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This document is downloaded at: 2020-04-21T20:15:28Z Title 毒物を中心に見たイギリス文学・ イタリア文学・ドイツ文学との関 Author(s) 小沢, 敏夫 Citation 長崎大学教養部紀要. 人文科学. 1961, 1(1), p.9-46 Issue Date 1961-03-31 URL http://hdl.handle.net/10069/9486 Right NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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Title 毒物を中心に見たイギリス文学・ イタリア文学・ドイツ文学との関係

Author(s) 小沢, 敏夫

Citation 長崎大学教養部紀要. 人文科学. 1961, 1(1), p.9-46

Issue Date 1961-03-31

URL http://hdl.handle.net/10069/9486

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

毒物を中心に見たイギリス文学・

イタリア文学・ドイツ文学との関係

小沢敏夫

文学史上および毒薬史上から見て,イギリス文学は,毒薬に関する限り,世

界の宝庫といっても過言ではあるまい。特にShakespeare (1564-1616)の

作品は,ドイツのゲーテやシルレルに影響をおよぼし,またレッシンクは,イ

ギリスに取材して,悲劇Miβ Sara Sampsonに毒薬のテーマを取入れた。

シエークスピアが呼吸した時代は,化学史上では,錬金術時代から(i)医化学時

代に移るときで,文芸復興期に入り,ギリシア精神の復活が,化学の発達に影

響を与えた時代にあたる。 16 ・ 17世紀の化学は,これを他の科学の補助手段に

するとか,医学と融合させようと努力する過程にあたったので,医化学時代と

いわれる。この時代は,まだ錬金術・占星術・魔術が盛んでありAndreas

Vesalius (1514-1564)によって,解剖学がやっと進められ(2)ヨーロッパ

中の王侯・貴族は, Aqua Tofana蟻人形Poudre de successionによる

毒死に晒されていた時代である。毒薬の知識は,ローマ文化の滅亡後,まずア

ラビア人の科学によって促進され,比較にならないほど完全に且つ犯罪の目的

でしばしば用いられた。毒薬が文芸復興期の初頭に始まり,世界史上に一期を

劃することができたのは,イタリアの宮廷やイスパニアの宮廷における毒薬が

上げられる。重要な毒薬学にとって,古代ギリシアにおける東洋との関係が,

次第に深まり,特に当時,文化の先進国であったイタリアから,毒薬が普及す

る結果になったo近東地方・アラビアその他の東洋方面とのヴ-ネチア貿易に

よって,数多の毒薬を知るようになり,今でも見られる(3)亜批酸丸に対し

てPilulae asiaticae (アジア丸)という名称が残っている。

-9-

しかし,イスパニア・フランス,特にイギリスでは,毒薬の知識が次第に高

まり,完全なものとなったが,ドイツは,決して毒薬国にならなかった。

シェークスピアは,劇の素材を,多量にイタリア文化, ApulejusやBoc-

caccioなどの文学から採ったが,勿論,これらのものは,文芸復興によって復

活した古典であり,しかも,直接取入れたわけではない。なお,最古のイギリ

ス文学からも,毒薬の素材を採っている。この点では,イギリス文学の父とい

われるChaucer (1340-1400)の作品が重要になるOシェークスピアより200

年以前に活動した人で,すでにイギリス文学で,毒薬の素材をいちじるしく普

及させた人物である。また,ラテン文学やイタリア文学の心得があり,従てこ

れらのうちからBoccaccioからも,特に好んで毒薬を取材している。勿

請,シェークスピアは,すでに彼の時代以前に編集出版されたチョ-サーの作

品を知っていたので,この車から非常に多量の素材を採ったように思われる。

それ故,ずっと以前から,毒殺の素材を理解していたようであるCanterbu-

ry talesでは,古代ギリシア文学に現われたTelephusの治療に関する伝説

が利用されている。 「責公子物語」の中では,見知らぬ騎士が,切付ければ,

どんな甲官でも通す剣を怖れていたという。

(4)一撃を喰ったものは,ご慈悲がなければ決して治らない,巾広の剣で傷を

なでるまでは。お前たちは,剣を巧みに扱わねばならなぬぞ。刃が傷口に触

れねばならぬのだ。もし傷に触れれば,その傷は塞がる。

さらにこのチョーサーは, TelephusやAchillと同じ場合を上げている。

(5)かれ自ら与えた傷は,いま初めて聞いたばかりの剣と,全く同じ方法で治

る。

チョ~サーは,占星術に興味を感じたばかりでない,特に錬金術に対して深

ー10-

い関心を寄せ,大部分は古代の物語から採った毒殺事件を取材している。例

えばC6) 「CirceとMedeaの妖術」. (7) 「Deianeiraの毒シャツ」がある。

しかし,この毒シャツを掃えたのは, Nessusだという説もあるが, C8) Hera-

klesにとって,人を毒殺するのは,非常に魅力であったらしい。さらに,阿

片と強い調味料を用いた(9)酎民薬(10)傷口から吸収される毒薬(ID蝿の

毒と嫡薬(12)暴君ネロが,毒薬に熱中したこと,アレキサンドロ大王が,同

僚から毒殺されるとき,激怒して

(13)わしが毒害を呪う手伝を,だれがする9

と叫んだこと, LuciaとLunaは,いずれも(14)自分の良人を毒殺したが,

一方は悪企みから,他方は贈薬を飲ませるのが目的であった。 -5> Saturnus

が毒殺の名人であったこと(16)毒酒で良人を殺した妻の話もある。さらに毒

殺のテーマは, 「免罪符売り物語」に現われるが,ネヅミや臭猫を捕えるとい

う口実で,薬屋が毒薬を求められると,本当に,はなはだ強い毒薬を与えたの

で,人殺を犯した二人の男が即死する仕儀になった。

この世の生きものというものは,

C17)ほぼ一粒の小麦大ほどのものを,飲食物からとれば,命は即座に失せる。

そうだ,死なねばならぬのだ,間もなく。 -哩歩けば,毒力が大変強く激し

くなる-

8)かくして二人は,すぐ死んだ。

シェ-クスピアは(19) 「ロミオとジュリエット」や「シムベリン」に,こ

れに近い中毒の表現を行っているが,チョ-サ-の素材から採ったものと思わ

れる。しかし, 16世紀のイタリア文芸復興期の劇作も,素材の上から,シェー

クスピアの代表的な作品に影響を与え,毒薬が劇の効果を上げている。イタリ

ア文学および毒薬史上からいえば,イタリアでは, 15・16世紀になって初め

一一11-

て,毒殺が一般に普及するようになった(20)この毒殺を曲線で示せば, 14世

紀に始まり,文芸復興後期にいたって頂点に達し, ViscontiとSforzaの両

家の毒殺事件, C12) 15 - 16世紀には, Medici・Scaliger 'Riario・Rovere

Malalesta・Este・Farnese・Gonzaga・Baglioni・Anjouの諸家が,毒殺

の巣屈になったが,このほか(22)ヴェネチア共和国によって行われた毒殺な

ど含めば,イタリアが毒殺国だといっても過言ではない。このような歴史的事

実から見ても,イタリアで文学作品のテーマに,毒殺が取材されたからといっ

て,決して不思議でないばかりか,イギリス文学やドイツ文学に,直接または

間接に影響を与えたのは,むしろ,自然の結果であろう。

Alighieri Dante (1265-1321)は, Lucanのアフリカ産毒蛇を,地獄篇

(Jnferno,24Ges.)に引用したが,ダンテでは,これが毒殺に関する唯一の

例であって,地獄では,隠れ穴も隠れ石のHeliotropも,この毒蛇を防ぐこ

とができないという。

しかし, 16世紀のイタリア劇,例えば^> Luigi Groto作Dalida・Trissino

作Sofonisba・Dolce作Mariannaでは,すでに「ロミオとジュリエット」

の素材を戯曲化しているr.

