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人として大切なこと ~マザー・テレサの心に学ぶ~ vol.1

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人として大切なこと~マザー・テレサの心に学ぶ~

vol.1

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人として大切なこと、本当の豊かさ・幸せを見つめ直していきます

現代は物質的にとても豊かになりました。しかし、心の豊かさという点ではどうでし

ょうか。すべてが急速なスピードで変化していく現代。日々の忙しさの中、つい自分

を見失いそうになりがちです。混沌とした社会や人間関係に押し流され、何が正しく

て、何が正しくないのかさえ分からない、そんな方も少なくないのではないでしょう

か。真の豊かさとはなにか、わたしたちにとっての幸せとはなにかを、いま一度見直

す時期に来ているといえます。こういう時代だからこそ、「人間らしい心」を大切に

したいと思います。本講座では、人として大切なことはなにかをマザー・テレサの人

生・言葉を通して学んでいきます。

マザー・テレサ、彼女は貧困に苦しむ人々に手を差し伸べる活動を生涯にわたって貫

き、世界中に「人を愛することの大切さ」を伝え続けた女性です。その生涯・信念に

はぶれがなく、多くの人間にとって本当に必要な心とはなにか、「幸せ」とはなにか

を教えてくれました。マザー・テレサの信念・生き方・言葉を紐解きながら、人とし

てのあり方、生き方を見つめ直すことができるようレッスンを構築しました。

1巻で自分自身と向き合い、2巻で自分を成長させる

人生を考えるとき、まずは「現在の自分をしっかりと見つめ、心を十分にときほぐす」。

そして「自分を向上させ、よりよい生き方を目指す」、という「二段階のステップ」

が必要です。1巻では、家族とのかかわり、仕事の目的、等身大の自分といった「自

己の振り返り」を中心に考えてきます。そして2巻では、1章を踏まえた上で、自分

はこれからどう生きるか、どのように行動していくかを考える「自己成長」に主眼を

置いてレッスンを進めていきます。忙しい毎日の中でふと忘れてしまいがちなこと、

ハッと気づかされるようなことなど、さまざまなエピソードや事例を交えた内容を盛

り込んでいます。

人からの受け売りではない、自分らしい生き方を模索していきます

本講座は、「自分で考えること」に重点を置いています。マザー・テレサの生き方を

そのまま体現し、言葉や信念をそのまま暗記するのではなく、それを参考に「自分だ

ったらどうするだろう」「何をすべきなのだろう」と立ち止まって考えていけるよう

な構成にしています。自分の内面を見つめ、そこから「自分らしい人生」を探ってい

くことで、あなただけの生き方を見い出すヒントとなるはずです。すべてのレッスン

を学習したあと、自分がどのように変化したかを感じてください。

この講座の特徴

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1巻では、日ごろは気づかない「本当の自分」を見つめていきます

自分がいまどのように生きているか、本当の自分とは何なのかを知ることが、自分を

成長させる最初の一歩です。偉人と言われるマザー・テレサも、一人の人間として悩

み、自分と向き合いながら歩んでいました。さまざまな角度から、いま心の中にある

「自分」へと視点を移していきます。

2巻では、よりよく生きるための「行動」「考え方」を探っていきます

周囲や職場で起こりがちな出来事、日々抱えがちな悩みなど、身近なテーマに焦点を

当てながら、そのような場面になったとき、自分はどうすべきなのか、どうすれば心

に余裕を持って過ごすことができるのか、その対処法・解決策を考えていきます。人

間関係、自分の感情とのつき合い方、コミュニケーション、家族との接し方など、自

分の身に置き換えながら進めることで、心をブラッシュアップしていきます。

ワークブックでは、学んだことを振り返り、生活に活かしていきます

これまでのレッスンで学んだ大切な心を、自分と照らし合わせて振り返るための演習

問題に取り組み、毎日の過ごし方や周囲との関わりに活かしていきます。各ワークの

テーマにあわせた「マザー・テレサの名言」も載せていますので、いま一度、テキス

トで学習してきた言葉を振り返りながら心の栄養補給をしてください。

この講座の進め方

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 わたしがマザー・テレサと出会ったのは、1994 年、大学を卒業したばかりのときで

