kit オナーズプログラム 「技術者のための経営知識向上プログラ … ·...

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題目 K I T P r a c t i c e s o f M a n a g e m e n t D e v e l o p m e n t P r o g r a m f o r e n g i n e e r s i n K I T H o n o r s P r o g r a m : A c h i e v e m e n t s a n d C h a l l e n g e s T o s h i y u k i A Z U M A 金沢工業大学の特色ある課外活動プログラムである「KIT オナーズプログラム」の 一つして、筆者らは「技術者のための経営知識向上プログラム」を実施している。こ のプログラムは、技術者(エンジニア)を目指す理工系学生にも不可欠である経営(学) に関する知識を、指定図書の講読・発表・討議を通じて身につけることを目的とし、 2011 年度後学期より 5 年間実施してきた。 そこで本稿では、これまで 5 年間の振り返り、その成果と今後の課題を検討する。 キーワード:KIT オナーズプログラム、経営学教育、技術者教育 In Kanazawa Institute of Technology (KIT), it is running "KIT Honors Program" that is a distinctive extracurricular activities program. As one of the KIT Honors Program, we have implemented the "Management Development Program for Engineers". This program is intended to learn necessary management theories for science and engineering students through reading, presentation and discussion. In this paper, we look back on the past five years of this activity (2011- 2015) and consider the achievements and challenges. Keywords: KIT Honors Program, management development, engineering education. 金沢工業大学(以下、「本学」と記述する)では、特色ある課外活動プログラムである「KIT オナーズ プログラム」が実施されている。「KIT オナーズプログラム」とは、「『自ら考え行動する技術者』に向け て自ら目標を設定し、それを達成するために活動する自己目標達成プログラム」であり、「学科・課程・ 研究室に関するプログラム」「夢考房プロジェクトプログラム」「COC 地域志向プログラム」「産学連携 プログラム」「地域連携プログラム」「教育支援センターに関するプログラム」「学友会に関するプログラ ム」の 7 種類がある 1 KIT オナーズプログラムの一つして、筆者らは「技術者のための経営知識向上プログラム(略称:経 営プログラム)」(以下、「本プログラム」と記述する)を実施している。本プログラムは、 KIT オナーズ プログラムのうちの「学科・課程・研究室に関するプログラム」(基礎教育部実施プログラム)に位置づ けられ、技術者(エンジニア)を目指す理工系学生にも不可欠である経営(学)に関する知識を、指定 図書の講読・発表・討議を通じて身につけることを目的としいている。このプログラムは、 2011 年度後 241 KIT オナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題- KIT Progress 24

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事例報告 KIT Progress No.24

題目

KITオナーズプログラム 「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み

-成果と課題― Practices of “Management Development Program for engineers” in KIT

Honors Program : Achievements and Challenges

東 俊之 Toshiyuki AZUMA

金沢工業大学の特色ある課外活動プログラムである「KIT オナーズプログラム」の

一つして、筆者らは「技術者のための経営知識向上プログラム」を実施している。こ

のプログラムは、技術者(エンジニア)を目指す理工系学生にも不可欠である経営(学)

に関する知識を、指定図書の講読・発表・討議を通じて身につけることを目的とし、

2011 年度後学期より 5 年間実施してきた。 そこで本稿では、これまで 5 年間の振り返り、その成果と今後の課題を検討する。

キーワード:KIT オナーズプログラム、経営学教育、技術者教育 In Kanazawa Institute of Technology (KIT), it is running "KIT Honors

Program" that is a distinctive extracurricular activities program. As one of the KIT Honors Program, we have implemented the "Management Development Program for Engineers". This program is intended to learn necessary management theories for science and engineering students through reading, presentation and discussion.

In this paper, we look back on the past five years of this activity (2011-2015) and consider the achievements and challenges. Keywords: KIT Honors Program, management development,

engineering education.

