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1 2012/7/19 港湾空港技術研究所 地震動研究チーム 南海トラフの地震(Mw9.0)を対象とした SPGA モデルによる地震動の評価 1. はじめに 内閣府は 2012 3 31 日付けで南海トラフの地震(Mw9.0)に関する新たな想定を公表している.こ の中では, SMGA モデルを用いた震度の想定も行われている.しかしながら,内閣府による地震動の想定と, 工学的な地震動の想定は目的が異なっている点に注意しなければならない(表-1). 内閣府による地震動の想定は震度 の計算を目的としている.それに対し,工学的な地震動の想定では,構 造物の耐震検討用の地震動の評価が目的であり,そこでは波形 ,スペクトル PSI などが重要である. 内閣府による地震動の想定では,震度の推定が目的なので,内閣府は,東北地方太平洋沖地震の観測記録 をもとに,SMGA モデルによって震度が適切に再現できることを確認している.しかしながら,SMGA デルは,波形,スペクトル,PSI 値の再現には必ずしも適していない. 港空研では,海溝型巨大地震による波形,スペクトル,PSI 値の再現に適した震源モデルとして SPGA デルを開発し,東北地方太平洋沖地震の観測記録をもとに,その適用性の確認を行っている(図-1,図-2-3,表-2).一方,図-4 に示すように,宮城県で観測された二つ目の波群を対象に,SPGA モデルによる 計算と SMGA モデルによる計算を行ったところ,図-5 に示すように,SMGA モデルでは,波形を再現でき ないことがわかる.しかも SMGA モデルの場合,図-6 に示すように,少し分割数を変えただけで波形が大 きく変動してしまうという問題がある. このように,工学的な地震動の想定では,波形,スペクトル,PSI 値の再現性が確認されている SPGA デルを用いる必要がある -1 内閣府による地震動想定と工学的な地震動想定の違い 目的 用いるべき震源モデル 内閣府による地震動想 震度分布の表示 震度を再現できる震源モデル 工学的な地震動想定 耐震検討 波形,スペクトル,PSI 値を再現で きる震源モデル

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Page 1: Mw9.0 SPGA SMGA -1 PSI SMGA PSI SPGA -1 -2 -3 …...3 図-2 SPGA モデルによる2011 年東北地方太平洋沖地震の波形の再現性(0.2-1Hz の速度波形) 図-3 SPGA

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2012/7/19 港湾空港技術研究所 地震動研究チーム

南海トラフの地震(Mw9.0)を対象とした SPGA モデルによる地震動の評価

1. はじめに

内閣府は 2012 年 3 月 31 日付けで南海トラフの地震(Mw9.0)に関する新たな想定を公表している.こ

の中では,SMGA モデルを用いた震度の想定も行われている.しかしながら,内閣府による地震動の想定と,

工学的な地震動の想定は目的が異なっている点に注意しなければならない(表-1). 内閣府による地震動の想定は震度の計算を目的としている.それに対し,工学的な地震動の想定では,構

造物の耐震検討用の地震動の評価が目的であり,そこでは波形,スペクトル,PSI 値などが重要である. 内閣府による地震動の想定では,震度の推定が目的なので,内閣府は,東北地方太平洋沖地震の観測記録

をもとに,SMGA モデルによって震度が適切に再現できることを確認している.しかしながら,SMGA モ

デルは,波形,スペクトル,PSI 値の再現には必ずしも適していない. 港空研では,海溝型巨大地震による波形,スペクトル,PSI 値の再現に適した震源モデルとして SPGA モ

デルを開発し,東北地方太平洋沖地震の観測記録をもとに,その適用性の確認を行っている(図-1,図-2,図-3,表-2).一方,図-4 に示すように,宮城県で観測された二つ目の波群を対象に,SPGA モデルによる

計算と SMGA モデルによる計算を行ったところ,図-5 に示すように,SMGA モデルでは,波形を再現でき

ないことがわかる.しかも SMGA モデルの場合,図-6 に示すように,少し分割数を変えただけで波形が大

きく変動してしまうという問題がある. このように,工学的な地震動の想定では,波形,スペクトル,PSI 値の再現性が確認されている SPGA モ

デルを用いる必要がある.

