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1 2019年5月31日 JPEC 世界製油所関連最新情報 2019 年 5 月号 一般財団法人 石油エネルギー技術センター調査情報部 目 次 概 況 1. 北 米 6 ページ (1) カナダのバイオ燃料事情(BIC2019)について (2) Valero Energy の最近の製油所拡張及び事業展開に係る情報 1) St. Charles 製油所、Houston 製油所のアルキル化装置の増強プロジェクト 2) Port Arthur 製油所のコーカー新設プロジェクト 3) Diamond Green Diesel の再生可能ディーゼル増産プロジェクト (3) 米国石油協会が、労働者の疲労に係る API 規格を改訂 2. ヨーロッパ 13 ページ (1) 米国によるベネズエラおよびイラン制裁が欧州の石油精製事業に与える影響 (2) ExxonMobil による英国 Fawley 製油所のアップグレード情報 (3) Carlyle Group によるスペインの Cepsa 株の買収計画 3. ロシア・NIS 18 ページ (1) アゼルバイジャンの製油所プロジェクトに関する情報 1) Baku 製油所の近代化プロジェクト 2) 新規製油所・石油化学コンプレックスプロジェクト (2) ウズベキスタンの製油所関連情報 4. 中 東 20 ページ (1) サウジアラビア Saudi Aramco の事業拡大への取り組み 1) Shell との精製 JV SASREF を 100%子会社化 2) ポーランド PKN Orlen と原油の輸出、重油の輸入で合意 3) 資材の国産化への取り組みを評価 (2) クウェートの Al Zour 製油所・LNG・石油化学プロジェクトの状況 (3) オマーンの Sohar 製油所の近代化プロジェクトがスタート

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2019年 5月 31日

JPEC 世界製油所関連最新情報

2019年 5月号 一般財団法人 石油エネルギー技術センター調査情報部

目 次

概 況

1. 北 米 6ページ

(1) カナダのバイオ燃料事情(BIC2019)について

(2) Valero Energyの最近の製油所拡張及び事業展開に係る情報

1) St. Charles製油所、Houston製油所のアルキル化装置の増強プロジェクト

2) Port Arthur製油所のコーカー新設プロジェクト

3) Diamond Green Dieselの再生可能ディーゼル増産プロジェクト

(3) 米国石油協会が、労働者の疲労に係る API規格を改訂

2. ヨーロッパ 13ページ

(1) 米国によるベネズエラおよびイラン制裁が欧州の石油精製事業に与える影響

(2) ExxonMobilによる英国 Fawley製油所のアップグレード情報

(3) Carlyle Groupによるスペインの Cepsa株の買収計画

3. ロシア・NIS 18ページ

(1) アゼルバイジャンの製油所プロジェクトに関する情報

1) Baku製油所の近代化プロジェクト

2) 新規製油所・石油化学コンプレックスプロジェクト

(2) ウズベキスタンの製油所関連情報

4. 中 東 20ページ

(1) サウジアラビア Saudi Aramcoの事業拡大への取り組み

1) Shellとの精製 JV SASREFを 100%子会社化

2) ポーランド PKN Orlenと原油の輸出、重油の輸入で合意

3) 資材の国産化への取り組みを評価

(2) クウェートの Al Zour製油所・LNG・石油化学プロジェクトの状況

(3) オマーンの Sohar製油所の近代化プロジェクトがスタート

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5. アフリカ 24ページ

(1) エジプト Carbon Holdingsの石化プロジェクトの進捗状況

(2) 南アフリカ共和国 Sasolが CTLプラントの原料確保に向けて炭鉱をオープン

6. 中 南 米 26ページ

(1) ブラジルの石油・天然ガス事業の概況

(2) メキシコ、米国間のエネルギー貿易の現況

(3) ベネズエラの原油生産の現状

7. 東南アジア 33ページ

(1) インドの 2018~2019年度の石油・天然ガス事業の実績

1) 石油・天然ガスの需給

2) 石油精製事業

(2) ベトナム Dung Quat製油所の操業状況

(3) インドのバイオエタノール生産状況

8. 東アジア 39ページ

(1) 中国の製油所の設備新設情報

1) Shenghong Refining & Chemicalが、Axensの残渣油水素化分解技術を導入

2) Sinochem Hongrunが、Honeywell UOPのアルキレーションプロセスを導入

(2) 中国の石化プラントの設備新設情報

1) Sasolの高級アルコールプラントが順調に稼働

2) HQCが LyondellBasellのポリエチレン生産プロセスを導入

(3) Sinopecの Jinling 製油所が軽質船舶燃料を本格生産

(4) CNOOCが洋上風力発電事業に再参入

9. オセアニア 42ページ

(1) ニュージーランド政府が GHG排出量に関するレポートを公表

1) GHGレポートの概要

2) ニュージーランドの GHG事情

(2) ニュージーランドの大手企業による低炭素化への取り組み

「世界製油所関連最新情報」は、原則として 2019年 4月以降直近に至るインターネット情報をまとめたものです。JPECのウェブサイトから改訂最新版をダウンロードできます。 http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery_pdf.html 下記 URLから記事を検索できます。(登録者限定) http://info.pecj.or.jp/qssearch/#/

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概 況 1.北米

カナダのバイオ燃料業界団体 ABFCは、バイオ燃料の炭素強度、生産量、コスト

などを、多角的に評価した報告書を公表した。

公害対策費、医療費、オクタン価の向上を考慮すると、バイオ燃料を配合したガ

ソリンの GHG排出量削減に関わるコストは、マイナスに評価することが出来る。

米国の独立系精製会社 Valero Energyは、ルイジアナ州の St. Charles製油所の

アルキル化装置の拡張プロジェクトへの 4億 USDの投資を決定した。

Valero Energyは、テキサス州の Port Arthur製油所のコーカー新設プロジェク

トを 2022年に完了させる計画を発表した。精製装置を 2系列化し、操業の効率

化を図る。

Diamond Green Dieselと Darling Ingredientsは、ルイジアナ州 Norcoの再生

可能ディーゼルプラントの拡張に 11億 USDを投資する。米国では、Philips 66、

Shellなどの大手石油会社が、再生可能ディーゼル事業への進出を計画している。

米国 APIが、製油所、化学プラントの従業員の安全性向上を目指すガイドライン

(RP755)の改訂版を公表した。作業員の疲労軽減のために、疲労度の評価、作業

時間などを規定している。

2.ヨーロッパ

米国政府のイラン及びベネズエラに対する経済制裁が、欧州の石油精製事業に影

響を及ぼしている。ベネズエラ産の重質原油の代替で、ロシアの Urals原油の需

要が増加し、値上がりしている。

中東産重質原油輸のアジアシフトが進んでいることも、欧州の製油所の重質原油

調達を難しくしている。トルコの新設 STAR製油所が Ulals原油と中東産重質原

油の処理を始めたことも影響し始めている。

ExxonMobilは、英国の Fawley製油所の近代化プロジェクトに最終投資決定を下

した。プロジェクトは、超低硫黄ディーゼル(ULSD)の生産能力を拡張するもので

あるが、同時に低硫黄船舶燃料基材の増産も図ることが出来る。

石油トレーダーの Carlyle Groupは、アブダビの Mubadala Investmentからスペ

インの総合エネルギー会社 CEPSAの株式の一部を取得することで合意した。

3.ロシア・NIS諸国

アゼルバイジャンの国営 SOCARは、Azneftyag製油所の重質燃料生産設備を Baku

製油所に移設する計画を断念し、Baku製油所に新規の装置を建設することを決

めた。

アゼルバイジャンでは、製油所・石油化学コンプレックスの新設が計画されてい

るが計画の一部が見直されている。

韓国の SK Engineeringは、ウズベキスタンの Bukhara製油所から、Euro-5規格

燃料の生産を目的とした近代化工事を受注した。

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4.中東

精製能力拡大を進めているサウジアラビア国営 Saudi Aramcoは、Shellとの精

製 JV SASREFの株式 50%を Shellから買収し、SASREFを 100%子会社化する。

Saudi Aramcoは、ポーランド PKN ORLENに原油を長期的に供給することに合意

した。一方、Aramco Tradingは、ORLEN Lietuvaから重油を輸入する。

サウジアラビア東部州 Dammamの工業団地に、強化熱可塑性パイプの製造プラン

トが完成した。Saudi Aramcoは、石油・天然ガス開発資材の国産化推進に寄与す

ることを期待している。

クウェートの新設 Al Zour製油所の建設工事の進捗度が 80%に達した。また、

製油所、LNGプラント、石化プラントを合わせた PRIZeプロジェクトの概要と総

投資額が 270億 USDであることが明らかにされた。

オマーンの Sohar 製油所の近代化プロジェクトがスタートした。プロジェクト

では、常圧蒸留装置、減圧蒸留装置、ディレードコーカー、水素化分解装置、ア

スファルトプラントを新設し、オマーン産の重質原油の処理増と燃料製品の増産

を図る。

5.アフリカ

エジプトの Carbon Holdings傘下 TPCの大型石化プロジェクトの建設工事が本格

化している様子が報告されている。プロジェクトは、ナフサクラッカー(410万

トン/年)、ポリエチレンプラント、ポリプロピレンプラント、ベンゼン、ブタジ

エンプラントを建設するもので、単一プロジェクトとしては世界最大級に位置付

けられる。

南アフリカ共和国の Sasolが、CTL(coal to liquid)プラント向けの原料炭の長

期安定供給を目指して、新たな炭鉱を開設した。

6.中南米

米国エネルギー情報局(EIA)が、ブラジルのエネルギーレビューを更新した。ブ

ラジルの 2017年の原油生産は、一時の低迷から脱却しつつある。なかでも、プ

レソルト層の開発が進んでいる。

近年、メキシコ-米国間のエネルギー貿易の様相が変化している。メキシコから

の原油輸出量が減少する一方で、米国からの石油製品・天然ガス輸出量が増加し、

米国の輸出超過となっている。メキシコの原油生産が低迷し、米国で原油・天然

ガスが大幅に増産していることが背景にある。

ベネズエラでは国内事情による経済の低迷で、原油の減産が続いてきたが、今年

に入ってから、米国のベネズエラ制裁の影響や停電による生産施設のダメージで、

更に減産が加速している。

7.東南アジア

インドの石油天然ガス省が 2018-2019年度の石油統計を発表した。2018-2019年

度は、前年度に比べて原油は減産、原油処理量と石油製品の生産量は増加した。

石油精製能力は、前年並みの約 500万 BPD。精製マージンは減少した。

インドの 2018年 12月~2019年 11年期のエタノール生産予測によると、ガソリ

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ンへのエタノール配合率は、平均 7.2%に達する見通しである。原油輸入量を抑

