ncgm 救急小児内科カンファレンス

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Clinical Conference, 14 Feb. 2013 24歳 歳 歳歳 歳歳

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Feb 14, 2013

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Page 1: NCGM 救急小児内科カンファレンス

Clinical Conference, 14 Feb. 2013

24 歳女性 腹痛・発熱

Page 2: NCGM 救急小児内科カンファレンス

24 歳 女性 (149cm 43kg )7 月 22 日 救急外来受診

【主訴】 腹痛、発熱

【既往歴】 17 歳 性器クラミジア その他特記すべき既往なし

症例提示

Page 3: NCGM 救急小児内科カンファレンス

【現病歴】 7 月 21 日昼頃から咽頭痛、腹痛、めまい、倦怠感、下痢、悪寒が出現し 38.6℃ の発熱があった。漢方薬と感冒薬を飲んだが症状改善せず、昨夜は 38.9℃ まで熱が上がった。今朝は 37.1℃ まで解熱したものの症状改善しないため救急外来受診した。

【服薬歴】 なし

【生活歴】 10 本 ×4 年の喫煙歴あり、機会飲酒 独居、職業は看護師

Page 4: NCGM 救急小児内科カンファレンス

【救外受診時の現症】 体温 35.4℃ 、血圧 111/78mmHg 、脈拍 89 回 /分、 呼吸数 16 回 /分、 SpO2 100% ( 室内気 )

< 身体所見 >腹部:平坦軟、下腹部正中に最強点を有する圧痛あるが、明らかな腹膜刺激兆候はなし。

四肢:皮疹なし

その他明らかな異常なし。

Page 5: NCGM 救急小児内科カンファレンス

Alb 4.4

T-Bi 1.2

AST/ALT 31/11

LDH 353

ALP 189

CK 60

BUN/Cre 8.7/0.5

Na/K/Cl 137/4.3/99

CRP 19.10

WBC 10710

RBC 452 万

Hb 12.9

Ht 27 万

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次にどうしますか?

Page 7: NCGM 救急小児内科カンファレンス

CT

Page 8: NCGM 救急小児内科カンファレンス

最終的に救急外来(内科当直)では…

✔ CT 上著しい異常所見ないこと✔ 受診時すでに解熱しており、症状改善認めていること

…から緊急性低いと判断し、整腸剤処方の上で有事再診として帰宅させた。

Page 9: NCGM 救急小児内科カンファレンス

< 所見 >

虫垂腫大を認め、急性虫垂炎と考えられます。穿孔、膿瘍は指摘できません。

 明らかなリンパ節腫大なし、胸腹水なし。

 肝嚢胞、左腎嚢胞を認めますがそれ以外には胆、膵、脾、右腎に明らかな異常所見ありません。

< インプレッション >

 急性虫垂炎

翌日の放射線科レポート

Page 10: NCGM 救急小児内科カンファレンス

✔ 7/23 放射線科の読影レポートで急性虫垂炎が疑われたため、内科当直から消化器内科へコンサルトした。

✔ 消化器内科医と ( 別の… ) 放射線科読影医が CT 画像を再検討し、虫垂の軽い炎症もあるが、骨盤内の他の領域にも脂肪織濃度の軽度上昇があるとされた。

✔ 虫垂炎を積極的に疑うにしては身体所見に乏しく、すでに症状改善あることや CT 所見、クラミジアの既往などからはむしろ PID の可能性が考えられた。

…精査のため翌日当院婦人科受診するよう指示された。(やはり抗菌薬の処方はなし)

Page 11: NCGM 救急小児内科カンファレンス

✔しかし翌 7 月 24 日、婦人科を受診せず。

…症状まったく改善したから?

Page 12: NCGM 救急小児内科カンファレンス

【主訴】 咽頭痛、心窩部痛、めまい

【現病歴】 あのあと症状全く改善していたので受診しなかった。 8月 5日(=前回の発熱から 3 週後)より咽頭痛を自覚し、感冒薬内服したが症状改善せず。今朝からは心窩部痛、めまい、嘔気、全身倦怠感も生じた。 以前からこのような症状が出た数日後に腹痛があることが多く、今回も痛くなると予感したため心配になって総合診療科を受診した。 心窩部、右前胸部に深吸気で増悪する疼痛の訴えもあった。

8月 6 日 予約外再診 ( 総診初診 )

Page 13: NCGM 救急小児内科カンファレンス

✔10 年くらい前から、月に 1回【咽頭痛→胸痛→腹痛】のエピソードを繰り返すようになった。月経痛との区別はあいまいであった。

✔初潮は 12 歳。最終月経は 6月初旬、周期は不順で 3 ~9 週間。経血量は多くはないが月経痛は強い。

✔性器クラミジア感染は 17 歳頃に 1 度。✔現在特定のパートナーはいない。不特定多数との性交渉

の既往はない。性交時痛なし。避妊しないことがある。✔最終産婦人科受診歴は 1年前で、経膣エコー施行したが

特に異常ないといわれた。✔0G0P 。

「繰り返す腹痛?」

Page 14: NCGM 救急小児内科カンファレンス

【総診初診時の現症】体温 36.6℃ 、血圧 110/80mmHg 、脈拍数 80回 /分、呼吸数 16 回 /分、 SpO2 100% ( 室内気 )

