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㌮2 広域表層 3 次元ナノ解析技術の開発 先端表面化学分析グループ 田沼 繁夫 ㄮ研究背景 代表的なナノ物質・材料である電子材料や複合材料の開発では、故障解析を中心として数ー卜 の分 解能で数ミリメータ四方の高速分析が要求されている。平面方向には卅䴨 こよる像観察や䅅S による点分 析が行われているが、深さ方向の分析精度については不十分な分解能でしかなく、高速かつ非破壊的に 広い領域を3 次元分析できる分析手法の開発が望まれている。このためにオージェ電子分光装置⡁E 旬、 X 線光電子分光装置⡘偓) 、電子線マイクロアナライザー⡅偍䄩 等による高分解能化および解析の高度化 が進められている。しかし、目的を達成するには個々の手法では限界があり、これらを組み合わせた新 たな測定法や解析法の開発が不可欠である 。 このような計測・解析でキーとなる間体内における 電子の 輸逆現象は、ナノデバイスの基健として重要であるのみならず、表面電子分光などのナノ計測技術の基 本をなすものであるが、実用 k 有用な低エネルギー電子に対して、その同体内の輸送現象を実用に耐え うるレベルで正確に記述できるシステムは存在しない。すなわち、それを支える各種基礎物理量 も低エ ネルギー領域では不正確で問題が多く、限界的に研究が続けられている嬱、 。さらに表屑広域3 次元電 子輸送モデリングに関する研究は緒についてばかりで産業界からも今後の発展が期待されている。 研究目的 電子 の悼粑첓 즂ꢂ꾂 䆑翌䲏熂랂 ê合に重要な電子の非弾性平均自由行程、阻止能、弾性散乱断 i 梢等の基礎物珂量の精密化をはかり、広いエネルギー範閉で使用可能な実用的な 一般式やデータベー スを開発し、これらの物理量のエネルギー依存性や物質依存性を明らかにする。また、材料の実用的な 評価法に応用するために、それらを基礎とした高速モンテカル口シミュレーションプログラムを開発し、 3 次元広域シミュレーションのフレームワークを開発することを意図している 。 また、実試料におけるナノ計測法の研究では、 軍要と考えられる低エネルギー特性 X 線、オージ、エ電 子、弾性散乱電子、光電子の高精度・高分解能計測l は個別に研究され、データの統合化や広域3 次元高 分解能計測についてはほとんど研究されていない。そとで、複合データによる 3 次元分析を可能とする要 素技術についても研究する共に、先に述べた電子と団体の相互作用を正確に記述する物理主止を基礎とし た電子䆓릃嚃纃薃戟它庂炂ꊂ쒏 ð3 次元的に解析・統合するアルゴリズムについて検討する。これ により、表層部に存在する元素の3 次元分析を実用的な分解能で非破壊分析するシステムのフレームワー クを確立する。 精度を 電子分光等 の計出, このシステムは、関連する表面分析物理パラメータのデータベースを備え、 向上させるためのツールとしても利用できることから、スタンドアロンな义䵓 発の標準データベースお よび表面電子分光シミュレータとしても公開し、国内外の研究者・技術者等へ広く提供することも意図 している 研究の計画 電子輸送シミュレータ用基礎物理量の研究 平成年一 年㪌양첒蚂즂ꢂ꾂 撎熂첔斐ꮎ喗垂ꢂ 톒斐ꮎ喗垂䲏熂랂 炃宴=它庂첃暁它広碁[ スを作製する。 弾性散乱電子、光電子、特性X 線等の統合的に扱う;向精度・高分解能計測法の研究 平成ⴲ1 年㪔檉ó3 次元高速分析を可能とする計測法につながる要素技術を開発する。 電子シミュレータエンジンの開発 平成年一 年:[主 l 体中における電子⢌d子、オージ、エ電子⦂첗䆑洛뮏 嚃纃薃戟宖涂랂 皃鴻侃 ムをモンテカルロ法を核として作製し、実際的な3 次元計測のシミュレーションを可 能とするように高速化を図る。 3 次元統合シミュレータのフレームワークの開発

