jp 資産の期待リターン超長期予想 -2020...2019/12/16  ·...

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JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 100-6432 東京都千代田区丸の内2丁目73号東京ビルディング 1 プレスリリース 報道機関 各位 JPモルガン・アセット・マネジメント 60資産の期待リターン超長期予想 -2020年版- を発表 ~長期の「安定資産」としてオルタナティブが台頭。構造的な変化を迎えつつある金融市場~ [東京 20191216日] JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(所在地:東京都千代田区、社長:大越昇一)は本日、60資産の超長 期見通しと期待リターンについてのレポート「Long-Term Capital Market Assumptions」(以下、LTCMA)の2020 年版を発表しました。 LTCMAは、J.P.モルガン・アセット・マネジメントが今後1015年のマクロ経済の見通しに基づき、60の資産クラス や投資戦略について期待リターン、想定ボラティリティ、相関係数を算出した年次レポートで、今年で24回目とな ります *1 当レポートは、債券、株式からオルタナティブまで幅広い資産クラスや投資戦略において、具体的かつ透明性の 高い形で期待リターンを算出しています。例えば、債券については、今後の金融政策を予想した上で、先進国国 債のみならず、社債や新興国債券など様々な種類の債券の長期期待リターンを算出しています。また、株式で も、マクロ経済および各国の企業業績の見通しをもとに構築した算出プロセスで期待リターンを算出しています。 2020年版LTCMAにおける超長期見通しの主なポイントは以下のとおりです。 今後1015年の実質成長率見通しは下方修正に。中国の成 長率鈍化が影響。 世界全体の今後10~15年の実質GDP成長率見通しは、年率 2.3%と、昨年対比で20bps(ベーシス・ポイント)下方修正されま した。先進国の実質GDP成長率見通しは昨年と同様1.5%です が、新興国は35bps下げて3.9%と予想しています。この理由は 主に、成熟期に突入した中国経済の成長率の鈍化によるものと 考えています。 株式の期待リターンの見通しは昨年比で若干上向き。将来的 にはeコマースの普及により引き上げの可能性も。 株式に対する見通しは、バリュエーションの改善で若干上向きと なり、日本株式の期待リターンは昨年5%から5.5%となりました。 先進国株式、新興国株式もそれぞれ昨年対比で上昇しています (右図参照)。将来的には、eコマースが企業の生産性を高め、利 益率向上に寄与することで、株式の長期リターン見通しが更に引 き上がる可能性があると予想しています。 長引く低金利環境により、債券の期待リターンに厳しい見通し。これまでの金融緩和政策の限界か。 低インフレ・低金利環境が当面も長引くと見られることから、債券の期待リターンは大幅に下方修正され、日本国債 は昨年の期待リターン 0.75% から 0.3%と低下しました。一方、比較的デュレーションが短い米国ハイ・イールド債 券(為替ヘッジあり)の期待リターンは 3.4%と、債券の中では相対的に高い水準を維持しています。全体的な債券 の厳しい見通しは、これまで行われてきた金融緩和政策に限界がみられることを示唆しています。 主要資産クラスの今後10年~15年の期待リターン *2 (抜粋、年率、円ベース) 2020年版 LTCMAの予想値 2019年版 LTCMAの予想値 日本国債 0.30% 0.75% 日本大型株式 5.50% 5.00% 米国ハイ・イールド債券 (為替ヘッジあり) 3.40% 3.75% 先進国国債 (除く日本・為替ヘッジあり) 0.30% 1.25% 先進国国債 (除く日本・為替ヘッジなし) 0.90% 1.25% 先進国株式 (除く日本・為替ヘッジなし) 4.50% 4.00% 新興国株式 (為替ヘッジなし) 7.50% 6.75% 米国コア不動産 (為替ヘッジなし) 4.10% 4.00% : 2018930日時点と2019930日時点の比較。

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JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 〒100-6432 東京都千代田区丸の内2丁目7番3号東京ビルディング

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プレスリリース 報道機関 各位

JPモルガン・アセット・マネジメント 60資産の期待リターン超長期予想 -2020年版- を発表

~長期の「安定資産」としてオルタナティブが台頭。構造的な変化を迎えつつある金融市場~ [東京 2019年12月16日] JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(所在地:東京都千代田区、社長:大越昇一)は本日、60資産の超長

期見通しと期待リターンについてのレポート「Long-Term Capital Market Assumptions」(以下、LTCMA)の2020年版を発表しました。 LTCMAは、J.P.モルガン・アセット・マネジメントが今後10~15年のマクロ経済の見通しに基づき、60の資産クラス

や投資戦略について期待リターン、想定ボラティリティ、相関係数を算出した年次レポートで、今年で24回目とな

ります*1。 当レポートは、債券、株式からオルタナティブまで幅広い資産クラスや投資戦略において、具体的かつ透明性の

高い形で期待リターンを算出しています。例えば、債券については、今後の金融政策を予想した上で、先進国国

債のみならず、社債や新興国債券など様々な種類の債券の長期期待リターンを算出しています。また、株式で

も、マクロ経済および各国の企業業績の見通しをもとに構築した算出プロセスで期待リターンを算出しています。 2020年版LTCMAにおける超長期見通しの主なポイントは以下のとおりです。 今後10~15年の実質成長率見通しは下方修正に。中国の成

長率鈍化が影響。 世界全体の今後10~15年の実質GDP成長率見通しは、年率

2.3%と、昨年対比で20bps(ベーシス・ポイント)下方修正されま

した。先進国の実質GDP成長率見通しは昨年と同様1.5%です

が、新興国は35bps下げて3.9%と予想しています。この理由は

主に、成熟期に突入した中国経済の成長率の鈍化によるものと

考えています。 株式の期待リターンの見通しは昨年比で若干上向き。将来的

にはeコマースの普及により引き上げの可能性も。 株式に対する見通しは、バリュエーションの改善で若干上向きと

なり、日本株式の期待リターンは昨年5%から5.5%となりました。

先進国株式、新興国株式もそれぞれ昨年対比で上昇しています

(右図参照)。将来的には、eコマースが企業の生産性を高め、利

益率向上に寄与することで、株式の長期リターン見通しが更に引

き上がる可能性があると予想しています。 長引く低金利環境により、債券の期待リターンに厳しい見通し。これまでの金融緩和政策の限界か。 低インフレ・低金利環境が当面も長引くと見られることから、債券の期待リターンは大幅に下方修正され、日本国債

は昨年の期待リターン 0.75% から 0.3%と低下しました。一方、比較的デュレーションが短い米国ハイ・イールド債

券(為替ヘッジあり)の期待リターンは 3.4%と、債券の中では相対的に高い水準を維持しています。全体的な債券

の厳しい見通しは、これまで行われてきた金融緩和政策に限界がみられることを示唆しています。

主要資産クラスの今後10年~15年の期待リターン*2 (抜粋、年率、円ベース)

2020年版LTCMAでの予想値

2019年版LTCMAでの予想値

日本国債 0.30% 0.75%

日本大型株式 5.50% 5.00%

米国ハイ・イールド債券 (為替ヘッジあり) 3.40% 3.75%

先進国国債 (除く日本・為替ヘッジあり) 0.30% 1.25%

先進国国債 (除く日本・為替ヘッジなし) 0.90% 1.25%

先進国株式 (除く日本・為替ヘッジなし) 4.50% 4.00%

新興国株式 (為替ヘッジなし) 7.50% 6.75%

米国コア不動産 (為替ヘッジなし) 4.10% 4.00%

注: 2018年9月30日時点と2019年9月30日時点の比較。

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JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

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長期の「安定資産」としてのオルタナティブ。 オルタナティブ資産のひとつである米国コア不動産(為替ヘッジなし)の期待リターンは昨年の 4%から 4.1%と若

