これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505...

6
ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。 特別号 東京都版 これからの病棟業務はいかにあるべきか ~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~ 座談会 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生 三井記念病院 薬剤部長 永井 勇治 先生 日本医科大学付属病院 薬剤部長 片山 志郎 先生 聖路加国際病院 薬剤部長 後藤 一美 先生 [司会]

Upload: others

Post on 20-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間

Page 2: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間

Page 3: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間

Page 4: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間

Page 5: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間

Page 6: これからの病棟業務は...発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

発行月 : 平成24年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 東京都版

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長厚田 幸一郎 先生三井記念病院 薬剤部長永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長片山 志郎 先生聖路加国際病院 薬剤部長後藤 一美 先生

[司会]

北里大学薬学部教授 北里研究所病院院長補佐・薬剤部長

あつ だ こう いち ろう

厚田 幸一郎 先生(司会)

聖路加国際病院 薬剤部長

ご とう かず み

後藤 一美 先生三井記念病院 薬剤部長

なが い ゆう じ

永井 勇治 先生日本医科大学付属病院 薬剤部長

かた やま し ろう

片山 志郎 先生

特別号 東京都版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■病棟薬剤業務に対する4病院の現状厚田 最初に各施設の現状をお伺いしますが、先に北里研究所病院の状況をお話しいたします。当院は294床、6病棟を有しています。外来患者数は約1,200人/日で、ほとんどが院内処方です。特徴は、病院内に臨床薬学研究センターがあり、カンファレンスルームなどが充実していることで、これは薬剤部にとって大きなメリットです。薬剤部には薬剤師34人(教員6人含む)、レジデント5人がいます。病棟業務の体制ですが、各病棟に専任者1人の他、フォローとして2人、ICU・中央手術室にも1人を配置しています。薬剤管理指導件数は2011年度の実績で416.3件/月、ほとんどの患者さんに対して指導業務を行っています。各病棟にはサテライトファーマシーがあり、恵まれた環境の中で、病棟薬剤業務実施加算も4月から算定を開始しました。病棟業務の内容は、患者情報の入手、初回面接による服薬状況や持参薬などのチェック、服薬指導方針や内容の決定、処方監査、薬歴管理などがあります。また自己管理が可能な患者さんに対して与薬を行い、看護師管理の患者さんに対しては与薬カートへセットしています。そして服薬指導、薬剤管理指導

記録と情報のフィードバック、さらには薬物療法のモニタリングを行っており、必要に応じてTDMの提案も行っています。病棟における薬剤師の業務実績を、毎月、薬事委員会に提出しており、処方変更への関与、情報提供の内容、TDMや持参薬鑑別の数、薬剤管理指導、病棟薬剤業務実施加算の算定件数などがわかるようにしています。また病棟薬剤業務日誌については、日本病院薬剤師会のガイドラインに沿ったフォーマットを市販ソフトのAccessで作成し、入力と集計の効率化を図りました(資料1)。今のところ抗がん剤のミキシングの時間は入れていませんが、週20時間はクリアできている状況です。私からは以上ですので、次に永井先生から順にお話しいただけますでしょうか。

永井 三井記念病院は482床、HCU、ICU、CCUを含め15病棟、31科を有するDPC対象病院で、昨年、「東京都認定がん診療病院」にも認定されました。院外処方せん発行率は87.1%、薬剤部は薬剤師24人、事務員2人で構成されています。薬剤管理指導業務はあまり進んでおらず、2011年度の実績は4,770件、抗がん剤調製は外来3,334件、入院3,678件となっています。現在、薬剤管理指導は

薬剤師10人体制で、整形外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、乳腺内分泌外科、消化器外科にて実施しています。また、持参薬鑑別は全入院患者さんを対象としていますが、搬送機で薬剤部に下ろしてから鑑別しますので、薬剤管理指導を行っていない患者さんとは面談をしておらず、これは今後の課題だと考えています。がん化学療法に関しては、外来、入院ともに化学療法レジメンのプレ審査と抗がん剤の調製を行っており、2012年2月から抗悪性腫瘍剤処方管理加算の算定を開始、患者用説明文書も活用しています(資料2)。当院はまだ病棟薬剤業務実施加算を算定していませんが、薬剤師を増員し、2013年度からの算定を目指しています。その準備として、8月より、17階、18階の内科病棟で試行を始めており、持参薬鑑別、電子カルテへの代行入力、処方薬チェックを中心に実施しています。1日4時間、週20時間、薬剤師を病棟に滞在させ、どれだけの業務ができるか、実際、全病棟に配置するには何人の人員が必要かを検証しているところです。

