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一貫した国際教育に向けて 初等教育プログラム(PYP)・中等教育プログラム(MYP)・ディプロマプログラム(DP)

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一貫した国際教育に向けて

初等教育プログラム(PYP)・中等教育プログラム(MYP)・ディプロマプログラム(DP)

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一貫した国際教育に向けて

初等教育プログラム(PYP)・中等教育プログラム(MYP)・ディプロマプログラム(DP)

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2008 年9月に発行の英文原本 Towards a continuum of international education の日本語版

2014 年6月発行

本資料の翻訳・刊行にあたり、

文部科学省より多大なご支援をいただいたことに感謝いたします。

注:本資料に記載されている内容は、英文原本の発行時の情報に基づいています。

初等教育プログラム(PYP)・中等教育プログラム(MYP)・ ディプロマプログラム(DP)

一貫した国際教育に向けて

International Baccalaureate Organization15 Route des Morillons, 1218 Le Grand-Saconnex, Geneva, Switzerland

International Baccalaureate Organization (UK) LtdPeterson House, Malthouse Avenue, Cardiff Gate

Cardiff, Wales CF23 8GL, United Kingdom

www.ibo.org

© International Baccalaureate Organization 2014

www.ibo.org/copyrighthttp://store.ibo.org

[email protected]

International Baccalaureate Baccalauréat International Bachillerato InternacionalInternational Baccalaureate Organization

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一貫した国際教育に向けて vii

目次

はじめに 1

IBの3つのプログラム 2一貫した国際教育の理念 3

一貫教育の実施 7

プログラムの構造 9初等教育プログラム(PYP) 10

中等教育プログラム(MYP) 10

ディプロマプログラム(DP) 12

「指導」と「学習」 13はじめに 13

「指導」と「学習」の目的――理解のための指導 14

「指導」と「学習」の方法 15

学習環境――協力的な学校文化におけるアクティブラーニング 18

まとめ 19

評価 20IB評価の原則 20

評価方針の策定 23

一貫教育の開発をリードする――教育的リーダーシップ 25効果的で持続的なリーダーシップの構成要素は何か 25

教育的リーダーシップチーム 26

継続的な教員研修への支援 27

言語の一貫性 29母語以外の言語によるIBプログラム学習 30

学内言語方針の策定 31

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目次

一貫した国際教育に向けてviii

特別な教育的ニーズ 32はじめに 32

IBプログラムにおける「特別な教育的ニーズ」 33

行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS 38PYPにおける「行動」 38

MYPにおける「コミュニティーと奉仕活動」 39

DPにおける「創造性・活動・奉仕」 40

学習の集大成 43PYPでの「発表会」 43

MYPでの「パーソナルプロジェクト」 44

DPでの「課題論文」 44

成果を祝う 44

プログラム評価 46自己評価(PYP・MYP・DP) 46

学校訪問(PYP・MYP) 47

評価レポート(PYP・MYP・DP) 47

参考文献 48

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一貫した国際教育に向けて 1

はじめに

本資料は、国際バカロレア(IB)により作成されました。以下の学校を対象として執

筆されています。

•候補校

•IBの3つのプログラムのうち、1つのプログラムを提供することが新たに認定さ

れたIBワールドスクール(IB認定校)

•IB認定校で2つ以上のIBプログラムをすでに実施、または実施を検討している

学校

本資料は、「初等教育プログラム」(PYP)、「中等教育プログラム」(MYP)、「ディプ

ロマプログラム」(DP)の共通点と相違点をまとめたものです。学校が児童生徒のために

一貫した有意義な教育課程を開発するために、国際教育に取り組むIBの一貫教育をどの

ように実施できるかを実用的な指針として示しています。

本資料は次のIB資料と併せてお読みください。

PYP 『Making the PYP happen: A curriculum framework for international primary education(PYPのつくり方――初等教育のための国際教育カリキュラムの枠組

み)』(英語版)

『Making the PYP happen: Pedagogical leadership in a PYP school(PYPのつ

くり方――PYP校の教育的リーダーシップ)』(英語版)

MYP 『MYP―原則から実践へ』

『Interdisciplinary teaching: A guide for schools(学際的な指導――学校向けガイ

ド)』(英語版)(2009 年より入手可能)

DP 『「知の理論」(TOK)指導の手引き』

『「創造性・活動・奉仕」(CAS)指導の手引き』

『「課題論文」(EE)指導の手引き』

『Diploma Programme assessment: Principles and practice(DPにおける評価

――原則と実践)』(英語版)

『DP手順ハンドブック』

『受験上の配慮の必要な志願者について』

IBプログラム全般

『IB learner profile booklet(「IBの学習者像」パンフレット)』(英語版)

『プログラムの基準と実践要綱』

『母語以外の言語によるIBプログラム学習』

『学内言語方針の策定ガイドライン』

『Guide to programme evaluation(プログラム評価の手引き)』(英語版)