干上昇しました。これは、世界株式 60%と先進国国債(為替ヘッジあり)40%を組み合わせたバランス・ポートフォ

リオから得られる期待リターン 3.4%を上回る予想です(期待リターンは全て円ベース)。実物資産は 2007年~

2008年の金融危機を除けば、大半のストレス期間ではディフェンシブな特徴を示し、安定したリターン実績を積み

重ねています。これまで安全資産と呼ばれてきた債券のリターン獲得が難しくなった現在、より強固で安定的な収

益の獲得が期待されるオルタナティブ(実物資産)への投資も選択肢のひとつとして有望だと考えられます。 これまでに前例の無い、構造的な変化を迎えつつある金融市場。 今後 10~15年間の世界経済は、全体的に低位安定した動きが続くと予想しています。しかしながら、一部の資産

においては、今までの常識では当てはめられない動きが出てきています。従来型の金融緩和政策が効果を発揮し

ない債券市場、eコマースなどテクノロジーの進化によって利益率向上が予想される株式市場、そして、安全資産

としてのオルタナティブの台頭などです。また、成長期から成熟期に突入した中国も大きな変革期にあると考えら

れます。これらの状況を踏まえると、今後の金融市場は、これまでの前例や常識が通用しない、構造的な変化の

時代を迎えることが予想されます。 本年の LTCMA では、期待リターンの見通しに加え、下記 4つの長期テーマについてのレポート(すべて英語版)

を特設サイトで公開しています。 1. これまでの金融政策は有効だったのか

従来型および非従来型の金融緩和の限界。 2. 中国の次なる成長ステージ

中国が高所得国になったときの金融市場の変化。 3. e コマースが今後経済に与える影響

eコマーステクノロジーの採用は、経済成長と投資機会にとって何を意味するか。 4. これからの安全資産とは

投資家は、より回復力のあるポートフォリオを構築するために何ができるのか。 LTCMAスペシャルサイト: www.jpmorganasset.co.jp/ltcma J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、資産運用会社の社会的使命として、今後も機関投資家や個人投資家のお

客様の中長期の資産運用や資産形成の一助となる情報発信を継続的に行い、金融市場の発展に貢献すべく尽

力してまいります。

*1 英語版の公表回数。日本語版は2017年版より作成し、今回で4回目の実施。 *2 出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント

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JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社

3

***

JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社は、日本市場に最も早く進出した外資系資産運用会社のひとつです。日本の金融業界

の規制緩和と共に1987年に投資一任契約業務の認可取得、外資系資産運用会社の第一陣として、1990年に投資信託委託会社

を設立し、また公的年金基金の運用委託など業界の先駆けとなっています。投資家の多様化するニーズに対応すべく、株式、債

券、転換社債、オルタナティブ資産等、あらゆる資産クラスにおいて卓越した運用能力を発揮し、リーディングカンパニーならではの

資産運用サービスを提供します。 J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブラ

ンドです。国際的な資産運用の分野で約150年にわたる実績があり、運用資産残高約205兆円を有する世界最大規模の資産運用

サービスグループです。世界30ヵ国・地域以上にネットワークを持ち、日本ではJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社を通じて

顧客にサービスを提供しています。詳細情報は www.jpmorganasset.co.jp にてご覧いただけます。 JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー (NY証取: JPM) は総資産2.8兆ドルを有する世界有数のグローバル総合金融サービス

会社です。投資銀行業務、個人・中小企業向け金融サービス業務、コマーシャル・バンキング業務、金融取引資金管理業務、資産

運用業務において業界をリードしています。世界で展開する法人向け事業は「J.P.モルガン」、米国における個人向け事業は「チェ

ース」ブランドを用いて、世界有数の事業法人、機関投資家、政府系機関および米国の個人のお客様に金融サービスを提供して

います。詳細はウェブサイト http://www.jpmorganchase.com/ をご覧下さい。 J.P.モルガン・アセット・マネジメントの数値は2019年9月末現在 JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPモルガン・チェース)の数値は2019年10月末現在

本資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」という。)が作成したものです。本資料は投資に係わる参考情報の提供を目的

としたものであり、特定の有価証券の勧誘を目的として作成したものではありません。また、弊社が特定の有価証券の販売会社として直接説明す

るために作成したものではありません。弊社は信頼性が高いとみなす情報等に基づいて本資料を作成しておりますが、当該情報が正確であること

を保証するものではなく、弊社は、本資料に記載された情報を使用することによりお客様が投資運用を行った結果被った損害を補償いたしませ

ん。本資料に記載された意見・見通しは表記時点での弊社の判断を反映したものであり、将来の市場環境の変動や、当該意見・見通しの実現を保

証するものではございません。また、当該意見・見通しは将来予告なしに変更されることがあります。

商号:JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第330号 加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 投資信託協会、日本証券業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

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2020 Long-TermCapital Market Assumptions第24回年次レポート | エグゼクティブ・サマリー

Time-tested projectionsto build stronger portfolios

要旨

このエグゼクティブサマリーは、2020年のLong-Term Capital Market Assumptions(LTCMA)を概説し、今後10~15年の投

資期間における見通しと、当社が市場の期待リターンに影響する重要な構造的テーマをどのように見ているのか、その背景を

説明するものです。今年のLTCMAの主要ポイントは以下の通りです。

• GDP成長率は、人口の高齢化が逆風となり、過去水準に比

べると低位での推移が続いていますが、一方でテクノロジー

の進化がもたらす生産性の向上が主な上振れリスクとなっ

ています。財政刺激策が取り得る政策の中で飛び抜けて大

きな役割を果たさない限り、インフレ率は中央銀行の目標値

を下回るでしょう。

• 名目GDP成長率の低迷はイールド・カーブ全体の均衡利

回り水準に対して下押し圧力をかけますが、当社による債

券の期待リターンを押し下げているのは、今日の低金利環

境と金利正常化への長い道のりです。クレジットに対する見

通しは依然として明るいものの、それでも期待リターンは大

幅に下方修正されています。

• 株式に対する見通しは対照的であり、割高なバリュエー

ションによる逆風が和らいだことで、幾分見通しは改善し

ました。相対的には、株式の期待リターンは債券の期待

リターンを大幅に上回っていますが、これまで10年間に

亘り強気相場が続いたため、絶対水準では過去に比べ

て低い位置にあります。

• より高いリターンを求める投資家は、今後も、より安定したア

ルファの獲得が期待できる未公開株式及びヘッジ・ファンド

やテクノロジーのスーパーサイクルに対するエクスポー

ジャーがより集中するプライベート市場に向かうでしょう。そ

の他のオルタナティブ投資では、期待リターンと分散効果の

両側面から引き続き実物資産が魅力的な投資資産であると

見ています。

• 米国株式6債券4のポートフォリオの期待リターンは10bps下がって5.4%となり、株式・債券の効率曲線はスティープ

化しています。債券のシャープ・レシオは大幅に低下してい

ますが、米ドル・ベースでは依然として株式と同水準にあり

ます。ただし他通貨ベースでは一部マイナス圏にあり、債

券の期待リターンにおける懸念事項となっています。

• 債券の期待リターンの低下は、投資家が景気サイクルの終

盤を乗り切るためのハードルとなります。株式、クレジット、

オルタナティブ投資ではある程度のリターンは期待できるも

のの、単純にリスク資産への投資に債券を組み合わせ下値

抑制を図るという投資手法は過去のものになりました。今後

はポートフォリオ戦略の柔軟性を高め、その戦略を正確に

執行することがより重要になるでしょう。

PORTFOLIO INSIGHTS

(注)本稿で述べられている期待リターンは、断りのない限り米ドルベースとなっています。

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2 LONG-TERM CA P ITAL MA RKET A SSUMPTIONS