片山 日本医科大学付属病院は、960床22病棟となっていますが、現在、新病院建設による解体や移転に伴い、一時的に病床は縮小されています。薬剤師は53人ですが、このうち20人は専門分野の専従となっているため、薬剤部として業務を行うのは33人です。この中で土曜出勤があり、平日に休みを取る人が8~9人いますので、実質1日の稼働数は24~5人になります。病棟担当者は13人いますが、休みを考慮すると1人が3病棟近くを担当することになるため、病棟における薬剤師の存在感が希薄になり、モチベーションの向上も図りづらいという問題がありました。しかし、今回の病棟薬剤業務実施加算が新設されたのを機に5つのモデル病棟を設置し、1病棟1人体制による試行に取り組みました。モデル病棟で新たに始めたのは、退院時処方薬の配薬、抗がん剤の減量時に看護師が確認できるツールへ理由を記入すること、ハイリスク薬が処方された時の事前説明、持参薬鑑別と初回面談です(資料3)。これらの業務を含め、病棟に薬剤師が常駐した結果、医師、看護師による認知度が非常に高まり、サテライトファーマシーに近い存在になってきました。薬剤師も患者さんの情報収集が容易になり、投与前のチェックができるようになったこと、これまで以上に医療安全に貢献できるようになったことにやりがいを感じています。また薬剤管理指導の件数も従来の倍以上に増えました。一方で、病棟に常駐すると薬剤師同士のつながりが希薄になってきますので、勉強会など情報共有の機会を設けているほか、業務の効率化のために書式の統一を検討しています。今後は、モデル病棟を拡大しつつ、病棟薬剤業務実施加算のために16人の増員を予定しています。増員は段階的になりますが、算定は来年中のスタートを目標にしています。私は薬剤師としての職能を存分に発揮できる仕事を全てのスタッフが行うことをモットーにしており、それが医師の負担軽減や薬剤師の満足度を高めることにつながると考えています。

後藤 聖路加国際病院は520床、32科、外来患者数は1日2,500人程度、院外処方せん発行率は92%となっています。特徴は三次救急を扱っており、平均在院日数が8.9日と短いこと、また職員数が1,600人強と多いことです。薬剤部は薬剤師34人、事務職員2人、SPDスタッフ8人で構成されており、民間病院としては恵まれている方だと思いますが、一方で病院から求められるものも多いという状況です。例えば化学療法については、外来を中心に無菌調製を土日も含めて行っており、年間1万件程度に上ります。病棟薬剤業務の基本方針は、「対象となるすべての入院患者さんに介入する」ことを前提に、「業務を通じて実質的な医療安全に貢献する」「カンフ

ァレンスや回診へ積極的に参加しチーム医療の拡充を図る」ことです。当院では医療の質を評価する指標として「クリニカルインディケーター(QI)」を導入しており、その中で「入院患者さんのうち、服薬指導を受けた方の割合」(服薬指導実施率)の目標値を設定しています。2009年には25%だったものが、薬剤管理指導業務の強化に取り組んだ結果、飛躍的に伸び、2012年の4~6月は各月とも今年の目標値である80%を超えています(資料4)。これに伴って病棟配置の薬剤師数も3人から7人に増えました。そして2012年7月より14人を配置して1病棟1人体制に変更、8月より病棟薬剤業務実施加算の算定を始めました。算定以前より、病棟薬剤業務において持参薬確認を薬剤師が実施しており、処方の代行入力や術前中止薬などのチェックを中心に処方提案に結び付けています。加えて、化学療法のレジメン管理や無菌調製など従来から実施していた内容も多 あ々り、質的な業務移行を円滑に実施することが可能でした。医師・看護師などへの情報提供・質疑応答、退院時処方の確認と処方提案、カンファレンスや回診などへの参加は診療報酬で評価されたお陰で積極的に行えるようになり、有難いと思っています。人員については、産休や育休スタッフ