した。自分の人生の意味を知りたい、生きていくための手がかりを掴みたい、その一心で

インドに旅立ち、マザーの家のドアを叩いたのです。この出会いがきっかけで、わたしの

人生はすっかり変わってしまいました。マザーとの出会いを通して自分を変えていくこと

を目指すこの講座の初めに、わたし自身がマザーとの出会いによって変えられた体験をお

話ししたいと思います。

インドに旅立つまで マザー・テレサのことを知ったのは、まだ小学生の頃のことです。1981 年にマザー

が来日したとき、その姿をテレビで見てとても強い印象を受けました。誰もが自分のこと

だけを考えて生きているようなこの世の中に、自分のことを忘れてただ貧しい人々の奉仕

に生きている人がいるという事実に心から感動したのです。そのときわたしは幼心に、自

分も将来、苦しんでいる人たちのために働ける人になろうと思いました。

 高校生になって実際に何ができるかを考えたとき、わたしは法律を学び、法律を使って

みんなのために役立つ人になろうと思いました。それで、大学は法学部に進んで勉強して

いたのです。ところが、ある日、実家から思いもよらない電話がかかってきました。これ

まで病気一つしたことがなかった父、埼玉で農業を営み、頑健な体を持っていた父が、急

に心筋梗塞で死んでしまったというのです。

 実家に戻り、床の間に横たわった父の遺骸と向かい合いながら、わたしは自分自身のこ

れまでの生き方を振り返りました。人生は、いつこうして突然に断ち切られてしまうかわ

からない。わたしは、自分が生きたい人生を生きてきただろうか、このままいまの生き方

を続けていていいのだろうか。そう考えているうちに、苦しんでいる人のために役立ちた

いと望みながら、これまで勉強ばかりして自分のためだけに生きてきたことが後悔されま

した。「このままではいけない」と強く思ったわたしは、そこから新しい人生を模索する

旅を始めたのです。

 真っ先に思い出したのは、子どもの頃に憧れたマザーのことでした。さっそく本屋でマ

ザーについて書かれた本を買い、読んでいるうちに思いがけないことが分かりました。マ

ザーはまだインド、カルカッタ(※)で生きているというのです。「世界の偉人」と呼ばれ

る人と生きて会えるなんて夢のようだと思ったわたしは、すぐにカルカッタ行きの航空券

を買い、リュックサックを背負ってマザーに会いに出かけたのでした。

はじめに ~マザー・テレサとの出会い

(※)カルカッタの正式名称は 2001 年、コルカタに変更されましたが、このテキストでは、マザー・テレサが生きていた頃の地名   であるカルカッタをそのまま使用したいと思います。

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マザーとの出会い マザー・テレサの家は、カルカッタの空港から車で 30 分ほどのところにあります。も

