すでにiotをめぐる大きな変革 が一般社会でもビジネス社会 …1章...

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▶ 10 ◀ 1章 すでに IoT をめぐる大きな変革 が一般社会でもビジネス社会で も起こり始めている 1.IoT と第四次産業革命 (1)4 つのキーワード AI、IoT、ロボットの登場によって、いま 社会は大きく変わろうとしています。 これを「第四次産業革命」と呼ぶ人もいま す。「少し大袈裟では」と感じる人も多い でしょう。 しかし、インターネットの黎明期には、 ネットを中心とした社会が訪れることや、ス マートフォンが多くの人にとってこれほど生 活に浸透するとは、誰も予想していなかった のです。 では、いったい社会にどのような変化が起 こるのでしょうか。 ☆サクッとわかるポイント! ・ごくごく簡単に言うと、これからやっ てくる未来は超自動化の社会です。コ ンピュータやロボットなど、機械に もっと多くの作業や業務、そして心の よりどころまで依存する社会がやって きます。 それは幸せなことでしょうか、それとも不 幸なことでしょうか。 嫌な仕事を機械にやってもらえると喜ぶ人 もいます。人類がコンピュータに支配されると 心配する人がいます。これからやってくる更に 深刻な日本の労働人口不足に活路を見いだす にはこれしかない、と声を挙げる人もいます。 どう感じるかは人それぞれです。本書はそ れに言及してはいませんので、最終的に判断 するのは読者の皆さんです。本書は読者の皆 さんにその本質を見極めてもらうために、今 起こっていること、これから起こりうること を解り易く解説していきます。 テーマは、IoT、AI、そしてロボットです。 (2)深刻化する少子高齢化と労働力不足 総務省が発表した平成 28 年版「情報通信 社会を変革すると言われている「第四次産業革 命」。その 4つのキーワード。

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▶10◀

1 章 すでに IoTをめぐる大きな変革が一般社会でもビジネス社会でも起こり始めている

1章

すでに IoT をめぐる大きな変革が一般社会でもビジネス社会でも起こり始めている1.IoT と第四次産業革命(1)4つのキーワード

 AI、IoT、ロボットの登場によって、いま

社会は大きく変わろうとしています。

 これを「第四次産業革命」と呼ぶ人もいま

す。「少し大袈裟では?」と感じる人も多い

でしょう。

 しかし、インターネットの黎明期には、

ネットを中心とした社会が訪れることや、ス

マートフォンが多くの人にとってこれほど生

活に浸透するとは、誰も予想していなかった

のです。

 では、いったい社会にどのような変化が起

こるのでしょうか。

☆サクッとわかるポイント!・ ごくごく簡単に言うと、これからやってくる未来は超自動化の社会です。コンピュータやロボットなど、機械にもっと多くの作業や業務、そして心のよりどころまで依存する社会がやってきます。

 それは幸せなことでしょうか、それとも不

幸なことでしょうか。

 嫌な仕事を機械にやってもらえると喜ぶ人

もいます。人類がコンピュータに支配されると

心配する人がいます。これからやってくる更に

深刻な日本の労働人口不足に活路を見いだす

にはこれしかない、と声を挙げる人もいます。

 どう感じるかは人それぞれです。本書はそ

れに言及してはいませんので、最終的に判断

するのは読者の皆さんです。本書は読者の皆

さんにその本質を見極めてもらうために、今

起こっていること、これから起こりうること

を解り易く解説していきます。

 テーマは、IoT、AI、そしてロボットです。

(2)深刻化する少子高齢化と労働力不足

 総務省が発表した平成 28 年版「情報通信

社会を変革すると言われている「第四次産業革命」。その 4つのキーワード。

▶11◀

1.IoT と第四次産業革命

白書」では、急速に進行する少子高齢化とそ

れに伴う人口減少が労働投入の減少や国内需

要の縮小を招き、中長期的な経済成長を阻害

することの懸念が冒頭から述べられています。

 人口減少による労働力不足が近い将来、深

刻化することはさまざまな分野で予想されて

いて、その対策として「IoT」「ビッグデータ」

「AI」「ロボット」の活用などが期待されて

います。

 総務省「国勢調査」によると、2015 年の

総人口(年齢不詳人口を除く)は 1億 2,520 万

【日本の人口減少は深刻な課題】2060 年には 8,674 万人(2010 年人口予測の 32.3 %減)にまで減少する見込み。

我が国の人口の推移

年14歳以下万人

15~64歳万人

65歳以上万人

総数万人

高齢化率%

1950 2979 5017 416 8411 51955 3012 5517 479 9007 51960 2843 6047 540 9430 61965 2553 6744 624 9921 61970 2515 7212 739 10466 71975 2722 7581 887 11189 81980 2751 7883 1065 11699 91985 2603 8251 1247 12101 101990 2249 8590 1489 12328 121995 2001 8716 1826 12544 152000 1847 8622 2201 12670 172005 1752 8409 2567 12729 202010 1680 8103 2925 12708 232015 1586 7592 3342 12520 272020 1457 7341 3612 12410 292025 1324 7085 3657 12066 302030 1204 6773 3685 11662 322035 1129 6343 3741 11212 332040 1073 5787 3868 10728 362045 1012 5353 3856 10221 382050 939 5001 3768 9708 392055 861 4706 3626 9193 392060 791 4418 3464 8674 40

