

制御の検討にために、図1に示すモデリングを行った。

図1.ハイブリッドヒートポンプシステムのモデリング

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ハイブリッドヒートポンプシステムのスマート制御の考え方は以下の通りである。

①効率優先運転

一次エネルギー換算効率でヒートポンプの効率が予備加熱器よりも高い場合、つまり COPが

2.5以上の場合はヒートポンプを運転する。

②CO2排出量最小運転

CO2排出量が最小となるように制御する。

③ランニングコスト最小運転

ランニングコストが最小となるとなるように制御する。

④電力網の混雑さ(Congestion)への対応

1戸当たりの電力消費量が 2kWを超えた場合は、ヒートポンプを停止し、2kW以下になった場

合にヒートポンプを起動する。

図2.ヒートポンプの外気温度特性と外気温の出現頻度

(3)結論

シミュレーションを用いた研究において、スマート制御に重点を置いた検討を行った。混雑さ

に関するリアルタイム情報に反応するだけで(制御の④)、電力網の安定性に大きく寄与するこ

とが可能である。

リアルタイム価格と CO2排出量への反応が、十分な効果を生むとは思われない。オランダの消

費者向け価格は、リアルタイムの市場変動を反映していない。価格は、基本的には少なくとも 1

カ月間固定される。リアルタイムの CO2データは、実際には全く入手できない。したがって、こ

れらの情報をベースにスマート制御を実施することは、大半が理論的演習に留まっている。

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局所的な電力網の混雑に関するデータも、いずれの政府当局からも入手できない。しかし、局

所的な系統状況をリアルタイムで推測するために、個人宅の範囲で得られる測定値を利用するこ

とは可能であると思われ、近い将来、柔軟な混雑対応の実現を可能にするだろう。

電力市場構造に違いがあるため、オランダ市場のシミュレーションだけでは、この結果を一般

化することは不可能である。

しかし、電力網の混雑管理の可能性は、電力網の負荷が最大値に達しているすべての場所に存

在する。特に、真冬、ヒートポンプの稼働が必須で柔軟性が最も乏しくなる時期には、ハイブリ

ッドヒートポンプシステムは、電力網に一定の「余裕」を与えることができる。CO2排出量と燃

料使用量の増加はごくわずかである。試験プロジェクトでは、ハイブリッドヒートポンプシステ

ムのスマート制御は、こうした代償を払うだけの価値があることを示している。

図3.制御によるヒートポンプの電力消費の変化

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1.4 特集記事3

スマートグリッドの柔軟性の点で大きな可能性をもたらすヒートポンプ-この可能性を引き出す

ことは単なる技術問題ではない

Heat Pumps Offer a Huge Potential for Flexibility on a Smart Grid and Unlocking it

is Not (Just) a Technical Issure

Dennis Mosterd、Peter Wagener(オランダ)

