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Title 相互投資の研究 -ラガッツィとザメッツの研究を中心として-
Author(s) 田口, 信夫
Citation 経営と経済, 55(2-3), pp.65-77; 1975
Issue Date 1975-10-10
URL http://hdl.handle.net/10069/27947
Right
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
相互投資の研究
-ラガッツィとザメッツの研究を中心として-
田口信夫
相互投資の研究 65
はじ めに
1960年代後半以降におけるヨーロッパの対米直接投資の伸び率にはめざま
しいものがあり,そのことをもって,近年,先進国間における相互投資=相
互乗り入れということがしきりと強調されている D このような言葉をきく
と,われわれは何かヨーロッパの資本がアメリカの資本と互角の立場に立っ
たかのような印象を受けるのであるが,果してヨーロッパの対米直技投資と
いうものをこのように過大に評価していいものだろうかD たしかに,呈的に
みれば,そのようなことがいえるかもしれないが,質的内容からみた場合ど
うなのか一一この点が解明されないかぎり,現在の相互投資の実体を正しく
把握したことにはならないであろう。
本稿では,かかる問題芯訟の上に立って,まず現在の欧米聞の対照的な投
資構成を理論的に分trrしたG・ラガッツィの研究1)を紹介し,次 l乙, 1960年
代後半以降のヨーロッパの対米直接投資の性質・を分析したA・w.ザメッツ
の研究2)を紹介することによって,これまで比1史的無視されてきた相互投資
の質的面をみていきたい。
注 1 G. Ragazzi, Th80ries of the Determinants of Direct Foreign Invest-
ment, IMF Staff Papers, vol. XX (1973).
2 A. W. Sametz., "The Foreign mu1tinational company in th8 Unitcd
States," in mu1tinational Corporations, Trade and the Dollar in the
Seventies, ed. by ]ules Backman and Ernest Block (New york, 1974).
I 欧米の対照的な投資椛成一一一G・ラガッツィの見解を
中心として
欧米間の相互投資の実休を知るためには,まず西ヨーロッパの対米投資と
米国の対西ヨーロッパ投資のねi成を検討してみる必要がある。第 1去は1950
年から1972年までの欧米の対外投資のJI11j況をみたものである。
66
第 1表 (10億米ドノレ〉
西ヨーロッパの対米投資 米国の対西ヨーロッパ投資
11950 1960 1965 1970 1972! 1950 1960 1965 日70 1972
直接投資
1 ぬ
間接投資 3.0 8.3 12.2 22.1 32.9 I 1.4 3.3 5.2 5.1 5.9
債権 (bonds)
株式 (stocks) 2.0J 10.5 12.6 19.5 I 0.4) 1.9 2.6 3.3
仙の長期債桔 0.9 1.0 1.1 4.3 4.7 I 0.9 1.1 2.4 2.0 2.3
長期資本合計 5.0 13.0 18.3 31.6 43.3 I 3.1 9.9 19.2 29.6 36.6
短期資本合計 2.8 5.4 13.3 9.0 0.4 1.3 2.1 3.2 5.3 一一一一 一 一一 一
?全 7.8 -- 23.7 44.9 52.3 3.5 11.2 21.3 32.8 41.9
G. Ragazzi, Op. cit., P. 474および A. W. Sametz, op. cit., P. 90より
作成。
この表を検討してみると,いくつかの興味ある特徴点がうかびでてくる D
(1)西ヨーロッパとアメリカの投資ポジションをみると,長期資本において
も短期資本においても,西ヨーロッパはアメリカの債権国であること O
(2)西ヨーロッパの対米直接投資と米国の対西ヨーロッパ直接投資は, 1960
年頃まではほぼ同額であったのに,その後西ヨーロッパは間接投資主導型の
道を,アメリカは直接投資主導型の道を進んだため,現在では,両者の投資
桔成が全く反対のパターンを示している乙と。すなわち,西ヨーロッパの対
米投資構成は, 1950年,直接投資20億ドノレに対し間接投資30億ドルであった