▶12◀

1 章 すでに IoTをめぐる大きな変革が一般社会でもビジネス社会でも起こり始めている

人、生産年齢人口(15 歳~64 歳)は 7,592 万

人で、14 歳以下の推計人口は 1982 年から連

続して減少し続け、少子化は進行の一途をた

どっています。

 今後の予測としても総人口は減り続け、

2030年には1億1,662万人、2060年には8,674

万人(2010 年人口予測の 32.3%減)にまで減

少すると見込まれています。(国立社会保障・

人口問題研究所の将来推計)

☆サクッとわかるポイント!・ 人口の大きな割合を構成してきた「団塊の世代」の高齢化が進み、そのジュニア世代が 40 歳代中盤に入るため、人口急減に歯止めがかかる望みは薄れる一方、というのが現実です。一般の社会では、高齢化による介護問題への対策が火急のテーマとなっていますが、ビジネス面では労働力不足を補い、ICT 活用によって自動化や効率化を進めることが重要となってきます。

(3)IoT に対する関心が低い

 日本は深刻な労働力不足に備える必要に迫

られながら、IoT についての関心が海外の先

進国に比べて低いのが現状です。総務省

「IoT 時代における ICT 産業の構造分析と

ICT による経済成長への多面的貢献の検証

に関する調査研究」(2015 年)によれば、

2015 年時点で、コスト削減のための IoT プ

ロセスの導入率は米国が 48.1%と突出してお

り、以下、中国が 26.6%、ドイツが 24.8%、

英国が 23.9%、続いて日本が 20.7%となって

います。

 また、売上増加のための IoT プロダクト

の導入率は米国が 43.3%、中国が 23.4%、ド

イツが 25.7%、続いて日本が 17.1%となって

います。

 将来の予測として、2020 年時点での導入

率を見ると、他の先進国との差は大きく開く

とされています。2020 年時の IoT プロセス

の導入率予測は中国がトップの 85.1%、米国

が 83.7%、韓国が 75.5%、英国が 75.0%、ド

イツが 74.3%となり、日本は 43.7%と大きく

立ち遅れるとされています。

 海外の先進国と比べて、日本の伸び率が低

い理由のひとつとして、標準化に乗り遅れる

傾向が指摘されています。IoT を進めるには

「プラットフォームの標準化」が大きなポイ

ントとなります。プラットフォームが標準化

すれば、販売店と流通、生産工場のデータ共

有や一元化が進んだり、下請けや協業する工

場の機械同士が通信することで、自動化や効

率化がすすみます(本文で詳しく後述します)。

また、異業種でも参加して協業できるエコシ

ステムの形成もたやすくなります。

 しかし、それを実現するためには「プラッ

トフォームの標準化」を牽引する団体が必要

です。ドイツ政府や米国「Industrial Internet

Consortium」が牽引するのと同様に、日本

IoT 導入状況(2015 年)

﹇現在﹈プロセス(導入率%)

米国

50 48.1

23.9 24.8 20.726.6

12.7

43.3

17.0

25.7

17.123.4

10.8

25

0英国

ドイツ

日本

中国

韓国

﹇現在﹈プロダクト(導入率%)

米国

50

25

0英国

ドイツ

日本

中国

韓国

▶13◀

1.IoT と第四次産業革命

国内でもそれらが活性化しなければ、標準化

のリーダーシップがとれないどころか、波に

乗り遅れたり、ケータイ電話や通信のように

孤立する可能性も指摘されています。

☆サクッとわかるポイント!・ その状況は企業向けのの IoT に係る標準化への取組に関する意識調査国際アンケートにも顕著に表れていて、「標準化に自ら取り組む」というスタンスが多い米国、ドイツ、中国に対して、日本、英国、韓国は消極的な結果となっています。

(4)企業が IoT を導入する目的

 企業が IoT を導入する目的は大きく分け

れば「コスト削減」か「売上げ増加」です。

さらに、最近は多くの企業が取り組んでいる

「働き方改革」に繋がるものもあります。い

ずれの目的にしろ、IoT で実現しようとして

いることは自動化と効率化による生産性の向

上です。IoT の導入にはある程度設備投資が

必要なので、それに見合うだけの「コスト削

減」か「売上げ増加」が必要です。「働き方

改革」に繋がるのならば、設備投資はわずか

な金額で実現しなければ導入は困難でしょう。

☆サクッとわかるポイント!・ IoT の導入といっても、置き忘れを防止する傘を 1 本購入することから、100 工場と生産ラインを結ぶ巨大なネットワークシステムの構築まで、それは大小さまざまです。混同することなく、導入目的や、導入によって期待できる成果、投資額などを冷静に判断していくことが大切です。   そして、その判断は多くの導入事例や製品を見て、体験することが重要です。