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3.2 広域表層 3次元ナノ解析技術の開発

先端表面化学分析グループ 田沼 繁夫

1.研究背景

代表的なナノ物質・材料である電子材料や複合材料の開発では、故障解析を中心として数ー卜nmの分

解能で数ミリメータ四方の高速分析が要求されている。平面方向には SEM(こよる像観察やAESによる点分

析が行われているが、深さ方向の分析精度については不十分な分解能でしかなく、高速かつ非破壊的に

広い領域を3次元分析できる分析手法の開発が望まれている。このためにオージェ電子分光装置 (AE旬、

X線光電子分光装置(XPS)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)等による高分解能化および解析の高度化

が進められている。しかし、目的を達成するには個々の手法では限界があり、これらを組み合わせた新

たな測定法や解析法の開発が不可欠である。このような計測・解析でキーとなる間体内における電子の

輸逆現象は、ナノデバイスの基健として重要であるのみならず、表面電子分光などのナノ計測技術の基

本をなすものであるが、実用 k有用な低エネルギー電子に対して、その同体内の輸送現象を実用に耐え

うるレベルで正確に記述できるシステムは存在しない。すなわち、それを支える各種基礎物理量も低エ

ネルギー領域では不正確で問題が多く、限界的に研究が続けられている[1、 2]。さらに表屑広域3次元電

子輸送モデリングに関する研究は緒についてばかりで産業界からも今後の発展が期待されている。

2.研究目的

電子の悼|体内における輸送を記述する場合に重要な電子の非弾性平均自由行程、阻止能、弾性散乱断

面i梢等の基礎物珂量の精密化をはかり、広いエネルギー範閉で使用可能な実用的な一般式やデータベー

スを開発し、これらの物理量のエネルギー依存性や物質依存性を明らかにする。また、材料の実用的な

評価法に応用するために、それらを基礎とした高速モンテカル口シミュレーションプログラムを開発し、

3次元広域シミュレーションのフレームワークを開発することを意図している。

また、実試料におけるナノ計測法の研究では、 軍要と考えられる低エネルギー特性 X線、オージ、エ電

子、弾性散乱電子、光電子の高精度・高分解能計測 lは個別に研究され、データの統合化や広域3次元高

分解能計測についてはほとんど研究されていない。そとで、複合データによる 3次元分析を可能とする要

素技術についても研究する共に、先に述べた電子と団体の相互作用を正確に記述する物理主止を基礎とし

た電子-輸道シミュレータを用いて情報を3次元的に解析・統合するアルゴリズムについて検討する。これ

により、表層部に存在する元素の3次元分析を実用的な分解能で非破壊分析するシステムのフレームワー

クを確立する。

精度を1]電子分光等の計出,このシステムは、関連する表面分析物理パラメータのデータベースを備え、

向上させるためのツールとしても利用できることから、スタンドアロンなNIMS発の標準データベースお

よび表面電子分光シミュレータとしても公開し、国内外の研究者・技術者等へ広く提供することも意図

している O

3.研究の計画

電子輸送シミュレータ用基礎物理量の研究

平成18年一 20年:固体中における電子の非弾性散乱および弾性散乱を記述するパラメータのデータベー

スを作製する。

弾性散乱電子、光電子、特性 X線等の統合的に扱う;向精度・高分解能計測法の研究

平成18年 -21年:非破壊3次元高速分析を可能とする計測法につながる要素技術を開発する。

電子シミュレータエンジンの開発