のが, 1972年には直接投資104億ドノレに対して間接投資は329位、ドノレになって
いる O 他方,アメリカの場合は, 1950年,直接投資17億ドルに対して間接投
資14億ドノレであったものが, 1972年には直接投資 307億ドノレに対して間接投
資は59億ドノレになっている 1)口
われわれにとって興味があるのは, (2)の西ヨーロッパとアメリカにおける
投資構成の相違であるが,このような西ヨーロッパとアメリカの全く対照的
な投資パターンはどのようにして説明されるのであろうか。ラガッツィによ
ってこの点をみてみたい。
彼は完全に競争的な条件の下では,証券投資は直接投資よりも,収益率の
相互投資の研究 67
国際的な格差に応じて資本を移動させるヨリ効率的な方法であると言う。そ
れでは,完全に競争的な条件とは一体どういうものであろうか。彼はそれを
次のように要約している 2)
(a) 外国株式(foreignequities)の収益率(=配当率一引用者)とリス
ク(株価の変動に伴うリスクー引用者)が,外国企業の利潤率とリスク(操
業に固有なリスク)を有効に反映すること O
(b) ある国の企業が他の国で操業する場合,その企業が現地の企業よりも
ヨリ有利に操業することを詐す特別の侵位性がないこと。
(c) 個人および企業の目的が競争市場における利潤の極大化であること O
(d) 個人および企業が為替リスクに対して,同じプレミアムを要求し,そ
のようなリスクに文すして同ミ字にカノてーしえること。
以上の条件の下では,国際資本移動はすべて証券資本の形態でおこなわれ
るとラガッツィは主張する O 従って,彼によれば,直接投資がおこなわれる
のは,現実が上記の条件を消していないということの反映にほかならないの
である。かくて, ラガッツィに従えば,直接投資の決定因は上記述べた仮定
からの現実の3iE離として分析されねばならないことになる 3)。
ラガッツィが西ヨーロッパとアメリカの対照的な投資椛成を説明する場
合,ひきあいに出しているのは(a)の条件で、ある。
彼によれば,アメリカの資本市場は効率的であり, (:1)の条件をほぼみたし
ているが,ヨーロッパの資本市場はアメリカの資本市;l:sほど効率的ではな
く, (a)の条件をみたしていない。すなわち,ヨーロッパの資本市羽はアメリ
カの資本市場ほど規悦も大きくなく,また企業の伯報をキャッチできる公開
監査制度 (public auditing) もアメリカほど発展していないので,ヨーロッ
パの株式は企業の利潤およびリスクを正確に反映しないのである O このた
め,ヨーロッパ企業の株価は企業の操業の結果によって正当化される以上
に,ヨリ大きな変主i), 従ってまたリスクをこうむることになるのである的。
通常, lEIi主投資家がLI1j目的および長期的な企業の収益性に主要な関心をも
つのに対し,証券投資家は自己の所有する株式の毎日の価値に主要な関心を
もっているので,株価の大巾な変動は前者よりも後者に対してヨリ大きな否
68
ツロヨアメリカの投資去にとって,定的圧力をもつことになる口かくて,
あまり興味あることではないであろう Oパのi来式を保有することは,
このような資本市場の不完全性は直接投資ラガッツィによれば,しかし,
によって回避することができる D なぜならば, n!I接投資家は企業を直接支配
しているのですべてのf古報を即座にキャッチでき,かくして彼のリスクを企
業の操業に固有な「産業上のリスク」のみに限定できるからである O 彼は次
のように述べている O
「本国企業に界占的ピへクビアあるいは技術的伝位性がない場合でさえ
しかし証券資
本のち¥t入が有価証券市場の非効率性によって阻げられている外国へ流出する
であろう 5)J。
も,資本はかくて,直接投資の形態で,平均利il1J率は高いが,
ヨーロアメリカのヨーロッパに対する目抜投資志向型の投資は,かくて,
ッパ資本市場の不完全性に求められるのである。
C
朋待収益率
u-ーアメリカの版式 (a) ヨーロッノ-<:0)
非支配的株式(b)E
E
(注)(a), (b), (c)の原語は (a)=Americanstocks, (b)=European portfolio stocks,
(c)=European control stocksであるが,適当な訳語がみつからないので上記
のように訳した。かんたんにいえば, (b)はヨーロッパに対する証券投資であり,
(c)はヨーロッパに対する直接投資である。 (a)はアメリカの資本市場が効率的であ
るため, portfolio stocksとcontrolstocksが一本の投資椴会軌跡に統ーされた
ものである o G. Ragazzi, Op. cit., p.483.