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一貫した国際教育に向けて2

IBの3つのプログラム

国際バカロレア(IB)は、以下の3つの国際教育プログラムを提供しています。

•ディプロマプログラム(DP)―1969年設置

•中等教育プログラム(MYP)―1994年設置

•初等教育プログラム(PYP)―1997年設置

[訳注 ] 2012 年には「IBキャリア関連教育サーティフィケイト」(IBCC)が設置され、IBが

提供する国際教育プログラムは4つになりました。本資料に記載されている内容は、英文原本の発行

時の情報に基づいています。

上記のプログラムは、幼児期から高校卒業まで継続した国際教育を提供しています。

また、この3つのプログラムは連続していますが、以下の2つを基本原則としています。

•IBは学校に対して2つ以上のプログラムを提供することを要件としていないた

め、各プログラムは、それぞれの課程において完結するものであること。

•3つの全プログラム、または2つの連続したプログラムを提供している学校では、

それらのプログラムが一貫した有意義な連続性を備えていること。

教師や児童生徒、そして保護者は、プログラムに共通する教育の枠組みに気づくことで

しょう。プログラムはいずれも、「指導」と「学習」に関する一貫した理念に基づいてい

ます。全人的な発達に焦点をあて、国際的な視野を育成することに主眼を置いているので

す。

各プログラムでは、全人教育を推進しています。知的発達や人格的成長、情緒や社会性

の発達に力を入れると同時に「言語」「人文科学」「理科」「算数・数学」「芸術」の各教科

の学習にも取り組むことを伝統とし、学習に励んでいます。3つのプログラムは、西洋の

人文主義的な伝統を出発点としていますが、どのプログラムにおいても非西洋文化が与え

る影響は重要性を増しています。

IB認定校の管理職や教師の熱意のもと、複数のプログラムが実施されることで、各プロ

グラムがつながり合い、国際教育に取り組む一貫教育が現実のものとなります。プログラ

ムにはもともと共通要素がありますが、連続した2つまたは3つのプログラムを実施する

ことの効果は、究極的には学校がどれだけ力を注ぐかにかかっています。一貫性を築き、

「指導」と「学習」に集中し続けるために、学校がどれだけ深く関わるかに左右されるので

す。これには管理職や教師相互のあらゆるレベルでの継続した協力と協コラボレーション

働が必要です。

では、3つのプログラムの一貫性や共通基盤を確かなものとしているのは何でしょうか。

正規の学校教育の期間にわたる一貫教育は、国際教育に取り組むにあたってどのような機

会や洞察を与えるでしょうか。

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IBの3つのプログラム

一貫した国際教育に向けて 3

一貫した国際教育の理念PYP、MYP、DPの原動力は、国際教育に対するIBの理念です。プログラムには、

国際教育の本質をめぐる考えが深く刻み込まれており、「IBの使命」および「IBの学習

者像」として示されています。

「IBの使命」には、国際教育プログラムを推進し、発展させることの総体的な目的が記

されています。

IBの使命

国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より

良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富

んだ若者の育成を目的としています。

この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレン

ジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んで

います。

IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとし

て理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認

めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわ

たって学び続けるよう働きかけています。

IBプログラムでは、「国際的な視野」をより明確な言葉で定義づける試みと、実践を

通じてその理想に近づこうとする努力を、IB認定校の使命の中心として位置づけていま

す。IB認定校の多様性や国際的な視野の概念の複雑性を鑑み、IBは、IB認定校を卒

業する児童生徒に「こうあってほしい」と願う人物像を策定しました。自己の価値観や倫

理観を確立しようと努力をしながら、国際的な視野を育み、開花させるための礎を築くよ

うな人物を描いています。「IBの学習者像」では、このような学習者像が具体的な人物像

として提示されています。「IBの学習者像」は、「IBの使命」を具体化したもので、「国

際的な視野をもつとはどういうことか」という問いに対するIBの答えの中核を担ってい

ます。また、「IBの学習者像」は、学校が「学習」に力点を置くよう導くものです。IB

認定校は「IBの学習者像」に示された人物像を体現する児童生徒を世界に送り出すこと

を誇りに思うはずです。

「IBの学習者像」は、IBの国際教育に対する信念を具体的な価値観に基づいて示して

います。「IBの学習者像」に示される人物像は、IBプログラムで学ぶ3歳から 19 歳の

幼児や児童生徒に適切で達成可能なものです。教師はこれらの人物像を年齢や児童生徒の

発達に適切な形で解釈する必要があります。IBプログラムが受け入れられ、広がりをも

つ理由のひとつには、さまざまな学校文化に応じて、これらの人物像がそれぞれに解釈さ

れているという要素があることを常に念頭に置いてください。

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IBの3つのプログラム

一貫した国際教育に向けて4

IBプログラムでは、幼児や児童生徒がさまざまな背景をもち、豊富な経験をもち合わ

せていることを認識し、その真価を正しく受け止めます。そして、すべての教師は、幼児

や児童生徒が「IBの学習者像」に沿って生涯にわたって学び続ける人となるよう援助を

する責任を担います。

「IBの使命」と「IBの学習者像」は、IBの一貫教育の中核を担っています。

IBの学習者像[訳注]「IBの学習者像」は 2013年に改訂されました。以下は改定後の新しい「IBの学習者像」です。

すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に

共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くこ

とに貢献する人間を育てます。

IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。

探究する人 私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。

ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって

学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

知識のある人 私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究

します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取

り組みます。

考える人 私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判

的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理

的な判断を下します。

コミュニケーションができる人

私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創

造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に

注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。

信念をもつ人 私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動し

ます。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動しま

す。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。

心を開く人 私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると

同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。

多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと

努めます。

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IBの3つのプログラム

一貫した国際教育に向けて 5

思いやりのある人 私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役

に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために

行動します。

挑戦する人 私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合いま

す。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑

戦と変化に機知に富んだ方法で快活に取り組みます。

バランスのとれた人 私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成す

る知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。

また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存し

ていることを認識しています。

振り返りができる人 私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く

考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所

を理解するよう努めます。

この「IBの学習者像」は、IBワールドスクール(IB認定校)が価値を置く人間性を10の

人物像として表しています。こうした人物像は、個人や集団が地域社会や国、そしてグローバ

ルなコミュニティーの責任ある一員となることに資すると私たちは信じています。

「IBの使命」および「IBの学習者像」に加え、IBの一貫教育を実施する学校はIB

資料『プログラムの基準と実践要綱』を注意深く参照しなければなりません。同資料には

IB認定校およびIBがPYP、MYP、DPの実施の成功度を測るための評価規準が提

示されています。

学校は、同資料に示されたすべての「基準」および「実践要綱」を満たすように注力し

なければなりません。これらは学校が実施するプログラム評価のプロセスの一部である自

己評価の基礎となるものです(本資料「プログラム評価」参照)。各学校にとって、IB

プログラムやIBの一貫教育の実施は旅路のようなもので、道を進んでいく中で「基準」

や「実践要綱」についての理解を深めていくことができるということをIBは認識してい

ます。

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IBの3つのプログラム

一貫した国際教育に向けて6

図1

国際教育に取り組むIBの一貫教育

構造

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一貫した国際教育に向けて 7

一貫教育の実施

IBプログラムの長所は、すべてのプログラムが国際教育の重要性と本質について共通

の信念に基づいていることです。また、教師や管理職らが実際に手がけた学校での実践を

通じて発展してきたものであることも長所として挙げられます。3つのプログラムは、い

ずれもこれまでに大きく発展してきましたが、プログラムの原点である概念は開始当初の

ままであり続けています。今後もその概念が変わることはないでしょう。一貫教育は、児

童生徒の成長と同様、滑らかな道のりではありません。1つのプログラムから次のプログ

ラムへ進むには、ある程度の飛躍が必要となる場合もあるかもしれません。しかし、その

道のりには、IBプログラムとしてのアイデンティティーや重要な価値観といった、ある

一定の一貫性があります。2つまたは3つのIBプログラムの実施には、教師と管理職が

共通の理念に基づいて協力し、「指導」と「学習」や、児童生徒の発達について同じ考えを

もって話す必要があります。そうすることで、児童生徒の経験がより一貫して有意義なも

のとなり、学習が非常に豊かなものになるのです。

PYPとMYPで提供されるのは、カリキュラムの枠組みです。一方、DPでは、所定の

カリキュラムが提供されます。この違いには、重要な理由があります。各プログラムは、

アイデンティティー形成期にある年齢の児童生徒の発達ニーズに合うように作られていま

す。一方、学校が地域から求められる教育的要件、文化的状況や優先事項に合わせてカリ

キュラムを編成できるような余裕も必要です。DPでは、世界中の大学への入学資格を生

徒に授与することから、プログラムの規定が多くなっています。

PYPとMYPは一貫した総合的なプログラムで、学校は教師のチームによる協働を通

じて学校の文化的背景に即した独自の内容を開発できます。カリキュラムの枠組みはある

程度の柔軟性を認めており、学校は必要に応じて国や地域が定める教育課程の要件を組み

入れることができます。児童生徒の学習は、担当教師によって学校内で評価されます。

MYPでは、教師が下した評価について、IBによる世界統一基準に照らし合わせたモデ

レーション(評価の適正化)を実施することもできます。同じくDPも一貫した総合的な

プログラムですが、世界中の大学への入学要件を満たすため、カリキュラムと評価のプロ

セスはより詳細に規定されています。DPにおける生徒の学習の大部分は、IBによる外

部試験で評価されます。

PYPとMYPは、誰にでも開かれた「インクルーシブ」なプログラムです。あらゆる児

童生徒のニーズを満たすための柔軟性を備えています。DPは排他的ではありませんが、

生徒が高等教育機関で成功するために必要なすべてを与えることを目的としているので、

「国際バカロレア資ディプロマ

格」(IB資格)の取得を目指すディプロマプログラム(フルディプロ

マ)がすべての生徒に合っているとはいえないかもしれません。

PYPとMYPは、対象とする年齢層の知的欲求や発達ニーズに合うよう、DPとは異

なる構造とアプローチをとる一方、DPでの実りある学習に向けて児童生徒の知的発達や

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一貫教育の実施

一貫した国際教育に向けて8

人格的成長を促します。3つのプログラムは、強固な理念を共通基盤としながらも、それ

ぞれ対象とする年齢層に応じた異なる特徴を備えています。2つ以上のプログラムの実施

を検討する学校は、プログラムの違いを認識し尊重しながら、教師と児童生徒がプログラ

ムの次の段階へと進んでいくのを援助することが課題となります。これは児童生徒自身の

発達になぞらえることができます。7歳と 13 歳、18 歳では、知的、情緒的、社会的、身

体的に多くの違いがあります。彼らは同じように扱われることは望まず、同じ対応をする

ことは効果的ではありません。一方で、児童生徒は人生のある段階から次の段階へ移行す

る際には保護者や教師の手助けが必要です。ある時は、この移行はゆるやかに進むかもし

れません。またある時は児童生徒に飛躍が求められるかもしれません。

2つまたは3つのプログラムを提供する学校の数が増え、それらの学校の校長や管理職、

教師の経験から学ぶことが増えるにつれ、プログラムは徐々に相互に影響し合うことにな

るでしょう。プログラムがそれぞれに適宜、適合し、変化していくことは、それに順応す

ることで児童生徒の「学習」と、「指導」の質を高めることになるため、教育的に理にか

なっています。

国際教育に取り組むIBの一貫教育を実施することは、「指導」と「学習」を向上し、学

校コミュニティーとその文化を強固にするための組織的変化を意味します。一貫教育を実

施するIB認定校は、「振リフレクション

り返り」と、実践の向上、そして長期的で持続的な変化に取り

組みます。そのような学校は外向きかつ前向きで、他のIB認定校との関係を築いたり、

IBコミュニティーや地域社会に貢献したりします。

IBプログラムは開始当初から、教師としての「専クリエーティブ・プロフェッショナリズム

門性の創造的発揮」(Hargreaves 1998)

と、アイデアや実践を試みようとする教師たちの意思の力をすばらしい長所として認識し、

その恩恵を受けてきました。PYPとMYPでは、意図的に、教師が自由に「学習」を革

新し、学校の状況に合わせられるように構成されています。IBプログラムは、教師の専

門性に対して高い信頼を寄せています。さまざまな文化的背景をもつ、革新的で献身的な

IBプログラムの教師はまた、各プログラムの開発に非常に重要な役割を果たしてきまし

た。IBは、教師たちがもたらす豊かで多様な教育的営みの伝統と専門的知識を生かしな

がら、世界中の学校と教師を支援する新たな方法を見いだしていくことを最優先していま

す。学校現場は、3つのプログラムを連携するからこそ生まれる実践的で、多様な、時流

に合った、広範囲にわたる経験を確かなものにする役割を担っています。IBはこのよう

な役割を、各プログラムの開発モデルや実施モデル、そして国際教育に取り組む一貫教育

のモデルの中核に位置づけています。また、その役割は、プログラムと教師、学校の間の

批クリティカル

判的な関係に基づいています(Walker 2000)。

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一貫した国際教育に向けて 9

プログラムの構造

PYP、MYP、DPの構造は、大きく異なります。一方で、以下に挙げる重要な原則

が、3つのプログラムをつないでいます。

「IBの学習者像」に示されているとおり、3つの全プログラムにおいて、児童生徒をカ

リキュラムの中心に据えています。

各教科には独自の方法論や知識体系、意味合いがある一方、児童生徒は、教科間に意味

のある関連づけが行われた時、よりよく学ぶことができると考えています。

プログラムでは、PYPの教科横断的な学習から、関連づけを取り入れたMYPやDPで

の教科学習へとゆるやかに移行していきます。

PYP MYP DP

「探究プログラム」(POI)

――6教科の「学スコープとシーケンス

習範囲と順序」の文書を含む

8教科――ねらい、目標、評価規準を含む

6教科――詳細シラバスと評価の手引きを含む

6つの教科横断的テーマを指導

「相互作用のエリア」(AOI)の5分野と関連づけられた8教科を指導

「知の理論」(TOK)に関連づけられた6教科を指導

言語、算数、社会、理科、芸術、体育(身体・人格・社会性の発達)を組み込んだ、各教科横断的テーマ内での「探究の単元」(UOI)

各教科の単元と、「相互作用のエリア」(AOI)に焦点を置いた学際的単元

各教科と「知の理論」(TOK)、「課題論文」(EE)、「創造性・活動・奉仕」(CAS)

・言語A・言語B・人文科学・理科・数学・芸術・体育・テクノロジー

・言語A1[現「言語と文学」]

・第二言語[現「言語の習得」]

・個人と社会・実験科学[現「理科」]

・数学とコンピューター科学 [現「数学」]

・芸術

探究を支援するための所定

の「PYP指プランナー

導案」

活用が推奨されている

「MYP単元指プランナー

導案」

図2

プログラムの構造

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プログラムの構造

一貫した国際教育に向けて10

初等教育プログラム(PYP)PYPでは、従来の教科学習の重要性を認識しています。「言語」「算数」「社会」「理科」

「芸術」「体育(身体・人格・社会性の発達)」がPYPのカリキュラムモデルを構成してい

ます。各教科における年齢ごとの到達目標は、「学ス コ ー プ と シ ー ケ ン ス

習範囲と順序」の文書に記載されていま

す。学校は、同文書を見本資料として入手することができます。

小学校段階の児童にとって特に重要なのは、文脈の中でスキルを身につけることと、児

童自身に関連する内容かつ従来の教科の境界をこえる内容を探究することです。PYPの

カリキュラムは、国際教育の文脈において不可欠とされる人間の共通性に基づいた6つの

教科横断的テーマが中心となっています。これらのテーマは、従来の教科学習の知識、概

念、スキルに支えられてはいますが、教科の域をこえ、教科横断的な「指導」と「学習」の

モデルに則した形でこれらの知識、概念、スキルを用います。

PYPの教科横断的テーマ 私たちは誰なのか

私たちはどのような場所と時代にいるのか

私たちはどのように自分を表現するか

世界はどのような仕組みになっているのか

私たちは自分たちをどう組織しているのか

この地球を共有するということ

児童は「探究の単元」(UOI:unit of inquiry)の文脈の中でグローバルに重要な諸課題を

探究し、学習します。各「探究の単元」(UOI)では特定の教科横断的テーマに関連した

中心的アイデア (central idea)を取り扱います。学校の「探究プログラム」(POI :programme

of inquiry)は、こうした単元の集合体です。PYPを提供しているIB認定校の教師は、

学校のニーズに合った教科横断的な「探究プログラム」(POI)を協働して開発するこ

とになります。学校は、単元での取り組みを学年ごとや、異学年間で連携させることで、

「探究プログラム」(POI)を教科横断的かつ学年縦断的なものとして明確に位置づける

ことができます。

中等教育プログラム(MYP)MYPのカリキュラムでは、8教科を学習します。教科ごとに、ねらいと目標が規定さ

れています。すべての生徒が5年のプログラム期間にわたって全教科に取り組みます。8

教科は従来の教科の境界をこえた「相互作用のエリア」(AOI :areas of interaction)の5分

野と関連しており、PYPの教科横断的テーマと似た形で人間の共通性に焦点をあててい

ます。

MYPの各教科の目標は、知識とスキル、態度をバランスよく育成するよう設定されて

います。また、「指導」と「学習」の方法の多様性を許容する幅広いものとなっています。

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プログラムの構造

一貫した国際教育に向けて 11

具体的な学習内容の選択と構成は学校に委ねられており、柔軟な対応が可能です。教科内

容は規定されていませんが、教科によっては全生徒が5年間にわたって取り組むべき概念

やトピックの枠組みが規定されています。このような規定は最低限に抑えられ、各学校に

は、生徒のニーズや選択に合わせてトピックの範囲を広げ、扱いの度合いを深めることが

求められています。

学校は、生徒が各教科の最終目標に到達することができるような単元を協働して作り上

げる責任を負っています。単元の設計は、「相互作用のエリア」(AOI)の文脈にともなっ

て教えるべき重要な概念を組み合わせることから始まります。この概念がもととなって、

単元の中心となる問いが設定されます。

「相互作用のエリア」(AOI)は、MYPを特色あるものとしています。全教科に共通し

て適用され、生徒が、各教科を他の教科や実社会とは関連性のないものとして孤立的に捉え

るのではなく、教科内容と実社会との関連性に対しての認識を高められるよう働きかける

ことを目的として、MYPに組み込まれています。5つの「相互作用のエリア」(AOI)

には、それぞれを分ける明確な境界線はなく、むしろ融合して、生徒のMYPでの学びを

充実させるための文脈を形成しています。

MYPの「相互作用のエリア」(AOI) 学習の方アプローチ

法(approaches to learning)

コミュニティーと奉仕活動

人間の創造性(改訂前は、「ホモ・ファーベル」)

多様な環境

保健教育と社会性の教育

「相互作用のエリア」(AOI)と各教科を通じて、MYPでは、知識を統合された総体

的なものとして示しています。また、スキルの習得や自己認識の発達、個人的な価値観の

育成を強調しています。そして、生徒はより幅広く、より複雑なグローバルな課題に対す

る認識を高めることを期待されます。

MYPにおける学際的学習とは、生徒が2つ以上の教科の知識体系や考え方を理解し、そ

れらを統合して新たな知識を創造するプロセスです。これはMYPの中心となる特徴で、

教師の単元指導や生徒の学習成果物、評価規準にみることができます。

学際的学習は、学際的理解の推進を図るものです。生徒は2つ以上の教科や確立された専

門分野の概念や方法、コミュニケーション形態を用いて、現象を説明し、問題を解決し、

物を作成し、問題を提起します。1教科の学習だけではあり得なかったであろう、こうし

た取り組みを成し遂げることで、生徒は特定のトピックに関する学際的理解を示すことに

なります。

PYPと同様に、学校はMYPの5年間を通じて、教科内や学際的な単元を教科横断的

かつ学年縦断的に計画し、学年ごとや異学年間での単元の関連づけを協働を通じて模索し

なければなりません。

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プログラムの構造

一貫した国際教育に向けて12

ディプロマプログラム(DP)DPは、6つの教科が中心となる核(「コア」)を取り囲んだ形のモデル図で示すことが

できます。生徒は各教科から 1科目ずつ計6科目を選択し、また「コア」の必修3要件を

履修します。

DPの「コア」 課題論文(EE :extended essay)

知の理論(TOK :theory of knowledge)

創造性・活動・奉仕

                      (CAS:creativity, action, service)

