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JMPを活用したコンジョイント分析による農産物の消費者評価 -兵庫県の伝統野菜‘岩津ネギ’に対する事例- * ** ** ○加藤 雅宣 有馬 昌宏 川向 兵庫県立農林水産技術総合センター 兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科 ** An Evaluation of the Consumer Preferences for Farm Produce with Conjoint Analysis on JMP ** ** Masanobu Kato Masahiro Arima Hajime Kawamukai Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture , Forestry and Fisheries Graduate Faculty of Applied Informatics, University of Hyogo ** 岩津ネギは,朝来郡(現:朝来市)において産地化されている兵庫県を代表する伝統野菜である.これ までは廃棄処分されていた岩津ネギの規格外品に対する消費者の評価を計量的に把握し,市場販売の 可能性評価ならびに市場化に必要な付与すべき情報の特性を明らかにするために,消費者調査による 分析を実施した.潜在的な需要動向の明示化に関する方法としては,農産物への適用も蓄積されつつ あるコンジョイント分析を用いた.JMPには,コンジョイント分析が実装されていないが,さまざまな機能を 総合的に利用することでJMP上でのコンジョイント分析が可能である.本研究では,JMPによる完全プロ ファイル評定型のコンジョイント分析の方法とJSLスクリプトを活用して操作の自動化を目指した一連の分 析過程を紹介する. JMP,コンジョイント分析,JSLスクリプト,農産物の消費者評価 1.はじめに 岩津ネギは,兵庫県朝来郡朝来町(現:朝来市)の地域風土が育んだ兵庫県を代表する特産物であ る.19世紀初めにはすでに,生野銀山に隣接している朝来町岩津地区(現:朝来市)で,鉱山労働者の 冬野菜の供給を目的に栽培が始まっていたと伝わる .岩津ネギは九条太系統種を土寄せ栽培し,草丈 1) 85cm以上の根深ネギとして収穫され,葉身部,葉鞘部ともに食し,軟らかさや独特の甘みに特徴があると いわれる . 2) 2003年産の朝来郡(現:朝来市)の岩津ネギ栽培面積は約15haで,主に京阪神市場へ約150tの出荷 が行われている.市場からの引き合いが強く,産地では栽培面積を拡大するために,省力化技術の導入 と生産者数の増員を図っている.一方,面積増加にともない,岩津ネギとしての太さに満たない青ネギタ イプの規格外品の発生も増加し,産地関係者からは有効利用による新たな事業展開が望まれている.そ こで,本研究では,岩津ネギの青ネギタイプに対する消費者の評価を計量的に把握して,需要の存在と 市場商品化に当たって配慮すべき事項をコンジョイント分析で明らかにすることを試みた . 3)

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JMPを活用したコンジョイント分析による農産物の消費者評価

-兵庫県の伝統野菜‘岩津ネギ’に対する事例-* ** **○加藤 雅宣 ・ 有馬 昌宏 ・ 川向 肇

兵庫県立農林水産技術総合センター*

兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科**

An Evaluation of the Consumer Preferences for Farm Produce with Conjoint Analysis on JMP

* ** **Masanobu Kato Masahiro Arima Hajime Kawamukai/ /

Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture , Forestry and Fisheries*

Graduate Faculty of Applied Informatics, University of Hyogo**

岩津ネギは,朝来郡(現:朝来市)において産地化されている兵庫県を代表する伝統野菜である.これ

までは廃棄処分されていた岩津ネギの規格外品に対する消費者の評価を計量的に把握し,市場販売の

可能性評価ならびに市場化に必要な付与すべき情報の特性を明らかにするために,消費者調査による

分析を実施した.潜在的な需要動向の明示化に関する方法としては,農産物への適用も蓄積されつつ

あるコンジョイント分析を用いた.JMPには,コンジョイント分析が実装されていないが,さまざまな機能を

総合的に利用することでJMP上でのコンジョイント分析が可能である.本研究では,JMPによる完全プロ

ファイル評定型のコンジョイント分析の方法とJSLスクリプトを活用して操作の自動化を目指した一連の分

析過程を紹介する.

JMP,コンジョイント分析,JSLスクリプト,農産物の消費者評価

1.はじめに

岩津ネギは,兵庫県朝来郡朝来町(現:朝来市)の地域風土が育んだ兵庫県を代表する特産物であ

る.19世紀初めにはすでに,生野銀山に隣接している朝来町岩津地区(現:朝来市)で,鉱山労働者の

冬野菜の供給を目的に栽培が始まっていたと伝わる .岩津ネギは九条太系統種を土寄せ栽培し,草丈1)

85cm以上の根深ネギとして収穫され,葉身部,葉鞘部ともに食し,軟らかさや独特の甘みに特徴があると

いわれる .2)

2003年産の朝来郡(現:朝来市)の岩津ネギ栽培面積は約15haで,主に京阪神市場へ約150tの出荷

が行われている.市場からの引き合いが強く,産地では栽培面積を拡大するために,省力化技術の導入

と生産者数の増員を図っている.一方,面積増加にともない,岩津ネギとしての太さに満たない青ネギタ

イプの規格外品の発生も増加し,産地関係者からは有効利用による新たな事業展開が望まれている.そ

こで,本研究では,岩津ネギの青ネギタイプに対する消費者の評価を計量的に把握して,需要の存在と

市場商品化に当たって配慮すべき事項をコンジョイント分析で明らかにすることを試みた .3)

2.分析の方法

岩津ネギの青ネギタイプに対する消費者の評価を計量的に把握して,需要の存在と市場商品化にあ

たって配慮すべき事項をコンジョイント分析で明らかにするために,2つの分析を以下の順で行った.

1)仮想的な青ネギタイプの岩津ネギの有用性を1人1人の消費者の評価によって検証するために,最小

二乗法による完全プロファイル評定型コンジョイント分析(以下,コンジョイント分析とする.)を用いて全

体効用値,部分効用値,重要度を測定する.JMPにはコンジョイント分析が独立した機能として実装さ

れていないが,“分析”メニューの“モデルのあてはめ”から導出された結果を利用して分析を行った .4)

2)個人の購入意向度合を考慮した方法でシミュレーションを行うことにより,全回答者における岩津ネギ

の青ネギタイプの予測選好シェア(以下,シェアとする.)を明らかにする .シェアの算出に際しては,5)

“テーブル”メニューにおける“転置”や“並べ替え”などの機能を活用し,JSLスクリプトを作成して計算

処理の自動化を図った.

