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Peter C. Evans and Marco Annunziata November 26, 2012 Industrial Internet: Pushing the Boundaries of Minds and Machines インダストリアル・インターネット 人と機械の境界が融合する

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Page 1: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

Peter C. Evans and Marco Annunziata

November 26, 2012

Industrial Internet:Pushing the Boundariesof Minds and Machines

インダストリアル・インターネット ー人と機械の境界が融合するー

Page 2: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

目 次

I.エグゼクティブサマリ 3-4

II.イノベーションと生産性:次に起こることは? 5-6

VII.結論 34

VIII.参考文献等 35-37

III.イノベーションと変化の波 7-12最初の波:産業革命

第2の波:インターネット革命第3の波:インダストリアル・インターネット

IV.チャンスの大きさはどのくらい? 3つの展望 13-18経済の展望

エネルギー消費の展望

物的資産の展望:回転するもの

VI.実現要因、触媒、条件 31-33イノベーション

インフラストラクチャ

サイバーセキュリティ管理

人材開発

V.インダストリアル・インターネットのメリット 19-30産業分野におけるメリット:1パーセントの力商業航空

鉄道輸送

発電

石油・ガスの開発と供給

ヘルスケア

経済規模の改善益:次の生産性ブーム

偉大なる失速

インターネット革命

懐疑論の復活

インダストリアル・インターネット:次の波がやって来た

どのくらい違いが出るか?インダストリアル・インターネットと高度な製造

Page 3: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

インテリジェント機器

高度な分析 つながった人々

世界の機器、施設、フ

リート、ネットワーク

を、高度なセンサ、コ

ントロール、ソフトウ

ェアアプリケーション

で接続します。

物理ベースの分析、予

測アルゴリズム、自動

化、専門分野の知識

を組み合わせます。

仕事中や移動中の人

々といつでもつなが

ることで、よりインテ

リジェントな設計、操

作、保守を可能にし、

より高度なサービス

品質と安全性を実現

できます。

1 2 3

インダストリアル・インターネットの台頭に伴い、

世界はイノベーションと変化の新たな時代に突入

しようとしています。こうした状況は、高度なコン

ピューティングと分析、低コストのセンサ、そして

インターネットで可能となった新たなレベルの接

続能力と、グローバル産業システムの融合によっ

て現実となっています。デジタルと機器をより密

接に調和させることによって、全世界の産業に大

きな変化をもたらすだけでなく、同時に、人々の日

常生活や仕事のすすめ方など、多くの側面に変

革をもたらす可能性を秘めています。このような

イノベーションは、航空、鉄道輸送、発電、石油・ガ

ス開発、ヘルスケアサービスに至る幅広い産業に

スピードと効率性の向上を約束します。米国であ

れ中国であれ、アフリカの大都市、カザフスタンの

農村であれ、より強力な経済成長、雇用の質と量

の改善、生活水準の向上が期待できるのです。

医療効果をより低コストで改善でき、燃料やエネ

ルギーの大幅な節減や物的資産の性能や耐久性

の向上を実現できれば、インダストリアル・イン

ターネットは、新たな効率の向上が期待できるだ

けでなく、産業革命やインターネット革命と同様、

生産性の向上を加速させることでしょう。そして、

生産性が向上すれば、収入と生活水準も急速に

改善します。米国では、インダストリアル・インター

ネットによって、年間生産性を1~ 1.5ポイント

上げ、インターネット革命のピーク時の水準であ

れば、今後20年間にわたる複利試算により、平

均所得を今日のレベルより25~ 40パーセント

引き上げることができる可能性があります。そし

て、イノベーションが世界中に広がり、世界の他

の国々でも、米国の生産性向上の半分を実現で

きたとすれば、インダストリアル・インターネットは、

向こう20年間で世界全体のGDPを10~ 15兆

ドル拡大する計算になります。これは、今日の米

国経済に相当する規模です。課題の多い今日の

経済環境にあって、これらの生産性向上の一部で

も実現できれば、個人レベルと経済レベルの両面

で大きなメリットをもたらす可能性があります。

次の波

では、どうすればこれを実現できるのでしょう。イ

ンダストリアル・インターネットは、産業革命とイ

ンターネット革命の2つの大革命の進歩、つまり、

産業革命によって出現した無数の機器、施設、フ

リートやネットワークと、インターネット革命によっ

て顕著となったコンピューティング、情報、通信の

各システムの近年の進歩を統合したものです。

以下の3つの要素が統合されると、インダストリ

アル・インターネットを具現化することができます。

インテリジェント機器:高度なセンサ、コントロー

ル、ソフトウェアアプリケーションで世界の無数の

機器、施設、フリート、ネットワークを接続する新

しい方法です。

高度な分析:物理ベースの分析、予測アルゴリズ

ム、自動化と、材料化学、電気工学などの専門分

野の知識を活かして、機器と大規模システムの

仕組みを理解します。

つながった人 :々産業施設、オフィス、病院で仕事

中であっても、移動中であってもいつでもつながる

ことができるため、よりインテリジェントな設計、

操作、保守を実現できるだけでなく、サービスや安

全性の質を高めることもできます。

これらの要素をうまく組み合わせれば、企業や経

済に新しい機会が生まれます。たとえば、従来の

統計的アプローチでは、履歴データ収集技法を使

用しますが、その場合は、データ /分析 /意思決定

がかけ離れたものになってしまいます。一方、シス

テムのモニタリングが高度化し、情報技術のコス

トが低減するにつれ、ますますリアルタイムに大

量のデータを処理できるようになりました。多頻

度に収集されるリアルタイムデータは、システムオ

ペレーションにまったく新しいレベルの情報をも

たらします。機器ベースの分析では、分析プロセ

スにさらにもう1つの側面を提供します。そして、

物理ベースのアプローチ、部門固有の深い専門知

識、情報フローの自動化、予測機能の組み合わせ

を既存の「ビックデータ」ツールに加えることがで

きます。その結果、インダストリアル・インターネッ

トでは、従来のアプローチを取り込みながら、新た

なハイブリッドアプローチを通じて、業界固有の

高度な分析で履歴データ /リアルタイムデータ双

方の利点を活用することができます。

基本的要素と「回転する機器」

インダストリアル・インターネットは、単純なもの

から非常に複雑なものまで様々な機器に、センサ

などの高度なインスツルメントを埋め込むことか

ら始まります。これによって、大量のデータの収集

と分析が可能になり、機器のパフォーマンスを改

善できるので、必然的にシステム同士をリンクす

るネットワークの効率が向上します。データ自体

も「インテリジェント」になって、どのユーザに到達

する必要があるか即座に分かるようになります。

航空業界だけでも、巨大な可能性があります。約

20,000機の商用航空機が43,000台のジェット

エンジンを稼動させています。各ジェットエンジン

には、個々に計装可能で監視できる3つの主要な

回転装置が含まれています。エンジンの保守、燃

料の消費、乗務員のシフト、および「インテリジェ

ント航空機」とオペレータとの通信スケジュールに

おける効率性を想像してみてください。今後15

年間で、航空輸送の需要が世界的に拡大し、さら

に30,000台のジェットエンジンが稼動する可能

性がある状況ではさらなる効率性の向上が実現

できるはずです。

同様な計装の機会が、鉄道、コンバインド・サイク

I.エグゼクティブサマリ

図1. インダストリアル・インターネットの主要要素

3

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セグメント 節減の種類 15年間の予測価値(B=10億米ドル)

産業

商業 $30B1%の燃料節減航空

ガス火力発電 $66B1%の燃料節減電力

システム全体 $63B1%のシステム非効率性の削減

医療

貨物

探査と開発

$27B

$90B

1%のシステム非効率性の削減

1%の資本支出の削減

鉄道

石油とガス

主要部門で実現可能となるパフォーマンス

ル発電所、燃料加工プラント、産業施設などの重

要な機器・施設に存在しています。全体として、今

日のグローバルな産業資産には、3百万以上の「回

転する機器」が存在していますが、それらはインダ

ストリアル・インターネットが管理できる設備・装

置のほんの一部にすぎません。

わずか1パーセントの力

この機器と分析の融合には、顕著なメリットが多

数あります。われわれの予測では、インダストリア

ル・インターネットの技術イノベーションは、経済

活動で32.3兆ドル以上を占める部門に直接適

用できます。世界経済が成長するにつれ、インダ

ストリアル・インターネットが適用できる範囲も同

様に拡がります。2025年までには、インダストリ

アル・インターネットは生産高82兆ドル、つまり

世界経済の約半分に相当する業種に適用される

でしょう。

特定の業界に対するメリットの控えめな試算は、

理解を深める上で有効です。インダストリアル・

インターネットによる効率改善がたった1パーセ

ントであっても、結果に大きな影響が生じます。

たとえば、航空業界だけでも、1パーセントの燃料

節減を15年間続けると、300億ドルも節約でき

ます。同様に、世界のガス火力発電プラントで1

パーセントの効率改善を行なうと、燃料費で660

億ドル節約できます。グローバルなヘルスケア業

界も、プロセスの非効率性の削減でインダストリ

アル・インターネットから恩恵を受けます。つまり、

1パーセントの効率化が実現できれば、630億ド

ル以上も節約できるということです。世界の鉄道

網で輸送される貨物は、1パーセントの効率改善

ができれば燃料費で270億ドルもの節減を可能

にします。最後に、石油 /ガス上流探査開発の資

本稼働率を1パーセント改善すると、合計900億

ドルの資本支出を回避することや、または繰り延

べることができる可能性があります。これらは、達

成可能な結果のほんの数例にすぎません。

広範なグローバルメリット

主要なイノベーションの初期導入者であり提供者

として、米国はインダストリアル・インターネット

の最前線にいます。世界的な統合と急速な技術

移転がさらに進むと、インダストリアル・インター

ネットのメリットは世界的な規模になります。事

実、インフラストラクチャに巨額の投資を行なっ

ている新興成長市場が、インダストリアル・イン

ターネット技術を早期かつ迅速に採用すれば、投

資効果を何倍にもできるはずです。先進経済が経

験したと同じ開発段階を回避する機会が存在す

るかもしれません。たとえば、ワイヤレス技術をた

だちに導入することにより、ケーブルやワイヤの

使用を回避できる可能性があります。あるいは、

民間や公的なクラウドベースシステムを利用すれ

ば、独自のシステムが不要になる可能性がありま

す。結果として、先進国と新興国の生産性ギャッ

プをより迅速に縮めることができます。そして、そ

の過程で、インダストリアル・インターネットは資

源と財務上の制約を緩和し、堅牢な世界成長の

持続性を高めます。

実現要因と「触媒」

インダストリアル・インターネットでは、以下の実

現要因と「触媒」を導入する必要があります。

• 必要なセンサ、インスツルメント、ユーザインター

フェイスシステムの導入に対する投資と共に、

技術イノベーションにおける持続的な努力が必

要です。投資は、新技術を資本金に迅速に変換

するための基本条件です。インダストリアル・イ

ンターネットの成長のペースは、究極的には、現

在の実例に比べ、どのくらい費用効果があって

有益であるかによって決まります。インダストリ

アル・インターネットの導入コストは、おそらく

各産業領域と地域に特有な金額ですが、導入

コストの見返りは、技術への投資金額に対して

プラスになると想定されます。

• 堅牢なサイバーセキュリティシステムとアプロー

チで、脆弱性を管理し、機密性の高い情報と知

的財産を保護します。

• 機械および生産工学の組み合わせによる新し

い「デジタルメカニカルエンジニア」、分析のプ

ラットフォームとアルゴリズムを作成するデータ

サイエンティスト、ソフトウェアとサイバーセキュ

リティの専門家など、新しい部門横断的な役割

を含む強力な人材を開発します。これらの技

能を労働者に与えることで、より多くの仕事と

より高い生産性を、再度、イノベーションから引

き出すことができます。

これらの導入には資源と努力が必要ですが、イン

ダストリアル・インターネットは、産業と生活を変

貌させ、人の心・想い(マインド)と設備・機器(マ

シン)の境界を融合させることができます。

表1:インダストリアル・インターネット:1パーセントの力

注意:この図例では、特定のグローバル産業部門に可能な1パーセントの節減が適用されています。出典:GEによる予測

4

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これまでの人間の歴史で、生産性の伸びはほと

んど感知されない程度であり、生活水準の向上

は非常にゆっくりとしたものでした。ところが、

約200年前、イノベーションの大変革が起きまし

た。産業革命です。この革命では、人間と動物の

両方における筋肉の力は機械の力に置き換えら

れました。産業革命は、いくつも波状に展開し、

わたしたちに蒸気エンジン、内燃機関、そして電

信、電話、電気をもたらし、生産性と経済成長が

急上昇しました。欧米諸国の経済における一人

当たりの収入レベルは、800年かけて1800年代

初期に2倍になりましたが、次の150年で13倍

になりました。しかし、1970年代には、生産性の

「最前線」にあった米国で生産性の伸びがしぼん

でしまいます。

イノベーションにおける第2の変革の波は、ごく

最近、情報ストレージ、コンピューティング、およ

び通信技術における飛躍的進歩に基づくコン

ピューティングとグローバルインターネットの台頭

と共にやって来ました。その生産性への影響は

非常に力強いものでしたが、わずか10年しか続

かず、2005年頃には失速してしまったように見

えました。

現在、一部の人々は、イノベーションは完成した

と主張しています。これらの人々は、過去のイノ

ベーションの波によってビジネスと経済が著しく

利益を得たことは認めていますが、将来の生産

性向上の可能性については悲観的です。彼らは、

産業革命がもたらした変革は一回限りであり、

そのメリットはすでに実現済みで、インターネット

革命も既に成熟しており、インターネット革命の

イノベーションには、産業革命のイノベーションの

ような破壊力や生産性を高める力などないと主

張しています。

私たちはこの見解に挑戦します。ここでは、新し

い生産性改善益の波の可能性を検討します。特

に、産業革命の成果である機器、フリート、物理

ネットワークが、最近のインターネット革命の成果

であるインテリジェントデバイス、インテリジェン

トネットワーク、インテリジェントな意思決定と、

現在どのように融合しつつあるかを指摘します。

私たちはこの融合をインダストリアル・インター

ネットと呼びます。そして、広範な新しいイノベー

ションによって、ビジネスとグローバル経済に著し

い利益が生じることを示す証拠に重点を置きま

す。懐疑論者は、あまりにも性急に、生産性の改

善益について諦めようとしています。産業革命と

まったく同様に、インターネット革命はダイナミッ

クに展開しており、今ちょうどターニングポイント

に差しかかったところです。

いくつもの力の作用によって、現在、発生しつつ

あるインダストリアル・インターネット革命におい

て機器の能力はまだ完全には発揮されていませ

ん。つまり個々の機器の物理的なレベルではなく、

システムレベルに、はるかに大きな非効率性が残

存しています。対象が複雑であると、これらの非

効率性を特定したり、低減するオペレータの能力

を弱めます。これらの要因は、従来の方法による

改善を困難にしていますが、インターネットのイノ

ベーションから生じる新しいソリューションを適用

する誘因となっています。今や、コンピューティン

グシステム、情報システム、テレコミュニケーショ

ンシステムで、広範な計装、監視、分析をサポート

できるようになりました。計装のコストが劇的に

低下し、広範なスケールで産業機器に装備する、

また監視することができます。処理の改善益は衰

えることなく続き、物理的な機器をデジタル イン

テリジェンスで増補できるポイントに達していま

す。リモートデータストレージ、大型データセット、

そして大量の情報を処理できる高度な分析ツー

ルが進化し、より広範に利用可能となっています。

これらの変化が機器やフリート、ネットワークに適

用され、新たなエキサイティングな機会を生み出

しています。

計装コストの急速な低減は、クラウドコンピュー

ティングの影響と一致します。クラウドコンピュー

ティングでは、かつてない低コストではるかに大量

のデータを収集し、分析できます。このため、1990

年代後半に情報通信技術(ICT)装置の迅速な採

用に拍車をかけたトレンドに匹敵するコストデフ

レーショントレンドが生成され、今回はインダスト

リアル・インターネットの開発を促進することにな

ります。モバイル革命もこのデフレ・トレンドを加

速し、効率的な情報の共有が手頃な価格で利用

可能になり、最適化の分散とパーソナライズが実

現します。その最も強力な例として、ほんの数例

を挙げると、産業施設 /分散化した電力 /パーソ

ナライズしたポータブル機器のリモートからの監

II. イノベーションと生産性 : 次に起こることは ?

処理の改善益は

衰えることなく続き、

物理的な機器をデジタル インテリジェンスで

補なえるポイントに

達しています。

5

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視と管理などがあります。

可能性を十分に理解するには、グローバル産業シ

ステムがどのくらいの規模になっているか考慮す

る必要があります。今や、簡単な電気モーターか

ら医療で使用される高度なコンピュータ断層撮

影(CT)スキャナまで、何百万もの機器が世界中

に存在しています。発電する電力プラントから世

界中に人と貨物を運ぶ航空機まで、何万ものフ

リートが存在しています。そして、電力網から鉄道

システムまで、機器とフリートを結合する何千も

の複雑なネットワークが存在しています。

インダストリアル・インターネットは、産業システ

ムのこれら各レベルのパフォーマンスを改善しま

す。そして、検査、保守、修理の各プロセスの最適

化によって、資産の信頼性を向上させます。イン

ダストリアル・インターネットは、フリートレベルと

大規模ネットワークのレベルで運営効率を改善し

ます。

条件は揃っています。初期の証拠は新しいイノ

ベーションの波が既に到来していることを示して

います。以降のページでは、インダストリアル・イン

ターネットの発展の仕方を考慮するためのフレー

ムワークと、インダストリアル・インターネットが、

ビジネスに対し、ひいては世界中の経済に対して

提供するメリットの例を示します。

6

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イノベーション

時間

第1の波

産業革命

機器と工場から

生まれた規模と

範囲の経済性

第2の波

インターネット革命

コンピューティング

パワーと分散情報

ネットワークの台頭

第3の波

インダストリアル・インターネット

機器ベースの分析:

物理ベース、深い専門

知識、自動化、予測

過去200年間で数回、世界はイノベーションの波

を経験しました。成功を収めた企業は、これらの

波を乗り切り、変化する環境に順応することを

学びました。今日、もう1つのイノベーションの波

が到来し始めており、これによって、ビジネスを遂

行する方法と産業機器の世界との情報のやり取

りの仕方が変る可能性があります。今起こってい

ることを完全に理解するために、私たちがどのよ

うにしてここまで辿り付いたか、そして、過去のイ

ノベーションがどのようにして「インダストリアル・

インターネット」と呼ばれる次の波を起こす土台

となったかを振り返ってみましょう。

最初の波:産業革命

産業革命は、世界の社会、経済、文化に深い影響

を与えました。産業革命は、1750~ 1900年の

150年間継続した長いイノベーションプロセスで

した。この期間、製造、エネルギー生産、輸送、農業

に技術のイノベーションが適用され、経済成長と

変革の時代が始まりました。最初の段階は、蒸気

機関の商業化によって18世紀中頃に始まりまし

た。産業革命は、当時、最も生産性の高い経済圏

であった北ヨーロッパで始まり、米国に波及しま

した。米国では、鉄道が経済発展の加速に重大な

役割を果たしました 1。第二段階は、1870年代に

到来しましたが、さらに強力なうねりとなり、内燃

機関、発電機器などの価値ある機器を多数生み

出しました。

産業革命は、私たちの生活を一変させました。輸

送手段を馬車と帆船から鉄道、蒸気船、トラック

に変え、通信手段として電話と電報を導入し、都

心に電気、水道、公衆衛生、医療をもたらしまし

た。産業革命は、生活水準と健康状態を劇的に

変えたのです。2

この時期には、いくつかの重要な特徴があり 3、繊

維から鉄鋼や電力の生産まで、新しい産業にま

たがる巨大な規模の産業が台頭しました。これに

III. イノベーションと 変化の波

図2. インダストリアル・インターネットの台頭

7

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よって著しい規模の経済性が創出され、機器やフ

リートの大型化と生産量の増大に応じてコスト

が低減しました。また、管理の一元化によって、階

層構造の効率性が利用されました。専門化した

プラントと装置というグローバルな資本ストック

が劇的に成長しました。イノベーションの体系的

な考案が始まり、研究開発(R&D)用の中央研究

機関や開発センターが台頭しました。大企業も小

企業も、新しい市場を創出し、利益を得るため、

新しい発明の利用に努めました。

経済と社会が得た巨大な利益にも関わらず、産

業革命にはマイナス面がありました。世界経済シ

ステムが非常に資源集約型になり、資源の搾取

と産業廃棄物の排出の両方によって外部環境が

著しく影響されました。さらに、この時代の労働

条件には大幅な改善が必要でした。そのため、産

業革命以後の漸進的なイノベーションでは、多く

の場合、効率の改善、廃棄物の削減、労働環境の

向上に重点が置かれています。

第2の波:インターネット革命

20世紀の終わり頃、インターネット革命が世界を

再び変革しました。インターネット革命の発展の

タイムフレームは、150年ではなく約50年間と短

いものでしたが、産業革命と同様に段階を踏んで

進行しました。最初の段階は1950年代に始まり、

大型のメインフレームコンピュータとソフトウェア、

そしてコンピュータ同士の通信を可能にする「情

報パケット」が発明されました。この最初の段階

は、政府が支援するコンピュータネットワークによ

る実験でした。

1970年代になると、これらの閉鎖的な政府や民

間のネットワークは、オープンネットワークと、今や

ワールドワイドウェブと呼ばれている存在に道を

譲りました。インターネットの第一段階で使用さ

れた均質な閉じたネットワークとは対照的に、オー

プンネットワークは異種混合といえるものでした。

その重要な特徴は、様々なグループによって所有

され様々な場所にある互換性のない機器が相互

に接続して情報交換できるように、標準とプロト

コルが明確に設計されたことでした。

ネットワークの開放性と柔軟性は、その爆発的な

成長の基礎となった重要な要素でした。成長の

速度は驚異的で、1981年8月の時点では、イン

ターネットに接続していたコンピュータは300台

足らずでしたがその15年後、コンピュータの数は

1900万台まで上昇し4、現在では10億単位に

達しています。伝送される情報の速度と量も劇

的に増大しました。1985年には最良のモデムで

も、1秒当たり9.6キロビット(Kbps)の速度しか

出せませんでした。一方、iPhoneの第一世代の

速度は400倍となり、1秒当たり3.6メガビット

(Mbps)で情報を転送することができました。5

スピードとボリュームの組み合わせにより、商取

引と社会的交流のコストが低減し、商取引と社

会的交流のための強力なプラットフォームが出来

上がりました。企業は、インターネットでの販売活

動をしていない状態から、巨大で効率的な新た

な交換市場の創設へ向いました。一部の事例で

は、既存企業が新しいデジタルプラットフォーム

にシフトしましたが、イノベーションと情熱のほと

んどは、全く新しい企業と機能を作り出すこと

に集中しました。eBayが1995年に創始される

と、年度末には、41,000人ものユーザが利用し、

720万ドル相当の商品を取引していました。そし

て、2006年までには、2200万人のユーザが525

億ドル相当の商品を取引するようになりました。

ソーシャルネットワーキングもよく似た経緯を辿

りました。Facebookが2004年2月に創設され

ると、1年足らずで、アクティブユーザが100万人

になりました。そして、2008年8月には1億人に

達しました。現在、Facebookのユーザは10億人

以上です。Facebookでは、8年間で1400億の

「友だち」のつながりが生まれ、2,650億枚の写真

がアップロードされ、6200万曲の歌が220億回

再生されました。6

インターネット革命は、質の面で産業革命とは非

常に異なっていました。インターネット、コンピュー

ティング、大量データの送受信機能は、ネットワー

ク、水平構造、分散型インテリジェンスの創出と

価値をベースとして構築されました。インターネッ

ト革命は統合を深め、オペレーションを柔軟にす

ることによって、生産システムに関する思考を変

革しました。インターネットでは、順序立った線形

アプローチによる研究開発ではなく、同時並行的

なイノベーションが可能になりました。情報を素

早く交換し、意思決定を分散できるので、地理的

条件に制約されない、より協力的な作業環境が

生まれました。その結果、一元化された内部イノ

ベーションの古いモデルは、より豊富な知識を含

む環境を利用できる新しいオープンなイノベー

ションモデルに道を譲りました。したがって、イン

ターネット革命は、資源集約型でなく、情報およ

び知識集約型になりました。インターネット革命

は、ネットワークの価値とプラットフォームの作成

に重点を置いています。そして、環境へのインパ

クトを削減し、よりエコフレンドリーな製品とサー

ビスをサポートするための新たな展望を切り開い

たのです。

第3の波:インダストリアル・インターネット

21世紀の現在、世界はインダストリアル・インター

ネットによって再び変革されようとしています。産

業革命の結果として可能となったグローバル産

業システムとインターネット革命の一部として開

発されたオープンコンピューティング /通信システ

ムの融合によって、生産が加速され、非効率性と

8

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インテリジェント

デバイス

インテリジェント

システム

インテリジェント

意思決定

メリットデジ

タルの世

ネットワーク

フリート

施設

機器

ネットワークの

最適化

産業界

フリートの

最適化

施設の

最適化

資産の

最適化

廃棄物が減少し、人間のワークエクスペリエンス

を向上する新たな未知の領域が切り開かれるの

です。

実際、すでにインダストリアル・インターネットの

革命は進行中です。企業は、過去十年間、利用可

能となったインターネットベースの技術を産業ア

プリケーションに適用してきました。しかし、現在

のレベルは、実現可能な最新段階よりはるかに未

熟であるといえます。インターネットベースのデジ

タル技術の可能性は、グローバル産業システム全

体に対してまだ完全には実現されていません。イ

ンテリジェントデバイス、インテリジェントシステム、

そしてインテリジェントな意思決定によって、機器、

施設、フリート、ネットワークから成る物理的な世

界をデジタルな世界と接続し、ビッグデータ、分析

とより深く融合することが実現します。

インテリジェントデバイス

産業機器にデジタル・インスツルメントを提供す

ることは、インダストリアル・インターネット革命

の最初の一歩です。いくつかの要因によって、産

業機器に広範囲に計装機器を設置することは、

経済的に採算が合うようになりました。これはイ

ンダストリアル・インターネット台頭の必要条件

です。機器や機器の集まりをインテリジェントに

するには、いくつかの要因があります。

• 導入コスト:インスツルメント・コストが劇的に

低下し、かつてないほど経済的に産業機器を

装備し、監視できるようになりました。

• 計算能力:マイクロプロセッサチップの進化が

続き、物理機器をデジタル インテリジェンスで

補足できるポイントに達しています。

• 高度な分析:「ビッグデータ」を取り込むソフト

ウェアツールと分析テクニックの進歩により、イ

ンテリジェントデバイスから生成される大量の

データを理解する手段ができました。

上記の要因が相まって、理論的には存在してい

たが実際には十分に利用されてこなかったデー

タの収集、分析、操作のコストと価値が変りつつ

あります。

インテリジェントデバイスで生成されるデータの

流れを意味あるものにすることが、インダストリ

アル・インターネットの重要な要素の1つです。図

3に示すように、インダストリアル・インターネッ

トは、データ、ハードウェア、ソフトウェア、インテリ

ジェンスのフローと相互作用という観点から考え

ることができます。データは、インテリジェントデ

バイスとネットワークから取得されます。そして、

ビッグデータと分析のツールによって、保存、分析、

可視化されます。その結果、「インテリジェント情

報」は、意思決定者が必要に応じてリアルタイム

で利用したり、非常に多岐に及ぶ産業システム

全体にわたる広範な産業資産の最適化または戦

略的意思決定プロセスの一部として利用するこ

とができます。

インテリジェント情報は、機器、ネットワーク、個

人、またはグループで共有することによっても、イ

ンテリジェントなコラボレーションを促進し、意思

決定を改善できます。この共有によって、より広

図3. インダストリアル・インターネットの応用

9

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databig dataSQLStorage database