プログラムモデルの各教科は、シラバスと評価モデルがきわめて詳細に規定されていま

す。ほとんどの教科で教師にはある程度の選択の余地が与えられていますが、PYPや

MYPで学校や教師に与えられている柔軟性に比べると選択には制限があります。これは

DPが大学前段階のコースで、最終的に試験が実施されるためです。DPは総合的な2年

間のカリキュラムとしてデザインされており、修了時には、さまざまな国の教育制度の要

件を満たすことができるようになっています。

世界中の高等教育機関へ入学するために必要なスキルと資格を提供する一方で、さらに

DPは、生徒が日々取り組んでいる教科学習と実社会がどのように関連しているかについ

て、認識と理解を高められるよう働きかけます。「知の理論」(TOK)の主なねらいは、

生徒が日常生活において自分の学習者としての体験を振り返り、教科学習と思考、感情、

行動との関連づけを促すことです。

「知の理論」(TOK)の「考察を促すための問い」(guiding question) は、各DP科目の

「指導の手引き」に記載されており、科目担当教師には日頃の指導を通じて「知の理論」

(TOK)が取り扱う課題との関連性を築くことが期待されています。

DPは複数の教グループ

科の要件を満たす学際的科目として、「言語と文学」(グループ1)と「芸

術」(グループ6)の要件を満たす「文学とパフォーマンス」と、「個人と社会」(グループ

3)と「理科」(グループ4)の要件を満たす「環境システムと社会」の2つのコースを提

供しています。さらに「課題論文」(EE)では、DP科目として認定されている科目から

トピックを選ぶ代わりに、世界を対象に学際的な研究を行うことができる「ワールドスタ

ディーズ」のカテゴリーを設けています。「ワールドスタディーズ」では、生徒が2つ以上

の教科における知識と方法論を用いてグローバルな課題に焦点をあてることができます。

生徒が複数教科に関わるグローバルな課題に取り組み、学習全般を強固なものとできるよ

う、IBは今後もDPの生徒に学際的な学習の機会を提供する方法を検討していきます。

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一貫した国際教育に向けて 13

「指導」と「学習」

[ 教育の目的とは ]自己の内的環境と外的環境の両面における、身体的、社

会的、倫理的、美学的、精神的な側面を理解し、修正し、享受するために、

個人の能力を最大限に育てることである。

ピーターソン(Peterson 1987: 33)

教育者の責任はもはや、優れた数学者、優れた生物学者、優れた歴史学者を

生み出すことではない。学校の使命は、若者たち――明日の意思決定を担う

者たち――が、急速に変化し新たな世界秩序が広がる複雑で多文化的な社

会に生きるための準備をすることである。もちろん、教育における認知的要

素は、知的、専門的スキルの習得の基礎である。さらに重要なのは、文化交

流という文脈での学習プロセスでさまざまな態度を身につけることである。

ルノー(Renaud 1991: 8)

はじめに本章では、3つのIBプログラムを支えている「指導」と「学習」の鍵となる原則を解

説します。ここに記述された教育方法は、子どもがどのように学習するかに関する構成主

義的な理解に基づいています。構成主義とは、現在では広く用いられ受け入れられている

認知に関する理論です。知識は受動的に学習されるものではなく能動的に築くものである

とされ、理解やパフォーマンスを向上させるためには、学習者がすでにもっている概念に

関連づけ、働きかけることが重要であるとされています。

「指導」と「学習」の構成主義的理解の観点から、IBのプログラムは、若者が知的好奇

心をもち、自発的な生涯学習者となるために必要な知識や概念理解、スキル、振り返りの

実践や姿勢を身につけるよう働きかけています。IBの一貫教育では、「学習」は成果物で

はなく、プロセスであると認識しています。あらゆる年齢の児童生徒が、世界のあり方に

ついて、自分の信念や知識、経験をたずさえて学校にやってきます。そうした概念は、新

たな経験や学習を経て見直され、修正されます。そのため、学習のプロセスとは、世界の

あり方についての概念を築き、試し、修正する成長の道のりであり、このプロセスにより

児童生徒それぞれが、自分の人生や自分を取り巻く世界に意味をもたせることができるの

です。さらに自律的な生涯学習者となるために、児童生徒は、自分自身の学び方や得意な

学習スタイル、長所と限界を理解しなければなりません。そして何よりも、IBの児童生

徒にとっての「学習」は、厳しくありながらも、意欲を喚起し、チャレンジに満ちたもの

であり、21 世紀を生きる人生に備えるものであるべきです。

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて14

IBプログラムの実施にあたって、教師は幅広い指導方法を用い、児童生徒の学習を支

援するような方法で指導することが期待されます。教科横断的な「探究の単元」(UOI)

に基づいたPYPの教室は、教科学習に焦点があてられているDPの教室とは非常に異な

るものとなるでしょう。しかし、ここで説明している原則やアプローチは、3つの全プロ

グラムに同等にあてはまるものです。

IBプログラムの「指導」と「学習」は、「IBの学習者像」の文脈に沿って見る必要が

あります。「IBの学習者像」では、IBの学習者が目指すべき 10 の人物像が挙げられて

います。そのうち、「探究する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションがで

きる人」「振り返りができる人」は、認知的能力の育成を意図しており、「信念をもつ人」

「心を開く人」「思いやりのある人」「バランスのとれた人」「挑戦する人」は、気質や態度

を強調したものです。3つの全プログラムにおける「指導」と「学習」において、認知的

なスキルと能力は、気質と態度に内包されているものとして認識されています。「学習」

は、意味のある、実社会の文脈においてなされるべきであり、学習者の声が重要視されな

ければなりません。このためにIBの教師は、まず自分自身が「IBの学習者像」を体現

する者として模範となり、自分自身を生涯学習者とし、児童生徒が自律的な学習者となる

道のりを支援する能力と意思をもつことが求められます。

「指導」と「学習」の目的――理解のための指導「指導」と「学習」の目的の中心は、児童生徒が世界を理解し、問題を解決し、コミュニ

ケーションを図るために用いる概念を身につけ、広げていくのを援助することです。知識

は情報体系で構成されています。新しい概念は、知識体系と既存の概念との意味のある関

連づけが成立することで形成されます。このような関連づけは世界についての深い理解や

問題解決の能力の向上につながります。人間は、元来、意味づけをするものです。優れた

指導における課題とは、より複雑化する世界において児童生徒が効果的かつ自主的に機能

するために必要な精緻な理解の極みに達するのを援助することにあります。

理解のための指導には、「考察を促すための問い」または「鍵となる問い」(key question)