2.1 属性と水準の設定とプロファイル(調査票)の作成

コンジョイント分析を利用して青ネギタイプの岩津ネギの市場商品化評価を行うに当たっては,属性と

水準の設定が重要となる.本研究では,研究目的に直接に関係する「販売時の形態」(以下,「形態」と

する.)と「価格」を除く属性とその水準に関しては,関係者に対して行った聴取調査結果を踏まえて,消

費者が注目していると考えられる属性を第1表のように設定した.

「商品説明の表示」とは,岩津ネギの商標や価格の表示にとどまらず,その特徴を他産地のネギと区別

できる説明の表示を指す .この属性を選定した背景には,包装資材における「商品説明の表示」の有無6)

に対する消費者の評価を明らかにし,今後の包装表示のあり方を検討するというねらいがある .7)

「軟らかさ」という属性は,岩津ネギの最大の特徴である「とろけるような肉質」を指している.消費者に

聴取調査を行う段階で,消費者が岩津ネギに対して品質面で期待しているのは,特に「軟らかさ」ではな

いかという意見が関係者の間で多く出された.しかし,事前に実施した消費者に対する満足度調査 に8)

おいては,必ずしも「軟らかい」と感じていない消費者が多く見受けられた .このため「軟らかさ」に対す9)

る評価が商品力に与える影響が大きいと判断し,この属性を選定した.その水準は,仮想的な意味とし

て,個々の消費者が必ず軟らかいと感じる「軟らかさあり」と逆に感じない「軟らかさなし」の2水準とした.

第1表  評価対象とした岩津ネギの属性、水準、変数名

属 性 水準1 水準2 水準3

商品説明の表示 表示なし 表示あり -

変数名 A0 A1

軟らかさ なし あり -

変数名 S0 S1

価 格 550円 600円 650円

変数名 P550 P600 P650

販売時の形態 青ネギタイプ 現行タイプ -

変数名 T0 T1

栽培方法 減農薬・減化学 普通栽培 -

変数名 M0 M1

注:1)減農薬・減化学とは減農薬・減化学肥料栽培を示す.

2)「-」は水準が存在しないことを示す.

「価格」は直売所で販売されている1kg(現行タイプで6~10本入り)の価格帯を50円間隔で3水準とし,

「形態」は市場出荷のM規格以上の現行タイプ(長さ85cm,太さ1.5cm)と青ネギタイプ(長さ50cm,太さ0.5

cm)の2水準に設定した.

「栽培方法」とは,環境に配慮した栽培か,慣行の普通栽培かを指している.2002年産から化学合成

農薬と化学肥料の双方を慣行の普通栽培から50%減らして生産された岩津ネギが市場出荷されてい

る.そこで,栽培方法に対する消費者の評価を得るために,この属性を選定した.水準は,慣行の普通

栽培と普通栽培の半分の減農薬かつ減化学肥料栽培の2水準を設定した.

以上を要約した第1表をみると,3水準の属性が1個,2水準の属性が4個あることから,それらを組み

合わせると3×2 =48種類のプロファイルが得られる.回答者にすべてを提示すると回答が難しいので,4

直交表を用いて8個のプロファイルを作成して回答者に提示した.なお,JMPでは,第1図に示すように

“実験計画”メニューの“カスタム計画”を用いて自動的にプロファイルの作成ができる .また,回答はプ10)

ロファイル間の比較による順序データではなく,第2図のように絶対的な購入意向を5段階で示し,各プロ

ファイルに対する1点から5点までの評定尺度値を疑似的な間隔尺度として収集した.なお,非現実的な

プロファイルはなかったので除外,交換などの操作は行わなかった.

2.2 調査方法

2003年12月23日,道の駅『フレッシュ朝来』の農産物直売所において岩津ネギを購入し,調査協力に

応じた消費者125人に回答者の属性と購買歴を尋ねる質問も含んだ調査票を配布し,郵送によって回収

した.回収できたのは47人分の回答(回収率37.6%)で,そのうちプロファイルに未記入や欠損値のない44

人の回答を分析対象データとして使用した.

第1図 プロファイル作成のためのカスタム計画ダイアログ・ウインドウ

2.3 計測方法

(1)コンジョイント分析

コンジョイント分析の用語を用いて分析対象データと分析方法を説明すると,回答者の各プロファイル

に対する購入意向度合(第2図の5段階購入意向評定尺度値)に対応するのが全体効用値であり,全体

効用値はプロファイルを構成する属性の水準ごとに推定される部分効用値に分解することができる.本

研究では,全体効用値が部分効用値の線形和で構成される効用関数を仮定している.さらに,各個人の

調査票から得られる各プロファイルの全体効用値が購入意向評定尺度値で測定されると仮定して,第1

表に示した変数を用いて,回答者hのプロファイルiに対する全体効用値U を次の式①に示すように定hi

式化した.

0 1 0 2 1 3 0 4 1 5 550 6 600 7 650式① U =Y =β +β A +β A +β S +β S +β P +β P +β Phi hi

8 0 9 1 10 0 11 1+β T +β T +β M +β M

ただし,Y は回答者hのプロファイルiに対する購入意向評定尺度値を表す.hi

コンジョイント分析では,回答者ごとの部分効用値β からβ を最小二乗法で推定する.ここで,同じ0 11

属性の水準ごとに推定される部分効用値の総和は,ゼロとする制約条件を導入して部分効用値の推定

値βの水準を確定しており,部分効用値がプラスで大きい値であるほど選好度が高い水準であることをi

意味することになる.

また,どの属性が消費者の購買決定に大きな影響を及ぼすかを示す指標である重要度は,次の式②

のように部分効用値のレンジを用いてパーセント(%)で表すことができ,この重要度を用いることで購買

決定に及ぼす影響度の属性間比較が可能になる.

式② I=(PMAX-PMIN )/Σ(PMAX-PMIN )×100J J J J J

  【1つに○印入れてください】タイプ

(長さ・太さ)現行どおり

(85cm・1.5cm) 絶対購入したい    (5点)

価 格(1kg当たり)

600 円  やや購入したい    (4点)

商品説明 表示あり  どちらでもない     (3点)

栽培方法 普通栽培 どちらかといえば買わない(2点)

軟らかさ ある  絶対買わない     (1点)

第2図  調査票に用いた質問様式(例:プロファイル番号1の場合)

注:1)調査票では,①~⑥の説明を加えた.

   ①番号1は1種類の仮想的な岩津ネギを表現しています.

   ②タイプとは,店頭で販売している形を長さと太さで示します.番号1の場合,現行どおりです.

   ③価格は1kg当たりの価格です.現行どおりの岩津ネギなら6~10本の価格です.