概要

家庭用ヒートポンプは、家庭内で最大の電気製品である。このヒートポンプは、電力を熱に変

換することができ、蓄熱の効果も期待できる。したがって、ヒートポンプは、電力網に柔軟性を

与え、再生可能エネルギーとの親和性も高い。しかし、この柔軟性を実現するには、電力網(ま

たは他の需要家や発電業者)との間である種の通信を行うために、これらのヒートポンプをスマ

ート化しなければならない。本論文では、スマートグリッドにおいてヒートポンプの可能性を引

き出すために、技術以外の課題を明らかにする。

(1)はじめに

電力網の柔軟性は、エネルギー・システムに望まれる持続可能性という点で欠かせないもので

ある。柔軟性は、発電業者、需要家、および発電業者兼需要家が電力市場において変動する供給

に対応することができる度合いによって決まる。柔軟性が高いほど、電力の不足および余剰のバ

ランスを維持することが可能である。

持続可能なエネルギーから得られる電力が変動すれば、需要を供給に合わせなければならな

い。需要家が時間の経過に応じて(1時間単位または 1日単位で)自らの電力使用量を調整でき

れば、システム全体の予備電力の必要性が小さくなる。

ヒートポンプは、再生可能エネルギーによって生産される電力を熱エネルギーに変換できるた

め、スマートグリッドにおける需要調整の面で有望な装置である。暖房または給湯(DHW)用に

作られた熱エネルギーは、建物の内部で有効利用することができる。

Eモビリティ(電気自動車とプラグインハイブリッド車)に次いで、ヒートポンプは、家庭内

で最大のエネルギー消費機器である。スマートグリッド試験プロジェクトでは、あらゆる種類の

家電品をスマートに管理することに大きな関心が寄せられる場合が多いが、それらの影響力はヒ

ートポンプよりも小さい。

ヒートポンプと蓄熱を組み合わせることで、持続可能なエネルギーによって生産された電力の

供給が変動する範囲内で調整機器として利用することができる。

しかし、ヒートポンプが既存の建物内で大規模に設置されれば、熱と家庭用給湯のエネルギー

を天然ガスに依存している地域では、電力網にとって脅威となり得る。こうした地域の電力網

は、全てのヒートポンプが必要とする消費電力に対応する設計になっていない。また、こうした

ヒートポンプをスマートに管理しなければ、ヒートポンプは、大きな同時使用率を伴うことにな

り、寒いときは、全てのヒートポンプが稼働してしまう。

したがって、住宅内のヒートポンプは電力網にとって潜在的な脅威となる。これは、ヒートポ

ンプが最大の電力消費機器となるからである。しかし、ヒートポンプは一方で、電力を熱に変換

して貯蔵し、迅速に起動し、数日は運転しなくてもよく、数日先の需要予測が可能になるため、

需要調整が可能である。

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スマートグリッド試験プロジェクトと多くの研究では、スマートに運転されるヒートポンプの

利点が実証されているが、市販のヒートポンプは、標準タイプでは電力網を介して通信すること

ができない。他方で、電力網もヒートポンプと通信することができず、結果として古典的な「鶏

が先か卵が先か」という状況が生じる。

(2)ヒートポンプの柔軟性

通信機能を確保し、ヒートポンプを制御信号により発停させることにより、図 1に示すように

変動する電力のピークを平準化することができる。

図1.ヒートポンプの電力平準化効果

需要家サイドでは、表 1に示す手法を用いて DSM(Demand Side Management)を行い、変動す

る電力供給量に柔軟に対応することができる。

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表1.DSMの手法

(3)結論

柔軟性の点でヒートポンプの可能性を引き出すには、克服すべき技術的障壁と非技術的障壁が

存在する。それらを以下に示す。

□政策関連障壁または非技術的障壁

1.標準化された制御・通信ソリューションの欠如

2.新しいスマートグリッド用途において明確に定められた役割と責任の不在

3.参加者間での費用便益の共有

4.試験への参加に対する消費者の抵抗

5.プロジェクト結果を他国で転用することを妨げる欧州の規制

6.新たな契約取り決めの必要性

□技術的障壁

7.系統運用機関による柔軟な需給取引の技術的妥当性確認のために、明確な規則が必要

8.物理データと市場データをやり取りするための技術的・商業的取り決め

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(4)提言

□総合的なロードマップの作成

アネックス 42「ヒートポンプとスマートグリッド」の目標の 1つは、スマート・ヒートポン

プの実現に向けたロードマップを作成することである。参加機関が現在実施しているプログラム

からの所見、アネックス 42会合でのグループ討論、および異なるシナリオのシミュレーション

結果を踏まえて、ロードマップは作成される。

□より積極的な知識共有

IEA内部では、スマートグリッド分野で重複するさまざまなテーマについて多くのグループが

研究しているが、これまでのところ、そうしたグループ間での協力や積極的な知識共有は図られ

ていない。この状況を克服するために、IEA内部で「だれが何を行っているか」を確認すべく

AIT(Austrian Institute of Technology)と TNO(the Netherlands Organization for

Applied Scientific Research)がリンツでシンポジウムを開催した。こうしたタイプの会合を

続けることが提言されている。

□最終利用者の積極的関与

個別の消費者/ヒートポンプ所有者の大規模かつ積極的な参加は、デマンドレスポンスの成功

のために最も重要な要因である。電力網運用の市場関係者が現時点で十分な設備を備えているわ

けではない。新しい組織は、柔軟かつ効果的に運営するために、新しいビジネスモデルを取り入

れる必要がある。スマートグリッドは、全ての最終利用者の積極的関与があることで、初めて成

功する。

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1.4 特集記事4

NEDOのヒートポンプ関連スマートコミュニティ実証プロジェクト

NEDO Heat Pump Related Smart Community Demonstration Projects

諸住 哲(日本)

