npb データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1....

11
1 NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析 大東文化大学 経営学部 企業システム学科 15162134 奈須 純平

Upload: others

Post on 28-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

1

NPBデータに基づく

内野手守備範囲の解析

大東文化大学 経営学部 企業システム学科

15162134

奈須 純平

Page 2: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

2

目次

1. はじめに ........................................................ 3

2. 背景 ............................................................ 3

2-1 守備評価 UZRについて.......................................... 3

2-2 野球のデータ革命 ............................................. 3

3. 研究方法 ........................................................ 4

4. 研究結果 ........................................................ 4

4-1 総評 ........................................................ 4

4-2 セカンド ................................................... 5

4-3 ショート ................................................... 6

4-4 サード ..................................................... 8

5. 課題 ............................................................ 9

6. おわりに ....................................................... 10

7. 参考文献 ....................................................... 11

Page 3: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

3

1. はじめに

日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

賞」)がある。この賞は年間出場数など規定の水準に達した中で守備力に卓越した選手

を選出し、両リーグのポジションごとに表彰するものである。ただし、ゴールデングラ

ブ賞には、選出し投票する有識者が日本のプロ野球記者であり、いわば主観的な評価が

もとになっているという問題がある。そして、規定水準に達する選手が少ないため、該

当者がないポジションが存在する年がある。さらに、ゴールデングラブ賞以外の評価基

準として「エラー数」で評価することも多い。この中には守備範囲の広さやイニング経

過による変化等を評価するものがなく、さらにもっと簡易的かつ、数値でわかるものあ

るのではないかと考えたのが本研究のモチベーションである。

2. 背景

2-1 守備評価 UZR

昨今、野球での守備評価基準にはアルティメット・ゾーン・レーティング(以下「UZR」)