シェークスピア作「-ムレット」の中に現われる「間狂言」のような,古代

英語で作られた寓意的な身振り問狂言も,イタリアの劇作家の真似をしたもの

である。例えば,王さまが,従者と姿を現わす。すると老臣がひざまずいて,

葡萄酒の入ったガラスコップを捧げる。王さまはこれを却け,この代りに,若

い立派な武士が捧げる金盃で飲む。しかし,飲みおわるやいなや,床に倒れて

死ぬ。お追従者の毒は,輝くばかりの黄金・の中に隠されているが,全く毒を隠

すことができない透明な硝子コップは,真の忠告を意味する。大体, 16世紀の

ロマン劇は,それほど多くないが,特にシェークスピアは,劇作家として,義

薬と毒殺の素材を好み,この点,その後の古典劇に素暗しい影響を与えてい

る。もつれた筋の葛藤が,力強い幕切れとなるために,毒殺の素材を用いたば

-12-

かりでなく,努めて毒物を選び,これを象徴的な言い回しに利用したO 「ロミ

オとジュリエット」 ・ 「-ムレット」 ・ 「シムベリン」の三つの劇は,毒殺劇

であって,最も成熟した後期の作品は,この点,初期のものよりゆたかな成果

を上げているので,ゲーテやシルレルに比すれば,正反対になる.

上記の三つの作品のほか,毒殺の素材を用いたのは, 「ジョン王」 ・ 「リア

王」 ・ 「冬の夜ばなし」 ・ 「リチャード三世」であって,毒薬自殺は, 「アン

トニ-とクレオパトラ」 ・ 「リア王」・ 「ヘンリー六世」 ・ 「マクベス」に見

られる。

シェークスピアのよく知られた36の劇作品から, 24の作品を取上げ,毒物に

関するものを, SchlegeトTieck訳をもとに,坪内道連先生・横山有策氏訳な

どを参考に論じてみたいO大体,シェークスピアの作品は,百数十種に上ると

いわれ,この権威でない限り,作品についてかれこれ諭ずる資格はない,また

これを論ずるのが目的でないから,ここでは,一般に最も信頼できるとして認

められる^ SchlegeトTieckのドイツ訳を用いたが,実際において,毒物に

関する点から見て,現在,普及しているイギリス版よりも,内容が詳細にわた

った点が,しばしば認められる。

タイス・アンドロニカス

1.2.こちとらを毒殺しようと来おったのだと思って。

間違いつづき

1.2.あなたが不義をすりゃ

あなたの肉の病毒がわたしに伝染して,あたしも淫売同様になります

わね。

この場合のdigestの意味は,恐らく「消化する」のではなく, 「同化する」

=相-

即ち摂取して体内に拡める意味に解せられる。シュレ-ゲル・テJ-ク訳で

は, 「だから毒が,わたしの静脈内にも住む」とある。

ヘンリー四世王

.2.そんな甘言を吐いても,毒は隠されんぞ。触ってくれるな,えいよし

てくれ。触られるのは,蛙に刺されるより恐ろしい。

源.2.やつらは,毒ばかり飲みやがれ!

1.3.何か飲む物をくれ。薬屋に,おれが買っておいたあの強い毒を,持っ

て来いといえ。

夢中で,死にかけているビュフオート枢機卿を語るこれらの言葉は,枢機卿

が事実上,毒薬自殺を遂げたことを意味する。

恋の骨折撮

V.2.心臓の伝染病に罷っているのですから。あなた方の眼から移った伝染

病です。

ここでは明かに,中毒よりむしろ伝染が問題になる。勿論,中毒と伝染を瞭

り区別するわけにいかないが。

リチャード三世王

1.2.なんで私に唾をかける?それが,お前の死ぬような毒であればよいの

に。

毒はそんな可愛らしいところから出たためしがない-

毒はつまらないガマに付いていたためしがない。

-捕-

ここでtoadは,元来(26) 「ヒキガエル」を意味する,そしてこの場合で

も, 「ガマの毒」を表現するがC27) 「サンショウ魚」Salamanderを意味す

ることになるOなお, 「リチャード三世」には,ガマのほか腹がでてくる。

ヴェニスの商人

臥1. (23)ネヅミがあばれて困るので,手前が,それを殺してくれる者があ

りゃ,一万両遺そうと申したとしたら,如何でございましよう。

この文に出るbaneという語は, 「毒」とか「毒殺する」を意味するが,

シェークスピアがhebenonと用いたのはhenbaneC29> (茄科のヒヨス)

としても現われる。

真夏の夜の夢

1.2.あの草の花を-・-先だって教えておいたはずだ-・-・取って来てくれ。

あの花の液を眠ている者の険に塗ると,男も女でも,必ず眼を開いた。

その途端に見えた物に見さかえもなく惚れっちまう。

あの液が手に入ったら,眠ている時分に,ティテ-エアの眼へ滴して

やろう。そうすりゃ覚めた途端に見る者に惚れ込んで,それを一生懸

命に追回すだろう。シシ,野牛,熊,狼,いたずらな猿,せわしない

尾無し猿,何であろうと,それから,そのまじないを,彼女の眼から

消す前に-・-・他の章を使やあ直ぐ消される・-・--・

これは毒薬に関するものでない,姫薬が問題になる。しかも,眼に滴下する

と,極めて有効であり,これに対して,他の薬草を用いれば,解毒になるとい

うが,このように眼から効く嫡菜はあり得ない。

15

ジョン王

V.6.王は,ある僧のために毒害なされたらしゅうございます。

どうして毒なんか飲みなすったのだ?

だれが毒味をしたのだ9

その僧がしましたのです。やがてその臓肺が破裂したそうでございま

す。

V.7.陛下は,まだお口をおききになります。室外へ出してさえくれれば,

この猛烈な,焼付くような毒の惜をも,きっといくらかは,和らぐだ

ろう,外へ出してくれ,と仰せられてでございます。

毒害された,わるい,殺された,捨てられた,放り出された。一人だっ

て,おれの胃袋へ冬の冷たい指を突込ませてくれるものもないのだ.!

この脳が焼けるようだのに,おれの王領内のどの河をも,そこえ

流れ入れさせてくれる者もない.!この乾き果てている唇を,あの切る

ように冷たい北の風に懇願して,接吻させて,おれを慰めようともし

てくれない.!太いした頼みじあないのだ,ほんの冷たい(一寸した)

