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mono YUI CANNING ●[由比缶詰所] SINCE1933 VOL.122 Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP) Yui Canning Archives Text/Teruhiko Doi 20 Chicken of the sea 20 日本で最初のマグロ油漬缶詰は 1929年に静岡県の水産試験場が 完成させた。やがて「富士丸ブランド」 として対米輸出が開始された。 117 116

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Page 1: mono 日本で最初のマグロ油漬缶詰は YUI CANNING として対米 … · 2018-10-02 · mono YUI CANNING [由比缶詰所] SINCE1933~ VOL.122 Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP)

monoYUI CANNING●[由比缶詰所]SINCE1933~

VOL.122

Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP)    Yui Canning ArchivesText/Teruhiko Doi

太平洋戦争が終わった20世紀

中頃まで、アメリカ東海岸の

ボストン周辺では「シーターキー」と

呼ばれたツナ缶が人気だった。

米国産の「C

hicken of the sea

」などの

有名ブランドも多く出回っていたが、

そんな中、遠い太平洋の向こうで

作られた「ホワイトミート」という名の、

質のいいマグロ油漬(あぶらづけ)缶詰が

出回るようになる。

色も味も七面鳥の肉に似ている、

ということで当時のアメリカ人の

味覚に合ったのか

主に白人の中産階級の

間で大人気となっていった。

そもそもマグロの油漬缶詰が

アメリカで発明されたのは

20世紀初頭のこと。

そんな発明品が半世紀も

経たないうちに質のいい製品として

日本から輸入されていたのだった。

いま最高級のマグロ油漬缶詰の

製造メーカーとして注目される

『由比缶詰所』の歴史は、

まさにアメリカ人の舌を魅了した

この当時から始まっている。

中でも農林水産省から表彰された

最高級のホワイトミート

「特撰まぐろオリーブ油漬け」は

まだまだ多くの日本人が知らない

ツナ缶の傑作品。

この記事を読み終わった後、

あなたはきっとこのツナ缶を

食べてみたくなるはずだ。

日本で最初のマグロ油漬缶詰は1929年に静岡県の水産試験場が完成させた。やがて「富士丸ブランド」として対米輸出が開始された。

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Page 2: mono 日本で最初のマグロ油漬缶詰は YUI CANNING として対米 … · 2018-10-02 · mono YUI CANNING [由比缶詰所] SINCE1933~ VOL.122 Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP)

monoOCCUPIED JAPAN

の時代とニッポン

 