2020年Long-Term Capital Market Assumptions(LTCMA)執筆時点の背景には、経済超大国間で継続する貿易摩擦問

題と中央銀行のハト派への転換という2つが挙げられます。

これらはどちらも幅広く複雑な影響力を持ちますが、結局

は2つの相互に関連する問題として捉えることができます。

つまり貿易摩擦問題による影響が大きい経済成長の行方と、

資産市場において我々がその成長をどれほど割り引くか、

ということです。これらは互いに相殺し合うことがあり、

例えば今後の期待成長率が低下すれば割引率も低下し、足

元の資産価格に対する影響も低くなります。一方で、その

逆も起こり得ます。

過度に単純化することによるリスクを承知の上で言うならば、当

社による長期的な市場見通しに影響を与える要因の大半は、

それがどんなに些細であり複雑なものであったとしても、景気拡

大と割引率のどちらかに影響するため、非常に重要であると考

えています。投資家にとって、対峙している出来事や問題が景

気拡大と割引率のどちらに主に影響するかを認識すること自体

はおそらくそれほど難しくないでしょう。しかし、それがどれくらい

の期間、どれほどの影響を及ぼすのかを見極めるのはかなり

困難なことです。

昨年、我々は景気サイクル後期において発生しつつある市場

の変調について深く検討し、その一部は構造的なものであると

論じました。人口動態の傾向や、テクノロジー主導の労働市場

における変化などの要因が、インフレや政策金利の均衡をリ

セットし、平均回帰という想定があてにならない可能性が出てき

たのです。そこで我々は、投資家の皆様に対して外れ値を管理

し、さらに我々が掲げた仮説のうち、どの仮説が現実のものに

なろうとしているのかを認識することを促しました。

1年前の時点では、ある特定の市場の変調が特に際立って

いました。それは米国とその他の国・地域がそれぞれ

異なる景気サイクルのフェーズを進んでいたことであり、

特に株式・債券の効率曲線の形状に顕著に現れていました。

米ドル・ベースの効率曲線は非常にフラット化しており、

これは景気サイクル後期によく見られる典型的な形状です。

クーポン水準の上昇によって債券リターンが改善すると同

時に、割高方向に上昇するバリュエーションが株式の期待

リターンにとって重石となっていたことが現れています。

一方で、その他の国・地域ではゼロ金利ないしマイナス金

利となっていたため、ユーロやその他主要通貨ベースの債

券の期待リターンは抑制され、株式・債券の効率曲線がス

ティープ化し、株式の相対リターンは市場見通しが示唆す

る以上の水準であるようにみえました(図表1Aと1B)。

当社は、この市場の変調は前例のない3つのシナリオのうち1つによって、自然な状態に戻ると考えました。3つのシナリオと

は、①現在の景気サイクルが数ヵ月でなく数年単位で極端に長

続きする可能性、②米国が景気後退に陥っても他国ではそうな

らない可能性、③米国の利上げサイクルが他国が利上げを開

始する前に反転する可能性です。どうやら③のシナリオが現実

のものとなっているようで、これは長期的見通しに大きく影響す

る可能性があります。

しかし、足元の環境が通常の景気サイクル後期とは異なること

も確かです。通常、景気サイクル後期によく見られるような、リ

スク資産市場における盛り上がりが見られないことは注目すべ

き点ですが、一方で安全資産ではバブルが生じているように見

受けられます。堅調な労働市場とフラットなイールド・カーブは

景気サイクル後期の特徴ですが、過度なリスク志向や遊休資

源の減少、金融環境の引き締まりといった景気サイクル後期の

特徴は未だに見られません。したがって過去2回の景気サイク

ルで実践された理論通りの投資手法は、今回はあてはまらない

ものがあり、投資手法の再考が必要だと考えられます。

EXE CUT IVE SUM M AR Y

2020年LONG-TERM CAPITAL MARKET ASSUMPTIONS(LTCMA)について

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

昨年、特に米国株式・債券の効率曲線のフラット化が目立ちました。

これは景気サイクル後期にみられる典型的な現象です

図表1A:2019年の株式・債券の効率曲線

0

2019年:株式・債券の効率曲線(米ドル・ベース)2019年:株式・債券の効率曲線(ユーロ・ベース)2019年:株式・債券の効率曲線(ポンド・ベース)

2019年:株式6債券4のポートフォリオ(米ドル・ベース)2019年:株式6債券4のポートフォリオ(ユーロ・ベース)

2019年:株式6債券4のポートフォリオ(ポンド・ベース)

米国総合債券

欧州総合債券

英国国債

米国大型株式

英国大型株式

欧州大型株式

期待

リターン

(%)

1

2

3

4

5

6

7

想定ボラティリティ

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、 2018年9月30日時点および2019年9月30日時点の推定値

長期の期待リターンにとって景気サイクル要因(バリュエーション等)

が引き続き制約条件となっており、米国株式市場は特に割高に思わ

れます。とはいえ、リターンの構造要因は安定的と思われます。

図表1B:主要資産の過去平均リターンと2020年版の見通しの比較。後者について、構造要因と景気サイクル要因に分解

-2

10

米国株式 米国ハイ・イールド債券

米国投資適格債券

米国総合債券 世界株式6/米国債券4

-4

0

2

4

6

8

%長期平均リターン ①のうち、景気サイクル要因 ①のうち、構造要因

2020年版LTCMAにおける期待リターン①

出所:ブルームバーグ、データストリーム、J.P. モルガン・アセット ・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ長期リターンデータ:1994年9月から 2019年9月

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J .P . MORGAN A SSET MA NAGEMENT 3

昨年からの変化

昨年、各国中銀は労働市場が堅調であったにもかかわらず金

融政策に対して緩和的な姿勢を示しました。これはあるべき自

然利子率(R*)が、従来想定されていたよりも実際は低かったこ

とを示唆しています。また、貿易摩擦問題は構造的な問題でも

あることが明らかになり、貿易摩擦問題が長引く懸念が広まっ

たことでR*には更なる下押し圧力がかかっています。

財政刺激策をめぐる議論は活発化しています。財政刺激策が幅

広く使われるのは景気が下向いた場合に限ると思われています

が、発動されればインフレ軌道と所得における資本労働比率に

対し大きな影響を及ぼす可能性があります。

昨年は気候変動や所得格差、政治的ポピュリズムなどが、未だ

かつてないペースで政治面だけでなく経済面にまで拡大し、環

境、社会、ガバナンス(ESG)のフレームワークが投資の世界で

も注目を浴びるようになりました。

最後に、今回の景気サイクルはさらに成熟化していることや、米

国の景気拡大期間が史上最長となったこと、イールド・カーブが

逆転したことも、政治面・経済面に大きな影響を与えています。

たとえ量的緩和によって引き起こされる歪曲効果を考慮したとし

ても、逆イールド現象は投資家にとっても政策決定者にとっても

重要な節目になり得ます(図表2)。

これらすべての要因は長期的な影響をもたらしますが、最も大

きな影響を与えたのは、米連邦準備制度理事会(FRB)に主導

され、各国の金融政策が単純な引き締め政策から利下げと債

券買入の再開へと急激に反転したことです。

こうした政策のシフトは当社の短期見通しに影響を及ぼし、米

国の利上げ終了と、他国に先駆けての利下げ実施という、昨

年の当社による見解をより強固にする要因となっています。

短期的には、政策のシフトは足元の景気サイクルを若干延長さ

せることになるでしょう。しかし長期的に考えると、中銀は景気

後退を回避するための通常の金融政策ツールを既に使い果た

しており、次回の景気後退局面において使える手段を残してい

ない可能性があります。

その結果、次の景気後退局面では金融政策のみならず、何ら

かの財政政策の必要性がますます高まっているように思われ

ます。財政刺激策がどのような形となるのか、そしてどのような

効果をもたらすのかはまだわかりません。しかし、財政刺激策

がインフレ率の上昇をもたらすのであれば、量的緩和(QE)を通じて長期金利を抑制する金融政策と合わせて、金融抑圧の

舞台が整うことになります。1

金利は永遠に低下…するのか?