表-1 内閣府による地震動想定と工学的な地震動想定の違い 目的 用いるべき震源モデル 内閣府による地震動想

定 震度分布の表示 震度を再現できる震源モデル

工学的な地震動想定 耐震検討 波形,スペクトル,PSI 値を再現で

きる震源モデル

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図-1 2011 年東北地方太平洋沖地震を対象とした SPGA モデル

表-2 2011 年東北地方太平洋沖地震を対象とした SPGA モデルのパラメター

破壊開始時刻 長さ 幅 面積 地震モーメント すべり量 ライズタイム

(h:m:s) km km km2 Nm m s

SPGA1 14:46:43.5 3.0 2.0 6.0 8.00E+18 28.3 0.17SPGA2 14:46:46.9 4.0 3.0 12.0 8.00E+18 14.1 0.25SPGA3 14:47:33.4 4.0 2.0 8.0 4.00E+18 10.6 0.17SPGA4 14:47:26.3 3.5 3.0 10.5 2.10E+19 42.4 0.25SPGA5 14:47:57.1 3.0 4.0 12.0 3.00E+18 5.3 0.33SPGA6 14:48:04.4 3.0 4.0 12.0 3.00E+18 5.3 0.33SPGA7 14:48:15.0 6.0 2.0 12.0 5.00E+18 8.8 0.17SPGA8 14:48:25.8 8.0 3.0 24.0 9.00E+18 8.0 0.25SPGA9 14:48:30.9 7.0 7.0 49.0 2.00E+19 8.7 0.58

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図-2 SPGA モデルによる 2011 年東北地方太平洋沖地震の波形の再現性(0.2-1Hz の速度波形)

図-3 SPGA モデルによる 2011 年東北地方太平洋沖地震の PSI 値の再現性 (黒:観測結果,赤:再現結果,緑:地震基盤での PSI 値の推定結果)

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図-4 計算対象とする SPGA と SMGA(SMGA の面積は内閣府を参考に設定した)

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図-5 SPGA モデルと SMGA モデルによる計算結果の比較(分割数 5×5×5)

(SMGA モデルの場合,波形は合わない)

図-6 SPGA モデルと SMGA モデルによる計算結果の比較(分割数 7×7×7)

(SMGA モデルの場合,分割数により波形が大きく変動する)

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2. 震源モデル ここでは,南海トラフの地震(Mw=9.0)を対象とし,SPGA モデルの設定を行う. まず,対象とする地震は Mw=9.0 であり,東北地方太平洋沖地震と同規模であることから,個々の SPGAのパラメター(面積,地震モーメント等)は,東北地方太平洋沖地震による地震動を再現することに成功し

た SPGA のパラメター(表-2)を用いる. ただし,SPGA の位置については,予測ができないので,以下に述べるように,極めて多数のケースにつ

いて計算を行う. まず,内閣府の想定(2012/3/31)では SMGA の配置として基本ケース,東側ケース,西側ケース,陸側

ケースの 4 通りが考えられている(図-7,図-8).いずれのケースも 12 個の SMGA から成りなっている. このうち,まず,基本ケースを取り上げ,東北の 9 個の SPGA を内閣府の SMGA 上に順次配置していく.

ただし内閣府の SMGA は 12 個あるのに対し東北の SPGA は 9 個であるので,最後の 3 個については,東

北の最下位の SPGA と同じパラメターが続くものとする.図-9 は高知港にとって最も厳しくなるような

SPGA の配置を示したものであるが,もちろん配置の仕方はこの一通りではなく,全部で 12!(階乗)通り

存在する.同様の作業を東側ケース,西側ケース,陸側ケースについても考慮し,全部で 12!×4 通りの配置

を考える. 全ての組み合わせに対し,対象港湾の地震基盤における PSI 値を計算し,厳しいものから順位付けする.

そして, ①最も厳しい地震動をもたらす SPGA 配置 ②90%非超過の地震動をもたらす SPGA 配置 ③50%非超過の地震動(ここでは平均的な地震動という)をもたらす SPGA 配置 を求め,それらの配置に対応した対象港湾での工学的基盤での地震動を計算する.