とはイスラム商人の館だった、4 階建てのとても大きな家です。その玄関の前に立ち、わ

たしは思い切って呼び鈴を鳴らしました。中から出てきたのは若いインド人のシスターで

した。「日本から来ました。マザー・テレサに会わせてください」とわたしが言うと、そ

のシスターはびっくりした様子でしたが、わたしが大きなリュックサックを背負って立っ

ているのを見て「まあ、中に入りなさい」と言ってくれました。

 シスターはわたしを 2 階の事務所まで案内してくれました。そして、「ここでちょっと

待っていなさい」とわたしを残して中に入っていきました。「きっと、マザーの予定を調

べてくれるのだろう」と思いながら、わたしは外で待っていました。5 分くらい過ぎて、

事務所から誰かが出てきました。さきほどのシスターかとも思いましたが、出てきた人は

色が白くて小柄な御婆さんでした。「あれ、別の人だな。でも待てよ、どこかで見たこと

があるな」とわたしは思いました。間違いありませんでした。その人こそが、夢にまで見

たマザー・テレサ本人だったのです。

 あのときのうれしさは、いまでも忘れられません。もう叫びたいような、駆け出したい

ような、じっとしていられないくらいのうれしさです。人生で一番うれしかった瞬間だと

言ってもいいかもしれません。マザーはわたしに「どこから来たの」と尋ねました。わた

しが「日本からです」と答えると、マザーは満面の笑みを浮かべながら「遠いところから

よく来たわね」とわたしに語りかけ、大きくて温かい手でわたしの手をしっかり握ってく

れました。

 マザーと出会った人の多くは、たった一度だけしか会ったことがなくても「自分こそ、

マザーから世界中で一番愛されている」と感じます。おかしなことですが、そのくらいマ

ザーはわたしたちを大切に受け入れてくれたのです。マザー自身は、こう言っていました。

     たくさんの人がわたしのところにやって来ますが、わたしにとってはそ

のとき、そのときに目の前にいる人がイエス・キリストであり、わたし

の全てなのです。

 マザーは確かに、そのとき目の前にその人を世界中で一番愛していたのです。わたした

ちが「自分こそ、マザーから世界中で一番愛されている」と感じたのは、無理もないこと

でした。身分や地位などに一切関係なく、自分を必要とし、訪ねて来てくれた人を誰でも

まるで世界中でただ一人の人であるかのように大切に受け入れる人、それがマザー・テレ

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サでした。

使命との出会い こうしてマザーと出会い、その魅力にとりつかれてしまったわたしは、そのままカルカ

ッタに残ってボランティアをすることにしました。マザーのそばにいれば、きっと人生の

意味や目的が見つかるに違いないと確信したからです。

 そんなある日、わたしはいつものように施設で働いた後、夕方の祈りに参加しようとマ

ザーの家に行きました。たまたま 2 階の廊下で知り合いのシスターと会ったので立ち話

をしていると、マザーがわたしの方に向かって歩いてきました。マザーは、わたしの前に

立つと、大きな手でわたしの腕をつかみました。そして、突然「あなたはいつまで迷って

いるのですか。いますぐ決断しなさい」と言ったのです。それは、「神父になれ」という

ことでした。「ボランティアとして貧しい人に人生の数ヶ月を捧げるのは美しいことです

が、神父になって全生涯を捧げるのはもっと美しいことです」とマザーはわたしに言いま

した。

 こうしてマザーを通して自分の使命を示されたわたしは、しばらく迷ったあと、マザー

の言葉通り神父として人々のために生涯を捧げる道を選びました。その後、日本に戻って

10 年ほど勉強し、神父になりました。そしていま、こうしてマザーのメッセージを伝え

るための活動をすることになったのです。

 この講座をきっかけとしてマザーと出会うことができれば、きっとみなさんの人生も変

わるだろうと思います。わたしではなく、言葉に宿ったマザーの心がみなさんに直接教え、

みなさんを新しい人生に導いてくれるよう願っています。

片柳 弘史

【マザー・テレサのプロフィール】

本名:アグネス・ゴンジャ・ボヤジュ。1910 年マケドニア地方のスコピエで誕生。18 歳でロ

レット修道女会に入会。インドに渡航し、修道会が経営する高校で教師として働く。1950年、「神

の愛の宣教者会」を創立。カルカッタのスラム街を中心とし、宗教の壁を越えて貧しい人々や子

ども、病人などへの救済活動を行う。その活動は世界各国から称賛され、1979 年にはノーベ

ル平和賞が贈られた。1997 年多臓器不全のため 87 歳で死去。残した財産は、3 枚のサリー(イ

ンドの民族衣装)等わずかな日用品だけだった。

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C O N T E N T S

人として大切なこと  ~マザー・テレサの心に学ぶ~

【     】 「人は愛し合うために生まれてきた」 ‥‥‥‥‥

【     】 家族の愛に包まれた子ども時代 ‥‥‥‥‥‥‥

【     】 母から学んだ大切なこと ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 人生を決める出来事 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 第二の人生への旅立ち ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 出会いによって展開していく人生 ‥‥‥‥‥‥

【     】 本当の人生を見つける方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

第1章のエクササイズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

column ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 あなたの言葉、届いていますか? ‥‥‥‥‥‥

