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No.86 NAFTA の銅需給動向の現状と将来展望
主任研究員 大野 栄一
作成時期:平成 13 年月
要 旨
1999年度に西欧の銅需給バランスについて調査した。今年度(2000年度)は同様の調査
を NAFTA(構成国:カナダ、アメリカ、メキシコ)について実施する。報告書の構成として
は、はじめに、① カナダ、アメリカ、メキシコ(以下、3ヶ国)について、銅精鉱、粗銅、
銅地金、銅電線および伸銅品(以下、銅関連原材料および中間製品)の輸出入を調べて、銅
産業における NAFTAの位置づけについて検討する。② 3ヶ国について、銅マテリアル・フ
ローの現状を調べる。③ 3ヶ国について、鉱山生産量(銅精鉱生産量)、製錬生産量、銅
地金生産量、SX-EW生産量および銅地金消費量の現状および将来予測を行って、将来の3ヶ
国の銅需給バランスの動向について展望する。
なお、本報告書作成に当たっては、USGS (United States Geological Survey、米国地質調
査所)に多大なご協力を頂いた。衷心より感謝する。
1 NAFTA の位置づけ
(1)銅精鉱
(a)輸出
NAFTAの銅精鉱の全輸出量は 460千トンである。このうち、カナダの輸出量が 75.5%と圧
倒的に大きく、次いで、メキシコ 16.6%、アメリカ 7.9%となっている。3ヶ国が NAFTA域
内(以下、域内)へ輸出する銅精鉱は 82千トンで、全銅輸出量の 17.9%である。
(b)輸入
NAFTA の銅精鉱の全輸入量は 342 千トンである。このうち、アメリカの輸入量が 63.7%、
次いで、カナダが 36.3%となっている。NAFTA域外(以下、域外)からの銅精鉱の輸入量は
301千トンで、全輸入量の 87.9%である。
(2)粗銅(ブリスター & アノード)
(a)輸出
NAFTAの粗銅の全輸出量は 68千トンである。このうち、メキシコの輸出量が 57.4%、次
いで、アメリカが 42.6%となっている。メキシコおよびアメリカの2ヶ国が NAFTA域内へ
輸出する割合は 86.0%である。粗銅の輸出の大部分が NAFTA域内向けである。
(b)輸入
NAFTAの粗銅の全輸入量は 289千トンである。このうち、アメリカの輸入量が 62.4%、次
いで、カナダが 30.8%となっている。カナダおよびメキシコについては詳細不明であるが、
アメリカの域内からの粗銅の輸入量は 72.6%で、域内に依存する割合が大きい。
(3)銅地金
(a)輸出
銅地金の全輸出量は 640千トンである。このうち、カナダの輸出量が 55.5%と過半数を
占めており、次いで、メキシコが 31.0%、アメリカが 13.5%となっている。3ヶ国が NAFTA
域内へ輸出する割合は 74.9%である。銅地金の輸出の多くが NAFTA域内向けである。
(b)輸入
NAFTAの銅地金の全輸入量は 837千トンである。このうち、アメリカの輸入量が 86.6%で
圧倒的に大きい。カナダおよびメキシコについては詳細不明であるが、アメリカの域内から
の銅地金の輸入量は 61.1%である。
(4)銅電線
(a)輸出
NAFTAの銅電線の全輸出量は 119千トンである。このうち、アメリカの輸出量が 54.0%で
過半数を占めており、次いで、カナダが 43.5%になっている。メキシコは僅か 2.5%である。
3ヶ国が NAFTA域内へ輸出する割合は 87.7%である。銅電線の輸出の大部分が NAFTA域内
向けであることがわかる。
(b)輸入
NAFTAの銅電線の全輸入量は 110千トンである。このうち、アメリカの輸入量が 53.1%で、
カナダは 22.7%、メキシコは 24.2%となっている。アメリカの域内からの輸入量は 91.0%、
メキシコは 99.4%およびカナダは 96.6%で、3ヶ国共、銅電線の輸入は、域内貿易に大き
く依存している。
(5)伸銅品
(a)輸出
NAFTAの伸銅品の全輸出量は 259千トンである。このうち、アメリカの輸出量が 66.0%で、
カナダは 16.2%、メキシコは 17.8%となっている。3ヶ国が NAFTA域内へ輸出する割合は
73.3%である。伸銅品の輸出の 2/3が NAFTA域内向けである。
(b)輸入
NAFTAの伸銅品の全輸入量は 346千トンである。このうち、アメリカの輸入量が 65.2%で、