昨年述べたように、中央銀行はその独立性を保つ限界を超え

てしまったのではないかと見ています。しかし同様に、中銀に

対する過度な批判は、「金融政策だけでインフレ率を押し上げ

るには限界がある」という事実に目をつぶることを意味します。

この10年間、中央銀行は過去にインフレ抑制に効果があった

金融政策ツールや理論を再利用することで、逆にインフレを促

進しようとしてきました。

FRBが早期に超緩和的な金融政策を導入したことで急激にデ

フレに陥いることを回避できたと考えるのももっともですが、超

緩和的な金融政策の導入によるショックが、その政策そのもの

と同じくらい大きく作用した可能性が高いとも考えられます。し

かし、金融危機後に長期間に亘って緩和的政策が実施された

間も、失業率は数十年ぶりの低水準にまで改善したにもかか

わらず、インフレ率は中銀の目標水準には到達しませんでした。

2020年版のLTCMAのテーマ別レポート「The failure of monetary stimulus」では、ゼロ金利政策と量的緩和が今では

いかに有害無益であるかを論じています。名目GDP成長率が

低水準にとどまる市場環境では、より一層流動性への警戒が

必要となり、中銀の金融政策ツールだけでは不十分となるか

もしれません。

しかし最悪の場合、消費性向の低い資本所有者に対して超緩

和的な金融政策の効果が集中的に作用する可能性がありま

す。したがって、経済全体を刺激しようとしても、実質的には過

度に貯蓄を増加させるだけの結果となり、貨幣の流通が鈍化

し、市場全体にとってはインフレの重石となる可能性がありま

す。

1 特定の投資において元本割れをもたらすような、実質リターンが継続的に低水準

にあるかマイナスの状態が続く期間。

R E C O N F I G U R I N G 6 0/4 0 : I N V E ST I N G I N A WO R L D O F U LT R A- LOW R AT E S

昨年は米国のイールド・カーブが逆転しましたが、これは投資家と政

策決定者にとって重要な節目となります。過去の例によると、景気後

退入りする前にイールド・カーブが逆転する傾向があります

400350

300250

200150

10050

0-50

-100 0 5 10 15 20 25 30 35 40

翌利上げサイクルの最初の利上げまでの月数

45

景気後退開始月

保険的利下げの終了(94年のサイクルは景気後退にはならなかった)

ベーシスポイント

出所:ブルームバーグ、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、データは2019年9月30日時点。

図表2:(平坦化から景気後退への期間を含む)過去および今回の景気サイクルにおける米国3年国債と米国10年国債のイールドカーブ

2004 1999 1994 1998 現在

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4 LONG-TERM CA P ITAL MA RKET A SSUMPTIONS

しかし、緊縮財政に加えて賃金インフレの抑制効果があるテク

ノロジーが普及したことで、所得における労働分配率は第二次

世界大戦後以来の最低値まで押し下げられ、それが所得格差

につながった可能性があります(図表3)。所得格差の拡大がも

たらす社会的・政治的影響については様々な文献で述べられ

ておりますが2、景気拡大やインフレ、そして最終的には金融市

場に対する影響も甚大です。

当社では、引き続き今年の実質成長率は控えめな水準と予

想しています。向こう10-15年間のグローバルの平均成長率

を昨年度時点での予想値から20bps(ベーシス・ポイント)下

方修正して2.3%、先進国市場は1.5%で据え置き、新興国市

場は35bps下方修正して3.9%と予想しています(図表4)。グローバルで成長率を低位に予想していることは、人口の高齢

化が主な要因です。先進国市場においては、欧州は成長要

因として考えられていた景気サイクルに基づく押し上げ要因

は既に一巡したと考え、成長予想を30bp引き下げましたが、

その一方で、オーストラリアとカナダでは人口動態上の変化

がプラスに働くと考え、若干予想を引き上げました。

2 Robert Joyce およびXiaowei Xu著「Inequalities in the twenty-first century: Introducing the IFS Deaton Review」、財政問題研究会(2019年5月)「The global risks report 2019」、世界経済フォーラム。

62.6

57.1

労働分配率の急激な低下のうち、7割以上はこの20年間に起きてい

ます。これがおそらく所得格差の拡大につながり、政治のみならず経

済成長やインフレにも影響したと思われます

図表3:過去70年間の米国の労働分配率の推移非農業の労働分配率、季節調整済み(%)

66% 64.8

54%1949 1959 1969 1979 1989 1999 2009 2019

出所: ハーバー・アナリティクス、マッキンゼー、米経済分析局(BEA)、J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは2019年9月30日時点。

56%

58%

60%

62%

64%

68%

29%

71%

実質GDP成長率はグローバル全体で減速するとを予想しています。予想インフレ率は全体的にはほとんど変化はなく、大半の先進国市場の予

想は安定しています

図表4: マクロ経済想定、今後10~15年(%)

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2019年9月30日時点推定。

*新興国については算出対象9カ国の数値から算出。

E X E C U T I V E S U M M A RY

2020年想定 2019年想定 変化率(%ポイント)

実質GDP インフレ率 実質GDP インフレ率 実質 GDP インフレ率

先進国 1.50 1.60 1.50 1.75 -0.05 -0.11米国 1.80 2.00 1.75 2.00 0.05 0.00欧州 1.20 1.30 1.50 1.50 -0.30 -0.20英国 1.20 2.00 1.25 2.00 -0.05 0.00日本 0.60 0.80 0.50 1.00 0.10 -0.20カナダ 1.60 1.80 1.50 1.75 0.10 0.05オーストラリア 2.20 2.30 2.00 2.50 0.20 -0.20スウェーデン 1.70 1.60 1.75 1.75 -0.05 -0.15スイス 1.10 0.50 1.25 0.50 -0.15 0.00新興国 3.90 3.30 4.25 3.50 -0.33 -0.20中国 4.40 2.50 5.00 2.75 -0.60 -0.25インド 7.00 5.00 7.00 5.00 0.00 0.00ブラジル 2.40 4.50 3.00 4.75 -0.60 -0.25ロシア 1.20 5.50 1.25 5.50 -0.05 0.00韓国 2.20 2.00 2.25 2.00 -0.05 0.00台湾 1.60 1.10 1.75 1.25 -0.15 -0.15メキシコ 2.20 3.70 3.00 3.50 -0.80 0.20南アフリカ 2.20 5.30 2.75 5.25 -0.55 0.05トルコ 3.00 8.00 3.50 7.50 -0.50 0.50世界全体 2.30 2.20 2.50 2.25 -0.20 -0.04

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J .P . MORGAN A SSET MA NAGEMENT 5

新興国における予想GDP成長率の下方修正の主因は、中

国です。中国の成長率を60bp引き下げて4.4%としたことは

一見やり過ぎにみえるかもしれませんが、これは中国経済が

次第に成熟しつつあり、その内訳も投資と輸出から消費と

サービスにシフトしつつあることを反映したに過ぎません。他

の新興国でも潜在成長率の低下がみられ、ブラジルは60bp、メキシコは80bp、南アフリカは55bp、それぞれ成長率を引

き下げました。ただし、これらは主に見通し期間における当

社の生産性予測の低下、特に設備投資の成長率の低下と

全要素生産性の伸びの下方修正を反映したものです。

我々のグローバルの予想インフレ率は昨年からそれほど変

わらず、グローバルの消費者物価指数の伸びは2.2%と予想

しています。しかし、多くの国でインフレ率の伸びが低位に留

まる可能性が高いことには注意が必要でしょう。長年に亘り

極端に低い名目金利が続いた国(日本やスイス)での予想イ

ンフレ率が最も低いことを考えると、金融刺激策に限界があ

ることは明らかと思われます。さらに、当社の見通し期間中

に多くの中銀はインフレ・ターゲットを達成できないと見てい

ます。当社のインフレ予測値に上振れリスクが生じるのは、

大規模な財政刺激策(経済ショックに応じてのみ実施される

可能性がある)が導入された場合のみでしょう。

我々が金融政策の効果に対する懐疑的であることからも、

我々の予想する政策金利水準と、予想GDP成長率及び予

想インフレ率を結びつきにはある程度の循環性が存在する

ことは認めざるをえません。しかしながら、政策決定者は低

金利世界に自身を追い詰めてしまった可能性があると考え

ます。今後は、各国の金融政策は今回の景気サイクルを通

して、そして次の景気サイクルに入っても、極端に緩和的な

状況が続くでしょう。したがって当社では、金利の正常化には

大幅な遅れが生じるとみています。さらに、非常に低い足元

の利回りと、(今後利回りが到達する水準である)我々の予

想均衡利回りの小幅な引き下げにより、債券の期待リターン

は大幅に下がることとなり、当社の見通し期間に亘りマイナ

スになる可能性すらあります(図表5)。

3 当社の想定条件下で平均年率リターンを長期インフレ率の水準まで押し上げるために必

要な年間の物価上昇幅(それをさらに最終利回り数値にアモチゼーションしたもの)

