ny州仮想通貨法
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ニューヨーク州仮想通貨法の概要と
日本法へのインプリケーション
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July 23rd, 2014
弁護士 増 島 雅 和
森・濱田松本法律事務所
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自己紹介
増 島 雅 和(ますじま まさかず)
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
2001 弁護士登録
2006 米国ウィルソン・ソンシーニ法律事務所(シリコンバレー)勤務( -2007 )2007 ニューヨーク州弁護士登録
2010 金融庁監督局保険課兼銀行第一課 課長補佐 ( -2012 )
2011 日経 CSIS バーチャルシンクタンク フェロー
主な取扱業務:M&A 、ベンチャーファイナンス、保険・金融レギュレーション
イニシアチブ: シリコンバレー流のリスクカルチャーのもとで新事業創出のインフラとしてのベンチャーエコシステムの構築を目指す、「 Startup Innovators 」を主宰
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1.経緯
2013.8.13 仮想通貨に関するヒアリング開始の公表
2013.11.14 ライセンス制導入の方向性検討の公表
2014.1.28-29 公聴会の実施
2014.7.17 仮想通貨取扱事業規制枠組み案の公表
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仮想通貨取扱事業規制枠組み制定の過程
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2.規制の概要
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総論的な評価
1. 金融規制法としての体系
⇔ 物のアナロジーとしては捉えない
※ 仮想通貨の取扱は金融取引として取扱われる。 ⇒ 税務へのインプリケーション
2. 仮想通貨の取扱業者に対するライセンス制を導入することで業法として位置づける
※ いわゆる“ BitLicense”
※ 取扱うことによりライセンスの取得が必要となる「仮想通貨」の定義が重要に
※ ライセンス取得が必要となる取扱の態様(ライセンス取得が義務付けられる業態)が重要に
3. 規制の指導理念
新技術と業界の発展 vs. 消費者保護、国家安全保障の適切なバランスをとること
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3.重要な概念
1. 「仮想通貨」の定義
〈定義に含まれるもの〉
○ 交換媒体として利用され、もしくはその価値が電磁的に保存されるデジタル単位、又は支払シス テム技術に組み込まれているデジタル単位をいう。
○ 集中管理組織のあるもの、分散型で集中管理組織のないもの、計算又は製造により創出又は取得されるものであるか否かを問わない。
〈定義に含まれないもの〉
○ オンラインゲーム内部で用いられるもので市場を持たず、ゲーム以外の用途で用いられないもの
○ リワードプログラムとしてのみ用いられ、発行者又は他の指定業者における購入のためにのみ用いられ、法定通貨に換金又は償還できないもの
《ポイント》
・ 価値尺度、価値保存、支払手段という通貨の3つの機能を踏まえた定義
・ 発行者が存在するものを含んだ包括的な定義
※ 日本の資金決済法における自家型・第三者型の支払手段を取り込む4
規制のスコープ
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3.重要な概念
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規制のスコープ
2. BitLicense の対象 = 仮想通貨取扱事業の内容
① 仮想通貨の移動に従事する者
② 他人のために仮想通貨の預託を受ける者
③ 業として仮想通貨を売買するもの
④ リテール向けの為替サービス
⑤ 仮想通貨の発行・管理
※ ①は資金移動( money transmission )に相当
②は預金に相当
③は仮想通貨の両替、販売業者
④は法定通貨等の仮想通貨への交換・取引、法定通貨等への換金、ある種類の仮想通貨から他の種類の仮想通貨への交換・取引が含まれる。
⑤は支払手段発行者等
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3.重要な概念
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ライセンス制
3. BitLicense の取得を要する者
① BitLincense を取得しなければ、仮想通貨取扱事業を行ってはならない。
② 仮想通貨取扱事業者の代理業者は、仮想通貨取扱事業者でなくてはならない
※ 兼業禁止規制、業務範囲規制はなし
《 BitLicense が不要な者》
○ 銀行法によって為替業務を行うことができる者であって、仮想通貨取扱事業を行うことを承認を得ている事業者
○ 商品・サービスの売買のみを目的として仮想通貨を利用する事業者又は消費者
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3.重要な概念
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ライセンス取得の審査