カナダは 21.2%、メキシコは 13.6%となっている。アメリカの域内からの伸銅品の輸入量
は 34.2%で、全体の 1/3にすぎないが、メキシコは 96.1%、カナダは 92.0%で、メキシコ
とカナダは、伸銅品の輸入を、域内貿易に大きく依存している。
2 需給バランス
(1)カナダ
銅精鉱の需給バランスは、マイナス(輸入ポジション)が拡大する方向で推移する。銅精
鉱生産量の伸び悩みから、製錬所向けの銅精鉱を輸入する方向に向かう。粗銅および地金の
需給バランスはプラス(輸出ポジション)で、且つ、プラスが拡大する方向で推移する。総
じて、カナダは、銅精鉱の生産減を輸入で補い、粗銅および銅地金の生産量拡大を図り、さ
らに、地金消費量の減少と相まって、銅地金輸出国の道を歩むと考える。
Supply and demand balance in Canada
1000MT
1999 2004 2010
Mine production 580 595 611
SX-EW production 3 3 3
Smelter production 609 656 717
Refined production 540 560 593
Refined consumption 266 252 250
Conc. SD balance ▲29 ▲61 ▲106
Unrefined SD balance 72 99 127
Refined SD balance 274 308 343
(2)アメリカ
(a)アメリカの地金供給構造の変化
現在から近未来にかけて、アメリカの地金供給構造に、大きな変化が予測される。1997
~1999年に鉱山生産量の落ち込みが目立つ。これは、主として、Robinson鉱山(BHP)およ
び San Manuel鉱山(BHP)が、1999年 8月に銅精鉱の生産活動を停止したことによる。こ
の影響が直接表れているのが、1次原材料からの製錬生産量(1次製錬生産量)である。1
次製錬生産量は、1999年に大幅に落ち込んだ。これは、上記の Robinson鉱山および San
Manuel鉱山から精鉱を受け入れていた San Manuel製錬所が、銅価格の低迷と相まって、精
鉱調達に困窮して、生産活動の停止に追い込まれたこと、Hidalgo製錬所(Phelps Dodge)
も、経営合理化の一環として、生産活動を停止したこと、さらに、El Paso製錬所(Grupo
Mexico)が閉鎖されたことによる。また、スクラップからの製錬生産量(2次製錬生産量)
も、1997~1999年に減少傾向を辿っている。これは、米国スクラップ処理業界の輸入削減
協定による。このため、Franklin Smelting、Southwireおよび Cerro Copperの各製錬所は、
2次製錬を中止してしまった。必然的に、この製錬生産量に基づく地金生産量も、1999年に
は大幅に落ち込んだ。さらに、1997~1999年は、SX-EW生産量はほぼ横這い、ブリスター/
アノードの輸入の増加はあったものの、スクラップからの地金生産量の減少から、1999年
には、地金生産量は落ち込んだ。
将来に眼を転じると、1999~2004年の鉱山生産能力は、大きく減少傾向している。この背
景にあるのは、アメリカ国内の銅鉱山開発の難しさが指摘されている。因みに、Phelps Dodge
の探鉱戦略を例に取って見ると、従来は、アメリカ国内の活動が中心であったが、環境保護
運動の高まりと鉱業法改定の動きを背景にして、国内の探鉱活動は稼行中の鉱山周辺に限っ
て、1997年までに、国内の全ての探鉱事務所を閉鎖してしまった。1999年現在、活動の拠
点を海外に移している。このような鉱山開発の海外指向は、国内鉱山生産量の低減にますま
す拍車をかけることになると考えられる。USGSによれば、最近、Phelps Dodgeが、エネル
ギー・コストの高騰から、生産量を削減するとの噂が流れているとのこと。もし、そういう
ことになれば、アメリカの鉱山~地金生産量が、短期間に急落する可能性も考えられる。
(b)アメリカの銅スクラップの動向
(イ)スクラップ回収量
アメリカの国内出スクラップ回収量(1999)は 1,390千トンである。これに、輸入 108千
トン、輸出▲250千トン、在庫 6千トンが加わって、銅ベース・スクラップからの回収量は
1,254千トンである。この他、銅ベース以外のスクラップからの回収量が 77千トンあって、
全スクラップ回収量は 1,330千トンに達する。