第二次世界大戦後、日本

は米国の占領下となった。

民間貿易が再開された19

47年から、サンフランシス

コ講和条約発効の1952

年までの約5年間、主に北

米に向けた日本からの輸出

品には「M

ade in occupied Japan

」の刻印が付けられ

ていた。GHQの命により

〝占領下日本製〞を謳わなけ

ればならない時代だったの

だ。いまではこの期間に作

られた玩具や陶磁器などは

コレクター品となっている

が、「特撰まぐろオリーブ油

漬」はそのレトロな時代のデ

ザインを踏襲。WHITE

SHIP印は、メイドイン

ジャパンの夜明けの時代を

思い出す意匠なのである。

農林水産省

食品流通局長賞を受賞した由比缶詰所の

「特撰まぐろオリーブ油漬」。そもそも普及品のツナ缶の多くは、

キハダマグロやカツオを原料に

大豆油を使用したものがほとんどだが、

この製品の原料にはびん長マグロのみが使用され、

香り高いイタリア産のオリーブオイルで漬けてある。

またツナ缶といえば、日本では身をほぐしたフレークが

一般的だが、世界的な主流は魚肉をほぐしていない

ブロック・タイプ(ファンシー)だという。

由比缶詰所の製品はフレーク(オリーブグリーン地のラベル)と

ファンシー(白地のラベル)の両方が用意されている。

原料のびん長マグロは毎年、5月〜7月の時期に

日本近海に回遊してきた「夏びん」を使う。

初夏はマグロの色も脂も程よい具合になる時期だそうで、

その風味を損わずに加工し、缶の中でオリーブオイルに

漬け込むのである。出来上がった製品はそこからさらに半年間、

倉庫の中で熟成され、ようやく出荷となる。高品質の原料と

惜しみない手間。旨くないはずがないではないか。

上:ファンシー 下:フレーク

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社員が作ったことに胸を張れる

自社商品を、の願いから誕生

mono

験場が日本初のマグロの油漬缶詰

を完成させ、やがて「富士丸ブラ

ンド」として対米輸出されるよう

になったという歴史がある。当時

の静岡県は地元の缶詰業者にこの

マグロ油漬缶詰の製品化を推奨し、

多くのメーカーが参入したという。

由比缶詰所もそのひとつだった。

『由比缶詰所』は1933年(昭

和8年)創業。戦時中は、県の缶

詰工場として統一され、軍需用に

缶詰を作っていた。そして戦後の

1948年(昭和23年)に民間の株

式会社として発足。当時はGHQ

管理下で主にアメリカ向けの

輸出品(O

CCUPIED JAPAN

の缶詰を作っていたという。マグ

ロを始めとした水産物、静岡名産

のミカンやその他の果物を使っ

た缶詰などを手がけていた。いま

 

県の南部を広く太平洋に面し

た静岡県は、古くから海運や漁業

が盛んな地域。有名な清水の次郎

長も、清水港で海運業を営む家で

生まれた。意外に知られていない

が、静岡県静岡市は冷凍マグロの

水揚げ量が日本一であり、マグロ

にかける年間の世帯支出額も高

い。そして有名なツナ缶のメーカ

ーもこの地に集まっている(ツナ

缶は一般にはシーチキンという通

名でも知られているが、シーチキ

ンは静岡県清水区にある水産加

工製造販売のはごろもフーズの

商標である)。

 

そもそもマグロ油漬缶詰という

のは1903年にアメリカで発明

されたもの。日本でも各地の水産

試験場で試作が繰り返され、よう

やく1929年、静岡県の水産試

直接買い求めに来るお客さんが

ひきも切らず訪れている。

 

現在の人気製品である「まぐろ

オリーブ油漬」の製造・販売が始

まったのは1996年(平成8年)

のこと。1999年には同商品が

「農林水産省

食品流通局長賞」を

受賞。ニッチな商品として細々と

販売され続けていたが、ネットの

時代になり、SNSや流通といっ

た社会システム自体が大きく変貌

して、10年ほど前からその存在が

徐々に知られるようになってきた。

スタート時は顧客120人、現在

同社が発行する「由比缶詰所通信」

は5万部の発行部数だそうだ。

ほど物流システムや冷蔵・冷凍技

術が発達していなかった時代、水

揚げされた魚介類や農産物の缶

詰製造は、収穫の時期に大量に製

造加工されていた。その時期にな

ると、全国から多くの季節労働者

が集まっていたそうだ。同社の業

態は主に卸向けの製造が中心だ

った。1958年(昭和33年)に

「WHITE

SHIP」の商標登

録を行い、ツナ2号缶まぐろ綿実

油漬ファンシー、フレークの販売

を開始。1975年(昭和50年)

になると「WHITE

SHIP」

製品の自社販売を開始した。

 