が欠かせません。このような開かれた生成的な問いを作成する中で、教師はその特定の情報

体系をなぜ教えるのかという理由に焦点をあてることになります。その結果、教える知識

やスキルが適切かつ意味のあるものだと確認できるのです。PYPの「探究の単元」(UO

I)の枠組みづくりや、MYPの「相互作用のエリア」(AOI)を通じての学習、DPで

の「知の理論」(TOK)と教科学習の連携づくりにおいて、これらの問いがすべての年齢

層の児童生徒の概念理解の発達に非常に効果的であることが実証されています。IBの教

師には、児童生徒に鍵となる概念を理解させ、概念的思考を発達させるため、広く中心的

な概念にねらいを定め、あらゆる機会をとらえて意味のある関連づけを促すことが求めら

れます。

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて 15

21世紀を生きるための効果的な学習とは、以下を踏まえたものです。

•知識ベースは急速に拡大しており、学習者には、ただ知識を習得するのではなく、

知識を処理し判断することが求められます。

•世界は急激に変化しており、学習者には、ただそれに対応するだけではなく、未知

を予測し変化に適応することが求められます。

•就職志願者には、スキルや学習を転移させる能力がより一層求められます。

•協働して物事に取り組んだり、問題解決したりすることを学ぶことが、ひとりで取

り組むことを学ぶのと同じくらい重要になっています。

•脳がどのように学習するかについて深く解明されてきており、「指導」と「学習」は

それを踏まえたものでなければなりません。

•学習者が効果的に活動するためには、学習者の自信を育てることが、学習面での成

長と同様に重要です。認知能力に加えて、情緒面も学習において重要な要素です。

•建設的な批クリティカルシンキング

判的思考は、個人および集団の生存に必要な手段です。児童生徒は、無

意味なものと意味のあるもの、真実とプロパガンダを見分け、十分な情報に裏づけ

られた自分自身の考えによる判断を下せるようになるために学習しなければなり

ません。

「指導」と「学習」の方法「指導」と「学習」の方法を明確にするために、以下の3つのカテゴリーに沿って解説します。

•学び方を学ぶ

•体系的な探究

•批判的思考

実際には、これらのカテゴリーは相互に重複するものであり、補完的な方法も取り上げ

ます。

学び方を学ぶ

「学び方を学ぶ」には、児童生徒が自分自身の実績を現実的に評価し、自らを律すること

が求められます。

効果的な学習者は、自分自身の学習プロセスを認識し、現実的に評価し、コントロール

しているため、自身が何をしているかをモニタリングし、効果的な対応をすることができ

ます。ただ単にスキルや知識の数を増やしているのではありません。

メタ認知とは、振り返りを行う思考や態度、そして学習をモニタリングし、コントロー

ルするのに用いられる能力を指す言葉です。メタ認知は、さらに2つの概念に分けられま

す。いずれも効果的な実践に必要な概念です。

•メタ認知的知識――学習者が自分自身に関してもっている知識、およびどのような学

習方法が自分にとって最適かに関する知識

•メタ認知的パフォーマンス――パフォーマンス向上のために自己認識を用いる能力

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて16

効果的な学習環境では、メタ認知的知識やメタ認知的パフォーマンスは教わるのではな

く、育まれます。年少期には全児童が必然的にメタ知識的理解を発達させることになりま

す。それは「人間であること」は自己認識や学習への欲求、意思決定の必要に特徴づけら

れているためです。教育において難しいのは、学習者が効果的に判断を下し問題を解決す

るのに役立つ、前向きで現実的な自己理解を育成することです。メタ認知的知識とメタ認

知的パフォーマンスを育むこととは、児童生徒が絶えず自分自身の課題を計画し、振り返

り、モニタリングし、確認して、自己評価をすることが必要となるような学習環境と指導

実践を提供することです。

学習者には、それぞれ異なる方法での思考プロセスがあります。二人として同じ学習者

はいません。児童生徒にはそれぞれの学習スタイルがあり、自分の能力をどのように使う

かについてもそれぞれの考えがあります。同じ児童生徒でも学習の内容によって、学習ス

タイルは変わります。このため、こうした背景を無視して学習や勉強の方法を教えたり、

すべてにあてはまる唯一の方法を教えることは難しいのです。児童生徒はメタ認知的課題

に役立つような方法を教わる一方で、それを実際にどのように応用するかを学んだり、さ

まざまなアプローチに触れたりする必要があります。児童生徒にどのような学習方法がそ

れぞれにとって最適かを教えることはカリキュラムと一体化されたもので、独立した指導

項目ではありません。

教師は、児童生徒に身につけてもらいたいと思う振り返りの実践の模範を示す必要があ

ります。また、独自の指導と学習スタイルを見つけるべきです。「学習の方アプローチ

法」と「評価方

法」は、さまざまな学習スタイルに合うように多様である必要があります。児童生徒は個

人の学習課題のねらい、および優れたパフォーマンスとは何かを理解しなければなりませ

ん。形成的評価は、長所と短所に関して明確なフィードバックがなされるので、児童生徒

がどのように自分自身のパフォーマンスを向上させることができるかをより良く理解する

のに役立ちます。

体系的な探究

「IBの学習者像」には、IBの学習者は「探究する人」になるよう努力することが記

されています。そして「探究する人」になるとは、生まれもった好奇心を高め、自律的な

生涯学習者となるために必要なスキルを身につけるプロセスであることが説明されていま

す。探究では、世界を理解するために社会的環境や自然環境に積極的に関わり、その結果

として、実際の体験と収集した情報との関連性について振り返りを行います。また探究に

は知識の統合、分析、操作が伴います。この項では、目的ある生産的な探究を児童生徒に

促すために教師が用いる方法や支援について説明します。

児童生徒は、文脈に応じて、自分自身で立てた問い、もしくは、あらかじめ与えられた

問いに対する答えを探りながら、重要な諸課題を検討していきます。3つのプログラムで

は、児童生徒がそれぞれの年齢に応じた形で以下ができるようになることを目標としてい

ます。

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて 17

•自分で探究をデザインすること

•自分の探究に役立つさまざまな方法を評価すること

•諸課題に対する自分なりの答えを見つけたり、問題解決したりするのに役立つ調

査、実験、観察、分析を行うこと

探究は、児童生徒がすでに理解している事柄からスタートします。そして、現在の理解

と、新たな内容についての探究に取り組むことから得られる新しい情報や経験とを関連づ

けることにより、能動的に意味を構築することを目指します。

最も広義に捉えるならば、探究とは、児童生徒が現在の理解レベルから、より深い、

新しい理解レベルへと移行するためのプロセスです。このプロセスは、児童生徒の手で

開始する場合もあれば、教師が開始する場合もあります。探究は、以下の活動の多くを

伴います。

•推測、調査、疑問の提起

•既習事項と現在の学習の関連づけ

•調査研究

•理論の構築と検証

•データ収集、発見事項の報告、説明の構成

•既存のアイデアの明確化、事象に対する認識の再評価

•仮説の設定

•特定の立場への立脚と、その立場からの擁護

•さまざまな方法での問題解決

•分析と評価

•代替的な説明の検討

探究に関する取り組みは、PYPでは教科横断的モデル、MYPとDPでは、より学問的

アプローチへとプログラムによってシフトします。児童生徒はIBの一貫教育を通じて、

発達段階に合わせた年齢に適切な形で、「探究する人」となるのに必要なスキルや方法、知

識を教わられなければなりません。

批判的思考

「IBの学習者像」には、IBの学習者は「考える人」になるよう努力することが記さ

れています。複雑な問題に取り組み、判断を下すために批クリティカル

判的かつ創造的に考えるスキル

を使うと説明されています。批クリティカル

判的に考えるとは、好奇心をもち、疑問を提起し、関連づ

け、あり得る他の理由や説明がないかを探し、挑戦し、一歩下がって客観的に物事を見る

ことです。そのため児童生徒は、適切な文脈での批クリティカルシンキング

判的思考の手段と、それを厳格に応用

する方法を教わらなければなりません。

批クリティカル

判的に考えるとは、文章や議論、意見などで示されたことをただ受け入れるのではな

く、それらを振り返り、考え、分析することを通じて、自分自身の判断を形成することで

す。批クリティカル

判的に考えるとは、信念をもつに至った理由やその意味を探究し、理解することで

す。21 世紀の知識社会は、かつてないほど、さまざまな形態をした大量の情報が多様な情

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて18

報源からあふれています。そのため児童生徒は、以下ができるよう批クリティカルシンキング

判的思考を学ぶこと

が不可欠です。

•読んだり聞いたりしたことの妥当性と信憑性を判断すること

•読んだり聞いたりしたことの背後にある態度や由来について疑問を提起すること

•意見を構築するための支えとなる自信と経験を身につけること

また、批クリティカルシンキング

判的思考のスキルを十分に活用することのできる、適切かつ刺激的で、チャレ

ンジに満ちた重要な問題に取り組む機会をIBの児童生徒に与えることが不可欠です。

学習環境  ――協力的な学校文化におけるアクティブラーニングメタ認知と体系的探究、批

クリティカルシンキング

判的思考に基づいた教室では、児童生徒は意欲が喚起され、

知的に取り組みます。教科や課題、年齢層により、指導方法はさまざまです。指導方法に

は、クラス単位の一斉授業や活動、個人またはグループでの取り組み、ロールプレイやシ

ミュレーション、調査研究に焦点をあてた活動などがあります。どのようなアプローチで

も学習者の「声」が重視されます。児童生徒は常に本物の問題や課題に取り組み、基礎的

なスキルや知識を学び、実社会の状況にあてはめて理解を深めるべきです。

学校の学習環境とは、学習が行われる場であり状況のことです。これには廊下や食堂、

校庭、教室、さらに学校外の環境も含まれます。学校の学習環境は非常に重要です。IB

のプログラムでは特に次のような環境が求められます。

•「IBの学習者像」に示される人物像の具現化を全面的に推進する環境

•3つのプログラムの価値を明確にする環境

•学校外の環境を重視し、児童生徒の生活の重要性を認識する環境

•学習と学習者を重視する環境

メタ認知と体系的探究、批クリティカルシンキング

判的思考は、指導のレシピではありません。「指導」と「学習」

の方法であり、児童生徒の学び方に関する特定の信念を前提としたものです。児童生徒は

知的に挑戦し、心を開き、好奇心をもつことが重視されず尊重されると思わなければ、他

の考え方に挑んだり、意見に異議を唱えたり、並外れた質問をしたりはしないでしょう。

教師が学習環境をつくりますが、児童生徒はどのような学習環境がつくられ、教室の環境

がどのように学校の環境に適合しているかを察知した上で、その環境にどのように対応す

べきかを理解します。学習環境そのものがリソースとなります。そのため学習環境は、刺

激的で、自由闊達な学習が推進されるものであるべきです。

知識体系の学習とスキルの習得、態度や気質の育成は、「IBの学習者像」に基づき、効

果的な学習環境の中で、児童生徒自身や地域社会、地域の環境、世界にとって関連性と意

味のある文脈を伴った形で行われなければなりません。また、知識やスキルにはさまざま

な視点を通じて取り組み、できる限り多くの方法で他の学習分野や文脈と関連させるべき

です。

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「指導」と「学習」

一貫した国際教育に向けて 19

「学習」とは、教師によって促され、仲介され、模範が示されるプロセスです。IBの

児童生徒は、最大限に効果的に学習できるように学習のプロセスを十分に理解しなければ

なりません。すべてのIB教師は「学習」の指導者となる必要があります。教師は、児童

生徒がどのようにしたら最も良く学べるか、そしてその学習がどのように受け止められる

かを児童生徒自身が理解するのを援助しなければなりません。また、児童生徒が置かれる

学習環境とその環境への対応の仕方について理解するのを手助けします。児童生徒が自分

の成長について意識的に振り返ることのできる学習者となるのを後押しする役目もありま

す。そして、児童生徒が毎日の暮らしの中で学習を不可欠で、生活と切り離せない、素晴

らしいものとして重視するように促さなければなりません。

まとめPYP、MYP、DPの児童生徒は次のような時に最も良く学習できるとされています。

•これまでに身につけた知識が重要と見なされている時

•学習が文脈の中に位置づけられている時

•文脈が適切である時

•協働して学習できる時

•学習環境が刺激的である時

•学習に役立つ適切なフィードバックがなされる時

•多様な学習スタイルが理解され、考慮されている時

•安心でき、アイデアが重視、尊重される時

•価値観や到達目標が明確である時

•学校に好奇心を奨励する文化がある時

•学習に対する評価がどのようになされ、学習の証エビデンス

拠をどのように提示すればよいか

を理解している時

•自分の学び方について意識し、理解している時

•メタ認知、体系的探究、批クリティカルシンキング

判的思考が学校の指導の中心となっている時

•学習が意欲を喚起し、チャレンジに満ちていて、綿密であると同時に関連性と意味が

あるものである時

•学校での全活動が、自律的な生涯学習者となることに結びつくものとして奨励され

ている時

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一貫した国際教育に向けて20

評価

IB評価の原則3つの全プログラムにおける評価は、教室での効果的な「指導」と「学習」を支援し、

奨励するものでなければなりません。また、専プロフェッショナル

門職としての判断に基づくものであると同

時に、プログラムのもつ多様な文化的側面を反映したものであるべきです。評価は、学習

者の理解度を測定することを目的としています。そのため教師はあらかじめ学習者がその

理解を示すことができるような評価とはどのようなものかを決めておくことが不可欠です。

評価には、次の2種類があります。

•総括的評価(summative assessment)――通常、コースまたは単元の修了時において、

児童生徒の達成度を測るもの

•形成的評価 (formative assessment)――児童生徒の学習ニーズを特定し、学習プロセ

スそのものの一部をなすもの

この2つの評価の機能は、明らかにかなり異なりますが、2つの評価手法が上記2つの

どちらか一方だけの目的のために使われることもしばしば見受けられます。評価結果の解

釈および適用の方法が異なります(Black 1993、William and Black 1996)。これら2つのア

プローチは相互に影響し合い、互いに補完するべきものです。

3つの全プログラムに共通した重要な評価原則があります。

•評価は、計画と指導、学習と一体化したものであること

•評価システムと評価の実践が、児童生徒と保護者に明確にされていること

•総括的評価と形成的評価のバランスがとれていること

•児童生徒間で評価し合う「児童間評価活動」、「生徒間評価活動」、および自己評価

の機会が設けられていること

•児童生徒が自分自身の学習を振り返る機会が設けられていること

•新たな学習を始める前に、児童生徒の現在の知識や経験が評価されていること

•今後の学習の土台となるようなフィードバックがなされていること

•保護者への報告が有意義なものであること

•評価データは、指導と学習および児童生徒個人のニーズに関する情報提供のため

に分析されること

•評価によりカリキュラムの効果が測られること

一貫教育における評価

評価に関する考え方およびIBの評価原則は、3つの全プログラムに適用されます。評

価システムには以下の理由によりプログラムによって違いがあります。

•児童生徒の特定の年齢および成長段階のニーズに合わせるため

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評価

一貫した国際教育に向けて 21

•学校が従わなければならない国の教育課程の要件を取り入れるため

•世界中の高等教育機関から求められる要件を満たすため

PYPでは、すべての評価が学校内の教師が評価を手がける内部評価(internal

assessment)ですが、DPでは大部分の評価が学校外で実施されるIBによる外部最終評価

(external assessment)です。MYPではその間の橋渡しとして、最終評価を学校内で行う一

方、その内部評価を学校外で認証する仕組みを取り入れています。IBには、学校および

教師に対して3つの全システムのプロセスおよび手順を明確に説明するとともに、透明性

を担保する責任があります。一方で、学校には1つのシステムから次のシステムへの移行

をしっかり管理し、教師、児童生徒、そして保護者が各システムの特徴と仕組みについて

完全に理解するようにする責任があります。

PYPにおける評価

PYPでの評価は、学習のプロセスについてのフィードバックを提供することを本来の

目的としています。評価はすべてPYPの教師によって行われます。IBは各教科におけ

る全体的な到達目標は提示しますが、学校外でのモデレーション(評価の適正化)や外部

試験は提供していません。

PYPの教師は、児童が各自の学習体験を理解するために用いる多様で複雑な方法を考

慮して児童の取り組みを評価する手法を用います。PYPにより提案される評価方法や評

価ツールなど――ルーブリック(評価指標)、見本、事例記録、チェックリスト、コンテニュ

アム(評価測定表)、学習成果物のポートフォリオ――は、さまざまな知能(intelligence)

