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JIM Lectureホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ1家庭医がもつべきリハビリの視点と知識④ 予防的介入 セッティングに応じて,さまざまなアプローチ手段を検討し活用する 佐藤健一 JⅡM 第21巻第7号別刷 2011年7月15日発行 医学書院

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JIM vol.21 No.7 2011 pp588-93ホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ!家庭医がもつべきリハビリの視点と知識 ④予防的介入 セッティングに応じて,さまざまなアプローチ手段を検討し活用する4回連載の4回目です.医学書院より掲載許諾済み.そのため、Webのみでの閲覧に制限してあります.ご了承下さい.

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Page 1: [kenichi Sato/佐藤健一] JIM vol.21 No.7 2011 pp588-93「ホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ④ 予防的介入」

JIM Lectureホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ1家庭医がもつべきリハビリの視点と知識④

予防的介入セッティングに応じて,さまざまなアプローチ手段を検討し活用する

佐藤健一

JⅡM第 2 1 巻 第 7 号 別 刷2011年7月15日発行

医学書院

Page 2: [kenichi Sato/佐藤健一] JIM vol.21 No.7 2011 pp588-93「ホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ④ 予防的介入」

ロ/0ホームズの視点で外来・訪問診療をスキルアップ1家庭医がもつべきリ八ビリの視点と知識④予防的介入一セッティングに応じて,さまざまなアフロー チ手段を検討し活用する

◆数回にわたって家庭医にとって重要と思われるリハビリに関する知識を扱ってきました.最終回の本稿では,どのように予防的介入をしていくかを考えていきましょう.しかしながら,介入については各施設のセッティングによって活用できる.できないが大きく変わってきます.ですから書かれている内容が絶対の正解ではありません.患者さんや自分たちの置かれている環境によって応用させたり,バージョンアップしたりしてみてください.

病棟での介入匡 癖 辱 三 … T 而 壱 … ■ 睦 一 一 - - … ■ 圃 且 白 一 … ■ 哩

患者:93歳,女性.もともと歩行器移動レベル今回肺炎の治療で在宅から入院.幸い抗生物質が効いたため肺炎は完治した.しかし,治療中ほぼ寝たきりであったため移乗や歩行に介助を要し,家族が自宅で介護ができないために施設入所となる.

セッティングの違いによる影響壷 巨 弓 秀 = 』 - … ■ … 宇 冒 一 一 戸 ̅ 繊 ■ i 】 ■ …

病棟でのポイントは,治療の途中であり,検査などが優先されること,そのために潜在的に安静を求められることでしょう.さらに,何からのケアを受けることで動作量や時間がどうしても減少しますし,動かなくても生活ができてしまいます.忙しい病棟で効率よく治療や検査を進めるために,ゆっくりした動作を待つゆとりがなく,結果的に過介助となってしまいがちです.これらすべてが身体を使わないこと,つまり廃用症候群につながっていくのです(第2回参照).病棟での介入で一番先に考えるのは,安静度よ

りもどの程度の活動度にするかということです.入院時点で,どの程度まで身体を動かすか(本当

皆さんはどのような環境で働き,リハビリの視点や予防的介入を活用したいと思っているでしょうか?病棟,外来,訪問先,地域コミュニティが大部分で,環境によっては外来リハビリや通所サービスなどが加わってくるでしょう.このように,環境に大きな違いがあると,同一の内容で介入していくことは困難です.そこで今回は考えられるセッティングごとに介入を考えていきたいと思います.