   ④商品説明とは,1)300年の歴史,2)白根から青葉まですべて食べられる,3)とろける甘さ,4)香

   りがある,5)調理例,が包装資材などに表示されていることを意味します.

   ⑤軟らかさとは,お客様が食したときに感じる軟らかさを意味します.

   ⑥栽培方法とは,「普通栽培」か農薬,化学肥料を半減させた「減農薬・減化学肥料栽培」かを

   意味します.

  2)青ネギタイプの場合は長さ・太さを(50cm・0.5cm)と表示した.

〈番 号 1〉

ただし,I は第J属性の重要度,PMAXは第J属性の最大部分効用値,PMIN は第J属性の最小部J J J

分効用値である.

ここで,部分効用値の算出をJMPで行うには,“分析”メニューから“モデルのあてはめ”を選択し,第3

図に示すように指定したモデルを実行する.なお,この“モデルのあてはめ”で使用したデータテーブル

は,第4図に示すように,第1列から第5列までに第1図に示した8つのプロファイルに対する5つの属性

の水準が入力されており,第6列以降に44人の回答者の対応するプロファイルの購入意向評定尺度値

が入力されている,8行49列のマトリックスである.これにより,第5図に示すように“尺度化した推定値”と

して属性・水準別の部分効用値の推定値が求められる.

シェアの算出(2)予測選好

シェアの算出方法は以下のとおりである.

1)式①で推定された個人ごとの部分効用値を用いて,組み合わせ可能な48種類のプロファイルについ

て個人別の全体効用値の推定値を求める.

2)推定値が4以上(購入意向評定尺度で4の「やや購入したい」と5の「絶対購入したい」に相当)の岩津

ネギのプロファイルを個人別に残し,残されたプロファイルの最高順位に48点,第2位に47点というよう

に,順位の逆順の値(同点時は順位値の平均値)を得点として与える操作を全ての個人について行う.

3)48のプロファイルごとに回答者全員の得点の合計を計算した上で,このプロファイルごとの合計得点

が全プロファイルで集計した合計得点に占める割合を求め,この割合をシェアとする.

この方法は,回答者全員が選択対象となっているプロファイルを必ず購入することを前提とする方法と

は異なり,個人の購入意向が考慮可能なので,現実の商品選択に近づく利点がある.

ところで,シェアの算出を効率よく行うには,個人ごとに推定される部分効用値を転記して第6図に示

すようなデータテーブルに集約するJSLスクリプトを作成し(詳細については第4章で後述),メニューバ

ー“テーブル”機能の“転置”と“並べ替え”を用い,さらには,計算式機能によって組み合わせ可能な48

種類のプロファイルごとの全体効用値を計算すればよい.最終的には第7図のようにプロファイルごとに

合計得点が求められる.

3図 コンジョイント分析で用いる“モデルのあてはめ”のダイアログウインドウ”第

第4図 コンジョイント分析で用いた回答者の購入意向評定尺度データテーブル

第5図 回答者1に対して推定された部分効用値

第6図 JSLスクリプトで作成した個人別部分効用値データテーブル

第7図 シェア算出用データテーブル

3.分析結果および考察

3.1 回答者の属性と購買歴

回答者の属性は,第2表に示すとおりである.男性は総回答者の31.8%を占め,年齢別にみると50歳

以上(50歳代と60歳代)が78.6%であり,20歳代の回答はなかった.女性は総回答者の61.4%を占め,50

歳代が37.0%,30歳代が25.9%,60歳代が22.2%と続くが,男性と同様に20歳代の回答者はなかった.

回答者の購買歴は,「初めて購入する」が18.2%,「購入歴1~3年」が20.5%,「購入歴5年以上」が56.8%

であった.

3.2 コンジョイント分析結果

式①により,各回答者の部分効用値を最小二乗法によって推定し,各属性の重要度の平均値,最大

値,最小値,変動係数を要約して第3表に示した.さらに,分析結果の妥当性を検証する指標として決定

係数R ならびに式①により算出された予測効用値と実際のプロファイルに付けられた購入意向評定尺度2

値との相関係数も示した.相関係数は0.63および0.69と低い値の回答者がそれぞれ1人いるが,決定係

数は共に0.7以上でモデルの適合は良かったといえる.

各属性の重要度の平均値をみると,「価格」と「軟らかさ」が相対的に大きな値を示しているが,変動係

数も大きく,回答者間でのバラツキが内在している.しかし,「価格」は他の属性と比較すると回答者間の

バラツキが小さいという特徴がみられる.

3.3 予測選好シェア算出による考察

シェアの算出方法は,すでに示したとおりである.個々の回答者の購入意向を示すプロファイル数(推

定された全体効用値が4以上のプロファイルの数)をみると,最大保持数は34枚である.最小保持数は0

枚で,その回答者は非購入者であると判定される.平均すると1人が48枚のプロファイル中約8枚の購入

                 第2表 回答者の属性                       単位:人,%

性 男 性 2 (4.5) 1 (2.3) 6 (13.6) 5 (11.4) - ( - ) 14 (31.8)女 性 7 (15.9) 4 (9.1) 10 (22.7) 6 (13.6) - ( - ) 27 (61.4)

別 不 明 1 (2.3) - ( - ) - ( - ) - ( - ) 2 (4.5) 3 (6.8)居 兵庫県 7 (15.9) 5 (11.4) 11 (25.0) 9 (20.5) - ( - ) 32 (72.7)住 大阪府 2 (4.5) - ( - ) 5 (11.4) 2 (4.5) - ( - ) 9 (20.5)地 その他 1 (2.3) - ( - ) - ( - ) - ( - ) 2 (4.5) 3 (6.8)

全 体 10 (22.7) 5 (11.4) 16 (36.4) 11 (25.0) 2 (4.5) 44 (100.0)注:1)( )内の数値は合計に対する構成比率を示す.  2)「-」は回答がなかったことを示す.

項 目 30 歳 代 不 明 合 計40 歳 代 50 歳 代 60 歳 代

第3表 属性の重要度と分析結果の妥当性指標

属 性 平均値 最大値 最小値 変動係数

 商品説明の表示 18.0% 60.0% 0.0% 75.7 軟らかさ 25.8% 100.0% 0.0% 77.2 価 格 27.0% 63.6% 0.0% 52.1 販売時の形態 15.4% 41.7% 0.0% 76.0 栽培方法 13.8% 50.0% 0.0% 76.9 決定係数 0.93 1.00 0.70 9.6 相関係数 0.86 1.00 0.63 11.7注:相関係数はピアソンの積率相関係数である.

