il-17 · 2 il-17a とil-17f il-17 ファミリー間において、il-17a とil-17f...
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IL-17 ファミリーの機能
秋津葵、岩倉洋一郎
はじめに
インターロイキン-17A(interleukin-17A: IL-17A)は分子量約 21kDa のポリ
ペプチドからなるホモ二量体の糖タンパク質で、1993 年にマウスの T 細胞ハイ
ブリドーマよりクローニングされ、1995 年に新しいサイトカインとして IL-17A
(単に IL-17 とも呼ぶ)と命名された。マウスとヒトの IL-17A は、アミノ酸レ
ベルで 63%の相同性を有しており、どちらもジスルフィド結合したダイマーを
形成することによって細胞外に分泌される。その後、相同性検索から IL-17B、
IL-17C、IL-17D、IL-17E(IL-25 とも呼ぶ)、IL-17F が同定され、IL-17 は6
つの遺伝子からなるファミリーを形成していることが知られるようになった 1。
IL-17A は、線維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞、マクロファージなど広範囲
にわたる細胞に作用して、IL-6 や腫瘍壊死因子-(tumor necrosis factor-:
TNF- )といった炎症性サイトカインやケモカインの誘導、好中球の遊走を強
力に行うことによって炎症を誘導する。近年、IL-17 を産生する T 細胞が、従
来知られていたインターフェロン-(interferon-: IFN-)産生性 Th1 細胞や、
IL-4 産生性 Th2 細胞とは異なる新たな CD4+T 細胞サブセットであることが報
告され、現在では IL-17A を産生する CD4+T 細胞を Th17 細胞とする概念が定
着するに至っている(図 1)。これまでの研究により、IL-17A は関節リウマチ
(RA)をはじ
めとする様々
な自己免疫疾
患、炎症性疾患
やアレルギー
反応、細菌感染
防御に重要な
役割を果たし
ていることが
明らかとなっ
ている。
2
IL-17A と IL-17F
IL-17 ファミリー間において、IL-17A と IL-17F はアミノ酸レベルで 50%と
最も相同性が高く、同じTh17細胞から産生され、レセプターも共有する(表1)。
また、IL-17A と IL-17F はジスルフィド結合したホモダイマー、またはヘテロ
ダイマーとして分泌される。従って、これらは同様の生理活性を有すると考え
られている。実際、IL-17A と IL-17F には IL-1 や IL-6、TNF-などの炎症性
サイトカイン、CXCL1 などのケモカイン、MMP(matrix metalloproteinase)
や抗菌ペプチドなどの発現を誘導することなどが知られており、これらの活性
によって炎症誘導や細菌感染防御に関与していると考えられている 1(図 2)。
また、IL-17A には、G-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)や CXCL8
(IL-8)などの発現を誘導する活性があり、このため顆粒球合成促進や好中球
の活性化・炎症部位への遊走などが引き起こされる。しかしながら、IL-17F は
炎症誘導能が IL-17A に比べて低いこと、上皮細胞などの広範囲にわたる細胞か
3
ら産生されることなどから両者の機能的な相違が少しずつ明らかになってきて
いる 2。
当初、IL-17A と IL-17F は主に活性化 T 細胞(Th17 細胞)から産生される
と考えられていた。Th17 細胞は特徴的に IL-17A、IL-17F、IL-21 や IL-22 を
産生し、TGF-と IL-6 や IL-21 によってナイーブ CD4+T 細胞から分化誘導さ
れ、IL-1や IL-23 がその増殖や生存に重要な役割を果たしている。IL-6、IL-21
や IL-23 は転写因子 STAT3 のリン酸化を介して Th17 細胞のマスターレギュレ
ーターである RORt (retinoic acid receptor-related orphan receptor-t)の発
現を誘導する。Th17 細胞が提唱された初期の頃の論文はすべてマウスを用いた
研究であったが、その後ヒトでもマウスと同様に Th17 細胞が存在することが明
らかとなった。しかし、当初の報告はヒトの Th17 細胞分化誘導には IL-1単独
で十分であり、IL-6 がその作用を増強させる一方、マウス Th17 細胞分化に重
要である TGF-の作用はヒトの Th17 細胞分化に抑制的であり、ヒトとマウス
では Th17 細胞分化機構が異なっているというものであった 3。ところが 2008
年に入り、ヒトの Th17 細胞分化における TGF-の重要性を主張する論文が相