と総称される選手の守備力を数値で判断できる画期的な指数がある。これは、グラウン

ド全体を分割し各ゾーンで発生した打球の種類や速度を記録する。そしてリーグ全体で

どの打球がアウトになったのかを記録し算出するものである。このデータをもとに個別

の選手のプレーを評価し各種の補正を合わせて「リーグにおける同じ守備位置の平

均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を計算する。

UZRでは上記のようにして全ての試合で生じた各打球について関連する守備者にプラス

とマイナスの評価を与えていき、その値を選手ごとに合計したものが最終値となる。実

際の算出では上記の基本的なロジックに加えて打球が発生した際の走者状況やアウト

カウント、プレーした球場などの要素を加味した補正が行われる。なお、内野へのフラ

イ及び内野へのライナーは評価の対象外となっている。これは、内野フライは選手の守

備力に関わらずほぼ確実にアウトになるものであり、対象に含めるとたまたまどこに飛

んできたか、どの野手が捕ることにしたかによって評価が歪められるだけであり、ライ

ナーについても守備力よりもたまたま特定の野手の近くに打球が飛んでくるか否かの

影響が大きく守備力の評価に適さないとされるためである。このように、UZRの計算を

行う場合は時間、コストなどがかかる上に最終的な評価は個人の判定にゆだねられた相

対評価である。

Page 4: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

4

2-2 野球のデータ革命

昨今の野球では、データ化による分析が行われるとともに、その結果の基づく合理化

もなされている。ノーアウト1塁でのバントやフライボール革命、打順変更などがここ

10 年で革命ともいわれるように変化している。日本の小中学校での野球の教育、練習

で当たり前のように行われていたことが覆されており、アメリカの野球、最先端の戦術

に比べて日本は取り残されている部分がある。2010 頃から日本人で活躍している選手

は日本の中では大きい選手や投球で力のある選手が特にアメリカに挑戦する傾向が最

近多いのではないかと思われる。しかし、アメリカで活躍するような体の大きい選手や

力の強い選手が多いスポーツではあるものの、ホセ・アルツゥーベ選手(2018年度アス

トロズ所属)のようなホームランは特別多くなくても走攻守できる選手も存在する。大

谷翔平選手のプロ入りの時から日本野球が軽視されていることを感じるところがある

が、自分は日本のプロ野球は MLBとは別のものと考えるべきだと思う。昔からアメリカ

で失敗してしまう日本人は多く、怪我やコンディション不良で全盛期を棒に振る人たち

を安易に思い浮かべることができてしまう。今の日本野球には山田哲人選手や菊池涼介

選手のように、野球の代名詞でもあるホームランが打てるから活躍している選手ばかり

ではない。日本でもデータを活用した新たな発見により、貢献できるも多いはずだ。

そこで本研究では、野球の選手評価として守備の評価をもっと簡易的にみることを試

みた。打撃だけでなく守備にもさらにすばらしい選手がいると野球に詳しくない人たち

にも理解して貰いたいと考えている。

3. 研究方法

本研究では、データスタジアムより借用した 2年間の一球データを利用する。守備に

ついて注目するため、攻撃に関するデータとの関連性などを排除した。第一捕球者のポ

ジションごとでピックアップを行い、データの抽出を行う。利用したデータは試合日付、

イニング、打席結果、飛球座標 X、修正後飛球座標 Y、打球区分であり、また打球区分

名を利用してこの中から捕球位置、ホームベース(40,40)を原点とした座標化を行い、

セーフ(青)、内野安打(黄色)、エラー(赤)で色分けし可視化をする。ゲーム内容、相手

打者によってポジションが変わる外野とゴロなど第二捕球者となることが多いファー

ストは今回行わない。その後、選手のイニング別での成績をグラフ化し近似曲線で安定

感の可視化を行う。この可視化により基本的に選手の守備能力を測ることができる。さ

Page 5: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

5

らに、年間の試合を通して疲労や集中力を測り、選手やチームとしての弱点を発見する

こと、そして、最適な選手やチームとしての選手獲得に応用することができるだろう。、

これらの指標は代表選手としてオリンピックや WBC の選考にもさらなる応用が効く可

能性を秘めていると考えられる。

4. 研究結果

4-1 総評

選手データの可視化に伴って座標自体を選手の平均的な守備位置から回転行列を用

いて正面座標に変換した。その結果比較しやすさの向上があったものの、野球としてベ

ースの位置がないため少しイメージしにくい点が生じてしまう。そのため説明と補足を

行い、データの中で特徴的な選手をここで挙げていく。

4-2 セカンド

図 1 セカンド 正面守備選手

Page 6: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

6

図 2 セカンド イニング別アウトの近似曲線

セカンドとして全選手で見られることは、利き手とは逆にきた打球(以降、逆シング

ル)への対応は難しいため内野安打が多く、どれだけ前に出て捕球ができるかに注目し

ていきたい。

この中で突出して守備が良いといえる選手は図 1での菊池涼介選手と山田哲人選手

である。守備範囲の広さは他の一般選手と比べると驚愕である。この2選手の違いとし

て菊池涼介選手は高い安定性と内野安打の多さが挙げられる。図2によると近似曲線自

体は少し下がってしまうもの値自体はとても高水準である。そして意外と思われる内野

安打の多さについては”内野安打になった”という意味で捉えると話が変わってくる。

なぜなら内野を抜けてしまう玉を捕球することで進塁を阻止することができる。さらに

そのプレーでセーフとアウトの瀬戸際であれば取るだけでチームには安心などデータ

以上のものを与えることができる。山田哲人選手はトリプルスリーで打撃のイメージが

強いが守備でも良い成績を残している。守備範囲で見れば菊池涼介選手には勝っている

ところがあり、エラーや内野安打になる回数が少ない。そして、近似曲線ではかなり高

い傾向にある中で集中力を保ちながら守備を行えている。この2選手は WBCでポジショ

ンを争う選手同士ではあるが日本はセカンド守備が高いことがうかがえる。逆に上本博

起選手と鈴木大地選手は守備範囲が狭い。特に上本選手は範囲が狭く、ゲーム終盤にな

るにつれて成績が落ち近似曲線自体も下がる傾向にあり安定感に欠けるところがある。

そして、浅村栄一選手は守備範囲が広く感じられる点はあるがセカンドを守るときにボ

Page 7: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

7

ールをできるだけ前で守備するのが鉄則である中、中心点より前で守備をする回数が少

ない上、前でのボールを受ける場合エラーが少し多い傾向にある。そして 1回から 3回

にかけての成績が他の選手より安定感に欠ける傾向がある。

4-3 ショート

内野手で一番守備能力を求められるショートは野球の花形ポジションの一つといっ