この昭和50年に始まった自社販

売のきっかけとなったのは、同社

で働く従業員たちが持っていた一

つの願い。それは「これだけいい

製品を毎日作っているのだから、

社員自身が作ったことに胸を張れ

るような自社商品が欲しい」とい

う願いだった。ただ、当時は大手

メーカーのOEMも行っており、

その販売は実にささやかに、社員

の家族向けとして売り出されただ

けだった。「昔の綿実油の味が懐か

しい」という社員の声に応えて、

「WHITE

SHIP」印まぐろ

綿実油漬の製造販売が再開され

たのもこのときから。その当時の

名残か、現在も同社製品の販売は

本社敷地内にあるレトロな佇ま

いの直販所でも行なわれており、

製品のラベルは機械ではなく手作業で貼る。衛生的な環境で作られる由比缶詰所の製品。 今も昔も静岡市清水区由比に所在。 昭和の時代の従業員たち。

「自分たちが胸を張れる自社製品を」という願いから誕生。

手作業によるマグロの加工。熟練社員が活躍。

舟木一夫に高田美和、吉永小百合などなど、いまの若者には馴染みはないだろうが、いずれも昭和の大スターたち。そのスターに出会えるタイムカプセルのような社員寮の一室。

当時のままの表札が今も残っている本社入口。

レトロな外観の社屋がいたる場所に。

いまも残る昭和の働き手

たちが暮らした社員寮

 

静岡市清水区由比にあ

る「由比缶詰所」の本社敷

地内には、古くからのレト

ロな建物がまだたくさん

残っている。季節労働で一

時的に増えた従業員のため

の社員寮もそのまま保存さ

れており、中に入ると、貼

られているポスターの昭和

感に感動する。雑誌「明星」

から切り抜いた、当時の芸

能人のピンナップがそのま

ま残されている。

しずおか葵プレミアムAWARD2017認証商品由比缶詰所の「特撰まぐろオリーブ油漬」は、静岡市が実施する「しずおか葵プレミアム・アワード」の認証商品。このアワードは、市民投票で選ばれた商品を静岡市の地域ブランドとして市が認証したもの。メイドイン静岡の逸品として、市民が支持した意義は大きい。

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mono

由比缶詰所の製品に関するお問い合わせは0120-272-548

http://www.yuican.com

欲しくなったら

直販所かHPで

 

由比缶詰所本社敷地内

にひっそりとオープンし

ている直販所は、一度訪れ

てみる価値あり。レトロな

建物の前には、休日になる

と他県ナンバーのクルマも

数多くやってくる。みんな

その美味しさを知ってい

るのだ。同社HP内ウエブ

ショップでも購入可能。直

販所営業時間は午前8時〜

午後5時。土日休日は休み。

不定休日もあるので要確認。

住所=静岡県静岡市清水区

由比429-

1

上:マグロと相性のいいピュアオリーブオイル100%使用の「特撰まぐろオリーブ油漬」大型缶3缶セット/価格1150円(フレーク)、1247円(ファンシー)。下:同社HPには掲載されていない、限定の最上級品「炙りビントロ」。ほんのり香ばしさの漂わせながらコクのある味は絶品。直販所のみで入手可。価格540円。

最高級の原料と良質な油、そしてじっくりと熟成させて出荷。誰もが驚く美味しさの秘密。

特撰まぐろオリーブ油漬 フレーク/ツナ缶の世界では特異なマーケットである日本では、ブロックよりもフレークが人気。先に発売されたファンシーの後、平成12年から発売されたフレーク。サラダやパスタなど、料理の幅が広がるツナ缶だ。価格238円(小型缶/ヒラ3号フレーク缶)、346円(大型缶/ツナ2号フレーク缶)

特撰まぐろオリーブ油漬 ファンシー/ツナ2号缶(175g)が「農林水産省 食品流通局長賞」を受賞。平成8年から製造・販売が開始されたファンシー。とにかくそのブロック状のツナの塊を頬張ると感動する美味しさ。マヨネーズなど不要だ! 価格259円(小型缶/ヒラ3号ファンシー缶)、378円(大型缶/ツナ2号ファンシー缶)

「由比缶詰所」社屋。創業は昭和8年。写真下は同社現社長の織戸仁氏(左)と、現会長の彦坂勝之氏(右)。

特撰まぐろ油漬(綿実油)/約30年前、当時の社員たちの「自分たちが一番食べたいと思うものを作ろう」という声から生まれたホワイトシップ印。綿実油のみを使用したコクとまろやかさのある味。フレーク=価格162円(小型缶)、270円(大型缶)。ファンシー=価格173円(小型缶)、292円(大型缶)

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