制する目的で、インド政府は、2030年までにガソリンへのエタノール配合率を

20%、バイオディーゼルの配合率を 5%とする目標を設定している。

現在、ベトナム BSRの Dung Quat製油所は、高稼働率操業を継続し、収益を確保

している。Dung Quat製油所では、処理原油にアゼルバイジャン産原油を加えて

いるが、BSRは、輸入関税の免除を政府に求めている。

8.東アジア

中国 Shenghong Refining & Chemicalは、Lianyungang 製油所に Axensの残渣油

水素化分解技術を導入し、ナフサ生産能力を引き上げる。

中国 Sinochemの Hongrun 製油所は、Honeywell UOPが新たに開発したイオン液

体を使用するアルキレーションプロセスISOALKY™を導入する。

Sasolが南京市に建設した高級アルコールプラント(15万トン/年)が順調に稼働

している。Sasolは、プラント稼働に合わせて、高級アルコールの R&D/技術サポ

ート拠点を設立した。

中国 China HuanQiu Contracting & Engineering Co., Ltd.は、HDPEプラントに

LyondellBasellのプロセスを採用する。プラントの建設地は、Korla City(30

万トン/年)、Jieyang City(40万トン/年)、Yulin City40万トン/年)。

中国 Sinopecの Jinling 製油所が、軽質低硫黄船舶燃料を初出荷した。

CNOOCは、2014年に撤退した洋上風力発電事業に再参入することを決定した。

既に、江蘇省で海洋風力発電事業に参画することに合意している。

9.オセアニア

ニュージーランド政府は、GHG排出量の削減に向けた報告書を公表した。同国で

は、欧州からの入植後に森林面積が減少し、CO2 吸収能力が減少した。ニュージ

ーランドでは、畜産業がメタンの最大の排出源である。

政府は、GHG排出源を化石燃料と農業に分離し、それぞれに排出量削減策を検討

している。

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1. 北 米

(1) カナダのバイオ燃料事情(BIC2019)について

カナダのバイオ燃料業界団体の「Advanced Biofuels Canada(ABFC)」が、4回目の

報告になる年次報告書「カナダのバイオ燃料事情(Biofuels in Canada 2019:BIC2019)」

を発表した。

BIC2019は、調査会社 Navius Research Inc.(Navius)によるレポートを更新した

もので、再生可能燃料の配合率や種類、州レベルで利用されている再生可能燃料の

原材料などのデータが、2010年から 2017年までの 8年間の集計結果と共に記載され

ている。

現在、カナダでは、連邦政府の「再生可能燃料基準(Renewable Fuels Regulations)」

で、再生可能燃料の配合を義務付けられている。さらに、ブリティッシュコロンビ

ア(BC)州では、再生可能燃料の配合義務量に加えて、州内で販売される燃料の平均

のライフサイクル炭素強度(lifecycle carbon intensity:CI)を、年毎に減少させ

ることを求める「Renewable & Low Carbon Fuel Requirements Regulation(RLCF)」

規制が施行されている

バイオ燃料の炭素強度は 2010年以降に大きく低下し、2017年には大幅な GHG排出

量削減に寄与している。厳しい規制を敷いている BC州における炭素強度の低下効果

を示すと、2010年から 2017年の期間で、エタノールで 41%、バイオディーゼルは

51%、水素化植物油(hydrogenation-derived renewable diesel:HDRD)では 58%の

削減効果があったと判断することができる。

バイオ燃料による炭素強度の低下は、規制による費用対効果を評価する上で、大

きな判断基準になるが、解析結果からは、各種規制類は燃料の小売価格に実質的に

影響を与えていない。このような背景のもと、輸送分野から排出される温室効果ガ

ス(GHG)の削減を目的とした政策が貢献して、カナダではバイオ燃料の消費量が増加

している。

カナダで消費されたバイオ燃料量は、カナダの環境・気候変動省(Environment and

Climate Change Canada:ECCC)および米国農務省(USDA)が公表する報告書で知るこ

とはできる。しかしながら、州の規制当局が公表するデータと ECCCや USDAのデー

タを整合させる包括的なデータは無く、再生可能燃料の消費が、GHG排出量や燃料コ

ストにどの様な影響を与えているかを解析し、報じる総合的なデータソースはカナ

ダには無い。

そのため、Advanced Biofuels Canada(ABFC)では、連邦政府と州政府が提供する

情報のギャップを埋めると共に、総括的データとして取りまとめ、色々な側面から

解析するために Naviusと契約している。

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また、BIC2019では、連邦政府および州政府による再生可能燃料および低炭素燃料

政策が施行されていることによる影響を、以下の観点から包括的な分析を行ってい

る。

・ 各州で消費される輸送用バイオ燃料の総量、再生可能燃料の種類、原料、お

よび CIなどを定量化すること。

・ バイオ燃料の消費に伴う GHG排出量に関わる影響。

・ 燃料税がエネルギーコストへ与える影響。

Naviusが取りまとめた主な結論は次の通りである。

① オクタン価の高いエタノールの配合による、オクタン価向上によるポジティブな

効果は、他のマイナス要因を相殺するほどになっている。

② ガソリン、ディーゼルに配合された再生可能燃料は、2010年から 2013年にかけ

て増加している。2013年から 2017年のバイオ燃料の使用量は、比較的安定して

いた。

③ バイオ燃料向けエタノールの消費量は、2010年の約 170万 KLに対して、2017年

は 304.7万 KLに増加し、全ガソリン消費量の 6.5%を占めた。

④ 再生可能ディーゼルの年間消費量は、2010年の 12.3万 KLから 2017年には 37.6

万 KLに増加し、HDRDの消費量は、3.7万 KLから 32.6万 KLに増加している。再

生可能ディーゼルと HDRDの合計が、全ディーゼル燃料消費量に占める比率は約

2%になっている。

図 1. カナダのガソリン及びディーゼル消費量に占める再生可能燃料比率の推移

(出典:BIC2019)

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⑤ 再生可能燃料を配合したことに伴う GHG排出量の削減量は、2010年の 210万トン

CO2e /年から 2017年には 550万トン CO2e/年に増加した。また、2010年から 2017

年の間に削減できた GHG排出量は、累計 3,430万トン CO2eと試算された。

なお、最新の情報に基づき CIを見直したことで、GHG排出量の削減量は上方修

正されている。

⑥ エタノール、再生可能ディーゼル、および HDRDなどの再生可能燃料を配合した

バイオ燃料を使用することで、再生可能燃料を配合しない場合と比較して、カナ

ダの消費者が支払った燃料代は、2010年から 2017年の期間で 0.42%減少してい

る。8年間の調査対象期間では、43億 CAD(2017年為替レート基準)の節減に相当

する。

⑦ 再生可能燃料を配合したバイオ燃料と、配合していない燃料の燃料代を比較する

と、一般的な乗用車(light-duty vehicle)に、バイオ燃料を使用したケースでは、

平均 23CAD/年(1.15%)の節約になっている。

一方、ディーゼル燃料の長距離貨物トラック(long-distance truck)の場合は、

バイオ燃料を消費したケースの方が 235CAD/年が(+0.65%に相当)コスト高であ

ることが分かった。主な要因は、ディーゼルに配合された再生可能燃料のおよそ

半分が高価な HDRDであったことにある。

⑧ バイオ燃料による GHG削減費用は、公害対策費や医療費などを検討対象外として

取扱った場合、エタノール配合ガソリンの消費による GHG削減コストはマイナス

256CAD/トン CO2eであり、バイオディーゼルの消費に伴う GHG削減コストはプラ

ス 153CAD/トン CO2eと見積ることが出来た。

図 2. GHG削減コスト(2010年~2016年)

(出典:BIC2019)

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⑨ HDRDを除く再生可能燃料のディーゼルへの配合比率は、平均して 1%であるが、

本来は、さらに配合比率を高めることが出来たと考えられる。再生可能燃料の配

合比率が低過ぎたために、コストアップしたと考えられ、今後の課題として残さ

れている。

⑩ バイオ燃料は一般的に石油燃料よりエネルギー密度が低いため、バイオ燃料を使

用する場合、同じエネルギーを得るには化石燃料より多くの量の燃料を消費し、

消費者はより多くの税金を支払うことになる。エタノールは、ガソリンよりエネ

ルギー密度が約 33%小さいため、この影響は顕著に現れることになる。

現在の課税構造では、8年間の調査対象期間中に、エタノール配合ガソリンを

消費したことに伴う追加的な税額は、合計で 13億 CAD(2017年為替レート基準)

になっている。また、同期間中にバイオディーゼルを消費したことに伴う追加税

額は、1.7億 CADと試算された。

<参考資料>

http://www.biofuelsdigest.com/bdigest/2019/04/28/biofuels-in-canada-2019-report-shows-

record-reductions-and-effectiveness-of-renewable-fuel-regulations/

https://advancedbiofuels.ca/wp-content/uploads/Biofuels-in-Canada-2019-2019-04-25-fina

l.pdf

http://ethanolproducer.com/articles/16158/advanced-biofuels-canada-report-shows-record

-ghg-reduction

(2) Valero Energyの最近の製油所拡張及び事業展開に係る情報

米国の独立系精製企業 Valero Energy Corporationは、石油精製事業、エタノー

ル生産事業、再生可能ディーゼル生産事業並びにこれらの各事業の流通販売事業な

ど多くの事業を展開している。これらの内、製油所装置の拡張・改造工事および子会

社が展開している再生可能エネルギー事業の拡大に係る情報が報道されているので、

その概要を以下に報告する。

1) St. Charles製油所、Houston製油所のアルキル化装置の増強プロジェクト

Valero Energyは、子会社の Valero Refining New Orleans LLCが操業するルイジ

アナ州 Norcoにある St. Charles製油所(34万 BPD)のアルキル化装置の拡張に、4億

USDの設備投資を決定し、現在、この拡張工事が進行中である。

プロジェクトでは、高オクタン価ガソリン基材を生産する設備の拡張工事で、新

規配管類、オレフィン供給装置、アキュムレータなど、を新設する。Valero Energy

が今年 4月に発表した投資家向けプレゼンテーションによると、1.7万 BPD分を拡張

する計画で、2020年の稼働を予定している。

Valero Energyは、テキサス州の Houston製油所(23.5万 BPD)では、3億 USDを投

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資した同様のアルキル化プロジェクト(1.3万 BPDの拡張)を進めている。このプロジ

ェクトは、2019年第 2四半期に試運転が予定されている。

2) Port Arthur製油所のコーカー新設プロジェクト

Valero Energyは、2019年 4月初めに公表した投資家向けプレゼンテーションで、

9.75億 USDを投資したテキサス州 Port Arthur製油所(39.5万 BPD)で進めているコ

ーカープロジェクトを、2022年に完成させて、稼働させると発表している。

利益率と製品収量の改善を目的としたこのプロジェクトは、5.5万 BPDのコーカー

と硫黄回収装置を設置し、2系列の独立した原油蒸留装置(CDU)-真空蒸留装置(VDU)-

コーカー装置のシステムで操業できる態勢を整えるものである。

2系列態勢を整えることで、保守点検効率の向上と保守工事に伴う利益率の低下を

抑えると同時に、減圧軽油の外部購入量の削減、安価な重質高硫黄原油や重質油の

処理量増加、軽質製品の歩留まり向上を図ることを目的としている。

図 3. Valero Energyの米国内主要施設のロケーション図

(出典:2019年 4月 Valero投資家向けプレゼンテーション)

3) Diamond Green Dieselの再生可能ディーゼル増産プロジェクト

バイオ基材から各種天然素材を製造・販売している Darling Ingredients Inc. と

Valero Energyの子会社で再生可能エネルギー事業を展開する Diamond Alternative

Energyは、ジョイントベンチャーのDiamond Green Dieselを2008年に設立し、Valero

Energyが運営するルイジアナ州NorcoにあるSt. Charles製油所(34万BPD)近くに、

再生可能ディーゼルを製造する施設を設置し運営している。

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この Norcoプラントでは、獣脂、廃食料油、非食用コーン油など、年間約 23億ポ

ンド(約 104万トン/年)の再生可能原料から、年間 2.75億ガロン(約 1.8万 BPD)の再

生可能ディーゼルを製造している。

Diamond Alternative Energyと Darling Ingredientsの両社は、Diamond Green

Dieselの事業拡大を目的に、Norcoプラントの再生可能ディーゼルの製造能力を拡

張すべく、合計 11億 USDを投資すると発表した。

ルイジアナ州経済開発審議会(Louisiana Economic Development Council:LED)の

発表によると、Norcoプラントの生産能力は、現在、2.75億ガロン/年(約 104万 m3/

年)で、北米最大の再生可能ディーゼル製造施設になっているが、更に年間 4億ガロ

ン(約 151万 m3/年)を増加し、年間 6億 7,500万ガロン(約 255万 m3/年)以上に拡張

する計画である。

今回の拡張工事では、既存の設備(Train 1)に隣接して、2系列目となる製造設備

(Train 2)並びに再生可能ナフサの処理設備を建設する予定である。当該プロジェク

トの完了は 2021年末が予定されており、完成後は再生可能ディーゼル製造能力にお

いて、世界で 2番目の規模の施設になる。

最近米国で、再生可能ディーゼルに投資している石油会社は Valeroだけではなく、

2018年 11月に、Phillips 66は Renewable Energy Group Inc.と提携して、ワシン

トン州 Puget Soundにある Ferndale製油所(12万 BPD)の隣に、大規模な再生可能デ

ィーゼル製造設備を建設すると発表している。生産設備には、Renewable Energy

Groupが開発したBioSynfining®技術を採用し、廃棄物系材料を原料に使用する計画

である。

更に、Philips 66は、カリフォルニア州に拠点を置く再生可能燃料製造会社の Ryze

Renewablesと提携して、ネバダ州の Reno及び Las Vegasの 2ヶ所に、合計製造能力

1.1万 BPDの再生可能ディーゼルプラントを、2019年頃並びに 2020年初期の完成予

定で建設している。

また Shellは、NEXT Renewable Fuels Inc.が、オレゴン州の Port Westwardで 2021

年完成予定の再生可能エネルギープロジェクトから、再生可能ディーゼルを購入す

る長期契約を 2019年 2月に締結している。この様に、石油会社が再生可能ディーゼ

ル事業に進出している事例は多い。

<参考資料>

https://www.chron.com/business/energy/article/Valero-Energy-s-renewable-diesel-refiner

y-to-see-13799125.php

https://www.ogj.com/articles/2019/04/valero-invests-in-louisiana-refining-projects.htm

l

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https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-04-12/epa-mulls-disclosing-info-on-refine

rs-seeking-biofuel-waivers

https://www.chron.com/business/energy/article/Shell-to-buy-renewable-diesel-from-Orego

n-project-13590443.php

https://valero.gcs-web.com/static-files/58e74588-beab-48c9-9786-dcdd5fbf5b05

(3) 米国石油協会が、作業者の疲労に係る API規格を改訂

米国石油協会(American Petroleum Institute: API)は、米国内の製油所や化学プ

ラントで働く労働者の疲労が、安全運転上の危険因子となるとの見地から、労働者

の安全性向上を目的として、石油精製と石油化学業界向けのガイドライン(第 2版)