3. ライセンス申請における提出資料
① Fit & Proper
対象者:取締役、主要役員、主要受益者、主要株主
審査対象:属性、犯罪歴や職歴を含む履歴、財務状況
② 内部統制・ガバナンス体制の整備
③ 業務方法書
④ 規程類
⑤ バンキングアレンジメント
⑥ 保険アレンジメント(任意)
⑦ 仮想通貨を法定通貨に換算する方法を記載した書面
4. 審査事項
財務状況、主要メンバーの金融及び事業の経験、適合性
5. 審査基準
事業が誠実、公正、衡平、身長かつ効率的、社会の信頼に応える
審査期間 90 日
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4.個別規制
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仮想通貨取扱業者の規制の全体構造
1.資本規制
2.重要事項の承認
3.広告・マーケティング規制
4.体制整備
① 法令等遵守態勢
② 顧客保護態勢(不正防止態勢を含む)
③ 苦情処理態勢
④ マネロン防止態勢
⑤ サイバーセキュリティ態勢
⑥ 事業継続・災害復旧態勢( BCDR )
5.業務報告
6.開示・情報提供
7.記録保存
8.当局検査
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、財務の健全性の維持のために一定の資本要件が課される。
最低資本金額を定めるにあたり、当局は以下の要素を考慮
① 総資産の構成:ポジション、規模、流動性、リスク・エクスポージャー、資産種類ごとのボラティリティ
② 総負債の構成:規模、支払時期
③ 仮想通貨取扱事業の取扱高
④ 他の金融業法により規制されている業者か否か
⑤ レバレッジの規模
⑥ 流動性ポジション
⑦ 信託勘定又はボンドにより提供される金融的保護(資産保持義務、分別管理)
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資本規制
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、収益を米ドル建て、満期1年以内の安全資産でのみ運用できる。
安全資産の内容:
① 米国金融機関への預金
② MMF
③ 州債・地方債
④ 政府証券
⑤ 政府機関証券
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資産運用規制
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、顧客資産の保護のために当局が承認する方法及び額の米ドル建てボンド又は信託勘定を維持しなければならない。
○ 仮想通貨の預託を受ける場合、同種同額の仮想通貨を保持しなければならない。
○ 預託を受けた資産(仮想通貨を含む)の処分、担保提供の禁止
※ 自己資本で抱えて ALM を実施 OR 信託勘定で分別管理
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顧客資産の保護
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、新事業の開始、新商品の発売、既存商品・サービス・業務の重要な変更に際して、当局の事前承認を取得しなければならない。
重要な変更:
① 申請書類に記載された商品内容と大きく異なる商品・サービス・業務
② 商品・サービス・業務の許容性が法規制上の論点を生むもの
③ 変更が税務の健全性や事業上の懸念を生む場合
※ 事業運営、法令等遵守体制、事業への影響その他変更内容の詳細を提出
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重要事項の承認
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4.個別規制
1.支配権の変更が生ずる場合、支配権を取得しようとする者は、事前に当局の承認を要する。
※ 10%以上の持分の移動は支配権の変更と推定
承認にあたっての審査基準は、公益性、必要性、利便性
審査期間は 120 日
2.仮想通貨取扱事業者又はその事業を買収する場合、事前に当局の承認を要する。
※ 承認プロセス等は1.に準じる
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支配権変更・買収
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、一定の記録の作成と10年間の保存義務を負う。
記録の内容:
① 各取引の取引記録、②元帳、③銀行取引記録、④顧客・カウンターパーティへの通知記録、⑤取締役会議事録、⑥法令等遵守記録、⑦苦情・取引エラー・法令等遵守疑義事案に関する記録、⑧その他
放棄等された仮想通貨口座及び取引の記録は最低5年間保持
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記録の作成・保存
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4.個別規制
仮想通貨取扱事業者は、最低でも2年に1度の定期検査と随時行われる臨時検査に服する。
検査項目: 財務状況、業務の健全性、経営方針、法令等遵守状況、その他
帳票その他の資料の提出・調査
※ 必要又は有益な場合には関連会社への検査
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当局検査
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4.個別規制