大半の主要通貨において期待リターンは引き下げられていま

すが、これは主に、金利の正常化までの想定期間を大幅に延

長したことや、ゼロ金利環境が長引くと当社が想定しているた

めです。全体としては、G4諸国の10年債のリターン予想を

100bp引き下げますが、ユーロと英ポンドの長期・超長期債指

数は、当社の見通し期間に亘ってリターンはマイナスになると

予想しています。これらを踏まえれば、債券投資家が大きな課

題に直面していることは明らかで、10年間でドイツ10年国債の

実質リターンがマイナスからゼロになるためには、当社のイン

フレおよびイールドカーブ、金利正常化の予想に基づくと3、同

国債の利回りは今後10年間でマイナス2.50%程度まで低下

する必要があります。マイナス利回りは今では一般的とはいえ、

特に財政刺激策によって当社の見通し期間後期において最

終的に利回り上昇圧力が生じるのであれば、それほど極端な

マイナス利回りは信ぴょう性に欠けると考えられるでしょう。

債券市場全体では、クレジットが引き続きある程度魅力的なリ

ターンを提供し続けるでしょう。投資適格債券のリターンは国債

のリターンに連動して低下しましたが、比較的短期のハイ・イー

ルド債券のリターンは持ちこたえています。もっと長期的な投

資家にとっては、クレジットはポートフォリオのリターンを高める

機会を提供するかもしれません。しかし、明らかにクレジット・サ

イクルは未だに成熟期にあり、当然ながら目先のドローダウ

ン・リスクは上昇しているという点には注意が必要です。国債

利回り(ベース金利)は低く、景気悪化局面でスプレッドが大幅

に拡大するならば、クレジット債券のリターン源泉にバッファは

あまりないと言えるでしょう。

中央銀行のハト派姿勢が今後も続くと予想しており、G4諸国市場における予想均衡利回りを引き下げるとともに、金利正常化までの期間を延

長しました

図表5: 標準的なG4の投資適格社債、ハイ・イールド債券、および新興国債券の期待リターン

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、予想値は2019年9月30日時点。

^ユーロ:15年超インデックス、日本円:日本国債インデックス、英ポンド:15年超インデックス、米ドル:20年超インデックス *新興国債券(ハード・カレンシー・ベース)

R E C O N F I G U R I N G 6 0/4 0 : I N V E ST I N G I N A WO R L D O F U LT R A- LOW R AT E S

米ドル 英ポンド ユーロ 日本円

均衡利回り リターン 均衡利回り リターン 均衡利回り リターン 均衡利回り リターン

インフレ率 2.0% 2.0% 1.3% 0.8%現預金 1.9% 1.9% 2.0% 1.8% 1.0% 0.6% 0.3% 0.1%10年国債 3.2% 2.4% 2.7% 0.8% 2.2% 0.6% 1.0% 0.3%長期・超長期債指数^ 3.5% 1.6% 2.7% -0.8% 2.8% -0.8% 1.0% 0.3%投資適格社債 4.7% 3.4% 4.4% 2.0% 3.4% 1.7% 1.3% 0.8%ハイ・イールド債券 7.6% 5.2% 5.8% 3.6%新興市場債券* 6.6% 5.1%

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6 LONG-TERM CA P ITAL MA RKET A SSUMPTIONS

当社のマクロ見通しと債券の期待リターンは、どちらもやや悲

観的ではありますが、それぞれの理由は微妙に異なります。

10年に亘る長い景気拡大を経て、今では更なる景気拡大に対

する期待感は若干低くなっている可能性があります。しかし同

様に、景気拡大が長く続いた後、金利が上昇しクーポン水準の

上昇を通じて債券リターンの見通しが改善するという展開はよ

り典型的なものです。今回の景気サイクルでは、特に過去の

景気サイクルに比べて低い賃金インフレとともに根強いディス

インフレが特徴で、それが金利の押し上げ圧力を弱める結果と

なりました。

今回の景気サイクルにおいて低インフレに寄与した1つの要因

であるテクノロジーが、当社のメインシナリオの上振れリスク4と

なる可能性があります。たしかに、テクノロジーによる生産性の

向上は頻繁に聞かれるものの、まだその効果は表面化されて

いません。我々の予想通り財政刺激策が設備投資の追い風と

なれば、それが次の景気サイクルで景気拡大のけん引役とな

る可能性は十分あります。

テクノロジーが生産性とその測定方法を変化させ

つつある

我々が2018年のLTCMAで行ったテクノロジーと生産性の分

析では、自動化と人工知能(AI)によって2030年までに世界

の潜在成長率は1-1.5ポイントほど押し上げられる可能性が

あり、人口動態上の課題に最も直面する国ほど恩恵を受ける

だろうとの結論に達しました。今年はロバート・ソローの有名

な「 コンピュータの時代ということを至るところで目にするが、

生産性の統計では目にしない」という逆説について考えなが

ら、 Eコマースについてより詳細に分析を行いました。

Eコマースは公式のデータが示唆するよりもはるかに広く普

及しています。それが生産性の向上を加速させているはず

ですが、明らかな形で現れるのは、景気サイクル後期ではな

く、投資意欲が高くなると思われる次の景気サイクルになる

かもしれません。Eコマースがディスインフレに働くことは間

違いありませんが、企業内部のサプライチェーンの効率改善

や、資本集約度の減少、長期的な利益率向上にもつながる

可能性があります。単に強気相場が長引いた結果にすぎな

いものの株式リターンが伸び悩む市場環境において、Eコマースは上場株式にとっても、未公開株にとっても、興味深

い上方修正の可能性をもたらします。

4 「Technology, productivity and the labor force: The impact oftechnology on long- term potential economic growth」 J.P.モルガン・アセット・マネジメント、 2018年LTCMA。

我々の株式の長期的な期待リターン見通しは今年、若干改善し、

世界株式の平均リターン(米ドル・ベース)は向こう10-15年間で

50bps上昇して6.5%と予想しています。先進国市場は20bps引き上げて5.7%、新興国市場でも20bps引き上げて8.7%と予想し

ていますが、どちらも現地通貨ベースの予想であり、株式リター

ンに対する為替の影響に目を配る必要があります。先進国市場

のリターン改善はほとんどは足元の割安なバリュエーション水準

で説明ができますが、新興国市場のリターン改善要因は、企業

業績の伸びとバリュエーションがほぼ半々です。

主要市場の期待リターンは6%弱の水準に集中していますが(図

表6)、リスク調整後ベースでは予想に大きな開きがあります。い

ずれにせよ、株式の期待リターンは債券の期待リターンを大幅

に上回っているため、株式・債券の効率曲線は全体的にス

ティープ化しています。

株式・債券の効率曲線のスティープ化に加え、債券の長期の期

待リターンが極めて低いことから、目標とするリターンを達成す

るためには幅広いリスクに対して資産を配分する必要があると

思われます。ただし、ほぼすべての資産クラスにおいて絶対水

準の期待リターンが低いことは、景気サイクルの終盤に差しか

かっていることを示唆するものです。端的に言えば、長期的に

は株式の方が債券より高いリターンを提供するものの、景気後

退局面では、市場のボラティリティによる影響もより大きく受け

ることになります。ボラティリティは現在の水準も過去の平均的

な水準も長期的な市場リスクを予測するのに役立ちますが、多

くのハイ・リスク資産が景気後退局面で示す「レフト・ファット・

テール」5は捕捉できません(図表7)。

5 「レフト・ファット・テール」は、実際の株式市場のリターンが正規分布に対して示す乖離を

示します。実際には株式市場では、リターンの正規分布が示唆するよりも頻繁に激しくド

ローダウンが発生します。

E X E C U T I V E S U M M A RY

これまでの10年とは異なり、長期的には米国以外の先進国株式市

場が米国株式市場をアウトパフォームすると予想しています

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

1998 2003 2008 2013 2018 2023 2028

出所:ブルームバーグ、MSCI、J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは2019年9月30日時点。リターン・インデックスはMSCIベース。