1.はじめに

金沢工業大学(以下、「本学」と記述する)では、特色ある課外活動プログラムである「KIT オナーズ

プログラム」が実施されている。「KIT オナーズプログラム」とは、「『自ら考え行動する技術者』に向け

て自ら目標を設定し、それを達成するために活動する自己目標達成プログラム」であり、「学科・課程・

研究室に関するプログラム」「夢考房プロジェクトプログラム」「COC 地域志向プログラム」「産学連携

プログラム」「地域連携プログラム」「教育支援センターに関するプログラム」「学友会に関するプログラ

ム」の 7 種類がある 1)。 KIT オナーズプログラムの一つして、筆者らは「技術者のための経営知識向上プログラム(略称:経

営プログラム)」(以下、「本プログラム」と記述する)を実施している。本プログラムは、KIT オナーズ

プログラムのうちの「学科・課程・研究室に関するプログラム」(基礎教育部実施プログラム)に位置づ

けられ、技術者(エンジニア)を目指す理工系学生にも不可欠である経営(学)に関する知識を、指定

図書の講読・発表・討議を通じて身につけることを目的としいている。このプログラムは、2011 年度後

241KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

KIT Progress №24

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題目

学期より実施しており、2015 年前学期で 5 年が経過した。そこで本稿では、これまでの 5 年間を振り

返り、その成果と今後の課題を検討したい。

2.理工系学生の経営学学習の必要性

そもそも理工系総合大学であり、「自ら考え行動する技術者の育成」を目標にする本学において、経営

知識(経営学の知識)を向上させることがなぜ必要であろうか。 まず、「経営学」の一般的な特徴から探っていきたい。経営学について加護野(2012)は、「経営(マ

ネジメント)という現象を研究対象にしている。マネジメントとは、『「人々を通じて」、「仕事をうまく」

成し遂げること』である」2)と言及する。更に「マネジメントは、さまざまな組織体で必要になる。(中

略)したがって、経営学の知識、とくに経営組織論の知識は企業経営だけでなく、学校、病院といった

組織の経営にも応用できる」3)としている。また、楠木(2011)も同様に、経営学が対象としている「経

営」が多くの人にとって身近な問題であるとし、たとえ役所や病院、学校などの非営利組織で働いてい

るとしても日々の仕事のなかで経営とのかかわりは実感できるとしている 4)。このように、我々が必ず

所属している「組織」が経営学の研究対象であり、経営学の既存の知識体系(理論)は、何らかの組織

を経営する上で実践的に活用できるものである。そのため本学学生にとっても、経営学の知識を習得す

ることは、例えば課外での部活動・プロジェクト活動や、正課授業でのグループ・チーム活動などで大

いに役立つと考えられる。 その一方で、本学学生に限らず大学生が経営学について十分は知識を有しているかというと、そうと

はいえない。例えば加護野(2012)は、経営学には「利益追求の学問」「金儲けのための学問」という社

会的偏見がつきまとっており、こうした偏見は抜きがたいものであるという 5)。更に、高等学校の「政

治・経済」の教科書を検討した齊藤(2012)は、高校の教科書に書かれている企業や経営の説明は不十

分であり、経営者やマネジャーの役割はほとんど説明されていないと指摘する 6)。つまり、大学に入学

する学生は、経営とは何かについて十分な知識は持ち合わせていないのが現状であるといえよう。 また、技術者を目指す学生にとっても経営学を学ぶことの必要性が広く認識されてきている。国際競

争の激化や製品のコモディティ化によって企業を取り巻く競争環境が厳しくなっている現在、単純に「優

れたものをつくれば売れる」時代ではなくなってきており、ものづくりにおいても高度に戦略的な考え

方やマネジメントが不可欠になってきている。特に製造業が国際競争力の牽引役になっている日本では、

製造業の経営学である MOT(Management of Technology 技術経営)に焦点を当てた経営学教育が求

められるようになっている 7)。本学でも 2012 年度入学以降の入学学生を対象にして、全学生必修科目

として「技術マネジメント」(半期・2 単位)が開講されている。 しかし、経営学についての十分の知識を有していない学生にとっては、更なる学習の場を提供するこ

とが有益であると考えられる。そこで、本プログラムを開催するにいたったのである。 3.「技術者のための経営知識向上プログラム」の概要

3.1 目的

前述したように、MOT が盛んに論じられている今日の状況は、技術だけでなく経営に関する知識が

重要視されていることを物語っている。そこで、技術者にとって必要とされる「経営学」についての知

識・知恵を身につける“場”を提供することを、本プログラムでは教育目標としている。このことは、

プロジェクト紹介のポスター、WEB ページ、ならびに本プログラム最初のオリエンテーション時に詳

しく説明している。 また、「ものづくり」を行うためには「何が売れるか」を考えることが必要であり、「いかに仲間と協

力し合って製品開発するか」も不可欠であると述べ、前者は経営学のなかのマーケティング論や経営戦

242 KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

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題目

略論と関連し、後者は経営組織論と関連することも説明している。更に、経営学の対象は我々が必ず所

属している組織であり、経営学の知識はフルタイムで働き始めてからのみに役立つものではなく、現在

所属している組織を運営することにも役立つものであると話している。 加えて、本プログラムで学ぶことにより、読む・聴く・考える・調べる・整理する・まとめる・表現

するといったいわゆるスタディ・スキル(アカデミック・スキル)8)を向上させることも一つの目的と

している。 3.2 参加者・日時

本プログラムでは、特に参加制限は制限せず、すべての学部・学科、学年の学生を参加対象にしてい

る。当然のことながら、KIT オナーズプログラムへの参加が義務付けられている本学の特別奨学生(リ

ーダーシップアワード生)だけを対象にしているわけではない。ただし、「経営プログラム」であるので、

毎学期情報フロンティア学部経営情報学科(2011 年度入学生まで情報学部情報経営学科)の学生が多い

傾向にある。また本プログラムは、基本的に自由参加であり、必ずしも毎回の出席を義務付けてはいな

い。そのため、出席者数は最初の数回は多いものの、その後は減少し、各回 2~5 名程度であった。 また、2013 年度後学期からは、本プログラムに初めて参加する学生を対象にした「入門クラス(基礎

クラス)」と、これまで参加していた学生を対象にした「発展クラス(専門クラス)」に分けて実施して

いる。更には、参加経験者には、なるべく入門クラスにもアドバイザーとして参加するように促してい

る(なお、参加経験者であっても入門クラスのみの出席でも可能としている)。 実施日時については、いずれかの曜日の 5 時限目(14 時 40 分~18 時 10 分の 90 分間)とし、基本

的に各クラス週 1 回開講している。なお、開催曜日は最初のオリエンテーションの時間に参加希望学生

の都合を聞いて決定している。

3.3 運営方法(プログラムの進め方)

本プログラムは、指定図書を講読し、発表・討議するといういわゆる「ゼミナール形式」による運営

をおこなっている。具体的には、1)指定図書の各回範囲(毎回指定図書の 1 章分程度)を各自事前に熟

読、2)事前に決定した報告担当者によるプレゼンテーション、3)他者からの質疑応答、というステッ

プで進めている。なお、指定図書は学期ごとに変更している(表 1 を参照)。そして、講読だけでは“退屈”と感じると考えられるので、ケーススタディやディスカッションを挟み込み、事例分析や時事問題の

検討を通じてより実践的に理解できるように努めている。次回の報告者は、前回の最後に決定すること

が多かった。 また、報告担当者には、

①指定図書の担当章を熟読すること。わからない用語は、各自で調べておくこと。 ②指定図書の内容から、特に面白いと思ったことを中心に、他の文献を調べ、発表資料を作成する

こと(少なくとも関連する書籍 3 冊は当たること)。 ③発表時は、「PowerPoint」もしくは「Word」の配布資料を準備すること(フォーマットは自由。

ただし分かりやすい資料を心掛けること)。 ④発表内容に関しては、全責任を持つこと。

という 4 点を義務付けている。 更に、報告担当者以外の参加者には、

①指定図書の該当箇所を熟読することわからない用語は、各自で調べておくこと。 ②指定図書の内容から、特に面白いと思ったことを中心に、他の文献を調べ、質問内容を考えてお