1.業務報告書等の提出
以下の書類をそれぞれ以下の時期までに当局に提出
○ 四半期業務報告書:各四半期終了後45日以内
○ 監査済年次財務諸表:事業年度終了後120日以内
※ 独立会計士による会計手続き及び内部統制の評価意見付
2.届出義務
以下の事項につき当局に届出を行う
① 取締役、主要役員、主要株主、主要受益者による犯罪行為、破綻手続開始:事後届出
② 当局提出済みの仮想通貨の法定通貨への換算のための計算方法の変更:事前届出
③ 不祥事件の発生:事後届出
④ その他当局が要請するもの
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業務報告・届出義務
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4.個別規制
すべての報告は、当局に提出した仮想通貨の法定通貨への換算に関する計算方法書に従って行う。
①
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マネー・ローンダリング防止プログラム
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1.安定性とアジリティの両立
① 痛みを伴わない小さな改革を重ねる
変化を通常業務に取り込む(不採算事業の突然の売却ではなく、継続的に資源を再分配)
② 予算編成で資源の抱え込みを許さない
資源配分を中央管理し、迅速な資源の再配分を実現
③ 柔軟性に対する投資
事業活動のスピードを上げることで環境変化への対応が加速(柔軟性)
柔軟性とスピードにより、効率的な変化を妨げる障壁(キャリア毀損の恐怖感)にも対処できる
④ イノベーションを本業として捉える
部門横断的なイノベーション・パイプラインを管理するプロセスを組織内に設計
⑤ オプション志向で市場を開拓
絶えず検証し、事業に参入して取組み、撤退のコストが膨らむ前に利用しつくされた領域から撤退 4
アジリティの源泉
日常的に絶えず変化を起こすためのアプローチ
⇒ 大幅な人員削減、業務再編、事業売却といった活動とは無縁
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1.安定性とアジリティの両立
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安定性とアジリティの結びつき
明確な価値観を伴う安定した組織環境 ⇒ 実験リスクを自信を持って負える
高い野望 ⇒ 安定性が独善化することを防止
強固な価値観 ⇒ 合理的な倫理規範が維持される
小さな変化を継続的に起こす ⇒ 大規模な業務再編が回避される
経営の連続性 ⇒ 非公式な社内のネットワーク
《リーダーシップとマネジメントの課題》
イノベーションを推進する力と、安定性を保つ力の間の相補性を維持できる組織体制を作る
※ 資本構成、資本コスト、資産価格、時価総額といったハードな分析対象ではなく、よりソフトな側面に光を当ててリーダーシップとマネジメントを考える必要
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1.イノベーションの管理
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イノベーションプロセスの管理
品質管理や安全管理と同様、イノベーションも管理可能なプロセス
高い野望 ⇒ 安定性が独善化することを防止
強固な価値観 ⇒ 合理的な倫理規範が維持される
小さな変化を継続的に起こす ⇒ 大規模な業務再編が回避される
経営の連続性 ⇒ 非公式な社内のネットワーク
《リーダーシップとマネジメントの課題》
イノベーションを推進する力と、安定性を保つ力の間の相補性を維持できる組織体制を作る
※ 資本構成、資本コスト、資産価格、時価総額といったハードな分析対象ではなく、よりソフトな側面に光を当ててリーダーシップとマネジメントを考える必要
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1.今、なぜオープン・イノベーションなのか
オープン・イノベーションの特徴
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• 社内に優秀な人材は必須ではなく、社外の優秀な人材と協働すればよい• 社内研究開発は必要だが、外部研究開発からも価値を創出できる • 早い製品化よりもビジネスモデルの構築の方が重要 • 研究開発投資の額よりも社内と社外のアイディアをいかに効率的に活用するかがカギ
オープン・イノベーション: 21世紀型イノベーション
• 知的財産の囲い込みではなく、適切な社外活用や外部の知的財産の取入れが重要
研究 開発
新市場
既存市場
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1.今、なぜオープン・イノベーションなのか
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オープン・イノベーションとベンチャー企業
オープン・イノベーションにおけるベンチャー企業の位置付け
• 自社では行えない新たなビジネスモデルの開発の場• 協働対象となる社外の優秀な人材の供給元• 社内の研究開発の活用先
ベンチャー企業のニーズ • アイディアはあるがリソースが不足• 売上げを上げることでビジネスモデルを確立したい• 投資家にエグジット先を提供する必要
事業協働(コラボレーション)
資本業務提携
買収