概要

日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、最大の技術開発機関の 1つであり、

いくつかの国際的な「スマートコミュニティ」関連プロジェクトを推進している。この概念は、

スマートグリッドだけでなく、特定の地域のスマートカスタマー(需要家)にかかわるものであ

る。スマートコミュニティ概念は、監視制御・データ取得エネルギー管理システム(SCADA

EMS)などの電力会社側のエネルギー管理システムだけでなく、電力系統の各参加者にとって最

善のソリューションを運用するホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)、ビルエネルギ

ー管理システム(BEMS)、または工場エネルギー管理システム(FEMS)などいくつかの需要家側

の管理システムで構成されている。これらの実証プロジェクトの一部は、こうした管理システム

の下でスマートなエネルギー管理を確立するためのエネルギー貯蔵要素としてヒートポンプを取

り入れている。本論文では、プロジェクトの概要を紹介する。

(1)はじめに

NEDOは 2016年 7月時点で、世界各地で 10件の国際的なスマートコミュニティ関連実証プロ

ジェクトを実施している。図1は、これらの実証活動のほか、完了した2件のプロジェクトの場

所と内容を示している。これらの実証プロジェクトの一部には、スマートなエネルギー管理を確

立するための蓄熱要素としてヒートポンプが含まれている。本論文では、各地のプロジェクトを

説明する。後半では、それぞれの実証プロジェクトの目的と実証方法を記述する。

図1.世界におけるNEDO実証プロジェクト

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(2)ニューメキシコにおける実証事業

スマートハウスにおけるHEMSや計測・制御システムを図2に示す。

図2.ニューメキシコにおける実証事業

(3)結論

スマートコミュニティの世界では、エネルギー貯蔵は、エネルギー・システムに柔軟性を与え

る上で非常に重要な機能である。特に、デマンドレスポンス機能である。これは、需要家に不便

さや不快さをもたらすことなく、需要と供給のバランスを保つことができる。この機能は、分散

型蓄電池を設置することで主に確保される。しかしながら、エネルギー消費量の中で熱需要が大

きな割合を占める場合は、ヒートポンプも同じ機能を果たすことができる。

たとえば、ニューメキシコ州での実証を通じて、住宅側のヒートポンプは、電力会社側の EMS

と需要家側の HEMSの間で協調することによって電力系統上での太陽光発電量の変動を吸収でき

ることがわかっている。マンチェスターで開始されたプロジェクト「一群のヒートポンプの制御

切り替えによるデマンドレスポンス」によって、ヒートポンプは、電力市場での需給バランスに

貢献できることが実証されるだろう。シュパイヤーのプロジェクトでは、ヒートポンプ技術は、

屋上の太陽光発電装置からの逆潮流を減らすことで配電系統の混雑を緩和することができる。

NEDOは、この技術に大きな信頼を寄せており、これらの実証プロジェクトを利用して、将来

のスマートコミュニティとエネルギー・システムでのヒートポンプを含むエネルギー貯蔵の適用

を促進する。

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1.4 特集記事5

ヒートポンプにおける可燃性冷媒の充填限度

Charge Limits for Heat Pumps with Flammable Refrigerants

Asbjørn Vonsild(デンマーク)