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図-7 内閣府の想定(2012/3/31)における SMGA の配置

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図-8 内閣府の想定(2012/3/31)による SMGA の重ね書き

図-9 基本ケースの場合の SPGA の配置の一例(高知港に対して厳しい場合)

○東北地方太平洋沖地震の SPGA4 と同じパラメター ○東北地方太平洋沖地震の SPGA1 と同じパラメター ○東北地方太平洋沖地震の他の SPGA と同じパラメター

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3. 地震動算定条件 ここで対象とするのは表-3 に示す 44 地点である.

伝播経路の Q 値としては,静岡県から三重県にかけての港湾では佐藤・巽(2002)による東日本海溝型

地震のQ値(Q=114f0.92),和歌山県から兵庫県にかけての港湾ではPetukhin他(2003)によるQ値(Q=90f0.8),

中国以西の港湾では佐藤・巽(2002)による西日本海溝型地震の Q 値(Q=152f0.38)を利用した. また,『港湾の施設の技術上の基準・同解説』にあるように,港湾毎(およびゾーン毎)のサイト増幅・

位相特性を考慮した.位相特性については,対象とする地震の震源断層付近(より詳しくは震源断層の中で

も特に対象港湾に大きく影響する SPGA)のできるだけ近くで発生した中小地震の位相特性を利用するのが

良い.そこで,表-3 に示すように,港湾毎(およびゾーン毎)に適切な位相特性を選定した. 対象とする港湾(ゾーン)の位置を図-10 に示す.図-10 には,港湾毎(およびゾーン毎)に,50%非超過

の地震動(平均的な地震動)をもたらす SPGA 配置を示している.また,採用した中小地震の震央を×で示

している.全体としては,各港湾の最寄りの SPGA の近くで発生した中小地震を選択することができている.

ただし,四日市港(霞ヶ浦地区)のように,記録数の制約から,最寄りの SPGA の近くで発生した中小地震

を選択することができていない港湾(ゾーン)も存在する.

表-3 対象港湾(ゾーン)および設定した位相特性 地点番号 港湾(ゾーン) 観測点 発生日 震央 M Δ 備考

9307 三河港① 三河-G 20010223 浜名湖地方 5.0 20.09319 三河港② AIC014 20010223 浜名湖地方 5.0 32.09308 名古屋港① 名古屋空見-G 20001031 志摩半島 5.7 97.1  9320 名古屋港② AIC011 20001031 志摩半島 5.7 92.09310 清水港② 清水日の出-U2 20061216 静岡県中部 4.0 17.8  9321 清水港③ 新興津-U2 20061216 静岡県中部 4.0 15.5 9312 四日市港 四日市-G 20001031 志摩半島 5.7 78.29324 四日市港(霞ヶ浦地区) 四日市-U 20090811 駿河湾南部 6.5 168.6  9314 御前崎港 御前崎-G 20090811 駿河湾南部 6.5 32.49406 日高港 WKYH10 20011002 紀伊半島南方沖 4.6 46.09407 神戸港① 神戸-G 19950909 紀伊水道南部 4.5 49.6 神戸PIの記録で代用9415 神戸港② 神戸PI 19950909 紀伊水道南部 4.5 49.6 9416 神戸港③ 神戸RI 19950909 紀伊水道南部 4.5 49.6 9418 神戸港④ OSKH02 20051101 紀伊水道 4.3 97.09408 大阪港① 大阪事-G 20051101 紀伊水道 4.3 97.0 OSKH02の記録で代用9409 大阪港② 大阪南-G 20051101 紀伊水道 4.3 97.0 OSKH02の記録で代用9414 大阪港③ OSKH02 20051101 紀伊水道 4.3 97.09411 和歌山下津港 和歌山-G 19950909 紀伊水道南部 4.5 49.6  9609 須崎港 KOCH07 20091216 土佐湾 4.6 32.0  9610 宿毛湾港(池島地区) KOC015 20091216 土佐湾 4.6 62.0  9611 高知港 高知-G 20101006 高知県中部 4.5 15.4  9613 徳島小松島港(小松島港地区) 小松島-G 19950909 紀伊水道南部 4.5 59.7  9617 徳島小松島港(津田地区) TKS002 20051101 紀伊水道 4.3 52.0  9618 徳島小松島港(沖洲地区) TKS002 20051101 紀伊水道 4.3 52.09725 細島港 細島-G 20010425 日向灘 5.8 76.49726 宮崎港 宮崎-G 19961019 日向灘 6.9 53.49727 大分港 大分-G 20010425 日向灘 5.8 74.69730 志布志港 志布志-G 19961019 日向灘 6.9 92.49402 堺泉北港 OSK006 20051101 紀伊水道 4.3 92.09412 尼崎西宮芦屋港① 尼崎-G 20051101 紀伊水道 4.3 97.0 OSKH02の記録で代用9413 尼崎西宮芦屋港② 西宮-G 20051101 紀伊水道 4.3 97.0 OSKH02の記録で代用9419 尼崎西宮芦屋港③ OSKH02 20051101 紀伊水道 4.3 97.09503 水島港(玉島地区) 臨時地震観測点 20070708 四国沖 4.2 157.39525 水島港(水島玉島地区) 臨時地震観測点 20090722 四国沖 4.8 175.79504 福山港 HRS015 20070426 四国中部 5.3 69.0  9513 宇部港 YMGH06 19981110 愛媛県南西部 4.2 165.0 9515 徳山下松港 YMG014 20091216 土佐湾 4.6 178.0  9517 広島港 広島-G 20091216 土佐湾 4.6 161.2  9524 広島港(江波地区) HRS013 20091216 土佐湾 4.6 164.0  9526 広島港(吉島地区) HRS013 20091216 土佐湾 4.6 164.0  9527 広島港(船越・矢野地区(区域A)) HRS013 20091216 土佐湾 4.6 164.0  9528 広島港(船越・矢野地区(区域B')) 臨時地震観測点 20091216 土佐湾 4.6 159.6   9601 橘港 TKS003 20051101 紀伊水道 4.3 45.0  9999 和歌山港船尾地区防波堤 民間地震観測点 20011002 紀伊半島南方沖 4.6 82.3  

