internal heat exchanger (ihx) の開発 of an internal heat exchanger (ihx) 熊本 修司* 大野...

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22 先行開発品紹介 Internal Heat Exchanger (IHX) の開発 Development of an Internal Heat Exchanger (IHX) 熊本 修司 * 大野 裕之 * Shuji Kumamoto Hiroyuki Ohno 要   旨 現在カーエアコンで使用されている冷媒 R134a は,地球温暖化の観点から規制されることが決まっ ており,今後地球温暖化係数の小さな R1234yf を中心として切り替えが行われていく.R134a から R1234yf への単純置換では物性の影響で冷房能力が低下するため,その改善策の一つとして内部熱交換 器(IHX)の適用が検討されている.今回独自のスパイラルフィン構造を有した二重管構造の IHX を考 案し,その有用性を解析,実験にて検証した. Abstract The current automotive air conditioning refrigerant “R134” will be prohibited as a measure against global warming and replaced with a lower GWP (Global Warming Potential) refrigerant such as R1234yf. If they are just replaced, the cooler performance degrades due to different physical properties. For a solution, we have been studying on adoption of an Internal Heat Exchanger (IHX). This report introduces our invention of the IHX structured with a unique spiral fin inside a double tube and demonstrates its potential with CAE analysis and validation test results. Key Words : Air conditioning / Refrigerant / IHX / Spiral Fin 1. は じ め に 昨今,地球温暖化が世界的な問題となる中,現在カー エアコンに使用されている地球温暖化係数(GWP)の高 い冷媒(R134a/GWP:1,340)も規制されていくことが決 まっている.このため今後カーエアコンの冷媒は GWP の低い新冷媒(R1234yf/GWP: 4)に切り替えられてい くことになるが,R1234yf は物性影響のため R134a に比 べて冷房能力が低下することが解っている.この能力低 下を改善するための有用な手段の一つとして内部熱交換 器(Internal Heat Exchanger : IHX)がある.この IHX は北米の AC クレジットのアイテムでもあり,今後需要 が高まる熱交換器であるため,独自構造を考案し開発を 行ってきた. 2. IHX の特徴 2.1. IHX の能力 Fig. 1 に IHX が取り付けられた冷房サイクル図を, Fig. 2 に IHX の熱交換の仕組みの概要を示す.IHX は コンデンサ出口の高温高圧液冷媒とエバポレータ出口の 低温低圧ガス冷媒を熱交換させることにより,冷房能力 を改善させることができる. Fig. 1 Cooling system Fig. 2 IHX heat exchange mechanism * サーマル事業本部 サーマルシステム基本開発室

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Page 1: Internal Heat Exchanger (IHX) の開発 of an Internal Heat Exchanger (IHX) 熊本 修司* 大野 裕之* Shuji Kumamoto Hiroyuki Ohno 要 旨 現在カーエアコンで使用されている冷媒R134aは,地球温暖化の観点から規制されることが決まっ

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先行開発品紹介

Internal Heat Exchanger (IHX) の開発Development of an Internal Heat Exchanger (IHX)

熊本 修司 * 大野 裕之 *Shuji Kumamoto Hiroyuki Ohno

要   旨 現在カーエアコンで使用されている冷媒 R134a は,地球温暖化の観点から規制されることが決まっており,今後地球温暖化係数の小さな R1234yf を中心として切り替えが行われていく.R134a からR1234yf への単純置換では物性の影響で冷房能力が低下するため,その改善策の一つとして内部熱交換器(IHX)の適用が検討されている.今回独自のスパイラルフィン構造を有した二重管構造の IHX を考案し,その有用性を解析,実験にて検証した.

AbstractThe current automotive air conditioning refrigerant “R134” will be prohibited as a measure against global warming and replaced with a lower GWP (Global Warming Potential) refrigerant such as R1234yf. If they are just replaced, the cooler performance degrades due to different physical properties. For a solution, we have been studying on adoption of an Internal Heat Exchanger (IHX). This report introduces our invention of the IHX structured with a unique spiral fin inside a double tube and demonstrates its potential with CAE analysis and validation test results.

Key Words : Air conditioning / Refrigerant / IHX / Spiral Fin

1. は じ め に 昨今,地球温暖化が世界的な問題となる中,現在カーエアコンに使用されている地球温暖化係数(GWP)の高い冷媒(R134a/GWP:1,340)も規制されていくことが決まっている.このため今後カーエアコンの冷媒は GWPの低い新冷媒(R1234yf/GWP: 4)に切り替えられていくことになるが,R1234yf は物性影響のため R134a に比べて冷房能力が低下することが解っている.この能力低下を改善するための有用な手段の一つとして内部熱交換器(Internal Heat Exchanger : IHX)がある.この IHXは北米の AC クレジットのアイテムでもあり,今後需要が高まる熱交換器であるため,独自構造を考案し開発を行ってきた.