を発表した。

公式名称「石油精製および石油化学業界における労働者の疲労リスク管理システ

ム(Recommended Practice 755:RP 755)」と題する API規格第 1版は、2005年 3月

23日に、BPのテキサス州 Texas City製油所で発生した爆発事故で、15名が死亡し

180名が負傷した災害の原因と得られた教訓に基づいて、米国化学物質安全委員会

(U.S. Chemical Safety Board:CSB)が、関連業界に発した勧告に基づいて、2007年

に APIが定めたガイドラインである。

その後、RP 755は 2010年 4月に、米国規格協会(American National Standards

Institute:ANSI)の規格として指定されている。

RP 755は、職場における疲労の理解、認識、および管理について、従業員、現場

監督者、および管理者へ指針を示し、経営者がこれらの問題に対処するための方針

と手順を、どのように確立すべきかについても概説している。

この度、APIは全国の業界・組合団体、業界経営者/事業者、エンジニアなどの代表

者からなるコンセンサス委員会を開催し、RP 755を改訂・更新したことを公表してい

る。今回改訂された RP 755(第 2版)は、設備の異常発生時やシャットダウンを問わ

ず、労働者の連続勤務時間数と作業日数をさらに厳しく制限しているところに特徴

がある。RP 755(第 2版)の改訂事項は以下のとおりである。

① 従事時間制限:第 2版では、施設内の遮蔽場所の適用範囲を厳密化し、緊急呼び

出し時の対処法を含め、安全上重要な作業において、全ての従業員に適用される

最新のガイドラインにより、誤解に基づく判断ミスの軽減を図っている。

② 作業環境に関する新ガイダンス: 第 2版には、第 1版以降の科学進歩に基づく

照明および疲労評価に関する新しい要件を含んでいる。

③ 個人リスクの評価と低減: 第 2版では、疲労検出技術の普及を反映し、疲労を

評価するためのツールを使用したガイダンスになっている。

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④ 「Should」対「shall」: RP 755の幾つかのセクションの記載事項を「“should

perform”(実行した方が良い)」から「“shall perform”(実行すべき)」に変更

し、疲労リスク管理システムのすべての構成要素が必要であることを明確にして

いる。

今回の改訂に関し、APIのグローバルインダストリーサービス部門の Debra

Phillips副会長は、「RP 755の第 2版では、安全に配慮したプロセスに関わる全て

の作業者の疲労を回避するための統一された要件がまとめられている。」と語ってい

る。

石油業界の労働者を代表する組織の全米鉄鋼労働組合(United Steelworkers

union:USW)は、コメントを発表していないが、これまで「現在の RP 755は、製油

所および化学プラントのマネジャーにとって、記載事項を容易に無視できるもので

あった。」と批判していた。

なお、RP 755(第 2版)の規定通りに作業を進めるか否かは、個別企業に任されて

おり罰則規定は無い。

<参考資料>

https://www.api.org/news-policy-and-issues/news/2019/05/01/api-updated-standard-improv

e-worker-safety-petrochemical-manufacturing-training

https://www.reuters.com/article/us-usa-labor-refineries-fatigue/api-revises-standard-t

o-reduce-worker-fatigue-in-refineries-chemical-plants-idUSKCN1S82CH

https://www.api.org/oil-and-natural-gas/health-and-safety/refinery-and-plant-safety/pr

ocess-safety/process-safety-standards/rp-755

2. 欧州

(1) 米国によるベネズエラおよびイラン制裁が欧州の石油精製事業に与える影響

米国がベネズエラやイランに対して課している制裁により、欧州の精製業者は重

質原油の代替を迫られ、高価なロシア原油を使用せざる得ない状況にある。結果的

に米国の両国に対する制裁の影響が、欧州の精製業者に思わぬ対価の形で表れてき

ている、との見方が流通分野の専門家の間に広がっている。

OPECが原油価格を引き上げる方策として、優先的に重質原油の生産量を削減して

いることに加えて、重質原油処理型の STAR製油所がトルコで稼働を始めたことも、

欧州の製油所が重質原油を入手することを難しくしている。

米国の原油生産量は急上昇しており、建設中のパイプラインや原油出荷ターミナ

ル設備が、今年後半に稼働するにつれ、輸出量が急増すると見込まれるが、輸出さ

れる原油は、軽質低硫黄の原油であるため、現在欧州が欲している原油ではない。

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その結果、中質高硫黄のロシア産 Urals原油の確保に欧州の精製業者が、凌ぎを

削っていると見られている。

地中海地域では、Urals原油の Brent原油に対するディスカウント幅は、通常 1USD/

バレルであったが、2018年 11月上旬以降、Urals原油価格が急上昇し、現在では 1

バレル当たり 0.70USD/バレルのプレミアムが付くに至っている(図 4参照)。また、

保険料も高額になっていると報じられている。

欧州のトレーダーは、Urals原油は、対応する Brent原油価格に対して、優位な位

置付けにあることは今後も変わらないことから、近い内に値下げに向う兆候はない

と見ている。

図 4. Brent原油とロシア産 Urals原油の価格差の推移

(出典:4月 12日付 Reuters記事)

米国が、ベネズエラやイランへの制裁を発動する前の 2018年 10月時点と、発動

後の 2019年 3月時点で比較すると、ロシアの Urals原油の販売収益は、135万 USD

増加したと見られ、ロシアが利益を享受している構図になっている。

2018年 11月上旬にイラン制裁が発動された時点では、欧州は重質高硫黄のベネズ

エラ原油に向かった。その後、2019年1月下旬に、米国はベネズエラのNicolas Maduro

大統領に圧力をかける目的で、制裁を課すことになった。制裁は 2019年 4月末まで

効力を生じないが、米国政府は全ての取引を中止するよう外国企業に圧力をかけて

いるため、既にベネズエラとの原油取引は事実上不可能な状況にある。

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米国がイランとベネズエラに課した制裁により、世界市場から締め出される原油

は、少なくとも 80万 BPDになると見られるが、この量は、OPECが削減に合意した量

と同程度になっている。

現在、欧州の製油所は、春季のメンテナンス時期にあり、中東産原油の需要量は

抑えられているが、中東産原油は、精製能力が飛躍的に高まっているアジアに向か

う傾向が強い。春季メンテナンスの終了後も、欧州の製油所・石油化学コンプレック

スの原油調達が好転するとは予測できない。

重質高硫黄原油の生産国であるサウジアラビアは、OPEC/非 OPECの原油減産量の

大部分を請け負っているが、Reuters系の調査企業の Refinitiv Eikonのデータによ

ると、2018年 10月から今年 3月に掛けて、サウジアラビアは欧州への輸出量を半分

近く減少させている。

また、イラクも欧州の精製業者との 2019年の契約量を減らしている。欧州向け供

給量は、2018年 10月時点の供給量 61.5万 BPDと比較して、今年 3月には 35.5万

BPDまで約 40%減少している、反面、スポット入札による販売量を増加させている。

更に、アゼルバイジャンがトルコに建設した STAR製油所(20万 BPD)は、2018年の

稼働開始後、徐々に原油処理量を増やしている。STAR製油所は、Urals原油、イラ

クの Basra、Kirkuk原油などの重質高硫黄原油を処理する仕様で設計されている。

STAR製油所の Urals原油の処理量が、2019年 3月に 18.4万 BPDに達したことから、

欧州の製油所にとって、新たな競争相手が出現したことになる。

STAR製油所の稼働は、原油市場に衝撃大きなインパクトがあると予想していたが、

重質高硫黄原油の不足を十分予測できなかった、との見方が伝えられている。

<参考資料>

https://www.reuters.com/article/us-oil-urals-analysis/russia-cashes-in-as-european-oil-refiners-

pay-for-us-sanctions-idUSKCN1RO0DR

https://www.azernews.az/oil_and_gas/148570.html

https://www.reuters.com/article/us-venezuela-politics-crude-exports-expl/explainer-u-s-sanctions

-and-venezuelas-exports-and-imports-idUSKCN1S82BI

(2) ExxonMobilによる英国 Fawley製油所のアップグレード情報

ExxonMobil Corp.は、英国子会社 Esso Petroleum Co.が、イングランド南部の

Southampton近郊で操業している英国最大の Fawley製油所(27万 BPD)で、超低硫黄

ディーゼル(ULSD)を、3.8万 BPD(約 45%)増産する拡張プロジェクトを最終投資決定

(FID)した。

本報の 2018年 10月号(欧州編)第 1項で報告している通り、ExxonMobilは、ディ

ーゼルの増産を図ると共に、幅広い原油種を受け入れることができるように改造す

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ると発表していた。

当時、ExxonMobilは、「市場状況および経済競争力など多くのファクターを検討し

た上で、プロジェクトの最終的な投資決定を判断することになるが、2019年上半期

中に FIDまで持ち込みたい。」としていた。

ExxonMobilによると、2017年の実績で、英国が輸入したディーゼル総量の約半分

を Esso Petroleumが輸入しているが、ディーゼル輸入量の削減を目的に、10億 USD

以上の設備投資を行い、水素製造装置及び水素化脱硫装置を建設し、同時に製油所

全体のエネルギー効率の改善を進めたいとしている。

製油所アップグレードに向けた詳細設計は既に進行中で、規制当局の許可の時期

に左右されるが、建設工事は 2019年末までに開始し、スタートアップは 2021年を

見込んでいる。

今回、ExxonMobilが、Fawley製油所で ULSDを増産するプロジェクトを進める FID

を下した背景には、これまで述べてきた理由以外に、2020年 1月に施行される国際

海事機構(IMO)の船舶燃料硫黄規制があり、燃料中の硫黄分を 0.50%以下に抑える必

要があることから、ULSDは低硫黄バンカーのブレンド基材になることが、意思決定

に大きく影響したと考えられている。

ExxonMobilは、早くから IMO2020硫黄規制対応を進めており、米国メキシコ湾岸、

オランダの Rotterdam、ベルギーの Antwerpなど、世界の主要港周辺の製油所で、

IMO2020硫黄規制に則った船舶燃料の供給に向けた準備を進めてきている。

例えば、Antwerp製油所(31万 BPD)においては、昨年 10月にディレードコーカー

(5万 BPD)を稼働させたことにより、製油所の重油生産量を毎月 20万トン削減し、

ディーゼル、船舶用軽油(MGO)およびその他の輸送用燃料を増産している。

ExxonMobilは、下流事業の収益性を 2025年までに大幅に向上させる計画を立てて

遂行中であるが、米国メキシコ湾岸、ロッテルダム、アントワープ、シンガポール

などの製油所への投資と併せて、今回のプロジェクトは、収益性向上の実現に貢献

することが期待されている。

<参考資料>

https://www.ogj.com/articles/2019/04/exxonmobil-takes-fid-to-expand-fuel-production-at

-uk-refinery.html

https://www.argusmedia.com/pages/NewsBody.aspx?id=1890342&menu=yes

https://www.rigzone.com/news/exxonmobil_to_expand_uk_refinery-24-apr-2019-158679-artic

le/

https://www.hydrocarbonengineering.com/clean-fuels/25042019/exxonmobil-to-increase-ult

ra-low-sulfur-diesel-production-at-fawley-refinery/

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(3) Carlyle Groupによるスペインの Cepsa株の買収計画

石油トレーダーの Carlyle Groupは、スペインの総合エネルギー会社

Cepsa(Compañía Española de Petróleos SA)の単独株主であるアブダビの Mubadala

Investment Co.から、Cepsaの株式の 30〜40%を取得することで合意に達した。

Financial Timesによると Carlyle Groupは、Cepsaの企業価値を 120億 USDと見

積っている。Carlyle Groupは株式 30%の取得に対して 36億 USDを支払い、持ち株

比率を 40%に増やすことが出来るオプションが付いた契約内容と報じられている。

Mubadala Investmentは、2018年 9月に Cepsaの株式の 25%を新規株式公開(IPO)