概要

冷媒による気候影響は長く注目されており、現在も政治情勢や法律により、従来の HCFCおよ

びHFC冷媒のすべての利用者は、気候影響がより小さい冷媒を検討するよう規制されている。

GWPが小さい冷媒としては、CO2(R744)と NH3(R717)があるが、本論文では、プロパン

(R290)、R32、HFC(HFO)をはじめとする可燃性のA2LおよびA3冷媒を使用する際に、安全基

準により制限される冷媒の充填限度について報告する。

(1)はじめに

HCFCと HFCは、可燃性を低くするためにハロゲン(フッ素および塩素の原子)が添加された

炭化水素である。この物質の短所は、分子が大気中で安定性を高めると、それが地球温暖化を促

進する期間が非常に長くなることである。GWPを低減するため、産業界は現在、大気中での安定

性が低い冷媒の開発に取り組んでいる。このような安定性の低下は可燃性を高めることになり、

このことが、可燃性リスクの対処法をめぐる問題を提起している。

GWPの小さい冷媒には、CO2(R744)と NH3(R717)も含まれるが、本論文では、可燃性の A2L

およびA3冷媒と可燃性リスクの対処法に焦点を置いている。

GWPの小さい可燃性冷媒は、主に以下の冷媒が注目されている。

・炭化水素。このうち、プロパン(R290)が最も重要であるが、プロピレン(R1270)も利用さ

れる。また、高温ヒートポンプの場合は、イソブタン(R600a)が興味深い。

・HFOまたは HCFOとしても知られる不飽和 HFCおよび HCFC。これらは、可燃性が非常に低い低

圧冷媒である。とくに R1234ze(E)は、大型システム向けとして興味深いものである。このフ

ァミリーには、自動空調機で使用される R1234yfと 2つの不燃性冷媒(R123の代わりに使用さ

れる R1233zd(E)、および有機ランキンサイクル(ORC)と非常に高温の用途で興味深いと思わ

れるR1336mzz(Z))が含まれる。

・R32。R410Aに似たHFCであるが、充填温度と充填圧力が比較的高い。

・従来の HFC、不飽和 HFC、および R32の混合物(HFO混合物という場合も多い)。この混合物

は、能力、圧力、温度の点で従来のHFCと非常によく似ている。

当然ながら、炭化水素は非常に可燃性が高く、安全種別A3である。

他の冷媒はすべて、可燃性が低く、安全種別 A2Lである。これは、火炎が 10cm/秒未満の速

度で広がることを意味し、浮力に対して十分に遅い速度である。A2L冷媒は発火が非常に困難で

ある。それでも、このリスクを回避するために予防措置を講じる必要があり、予防措置(主に漏

洩と発火源の回避)の大半は、A3冷媒の場合と同じである。

主な可燃性冷媒とその特性を表 1に示す。安全基準では、冷媒の許容充填量に対する大半の限

度が可燃性下限(LFL)に左右される。これは、発火する可能性のある冷媒の空気中での最低濃

度である。LFL以下であれば、空気/冷媒混合物は希薄になり、可燃性を帯びることはない。

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表1. 主な可燃性冷媒とその特性

ある特定のヒートポンプにとって最善の冷媒は、コスト、能力、エネルギー効率、安全性など

多様な要因によって決まる。炭化水素ベースの冷媒(HC、HFC、HCFC)の場合、可燃性と能力お

よび GWPとの間にはトレードオフが生じると思われる。したがって、安全基準によって許容され

る最高水準の可燃性を有する冷媒から新しい冷媒を探し出すことが適切である。

安全基準は、システム設計に関して複数の要件を課している。システム設計に最大の影響を及

ぼす要件は、冷媒の充填限度である。これは、ヒートポンプの最大冷媒充填量が間接的に最大加

熱能力を決定するからであり、このことが本論文の主な焦点となる。

安全基準は、リスク評価手法に基づいて定められる。こうした手法は、安全基準が作成された

ときには想像できなかった緩和措置への信頼を高めることができるという長所がある。

(2)安全基準

システム設計は、安全基準に準拠したものになる。システムにどの基準が適用されるかは、シ

ステムのタイプとサイズおよび購入場所によって決まる。このことは、遵守する必要のある安全

基準が1つ以上存在する可能性があることを示唆する。

最も一般的な2つの国際基準は、以下のとおりである。

・IEC 60335-2-40(住宅用および軽商業用ヒートポンプ)

・ISO 5149(IEC 60335-2-40の対象範囲にないヒートポンプ)