図表6:長期株式リターン VS. LTCMAの予想

米国大型株式 欧州大型株式 日本大型株式

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J .P . MORGAN A SSET MA NAGEMENT 7

当社は、株式リスク・プレミアム(ERP)などの指標についても同

様に注意深く観察しています。金利が世界金融危機前の平均値

に回帰する可能性は低いことを考えると、リスク・フリー・レート

(国債利回り)が主要な入力値である現在のERPと長期的な過

去平均の比較をもって、現在の株価が割安だというのは不自然

だと思われます。長期的な投資家は彼らの投資期間である10-15年のスパンでERPを考慮しますが、単に足元のERPが高水

準にあるからといって、目先の景気が悪化した場合にさらにERPが高まる可能性がないというわけではありません(図表8)。

今年は上場株式が上昇しましたが、並行して未公開株式市場

のリターンも上昇しました。当社では、10-15年の未公開株式全

体の期待リターンを55bp引き上げて8.8%としました。リターンの

改善を求める投資家だけでなく、テクノロジーをテーマとした特

定のエクスポージャーを求める投資家にとっても、未公開株式

は引き続き魅力的な投資対象資産となっています(2019年版

LTCMA 「The evolution of market structure」を参照)。未公開

株式のアルファ・トレンドは長期平均をわずかに下回る水準で

安定すると予想されますが、リターンの見通しは有望で、更なる

未公開株式市場への資金流入が続くでしょう。我々は、技術の

進歩7が膨大な投資機会を生み出すという見通しのもと、過剰な

待機資金(ドライパウダー)6に対する懸念は正当化されないと

考えています。とはいえ、依然として未公開株市場においては

運用マネージャーの選別が、リターンを得るうえで非常に重要

な決め手となるでしょう。

グローバル成長の変化

高いリターンを追求し、比較的リスク許容度も高い投資家は

おそらく、再び新興国市場の資産に目を向けることでしょう。

当社の予想では、新興国株式の期待リターンは現地通貨

ベースで先進国株式を300bp上回ります。また新興国社債の

期待リターンは4.9%となっており、現地通貨ベースの新興国

国債のそれは5.9%と見ています。なお、米国10年国債のリ

ターンは2.4%と予想しています(図表9)。

6 「待機資金(ドライパウダー)」とは、未公開株式ファンドへの投資が決定されているもののまだ実際には投資は開始されていない資金のことです。

7 BEA(アメリカ合衆国商務省経済分析局)の調査結果に基づくと、テクノロジーセクターが米国GDPに占める比率は足元の9%から、10年後には約20%になると予想されます。

ERPは確かに高水準と思われるものの、ERPが今日の低金利環境

においてどれだけ有意義な情報であるかは不明である

世界金融危機(GFC)

GFC前の平均ERP

GFC後の平均ERP

0

1

2

3

4

5

6

7

%8

’84 ’89 ’94 ’99 ’04 ’09 ’14 ’19

出所: ブルームバーグ、J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは2019年9月30日時点。

ERP

図表8:米国株式から算出されるERPと世界金融危機前後の平均値

R E C O N F I G U R I N G 6 0/4 0 : I N V E ST I N G I N A WO R L D O F U LT R A- LOW R AT E S

0.2

0.0

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

5

0

10

15

20

25

30

35

新興国国債 米国小型株式 新興国株式米国ハイ・イールド債券

EAFE 株式 先進国株式 米国大型株式 日本株式 欧州大型株式

1.4

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは2019年9月時点。

*通常の想定に基づくリターン÷ CVaRと過去の経験に基づくリターン÷CVaRとの差異。いずれのCVaR値も95%信頼区間で算出しています。

リスクの平均水準とともに、リスクの分布も考慮した統計指標が景気サイクルの成熟期には有効

図表7: レフト・テール・リスクに焦点を当てた、リスクに対するリターンの比率

リターン÷正規分布のCVaR リターン/ 過去実績のCVaR リスクに対するリターンの過大評価% *右軸

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8 LONG-TERM CA P ITAL MA RKET A SSUMPTIONS

8 「中所得国の罠」とは、急成長する経済国が中間所得水準で停滞し、高所得経済とまではなれない現象を指します。

当社の見通し期間の間に、中国が世界最大の経済国として米

国を追い抜く可能性は高く、それは当社のマクロ景気予測全体

に大きな影響を及ぼします。しかし金融市場においては、中国

は部分的には大きな影響力を持つものの、全体的にはその経

済力に比べるとそれほどでもありません。今日、中国は世界全

体のGDPの6分の1、世界全体の株式市場時価総額の8分の1を占めますが、海外からの中国資産への直接投資は他の主要

株式・債券市場における傾向からは大きくかけ離れています(図

表10)。当社レポート「The next phase of China’s growth」では、

今後10年間で中国の経済成長がどのように変化し、世界の株

式・債券、通貨市場に対する中国の影響力がどれほど急激に増

加していくのかについて検討しています。

当社では、向こう10年間での中国の成長率は足元の6%強から

4%未満に低下し、見通し期間中の平均成長率は4.4%になると予

想しています。これは大幅な減速と思われるかもしれませんが、

同時に同期間中に人口一人当たりのGDPは大きく伸びると予想

しており、中国は中所得国の罠8をうまく乗り切ることができると見

ています。

当社では、今後中国はバリューチェーンの上方向にシフトし、

サービス業や、消費、テクノロジー分野の成長が大きな比率を

占めることになると見ています。これは、根底に潜む構造的問

題である、米中貿易摩擦問題の注視を意味します。いずれにせ

よ、中国が新興国市場において支配的な役割を担っていること

を鑑みれば、中国の成長鈍化は新興国市場全体の成長予測だ

けでなく、コモディティなどの中国の成長動向の影響を受けやす

い資産に対してもリスクとなります。

昨年、貿易摩擦問題が新興国資産と通貨の重石となり、バ

リュエーションを押し下げたことは明らかです。株式市場では、

貿易摩擦問題によって足元のバリュエーションが低く抑えられ

ているため、今年の新興国市場のGDP成長率の低迷は概ね

相殺され、新興国株式と先進国株式の間の格差に変わりは

ありません。

中国は既に新興国株式市場全体の32%を占めていますが、

今後中国が海外投資家に対する株式市場の開放を加速的に

進めていくにつれ、その比率はさらに増加するでしょう。額面

ベースでは、中国の債券市場は世界第二の大きさです。当社

は、中国の金利はまだ自然利子率を大幅に下回っていると考

えますが(2018年版LTCMA「The future path of Chinese interest rates」を参照)、それでも他のソブリン債市場に比べ

て中国債券市場では大きなリターン引き上げが期待できます。

景気サイクル後期におけるポートフォリオ運用

の課題

我々の見通し期間を通して、グローバルで債券の期待リター

ンは低迷が予想され、投資家はリターン改善のためにプライ

ベート市場や新興国資産まで幅広いリスクをとることを余儀

なくされるなか、マクロ環境のリスクに過剰に晒されることの

ない盤石なポートフォリオを構築することがますます難しく

なっています。2020年版の最後のレポートにおいては、投資

家がいかに安全資産について見直しているのかということ、

約25%の国債の利回りがマイナス圏にある中で債券ポート

フォリオを健全に保ち、クーポン(利息収入)を得ることが難

しいことを認識しているのかという点に注目しています。

9 Silvia MerlerおよびJean Pisani-Ferry著「Who’s afraid of sovereign bonds?」で開発。 Bruegel Policy Contribution 2012|2012年2月2日

先進国に比べ、中国株式・債券の海外投資家保有率は依然

として低水準です

0%フランス ドイツ 米国 英国 日本 中国*

10%

20%

30%

40%

50%

出所: フランス銀行、ブリューゲル国際保有データベース9、データストリーム、日本財務省、日本経済新聞社、英国家統計局、中国人民銀行、米財務省、J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは19年9月30日時点。