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図-10 対象港湾(ゾーン)および 50%非超過の地震動(平均的な地震動)をもたらす SPGA 配置

(×は採用した中小地震の震央)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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図-10(つづき)

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4. 地震動算定結果

対象とした 44 の港湾(ゾーン)のうち 28 において,今回計算された地震動の PSI 値を,頻度の高い津波

に対応する既存の地震動(整備局提供)の PSI 値と比較したものが図-11 である.頻度の高い津波に対応す

る既存の地震動の PSI 値は大きいところでも 200 程度であることがわかる(ただし,清水港日の出地区は例

外的に大きく 280 程度).そこで,図-11 では一つの目安として PSI=300 を設計上対応できる上限のレベル

として示している(青破線).それに対して,SPGA モデルによる 90%非超過の地震動の PSI は最大で 821(細島港)となっており,90%非超過の地震動を選択する場合には,港湾によっては非常に厳しい地震動と

なることがわかる.一方,SPGA モデルによる 50%非超過の地震動(平均的な地震動)の PSI 値は最大で

274(四日市港霞ヶ浦地区)となっている.SPGA モデルによる 50%非超過の地震動の PSI 値の一覧を表-4に示す.

表-4 PSI 値の計算結果(50%非超過の地震動) 地点番号 港湾(ゾーン) 東経 北緯 PSI値

50%非超過9307 三河港① 137.343 34.731 212.79319 三河港② 137.220 34.826 69.09308 名古屋港① 136.848 35.059 129.49320 名古屋港② 136.864 34.997 148.19310 清水港② 138.496 35.007 181.89321 清水港③ 138.517 35.039 113.09312 四日市港 136.638 34.953 150.69324 四日市港(霞ヶ浦地区) 136.665 34.989 264.49314 御前崎港 138.216 34.610 170.59406 日高港 135.217 33.825 65.29407 神戸港① 135.207 34.690 45.99415 神戸港② 135.205 34.673 93.89416 神戸港③ 135.262 34.691 51.39418 神戸港④ 135.390 34.663 140.89408 大阪港① 135.443 34.649 75.19409 大阪港② 135.425 34.612 76.09414 大阪港③ 135.390 34.663 140.89411 和歌山下津港 135.145 34.217 141.39609 須崎港 133.287 33.392 62.39610 宿毛湾港(池島地区) 132.725 32.937 66.39611 高知港 133.567 33.508 178.39613 徳島小松島港(小松島港地区) 134.587 34.017 73.29617 徳島小松島港(津田地区) 134.582 34.044 102.99618 徳島小松島港(沖洲地区) 134.582 34.044 124.49725 細島港 131.648 32.433 274.59726 宮崎港 131.455 31.903 205.99727 大分港 131.744 33.249 131.39730 志布志港 131.108 31.476 59.99402 堺泉北港 135.471 34.589 77.19412 尼崎西宮芦屋港① 135.401 34.715 111.59413 尼崎西宮芦屋港② 