EUは、EN60335-2-40に軽微な変更を加えて IEC 60335-2-40を採用し、ISO 5149の代わりに

EN378を使用している。EN378は、冷媒の充填限度でも ISO 5149と多くの類似点があるが、EU

圧力機器指令(PED)に関係する要件を含んでいる。

米国の基準は、現在も可燃性冷媒を対象としていないが、現在の焦点を A2L冷媒に置いて可燃

性冷媒を含めるために、ULおよびASHRAEについて修正作業を行っている。

上述のように、ヒートポンプの最大充填量は間接的に最大加熱能力を決定することになるた

め、システム設計に最大の影響を及ぼす要件は冷媒の充填限度である。充填限度は一般に、回路

当たり充填量を制限するため、複数の回路を使用すれば容量の拡大が可能になる。ただし、法外

なコスト増が生じることがよくある。

簡素化を目的として、本論文では、以下のケースで最も一般的な充填限度を記述する。

・密閉空間

・屋内

・屋外

・屋外および柵で囲まれた場所または機械室

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1人以上の者がシステムについて特別な知識を有する VRFのシステムや場所などいくつかの特

殊ケースがあるものの、大半のヒートポンプは、上記の4つのカテゴリーの1つに該当する。

(3)密閉空間

密閉空間とは、ヒートポンプが非常に小さいスペース内に設置される状況である。R290など

の A3冷媒に関して、この限度は、4m3の空気中で LFL(可燃性下限)の濃度を発生させる充填量

であり、R290の場合、これは 152g(4m3×0.038kg/m3)である。読者は、150gという数字を聞い

たことがあるかもしれないが、これは事実上、炭化水素については 4×LFL(大半のヒートポン

プ用途にとっては過度に低い数字)である。

R32などの A2L冷媒に関して、現在の基準は逸脱している。IEC 60335-2-40は、4×LFLを許

容している一方、ISO 5149は6×LFLを許容している。R32(および他の大半のA2L)の場合、こ

れはそれぞれ 1.2kg、1.8kgである。現行の EN378は、IEC 60335-2-40と連携している一方で、

最終投票を通過し、今年発表される予定である EN378の次のバージョン(PrEN 378:2016)は、

このテーマについては ISO 5149と一致している。1.2kgまたは 1.8kgという値は、ヒートポン

プにとって非常に興味深い。というのは、これらの充填量は、クローゼット、階段下、または同

様の密閉空間に設置できる小型ヒートポンプにとって十分だからである。

(4)屋内

もう 1組の限度は、システムが設置される部屋の面積(m2)によって決まる。これは、いわゆ

る「快適性」方程式である。この式がこのような名称になったのは、空調とヒートポンプの家

庭・軽商業向け基準に由来し、冷凍用途を対象とする ISO 5149(および EN378)が使用する充填

限度とは大きく異なるためである。この式は、以下のように若干複雑である。

Max Charge = 2.5 × LFL5/4 × h0 × Area1/2

ここで、変数hoは設置高さであり、個別の値を表2に示す。

表2.変数hoの値

非常に大きい部屋であっても、どの程度までの充填が許容されるかという上限がある。これ

は、個別の安全基準によって決まり、通常は26×LFL(およそ1kgのR290または8kgのR32)で

あるが、ISO 5149(および PrEN 378:2016)の A2Lの場合は、39×LFL(R32の場合は 12kg)で

ある。ただし、大半の用途では、充填量を制限するのは部屋の面積である。この手法が許容する

充填サイズを例示するために、図 1および 2では、「快適性」方程式が R290と R32を対象に作

成されている。

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炭化水素の充填限度(安全種別は A3)は、小型ヒートポンプ・システムに限り設けられる