の補充を含めて、現在、リクルート活動を行っているところです。

■求められる病棟薬剤業務とは厚田 次に、求められる病棟薬剤業務のイメージについてお話をお伺いします。永井先生、いかがでしょうか。

永井 当院では、モデル病棟での薬剤師常駐に対する医師、看護師の評価や経営への貢献を検証し、人員確保への具体的な検討段階に入っています。試行を始めるにあたって看護部と協議したところ、最も要望されたのは処方チェックと配薬でした。また、医師は持参薬の代行入力を希望し、現在、2つのモデル病棟で実施しています。こうした医師、看護師の業務負担軽減の一方で、私は病院経営への貢献という視点も重要だと考えており、例えば持参薬管理によるコスト削減効果などを数値で示していかないと拡充は難しいのではないかと考えています。

厚田 先ほど片山先生は薬剤師の職能を発揮できる業務をしようというお話をされましたが、具体的にどのようなイメージをお持ちですか。

片山 私は昨年の薬剤部長就任以降、臨床業務の強化を目指していますが、2年程前は病棟担当薬剤師が服薬指導の件数で四苦八苦しており、また、薬剤部内の縦割り組織が障害になって協力体制が取り難い状況でした。そこで、2011年2月、それまで業務ごとのセクションに分けていたものを、4~5人のユニット制に変更しました。各セクションに必要な人員数を決めておき、ユニット長が自分のチームからどこに何人配置するかを決めてローテーションさせるようにしました。一方で、薬剤師としての職能を十分に発揮させられるように、全病棟に行かなくてもよい、服薬指導件数が下がっても構わないから自分が薬剤師としてやれることをやるという方針を打ち出しました。かつて私が病棟で仕事をした時、医療スタッフや患者さんと密に接して、多忙な半面、職能的な満足感が得られ嬉しかったものです。その気持ちを今の若い人にも味わってほしいと思っています。

厚田 8月から算定を開始された後藤先生はいかがでしょうか。当院も4月から加算を算定しましたが、その前に薬剤管理指導と病棟薬剤業務をきちんと分けました。その辺りも含めてお話しいただけますか。

後藤 確かにこれまでも薬剤管理指導の中で病棟薬剤業務を実施していましたので、今までとどこがどう違うのかが経営サイドに非常に分かりづらいため、二つの業務をきちんと切り分けるところから始めました。また、片山先生のお話のように薬剤師の職能を十分に発揮してもらいたいと思う反面、採算性の面で薬剤師が貢献できるかを見極めた上での業務展開も必要だと考えています。薬剤管理指導件数の維持が求められますが、病棟薬剤業務を始めた7月は服薬指導実施率が80%を少し割りました。限られた人員体制で現場は精一杯やっていますので、今は薬剤管理指導件数にとらわれずに、せっかく認められた病棟薬剤業務に注力したいと考えています。

■病棟業務の鍵になるスキルアップと 有用性評価厚田 病棟薬剤業務の拡充のための課題として、増員が必要なのは明らかですが、スキルアップという面ではいかがでしょうか。

永井 当院はTDMと抗がん剤のミキシングを正職員が全員できるようにしようと取り組んでいます。またスキルアップとともに、来年6年制課程卒業の第二期生が新人として入って来たときの教育体制を整える必要があると考えています。

片山 当院では2年程前から月1回の論文抄読会を行い、そこから各自の研究テーマを導き出すという勉強会を行っています。また、分野ごとに臨床で必要な薬物療法の組み立て方を学ぶ研究会を月1~2回行っています。一方で、大学で学ぶことと現場のギャップがありますので、病棟業務にスムーズに入るための新人教育システムも構築していくことが大切だと思います。