くこと。 ③他者の発表に対しては、批判的に聴講すること。特に、曖昧な用語の使い方をしている場合は、

チェックすること。

題目

学期より実施しており、2015 年前学期で 5 年が経過した。そこで本稿では、これまでの 5 年間を振り

返り、その成果と今後の課題を検討したい。

2.理工系学生の経営学学習の必要性

そもそも理工系総合大学であり、「自ら考え行動する技術者の育成」を目標にする本学において、経営

知識(経営学の知識)を向上させることがなぜ必要であろうか。 まず、「経営学」の一般的な特徴から探っていきたい。経営学について加護野(2012)は、「経営(マ

ネジメント)という現象を研究対象にしている。マネジメントとは、『「人々を通じて」、「仕事をうまく」

成し遂げること』である」2)と言及する。更に「マネジメントは、さまざまな組織体で必要になる。(中

略)したがって、経営学の知識、とくに経営組織論の知識は企業経営だけでなく、学校、病院といった

組織の経営にも応用できる」3)としている。また、楠木(2011)も同様に、経営学が対象としている「経

営」が多くの人にとって身近な問題であるとし、たとえ役所や病院、学校などの非営利組織で働いてい

るとしても日々の仕事のなかで経営とのかかわりは実感できるとしている 4)。このように、我々が必ず

所属している「組織」が経営学の研究対象であり、経営学の既存の知識体系(理論)は、何らかの組織

を経営する上で実践的に活用できるものである。そのため本学学生にとっても、経営学の知識を習得す

ることは、例えば課外での部活動・プロジェクト活動や、正課授業でのグループ・チーム活動などで大

いに役立つと考えられる。 その一方で、本学学生に限らず大学生が経営学について十分は知識を有しているかというと、そうと

はいえない。例えば加護野(2012)は、経営学には「利益追求の学問」「金儲けのための学問」という社

会的偏見がつきまとっており、こうした偏見は抜きがたいものであるという 5)。更に、高等学校の「政

治・経済」の教科書を検討した齊藤(2012)は、高校の教科書に書かれている企業や経営の説明は不十

分であり、経営者やマネジャーの役割はほとんど説明されていないと指摘する 6)。つまり、大学に入学

する学生は、経営とは何かについて十分な知識は持ち合わせていないのが現状であるといえよう。 また、技術者を目指す学生にとっても経営学を学ぶことの必要性が広く認識されてきている。国際競

争の激化や製品のコモディティ化によって企業を取り巻く競争環境が厳しくなっている現在、単純に「優

れたものをつくれば売れる」時代ではなくなってきており、ものづくりにおいても高度に戦略的な考え

方やマネジメントが不可欠になってきている。特に製造業が国際競争力の牽引役になっている日本では、

製造業の経営学である MOT(Management of Technology 技術経営)に焦点を当てた経営学教育が求

められるようになっている 7)。本学でも 2012 年度入学以降の入学学生を対象にして、全学生必修科目

として「技術マネジメント」(半期・2 単位)が開講されている。 しかし、経営学についての十分の知識を有していない学生にとっては、更なる学習の場を提供するこ

とが有益であると考えられる。そこで、本プログラムを開催するにいたったのである。 3.「技術者のための経営知識向上プログラム」の概要

3.1 目的

前述したように、MOT が盛んに論じられている今日の状況は、技術だけでなく経営に関する知識が

重要視されていることを物語っている。そこで、技術者にとって必要とされる「経営学」についての知

識・知恵を身につける“場”を提供することを、本プログラムでは教育目標としている。このことは、

プロジェクト紹介のポスター、WEB ページ、ならびに本プログラム最初のオリエンテーション時に詳

しく説明している。 また、「ものづくり」を行うためには「何が売れるか」を考えることが必要であり、「いかに仲間と協

力し合って製品開発するか」も不可欠であると述べ、前者は経営学のなかのマーケティング論や経営戦

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題目

④建設的な質問をするように心がけること。“あら探し”にならないように注意すること。 ⑤質問者以外の出席者も、積極的に議論に参加すること。

という 5 点が責務であると伝えている。 ただし、報告担当者が決定しなかった場合は、担当教員(主に筆者)によるプレゼンテーション、ま

たは担当箇所を全体でディスカションする時間に変更した。 このように運営してきた本プログラムであるが、開始から 5 年が過ぎ、プログラム運営者(著者)が

観察する限り、本プログラムの目標と学生の意識とに乖離が生じているように思われる。例えば、参加

者・報告担当希望者の減少、図書講読が不十分な学生の増加、報告資料作成が不十分な学生の増加など

が散見される。そこで、現状の成果と問題点を把握すべく、参加学生に対してアンケート調査、インタ

ビュー調査を行った。

表1 「技術者のための経営知識向上プログラム」での講読文献

【2010年度後学期】 伊丹敬之・加護野忠男『ゼミナール経営学入門(第三版)』日本経済新聞社, 2004. 【2011年度前学期】 稲葉祐之・井上達彦・鈴木竜太・山下勝『キャリアで語る経営組織 個人の論理と

組織の論理』有斐閣アルマ, 2010. 【2011年度後学期】 網倉久永・新宅純二郎『経営戦略入門』日本経済新聞社, 2011. 【2012年度前学期】 一橋大学イノベーション研究センター監修『はじめての経営学(一橋ビジネスレビ

ュー別冊 No.1)』東洋経済新報社, 2011. 【2012年度後学期】 加護野忠男・吉村典久編著『1からの経営学(第 2 版)』碩学舎, 2012. 【2013年度前学期】 榊原清則『経営学入門(上・下)』日経文庫, 2013. 【2013年度後学期】

(発展クラス)野中郁次郎・遠山亮子・平田透『流れを経営する』東洋経済新報社, 2010. (入門クラス)藤田誠『スタンダード経営学』中央経済社, 2011.

【2014年度前学期】

(発展クラス)忽那憲二・長谷川博和・高橋徳行・五十嵐伸吾・山田仁一郎『アン

トレプレナーシップ入門』有斐閣, 2013. (入門クラス)齊藤毅憲編著『経営学を楽しく学ぶ 第 3 版(Ver.3)』中央経済社, 2012.