慰めをしてくれろといってるのに。お前たちは苗だ,恩知らずだ,そ

れすらしてくれないのは。

おれの体の中には地獄がある。毒めが,そこへ押込められて,鬼にな

って,救われる見込のないおれの血の中を,あばれ回っている。

毒を与えられた王が,欺き訴える言葉の中には,亜批酸の亜急性中毒症状

が,極めて詩的に,且つ適切に表現されているが,こうしたシェークスピアの

才能は,恐らく毒薬に関する限り,世界文学上に見ることが出来ないものであ

-16-

ろう。体内が焼付く感じは,亜批酸のために胃腸壁が冒されタダレていく過程

であって,ここまでくれば救う遠はあるまい。唇が剣離し,激しい渇を覚え,

冷気にあたりたくなるのは,亜批酸中毒の症状である。ドイツの詩人シルレル

は,自作の「Kabale und Liebe」の中で,やはり,亜批酸中毒の描写を行っ

ているが,シェークスピアの影響をうけたものと思われる。

大体,歴史上シェークスピア時代の毒殺は,エリザベス女王に試みられて,

この加害者Edward Squireが, 1598年に処刑された事実がある。このほか,

GO)フランスのAnjou侯と,イギリスのこの女王との結婚を相談するため,

イギリスへ派遣されたOdetde Coligny卿が,帰国しようとしたとき,随行

員のGuillinに毒殺されたという説と,この反対に, De la Mothe Fenelon

公使の外交文書によればOdetはこの公使やエリザベス女王のところで,

度々,食事している。 1571年の記事では,突然胃が焼付くようになり,重態に

陥って死んだ。解剖の結果,表面に現われた中毒は認められなかったが,肝臓

と肺が悪化し,胃に穴があいていたという。従て,亜批酸中毒説が強いわけで

ある。

リチャード二世王

I.I.ざん言の毒槍によって,魂までも貫かれました以上,その毒を吹き出

しおった彼が心臓の碧血を以てする外に,この深創を緩和する薬膏は

ございません。

これは極めて象徴的な表現であるが,明かに,同毒療法Isopathieとか血

清療法Serumtherapieを暗示する。毒物が中毒をさせるし,治療薬にもなる

という考えは,わが国の諺「毒を以て毒を制する」とか,熊本の(3D医師村井

琴山著「毒薬考」に, 「毒薬は二物に非ず」として解明がある。こうした考え

は,中世の史劇Parzival伝説に現われる槍を思い起させる古代のTelephos

-17-

伝説までさか上る。トロヤへ遠征したギリシア軍は,最初あやまって, Mysia

海岸に上陸したが,ここは当時,テレフオス旗であった。このテレフオスは,

遠征したものの, Achillのため槍で股に負傷した。ギリシア軍は出発した

が,テレフオスは神託によって,この傷は,加害者が治療するより手がないこ

とを聞いて,他のギリシア人と一緒にArgosで, Agamemnonを探しだし,

アガメノンの宮殿で,その小さい息子Orestを捕え,祭壇のところに行っ

て言台してくれねば,この子を殺すと脅迫した。これがため,まえに傷を負わ

せた例の同じ槍で治療するように,いやがるAchillに強要した。この伝説

は,ローマの作家Properz・Ovid・Horaz・Hyginus・Pliniusが取扱って

いる。

1.4.神よ,何とぞ医師をして,彼をば速かに墓穴へ送る手助けをなさしめ

給え。

ここでは,鋭いムチを医師に加えたことになっているが,このような表現

は,フランスのモリエールにあっても,シェークスピアには珍らしい。

I.I.かつては毒一つない場所に,毒のように栄える下等な強盗団を,追払

わにあならん。あいつらの外には,生る特権があるのだ。

.2.やさしい国土よ,お前の君主の敵に,糧食を与えるな。

否,むしろ土中の毒液を吸いためている「クモ」や,あの不恰好なガ

マを道端に横たわらせてo

そうして若し,お前の胸から美しい花を引抜こうとしたら,そこに毒

蛇をひそませておいて,その二股の毒舌を利用し,お前の君主の仇敵

-18-

に死を投げつけてやれ。

ここでガマ・蛇・クモが,有毒動物として描写されているのは正しいが,こ

の場合,二つの間違った点を指摘することが出来る。その一つは,クモが土中

から毒を吸うという点と,第二は,蛇が喫んで,二股の舌を利用して,中毒さ

せるという点であるが,この第二の点は,古代に広く一般に信じられていた。

しかも,これらの動物は,シュ-クスピアによって,リチャード三世王の一

慕-場でもcreeping venom'dと表現されている。

V.4.毒を必要とする者も,毒を愛しない。

これと同じ表現が,シルレル作「ヴァッレンシュタインの死」に出てくる

が,シェークスピアの影響と見るべきであろう。

ヘンリー四世王1

I.3.麦酒に毒を仕込んで,その一杯で盛殺してくれたかったんだ。

丑.2.おれに惚れ薬を飲ませやがったんだ。

V.4.彼の手は,世界中の毒薬ほどに効目があって,貴下の実子に我逆を行

わせる手間を省いてくれたでしょう。

ヘンリー四世王2

1.1.毒にも薬力がある。もし健康でいたのなら,この凶報のために,病気

にもなったであろうが,病中なので,却って,それがために元気付い

た。

-1gr

ここでは,毒薬でも薬効があるという点が重要である。健康なものに与えれ

ば発病するが,病人の場合は,病気を治すことになる。衰弱するものは,体内

に批素が欠乏したことを意味する。従て病気の予後には,枇素剤が用いられ

る。白血病で死亡した永井隆博士は,被爆以前すでに,レントゲンの犠牲にな

って,白血病になっていたに拘らず,比較的長く生きたのは,被爆の影響では

ないかと考えられているが,文字通り,毒を以て毒を制した結果になる。これ

は,類似治療Homoopathieに関する例である。

1.2.いっそのこと,殺鼠剤でこの息の根を止めてしまってくれ。

殺鼠剤が,亜枇酸であり,東西南洋を問わず,鼠探りとしてばかりでなく,

人間毒殺に古来用いられ,わが国では, 「石見銀山」の名で知られている。

から騒ぎ

V.I.毒を飲まされる思いでした,話を聞いてる問に。

御意に召すまま

I.I.奴は岩に毒薬を飲ませかねないよ。

ジュリアス・シーザー

脚.3.君は勝手に,自分で嫡痛の毒を始末するがいい。胸が裂けようと,腹

が裂けようと。

digest theven0mについては,すでに述べたが,ここに掲げたドイツ語

訳は,逐語訳ではないけれども,坪内遭遇邦語訳と同様である。牌臓が毒物を

吸収するとか,中毒によって破裂すると訳すことができないspeelenとかsp-

litという語法は,シェークスピア独特の表現である。

-20-

このほか, 「冬の夜ばなし」には,肝臓が中毒するとある。勿論,古い表現

によると,牌臓は,精神感情と密接な関係があることは,今日でも用いるSp-

leen (憂瞥病)という語が立証している。

リア王

班.4.毒人参

.7.お前さんが毒を飲めといえば,わしあそれを飲みまする。

Y.3.くるLや.!くるLや.!