   第4表  回答者全員のプロファイルランキング順位 商品説明 軟らかさ 販売形態 価 格 栽培方法 合計得点

1位 表示あり あり 現行どおり 550円 減農減化 1563.5

2位 表示あり あり 現行どおり 550円 普通栽培 1507.0

3位 表示あり あり 青ネギ 550円 減農減化 990.0

4位 表示あり あり 現行どおり 600円 減農減化 952.5

5位 表示なし あり 現行どおり 550円 減農減化 931.0

6位 表示あり なし 現行どおり 550円 減農減化 646.5

7位 表示あり あり 青ネギ 600円 減農減化 632.0

8位 表示なし あり 現行どおり 550円 普通栽培 603.5

9位 表示なし あり 現行どおり 600円 減農減化 551.5

10位 表示あり あり 現行どおり 650円 減農減化 541.0

~ ~ ~

~ ~ ~

48位 表示あり なし 青ネギ 650円 普通栽培 0.0

注:減農減化とは減農薬・減化学肥料栽培を示す.

意向を示すプロファイルを保持していた.各個人が購入意向を示すプロファイルのなかで,全体効用値

が高い順に48,47,46・・・・と得点を付けて,同一プロファイルごとに44人の回答者の得点(当該プロファ

イルを購入しない回答者の得点は0となる)を合計して合計得点を求めた結果が第4表である.市場で消

費者に受け入れられるかどうかをシミュレーションしたい複数のプロファイル群ごとに得点を合計して,そ

れらの合計得点を分母として求めた当該プロファイル群の得点の比率を本研究では予測選好シェア(シ

ェアと略記)と定義して使用している.

青ネギタイプの岩津ネギの市場商品化の可能性を検証することを目的とする本研究では,シェアを算

出して比較すべき属性は「販売形態」の青ネギタイプと現行タイプであるが,実際の販売事例に従い,

「栽培方法」の違いも考慮に入れてシェアの算出を試みた.第5表にその結果を示す.シェアは,現行タ

イプが68.8%,青ネギタイプが31.2%で,現行タイプに対しておおよそ7対3の割合で青ネギタイプも選好さ

れ,購買されうることが確認できた.また,「栽培方法」別のシェアもほぼ同様の割合で減農薬かつ減化学

肥料栽培への選好が確認できた.注目すべき点は,現行タイプで普通栽培のシェアが25.0%,青ネギタイ

プで減農薬かつ減化学肥料栽培のシェアが23.4%で,互いに接近していることである.そして,減農薬か

つ減化学肥料栽培は,現行タイプの岩津ネギの中で63.7%のシェアを占めるのに対して,青ネギタイプで

は75.0%を占め,青ネギタイプでの減農薬かつ減化学肥料栽培への選好が現行タイプでの選好以上に

高いことが明らかになった.言い換えると,減農薬かつ減化学肥料栽培の岩津ネギが普通栽培と同様に

潤沢にあれば,需要量の約7割は減農薬かつ減化学肥料栽培に向き,普通栽培の青ネギタイプは1割

に満たないシェアとなることが予測された.

3.4 予測選好シェアによる市場商品化に向けてのシミュレーション

現行タイプと比較して,青ネギタイプでは減農薬かつ減化学肥料栽培により高い需要があり,青ネギタ

イプの普通栽培では全体で7.8%のシェアしかないことが確認できた.これは,青ネギタイプを市場商品

化するに当たっては減農薬かつ減化学肥料栽培が必要条件であることを意味していると考えられる.し

かし,減農薬かつ減化学肥料栽培の岩津ネギは安定生産への栽培上の課題が多いことにより,2003年

第6表 現行タイプに対する青ネギタイプの価格・商品説明の表示別のシェア

   単位:%

表示あり 表示なし 表示あり 表示なし 表示あり 表示なし

普通栽培・表示あり 0.0 0.0 28.7 58.0 48.0 78.9普通栽培・表示なし 0.0 0.0 8.2 23.6 35.3 65.2

注:1)現行タイプの種類の表示ありは「商品説明の表示あり」,表示なしは「商品説明の表示なし」を意味する.

  2)現行タイプの価格は,種類にかかわらず600円/kgに固定している.

 650円  600円  550円

青ネギの種類

青ネギタイプの価格(円/kg)

現行タイプの種類

  第5表 個別選好による購入したい岩津ネギの形態別・栽培方法別シェア

単位:%

形 態

現行タイプ 43.8 (63.7) 25.0 (36.3) 68.8 (100.0)

青ネギタイプ 23.4 (75.0) 7.8 (25.0) 31.2 (100.0)

合 計 67.2 32.8 100.0注:1)減農薬・減化学とは減農薬・減化学栽培を示す.

 2)( )内の数値は,現行タイプと青ネギタイプ,それぞれの栽培方法別シェアを示している.

合 計減農薬・減化学 普通栽培

産では生産量の約16%に過ぎない.さらに,『フレッシュ朝来』では,栽培方法を区別しての販売はされて

おらず,すべて普通栽培のものである.そこで,より現実的な視点から,岩津ネギの青ネギタイプが販売

されたときのシェアのシミュレーションを行ってみた.

シミュレーションでは,岩津ネギ以外のネギは販売されていないと仮定し,「栽培方法」は普通栽培を

前提とし,「商品説明の表示」の有無と「価格」の水準を変化させて,シェアに及ぼす影響をみた.なお,

比較する現行タイプの「価格」は「商品説明の表示」の有無にかかわらず1kg当たり600円とした.

シミュレーションの結果を第6表に示す.青ネギタイプが現行タイプよりも高価格な650円であれば,「商

品説明の表示」の有無に関係なく,青ネギタイプへの需要は発生しなかった.価格が現行タイプと同価

格の600円で「商品説明の表示」の条件が同じならば,表示ありで青ネギタイプが28.7%,表示なしで23.6%

のシェアであった.現行タイプと異なる条件の場合,現行タイプに商品説明の表示がなく,青ネギタイプ

に表示があれば,青ネギタイプのシェアは58.0%と6割近くのシェアを獲得する.逆に,現行タイプに商品

説明の表示があり,青ネギタイプに表示がない場合,青ネギタイプのシェアは8.2%となる.次に,青ネギタ

イプの価格が現行タイプよりも低価格の550円で,商品説明の表示の条件が同じならば,表示ありで青ネ

ギタイプが48.0%,表示なしで65.2%のシェアであった.現行タイプと異なる条件の場合,現行タイプに商

品説明の表示がなく,青ネギタイプには商品説明の表示があれば,青ネギタイプのシェアが78.9%と約8

割のシェアを獲得する.逆に,現行タイプに商品説明の表示があり,青ネギタイプにない場合,青ネギタ

イプのシェアは35.3%となる.