大企業とベンチャー企業とのコラボレーション・資本業務提携・買収を成功させるためには、ベンチャー企業を成り立させているロジックやエコシステムを正しく理解することが必要
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ベンチャービジネスの投資構造
2.ベンチャー企業の特徴
ベンチャービジネスは、「スケーラブルなビジネスモデルの開発に向けて、起業家と投資家が、事業ビークル(スタートアップ企業)に対して、異なる資本を投下する経済活動」
投資家 起業家
ベンチャー企業
事業アイディア
フルコミット労力
資金
アドバイス・紹介
モニタリング
株主間契約
普通株インセンティブ
起業家と投資家のそれぞれの「投資」と「リターン」をどのように調和させるか、ベンチャー企業の資本政策は、この均衡点を見定めて策定される
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投資契約
優先株式
< 概念図>
※第三者からの資本投下により迅速にスケーラブルなビジネスを作り上げる点で、自己資金で規模を追わない中小企業と区別される
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ベンチャーエコシステム
2.ベンチャー企業の特徴
ベンチャー企業はビジネスモデル確立までの間、単独では持続性がなく、エコシステムの中で初めて存続できる存在
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起業家
シード投資家
スタートアップ スケーラブル事業
アイディア /時間 /労働
資金・アドバイス ビジネスモデル開発
Exit
起業家 , 従業員
VC
LP投資家
株式市場
既存企業
既存企業資本業務提携
創業者株式、優先株投資、ストックオプション etc
コンバーティブルノートファイナンス
コンバーティブルノエクイティファイナンスシードアクセラレータ
クラウドファンディング
銀行
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持続可能なエコシステム構築のカギ
2.ベンチャー企業の特徴
1.まずは起業家ありきのシステム
起業家 : 「スケーラブルなビジネスモデルを超速で創る」プロジェクトの発案者兼実行者
企業内プロジェクトと異なり、発案は誰に強制されるわけでもなく、プロジェクト成功までの生活を保証する後ろ盾もない
⇒ アントレプレナーシップ(セルフモチベーション能力、リスクアペタイト)が必要⇒ その上で、難事業ゆえに高い能力(分析力、コミュニケーション力 etc )が必要
2.適格性ある起業家の代替職は一流企業の幹部候補
起業家を生み出すシステムは、期待収益が一流企業幹部並みとなっている必要 (期待収益)=(将来収益の見込み) × (見込み実現の可能性)⇒ 一流企業幹部候補との人材競争のためには「将来収益の見込み」が極めて高くなる
必要
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プロジェクト発案者かつ実行者である起業家(及びこれを支える従業員)に対し、成功時に極めて大きなリターンをもたらすため(=次の起業家のシードマネー提供者を創出するため)にデザインされたものが、ベンチャーファイナンスの資本構成
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ベンチャー企業の資本構成
2.ベンチャー企業の特徴
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シード設立 アーリー グロース レイター 上場
3~5年
創業者普通株式 (penny stock)
シード投資家( CB ) シード投資家(シリーズ A優先株式)
VC投資家(シリーズ A優先株式)
投資家(シリーズストラテジック B優先株式)
VC投資家(シリーズ C優先株式)
金融投資家(シリーズ D優先株式)
従業員ストック・オプション定款
株主間契約試作
事業開発
顧客開拓
スケール化
内部統制
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ベンチャー投資の条項
2.ベンチャー企業の特徴
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優先配当条項
残余財産優先分配条項( Liquidation Preference )
普通株式への転換請求権(取得請求権) - 稀釈化防止条項
[償還請求権]
普通株式への強制転換権(取得条項)
取締役選任権
拒否権( Protective Provision )
情報請求権(オブザーバー権、報告義務、立入検査等)
エグジットに関する誓約(上場努力義務、マーケットスタンドオフ等)
新株引受権
先買権( Right of First Refusal )
共同売却権( Co-Sale Right )強制売却権( Drag Along Right )
[買戻請求権]
キーマン条項(職務専念義務、競業避止義務等)
定款記載事項
株主間契約記載事項
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3.ベンチャー企業とのコラボレーション
事業上のコラボレーション実現のための必要条件
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① 誰と?社内にないスキルセットを持つ社外の有能なチーム(=ベンチャー企業)⇒ 自社でできることをベンチャー企業にアウトソースするのではなく、同じ時間軸で自社ではでき ないことをベンチャー企業と協働することで実現する