平成19年一 21年:[主l体中における電子(光電子、オージ、エ電子)の輸送現象をシミュレー卜するプログラ

ムをモンテカルロ法を核として作製し、実際的な3次元計測のシミュレーションを可

能とするように高速化を図る。

3次元統合シミュレータのフレームワークの開発

15

平成21年一22年:電子の統合シミュレーションシステムの基盤の構築を達成する。

平成19年度の研究計画

電子輸送シミュレータ用基礎物理量の解明およびシミュレータエンジンの開発�

1)電子の非弾性散乱データベースの開発�

18年度の結果を基に、� 50eVから30keVまでのエネルギー範聞における電子の非弾性散乱に関する精

子告なデータベースを拡張する。さらに、全固体試料に適附可能とするために一般式を開発する。�

2)電子の弾性散乱シミュレータの開発

電子弾性散乱分光において重要な電子散乱モデルについて検討し、絶対測定した散乱強度と比較する

ことにより、最適なモデルを検証すると共に、広いエネルギ一範世|に適用できる汎別弾性散乱シミュ

レータを開発する。

計測法の開発�

1)弾性散乱電子の精密角度分解測定法の開発

開発した精密角度分解計測法を数種額の実試料(C、Si、Cu、Au等)に適用し、その有効性を検証し、

測定法の精密化を図る。�

2)超低エネルギーX線計測の最適化�

Liを含有する酸化物ではLiの信号強度が極端に低下することから、さらに様々な化合物の測定を蓄

積し、分析条件の最適化と原因の解析を進める。また、引き続きLi以外の測定も行い、データと測定ノ

ウハウの蓄積を進める。�

3)マルチX線源による光屯子計測の最適化

前年度計画していた励起プロファイル除去のためのソフトウェアについてフレームワーク作成は終了

したが、問題点が明確化され評価を終了できなかった。本年度は、問題点解決とともに評価を終� fさ

せ、実用的なソフトウェアの完成を同指す。あわせて、励起エネルギーを様々に変化させた場合の分析

上のノウハウの蓄積を進める。�

4.平成� 19年度の成果

電子輸送シミュレータ用基礎物理量の解明およびシミュレータエンジンの開発�

1)電子の非弾性散乱データベースの開発と電子阻止能の一般式の開発

前年に引き続き, 実測したエネルギー損失関数から電子阻止能(SP)をPennのアルゴリズ[3)を用いて、�

41;[来間体(Li、Be、 C(無定型炭素、ダ

関1.41元系固体における電子阻止能(S)と非弾性半均自由行程(λJ

100

イアモンド、グラファイト)、� Na, Modified predictive formula S-Iambda

Mg、Al、Si、K、Sc、Ti,V、Cr、Fe、� Dependence on density

Ni、Cu、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、�

も、I、Gd、Cs、Sn、]n、Ag、Pd、Rh

Dy、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、�

Au、Bi)について50eVから30,OOOeVの

出)比~-〈�

(J)

エネルギー範朗における電子阻止能の

計算を行いデータベース化した[4)。こ

れらのSP値と電ず・の非弾性平均自由行 10

程(IMFP)λ川の積はターゲットの原子

番号と電子のエネルギーの関数となる

ことを見いだし、 一般式を開発してき 。� 5 10 15 20 25

たが、新たに医11に示すようにター Density (g/cmJ)

ゲットの密度の効果も重要なファク

ターであることを見いだした。また、 の梢の密度依存性。ここでF(E)