そうなくっちあ,妙薬もあてにならない。彼女はおのれのために,痩

女を毒害した,そうして自殺したのだ。

マクベス

過.1.釜の周囲をぐるぐる回り,なげ込め,なげ込め,毒のある臓肢を.ガ

マよ,冷たい石のその下に--・-

眠り込んで,汗して,毒を泌るガマよ・---・

「エモリ」の目玉,ガマの指, 「コウモリ」の羽の毛,犬の舌,蛙の

刺と,盲蛇の刺と, 「トカゲ」の脚と島の翼と--・-

晴の夜に掘った毒草の根-・-・-・

山羊の胆汁と月蝕の晩に折った「アララギ」の小枝と小枝。

この妖女の釜の中では,ガマ・沼に住む蛇の肉・エモリの限・ガマの指・コ

21

ウモリの羽毛・犬の舌・蛙と盲蛇の刺・トカゲの脚・泉の翼・ミイラ・フカの

アゴとノド(32)毒人参の根・ユダヤ人の肝・アララギの小枝・トルコ人の

鼻・韓担人の唇・胎児の指・虎の臓液・仔豚を九頭喰った豚の血・絞首台から,

滴った殺人犯の脂肪,といった有害・無害の動植物が煮込まれる。

過去+数午を,ジャワ・ボルネオ・セレベで過し,旧長崎高商でオランダ

・マライ語を教え,原爆の犠牲となった岡田武夫氏によると,大正時代にジャ

ワで,三井物産の青年社員が土人の花街で,ある惚れ薬の秘薬を飲まされ,こ

れがため,花街から連れ戻しても直ぐ入りびたる始末で,ついに本国に送還さ

れたという。また,秘薬を作る魔女があって,この葉の内容は不明だが,婦人

の腔水・尿・鼻クソなど混じられるという。平和賞受賞者アルベルト・シュワ

イツユル博士の著書の中で,タブーと魔法を見ると,この秘薬の製法を垣間見

たものは,翌日溺死体になって川に浮んでいたとあるo古来,魔女や垂女が調

製する薬剤には,人類や動物の肉体の一部,または排淋物まで含んでいる。こ

の場合,蛇の二股舌には,毒があると考えられていたがFrancesco Redi

(1626-1698)が現われ,蛇毒の性質や場所を知るようになって始めて,中毒

を起させるのは,蛇の歯にあることが判明したが,まだこれでは,十分でなか

ったOその後, <33) Felice Fontana (1730-1805)によって,毒腺が明かに

なった,しかし,ここに掲られた大部分は,多分に象徴的な表現で,文学的効

果を上げているが,この点は,天才的な誉があるといってよい。

V.3.それを治してやってくれ。汝は病んでいる心を介抱して,その記憶か

ら根深い愁いを抜き去り,脳髄に記録してある苦痛を擦り消し,何か

快い忘れ薬でもって,心が,いっぱいに圧え付けられて,いまにも破

裂しそうになっているのを,晴々と透いてしまうようにしてやること

は出来ませんか9

-ll-

ここの表現は,解毒を意味する。解毒に関する古い考えは,古く<mColchis

の植物園には,試験ずみの解毒になる植物が栽培されたという。古来,解毒薬

として用いられた噂乳動物の腹内に生ずる結石(35)婆婆並に鮮答が,シナで

は陶弘景以前から知られていた。わが国には, 「へイサラバサラ」として,徳

川実記に上っている。約368年まえ, Ambroise Pareは,この結石が解毒に

効果がないことを,人間に実験して証明した。ウニコールや犀角が解毒薬とし

て用いられたと同様に,無効なものが多かったようであるが,毒害の恐怖から

逃れようとする悲願であったわけだo

アセンズのタイモン

1.1.毒と化けやがった以上,あの食い物が満足に奴の滋養になんかになっ

てたまるものか.!只もう悪い病気に罷りあがれ!そうしてそれが重っ

たら,お邸で養った体力は,それを冶す役には立たんで,只もうそれ

を長びかせる役に立て!

食物が変質すれば毒物に変わり,食品中毒をおこすという見解は,

注目に値する。蛋白質が腐敗すれば,プトマイン中毒をおこすのは,

今では常識になっているが。

凪.l.人間や獣類に取付く限りの悪病に罷りあがれ.!ま,この薬を持ってい

け.!

疏.3.土よ,何か根をくれ.!これ以上の物を,汝から取ろうとする奴があっ

たら,そいつの舌がひん曲るような毒を添えてやれ.!療病院の患者だ

って唱吐を催しそうな女でも,この香油を身に塗りあ,四月の花のよ

うになる。

病気(梅毒)をくれてやれ,邪淫根性を置土産にする奴らに。

このcankerという語は,まず病気の「ガン」を意味するが, 「毒」の意

SB -こ

味にも用いられるらしい。

時疫の役をしろ, Joveが大罪悪を犯したある市を罰するために,天

から疫毒を降らす時のように役回わりをしろ。どう慢な人間も,黒い

ガマも青い蛙も,金色のエモリも,目のない毒蛇も,いやしくも,物

を化育する太陽の光りのとどく限りの処で,天が下の有とあらゆる怖

ろしい物を生み出すのは汝だ。

おれば,お前の子供のうちで,人間だけは大嫌いだが。

毒がおれの気を知っており,またおれの言う通りになれば,いいのに

なあ.!

毒をどこえ,どうしようというのだ9

汝の食う物に,味を付けさせたいんだ。

汝の名をロにすればだ。撲り付けてくれたいが,手が汚れるから止め

る。

ここでは,梅毒が伝染する意味になるわけであるが,シェークスピアの作品

では,中毒と伝染とが混同されている場合が多い。

医者なんか信じるなO奴の解毒剤は毒だぞ.奴らは,汝以上の人殺

だ。

ここは解毒剤そのものが毒だというから,シェークスピア時代の解毒に,有

害なものがあったと解すべきであろう。

ローマ帝政時代に,史上有名な人々が毒薬自殺を遂げた例が多い。クレオパ

卜ラも,その一例であるが,一般にはCS7)毒蛇Aspisに噛せて自殺したこ

-HE

とになっている。 (-8> Dio Cassiusは,彼女の腕に,極く小さい刺傷しか認

められなかった。ある者は,彼女が毒蛇を,壷か花の中に隠しておいて,これ

を取出して腕に噛せた。また別の異説では,いつも差している髪ピンに,毒を

塗っていたというOマゲを結ぶのに用いるこのピンは,ロ-マでは, Acus dis-

criminalis (巣針)といわれ,彼女は毒隠しに使用したといわれる。

1.2.悪い報道は,とかく報道者に崇るものだ。

今はまだ水中の馬毛に過ぎないのだが,すてておきあ毒蛇になる。

シェークスピア作のこの劇の終幕は,毒蛇に噛まれて死ぬ場面が有名であ

る。

コリオレ-ナス

I.I.どう断言なさろうとも,あなたの位置が今のままなら,どういう害毒

もありませんや。

あいつらにあ,毒にある甘い物をなめさせないがいい。

激烈な病気に用心深すぎる冷淡な治療法を用いるのは,毒になるばか

りです。毒蛇はどこへ行った,この市の人種を絶して,何もかも横領

しようとする毒蛇は?

引っ立てて来なさいOああいう根性は伝染するから,外へ拡がるとい

けない。

冬の夜ばなし

1.2.もし毒が妻の肝臓にまでおよんでいるとすると,もう砂時計の一皿だ

けでも生かしちあおかれないのだ。だれがそんな毒を盛りましたので

Tc

!25-

肝臓が毒と関係がある点,事実,魚の(39) 「ブリ」にあっては,有毒な肝臓

が認められるので,シュークスピアもこの知識があったに違いな′い。この場

合,極めて古い見解も,憂哲症や胆汁気質症が,肝臓やその生産物と密接な関

係があると見ている。

汝が酌をする次手に,一寸薬味を加えさえすりあ,あのおれの仇敵を

永眠につかせてしまうことが出来るんだ。そうして,それは,おれの

ためには,強壮剤になるんだ。

お前,それは随分やってのけましよう。しかも,劇薬なぞは用いませ

んで,毒薬のように鋭く効かないで,除々に効めを現わす方法もござ

います。

急死させる毒と,亜急性の症状で毒害する毒物があるというのは,注目すべき

点であって,亜枇酸が亜急性および慢性中毒をおこさせるもので,Aqua Tof

fanaとかBorgiaの毒なども,亜批酸に関係がある。

手前は貴下を殺します役目を串しっかりました。もし有益な酒を手に

入れれば,手前を貴下の味方に加えないで下され。

この体内の最も清い血が,腐った煮凝りのようになってしまえ.!

この表現は極めて象徴的であるが,膿血症とか,敗血症を意味するのは明か

である。健康な血液が,中毒によって, 「ニカワ」のような'ものに変化すると

訳すのは逐語訳ではない。

I.I.酒盃の中に「クモ」が浸っていても,それを飲んで,平気で席を去っ

て,何の毒をも受けんことがある。知らなかったがためだ.!だが,そ

の怖るべき成分が目に入ると,飲んだのが分ると,激しくうずき出

-26-

す,ノドが引っ裂ける,脇腹が引っ裂ける。

シュークスピアは, 「クモ」の中に毒グモの種類があることを知っていた

が,飲物の中-落ちたクモが,この飲物を有毒にしない点,曜睦を催させるも

のが存在するという意識,この唱吐を除くには,いやな奴という表現で十分で

あることを心得ている。

.2.カミロの心に毒を注ぎ込んで-

テムベスト

1.2.太陽が泥池や沼や沢から吸い上げる毒のありったけ,プロスパーめに

降りかかって,奴の体中を病気だらけにしてくれ!