【     】 家庭こそが「自信」を育てる場所 ‥‥‥‥‥‥

【     】 組織の結束が弱まってしまう本当の理由 ‥‥‥

【     】 成功することが、人生の目的でしょうか ‥‥‥

【     】 自分の生き方が社会に伝染していく ‥‥‥‥‥

【     】 一日一回、自分を見つめる時間を ‥‥‥‥‥‥

第2章のエクササイズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

column ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

学習の進め方‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

第  章

第  章

自分自身の生き方を見つめる

自分をどう生きているか

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【     】 いまのあなたは「本当の自分」ですか? ‥‥‥

【     】 厳しい叱責をどうやって受け止めるか ‥‥‥‥

【     】 自分を愛せる人が、他者を愛せる ‥‥‥‥‥‥

【     】 時間を有意義に使っていますか? ‥‥‥‥‥‥

【     】 あなたにとって「幸せ」とは ‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 自分にしかできないことがある ‥‥‥‥‥‥‥

【     】 人生の「目的地」を見つける ‥‥‥‥‥‥‥‥

第4章のエクササイズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 目標はシンプルですか? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 本当のコミュニケーションとは ‥‥‥‥‥‥‥

【     】 小さなルールを大切にする ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 他者に畏敬の念を持つとは ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 一致団結するために、周囲に配慮を ‥‥‥‥‥

【     】 仕事の中に喜びを見つける ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

【     】 仕事にしがみつかないことも大切 ‥‥‥‥‥‥

第3章のエクササイズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

column ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

第  章

第  章

自分自身を受け入れるために

職場でどう生きているか

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学習スケジュールを立てましょう

テキストの学習をはじめる前に、講座全体の学習スケジュールと、各課の学習予定

日を決めましょう。各課の扉ページに、項目ごとに学習予定日を記入する欄があり

ますので、ここに記入しておきます。

各単元の学習を進めましょう

あらかじめ立てた学習スケジュールに沿って、無理のないペースで学習を行いまし

ょう。テキストは全4章で構成されています。それぞれの章に学習項目とエクササ

イズを用意しています。各章で学んだことの理解度を深めるために、内容を復習し

ましょう。

添削課題を提出しましょう

テキスト学習が終了したら、添削課題に取り組みます。すべての設問に解答し終わ

ったら、期日までに提出してください。

学習の進め方

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この章の内容・この章で学ぶことこの章を終えた後、次のことが身につきます。

Lesson 1

Lesson 2

Lesson 3

Lesson 4

Lesson 5

Lesson 6

Lesson 7

学習スケジュール

第 章

予定日 実施日

Lesson 1

Lesson 2

Lesson 3

Lesson 4

Lesson 5

Lesson 6

Lesson 7

自分自身の生き方を見つめる

「人は愛し合うために生まれてきた」

家族の愛に包まれた子ども時代

母から学んだ大切なこと

人生を決める出来事

第二の人生への旅立ち

出会いによって展開していく人生

本当の人生を見つける方法

「人として大切なこと」、それは「愛」だと言い続けた人物こそマザー・テレサです。マザーは、口先だけでなく、自分のすべてをかけて愛を生きた人でした。そんなマザーの生涯と言葉には、わたしたちが日々の生活の中で愛を生きるためのヒントがたくさん隠されています。まずはマザーの生涯にスポットを当て、彼女の人生を貫くいくつかの信念がどのように確立されたのかを理解しましょう。

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この講座を始めるに当たり、マザーの生涯の揺るがぬ土台であり、確かな目的であった「愛」について考えてみたいと思います。なぜ、わたしたちは互いに愛し合わなければならないのでしょう。どうしたら、わたしたちは人を愛することができるのでしょう。