各回答者の選好データに基づいて青ネギタイプに対するシェアを算出した結果,平均31.2%であること

が明らかになった.青ネギタイプのシェアは,条件によって最大78.9%から最小0%に変化する.青ネギタイ

プのシェアを押し上げる要因は,①現行タイプよりも低い価格設定,②減農薬かつ減化学肥料栽培,③

商品説明表示の3つの要因である.現行タイプと同価格の場合でも,「商品説明の表示」が「なし」から「あ

り」に変わるとシェアが20から35ポイント拡大するので,青ネギタイプに対して商品説明を表示する影響は

非常に大きいと考えられる.

3.5 小括

本稿では,産地関係者に岩津ネギとして認識されていない青ネギタイプの生産・販売戦略の構築を促

す根拠として,仮想的なプロファイル群に対する消費者の選好評価をJMPによるコンジョイント分析で解

析して示した.その結果,消費者の岩津ネギの青ネギタイプへの選好の存在が確認され,市場出荷用の

包装紙では2004年産から除かれている「商品説明の表示」が,「価格」や「栽培方法」と同様に購入意向

に影響を及ぼす要因として重要であることが明らかとなった.また,品質面では「軟らかさ」にこだわる消

費者の存在も明らかとなり,岩津ネギの優良系統の選抜と採種事業による「軟らかな」岩津ネギの生産拡

大の意義も明らかとなった.

しかしながら,本稿では残された課題がある.本研究では,属性としての「商品説明の表示」に関して

説明内容を細分化せずに一括して設定したため,具体的に被験者が説明内容の何を評価しているかを

明確にしていない.今後は,消費者の選好度の高い表示内容を調査する必要がある.また,本研究では

青ネギタイプの需要予測をシェアのシミュレーションという形で行ったものの,実際の販売場面での検証

を行っていない.青ネギタイプの岩津ネギの市場商品化を図るに当たっては,「岩津青ねぎ」や「岩津小

ねぎ」といった新しい商標の考案とともに,青ネギタイプを加えた岩津ネギの販売実験,さらにはサンプル

数の確保や調査実施場所などにも配慮した上で他産地のネギも加えた中での岩津ネギの購入意向に関

する消費者調査を実施し,予測と実測との比較を行う実証研究が不可欠といえる.

4.JSLスクリプトによるコンジョイント分析の処理

4.1 JSLスクリプトの作成による分析過程の効率化

本研究でJMPを利用してコンジョイント分析を実施するには,以下の手順が必要となる.

1)第4図に示したような,第2節で“実験計画”メニューの“カスタム計画”(第1図を参照のこと)を利用して

作成した8枚のプロファイルに対する44名の回答者の購入意向を示した評定尺度値データテーブル

(8行44列)を用意する.

2)第4図の44名の回答者の購入意向を示した評定尺度値データテーブルを用いて,回答者1から回答

者44までを対象に,第3図に示す“モデルのあてはめ”を44回にわたって順次適用して,最小二乗法

で個人別の部分効用値の推定値を求める.各回答者の部分効用値の推定値は,第9図の“尺度化し

た推定値”の欄に出力される.

3)44名の回答者ごとに求められた“尺度化した推定値”の欄の値を転記入力して,第6図に示したような

44行12列の部分効用値データテーブルを作成する.

4)式①に対応するように,切片に相当する部分は常に1,5つの属性の個々の水準のうちの1つだけが

値1をとり,残りの水準は値0で表現される,48のプロファイルを表現する12行48列のプロファイルデー

タテーブルを作成する.

5)部分効用値データテーブルとプロファイルデータテーブルとの間で行列の掛け算を行い,求められた

44行48列のデータテーブルを転置して,48行44列の全体効用値データテーブルを作成する.

6)全体効用値データテーブルの個々の列に関して,48のプロファイルに対する全体効用値を昇順に並

べ替え,対応するプロファイルに順位(同順の場合は順位の平均)を得点として与え,さらに全体効用

値が4未満のプロファイルの得点は0とした上で,もとのプロファイルの順に得点を並べ替え直し,第7

図に示したようなシェア算出用データテーブルを作成する.

このような作業を実施するには,基本的に同じ内容の処理を回答者数に相当する回数だけ繰り返す

必要があり,作業が面倒であるとともに大変となる.そこで,第4図のような個々の回答者の回答から構成

されるデータテーブルに“モデルのあてはめ”を適用して第6図に示したような個人別部分効用値データ

テーブルが自動的に作成されるようなJSLスクリプトを作成した.

4.2 JSLスクリプトの解説

前述の4.1の作業の中で,最も手間がかかる2)及び3)の作業を自動化し,ミスを削減するために作成し

たJSLスクリプトを次ページ以降に示し,記述内容を解説する.

回答者がn(n≧2)人の場合,第4図の回答者の購入意向評定尺度データテーブルに“モデルのあて

はめ”を適用して部分効用値の推定値(第9図の“尺度化した推定値”)を求める作業をn回繰り返した上

で,第6図に示すような部分効用値データテーブルを作成するためのJSLスクリプトは,1)回答者1用の部

分効用値の推定値を取得するスクリプト,2)それ以外の回答者用の部分効用値の推定値を取得するスク

リプト,3)1)および2)のスクリプトで作成された部分効用値行列をデータテーブルに保存して転置するスク

リプトの3種類が必要である.

/* 回答者1 */

MDL=モデルのあてはめ(Y( :回答者1), 効果( :商品説明の表示, :軟らかさ, :価格, :販売形態,

:栽培方法), 手法(標準最小2乗), 強調点(要因のスクリーニング), モデルの実行(プロファイル(1, 項

の値(商品説明の表示("表示あり"), 軟らかさ("なし"), 価格("550円"), 販売形態("現行どおり"),

栽培方法("減農薬 減化学"))), :回答者1 << {尺度化した推定値(1)}));

COL=(MDL<<report)["尺度化した推定値",Column Box("尺度化した推定値")];

Tokuten=COL<<Get As Matrix;

MDL<<Close Window();

Win=Window("モデルのあてはめ");

Win<<Close Window();

/* 回答者2 */

MDL=モデルのあてはめ(Y( :回答者 ),効果( :商品説明の表示, :軟らかさ, :価格, :販売形態,2

:栽培方法), 手法(標準最小2乗), 強調点(要因のスクリーニング), モデルの実行(プロファイル(1, 項

の値(商品説明の表示("表示あり"), 軟らかさ("なし"), 価格("550円"), 販売形態("現行どおり"),

栽培方法("減農薬 減化学"))), :回答者 << {尺度化した推定値(1)}));2

COL=(MDL<<report)["尺度化した推定値",Column Box("尺度化した推定値")];