2. IHX の特徴2.1. IHX の能力

 Fig. 1 に IHX が取り付けられた冷房サイクル図を,Fig. 2 に IHX の熱交換の仕組みの概要を示す.IHX はコンデンサ出口の高温高圧液冷媒とエバポレータ出口の低温低圧ガス冷媒を熱交換させることにより,冷房能力を改善させることができる.

Fig. 1 Cooling system

Fig. 2 IHX heat exchange mechanism

* サーマル事業本部 サーマルシステム基本開発室

Page 2: Internal Heat Exchanger (IHX) の開発 of an Internal Heat Exchanger (IHX) 熊本 修司* 大野 裕之* Shuji Kumamoto Hiroyuki Ohno 要 旨 現在カーエアコンで使用されている冷媒R134aは,地球温暖化の観点から規制されることが決まっ

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Internal Heat Exchanger (IHX) の開発

 エバポレータ出入口エンタルピ差,冷媒流量,冷房能力の R134a を1とした場合の冷媒の物性値による違いと,IHX を用いた時の関係を Table 1 に,またこの時のモリエル線図を Fig. 3 に示す.Fig. 3 のように R1234yfは R134a に対して気液飽和エンタルピ差が小さくなるため,R134a から R1234yf への置換でエバポレータ出入口エンタルピ差は約 25% 小さくなる.また,コンプレッサ吸入ガス冷媒密度は R1234yf の方が大きいため,冷媒流量は約 20% 大きくなり,エンタルピ差と冷媒流量の積である冷房能力は約 10% 低下する.

Table 1 Ratio relative to R134a

R134a R1234yf R1234yf+IHX

Enthalpy differenceEvaporator 1 0.75 0.90

IHX - - 0.15

Refrigerant flow rate 1 1.20 1.11

Heat exchange amount

Evaporator 1 0.90 1.00

IHX - - 0.17

Pres

sure

[MPa

]

Enthalpy[kJ/kg]

R1234yf p-h diagram

R134aR1234yfR1234yf+IHX

Saturation line of R134a

Saturation line of R1234yf

Enthalpy difference

0.900.75

1

0.15

Evaporator

IHX

Fig. 3 Mollier diagram

 この冷房能力低下の改善を現行コンポーネントの仕様変更で対応する場合,多くの課題が発生する.例えば,コンデンササイズを変更しないことを前提とすると,サブクールコンデンサの比を増やしてエバポレータ入口のエンタルピを小さくする場合,メインコンデンサの面積が小さくなるためコンプレッサ吐出圧力が上昇する,併せてサブクールコンデンサの性能が空気側条件に依存するため安定した熱交換量を得られない等の弊害が起こる可能性がある.また,コンプレッサを増速して冷媒流量を増やす場合,コンプレッサ動力が増加する. 一方 IHX の場合,吐出圧力に影響を与えず,同一サイクル内の冷媒同士で熱交換をするため外気の影響を受けず,冷媒流量が減少するためコンプレッサ動力は低下する.サイクルへの悪影響としては,コンプレッサ吸入スーパーヒートが大きくなることによるコンプレッサ吐出温度の上昇が考えられるが,R1234yf サイクルに IHXを適用する場合は,R134a との物性差(コンプレッサ圧縮比,等エントロピ線の傾き等)によって,コンプレッサ吐出温度はコンプレッサの保証温度まで上がりにくい.以上のことから冷房能力改善の方策として IHX を使用することは有効である.

2.2. IHX の必要熱交換量 IHX においては膨張弁前の高温高圧液冷媒とエバポレータ出口の低温低圧ガス冷媒の熱交換により,エバポレータ前のエンタルピを小さくすることができるため,エバポレータ出入口のエンタルピ差を大きくすることができる.一方で,IHX は同一サイクル内の冷媒同士で熱交換を行うため,エバポレータ前エンタルピが小さくなった分だけコンプレッサ吸入エンタルピが大きくなる.これによってコンプレッサ吸入冷媒密度が小さくなるため冷媒流量が減少する.Table 1 のように,R134aのエバポレータエンタルピ差および冷媒流量を 1 とした場合,R1234yf サイクルの IHX エンタルピ差を 0.15 とすることで,エバポレータエンタルピ差が 0.90,冷媒流量が 1.11 となり,エバポレータの冷房能力は R134a と同等となる.この場合における IHX 熱交換量は冷房能力改善量 0.10 より多い 0.17 となる.

