日本の科学研究の 失速を食い止める には? - wiley research events · 2019. 7. 28....

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2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 1 日本の科学研究の 失速を食い止める には? ー「科学立国の危機」ー 鈴鹿医療科学大学 豊田長康

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  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 1

    日本の科学研究の失速を食い止めるには?

    ー「科学立国の危機」ー

    鈴鹿医療科学大学

    豊田長康

    https://shop.r10s.jp/book/cabinet/3895/9784492223895.jpg

  • 目次 1. 日本の研究力の現状2. 論文数は何によって決まる

    のか?

    3. 注目度は何によって決まるのか?

    4. The Tyranny of Metrics

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 2

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 3

    ●論文分析方法InCites Benchmarking

    • Clarivate Analytics Co.,Ltd, Web of Science®の分析ツール• 一定レベルを満たす学術誌の論文数• 今回分析した文献種:原著論文(Article)• 主に整数カウント

    臨床医学の無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)の筆頭著者カウント分析• PubMedによる検索⇒論文のID(PMID)をdownload⇒InCites Benchmarking

    uploadして分析

    分析方法

    ●論文以外のデータ入手先• OECD.Stat• Times Higher Education (THE), World University Ranking• Japan National Univ. Website、National University Hospital Database Center

  • 4

    ●論文の量的指標(volume)データベースに登録されている学術誌の論文数実数、人口あたり、他国に対する比率(シェア、競争力)

    実際の論文数とは必ずしも一致しない面がある

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには?

    カウント名 カウント方法 意味

    整数カウント

    2か国の共著論文について、各国に1件を割りあてる。

    その国が関与した論文数(関与度)

    分数カウント 2か国の共著論文について、各国に1/2件を割りあてる。

    その国が貢献した論文数(貢献度)

    責任著者カウント

    責任著者の国に1件を割りあてる。

    その国が主導した論文数(リード度)

    筆頭著者カウント

    筆頭著者の国に1件を割りあてる。

    概ねリード度を反映

    分析方法

  • 5

    ●論文の質的指標(quality)注目度

    Category Normalized Citation Impact (CNCI)学術分野を調整した1論文あたり被引用数(Citation Impact)の世界平均に対する比率

    THE World University Rankingの指標、べき乗効果あり

    Top 10%(1%)論文数割合(% Documents in Top 10%(1%))被引用数が上位10%(1%)の高注目度論文の総論文数に占める割合

    Q1論文数割合インパクト・ファクター(JIF)上位4分の1の学術誌に掲載された論文数の割合

    注目度+量トップ10%(1%)論文数(Documents in Top 10%(1%))Q1論文数

    注目度では測れない質現時点では定量化困難。Peerの評価にもとづく。

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには?

    分析方法

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 6

    単独論文 AB国共著論文 総論文数

    A国 1 1 2

    B国 1 1 2

    AB国 2 1 3

    単独論文自引用 AB共著論文自引用 総被引用数 被引用インパクト

    A著者 1 1 1 + 2 = 3 3/2=1.5

    B著者 1 1 1 + 2 = 3 3/2=1.5

    単独論文被引用数 AB共著論文被引用数 総被引用数 被引用インパクト

    A国 1 2 3 3/2=1.5

    B国 1 2 3 3/2=1.5

    AB国 2 2 4 4/3=1.3333

    ●カウント法の注意事項分析方法●整数カウントでは2国を1国として計算すると論文数が少なくなる。国際共著率が増えている状況では整数カウントで論文数が増えていても、分数カウントで減少している場合あり。

    ●自論文引用があると共著論文の被引用数は単独論文よりも多くなる。

    ●被引用インパクト(CI)は、2国を1国として計算すると低くなる。

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 7

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    ●日本の論文数は2000年を過ぎた頃から失速

    0

    50,000

    100,000

    150,000

    200,000

    250,000

    300,000

    350,000

    400,000

    450,000

    1990

    1993

    1996

    1999

    2002

    2005

    2008

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    2017

    論文

    主要国論文数(整数カウント)

    米国

    中国

    英国

    ドイツ

    日本

    フランス

    インド

    カナダ

    イタリア

    オーストラリア

    韓国0

    20,000

    40,000

    60,000

    80,000

    100,000

    120,000

    140,000

    1990

    1993

    1996

    1999

    2002

    2005

    2008

    2011

    2014

    2017

    論文

    主要国論文数拡大図

    英国

    ドイツ

    日本

    フランス

    インド

    カナダ

    イタリア

    オーストラリア

    韓国

    日本の立ち位置・現状 (国単位の論文数)