が、非常に多様なヒートポンプがA2L冷媒を使用することができる。

図1.R290の冷媒充填量

図2.R32の冷媒充填量

(5)屋外

熱を屋内に伝えるために通常はブラインを使用する屋外設置システムの場合、限度はさらに緩

くなる。A3冷媒に関して、IEC 60335-2-40は130×LFLを許容している(これは、炭化水素の場

合は5kgに近く、ISO 5149とEN378が許容している値である)。5kgのプロパンは、大半の家庭

用途にとって十分である。A2L冷媒の場合、IEC 60335-2-40の130×LFL限度は40kgであり、ほ

とんどの用途にとって十分である。

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(6)屋外および柵で囲まれた場所または機械室

屋外システム向けに大量の充填量が必要となる場合は、IEC 60335-2-40の対象外となる。代

わりに、ISO 5149(または EN378)を使用しなければならない。一般の人が立ち入らない場所に

ヒートポンプが設置される場合(たとえば、柵で囲まれた場所や機械室)、充填限度は設けられ

ない。「充填限度なし」という文言は、現地の規則や消防当局が限度を課す場合があるため、そ

のまま理解すべきではない。

(7)更新中の基準

可燃性冷媒に関連して工業会では、目下のところ大規模な作業が行われている。

可燃性冷媒についてより詳細な要件を定めている IEC 60335-2-40を更新するための提案に取

り組んでいる作業グループが 2つある。IEC/TC61D/WG09グループは A2L冷媒について作業を行

い、IEC/TC61D/WG16グループは A2および A3冷媒について作業を行っており、全く新規であ

る。したがって、変更案の大半は、現時点では A2Lについてのものである。A2L冷媒の変更案に

は以下の事項が含まれる。

・密閉空間の充填限度を 8×LFL(2.4kgの R32)に引き上げる。これは、ISO 5149または PrEN

378:2016の限度さえ上回る。

・屋内の場合の充填量の大幅引き上げを許容するために、かくはんや換気を考慮に入れる。

・A2L冷媒について発火源を評価するための新しい方法を検討する。

IEC 60335-2-40のもう 1つの提案は、実際の設置高さとして、表 2に示される事前に定めら

れた数字の代わりに h0を使用することである。一部のシステムは、表 2に示されるものよりも

高い位置にほぼ確実に設置されるため、これは、許容充填量を大幅に引き上げることになる。

前述のように、EN378も更新過程にあり、2016年末に新しいバージョンが発表されると予想さ

れる。EN378の更新は、可燃性冷媒に関連するものを含めて数多くの分野を取り上げている。更

新の一部は、充填限度の構造に関する ISO 5149と連携している。ただし、この連携は完璧では

ない。R290などの A3冷媒の場合、EN378は、屋内では最大 1.5kgを許容しているが、ISO 5149

の許容量は1.0kgである。

同時に、ISO 5149に関する作業グループ(ISO/TC86/SC1/WG1)は、充填限度の構造を簡素化

する方法について議論しているところである。したがって、すべての主要基準が進展しつつあ

り、作業グループが基準の連携を望んでいるとしても、緩やかに整合させる程度になる。

一般的な傾向は、可燃性冷媒の許容量を引き上げるというものである。これは事実上、炭化水

素を用いるシステムで最適な設計のものはどれか、R32などの A2L冷媒を用いることでより適切

な設計になるのはどれか、不燃性冷媒を用いることでより適切な設計になるのはどれかといった

ことを区別する境界を変更する。

(8)結論

われわれは本論文で、ヒートポンプの冷媒充填量に、システム安全基準がどのように制限を設

けるかを示した。読者の方々が、大半のシステムが A2L冷媒をどのように利用できるか、また、

多くの用途が R290などの A3冷媒をどのように利用できるかを理解していただけたら幸いであ

る。

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1.4 特集記事6

高効率で環境にやさしいCO2ヒートポンプ給湯器

High-efficiency, Eco-friendly CO2 Heat Pump Water Heaters

Jørn Stene(ノルウェー)