次いだ 4。ヒトの Th17細胞分化機構についてはまだ完全には解明されていない。
近年、Th17 細胞以外にも様々な細胞が IL-17A と IL-17F を産生することが
明らかとなってきた。CD8+T 細胞、T 細胞、NKT 細胞といった T 細胞に加え
て、lymphoid tissue inducer (LTi)-like 細胞、好中球、単球、NK 細胞といった
4
自然免疫系の細胞からも IL-17A と IL-17F が産生されることがわかってきた 1
(図 2)。また、RA 患者の滑膜ではマスト細胞が IL-17A を産生することも報告
されている 5。さらに、IL-17A はパネート細胞、IL-17F は腸管上皮細胞といっ
た非免疫細胞からも産生される 2。これら Th17 細胞以外から産生される IL-17A
と IL-17F の病態形成における役割、Th17 細胞との分化誘導機構や役割の相違
を理解することは自己免疫疾患などの発症機構や種々の病原体に対する感染防
御機構を理解する上で重要な課題であり、現在盛んに研究が行われている。
IL-17A と IL-17F のシグナル伝達機構
IL-17 受容体は種々の細胞で恒常的に発現している。リガンドと同様に受容体
もファミリー(IL-17RA、IL-17RB、IL-17RC、IL-17RD、IL-17RE)を形成し
ており、細胞外領域に FnⅢ(フィブロネクチンⅢ)様ドメイン、細胞内領域に
IL-1/Toll-like receptor ファミリーの TIR(Toll/IL-1R)ドメインに相当する
SEFIR(Similar expression to fibroblast growth factor/IL-17R)ドメインを有
している。IL-17 受容体ファミリーはホモダイマー、ヘテロダイマーを形成する
ことで機能すると考えられており、IL-17A と IL-17F は IL-17RA と IL-17RC
からなるヘテロダイマーに結合し、シグナルを伝える 1(図 3)。IL-17A と IL-17F
は受容体に結合した後、NF-B、MAPK、C/EBP を活性化するが、その際、受
容体と Act1 の SEFIR ドメイン同士が会合し、TRAF6、TAK1 がリクルートさ
れることが必要である。
5
関節炎モデルにおける IL-17A と IL-17F の役割
これまで、RA 患者の関節滑液中で IFN-が検出されることや、Th1 細胞を誘
導する IL-12の p40サブユニットの抗体を投与することにより症状が緩和するこ
となどから、関節炎発症には Th1 細胞が関与していると考えられてきた。しか
し、代表的なマウスの RA モデルであるコラーゲン誘導関節炎(CIA)において
IL-12 特異的サブユニットである p35 や、IFN-欠損マウスでは症状が増悪化す
ることがわかり、Th1 細胞が病態形成に重要であるという考えと一致しなかっ
た。ところが、2003 年に p19 欠損マウス(IL-23 のみ欠損)、p40 欠損マウス
(IL-12/IL-23 どちらも欠損)では CIA の発症が完全に抑制される一方、p35
欠損マウス(IL-12 のみ欠損)は野生型より増悪化することが報告された 6。こ
のとき、p19 欠損マウスでは T 細胞からの IFN-産生は正常であるが、IL-17A
産生が顕著に低下し、p35 欠損マウスでは IFN-産生は低下するが、IL-17A 産
生は亢進していた。実際、筆者らのグループは IL-17A 欠損マウスを作製し、
CIA の発症が強く抑制されたことから、IL-17A が CIA の発症に中心的な役割
を果たしていることを証明した 7。これらのことから、現在では CIA の発症に
必須な分子は IL-12 ではなく IL-23 であり、CIA は Th1 型の病態モデルという
よりは Th17 型の病態モデルであると考えられている。さらに、筆者らはこれま
でに HTLV-Ⅰ(human T-cell leukemia virus-Ⅰ)トランスジェニックマウスと
IL-1 レセプターアンタゴニスト(Ra)欠損マウスを作製し、これらのマウスが
関節リウマチによく似た自己免疫性の関節炎を発症することを報告してきたが
8、これらのマウスの IL-17 を欠損させると関節炎の発症が強く抑制される 9,
6
10
(図 4)。また、IL-6レセプターである gp130にF759変異を持つマウスは、gp130
を介したSTAT3活性化が亢進し、関節リウマチに似た関節炎を自然発症するが、
IL-17A を欠損させるとその発症が抑制される 11。さらに、TCR 特異的シグナル
分子 ZAP-70の一塩基突然変異によって関節炎を発症する SKGマウスにおいて
も、IL-17A が関節炎発症に関与していることが報告されている 12。これらの結
果から、IL-17A が炎症誘導だけでなく、自己免疫の発症においても重要な役割
を果たしていることが明らかとなっている。一方、最近、筆者らのグループは