すると公表していたが、その後、投資市場の反応が好ましくないとして、10月には

この計画を棚上げする旨を発表していた。

Cepsaは、アルジェリア、ペルー、コロンビア、アブダビ、タイ、マレーシアで

17.5万 BPDに相当する原油類および天然ガス生産の利権を持ち、スペイン、カナダ、

ブラジル、インドネシア、ドイツ、中国で化学品を生産している。

スペイン国内で、Gibraltar San Roque製油所(24万 BPD)、La Rábida製油所(20

万 BPD)、Santa Cruz製油所(9万 BPD)の 3ヶ所を運営しているほか、アスファルト

専用製油所(84.5万トン/年)を運営する ASESAの株式 50%を保有している。

また、Cepsaは小売事業としてイベリア半島全体に広がるサービスステーションネ

ットワークを持ち、燃料販売、ガス、電気の消費者向け供給をしているほか、石油

化学分野では、直鎖アルキルベンゼン(LAB)、フェノール、アセトンの生産で、世界

有数の企業である。

今後は、規制当局の承認を受ける段階に移行するが、両社は、売買取引を 2019年

末までに完了させたいとしている。Carlyle Groupによる買収後も Cepsaの過半数株

主は Mubadala Investmentであることに変わりないが、最終的な持ち株比率は、規

制当局による承認後に確認されることになる。

<参考資料>

https://www.cepsa.com/stfls/corporativo/FICHEROS/NOTAS_DE_PRENSA/Mubadala-Carlyle-Pres

s-Release.pdf

https://www.reuters.com/article/us-cepsa-m-a-carlyle-group/carlyle-to-buy-30-40-percen

t-stake-in-cepsa-from-abu-dhabis-mubadala-idUSKCN1RK0CH?feedType=RSS&feedName=business

News

https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-04-08/carlyle-to-buy-as-much-as-40-of-cep

sa-from-abu-dhabi-s-mubadala

https://www.cnbc.com/2019/04/08/carlyle-to-buy-up-to-40percent-stake-in-cepsa-from-mub

adala.html

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3. ロシア・NIS

(1) アゼルバイジャンの Baku製油所近代化工事に関する情報

1) Baku製油所の近代化プロジェクト

アゼルバイジャン国営石油会社SOCAR(State Oil Company of Azerbaijan Republic)

の戦略開発担当 Tydig Gahramanov副社長が、アゼルバイジャンを拠点とする通信社

Trend News Agencyに語ったところによると、SOCARは Baku製油所(別称、Heydar

Aliyev製油所、12万 BPD)に、新規装置の建設を計画している。

プロジェクトの経緯を以下に要約する。

重質石油製品を中心に生産している Azneftyag製油所は、閉鎖される予定で、

Azneftyag製油所の一部の設備を、Baku製油所に移設する計画であった(2015年

10月号(ロシア・CIS編)第 1項参照)。

Azneftyag製油所から施設を移設せず、Baku製油所の装置を改造/新設する場合

の投資額は、設備改造に 2億 USD、付帯設備などの建設に 1.3億 USDと見積もら

れた。その結果、設備を移設する場合よりコストが低いことが明らかになった。

SOCARは、設備の移設を断念し、Baku製油所内に必要な設備を新設することを選

択した。新装置建設の工期は、3年半と見積もられた。

なお、現在、投資額約 22億 USDで進められている Baku製油所の近代化工事は、

2021年に完成する予定である。

2) 新規製油所・石油化学コンプレックスプロジェクト

アゼルバイジャンの石油関係施設の新設並びに製油所再整備に関しては、Tydig

Gahramanov副社長のインタビュー以外に、中東・北アフリカのビジネス情報を伝える

MENAFN.comが、Baku製油所内の新装置建設計画に関連して、以下の情報を伝えてい

る。

アゼルバイジャンの首都バクーでは、「第 4回 SOCAR国際カスピ海中央アジア下流

分野フォーラム(The 4th SOCAR International Caspian and Central Asia Downstream

Forum)」が 2019年 4月 22日から 25日まで開催され、同時に「カスピ海と中央アジ

アの石油精製と石油化学に関する会議(The Conference on Oil Refining and

Petrochemistry of the Caspian Sea and Central Asia)」も開催されている。

フォーラム並びにイベントには、西欧や中央アジアなどの大手石油・天然ガス会

社、石油精製会社、商社、ターミナル運営会社、銀行などから 300名を超える参加

者が参加している。

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この会議で、法律事務所 BM Morison Partnersのマネージングパートナーである

Aykhan Asadov氏が、アゼルバイジャンでは、2022年までに製油所・天然ガス処理コ

ンプレックスを建設するプロジェクトを、今年中に着工される予定であったが、原

油価格の下落により、当初の計画は変更されたと述べている。

なお、コンプレックスは 4セクションで構成されており、それらは天然ガスを 100

億 m3/年処理する設備、精製能力 20万 BPDの製油所、石油化学プラント、発電能力

250MWの発電所の各設備の建設であることを明らかにしている。

Asadov氏によると、特に、Baku製油所の近代化工事との統合が注目されるように

なり、同製油所で、2020年 11月末までに年間 330万トンのディーゼルを生産し、2021

年 2月までに年間 220万トンのガソリンを生産する計画に変更されたと説明してい

る。

<参考資料>

https://en.trend.az/business/energy/3043272.html

https://menafn.com/1098427253/Gas-processing-plant-to-be-built-in-Azerbaijan

https://www.azernews.az/business/149514.html

https://en.trend.az/business/energy/3051686.html

(2) ウズベキスタンの製油所関連情報

韓国のエンジニアリング会社 SK Engineering&Construction(SK E&C)は、ウズベ

キスタン国営石油・ガス企業の JSC Uzbekneftegaz(UNG)から、首都タシケントの南

西 437kmに設置された Bukhara製油所(5万 BPD)の近代化工事を受注した。プロジェ

クトは、Euro-5基準の燃料製品の生産を目指している。

SK E&Cと UNGは、Bukhara製油所の近代化に関して、2016年以降、協議を重ねて

きた。SK E&Cは、本プロジェクト以外でも、昨年から、約 30の国営企業に対してプ

ロジェクトマネジメント教育プログラムを運営するなど、技術供与を通じてウズベ

キスタンに積極的に関与してきている。なお、SK E&Cがウズベキスタンで建設プロ

ジェクトを手掛けるのは、本件が初めてのケースになる。

インターネットなどを通じてウズベキスタンの石油関連情報を得る機会は少なく、

情報を収集し難いが、米国エネルギー情報局(EIA)の Country Analysis Briefや国

際エネルギー機関(IEA)の Country overview(2016年版)に記載されたウズベキスタ

ンの石油事業関連情報は、以下の通りである。

EIAのCountry Analysis Briefによると、2016年1月時点の確認石油埋蔵量は 5.94

億バレルで、2015年の石油原油類の総生産量は 7.89万 BPDであった。ウズベキスタ

ンの原油・天然ガス田のおよそ 60%は Bukhara-Khiva地域に偏在し、同地域は、ウズ

ベキスタンの原油生産量の約 70%を占めている。

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製油所は Ferghana、Alty-Arik、Bukharaの 3ヶ所に設置されており、合計精製能

力は約 24万 BPDになっている。しかし、精製能力に対する原油生産量が不十分なた

め、製油所稼働率は低い。

ウズベキスタンでは、石油類は自給自足にあるが、石油関連のインフラの整備は

十分ではなく、全ての石油製品は鉄道またはタンクローリーで輸送されている。

ウズベキスタンには、原油を輸出するパイプラインは無いが、ロシアの Omskから

ウズベキスタンの製油所へ原油を輸送しているパイプラインを利用し、逆走させる

ことが唯一の選択肢になる。

ウズベキスタンでは、シェールオイル開発が、有望と見られており、短期的生産

は困難と見做されているが、中期的には、Navoiy地域の Sangruntau油田で生産が開

始される予定である。

ウズベキスタン政府は、これまで石油エネルギーの自給自足を促進し、国内の燃

料価格を安定させるエネルギー政策を採用してきたが、原油の減産により、これま

での政策を転換せざるを得ない状況になっている。

そこで政府は新たな規則を制定し、原油増産並びに埋蔵量の拡大を目的に、外国

企業からの投資の誘致を目指している。国営の石油・天然ガス会社 Uzbekneftegaz

は、積極的に生産分与契約や国際パートナーとの合弁事業方式を提案している。

<参考資料>

http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20190422000649

http://www.businesskorea.co.kr/news/articleView.html?idxno=31120

https://akipress.com/news:618681:South_Korea_s_Engineering_&_Construction_to_modernize

_oil_refinery_in_Uzbekistan/

4. 中 東

(1) サウジアラビア Saudi Aramcoの事業拡大への取り組み

サウジアラビア国営 Saudi Aramcoは、上流部門から下流部門の全領域で事業の拡

大を図っているが、4月にも多方面への事業展開事例が発表されているので紹介する。

1) Shellとの精製 JV SASREFを 100%子会社化

Saudi Aramcoは、Shellと均等出資精製 JV の SASREFを設立し、東部州のペルシ

ャ湾沿岸都市 Jubailで、輸出型製油所 SASREFを操業している。

Saudi Aramcoは、4月下旬に、Shell Saudi Arabia Refining Limitedが SASREF

に保有する株式 50%を 3,100万 USDで取得し、100%子会社化することを発表した。

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Saudi Aramcoは、2025年までに精製能力を権益分で 800万~1,000万 BPDに引き上

げる目標を掲げているが、SASREFの買収で、15.25万 BPD分の精製能力が追加され、

権益分の国内精製能力は、約 250万 BPDに達することになる。

SASREF製油所の概要を紹介する。

商業生産開始は 1985年 5月で、1988年に 30.5万 BPDに拡張されていた。精製設

備として、常圧蒸留装置(15万 BPD、2基)、水素化分解装置(5.2万 BPD)、リフォー

マー(2.14万 BPD)、ビスブレーカーなどを備え、ナフサ(石油化学、ガソリン)、ケ

ロセン、ディーゼル、重油、LPG、硫黄、Saudi Petrochemical Company(SADAF)向け

のベンゼンなどを生産している。これまでの製品輸出量は、合計 2億トンに達して

いる。

なお、SASREFは製品輸出インフラとして、King Fahad Industrial Portに 2つの

桟橋、貯蔵タンク(130万 m3)、出荷能力 5,000m3/時のローディング設備などを保有し

ている。

<参考資料>

https://www.saudiaramco.com/en/news-media/news/2019/sasref

https://www.sasref.com.sa/about.html

2) ポーランド PKN Orlenと原油の輸出、重油の輸入で合意

Saudi Aramcoは、原油の輸出先確保に力を入れ、アジア、ヨーロッパ、北米市場

を重視しているが、4月中旬にポーランド最大の精製会社 PKN Orlenと、原油の長期

供給で合意した。

Saudi Aramcoの子会社 Saudi Aramco Products Trading Company(Aramco Trading)

は、PKN Orlenにサウジアラビア産原油を供給し、その一方で、Mažeikiai製油所で

生産される高硫黄重油を輸入することに PKN Orlenとの間で合意に達した。

Saudi Aramcoのプレスリリースでは、原油の輸出量は明らかにされていないが、

PKN Orlenは 3月のプレスリリースで、5月から 11月の間に、原油を最大で 6船分

(80万トン)輸入することで、Aramco Tradingと合意したと発表していた。

また、PKN Orlenのリトアニア子会社 ORLEN Lietuvaと Aramco Tradingが、重油

の売買契約を締結したことも発表されている。重油は、Mažeikiai製油所から長期契

約で、最大 16万トン/月輸出される。Saudi Aramcoが原油の見返りとして輸入する

重油は、サウジアラビアで発電用燃料などの需要がある。

PKN ORLENは、2018年 4月にサウジアラビア原油の輸入量を 30万トン/月に増や

すことで Saudi Aramcoと合意していた。サウジアラビア原油の輸入は、原油調達先

の多様化を図る PKN ORLENの方針に沿ったものになる。また、2020年 1月に施行さ

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れる IMO船舶燃料硫黄濃度規制の影響で、高硫黄重油の市場が混乱することが予想