図の実線は次式で与えられる o 数。�

16

=.DE"ln(bE)/λ� D、0・bは定

4

、‘.,, d

f

‘、

200 ~

S(E,ρ)= d,Ed,ln(d

3E)(p +dJd5

F 、.,

,,,‘、、・E

ここで、� Eはエネルギー(eV)、λ'"は電子の非弾性平均向� HI行秤¥(λ) 7.8922 = 、d)=00545、d,=� 、d 0.0117 . 、�

d=-0.0254・d=0.327である。このとき、� 27元素における個々に元素のエネルギー煩失関数から計算し4 5

たSP値と(1)式の差は� 200・30,000eVの範囲では平均で7.25%である。また、入問には� Tanumaらの計算値ま

たは一般式� TPP-2M[5]が用いることができる。したがって、� (1)式は十分に実際の分析に適用できる。�

2)電子の弾性散乱シミュレータの開発と光電子の光電子の放出角度分布の精密解析への応用

前年に引き続きDirac-Hartree-Fock(DHF)ポテンシャルをもちいて電子の弾性散乱断面積の累積密度関

数および全弾性散乱断而積をデータベース化し、� 50eVから30keVまで、の全元素におけるデータを使用可

能にした。また、� JI:弾性平均自由行程は� Tanumaらの理論計算値をデータベース化するとJt(こ一般式� TPP-

2Mも使えるようなサブルーチンを作製した。これらを合わせ、乱数発生にメルセンヌツイスターを用い

て弾性散乱分光法のシミュレータを開発した。さらに、これを改良し、� X線照射による光電子発生のルー

チンを組み込み、光電了ーの� EDDF(EmissionDepth DistributionFunction、深さ方向放出分布関数)を可能にし

た。このシミュレータを用いて光電子の放出角度分布の精密解析を行った。光電子分光法� (X-ray

PhotoemissionSpectroscopy: XPS)、特に角度分解XPSはナノスケールの非破壊の断層解析法として有力な

手法である。しかも近年商エネルギー� X線を利則した硬X線光電子分光法が登場し、� fXPSは表面敏感」

という常識を破って� 20nmにも及ぶ深層の断層解析が可能となった。ナノデバイスにとって、機能を発

現する部位は数nm'"'"'数ー� lonmの厚さの膜やその界面である事が多いことから、この新技術はナノ物質材料

開発の現場における強力な薄膜解析ツールとなり得る.このような背景の元、光電子の放出角度� .分布いわ

ゆる“非対称パラメーター"を精密に評価することは、ナノ薄膜の断層解析法の定量にとって不可欠の

ものである。 “非対称パラメーター"を精密に求める手法として、本研究において角度分解アナライザー

とエネルギー可変X線を組み合わせた世界的に希有な分析技法を開発した。実験は、� SPring-8NIMSビー

ムラインBLl5XUにおいて行った。図� 2は、 実験レイアウトの� k耐臨|を示している。直線偏光した� X線が

(紙面に平行な電場ベクトルを持って)試料に入射角� 700で照射される。半球塑アナライザー自身が、医� 12

のように試料を中心として|円|転する。なおアナライザーの角度原点は、入射� X線の電場ベクトルの方向�

..-::x、-.、-. .. ~ ;a..ー、~ ... 守、轟 豆ー ー,�

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-60 -40 ・20 0 20 40 60図2実験のレイアウトの上� l面白

lssion angle (deg) Em ., 医13般射光励起のNils光電子の角度分布。光電子の運動

エネルギーを会化させて測定した光'量子角度分布。�

17

(入射X線の進行}j向と直交する方向)にとっている。|羽� 3は、� NiのK殻を8.48eV'"'-' 11.3 keVの種々のエネ

ルギーの放射光を使って励起した際の、� Nils光電� -fの角度分布を光電子の運動エネルギー毎にプロットし

たものである。黒丸は実験結果を示しており、その等高線表示をカラーで示している。図� 3から、各角

度分布におけるピーク位置が光電子の運動エネルギーに応じてシフトし、最大約100

の角度シフトを生

じていることが分かる。この角度=シフトは,双極子選移のみを考慮した通常の非対称パラメーターでは説

明ができない。� X線の偏光まで新たに考慮したモンテカルロシミュレーションを使った解析により、この

1..;:文角度シフトが光電子発生時の多重極遷移に由米するものであることを初めて�

計測法の開発�

1)精密角度分解計測法の開発とSi0(2nm)/Si傾神階化膜の測定への応用

昨年度試作した精密角度分解計 傾斜ホルダーを用いて、� SiOヲ(2nm)/Si極薄酸化膜のオージ、エ電子

分光法における角度分解計測について検討を行った。傾斜ホルダーにセットした酸化膜を分光部方向に

向けて測定した場合(オージ、エ電子の検出深さが最も大きい状態)、ならびに傾斜ホルダーを反時計方向に

回転させて検出深さが小さい条件で得られたスペクトルを図4,図51こ示す。� SiKLL(1,600 eV付近)スペ

クトルに着目すると、取り出し角度が高い条件(図4)では基板の金属Siに起因したスペクトル形状である

が、取り出し角度が低くなると(凶5)、Si酸化物を反映したスペクトル形状が測定できていることがわか

る。さらに、低エネルギー側のSiLVV(90 eV付近)のスペクトルを比較すると、取り出し角度の高い条件

(図4)では金属および酸化物にそれぞれ起因するピークが検出されているが、取り出し角度が浅くなると

測用2

(図5)Si酸化物のピークのみ検出されている。これらのことから、傾斜ホルダーを用いることにより、オー

ジェ電子分光法における角度分解計測は、 卜分に可能であることが明らかになった。�

odegree |- - Si02:2r・m I

120 degrcc |--Si02:2nm ,

T 400

1137 200

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2215 1

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O 500 1創刊� 15回� 2000 500 10∞ 1500 20∞ V)Kinetic Energy (eV)(巴rgyt:Kjm:lic En