佐藤健一(さとうけんいち)/医療法人篤友会関西リハビリテーション病院札幌医科大学卒.北海道家庭医療学センター(HCFM) 1期生.研修終了後,全国各地を転々とし,医学だけでなく地域ごとの医療や住環境の違いに着目するようになる.その経験をもとに高齢者医療,家庭医にとってのリハビリテーション,航空機内医療についてのレクチャーを実施している.主な著書に『医療者のための伝わるプレゼンテーション」(医学書院刊),「症候診断トレーニングDS(トレーニングDSシリーズ)」(メディカ出版刊)

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588 ()917138X/11/¥500/論文/JCOPY

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図1立ち上がりヨ||練大腿m頭筋を使うようにゆっくりと動く. (「知っていますかリハビリテーション」を参考に采者実油)

にベッド上安静が必要か?せめて可動域訓練だけでもできないか)を治療プランと並行して念頭におくようにします.治療や検査の合間でも|司室者と話をしながらでも,筋力を最低限維持できるレベルの運動を促すようにします.ですが,いざ実践しようとすると恐らくさまざ

まな壁にぶつかるでしょう.

境界が不明確になりやすいのです.実際,急性期病棟から転院してきた車椅子使用者の大部分が,車椅子を自分で駆動できず,ブレーキのかけ方,フットレストの上げ方も知らないし,教わってもいないというのが実情です.何でもおIll話する,お世話してもらう環境ではお互いに廃用症候群をつくろうとしているにほかなりません.スムーズに退院にもっていくためにも.入院中の活動量を何とか維持できるような工夫が重要となります.その一つが立ち上がり訓練です(図1).ベッド

サイドに腰掛け,ゆっくりと立ち上がりゆっくりと座ります.各々5秒程度をかけ, 20 |n| 'セット,4~5セット/日程度実施していきます.ポイントはゆっくりと行い大腿四頭筋をしっかりと働かせることです.とくに座る時は力を抜いてドスンと座らないようにします.循環動態などにも影響が少なく,お金もかからない、なにより立ち座りは日常生活のなかでは歩行よりも重要で,実生活でそのまましている動作です.ふらつきなどが心配な方にはベッドのL字柵を軽く持ちながら行うとよいでしょう.さらに.膝の曲げ伸ばし.もも上げ,つま先挙げ,ベッド上でのお尻上げなど,ベッド周囲でもかなりの運動をすることができるのです(図2).

し患者サイドから.,患者さん自身が,入院中はいろいろお世話して

もらうのが当然と考える・周りの人はお世話してもらえるのに,自分は何

もしてもらえないと不満が出る

>医療サイドから.いろいろとお世話するのが当然と考える(「ケア

を否定された」と受け取られる)・自分勝手に動いて転倒されたら大変(とくに高齢者)・体を動かして治療に悪影響をきたしては大変

などなど.

本来.「ケア」と「お世話」は別物なのですが。患者は手伝ってもらうことに‘慣れてしまい,その

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桑 曇爵 1: 1.

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、詞”W1L

図2ベッドサイドでできる運動,Q、をliZめないで筋肉を使いながら行う.a;膝のIlllげ伸ばし, b :ももkげ, c :つま先挙げ.

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-舟7』.溌諦雑軟、・0-’1

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『群 瀞?勢1賎“】

図3病棟でも実施し,自宅に応用訓練室で動くことがすべてではない.a :病棟. b: i宅.

てもらい,その動きを介助するように心がけるだけでも大腿四頭筋の収縮を促し筋肉を使うことができます.さらにこの動作を家族に指導することで,自宅退院にI"lけた介助訓練にそのまま利川できます(図3).忙しいセラピストの手を多く借りなくても.一般

病棟でも実施できることも大きい利点でしょう.

介助しながらも廃用症候群の予防は可能

■ ■ ■

高齢者に限らず移乗に介助が必要な方が入院すると,多くの医療者は全介助で移乗を行う傾向にあります.そのほうが早く終わるのは当然ですが,患者さんにとっては使わない筋肉は衰えることを忘れてはいけません.訓練室で動かすことだけがリハビリではありません.ベッドサイドでの移乗で,立ち上がる時に声をかけて足を踏ん張っ

外来での介入■ ■ ■l■■■■■■■

基本的に歩行で外来へ来ることが多いので、あ

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康教室に来ない(来たがらない)方々がそのような場所にいたりします.医療に触れることの少ない方に廃川症候群予|坊の重要性を伝えてこそ.地域の健康度を上げていくことに結びつきます.