リスク
相互投資の研究 69
他方, ヨーロッパの対米投資に関しては,アメリカの資本市場は効率的な
ので,ヨーロッパの投資家は証券投資よりも直接投資を侵先的に選択する特
別の理由はない。むしろ,先に述べた「完全に競争的な条件の下では,証券
投資は直接投資よりも,収益率の国際的な格差に応じて資本を移動させるヨ
リ効率的な方法である」というたてまえからすれば,ヨーロッパの投資家に
とっては,証券投資の方が好ましいであろう O かくて,ヨーロッパの投資家
はアメリカの資本市場が完全であるために間接投資主導型の道を選ぶのであ
る6)。
ラガッツィは上記の議論を図によって次のように説明している(前瓦参日ーの。
uu総とEP線はそれぞれアメリカとヨーロッパの株式に対する証券投資
(portfo1io investment)のための投資段会軌跡(investmentopportunity
loci)を示す。アメリカの株式市場はヨーロッパと同じ収益率を生みだすの
に,ヨリ小さい危険率ですむので, uu線は大部分の選択の~t11,四にわたって
EP線より高い位置にある。このことは,ヨーロッパからアメリカへ向けて
の巨額の証券資本の純流出を説明するであろう。アメリカの資本rlJ:l;sーはきわ
めて、効率的グであると考えられるので,非支配的株式 (portfoliostock)
に対する投資と支配的株式 (controlstock)に対する投資との問には,な
んらの差別も存在しない。従って,アメリカにおいては lつの市場と lつの
投資機会軌跡しか存在しないのである。アメリカにおいて, uu線という 1
つの投資機会軌跡しか存在しないのはそのためである o いいかえれば,アメ
リカにおいては,非支配的株式に対する投資も支配的株式に対する投資も,
その選択上なんらの差別も存在しないので,投資機会軌跡はuu紋という l
木の線に統一されるのである o
ヨーロッパにおいては,これとは反対に,いろいろな制度的諸要因によっ
て,支配的株式は同じ収益率を生みだすのに非文配的株式よりもヨリ少ない
危険率ですむという点で,非支配的株式を相当上回る仮位性をもっている D
かくして,ヨーロッパにおいては,二つの分間した市場が存在する o EPは
証券投資家のための投資阪会軌跡であり, ECは直J完投資家のための投資総
会帆跡である o そして, ECは上述した理由でEPよりも高い地位にある O
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従って,ヨーロッパでは証券投資よりも直接投資の方が同じ危険率でヨリ