且.3.時が経ってから効くように当てがわれた毒薬と同じに,過去の大きな

罪悪が,今になってあの人達の良心を噛み始めたのじあ。

ずっと以前に用いた毒薬が,長い時間を経過して始めて効めを現わす点に,

特微がある。自然発生する慢性病となると,まず亜批酸に関係がある。

那.1.彼奴らの五体の節々を,石臼で挽きくだくように,激しく桓撃させ

ろ。

ロミオとジュリエット

1.2.新しい毒を眼に染ませて旧い毒を抜くがよいO

.3.毒ある草や貴い液を出す花どもを摘んで,われらのこの藍を一杯にせ

ねばならぬ。

=均7-

このほか弱い,おきない花房の裡に毒も宿れば薬もある,唄いでは身

体中を慰むれども,なむるときは,心臓と共に五官を殺す。

ここで薬効と中毒作用が,互に密接な関係を持っているという表現は,極め

て正当な見解である。

過.3.調合した毒はないか,研ぎすました刃はないか,如何に卑しうしても

大事ない,一思いに死ぬ法はないか9

丑.5.その毒を持って行く使の男とやらが,走ったら,薬はわたしが調合し

よう,ロミオがそれを手に入れたら,直ぐにも安眠をしおるように。

現.上床にお入りやったら,このビンを取って,これなる薬水おばお飲みあ

れ,すると,やがて標然として眠たいような気持が,血管中に行き渡

り,脈樽も例のようではなうて,全く止み,生きているとは思われぬ

ほどに,呼吸も止り,体温も失するO

この死に切ったらしい相で,四十二時経つときは,気特の良い睦から

醒むるように,自然と起ききっしあろう。

文学史上に現われた作家で,毒物を取扱ったものは多いが,大抵これらは,

若い初期の作品に限られ,毒物に関する関心は,年と共に薄らぐか,消滅する

のが通例であるOしかるに,シェークスピアの場合は,これと全く反対で,義

物に対する愛好心は,次第に強化され,文学的表現に異彩を放つようになるO

この場合もその一例であって,全く危害を与えないで,数日の間,死人同様

に眠らせるという睡眠薬は,この作家の空想力の優越と,多少冒険的な想像を

示すものであって,シムベリーンでも,この好みが出ている。草の心得ある善

28

良な僧は,無害な睡眠薬をつくるが,貧しい薬屋が毒薬を売る。シェークスピ

アは,睡眠薬の素材を, Apulejusから採ったものらしい。これは毒薬の代り

に(41)マンダラゲ(Mandragora)で睡眠薬を作る医師の物語である。な

お,ある時間睡眠させるが,死なせない薬では,ドイツの童話Schneewitt

chenやMusaus'Richildeが上げられる.

那.3.若しこの薬に,何の効力も無かったなら9----

万一,この薬が毒薬であったら?

それでわしを殺そうと,坊主めが作る深い陰謀であるまいものでもな

い。

Ⅴ.上薬種屋を思いだすのだが・・--・

このMantuaで毒を売れば,直にも命を取られるが,もしも毒が欲

ければ,売りそうなのは,此奴めと思うたが。

わしに毒薬を-匁ほど売ってくりあれO直に血管に行き渡って,あき

果てた飲主を立ちどころに死なすような,また,射出された煩硝が怖

しい大砲の胴中から,激しう急に走り出るように,息をばこの体内か

ら逐出してくれる毒が欲しい。

されば,その様な大毒薬をば貯えておりまするが, C42> Mantuaの

ご法度では,売りあ命がござりませぬ。

これおば,お好みの飲料に入れて飲ませられい。たとえ二十人力おあ

りでありましょうとも,立ちどころに片付きましょう。

この黄金を遺すぞ。これこそは,人の心の大毒薬じあ,汝が売りねる

この粗末な薬種よりも,この濁世では,道に怖しい人殺しをするも

の。汝ではのうて,われこそは毒を売るのじゃあ。

毒ではない興奮剤よ,さあ一緒に,ジュリエットの墓へ来い,あそこ

で,そなたを使わにあならぬ。

29-

ここに示された毒薬にあたれば,電光石火のように死ぬというのであるが,

このような毒薬が,シェークスピア時代に,広く知られていたかどうか,ある

いは作家のフィクションに過ぎないだろうか9当時まだ,頓死させるチアンカ

リやニコチンのようなものは,知られていなかったので,タバコの葉の抽出物

か,青酸を含有する蒸溜物,例えば「西洋バクチノキ」の葉,未熟な巴旦杏な

どの抽出物が使われたぐらいのものであろう。これらのものは,当時,有毒で

あることが一般に知られていたし,特に(433未熟な巴旦杏は,古代からよく知

られている。しかし,果してこの作家が,頓死させる毒物に対し,一定の認識

が実際にあったかどうか疑問であって,シルレルが,海を見たことがないの

に,寄せては返す波の運動を正確に表現したように,作家の想像力の退きを示

す一面が,多分に窺われる。

V.3.貢実なあの薬種屋,効力たちまち---こう接吻して,わしは死ぬわ。

こりあ何じあ9恋人が手に握ったのは盃か9

さては,毒を飲んで非業の最後を遂げおったのじあな。まあ,かたじ

けない.!

皆な飲んでしもうて,ついて行こうわしのために,只一滴をも残して

おいてはくれぬ。一日・-・お前の唇を吸おうぞ。毒がまだ残っていた

ら,それこそ,仮の命から貢の命へ回わらす大妙薬!

ハムレット

1.5.われ園内に眠れる折から,油断を見すまし,忍びより,汝の叔父が小

瓶よりわが耳に注ぎ入れし大毒液の効力はてきめん,水銀のように,

わが五体のありとあらゆる血管を走り伝って,血汐に触るるや,たと

えば,乳汁に酢の滴りを注ぐが如く,鮮血忽ち濁りこどって,滑かな

りしわが肌を,見る見るおう癒ぶたは,ライ病やみをさながらの,眼

-30-

もあてられぬ醜さ,積さ----・

ここに表現された中毒は,シェクスピアの作品の中で,最も有名な一つであ

る。毒死を遂げた人間の唇に接吻して,毒を移すという考えは,古くからあ

る。悲恋に嘆く女性が,自分の陰部に毒を塗って相手の男性を毒殺しようとし

た史実も,歴然として残っている。しかし,実際問題として,このような場合

は,相手が死ぬまえに,自分自身が先に中毒死する結果になる。人間が死亡す

ると,間もなく「死毒」が生ずるわけだから,この場合,屍体に触れて死毒を

移せば死亡するが,これは時間に関係がある。

L次にhebenonは,アルカロイドのHyoscyaminを合有する「ヒヨス」で

あって,耳からわずか注ぎ込んでも麻酔作用はあるが,水銀中毒症状は示さな

い。この描写は,毒殺の目的で乳児の耳の中へ,ある濃度の高い鉱酸を注いだ

場合に,血管中の血液の凝固,急速にできるライ病のような発疹が発生する。

しかし,この作家が,このような薬理作用を知っていたとは考えられないし,

またこれだけの想像があったとも思われないから,恐らく,これに似た事件に

よって,ある程度の知識を得ることが出来たであろう。

1.2.毒に浸せる舌をふるって,運命の神を罵らざるか?