「人は愛し合うために生まれてきた」

  人は愛し合うために生まれてきた 

     傲慢でぶっきらぼうになるのはたやすいこと。でも、わたしたちはもっと偉大なことのために生まれてきたのです。わたしたちは、愛し合うために生まれてきたのです。

 この言葉は、本講座の大きな軸となる「愛」について、とてもわかりやすく表現されて

いるマザー・テレサの言葉です。

 自分は有能な人間だとうぬぼれて人を見下し、ぞんざいな態度で人に接するのは、とて

も簡単なことです。自分のことだけを考えてまわりの人に心を閉ざし、ひたすらお金もう

けや出世のために生きていく。それも難しいことではないでしょう。

 でも、わたしたちは、そんなことをするために生まれてきたのでしょうか。マザー・テ

レサは「わたしたちの人生には、もっと偉大な意味がある」と言っています。わたしたち

は、「互いに愛し合うためにこそ生まれてきた」と言うのです。

 「わたしたちは互いに愛し合うために生まれてきた」ということの確かな証拠は、互い

に愛し合わない限り、わたしたちが幸せになれないという事実です。わたしたちの心は、

どれほどお金を手に入れ、人からうらやまれるようなポジションに立ったとしても、それ

だけでは満たされることがありません。愛し合わない限り、決して幸せになることができ

ないのです。

     真実に愛し合っている人たちは、たとえ貧しかったとしても世界で一番幸せです。幸せは、どれだけ互いに愛し合っているかにかかっているのです。

 わたしたちの本当の幸せは、たくさんの物に囲まれて楽な生活をしたり、人からうらや

まれたりすることにではなく、誰かがわたしたちを心から受け入れ、大切にしてくれると

いう実感にこそあります。たとえ何も持っていなかったとしても、確かな愛を感じ、その

中にいる限り、わたしたちは幸せなのです。

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自分自身の生き方を見つめる第 章

  愛するってどういうこと? 

     愛の反対は、憎しみではありません。愛の反対は無関心です。

 自分とまったく無関係で、どうでもいい人に対して、憎しみを抱くことはないでしょう。

憎しみを抱くのは、相手が自分にとって大切な存在だからこそです。憎しみの土台には相

手を大切に思う心がある、その意味で憎しみは愛の対極にある感情ではありません。

 むしろ対極にあるのは、相手に何の関心も抱かないこと。「あんな人はどうでもいい」

と思って無視することです。ですから、愛は相手に関心を持つことから始まります。相手

を大切な存在だと思い、関心を持つなら、わたしたちは相手がいまどんな苦しみを抱えて

いるかを感じ取れるようになります。そして、自分にとって大切な相手が苦しんでいると

知れば、わたしたちは相手の苦しみを和らげるために何かせずにいられなくなるのです。

 大切な相手のために何かをせずにいられないという感覚、それこそが愛です。わたした

ちが互いに関心を持ち、相手の苦しみに敏感になるとき、そこに愛が生まれると言ってい

いでしょう。

 愛は、決して男女の愛情だけを指しているわけではありません。家族、友達、知人や同

僚とのあいだにも当然生まれるものです。「誰かのために何かをせずにいられない」とい

う感覚、それこそが愛なのです。

 愛し合わない限り人は幸せになれない、大切な人が苦しんでいるのを見れば、手を差し

伸べずにいられない。マザー・テレサの生涯は、このとてもシンプルな「愛の法則」によ

って貫かれています。この法則こそ、全講座を通して貫かれている共通のテーマとして、

心にとめておいてください。

わたしたちの心は、お金や、地位、名誉によっては決して満たされることがありません。わたしたちの心は、互いに愛し合うことで満たされるのです。

愛は、相手を大切に思い、相手の苦しみに関心を持つことから始まります。大切な人が苦しんでいるとわかれば、相手のために何かをせずにいられない、それが愛の始まりです。

  愛するってどういうこと? 