2020年プロセス(導入率%)

米国

50

75

100

83.7

75.0 74.3

43.7

85.1

75.5

25

0英国

ドイツ

日本

中国

韓国

米国

50

75

10090.6

72.5 75.0

41.6

84.8

72.6

25

0英国

ドイツ

日本

中国

韓国

2020年プロダクト(導入率%)

今後の IoT 導入意向(2020 年)

IoT に係る標準化に対する各国企業のスタンス

▶14◀

1 章 すでに IoTをめぐる大きな変革が一般社会でもビジネス社会でも起こり始めている

2.社会はどう変わっていくのか AI、ロボット、IoT など、ICT によって

これから大きな変革が起ころうとしています。

しかし、そうは言われていてもどう変わって

いくのか、どのようにAI やロボット、IoT

の技術が関わってくるのかはピンと来ません。

そこで、いくつかの例をあげ、技術解説を交

えて最先端の技術から少し先の未来まで、を

見ていきましょう。

(1)自動運転を実現する技術

 社会生活で最もわかりやすい例のひとつが

自動運転車でしょう。運転者が要らない自動

運転車、みなさんはいつ頃実現すると思いま

すか。

☆サクッとわかるポイント!・ 混沌とした街中の道路をどこでも、ドライバーが要らない自動車が走るようになるのはまだまだ先の話です。しかし、それは技術が未熟だからという理由ではなく、街中では交通の流れが複雑だからです。

 例えば、走行中に自動車がふらついたり、

道路の車線を示す白線を踏んだり、はずれた

りすると警告するシステムは現在既に実現し

ていて、一部の車種に搭載されていることを

ご存じの人も多いと思います。周囲の障害物

を自動車のセンサーが検知して自動でブレー

キ(制動)がかかる機能も実装段階にあります。

高齢者を中心に、万が一アクセルとブレーキ

を踏み間違えたり、前進と後進のギアを間違

えてスタートしたときにも有効だと考えられ

ています。更には同一車線を自動車が認識し

て自動走行したり、渋滞時に前の自動車と一

定の間隔を保って走行する機能も実現してい

ます。

 これらの状況を見れば、まずは高速道路だ

け、完全に運転を自動車に任せる自動運転は

すぐにでも実現できます(もちろん運転者は

運転席にいて、万が一の場合に対処しなければ

いけません)。高速道路における運転はルー

ルがシンプルで、運転者がやるべきことは比

較的単純だからです。

 一方、街中の運転は比べものにならないく

らい複雑です。周囲のあらゆる角度と方向か

ら予期せず歩行者が現れます。自転車も予測

の難しい動きをします。対向車や車線変更の

自動車、障害物、道路の幅も刻々と変わりま

す。複雑で多様な標識を認識し、信号機の指

示を正しく判断しなければいけません。

 これらをどのような技術で行おうとしてい

るのでしょうか。

a)カメラとセンサーで状況を把握

 自動走行を、まずはカメラとセンサーの技

術で行おうとしています。いわば人間の視力

(ビジョン)と感覚を機械に置き換え、判断

をコンピュータが行おうということです。カ

メラは 360 度、周囲の映像を常に捉えていま

す。道路の幅や斜線はもちろん、周囲を走る

自動車や自転車、往来する歩行者などを認識

し、どのように動くかを予測して、自車が走

れる位置を特定してその範囲で走行します。

 センサーを使うと周囲に何かがあることは

容易に検知できます。しかし、近くにあるも

のが障害物や歩行者なのか、次の瞬間どのよ

うに動いていて、ぶつかる可能性が高いのか

どうか、人間と同様にビジョンで確認してコ

ンピュータが判断するのがメインになります。

 夜間や雨天など、人間でも視界が悪いと感

じる状況であっても、センサーや暗視カメラ

▶15◀

2.社会はどう変わっていくのか

等との連携で人間より高い視認能力を実現し

始めています。カメラやセンサーの進化とと

もに、映像からこれらを識別する能力が

ディープラーニングをはじめとした「AI 技

術」で格段に向上しているのです。

 これらの画像は「NVIDIA」が開発中の自

ディープラーニングによって、周囲の自動車を認識し、距離を推定する実証実験映像。晴天時のハイウェイでのテスト(NVIDIA 公式イメージ動画より:以下も)

夜間の実証実験

自動車や歩行者、追い越していくオートバイなどを認識し、自車が進むことができる範囲をリアルタイムで認識していく。

雨天時でも周囲の自動車との距離をリアルタイムで計測する実証実験

ディープラーニングによって機械学習したコンピュータは、周囲の自動車を個々に識別している。

路上の走行では正確な道路マップ情報との連携が重要になる。 カメラ(ビジョン)、LIDAR(レーザーセンサー)、マップによって、自車の走行位置やルートを認識する。

自動運転プラットフォームを開発中の NVIDIAの AI CAR「BB8」。運転者がサンルーフから手を出しているのはハンドルを持っていないこと(自動運転)のアピールのため。