後藤 2年位前までは少人数でしたので、ローテーションで様 な々業務を皆が経験してきました。病棟担当も2~3ヶ月で入れ替えながらスキルアップを図り、今は病棟業務の指導を行える薬剤師が18人います。当院の教育システムは屋根瓦方式で、3年目が2年目を、2年目が1年目を教えます。各病棟ではオーディット、すなわちカルテの診療記録を見ながら、患者さんの問題の捉え方、アセスメント、プランなどについてPOSに基づいた教育を行っています。

厚田 当院では10年前からレジデント制度を敷いており、最初に全病棟をローテーションし、最後の6カ月間は専任の病棟で研修させています。レジデントを修了した者しか採用しませんので、ある程度のレベルは確保できるようになっています。一方、病棟常駐化によって薬剤師同士の情報共有が難しくなってきた点にも留意すべきで、カンファレンスなどの充実を図る必要があると思っています。ところで、病棟薬剤業務の有用性評価について事例やご意見などはありますでしょうか。

後藤 医療安全については、服薬指導によるメディケーションエラー回避について毎月報告していますが、2012年6月は157件が回避できました。こうした数値を病院経営者や院外に示すことは、病棟薬剤業務を理解してもらう上で大変重要であり、かつインパクトがあると思います。

片山 今まで私は部長会などで薬剤師による医療安全や収入面への貢献を常に報告してきましたので、今回の病棟薬剤業務実施加算では「医師の負担軽減になる」という説明だけで増員が認められました。経営サイドに病棟における薬剤業務の意義と必要性、その存在価値を地道に伝えていくことが、薬剤部をマネジメントする立場としては大切だと思っています。

永井 モデル病棟においては看護師からの評価が高く、その理由は、薬剤師が処方チェックをすることによる安心感、薬剤に関する疑問点や使用方法などをその場で病棟薬剤師に聞けることにあります。こうした有用性を高めるためにも、薬剤師の病棟常駐が当たり前になるよう努力したいと思っています。

厚田 当院の一事例ですが、整形外科の病棟では疼痛管理のプロトコルを作り、医師が術後の疼痛管理を必要と判断し、薬剤師の入力に関して同意をした場合に、薬剤師が処方入力を行えるようにしました。同業務については他病棟の医師からの要望も多く、実績を積み上げながら拡大を検討していきたいと思っています。米国などでは各診療科でプロトコルを作り、それに準ずれば薬剤師は処方入力ができるという事例が増えています。日本でもこうした体制が整えば、本当の意味で医師の負担軽減が可能になるのではないでしょうか。そのために薬剤師はスキルを身につけ、積極的に病棟へ行き、医師のニーズを把握しながら、目に見える実績をつくっていく必要があると思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望厚田 では、最後に「病棟薬剤業務の今後の展望」について、ご意見をいただきたいと思います。

片山 当院では専任病棟においては、医局と契約を結んで、一定の範囲についての処方権を薬剤師が持ち、後から医師が認めるという形を提唱していく予定で、担当薬剤師の専門性をより高めることを目指しています。病棟薬剤業務は今まで薬剤師が病棟活動として行ってきた業務と重なるものが多いので、病棟に常駐し、医師・看護師、患者さんとともに薬剤師本来の職能を発揮すればよいと考えています。そして、薬剤師として満足できる仕事に向かって努力してもらいたいと思います。

後藤 当院の場合、例えるならば、現在は点から線へと病棟業務が変化しつつあり、その線をより太くしていくことを目標にしたいと思います。最終的には、薬剤師2~3人がチームを組んで24時間病棟業務ができることが理想だと考えています。

永井 私が病院薬剤師になった頃、薬剤師の仕事の多くは受け身でしたが、今はレジメンに則って検査オーダーもでき、腎機能が下がったらTDMの依頼をかけられるなど、薬物療法に積極的に参加できるようになりました。病棟薬剤業務実施を機に、ますますその方向へ進んでいってほしいと思います。

厚田 6年制課程を修了した薬剤師が誕生した年に病棟薬剤業務実施加算が始まったことは大きなインパクトとなりました。多くの病院では薬剤師の増員に向けて動いており、学生の期待も高まっています。そのような中で、若い薬剤師達の夢を叶える環境づくりは私たちの大きな仕事です。施設間で情報交換をしながら、薬剤師の職能を存分に発揮でき、満足できる業務体系の構築を目指しましょう。