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CALSONIC KANSEI TECHNICAL REVIEW vol.14 2018

3. IHX の構造3.1. IHX 基本構造

 開発品は,内管に低圧ガス冷媒,内管と外管の間に高圧液冷媒が対向して流れる二重管タイプ (Fig. 4) である.この構造は,高圧配管と低圧配管を IHX に置換することによって現行のシステムからの変更が容易にできる利点がある.一方で配管としても扱われるため,熱交換部長さに制約がかかる可能性がある.そのため熱交換性能を向上させ,必要能力に対する長さを短くする必要がある.

3.2. 性能向上方策 二重管の熱交換量は次式で表される.

=∆

1 + ln( ℎ ⁄ )2 + 1

ℎ ℎ

Q : 熱交換量 [W]∆T : 高低圧冷媒温度差 [K]α�� : 低圧ガス冷媒熱伝達率 [W⁄m₂K]A�� : 低圧側伝熱面積 [m₂]α�� : 高圧液冷媒熱伝達率 [W⁄m₂K]A�� : 高圧側伝熱面積 [m₂]λ : 内管熱伝導率 [W⁄mK]L : IHX 長さ [m]

 二重管の熱交換は,低圧ガス冷媒熱伝達率が高圧液冷媒熱伝達率に対し,極端に小さいため低圧ガス冷媒熱伝達率が支配的な要因となる . よって低圧ガス冷媒熱伝達率を向上させることが,IHX の熱交換量向上に最も効果的と言える. 本開発品 (Fig. 4) は,①低圧ガス冷媒側の流れを極力撹拌し,熱伝達率を向上させること,②製造が容易でどこでも製造ができて低コスト化が可能,の2点を主眼にアイデア出しを行い,径の異なる二本の素管と板材をスパイラル状に成形したフィンからなる簡易な構造を考案したものである. フィンピッチは,性能と圧損,製造用件によって決定しているが,IHX に対する要求仕様(性能,圧損,長さ等)よって,ピッチを変更する可能性を想定して製造側にフレキシビリティを持たせることを計画している.

Spiral fin

Inner tube

Outer tube

Low pressure refrigerant

High pressure refrigerant

Fig. 4 Structure of spiral fin

3.3. 性能解析 Fig. 5 にスパイラルフィン構造の低圧側流れ解析結果を示す.流速が速いほど赤く,遅いほど青くなっている.三次元的な流れを表したから,スパイラルフィンの効果により旋回流れが形成されていることが分かる.

3D stream lineFig. 5 Flow analysis (Low pressure side)

 Fig. 6 にスパイラルフィンと従来品構造である押出し管の高圧液冷媒 / 低圧ガス冷媒それぞれの熱伝達率とIHX 熱交換量の解析結果を示す.比較した従来押出し管構造は高圧流路が多穴,低圧流路には特別な構造を持たないものとした (Fig. 7). 内管に構造体のない押し出し管に対して,本構造のスパイラルフィンタイプの低圧ガス熱伝達率は 45% 向上している . 一方,高圧液冷媒熱伝達率は高圧流路に多穴構造のある押出し管タイプの方がスパイラルフィンタイプに対して 20% 高くなっているが,トータルの熱交換量は 30% 向上する結果となった.

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Internal Heat Exchanger (IHX) の開発

Spiral fin Extrudedtube

Hea

t tra

nsfe

r coe

ffic

ient

[W/m

2 K]

High pressure side

20% down

Spiral fin Extrudedtube

Hea

t tra

nsfe

r coe

ffic

ient

[W/m

2 K]

Low pressure side45% up

(a) Heat transfer coefficient

Spiral fin Extruded tube

Hea

t tra

nsfe

r rat

e [W

/K]

Heat transfer rate

30% up

(b) Overall heat transfer coefficientFig. 6 Analysis results of heat transfer coefficient

Fig. 7 Extruded tube

4. 実 験 結 果 解析によりスパイラルフィンの有用性を確認できたため,台上にて実証実験を行った. IHX 熱交換量は,解析で得られた結果と同様に,スパイラルフィンは押出し管に対して 30% 向上することが確認できた (Fig. 8).この結果から,同等の熱交換量の場合 IHX の長さはスパイラルフィンの方が押出し管より約 30% 短くすることが可能となる.

Spiral fin Extruded tube

Am

ount

of I

HX

hea

t exc

hang

e [W

]

30% up

Fig. 8 Experimental result of heat exchange amount

5. お わ り に 今回実施した解析と実験によって,スパイラルフィン構造による低圧側熱伝達率と熱交換量の向上効果を確認することができた.この高性能化とそれにともなう高いレイアウト性によって,本開発品は空調の省動力化,更に省燃費化に貢献することができる.

熊本 修司 大野 裕之