凶4.SiO,:2nm/Si極神酸化膜のオージェスペクトル� 路15.SiO,:2nm/Si極薄酸化膜のオージ、エスペクトル�

45度傾斜ホルダーにセットしたSiO,:2nm/Si試料を分光器に |羽4の位置から反時計方向に120度回転させた位置で測定し

対して直交位置(オージェ電子の検出角度が品小依世 :す たもの。�

なわち分析深さが晶大)で測定したもの。�

2)超低エネルギーX線計測の最適化

超軟X線分光装置を用いて、各積殿化物のX線スペクトル形状を調べた.その結果、� LiTa03、LiNb03に

ついては酸素の両次線(4次'"'-'8次)が鋭いピークで高感度に検出された.それぞれ凶6、7に示す。また、�

LiNb03についてはNbの特性線(2次、� 3次)がかなり感度良く確認、できたが、� LiTa03におけるTaの特性線は

かなり弱く、� 2次線が確認できる程度であった。しかし、� Liはいずれの試料からも検出されなかった。さ

らに、� Liを含む� 2種類の鉱物系試料(リチア輝石� : LiA1Si206、ペタル石:LiA1 Si4010)について測定を行っ

た。その結果、いずれも酸素の高次線が強く検出され� Siのピークも弱く認められたが、� LiおよびAlのピー

クは確認できていない。�

18

bcam. IOkV

Li K u'、� ¥.

以前、我々は金属Liについて測定を行い、自然酸化膜が付いた金岡Liでは酸素のピークのみが検山さ

れたが、自然酸化膜をアルゴンイオンでスパッタリングにより除去することで、金属UにおけるLi-K,αを

高感度で検出できることを明らかにした。

しかし、Liが化合物を形成する場合、その化学結合は主にイオン結合性で=ありLi原子近傍の価電子密度

はかなり低いものと考えられる。したがって、� 2p-ls選移によって牛成するKαの生成に寄与する2p電子ーの

原子近傍の密度も極端に低くなり、結果としてLi� Kαの観測が困難になっているものと推測される。.

-'}j¥オージ、エ電子分光法ではヒ記いずれの場合もLiの信号� (KLL)が観測されており、� Kαとの違いの起悶

については今後の検討課題となっている。�

LiTa03

{r cコモ伺]

LiNb03

beam,10hV [恒三コ宅伺]

、ぷ-曲-hωHWC-

b-E22

70 90 110 30 50 70 Enoqy ["vj Energy

区16.電子線励起によるLiTa03およびLiNb03の超軟X線スベクトル。屯チ線の加速電圧は� 10keV、X線エネルギーの分光範

囲は30-120eV。�

3)マルチX線源による光電子計測の最適化一特性X線スペクトル形状のXPSスペクトルからの除去一

マルチターゲットXPSによる測定を実施する場合、特に遷移金属元素の特性� X線を励起源として利用す

る場合は、得られたスペクトルに特性X線の形状がたたみ込まれる。例えば、医� 17にTiの特'性X線であるKα

とKsの高分解能スペクトルの例をボす。特性� X線として最も高い強度の得られるKαは、� K-Lu及び、K・Lmの�

2種類の遷移より生成される。したがって、� LIIとLmのエネルギー間隔がそれぞ、れの準位の自然l幅より大き

くなるSぐらいから2本の成分が明瞭に分離されはじめ、選移金属元素では明確に� 2本のピークからなる形

状を示すようになる。一方、� KsはK-Mu及び、K-M田の2種類の遷移より生成されるが、遷移金属元素でも

鈎� 110 [eV]

30 50

・圃・� 、( ‘.,,、tp(

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4940 49tlO 49804495 4500 4505 4510 4515 4520