< 身体所見 >

 頭頚部:扁桃腫脹あり 発赤なし 膿栓なし 胸部:肺音清 心雑音聴取しない 腹部:平坦軟 圧痛なし 腸蠕動音正常 四肢:浮腫なし 皮疹なし 神経:異常なし

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7 月 22 日 8月 6日T-Bi 1.2 0.6

AST/ALT 31/11 17/9LDH 353 201ALP 189 173

BUN/Cre 8.7/0.5 12.0/0.49Na/K/Cl 137/4.3/99 141/4.2/104

CRP 19.10 0.74WBC 10710 11710RBC 4.52 4.40Hb 12.9 12.3Plt 27 万 30.8

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✔翌 8 月 7 日 婦人科コンサルト。✔経膣超音波検査では明らかな異常なし。✔クラミジア抗原検査陰性、膣培養陰性 (no growth) 。

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プロブレムリスト

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プロブレムリスト

#1. 繰り返す腹痛と発熱のエピソード ( 約3日、 10 年来、月 1回程度 )

#2. 前駆/随伴症状 ( 咽頭痛、胸痛 )

#3. 炎症反応の上昇 (CRP 19.10) を伴い、抗生剤なしに症状・データともに自然軽快

#4. CT :虫垂含む、骨盤内脂肪織濃度の軽度上昇

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ここまでで考えられる鑑別診断

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✔関係ないと思っていたが、その他に右肩痛と右膝痛もある。✔咽頭痛、心窩部痛、右前胸部痛、右肩痛、右膝痛が生じた数

日後に、 80〜 90%ほどの確率で腹痛と発熱が生じる。これら前駆症状の中でも咽頭痛がまず初めに来ることが多い。

✔腹痛の位置は腹部全体であったり下腹部に限局したりまちまち。持続痛で歩行で響く。

✔上記症状は総合感冒薬や漢方薬を内服することで 3日ほどで軽快する。市販のイブ錠、大正漢方胃腸薬、 PL顆粒などよりも柴胡桂枝湯が一番効く気がする。内服し忘れた場合でも4日くらいで軽快する。

✔発熱については総合感冒薬を飲めばだいたいすぐ下がるため、あまり測らない。

✔家族に聞いたところ、実は姉も 10 年程前から月に1回程度、月経後の発熱と腹痛があったと言われた。また父方の叔母が長年同様の症状を呈していたが、虫垂切除施行後に症状でなくなったと言われた。

追加問診

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サマリー✔主症状は【 3 日間継続する腹痛と発熱 (>38℃) 】

✔15 歳前後から発症し、この10年間、月に 1 回程繰り返している。家族歴もある。

✔随伴症状は腹痛・発熱の他に右前胸部痛と右肩部痛(深吸気時に増悪)、左膝痛、心窩部痛

✔発熱時には CRP の著明な上昇 (CRP 19.10) があるが、間欠期には消失 (0.74) する .

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診断は?

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厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 「家族性地中海熱の病態解明と治療指針の確立」研究班 家族性地中海熱診療カイドライン 2011 (暫定版 )

家族性地中海熱の診断基準

必須項目 12 時間から 3 日間続く 38 度以上の発熱を 3回以上繰り返す

補助項目 1. 発熱時の随伴症状として a~f のいずれかを伴う    a. 非限局性の腹膜炎による腹痛    b. 胸膜炎による胸背部痛     c. 関節炎 ( 股関節、膝関節、足関節 )     d. 心膜炎     e. 精巣漿膜炎     f. 髄膜炎による頭痛 2. 発熱時に CRPや血清アミロイド A(SAA) など炎症検査所見の著明な上昇を認めるが、発作間歇期にはこれらは消失する 3. コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する

必須項目と、補助項目のいずれかを 1 項目以上認める場合に診断。ただし感染症、自己免疫疾患、腫瘍などの発熱の原因となる疾患を除外する。

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✔8 月 28 日 MEFV遺伝子検査依頼のため、血液検体を信州大学へ送付

✔9 月 18 日検査結果到着

 

Page 27: NCGM 救急小児内科カンファレンス

M694I E148Q L110P P369S R408Q

Our Patient

M/I E/Q L/P - -

Normal M/M E/E L/L P/P R/R

家族性地中海熱と診断可能

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✔12 月 5 日からコルヒチン 0.5mg/day を処方

 

→ (10 年悩まされていた ) 腹痛+発熱のエピソードが出現しなく

なった !

実姉にも MEFV遺伝子検査を施行

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M694I E148Q L110P P369S R408Q

Sister M/I - - - -

Normal M/M E/E L/L P/P R/R

M694I E148Q L110P P369S R408Q

Our Patient

M/I E/Q L/P - -

Normal M/M E/E L/L P/P R/R

M694I のヘテロ接合体単独

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有病率の高い国や人種でみられるM694VやV726A の変異は本邦では全くみられない。

日本でみられる地中海熱は、疾患の特徴を記した教科書的な記述と異なるかもしれない。

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結語

典型的な症状を呈した家族性地中海熱の症例を経験した。

教科書や文献の知識にとらわれず、長年繰り返す発熱や腹痛のエピソードをもつ患者に、家族性地中海熱を一度は疑ってみることが必要である。