*中国株式: 塗りつぶし部分はA株。全体はH株とADRも含めた中国の全株式クラス。

政府債 株式

図表10:各国における海外投資家の保有率―主要な株式・債券市場

60%

米国10年国債

新興国債券のリターンは直近の過去平均を下回ると予想されるものの、

依然としてコア債券を大幅に上回るリターンが期待できます

7.06.3

4.95.15.9

4.9

2.4

新興国債券(ドル・ベース)

過去12年間の平均リターン

図表9:主要新興国債券および米国10年国債のリターン実績と期待リターン

8.1

出所: ブルームバーグ、J.P.モルガン・アセット・マネジメント・マルチアセット・ソリューションズ。データは2019年9月30日時点。

新興国債券(現地通貨ベース)

新興国社債

2020年版LTCMAの期待リターン(米ドル・ベース)

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J .P . MORGAN A SSET MA NAGEMENT 9

概念的には、ポートフォリオに保険を掛けること、すなわち債券

を保有することにはコストがかかります。保険はコストを掛けず

に得られるものではありません。しかし、今ではリスク資産のリ

ターンが低下するかわりにポートフォリオのリスクが減るという

トレード・オフではなく、もはや、リスク低減の代わりにリターン

がゼロ、それどころかマイナスになる可能性がある時代に入っ

ています。投資家がそうしたトレード・オフを再考していることも

不思議ではありません。

一部の通貨、特に日本円やスイスフラン、米ドルは安全資産と

しての特徴を示していますが、大半のディフェンシブな短期金

融市場で実質リターンがマイナスとなっていることや、米ドルの

過大評価が続いていることから、これらの通貨が安全資産と言

い切るのは難しい状況となっています。昨年同様、当社では米

ドルが見通し期間中に主要なクロス通貨に対して下落すると予

想しており、フェアバリューを1ユーロ1.38ドル、1ドル88円、1ポンド1.48ドルとみています。米ドルが過大評価されていることに

よって、安全資産として主張されている他の通貨の存在感は薄

くなっていますが、同様に、通貨の傾向として直線的に均衡状

態に向かうわけではないため、クロス通貨が理論的なフェアバ

リューからかけ離れた水準を長く維持する可能性もあります。

しかし、最適なグローバル資産配分を設計する際、米ドルの過

大評価というのはやはり注意すべき事項となります。

我々が実施した安全資産の分析に基づくと、流動性を気にしな

い投資家にとっては有望な「安定資産」は、実物資産です。2008年の世界金融危機の主な引き金となったのが不動産バブルで

あったため、不動産は特に回避されがちですが、景気サイクルを

通した長期的な分析によれば、世界金融危機の際の不動産の

値動きは非理論的な異常値であり、通常は景気サイクルを通し

て安定した水準を維持するものです。当社では、今後10-15年間

における米国不動産の平均リターンは、5.8%以上になると予想

しています。これは、株式6対債券4のポートフォリオで得られる

リターンをある程度上回る水準です。

さらに視野を広げると、グローバルの実物資産とインフラ資産か

らの期待リターンは非常に堅調であり、キャッシュフローも安定

していることも考えると、短期的な流動性が求められないような

ポートフォリオにおいてはデュレーションの代替とさえなり得ます。

ポートフォリオへの影響と結論

2020年のLTCMAでは緩やかな景気拡大とわずかなインフレを

予想し、また、債券利回りがゼロまたはマイナスとなっている環

境下でのポートフォリオ構築上の課題について論じました。この

ような市場環境は、戦術的な資産配分を視野に入れた投資家

が、景気サイクル後期におけるセオリー通りの投資行動を実施

することを困難にしています。明るい兆しもみられますが、投資

家はリターンを改善するためにはどのようなトレード・オフが必

要であるかを認識することが求められています。クレジットはソ

ブリン債よりも大きなリターンをもたらす可能性がありますが、景

気が悪化した場合のドローダウンリスクも高くなります。また、不

動産や未公開株式の期待リターンは魅力的ですが、流動性へ

の懸念が残ります。さらに、新興国市場の期待リターンは大半

の資産クラスで先進国の期待リターンを大幅に上回るものの、

当面は貿易戦争をめぐる不透明感が逆風となるでしょう。

株式に比べると、国債の長期的な期待リターンは芳しくありませ

ん(図表11)。米国国債の想定シャープ・レシオは株式とそれほ

どかけ離れているわけではありませんが、過去平均の実績

シャープ・レシオと簡単に比較すると、向こう10年間で予想され

る債券リターンがいかに低いかがわかります。昨年、当社では

米国国債の利回りが3年にわたって徐々に上昇し、最終的にリ

スク調整後ベースでまずまずのリターンが想定されたことから、

「債券のカムバック」について論じました。しかしながら、1年も経

たないうちに状況は反転し、近いうちに債券リターンがプラスと

なるためには、更なる景気悪化が必須条件であると考えていま

す。

R E C O N F I G U R I N G 6 0/4 0 : I N V E ST I N G I N A WO R L D O F U LT R A- LOW R AT E S

5.60

5.20

3.40

2.70

1.902.00

6.00

5.25

5.50

4.50

3.25

米国大型株式

米国ハイ・イールド債券

米国投資適格社債

米国中期国債

米国現預金

0.70

3.20

0.90

2.90

0.80

1.25

3.00

0.75

2.00

1.25

投資適格債券プレミアム

未公開株式プレミアム

小型株式プレミアム

株式リスク・プレミアム

期間プレミアム

コア債券の期待リターンが低下した一方、リスク・プレミアムは全体的にわずかに魅力的な水準にあります

6.50米国小型株式

1.801.00

ハイ・イールド債券プレミアム

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、 2018年9月30日時点および2019年9月30日時点の推定値

図表11:LTCMAにおける主要資産の期待リターン(%)とリスク・プレミアム(%)2020 年算出 2019 年算出 2020 年算出 2019年算出

リターン リスク・プレミアム

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10 LONG-TERM CA PITAL MA RKET A SSUMPTIONS

見通し期間を通して、株式・債券の効率曲線が再びスティープ

化し(図表12)、債券よりも相対的に株式の方が投資妙味が向

上することが示されています。しかし、それには警戒が必要で

あり、今日の株式の期待リターンは絶対ベースでは依然として

過去水準に比べて非常に低く、これには10年間にわたって強

気市場が続いてきたことが反映されています。株式・債券の効

率曲線の相対的なシグナルと絶対的なシグナルのどちらをより

警戒するのかは、最終的には、現在、景気サイクルのどの段

階にあるのか、そして今後そのシグナルがどのようにシフトす

るのかにかかってきます。

当社では、今後10-15年間は平均的に緩やかな経済成長と若

干のリターンを見込んでいますが、依然として見通しに対して

楽観的なであることに変わりはありません。景気サイクル後期

はすべての投資家にとって難しい投資環境ではありますが、今

日の低金利環境は景気サイクル初期に比べると、それほどゴ

ルディロックス・シナリオ10に当てはまるような状況ではないと

いう点を意識することは、目先の投資判断に役立つでしょう。

10 ゴルディロックス・シナリオとは、2009年から現在までの景気拡大期に使われている言葉で、低水準ではあるもののプラスの成長率と低金利が相まって、経済活動をはるかに上回るペースで株式市場等が上昇する状況を指します。ここでは、現行景気サイクルまたは将来の景気サイクルで、金融市場にとって「完璧な環境」を構成するものは何かを説明するために使われています。