processinginformation

storage

column-storeexample

compression

anal

yses

Dat

a

time

bignowtoolsstore

supportTwitter

new

databases

analysis

mobile tera

byte

s

query

セキュアなクラウドベースのネットワーク

計装された産業機器

産業データシステム

ビッグデータ分析

リモート/集中型データ可視化

物理/ヒューマンネットワーク

専有機器のデータストリームの抽出と保管

機器に戻るインテリジェンスフロー

機器ベースのアルゴリズムとデータ分析

適切なユーザと機器によるデータ共有

範な関係者グループが資産の保守、管理、最適化

に従事できます。また、機器固有の専門知識を持

つ近くで働く、または遠くにいる個人を適切な時

期に関与させることもできます。インテリジェント

情報は、元の機器にフィードバックすることも可

能です。インテリジェント情報には、元の機器から

生成されたデータだけでなく、機器、フリート、さ

らに大きなシステムのオペレーションまたは保守

を向上できる外部データも含まれます。このデー

タフィードバックループは、機器が履歴から「学習

し」、オンボード制御システムによってインテリジェ

ントに動作することを可能にします。

計装された各システムは、大量のデータを生成し

ます。これらのデータは、インダストリアル・インター

ネットのネットワークを介してリモートの機器と

ユーザに伝送できます。インダストリアル・インター

ネットの実装の重要部分は、デバイスに残して常

駐させるデータと、リモートロケーションに送って

分析および保管するデータの決定に関連してい

ます。ローカルデータの常駐度の決定は、インダス

トリアル・インターネットとその一部であることに

利益のある多数の多様な企業のセキュリティを

確保する上で重要です。ここで重要なのは、新し

いイノベーションでは、計装された機器で生成さ

れた機密データをその所属する場所に残すこと

ができるということです。その他のデータストリー

ムは、リモートに転送され、仕事中または移動中

のユーザが、必要に応じて、表示、分析、補足、およ

び利用することができます。

時間経過とともに、これらのデータフローは、オペ

レーションとパフォーマンスの履歴を提供します。

オペレータは、これらの履歴データにより、プラン

トの重要な部品や機器の状態について理解を

深めることができます。オペレータは、特定の部

品がどのような条件下でどのくらいの時間稼動

しているかを知ることができます。次に、分析ツー

ルによって、この情報を他のプラントの同様の部

品の運転履歴と比較して、部品の障害の可能性

とタイミングについて信頼性の高い予測を立て

ることができます。このようにして、運転データと

予測分析を組み合わせて、予期しない機能停止

を回避し、保守コストを最小限に抑えることが

できます。

これらのメリットはすべて、既存の情報技術を使

用し人々の仕事の能率を上げる機器の計装か

ら生じます。これは、インテリジェントデバイスの

広範な導入が非常にパワフルな影響をもつ理由

です。高度なエンジニアリングによる航空エンジ

ンなど、高パフォーマンスの機器でさらに生産性

を上げることが困難になりつつある時代におい

図4. インダストリアル・インターネットのデータループ

10

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て、インテリジェントデバイスの広範な導入は、パ

フォーマンスと運転効率をさらに改善できる可能

性を秘めています。

インテリジェントシステム

インテリジェントシステムに潜在するメリットは

膨大です。インテリジェントシステムには、多様な

従来のネットワークシステムが含まれていますが、

定義はそれより広く、フリートとネットワークに導

入されたソフトウェアと広範な機器の計装の組

み合わせを包含しています。インダストリアル・イ

ンターネットに加わる機器とデバイスが増加する

にしたがって、広範な機器の計装から生じる相乗

効果をフリートとネットワーク全体にわたって具

現化することができます。

インテリジェントシステムは、多数の異なる形式

で具現化します。

ネットワークの最適化:システム内で相互接続し

た機器のオペレーションを調整することにより、

ネットワークレベルの稼働効率を向上できます。

たとえば、ヘルスケアでは、データを共有すること

により、医師と看護師は患者を正しい装置に迅

速に適用することができます。そして、情報をシー

ムレスに医師や看護師と患者に送ることができ

るので、待ち時間が短縮され、装置の利用率が上

がり、医療の質が改善されます。インテリジェント

システムは、輸送ネットワーク内の経路の最適化

にも適しています。相互に接続された車両は、自

分の現在位置と行く先が分かり、システム内の

他の車両についても確認できるので、経路指定の

最適化によって、最も効率的なシステムレベルの

ソリューションを見つけることができます。

保守の最適化:フリートをまたぐ最適で低コスト

な機器の保守も、インテリジェントシステムで容

易に実行できます。機器、コンポーネント、個々の

パーツをまたぐ集約されたモニタリングにより、こ

れらのデバイスの状態を認識することができるの

で、最適な数のパーツを適切な時間に適切な場

所に配送できます。これによって、パーツの在庫所

要量と保守コストが最小限になり、機器の信頼

性レベルが高くなります。インテリジェントシステ

ムによる保守の最適化と、ネットワークによる学

習 /予測分析の組み合わせにより、エンジニアは

機器の信頼性の比率をより高度なレベルにする

可能性をもつ予防保守プログラムを実装するこ

とができます。

システムの復旧:幅広いシステム規模のインテリ

ジェンスの確立は、ネガティブな事象が発生した

後でもシステムをより迅速かつ効率的に復旧す

るためにも役立ちます。たとえば、大嵐、地震など

の天災の場合、スマートメーター、センサなどのイ

ンテリジェントなデバイスやシステムのネットワー

クを使用すれば、最大の問題を素早く検出し、隔

離できるので、それらの問題が連鎖して大停電に

なるようなことがありません。地理情報と運転情

報を組み合わせて、電気の復旧作業をサポートす

ることも可能となります。

学習:ネットワーク学習の効果は、機器とシステム

の相互接続によるもう1つのメリットです。各機

器の運転経験データを単一の情報システムに集

約して、1つの機器では不可能な方法で機器の

ポートフォリオ全体にわたって学習を加速できま

す。たとえば、航空機から収集したデータを位置

データおよび飛行履歴に関する情報と組み合わ

せると、様々な環境における航空機の性能に関す

る豊富な情報が得られます。このデータから引き

出した情報をすぐに使用して、システム全体をス

マートにすることができるので、知識を蓄積し、イ

ンサイトに基づく対応を繰り返しおこなうプロセ

スが生まれます。インテリジェントシステムを構築

すると、インテリジェントデバイスの広範な導入

によるメリットを享受できます。システム内の接

続された機器の数が増加するにしたがって、継続

的に拡張しながら自習するシステムが時の経過

とともに、より「スマート」になっていくためです。

インテリジェントな意思決定

インダストリアル・インターネットのフルパワーは、

3番目の要素「インテリジェントな意思決定」に

よって具現化されます。十分な情報がインテリ

ジェントなデバイスとシステムから収集され、デー

タ駆動型の学習が促進され、その結果、機器と

ネットワークレベルの運転機能が一緒になって、

オペレータから安全なデジタルシステムに移譲す

ることが可能になったときに、この「インテリジェ

ントな意思決定」が行なわれます。インダストリア

ル・インターネットのこの要素は、相互に接続した

機器、施設、フリート、ネットワークによって増大す

る複雑性に対処する上で不可欠です。

地理的に広く展開した施設とフリートから構成

された、完全に計装されたネットワークを想定し

てみましょう。その場合、オペレータは、何千もの

決定を素早く下して、最適なシステムパフォーマ

ンスを維持する必要があります。このような複雑

な課題は、人間が承認したオペレーションをシス

テムが実行できるようにすることで解決できま

各機器は

学習を加速する

単一の情報システムに

集約されます。

11

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す。そうすれば、複雑性から生じる負担がデジタ

ルシステムに移ります。たとえば、インテリジェン

トシステム内では、発送可能な発電プラントの出

力を上げる信号を個々のプラントのオペレータに

送る必要がなくなります。代わりに、インテリジェ

ントな自動化の使用により、風力や太陽光など

刻々と変化する資源、電力需要の変化、他のプラ

ントの可用性に応じて、プラント向け信号が直

接同時に発送されます。これらの機能により、人

と組織が仕事を効率的に遂行する能力が促進

されます。

「インテリジェントな意思決定」は、インダストリ

アル・インターネットの長期ビジョンともいうべき

ものです。インテリジェントな意思決定は、各デバ

イスやシステムで集約されるインダストリアル・イ

ンターネットの要素として収集される知識の集大

成です。そして、実現の暁には、産業革命とイン

ターネット革命に比肩する規模で、生産性を改善

する際の制約を解放し、運転コストを低減できる

大胆なビジョンです。

要素の統合

インテリジェントな「部品」の統合にしたがい、イ

ンダストリアル・インターネットによって、「ビッグ

データ」のパワーと機器ベースの分析パワーが統

合されます。従来の統計的アプローチでは、履歴

データの収集テクニックを使用しますが、そのテ

クニックでは、データと分析、そして意思決定の間

にしばしば大きな分離が生じます。一方、システ

ム監視が高度化し、情報技術のコストが低減す

るにしたがって、リアルタイムデータを操作する能

力が増大してきました。高頻度のリアルタイムデー

タを管理および分析する能力が大きくなると、シ

ステムのオペレーションに関して新しいレベルの

洞察がもたらされます。また、機器ベースの分析

が、分析プロセスにもう1つの次元を提供します。

物理ベースの手法、部門固有の深い専門知識、増

大した情報フローの自動化、予測テクニックの組

み合わせを使用して、高度な分析に「ビックデー

タ」の分析ソフトウェアを加えることができます。

その結果、インダストリアル・インターネットでは、

新しいハイブリッドアプローチに従来のアプロー

チを取り込むことにより、業界固有の高度な分析

で履歴データ /リアルタイムデータ双方のパワー

を活用することができます。

インダストリアル・インターネットは、3つの主なデ

ジタル要素(インテリジェントデバイス、インテリ

ジェントシステム、インテリジェントな意思決定)

と物理的な機器、施設、フリート、ネットワークが

完全に融合したときに実現することができます。

この融合が生まれると、生産性の向上、コストの

低下、廃棄物の減少から生じるメリットが産業経

済全体に広がります。

12

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インダストリアル・インターネットの機会のシェアは、今日の世界経済の46%(32.3兆ドル)

産業経済:

18.1兆ドル

その他:

143億ドルその他:

23.1兆ドル

非産業経済:

31兆ドル非産業経済:

10.8兆ドル産業経済:

9.7兆ドル

グローバルGDP:約70兆ドル

発展途上経済:

29兆ドル先進経済:

41兆ドル

ヘルスケア:

1.7兆ドルその他の産業:

5.3兆ドル製造:

5.5兆ドル製造:

6.1兆ドルその他の産業:

3.6兆ドル輸送:

2.6兆ドルヘルスケア:

5.3兆ドル輸送:

2.2兆ドル

7兆 7兆

6兆 6兆

5兆 5兆

4兆 4兆

3兆 3兆

2兆 2兆

1兆 1兆

出典:世界銀行(2011年)とGE

インダストリアル・インターネットの機会の規模を

理解するには、まずグローバル産業システムの規

模を知ることです。グローバルにおける産業シス

テムの規模はどのくらいでしょうか?単純な答え

は「とても大きい」です。ただし、単純な物差しは

1つもありません。ここでは、経済的シェア、エネル

ギー所要量、そして機器 /施設 /フリート /ネット

ワークの観点からの物理資産という3つの異な

る基準を使用し示すこととします。これですべて

を網羅するわけではありませんが、これらの基準

をまとめると、インダストリアル・インターネットの

膨大な可能性の規模と範囲について有用な展望

を得ることができます。

経済の展望

グローバルな産業に関する従来の経済的定義に

は、製造部門、天然資源採取部門、建設部門、ユー

ティリティ部門が含まれています 7。これらのカテ

ゴリに基づいたグローバル産業は、2011年には、

世界経済70兆ドルの約30パーセント、つまり21

兆ドルを担っていました 8。その内、商品の製造が

生産高の17パーセントを占め、資源採取と建設

を含むその他の産業が世界生産高の約13パー

セントを提供していました。地域レベルでは、特定

の国の経済構造と資源内容によって相当な違い

が存在します。

先進的な経済圏では、産業部門が生産高の約24

パーセントを提供しますが、発展途上経済圏では、

産業部門がGDPの約37パーセントを担っていま

す。この産業部門の製造活動は先進国と発展途

上国の経済生産のそれぞれ15パーセントと20

パーセントを占めています。したがって、従来の経

済計算の基準では、国ごとに差異はありますが、

産業活動がすべての経済活動の約3分の1を占

めています。

世界経済の3分の1というのは非常に大規模で

すが、インダストリアル・インターネットの全ての

可能性を実現したものではありません。インダス

トリアル・インターネットは、従来の経済カテゴリ

で網羅するより広範に様々な部門を包含してい

ます。たとえば、インダストリアル・インターネッ

トは、航空、鉄道、海運などの産業輸送フリート

や大規模な物流オペレーションを含む輸送部門

を幅広く含んでいます 9。2011年には、陸運、空

図5. インダストリアル・インターネットの可能なGDPシェア

IV. チャンスの大きさは どのくらい? 3つの展望

13

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輸、海運、パイプライン、遠隔通信、それらを支援

する物流サービスを含むグローバル輸送サービス

部門が、世界の経済活動の約7パーセントを占

めました。輸送フリートは、製造とエネルギー生

産におけるサプライチェーンと流通チェーンを結

びつける重要なリンクです。ここでは、インダスト

リアル・インターネットは重工業部門における製

造プロセスとその時期を最適化します。旅客機

のような商業輸送サービスでは、サービスと安全

性を改善しながらオペレーションと資産を最適

化する機会も存在します。

その他の民間と政府のサービス部門もメリットを

得られます。たとえば、ヘルスケアでは、大量の機

密データから重大な共通点と類似点を見つける

ことが、文字通り生死に関わる問題になることが

あります。ヘルスケア産業は、公共 /民間双方の

支出を含め、世界経済の10パーセント(2011年

では7.1兆ドル)をなすと見積もられており、それ

だけで世界経済の巨大分野です。この産業では、

商品のロジスティックス最適化から情報と個人

の業務フローの最適化、つまり正しい情報を正し

いユーザに正しい時期に届けることにインダスト

リアル・インターネットの焦点はシフトします。

従来の産業に輸送サービス部門とヘルスサービ

ス部門を組み合わせると、世界経済の約46パー

セント(つまり世界における生産高の32.3兆ド

ル)がインダストリアル・インターネットのメリット

を享受できます。世界経済が成長し、産業が成長

すると、この数も成長します。2025年までには、

産業部門(ここでは広義)のシェアは、世界経済の

約50パーセントまたは将来の世界生産の82兆

ドル(名目ドル)まで成長することでしょう。10

インダストリアル・インターネットの技術は上記の

世界経済の50パーセントに対応する資産全体に

即座に適用されることはありません、インダスト

リアル・インターネット技術の導入には投資が必

要であり、投資のペースは、投資を可能にするイ

ンフラストラクチャの開発速度に依存する場合

があります。ここまでの説明では、上限つまり利

用可能な限度を示してきました。一方、この限度

をインダストリアル・インターネットの直接の適用

先を見つけることのできる部門に制限してもいま

す。ただし、インダストリアル・インターネットのメ

リットは、それらの部門以外でも感じられること

になります。たとえば、ヘルスケア部門に対するポ

ジティブな影響は、健康状態の改善という形で現

れ、つぎに、作業日の病欠が減少することとなる

でしょう。同様に、輸送と物流の改善は、商品の

出荷とサプライチェーンの信頼性および効率に依

存するすべての経済活動に利益を与えます。

エネルギー消費の展望

よりスマートな技術と堅牢なネットワークの統合

から生じる主要なメリットの1つは、省エネ効果

を引き出し、コストを削減できることです。エネ

ルギーシステムに対する制約は高まりつつありま

す。資源の不足、環境維持・改善の必要性、インフ

ラストラクチャの欠乏は、世界的な問題です。イ

ンダストリアル・インターネットの台頭は、資源の

制約や「不足の増大」に対するダイレクトな反応

であるとさえ言えるかもしれません。したがって、

インダストリアル・インターネットの規模に関する

もう1つの展望は、グローバル産業システムに関

連するエネルギーの理解から生まれます。世界が

必要とする商品とサービスを作り出すには、非常

に大量のエネルギー資源が必要です。製造部門

と輸送部門に加えて、エネルギーの生産と変換の

部門を考慮した場合、インダストリアル・インター

ネットのメリットの範囲は、世界のエネルギー消費

の半分以上に及びます。

エネルギー部門は、消費用の最終エネルギーを作

り出すために必要な一連の活動を含みます。

• 燃料(たとえば、石油、ガス、石炭、ウラニウム)

を採取したり、水力、風力、ソーラーエネルギー

を利用する

• 一次燃料を精製および処理して、顧客に提供

できる最終製品(ガソリン、LNGなど)にする

• それらの燃料を電気に変換する

2011年には、比較用の石油換算ベース(Btoe)に

変換すると130億メトリックトンを超えるエネル

ギーが世界中で生産されました 11。これを分かり

やすく説明すると、米国のすべての自動車と軽自

動車(現在の総数が約2億4000万台)で1Btoe

の2分の1未満が消費されたことになります。こ

の13.0 Btoeの世界一次エネルギー生産高のう

世界経済の

約46パーセント(つまり世界生産高の

32.3兆ドル)がインダストリアル・

インターネットから

メリットを享受できます。

14

Page 15: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

エネルギー

生産

13 BTOE

エネルギー

消費

9.5 BTOE

電気燃料

入力

電気

その他

10%

軽量輸送

14%ビルディング

32%

産業

28%

重量輸送

16%

その他の変換損失

電気変換損失

石油 31%

石炭 28%

ガス 22%

原子力 5%水力 3%

再生可能エネルギー 11%

インダストリアル・インターネットが

エネルギー生産の100%に影響できるインダストリアル・インターネットが

世界のエネルギー消費の44%に影響できる

出典:GE、『Global Strategy & Planning Estimates』、2011年

ち、4.9 Btoeは、約40パーセントの変換効率で

電気に変換され、残りの8.1 Btoeは、精製され

たり、不純物に関して処理されたり、洗浄された

り(石炭の場合)、あるいはエネルギー消費者へ輸

送および配送できるように変換されました。エネ

ルギー生産には膨大なコストがかかることを認識

することが重要です。エネルギーの供給を維持お

よび増大するため、石炭、石油、電力を含む世界

のエネルギー産業は、毎年の新しい資本支出とし

て平均約1.9兆ドル(グローバルGDPの約3パー

セント)を必要とします。莫大なボリュームとコス

トによって、インダストリアル・インターネット技術

を継続的に導入するための膨大な適用範囲が生

成されます。

ところでエネルギーバランスの消費サイドへ話題

を変えると、世界の一次エネルギーソースは、1.9

Btoeの電気と7.1Btoeの他の最終燃料を含む

9.5 Btoeの有用なエネルギー製品に変換されま

した。産業界のエンドユーザは、電気、ディーゼル

燃料、原料炭、天然ガス、化学原料の形で36パー

セント消費しました。これは、上記の経済の展望

で説明した製造部門の情報とほぼ整合します。

産業部門内で、最もエネルギーを消費するのは、

鉄鋼・金属産業と石油化学産業です。これらの重

工業の消費を合計すると、消費された産業エネ

ルギーの約50パーセントに相当します。最近の研

究によれば、ベストプラクティスの技術を導入し

た場合は、重工業のエネルギー消費を15~ 20

パーセント削減することができます 12。インダスト

リアル・インターネットを継続的に拡張して導入

すれば、プロセスの統合、ライフサイクルの最適化、

モーターと回転装置のより効率的な使用と保守

によって、エネルギー消費削減をサポートできます。

輸送部門は、世界のエネルギー需要の27パーセ

ントに相当するエネルギー(一次石油製品)を消

費するもう1つの巨大部門です。輸送部門内では、

消費される燃料の約半分(48パーセント)が、ト

ラック、バス、航空機、船舶、鉄道機関車などの重

量フリートで使用されます。輸送部門エネルギー

のもう半分(52パーセント)は、軽量自動車で使

用されます。情報技術とネットワークされたデバイ

スおよびシステムを使用した輸送の最適化は、イ

ンダストリアル・インターネットから得られる最も

エキサイティングな機会の1つであるようです。イ

ンダストリアル・インターネット技術は、大型フリー

トの大半と軽量自動車フリートの一部の利益に

なると仮定すれば、世界の輸送燃料需要のおそ

らく14パーセントに影響を及ぼすことができます。

世界のエネルギー消費を実際に変えるには、明ら

かに多数の次元でチャレンジがあります。各シス

テムとサブシステムは、システム内でのパフォーマ

ンスとより大きなエネルギーネットワークとの情

報のやり取りという観点から評価する必要があ

ります。プロセス管理と自動化における過去20

15

図6:2011年のグローバルエネルギーフロー

Page 16: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

注意:この一覧は完全ではありません。(1)には、LNG処理トレイン、精製所、エタノールスチームクラッカーが含まれています。(2)には、コンプレッサ、ポンプ施設、LNG再ガス化ターミナル、巨大タンカー、ガス処理プラントが含まれています。(3)は、30 MWを超える大規模発電のエンジンのみ。

出典:Platts UDI、IHS-CERA、Oil and Gas Journal、Clarkson Research、GE Aviation & Transportation、InMedica、industrial info、RISI、米国エネルギー省、GE Strategy and Analyticsの大規模回転システムの予測など、多数のソースから集約

部門

輸送

石油/ガス

発電プラント

回転機械

回転機械

回転機械

グローバル資産と

プラントの数

回転する「大きな」もの

鉄道:ディーゼル電気エンジン

製鋼所

CTスキャナ

製糖プラント

大型エネルギー処理プラント(1)

サーマルタービン:蒸気、CCGTなど

航空:商用エンジン

紙パルプ工場

エタノールプラント

中流システム(2)

その他のプラント:水力、風力、エンジンなど(3)

海運:ばら積み貨物船

セメントプラント

アンモニア/メタノールプラント

掘削装置:掘削船、ランドリグなど

車輪モーター、エンジン、ドライブ、オルタネータ

溶鉱炉・酸素転炉システム、蒸気タービン、ハンドリングシステム

回転X線管ローター、回転ガントリ

ケーンハンドリングシステム、回転真空ポンプ、遠心分離機、クリスタライザ、蒸発器

コンプレッサ、タービン、ポンプ、発電機、ファン、ブロワー、モーター

タービン、発電機

コンプレッサ、タービン、ターボファン

デバーカー、ラジアルチッパー、蒸気タービン、フォードリニアマシン、ローラー

グレインハンドリングシステム、コンベア、蒸発器、再沸器、ドライヤファン、モーター

エンジン、タービン、コンプレッサ、ターボエクスパンダ、ポンプ、ブロワー

タービン、発電機、レシプロ機関

蒸気タービン、往復機関、ポンプ、発電機

回転炉、コンベア、駆動モーター、ボールミル

蒸気タービン、改質/蒸留システム、コンプレッサー、ブロワー

エンジン、発電機、電気モーター、掘削装置、推進ドライブ

120,000

990

17,500

1,600

2,000

450

43,000

16,300

45,000

3,900

650

1,300

52,000

9,400

4,100

2,160,000

36,900

74,000

47,000

30,000

16,000

129,000

63,000

190,000

176,000

23,000

45,000

104,000

84,600

29,200

合計3,207,700

産業施設

医療機器

回転機械

回転機械

年間の進歩は、大体成功したように見えます。エ

ネルギーシステムの一部は最適化されましたが、

新たな努力が進められています。エネルギーの生

産と変換に関与する多数の機器、施設、フリート、

ネットワークのすべてに非効率なところがあり、そ

の非効率性は、インダストリアル・インターネット

の成長によって改善できます。

物的資産の展望:

回転するもの

インダストリアル・インターネットの拡張のチャン

スに関する3つ目の展望は、産業システムの様々

なパーツに関与する特定の物理資産に目を向け

ることで開けます。産業システムは、非常に多数

の機器と重要なシステムで構成されています。今

や、簡単な電気モーターから医療用の高度なコン

ピュータ断層撮影(CT)スキャナまで、何百万もの

機器が世界中に存在しています。これらの装置に

はすべて、ユニット自体の性能と他の機器やシス

テムに関連した性能を理解する上で貴重な情報

(温度、圧力、振動などの重要なインジケータ)が

関連付けられています。

特に興味深い領域は、重要な回転機械に関する

ものです。常に拡張し続ける世界の産業システム

に存在する機器、装置、フリート、ネットワークの

数を正確に知ることはおそらく不可能ですが、特

定のセグメントを調べて、産業システムの規模を

感じることはできます。

表2は、重要な産業カテゴリごとに主要な回転機

械を分かりやすく一覧しています。この一覧には、

現在、300万種類以上の主要な回転装置が含ま

れています。一覧の数字は、これらの機器とプラ

ントの主なシステムプロセスの簡単なレビューに

基づいた数字です。産業システム内での高度なカ

スタマイズは、比較を困難にしますが、監視と制

御の対象である回転装置と主要装置の典型的な

セットに基づいて、一般的な評価を下すことは可

能です。その結果、産業システムの各パーツに含

まれている「回転するもの」を評価することになり

ます。これらの評価はすべて、温度、圧力、振動な

どの重要なメトリクスに左右されます。これらの

メトリクスは、安全性の提供、生産性の向上、運

転コストの節約のために、すでに監視、モデル化、

リモート操作の対象となっているか、そのような

対象にすることができます。

16

表2. 回転するもの:回転機械の図解リスト

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出典:発電プラントのデータソースであるPlatts UDI Database(2012年6月)

注意:円のサイズは設備容量(MW)を表します。

商用ジェット機

回転パーツの数と商用ジェットエンジンのフリー

トにおける計装の潜在能力には顕著なものが

あります。Jet Information Servicesによれ

ば、2011年には世界中でおよそ21,500機の

商用ジェット機と43,000台のジェットエンジン

が使用されています。商用ジェット機は、通常、

双発ジェットエンジンで動きます。これらの航空

機は、毎日約 3回、年間で合計 2300万回飛び

立っています 13。各ジェットエンジンには、多数の

可動パーツがありますが、主要な回転装置は3

つです(ターボファン、コンプレッサ、タービン)。

これらの各コンポーネントは、個々に計装され、

監視されます。今日の商用フリートには、合計で

約129,000台の主要回転装置が作動していま

す。商用ジェットフリート以外では、商用ジェッ

トフリートの10倍以上のサイズをもつ軍用フ

リートと非商用一般航空フリートに計装されて

います 14。つまり、ジェット航空フリートの計装の

機会は非常に大きく、毎日増大しています。GE

Aviationでは、増大する空の旅のニーズを満た

すため。次の15年間に、さらに32,000台のエン

ジンがグローバルフリートに追加される可能性が

あると予測しています。これは、商用エンジンの

グローバルフリートにさらに100,000台の回転

機械が加わることに相当します。

コンバインド・サイクル発電プラント

インダストリアル・インターネットの計装の機会は、

発電プラントのグローバルフリートにおいても同

様に膨大です。今日、世界中で62,500の発電プ

ラントが30メガワット以上の容量で稼動してい

ます。発電プラントのグローバル容量の合計は、お

よそ5,200ギガワット(GW)です。これらのプラン

トは、図7に示されています。このフリートのほん

の一部に計装可能な回転パーツが大量に存在す

ることを考えてみてください。その一部とはコン

バインド・サイクル発電プラントで、これらは、グ

ローバルな発電プラントのほんの2.5パーセント(つ

まり1,768プラント)に相当します。これらのプラ

ントのグローバル設備容量は564 GWです。15

コンバインド・サイクル発電プラントは、ガスター

ビンと蒸気タービンの両方を直列で使用し、同じ

熱源(天然ガス)を機械エネルギーに変換し、次に

電気エネルギーに変換します。ガスタービンと蒸

気タービンを組み合わせることによって、コンバイ

ンド・サイクルシステムは、2つの熱力学サイクル

(ガスタービンのブレイトンサイクルと、蒸気タービ

ンのランキンサイクル)を使用して、効率を増大し、

運転コストを低減します。コンバインド・サイクル

を使用する発電プラントは、通常、多数のガスター

ビン /蒸気タービンの組み合わせを使用します。

もっとも一般的なコンバインド・サイクルの構成

は2台のガスタービンと1台の蒸気タービンを使

用します。この例では、主要な回転コンポーネント

は6つです(2台のガスタービン、2台のガスター

ビン発電機、1台の蒸気タービン、1台の蒸気ター

ビン発電機)。これらの大型の重要システム以外

では、給水ポンプからエアコンプレッサまで、プラ

ントにはさらに99個の回転コンポーネントがある

と推定されます。計装可能な2x1のコンバインド・

サイクル発電プラントには、全部で105個の回転

コンポーネントが存在しています。

グローバル複合サイクルフリートに対する影響に

ついて考えてみましょう。すべての1,768プラント

の各コンポーネントに計装を適用した場合は、約

10,600の主要なシステムパーツと175,000の小

型回転パーツを計装できることになります。次の

15年間に、グローバル産業システムには638 GW

の容量をもつ2,000のコンバインド・サイクルプ

ラントが追加される十分な可能性があります 16。

これによって、これらのプラントを完成させるため、

2,000ユニットの大型回転機械と200,000個以

上の小型回転機械が追加されます。他のタイプの

発電プラントを考慮した場合は、インダストリア

ル・インターネット技術は明らかに大幅に拡張し

ます。

17

図7. 技術別世界発電プラントフリート

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機関車

機関車は、大量の原料と商品を世界中に運びま

す。2011年には、9.6トンキロメートルを超える

貨物が110万キロメートルの世界の鉄道システ

ムを介して輸送されました。今日のシステムでは、

約120,000台のディーゼル電気駆動の鉄道エン

ジンが世界中で使用されています。ディーゼル電

気機関車には、約18個の主要な回転コンポーネ

ントがあり、それらは、6つの主要システムにグルー

プ分けできます(トラクションモーター、ラジエー

タファン、コンプレッサ、オルタネータ、エンジン、

ターボ)。鉄道フリートの各コンポーネントに計装

を適用した場合は、220万個を超える回転パーツ

を計装できることになります。次の15年間には、

控えめに予測しても約33,000台の新しいディー

ゼル電気機関車が使用されるようになり、監視の

機会が著しく増大します。ディーゼル電気機関車

だけでも、2025年までには396,000台のセンサ

が導入されることでしょう。

石油精製所

精製所と石油化学プラントは、長年に渡って高

度な監視と制御の対象です。従来の技術を使用

する古い施設は、最新の技術を使用する新しい

施設との競争を余儀なくされています。同時に、

石油ビジネスの盛衰のサイクルと環境規制の厳

格化から、引き続きプロセスの改善と調整をして

いく必要性が生じています。往復圧縮機や遠心

圧縮機などの回転機械は、何百ものポンプととも

に、精製所などのエネルギー処理プラントの重要

なコンポーネントです。今日、オペレータは、プラン

ト全体の最適化と共に予防保守と安全性確保

のため、これらの機器を監視し、モデル化してい

ます。これらのプラントを効率、安全性、高い生産

性の確保のために管理することは、今日のインダ

ストリアル・インターネットが遂行している機能の

1つです。

規模の感覚をつかめるように説明すると、世界に

は655の石油精製所があり、毎日8800万バレ

ルの原油を処理する能力があります。これは毎日

の世界における石油消費量とほぼ同じです 17。近

代的な各精製所では、様々な重要な精製プロセ

ス(原油蒸留と真空蒸留、コークス化、水素添加

分解、水素処理、異性化)に約45の大型回転シ

ステムが含まれています。ある精製所は小規模で

あり、別の精製所は複雑ですが、世界の各精製所

は、基本的に、処理する原油と取引する顧客に応

じてカスタマイズされた産業プラントです。大半

の精製所の主要な機器セットには、遠心分離式

電荷ポンプ、湿式および乾式コンプレッサセット、

出力タービン、空気冷却器が含まれています。主

要システムについて考慮しただけでも、約30,000

台の大型機器が精製所で回転しています。これ

に加えて、何百ものポンプと小型機器がシステム

監視の対象となっています。次の15年間に、新興

市場のニーズの増大に応えるため、世界で100を

超える精製所と既存精製所の大拡張を必要とす

る可能性があります 18。これは、石油精製所だけ

でも4,500超ある大型回転システムのプロセス

の管理と自動化に対するニーズが漸増すること

を示しています。

ヘルスケア

あまり認識されていませんが、ヘルスケアの提供

にも回転機械が関与しています。その一例は、CT

スキャナです。この機器は、体の内部構造を可視

化するために使用されます。CTスキャナは、回転

するX線装置を使用して、体の3D断面像を作成

します。世界中で、約52,000台のCTスキャナが

使用されています。それらのスキャナは、次のよう

な広範な適用先の診断と治療の評価に使用さ

れます:心臓、血管造影、脳、胸、腹部、整形外科

上記の例は、監視、モデル化、リモート制御、自動

化の対象にできる何百万もの機器と重要なシス

テムのほんの一部にすぎません。より堅牢なグロー

バルネットワークの台頭は、効率的な資産の導入、

サービスと安全性の改善、資源フローの最適化を

可能にする能力を向上させます。技術の統合か

ら利益を得るには、古い機器の補強や改修と共

に新しい機器の採用が必要となります。これによ

り、プロセスの最適化、全要素生産性の増大、コ

スト構造の減少に新しい可能性が生まれます。

これらのシステムは、各種の産業における競合の

バランスを変え、多数の企業が生き残るために迅

速に採用せざるを得ないと予測されます。以降の

セクションでは、インダストリアル・インターネット

の導入で可能となるメリットとチャレンジを検討

していきます。

18

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インダストリアル・インターネットには、機器、施

設、フリート、産業ネットワークにまたがるメリット

を生む可能性があり、これらのメリットがさらに

広範な経済への影響を及ぼすでしょう。前のセク

ションで説明したように、グローバルにおける産業

システムは巨大です。このセクションでは、実現可

能な産業固有のメリットを詳細にレビューし、部

門レベルの比較的小さな効率改善でも、経済シ

ステム全体にスケールアップすれば、かなり大き

なメリットになり得ると結論をくだします。さらに、

生産性のトレンドが過去数十年間の経済成長に

与えてきた影響を検討し、インダストリアル・イン

ターネットの広範な普及が次の20年間の世界経

済にもたらす影響を予測します。

インダストリアル・インターネットは、産業経済に

さまざまなメリットを導入します。インテリジェン

ト計装は、個々の機器の最適化を可能にし、この

最適化によって、パフォーマンスが改善され、コス

トが低減し、信頼性が向上します。最適化された

機器は、ピークパフォーマンスで作動し、運転コス

トと保守コストの最小化を可能にします。インテ

リジェントネットワークは、相互接続した機器全

体にわたる最適化を可能にします。

一部の企業は早期導入によって、メリットを具現

化し、データストリームの取り込みと操作に関す

る難関を乗り越えてきました。従来、これらの努

力の多くは、細かく区分化されたパフォーマンス

範囲を持つ産業資産のデジタル制御システムに

集中してきました。関連の資産ベースのサイズを

考えると、データ検出とデータ処理のコストが低

下するにしたがって、インテリジェントデバイスに

よる製品レベルのシステムとサブシステムの統合

が拡大することが見込まれます。

一方、早期導入に踏み切れなかった企業では、組

織の効率を上げるため、企業管理のソフトウェア

とソリューションが広範に使用されてきました。こ

れらの努力によって、幅広い地理的領域と製品ラ

イン全体にわたる労務、サプライチェーン、品質、

コンプライアンス、売上、流通の追跡と調整の改

善などのメリットが生じています。しかし、これら

の努力だけでは足りない場合があります。製品レ

ベルの資産運用は受動的に追跡できても、資産

のパフォーマンスには限定的な影響しか与えられ

ないからです。システムの最適化によって資産と

企業のパフォーマンスを最大化するには、インダ

ストリアル・インターネットが必要不可欠なのです。

システム規模の最適化を行なうと、個々の機器

の最適化で達成可能なレベルを超えて業務の効

率を改善し、コストを削減できます。インテリジェ

ント意思決定では、スマートソフトウェアによっ

て機器とシステムのレベルでメリットを確保でき

るようになります。さらに、継続学習のメリットに

よって新しい製品とサービスの設計を改善できる

ので、製品とサービスがますます改善され、その結

果、コストが低減するという好循環が生まれます。

産業部門のメリット:

1パーセントの力

産業資産と産業施設は、通常、各部門のニーズに

合わせて高度にカスタマイズされます。そしてメ

リットが変わると、インダストリアル・インターネッ

トの異なる側面が強調されます。ただし、リスク

の低減、燃料の効率性、労働生産性の向上、コス

トの削減というテーマは共通しています。ここで

は、インダストリアル・インターネットのメリットを

詳細に説明するため、各部門に特有の例をいく

つか検討します。これらの例では、たとえ1パーセ

ントの小さな改善でも部門全体に波及させると、

莫大なシステム規模の節約ができることを強調

します。

商業航空

航空産業は、他の商業輸送システムと同様に、イ

ンダストリアル・インターネットの導入でメリット

を増大できる理想的なポジションにあります。イ

ンダストリアル・インターネットには、航空業務の

各段階の安全性を改善しながら、業務と資産の

最適化に集中することで、航空産業を変革でき

る可能性があります。

インダストリアル・インターネットは、航空業務と

資産管理の両方を改善できます。業務の変革は、

燃料の消費量を減らし、乗務員の能率を上げ、遅

延とキャンセルを減らし、保守計画と部品在庫量

を効率的に調整し、フライトスケジュールを最適

化することで達成できます。

航空資産の最適化は、エンジン寿命を延ばし、予

期しない中断を低減する予防保守の改善によっ

て達成できます。

航空業界に対するインダストリアル・インターネッ

トの影響については、航空機の保守と在庫管理

の領域から1つのビジョンが得られます。インテ

V. インダストリアル・ インターネットのメリット

19

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巡航

下降

準備完了

地上走行

到着

機体とエンジンのOEM

OEMの部品倉庫

航空会社の倉庫

機体の保守

航空業務、ITデータセンター...仮想コラボレーション

サービス品質 資産と施設の最適化 フリートとネットワークの最適化 資産のパフォーマンス

リジェントな航空機は、交換が必要になりそうな

部品とその時期を保守要員に知らせます。これに

よって、航空会社のオペレータは、サイクル数に基

づく現在の保守スケジュールから、実際のニーズ

に基づく保守スケジュールに切り替えることがで

きます。センサ、データ分析、人と機器によるデー

タ共有を組み合わせることで、コストの削減と保

守効率の向上を期待できます。これらのシステム

は、仮想の早期保全チームのように機能し、航空

機とそのサブシステムの状態を判定して、リアル

タイムで実用的な情報を提供することで、航空機

のオペレーションを支援し、故障が起こる前に故

障を予測し、素早く正確な機体状態の「全体計

画」を提供します。

インテリジェントに監視された機器から交換の必

要性が指示されるようになると、従来の部品交換

サイクルから抜け出すことができます。規則では、

航空会社は一定回数のフライトサイクルが経過

した場合に部品を修理または交換しなければな

りません。しかし、この部品サイクルに従うのでな

く、適切なときに部品を交換すれば、効率の改善

益は相当改善が期待できます。安全対策が万全

なら、部品の在庫を減らし、航空機の使用率を上

げ、コストを削減することができます。オペレータ

は、容易にアクセスでき、正確で簡潔な方法によっ

て、問題を検出、その発生箇所を正確に確認する

ことができます。

過去数十年にわたり、世界の航空産業は、世界経

済の2、3倍の速度で成長し、世界貿易とほぼ同

じペースで拡大してきました 19。今日、世界の航空

会社の収益は、年間約5,600億ドルに達してい

ます。ただし、利潤性と投下資本利益については、

この業界における大きな難問として残っていま

す 20。これらの難問は、燃料コストの問題に集中

しています。燃料コストは、業界コストの30パー

セント近くを占め、機体使用率を上げることで改

善される可能性があります。米国で連邦航空局

(FAA)が実施した研究によれば、非効率なフライ

トによって、8年間に平均8~ 22パーセントもコ

ストが上昇しました 21。これは、生産性を上げるこ

とができれば、大幅にコストを節減できることを

示唆しています。

世界の航空業界は、ジェット燃料に年間約1,700

億ドル支出しています。業界内の見積もりでは、

フライト計画と業務変更の改善によって、5パー

セントほど削減すると、年間80億ドル以上の改

善益が出ます。インダストリアル・インターネット

によるたった1パーセントのコスト削減でも、年間

では約20億ドル、15年間では約300億ドルの燃

料コストの節約になります。

もう1つ見込まれるメリットは、資本コストの回

避から生まれます。2002年~ 2009年の航空産

業の支出は約1兆ドルであり、年間にすると1,350

億ドルに相当します22。インダストリアル・インター

ネットによる既存資産利用率の改善によって、資

本支出を1パーセント削減した場合は、年間合計

13億ドルの節約となり、15年間では約290億ド

ルも節約できます。運用面から見た双発ワイドボ

ディー商用機の飛行時間当たりの平均保守コス

トは、約1,200ドルです 23。2011年の商用ジェッ

ト機の滞空時間は5,000万時間でした。これを

年間保守コストに換算すると600億ドルに相当

します。そして、エンジンの保守だけで、合計の43

パーセント(つまり250億ドル)を占めています。

つまり、商用ジェットエンジンの保守コストは、イ

ンダストリアル・インターネットでエンジン保守効

率を1パーセント改善するごとに、2億5000万ド

ルも節約できることになります。

20

図8. 航空インダストリアル・インターネット

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鉄道輸送

世界の陸上輸送システムの主要ネットワークは、

トラックと鉄道システムです。グローバル輸送シ

ステムにおけるインダストリアル・インターネット

の応用範囲は非常に広範です。機器レベルでは、

トラックと機関車への計装によって、速度、信頼

性、容量の問題解決に役立つ洞察に満ちた分析

の土台となります。リアルタイムの診断と予測分

析によって、保守コストが低減し、機器の故障が

発生前に予防されます。フリートレベルでは、フ

リートへの計装によってフリートスケジュールの無

駄をなくすことができます。さらに、最適化の目的

にも柔軟性があります。コストの最小化、速度、サ

プライ /流通チェーンの的確なタイミングを目的

としてフリートを最適化できます。

鉄道システムの事例として、輸送を計画するソフ

トウェアがあります。これらのツールは、1つの高

度な表示によってネットワークオペレーションの概

要をリアルタイムで提供できます。このソフトウェ

アを使用する鉄道オペレータは、GPS、軌道回路、

自動装置識別リーダー、時間ベースの追跡を使用

して、信号の届く領域と届かない領域の両方で

列車を監視できます。オペレータは、組み込まれ

た交通管理アプリケーションによって、列車のス

ケジュールを効果的に管理し、不測の事態に素早

く対処できます。これらのソフトウェアソリューショ

ンは、将来のインダストリアル・インターネット対

応型のグローバル鉄道システムの基礎を構築し

ます。このデジタルアーキテクチャは、鉄道業務改

善の潜在的メリットを具現化する上で重要なコ

ンポーネントです。

世界全体で、輸送と物流の合計コストは年間4.9

兆ドル、つまり世界のGDPの約7パーセントと

考えられています 24。鉄道輸送の投資、営業、保

守のコストは、この合計の5パーセント(つまり年

間2,450億ドル)を占めています。鉄道の営業コ

ストは、鉄道輸送コストの合計の75パーセント

(つまり、年間1,840億ドル)に相当します。GE

Transportationの見積りでは、鉄道の営業コス

トの2.5パーセントが非効率なシステムによるも

のです。これは、年間56億ドルの節約が可能なこ

とを示しています。1パーセントの節約でも、削減

できる金額は、年間18億ドル、15年間で約270

億ドルとなります。大型トラック、輸送フリート、

船舶でも同様な効率が可能であると考えられる

ので、はるかに大規模な輸送システムでもメリッ

トを具現化できる可能性があります。

発電

エネルギー生産は、インダストリアル・インターネッ

トのメリットを期待できるもう1つの重要部門で

す。世界の電力システムには、約5,200GWの発

電容量があります。1GWの容量で、米国における

約750,000世帯の家庭に電力を供給できます。

そして、何百万マイルもの高圧送電線、変電所、変

圧器、さらに多くの配電線が存在します。輸送部

門に適用される機器の予防保守やフリートの最

適化などのコンセプトは、その多くが、信頼性、安

全性の強化、生産性の増大、燃料効率といった幅

広い目的と共に、発電部門にも適用できます。

停電はコストがかかるだけでなく、混乱や危険を

引き起こします。停電が復旧しないことがたびた

び起こり、時には停電状態が数週間も続きます。

これは、破損した電線の場所がすぐに分からな

かったり、大規模なシステムの修理が必要なのに

部品が遠方にあったりするからです。インダスト

リアル・インターネットを使用すれば、最も大きな

発電機から電柱の変圧器まで、すべてをインター

ネットに接続して、ステータスを更新し、パフォー

マンスのデータを取得することができます。それら

のデータから、オペレータは、何百万または何十億

ドルの価値のある企業と顧客の時間が失われる

前に、発生しそうな問題に対し先手を打つことが

できます。さらに、現場担当者は、修理を計画する

前にコストのかかる問題を「見に行く」方法を選

ばず、問題を予測して修理部品を準備できるよう

になります。これには、木やその枝を処理する費

用を最小化することで電力会社をサポートする

ことも含まれています。送電資産、発電所、天候に

関する情報を組み合わせることにより、発電所で

停電が起きる確率と停電による影響を判定する

ことができます。オペレータは、この判定に基づい

て、伐採業務の優先付けを改善し、コストを最小

化することができます。

以下の例では、インターネットの台頭で、発電プラ

ントの業務がどのように変化するかを明らかにし

ます。新しいデータ圧縮技術によって、プラントマ

ネージャは、絶えずあらゆるデータを追跡するので

なく、大量のデータストリームにおける変化を追

跡するようになりつつあります。これは、オペレー

21

Page 22: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

タにとっては、2つのデータセットの関係を監視す

ることにすぎない場合があります。以前は、オペ

レータが、暑い天候、高い負荷、高い湿度、ユニッ

トの低いパフォーマンスの相互関係を見落とす

可能性がありました。ところが今は、大きなデータ

セットの相互関係における変化の比較と可視化

が非常に容易になっています。これは、企業の持

続的な学習を可能にします。将来は、技術者が不

規則な現象について質問をするだけで、履歴によ

る類推が時間の経過とともに稼働中の何千もの

ユニットに蓄積されていき、答えが数秒で出るよ

うになります。応答速度が上がれば、効率が上が

り、コストが下がると期待されます。

これらの技術と慣行が世界中に広がっていくな

かで、インターネットの影響を拡大する方法を考

えることは興味深いことです。次に示す例は、燃

料コストに関連しています。GEの世界的規模の

見積では、約1.1 Btoeの天然ガスがガス火力発

電プラントで消費されて電気を生産します 25。天

然ガスの価格は、世界中で劇的に異なります。

一部の国では、天然ガスの価格が石油の価格に

連動しています。米国などでは、天然ガスの価格

は、需要と供給の原理に基づいて自由市場で決

定されています。GEの世界的規模の試算によれ

ば、発電部門は、去年、燃料ガスに2,500億ドル

超を支払いましたが、その支払金額は2015年

までには約3,000億ドルに達し、2020年までに

は4,400億ドルを超える可能性があります 26。

効率改善益は、天然ガスと電力グリッドの統合

の改善にインダストリアル・インターネット技術

を関連させることで具現化できそうです。国レベ

ルの平均的なガス発電効率を1パーセント改善

するという控えめな想定においても、燃料費は、

2015年に30億ドル超、2020年に44億ドル超

それぞれ減少します。したがって15年間の累積

では、燃料の節約額は660億ドルを超える可能

性があります。

石油・ガスの開発と供給

石油・ガス産業には、インダストリアル・インター

ネットの導入による生産性の改善益と産業プロ

セスの最適化について豊富な情報を示すいくつ

かの例があります。石油・ガス業界の上流側は、

従来の埋蔵量が枯渇するにしたがって、新しい大

規模な石油・ガス供給のフロンティアを拡大する

ことをますます余儀なくされています。多数の業

界オブザーバーは、膨大な資源が未開発のまま

残っているが、それらの資源を市場に出すには、

さらに多くの資本と技術が必要であるというこ

とに気付いています。石油・ガス資源の開発が容

易だった時代は終わろうとしており新たに資源を

追い求める活動はより活発になっています。企業

は、透明性がますます強化されつつある環境で営

業しています。これは、一部は情報技術によるた

めですが、ビジネスのリスクと資本の集約性によっ

て、業界 /規制当局 /社会のコラボレーションがま

すます必要とされているからです。この現実が石

油・ガス業界を、多くの重要な目標の達成に向わ

せています。

• 運用の効果と生産性の増大

• プロジェクトの開発、運用、保守におけるライフ

サイクルコストの低減

• 安全性、環境、規制遵守の持続的な改善

• 老朽化しつつある施設の改装とシフトする労

働人口動態に合わせた調整

• ローカルな能力の開発と遠隔化する物流のサ

ポート

業務が非常に複雑化しつつあるなかで、インダス

トリアル・インターネットによるコスト節減と効率

改善の可能性は、依然として高いままです。イン

ダストリアル・インターネットが主要な機器セッ

トの可用性の上昇、燃料消費の低下、生産速度

の向上によって、コストを低減できる方法を明確

に示す例が出現し始めています。従来、石油・ガ

ス産業では、新しい技術の導入が遅れがちでし

た。巨額な資本が必要なことを考えると、企業は、

新技術を導入する前に、技術の強力な信用と立

証を得ることを選びます。従来、新技術の採用は

ゆっくり行なわれてきましたが、業界が直面する

主要な難問へのダイレクトな対応として、技術の

採択に3つの段階が出現しました。技術統合の

各段階は業界に著しいメリットをもたらし、それ

らの努力は必要な資源ベースの拡大に直結して

います。

石油・ガス産業は、過去10年間に、上流のバリュー

チェーンに沿って選択した技術の採用に向って

動いてきました。以下に例を示します。

• ダウンホールセンサで油田内の状態を追跡し、

インテリジェント・コンプリーションで製品フロー

新しいデータ圧縮技術に

よって、プラントオペレータは、

絶えずあらゆるデータを

追跡するのでなく、

大量のデータストリームに

おける変化を追跡するように

なりつつあります。

22

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を最適化、油田シミュレーションで生産性を向

上する

• 無線通信システムで、ローカル施設内の地下と

地上の情報ネットワークを集中型企業サイトに

リンクする

• リアルタイムデータ監視で安全性と最適化を

確保する

• 予測分析で貯留層の動きの理解と予測を改善

する

• 経時的監視(4D地震探査など)で、長期にわた

る生産活動の結果としての流体の移動と貯留

層の変化を理解する

これらの努力は、多くの事例でコストを低減、生

産性を向上させ、資源の可能性を拡張してきま

した。

石油資源の可能性という考えが、インダストリア

ル・インターネットの価値に関する展望を示しま

す。世界の石油資源は膨大ですが、その回収率

は比較的低いものです。世界においては、平均回

収率はたった35パーセントにすぎません。つまり、

現在の技術では、地中の100バレルから35バレ

ルしか地表に汲み出せないということです 27。10

年以上にわたって、”デジタル油田”は人気のあ

るアイデアです 28。初期の見積りでは、デジタル

技術を積極的に導入した場合、10年間で1,250

億バレルの石油埋蔵量が追加されると指摘して

います 29。それ以来、石油・ガス業界はこの構想

を広範に詳しく調査し、信頼性と接続性に対す

る懸念を克服することから、現在のデータ管理

と業務センター運営の成功へと徐々にシフトし

て、投資した各技術から最大の価値を引き出し

てきました。今日、世界の石油生産量は、一日当

たり約8,400万バレルで、年間310億バレル(4.0

Btoe)に達しています 30。現在の確定石油量は、

約16,000億バレルと見積もられています。改善

益の可能性は、特に、開発が遅れている石油地

帯では依然として高いままです。インダストリア

ル・インターネット技術の採用のもう1つの波に

よって確定量を1パーセント上げることができる

と想定すると、160億バレル、つまり、世界の年

間石油所要量の半分をまかなうことができます。

上記は分かりやすくした例ですが、実際には、こ

れらの新しい埋蔵量はもっと長時間をかけて具

現化されます。ただし、回収量の小さな改善から

生じる可能なボリュームは相当大きくなるという

点は変りません。

メリットに関する考察には、資本支出の効率と

いう観点もあります。石油とガスの上流支出は、

2012年には6,000億ドルと見積もられました31。GEの見積りでは、支出率は、世界に必要な石

油とガスを供給するため、おそらく年間8パーセ

ント増大していく可能性があります 32。すでに導

入された機能に加えて、インダストリアル・イン

ターネット技術による資本支出の削減が1パー

セントにすぎなくても、年間60億ドルを超える

節約、15年間では900億ドルの節約が具現化

されます。

23

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米国

スイス

カナダ

ドイツ

フランス

スウェーデン

英国

オーストリア

日本

$7,960

$5,144

$4,363

$4,218

$3,978

$3,722

$3,487

$3,445

$2,878

$2,0000 $4,000 $6,000 $8,000

一人当たりのGDP(米ドル)

個人負担分公共支出 民間支出

*生活費に沿って補正した資金源別一人当たりの保健医療費出典:OECD Health Data 2011 (2011年6月)

ヘルスケア

ヘルスケアのデジタル化には、世界中の人々によりよい生活の質を提供する

ことで、生活を変革できるというユニークな可能性があります。世界のヘルス

ケア産業は、コストの削減とパフォーマンスの改善への強い責務のため、イン

ダストリアル・インターネットの採用に適しているもう1つの主要部門です。

ヘルスケアは、今日のほぼすべての国にとって優先度の高い問題です。ほとん

どの先進経済国は、急速に高齢化する社会に直面しており、効率を改善し、

コストを抑える必要があります。一方、多くの新興市場では、急成長する都心

とその外側に広がる農村にヘルスケアサービスを提供する必要があります。

グローバルヘルスケア業界は巨大であり、2011年には世界のGDPの10パー

セントを占めていました。したがって、その効率改善の範囲も広大です。それ

らのヘルスケア支出の10パーセント超がシステムの非効率性によって浪費

されると考えられています。つまり、ヘルスケアの非効率性によるグローバル

コストは、少なくとも年間7,310億ドルに達しています 33。インダストリアル・

インターネットが直接的に影響を及ぼすことのできる臨床と運営上の非効率

性は、ヘルスケアの非効率性の59パーセントを占め、そのコストは年間4,290

億ドルに相当します。インダストリアル・インターネットの導入により、これら

のコストは約25パーセント下がる、つまり、年間約1,000億ドルの節約がで

きると見積もられています 34。その場合、1パーセントのコスト削減により、年

間42億ドル、15年間で630億ドルを節約できます。

世界のヘルスケア産業にインダストリアル・インターネットを応用すると、世

界的範囲でコストを節減できます。ヘルスケアにおけるインダストリアル・イン

ターネットの役割は、安全で効率的な業務を可能にすることで、何億時間も

の失われた利用と生産性、その結果としての患者一人当たりの作業・生産性

を取り戻すことです。インダストリアル・インターネットによって可能になる高

度なMRIスキャンと診断から生じる個人的メリットを考えてみましょう。今日、

画像診断装置で生成されるデータは、多発性硬化症、脳腫瘍、靱帯損傷、脳卒

中などの診断には有効ですが、その可能性の割には、こうしたデータを最も

必要とする人々、つまり医師と患者を結びつけることができていません。業務

レベルでは、多数の人々がチームとして働いて、スキャンの実施を可能にして

います。看護師は、医薬品や検査で必要となるかもしれない造影剤を投与し、

MRI技術者は、スキャナを操作し、放射線科医は、使用される映像シーケンス

を特定して映像を解釈します。次に、この情報は看護師に提供され、さらに

主治医に渡されて、適宜レビューと処置が行なわれます。これは「ビッグデータ」

ですが、情報をインテリジェントにするものではありません。

情報をインテリジェントにするには、移動する時と場所、そして移動方法をビッ

グデータが「分かる」ように、新しい関連性を開発する必要があります。映像

データの関連付けが改善されると、適切な医師が患者の映像を自動的に受

け取ることができます。つまり、医師が情報を見つける代わりに、情報が医師

を見つけてくれます。さらに、適切な医師が映像を見たら、さらなる関連付け

によって、これらの映像自体が患者のデジタル医療記録にファイルされる必

要があると「分かる」ようにできます。この種の自発的で安全確実なデジタル

医療データの経路指定は、ワークフロー内の単純な改良であるように見える

かもしれません。しかし実際には、インダストリアル・インターネットによる有

用な手段の1つで生産性と治療結果の改善を可能にするのです。

システムレベルでインダストリアル・インターネットを応用すると、病院用の「ケ

アトラフィック管理システム」を開発できる可能性があります。病院は、何千

もの重要な機器を含み、それらの機器の多くは可動式のものです。重要なの

は、それらすべてがどこにあるかを知ることと、医師、看護師、技術者に利用状

況の変化を知らせ、機器の利用および患者と治療の成果を改善するメトリッ

クスを提供できるシステムをもつことです。今日、これらのタイプのシステムが

導入され始めており、ヘルスケアにおけるインダストリアル・インターネットの

台頭を示しています。GE Healthcareの試算によれば、これらのイノベーショ

ンは、病院の機器のコストを15~ 30パーセント削減し、ヘルスケア従事者

がシフトごとに1時間分の生産性を取得することを可能にします。これらの

アプローチでは、資産稼働率、ワークフロー、病室管理機能も向上します。その

結果、患者あたりの生産性が15~ 20パーセント増加します。明らかに、イン

ダストリアル・インターネットがさまざまな部門にわたって機能する方法は複

雑で多様です。また、運用効率、支出の減少、生産性の増大という点での顕著

なメリットは膨大です。わずか1パーセントという控えめな改善でも、産業シ

ステム規模の莫大な節約という大きな構図が見え始めます。目に見えるメ

リットとしては、単なるコスト削減や効果的な資本支出だけでなく、生産性も

向上します。

24

図9. 一人当たりの保健医療費*

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経済規模の改善益:

次の生産性ブーム

生産性は、経済成長の究極のエンジンであり、よ

り高い収入とより良い生活水準を実現する重要

な要因です。労働生産性の伸びが加速すると、労

働による生産の増大と賃金の上昇が起こります。

そして、強い制約が蔓延している時代では、生産

性の重要性はさらに増大します。生産性が上が

れば上がるほど、投資を少しでも無駄にしたくな

い会社と政府にとってメリットが増大します。そ

して、生産性を上げれば、天然資源の単位当たり

の利用レベルが高まり、巨大な新興市場の人々

が、より良い生活水準とより高い消費レベルを目

指している状況において、サステナビリティ(持続

可能性)を向上させることに役立ちます。

したがって、インダストリアル・インターネットは、

新しい生産性の「波」を発生させるための触媒と

なり、経済成長と収入という点で強力かつ有益

な結果を生むことができます。では、そのメリット

はどのくらいでしょうか? インターネット革命の

最初の波は、1995年~ 2004年に米国の労働生

産性の伸びを平均年率3.1パーセントまで上昇

させました。これは、直前の4分の1世紀のペース

の2倍に当たります。その生産性の伸びを維持で

きるなら、2013年までには、平均収入の改善益

は今日の米国の一人当たりGDPの約40パーセ

ントに相当する20,000ドルに達します。生産性

の伸びを控え目に想定して、産業革命に由来す

る1950年~ 1968年のペースより低い2.6パー

セントの上昇とした場合でも、今日の一人当たり

GDPの4分の1に相当する平均収入改善益が生

じます。

米国などの早期採択国が技術的なフロンティア

を拡大するにしたがって、その他の国々では、生産

性向上のニーズが加速し、その結果、収入が増大

します。インダストリアル・インターネットのメリッ

トは、高度な製造の分野でただちに明らかになり

ます。米国では、これが重要な要因となって雇用

を危機以前のレベルに推し戻す可能性がありま

す。新興市場ではインフラ投資が増大し続けるこ

とでしょう。そして、それらの市場で新技術の早

期採択が行われると、世界経済に対するインダ

ストリアル・インターネットの影響が大幅に加速

され、増幅される可能性があります。1995年~

2004年には、世界中で情報技術への投資が急

増し、世界のGDPの伸びが1ポイント近く上昇

しました。現在は新興市場が世界経済のほぼ半

分を占めているので、それらの市場の影響はさら

に大きくなる可能性があります。

生産性の伸びが遅いか速いかによって、米国と

他の国々に大きな違いがもたらされます。それに

もかかわらず、生産性の向上は、比較的最近の現

象です。人間の歴史の多くで、特に1750年頃ま

では、ほとんど生産性の伸びはなく、経済成長は

ごくわずかでした。そしてついに、前半で説明し

たように産業革命がやって来ました。経済成長が

始まったのです。産業革命の影響は長く続きまし

た。イノベーションの第2の波は1900年代に停

止しましたが、イノベーションによる発見は引き

続き新製品に取り入れられ、その後何十年も新

しいやり方で利用されました。米国の生産性の伸

びは、産業革命が始まる前はほぼゼロでしたが、

1950年代から1960年代にかけては年率約3パー

セントで継続しました。

25

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1960 1970 1980 1990 2000

3.5%

4.0%

3.0%

2.5%

1.0%

2.0%

.5%

1.5%

0%

年率 - 5年間の移動平均

出典:米国労働省労働統計局、「生産性とコスト」データベース、年データ、2012年(http://www.bls.gov/lpc/)

偉大なる失速

ただし、1960年代後半から始まった生産性の伸

びは急激に失速し、1980年代中頃には、ほぼゼ

ロまで落ち込みました。その後、幾分持ち直しま

したが、前の数十年の成長率をはるかに下回る

約1.5~2パーセントに低迷しました。比較すると、

1950年~ 1968年の米国の生産性向上は平均

2.9パーセントでしたが、1969年~ 1995年の平

均は1.6パーセントに過ぎません。生産性の伸び

はなぜそれほどひどく減少したのでしょうか?お

そらく、サプライショック、特に1970年代のオイ

ルショックがその一例ですが、それだけでは、四分

の一世紀も続き、サービス部門の生産性向上を

ほとんど止めてしまった生産性の落ち込みを説

明できません。産業革命からのイノベーション採

択の波が成熟した段階に達し、限界収益に達し

たという説明の方が納得できます。

インターネット革命

生産性は急激に減速しましたが、イノベーション

は停止しませんでした。それどころか、コンピュー

タが登場し、続いてインターネットも登場して来

ました。しかし、その経済的な影響は目に見えな

かったので、ロバート・ソローの有名な警句「コン

ピュータ時代の到来はいたるところで見られるが、

生産性の統計で見ることはできない」に要約され

る懐疑論を醸成しました。ソローがこの警句を発

したのは1987年でしたが、10年近く後になって

も、彼の警句は適切に聞こえました。

そして、突然、それは起こりました。1990年代中

頃に米国の労働生産性が急激に加速し、1960

年代中頃の記録的レベルまで急に戻ったのです。

この加速は、次の10年間1996年~ 2004年の

初期まで持ち越され、生産性の伸びは平均3.1

パーセントにも達しました。これは、先行半世紀の

長期スランプにおける成長率のほぼ2倍です。

それはどのように発生したのでしょうか ? 1990

年代中頃の生産性の復活に捧げられたアカデ

ミックな文献が大量に存在しますが、生産性向

上の加速を引き起こした原動力は、インター

ネット革命とそれを可能にしたコンピューティン

グ技術の台頭による広範な情報 /通信技術の

統合であったという点は多くの文献で共通して

いました。

この文脈で論じる価値のあるポイントを以下に

示します。

• まず、生産性の加速は、経済的拡張の比較的遅

い時期に発生しました。生産性の伸びには、顕

著なサイクル状の変動があり、経済回復の開

始時に好転する傾向がありますが、1990年代

中頃の急成長はこの傾向に反しています。つま

り、より構造的な要因が存在することを示唆し

ています。

• この革命は、イノベーションの素晴らしい発展

によって活気づき(ムーアの法則35)、その結果、

情報と通信の機器の価格が急速に低下しま

した。

• 次に、機器の採用がますます広範になるにした

がって、インターネット革命が残りの経済に波

及しました。経験的証拠は、サービス集約型の

産業が他の産業に比べて迅速な生産性の改

善益を経験したことを示しています。これによっ

ても、インターネット革命が生産性向上の原動

力であったことが示されています。36

• 価格の下降が企業による資本ストックの急速

な改善に拍車をかけるなかで、ハードウェアと

ソフトウェアのイノベーションの活用では投資

26

図10. 米国の労働生産性の向上 - 1952年~2004年

Page 27: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

1950-1968 1969-1995 1996-2004 2005-2011

平均労働生産性(%)

3.1%

2.9%

1.6%

3.5%

3.0%

2.5%

2.0%

1.5%

1.0%

0.5%

0%

生産性の回復

生産性の減速

出典:米国労働省労働統計局、「生産性とコスト」データベース、年データ、2012年(http://www.bls.gov/lpc/)

が重要な役割を果たしました。

• サービス部門も、生産性の大きな加速を経験

し、経済に関するもう1つの誤解である「ボー

モルの病」が間違いであることを証明しまし

た。有名な経済学者ウィリアム・ボーモルは、

1960年代に次のように論じました:(i)生産

性の改善益は、主に資本設備に埋め込まれた

イノベーションから引き出される、(ii)サービス

産業は、製造業に比べ、労働集約型であって

資本集約型ではない、したがって、(iii)サービ

ス産業は、生産性の伸びの低さに対して一定

の制約がある。

しかし実際には、サービス産業は、ICTを最も徹

底的に採用して、最も素晴らしい生産性の改善

益を記録した業界の1つとなりました。卸売・小

売部門がその典型であり、ICTによってサプライ

チェーンと物流ネットワークの統合を変革しま

した。37

懐疑論の復活

2005年から、生産性の伸びは再び減速し始めま

した。予想どおり、これによって別の否定的な懐

疑論の波が発生しました。わたしたちのコミュニ

ケーションの方法は、スマートフォンとタブレット、

そしてソーシャルメディアの勃興によってさらに変

貌をとげ、それらは、迅速に商業的応用に反映さ

れてきました。

しかし、生産性の伸びが低下するにしたがって、

これらのイノベーションを単なる娯楽で馬鹿らし

いゲームであるとして退ける傾向が出てきました。

ファイナンシャル・タイムズ誌の経済担当エディ

タであるマーチン・ウルフは、この傾向を次のよ

うに最も端的に表現しています:「今日の情報時

代は、ほとんど意味のない雑音と騒ぎに満ちて

いる」38

世界的な金融危機と続いて起こった大不況も、

社会ムードに影響し、事態を混乱させています。

最近のICTイノベーションの波に対する批判には、

市場経済に対する批判が反映されています。「こ

れらすべてのイノベーションは、どんなに表面上素

晴らしくても生活水準には影響しない」という口

癖のような文言は、経済と金融のレポートの見出

しにあまりにもしばしば現れる暗い見通しとよく

かみ合っています。さらに、2008年から2009年

の深刻な不況と弱い経済が雇用レベルの劇的低

下と相まって、過去数年間の生産性向上率の変

動(労働生産性の伸びは2009年から2010年に

急激に加速し、2011年に暴落)から意味のある

結論を導くことを不可能にしています。

ロバート・ソローの時期尚早の失望には慎重を期

すべきですが、1996年から2004年の生産性の

復活が単なる一時的な急上昇であったと一概に

結論付けることはできません。

生産性と経済成長に関して精力的に論文を発表

してきたノースウェスタン大学のロバート・ゴード

ン教授は、最近の論文で、インターネット革命の

イノベーションは産業革命のイノベーションに匹

敵するほど変革的でないと論じています。明らか

に挑発的な議論で、教授は、産業革命によっても

たらされた主要な変化の一部は一回限りのもの

であると断定しています(たとえば、空の旅のス

ピードは1950年代より速くならず、米国の都市

化は限界に達したなど)。

インダストリアル・インターネット:

次の波がやって来た

産業革命は150年間にわたって展開し、その最

も強力なイノベーションの一部は最後になって具

現化しました。したがって、インターネット革命を

1950年代に始めたとしても、長続きする経済的

影響がないと結論づけるには早すぎるかもしれま

せん。

実際、第2の最も強力で破壊的なインターネット

革命の波は、やっと到着し始めたところです。そ

れがインダストリアル・インターネットです。そして、

インダストリアル・インターネットは生産性に重点

を置いています。前半では、インダストリアル・イ

ンターネットが世界経済の大部分に直接影響す

る可能性があると論じました。そして、インダスト

リアル・インターネットによって、ヘルスケアから航

空、輸送からエネルギーまで、多数の主要経済部

門で、かなりの効率改善益とコストの削減を実現

した実例を詳しく論じてきました。

このようなことは、以前にはなかったことです。イ

ンダストリアル・インターネットには、非常に幅広

い経済活動で業務の改善速度を最適化する可

能性があります。インダストリアル・インターネッ

トが普及する速度は、ICT設備の採択の特徴で

あったトレンドと非常によく似たコストデフレの

トレンドで加速されることでしょう(たとえば、現

在のクラウドコンピューティングでは、より大量の

データをより低いコストで分析できます)。データ

処理のコストは低下しつつあり、それによって生

産性の改善が始まるでしょう。

モバイル革命もこのデフレトレンドを加速し、効

率的な情報共有が手頃な価格で利用可能にな

り、最適化の分散とパーソナライズが実現します。

その最も強力な例を挙げると、産業施設、分散化

した電力、パーソナライズしたポータブル機器の

27

図11. 米国の生産性の低下と回復

Page 28: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

$56,800

$66,500

$61,400

$79,500

$63,800

$86,500

2012 2020 2030

高レベルの生産性(3.1%) 中レベルの生産性(2.6%) 低レベルの生産性(1.6%)

$50,000

注意:名目米ドルのソースは、IMF世界経済見通しデータベース(2012年10月)、GEによる予測

遠隔からの監視と管理などがあります。

どのくらい違いが出るか?

生産性の伸びを予測することは、不確実性の幅

が大きいので難しい課題です。にもかかわらず、

多数の主要部門に対するインダストリアル・イン

ターネットの可能性に関する私たちの分析では、

生産性を向上させるインダストリアル・インター

ネットの潜在能力は、少なくとも、インターネット

革命の最初の波の潜在能力に匹敵します。

インダストリアル・インターネットは、「産業用」だ

けではありません。これは非常に重要なポイント

です。我々はインターネット革命の第2の波を「イ

ンダストリアル・インターネット」と呼んでいます

が、これは、インダストリアル・インターネットの主

要な特徴が機器とデバイスで情報を可視化する

方法であり、それらの機器やデバイスは産業部門

で生産されるからです。しかし、最初の ICTの波

でもそうだったように、新しい技術を最も積極的

に採択するグループの中に、多数のサービス部門

が含まれています。ヘルスケアと輸送は、上記の

インダストリアル・インターネットから非常に多く

のメリットを享受するサービス部門のたった2例

にすぎません。これは重要な数値ですが、サービス

部門が米国のGDPの約80パーセントを占めて

いることを覚えておいてください。

生産性の伸びに対してインダストリアル・インター

ネットはどのくらい効果があるでしょうか ?イン

ダストリアル・インターネットの可能な影響が少

なくともインターネット革命の最初の波の影響と

同じくらい強ければ、生産性の伸びを1996年~

2004年の通常レベル(労働生産性平均伸び率

3.1パーセント)まで押し上げると期待することは

不合理ではありません。そして、産業革命の場合

と同様に、この影響はかなり長く続くと予期され

ます。

これが何を意味するか理解するため、以下の簡単

な例を考えてみましょう。生産性の伸びは2030

年まで上昇を続けると想定します。この期間は、

最初のICTによる上昇期間の2倍近くになります。

そして簡単にするため、生産性の伸びが加速する

と、一人当たりの収入の伸びに完全に反映され、

その伸びが高くなると想定します。米国の一人当

たりのGDPは、現在約50,000ドルです。現在か

ら2030年までの一人当たりの収入が、1995年

までの四分の一世紀にわたる生産性の通常の伸

びであった年率1.6パーセントではなく、3.1パー

セントで上昇した場合は、今日のドルに換算して

20,000ドルだけ収入が上昇します。言い換えれ

ば、加速した生産性の伸びは、今日の平均GDP

の約40パーセントの価値に相当します。

もっと控えめな想定をするため、生産性の伸びを

ほんの1ポイントだけ、つまり、1950年~ 1968

年の産業革命由来のブーム時の通常の率より低

いわずか2.6パーセントまで加速したと想定して

みましょう。これでも、平均13,000ドル、つまり今

日の一人当たりGDPの4分1の収入改善益にな

ります。これには、複利の魔法が働いています。年

率わずか1.6パーセントの成長では、収入が2倍

になるのに44年かかりますが、年率3.1パーセン

トでは、23年しかかかりません。言い換えれば、年

率が高いと1世代で収入が倍になり、年率が低

いと2世代かかります。

これらの見積りには、もちろん不確実性の大きな

幅があります。生産性の改善益を一対一で高い

GDP成長率に換算するには、たとえば、生産、労

働、および資本の係数がこれらのイノベーション

が起こらない場合と同じペースで蓄積すると見

なす必要があります。たとえば、労働力の減少は、

生産性向上の加速による影響を部分的に相殺し

ます。我々は、イノベーションなしのシナリオ、つま

り、新世代の機器で約束された投資回収率が、資

本ストック更新への強力なインセンティブになる

シナリオと、少なくとも同じペースで投資が遂行

されると予期します。実際、投資はイノベーション

が根を下ろすための重要な条件または実現要因

になりますが、それはインターネット革命の最初

の波の場合と同様です。

ところで、労働はどうなのでしょうか? 生産性向

上のイノベーションの波がまたやって来ると、雇用

は失われるでしょうか? 現在の米国などの先進

経済では、失業レベルがすでに極度に高く、これ

は重大な問題です。さらなるイノベーションは、疑

いもなく一部の仕事を不要にします。これは、た

とえば、一部のプロセスを自動化できる範囲がひ

ろがるためです。ただし、一部の古い仕事は不要

になりますが、新しくよりよい仕事が創出されま

す。以下で論ずるように、インダストリアル・イン

ターネットの開発には、とりわけ分析とエンジニ

アリングのスキルをもつ多数の労働者が必要と

なります。教育システムを適応させ、その産業と

の整合を改善することが必要となります。これは、

新しいスキルの供給と需要のペースを一致させる

ために不可欠です。これを実行できれば、新しい

専門職のプロファイルの作成と経済成長の加速

が相まって、より多くのより良い雇用が創出され

ます。

28

図12:米国の一人当たりGDPの可能な変遷

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0 $10,000 $30,000 $50,000 $70,000 $90,000 $110,0002005年(10億ドル)