や知るための方法(ways of knowing)に対応できるようにデザインされています。こうし

た評価方法は、場合によっては、実社会の解決すべきリアルな問題に取り組んだ際の児童

の反応やパフォーマンスを記録する効果的な方法ともなります。このような正式な評価方

法は、児童のパフォーマンス、基礎能力レベル、プログラムの有効性などを評価するため

に、標準学力検査などの他の評価形態とともに用いられることがあります。

PYPの最終年次で児童は探究の集大成として、PYPの「発エキシビション

表会」に取り組みます。

発表会は、個人責任および共同責任の精神のもとに行われる教科横断的探究であると同時

に、総括的評価の活動でもあり、PYPから中等教育への進学を祝う象徴的な祝典、儀式

です(本資料「学習の集大成」の「PYPでの『発表会』」参照)。

MYPにおける評価

MYPでの評価は、PYPと同様、将来の学習に向けての基礎を提供することを本来の目

的としています。MYPを提供しているすべてのIB認定校は、プログラムの目標に沿っ

た適切な評価と報告手順を確立する責任があります。IBは、MYPを対象とした外部試

験は提供していません。教師が評価を実施します。評価は、各教科の「指導の手引き」に

規定されたMYP評価規準に基づく教師の専プロフェッショナル

門職としての判断に委ねられています。学校

は、この評価システムのもと、各種試験や、国の教育課程の要件などを含む、学習目標に

適合した複数の評価を組み込むことができます。

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評価

一貫した国際教育に向けて22

学校は、生徒のニーズと地域の状況に沿ったカリキュラムと評価手順を構築することが

期待されます。すべての学校は、MYP教科の「指導の手引き」に規定された評価ガイド

ラインおよび評価規準に基づいた評価手順を開発しなければなりません。また、教師は、

生徒に各教科の目標に関連して自分が何を達成したかを示すための機会を十分に与え、公

正に生徒を評価しなければなりません。MYPで推奨されている評価方法は、PYPと

DPでの評価方法に類似しています。

学校は、MYPを修了する生徒に対して、1から7の7段階評価で示されたIBの公式

成績表とMYP修了証 (MYP certificate) の交付を受けることができます。交付を希望する

学校は、教師による内部評価について、IBが実施する外部モデレーション(評価の適正

化)を経ることで評価の標準化を図ります。IBカーディフ事務局へ提出する成績結果に

は、MYPの第5年次の公式MYP教科規準と、これに対応する達成レベルを根拠として

用いなければなりません。IBの公式成績表の交付を希望しない学校は、内部評価が要求

された基準を満たしていることを保証するため、指定された時期に評価のモニタリングを

受けることが必須となっています。

MYPの最終年次で生徒は探究の集大成として、「パーソナルプロジェクト」に取り組

みます。パーソナルプロジェクトは、長期間にわたる、規模の大きなプロジェクトで、内

部で評価されます。生徒は、プロジェクトに自発的に取り組み、創造性を発揮します。プ

ロジェクトは、生徒各自の「相互作用のエリア」(AOI)に関する理解を反映し、「学習

の方アプローチ

法」を通じて習得したスキルを応用したものでなければなりません。MYPのパーソ

ナルプロジェクトは、PYPの発表会と同様、上級学年への進学を祝う儀式と捉えられ、

DPでの「課題論文」(EE)への素晴らしい準備となります(本資料「学習の集大成」の

「MYPでの『パーソナルプロジェクト』」参照)。

DPにおける評価

DPの正規評価は、総括的評価です。各コースの修了時、もしくは修了時に向けた段階

での生徒の達成度を記録するようデザインされており、最終資格の審査に用いられます。

最終評価は限られたチャンスでの評価で、規準に準拠してパフォーマンスを評価します。

一方で教師は、PYPとMYPと同様、2年間のコースで生徒の学習を促すための評価を

取り入れなければなりません。評価対象となる理解の性質に合わせたさまざまな評価方法

を用いるのです。PYPとMYPと同様、DPにおいても評価の最も重要な目的は生徒の

将来の学習を支援し、奨励することです。評価結果の信頼度の高さは非常に重要ではあり

ますが、生徒の学習より優先してはなりません。

「創造性・活動・奉仕」(CAS)を除くすべてのコースが、IBに任命された外部試験官

によって評価されます。各コースにより異なる評価モデルが適用されますが、どのコース

でも内部評価の対象となる重要な評コンポーネント

価要素を含んでいます。DPの2年間に、生徒は内部

評価用の課題に取り組みます。その中には、担当教師が科目固有の規準に従って採点した

上で、外部試験官よるモデレーション(評価の適正化)を受けるものもあります。内部評

価用の課題では、試験することが適切でない理解や能力の領域が取り扱われています。生

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評価

一貫した国際教育に向けて 23

徒はコースの中で、教師の指導の下、外部評価用の課題にも取り組みます。この課題は、

後に外部試験官によって評価されます。2年間のコース修了時には、生徒はほとんどの科

目で試験を受けます。試験は、外部試験官チームによって評価されます。試験は、南半球

と北半球の学校年度に対応できるよう年2回実施されており、各科目で1から7の7段階

評価が生徒に授与されます。

「課題論文」(EE)は、特定のトピックに的を絞った詳細な探究です。高レベルなリサー

チスキル、記述力、知的発見および創造性を育成することを目的としています。生徒が、

自分自身で選択したトピックに関する研究に自立的に取り組む機会となっています。研究

は、正式な書式で構成された論文にまとめます。PYPの発表会やMYPのパーソナルプ

ロジェクトと同様、DPの課題論文(EE)もまた学習の集大成といえます。そして、高

等教育機関での学問的なチャレンジへの十分な準備となるものです(本資料「学習の集大

成」の「DPでの『課題論文』」参照)。

評価方針の策定

評価方針の文書は、学校コミュニティーの全セクションに対して開示すること。

IB資料『プログラムの基準と実践』

[訳注 ] 旧版の『プログラムの基準と実践』より。最新版(2014年刊)では、「学校

は、評価に関する考え方、方針、および手順を学校コミュニティー全体に伝えるこ

と」となっています。

各IB認定校は、学校の理念および評価に対する見解を反映した評価方針を有すること

が要件となっています。評価方針の策定は、多くの場合、学校が自校の理念に焦点をあて、

プログラム全体のねらいや目標についての共通理解を得る契機となります。

評価方針は、学校での評価プロセス全体に関して、教師が明確に理解するために作成す

る文書です。文書は一度作成したら不変というわけではなく、学校の評価に関するニーズ

に合わせて常に改編するべきものです。評価方針の策定には、協働的な「振り返り」が重

要であり、教師と管理職の双方が関わらなければなりません。

評価方針を策定し、合意に至ったら、学校全体に適用します。評価方針は明確でなけれ

ばならず、また、生徒および保護者に伝えられる必要があります。評価方針には以下の項

目が含まれます。

•評価目的(何をなぜ評価するのか)

•評価原則(効果的な評価を特徴づける要素は何か)

•評価実践(どのように評価するのか)

学校は、評価方針を作成するプロセスにおいて、学校コミュニティーが協働することの

意義を念頭に置く必要があります。最も重要なのは、評価方針を策定するために学校内に

生じる協働です。文書を作成することが一義的な目的ですが、プロセスが内包する協働的

な性質や、文書作成に関連して行われる議論に最も価値があります。関係者が関わること

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評価

一貫した国際教育に向けて24

で、評価方針は、真に学校の理念を反映したものとなるのです(本資料「一貫教育の開発

をリードする――教育的リーダーシップ」参照)。評価方針を定期的に見直すための体制も

確立すべきです。

学校が評価方針を策定する際には、以下のような問いが役立ちます。

•学校の評価に関する考えは、どのようなものか。

•学校の評価に関する考えは、学校の使命とどのように一致しているか。

•この考えを達成するために、どのような実践を行うか。

•学校コミュニティーの主な集団(児童生徒、教師、保護者、管理職)にとって評価

の目的は何か。

学校は、評価実践を定め、評価方針の一部として発展させることが有用と感じるでしょ

う。そうした評価実践とは、学校で実際に実践されるもので、児童生徒の成長をどのよう

に評価し、記録し、報告するかに関するものです。

評価に関する合意を確立する際には、以下のような問いが役立ちます。

•評価をどのように体系づけるか。

•どれくらいの頻度で評価するか。

•何を評価するか。

•誰がどのように評価に責任を負うか。

•評価の情報をどのように記録するべきか。

•評価の情報をどのように分析し、報告するべきか。

•評価の情報をどのように児童生徒および保護者に報告するか。

•誰が評価の情報にアクセスできるか、情報はどこに保管するか。

•どれくらいの頻度で評価実践を見直すか。

•満たさなければならない定められた必須要件はあるか。

•どのようにIBの到達目標と地域または国の教育課程の要件を組み合わせるか。

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一貫した国際教育に向けて 25

一貫教育の開発をリードする――教育的リーダーシップ

教育活動全般の責任者としての校長や管理職の役割とは、リソース ――人、時間、資金

―― を有効活用して、学校の使命に取り組むために、「指導」と「学習」の質を高めるこ

とです。また、学校全体の「指導」と「学習」の質を高めるために、方向性とガイダンス

を提示し、優れた実践の模範となることでもあります。これらは同等に重要です。

教室の変化は、学校全体の改善があって初めて起こります。このプロセスで校長や管理

職のリーダーシップが果たす役割は重要です。国際教育に取り組む一貫教育の実施の成否

には、校長や管理職のリーダーシップによる支援をはじめ、理解と実践的関与がより重要

な要素として関わってきます。このことは、3つのIBプログラムを個々に実施する場合

も、一貫教育として複数を実施し、発展させる場合にもあてはまります。

効果的で持続的なリーダーシップの構成要素は何かIB認定校では、校長や管理職が効果的に力を発揮するためには、まず第一に自分自身を

教育活動全般の責任者として認識しなければなりません。一個人のカリスマ的リーダーに

よるビジョンと運営が即時の革新をもたらし、学校コミュニティー全体に影響を与えるこ

ともあるかもしれません。一方で、チームによるリーダーシップというモデルは、カリスマ

的リーダーシップと比べて、代え難いメリットがあります。特に教師や校長、管理職の入

れ替わりが激しい場合には、チームによるリーダーシップはメリットになります。チーム

にリーダーシップを委ねることで持続的な教育的リーダーシップ(pedagogical leadership)

の構築が達成される場合が多くあります。これはIBの一貫教育プログラムを実施する際

に特にあてはまります。1つのキャンパスの1つの学校で一貫教育プログラムを実施する

場合に限らず、1つの学校が複数のキャンパスをもつ場合や、1つの学区域内に複数の学

校をもつ場合にもあてはまります。

IB認定校は「学び合う者たちのコミュニティー」であることを前提として、校長や管

理職は、教師がリーダーシップの役割を受け入れ、楽しめるように教師を動機づけ、チャ

レンジを与え、力づけるよう心を配るべきです。また、そのプロセスにおいて、教師たち

を支援することも必要です。3つのIBプログラムを個々に実施するにしろ、一貫教育と

して複数を実施するにしろ、「リーダーシップ能力をもつ人材の深く広いリソース」が学校

内にできるような「分散型リーダーシップモデル」(Hargreaves and Fink 2006)が最も効果

的で実践的なモデルです。教師がプログラムの実施とカリキュラム開発のさまざまな側面

に責任をもつことで、持続的変化と効果的な学校の変革が行われる可能性が大きく高まり

ます。

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一貫教育の開発をリードする――教育的リーダーシップ

一貫した国際教育に向けて26

教育的リーダーシップチーム教育的リーダーシップチームは、IB資料『プログラムの基準と実践要綱』に沿った形

でIBの理念とプログラムの各要件に準拠して「指導」と「学習」を充実させることに責

任を負います。

2つまたは3つのプログラムを提供している学校、または学区域において効果的な教育

的リーダーシップチームには、以下のメンバーが含まれます。

•学校の最高責任者(superintendent)、校長(head of school)

•校長(principal)、副校長(assistant principals)

•カリキュラムコーディネーター、プログラムコーディネーター

[訳注]head of school は通常、principal より権限が大きい。

学校は、カリキュラムコーディネーター、教務主任、指導・学習コーディネーターなどの

役職名で呼ばれる職務を遂行する者を任命することができます。任命されたスタッフは、

カリキュラム全体に焦点をあて、プログラム間のコミュニケーションを効果的に図り、学

校全体としての一貫したカリキュラムを開発するよう取り組みます。

IBの一貫教育プログラムの実施に関して学校コミュニティーを十分に支援するために、

教育的リーダーシップチームは学校で実施される全IBプログラムについて十分に情報を

与えられていなければなりません。IBプログラムを詳しく知らない新任の校長や管理職

は、導入セッションの一端としてプログラムに関する詳細を学ぶ機会が必要になります。

「IBの学習者像」は、IB認定校の学校における全員――児童生徒および大人――の学

習や振る舞い、態度の指針となるもので、それ自体が教育的リーダーシップチーム内での

協コラボレーション

働やコミュニケーション、振り返りの実践を支援するものです。

一貫教育のための効果的な教育的リーダーシップチームが、良い職業上の関係を築き、

「指導」と「学習」に焦点をあてた頻繁な、開かれた、尊重し合うコミュニケーションを築

くには時間がかかります。教師が協働して計画する時間を割くことは、どのプログラムで

も要件となっています。2つまたは3つのプログラムを提供している学校または学区域に

おける教育的リーダーシップチームも同様に計画にあてる時間は不可欠なものです。

プログラムコーディネーターの役割

3つの全プログラムにおけるプログラムコーディネーターの役割は進化しています。プ

ログラムを効果的に実施するためには、プログラムコーディネーターが教育的リーダー

シップチームのメンバーであることが求められます。また、カリキュラムの開発において、

教師に助言し、協力するリーダー的役割を担います。プログラムコーディネーターは、プ

ログラムを深く全体にわたり理解している必要があり、「指導」と「学習」の実践で自ら模

範を示しつつ、他の教師たちを支援します。事務的な作業は、職務のほんの一部でしかあ

りません。プログラムコーディネーターがこのような役割をうまくこなすためには時間と

リソースが必要であり、一貫教育を実施している学校においてはなおさらです。2つまた

は3つのプログラムを提供する学校では、それぞれのプログラムコーディネーターがプロ

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一貫教育の開発をリードする――教育的リーダーシップ

一貫した国際教育に向けて 27

グラム間の接続や、1つのプログラムから次のプログラムへのスムーズな移行を確実なも

のとするという非常に重要な役割を担います。

教育的リーダーシップを共有していくモデルを学校が採用することに決定したら、学校

はその決定を学校コミュニティー全体に伝える必要があります。チームは、プログラムの

一貫性と学校コミュニティーを形づくり、強化する重要な役割を果たします。特に変革の

時期にはチームのリーダーシップがますます重要になります。

国際教育に取り組む一貫教育が効果を発揮するための開発戦略

•一貫教育の実施について、教育的リーダーシップチームの各メンバーの役割と責任

を決定し、伝えます。

•学年ごと、クラスごとに教育的リーダーシップの責任を担う教師を決定し、研修を

行います。

•一貫教育におけるプログラム相互の接続について、その項目の関係者と協働しなが

ら、実施に向けたアクションとスケジュールを伴う、明確かつ長期的な戦略計画を

策定します。

•協働して一貫教育を発展させるための行事を計画します。

•校長、プログラムコーディネーター、クラス担任教師が、必要に応じて、教科学習や

一貫教育におけるその他の重要な分野(例えば、コミュニティーへの奉仕を通じた学

習や、学問的誠実性など)における学年縦断的な接続を図るために、継続的な「協

働設計」(collaborative planning)のためのさまざま機会をもつことを可能にするスケ

ジュールを作ります。

•全教師および管理職が、全IBプログラムの文書にアクセスできるよう保証します。

•新任教師および新任管理職は全員、導入セッションで全IBプログラムについての

説明を受けます。

•学校コミュニティー全体および学校コミュニティー内の特定の関係者やグループ

(例えば保護者)を対象として、定期的にIBプログラムに関する一般的な説明会

を開きます。

•フィードバックに価値を置いた、振り返りをするリーダーシップの実践を示します。

•学校全体で守られるべき方針を含む、「言語」「特別な教育的ニーズ」「評価」「学問

的誠実性」(academic honesty)に関する方針や手順を策定します。

継続的な教員研修への支援教育的リーダーシップチームは、IB認定校に関わる全員の学習を後押しする責任があ

ります。「IBの学習者像」を児童生徒だけでなく全員に適用されるべきものとして定義す

ることで、このことが明らかに強化されています。「IBの使命」に沿うにはまた、学校が

生涯学習の概念に価値を置いていることを示すことが求められます。

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一貫教育の開発をリードする――教育的リーダーシップ

一貫した国際教育に向けて28

2つまたは3つのプログラムを実施しているIB認定校、または学区域では、教師も学

校のリーダーも、他のプログラムの内容を学ぶだけではなく、その実践に関しても学ぶ機

会が与えられるべきです。他のプログラムの教室を観察し、そのプログラムの同僚と話す

ことで、教師は、IBプログラムに対する理解だけでなく、児童生徒の学習体験について

も理解を深めることができます。その結果、プログラム間の移行が教師にとって、より明

確かつ有意義なものとなるほか、児童生徒にとっても同様に明確かつ有意義なものとなり

ます。このような交流と対話は、学校コミュニティーを強固なものとすることにもつなが

ります。

同様に、いずれのプログラムにおいても、「言語」「評価」「特別な教育的ニーズ」「学問

的誠実性」の方針など、一貫教育における重要な分野の計画、策定、実施を協働して行う

ために教師および学校のリーダーに割りあてられた時間およびリソースは、それ自体がと

ても意味ある専門性の向上の機会となります。

2つまたは3つのプログラムを提供する学校が増えるにつれ、IBはプログラム間ワー

クショップ(cross-programme workshop)や会議(conference)などを通じて、教師や学校

のリーダーを対象とした専門性を向上させるための公式な機会をさらに提供することがで

きるでしょう。

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一貫した国際教育に向けて 29

言語の一貫性

言語は、学習を形成する多くの相互に関連する認知的、情意的および社会的

要素の中心に位置づけられる。

コルソン(Corson1999:88)