 2012年度の診療報酬改定で「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬剤師のモチベーション向上という意味で大変有意義な評価だと思いますので、私たちはしっかり取り組んでいく必要があります。本日は、規模も経営母体も異なる4施設の先生方にお集まりいただきました。各施設の現状を踏まえながら、これから求められる病棟薬剤業務について、忌憚なく話し合っていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

座談会開催にあたって [司会] 北里大学薬学部教授 北里研究所病院 院長補佐・薬剤部長 厚田 幸一郎 先生

モデル病棟での業務の流れ(日本医科大学付属病院)資料3

病棟薬剤業務月次集計(北里研究所病院)資料1

入院患者のうち、服薬指導を受けた者の割合(聖路加国際病院)資料4

患者用説明資料の一例(三井記念病院)資料2

●退院指導(一部で退院薬の配薬)

●前日夕方から翌日分の処方内容確認 ・抗がん剤の減量時:看護師が確認できるツールに理由を記載 ・TDM ・新規処方薬の説明(ハイリスク薬の事前説明) ・薬剤管理指導

●持参薬の識別・初回面談

●追加の処方内容確認

●相談応需赤字:新たにはじめた業務

分子:服薬指導を行った患者分母:退院患者数(3Eの出産入院、3W、GCU、NCU、9Eのドック入院は除外)

分子分母

635613154

1020413518

9211088

9731163

10091198

100.0%

90.0%

80.0%

70.0%

60.0%

50.0%

40.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%2010年度 2011年度 2012/04 2012/05 2012/06 2012/07 2012/08 2012/09 2012/10 2012/11 2012/12 2013/01 2013/02 2013/03

2000

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

80.0% 目標値

921 973 1009

16748.3%

75.5%

84.7% 83.7% 84.2%84.7% 83.7% 84.2%

190 189

指導なし

Improve

指導あり

1.医薬品の投薬・注射状況の把握2.医薬品の医薬品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応需3.入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案4.2種以上の薬剤を同時に投薬する場合における投与前の相互作用の確認5.患者等に対するハイリスク薬等に係る投与前の詳細な説明6.薬剤の投与にあたり、流量又は投与量の計算等の実施7.病棟配置医薬品の在庫確認および請求8.処方依頼9.回診への参加

10.DI・病棟連絡会への参加11.病棟カンファレンスへの参加12.退院支援カンファレンスへの参加13.医療事故防止カンファレンスへの参加14.診療科カンファレンスへの参加15.TDM関連業務16.抗がん剤混合17.その他

2012年7月度

病棟・業務内容別の業務時間集計業務内容コード

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

17

月合計

13.6

13.0

24.8

31.4

10.4

2.0

5.2

3.3

3.2

0.3

0.6

1.1

1.0

4.2

3.7

0.9

118.7

26.8

8.7

0.6

18.2

81.4

2.0

3.0

13.9

9.0

2.0

0.6

1.7

2.0

1.5

1.8

1.0

0.2

147.6

33.3

13.5

1.1

14.0

41.8

5.0

5.3

5.9

4.5

0.5

1.5

0.5

1.0

1.5

2.5

1.7

1.0

101.3

22.9

7.7

3.4

18.3

85.2

0.2

0.5

5.8

1.8

0.2

0.9

0.3

2.3

1.0

127.6

28.8

14.1

11.7

20.9

42.9

3.3

0.2

0.6

5.6

0.5

0.9

0.5

1.3

2.2

5.3

2.2

112.2

25.3

12.6

2.3

16.8

34.5

6.2

3.1

7.0

2.0

0.6

1.7

0.6

0.6

1.6

89.6

20.2

70.2

32.1

113.0

317.2

27.1

14.1

38.4

26.2

7.0

5.0

3.9

6.9

8.1

16.1

9.6

2.1

697.00

5階病棟 6階病棟 7階病棟 8階病棟 9階病棟 10階病棟 合計

1週間あたりの時間