されているが、PKN ORLENは、Aramco Tradingとの契約で、重油の販売先を確保す

ることになる。

<参考資料>

https://www.saudiaramco.com/en/news-media/news/2019/pkn-orlen-mou

https://www.orlen.pl/EN/PressOffice/Pages/ORLEN-strengthens-ties-with-Saudi-Aramco-.as

px

3) 資材の国産化への取り組みを評価

Saudi Aramcoは、サウジアラビアの国家戦略 Saudi Vision 2030の中で

重要施策に位置付けられているプログラム“In-Kingdom Total Value Add

Program:IKTVA”に基づいて、外国からの生産技術の移転、国産化“Made in Saudi

Arabia”を展開している。

Saudi Aramcoの Al-Qahtani副社長は、米国の石油サービス・生産機器メーカーの

National Oilwell Varco(NOV)が、サウジアラビアの工業団地 Dammam 3rd Industrial

Cityに建設した、強化熱可塑性パイプ(Reinforced Thermoplastic Pipe:RTP)製造プ

ラントの開設式に出席し、プラント建設の意義を称えている。

新規プラントは、サウジアラビア初の RTPプラントで、NOVにとっては、2箇所目

のプラントで、NOVのヒューストンのプラントを上回る規模になる。RTPは、石油・

天然ガスの掘削に用いられる資材で、中東湾岸協力会議(Gulf Cooperation

Council:GCC)加盟国や、中東・北アフリカ(MENA)地域の石油・天然ガス開発プロジェ

クトからの需要が期待されている。

RTPの国産化は、Saudi Aramcoの原油開発の効率向上、コストダウンに寄与し、

さらには非在来型天然ガスの開発、石油化学、燃料小売り事業にも用途を拡大でき

るとの見方を示した。また、老朽化が進んでいる原油パイプラインの改修に RTPを

利用することを念頭に、金属製パイプに代わる分野への用途拡大を目指している。

なお、Al-Qahtani氏は、Saudi Aramcoは、“Made in Saudi Arabia”で設定され

ている国産化目標 90%に対し、既に 50%を達成したと述べた。

プラントの完成を伝える NOVのプレスリリースによると、サウジアラビアのプラ

ントでは、スプーラブル・ジョイント エポキシ強化グラスファイバー・パイプ

(spoolable and jointed GRE pipe Glassfiber Reinforced Epoxy)と、GRE高圧パイ

プ、油井パイプなどに自社技術で開発したコンポジット材料Fiberspar™ や STAR™を

生産することになる。

<参考資料>

https://www.saudiaramco.com/en/news-media/speeches/2019/nov-opening-ceremony

Page 23: JPEC 世界製油所関連最新情報 2019年5月号Saudi Aramcoは、ポーランドPKN ORLENに原油を長期的に供給することに合意 した。一方、Aramco Tradingは、ORLEN

23

https://www.nov.com/News_and_Events/News/News_Article_Detail/NOV_opens_landmark_Fiber_

Glass_Systems_manufacturing_facility_in_Saudi_Arabia.aspx

(2) クウェートの Al Zour製油所、LNG、石油化学プロジェクトの状況

クウェートでは、既設 3製油所を 2製油所に整理し、クリーン燃料の生産を目指

す近代化プロジェクト(Clean Fuels Project:CFP)と、Al Zour製油所を新設するプ

ロジェクト(New refinery Project:NRP)が並行して進行している。CFPは、国営

Kuwait Petroleum Corporation(KPC)傘下の精製会社 Kuwait National Petroleum

Company(KNPC)が担当し、NRPは、同じく KPC傘下の Kuwait Integrated Petroleum

Industries Company(KIPIC)が手掛けている(2018年 5月号中東編第 2項、8月号第 2

項など参照)。

4月の中旬に国営通信社 KUNAは、KIPICが Al Zour製油所プロジェクト全体の投

資額が、270億 USDと明らかにしたと報じた。

Al Zourプロジェクトは、製油所、LNGプラント、石化コンプレックスで構成され

ている。それぞれのプラントの能力と、投資額、工事の進捗度は、表 1に示すとお

りである。

表 1. Al Zourプロジェクト

設備能力 投資額 進捗度

製油所 61.5万 BPD 160億 USD 80%

LNGプラント 30億 BTU 30億 USD 66.5%

石化コンプレックス *80億 USD

*総投資額との差額

KUNAの報道に続いて、Al Zour製油所を含む製油所・石油化学プロジェクト

Petrochemical Refinery Integration Project PRIZe)の石化プラントの情報が発表

された。

KIPICは、低圧オレフィン回収プラント(Low-Pressure Recovery:LPR)とオレフィ

ン転換プラント Olefins Conversion Technology(OCT)のライセンス供与、基礎設計

業務、触媒提供業務を McDermottに発注した。

McDermottの OCTプロセスは、エチレンとブテン/ペンテンを原料にメタセシスと

異性化反応で、プロピレンを生産するプロセスで、この方式でプロピレンを生産す

る初の商業化プロセスである。OCTプラントは、Al Zour製油所の副産軽質炭化水素

を原料とする計画で、ポリマーグレードプロピレン生産能力は、33万トン/年と公表

されている。

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24

<参考資料>

https://www.kuna.net.kw/ArticleDetails.aspx?id=2781687&language=en

https://kipic.com.kw/Newsroom/NewsDetails/64

http://www.mcdermott-investors.com/news/press-release-details/2019/McDermott-Awarded-P

etrochemicals-Contract-in-Kuwait/default.aspx

https://www.mcdermott.com/What-We-Do/Technology/Lummus/Petrochemicals/Olefins/Ethylene

-Production/Complementary-Technologies-Ethylene-Production/Olefins-Conversion-OCT

(3) オマーンの Sohar製油所の近代化プロジェクトがスタート

オマーン国営 Oman Oil Company(OOC)と Oil Refineries and Petroleum Industries

(Orpic)が、Sohar(Suhar)製油所の近代化プロジェクトが、AL Rumhi石油・天然ガス

相の下で公式にスタートした。

OOCと Orpicは、Sohar 製油所でオマーン産の重質原油の処理量を増やし、国内外

の需要増に応えることを目指している。プロジェクトでは、常圧蒸留装置、減圧蒸

留装置、ディレードコーカー、水素化分解装置、アスファルトプラントを新たに建

設し、重質原油の処理能力を向上させることを目指している。

<参考資料>

https://orpic.om/news-1-4-19.html

https://orpic.om/news-26-3-19.html

5. アフリカ

(1) エジプト Carbon Holdingsの石化プロジェクトの進捗状況

エジプトの Carbon Holdings が手掛けている大型石油化学プロジェクトに関して

は、本報では 2015 年に報告して以降、新たな情報を報告していなかったが、4 月上

旬に進捗状況が公表されている。

Carbon Holdings は、4月11日~12日にモスクワで開催されるCIS Petrochemicals

conferenceに出席し、“Global Petrochemicals Industry Outlook.”セッションで、

同社傘下の Tahrir Petrochemicals Corporation(TPC)の、石化プロジェクトについ

て講演することを明らかにした。

その中で同社は、TPCの建設プロジェクトが本格化していることを報告し、エジプ

トの石化事業に対するロシア企業の投資拡大を呼びかけることを予定している。

同社がウェブサイトに公開している、TPCプロジェクトの最新の情報を紹介する。

TPCは、ナフサクラッカーを中心とするオレフィンコンプレックスで、単一プロジ

ェクトとしては世界最大級の規模で設計されている。TPCで生産される石油化学基材

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は、エジプト国内と、国際市場に輸出することになる。表に TPC の石化基材、ポリ

マーの生産能力を示す。なお TPCは、原料としてナフサを 400万トン/年、1-ヘキセ

ンを 3.3トン/年輸入する

表 2. TPCコンプレックスの生産能力

製 品 生産能力(千㌧/年)

ナフサ(処理能力) 4,100

エチレン 1,500

HDPE (450)

LLDPE/HDPE(1) 450

LLDPE/HDPE(2) 450

ポリエチレン合計 1,350

プロピレン 925

ポリプロピレン(1) 350

ポリプロピレン(2) 350

ポリプロピレン(3) 225

ポリプロピレン合計 925

ベンゼン 350

ブタジエン 250

軽油 130

HDPE:高密度ポリエチレン、LLDPE:リニア低密度ポリエチレン

<参考資料>

https://www.carbonholdings.com/carbon-holdings-participates-in-cis-petrochemicals-conf

erence/

https://www.carbonholdings.com/our-operations/tpc/

https://www.ebrd.com/news/2017/ebrd-finances-environmental-upgrade-of-egypts-carbon-ho

ldings-company.html

(2) 南アフリカ共和国 Sasolが CTLプラントの原料確保に向けて炭鉱をオープン

南アフリカ共和国の世界規模のエネルギー・化学企業 Sasolが、石炭事業の新たな

取り組みを発表している。Sasolは、世界最大級 CTL(coal to liquid)プラントを操

業する企業で、石油や天然ガス資源の乏しい南アフリカ共和国では、石炭は、燃料

製品や化学品の原料として重要である。

4 月中旬に、Sasol は、東部のムプマランガ州の新たな炭鉱 Impumelelo(バントゥ

ー語で、成功を意味する)を公式にオープンした。Impumelelo の石炭生産能力は、

1,050 万トン/年で、Sasol の Secunda Synfuels プラント(CTL)の原料を、少なくと

も 2050年まで供給することが期待されている。

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Sasolは、新規炭鉱開発プログラムに 10年間で 140億 ZAR(9.8億 USD)を投資する

計画で、Impumelelo には、56 億 ZARを投資してきた。Sasolは、従業員の安全と環

境に対し、最新技術を採用したと説明している。

なお、Sasol の石炭生産は、4,000 万トン/年で、南アフリカ共和国第 3 位につけ

ている。石炭事業は、Sasol の収益の 13%を生みだし、エネルギー事業と化学品事

業を支えている。

<参考資料>

https://www.sasol.com/media-centre/media-releases/sasol-officially-opens-another-coal-

mine-sustaining-jobs

http://www.dmr.gov.za/news-room/post/1789/minister-mantashe-calls-on-mining-companies-

to-invest-in-clean-coal-technology

6.中南米

(1) ブラジルの石油・天然ガス事業の概況

米国エネルギー情報局(EIA)が、ブラジルのエネルギー事情のレビュー(Country

Analysis)を 2017年から 2年ぶりに更新しているので、同国の石油・天然ガス事業の

状況を紹介する。

表 3. ブラジルの石油・天然ガスの基礎データ

項 目 2019年版 2017年版

年 数 量 年 数 量

原油確認埋蔵量 2018.1 126億バレル 2017.1 130億バレル

石油・液体炭化水素生産量 2017 336万 BPD 2016 323万 BPD

原油生産量 2017 260万 BPD 2016 250万 BPD

原油輸出量 2017 99.7万 BPD 2016 79.8万 BPD

石油製品輸入量 2017 61.6万 BPD 2016 48.8万 BPD

液体燃料消費量 2016 298.4万 BPD 2015 308.7BPD

精製能力 2017 210万 BPD 2016 230万 BPD

天然ガス確認埋蔵量 2018.1 13兆 cf 2017.1 15兆 cf

天然ガス生産量 2017 8,460億 cf 2016 8,270億 cf

天然ガス消費量 2017 1.2兆 cf 2016 1.3兆 cf

天然ガス輸入量 2017 3,760億 cf 2016 4,700億 cf

バイオ燃料生産量 2017 56.7万 BPD 2016 56万 BPD

エタノール生産量 2017 49.3万 BPD 2016 49.4万 BPD

発電能力 2017 157GW 2016 150GW

発電量 2017 5,730億 Wh 2016 5,679億 Wh

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石油・天然ガス資源の概要

2018年 1月現在の原油の確認埋蔵量は 126億バレルで、南米では、世界一位のベ

ネズエラに次ぐ第 2位に付けている。ブラジルでは、オペレータに対して、設備の

国内調達率として世界最高レベルの 85%を要求していたが、エネルギー省は、国内

調達率基準を陸上油田に対しては 50%、海洋油田は 18%にまで引き下げ、違反に対

する罰金も軽減することで、開発企業による増産を促している。

2018年 1月時点の天然ガスの埋蔵量は 13兆 cfで、原油と同様にベネズエラ、ペ

ルーに次ぐ、南米第 3位となっている。

石油・天然ガスの需給

2017年の原油類 (原油・バイオ燃料・NGLなど)の生産量は 336万 BPDで、2016年に

比べて増産を達成している。その内、原油・コンデンセートの生産量は 260万 BPD。

2017年のプレソルト層の原油生産量は、2016年に比べて 26%増加し、総生産量の

50%を占めている。

2017年の原油輸出量は過去最高の 99.7万 BPDで、2016年に比べて 25%と大幅に

増加した。輸出先は、中国 42%、米国 17%、インド 9%、チリ 9%、スペインの 6%

順になっている。地域別では、アジア・太平洋地域が 54%、中南米が 19%、北米が

17%(米国のみ)、ヨーロッパが 10%の比率になる。

その一方で、ブラジルは 2017年に、原油輸入量の 51%をサウジアラビアから輸入

している。地域別の輸入先は、中東が 55%で、40%をアフリカから輸入している。

また、2017年の石油製品の輸入量は、61.6万 BPDで、2016年に比べて 26%増加し

た。最大の輸入先は米国で、輸入量は、約 50%の 31.4万 BPDに達している。

2017年の天然ガス生産量は、8,460億 cfで、プレソルト層の生産量は 2016年比

で 26%増加した。消費量は1兆 2,000億 cfで、その約 50%は工業部門が占めてい

る。

天然ガス輸入量は、3,760億 cfで、2016年の 4,700億 cfに比べると減少した。

輸入量の 83%は、ボリビアからパイプラインで輸入し、残りをナイジェリア、アン

ゴラから LNGで輸入している。

バイオ燃料

ブラジルは米国に次いで世界第 2 位のバイオエタノールの生産国で、2017 年の生

産量は 49.3万 BPDで、2016年の 49.4万 BPDから僅かに減産した。バイオ燃料全体

の生産量は、56.7万 BPDで前年並み。

2017 年のエタノール輸出量は、2.5 万 BPD で、米国が 1.7 万 BPD を輸入した。エ

タノール輸入量は 3.1万 BPDで、ほぼ全量を米国から輸入したが、2017年には少量

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を南アフリカ共和国からも輸入した。

バイオディーゼルの 2017年の生産量は、2016年に比べて 13%増の 7.4万 BPDで、

その 3/4は、大豆から生産された。

石油精製部門

ブラジルには、17の製油所が存在するが、主要製油所は Petrobrasの 12製油所(合

計 213.8万 BPD)で、大半が大西洋沿岸地域に建設されている。最新の製油所は、2014

年に稼働した Abreu e Lima(RNEST)製油所で、フェーズⅡの 11.5万 BPD分は、計画

では 2020年までに完成する(2015年 3月号中南米編第 1項参照)。

表 4. ブラジルの主要製油所一覧

(全て Petrobras)