【2014年度後学期】

(発展クラス①)藤本隆宏『現場主義の競争戦略』新潮新書, 2014./高橋伸夫『組

織力』ちくま新書, 2010. (発展クラス②)高橋伸夫『ダメになる会社』ちくま新書, 2010. (入門クラス)松山一紀『映画に学ぶ経営管理論』中央経済社, 2014.

【2015年度前学期】

(発展クラス)日本経済新聞社編『これからの経営学』日経ビジネス人文庫, 2010. (入門クラス)榊原清則『経営学入門(上・下)』日経文庫, 2013.

4.アンケートとインタビューの実施概要

4.1 アンケート調査の概要

アンケートは 2014 年度前学期、2014 年度後学期、2015 年度前学期に本プログラム参加に 3 回以上

参加した学生に対して、電子メールにて質問用紙を送付する形で実施した(2015 年 8 月 6 日送付)。そ

のため、連絡先が不明の学生、および既に卒業した学生に対しては送付されていない。結果、9 名の参

加学生から回答を得た(なお、サンプル数がきわめて少数のため、統計分析などの定量調査は行ってお

244 KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

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題目

らず、定性的なデータとして利用しているにとどまっている)。 アンケートは大きく分けて、Ⅰ)属性・参加期間・参加度、Ⅱ)本プログラムでの成果、Ⅲ)本プロ

グラムでの改善点や問題点、を質問している(詳細は付録を参照のこと)。回答者の内訳は、工学部機械

工学科 3 年次生 1 名、工学部電気電子工学科 4 年次生 1 名、情報フロンティア学部経営情報学科 3 年次

生 2 名、情報フロンティア学部経営情報学科 2 年次生 2 名、情報フロンティア学部経営情報学科 1 年次

生 1 名、バイオ化学部応用化学科 4 年次生 1 名、バイオ化学部応用化学科 3 年次生 1 名、であった。 4.2 インタビュー調査の概要

アンケート調査に先立って、特に積極的に本プログラムに参加してくれていた学生 4 名に対して 2 回

にわたりインタビュー調査(準構造化インタビュー)を行った。インタビュー調査では、本プログラム

への参加動機や本プログラムの問題点、今後の改善策などについての率直な意見を尋ねた。インタビュ

ー調査の概要は以下のとおりである。 【第 1 回】 ・日時:8 月 3 日 10:00~11:00 ・対象者:バイオ化学部応用化学科 4 年次生 (スカラーシップメンバー学生) 【第 2 回】 ・日時:8 月 4 日 11:00~12:00

・対象者:①情報フロンティア学部経営情報学科 3 年次生(スカラーシップフェロー学生) ②情報フロンティア学部経営情報学科 3 年次生(スカラーシップメンバー学生) ③工学部ロボティクス学科 2 年次生

次章では、具体的にアンケート調査ならびにインタビュー調査の結果に基づいて、本プログラムの成

果と課題について検討していきたい。

5.成果と課題:アンケート調査・インタビュー調査の分析

5.1 本プログラムの成果

5.1.1 正課の授業科目に対する貢献

アンケート結果から、本プログラムが正課の授業科目にどの程度役立ったかという質問に対したいし

て、「①大いに役立った」「②少し役立った」と回答した学生は、7 名であった。記述回答から、「自分が

学んでいる分野をより深く学ぶことができたから」(経営情報学科 3 年)、「自学科で学ぶ経営に関する

授業を受ける際に理解を深めることに役立った」(経営情報学科 3 年)、「このプログラムで学んだこと

を学科で後から学ぶ形だったから。予習になった」(経営情報学科 2 年)とあるように、経営情報学科の

学生にとっては直接関連する分野であるために、予習や復習、発展学習として役立っているようである。

また、「一人ひとりに発表する機会が与えられたので、自然とスライド作成と発表の練習を積み重ねるこ

とができ、PD やその他の授業で役立てられた」(経営情報学科 2 年)、「他学科の人たちの意見や考えな

ども聴くことができ参考になった」(応用化学科 3 年)といった、本プログラムで学んだスタディ・スキ

ルを成果の授業に利用できている学生も見受けられた。 一方で、「③あまり役立たなかった」と回答した学生は、「正課の授業科目においては、人文系選択科

目の経済学の一部のみにおいて役立ったと感じている」(電気電子工学科 4 年)と記述しており、「⑤わ

からない」とした学生の記述内容は「経営学は自己学習であり、工学部の学習には関連がなかった」(機

械工学科 3 年)というものであった。これらの結果から、経営情報学科以外の学生には、経営学がチー

ム活動やグループ活動に役立つ知識を有していることが十分に理解されていないことが推察される。 また、「経営戦略基礎のテストにそのまま出た」(経営情報学科 1 年)、「本プログラムで学んだことが

題目

④建設的な質問をするように心がけること。“あら探し”にならないように注意すること。 ⑤質問者以外の出席者も、積極的に議論に参加すること。

という 5 点が責務であると伝えている。 ただし、報告担当者が決定しなかった場合は、担当教員(主に筆者)によるプレゼンテーション、ま

たは担当箇所を全体でディスカションする時間に変更した。 このように運営してきた本プログラムであるが、開始から 5 年が過ぎ、プログラム運営者(著者)が

観察する限り、本プログラムの目標と学生の意識とに乖離が生じているように思われる。例えば、参加

者・報告担当希望者の減少、図書講読が不十分な学生の増加、報告資料作成が不十分な学生の増加など

が散見される。そこで、現状の成果と問題点を把握すべく、参加学生に対してアンケート調査、インタ

ビュー調査を行った。

表1 「技術者のための経営知識向上プログラム」での講読文献

【2010年度後学期】 伊丹敬之・加護野忠男『ゼミナール経営学入門(第三版)』日本経済新聞社, 2004. 【2011年度前学期】 稲葉祐之・井上達彦・鈴木竜太・山下勝『キャリアで語る経営組織 個人の論理と

組織の論理』有斐閣アルマ, 2010. 【2011年度後学期】 網倉久永・新宅純二郎『経営戦略入門』日本経済新聞社, 2011. 【2012年度前学期】 一橋大学イノベーション研究センター監修『はじめての経営学(一橋ビジネスレビ

ュー別冊 No.1)』東洋経済新報社, 2011. 【2012年度後学期】 加護野忠男・吉村典久編著『1からの経営学(第 2 版)』碩学舎, 2012. 【2013年度前学期】 榊原清則『経営学入門(上・下)』日経文庫, 2013. 【2013年度後学期】

(発展クラス)野中郁次郎・遠山亮子・平田透『流れを経営する』東洋経済新報社, 2010. (入門クラス)藤田誠『スタンダード経営学』中央経済社, 2011.