(ロ)スクラップの用途構成
用途構成は、製錬所向け 206千トン(15.4%)、精練所向け 87千トン(6.5%)および中
間製品向け 1,096千トン(82.4%)である。さらに、中間製品向けスクラップの消費構成と
しては、ワイヤー・ロッド向け 27千トン(2.4%)、伸銅品向け 803千トン(73.3%)、イ
ンゴット向け 158千トン(14.4%)、鋳造品向け 54千トン(5.0%)、粉向け 11千トン(1.0%)、
その他 43千トン(3.9%)である。伸銅品向けが全消費量の 3/4を占めている。
(ハ)国別スクラップ輸出入量
スクラップ輸入については、銅地金スクラツプは、メキシコ(16,329トン)からの輸入
が特に多く、次いで、カナダ(6,762トン)、チリー(5,520トン)、ドミニカ(1,199ト
ン)と続く。銅合金スクラップは、カナダ(48,195トン)およびメキシコ(29,395トン)
からの輸入が飛び抜けて多く、この他、コロンビア(2,778トン)、英国(2.446トン)、
ベネズエラ(1,975 トン)等から輸入している。総じて、中南米からの輸入が多い。一方、
スクラップ輸出については、銅地金スクラップは、中国(51,266トン)およびカナダ(31,828
トン)への輸出が特に多く、次いで、日本(10,486トン)、香港(9,388トン)、韓国(7,632
トン)、台湾(4,118トン)と続く。銅合金スクラップは、カナダ(35,714トン)、中国(34,789
トン)、韓国(34,752トン)、インド(26,056トン)およびメキシコ(20,650トン)への
輸出が多い。総じて、空の帰り船を利用する関係で、アジアへの輸出が多くなっている。
近年、アメリカにおいては、スクラップ輸入の減少傾向が見られる。この減少は、直接的に
は、米国スクラップ処理業界の輸入削減協定によるものであるが、その背景には、スクラッ
プの国内流通コストが高いことから、前述のように、Franklin Smelting等の 2次製錬所が
閉鎖されるなど、アメリカ国内のスクラップ受け入れ体制が弱くなったためと言われる。
(c)需給バランス
銅精鉱、粗銅および地金の需給バランスは、いずれもマイナス(輸入ポジション)で推移
する。特に、地金の需給バランスは、マイナスが拡大する方向で推移する。総じて、アメリ
カは、銅精鉱生産量の減少、SX-EW生産量は増加するものの、粗銅および地金生産量の低位
横這いから、銅精鉱、粗銅および地金は、いずれも輸入に依存する。
Supply and demand balance in USA
1000MT
1999 2004 2010
Mine production 1014 750 750
SX-EW production 584 720 720
Smelter production 1293 983 983
Refined production 2130 1950 1950
Refined consumption 2995 3117 3269
Conc. SD balance ▲279 ▲233 ▲233
Unrefined SD balance ▲253 ▲247 ▲247
Refined SD balance ▲865 ▲116 ▲1319
(3)メキシコ
銅精鉱の需給バランスは、マイナス(輸入ポジション)が拡大する方向で推移する。銅精
鉱生産量の伸び悩みから、製錬向けの銅精鉱は輸入する方向に向かう。粗銅および地金の需
給バランスは、いずれもプラス(輸出ポジション)になっている。特に、地金の需給バラン
スはプラスが拡大する方向で推移する。総じて、メキシコは、銅精鉱の伸び悩みを輸入で補
い、地金消費量を上回って、粗銅および地金の生産を行い、粗銅および地金輸出国の道を歩
むと考える。
Supply and demand balance in Mexico
1000MT
1999 2004 2010
Mine production 330 330 330
SX-EW production 51 87 126
Smelter production 371 477 603
Refined production 399 545 703
Refined consumption 291 382 472
Conc. SD balance ▲41 ▲147 ▲273
Unrefined SD balance 23 19 26
Refined SD balance 108 163 231