1.2.何んの何んの,ちっとも,ほんの戯れじあ,戯れに毒害するのじあ。

心は黒く夜も黒し,薬も利きて手も冴えたり。折もよし,人もなし。

汝貢夜中の暗に摘みて,三たび魔王の呪阻に萎れ,三たび毒気に染み

ぬる章の臭き液よ,汝か怖しき天然の魔力をもって,すぐにも健かな

る命を奪え。

彼奴は王位を奪うために,園内で王を毒害しおる。

真実あった請じあ。

-31-

那.7.御意の通りに仕りましょう。幸いそのために剣に塗るべきものこそご

ざれ。

小官かつて,さる香具師より購いおいたる油菜, -たび尖鋒にこれを

塗れば,いささかの微傷を負うたる者だに,必ずや命を落す。月の下

にありとある霊草をもって調製せる名膏の力でも救いがたし。小官そ

の毒をば剣尖に塗り申そう。さすれば,微傷を負わせるばかりにて

ち,彼を殺さんこと必定でござる。

この作家は,すでに太古からよく知られている毒武器を用いてるが,この知

識は,人類文化の初めからあって,現在,東南アジア,アフリカ,南アメリカ

の原住民や,わが北海道のアイヌが用いている。この作家は,終幕を急ぐの

で,皮膚にかすり傷を負うても,急死させる毒矢に使う矢毒,即ち(<14>Curare

を上げたいが,当時まだ知られていたかどうか疑わしいので(<15) Aeoniturn

(烏頭・附子)が考えられる。

しかし,この作家の時代に知られていた矢毒は,あまり急激に殺さないイン

ド産などであったらしい。なお,直接血液中に入ったとき,局部に用いて効果

のある解毒薬がないような毒物があるとの見解や,このように危険な毒物を,

香具師から手に入るというのは,注目すべきである。

予は酒杯を準備しおかん,それを只ひとなめせば,よし毒刃をばまぬ

かるとも,此方のねらいは外れぬ。

V.2.毒を入れた酒杯.!あ,もう手おくれじあ.!いえ,いえ,その酒じあ,

その酒で-おお, -ムレットや.!その酒で毒害一毒害におうたのじ

あ。

-ムレットさま,あなたのお命は早やなきものO天が下にありとある

-32-

如何な霊薬を用いても,もう半時とは保たぬお命。いまお手にある剣

こそは,毒を塗ったその上に,切先さえも尖ったまま,その好計の報

いはてきめん身に返り,ご覧ぜよ,まッ,かくの如く急所の痛手に必

死の有様。御母妃は正しく毒殺。もはや物が言われぬ。王こそ,王こ

そは発豆良人.!

切先に,毒までも塗ったるよな.!ならば美事,毒の効果を.!

おのが盛った毒なれば,それぞ至当のおもてなし。

強い毒が,わしの魂を台なしにする。

破局に導くため,この作家は,有毒な武器のほかに,酒に溶かした毒を用

い,これを飲んだ王妃は意識を失う。しかし,飲んで直ぐ死ぬのであるから,

「ロミオとジュリエット」の場合と同様,多少ゆき過ぎのきらいがある。

1.6.ねえ,先生,あの薬を持って来て下さいましたか9

はなはだ失礼ではございますが,何となく気が各めますので,承りま

すが,どういうわけで,かような毒薬の調合を手前にお命じtCvなりま

したのでございますか?

これは除々に人を死にいたらしめますもので,緩慢ながら必死の劇薬

でございます。

わたしは長いこと,・お前さんのお弟子になっていたのじあないの?香

水の製し方を教えたのもお前さんでしょう?蒸溜したり,貯蔵したり

することもです。

わたしが更に試験をして,知識を増そうとするのは,当然じあない

の9わたしはこの毒というのを,絞殺するだけの価値もない,勿論,

人間でない動物に試みてみて,その効力を験した上で,なおその作用

を和げる薬剤を用いたり何かして,それぞれの薬種や効果を知りたい

0060

と思うのです。.

そういうお試みを遊ばすと,とかくお心が酷くお成りになる恐れがご

ざいます。のみならず,その効果をご覧になりますのは,おいやらし

くもあり--・あそこへ阿談の賊奴めが来た。先ず,あいつに試みてみ

よう・-・--

不気味な婦人だ。除々に利く不思議な毒薬を手に入れた積りでいる

が,気質を知ってみれば,そんな怖ろしい薬をああいう腹の黒い女に

渡されるもんじあない。

あの薬は,暫時,感覚を麻揮させるに過ぎない。多分,あれを先ず犬

や猫に試みて,それから,それ以上の者へ向けるのであろうが,死ん

だように見えていても,それは只ほんの一時,脈が止るばかりで,忠

を吹き返せば,前よりも元気になるんだ。

それは,わたしが製えた,王のお命を五たびまでもお救いした,外に

類のない妙薬です。取っておおき,お願いだ.!

盟.4.ここに小箱がございます。これほお妃さまから載きましたのですが,

貴いお菜だそうでございます。もし船にお酔いになったり,陸でお腹

が痛んだりした時分に,これを少し召し上ったらお治りなさいましょ

う。

1.5.毒薬をくれておいたが,あいつがいないのは,妙薬だと信じているの

だから,飲んだがためであればいいが---

V.5.毒殺しようとなされましたところ-・-・ど前のためにも,毒薬を準備し

たとど自白になりました。それを召し上れば,たちまちお体に障りま

すが, -インチ宛という風に,漸次の衰弱によって,お命を取るにい

=糾-

たる其あいだ,妃は夜明しをなされ,泣き通し,付切りでど看護を遊

ばして,絶えず接吻をなされ,飽までど前をだまし,機会の熟すを待

って,巧みにど前を説き,ど子息を王位の継承者になそうという、御魂

胆でありましたそうです。

おれに縄をくれ。でなきあ短刃を,毒薬を!