エネルギー� kYj 工ネルキー� ['"γl

図7.I'市分解能二結晶担分光船で測定した金属� TiのKα及びKsの形状� (a)Kα(h)Ks

19

MuとMmのエネルギー間隔はそれぞれの自然l幅に比べて十分小さいため、� 1本のピークと見なせる形状を

示す(ピークが非対称であるが、これは、多重励起等の要因によるサテライトの寄与があるためである)0

Ksを励起に利用すれば、慣られる光電子スペクトルは通常の測定(MgKαもしくはAlKα励起)と同様の

感覚で扱うことができる.しかし,一般に遷移金属において,Ksの強度はKαの1割程度(Tiで約13%)であるた

め、 実用分析に対して選移金属元素ターゲットを用いる場合は感度的に不利である O

以上の点を踏まえ、ここでは、� Kα励起で得られた光電子スペクトルからKαのスペクトル形状を取り除

く手法について検討を進めた。

原理的に、測定される光電子スペクトルは、励起X線の形状(例えば、� Kαのスペクトル形状)が真の光電

子スペクトルにたたみ込まれた形で観測されると見なすことが出来る。したがって、もし正確なKαの形

状を得ることが出来るならば、逆たたみ込み(デコンポリューション)の手法を用いることによって真のス

ペクトル形状を得ることが出来るはずである。

図7は、京都大学化学研究所・伊藤嘉昭准教授のグループの協力により、高分解能蛍光X線分光装置に

より金属TiのKαを、最も高い分解能(約O.2eV以下)の条件で測定したものである.K-Lrr及び、K-Lm選移の白

然幅は、理論的に約1.7eV程度[6]と見積もられるため、このデータは、ほぼKα本来の形状と見なすこと

ができる。� XPS励起様管球のターゲ‘ットも金属であるため、この形状をそのまま光電子スペクトルの励起

プロファイルとして用いることとした。

デコンボリューション処理のためのアルゴリズムは、様々なものが提案されており実用化されている。

本研究では、処理により取り除く形状を与える関数に最も拡張性の高い、繰り返し計算を利用する手法

であるJanssonの方法[7]を用いることとした。この方法は以下の式にで表される。�

(2)(x)-gn(x)@h(x))(x)-C,,� =g"+I(X) g(x) (f,,�

ここで、� f(x)は観測されたスペクトル、� g,,(x)は各繰り返し計算の結果であり、原理的にはn→∞で解�

g(()、すなわち本来の光電子が持つスペクトルを与える。� h(x)は一般にはsmearingfunction(ポケ関数)と呼

ばれるが、ここで、はKαの形状など特性X線の形状に対応する。� c仰は副次構造抑制のための加速定数で、

文献の条件をそのまま用いている[7]0

この方法は、例えばもっともよく用いられるFourier変換の応用などに比べると、デコンボリューショ

ンの効率は若干劣り、また繰り返し計算を行うため処理時間もかかる。しかし、処理条件を決めるため

のアプリオリな情報を与える必要が無く、完全自動化が可能であるというメリッ卜もある o ここでは,以

下の式�

】(f(x)-gパx)@h(x)) (3)

を各nに対して計算し、その値が最小(実際には第一極小)を与える条件をもって計算が収束したと見な

した。なお、ソフトウェアはC++により作製し、解析関数を用いたシミュレーションスペクトルの処理を

行うことで、動作が正確であることを確認した。

処理の対象とした光電子スペクトル(Sils)を凶8に示す。試料は、金属Si単結品で、表面をフッ硝酸で

洗浄後、デシケータ中で3ヶ月放置したものであり、比較的厚い自然酸化膜(約1.4nm以下)で極われてい

ると見なせる。実際には、このデータに対して3次のスプライン関数により平滑化処理を行い[旬、� Shirley

法でパックグラウンドを除去したものをデコンボリューション処理用データとした。また、� (1)で示すと

おり、� Jansson法は繰り返し法であるため、計算の初期値(g0(x))を与える必要がある。通常は初期値とし

て処開対象のデータをそのまま用いるのが良く行われているため、本研究でもまず、その方法に従った。

|割引a)は、計算の初期値(g0 (x))として、� f(坊をそのまま用いた結果である。TiKαは2本のピークからなる

形状を示すことから、計算結果としてはスペクトルの中央にある2本のシャーフなピークが1木にまとま

る(本来のSilsが示される)事が期待できるのであるが、この結果はそうなっていない。 一方、例えば初

期値として、スペクトルの中央にピークを持つローレンツ関数を与えると、図9(b)の様に初期値の形に大

きく依存した計算結果が得られた。ソフトウェアが誤動作していないことはすでに解析関数を用いたシ�

20

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4000也� SiI 医J8.Ti管球励起光電子スペクトル々�

~、』ーザ・ (rl AI'IMV>

(a)Si ls(Kα励起)�

1.