概要

CO2ヒートポンプ給湯器(HPWH)は、家庭用給湯(DHW)向けとして最も効率がよく、環境にや

さしいヒートポンプ技術である。90年代にノルウェーの NTNU-SINTEFで行われた基礎研究と

2001年の日本での商品化を経て、家庭用途と非家庭用途の双方で高い技術レベルに到達した。

日本では、500万台を超える家庭用CO2 HPWHが販売されており、近年では、たとえば集合住宅、

ホテル、病院、老人ホーム、スポーツ施設などを対象に大容量の CO2 HPWHがアジア、欧州、米

国で設置されている。本論文では、この技術の基本的事項の概観を提示し、この技術が誕生した

ノルウェーでの興味深い施設について説明する。

(1)作業流体としてのCO2

二酸化炭素(CO2、R744)を作業媒体として導入する大きな理由は、オゾン層を破壊する CFC

に代わり得る、環境的に受け入れられる流体を探求することであった。環境的な観点からする

と、CO2は、非毒性かつ不燃性で、オゾン層破壊の原因とならないため(ODP=0)、ほぼ理想的

な作業媒体とみなすことができる。CO2の地球温暖化係数は、他の多くの冷媒と比べて非常に低

い(GWP=1)。

CO2の熱物性の多くは、HFC、HFO、アンモニア、および炭化水素とは大きく異なる。CO2は特に

臨界温度が 31.1℃と低い。これが意味するのは、CO2ヒートポンプは、超臨界圧では臨界点を上

回る熱を放出しなければならないということである。超臨界圧では、熱は、流体の凝縮によって

放出されるのではなく、ガス冷却器(熱交換器)中の高圧ガスを冷却することで放出される。

CO2 HPWHでは、5~15℃の水道水は、設定された DHW温度(65~90℃)までガス冷却器で加熱さ

れる一方で、CO2ガスは、それに応じて冷却される。CO2ガスの相当な冷却によって、熱放出時の

平均 CO2温度はかなり低く、高いサイクルの COPをもたらす(熱力学の第 2法則)。CO2 HPWH

は、従来のHPWHに関して外部DHWの再熱を必要としない、レジオネラ菌に対する抑制温度( 65

~70℃)を提供することができる。

CO2のもう1つの特性は高い臨界圧(73.8バール)である。CO2ヒートポンプ・システムの運転

圧力は通常、HFCを使用するプラントの運転圧力の 5~10倍であり、これは、圧縮機、熱交換

器、弁、および管接続を設計する際に課題となっている。他方で、高い圧力と高い蒸気密度によ

り、HFCと比べて必要な圧縮機容積が 35~85%削減される。蒸発器とガス冷却器の絶対圧力(そ

れぞれ 20~30バールと 80~110バール)が高いにもかかわらず、低い圧力比は、圧縮機の優れ

た効率の達成につながる。また、CO2は優れた伝熱特性を有するため、CO2 HPWHの COPの引き上

げに寄与する。

CO2 HPWHについて高い COPを達成するには、高圧 CO2ガスをガス冷却器の中で可能な限り冷却

することが決定的に重要になる。図 1は、いわゆる温度-エンタルピー線図での CO2 HPWHサイ

クルの原理を示している。この例では、CO2ガスは、ガス冷却器の中で 110℃から 8℃に冷却され

る一方(赤色の線、2-3)、水道水は5℃から70℃に加熱される(青色の線)。

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図1.CO2の温度-エンタルピー線図

CO2技術は、90年代に故 Gustav Lorentzen教授率いるノルウェー科学技術大学(NTNU)と研

究機関 SINTEFで新たに考案され、開発された。基礎研究の大部分については、ノルスク・ハイ

ドロ ASAとノルウェー研究会議が資金を提供した。日本のデンソーは 2001年に、ノルウェーか

らの CO2関連特許をベースに初の家庭用空気熱 CO2 HPWH(エコキュート)を発売した。電力会社

の東京電力は、補助金供与とマーケティングを行い、日本の CO2 HPWHの商業化で非常に重要な

当事者となった。日本では、2015年までに 500万台を超える機器が販売されたため、温室効果

ガス排出量を大幅に削減している。

CO2 HPWH向けの圧縮機、熱交換器、弁、および管接続の技術は、最終的には非常に高い技術水

準に達し、近年では、数多くの大容量空気熱システムおよび水/ブライン熱システムがアジア、

欧州、米国で設置されている。

(2)結論

CO2ヒートポンプは、DHWにとって最もエネルギー効率がよく、環境にやさしい技術である。

この技術を DHW需要が大きい建物(たとえば、病院、老人ホーム、ホテル、スポーツ施設、集合

住宅、共同住宅)に導入する余地は世界各地に数多くある。高効率運転を達成するには、DHWシ

ステムの設計と運転を、CO2ヒートポンプ・サイクルの特殊な特性に適合させることが決定的に

重要になる。

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2.ANNEXES(国際共同研究)