たとえディスインフレという副作用にうまく対処する必要があっ

たとしても、長期的にはテクノロジーによって生産性の向上が

期待できると考えています。当社はまた、政策が金融緩和から

財政刺激策に進化すると考えており、これに対し慎重であるべ

きなのは明らかですが、賢明な財政刺激策は景気拡大を増強

し、それにより資本労働間の分配比率における歪みの一部が

解消される可能性があります。この歪みはここ数年で大幅に拡

大し、それが政治やイデオロギーの対立軸を二極化させてきま

した。

ゴルディロックス・シナリオは次の景気サイクルでは若干様相を

変え、極めて緩和的な政策下での冴えない景気拡大ではなく、

もしかすると、財政政策がインフレを加速させ、最終的にはテク

ノロジーの普及による生産性の向上が金利の上昇をもたらすと

いったものになる可能性があります。

いずれにせよ、長期的な見通しに基づけば、おそらく債券よりも

株式の選好度合が高いと思われますが、景気サイクルが後期

にある中では、当面は警戒的な姿勢をとることが重要となるか

もしれません。景気サイクル全体を視野に入れることは常に重

要ですが、今日のように、市場リターンが低水準に留まる環境

では、定められた運用方針を規律正しく実施することが、有効

な戦略になる可能性があると見ています。

E X E C U T I V E S U M M A RY

昨年フラット化した、ドル・ベースの株式・債券の効率曲線は、債券の期待リターン低下によって再びスティープ化しました。ユーロ・ベースの世界

株式6対世界債券4の期待リターンは依然として低水準です

出所:J.P.モルガン・アセット・マネジメント、 2018年9月30日時点および2019年9月30日時点の推定値

図表12B: 【ユーロ・ベース】世界株式・世界債券(為替ヘッジ)の効率曲線および世界株式6対世界債券4(為替ヘッジ)のポートフォリオ、LTCMAの2020年と2019年のリスクとリターン(%)を使用

期待リターン

(%)

8 10 120

1

2

3

4

5

6

7

8

0 2 4 6 14 16 18 20

欧州現預金

欧州大型株式

未公開株式

分散型ヘッジファンド(為替ヘッジあり)

米国ハイ・イールド債券(為替ヘッジあり)

新興国債券(ハードカレンシー・ベース、為替ヘッジあり)

世界国債(為替ヘッジあり)

欧州総合債券

欧州インフレ連動国債

欧州国債

米国大型株(為替ヘッジあり)

世界株式

欧州(除く英国)コア不動産

想定ボラティリティ

9

2008年:株式・債券の効率曲線株式6債券4のポートフォリオ(2008年)

株式6債券4のポートフォリオ(2019年)

期待リターン

(%)

想定ボラティリティ

0

1

0 5 10 15 20 25

米国現預金

2

3

4

5

6

7

8

9

米国ハイ・イールド債券

米国コア不動産 世界株式

新興国株式

分散型ヘッジファンド

未公開株式

米国総合債券

新興国債券(ハードカレンシー・ベース)

米国中期国債

米国大型株式

米国物価連動国債

2020年:株式・債券の効率曲線株式6債券4のポートフォリオ(2020年) 2019年:株式・債券の効率曲線

図表12A:【ドル・ベース】世界株式・米国総合債券の効率曲線および世界株式6対米国総合債券4のポートフォリオ、LTCMAの2020年と2019年のリスクとリターン(%)を使用

10

EAFE株式

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J .P . MORGAN A SSET MA NAGEMENT 11

R E C O N F I G U R I N G 6 0/4 0 : I N V E ST I N G I N A WO R L D O F U LT R A- LOW R AT E S

Long-Term Capital Market Assumptions 2020 レポート作成メンバーのご紹介

John Bilton, CFAHead of Global Multi-Asset Strategy, Multi-Asset Solutions

Dr. David Kelly, CFAChief Global Strategist, Head of Global Market Insights Strategy

Thushka Maharaj, Dphil, CFAGlobal Strategist, Multi-Asset Solutions

Michael Feser, CFA Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

Grace Koo, Ph.D.Quantitative Analyst and Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

Patrik Schöwitz, CFA Global Strategist, Multi-Asset Solutions

Michael Hood Global Strategist, Multi-Asset Solutions

Stephen Macklow-Smith Portfolio Manager, European Equity Group

Anthony WerleyChief Portfolio Strategist, Endowments & Foundations Group

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J.P.モルガン・アセット・マネジメントのLONG-TERM CAPITAL MARKET ASSUMPTIONS(LTCMA)は、ポートフォリオ・マネジャーやストラテジストらによって構成されるアサンプションズ・コミッティーによって作成されたものです。

このコミッティーは、ポートフォリオ・マネジャーや商品スペシャリストらのインプットと専門知識を活用し、資産クラス全体にわたり、一貫性のある分析を行っています。加えて、コミッティーはそのプロセスの最終段階において、 J.P.モルガン・アセット・マネジメントのシニア・リーダーとともに、提案された予想値とその論拠について厳正なレビューを実施しています。

多くの投資家が、自らの投資方針と投資判断が一貫性のある見方に依拠することを確認し、様々なシナリオでのポートフォリオの状況を把握するために、当社のLTCMAを活用しています。

J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。J.P.モルガンは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよびその各国子会社または関連会社のマーケティングネームです。

本資料はJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」という。)が作成したものです。本資料は投資に係わる参考情報の提供を目的としたものであり、特定の有価証券の勧誘を目的として作成したものではありません。また、弊社が特定の有価証券の販売会社として直接説明するために作成したものではありません。弊社は信頼性が高いとみなす情報等に基づいて本資料を作成しておりますが、当該情報が正確であることを保証するものではなく、弊社は、本資料に記載された情報を使用することによりお客様が投資運用を行った結果被った損害を補償いたしません。本資料に記載された意見・見通しは表記時点での弊社および弊社グループ会社の判断を反映したものであり、将来の市場環境の変動や、当該意見・見通しの実現を保証するものではございません。また、当該意見・見通しは将来予告なしに変更されることがあります。

弊社で取り扱う運用手法におきましては、国内外の株式・債券等を投資対象とするため、組入れ株式の価格の下落、金利の上昇による債券価格の下落、組入有価証券の発行会社の財務状況の悪化や倒産等の影響により、損失を被ることがあります。また、外貨建の資産に投資する場合は、為替の変動により損失を被ることがあります。本資料は、最近の運用環境等をご紹介するものであり、特定の金融商品等の勧誘を目的とするものではないため、投資に係る手数料・報酬等の金額及び計算方法を示すことはできません。運用にあたっては、運用報酬、有価証券売買時の売買委託手数料、外貨建資産の保管費用、信託財産における租税費用、信託事務の処理に関する諸費用等がかかります。ファンドへの投資にあたっては、申込手数料、信託報酬、信託財産留保金、有価証券売買時の売買委託手数料、外貨建資産の保管費用、信託財産における租税費用、信託事務の処理に関する諸費用等がかかります。

商号:JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第330号加入協会:一般社団法人日本投資顧問業協会(010-00105号)、一般社団法人投資信託協会、日本証券業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

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PI-LTCMA-WP-2020 | LV–JPM52180 | 11/19 | 0903c02a82724bb5

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