【2014年度前学期】

(発展クラス)忽那憲二・長谷川博和・高橋徳行・五十嵐伸吾・山田仁一郎『アン

トレプレナーシップ入門』有斐閣, 2013. (入門クラス)齊藤毅憲編著『経営学を楽しく学ぶ 第 3 版(Ver.3)』中央経済社, 2012.

【2014年度後学期】

(発展クラス①)藤本隆宏『現場主義の競争戦略』新潮新書, 2014./高橋伸夫『組

織力』ちくま新書, 2010. (発展クラス②)高橋伸夫『ダメになる会社』ちくま新書, 2010. (入門クラス)松山一紀『映画に学ぶ経営管理論』中央経済社, 2014.

【2015年度前学期】

(発展クラス)日本経済新聞社編『これからの経営学』日経ビジネス人文庫, 2010. (入門クラス)榊原清則『経営学入門(上・下)』日経文庫, 2013.

4.アンケートとインタビューの実施概要

4.1 アンケート調査の概要

アンケートは 2014 年度前学期、2014 年度後学期、2015 年度前学期に本プログラム参加に 3 回以上

参加した学生に対して、電子メールにて質問用紙を送付する形で実施した(2015 年 8 月 6 日送付)。そ

のため、連絡先が不明の学生、および既に卒業した学生に対しては送付されていない。結果、9 名の参

加学生から回答を得た(なお、サンプル数がきわめて少数のため、統計分析などの定量調査は行ってお

245KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

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題目

正課の授業に出てきたことがあったから」(応用化学科 4 年)との回答も得た。そのため、成果の授業科

目の内容を検討したうえで、本プログラム参加者に特別有利にならないようにプログラムの内容を調整

する必要がある。 5.1.2 課外での活動に対する貢献

本プログラムで学んだことが、課外での活動(他プロジェクトや部活動、アルバイトなど)に役立っ

たかとの質問に関して、「①大いに役立った」「②少し役立った」と回答した学生は、7 名であった。「学

園祭で催し物を企画した際に、経営の知識を活用する機会があったから」(応用化学科 4 年)、「学生団体

設立時に、リーダーシップ論の基本が役に立った」(経営情報学科 3 年)、「実際の仕事に結びつけながら

考えられたことで、アルバイトをするときに売り上げを伸ばす助けになった」(経営情報学科 2 年生)な

どの回答があった。“組織を経営する知識体系”である経営学の本質は、ある程度理解されており、実際

に活用されているようである。また、「本の内容を自分なりにまとめ人前で報告したり、ディスカッショ

ンを行ったりした経験から、プロジェクトで意見を言うときに、自分の言葉で話せるようになった」(経

営情報学科 2 年)という回答もあり、スタディ・スキルの向上にも一役を買っていることが考えられる。 なお、その他の回答は 2 名ともに「⑤わからない」を選択しており、「課外での活動はしていなかった

ため、わからない」(応用化学科 3 年)、「意図して本プログラムで学んだことを、課外活動において役立

てたつもりがない」(電気電子工学科 4 年)との回答であった。 以上、参加学生のアンケートならびにインタビューの結果から、本プログラムで学んだことがある程

度他の活動に貢献しているといえるだろう。一方で不十分な面も多い。例えば前述したように経営学は

組織そのものを対象とした学問であるが、正課科目におけるグループ活動やチーム活動に本プログラム

で得た知識がプラスの影響をあたえられていない面がある。更に、本プログラムが「技術者」のために

いかに重要かを十分に伝達できていない面がある。本プログラムが、よりよい成果をあげるためにはこ

うした点を改善することが求められる。

5.2 経営プログラムの問題点

5.2.1 経営プログラムの負担度

一方で、本プログラムの問題点や今後の課題についてもアンケートならびにインタビュー調査を行っ

た。問題点の把握に先立ち、アンケートでは本プログラムの負担度を質問した。その結果、「②少し負担

だった」と回答した学生が 4 名、「③あまり負担ではなかった」と回答した学生が 4 名、「④全く負担で

はなかった」と回答した学生が 1 名であった。 特に担当箇所の報告(プレゼンテーション)がかなりの負担だと感じている学生が多いようである。

アンケートの記述結果から「課題と並行して本の内容について考えて、発表しなければいけないことが

あるから」(経営情報学科 2 年)、「人前で自分の意見を発表することに苦手意識を持っていたから」(経

営情報学科 2 年)との回答があり、またインタビューに応じたくれた学生は「プレゼンの時はものすご

く負担になったが、それ以外はそれほどではない」(経営情報学科 3 年)という。更に、「個々が発表す

ると教科書の内容をまとめたのみになってしまう。前に出て発表するとディスカッションにならない」

(ロボティクス学科 2 年)との回答もインタビュー時に得ている。 加えて、テーマによっても負担度が変わってくるようである。例えば同じくインタビューに答えてく

れた学生は、「『ブランド』の内容は理解することが大変だった」(ロボティクス学科 2 年)という。学生

にとって身近な問題と認識できないことについて、理解に時間を要しているようである。 以上のように、参加学生からのインタビューやアンケート結果から、プレゼンテーション担当に対す

る負担の意見が多かったことがわかった。その理由として、(1)参加人数が少なく報告を頻繁せざるを得

なくなってしまっていること、(2)ビジネス系学部学科ではない学生が講読・調査・報告することに時間

がかかってしまうこと、(3)報告することによるメリットをあまり感じていない学生が多かったこと、な

246 KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

Page 7: KIT オナーズプログラム 「技術者のための経営知識向上プログラ … · 一つして、筆者らは「技術者のための経営知識向上プログラム」を実施している。こ

