jaxa人工衛星セミナー 超高速インターネット衛星 …psk とは phase shift keying...
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超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)の超高速・大容量通信のしくみ
(電波による通信から衛星通信まで)
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構宇宙利用ミッション本部 衛星利用推進センター
JAXA人工衛星セミナー
目次
「きずな」(WINDS)(以降、「きずな」と呼ぶ)で超高速・大容量通信が可能となる技術の理
解の一助とするため、無線通信、衛星通信について超高速・大容量通信に関する技術について述べる。
今回は、マルチビームアンテナに注目して説明をし、アクティブフェーズドアレイアアンテナや搭載交換機については割愛する。
目次
(1) 無線通信概要(2) 衛星通信概要(3) 高速通信技術(4) 「きずな」への適用例(5) まとめ
1
電波とは空間を流れる電気エネルギーであり、光の速さで波として伝わる・波が1秒間にいくつ入っているか(周波数)で表現される・1秒間に入っている波の数が多いほど送れる情報量が多い = 周波数が高い(図1)・遠くに行くほど弱くなり、遠くに行くほど広がる (図2)・音(音波)や光と性質が似ている。・送りたい情報量と電波の性質、価格等で使用する周波数を決めている。一般に高周波ほど機器が高価になる(図3)
・電波は目に見えず、音も聞こえず、匂いもなくて実体がイメージしづらいが、有限な資源である
波の強さ(振幅)
時間
図1 1秒間にある波の多さで周波数の多さが表わされる
1秒間
山が1つ1ヘルツ
山が2つ2ヘルツ
ピンクの波の方が周波数が高い
図2 電波は水の波と同じように遠くに行くほど弱くなり広がる
図3 電波の性質によって使用する周波数を決めている
2
無線通信概要:電波(1/2)
・電波は電気の波なので、反射、屈折、干渉、回折という性質がある(図4,5,6)・電波は水に弱く、電波のエネルギーが減少する
例:衛星放送は雨の日に見づらくなる高い周波数では、雨の時には遠くへ伝わりにくくなる(屈折、減衰)
・通信したい電波以外にも電波がある→ノイズとなり通信の邪魔になる(図7)他の通信電波、反射波、太陽・宇宙、機器(自分自身・家電・エンジン等)ノイズ、
空気
水
入射
反射
発振器
よく聞こえない
よく聞こえる
よく聞こえない
よく聞こえる
よく聞こえない
よく聞こえる
よく聞こえない
図4 反射・屈折波は水面にあたると反射や屈折をする
図5 回折波は障害物の陰に回りこんで進んでいく
図6 干渉複数の波が重ねあわさると波の強さが強まったり弱まったりする
ヒソヒソ
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図7 妨害電波の例自然界や日常生活からいろんな電波が発生している 電波でどのようにして情報を送るのか→次のページへ
屈折
3
無線通信概要:電波(2/2)
受信電力Wr [W]
障害物
送信電力Wt [W]
送信機
受信機
ケーブル損失コネクタ損失
電子回路ノイズ
設計不良
大地反射、吸収大地湿度、部室によって違う
自然界ノイズ太陽、大気、雷、雨
マルチバスフェージング
他の無線機、工業機器民生機器、車のノイズ
無線での通信方式にはアナログとデジタルの2通りがある・アナログ:AMラジオ/TV、FMラジオ、以前の衛星放送・携帯電話、他・デジタル:衛星デジタル放送、地上波デジタル、携帯電話、他
アナログ
連続した量(たとえば時間)を他の連続した量(たとえば角度)で表示すること。
デジタル連続量をとびとびな値として表現すること
例:アナログ時計 例:デジタル時計
無線通信では、アナログの波、デジタルの波をそれぞれ変調・復調して情報を電波にのせて送受信する。
12
6
39
変調とは、電波に情報を運んでもらうために情報を電圧や電流の電気信号に変換して波にすることであり、復調はその波から情報を取り出すこと。
情報を運ぶ波