IL-17F 欠損マウス、IL-17A/F 二重欠損マウスを作製し解析したところ、
IL-17A/F 二重欠損マウスでは、IL-1Ra 欠損マウスにおける関節炎発症が強く
抑制されたが、IL-17F 欠損マウスでは部分的にしか抑制できないこと、CIA に
おいても IL-17F 欠損マウスでは関節炎発症を抑制できないことを報告した 2
(図 5)。これらのことから、マウスモデルの関節炎において IL-17A が発症に
極めて重要な役割を果たしていること、IL-17F は部分的に関与しているにすぎ
ないことが明らかとなった。
IL-17A を標的とする関節リウマチ治療
モデルマウスにおける研究から関節炎発症における IL-17A の重要性が明ら
かになってきている。さらに、RA 患者の滑膜で IL-17A の産生が高まっている
7
ことや、骨の破壊・吸収を行う破骨細胞を誘導する T 細胞が Th17 細胞である
こともわかってきており 13、IL-17A が RA の病態形成に直接関与していること
が示唆されている。実際、Th17 細胞分化の阻害、IL-17 の中和を標的とした臨
床試験が行われている。抗 IL-6 受容体抗体(Tocilizumab)は 2008 年に本邦で
承認され、RA 治療に有効であることが確認されている。この抗体の正確な作用
機序は明らかとなっていないが、少なくとも部分的には Th17 細胞分化を阻害す
るためであると考えられる。また、近年、ヒト化抗 IL-17A 抗体(LY2439821)
を用いた RA の治験が始められ、症状が改善することが報告されている 14。
他の疾患における IL-17A と IL-17F の役割
IL-17A は RA 以外にもさまざまな自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー応
答、細菌感染防御に関与していると考えられている。代表的な自己免疫疾患の
ひとつである多発性硬化症患者の病変部組織では IL-17A の発現が増加してい
る。また、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)
において IL-17A を欠損させると発症が抑制されることから 2、IL-17A が EAE
の病態形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。乾癬は慢
性の炎症性皮膚疾患で、マウスに IL-23 を皮内投与することにより乾癬様病変
を誘導できるが、この疾患に特徴的な表皮の異常増殖は IL-17A 欠損マウスにお
いて抑制される 15。また、ごく最近、このときの病態形成に重要な IL-17A 産生
細胞は Th17 細胞ではなく、皮膚に存在するT 細胞であることもわかってきた
16。遅延型過敏症(DTH)と接触型過敏症(CHS)はどちらもⅣ型に分類され
るアレルギー疾患であり、IL-17A 欠損マウスにこれらの疾患を誘導すると発症
が抑制されることから 17、アレルギー疾患においても IL-17A が病態形成能を有
していることが明らかとなっている。一方、IL-17F 欠損マウスは、CIA と同様
に EAE、DTH 、CHS の発症を抑制しないことから、IL-17F は自己免疫疾患
やアレルギー応答には関与しないことが示唆されている 2。しかしながら、日和
見感染菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やマウス病原性大腸
菌である Citrobacter rodentium の粘膜上皮感染防御においては、IL-17A と
IL-17F どちらもが重要であることがわかっている 2。これは、IL-17A や IL-17F
が腸管上皮からのディフェンシンなどの抗菌ペプチドを誘導することによって
起こる。
8
IL-17E
IL-17E は IL-17 ファミリーの中で IL-17A とのアミノ酸レベルでの相同性が
16%と最も低く、また、IL-17A や IL-17F 分子が Th17 型免疫応答に関与する
のと異なり Th2 型免疫応答に関与している。IL-17E 受容体は、IL-17RA と
IL-17RB からなるヘテロダイマーであることが知られており、IL-17E と結合し
た後、NF-B や MAPK、C/EBP の活性化を行う(図 3)。IL-17E は Th2 細胞、
マスト細胞、好酸球などから産生され、IL-4、IL-5、IL-13 といった Th2 サイ
トカインの産生や IgE 産生を誘導する。これまで L-17E は好酸球増加症やアレ
ルギー疾患を増悪化させることや、寄生虫感染防御に重要な役割を果たしてい
ることが明らかとなっている。IL-17E は Th2 細胞の活性化を促進させる一方、
T 細胞非依存的に IL-5 や IL-13 による Th2 型免疫を誘導するが、このとき
IL-17E に応答する細胞として近年、ナチュラルヘルパー(NH)細胞、multiple