ても良いだろう。セカンドと同様に逆シングルの打球に対して成績が低くなってしまう

ことがわかる。

ショートについて注目したい点は守備範囲の広さとエラーと内野安打になった回数

である。坂本勇人選手と今宮健太選手は図3の正面守備範囲の広さが他の選手を圧倒し

ていることが見てわかる。坂本選手の良い点としては中心点より前線のエラーがないこ

とである。今宮選手は二塁ベースの付近までの守備範囲が存在することがわかる点と、

サードで挙げる松田選手との守備の連携がこの結果を生んでいることがわかる。逆に課

題の多い選手として茂木栄五郎選手は守備範囲が他の選手より範囲が狭い上に中心点

のエラーが多いことが挙げられる。高校生ルーキーとして日本代表にも選出経験のある

選手であるため更なる躍進が行われると面白いと思う。

図 3 ショート 正面守備選手

Page 8: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

8

図 4 ショート イニング別アウトの近似曲線

また、倉本寿彦選手の守備は野球ファンとして話題にされることが多い選手であるが、

坂本、今宮選手と比べると守備範囲自体が狭いというわけではないものの、中心点付近

から前線にかけてのエラー、内野安打の数が多い傾向にあり近似曲線でも他の選手より

低い値を出すところがある。前に出てボールを受け投げるということがあまり上手では

ないといえることが見て取れる。そして源田壮亮選手は西武の長年埋まることのなかっ

たショートでスタメンを勝ち取ることができた選手である。試合での図4のイニング別

セーフの近似曲線では後半は落差があるものの近似曲線は高い値を安定的に推移して

いる。だが、守備で中心より少し後ろでのエラーがある上、他の選手より後ろでの守備

がまだできていない傾向にあり、今伸びしろのある選手だと思われる。安達了一選手は

守備が後半に失速する傾向に逆シングルの打球が他の選手より特に弱い傾向にある。二

遊間の処理にも少し難がある。しかし、二三塁では守備ができているため、チーム内の

連携次第では更なる成績向上が望める可能性がある。

Page 9: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

9

4-4 サード

図 5 サード 正面守備選手

図 6 サード イニング別セーフの近似曲線

サードはバントの処理もあるため守備が縦長になる傾向がある。今回のデータでは宮

崎敏郎選手はサードでの守備回数が少なかったためデータが少ないものの、2018年で

Page 10: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

10

はゴールデングラブ賞を取るほど活躍した選手なので例として挙げている。このサード

の選手で上手いと呼べる選手は中村剛也選手と松田宣浩選手だと考える。中村選手は図

6のイニング別セーフの近似曲線では他の選手を圧倒する高水準で安定した守備を行う。

それに比べて松田選手は広い守備範囲を誇る。近似曲線自体は高い状況とはいえないも

のの守備回数が多い。松田選手の特徴としてあげられたのは守備とのチームの連携であ

る点に気づくこともできた。ソフトバンクでチームメイトである、ショートの今宮選手

が高い守備力を持っているため、そこでのカバーの良さがチームとしての連携となって

おり、サードに飛んでくる打球に対して守備に集中できているため成績が良くなってい

る。動かないサードともいわれているがチーム全体としてみたときには良い守備の役割

分担はできていると考えられるだろう。逆に村田修一選手は松田選手と同じ傾向に近い

ものの、ショート間、ベースより後ろでのボールの処理は成功率が低い傾向にある(村

田選手お疲れ様でした!)。レアード選手は守備の成績が他の選手よりも良くない結果

である。守備自体のデータが少ない選手であるが、前に出る守備はミスが多く、ファー

ルゾーン沿いの打球も難がある。

5. 課題

今回の研究と発表を通じてたくさんの意見をいただき、更なる野球の奥深さや知識不

足を感じることを痛感いたしました。まずポスターセッションを行う上でのグラフの見

易さやグラフ自体のさらに深い検討を行えたのではないかと思います。まず、正面グラ

フではベースがないため基本守備位置のおおよそが付きにくかった点やどのような打

球が飛んできたなどで色分けの種類を増やしたりすることでもっと面白いグラフが完

成するのではないかと思います。そして、時間不足でできなかった守備範囲の四分割で

の成功結果や中心点を守備の中心としそこからレーダーチャートにすることでもっと

説得力のあるデータを生み出せることがあったのではないかと思います。

そして、趣旨とは少し外れる部分はあるものの、松田選手と今宮選手のような関係の

チーム全体の守備がどれだけ出来ているかの連携に関してのデータを生み出すことが

できなかったこと、排除しなければいけない点により少し説得力を欠いてしまう点やそ

のミスの結果でどれだけ試合に左右するのかが UZRであり、全く別のデータ活用である

ため比較対象として出しているのは間違えだ、と多々意見をいただいきました。更なる

野球の着眼点や発想をデータ活用に生かしていけるとさらに良いものになるのではと

おもいます。

Page 11: NPB データに基づく 内野手守備範囲の解析yshirai/thesis/report_2018_nasu.pdf3 1. はじめに 日本野球機構では守備の評価に三井ゴールデングラブ賞(以下「ゴールデングラブ

11

6. おわりに

今回のスポーツデータ分析の発表が行えたのは金友さんの手助けがあってこそのもの

だったのでとても感謝しています。さらに、データスタジアムではこのようにスポーツ

データの活用をして新たなサービスや発想を生み出し、そのことを学ぶ機会をいただき

大変感謝しております。今回の発表を通じてスポーツのデータ化の進みの速さを実感し

今の日本がどれだけスポーツのデータ分析が遅れているか、そして新たに良いものを生

み出し新しいモデルを生み出すことのできる環境であるか、身を持って実感いたしまし

た。今回の発表には自分の野球やデータ分析に関する知識不足が如実に表れてしまい悪

戦苦闘でしたが大学最後の研究として楽しみながら研究を行えたことがよかったです。

参考文献

データスタジアム 一球データ分析 16-17 年シーズン

Wikipedia “UZR アルティメット ゾーン レーティング”

Wikipedia “三井ゴールデングラブ賞”

謝辞:本研究では、第 8 回スポーツデータ解析コンペティションにおいて提供された

データを利用しました。データのご提供をいただいたデータスタジアム株式会社、こ

のような機会を作っていただき、またさまざまな御支援をいただいたスポーツデータ

解析コンペティション主催団体(一般社団法人・日本統計学会、日本統計学会スポー

ツ統計分科会、情報・システム研究機構統計数理研究所、統計数理研究所医療健康デ

ータ科学研究センター、日本統計学会統計教育委員会・同分科会、立教大学社会情報

教育研究センター、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会、統計数理研究所共同

利用(共同研究集会)「スポーツデータ解析における理論と事例に関する研究集会」)

に深く感謝いたします。