Tokuten0=Tokuten;

Tokuten=COL<<Get As Matrix;

Tokuten=Concat(Tokuten0,Tokuten)

MDL<<Close Window();

Win=Window("モデルのあてはめ");

Win<<Close Window();

《 以降,回答者番号を除いて同一内容のスクリプトであるので省略 》

/* 回答者n */

MDL=モデルのあてはめ(Y( :回答者n), 効果( :商品説明の表示, :軟らかさ, :価格, :販売形態,

:栽培方法), 手法(標準最小2乗), 強調点(要因のスクリーニング), モデルの実行(プロファイル(1, 項

の値(商品説明の表示("表示あり"), 軟らかさ("なし"), 価格("550円"), 販売形態("現行どおり"),

栽培方法("減農薬 減化学"))), :回答者n << {尺度化した推定値(1)}));

COL=(MDL<<report)["尺度化した推定値",Column Box("尺度化した推定値")];

Tokuten0=Tokuten;

Tokuten=COL<<Get As Matrix;

Tokuten=Concat(Tokuten0,Tokuten);

MDL<<Close Window();

Win=Window("モデルのあてはめ");

Win<<Close Window();

/* データテーブルへ保存 */

New Table("Pwf Matrix", Set Matrix(Tokuten));

Data Table("Pwf Matrix") << 転置(列( :列1, :列2, :列3, ・・・・・ ,:列n ))

第8図 JSLによるスクリプトのプログラムリスト

第9図 “モデルのあてはめ”の結果表示されるダイアログ

各回答者に共通するMDLから始まる行では,“モデルのあてはめ”により得られる最小二乗法での推

定結果のダイアログ(第9図)において表示されている計算結果の内容をMDLという変数に代入してい

る.MDL=の右側部分は,通常の操作でJMPの“モデルのあてはめ”を実行して表示されたダイアログ

(第4図)において“スクリプトの保存”を行い,その結果として保存されたJSLスクリプトの内容をそのまま

利用している.

次の行は,COLという変数に,スクリプトを用いて第9図のダイアログの点線で囲まれた部分の値を代

入しているが,COL=の右側部分は,“モデルのあてはめ”により最小二乗法で推定される部分効用値

に当たる“尺度化した推定値”(第9図のダイアログの点線で囲まれた部分)を参照するためのJSLスクリ

プトである.

続く行のTokuten=COL<<Get As Matrix;では,変数COLに代入された数値(尺度化した推定値)を列

ベクトル(行列形式)としてTokutenという名前の変数に代入(保存)している.

最後の3行は,開いたままのダイアログ・ウインドウを閉じるためのスクリプトである.まず,各回答者のス

クリプト中にも含まれるMDL<<Close Window();によって,第9図に示されるウインドウを閉じている.次の

Win=Window("モデルのあてはめ");では,第3図に示される“モデルのあてはめ”のダイアログ・ウインドウ

をWinという名前の変数に代入して特定している.その上で,最後にそのダイアログ・ウインドウを閉じるた

めにWin<<Close Window();という行を加えている.

回答者1以外の残りの回答者についてのJSLスクリプトは,回答者1に対してのJSLスクリプトとほぼ同じ

内容であるが,Tokuten0=Tokuten;とTokuten=Concat(Tokuten0,Tokuten);の2つの行が回答者1用のス

クリプトに付け加えられている.Tokuten0=Tokuten;では,回答者1用のスクリプトの実行以降,このスクリ

プト行が実行されるまでに蓄積されてきた“尺度化した推定値”(回答者1用のスクリプト実行後は列ベクト

ルであるが,2番目以降の回答者用のスクリプトが実行されていくと次々に2番目以降の回答者の“尺度

化した推定値”の列ベクトルが後ろに追加されて行列になる.)をTokuten0という名前の変数に代入して

いる.次のTokuten=COL<<Get As Matrix;では,前述のとおり,直前のMDLで始まるスクリプト行で取り

出された“尺度化した推定値”を列ベクトルとしてTokutenという名前の変数に代入している.その上で,

続く行のTokuten=Concat(Tokuten0,Tokuten);で,これまでに処理をしてきた回答者の“尺度化した推定

値”を蓄積してきた行列であるTokuten0の後ろの列に新たに計算された“尺度化した推定値”を連結して

Tokutenに改めて保存する操作を行っている.

プログラムリストの最後の2行では,全回答者の“尺度化した推定値”が保存されているTokuten内の行

列を新しいデータテーブル“Pwf Matrix”に格納した上で,このデータテーブルの転置行列を求めて第6

図に示すような個人別部分効用値データテーブルを作成するという操作を行っている.

具体的には,New Table ( "Pwf Matrix" , Set Matrix (Tokuten));によってTokuten内の行列のデー

タが転記された“Pwf Matrix”という名前のデータテーブルを新規作成している.このデータテーブルを,

DataTable("Pwf Matrix")<< 転置 (列 (:列1,:列2,:列3,:列4,:列5, ・・・・・ ,:列n))というスクリプトで転置さ

せて,第6図のように解析しやすい行と列を入れ替えたデータテーブルを作成している.

このJSLスクリプトの作成に当たって,当初は回答者2用のスクリプトを回答者総数分だけコピーアンド

ペーストし,第8図のJSLスクリプト内の下線を付した数字部分を個別に修正していく方法で作成した.し

かしながら,この方法は非効率的で作業途中でのミスが発生しやすい.そこで,第8図のJSLスクリプト内

の下線を付した数字部分(“回答者 ”から“回答者 の数字の部分)だけを変更しなければならないこと2 n”

に着目して,その変更作業を自動的に行うプログラムをExcelのVBAの機能を用いて作成した.具体的な

VBAによる,JSLスクリプトの作成のためのプログラムリストと作成の具体的方法を付録に示すので参考

にされたい.

5 おわりに

従来,コンジョイント分析に際しては,1)SASのtransregプロシジャの利用,2)SPSS Japan Inc.が販売し

ているコンジョイント分析用のオプション(SPSS Conjoint)の利用,3)株式会社エスミが販売しているExcel

のVBAでかかれたパッケージ(EXCELコンジョイント分析/AHP Ver1.0)の利用,などで分析が行われる

のが一般的であった.しかし,価格や操作性や処理できるデータ量などの面でそれぞれ一長一短がある

中で,コスト・パフォーマンスが高く,非常に優れたデータ分析能力を持っているJMPを活用してコンジョイ

ント分析が容易に実現できれば,一般の利用者に対して大いなる福音がもたらされることになる.