る秘度身体能力は保たれていると判断できます.しかし.忠者さんの動作を観察す̅ると立ち座りの動作にスムーズさがなかったり.実際には|生|宅では頻Illlに転倒したりつまずいているということもよくあります.歩行速度が遅くなったかも知れませんし.太ももが高く上がらずリ|きずるような歩行かも知れません.診察室に入る動作を確認し,問診でも生活の様子を聞くようにします.

訪問での介入■ ■ ■

実は,訪問診療での介入が一番challengingとなります.理'二'1として,常に医療者の目があるわけではな

い、住環境はさまざま,‘患者の身体能力もさまざま,家族の介謹ノJもさまざま,家族の在宅への気持ちもさまざま,介入先が本人よりも家族になりやすいことなどが挙げられます.

このなかで一悉重要になるのは、やはf)介護背(家族)への指導と協力度合いになります.場所によっては訪問リハを導入し本人にリハビ

リができるかも知れませんが,それでも週に3時間程度が岐大で,それ以外は主に家族が|班lわります.在宅では.医療者が介護してできることは屯要ではありません普段接している家族がどれだけできるかやってくれるかが非常に大きいポイントになI)ます.

患者:68歳。女性脳梗塞によるイi片麻抑あり,歩行は自立だが時lAjを要する.脳外科定期受診で外来受診の際,診察時間に間に合い.楽に移動できるように車椅子を使用した.

I ノ

外来に車椅子で来る方のなかには,上記のようなノノも実際に存在します.申椅子利川者は必ずしも身体能力が車椅子レベルとは限りません.両脇を支えることで立位動作ができるか,歩行動作はどうかなどを評価することが軍要となります.

地域への介入■ - - - ■ = ■

患者:78歳男性右麻源で車椅子レベル.コミュニケーションは問題ない.家族

驚職鶏鰯:度…雛I

もし病院や診療所にリハビリスタッフがいたり広い部屋があって,病院からの協力も得られそうならば,地域住民向けの健康教室の|リM催をお勧めします.どの地域でも健康や病気への関心は高いものです.月1回程度定期的に健康教室を実施し身体能力を評価してその結果をファイルメーカーでデーターベース化して毎|画l渡したり(表1),参加者の世代に関連しそうなテーマの話をすることで継続的な関わりと廃川旅候群予防への意織を高めることが可能となります.もし.-'一分な数のスタッフや会場が川意できな

い時は逆に地域に出ていきましょう.杵さんが|坐lわっている地域に公民館などがあれば稚械的に関わっていくようにしましょう.|矢療機関二iミ催の催

凸/可 レロゥ匡守|患者:75歳女性.重度麻揮でベッド上レベル.軽度意識障害がありコミュニケーションに支|職がある.家族は最後まで自宅で診てあげたいという気持ちが強い.

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表1健康教室で使用している身体能力の評価表○ ×病院すこやか教室

実 施 日 2 0 0 × / 0 9 / × I D 6 6 様 性 別 男 性身長168.4 cm体重74 knC標準体重6ク4k口)標準体重=』坦旦4cm体重74 kg(標準体重62.4 kg)標準体重=身長(rrf)×22

BMI 26.1評価(肥満)体脂肪318評価(重度肥満)

体脂肪とBMIからみたタイプAタイプ:食事が柱の肥満タイプBタイプ:運動不足の隠れ肥満タイプCタイプ:カロリー不足のやせ形タイプDタイプ:体圭測定をこまめに堅太りタイプEタイプ:現状維持を目標に,理想的なタイプ

アドバイス

体脂肪

男:20女:25

’’あなたのタイプは?