製油所名 州 精製能力(万 BPD)

Paulínia (REPLAN) サンパウロ州 41.5

Mataripe (RLAM) バイーア州 31.5

São Jose dos Campos (REVAP) サンパウロ州 25.2

Duque de Caxias (REDUC) リオデジャネイロ州 23.9

Araucária (REPAR) パラナ州 20.8

Canoas (REFAP) リオグランデ・ド・スル州 20.1

Cubatão (RPBC) サンパウロ州 17.0

Betim (REGAP) ミナスジェライス州 15.7

Abreu e Lima (RNEST) ペルナンブーコ州 7.4

Capuava (RECAP) サンパウロ州 5.3

Manaus (REMAN) アマゾナス州 4.6

Fortaleza (LUBNOR) セアラー州 0.8

合計 213.8

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図 5. Petrobrasの製油所のロケーション

ブラジルは産油国でありながら、石油燃料製品を自足できないことから製油所の

新設や拡張・近代化プロジェクトが必要である。しかしながら、資金難に陥った

Petrobrasは、2015年の初めに Premium I製油所(60万 BPD)、 Premium Ⅱ製油所(30

万 BPD)プロジェクトをキャンセルしていた(2013年中南米編 11月号第 1項参照)。

2年後の 2017年に、Petrobrasは、Comperj製油所・石油化学コンプレックスプロ

ジェクトの再検討を認め、2018年 7月には、Petrobrasは、中国国有 CNPCが Comperj

製油所と Campos海盆の Marlim 油田クラスター(Marlim、Marlim Sul、Marlim Leste

油田)の開発に参加することを発表していた(2018年 11月号中南米編第 1項参照)。

<参考資料>

https://www.eia.gov/beta/international/analysis_includes/countries_long/Brazil/Brazil_

2019.pdf

https://www.eia.gov/beta/international/analysis_includes/countries_long/Brazil/Brazil_

2019.pdf

https://www.eia.gov/beta/international/analysis.php?iso=BRA

http://www.anp.gov.br/imprensa/dados-estatisticos

(2) メキシコ、米国間のエネルギー貿易の現況

メキシコで、原油・天然ガスの生産量が低迷する一方、米国では、原油の生産量が急

増し、製油所の稼働率も上昇している。その結果、メキシコから米国への原油輸出

Refap

Repar

SIX

Premium I

Refinaria Lubrificantes e

Derivados do Nordeste

Premium II

Abreu e Lima

Reduc

Rio de Janeiro Petchem Complex

Reman

Recap Replan

Potiguar Clara

Camarão

RevapRPBC

ブラジル

ボリビア

パラグアイ

チリ

ペルー

コロンビア

ベネズエラガイアナ

仏領ギアナ

アルゼンチン

スリナム

ウルグアイ Ipiranga リオグランデ・ド・スル

Manguinhos リオデジャネイロ

Rio De Janeiro リオデジャネイロ

既設製油所

新設プロジェクト

Petrobras製油所

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量が低水準に止まり、米国からメキシコに向けた石油製品の輸出量が、高水準で推

移していることを、1年前に紹介していた(2018年 4月号中南米編第 1項参照)。

ここでは、米国エネルギー情報局(EIA)が、ショートレポート(Today in Energy)

で発表した2018年のメキシコと米国間の石油・天然ガスの輸出入の状況を紹介する。

図 6. メキシコから米国への原油輸出量の推移

(EIAのデータベースから作成)

図 7. 米国からメキシコへの石油製品輸出量の推移

(EIAのデータベースから作成)

米国からメキシコへのエネルギーの輸出額は、メキシコへの総輸出額の 12%を占

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

千BPD

0

200

400

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1000

1200

1400

1600

千BPD

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め、メキシコからのエネルギーの輸入額は総輸入額の 5%を占めた。

2014年頃までは、メキシコから米国への原油輸出が、両国間のエネルギー貿易で

最大であった。しかしながら、2015年以降、メキシコの原油輸出量の減少が続き、

メキシコの米国から石油製品・天然ガスなどのエネルギーの輸入量が、メキシコから

の原油輸出量を上回った状態が続いている。

2018年の米国のメキシコからの原油輸入量は 66.5万 BPDで、輸入量に占める割合

は、カナダ、サウジアラビアに次ぐ 9%を占めた。輸入額は、2017年の 100億 USD

に対して、2018年は 140億 USDに増えた。

表 5. 2017-2018年のメキシコ-米国間の原油・石油製品・天然ガス貿易

2017 2018

メキシコから米国への原油輸出量 60.8万 BPD 66.5万 BPD

メキシコから米国への原油輸出額 100億 USD 140億 USD

メキシコの米国からの石油製品輸入量 100万 BPD 120万 BPD

メキシコの米国からの石油製品輸入額 300億 USD 305億 USD

金額ベースでは、メキシコの米国からの石油製品輸入額は、2008年の 104億 USD

に対し、2018年は 305億 USDに上り、この間に 3倍に増えている。その一方で、メ

キシコから米国へのエネルギーの輸出額は、158億USDと過去最低水準にとどまった。

<参考資料>

https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=39172#

https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=35332

(3) ベネズエラの原油生産の現状

ベネズエラでは Maduro政権の経済政策の破綻に加えて、米国政府による経済制裁

の影響で、国内経済が混乱している。その結果、最大の経済資源である原油の生産

事業が危機的状況に陥っていると見られている。

本報では、ベネズエラの原油生産量のデータを、米国エネルギー情報局(EIA)と

OPECの資料をもとに紹介する。

EIAは、2019年 4月 24日に公表した、週報“This Week in Petroleum”で、ベネ

ズエラの原油生産量を分析している。ベネズエラの 3月の原油生産量は、2月の 110

万 BPDからさらに減少し、84万 BPDに止まった。最近の減産状況は、ゼネラルスト

ライキが起きた 2003年 1月以来の低水準になる(図 8、表 6参照)。

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図 8. ベネズエラの原油生産量の推移

(EIAのデータベースより)

表 6. ベネズエラの原油生産量の推移

(OPECの Monthly oil Market Reportより)

万 BPD

2017 2018 2018 2019

2Q 3Q 4Q 12月 1月 2月

2次情報源 191.1 135.4 140.6 127.2 191.1 117.2 115.0 100.8

ベネズエラ報告 203.5 151.6 152.3 145.1 146.9 151.1 148.8 143.2

ベネズエラでは、エネルギー政策の失敗で、国営 PDVSAの開発投資資金不足で、

原油生産量は、2015-6年以降も減産傾向が続いている。2018年には、月間 3.3万 BPD

のペースで減産し、2019年の第 1四半期は、月間の減産幅は 13.5万 BPDまで拡大し

た。EIAは最近の急激な減産には、停電や米国の経済制裁が大きく影響したと分析し

ている。

4月 28日に予定されている「米国の金融機関と PDVSAとの決済禁止令」で、ベネ

ズエラへの原油代の支払いが難しくなり、米国以外の地域への輸出が困難になる。

さらに、7月 27日に予定されている「米国企業によるベネズエラ国内の事業活動の

禁止令」の発動で、実際の生産活動が制約され、減産は加速すると見ている。また、

2019年 1月 25日に発動した「米国からベネズエラへの石油製品の禁輸令」で、ベネ

ズエラが重質原油の希釈に使用している軽質石油の入手が難しくなっており、これ

も生産活動に大きなダメージを与える効果がある。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

Jan-01

May-01

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千BPD

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さらに、3月上旬に発生した停電の影響で、原油生産インフラが損傷した模様であ

る。Orinoco Oil Belt地帯では、超重質原油を処理するためのアップグレーダーが

停止し、送液ポンプが停止したことで、輸出ターミナルへのパイプライン輸送も止

まった。発電所への燃料の供給も止まることから、発電にも支障をきたすという、

悪循環になっている。

原油市場では、ベネズエラの重質原油の減産で、軽質原油と重質原油の値差が縮

小している。メキシコ湾産の重質な Mars原油と軽質 Light Louisiana Sweetとの値

差は、2014~2018年間は平均 3.94USD/バレルあったが、2019年 3月の月間平均は

0.62USD/バレルに、3月 27日には、同価格にまで縮小した。

また、今後の原油生産量を予測する指標になる掘削リグ数は、2016年の第 1四半

期には 70基であったものが、2019年第 1四半期は 24基まで落ち込んでいることか

ら、減産からの回復は、容易ではないことが分かる。

米国はベネズエラ原油の大口輸入国であったが、2018年の輸入量は1989年以降で、

最低水準にとどまった。輸入量減少の影響は小さいものの、ベネズエラ原油は低コ

ストで調達できることから、間接的ではあるが、米国が輸入する原油の平均価格を

押し上げる要因になると EIAは分析している。

<参考資料>

https://www.eia.gov/petroleum/weekly/archive/2019/190424/includes/analysis_print.php

7. 東南アジア

(1) インドの 2018~2019年度の石油・天然ガス事業の実績

インド石油・天然ガス省の石油計画・分析分科会(PPAC)の最新のデータをもとに、

2018~2019年度(4/3月制)のインドの石油事業の概要を紹介する。

1) 石油・天然ガスの需給

表 7に 2018-2019年度(2018年 4月から 2019年 3月)の石油・天然ガスの需給デー

タを示す。2018-2019年度は、2017-2018年度に比べて原油は減産したが、原油輸入

量、原油処理量、石油製品の生産量は増加した。

インドでは、油田の枯渇が進み、原油の減産が続き、輸入量の増加が続いている。

2018~2019年度の原油輸入量は、2017~2018年度に比べて 2.8%増加した。その結

果、原油の輸入依存度は、2017~2018年度の 82.9%から 2018~2019年度は 83.7%

に増加している。

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表 7.インドの石油・天然ガスの需給

(PPACのデータより)

単位 2018.3 2019.3 2017.4

2018.3

2018.4

2019.3

原油生産量 百万㌧ 3.0 2.9 35.7 34.2

石油製品消費量 百万㌧ 18.6 18.9 206.2 211.6

石油製品生産量 百万㌧ 18.6 18.9 206.2 211.6

原油輸入量 百万㌧ 18.4 19.3 220.4 226.6

石油製品輸入量 百万㌧ 2.9 3.0 35.5 32.5

石油製品輸出量 百万㌧ 5.3 5.5 66.8 66.8

天然ガス生産量 百万 m3 2,783 2,816 32,648 32,874

天然ガス消費量 百万 m3 5,280 4,945 58,059 59,071

LNG輸入量 百万 m3 2,578 2,206 26,328 27,015

天然ガスは、僅かに増産しているものの、消費量の増加に追い付くことができず、

LNG輸入量が増加している。天然ガスの自給率は、2017~2018年度の 56.2%に対し

2018~2019年度は55.7%で、原油の場合ほどではないが輸入依存度が上昇している。

インドは、国外の石油・天然ガス資源開発に力を入れている。石油・天然ガスの国

外生産量は、2017~2018年が 2,180万トン(原油換算)、2018年 4~9月は 2,480万

トン(原油換算)で、総生産量に占める国外生産量の比率は、31.9%から 37.0%に増

加した。

<参考資料>

https://www.ppac.gov.in/WriteReadData/Reports/201905020429288786567SnapshotofIndiasOil

andGasData_March2019.pdf

2) 石油精製事業

インドの製油所の精製能力と、原油処理量を表 8にまとめる。2018-2019年度の全

インドの製油所の原油処理量は、2億 5,720万トンで、2017-2018年度の 2億 5,190

万トンに比べて 2.1%増加した。設計処理能力に対する稼働率は、インド全体では

103%を記録した。

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表 8. インドの製油所の精製能力と 2019年 4月-2019年 3月の原油処理量