多くの収益を生みだすことができるのであるが,ヨーロッパの証券投資家が
直接投資をおこなう(又は, EPからECへきりかえる)には,巨額の資本が
必要であり,彼らは資金調達の面から制約を受けることになる D かくて,彼
らは証券投資への選択を余儀なくされるのであるが,この場合, ヨーロッパ
への証券投資よりもアメリカへの証券投資の方が同じ危険率でヨリ多くの収
益を与えるので,彼らはアメリカへの証券投資を選択するのである O ヨーロ
ッパからアメリカへ向けての巨額の証券資本の流出はこのようにして説明さ
れる O 他方,アメリカの会社はヨーロッパで直接投資をおこなえるほど巨額
の資本をもっているので,資金調達の面から制約を受けることはない。かく
て,アメリカの企業はEPよりも又uuよりも同じ危険率でヨリ多くの収益を
生みだすECへの投資(ヨーロッパへの直接投資)を選択するのである O ア
メリカからヨーロッパへ向けての巨額の直接投資の流れは乙のようにして説
明される O
以上,ラガッツィによれば,ヨーロッパとアメリカの対照的な相互投資の
パターンは,両者の資本市場のちがいによって説明されるのである O
注 1 ザメッツによれば, 1972年現在,ヨーロッパの合衆国産業における株式の取得総
額(第l表の直接投資+間接投資の林式投資分〉は約 300億ドルであるが,そのう
ち200億ドノレは非支配的な普通株取得分である。他方,アメリカは340億ドルのヨー
ロッパ株式を所有しているが,そのうち 310億ドノレは支配的な直接投資の形態にお
いてである(第1表参照)。
2 G. Ragazzi, Op. cit., P. 478.
3 彼によれば,たとえば,#占的行動や利潤よりも生長を目的にした直技投資は(c)
の条件からの現実の乗離として,又ハイマーヤキンドノレバーガーが主張するような
外国企業の優位性にもとづいた進出は(b)の条件からの現実の来臨として説明される
と述べている。 ibid.,P. 478.
4 その例として,ラガッツィは主要な工業国における株式の平均収益率と標準偏差
を検討し,アメリカの株式の収益率は他の工業諸国のそれとそれほど呉らないが,
年収益率の標準偏差はアメリカの方が他の工業諸国よりもはるかに低い乙とを見い
相互投資の研究 71
川している。この乙とはアメリカの株価がヨーロッパよりも変動が小さいことを説
明するだろう。もっとも,彼は脚注の所で, Iしかしながら,このことはアメリカ
資本市場のヨリ大きな効率性に対してばかりでなく,景気変動の大きさのちがいに
も関係しているかもしれない」と述べてはいるが。 ibid.,p. 481.
主要工業諸国の普通株の平均収益率と標準偏差, 1951-67
|収益率|標 準 偏 差
日 本 17.8 3l.3
ド イ ‘Y 16.6 28.3
アメ カ 12.1 12.1
イ タ 11.1 2l.8
フ フ ンス 10.6 22.5
オラ ンター 9.1 20.1
カ ナ 夕、 8.6 14.3
イ ギリ ス 7.2 13.2
ベノレギ 3.2 10.7
ibid., p. 482.
5 ibid., p. 479.
6 ラガッツィは証券資本の流出は次のような条件の下では対外直接投資を抑制(そ
して対外直接投資の流入を促進)するであろうと述べている。
(a) 証券資本の流出が現地企業に対して資本 Criskcapital)の供給を減少させ,
外国企業に対してその供給を増大させること。
(b) 証券資本の流出が外国企業の有価証券の市場価格を引き上げ,本国企業(たと
えばヨーロッパの企業一引用者)による外国企業(たとえばアメリカの企業一引
用者)の買収託用を増大させること。
(c) 証券資本の流出が外国の為替相場を引き上げ,その国の直接投資の:D用をi白大
させること。
ibid., P. 480.