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  激動する時代の中で 

     わたしの両親はアルバニア人です。第一次世界大戦の前に、その頃まだユーゴスラビアではなく、そしていまはもうユーゴスラビアではない場所で生まれました。多くの意味で、わたしは自分の国を持たないとはどういうことかを実感しています。

 マザー・テレサが生まれたのは、アレキサンダー大王で有名なマケドニアという地域で

す。マザーが生まれたとき、マケドニアはイスラム教の国、オスマン・トルコ帝国の支配

下にありました。その後、バルカン戦争や第一次世界大戦を経て、マケドニアはユーゴス

ラビア連邦という国家 の一部になりました。その後、長年にわたってユーゴスラビア連

邦の下にあったマケドニアですが、1991 年、ついにマケドニア共和国として独立を果たし、

現在に至っています。

 生まれた国がイスラム教徒に支配されていたというだけではありません。マザー・テレ

サの両親は、スラブ人のギリシア正教徒が多数を占める地域に移住してきたアルバニア人

のカトリック教徒の移民でした。マザーは、生まれたときから、さまざまな宗教を信じる

人々がともに暮らす環境に置かれていたのです。

 マザーは、のちにキリスト教の宣教師としてインドに行きました。インドもまた多種多

様な宗教が入り交じる国です。ヒンドゥー教、イスラム教など、さまざな宗教を信じてい

る人たちがいるなかで、マザーはそれぞれの宗教の教えを尊重し、どんな人ともうまくや

っていくことができました。そのベースは、少女時代にマザーが生きていた環境の中にあ

ると言っていいでしょう。

 マザーは、子ども時代にバルカン戦争と第一次世界大戦という二つの大きな戦争を体験

しました。少数派の移民として生きることの難しさも味わっています。何事にもくじけな

いマザーのタフさや困難な境遇に置かれた人々に共感する心は、きっとこのような体験を

通して培われたのだろうと思います。

マザー・テレサが、どこの国で生まれたか知っていますか。マザーはなんと、イスラム教の国、オスマン・トルコ帝国で生まれたのです。ここから、知っているようで意外と知らないマザー・テレサの生涯を振り返ってみましょう。

家族の愛に包まれた子ども時代

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自分自身の生き方を見つめる第 章

  揺るぎない拠り所としての家族 

     わたしがまだ 12 歳から 18 歳頃までは、修道女になりたくありませんでした。わたしたちの家族はとても幸せだったからです。

 マザー・テレサは、裕福な貿易商で市会議員でもあった父ニコラと、母ドラナフィル(以

下ドラナ)の間に、3 人兄弟の末っ子として生まれました。お兄さんの名はラザロ、お姉

さんの名はアガです。

 何不自由なく幸せに暮らしていた一家に悲劇が訪れたのは、マザーが 9 歳のときでした。

アルバニアの独立運動に深く関わっていた父が、突然、血を吐いて死んでしまったのです。

独立運動に絡んで毒殺されたのではないかとも言われています。

 父の死後、会社の財産はビジネスパートナーに持ち逃げされてしまい、母ドラナが刺繍

の仕事で家族を支えることになりました。財産は失いましたが、頼もしくて快活な母のも

とで、家族は一致団結し、幸せに暮らし続けることができたようです。幸せに生きるため

に本当に必要なのは、財産ではなく家族の結びつきだというマザーの信念は、この体験に

根ざしたものだったと思われます。

 マザーの生涯を考える上で忘れてならないのは、彼女がお母さんから受けた影響です。

とても熱心なカトリック信者だった母は、家からすぐ近くにある教会に毎日のように通っ

ていました。幼いマザーは、母とともに教会に通う中で、キリスト教の信仰を身につけて

いったのです。

 マザーのお母さんは、貧しい人々のための奉仕活動に熱心な人でもありました。貧困地

域にパンを配って歩く母のあとには、いつも幼いマザーの姿がありました。インドで貧し

い人々のために生涯を捧げたマザーの原型は、この母によって形作られたと言っても過言

ではないでしょう。

激動する時代の中で、マザー・テレサはさまざまな考えや信念を持った人々とともに生きていく知恵、弱者に共感する心、どんな困難に直面してもくじけないタフさを身につけていきました。

父を亡くし、財産を失うという体験を通して、マザーは家族の大切さを学びました。そして、母のあとについて教会に通い、貧しい人々のもとを訪れる中で、マザーは人生の軸になる信仰と奉仕の心を身につけたのです。

  揺るぎない拠り所としての家族