Aタイプ食事が柱の肥満タイプBMI,体脂肪ともに高いです食生活の改善と運動を行い,肥満の改善に努めましょう

血圧146/90mmHg脈拍73/回転 倒 [ 弓

コメント血圧が高めでした普段から血圧が高くないか注意してください

体力測定(毎月)平均

握力右41 kg 40 kg握力左40.6 kg 40 kg海 岸 片 脚 3 秒 2 2 秒

参考値落花棒21 cm 25.3 cm

握力右

落下棒 握力左ファンクショナルリーチ

c m c m長 座 前 屈 c m c m体 内 時 計 秒 秒

最 大 1 歩 幅 c 、 ラ ン ク1 0 m 歩 行 速 度 秒 ラ ン ク

開眼片脚

明らかにCase3のほうが身体能力は高いですが実際に自宅に帰れる確率が高いのはCase4の方でしょう. Case3の方を在宅復帰させるには本人の能力もそうですが,家族の介護に対する姿勢が変わらないかぎりは厳しいと言わざるをえませんし,たとえ自宅に退院しても長続きしない可能性が高くなります.

まりました.さて,この方の身体能力は今後どう変化すると予想できるでしょうか?廃用症候群の回(第2回参照)に説明したように

最大負荷の20~35%であれば筋力は維持されます.そして身体能力向上にはそれ以上の負荷が必要となってきます.その一方で住宅改修はどのような目的で実施したでしょうか?段差や危険な場所を改修し,今まで苦労していた動作の負担軽減が大きな目的になります.ここに大きな矛盾があります.安全に暮らせる環境になると,今までよりも筋力を使わないで移動できるようになり,

自宅で身体能力向上は可能?■ = - ■ - 1 ■ 一 国

無事住宅改修も完了し,退院して在宅生活が始

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C E

● A

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結果として筋力が低下する可能性が高くなるのです.さらに加齢による身体能力低下も加わってきます.そう考えると,自宅で身体能力を向上させることは不可能ではないものの,非常に困難だとわかるのではないでしょうか.これは医療関係者に限らず,‘患者,家族ともに抜けてしまいがちな事実なのです.たとえ訪問リハビリや通所リハビリなと、を導入しても実施できる回数や時間内容は制限されるため,身体能力向上を目指すことは厳しくなります.では,われわれは何を目標にするとよいので

しょうか?筆者が患者・家族に退院後の身体能力の話をする際は,まず現在のレベルを維持することを目標にしてもらいます.「加i齢による体力低下に加え筋力を今までほど使わない生活環境になるなかで,身体レベルを維持するためには今まで以_上に動く必要がある」.このことを説明することで,住宅改修で動きやすくなった=動く能力が向上した,と錯覚することを少しでも軽減するようにします.早く身体能力の向上を図りたいために,急に負

荷量を増やす方もいます.しかし,急に負荷を増

やして筋肉病などになった場合は逆に運動量が減り.結果的に筋力低下を促進しかねません.在宅は病院よりも自分が動いて生活しなければならないため、普通でも筋肉痛は出現しやすく,座位時間も長くなるため下肢の浮腫も出現しやすくなります.これらの傾向を伝えることも,予防的な介入としては重要になってくるでしょう.

●41回|にわたって家庭医とリハ医の視点から地

域で求められるリハビリテーションの知識をまとめていきました.皆さんが地域で実践していた環境も,リハビリの視点から見ると改めて気づくことがたくさんあると思います.病気をみることに加えて,リハビリの視点をもち,地域をみる眼を広げ.地域住民の生活をサポートしていきましょう.

さとうけんいち

臨床の詩学医学書院

患者が何気なく洩らした言葉、医療者が捨て鉢につぶやいた言葉が、行き詰まった事態をごろりと動かすことがある。現場で働く者なら誰でもが知っているそんな《臨床の奇跡》を、手練れの精神科医が祈りを込めて書き留める。医療者を深いところで励ます、意外で、突飛で、切実な言葉のコレクション。

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