情報の信号
1
0
空間を伝わる波 情報を運んできた波
取り出された情報信号
変調 復調
4
無線通信概要:アナログ・デジタル
情報を伝送するには1.テレビ映像等の情報を電圧や電流等の電気信号の変化に変換する2.1の電気信号の変化を電波の特性(振幅、周波数、位相等)の変化に変換する(変調)3.電波に情報を運んでもらう
送られてきた電波から情報を取り出すには4.電波の特性(振幅、周波数、位相等)の変化から電気信号の変化を取り出す(復調)5.その電気信号の変化から情報を取り出す6.テレビ等で情報を流す
情報
電波
変調器 復調器
情報
情報信号変換器
信号情報変換器
送信機 受信機
1
2 3 4
5
図8 変調復調と無線通信の流れ
ノイズ
ノイズ
ノイズノイズ
6
5
無線通信概要:変調・復調
アナログ変調1.振幅変調:電波の強度による変調 例:AMラジオ、TV2.周波数変調:周波数・位相のズレの大きさによる変調 例:FMラジオ
<特徴>・簡易な送受信機で可能・当初は無線通信の主流・雑音の影響が蓄積される。
デジタル変調<特徴>・0/1信号で通信(地上波デジタル放送、衛星デジタル放送)・様々な変調方式がある(PSK、FSK、ASK、QAM、・・・)・ノイズに強い(復元できる)・現在の無線通信の主流
もとの波
振幅変調(AM)
周波数変調(FM)
時間
波の大きさ(振幅)
改善
図9 アナログ変調波形
6
無線通信概要:アナログ変調・デジタル変調
デジタル変調・復調の方式のひとつ、PSKについて説明する。PSKとはPhase Shift Keying:位相偏移変調のことで、搬送波(情報を伝える波)の位相を変化させることによっ
て、データを伝達する方式のこと。2,4,8,16 ・・・多値の場合があるが、多値になるにつれノイズの影響をうけて誤りやすくなる(後述)。
送りたい情報
デジタル信号を電気信号にして表したもの
送りたい情報 0 ← 1波の位相 180 ° ← 0°
送りたい情報 0 → 1波の位相 180°→ 0°
1 0 0 01 1 1
10
送りたい情報 11波の位相 90 ° ← 0°
送りたい情報 00波の位相 0°→ -90°
00
1 101
1 0
送りたい情報 01波の位相 0°← 90°
送りたい情報 10波の位相 -90°→ 0°
図10 BPSK(2位相偏移変調)図11 QPSK(4位相偏移変調) 7
無線通信概要:デジタル変調 PSK
BPSKを例にして、変調のしくみについて詳しく説明する。BPSKとはBinary Phase Shift Keying:2位相偏移変調のことであり、0→1、1→0の変化に対して波の形を変えて情報を表す。
送りたい情報
デジタル信号を電気信号にして表したもの
搬送波(情報を伝える波)
無線空間に伝送する波
電気信号の変化に対応し、搬送波の位相を変化させることで情報をのせることにする
送りたい情報 0 ← 1波の位相 180 ° ← 0°
送りたい情報 0 → 1波の位相 180°→ 0°
1 0 0 01 1 1
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図12 BPSK(2位相偏移変調)のしくみ8
無線通信概要: BPSK(2位相偏移変調)
カメラ等
デジタル化処理
変調器
送信機
アンテナ
モニタ等
映像化等処理
復調器
受信機
アンテナ
電波
電波 微弱電波
微弱電波
電波に信号をのせる
送信電波強度アップ
送りたい信号
劣化に強いデジタル信号に変換
受信電波強度アップ
電波から信号を取り出す
デジタル信号から使いたい信号に変換
地上中継局電波 電波
電波
通信の流れを無線の場合と衛星の場合について図示する。地上中継局や衛星それぞれとの距離に差があること以外はほとんど同じである。
図13 通信の流れ 9
衛星通信概要:通信の流れ
通信会社
基地局
無線通信と衛星通信は、アンテナと交換機や衛星の間の距離が違うだけで根本的には同じである
36000km
約3~10km 約3~10km
図15 衛星通信の例 無線通信と比べて、基地局が36000kmの高さの山頂(約地球3つ分)にあるのと同じ