II 1960年代後半以降におけるヨーロッパ対米直接投資急
増の背景一-A.W.ザメッツの見解を中心として
I辛で,ヨーロッパとアメリカの対照的な投資i!,lj成がヨーロッパとアメリ
カの資本市場のちがいに求められることを,ラガッツィの見解を中心として
72
みてきたが,ザメッツもラガッツィと同じく, ヨーロツノマとアメリカの対照
的な投資構成の原因を次の点に求めている 1)。
(1) ヨーロッパ人にとって,アメリカの大きくて奥ゆきの深い,そのて弾力
性のある市場は魅力的であること o (これはラガッツィの表現を借りれ
ば,アメリカの資本市場が、perfectll で、effective〆ノであるということに
なろう-引用者)。
(2) ヨーロッパの実業家はアメリカで直接生産するよりもむしろアメリカヘ
輸出することを選好することこの点はラガッツィでは指摘されていな
かった-引用者) 0
しかしながら,ザメッツは1966年以降におけるヨーロッパの対米直接投託
の伸び率にはいちぢるしいものがあるという O 第 2去によって,直接投資全
体についてみれば,アメリカは1966年以前のそれぞれの期間に年1396,1796
もの伸び率を示していたのが, 1966ー 72年の期間には1296にダウンしてい
るD 逆に,ヨーロッパの場合は, 1966年以前のそれぞれの期間に年8%,5
Mの伸び率であったのが1966年以降になって1496もの急倣な上昇を示してい
るD このような傾向は対製造業投資のみに限ってみるといっそういちぢるし
くなる D アメリカの場合, 1950年以降における対ヨーロッパ製造業投資の伸
び率は年1396台で推移してきたが,ヨーロッパの場合は, 1966年以前の各期
間の伸び率がそれぞれ年696,796であったのに対し, 1966-72年の期間に
は年18労ものいちぢるしい伸び率を示している O
第 2表 対外直接投資の年増加率一一米国→ヨーロッパ,ヨーロツ
パ→米国:1950-1972 (96)
1950-1959 1959-1966 1966-1972
対外直接投資総額
米国からヨーロ γパ l 13 17 12 ヨーロッパから米国 8 5 14
製造業に対する対外直接投資
米国からヨーロッパ| 13 13 13 ヨーロッパから米国 6 7 18
A. W. Sametz, op. cit., P. 91.
相互投資の研究 73
乙のような1966年以降におけるヨーロッパの対米直接投資のいちぢるしい
上昇は,上述したヨーロッパの投資家の選好になんらかの変化がおこったと
みるべきであろうか。ザメッツはその点を解明するために,ユニリバーやジ
ーメンス等の伝統的なヨーロッパの寡占企業 (olderEuropean MNCs) と
新興の多国籍企業 (newerEuropean MNCs)とを区別して,新現象を考
察している o そして,彼が1966年以降のヨーロッパの対米直接投資の急増に
おいて,とくに注目しているのは後者の企業なのである 2)。いいかえれば,
寡占的劫践にもとづいた投資とは目的を異にする投資が近年のヨーロッパ対
米直接投資急増の主流をなしているのである D
それでは,それらの企業の対米進出の動機又は目的はいったい何であろう
か。ザメッツは次のように述べている D
「ヨーロッパの多国符企業は,アメリカのヨーロッパにおける子会社につ
いていわれるように,主要には防街的手段として,すなわち以前に愉出を辺
じて確立していた市場を維持するために,アメリカ市場に投資したとはいえ
ない。ヨーロッパの企業は攻撃的手段として,すなわち世界とヨーロッパ市
場-におけるアメリカとの競争力を強めるために,アメリカに子会社をもつこ
とを欲つするのである 3)J。
そして,ザメッツによれば,そのようにして設立された子会社の目的は,
在米子会社を通じてのアメリカにおける技術の取得である。その117去として
ザメッツは,ヨーロッパに進出した米国企業に対する対抗はもちろん, EC
の成立による市場規肢の拡大,それにもとづくヨーロッパ企栄の規校の拡
大,そして近年における労問力不足をあげている o これらの要求をみたすた
めに,ヨーロッパの企業はアメリカ型の技術を必要とし,そのためにアメリ
カに子会社を設立するのである。ザメッツは次のように述べている。
「ヨーロッパにおける茂近の発展-拡大された市場と労倒不足ーは,たと
え必然的ではないにしても,アメリカ型の技術の魅力を出した4)J。
もし,最近におけるヨーロッパの対米直接投資の性格が,ザメッツがいう
ようなもの-技術追求的ーなものであるとすれば,われわれはアメリカの対
ヨーロッパ直接投資とヨーロッパの対米直接投資をちがった観点からみなけ
74
ればならないことになるだろう D 少くとも,パーノン流のプロダクト・サイ