いってしまえ!おぬしはわたしに毒をくれた。

おお神さま,わたくしの体へ雷斧をお落し下さいまし,万一にもわた

くLがあれを妙薬だと思わないで,奥さまに差上げましたのなら。あ

れはお妃さまから載いたのでございます。

わたし,あの毒に中ったもの。

お妃は「もしPisanioが‾わしが妙薬だといって,彼にやった粉薬

をその主人に服ませさえすれば,それはわしがネヅミにネヅミ捕りを

盛ったと同じ結果になる」と,仰せられました。

お妃は幾度も手前に,毒薬の調製をど懇望になりました。その御口実

は,いつも犬猫のような取るに足らん動物を殺してみて,その模様を

ど承知になりたいということに過ぎませんでした。が,手前は,どう

もそれ以上の危険なお目的があるように,恐れましたところから,只

一時,生活力を麻挿させますものの,程なく自然の諸職能を,旧の通

りに回復させまする或薬剤を特に調合して差上げました。

Cymbeline劇は,この作家の作品のうちで,質的にも量的にも,毒物に関

する素材が最も豊富であるばかりか,比較的,具体的に取扱われている。毒殺

魔の(46) Marquise de Brinvillierがパリに生れたのが, 1630年で,斬首刑

になったのが. 1676年だから,シュークスピアは,まだこの毒婦を知らないは

ずだが,毒物を動物実験した上で用いるとか,わが国の石見銀山と同様に,批

素割のネヅミ捕りを,毒殺に利用する作家の筆先きほ彩えて,全くあっぱれと

-35r

いう外ない。しかも,この作家の作品に現われる毒婦が,自己犠牲・愛撫・虚

偽の涙で殺害する習わしになっている。勿論,過去の事実や体験から出た表現

であろうが,女毒殺者の場合は,古代ギリシアのw>Medea伝説に源を発

し,エリザベス女王時代を距ること100年前に,イタリアに毒婦として有名な

Lucrezia Borgiaと, Alexandro VI.法皇がいた。

毒という意が, Borgia家Alexandro Yl.法皇・その子Caesarと接密

な関係があるほど,盛んに毒殺が行われ,邪魔になる者は,貴婦人・処女・少

年にいたるまで, Borgiaの毒の犠牲になったが,このBorgia-Pestは,

Alexandro vI.が死ぬまで,長年にわたって続いた。シェークスピア時代

でも,イスパニアのPhilippo I.の宮廷では, 「requiescat in pace」と

いう毒の使用が,議事日程の中にあったといわれる。

ここでも, the winterstaleにあるように,急速に効めを現わさないが,

徐々に且つ確実に死にいたらしめる毒薬が描写されている点は,注意しなけれ

ばならない。これらの毒薬は, Borgiaの毒,イタリアの毒物,後にはAqua

Toffanaにも関係がある。すでにAmbroise Pareは,自由に死期を決めて

殺害できるという見解に反対したが,シェークスピアは,こうした説を見聞し

ていたかも知れない。とにかく,この作家は,慢性中毒をおこす毒物に対し,

正しい見解をもっていたのでmortal mineral即ち鉱物性の毒物を,大

体,慢性中毒をおこす毒だと指摘している。ルイ14世時代のBrinvillier侯爵

夫人のころ,ひそかに毒害する粉薬はPoudre de successionといわれた

が,主として鉛毒ではないかとの説があるにしても,批素剤と考えたい。

(50)寿命を予定することが出来るとの見解は,軽卒のそしりを免れないが,除

々に生命をおかして,最後に毒殺するというシェークスピアの言葉には,誤り

はない。

この作家が上げているネヅミ捕りの毒や,犬猫に毒物試験を行った点は,現

実に立脚したものであり,この動物実験は,すでに古代から知られていたの

OR.oo

で,事実上,生理学上の動物実験より古いことになる。死刑の代りに,死刑囚

に対する毒物実験は,折々行われていたQなお,科学的な動物実験をしても,

効力のない解毒薬とか,このような実験は,冷酷な婦人にとって問題にならな

いが,婦人の医学研究に対しては,死刑を宣告することになった。 「ロミオと

ジュリエット」に現われるような,数日死んだように眠り続け,しかも,何ら

の障害も与えない鮭眠薬は,この作家が最も愛好する素材であって,かような

ものは,現実には存在しないが,作家の創造意欲のたくましさを物語るもので

あろう。

シェークスピアと同時代のイギリス作家のうちで,特に(51> John Webster

(1602-1624)の作品white devil (vittoria corombana)は,シェークス

ピアの作品を模倣し,誇張した点があるが,シェークスピアが戯曲化しようと

努めた暴虐と不快さを,遥かに超越している。この劇全体は,破婚と毒殺劇で

あって,舞台は,イタリアになっている。この「白魔」悲劇のあら筋は,

有夫の女ヴ.クトリア・コロムボーナに思いを寄せたブラキアーノ公爵は,

彼女の夫カミロと妻イサベラを毒殺して野望を遂げ,イサベラの兄であるフ

ローレンツ公爵が,ヴ1クトリアを監禁し,ブラキア-ノを殺して復仇を遂げ

る。イタリアに起った殺人事件を素材にしたものである。

劇の内容は,毒薬を除いても,医薬に関する興味ある点が多い。例えば,一

慕-場では,ミルラが医薬になること,五幕二場では,噛み砕けないが,早く

飲み込める形になった丸薬が現われる。この中から, (52)若干を引用してみ

る。

1.2.脳を水銀で破壊する箔師は,これ以上冷たい肝の持主はない。大試合

には,医師の告白によると,羽子は,毛髪を脱落させた以上に失わな

いものじあ。

-莞7-

ここでは,シュークスピアの作品と同様,肝臓中毒に関係があり,この器官

の特種な冷たさが上げられる。

1.2.結構な一角の効力が試めされると同様に,粉薬の解毒範囲を理解する

ために,この中に「クモ」を一匹入れると,その毒を失う-・-

一角獣即ちウニコールに解毒作用があるということは,古くから広く伝えら

れ,従って17世紀には,黄金の約10倍という馬鹿化た価格で取引され,このニ

セ物が世に氾濫したが,王侯貴族の宝庫に,このウニコールが発見されたの

は,毒殺の危険に晒されていた証拠にもなるわけであって,一種のアザラシの

牙だけが重要だと分るまで続いている。しかし, Ambroise Pareは,すでに

16世紀の末ごろ,一角獣の購買を盛んにしたのは,薮医者であることを指摘し

ている。 「クモ」に有毒な種類があるのは,正しい見解である。

I.I.無礼もの,毒はお前の息気からでるのだ。

何んという悪口--・-・

お前の毒を吐きだせ.!

ここのhemlockは,英語で「毒人参」 。紀元前1302年に死んだPergamon

王の毒草園に,これがあったという。処刑剤として用いられたので,ソクラテ

-スは,紀元前399年に,この毒人参を飲んで死んだ。

伺んというお言葉.!

外から砂糖菓子に医薬,だが,内にはペストに毒。

I.I.手前は,二つの頭で,貴殿に合剤を製ってあげたい。これは「ニンニ

-:38 -

ク」より強い, 「アンチモニー」より致命的なものです。

斑猪は,ほとんど眼につきませんが,これを肉に刺し込めば,最早,

かくれもなく,心臓に作用が現われるのです。

シェークスピアの作品に,毒物の名称が直接現われることは,ほとんどない

が, Websterが,一定の毒物を上げている点は,注目すべきであろう。ここ

のstibiumが,鉱物毒であるのは分るが, garlickは有毒植物でない。しか

し,当時,悪臭と刺戟が強いため,有毒だと考えられていたらしい。ここで斑

猪の局所作用や一般作用が,どうして混同されたであろうか。この斑猫の主成

分は, 「カンタリジン」であって,昆虫「ミチシルベ」で,催淫剤として,尿

道を刺戟して勃起を促すが,多量に服用すれば,中毒を起す。

I.I.蛙草か八ツ目ウサギよりも通じを良くする丸薬を腸の中へ,送り込む

ことができるのだ。接吻でも毒害できるし,アイルランドは毒を作ら

ないから, Dublin全市民がおだぶつになったに違いないほど,イス

パニア人の風に毒をまぜるという傑作をもくろんだのだ。

この表現は,グロテスクなものであるが,腸の中に発生した硫化水素と,そ

の毒性を暗示したものであろうか。ある種の魚類を多量に食べると,強い鼓腸

が起るかどうか,海蛇の中には,有毒なものがあるが,当時これらが知られて

いたかどうか,疑わしい。

聖アントニオの火よ!

このAnthony's fireは, 「丹毒」の意であるが,この語のうちには,慢性

麦角中毒が考えられる。

-QQ-ob

抱いたり,へつらったり,愛撫するがよい,このガマめ.!怖しいウガ

イ薬を,肺・眼・肝臓は,わずかづつ吸い込むことができる。

もう結構,わしはお前が必要なんだ,立派なお医者さん。お前はPadua

へ行って,そこで別に,わしたちのため,お前の腕を見せてくれ。

丑.1.いぶし絵で毒害なされたのだ。あの方の慣わしほ,毎夜,お寝みにな

るまえ,あなた様の画像の所へ行って,眼と唇に死の影を感じること

でございました。

この事は,ほどなくあの方の魂を窒息させる毒薬や池を泌み込ませた

ドクター・ジュリオの気付くところとなりました。

勿論,このような毒物が存在するわけはないが,作家の空想力のたくましさ

によって,文学的な効果を上げる結果になる。ドイツの童話Musaeus作Ri-

childeにも,同じような描写が見られる。

河.2.あらゆる獣類や動物から,その怖ろしい毒を取去れ-・--・

お前の所には,これ等すべてを試す薬種屋がいる。

薬種商人が,悪徳医師や女毒殺者に加担して,毒物の効力を試験したり,義

物の供給者であった例は,古来多い。

潔.2.だが,君の丸薬の中に毒があるC

.2.君が治療に用いる丸薬は,君の呪われた体内で,毒になるかも知れな

い.!

法廷で自身の唾液が,君を絞首刑にすればよい.!

Ell -

竜.2.医師が毒を防ぐ場合は,大抵,解毒薬を試みる。

憂愁の神は,君の胆汁を毒に変える。

1.3.あなたのお姉さまは,毒害なされました。

W.3.あなた様のど名声は,傷付けられた(poisond)のでございますか,

侯爵さま?

V.I.おお,わしの脳は燃えている!

カブトに毒が塗られたのだ。

おお,神さま,毒害されたのだ.!

カブトに毒を塗るとあるが, Medea伝説には,肌着や装飾品に毒を塗ると

か,ほかには,悲恋の苦杯を飲ませた男性を毒害するために,女陰に毒を塗るヽ

という史実が残されているが,これは古い毒殺形式であって,もし身体に毒を

塗った自身が中毒をおこすに違いないO 「TristanとIsolde」も同型であっ

て,この種の毒としては,発泡剤の「カンタリス」が上げられる。

V.I.もう衣さ加減は,あり余るほどあるO

だから,お前たちのワナを逃れたわしは,使者たちも,毒害されるの

ではないかと,心配なんだ。

Y.I. --・致命的な毒か?