図14 無線通信の例 携帯と基地局の距離は約3~10km程度
通信会社
基地局
基地局
基地局
hi
hello
10
衛星通信概要:無線通信と衛星通信
hi
hello
1963年静止衛星が打ち上げられ60年代後半以降全地球的に24時間の大容量通信が実用され始めた。日本では70年代後半以降通信衛星(CS)の研究開発が開始され、実用に供されるようになった。そのためのアンテナとして、初期には高利得で低雑音大型地上局アンテナの建設が相次いだ。
関連する機器の性能向上と、地上側の設置簡易化要求からアンテナは次第に中型ないしコンパクトなアンテナが多用されるようになった。
1963 年KDD 茨城衛星通信実験所で実用化した直径20 メートルの衛星通信用のカセグレンアンテナ
茨城第2アンテナ(27.5m) 4回反射ビーム伝送給電カセグレインアンテナ茨城第3アンテナ(29.6m)
一般家庭用のBSアンテナ直径45cm 「きずな」可搬型VSAT 直径1.0m
アンテナ小型化の要求に伴い、大容量通信を実現するためには衛星側での工夫が必要になった。
出展:KDDI
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衛星通信概要:衛星通信とアンテナ
衛星通信で高速度伝送を実現するためにはノイズに対して情報のエネルギーを大きくする必要がある
1.ノイズを小さくする →むずかしい2.情報のエネルギーを大きくする
ノイズ
ノイズ
1.情報のエネルギーを大きくする。・アンテナを大きくする → ビームを絞ることができる・送信出力を大きくする
2.その他・使用する周波数の範囲を広げる・多値変調方式を用いる・雑音を低下させる、等
高速伝送を行う方法
10等分のとうふポロポロ崩れやすい
6等分のとうふ
まったく切っていないとうふ
高速道路を走るトラックの絵1車線
高速道路を走るトラックの絵6車線
図17 使用周波数範囲を広げるイメージ
車線が周波数帯域を表し、情報を積んだトラックは車線が増えるほど同時に走る数を増やせる
図18 多値変調のイメージ
多値にするほど、送れる情報量は増えるがノイズ等の影響をうけやすくなり情報が欠損する可能性が高くなることを豆腐に例えた。
半分に切ったとうふ
1
10
11
01
01
1
11
101
1
01
0
0
図16 ノイズと情報エネルギー
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衛星通信概要:通信速度高速化の技術(1/2)
高速化技術のうち1に注目し「きずな」の超高速・大容量通信のしくみをマルチビームの機能で説明
メリット
ビームをしぼると・他の通信に影響を与えない・電力を大きくすることができる
「きずな」で採用!高速伝送を行う方法
図19 アンテナとビーム
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衛星通信概要:通信速度高速化の技術(2/2)
1.情報のエネルギーを大きくする。・アンテナを大きくする → ビームを絞ることができる・送信出力を大きくする
2.その他・使用する周波数の範囲を広げる・多値変調方式を用いる・雑音を低下させる、等
マルチビームアンテナ国内及び近隣国向け
マルチビームアンテナ東南アジア向け
「きずな」のマルチビームアンテナはビームをしぼって限定したエリアに電力を集中することができる例1:虫めがね(図20)例2:科学館の音声パラボラ(図21)
「きずな」
図21 科学館の音声パラボラ
パラボラの中心に向かって小さな声で話すと、声(音波)はあまり広がらずに伝わっていく。もう片方にいる人はパラボラに向かって耳をすますと、伝わってきた音(音波)をパラボラが集めるため、遠く離れた相手の声を聞くことができる。
図20 虫眼鏡で紙を焦がす実験
ただ虫眼鏡で光を当てただけでは紙は燃えないが、光を絞って紙にあてると紙が燃える
音声、光などの波は波を広がりをおさえることにより、波のエネルギー
を集中させることができる。
「きずな」のマルチビームアンテナも同様の原理を採用し超高速・大容量を実現