イコールパートナーシップ(相互尊重)の精神が貫かれなければ必ず失敗する
② 何を?共通の目標(新たな事業モデルの開発等)を達成するため、それぞれの強みを持ち寄る⇒ 明確な目標の設定、目標達成のための透明性の高いプロセス、明確な役割分担
③ どうやって?財産的価値のある情報やその果実を囲い込まずにシェア⇒ 知的財産権、データ(個人データ等)の取扱い、秘密保持の範囲を的確に設定、チーム間のコ ミュニケーション戦略、成果物の帰属ルールの公正性、シェア対象となる収益算出の透明性④ リスク管理コ・イノベーションリスク(エコシステム型の場合にはアダプションリスクを含む)の管理
⇒ 役割分担に応じた責任分担、公正な解消プロセス、コンティンジェンシープラン
締結する契約は業務委託契約ではなく無名契約
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財務上のコラボレーション実現のための留意事項
3.ベンチャー企業とのコラボレーション
資本提携を伴う場合、ベンチャー企業の資本構成のロジックを踏まえ、エコシステムの一員として振舞うことが必要
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① 取得する株式次ラウンドの優先株式
※ 投資の是非の判断に際し、キャピタルゲインによる収益のみを頼みとしなければならない VCと異なり、事業 上の収益も勘案することができる点で、金融面での投資条件は VC と大きく異なる。
(例 ) コラボレーションをコミットしながらダウンラウンド防御は必要なのか
⇒ VC ラウンドとは異なるラウンドで投資することに合理性② 契約の建付け
エコシステムの一員として、ベンチャーファイナンスモデルを崩す建付けを採用しない⇒ 資本提携部分と業務提携部分の契約を分け、資本提携部分は他の投資家との株主間契約の枠組みで、必要な条件につき検討する
③ 株主間契約の条項業務提携終了時の株式処分については先買権、出資比率維持、取締役選任、買収を見据えた強制売却条項
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ベンチャー企業買収時の留意事項
4.ベンチャー企業の買収戦略
事業上のコラボレーションがある中で、あるいは資本提携まで進んでいる中で買収を打診するパターン等
買収者としての大企業もベンチャーエコシステムの中で想定されたプレイヤーであり、ベンチャーエコシステムのロジックの枠内で条件を検討していく必要
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<留意事項>
• Liquidation Preference に沿った対価の支払
• ストックオプションの処理
• 経営陣のリテンション
• Acquihire の場合の処理
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Liquidation Preference に沿った対価の支払
4.ベンチャー企業の買収戦略
1.エコシステム構成員の大前提
会社法上の残余財産優先権は清算時のみを想定しているが、ベンチャーファイナンスでは、優先株式投資を行うすべてのエコシステム内のプレイヤーが、支配権移転時には残余財産の優先分配ルールに沿って企業価値が各株主に配分されるものと了解している。
⇒ 大企業が現金又は株式を対価としてベンチャー企業の株式を取得する場合、その対価の株主間の分配は Liquidation Preference に沿って行われる必要
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2. Liquidation Preference の仕組み 一般的には遅いラウンドほど優先する( D種→ C種→ B種→ A種→普通) 残余財産の分配は、①優先分配額の定めと、②参加条項の定めが重要 ① 優先分配額: 劣後する株式に先立って分配される額 取得価額相当額の優先分配がなされる場合を1倍とし、それ以上
の倍率が定められる場合もある。
② 参加条項: 優先株式への分配の終了後に普通株式に対する分配に与れるか否か。優先分配額と合算した分配上限が定められる場合もある(例えば取得
価額の2倍等)。エグジット価格が大きく分配上限に達する場合、普通株式に転換して
分配を受けることを 想定 ①②の定めは、ラウンドごとに異なる場合がある。
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Liquidation Preference の例
4.ベンチャー企業の買収戦略
T社: 普通株式 10万株A種優先株式 2万株 ( @15,000円 優先分配 1.5倍 参加上限 2倍)B種優先株式 3万株 ( @30,000円 優先分配 1倍 参加上限なし)
(1) A社に 15億円で買収される場合 B種優先分配: 30,000 x 30,000 = 9億 A種優先分配: 15,000 x 20,000 x 1.5 = 4.5億 普通株式: [15億 - (9億 + 4.5億 )] / 15万 = 1,000円 / 株 普通株主: 1,000 x 100,000 = 1億 +1億 A種株主: 4.5億 + 1,000 x 20,000 = 4.7億 (< 3億 x 2 ) +1.7億 B種株主: 9億 + 1,000 x 30,000 = 9.3億 +0.3億 (2) A社に 150億円で買収される場合 B種優先分配: 9億 A種優先分配: 4.5億 普通株式: (150億 - 13.5億 ) / 15万 = 91,000円 / 株 A種: 4.5億 + 91,000 x 20,000 = 18.2億 (> 6億) ⇒ 普通株に転換