(PPACのデータより)

会社 製油所 稼働

精製能力 処理量(百万トン)

万㌧/年 万BPD 2018.3 2019.3 2017.4

2018.3

2018.4

2019.3

国営精製会社

IOC Barauni 1964 600 12.0 0.6 0.6 5.8 6.7

Koyali 1965 1,370 27.4 1.3 1.0 13.8 13.5

Haldia 1975 750 15.0 0.7 0.7 7.7 8.0

Mathura 1982 800 16.0 0.9 0.9 9.2 9.7

Panipat 1998 1,500 30.0 1.4 0.7 15.7 15.3

Guwahati 1962 100 2.0 0.09 0.08 1.0 0.9

Digboi 1901 65 1.3 0.06 0.06 0.7 0.7

Bongaigaon 1979 235 4.7 0.2 0.2 2.4 2.5

Paradip 2016 1,500 30.0 0.4 1.4 12.7 14.6

IOC 6,920 138.4 5.6 5.7 69.0 71.8

CPCL Manali 1969 1,050 21.0 0.9 0.9 10.3 10.3

CBR 1993 100 2.0 0.05 0.06 0.5 0.4

CPCL 1,150 23.0 1.0 1.0 10.8 10.7

BPCL Mumbai 1955 1,200 24.0 1.3 1.4 14.1 14.8

Kochi 1966 1,550 31.0 1.4 1.4 14.1 16.1

BORL Bina 2011 780 15.6 0.6 0.7 6.7 5.7

NRL Numaligarh 1999 300 6.0 0.2 0.2 2.8 2.9

BPCL 3,830 76.6 3.5 3.7 37.7 39.4

ONGC Tatipaka 2001 6.6 0.1 0.006 0.008 0.08 0.07

MRPL Mangalore 1996 1,500 30.0 1.5 1.4 16.1 16.2

ONGC 1,510 30.2 1.5 1.4 16.2 16.3

民営製油所

HPCL Mumbai 1954 750 15.0 0.7 0.8 8.6 8.7

Visakh 1957 830 16.6 0.9 0.9 9.6 9.8

HMEL Bathinda 2012 1,130 22.6 1.0 1.1 8.8 12.5

HPCL 2,710 54.2 2.6 2.7 27.1 30.9

国営 16,120 322.4 14.1 14.6 160.7 169.1

RIL Jamnagar(DTA) 1999 3,300 66.0 2.8 2.8 33.2 31.8

Jamnagar(SEZ) 2008 3,520 70.4 2.4 3.3 37.3 37.4

RIL 6,820 136.4

NEL*2 Vadinar 2006 2,000 40.0 1.8 1.8 20.7 18.9

民営 8,820 176.4

全インド 24,940 498.8 21.1 22.5 251.9 257.2

*1 2019.3は暫定値、*2 Nayara Energy Limited(旧 Essar Oil)

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主要石油製品の生産量、消費量を表 9に示す。

表 9. インドの主要石油製品の生産量と消費量

単位:百万トン

2017.4~2018.3 2018.4~2019.3

生産量 消費量 生産量 消費量

主要製品

LPG 12.4 23.3 12.8 24.9

ガソリン 37.8 26.2 38.0 28.3

ナフサ 20.0 12.9 19.6 14.1

ジェット燃料 14.7 7.6 15.5 8.3

ディーゼル 108.1 81.1 110.6 83.5

重油 10.3 6.7 10.0 6.5

ビチューメン 5.3 6.1 5.6 6.6

石油コークス 13.9 25.7 13.7 20.5

潤滑油 1.0 3.9 0.9 3.9

総生産量 254.3 206.2 262.4 211.6

インドでは、ガソリン、ナフサ、ジェット燃料、ディーゼル、重油の生産量は、

消費量を上回っているが、LPG、ビチューメン、石油コークス、潤滑油は、消費量が

生産量を上回っている。2017~2018年度に比べて、総生産量は 3.2%、総消費量は、

2.7%増加した。その中で、石油コークスは、生産量が 1.4%減少し、消費量は 20.2%

と大幅に減少した。これには、インドで石油コークスの燃焼による大気汚染の問題

が、顕在化したことが影響していると見ることが出来る。

PPACは、製油所毎の精製マージン(Gross Refining Margin:GRM)も公表している。

表 10に示すように、2018-2019年度の国営精製会社の精製マージンは、HPCLを除い

て、2017-2018年度に比べて低下している。国営最大の Indian Oil Corporation(IOC)

の 2018年 4-12月の精製マージンは、5.83USD/バレルで、2017~2018年度の 8.49USD/

バレルに比べて、▲2.66USD/バレル、31%減少した。

表 10. インドの精製会社の精製マージン USD/バレル

会社 2015-16 2016-17 2017-18 2018-19(9ヶ月間)

IOC 5.06 7.77 8.49 5.83

CPCL 5.27 6.05 6.42 3.92

BPCL 6.59 5.26 6.85 5.25

HPCL 6.68 6.20 7.40 5.17

MRPL 5.20 7.75 7.54 3.72

BORL 11.70 11.80 11.70 10.10

RIL 10.80 11.00 11.60 9.50

NEL 10.81 9.14 8.95 NA

北東部の Guwahati、Digboi、Bongaigaon製油所(IOC)、Numaligarh製油所(NRL)を除く

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その一方で、民間の Reliance Industries Ltd.(RIL)の 2018-2019年度の精製マー

ジンは、2017~2018年度の 11.60USD/バレルに比べると、▲2.10USD/バレル、18%

減少し、9.5USD/バレルとなった。10USD/バレルを割ったものの、国営石油会社に比

べて高い。

また、産油国オマーンと国営 BPCLの JV 企業 Bharat Oman Refineries Limited

(BORL)の 2018~2019年度の精製マージンは、10.10USD/バレルで、2017~2018年度

の 11.70USD/バレルに比べると減少したが 2桁台を維持し、インドの精製会社の中で

最高である。

<参考資料>

https://www.ppac.gov.in/WriteReadData/Reports/201905020429288786567SnapshotofIndiasOil

andGasData_March2019.pdf

https://www.ppac.gov.in/WriteReadData/Reports/201905060530014580799IndustryPerformance

ReviewReportMarch2019.pdf

(2) ベトナム Dung Quat製油所の操業状況

ベトナムでは、最新で最大の Nghi Son製油所の稼働が注目されているが、同国で

1ヶ所目の Dung Quat製油所の操業情報が、精製会社 Binh Son Refining and

Petrochemical Joint Stock Company (BSR)のウェブサイトに公表されているので紹

介する。

Dung Quat製油所は、2018年に設計能力の 108%の稼働率で稼働し、石油製品を

700万トン生産した。収益は 112兆 VNDで、税引き前利益は、3.8兆 VNDを記録した、

前期の 2018年第 4四半期は、Brent原油価格が 10月 4日の 86.16USD/バレルから

12月 28日には 50.21USD/バレルまで低下した。その後、2019年 2月まで原油価格は

上昇下降を繰り返したが、2019年 2月以降は、落ち着いてきている。BSRは、製品

生産パターンの最適化、増販、コスト削減に取り組み、市況の変動の影響を最小限

に抑えることに努めた。

BSRは、2019年第 1四半期に Dung Quat製油所を設計能力の 107%で稼働させるこ

とができ、石油製品を 170万トン生産した。収益は、23兆 VNDで、税引き後利益と

して 6,060億 VNDを確保した。

プレスリリースでは、BSRは、Dung Quat製油所の収益改善の取り組みを説明して

いる。Dung Quat製油所では、アゼルバイジャン産の原油を戦略的に輸入しているが、

輸入関税が 5%課せられている。BSRは、精製マージンを拡大する目的で、アゼルバ

イジャン産原油の関税を免除するように関係省庁に働きかけている。

また、為替変動の影響、FTA協定国からの輸入製品、新設 Nghi Son製油所との競

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合などの厳しい事業環境の下で、BSRの取締役会は、Dung Quat製油所の製品構成を

市場ニーズに合わせながら、設計能力の 106~108%で稼働することを計画している。

収益改善に向けて、運転コストの削減、新規技術の導入、増販、在庫量の最適化な

どに引き続いて取り組む方針を発表した。

<参考資料>

https://bsr.com.vn/vi/loc-dau-dung-quat-tao-da-tang-truong-trong-nam-2019.htm

http://ven.vn/dung-quat-refinery-earns-26-mln-usd-in-q1s-post-tax-profit-38796.html

(3) インドのバイオエタノール供給状況

インド政府は、エネルギー自給率の低下を受けた原油輸入量削減策の一つに、国

産バイオ燃料の供給量を増やす方針を掲げている。

政府は 2018年に公表した“National Policy on Biofuels 2018”で、2030年まで

に、ガソリンはエタノール配合率 20%(E20)、ディーゼルはバイオディーゼル配合率

5%(B5)までバイオ燃料の割合を増やすという目標を定めている。米国農務省の国別

バイオ燃料レビュー(Biofuels Annual)によると、2018年のガソリンに対するエタノ

ール配合率は、過去最高の 3.2%を記録したが、目標には届いていない。インドは、

これまでもエタノール配合率の目標を達成できていない。

4月初めに、インド製糖業者協会(Indian Sugar Mills Association:ISMA)が、イ

ンドのバイオエタノール方針と現状をレポートしている。

“National Policy on Biofuels 2018”では、ガソリンへのバイオエタノール配

合率目標を 2022年までに 10%、2030年までに 20%と置いている。また、糖蜜以外

に、サトウキビ汁、廃棄農作物、トウモロコシ、余剰食料品を原料に認めている。

インド全土(ジャンムー・カシミール州、ノースイースト・インディア地域、諸島部

を除く)のガソリンにエタノールを 10%配合するために必要なエタノール量は、330

万 KLであるが、2017-18年エタノール供給年度(12月~11月)には、契約量 160万

KLに対して、150万 KLを供給した。その結果、エタノールの平均配合率は、4.22%

を記録した。

2018-2019年度の契約量は 237万 KLで、全量が供給できた場合、ガソリン中のエ

タノール配合率は 7.2%に達することになる。2018年 12月から 4ヶ月間のエタノー

ル供給量は 75万 KLで、10州でガソリン配合率が 8%を上回った。

ISMAは、エタノール供給量の増加には、製糖業界によるエタノールプラントへの

投資が寄与していると評価している。さらに、投資計画を勘案すると、2~3年内に

エタノール生産量は、600~700万 KL/年に到達し、ガソリンへの配合率は 15%にな

ると試算している。

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<参考資料>

http://www.indiansugar.com/EventDetails.aspx?Nid=5244

https://gain.fas.usda.gov/Recent%20GAIN%20Publications/Biofuels%20Annual_New%20Delhi_I

ndia_7-10-2018.pdf

8. 東アジア

(1) 中国の製油所の設備新設情報

1) Shenghong Refining & Chemicalが、Axensの残渣油水素化分解技術を導入

中国の独立系石油会社 Shenghong Refining & Chemical(Lianyungang)Co., Ltd(盛

虹石化集团有限公司)は、残渣油水素化プラントに Axensの H-Oil®プロセスを採用す

る。

Shenghong Refining & Chemicalは、江蘇省連雲港市(Lianyungang、Jiangsu

Province)の製油所・石油化学コンプレックスで、H-Oil®プラント(320万トン/年)

と、同じく Axensの HyKTM軽油水素化分解プラント(345万トン/年)を組み合わせて操

業する。

H-Oil®プラントには、減圧残渣油以外に、スチームクラッカー分解油と Maxi

naphtha Distillate HyK™プラントでは処理しきれない、コーカー重質油をフィード

することで、ナフサ生産能力を 360万トン/年増強することを目指している。

<参考資料>

https://www.axens.net/news-and-events/news/475/axens-awarded-complete-residue-hydrocra

cking-solution-towards-naphtha-production-for-shenghong.html#.XMJvwuR7mUk

2) Sinochem Hongrunが、Honeywell UOPのアルキレーションプロセスを導入

山東省濰坊市(Weifang、Shandong Province)にある中国国有 Sinochem Groupの子

会社の Sinochem Hongrun Petrochemical Co., Ltd.は、クリーンでオクタン価の高

いガソリン基材を生産する目的で Honeywell UOPのアルキレーションプロセスを採

用する。

Sinochem Hongrun Petrochemicalはアルキレーションプロセスに、Honeywell UOP

が開発したイオン液体(ionic liquids)を使用するISOALKY™プロセスを採用する。

ISOALKY™は、Honeywell UOPが Chevron U.S.A. Inc.と 共同開発したプロセスで、

触媒に、一般的な触媒の硫酸、フッ化水素触媒の代替で、強酸性イオン液体を使用

する。

ISOALKY™プロセスは、原料油選択の幅が広く、触媒量を減らすことができ、反応温

度も 100℃以下で運転可能である。

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ISOALKY™は、Chevronの Salt Lake City製油所の実証設備で、5年間の実績があ