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「きずな」への適用例:マルチビームアンテナ(1/3)
Seoul
Beijing
Shanghai
Hong Kong
Manila
Kuala Lumpur
Bangkok
Jakarta
Singapore
Bangalore
高利得アンテナで日本国内及びアジア主要都市部をカバー
国内及び近隣国向けマルチビームアンテナ:
日本を9地域分割及びソウル、北京、上海をカバー
東南アジア向けマルチビームアンテナ:
香港、マニラ、バンコク、クアラルンプール、シンガポール、ジャカルタ、バンガロアをカバー
マルチ・ビーム・アンテナ(MBA)
国内及び近隣国向けMBA
東南アジア向けMBA
広域(アジア・太平洋向け)APAA
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「きずな」への適用例:マルチビームアンテナ(2/3)
いつでも どこでも (必要な時に必要な所に効率的に回線を設定)
「きずな」 従来衛星
広域を常時照射するために、衛星送信電力が拡散し、大きな地上アンテナが必要となる
衛星高利得ビームを通信エリアに時分割的に照射することで、衛星送信電力の効率化を図る
このようにして「きずな」では超高速・大容量通信を実現している
出展:JSAT株式会社
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「きずな」への適用例:マルチビームアンテナ(3/3)
例:JCSAT-3A 衛星増幅器出力 127W地上アンテナ5m~11m
横浜衛星管制センター
RXSWMTX RX AMP TX AMP TXSWMTX
関東・・・・・
DNC BPF-W BRF
RX APAALNA
LNA
UPC
HYB
ABS
MBA
MBA
MBA
MBA
非再生系伝送
再生系伝送
図22 「きずな」衛星システムブロック図
受信系 送信系
東京小金井硫黄島
DNC
MODATMS
MPA
TX APAA
「きずな」衛星内部の信号の伝わるルートは次の通り。日食伝送実験を例にした。
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「きずな」への適用例:衛星内部の信号伝送ルート
DDEM
平成21年7月22日に実施予定
父島 多摩六都科学館
(撮影)吉住千亜紀氏
「きずな」は地上のインターネットのしくみを衛星で実現最大155Mbpsの速度で超高速・大容量のインターネットができる
インターネット
インターネット
「きずな」
Mbps = Mega bit per second : メガビット/秒1秒間に155Mbitの情報が伝送可能
携帯電話回線(128kbps)は約20分間で送信
デジカメ等の写真125kbyte (1Mbit )155枚が「きずな」では約1秒間で送信可能
参考
図23 「きずな」で実現するインターネット18
「きずな」への適用例:インターネット衛星
補足:byteとbitはデータの単位であり、1byte は8bitに対応する
まとめ
無線通信のしくみから始まり、衛星通信における超高速・大容量の工夫を実現した例として超高速インターネット衛星「きずな」の高速伝送のしくみについて述べた。
無線通信・電波は空間を伝わる電気エネルギー・アナログ・デジタルのデータそれぞれに対して伝送のしくみ(変調・復調)がある・変調とはデータを電波にのせるしくみであり、復調とは電波からデータを取り出すしくみ・最近の無線通信はデジタル変調が主流
衛星通信・衛星通信は無線通信と通信間の距離が違うだけで原理的には同じ・衛星通信のアンテナ小型化に伴い、衛星側に大容量・超高速を実現するための工夫が必要になった
・超高速・大容量通信実現の方法のひとつとして、ビームをしぼる例をとりあげた
「きずな」・マルチビームアンテナによる超高速・大容量通信の実現・今年度は7月22の日食映像伝送を始め、洋上船舶通信、遠隔医療、遠隔教育、防災等にて実験を予定しており、さらには政府ミッションへの貢献が期待される
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