135.346 34.719 70.39419 尼崎西宮芦屋港③ 135.390 34.663 140.89503 水島港(玉島地区) 133.684 34.501 87.59525 水島港(水島玉島地区) 133.684 34.523 37.09504 福山港 133.362 34.485 52.09513 宇部港 131.301 33.989 29.39515 徳山下松港 131.808 34.054 21.49517 広島港 132.467 34.354 41.29524 広島港(江波地区) 132.451 34.377 29.99526 広島港(吉島地区) 132.451 34.377 29.29527 広島港(船越・矢野地区(区域A)) 132.451 34.377 42.49528 広島港(船越・矢野地区(区域B')) 132.522 34.364 27.59601 橘港 134.604 33.872 121.99999 和歌山港船尾地区防波堤 135.185 34.148 112.7

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図-11 PSI 値の計算結果

次に波形の特徴について見てみる.震源に近い高知港では SPGA モデルによりパルス状の波形が計算され

ている(図-12 上).同じ地点に対して,SMGA モデル(基本ケース)を用いて地震動を計算すると,ばら

けた波形となる(図-12 下).これは東北の地震に対して表れたのと同様の傾向である.海溝型巨大地震に

特徴的なパルス状の波形を再現できるのは SPGA モデルの方であることがここでも再確認できる. 次に,頻度の高い津波に対応する既存の地震動と,SPGA モデルによる地震動との比較を図-13 に示す(大

大阪港③の例).堆積盆地の中であるため,いずれも継続時間の長い地震動となっている.PSI 値では,頻

度の高い津波に対応する既存の地震動と,SPGA モデルによる 50%非超過の地震動(平均的な地震動)がほ

ぼ同程度となっている.

図-12 計算結果の速度波形の例(0.2-1Hz)

Page 20: Mw9.0 SPGA SMGA -1 PSI SMGA PSI SPGA -1 -2 -3 …...3 図-2 SPGA モデルによる2011 年東北地方太平洋沖地震の波形の再現性(0.2-1Hz の速度波形) 図-3 SPGA

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図-13 頻度の高い津波に対応する既存の地震動と SPGA モデルによる地震動の比較

Page 21: Mw9.0 SPGA SMGA -1 PSI SMGA PSI SPGA -1 -2 -3 …...3 図-2 SPGA モデルによる2011 年東北地方太平洋沖地震の波形の再現性(0.2-1Hz の速度波形) 図-3 SPGA

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5. まとめ

以上のように,ここでは南海トラフの地震(Mw9.0)を対象とする港湾での照査用地震動の評価について

検討を行った.ここでの主な結論は次の通りである. ①港湾における照査用地震動の評価においては,震源モデルとして,海溝型巨大地震による波形,スペクト

ル,PSI 値を再現できることが確認されている SPGA モデルを用いることが妥当である. ②SPGA の位置を事前に予測することは困難である.そこで,SPGA の位置を変えながら,極めて多くのケ

ースに対して地震動を計算し,90%非超過,50%非超過等の地震動を計算する方法を提案した. ③SPGA モデルによる 90%非超過の地震動は,港湾によっては非常に厳しい地震動となる.一方,SPGA モ

デルによる 50%非超過の地震動(平均的な地震動)は,PSI 値の観点からは,頻度の高い津波に対応する既

存の地震動(整備局提供)と大きくは変わらないレベルである.