2.1 Ongoing Annexes

□アネックス40、アネックス49

Annex40 Heat Pump Concepts for nZEB

Annex49 Design and Integration of Heat Pumps for nZEB

アネックス 40では、ほぼゼロエネルギー建物(nZEB)でのヒートポンプ用途を調査してき

た。建物エネルギー性能指令の改正版(EPBD改正、2010年)によれば、nZEBは、2020年以降は

欧州で、また、2020~2030年には北米と日本で広く導入される予定である。カナダ、スイス、

ドイツ、フィンランド、日本、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、米国の 9カ国は、このア

ネックス40プロジェクトに参加している。アネックス40の結論がまとめられ、その最終報告書

は、HPCのウェブサイトで現在公開されている。

アネックス40の結果は、ヒートポンプがnZEB目標を達成する最適な建物技術の1つであるこ

とを確認している。中欧および北欧の気候帯で多くのケーススタディが完了しており、また、住

宅およびオフィス向けの多様な用途が検討されてきた。さらに、冷房と除湿の負荷が大きい高温

多湿気候の場合のケーススタディも実施されている。すべてのケーススタディが、ヒートポンプ

について、性能および費用対効果の点で最も優れたシステム・ソリューションであるという結果

をもたらした。ただし、潜熱負荷とオフィス負荷が大きい場合、図 1に示すように、ネットゼ

ロ・エネルギーの達成が困難になる可能性がある。

図1.日本の中小規模ビルにおけるnZEBの検討

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現場モニタリングの結果は、実際に稼働しているヒートポンプの好ましい性能を明らかにして

いるが、設計に関してはモニタリング・プロジェクトで最適化の余地があることが確認された。

アネックス 40に関する情報は、プロジェクトのウェブサイト(http://www.annex40.net)と

HPCのウェブサイトに掲載されている。

nZEBのテーマはEPBDの期限が近づく中で現在も有効であるため、nZEBにおけるヒートポンプ

に関する研究は、「nZEBにおけるヒートポンプの設計と統合」と題するアネックス 49で継続さ

れる。テーマは、それぞれの参加国での nZEBの実現と定義に従ったものになる。真の性能につ

いてさらにフィードバックを得るため、実際の nZEBの監視も継続される。さらに、異なる統合

オプションを含めてヒートポンプのさらに詳細な設計分析が行われる。これは、デマンドレスポ

ンスにも関係する。これにより、異なる建物負荷の間で負荷バランスを調整する機会が生まれる

可能性があるため、一群の建物または近隣地域も検討対象となる。蓄熱との統合も評価される。

アネックス49は2016年秋に開始される。

□アネックス41

Annex41 Cold Climate Heat Pumps

前 4半期に、アネックス 41参加国のほぼすべてが、自国のプロジェクト報告書案を完成し

た。未完成なのは1国だけである。

OAは、修正された以下のスケジュールに従って、アネックスの最終報告書案をまとめる作業

に着手した。アネックスの最終報告書案は、2016年 9月末頃のレビューのために参加国に配布

される予定である。

2016年 ASHRAE夏季大会(6月 25~29日)では、カナダのアネックス 41チームから 2本の論

文とオーストリア・チームから1本の論文が発表された。

表1.2016年ASHRAE大会におけるアネックス41関連の発表

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以上

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このニューズレターの効果的な活用のため、今後改善を図っていきたいと考えておりますので、

忌憚のないご意見、ご要望などを下記事務局までお寄せ下さい。

事務局連絡先:(一財)ヒートポンプ・蓄熱センター 国際・技術研究部

IEA ヒートポンプ実施協定 日本事務局 廣瀬之信、西山教之

TEL: 03-5643-2404 FAX: 03-5641-4501

e-mail: [email protected], [email protected]