potent progenitor type 2(MMPtype2)細胞、nuocyte、innate type2 helper(Ih2)
細胞といった自然免疫細胞が新たに同定され、大きな注目を集めている(図 6)
18。一方、IL-17E欠損マウスは IL-17Aの増加を伴いEAEを増悪化させること、
このとき抗 IL-17A 抗体を投与することによって病態形成が抑制されること、ま
た、IL-17E 投与により IL-13 の産生を介して病態が抑制されることから、自己
免疫疾患において IL-17EはTh17を抑制することによって病態形成を負に制御
9
することが明らかとなっている 19。関節炎モデルにおける IL-17E の機能は明ら
かとされていないが、EAE での知見や、CIA の後期で IL-17E および IL-4 の発
現亢進が観察されること 20、IL-4 は Th17 細胞分化を抑制することから、IL-17E
は関節炎の病態形成に抑制的に働いていることが予想される。
IL-17C
IL-17C は、CIA において炎症局所に存在する CD4+T 細胞、樹状細胞、マク
ロファージに発現しており、ヒト単球系細胞株から TNF-、IL-1を誘導するこ
と 21、また、IL-17C 遺伝子を導入した CD4+T 細胞を移植すると CIA が増悪化
すること 22 から、炎症を誘導することが示唆されていたが、生体内における役
割はほとんど明らかとされていなかった。しかしごく最近、遺伝子欠損マウス
を用いた解析により、IL-17C 受容体は IL-17RA と IL-17RE からなるヘテロダ
イマーであり、シグナル伝達に Act1 が必要なこと 23、また、IL-17C が受容体
に結合した後、NF-B や MAPK を活性化すること 24が明らかとなった。IL-17C
は IL-17A と異なり、主に細菌や TNF-、IL-1といった炎症性サイトカインに
応答した上皮細胞から産生される。IL-17C 受容体も上皮細胞に発現していて、
IL-17C は炎症性サイトカインやケモカイン、抗菌ペプチドを誘導することでオ
ートクライン的に細菌感染防御に働く 24, 25。一方、自己免疫疾患においては、
IL-17C は Th17 に発現している受容体に結合し、IL-17A 産生を亢進させること
によって、EAE を増悪化させることが明らかとなっている 23。しかし、中枢神
経系における IL-17C の発現細胞は明らかとなっていない。よって、関節炎モデ
ルにおいても EAE と同様の知見が得られるかどうかは不明であり、さらなる解
析が望まれる。
IL-17B、IL-17D
IL-17B は、CIA 誘導時の軟骨細胞に発現しており、IL-17C と同様にヒト単
球系細胞株から TNF-、IL-1を誘導すること 21、IL-17B 遺伝子を導入した
CD4+T 細胞を移植すると CIA が悪化すること、また、抗 IL-17B 抗体投与によ
り CIA が抑制されることが報告されている 22。IL-17B は IL-17RB と弱く結合
することがわかっているが、そのシグナル伝達経路は明らかとされていない。
IL-17D は様々な組織に発現しているが、免疫細胞においては不活性化 CD4+T
細胞、B 細胞でのみ発現が認められる 26。IL-17D は内皮細胞からの IL-6、IL-8、
10
GM-CSF の発現を誘導する。また、RA 患者のリウマチ結節中において発現が
認められているが 27、その病態形成における役割は不明である。また、IL-17D
に結合するレセプターも明らかとなっていない。以上のことから、IL-17B、
IL-17D の機能については不明な点が多く残されているが、IL-17A、IL-17F、
IL-17C と同様に炎症誘導に関与していることが予想される。特異的抗体や遺伝
子欠損マウスを用いたさらなる解析が期待される。
おわりに
臨床試験から IL-1 や IL-6、TNF-a の阻害薬は RA をはじめとする自己免疫
疾患、炎症性疾患の治療に効果的であることが示されている。また、近年抗
IL-17A 抗体を用いた RA 治療に対する治験も始められ、症状の改善が報告され
ている。しかし、IL-1 や IL-6、TNF-a といった炎症性サイトカインは感染防御
にも重要であるため、これらの阻害薬は日和見感染を引き起こす危険性がある。
一方、IL-17A の場合、細菌感染防御に関しては IL-17F が同様の機能を発揮し
てくれることが期待できるため、選択的に IL-17A を阻害できれば感染防御能を
維持したまま炎症反応を抑制できる可能性が示唆される。他の IL-17 ファミリ
ーの生体内における機能はまだ不明な点が多くのこされており、これらの機能
が明らかになることにより、RA に対するさらに効果的な治療薬の開発につなが
るものと思われる。
11
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