IBの3つのプログラムでは、「言語の学習、言語を通じた学習、言語についての学習」

(Halliday 1980)に一貫して取り組みます。複数の言語を学習することは国際教育、そして

多様な文化の理解を深めるために不可欠なものと考えられています。そのため、全3プロ

グラムで言語に関する要件が定められており、言語の学習機会が設けられています(IB

資料『プログラムの基準と実践要綱』参照)。

「IBの学習者像」では、「コミュニケーションができる人」を、複数の言語やさまざまな

方法を用いて、アイデアや情報を自信をもって創造的に理解し表現できる人として描き出

しています。PYPでは7歳までに指導言語のほかにもう1言語を学習します。MYPの

生徒は、MYP修了証のためには2言語を登録する必要があります。DPの生徒は、IB

資格取得のために「最も得意な」言語と第二言語の2言語を必ず学習しなければなりま

せん。

言語はしかしながら、学習一般から切り離されたものではありません。言語は、森羅万

象や私たち自身に関する知識を構築するための主要なツールとして、各IBプログラムの

すべてのカリキュラムを実りあるものにするために欠かせないものです。言語は、人格的

成長と文化的アイデンティティーを探究し、維持するために不可欠です。実りある学習に

必要となる健康的な自尊心や情緒的な安らぎに密接に結びついています。こうした点で、

学習者全員の母語を保持し、伸ばすことが特に重要なのです。

言語は、社会的コミュニケーションの主な手段であると同時に、認知的成長と密接な関

係があります。意味や知識のやりとりや、それらを構築するプロセスの基礎となるもので

す。アカデミックな談話(ディスコース)で用いられる言語は、どの学問領域であっても、

意味や知識の内容と密接に絡み合っています。異なる状況において使われる言語にはそれ

ぞれ特徴があるとされ、言語ジャンルの理論(linguistic genre theory)として説明されてい

ます。言語ジャンルは、特定のコミュニケーションの状況で作り出された特定の種類のテ

クストです。

学習者は、一貫教育に沿ってPYPの教科横断的探究、MYPおよびDPでの学際的学

習や教科学習を通じて理解を構築しながら、「読む」「書く」「話す」「聞く」の各要素にお

ける幅広いアカデミックな言語ジャンルを運用する能力や、理解する能力を高めていき

ます。

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言語の一貫性

一貫した国際教育に向けて30

母語以外の言語によるIBプログラム学習世界の人々の移動性が高まった結果、IBの全3プログラムにおいてより多くの学習者

が豊かで複雑な多言語的背景をもつようになっています。こうした学習者の言語的背景を

みると、発達のさまざまな段階で2言語あるいはそれ以上の複数の言語で学習を行ってき

ている場合があります。実際にIBプログラムでは多くの学習者が母語ではない言語で学

習しています。このような学習者は、2言語あるいはそれ以上の数の言語に高度に熟達し、

読み書きができ、知識も豊富なバランスのとれた多言語話者になれる可能性があります。

IBは、国際的な視野と多様な文化への理解を備えた人を育成するにあたって、この言語

の多様性がもたらす価値を認識しています。また、学校に対し、一貫教育を受けている全

学習者が年齢を問わず言語学習の可能性を十分に引き出せるような実践を行うためのガイ

ドラインを提供する必要性を感じています。言語が学習にどのような影響を与えるかを十

分に理解した上で優れた実践がなされる時、母語以外の言語で学習する児童生徒を含めた

全学習者がカリキュラムへ平等にアクセスできることになります。

もはや単一言語および単一文化ではない教室で生まれる課題に学校が創造的に取り組

み、多くの研究が実施された結果、一貫教育での言語学習を実りあるものにする優れた実

践に関する豊かな専門知識が蓄積されています。IBはこの専門知識を文書や専門性向上

のためのワークショップを通じて全関係者と共有することに取り組んでいます。

効果的な言語学習には、以下の前提が必要です。

•教師が、一貫教育において言語と学習がどのように関連しているかについて概念的に理

解しています。それにより、なぜすべてのIB教師は言語教師なのか、また教科の専門

にかかわらず言語教師として効果的であるためにはどのようにすれば良いかを理解し

ています。

•新たな理解は、すでにもっている概念理解の上に構築されるため、これまでの学習を活

性化し、その上に必要な知識を築くことは優れた実践です。このことは、特に学習者の

グループが多様化しており、同じ文化的言語的背景を共有していない場合に重要となり

ます。児童生徒の言語的背景に関する文書は、教師がクラス内の多様性を把握するため

に役立ちます。

•理解のためのスキャフォールディング(足場づくり)は、学習者がそのような方法なし

では成し遂げられなかったであろう課題を達成することができるようにし、また学習を

広げるために効果的な方法です。スキャフォールディングには、児童生徒の理解を助け

るための図式、表、チャートなどのグラフィックオーガナイザーや概念マッピングなど

が含まれます。

•言語はアイデンティティーに不可欠なものであり、アイデンティティーは人間がどのよ

うに行動するかを決定します。そのため、各学習者の自尊心が認められることが重要で

す。教室では、協働的かつ誰にでも開かれた「インクルーシブ」な文化を基調として、

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言語の一貫性

一貫した国際教育に向けて 31

児童生徒が自分自身の言語学習に挑戦することができると感じられる環境を提供すべ

きです。

•児童生徒の母語の支援および保持のための体制と仕組みの開発が、児童生徒の認知的発

達を支援するのに不可欠です。

学内言語方針の策定言語方針の策定プロセスは、一貫教育での言語教育が、各プログラムの開始時と終了時、

そして1つのプログラムから次のプログラムへと移行する際にどのように接続しているか

を考慮する絶好の機会となります。また学校内での信念や実践に関する曖昧さや矛盾を発

見する機会でもあります。

このプロセスでは、一貫教育で言語を学習することの意味を明確にすることが求められ

ます。例えば、学校所在地の言語がIBプログラムでの学習言語と異なる場合、どのように

カリキュラムに取り込めるかを考える必要があります。また、母語以外の言語で学習して

いる児童生徒の母語の発達および保持の支援に関して考慮しなければならないでしょう。

このような支援を、PYPでは指導言語以外のもう1つの言語として、MYPでは言語A

またはBのオプションとして、DPでは特別リクエスト言語や言語A、言語Bとして、プ

ログラムに組み込むことができるかどうかの考慮が必要かもしれません。学習を実りある

ものとするためには、一貫教育での言語発達に関する長期的計画が重要であり、保護者も

この計画に関与することが望まれます。保護者に情報を提供し、保護者の意見を奨励する

ためのコミュニケーションの経路や体制が言語方針で明確にされなければなりません。

言語学習を実りあるものにするために必要な条件や実践は、学校の入学者受け入れ方針

(アドミッションポリシー)や、評価方針、教員研修、スタッフの採用にも影響を与える可

能性もあります。

一貫教育プログラム全体を通じて、言語は、各学習者の十分な発達を促し、多様性や国

際的な視野、さまざまな文化を理解することについての価値観を育むのに欠かせない役割

を果たしています。効果的な言語方針の策定は、学校コミュニティー全体の注意を、カリ

キュラムおよび学校生活の最も基礎的な側面に向けることになります。

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一貫した国際教育に向けて32

特別な教育的ニーズ

はじめに誰にでも開かれた「インクルーシブ」な社会参加の取り組みの増加と、児童生徒と保護

者の権利に関する意識が高まるにつれ、「特別な教育的ニーズ」(special educational needs)

の認識は社会全体、特に教育の分野において変化しています。近年では、特別支援教育を

通常の教育の「主流」(メインストリーム)の中に置く方向へと大きく転換しています。

これまでの特別支援教育は2つの考えに基づいていました。

•すべてのカリキュラムが全児童生徒のアクセスに対応しているわけではない。

•特別な教育的ニーズのある児童生徒は、支援が必要と見なされるスキルを発達させ

るために特定の授業では取り出して指導を行うべきである。

特別支援教育の教師は、担任や教科の教師とは異なる存在とされ、児童生徒がもつ困難

や課題が「問題」として見なされて初めて特別支援教育の対象として相談されることも少

なくありませんでした。しかし、そうした課題を障害や治療の対象とするモデルから、児

童生徒一人ひとりの学習スタイルを認め、学習でスキャフォールディング(足場づくり)