このような考えから,本稿では,JMPの“実験計画”メニューの“カスタム計画”と“分析”メニューの“モデ

ルのあてはめ”の最小二乗法を利用することによって,新製品開発などのコンセプトの最適な組み合わせ

の評価ができる完全プロファイル評定型コンジョイント分析が比較的容易に実現可能であることを示し,

岩津ネギの市場商品化に関する調査データを用いて実証を行った.さらに,市場商品化の可能性を具

体的に検証するための予測選好シェアによる解析作業を効率的にすすめるために,これまであまり適用

事例の紹介される機会がなかったJSLスクリプトの活用を考え,JSLスクリプトの活用方法を示すとともに,

Microsoft社のExcelを利用してJSLスクリプトを効率的に発生させるVBAプログラムも開発した .11)

JMPでコンジョイント分析を簡便に実施していくには,本稿で示したタイプ(完全プロファイル評定型)以

外のタイプのコンジョイント分析への対応やJSLスクリプトのさらなる活用など,さらに工夫が必要になる

が,本稿でのコンジョイント分析の実行例がコンジョイント分析やJSLスクリプトの活用を目指しておられる

ユーザー会の会員諸氏の研究や業務に役立てば幸甚である.

謝 辞

調査に際して,回答者の皆様には貴重な時間を割いて調査に協力して頂いた.道の駅『フレッシュ朝

来』の池野雅視支配人には,調査の実施に当たって格別の配慮を頂いた.また,兵庫県和田山農業改

良普及センター吉川玖仁子普及員,西川毅普及員(現:兵庫県宝塚農業改良普及センター)には休日

にも係わらず調査に協力頂いた.この場を借りて,厚く御礼申し上げる.

脚 注

1)岩本[1]による.

2)兵庫県立農業試験場[7],pp.45-46による.

3)詳細は加藤・有馬[4]を参照されたい.

4)川向[5]を参考にした.

5)片平[3]は,「電子レンジ,オーブンに対する選好の測定と市場の分析」(pp.155-166)において,予測

選好シェアの算出方法について触れている.また,代[6]は,予測選好シェアをマインド・シェアと呼び,

算出方法を詳細に示している.

6)この表示は,市場出荷用の岩津ネギ包装資材の下部に,①300年の伝統の味覚であること,②白根か

ら葉まで,すべて食べられること,③とろけるような肉質で甘みと香りが有ること,④鍋物,焼きネギ,ぬた,

串焼きなどの調理事例が1992年産から2003年産まで印刷されていた.2004年産からは,岩津ネギのブラ

ンドが消費者に浸透したと判断されたため,デザインが変更され商品説明の表示は除かれている.

7)道の駅『フレッシュ朝来』の農産物直売所では,商標名,価格,生産者名が包装資材に添付されて販

売されている.脚注6)の①~④の内容を含めた商品説明は販売場所にポスターなどで掲示されている.

8)品質面に関する消費者調査は,筆者の一人である加藤が2002年と2003年に道の駅『フレッシュ朝来』

にて岩津ネギ購入者92人(2002年45人,2003年47人)に対して実施した.「軟らかさ」に満足していない

人は32.6%,「甘さ」に満足していない人は25.0%,「香り」に満足していない人は25.5%であった.

9)この背景として,岩津ネギが在来種であり,農家の自家採種によって生産されてきたことから,外観お

よび品質的なばらつきの大きいことがあげられる.詳細は加藤[3]を参照されたい.

10)詳細は廣野・林[8],pp.261-264を参照されたい.

11)我々の研究グループは,開発したスクリプトを他の意識調査データにも適用してみて,639サンプルを

対象とするコンジョイント分析にも利用できることを確認している.

参考文献

[1]岩本政美,「岩津ネギ」,『植物の自然誌プランタ』,第51号,pp.27-34,1997.

[2]片平秀貴,『マーケティング・サイエンス』,東京大学出版会,1997.

[3]加藤雅宣,「岩津ネギ産地育成の経過と今後の課題」,『近畿中国四国農研農業経営研究』,第3

号,pp.94-104,2003.

[4]加藤雅宣・有馬昌宏,「コンジョイント分析による岩津ネギの青ネギ形態に対する消費者評価」,『近

畿中国四国農業研究』,第6号,pp.79-87,2005.

[5]川向肇,『JMP4.0(日本語版)利用の手引き』,神戸商科大学情報処理教育センター,2002.

[6]代喜一,『コンジョイント分析』,データ分析研究所,1999.

[7]兵庫県立農業試験場,『兵庫の園芸』,兵庫県,1951.

[8]廣野元久・林俊克,『JMPによる多変量データ活用術』,海文堂出版,2004.

付録 VBAによるJSLスクリプトの作成

VBAを活用してJMPのJSLスクリプトを自動作成させ,コンジョイント分析を実施するためには,

①JMPを起動し,コンジョイント分析を行うためのJMPのデータテーブルを開く.

②Microsoft Exccelを起動し,マクロが記入されたMicrosoft Excel用のファイルを開く.

③Microsoft Excelのファイルに含まれるマクロを起動する.

④コンジョイント分析を行おうとする利用者は,表示されるダイアログウインドウ上のテキストボックスに処

理件数を記入し,その上でダイアログウインドウ上の“スクリプトの作成ボタン”をクリックする.

⑤1つのセルに1行のスクリプトが対応するように,Excelの各セルに必要なスクリプトが,Microsoft Excel

のファイル内に含まれるマクロによって記入される.

⑥すべてのスクリプトがセルに記入された段階で,セルに記入された全てのスクリプトがWindowsのメモリ

上のクリップボードにExcelのファイル内に含まれるマクロによってコピーされる.

⑦Microsoft ExcelからJMPにフォーカスを切り替え,JMPをアクティブにしたあと,JMPのメニューから,“フ

ァイル”―“新規作成”―“スクリプト”と選択して,新規のスクリプト・ウインドウを表示させる.

⑧このスクリプト・ウインドウにクリップボードの内容の貼り付けを“編集”―”貼り付け” (またはCtrl+V)と

選択して行い,スクリプトをJMP上で利用できるようにする.

⑨その上で,スクリプトを実行する.

という手順を踏めばよい.なお,最も手間がかかるスクリプトの作成部分である⑤および⑥に関する操作

はVBAによって1クリックで自動的に実行されるようになっているが,それら以外の手順は手動で行わなけ

ればならない.