2030年のGDP 2030年のインダストリアル・インターネット2030年のベースライン

アジア太平洋 + $4.2T

世界 + $15.3T

北米 + $6.5T

ヨーロッパ + $2.8T

アフリカおよび中東 + $0.8T

ラテンアメリカ

+ $0.9T

出典:GEによる予測

インダストリアル・インターネットと高度な製造

メリットはそれだけではありません。インダストリ

アル・インターネットのメリットは経済全体にわ

たって反響しますが、その最初のインパクトは、お

そらく、高度な製造の分野で特に強く感知され

ます。39

「大不況」時代に米国で急激に増大し、その後も

非常に高いレベルで維持されている失業率は、製

造業とサービス業の重要性に関する議論を激化

させてきました。徹底的な分析はこの論文の範囲

外ですが、2、3の観察をハイライトする価値はあ

ります。

• 製造業からサービス産業へのシフトは、経済発

展でよく観察される特徴であり、大半の先進

経済では、今のところ、サービス産業がGDPと

雇用の最大のシェアを占めています。たとえば、

サービス産業は、米国、英国、オーストラリアで

は経済の80パーセント近く(粗付加価値で計

測)を占め、EUでは75パーセント、日本では72

パーセントを占めています。

• ただし、米国におけるこのシフトが行き過ぎか

どうか問うことは、正当な質問です。スペンス

教授とヒラットシュワヨ教授 40は、1990年~

2008年に米国経済によって創出された追加

雇用のすべて(約2,700万件)が非貿易部門

に属し、大半がサービス産業であることを示し

ました。これらの追加雇用の3分の2が、政府、

ヘルスケア、小売、宿泊および飲食サービス、建

設の5部門で創出されました。スペンス、ヒラッ

トシュワヨの両教授は、これらの部門の雇用創

出ペースが過去30年のペースとは一致しそう

もないことを説得力のある議論で示していま

す。はるかに高い公的債務、高まるヘルスケア

コスト、そして前例のないバブルから未だに回

復中の不動産部門が強力な逆風となっている

のです。

• したがって、米国の雇用を危機以前のレベルに

戻すとしたら、製造業の役割を強化する必要

があるかもしれません。そして、賃金および生活

水準の継続的な上昇と一致するように、先進

経済での製造業の復活には、より高い生産性

の伸びが原動力となる必要があります。シェー

ルガスなどの低コストのエネルギー源の発見は、

製造業の基地としての米国の競争力を押し上

げる重要な要因となる可能性がありますが、イ

ンダストリアル・インターネットも、変革のより

強力な要因ではないとしても、同等な要因であ

ることは確かです。

世界経済への影響

ここまでは、主に米国に焦点を絞って論じてきま

したが、これには単純な理由があります。米国は、

現在、最も進んだ経済であり、生産性の最前線に

いるので 41、境界を押し広げる上で技術的なイノ

ベーションが重要な役割を演じ、必要な国が米国

なのです。

ただし、いったん最前線が国外に移ると、どの国

でも(原則として)その最前線に達することがで

きます。

インターネット革命の最初の波がこの場合も有

用なベンチマークを提供します。1995年以降、

ICTへの投資は米国だけでなく、世界中で急増

し、先進経済国と新興のアジアが先頭に立ってい

ました。ジョーゲンソンとヴーの見積りによれば、

1995年以後、新興のアジア、ラテンアメリカ、東

ヨーロッパ、中東、北アフリカ、サハラ砂漠以南の

アフリカでは、成長に対する ICT投資の貢献がほ

ぼ2倍になりました。42

この ICT投資の世界的な急増には、世界の成長

率の顕著な加速(約1ポイント)が伴いました。

インダストリアル・インターネットのメリットを世

界経済全体にわたってどのくらい素早く利用で

きるかは、新しい技術の採択速度にかかっていま

す。そして、新興市場はすでに世界経済の約半分

を占めるまでに成長したので、それらの市場が新

しい技術を採択する速度は、インターネット革命

の頃よりはるかに重要で、産業革命の頃とは比

較にならないほど重要となります。この点におけ

るポジティブな要因は、新興市場にはインフラ投

資の増大に対する巨大なニーズがあることで、こ

のニーズは、急速な上昇レベルの生産と収入を

生み出すための優先事項です。新興市場が、今回

は、新技術の採択に遅れず、早期に採択できる場

合は、インダストリアル・インターネット革命が世

界経済全体にはるかに強力で迅速な影響を及ぼ

すことができます。たとえば、商品消費と環境へ

の影響など、持続可能な世界の成長の制約を緩

和するインダストリアル・インターネットの影響が

はるかに顕著になります。

世界経済に対する可能な影響を理解するには、

簡単なシミュレーションが役に立ちます。インダス

トリアル・インターネットによって、米国の労働生

産性の伸びをインターネットブーム時の通常伸び

率3.1パーセントに戻すことができると想定しま

す。そして、新技術を具現化する投資によって、残

りの世界では米国のちょうど半分の生産性改善

益を生成できると想定します。その改善益は、イ

ンダストリアル・インターネットの影響がないベー

スラインの場合より0.75ポイント高くなります。

これらの生産性改善益が2030年まで維持され

た場合は、その期間に世界のGDPに約15兆ド

ルが(対2005年)追加されます。言い換えると、

より高速な生産性の伸びによって、今日の米国

経済と同等の追加GDPが生成されます。一人当

29

図13. 世界経済へのインダストリアル・インターネット普及のメリット

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たりの収入も適宜メリットを享受します。そして、

2030年までには、世界経済における一人当たり

GDPは、インダストリアル・インターネットの影響

のないベースラインでの一人当たりGDPより約5

分の1高くなります。

さらに、上記より控えめなシナリオも考えてみま

しょう。このシナリオでは、米国の生産性の伸び

は、1ポイントしか上昇せず、2.6パーセントです。

この場合も、残りの世界はこれらの生産性改善

益の半分しか生成できないので、生産性の伸びの

上昇は0.5ポイントであると想定します。これでも、

同じ時間枠で世界のGDPに10兆ドルが追加さ

れます。

ビジネス慣行の役割とビジネス環境

インダストリアル・インターネットのメリットが世

界経済全体に行き渡る速度は、それらのメリット

をビジネスプロセスに取り入れる企業の能力に

依存します。そして、この企業の能力は、ビジネス

環境とその形成を促す経済政策に依存します。

インダストリアル・インターネットのメリットは、単

なる資本設備の効率向上に由来するのではなく、

機器とデバイスをそれらの技術的限界まで利用

する能力から引き出されます。それらのメリット

は、オペレーションを最適化する能力と、オペレー

ションの改善速度を最適化する能力からも引き

出されます。

このためには、技術的なイノベーションと連携し

て進行するビジネス慣行の変更が必要です。マ

サチューセッツ工科大学のブリニョルフソンは、

データ駆動型意思決定(DDD)の役割を強調し、

DDDを採用する企業は採用しない企業と比べ

て5~ 6パーセント高い生産性の改善益を取得

できることを示しました。43

したがって、個々の企業レベルでも、経済全体の

レベルの場合と同様な相当大きなメリットがあり

ます。ただし、それらのメリットを十分に具現化す

るには正しい条件が必要です。上記では、1995

年以降、ICTへの投資が先進経済の国々を先頭

にして世界中で急増したと説明しました。しかし、

生産性の伸びは米国では加速しましたが、ヨー

ロッパでは同じくらい顕著に(ほぼ1ポイント)減

速しました 44。生産性におけるこの相違するトレ

ンドは、広範な学術研究と討論の対象となって

います。

経営慣行とビジネスプロセスは、ある重要な役割

を担っているように見えます。ブルーム、サダン、

ファン・リーネンによる最近の研究では、ヨーロッ

パで営業する米国の多国籍企業は、米国企業で

ない多国籍企業より高い生産性の改善益を経験

し、より ICT集約型になる傾向があるという証拠

が見つかりました 45。これらの論文の著者たちは、

米国多国籍企業は、「人材管理の慣行」において

も成績が良い、つまり、雇用、解雇、昇進の使い分

けの効率が良いという事実を指摘しています。破

壊的なほど革新的な技術は、作業と管理の慣行

を素早く顕著に変更することを要求します。そし

て、これらの要件は、企業の人的資源をより機敏

に管理することによって最適に達成されます。

この点では、外部環境が非常に重要です。たとえ

ば、雇用と解雇について厳格な制約のある硬直

した市場では、企業の人材管理戦略の挫折は避

けることができません。ヨーロッパでは、労働市場

の硬直が生産性の低下と国際競争力の喪失と

連動して進行し、高い負債に悩むヨーロッパ圏の

国々が現在直面している苦境に少なからず貢献

してきました。

同様に、製品とサービスの市場の制約が新技術

による変革の可能性を損なうことがあります。

上記では、米国の生産性における急激な上昇の

大部分がサービス部門から由来していることを

見てきました。カナダ、オーストラリア、英国、そ

してニュージーランドでも、サービス部門で生産

性の伸びに同様な改善が発生しました。しかし、

ヨーロッパ大陸の大部分では、1995年~ 2004

年の労働生産性の伸びは米国の3分の1未満

でした。46

30

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インダストリアル・インターネットは、確実に実現

できるというものではありません。物理的な機器

の世界とデータと分析のデジタルの世界を調和

させ、最大限の成果を達成するには、重要な実現

要因、触媒、支援条件が必要になります。非常に

重要な要素としては、イノベーション全体の継続

的な発展、積極的なサイバーセキュリティ管理、有

効なインフラストラクチャ、新しい人材の開発が

挙げられます。

イノベーション

インダストリアル・インターネットは、技術的イノ

ベーションや、システム、ネットワーク、プロセスの

イノベーションなど、すでに進行中のイノベーショ

ンがもたらす成果物です。インダストリアル・イン

ターネットの実現に必要となるイノベーションの

一部はまだ分かっていませんが、さまざまなイノ

ベーションが融合して重要な触媒と実現のため

の要因になることは明らかです。

以下に、インダストリアル・インターネットの発展

に必要なイノベーション分野の概要を示します。

機器:新しい産業機器および既存の機器を補強

するソリューションの設計へのセンサの統合と導

入、情報の効率的な収集と高速な転送に必要な

ハードウェアなど。

高度な分析:異なるOEMの同種の資産や、異な

る資産カテゴリから収集したデータをより緊密に

統合できるようにする新しいデータ標準、データ

を情報資産により迅速に転換し、統合や分析の

準備を整える技術的アーキテクチャなど。

システムプラットフォーム:共有フレームワーク /

アーキテクチャ上に独自のアプリケーションを構

築できるようにする、技術的標準やプロトコルの

域を超えた新しいプラットフォーム、プラットフォー

ムの持続可能性を支援するサプライヤ /OEM/顧

客間の新しい関係。

ビジネスプロセス:機器情報を意思決定に完全に

組み込む新しいビジネス習慣、機器データの品質

を監視するプロセス、協業する企業間の迅速で

柔軟な調整を可能にする高度な法的プロセス。

このようなイノベーションの実現には、企業、産業

グループ、政府、そして教育機関それぞれによる投

資が必要です。各当事者は、投資から利益を得る

ことができます。産業は売上増加と顧客との関係

構築を望んでいます。政府は雇用と税収を確保

するとともに、運用効率化を図りたいと考えてい

ます。一方教育機関は、進化を続けるこの領域の

複雑な課題に対処することによって学生と資金

を集めたいと考えています。幸い、各当事者の投

資範囲は幾分異なるため、イノベーション実現に

向けた健全で多様な取り組みが創出される可能

性があります。

インダストリアル・インターネットの普及と導入の

レベルを高めるためには、イノベーションに加えて、

既存の技術も必要になります。センサやモニタで

利用されているすでに存在している技術です。

インフラストラクチャ

インダストリアル・インターネットには、適切な基

盤が必要になります。データセンター、広帯域スペ

クトル、ファイバネットワークはすべて ICTインフ

ラストラクチャのコンポーネントですが、産業や地

理的な場所を越えてさまざまな機器、システム、

ネットワークを接続するために、さらに開発を進

めなければなりません。インダストリアル・インター

ネットに付随するデータフローの著しい増加に対

応できるように、州間および州内のインフラスト

ラクチャ規定も必要になります。

データセンターの需要の拡大を考えると、この課

題の規模の大きさが分かります。2025年の世

界中のデータを処理するデータセンターの大半

は、まだ構築されていません。その大きな理由の

1つは、データ処理の需要が現在2年ごとに倍増

しており、2020年までに20倍に増大すること

です 47。この傾向が続けば、2025年までにはデー

タ処理の需要が40倍に増加することが予測さ

れます。設計のモジュール化と効率性の改善に

よって、データセンターの運用に必要なエネルギー

量は削減されていますが、高品質の電力に対す

る需要は大幅に増加すると考えられます。現在、

世界のデータセンターは年間およそ130 GWh

の電力を消費しています。この消費量は、世界最

大級の巨大都市、ニューヨーク市の消費電力量

の2.6倍に相当します。2025年までに、データセ

ンターで必要とされる電力量は、9~ 14の巨大

都市の消費量相当にまで増加するでしょう。こ

れを支えるには、データセンターに関わる設備投

資を大幅に増やす必要があります。2015年ま

でに、世界的な設備投資は1000億ドルに迫り、

2025年までにはさらに倍増して2000億ドルを

超えると見込まれています 48。効率的でクリーン

な回復力の高いデータセンターが、インダストリ

アル・インターネットの実現に重要な意味を持っ

VI. 実現要因、触媒、条件

31

Page 32: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

ていることは明らかです。

サイバーセキュリティ管理

インダストリアル・インターネットのビジョンを達

成するには、効率的なインターネットセキュリティ

体制が必要になります。サイバーセキュリティは、

ネットワークセキュリティ(クラウドの防御戦略)

とネットワークに接続される最新デバイスのセ

キュリティの両方の面から考慮されなければなり

ません。

保護された ITインフラストラクチャを維持するこ

とは、極めて重要な要件です。セキュリティプロセ

ス /制御は、複数の防御レイヤを持つように設計

する必要があります。Dell社 SecureWorksの

脅威対策ユニット/研究グループ担当ディレクター

であるバリー・ヘンズリー(Barry Hensley)氏は、

「セキュリティプロセス /制御には、脆弱性ライフ

サイクル管理、エンドポイント保護、侵入検知 /防

止システム、ファイアウォール、ロギングの可視性、

ネットワークの可視性、セキュリティトレーニング

すべてを含める必要がある」と述べています 49。

防御戦略では、ネットワークからユーザまですべて

のレイヤを網羅しなければなりません。

セキュリティ管理の中心は、機密の重要情報の保

護です。企業間および企業 /消費者間の両方の

状況でネットワークの信頼性を確立し、維持する

ことが重要です。情報のセキュリティとプライバ

シーは、この信頼性構築の重要な要素です。知的

財産、専有情報、個人情報(PII)を含む機密データ

のセキュリティを確保するための手段が非常に重

要となります。たとえば、デバイス内のデータの暗

号化や、クラウドに転送する機密データの暗号化

など挙げられます。このような保護手段の一部は

すでに企業レベルで導入されているため、インダ

ストリアル・ネットワークに容易に拡張 /導入する

ことができます。

インダストリアル・インターネットを拡大するには、

すべての関係者がセキュリティ管理に積極的に

参加することが要件になります。関係者は全員、

サイバーセキュリティを促進する上で以下のよう

な役割を担います。

技術ベンダー :製品設計と製品パフォーマンスだ

けでなく、サプライチェーンのセキュリティにも

焦点を当てます。製品(デバイスとソフトウェア)