クル論あるいは寡占間競争論は, (一部の伝統的ヨーロッパの寡占企業を除
いて),最近のヨーロッパの対米直接投資の急士自に対しては適応されないよ
うに思われる O この点に関し, ザメッツは「一般的に,現在のヨーロッパの
対米直接投資の急増は,主要には国内市場の必要性の関数 (afu nction of
home market needs)であり,貿易論あるいは投資論よりも産業組織論に
負うところがはるかに大きい5)Jと述べている O
このようにみてくると,上記でふれたヨーロッパの投資家の従来の選好
には,基本的には,大きな変化はないように思われる D というのは, くりか
えし述べてきたように, ヨーロッパの最近の対米直接投資の性格は, アメリ
カの対ヨーロッパ直j完投資のように.輸出代替的あるいは現地生産・販売的
ではなく,基本的には,技術追求的あるいは安系輸入代替的であるからであ
るD いいかえれば,伝統的手占企業を除くヨーロッパの多国籍企業は,アメ
リカで技術を取得し,それを本国にもちかえるためにアメリカに直接投資を
おこなうのである。そしてザメッツによれば, このような性格をもった投資
が最近急増しているヨーロッパの対米直接投資の主流をなすのである O
さて, このようにアメリカにおいてRD(研究・開発)活動を遂行し,旧
市場を守るというよりもむしろ新製品を開発するために高度技術集約産業部
門l乙設立された最近のヨーロッパの在米子会社は, ザメッツによれば,
リカの在欧子会社とは対照的に,次の諸点によって特徴づけられる 6)。
(1) 親会社の経営からかなり独立していること O
アメ
(2) 貝収の方法 (acquisitionor take-over techniques)に異常なまでに
依存していること O
(3) 資金調達の方法として, 内部金融度が高いこと O
(1)の理由として, ザメッツは(イ)在米子会社が親会社の活動とは全く具った
特殊な活劫を営んでいること, (ロ)在米子会社の必然的に巨大な規模(アメリ
カ市坊における効率性のために)は,子会社の親会社からの独立度を増すこ
と,け技術迫求的 (technology-seeking)在米子会社は, ヨーロツノマのま見
会社よりも, アメリカの技術的主導者 (technologyleader -先端技術をも
相互投資の研究 75
った企業-引用者)にヨリ多く依存していること, (.ニ)そのような性格をもっ
た在米子会社は独自の経営者(現地のアメリカ人を含む)をもち,親会社の
主要関心である販売および輸出市場から隔離され,アメリカの消費者とより
もアメリカの他の企業と取引きをおこなう傾向があること,等をあげ,これ
らすべてのことは,親会社の経営者との密接な統合が必要でないばかりでな
く,むしろ子会社の特殊な任務(アメリカにおける技術の取得)にとって有
害でさえあることを志味すると述べている O
(2)の理由として,彼は技術を敏速に取得することを目的とする場合,既存
の企業を買収するのがてっとりばゃい方法 (populartechnique)であり,
この買収ノレート (acquisi tion rou te)は1972年と 1973年には, ドノレの対外
価値の下落と米国株式の低落がかみあったことによって,好都合であったと
述べている O たとえば, 1946年一67年の20年聞に設立された子会社の内訳を
みると,ヨーロッパの場合,子会社総数の約 2は買収によるものであった
が,アメリカの場合は,子会社総数のまないし去が只収によるものであっ
た。それをアメリカとヨーロッパのみに限ってみると,たとえば, 1963-68
年の期間,アメリカは対ヨーロッパ直接投資総額のうち, 10----1596を只収ノレ
ートによって占めたにすぎないが,ヨーロッパの対米直技投資の羽合には,
実にその半分が只収によって占められたのである 7)。
(3)の理由として,ザメッツはアメリカにおける資金調達ね式は内部金融が
支配的であり,買収によって設立された在米子会社も,現地の方式に従って
留保利潤と減価償却貨によって資金調達する傾向があること,また在米子会
社の任務は配当金を親会社に送金する乙とではなく,技術を移転する乙とで
あること等をあげている D
以上で欲米間の相互投資に閃してのザメッツの見解の紹介を終るが,いま
まで述べてきたところから切らかになったことは,欧米間の相互投資(直技
投資の相互没透)といっても,そのrUJぬは必ず、しも同じではなく,ヨーロッ
パ多国籍企業の在米子会社とアメリカ多国怨企業の在欧子会社との問には,
目的上も機能上もまた設立の方法上も,根本的な相逃があるということであ
るD ザメッツが,本杭で紹介した論文の中で,もっとも強調したかったのも
76
この点であった O
注 1 A. W. Sametz, Op. cit., P. 89.
