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大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程 日本学術振興会特別研究員( DC 2) 掛川 直之 多文化共生デモクラシーの社会基盤設計 於:東京大学赤門総合研究棟2 A200 2017 12 3 (元)編集者からみた学位論文出版 のすすめ

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Page 1: (元)編集者からみた学位論文出版 のすすめdiverse-democracy.kyushu-u.ac.jp/wp-content/uploads/2017/...1 学位論文の出版にはなぜ 助成金が必要なのか?①

大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程

日本学術振興会特別研究員(DC2) 掛川 直之

多文化共生デモクラシーの社会基盤設計 於:東京大学赤門総合研究棟2階A200室                          2017年12月︎3日

(元)編集者からみた学位論文出版のすすめ

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自己紹介

〔所 属〕 大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程            日本学術振興会特別研究員(DC2) 〔専 門 領 域〕  犯罪社会学・司法福祉政策論・都市共生社会論 〔研究テーマ〕  ①社会復帰の概念分析  ②出所者の居住支援政策  ③出所者支援をおこなう支援者のネットワーキング化 〔その他の活動〕 ・四天王寺大学非常勤講師(更生保護制度) ・大阪府地域生活定着支援センター専門スタッフ など 〔略    歴〕 ・京都にある社会科学系の出版社で編集者として9年間勤務 ・おもに、刑事法学、社会学、社会福祉学の書籍を担当 ・提出した129の企画がすべて採択され、104の書籍の刊行に立ち会う  http://booklog.jp/users/kakegawanaoyuki (2017年3月31日時点) ・『憲法ガール』『行政法ガール』がベストセラーに、『入門・社会調査法』 『数学嫌いのための社会統計学』『質的調査の方法』『無印都市の 社会学』などがロングセラーとなる 2

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Ⅰ 出版助成を獲得する:学位論文出版までのプロセス①

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1 学位論文の出版にはなぜ助成金が必要なのか?①

□多くの学位論文は、学術的にいくら優れていたとしても、たいていの場合には、当該領域の研究者等のかなりマニアックな層に読者が限定されてしまうため、市場ではあまり売れない ➡数年かけて500部前後が完売できれば及第点 ⇔初版初刷400〜500部という部数では、1冊の価格が高くなりすぎて商売にならない ➡出版助成が必要になる ➡出版助成の額は、だいたい直接制作費相当分(だいたい100万円前後)くらいが必要となることが多い(この場合でも、頁単価が21円前後になることが多い) ⇔ある程度売れる本であれば出版助成がなくても出版できることになる

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1 学位論文の出版にはなぜ助成金が必要なのか?②

□初版初刷700〜800部の印刷が可能と判断されれば、出版助成金がなくても出版は可能になる(この場合、頁単価が22円前後になることが多い) ➡多くの出版助成の条件が1000部以下となっているため、頁単価を下げて少しでも多くの読者を得たいと考えるのであれば、出版助成は必要 ➡それでは、助成金はどこから獲得すればいいのか?

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2 学位論文出版にむけての助成金の獲得①

□もっとも、一般的かつ権威があるとされているのが、日本学術振興会の研究成果公開促進費(学術図書) ➡これに応募し、採用されることが学位論文出版にむけての正攻法 ⇔採択率は40%弱(かつ、完成原稿が必要であり、原稿の修正には多くの手続きを要する) ➡不採択になることも十分に考えられるため、それぞれの研究領域にあわせたその他の出版助成先を考えておくことも必要 ➡また、学振の助成であれ、その他の助成であれ、申請時に出版社が作成する制作費等の見積書が必要になる ➡つまり、申請時には出版社と交渉して、担当編集者に企画をとおしてもらっておく必要がある(出版社ごとにどの段階までの合意が必要かは異なる) 6

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2 学位論文出版にむけての助成金の獲得②

□編集者や出版社にも、当然、準備期間、検討期間が必要なので前もってスケジュールを確認して交渉にあたることが重要 ➡たとえば、学振の場合、11月が申請の締切(ただし、学内締切はもう少し早いので注意が必要!10月初旬を目標に) ➡編集者や出版社によって、仕事のスピードや企画会議等の頻度は異なるので、少なくとも3ヶ月くらいは余裕をもって、相談することが必要(学内的に相見積もりを求められることもある) ➡では、出版社はどうやって選べばいいのか?