,まず,VBAによるスクリプトの自動作成とクリップボードへのスクリプトのコピーを実現するために

第A1図に示すダイアログウインドウのためのフォームを作成し,スクリプト作成の実行を利用者が指示す

るためのコマンドボタンと,第8図に示したスクリプトを作成する際に必要となる回答者数(被験者数)を取

得するテキストボックスを配置した.

コンジョイント分析を行おうとしている利用者が,こ

のダイアログウインドウを表示させるマクロを実行し,

表示されたダイアログウインドウ上のコマンドボックス

を利用者がクリックしたときに,JMPでコンジョイント

分析を行うためのスクリプトのVBAによる自動作成と

そのスクリプトをセルに自動保存するため,コマンド

ボタンがクリックされたときに実行するVBAのコード

を作成した.VBAの具体的なコード例は,次ページ

以降に示すとおりである.

したがって,実際のコンジョイント分析を行おうと

する利用者がしなければならないことは,Microsoft

ExcelとJMPを起動し,コンジョイント分析を行うため

JMPのデータファイルを開いたあと,Microsoft Excelのマクロが記入されたファイルを開くこと,そのファイ

ルに含まれる起動用マクロを実行し,第A1図に示すダイアログウインドウが表示された後,そのダイアログ

ウインドウ上のテキストボックスに回答者数を入力すること,ダイアログウインドウ上のスクリプトの作成ボタ

ンをクリックすること,⑦から⑨の手順を実行することである.

第A1図 VBAで作成したフォーム

Private Sub CommandButton1_Click()

'---------------------------------------------------- ' 配列の宣言文 '---------------------------------------------------- Dim ModelTxtHD, ModelTxtMD, ModelTxtTL, ScrTmpSave As String Dim ScrReplace, ScrPickScore, ScrConcat, ScrWindowCntl(3) As String

Dim ScrHdrTxt(2), ScrTran(2), ScrTran, ScrCol As String Dim i, j, SmpNum As Integer '---------------------------------------------------- ' Script作成に必要な要素の代入 '---------------------------------------------------- ScrHdrTxt(1) = "/* 回答者" ScrHdrTxt(2) = " */" ModelTxtHD = "MDL=モデルのあてはめ(Y( :回答者" ModelTxtMD = "), 効果( :列1, :列2, :列3, :列4, :列5), 手法(標準最小2乗),

強調点(要因のスクリーニング), モデルの実行(プロファイル(1, 項の値(列1(""表示あり""), 列2(""なし""), 列3(""550円""), 列4(""現行どおり""), 列5(""特別""))), :回答者"

ModelTxtTL = " << {尺度化した推定値(1)}));" ScrTmpSave = "TokutenO=Tokuten;" ScrPickScore _

="COL=(MDL<<report)[""尺度化した推定値"",ColumnBox(""尺度化した推定値"")];" ScrReplace = "Tokuten=COL<<GetAsMatrix;" ScrConcat = "Tokuten=Concat(TokutenO,Tokuten);" ScrWindowCntl(1) = "MDL<<CloseWindow();" ScrWindowCntl(2) = "Win=Window(""モデルのあてはめ"");" ScrWindowCntl(3) = "Win<<CloseWindow();"

ScrCol = ":列" '---------------------------------------------------- ' フォーム上のテキストボックスからの値の取得 '---------------------------------------------------- SmpNum = CInt(UserForm1.TextBox1.Text) '----------------------------------------------------

' セルへの代入(1番目の回答者の処理) '---------------------------------------------------- Worksheets("Script").Cells(1, 1)=ScrHdrTxt(1)+"1"+ScrHdrTxt(2) Worksheets("Script").Cells(2, 1)=ModelTxtHD+"1"+ModelTxtMD+"1"+ModelTxtTL Worksheets("Script").Cells(3, 1)=ScrPickScore Worksheets("Script").Cells(4, 1)=ScrReplace Worksheets("Script").Cells(5, 1)=ScrWindowCntl(1) Worksheets("Script").Cells(6, 1)=ScrWindowCntl(2) Worksheets("Script").Cells(7, 1)=ScrWindowCntl(3)

表示させたフォームからスクリプ

トを作成する回数(回答者数)を取得

し,SmpNumに代入する.

1番目と2番目以降でスクリプトが異

なるので,まず,1番目のスクリプ

トの内容をセルに順次代入する.

汎用的に利用する文字列を変数に代入しておき,

この変数の内容をセルに代入することでスクリプ

トを作成する.下線部分はJMPでスクリプトを作

成してその一部を利用している.ここでは回答者

番号以外の部分を配列に保存している.

'--------------------------------- ' セルへの代入(2番目以降の回答者の処理) '--------------------------------- If SmpNum > 1 Then ' For i = 2 To SmpNum j = i - 1 Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 1, 1) = ScrHdrTxt(1)+CStr(i)+ScrHdrTxt(2)

Worksheets("Script").Cells(j*10+ 2, 1) =ModelTxtHD+CStr(i)+ModelTxtMD+CStr(i)_ + ModelTxtTL

Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 3, 1) = ScrPickScore Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 4, 1) = ScrTmpSave Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 5, 1) = ScrReplace Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 6, 1) = ScrConcat Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 7, 1) = ScrWindowCntl(1) Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 8, 1) = ScrWindowCntl(2) Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 9, 1) = ScrWindowCntl(3) 'セルに順次値を保存し、スクリプトの内容をセルに表示させる Next End If '---------------------------------------------------- ' 転置作業に関するスクリプトの記入 '----------------------------------------------------

Worksheets("Script").Cells(j*10+11,1) _

="DataTbl=New Table(""PwfMatrix "",Set Matrix(Tokuten)); "

For i = 1 To SmpNum ScrTran = ScrTran + ScrCol + CStr(i) If i < SmpNum Then ScrTran = ScrTran + ", " End If Next Worksheets("Script").Cells(j * 10 + 12, 1) _

= "Data Table(""Pwf Matrix"") << 転置(列( " + ScrTran + "))"

'---------------------------------------------------- ' スクリプトのメモリへのコピー '---------------------------------------------------- Worksheets("Script").Range(Cells(1, 1), _ Cells(SmpNum * 10 + 3, 1)).Select Unload UserForm1

End Sub

SmpNum>1 のときに以下の作業を実施する.実施回数

は,2から SmpNumまで.回答者1人に対するスクリ

プトの行数が9行なので,回答者1人に対して10行を

確保するために,j*10+(行番号)としている.

PwfMatrixというデータテーブルを作成

するためのスクリプトおよびこのデータ

テーブルを転置するためのスクリプトを

変数ScrTranに代入した上で、最終的な

スクリプトとしてセルに代入している.

スクリプト自体をWindowsのメ

モリにコピーし,その後で表示さ

せているフォームを閉じる.