題目

どが理由として推察される。プレゼンテーション能力が向上したという意見があるものの、負担が大き

くあまり効果的ではないと意見があるので、今後の運営方法を再検討する必要がある。 5.2.2 学生自身の問題点

次に学生自身の本プログラムの取組み方についての問題点を、自由回答(記述)方式で質問した。ア

ンケートの結果によると、「もう少し予習復習を行えばよかった」(応用化学科 4 年)、「事前学習が足り

ない時があった」(経営情報学科 3 年)、「授業の兼ね合いで事前の準備が不十分な状態で参加すること

が何度かあった」(経営情報学科 3 年)など、自身の積極的な自学自習姿勢ができていないことを問題と

あげている学生が多かった。 また、「専門実験と専門科目のレポート、課題により積極的な参加ができていなかったことに後悔して

いる」(機械工学科 3 年)、「前学期はいろいろと忙しく、参加頻度が少なかった」(応用化学科 3 年)と

の回答もあった。プログラム開催の時間帯については、最初のオリエンテーション時に調整するものの、

すべての学生の都合を調整することは不可能である。また、なるべく開催曜日を増やすように変更した

が(1 週間に 2 クラス、もしくは 3 クラス開講)、十分な効果は得られなかったと感じている。 一方で、「このプログラムに参加するときに、経営学について学ぼうという気持ちで参加したが、参加

することで何をどこまで得たいか明確な目標・目的を定めていなかったところが問題点だった。定めて

いたら、もっと得るものがあったかもしれない」(経営情報学科 2 年)という回答も得た。明確な目標設

定については、学生自身の問題というよりも、プログラム運営上の問題でもあると考えられる。本プロ

グラムは、共通した一つのゴールに向かってともに力を合わせて活動するのではなく、個々人が発表・

討議を通じて経営学についての知識を習得し、個々人が他の組織で活用することが目標である。そのた

め、目標設定が学生個人に任せられている面があり、本プログラムに対するモチベーションにつながっ

ていない面がある。同様の意見は、インタビュー調査のなかでも述べられている。「わかりやすい目標が

あったほうが(本プログラムを)やりやすい」(応用化学科 4 年)との意見である。一方で同じ学生から

「外部講師は求めていない。気軽さがほしい」との意見も得ている。 5.2.3 経営プログラム自体の問題点

本プログラム自体の問題点については、「特になし」といった意見が多かったが(5 名)、参加者数を

増やすことを求める意見、本プログラムの目に見える成果に関する意見、運営方法に関する意見があっ

た。以下にこうした意見を列挙しておく。 ・「1 回あたり 7~8 人くらいいると良かったかもしれない」(応用化学科 4 年) ・「プログラムの活動の中で、本プログラムで成長したことを、目に見えて手に取れる明確な成果とし

て確かめる機会がなかったことが問題点だと思います。このプログラムで、自分が何を問題解決し

て何を得られたかはっきり他人に提示できるものがあると、モチベーションが高まると思います」

(経営情報学科 2 年)、 ・「プログラム開催日をできれば少し変更,または枠を増やしてほしいです」(機械工学科 3 年) ・「指定図書の内容を発表する担当になった場合の負担が多かったので、ディスカッションをメインに

行えるような運営方法にして欲しい。また、議論を活発にするためにも参加者の人数を増やす必要

があると考えられる」(経営情報学科 3 年) こうした指摘は、インタビュー調査の中でも述べられている。特に、インタビュー調査の対象とした

学生は、本プログラムに積極的に参加してくれている学生であるので、人数を増やすこととディスカッ

ションする場を構築することを要望する意見が多く聞かれた。

6.課題に対する改善策の検討 ―まとめにかえて

本稿では、これまで筆者らが実施してきた「技術者のための経営知識向上プログラム」の成果と課題

題目

正課の授業に出てきたことがあったから」(応用化学科 4 年)との回答も得た。そのため、成果の授業科

目の内容を検討したうえで、本プログラム参加者に特別有利にならないようにプログラムの内容を調整

する必要がある。 5.1.2 課外での活動に対する貢献

本プログラムで学んだことが、課外での活動(他プロジェクトや部活動、アルバイトなど)に役立っ

たかとの質問に関して、「①大いに役立った」「②少し役立った」と回答した学生は、7 名であった。「学

園祭で催し物を企画した際に、経営の知識を活用する機会があったから」(応用化学科 4 年)、「学生団体

設立時に、リーダーシップ論の基本が役に立った」(経営情報学科 3 年)、「実際の仕事に結びつけながら

考えられたことで、アルバイトをするときに売り上げを伸ばす助けになった」(経営情報学科 2 年生)な

どの回答があった。“組織を経営する知識体系”である経営学の本質は、ある程度理解されており、実際

に活用されているようである。また、「本の内容を自分なりにまとめ人前で報告したり、ディスカッショ

ンを行ったりした経験から、プロジェクトで意見を言うときに、自分の言葉で話せるようになった」(経

営情報学科 2 年)という回答もあり、スタディ・スキルの向上にも一役を買っていることが考えられる。 なお、その他の回答は 2 名ともに「⑤わからない」を選択しており、「課外での活動はしていなかった