2 ザメッツはヨーロッパの対米直接投資のうち,寡占的競争にもとづくものが相当
部分を占めているのを認めながらも, Iそのような伝統的な直技投資は及近のヨー
ロッパの対米直接投資急増の核心であるように忠われない」と述べている。
ibid., P. 95.
3 ibid.,p.94.
4 i bid., p. 96-97.
5 ibid., p. 96.
6 ibid., p. 99.
7 ibid., p. 100.
合品 と め
これまで,第 2次大戦後における直接投資の研究に関しては,アメリカの
多国籍企業を主体にしたものが多く,他の先進国(とくにヨーロツノマ)の直
接投資についてはあまりふれられることがなかった O もちろん,それにはそ
れなりの理由があったのであるが,しかし,先に述べたように近年における
ヨーロッパの対米直接投資の伸び率にはめざましいものがあり,それに伴っ
て,それに関する研究者の関心も高まりつつある O そのような情況の中で,
ヨーロッパの対米投資または欧米聞の相互投資に関する研究もさかんになっ
てきているのであるが,従来の研究をみれば呈的な分析にとどまったものが
多く,質的内容にまで立入った検討はほとんどお乙なわれていない。乙のよ
うな問題意識の上から,私はラガッツィとザメッツの研究を紹介してきた
のであるが,これらの研究はわれわれに次のようなことを示唆してくれ
るO
(1) アメリカの対ヨーロッパ直接投資とヨーロッパの対米直接投資を同じ
レベノレでみてはならないこと一一このことは,アメリカの対ヨーロッパ
直接投資の決定因をヨーロッパの対米直接投資にそのまま適用してはな
らないことを怠味している。すなわち,アメリカ多国籍企業の論理をそ
相互投資の研究 77
のままヨーロッパの多国籍企業に適用してはならないのである O
(2) アメリカとヨーロッパの資本市場(アメリカ=効率的,ヨーロッパ=
非効率的)が依然として現情のままであり,ヨーロッパの企業家の選好
(現地生産よりも愉出を好む〉に変化がないかぎり,ヨーロッパの対米
投資の基本的パターン(証券投資主導型)には大きな変化はないこと D
乙のかぎりでは,ザメッツがいう現在の利潤ではなく技術追求型のヨー
ロッパの対米直接投資は例外であろう O 呈がふえたからといっても,投
資がこのような性格のものであるかぎり,それは従来のヨーロッパの対
米投資パターンを変化させる乙とにはならないのである O
このようにみてくると,数量的判断でもって現在の欧米聞の相互投資を,
寡占問競争という視点でとらえるやり方(清水嘉治,佐藤定幸氏等にこの傾
向が強いように思われる)には問題があるように思われる。すなわち,欧米
聞の相互投資といっても,欧米の企業の問には依然として大きな資本上,技
術上のギャッフ。があるのであり,両者を現在の時点で対等に論じることはで
きないのである D 少くとも雰占間競争という視点でとらえることができるた
めには,ヨーロッパの企業がアメリカの企業と同じ技術水咋に述し,その時
点で有効な国際カルテノレが存在しない状態でなければならないであろう D 現
在は,まだそこまでいっていないとみなければならないD
以上が,私がラガッツィとザメッツの研究によって得た結論である O し
かし,彼らの研究とてまだ十分なものではなく,検討すべき余地はたくさん
ある D そのかぎりでは,相互投資の質的側面に関する研究はまだほとんどお
乙なわれていないといってもよいだろう。私はただ,彼らの研究を初介する
乙とによって,わが国であまり論じられる乙とのなかった問題へのj出向をす
るにすぎなかったのである O