聖書も読まずに殺害する腹黒い刑吏め.大きな援助があっても,お前

には,救うすべがないのだ。

いや,わしに接吻するな,わしは毒薬自殺をするのだから。

-EJ削-

Websterの作品では,シェークスピアよりも,医師に対する攻撃は,手き

びしい。

ド.1.この小僧,ヨタ者,有名な政治家と思われたが,この男の全智は,義

を調製するのだ。まだ女房が毒害されないうちに,女房の首巻へシ折

る奴。類のないほど美事に調製できたサラダ。奇麗に飾った小瓶の中

の香気は,冬の疫病ほど致命的なもの。この硫化塩一水銀-そして

「ヒヨス」液を-ほかの怖ろしい医薬と一緒に,お前の頭の中で溶

せ.!

Websterは, MercuryとQuicksilberを,異った種腰だと忠違いしてい

るらしいSchlegelはこれに気付いて, QuicksilberをBilsensaftと棒手

に置換えている。

V.2.他のあらゆる罪悪のように,三倍も甘くして,われらに与え,胆汁と

アンチモニーで満たされた絶望の苦杯を,われらに干させる悪魔を呪

え。

要するに, Websterの作品では,シェ-クスピアの作品より,具体的に多

くの毒物の名称を上げてあるのが特徴であるが,これらの中には,科学的に毒

物といえないものがあるにしても,作家の想像力の妙味と,文学的効果から見

れば,いちがいに,否認するわけにいくまい。なお,イギリス文学において

ら,毒物の素材からいえば,ギリシア・ロ-マ・イタリアの影響をうけている

点は,いなめない。

しかも,ドイツ文学が,このイギリス文学の影響をうけたことになる。

-42-

註1. Hugo Bausr, Geschichte der Chemie, Berlin, 1921, S.41-42

註2.毒殺された法皇Leo X, Hadrian VI, MarcellusH, Sixtus V‥Kardinal

Berulle, Urban ¥i, Clemens X IV, Adiano, Horista. Lewin, die Gifte

in der Weltgeschichte, Berlin, 1920 S. 506, 519.

註3.亜枇酸丸は,主として皮膚病に用いらた。

註4. Chaucer, iibersetzt von Herzberg. Leipzig und Wien, Bibliograph.

Institut, O. J. von 10471 ff.

註5. ibid.V.10552ff.

註6. 1.cv.1946.

註7. V.14125ff.

註.v.14140

註9. V.147lit.

註10. V.2745ォ.

註. V.gg33ff.

註12. v.H412ォ.

註13. v. 14578ff.

註14. V. 6329ff.

註15. V.2462.

註16. V.6353.

註17. v. 12780ff.

註18. V.12822.

註19・北イタリアのVeronaに, 16歳で悲恋の結果死んだJuliaの墓がある。現在,

悲恋に泣く若い男女が,各地から来て,この墓の上に互に手をのせ,接吻して,

永遠の愛を誓うが,シェークスピアは,この伝説をとって, 「ロミオとジュリエ

ット」を書下ろしたという。

註20. Lewin, ibid, S. 288-^

註21. ibid. s. 299-311.

註22. ibid. S. 322-324

-EJ転-

註23. Creizenach, Geschichte des neueren Dramas Bd. H, S. 380ff. 404.

413. Halle 1901.

註24. ibd. n, S. 470.

註25. Schlegel-Tieck, Ausgabe in 9 B邑nden, revidiert von Tycho Momm-

sen 1855. Berlin 1867 G. Reimer.

註26. Merckleinの東インド記事によると,無人島Combuisで,多数のSalaman-

derを見た。ある者は,この魚が火の中にすむと述べているが,われらは,こ

れを発見することが出来ない。大きい数匹を火中に投じたとき,火に触れた部分

だけ火を消し,徐々ではあるが,周囲の炭のため焼けるのを認めた。

Mercklein, Journal od. Beschreibung 1661-小沢敏夫訳カロンの日本誌

S.409.

註27.ガマ毒は,ブフォタリンCi6 H2404を含み,通常酸化され,ブフォタリジン

C26 H30 06となり,他の窒素化合物と結合して,プフォトキシンガマ毒として

存在するn平凡社大百科。

註28.西洋でネヅミ捕りには,古来亜批酸が用いられ,わが国でも石見銀山がそれであ

る。

註29.ヒヨスHyoscyamus niger. L.は, Hyoscyaminを主成分とする毒草。

註30. Lewin, ibid, S. 421-424.

註31.村井琴山著毒薬論稿本

註32. Attalus M.は,紀元前132年に死んだが,有名な毒草園を所有し,毒人参・ア

コニットなど各種の毒草を栽培。紀元前370年, MantineaのThsayasが,義

人参で毒薬を作ったo古代ギリシアやローマでは,死刑囚に毒人参が与えられた。

Lewin, S. 6. 13, 65- 66, 124. 140, 141, 196, 222.

註i. Felice Fontanaは,イタリアの自然科学者で,毒蛇の毒腺を始めて正しく理解

した人。

註34. Lewin, S. 3.

註35.岡本良知氏動物結石伝播考社会経済史七巻三号。

註3. Par6, I. C. livreXXI, chap. XLV.

-EE-

註37. Eutropius, Breviarium Histor. Roman., lib, VII.

註], DioCassius, ]. C‥ lib. LI.

註39.ブリの肝臓を食べた女性が,一夜にして丸坊主になっ・たのを,私は実見した.,

註40. 17世紀の中葉に,イタリアに毒殺が大流行し,加害者は女性であった。その一人

で,バレルモに住むTeofania (Tofana)という婦人が, Ferdinando Afan de

Ribera王のため,毒薬を毒殺の目的で買ったという理由で,死刑になった。

註41.チョウセンアサガオは, Scopolaminを含有するから,催眠の効力がある。

註42.ローマのコルネリア法では,毒薬を作る者・販売者・毒害者は死刑.

註43. Lewin, ibid. S.

註44.クラーレの研究は,アメリカ合衆国のアマゾン大探検によって促進Allgemeine

Pharmakognosie, dritte Abt. 1933Leipzig.ルカルダ・フウフ作der Fall

Derugaeに, Curareによる毒殺がある。

註45.狂言では附子をブスという。強精薬として用いるうち,植物学者白井光太郎氏は

毒死。外傷からこの毒が血液に入れば,急死する。小倉清太郎氏は,ボルネオか

ら, Curareを石油躍一個を持参して研究したが,わが国におけるCurare研

究の初めであろう。 「医学の歩み」にCurareに関する研究が出ている。

註46. Lewin, ibid. S. 439ォ..

註47. ibid.S. 1, 2- 3- 18.

註]. ibid. S. 487-489-. Semerau, die Condottieri 1912, S. 378.

註49. Harnack, das Gift in der dramatisch. u. in der antik. Literatur

1908. S. 57.

註50. Marx, Geschichtl. Darstellung d. GiHIehre. I. S. 78f. S. 173f.

註51. The dramatic works of John Webster, ed. by W. Hazlitt. London

1857-

註52. Prolss, Altenglisches Theater. Leipzig, Bibliographisches Institut.

O.J.

註Thessaliaは, Colchis・Pontus・Euxinus・Iberiaと共に,毒草と女毒害

者が多いので有名Horazには,毒が多いテッサリアのJolkosとイベリアへ,

-伯-

毒婦Canidiaを,毒調製のため派遣するとあるHonaz,Oden, lib, 1, Oden

27. Vers 20.

註54. Medeaは,自分の夫Jasonの愛を奪ったKorinthのKreon王の姫Glauke

の婚礼衣裳と花冠に,皮膚病を起す毒を塗ったLewin, S. 2-

-E!距一