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3 学位論文出版にむけての出版社の選定

□当該出版社の得意とする領域、カラー、ビジネスモデルはもちろん、担当編集者の得意とする領域、カラーをもみきわめる必要がある ・編集者の関心⬆︎ × 出版社の関心⬆︎ = 出版可能性⬆︎ ・編集者の関心➡︎ × 出版社の関心⬆︎ = 出版可能性⬆︎ ・編集者の関心⬆︎ × 出版社の関心➡︎ = 出版可能性➡︎                          (編集者の勢い次第) ・編集者の関心➡︎︎ × 出版社の関心➡︎ = 出版可能性➡︎                      (出版条件と執筆者の将来性次第) □紹介がないと話すら聞いてくれない高飛車な出版社も…… ➡コネクションは非常に大切 □編集者も「人」であるということに留意する

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4 担当した学位論文の出版例

■出版助成なし  □『高齢犯罪者の権利保障と社会復帰』 ■学振の出版助成  □『〈自立支援〉の社会保障を問う』  □『在日朝鮮人アイデンティティの変容と揺らぎ』 ■大学の出版助成  □『公正な刑事手続と証拠開示請求権』 ■自己資金による出版助成  □『貧困理論の再検討』                                          など

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Ⅱ 出版社の会議をとおす:学位論文出版までのプロセス②

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1 出版企画をたてる

□編集者は、当該著者の書籍が、売れる本なのか、売るべき本なのか、たとえ売れなくても出すべき本なのか、ということを考えている

➡本づくりにおいては何部刷れるのか、ということがすべてのカギ □頁数は200〜250頁くらいが値段をつけやすく、図表は少ないほうが組版コストをおさえられる □多くの出版社で、編集者ひとりあたりの提出企画点数をノルマ化している ➡編集者の側も一定数の本を出したがっている ➡学位をとれるレヴェルの博士論文であれば、たいてい出版してくれる出版社はみつかるはず

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2 企画書には何を書かなければならないのか?

①書 名

②概 要

(要旨・特徴やセールスポイント・先行研究のなかでの位置づけなどを含む)

③著者略歴(生年・学歴・本書のもととなるもの以外の主要業績)

④分 量(1頁約1000字として何頁になるか)

⑤読者対象(学生か、研究者〔領域は?〕か、実務家か)

⑥希望定価

(出版助成額はいくらか、助成が下りなかった場合の出版の意向、献本用の買上予定もあればだいたいの冊数)

⑦刊行までのスケジュール(出版助成をうける場合はそのスケジュールもあわせて)

⑧目次構成(すくなくとも節レヴェルまで)

⑨初出一覧(もしあれば) 12

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3 企画書を起案するうえでのポイント

□企画書を起案する ・学術論文=当該領域の学問の作法を修得している研究者同士で読まれることが想定

⇔学術書=当該領域の学問の作法を修得している研究者のみが読むとは限らない

 ☞目次が企画の羅針盤

 ☞書名が売上げを大きく左右する

□企画書をとおしてもらう ➡企画書は、所属する出版社を説得するための唯一無二の材料 ➡セールスポイントを端的に整理するとともに、読み物としてたえうる目次としっかりと整えていく必要がある ➡︎この段階で担当編集者ととことんイメージをすり合わせておく必要がある(のちのトラブルを未然に回避する意味でも)

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Ⅲ 学術書を編む:学位論文出版までのプロセス③

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1 学位論文の原稿を整理する

□原稿を再読する ・まずは、原稿を再読して、「学術書」として出版するにふさわしい原稿になっているかどうかを精査する

➡必要があれば編集者にコメント求める □原稿を整える ・︎章のタイトルのつけ方、副題の有無、節や小見出しの付し方、引用の仕方、参考文献の書き方などを統一していく

・用語の統一 ・引用文献、引用判例などのチェック 15

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2 学位論文が学術書になるまでのプロセス

□編集者による完成原稿の割付作業 ➡編集者が原稿を校正ゲラ(本と同じ体裁)にするためのレイアウトを指定(デザイン)する

➡その本が、どういった読者対象にむけた、どういった趣旨の本かで、そのレイアウトは大きくかわる

□校正作業

➡初校→再校(→三校)の2~3回の著者校正をおこなう

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3 学術書の「見せ方」を考える

□編集者に装丁等のイメージを伝える ➡(編集者が)その本のイメージにあった本のカヴァーをデザイナーに依頼し、その本の「顔」をつくっていく(2~3のラフから選ぶ)

➡学術書の場合、平積、面陳される期間は短い

➡棚差になった場合、さらにAmazon等のネット書店での販売時にどう見えるかとも念頭に入れてデザインを考えるべき

□(もし、イメージがあれば)編集者におびのキャッチコピーをつたえる(ただし、おびをつけると定価は100円程度あがる) ➡︎その本を手にとってひらいてみようと思わせるフレーズがあるとよい ➡︎本の内容を一言で? 興味をひくキャッチフレーズ? 挑発? □著者も、SNSや知り合いの記者等に頼んで宣伝に協力したり、講演会等で販売に協力したりする

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ご静聴ありがとうございました

みなさまの学位論文が よりよいかたちで出版されることを

心から祈念しております

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