ため、わからない」(応用化学科 3 年)、「意図して本プログラムで学んだことを、課外活動において役立

てたつもりがない」(電気電子工学科 4 年)との回答であった。 以上、参加学生のアンケートならびにインタビューの結果から、本プログラムで学んだことがある程

度他の活動に貢献しているといえるだろう。一方で不十分な面も多い。例えば前述したように経営学は

組織そのものを対象とした学問であるが、正課科目におけるグループ活動やチーム活動に本プログラム

で得た知識がプラスの影響をあたえられていない面がある。更に、本プログラムが「技術者」のために

いかに重要かを十分に伝達できていない面がある。本プログラムが、よりよい成果をあげるためにはこ

うした点を改善することが求められる。

5.2 経営プログラムの問題点

5.2.1 経営プログラムの負担度

一方で、本プログラムの問題点や今後の課題についてもアンケートならびにインタビュー調査を行っ

た。問題点の把握に先立ち、アンケートでは本プログラムの負担度を質問した。その結果、「②少し負担

だった」と回答した学生が 4 名、「③あまり負担ではなかった」と回答した学生が 4 名、「④全く負担で

はなかった」と回答した学生が 1 名であった。 特に担当箇所の報告(プレゼンテーション)がかなりの負担だと感じている学生が多いようである。

アンケートの記述結果から「課題と並行して本の内容について考えて、発表しなければいけないことが

あるから」(経営情報学科 2 年)、「人前で自分の意見を発表することに苦手意識を持っていたから」(経

営情報学科 2 年)との回答があり、またインタビューに応じたくれた学生は「プレゼンの時はものすご

く負担になったが、それ以外はそれほどではない」(経営情報学科 3 年)という。更に、「個々が発表す

ると教科書の内容をまとめたのみになってしまう。前に出て発表するとディスカッションにならない」

(ロボティクス学科 2 年)との回答もインタビュー時に得ている。 加えて、テーマによっても負担度が変わってくるようである。例えば同じくインタビューに答えてく

れた学生は、「『ブランド』の内容は理解することが大変だった」(ロボティクス学科 2 年)という。学生

にとって身近な問題と認識できないことについて、理解に時間を要しているようである。 以上のように、参加学生からのインタビューやアンケート結果から、プレゼンテーション担当に対す

る負担の意見が多かったことがわかった。その理由として、(1)参加人数が少なく報告を頻繁せざるを得

なくなってしまっていること、(2)ビジネス系学部学科ではない学生が講読・調査・報告することに時間

がかかってしまうこと、(3)報告することによるメリットをあまり感じていない学生が多かったこと、な

247KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

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題目

を検討してきた。本プログラムで学んだことを、正課授業、課外活動の両面で活用できているが多いこ

とが明らかになった。ただし、今後の課題も多々発見された。 まず、報告担当者の負担である。本プログラムは、指定図書を講読し、発表・討議するといういわゆ

る「ゼミナール形式」による運営をおこなっているが、報告者の負担が大きいことが問題となっている。

負担を軽減するために、参加者人数を増加させることや各参加者の報告担当箇所を最初に決めることが

必要である。あるいは抜本的に運営方法を変更することが必要かもしれない。 更に、十分なディスカッションができなかったことも課題として残される。参加者人数が少ないこと

も理由の一つであるが、個々の参加者がより積極的に発言できる場を作り出すことが必要である。その

ためには、まずは本プログラムの運営者である筆者がディスカッションしやすい雰囲気を作り出してい

くことが必要であるが、そのうえで参加学生が当日の講読箇所を熟読しておくことが求められる。その

ために、ある程度の強制的に発言させるような方法を取らざるを得ないかもしれない。 最後に、参加者数を増加させるために、「目に見える目標」を設定することが求められる。自由闊達に

議論する雰囲気も残しつつ、本プロジェクトでどのような“能力”が得られ、またどのように“活用”できる

のかを提示することが必要である。例えば、「経営学検定」(主催:一般社団法人日本経営協会/特定非

営利活動法人経営能力開発センター)といった資格への挑戦を促すことも一つの方法であろう。また、

新たに参加した学生に対して先輩から本プロジェクトで学んだことがどのように活用できるかについて

レクチャーする機会を持つことも改善策である。 もっとも、本稿で述べている改善策については十分な検討を経ているものではなく、「思いつき」の範

囲を脱していない。今後、理論的な妥当性を検討したうえで、本プロジェクト運営で実践していきたい

と考えている。また、本研究は少数のアンケートおよびインタビューから得た情報・データのみにより

考察している。より多くのサンプルを集め、より精緻な検証を進めることも必要である。特に学科間の

特性や将来希望進路の差異による本プログラムへの参加意欲などは別紙にて検討したいと考えている。 こうした課題をクリアしながら、技術者にとって不可欠な経営学に関する知識についてともに学びあ

う場を継続的に提供していきたい。

謝辞

本稿作成にあたり、インタビュー調査ならびにアンケート調査に協力いただいた皆さんに対し、ここ

に記して感謝もうしあげます。なお、いうまでもなく本稿についての誤謬は、すべて筆者の責任に帰す

ものです。

参考文献

1) 金沢工業大学 WEB ページ・「KIT の特色ある課外活動プログラム KIT オナーズプログラム」

http://www.kanazawa-it.ac.jp/nyusi/honor/ (2015 年 8 月 30 日アクセス)

2) 加護野忠男「経営学の全体像」加護野忠男・吉村典久編著・1 からの経営学(第 2 版)・碩学舎・

三重・2012・p.37.

3) 加護野:前掲書・p.38. 4) 楠木建「経営『学』は役に立つのか」一橋大学イノベーション研究センター監修・一橋ビジネス

レビュー別冊 No.1 はじめての経営学・東洋経済新報社・東京・2011・p.4-12. 5) 加護野:前掲書・pp.33-34. 6) 齊藤毅憲「高校教科書における『経営』の現状と改善」佐々木恒男・小山修・夏目啓二ほか監修

/全国ビジネス系大学教育会議編著・ビジネス系大学教育における初年次教育・学文社・2012・pp.183-200.

248 KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-

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題目

7) 延岡健太郎・MOT[技術経営]入門・日本経済新聞社・東京・2006・pp.11-12. 8) 上村和美「初年次教育におけるスタディ・スキル」初年次教育学会編・初年次教育の現状と未来・

世界思想社・京都・2013・pp.83-96.