をして、本来の可能性を示せるように必要に応じてカリキュラムを変える方向へと転換が

図られています。学習者の差異を究明することから、「全員が参加できる学習」へと焦点が

移行しており、その考え方は絶えず進化しています。

現在では、専門の教師が問題の解決にあたる形から、児童生徒の教育に携わるすべての

教師がこうした問題に責任を負う形へと転換しています。IBの全3プログラムでは、教

科内容を教えることと、特定の学習領域における論理的思考、探究、分析、問題解決に必

要な学習プロセスを児童生徒に教えることの両方が担任や教科の教師の役割となっていま

す。学習方法のみを一般論として教科内容と切り離して教えた場合、児童生徒がその学習

方法を学習や社会的な文脈の実際の場面で応用できない傾向にあります。

IBは、いかなる文脈においても理解される普遍的な用語を見つけることの難しさを認

識しています。国際的に受け入れられ、認識が容易で、児童生徒が必要とする配慮を表す

用語を選択することは困難です。一貫教育において求められる幅広いニーズに対応する用

語として、「特別な教育的ニーズ」という一般用語を用いています。ニーズの中には、能力

が著しく高い児童生徒(ギフテッドおよびタレンテッド)によるものも含まれます。

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特別な教育的ニーズ

一貫した国際教育に向けて 33

IBプログラムにおける「特別な教育的ニーズ」

IB教師の責任

全IB教師は、特別な教育的ニーズのある児童生徒を指導するにあたって、以下のこと

を知っておく必要があります。

•児童生徒の学習に影響を及ぼす要因と、それらの要因への最善の対応方法

•児童生徒のニーズに合った指導法の見つけ方

•学校の「特別な教育的ニーズ」に関する方針に合った指導法の見つけ方

•学習への障壁となる要素を緩和し、取り除くのに役立つテクノロジーの活用法

上記のすべての点について何らかの形で取り組みが行われた場合には、すべての学習者

が参加する学習へと「学習」が変容します。

IB認定校における特別支援教育担当教師の役割

特別支援教育担当教師は、特別な教育的ニーズのある児童生徒が教育のプロセスで成功

を収めるのを確実とするのに重要な役割を果たすことが少なくありません。児童生徒がプ

ログラムを進める中で、自立して学習できるようになるにつれて役割は変化するかもしれ

ませんが、児童生徒のニーズおよび経歴について主要なスタッフとコミュニケーションを

図ることは、特別支援教育担当教師の仕事の欠かせない一部分です。各児童生徒の経歴に

ついては、詳しく文書化するべきです。文書には、以下のような項目を記載します。

•過去の経験や家族の状況など背景情報に関する詳細

•過去のアセスメントまたは所見などの文書のコピー

•特別支援教育担当教師、アシスタント、ヘルパーなどからの年次報告

•さまざまな学習分野での児童生徒の学習成果物のサンプル

•その他の関連情報が別の場所に保管されている場合は、そのことを記すメモ

•家族、児童生徒、スタッフ、その他の専門家との面談の議事録

•学習支援のためにそれまでに行われた介入や方策

特別支援教育スタッフと担任や教科の教師が単元や、チームティーチング、児童生徒の

支援方法を「協働設計」することで、全児童生徒が平等にカリキュラムにアクセスできる

ようになり、協力的なグループ学習を支援することになります。指導での協働を全関係者

に有益なものとするには、教職員の役割や責任、管理職による支援のあり方に変化が求め

られます。

PYPにおける「特別な教育的ニーズ」

PYPでは全児童が「特別」であると見なされ、担任教師には各児童のニーズを理解し、

それぞれの学習スタイルに対応する責任があります。担任教師と他のPYPの支援スタッ

フとの関係は協働的かつ協力的で、「指導」と「学習」を支援するプロセスを計画する際に

は全員が積極的に関わります。

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特別な教育的ニーズ

一貫した国際教育に向けて34

早期介入は効果的な学習を促すための決定的な要素です。アセスメントに基づき、介入

を行います。アセスメントでは、認知的領域のみならず、身体的、情意的、社会的領域に

ついて、他者との比較ではなく児童自身の成長を定期的に(正規および非正規に)評価し

ます。

児童期の発達は活力に満ちた、双方向のプロセスであると見られており、児童の特性(生

まれつきのもの)と生育環境(育てられるもの)が相互に影響を与え合います。リスク要

因を減らし、適応力や対応力を高めるための介入を行うことで、一貫教育での将来におい

て力強く成長するための確かな基盤が作られます。介入は年齢に適した方法で、児童の成

長、関心、才能を反映して行われ、学校教育の最終局面での最終的な成果に長期的な影響

を与えます。

MYPにおける「特別な教育的ニーズ」

11 歳から 16 歳を対象にしたMYPは、誰にでも開かれた「インクルーシブ」なプログラ

ムとしてデザインされています。「相互作用のエリア」(AOI)や、特に「学習の方アプローチ

法」

が中心に位置づけられていることで、第二言語で学ぶ生徒の言語の習得といった個別の学

習ニーズや、特別な教育的ニーズ全般など、多様な学習ニーズに教師や生徒が柔軟に対応

するのに役立っています。

MYPの学習者は、学習面でも発達面でも重要な時期にいます。人格的、情緒的な安定と

密接に関係するほか、教科学習や意欲にも多大な影響を与えるからです。また、MYPは

アイデンティティーや自尊心をめぐって悩む多感な時期の生徒を支えます。MYPで育ま

れる思いやりのある安全な環境は、生徒自身や広く社会に関連する諸課題を探究するよう

後押しします。探究を通じて、生徒は学校の内外で意味のある関連性を見いだします。物

事をさまざまに関連づけることで、学習面だけでなく、社会的にも情緒的にも成長し、す

べての側面を高めることができます。この時期に優れた学習方法を探究し、強固にするこ

とが、特別な教育的ニーズのある生徒を実りある成果へと導きます。

生徒がMYPプログラムを修了するためには、余裕をもって手順とプロセスを整備す

ることが重要です。特定の教科の学習内容に生徒がアクセスできるようスキャフォール

ディング(足場づくり)の指導方法を取り入れるなどカリキュラムを工夫したり、支援

技術を活用したりする必要があるかもしれません。措置には、以下のようなものが含ま

れます。

•課題完了のための時間の延長

•スペルチェック機能のあるコンピューターの活用

•考えを記録するための代筆者の活用

•難解なテクストへのアクセスを可能にするための朗読者の活用

上記は、どれも有用な方法です。IBにより認められているDPの生徒のための「特別

措置」へと通じています。

MYPで唯一、免除または特別措置について正規の申請が必要となるのは、プログラムの

第5年次に教科を修了し、コースの全要件を満たすのが難しい場合です。その場合には、

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特別な教育的ニーズ

一貫した国際教育に向けて 35

該当する申請書に詳細を記載し、MYPの第3年次の終了時までにIBカーディフ事務局

に申請書を提出しなければなりません。

MYPは、スキルの発達や、その先の学習のための準備の十分な基礎を築きます。DPに

おいて生徒が自立してうまく学習していけるように、MYPの修了時までに多くの効果的

な学習方法を身につけておくことが望まれます。

DPにおける「特別な教育的ニーズ」

DPには特別な教育的ニーズを支援するための体制が十分に整っています。IB資料『受

験上の配慮の必要な志願者について』に概要が示されています。学習上の配慮の必要な生

徒は、必ずプログラムの開始前に確認されていなければなりません。長期にわたって、さ

まざまな専門的アセスメントを受けてきているかもしれませんが、特別措置の申請には、

プログラムの履修からさかのぼって2年以内のものを証憑書類として用いてください。特

別な配慮の申請には、2種類の手続きがあります。「D1」および「D2」の申請書を提出

します。コーディネーターは、IB資料『DP手順ハンドブック』で詳細を知ることがで

きます。

適切な手続きの後、IBカーディフ事務局に認められる「特別措置」には以下のものが

含まれます。

•試験用紙の修正――文字サイズ、色付用紙の使用

•提出日の延長

•実習の補助

•時間の延長

•休憩時間の取得

•情報コミュニケーション技術(ICT)の活用

•音声の書き起こし原稿の活用

•朗読者の活用

これらの措置は、内部評価と外部評価において適用することができますが、外部評価で

の措置に関してのみ正式な申請が求められます。

プログラムコーディネーターは特別な教育的ニーズのある生徒に対して特別な役割と責

任があります。特別措置を申請する際には、以下の点に留意してください。

•相談は、必ず生徒がプログラムを開始する前に行われること

•各生徒の経歴が、しっかりと示されていること。生徒が履修する科目は注意深く選

択されること

•IB資料『受験上の配慮の必要な志願者について』に示された要件に沿って、文書

が完成、更新されていること

•たとえ他人に照会したものであっても、コーディネーターが全文書に署名する必要

があること

•申請が承認されると前もって想定してはならないこと。承認の可否については個々

に判断されること

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特別な教育的ニーズ

一貫した国際教育に向けて36

全教師は生徒の特別なニーズを最初から十分に知らされているべきです。もし特定のク

ラスで生徒が効果的に学習することに懸念がある場合には、教師は手遅れにならないよう

に十分に早い段階で他の教師などとこの懸念について協議することが不可欠です。それな

りの能力のある生徒の中には、知的能力や管理能力、整理能力を発揮するようなことがコー

スで要求されない限り、自分自身の特別なニーズについてうまく隠せる者も多くいます。

「特別な教育的ニーズに関する方針」とプログラムの開発

2つまたは3つのプログラムを提供している学校では、特別な教育的ニーズのある児童

生徒への継続的支援と情報の共有により、児童生徒にとっても指導スタッフにとっても、

プログラム間の移行はスムーズになるはずです。

IBの一貫教育プログラムを通してどのように特別な教育的ニーズのある児童生徒を支

援するかを考慮する際、以下の問いは、特別支援教育プログラムおよび学校の特別な教育

的ニーズに関する方針を開発するのに役立ちます。

•全児童生徒のニーズを満たすための、教師に求められる地域、国、国際的な法的要

件は何か。

•現在の在籍児童生徒のうち、特別な教育的ニーズのある児童生徒はどの程度いる

のか。

•どのような専門知識をすでにもっているか。

•どのような専門知識が今後必要か。

•特別な教育的ニーズのある児童生徒にすでに何をしているか。

•どのテスト、どのスクリーニングツールにアクセスがあるか。

•教師は、どのテストを実施する資格を有しているか。

•誰がテスト結果を保護者、児童生徒、教師に知らせる責任を負うか。

•特別な教育的ニーズへの対応についてどのように文書化するか。

•特別な教育的ニーズへの対応がどのように構成、調整、モニタリングされるか。

•特別な教育的ニーズへの対応がどのように教員研修プログラムで支援されるか。

•特別な教育的ニーズのある児童生徒に関して何の情報をもっているべきで、それを

どこに保管し、誰が管理するか。

•誰が児童生徒のファイルにアクセスできるか。

•転出入や、1つのIBプログラムから次のプログラムへの移行など、移行段階での

情報の伝達はどのように調整するか。

•特別な教育的ニーズの児童生徒への対策に関し、どこを改善する必要があるか。

最後に、IBプログラムで学んでいる児童生徒の多くは移動が多いことが、最適な「指

導」と「学習」を提供するにあたって、学校の負荷を増やしています。学校内での進学、

あるいは転出入を伴う場合にかかわらず、児童生徒に関する有用な情報を照合、保持、交

換する方法に注意を払うことは、IBの一貫教育を有意義に進めていくために不可欠です。

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特別な教育的ニーズ

一貫した国際教育に向けて 37

特別支援教育のスタッフは担任教師と協働し、全児童生徒について「指導」と「学習」の適切

なプログラムを開発するために、上記に示されるような情報を活用すること。

図3

学校全体における効果的な特別支援教育プログラムの開発

学校外の専門家によるアセスメント

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一貫した国際教育に向けて38

行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS

IBの3つのプログラムの中心には、「教育は知識の習得だけでなく、社会的に責任の

ある態度、そして思慮深く適切な行動をも包括したものでなければならない」という信念

があります。経験を通じた学びは、IBプログラムの「指導」と「学習」の基礎に位置づ

けられています。PYP、MYP、DPでは、児童生徒は学校の内外において他の児童生

徒や地域社会に対して奉仕活動をすることが期待されています。このような奉仕活動を通

じて児童生徒は、協力や問題解決、対立解消、創造的思考や批クリティカルシンキング

判的思考のスキルを身につ

け、自分自身のアイデンティティーを培いながら、人格的にも社会的にも成長することがで

きます。また、教科学習と実生活を関連づけるのも、奉仕活動です。このような行動は、

「IBの学習者像」の人物像に向けて児童生徒が努力している証といえます。他の児童生徒

や地域社会、あるいはより広い世界との関わりの中で児童生徒が自ら起こす行動は、国際

教育に取り組むIBの一貫教育の有効性を示す最も重要な総括的評価と捉えることができ

るかもしれません。

各プログラムにおいて、児童生徒が自ら行動を起こすよう促し、その行動が円滑に進む

よう働きかけ、行動についての振り返りを奨励するという教師の役割は非常に重要です。

行動について、どのような内容が奨励され、それによって児童生徒に何が求められている

かは、発達段階によって異なります。特定の年齢層にとって適切で妥当とされるものはそ

れぞれです。一方で、PYPの「行動」、MYPの「コミュニティーと奉仕活動」、DPの

「創造性・活動・奉仕」(CAS)には、明確な一貫性があります。各プログラムにはそれ

ぞれ特徴的な性質があり、その要素をできる限り的確に表すために使われている用語は異

なりますが、原則は同じです。

PYPにおける「行動」PYPでは、探究を通じた学習プロセスの成果として、児童自身によって責任ある行動

が自発的に開始されることが期待されています。行動することで、児童の学びは広がりま

す。場合によっては、より広い社会的影響をもたらすかもしれません。PYPを提供して

いるIB認定校は学習者全員が、世界に良い影響を与えるために行動することを選択し、

どのような行動を起こすかを決定し、その行動を振り返るように、機会と力を与えるよう

取り組むべきです。

PYPでは「行動」は、プログラムに組み込まれた到達目標という文脈の中で、児童の

自主的なやる気の発露と捉えるべきものです。21世紀における複雑な問題は単純で自明の

解決方法がない場合も多いため、行動しないことが合理的な選択である場合もあります。

実際には行動しないことが最善の選択である場合もあるかもしれません。

PYPは、児童が取り組む「行動」が目的のある、有意義なものとなるような関わり方

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行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS

一貫した国際教育に向けて 39

を「行動サイクル」として示し、提唱しています。目的のある、有意義な「行動」には、

他の児童や学校コミュニティーへの奉仕活動に対するものも含まれます。

図4

PYPの「行動サイクル」

PYPにおける効果的な「行動」は、壮大なものである必要はありません。自分自身や

家族内、教室内、校舎の廊下、校庭など、最も身近で基本的なレベルから始めることが考

えられます。効果的な「行動」とは、自分自身や他の人々、環境への責任と尊重を表すも

のということができます。低学年では、「行動サイクル」が価値観や理解の中核を培うのに

役立ちます。そうした価値感や理解の上に、社会の中における自分というものに対する認

識や社会への責任感が育まれることを期待しています。

MYPにおける「コミュニティーと奉仕活動」MYPにおいても、行動することは、5つの「相互関係のエリア」(AOI)の1つであ

る「コミュニティーと奉仕活動」の中心として位置づけられています。思春期の初期段階

では、コミュニティーについての認識と理解、およびコミュニティーに対する責任感を身

につけることが重視されます。そうすることで、生徒がコミュニティーのニーズに応えて

行動することに意欲をもち、勇気づけられるのです。生徒は、教室をこえた世界に目を向

け、自分自身や他の人々、コミュニティーの社会的現実を発見することが奨励されます。そ

うして得た認識が生徒の自主的な社会参加や奉仕活動のきっかけになることもあります。

生徒がコミュニティーのニーズと自分のもつ能力を振り返り、コミュニティーのニーズに

応えて何らかの形でコミュニティーに貢献することは、「IBの学習者像」に示されている

思いやりと責任感のあるグローバル市民としての成長につながります。

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行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS

一貫した国際教育に向けて40

図5

MYPの「探究サイクル」

「コミュニティーと奉仕活動」は、生徒が住むコミュニティーに参加することを要求する

だけでなく、MYPの8教科の学習にも組み込まれています。生徒が自分自身を取り巻く

世界と、その世界が自分が学習している教科とどう関連するかについての知識と理解を深

めつつ、責任ある市民になることが奨励されているのです。

MYPでは、低学年の生徒に対してはコミュニティーへの認識を発達させることに焦点

を置いています。プログラムが進むにつれ、生徒の成熟と自律性の発達に合わせてコミュ

ニティーへの奉仕活動への関与も増えていきます。この要素は、DPの「創造性・活動・

奉仕」(CAS)の「奉仕」の活動に引き継がれます。DPでは、生徒が自主的に活動を開

始することの重要性が増しています。

DPにおける「創造性・活動・奉仕」「創造性・活動・奉仕」(CAS)は、DPの「コア」を構成する3つの必修要件の1つ

です。生徒は、プログラムを通じて、アカデミックな学習と同時並行して多岐にわたる

CASの活動を行います。CASは、以下の3つの要素で構成されています。これらの3

つの要素は、活動の中で、さまざまに組み合わせられます。

•創造性(creativity):創造的思考を伴う芸術などの活動

•活動(action):DPでのアカデミックな学習を補完し、健康的なライフスタイルの

実践を促す身体的活動(DPでの「活動」とPYPの「行動」はどちらも「action」ですが、定義はそれぞれ異なります)

•奉仕(service):生徒の学習に有益な、無報酬で自発的な交流活動。すべての関係者

の権利、尊厳、自律性を尊重

CASでは、体験的な学習を通じて、生徒の人間的成長と対人スキルの発達を促します。

同時に、DPでのアカデミックな学習による重圧とのバランスをとるという重要な側面も

あります。良いCASプログラムとは、やりがいもあり楽しくもあり、自己発見の契機と

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行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS

一貫した国際教育に向けて 41

なるものです。各生徒の出発地点はそれぞれ異なるため、目標もニーズも異なりますが、

多くの生徒にとって、CASの活動は意義深く、人生を変えるような経験となります。

CASの活動は、以下の要素を含まなければなりません。

•意味のある成果をもたらす実体験と目的を伴う活動

•個人的な挑戦

•計画、プロセスの見直し、報告などでの深い考察

CASでは、生徒のアイデンティティーの構築に役立つことを重視しています。「IBの

使命」や「IBの学習者像」にある価値観に沿って生徒が自分自身のアイデンティティーを

構築するのを後押しするのです。CASの「体験的な学習活動のサイクル」は、PYPの

「行動サイクル」を発展させたものです。

図6

DPの「体験的な学習活動のサイクル」

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行動・コミュニティーと奉仕活動・CAS

一貫した国際教育に向けて42

「活動」やコミュニティーでの奉仕活動は、異なるIBプログラムの児童生徒と共に活

動、交流する絶好の機会となっています。年長の児童生徒は、教室や課外活動において年

下の児童生徒やその教師を支援するのに理想的な立場にあります。あらゆる年齢にふさわ

しい奉仕活動では、異なる年齢の児童生徒の間で目的ある真の交流や友情の構築が促され

ます。さらに重要なのは、年長の児童生徒が年下の児童生徒のすばらしいお手本となる機

会となっていることです。

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一貫した国際教育に向けて 43

学習の集大成

IBの各プログラムの最終年次では、全児童生徒がそれぞれのプログラムに応じた探究

活動を学習の集大成として完成させます。PYPとMYPでは、学習を通じて身につけた

ことをまとめとして表現します。DPでは、学習を通じて習得し発展させた成果を示しま

す。3つのプログラムにおける学習の集大成の活動は、いずれも長期的な取り組みのた

め、相当なエネルギーを費やし深く関わることが要求されます。また、学習上のスキルの

ほか、自己管理的なスキルの両方を応用することが求められます。各自の探究を集大成と

して仕上げるまでのプロセスでは、教師やスーパーバイザーによる指導が行われ、児童生

徒は教師からの形成的なフィードバックを受けます。保護者は、集大成に取り組むとはど

のようなことか、そしてどのようなことが児童生徒に期待されているのかについて十分に

説明を受けます。

PYPでの「発表会」PYPの「発

エキシビション

表会」は、学校にとっても児童にとっても重要なイベントです。PYPの

本質的な要素を統合し、学校コミュニティー全体と共有し合うものです。プログラムの最

終年次の児童がPYPでの取り組みを通じて身につけ、培ってきた「IBの学習像」の諸

要素を人前で発表する機会となっています。

PYP発表会は、PYPにおいて児童がそれまでにPYPで取り組んできた他の課題と

は異なり、実生活におけるどのような課題に取り組むかを児童自身が決定することを含め

て、探究活動により深く関与します。探究の核となるアイデアは、十分な意義と重要性の

あるものでPYPの最終年次の全児童が詳細に調査するに値するものである必要がありま

す。発表会は、注意深く計画された定期的な評価を伴います。

発表会は、探究での発見を発表したり、継続的な探究のプロセスを通じて深めた学習の

成果を披露する「ステージ」です。ステージは、インタラクティブ(対話形式)の展示、

ディベート(討論)、児童が主導するワークショップ、演劇上演など、さまざまな形態が

とられます。また、これらを組み合わせた形態のものであることも少なくありません。発

表会の観客となるのは、校内の他の児童生徒、保護者、教師、特別招待されたゲストな

どです。発表会で取り上げる探究の題材は、地域的な重要性をもつことも多く、学校に

よっては発表会を校外で実施し、地域社会の関心ある人々に向けて発表することもありま

す。PYP発表会が地域社会に持続的な影響を与えることができれば理想的です。

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学習の集大成

一貫した国際教育に向けて44

MYPでの「パーソナルプロジェクト」MYPの最終年次に取り組むパーソナルプロジェクトは、長期間にわたる、規模の大き

なプロジェクトです。生徒は、プロジェクトに自発的に取り組み、創造性を発揮します。

プロジェクトは、生徒各自の「相互作用のエリア」(AOI)に関する理解を反映し、「学

習の方アプローチ

法」を通じて習得したスキルを応用したものでなければなりません。

PYPの発表会では、児童が同じテーマまたは課題に取り組むため、協働の要素が強い

のに対して、MYPのパーソナルプロジェクトでは、生徒がひとりで課題に取り組みま

す。自分自身の関心に従って取り組みたい題材を選択することが奨励されます。プログラ

ム中に学んだトピックや題材と必ずしも関連していなくても構いません。パーソナルプロ

ジェクトでは、ギターを作ってコンサートを開いたり、ナイジェリアのイボ族の歴史につ

いて研究して記述したりと、さまざまな取り組みが可能です。どのプロジェクトにも研究

と振り返りが含まれ、プロセスと成果について、フォーマルなプレゼンテーションを行い

ます。パーソナルプロジェクトでは、思春期特有の独立心の芽生えを考慮に入れ、それぞ

れの情熱や関心に没頭する機会を提供しています。

DPでの「課題論文」DPの「課題論文」(EE)は、きわめて学問的な性質の研究活動です。特定のトピッ

クに的を絞った詳細な探究にひとりで取り組みます。認定されたDP科目から1科目を選

び、その科目に関連するトピックを取り上げます。通常は、生徒が履修している6科目か

ら科目を選びます。高レベルなリサーチスキル、記述力、知的発見および創造性を育成す

ることを目的としており、生徒が、自分自身で選択したトピックに関する研究に自立的に

取り組む機会となっています。研究は、正式な書式で構成された論文にまとめます。選択

した科目にふさわしい論理的で一貫した形式で、アイデアや研究結果を伝えるのです。課

題論文(EE)は、生徒が自分自身の選択したトピックについての知識と理解、情熱を示

す機会であり、DPにおける課題の典型例です。

成果を祝う学習の集大成に取り組むこれらの3つの経験は、IBで学ぶ児童生徒の人生における非

常に重要なイベントです。1つのプログラムを学ぶ児童生徒にとっても、3つのプログラム

を学ぶ児童生徒にとっても、通過儀礼として捉えることができます。2つまたは3つのプロ

グラムを提供する学校や学区域では、学校やコミュニティーが児童生徒の学びの成果を祝

う理想的な機会となっています。PYPの発表会は、まさにこの目的のためにあるといえま

す。教師や保護者、MYPやDPの生徒は発表会を訪れ、PYPの児童と話をすることが

奨励されます。同様に、MYPの最終年次でのパーソナルプロジェクトの完了時にも、多

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学習の集大成

一貫した国際教育に向けて 45

くの場合、実演やライブでの発表を伴う「パーソナルプロジェクトの夕べ」や「MYP発

表会」の開催へとつながっていきます。課題論文(EE)では、このような発表イベント

はありませんが、抜粋を学校の紀要に掲載したり、他の児童生徒が読めるように図書館に

コピーを置いたりすることができるでしょう。

また、児童生徒がこのような集大成経験について話す機会があることは重要です。学校

は、集会や小さなグループなどを通じて、年少の児童生徒と年長の児童生徒が互いに話を

する機会を設けるとよいでしょう。さらに、年長の児童生徒が教師と共に年少の児童生徒

のサポートをすることも考えられます。

一貫教育を実施する学校においては、児童生徒と教師、保護者が3つのプログラムのそ

れぞれで行われる、これらの集大成経験のような一大イベントについて理解していること

も重要です。各プログラムについての知識と理解を深められるだけでなく、児童生徒や保

護者がそうした機会に対して、期待をもって楽しみにするようになります。また児童生徒

の学習の集大成を祝う機会が節目の儀式をつくり、学校コミュニティーの一体感を高めます。

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一貫した国際教育に向けて46

プログラム評価

PYP、MYP、DPにおけるプログラム評価は、IBが認定校のために課せられてい

る要件であると同時に、提供しているサービスでもあります。以下は、プログラム評価の主

な目的です。

•各校のプログラムの実施状況を評価するため

•学校が、IBの理念やプログラムの「基準」と「実践要綱」を反映した活力に満ち

たプログラムを開発、維持するのを支援するため

プログラム評価とは、学校を「再認定」することではありません。プログラム評価を実

施することにより、IBの地域事務局がプログラムの継続的発展に関して学校と密接に連

携することができます。また、IBがプログラムの基準と実践要綱が維持されていること

を定期的に確認する機会ともなっています。

IBの3つのプログラムは、不変のシステムではありません。むしろ本質的に進化する

性質を備えており、経験を踏まえて修正や改善が求められるものです。IBは文書や情報

セミナー、教員研修などの提供を通じて、PYPとMYP、DPの開発と発展のあらゆる

段階で学校を支援しています。PYPとMYPでは、「評価訪問」(evaluation visit) として、

IB職員とIBの指名を受けたIB教育の現場教員の両方またはいずれかが学校を訪問し

ます。

プログラム評価は、教師個人や児童生徒を称賛、評価しようとするものではありません。

教師、プログラムコーディネーター、管理職、児童生徒、保護者、理事会などの多数の関

係者が関与して初めて、そのねらいを達成することができます。

プログラム評価は、プログラムの提供の正式認定後3年から5年の間に行われ、その後

は5年ごとに実施されます。プログラム評価には、3つの重要な段階があります。

自己評価(PYP・MYP・DP)自己評価では、プログラムの履行の評価に関して学校全体が関わります。自己評価は質

問表に従って行い、評価プロセスにおいて集めた証エビデンス

拠に対する議論や振り返りの結果を回

答とします。PYPとMYPでは、評価訪問に先立って自己評価が実施され、評価訪問は

自己評価を踏まえて行われます。

DPでは、評価訪問は必須ではありません。ただし、必要に応じて、自己評価に加えIB

の地域事務局がより詳細な情報を求めたり、訪問したりすることがあります。

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プログラム評価

一貫した国際教育に向けて 47

学校訪問(PYP・MYP)評価訪問は、PYPとMYPの両方またはいずれかを提供するIB認定校には必須で

す。評価訪問では、プログラムの質を確認すると同時に、各校にフィードバックを提供し

ます。評価訪問は、診断チェックであり、建設的な姿勢で批クリティカル

判的にプログラムを検証する

ことを目的としています。評価訪問では、以下を意図しています。

•学校の自己評価プロセスを支援する。

•学校のカリキュラム開発に関連する活動について情報提供をする。

•リソースの効果的な管理および割りあてを援助する。

評価レポート(PYP・MYP・DP)IBの地域事務局は、DPでは自己評価の質問表への回答を受領後に、PYPとMYPで

は評価訪問後に、称賛事項(commendation)、推奨事項 (recommendation)、場合によっては

直ちに対処が必要な事項(matter to be addressed)について、学校に正式に回答します。

一貫教育の実施に対する評価

2つ以上の連続するIBプログラムを提供している学校は、一貫教育の実施に対する「プ

ログラム間の評価」(cross-programme evaluation)をIBに要請することができます。DPを

含む、学校が提供する全プログラムについて自己評価を実施し、「プログラム評価に関する

自己評価質問表」(programme evaluation self-study questionnaire)に回答し、プログラム合同

の評価訪問を同時に受けることになります。学校は、学校全体の発展について振り返りを

行い、学校全体の改善計画を策定するために、このプロセスを選択することができます。

単一のプログラム評価と同様、各プログラムを注意深く網羅的に評価するほか、プログラ

ム間の接続についても評価します。このプロセスは、PYPとDPのみを提供する学校に

は適用されません。

「プログラム間の評価」での評価の原則は、DPも評価訪問を受けること以外は、単一の

プログラム評価と同じです。

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一貫した国際教育に向けて48

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