普通株式: ( 150億 - 9億) / 15万 = 94,000円 / 株 普通株主: 94億 +94億 旧 A種株主: 18.8億 +15.8億
B種株主: 37.2億 +28.2億
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ストックオプションの処理
4.ベンチャー企業の買収戦略
1.ベンチャーファイナンスにおける従業員ストックオプション 資金のないベンチャー企業にとって人材が唯一のリソース。ストックオプションは高度人材を惹き付けるための唯一の武器
ベンチャーファイナンスの資本政策は、(創業者株式の高エグジット倍率とともに)従業員ストックオプションを高倍率とすることを目的として導入されているともいえるほど、従業員ストックオプションの意義は大きい
全部行使のためには一定期間(通常4年)のコミットを要するが、買収時等の例外が定められる( single trigger )
※ 付与後2年間は行使できず、継続雇用を前提に、2年後に 50%、その後1年ごとに 25%ずつ行使できる等
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2.買収時の処理 インザマネーのオプションについては、企業価値の中から、普通株式の対価から行使価格を差引いた額をオプション保有者に支払うのが筋
支払い方については、買収後の継続雇用を確保するため一定期間の分割払い等もありうる
従業員に対するエグジット時のオプション現金化は、自身の次の起業のシードマネーや他の起業家のシード資金供給に充てられることがエコシステム上予定されていることを踏まえて、公正な処理をしなければならない
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経営陣のリテンション
4.ベンチャー企業の買収戦略
1.ベンチャー企業買収の特徴 ベンチャー企業の買収は、テクノロジーと経営チームの買収の側面(企業価値の多
くを占める認知資産が創業メンバーに付随) 創業メンバーにとって買収は自己の労務投資のエグジット⇒ サラリーマン社長会社の買収、社歴の長い中小企業のオーナー引退に伴う買収と
は大きく異なる
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企業価値の源泉となる創業メンバーが、買収企業での永続勤務を必ずしも常には望んでいない中で、買収企業は、望むものをどのように手中にするか?
⇒ チームやテクノロジーなどの価値を適切に承継するために必要な期間、経営陣に対し、買収目的 達成に必要なインセンティブ付けを実施(ダメ買収例) 創業者に対して 2年間辞めないことを約束させる
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経営陣のリテンション
4.ベンチャー企業の買収戦略
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2.リテンションプラン 買収に伴い支払われる株式対価の支払い方を、買収目的実現に向け適切にインセン
ティブ付けるようデザイン (例) 対価の一部を買収者の累積配当優先株( 1年で 25%ずつの償還権付)で支払い
通常のアーンアウト条項(EBITDA等を指標とした 1-3年のアーンアウト期間中の変動型支払)
創業者株式の一部のみを取得し、残余を一定の条件の下で call & put
Management Carve Out Plan (MCOP) の活用MCOP: 普通株式保有者である経営陣に対し、買収正味対価の一定割合( 5-10% 程度)をベンチャー 企業が支払う
• ラウンドが進み創業者持分割合が小さくなった会社で、投資家に対する liquidation preference が大きくなりすぎた場合、普通株式の売却価額に加えて支払い
• 支払い方法をデザインすることで買収目的実現をインセンティブ付け
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Acquihire
4.ベンチャー企業の買収戦略
1. Acquihire とは ベンチャー企業のプロダクトではなく経営チーム(エンジニア)を買収 ※ facebook, twitter, Yahoo!, Google など大規模テクノロジー企業が、人員獲得目的でアーリースタートアッ
プを買収 日本ではKLab等
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2.ストラクチャー 通常の株式買収後に転籍 対象会社にターゲット人材の引き抜き許容(職務専念請求権の放棄)の対価を支払
い、対象会社を解散・清算 ⇒ 投資家や創業者株主には残余財産分配の形で対価を受領 ⇒ 引き抜き対象者以外は解散に伴って離散
引き抜き対象者には従業員リテンションプランを提供
< リテンションプランのポイント > 対価の種類: 現金、株、混合 対象者の決定: ファンドの分配: 行使条件: 期間、アクセラレーションのトリガー事由等 分配停止事由: 買収後一定期間で辞めた場合の対処
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5.連絡先
tel. 03.5220.1812
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増島 雅和
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