付録 アンケート調査用紙 質問項目

Ⅰ)あなた自身のことについて、お尋ねします。

Ⅰ-1 学部・学科、現在の学年、氏名を教えてください。

学部: 学科: 学年: 年 氏名:

Ⅰ-2 本プログラムに参加していた期間を教えてください(記入例:2014 年度後学期と 2015 年度前学

期)。

Ⅰ-3 上記で答えた期間の参加頻度(開催回中どの程度参加したか)はどのくらいでしたか。あてはま

る番号を記入してください。

1.80%以上の参加頻度だった 2. 60%以上 80%未満の参加頻度だった

4.40%以上 60%未満の参加度だったした 4.40%未満の参加頻度だった

Ⅰ-4 本プログラムに参加するまでに「経営学」を勉強していた経験はありましたか。あてはまる番号

を記入してください。

1.あった 2. なかった

Ⅱ)本プログラムでの成果(効果)について、お尋ねします。

Ⅱ-1 本プログラムで学んだことが、皆さんの正課の授業科目に役立ちましたか。あてはまる番号を記

入してください。

1.大いに役立った 2. 少し役立った 3.あまり役立たなかった 4.全く役立たなかった

5.わからない

Ⅱ-1 前問Ⅱ-1でそのように回答した理由はなぜですか。自由に記述してください。

Ⅱ-3 本プログラムで学んだことが、課外での活動(他プロジェクトや部活動、アルバイトなど)に役

立ちましたか。あてはまる番号を記入してください。

1.大いに役立った 2. 少し役立った 3.あまり役立たなかった 4.全く役立たなかった

5.わからない

Ⅱ-4 前問Ⅱ-3でそのように回答した理由はなぜですか。自由に記述してください。

Ⅱ-5 本プログラムで学んだことが、就職後に役立ちますか。あてはまる番号を記入してください。

1.大いに役立つ 2. 少し役立つ 3.あまり役立たない 4.全く役立たない 5.わからない

Ⅱ-6 前問Ⅱ-5でそのように回答した理由はなぜですか。自由に記述してください。

Ⅲ)本プログラムでの改善点や問題点について、お尋ねします。

Ⅲ‐1 本プログラムの負担度はどうでしたか。あてはまる番号を記入してください。

1.大いに負担だった 2. 少し負担だった 3.あまり負担ではなかった 4.全く負担ではな

かった

Ⅲ-2 前問Ⅲ-1でそのように回答した理由はなぜですか。自由に記述してください。

Ⅲ‐3 本プログラムに参加した際に、皆さん自身に問題点はありましたか。自由に記述してください。

Ⅲ‐4 本プログラム自体の問題点はありましたか。自由に記述してください。

[受理 平成 27 年 8 月 31 日]

題目

を検討してきた。本プログラムで学んだことを、正課授業、課外活動の両面で活用できているが多いこ

とが明らかになった。ただし、今後の課題も多々発見された。 まず、報告担当者の負担である。本プログラムは、指定図書を講読し、発表・討議するといういわゆ

る「ゼミナール形式」による運営をおこなっているが、報告者の負担が大きいことが問題となっている。

負担を軽減するために、参加者人数を増加させることや各参加者の報告担当箇所を最初に決めることが

必要である。あるいは抜本的に運営方法を変更することが必要かもしれない。 更に、十分なディスカッションができなかったことも課題として残される。参加者人数が少ないこと

も理由の一つであるが、個々の参加者がより積極的に発言できる場を作り出すことが必要である。その

ためには、まずは本プログラムの運営者である筆者がディスカッションしやすい雰囲気を作り出してい

くことが必要であるが、そのうえで参加学生が当日の講読箇所を熟読しておくことが求められる。その

ために、ある程度の強制的に発言させるような方法を取らざるを得ないかもしれない。 最後に、参加者数を増加させるために、「目に見える目標」を設定することが求められる。自由闊達に

議論する雰囲気も残しつつ、本プロジェクトでどのような“能力”が得られ、またどのように“活用”できる

のかを提示することが必要である。例えば、「経営学検定」(主催:一般社団法人日本経営協会/特定非

営利活動法人経営能力開発センター)といった資格への挑戦を促すことも一つの方法であろう。また、

新たに参加した学生に対して先輩から本プロジェクトで学んだことがどのように活用できるかについて

レクチャーする機会を持つことも改善策である。 もっとも、本稿で述べている改善策については十分な検討を経ているものではなく、「思いつき」の範

囲を脱していない。今後、理論的な妥当性を検討したうえで、本プロジェクト運営で実践していきたい

と考えている。また、本研究は少数のアンケートおよびインタビューから得た情報・データのみにより

考察している。より多くのサンプルを集め、より精緻な検証を進めることも必要である。特に学科間の

特性や将来希望進路の差異による本プログラムへの参加意欲などは別紙にて検討したいと考えている。 こうした課題をクリアしながら、技術者にとって不可欠な経営学に関する知識についてともに学びあ

う場を継続的に提供していきたい。

謝辞

本稿作成にあたり、インタビュー調査ならびにアンケート調査に協力いただいた皆さんに対し、ここ

に記して感謝もうしあげます。なお、いうまでもなく本稿についての誤謬は、すべて筆者の責任に帰す

ものです。

参考文献

1) 金沢工業大学 WEB ページ・「KIT の特色ある課外活動プログラム KIT オナーズプログラム」

http://www.kanazawa-it.ac.jp/nyusi/honor/ (2015 年 8 月 30 日アクセス)

2) 加護野忠男「経営学の全体像」加護野忠男・吉村典久編著・1 からの経営学(第 2 版)・碩学舎・

三重・2012・p.37.

3) 加護野:前掲書・p.38. 4) 楠木建「経営『学』は役に立つのか」一橋大学イノベーション研究センター監修・一橋ビジネス

レビュー別冊 No.1 はじめての経営学・東洋経済新報社・東京・2011・p.4-12. 5) 加護野:前掲書・pp.33-34. 6) 齊藤毅憲「高校教科書における『経営』の現状と改善」佐々木恒男・小山修・夏目啓二ほか監修

/全国ビジネス系大学教育会議編著・ビジネス系大学教育における初年次教育・学文社・2012・pp.183-200.

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事例報告 KIT Progress No.24

題目

東 俊之 講師 基礎教育部 修学基礎教育課程

250 KITオナーズプログラム「技術者のための経営知識向上プログラム」の取り組み-成果と課題-