には、組み込みセキュリティ機能を搭載し、サイ

バー脅威に対する防御層を最大化する必要が

あります。

資産所有者 /オペレータ :施設とネットワークの

保護を最優先します。規制機関、法執行機関、情

報コミュニティと協力することで、進化する脅威

に対する可視性を改善できます。脅威情報の共

有やリスク緩和に取り組みます。

規制担当者 /政策立案者 :効果的なサイバーセ

キュリティ規制体制を確立して、イノベーションを

奨励し、すべての関係者に対する教育を推進し、

有能な労働力の開発を支援する必要があります。

安定した基盤を構築するために、政府はサイバー

セキュリティの業界標準とベストプラクティスの

開発と普及を推し進めていかなければなりませ

ん。「セキュリティの文化」を奨励する、産業主導

のパフォーマンスおよび技術標準が必要です。標

準とデータプライバシーポリシーは、州や国をまた

がっても一貫性があることが理想的です。現在は

複数の標準化機関が存在していますが、一貫性

が保たれていません。データ構造、暗号化、転送メ

カニズムの一貫性のある共通の標準の採用と、

データの適切な使用を奨励することが、サイバー

セキュリティの発展に大きく寄与します。

国際機関:各国は国のガイドラインを策定します

が、国際的な規範や基準の策定も必要になりま

す。インターネットの「兵器化」に関連する規範に

加え、IP(知的財産)の保護と国際的なデータフ

ロー(サーバのローカライズ要件など)に関連する

規範の開発にも焦点を当てる必要があります。

教育機関:ITセキュリティ計測の強化、非機密デー

タによる懸念の推論、集約データのプライバシー

のための法的基盤など、データのセキュリティとプ

ライバシー強化に向けた研究を継続する必要が

あります。50

包括的なサイバーセキュリティ戦略を推し進める

ことにより、リスクを最小限に抑えるとともに、イ

ンダストリアル・インターネットがもたらす機会を

享受することが可能になります。

人材開発

専門知識を有する人材なくしてイノベーションを

達成することはできません。インダストリアル・イ

ンターネットが台頭するためには、新しい人材プー

ルを作り、育成していく必要があります。機械工

学や電子工学の当然の技術スキルの域を超え

た、明らかに分野横断型の新しい技術的役割、分

析的役割、リーダー的役割が必要になるでしょう。

今日の「データ・サイエンティスト(科学者)」のよ

うな新しい職種が登場し、すでに実践している人

たちがその役割に就きます。新しい役割は、初期

の人材登録リストへの自己定義などを通じて次

第に明確化され、開発されたプラクティスを通じ

て緩やかに受け入れられていきます。

32

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以下に、インダストリアル・インターネットの推進

に必要となるさまざまな職務カテゴリを示します。

次世代エンジニア:機械工学などの従来のエンジ

ニアリング分野と、情報およびコンピューティング

コンピテンシーを融合した分野に横断的なさまざ

まな役割に対するニーズが高まります。「デジタル

メカニカル」エンジニアと呼ばれるような役割が

生まれるでしょう。

データ・サイエンティスト:分析プラットフォーム /

アルゴリズムを開発します。ソフトウェアおよびサ

イバーセキュリティのエンジニアは、データ工学、

パターン認識 /学習、高度なコンピューティング、

不確実性モデリング、データ管理、仮想化を開発

します。

ユーザインターフェイス専門家:ヒューマンマシン

インタラクション分野のインダストリアル設計者

として、最小限の入力で済ませるために必要な

ハードウェアおよびソフトウェアコンポーネントを

効率的に融合します。また、機器から人間への不

必要な出力を最小限に抑えるようにします。

では、こうした人材はどこから獲得すればよいで

しょうか。現在のところ、多くの地域でサイバー

セキュリティ、ソフトウェアエンジニア、分析プロ

フェッショナルなど、上記の役割の基盤となりう

る能力を持つ人材が不足しています。いずれは人

材市場の再編成が必要になりますが、企業は最

も多才で(冒険心のある)社員を集め、独自の人

材プールを構築する必要性に迫られるでしょう。

文化面または規制面で「問題がある」労働市場

は、このような新しい需要に対応する順応性が

低いでしょう。

分野を横断する人材を獲得する別の手段として

は、協業的なアプローチを通じて自社の既存のリ

ソースを開発することが挙げられます。多才なス

キルを持つ人材を育成または調達する代わりに、

異なるスキルを持つ人々が迅速に交流し、共同で

イノベーションを実現できる環境を構築します。

規模を拡大してクラウドソーシングなどのアプロー

チを採用することで、発生が避けられない能力の

ギャップの一部を埋められる可能性があります。

高度な教育システムに必要な変化は、企業と大

学とのより緊密なコラボレーションを通じて促進

する必要があります。「データ専門家」が必要と

する知識基盤を形式化する教育プログラムの開

発を求める声が高まっています。現在ビッグデー

タシステムの管理や、高度な分析を手掛けてい

る人々は、標準的なスキルや思考を開発するプ

ログラムを通じてではなく、自発的な専門知識の

習得によって独自の能力を開発しました。インダ

ストリアル・インターネットの実現に必要な能力

が教育システムで習得する能力を上回ることが

ないように、カリキュラムの共同開発、教育スタッ

フの産業への派遣などのアプローチが必要です。

この分野にはすでにプログラムが登場し始めて

いますが、さらに多くのプログラムが必要になる

でしょう。

インダストリアル・インターネットのビジョン、その

価値とアプリケーションの創出と奨励は、最終的

にはリーダーが果たす役割です。先見の明のある

これらのリーダーは、景気の変動があっても産業

に浮き沈みがあっても投資を継続するために、経

営陣からの支援が必要になるでしょう。イノベー

ションの実現にはリスクの容認が不可欠です。イ

ンダストリアル・インターネットに付随する多くの

要素に対応するために、企業は安楽な状態から

の脱却や新しい提携を余儀なくされる場合があ

ります。企業には、このビジョンを形成して実行

し、このビジョンに必要とされる組織、文化、人材

を構築できる新しい世代のリーダーが必要にな

ります。

まとめると、インダストリアル・インターネットの

発展は、重要な実現要因、触媒、支援条件にか

かっています。その中でも鍵を握っているのは、

継続的でダイナミックなイノベーション、効果的

なインターネットセキュリティ体制、基盤となる

ITインフラストラクチャ、適切な人材、スキル、専

門知識です。

「データ専門家」が

必要とする知識基盤を

形式化する教育プログラム

の開発を求める声が

高まっています。

33

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経済と社会に発生したイノベーションと進化に長いサイクルがあったことは

よく知られています。新たな技術が発展し、幅広く導入されると、変革と混乱

の大きな波が押し寄せます。従来の産業システムがインテリジェントな技術

と統合されている現在、この変革サイクルが再び発生しています。インテリジェ

ントな技術は、産業システムの周辺部の上層部だけではなく、新世代の機器

の設計や機能自体に組み込まれるようになっています。産業の世界とインター

ネットおよびその関連技術の融合は、まだ早期段階ではありますが、かつての

歴史的なイノベーションと変化の波と同じほど大きな変革をもたらす可能性

があります。

この変革の範囲は非常に広域に及びます。インダストリアル・インターネット

技術は、世界経済のほぼ半分、そして世界のエネルギーフローの半分以上に

効果をもたらす可能性があります。多数の産業でインテリジェントなデバイス、

施設、フリート、ネットワークと、仕事中や移動中のユーザが接続されるため、

プロセスの最適化、生産性の向上、作業効率化の新たな可能性が生まれるこ

とになります。この変革の早期採用者は、今後における計画立案を進め、イン

ダストリアル・インターネットの基盤作りをしています。将来的に、インダスト

リアル・インターネット技術は広く普及し、産業のコスト構造に大きい有益な

変化をもたらすことが期待されています。その結果、競合のバランスが変化し、

産業内の残りの企業も生き残るために迅速にインダストリアル・インターネッ

トを採用せざるを得なくなります。こうした状況が起こるペースは産業によっ

て異なるでしょうが、インダストリアル・インターネットの採用が増加するにし

たがって、より幅広い経済で効果を実感できるようになるでしょう。

効率化のための変化は、比較的小さくとも、大規模な世界規模の産業全体に

およぶとその複合的な効果は無視できません。すでに説明したとおり、コスト

1%の削減でも、すべての産業と地域を含めれば大幅な節約につながります。

インダストリアル・インターネットによるコスト節約と効率化によって米国の

生産性を1~ 1.5ポイント高めることができれば、経済成長の面では現在の

1人当たりのGDPの25~ 40%増加に相当しうる、非常に大きな恩恵を受

けることができます。インターネット革命は、この文書で詳しく説明したよう

に、10年間にわたって1.5ポイントの生産性向上を実現しました。私たちは、

インダストリアル・インターネットには、これと同様の恩恵をこれよりも長い期

間にわたってもたらす可能性があると考えています。

相対的に見ると、現在は米国が技術面で最前線にいますが、インダストリア

ル・インターネットのメリットは世界中で実感できるでしょう。新興市場はイン

フラストラクチャへの投資を増やす大きな必要性に迫られています。増資は、

生産性と収益のレベルを迅速に高めるための最優先事項です。新興市場が

新しい技術を早期に採用すれば、インダストリアル・インターネットは世界経

済に非常に大きな効果をもたらすでしょう。米国が生産性向上の1.5ポイン

トの高速化を確保し、他の国々が米国の半分の成果を達成できれば、インダ

ストリアル・インターネットは向こう20年で世界経済に15兆ドル、つまり今

日の米国経済に相当する額を追加し、世界の1人当たりのGDPを約20%

向上させます。

世界最大級の先進国が低い経済成長率に悪戦苦闘し、高い失業率と低い収

入に失望が広がる状況下で、このように素早く生産性の向上をすることがで

きれば、その恩恵は計り知れません。さらにインダストリアル・インターネット

は、安定した持続可能な世界成長の妨げとなる資源消費の面や環境への影

響といったネガティブな影響を緩和する上で重要な役割を果たします。

イノベーションは、いつの時代も、少ない労力での大きな成果の達成、制約の

緩和、より多くの人々の生活水準の改善を実現する要素として最も効力を

発揮してきました。インダストリアル・インターネットは、思考と機器の限界を

さらに押し上げ、世界的な次のイノベーションの波を促進する可能性を秘め

ているのです。

34

VII. 結論

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1 Jan Luiten Van Zanden氏著、「The Long Road to the Industrial Revolution」(Leiden: The Netherlands: Koninklike Brill、2009年)。2 概要は、Robert Gordon氏著、「Is US economic growth over? Faltering innovation confronts the six headwinds」、(CEPR Policy Insight nr.63、

2012年9月)を参照。3 Chris Freeman氏およびFrancisco Louca氏著、「As Time Goes By: From the Industrial Revolutions to the Information Revolution」(Oxford

University Press:New York、2010年)を参照。4 Johnny Ryan氏著「A History of the Internet and the Digital Future」(London: Reaktion Books、2010年)、125ページ。5 Ryan、82ページ。6 The Associated Press、「Number of active users at Facebook over the years」(2012年10月23日)、Wall Street Journal誌、「Facebook: One

Billion and Counting」(2012年10月4日)、「Facebook, One Billion – key metrics」、http://newsroom.fb.com/News/One-Billion-People-on-

Facebook-1c9.aspx。7 ここに記述されている産業セクターは、国際標準産業分類(ISIC)のディビジョン10~ 45に対応しており、製造業(ISICディビジョン15~ 37)を含む。鉱業、

製造業、建設業、電気、水道、石油、ガスの付加価値で構成。製造業とは、ISICディビジョン15~ 37に属している産業。北米(米国、カナダ、メキシコ)では、より

詳細な北米産業分類システム(NAICS)が標準として連邦統計局に使用されている。NAICSでは、産業セクターは2桁レベルの(21~ 23)および(31~ 33)

グループで定義されている。両方のシステムとも、通常は最も集約されたレポートレベルで比較可能。

8 経済シェアの計算は、国レベルでの最新のGDPのシェアの割合と、世界銀行提供の2011年の名目GDP統計を使用して実施。9 ここで定義されている輸送部門は、ICISディビジョン I(輸送、保管、通信)に対応。医療サービスは、ICISディビジョンN(保険衛生および社会事業)に対応。10 2012年8月予測(当時のドル価格)に基づくGEの予測。11 このセクションの統計値は、記載がある場合を除き、BP Statistical Review of World Energy 2012、国際エネルギー機関(IEA)、およびGEの社内分析に

基づいたGEの予測。12 「IEA(2009) Energy Technology Transitions for Energy:Strategies for the Next Industrial Revolution」。13 「Boeing Commercial Airplane Statistical Summary」、2012年7月、http://www.boeing.com/news/techissues/pdf/statsum.pdf14 General Aviation Manufacturers Association、「2011 Statistical Databook and Industry Outlook」、http://www.gama.aero/files/GAMA_

DATABOOK_2011_web_0.pdf15 Platts UDI Database、2012年6月16 「GE Strategy and Analytics power generation outlook 2012」17 Oil and Gas Journal refinery survey(2011年12月5日)、http://www.ogj.com/ogj-survey-downloads.html。18 Oil and Gas Journalの2012年11月5日号に掲載された、130を超える新しい精油所プロジェクトと既存精油所の拡張を示す世界的な建設調査に基づ

くGEの予測。19 国際航空運送協会(IATA)、「Vision 2050」、2011年。http://www.iata.org/pressroom/facts_figures/Documents/vision-2050.pdf20 IATA2011年年次報告書および2012年9月の産業の展望に関するプレゼンテーション。21 米連邦航空局(FAA)。NAS(全米航空システム)の非効率さの見積もり、2006年。より効率的な航空計画およびオペレーション、その他のオペレーション変更

によって節約可能な燃料の見積もりを含む。この見積もりにより、5パーセントの燃料節約が可能であるという説が裏付けられる。22 Idem「IATA Vision 2050」23 IATA、「Airline Maintenance Cost Executive Commentary」(2011年1月)、http://www.iata.org/workgroups/Documents/MCTF/AMC_

ExecComment_FY09.pdf24 出典:GE Transportation、Transport Expenditures United Nations Statistics Division、「MIT Research: Commoditization of 3rd party

logistics」、Jurnal of Commerce:http://www.joc.com/logistics-gdp-and-rising-costs。25 既存のデータソース(国際エネルギー機関(IEA)、BP統計エネルギーレポートを含む)から抽出した国レベルのガス需要に基づくGEの戦略 /分析部門の予測。26 国レベルの自然ガス価格の見積もりに電力部門のガス需要の見積もりを乗じた値に基づくGEの戦略 /分析部門の予測。27 Maugeri Leonardo氏著、「Oil: The Next Revolution」討議資料、2012-10、Belfer Center for Science and International Affairs、Harvard

Kennedy School、2012年6月。http://belfercenter.ksg.harvard.edu/files/Oil-%20The%20Next%20Revolution.pdf

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VIII. 参考文献

Page 36: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

28 インダストリアル・インターネットの潜在力に関する早期の議論については、「Digital Oil Field」、Oil and Gas Investor Supplement、2004年4月を参照。

http://www.oilandgasinvestor.com/pdf/DOF0404.pdf29 「Ibid Digital Oil Field」、3ページ。30 バイオ燃料と液体天然ガスの使用が、原油生産量と世界の石油消費量(1日あたり8800万バレル)との差異の要因。出典:BP Statistical Review of

World Energy June 201231 Barclay、Equity Research、「Global E&P capital spending update」、2012年5月。32 Barclays、Petroleum Finance Consultants(PFC)、Rystad Consultingなどどの外部ソースの補足資料を活用した、社内プロジェクト追跡に基づくGE

の石油 /ガス部門の見積もり。33 PricewaterhouseCoopers Health Research Institute(2010年)34 Ibid。35 米インテル社の共同創業者であるRobert E. Moore氏が、1965年に集積回路のトランジスタ数が2年ごとにほぼ2倍になると論文に発表。彼はこの傾向は

少なくともあと10年は続くと予想したが、今にしてみると「少なくとも」は意味のある修飾語句であった。36 Kevin Stiroh氏著、「Information Technology and the US Productivity Revival: What Do the Industry Data Say? 」、(Staff Report、ニューヨーク

連邦準備銀行、nr.116、2001年1月)。37 Barry Bosworth氏およびJack Triplett氏著、「Productivity Measurement Issues in Services Industries:“Baumol’s Disease” Has Been

Cured」(ニューヨーク連邦準備銀行経済ポリシーレビュー、2003年9月)、Barry Bosworth氏およびJack Triplett氏著、「Services Productivity in the

United States」、(「Hard-to-measure goods and services: Essays in Honor of Zvi Griliches」、University of Chicago Press、2007年)。38 Martin Wolf氏著、「Is the age of unlimited growth over?」、Financial Times、2012年10月3日。39 高度な製造業の定義の詳細な議論については、「Science and Technology Policy Institute」(2010年)およびその中の参考文献を参照。40 Michael Spence氏およびSandile Hlatshwayo氏著、「The evolving structure of the American economy and the employment challenge」、

(Council on Foreign Relations Working Paper、2011年3月)。41 Gordon(2012年)42 Dale W. Jorgenson氏およびKhuong M. Vu氏、「Potential growth of the world economy」、(Journal of Policy Modeling, Vol. 32、nr. 5、2010年)。43 Erik Brynjolfsson氏、Lorin M. , Hitt氏、およびHeekyung Hellen Kim氏著、「Strength in numbers:How does data-driven decision making

affect firm performance?」、(ICIS Proceedings、Paper 13、2011年)。44 Bart Van Ark氏、Mary O’Mahony氏、およびMarcel P. Timmer氏著、「The productivity gap between Europe and the United States: Trends

and causes」、(Journal of Economic Perspectives Vol. 22, nr. 1、2008年)45 Nicholas Bloom氏、Raffaella Sadun氏、およびJohn Van Reenen氏著、「Americans do it better: US multinationals and the productivity

miracle」、(American Economic Review nr. 102、2012年)46 Van Ark氏、O’Mahony氏、Timmer氏(2008年)47 John Ganz氏、David Reinsel氏著、「The 2011 Digital Universe Study: Extracting Value from Chaos, IDC:Sponsored by EMC Corporation」、

2011年。48 GE Energyのグローバル戦略/プラニング部門の予測(2012年)。この値はインフラストラクチャ、機械および電子機器の構築コストで、サーバのコストは含まず。49 GTCSS2011、「Emerging Cyber Threats Report 2012」、http://www.gtisc.gatech.edu/doc/emerging_cyber_threats_report2012.pdf50 National Institute of Science and Technology、http://csrc.nist.gov/groups/SMA/forum/documents/june2012presentations/fcsm_

june2012_cooper_mell.pdf

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参考文献(続き)

Page 37: Industrial Internet - General Electric...セグメント 節減の種類 15年間の予測価値 (B=10億米ドル) 産業 航空 商業 1%の燃料節減 $30B 電力 ガス火力発電

本書の作成にあたり、貢献をいただきました多くの皆様に御礼を申し上げます。特に、Michael Farina

氏、Brandon Owens氏、Shlomi Kramer氏、JP Soltesz氏、Matthew Stein氏、Niloy Sanyal氏、

Nicholas Garbis氏、Alicia Aponte氏、Georges Sassine氏に感謝の意を表します。

Peter C. Evansは、GEのグローバル戦略 /分析担当ディレクターで、5年にわたってGE Energyのグ

ローバル戦略 /プラニング部門を率いてきました。GEへの入社前は、Cambridge Energy Research

Associates(CERA)でグローバル石油 /研究担当ディレクター、グローバルエネルギーフォーラム担当

ディレクターを務めていました。また、独立系コンサルタント会社で、米国エネルギー省、経済協力開発

機構(OECD)、世界銀行を含むさまざまな企業 /政府顧客にサービスを提供していた経歴もあります。

Evans博士は、日本の財団法人電力中央研究所で客員研究員を2年間務めるなど、エネルギー分野に

おける国際的な経験も豊富です。彼は、Council on Foreign Relationsの終身会員であり、National

Association for Business Economicsの理事を務めています。Evans博士は、ハンプシャー大学で学

士号を、マサチューセッツ工科大学で修士号と博士号を取得しています。

Marco Annunziataは、GEの主任エコノミスト兼グローバルマーケットインサイト担当エグゼクティブ

ディレクターです。彼は、「The Economics of the Financial Crisis」(Palgrave MacMillan発行)の著

者であり、ロンドンのSociety of Business EconomistsからRybczynski賞(ビジネスエコノミクス最

優秀論文部門)を2度受賞しています。2010年にGEに入社する前は、Unicreditの主任エコノミスト、

ドイツ銀行の東欧 /中東 /アフリカ地域担当主任エコノミストを歴任したほか、国際通貨基金(IMF)の新

興国と先進国の事務所で6年間にわたって勤務していました。Annunziata博士は、ボローニャ大学で経

済学の学士号を、プリンストン大学で経済学の博士号を取得しています。

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謝辞

著者について