20000 . o 15・� (b)Si ls(Ks励起) -ー--' (c)ワイドスペクトル

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tιF 図� 9デコンボリューション結果の初期値依存性�

1.800

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ミュレーションにより確認済みであることから、この初期値に対する強い依存性は、� Jansson法の特性で

あると考えられる。

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図10.初期値にKsJJlIJ起スペクトルを用いた場合のデコン Ji 7eV(Ksの幅に図11.Ks Ih起スペクトルに対して,半値幅� 2.4

ボリューショ ン結果� 相当)の Lorenlz関数でデコンボリューショ ンした結来�

Jansson法やその類似法に対して、なるべく期待する結果に近いデータを初期値として与えると実用的

な結果が得られるということは、すでに報告がある[9]。このことを参考に、期待する結果に近いデータ

として、� Kα励起による測定と並行して待られるKs励起によるスペクトルを初期値として利用することを

試みた。

図10は、� Ks励起によるスペクトルを初期値とした場合の結果を示す。� 1本のSilsが結果として与えら

れており、その約5eV高結合エネルギ一側に小さなピークが観測できる。これは、おそらく表面の自然

酸化膜に起因する般化物のピークであると考えられる。また、図� 11に、� Ks励起によるスペクトルを、� Ks

の半値中高に相当する幅を持つローレンツ関数でデコンポ� 1)ューションした結果を示す。両者は大変良い

対応を示 しており、図� 5がほぼ正しい真のスペクトルを与えている事を示唆している。

このように、� Kαの形状をテ'コンボリューションにより取り除くためにKs励起のデータを用いる方法

は、遷移金属元素をターゲ、ットとしたX線管球を励起源とした場合であれば、元素の種類に無関係に� 般A

的に応用できる。したがって、費用がかかり励起強度も弱くなるモノクロメータ利用の装置系を川いる

測定法に比べて、デコンボリューションを用いる方法はより安価かつ確実な方法であると言える。

今後は、� smearingfunction(ボケ関数)の拡張を行い、オージ、エスペクトルのパックグラウンド解析への

応用の検討を進める。�

5.今後の方針

電子輸送シミュレータ用基礎物理量の解明およびシミュレータエンジンの開発�

1)電子の非弾性散乱データベースの開発

電子輸送モデリングに必要な電子の非弾性平均自由行程、阻止能、輸送断面積に関するデータベース

を50eV・30keVで実用可能とするために、 一般式の開発や高精度補間法の検討を行い、データベースの

圧縮と高速化を図る。同時に電子の限� u:能のエネルギー依存性や原子の殻構造との関係を明らかにする。�

2)電子の弾性散乱シミュレータの開発

|司体中で生成した電子の“深さ方向般出分布関数� (EDD町"の高速計算アルゴリズムの開発とこれを用

いたシミュレータエンジンの高速化を行う。

計測法の開発�

1)マルチX線源による光電子計測の最適化

分解能関数などのスミアリング関数がエネルギー依存性を有ーしている場合のスペクトル処理ルーチン

の開発を行う。そのために、前年度に開発したルーチンの完全時間空間処理化を実現する。�

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2)超低エネルギーX線計測の最適化�

Liなどの超低エネルギー領域から軽元素などのL系列ならび、に選移金属のM系列特性X線のデータベー

ス化を推進すると同時に超軟X線スペクトル変化を中心にクラスター計算による解析を行う。�

3)精密角度分解計測法の開発

金属幼JI英、化合物薄膜等における反射電子の精密計測法の開発を行う。同時に、エネルギー損失関数

および光学定数の計測法について検討する。

参考文献�

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