り、同製油所のアルキレーションプラントでは、フッ化水素からの転換を進めてい

る。

<参考資料>

https://www.honeywell.com/newsroom/pressreleases/2019/04/sinochem-hongrun-petrochemica

ls-to-produce-cleaner-burning-fuels-with-honeywells-groundbreaking-alkylation-technolo

gy

(2) 中国の石化プラントの設備新設情報

1) Sasolの高級アルコールプラントが順調に稼働

南アフリカ共和国の総合エネルギー・化学会社 Sasolは、2017年の夏に着工した中

国江蘇省南京市(Nanjing, Jiangsu Province)の新設アルコキシレーションが完成し、

順調に稼働していることを 4月下旬に発表している。

プラントの生産能力は、15万トン/年で、直鎖/分岐型高級アルコールを生産する

ことが出来る。製品の高級アルコールは、洗剤、繊維処理ケミカル、金属、潤滑油

などのスペシャリティーケミカルなど多様な分野に利用されることから、Sasolは、

Nanjing Chemical Industrial Park (NCIP)に、R&D、技術サポート拠点を設立した。

<参考資料>

https://www.sasol.com/media-centre/media-releases/sasol-reaches-beneficial-operation-n

ew-alkoxylation-production-facility

2) HQCが LyondellBasellのポリエチレン生産プロセスを導入

中国国有 PetroChinaは、100%子会社 China HuanQiu Contracting & Engineering

Co., Ltd.(HQC)に建設する高密度ポリエチレン(HDPE)プラントに LyondellBasellの

プロセスを採用することを決定した。プラントは中国国内 3ヶ所に建設する計画で、

建設地と生産能力は、表 11に示すとおりである。

表 11. HDPEプラントの建設地と生産能力

建設地 省 HDPE 生産能力

コルラ市(Korla City) 新疆ウイグル自治区 30万トン/年

掲陽市(Jieyang City) 広東省 40万トン/年

楡林市(Yulin City) 陝西省 40万トン/年

合計 110万トン/年

LyondellBasellは、HQCに Hostalen ACPプロセスを提供することになるが、

LyondellBasellの HDPEプロセスのライセンス実績は、世界中で、770万トン/年に

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41

達している。

<参考資料>

https://www.lyondellbasell.com/en/news-events/products--technology-news/lyondellbasell

-grants-1100kta-hostalen-acp-licensed-capacity-to-petrochina/

(3) Sinopecの Jinling 製油所が軽質船舶燃料を本格生産

中国国有 Sinopec Corpは、江蘇省金陵(Jinling、Jiangsu Province)にある Jinling

Petrochemical(金陵石化)から、同社として初めて軽質船舶燃料を出荷したと発表し

た。

Sinopec Corpのプレスリリースでは、「軽質船舶燃料」としているが、2020年発

効の IMOの船舶燃料硫黄濃度規制に準拠した燃料と見られる。

3月 31日に石油タンカー“国扬(Guoyang)67”に、軽質船舶燃料 4,200トンを積み

込み、タンカーが出航したと発表している。Sinopec Corpによると、この軽質船舶

燃料は、船舶用ディーゼルエンジンやボイラー向け燃料で、内陸河川や沿岸地域の

高速船で使用するとされることから、燃料の規格は排出規制区域(ECA)向けの硫黄濃

度 0.1%規格燃料と推定される。今後は、ディーゼルを代替することになる。

中国の国内市場では「軽質船舶燃料」の供給量の 90%を輸入していたことから、

Jinling Petrochemicalで生産、販売されることは、市場ニーズにかなったもので、

同社の軽油系燃料の市場拡大に寄与することが期待されている。

<参考資料>

http://www.sinopecgroup.com/group/xwzx/gsyw/20190409/news_20190409_340980632669.shtml

(4) CNOOCが洋上風力発電事業に再参入

中国国有 CNOOCは、2014年に再生可能エネルギー事業部門を閉め、洋上風力発電

事業から撤退していたが、4月初めに発表された 2018年の年次報告で、洋上風力発

電をはじめとする再生可能エネルギー事業に注力する方針を明らかにしている。

CNOOCの Yang Hua会長は、「CNOOC Limitedは、低炭素戦略を追求していく方針で、

天然ガス事業と洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーに注力する」と表

明している。

年次報告の東シナ海の開発状況を伝えるセクションで、2019年 1月に中国東部沿

岸の江蘇省の海洋風力発電事業に進出することに合意したことを明らかにしている

(詳細は不詳)。

<参考資料>

http://www.cnoocltd.com/attach/0/91ce9f2285834a7fa5d7e070a01640ec.pdf

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9. オセアニア

(1) ニュージーランド政府が GHG排出量に関するレポートを公表

1) GHGレポートの概要

ニュージーランド政府は、GHG排出量を削減する方策を検討した報告書“Farms,

forests and fossil fuels: The next great landscape transformation”を公表し

た。報告書は、気候変動対策の目標と政策を論じたもので、複数のアプローチを評

価している。

報告書では、「気候変動や環境汚染の原因物質と影響度、長期的な濃度変化」、「ニ

ュージーランドの国土、自然環境の変化」、「農業、畜産業」などを分析し、「排出量

削減目標」、「環境政策」などを提言している。

報告書では、次の現状認識を提示している。

ニュージーランド政府は、21世紀の半ばまでに、化石燃料燃焼由来の CO2排出を

無くすと同時に、農業(畜産業を含む)活動に伴うメタンと亜酸化窒素(N2O)の排

出量を削減することが必要と見ている。

現在、ニュージーランドでは、森林による CO2吸収が大きいこと(に依存してい

る)ことから、GHG排出対策が遅れている。しかしながら、「森林」自体が、気候

変動の影響に晒されている。

化石燃料由来の CO2排出量抑制対策とは独立して、GHGの生物学的な排出や吸収

を取り扱うことが重要である。農業や林業では、GHG問題を水、土壌、生物多様

性と同時に扱うことが必要になる。

これまで、ニュージーランドは経済発展の中で自然景観を保ってきたが、GHG対

策は、新たなチャレンジとなる。

このような前提の下で、報告書は、21世紀後半に向けたニュージーランド独自の

GHG対策を提言している。

2) ニュージーランドの GHG事情

報告書では、他の先進国とは異なるニュージーランドの GHG問題の特徴について

分析しているので、その要点を紹介する。

ヨーロッパからの入殖後、森林の伐採と農業(畜産を含む)発展したことが、ニュ

ージーランドの GHG排出の一番の要因である。最大の GHG排出源は、森林伐採によ

る CO2吸収量の減少(GHG排出量増加と同義)で、畜産からのメタンの排出と化石燃料

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燃焼による CO2排出が 2番目で、畜産・肥料由来の亜酸化窒素(N2O)の影響が最も少な

い。

土壌と植物は、大量の炭素を保持しているが、気候変動の影響で放出に転じる可

能性がある。

① 森林伐採と CO2排出量

森林伐採で増加した炭素排出相当量は 34億トンで、土壌改良効果の 1億トンの排

出量削減効果を差し引くと、土地利用変化による排出量は、33億トンになる。また、

土壌中の炭素量は 45億トンに上っている。原始林は 18億トンの炭素を保持してい

るが、その内の古木が保持している炭素量 17億トンはカーボンニュートラルと見な

される。

② 畜産など農業部門からの GHG排出

多くの国では、メタンの排出源は石油・天然ガス掘削で、OECD諸国では、エネルギ

ー・廃棄物由来のメタンが大半であるが、ニュージーランドでは、事情が異なってい

る。

2016年のニュージーランドのメタンの総排出量は 1990年に比べて 4%増加した。

メタン排出源の 86%は農業で OECD加盟国のなかで最大、都市ごみなどの廃棄物は

11%、石油・天然ガス施設などから排出される工業は、3%に過ぎない。また、一人

当たりのメタン排出量は、OECD諸国の平均値を大きく上回っている。

農業からの生物的メタン排出量のほとんどは反芻動物の消化管内発酵によるもの

で、その 1/2は乳牛、1/3が羊、1/5が乳牛以外の牛となっている。

③ GHG排出に対する見解

報告書は、化石燃料の燃焼で排出されたCO2の温暖化効果は、長期間にわたって持続

するが、森林や土壌が吸収した CO2は、森林火災などによって、容易に放出されることな

ど理由から、化石燃料燃焼に伴って放出され、森林が吸収するCO2を等価で評価すること

に疑問を呈している。

また、CO2、メタン、N2Oは、換算係数で評価されているが、それぞれの分解時間の違い

など注目すべきであるとの見方を示している。

④ GHG排出量削減対策の基本方針

報告書は、CO2、メタン、窒素酸化物ごとに排出量削減目標を設定することで、気

温や影響度を明確に予測することが可能になるが、3つの削減策を設定ことは容易で

ないと見ている。しかしながら、メタンと窒素酸化物の排出源や挙動は似たところ

があるので、同類で扱い易く、化石燃料由来の CO2と生物由来のメタン・N2O の 2つ

に分けて取り扱うことができると見ている。

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生物由来の GHGであるメタンは、地球温暖化係数は高いが、分解速度が速く、且

つ大気中の絶対濃度が CO2に比べて低いことから、排出量は、削減すべきであるもの

の、ゼロにする必要性は相対的に少ないとの考え方を示している。

報告書では、ニュージーランドがとるべき GHG排出対策を見直すことを提言して

いる。① 全部門、全種類の GHG排出量をゼロとするという現在の目標案に対して、

② 化石燃料燃焼による排出量をゼロ、 生物からの GHG排出に対して排出量の削減

目標を設定するという目標設定の考え方を提示している。なお、森林による CO2吸

収効果は、化石燃料の GHG排出量のオフセットで利用しないとする立場をとってい

る。

表 13. GHG排出量削減目標の複数の案

排出源 2075年目標

現行政策 全部門、全ての GHG 純排出量ゼロ

代替案

化石燃料燃焼部門、化石燃料由来の GHG 純排出量ゼロ

国土利用(農業等)、生物学的 GHG 純排出量 -20%

総排出量ゼロ

<参考資料>

https://www.pce.parliament.nz/publications/farms-forests-and-fossil-fuels-the-next-great-landsca

pe-transformation

https://www.pce.parliament.nz/media/196523/report-farms-forests-and-fossil-fuels.pdf

https://www.mpi.govt.nz/funding-and-programmes/forestry/emissions-trading-scheme/

(2) ニュージーランドの大手企業による低炭素化への取り組み

ニュージーランドの石油流通販売会社 Z Energyは、Air New Zealand、Contact

Energy、Genesis Energyと、炭素排出量削減目的で、有限責任事業組合組織の Dryland

Carbon LLP(Drylandcarbon)の設立を発表した。参加 4企業は、表 12に示すように

ニュージーランドの基幹産業の大手企業である。

表 12. Drylandcarbonの出資企業

企業名 事業分野

Air New Zealand ニュージーランドのフラッグキャリア

Contact Energy Limited 発電、電力小売り、天然ガス卸売り、小売り

Genesis Energy Limited

Z Energy 石油製品流通、小売業

Drylandcarbonは、農業に適さない限界耕作地(marginal land)を、購入或いはラ

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イセンシングし、恒久林(permanent forest)を主体に、一部は生産林(production

forest)として、植林するプロジェクトを計画している。プロジェクトは、森林が吸

収する CO2をニュージーランドの排出権取引制度(ETS)に利用するとともに、国有森

林を拡大することを目指している。

Z Energyは、Drylandcarbon設立の背景にある、ニュージーランドの環境行政監

察官(Parliamentary Commissioner for the Environment)による報告書“Farms,

forests and fossil fuels: The next great landscape transformation”を評価し

ている。

同社のサステナブル戦略マネジャーGerri Ward氏は、2050年までに化石燃料燃焼

を大幅に削減することが必要であると認め、Z Energyは、代替燃料、クリーン燃料、

新規輸送システムに投資していると述べている。

その一方で、大量に CO2が排出されていることに対して手をこまねいていることは

できないとの考え方を示し、排出量のオフセットを目的に森林プロジェクトへの投

資に恒久的に取り組むことを決めたと説明している。

<参考資料>

http://z.co.nz/about-z/news/general-news/z-energy-contact-energy-genesis-energy-and-air-new-zeal

and-join-forces-in-carbon-afforestation-partnership/

http://z.co.nz/about-z/news/sustainability-news/forestry-offsets-a-good-interim-solution/

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編集責任:調査情報部([email protected] )