    ★整数カウントで水平ということは、国際共著率が増えている状況では分数カウントで減少していることを意味する。

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 8

    ●人口あたり論文数で日本は旧社会主義東欧諸国と競う

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    0

    500

    1 000

    1 500

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    3 000

    3 500

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    9119

    9219

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    9419

    9519

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    9719

    9819

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    0020

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    1520

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    17

    人口

    百万

    あたり論文

    人口あたり論文数(整数カウント) スイスデンマークスウェーデンノルウェーオーストラリアフィンランドシンガポールオランダニュージーランド香港ベルギースロベニアカナダオーストリアアイルランドイスラエル英国ポルトガルドイツチェコスペイン米国韓国フランスイタリア台湾ギリシャクロアチアポーランドハンガリースロバキア日本

    日本の立ち位置・現状 (人口あたり論文数)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 9

    ●国際共著率は増え続け欧州等諸国は60%前後に達する(ただし、域外との国際共著はこれほど高くならないことに注意)。韓国・中国は日本よりも低い。

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    0

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    20

    30

    40

    50

    60

    70

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    90

    1992

    1994

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    1998

    2000

    2002

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    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    国際共著率(%)

    国際共著率(整数カウント)

    スイスオーストリアベルギースウェーデンデンマークノルウェーオランダフィンランド英国フランスオーストラリアドイツカナダイタリア欧州等14か国米国日本韓国中国

    日本の立ち位置・現状 (国際共著率)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 10

    括り分野 ESI分類

    理工系

    化学物理学工学

    材料科学計算機科学

    臨床医学 臨床医学

    基礎生命系

    生物・生化学神経・行動学

    分子生物・遺伝学薬・毒物額免疫学微生物学

    理数・環境系地球科学

    環境・生態学数学

    宇宙科学

    農・動植物系動植物学農学

    社会・心理系社会学

    精神・心理学経済学

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    ●日本の分野別論文数では、主要分野である理工系、基礎生命系が減少、臨床医学は停滞したが2010年以降増加

    0

    5,000

    10,000

    15,000

    20,000

    25,000

    30,000

    35,000

    40,000

    1990

    1992

    1994

    1996

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    論文

    日本の括り分野別論文数の推移(整数カウント)

    理工系

    臨床医学

    基礎生命系

    理数・環境系

    農・動植物系

    社会・心理系

    (分野別論文数)日本の立ち位置・現状

  • 注)2018年4月10~20日にかけてクラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種原著、分野分類法ESI、3年移動平均値(表示年は3年間の中間年)。InCites Benchmarkingに登録されている大学・研究所のうち1988~2016年の論文数上位から私立99大学。公立14大学、公的研究所46研究所を選んだ。

    ●論文数(近似分数カウント)は2004~05年頃をピークにして国公立大、公的研究所の論文数が減少。私立大学には比較的軽く、公的研究機関や大学に重い負荷がかかったことが想定される。

    0

    5,000

    10,000

    15,000

    20,000

    25,000

    30,000

    論文数

    研究機関別論文数推移(近似分数カウント)

    国立大規模大

    (n=15)

    私立大(n=99)

    国立中小規模大

    (n=56)

    公的研究所(n=46)

    公立大(n=14)

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1.2

    1.4

    1.6

    1989

    1991

    1993

    1995

    1997

    1999

    2001

    2003

    2005

    2007

    2009

    2011

    2013

    2015

    2000

    年基

    点比率

    研究機関別論文数2000年基点比率推移(近似分数カウント)

    公的研究所(n=46)

    私立大(n=99)

    公立大(n=14)

    国立大規模大(n=15)

    国立中小規模大

    (n=56)

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 11

    (研究機関群別、近似分数カウント)日本の立ち位置・現状

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 12

    ●日本の論文注目度(CNCIおよびTop10%論文数割合)は世界平均以下を停滞している。中国の急速な伸びが注目される。

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    0

    2

    4

    6

    8

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    12

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    16

    18

    20

    1990

    1992

    1994

    1996

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    Top1

    0%論文数

    割合

    (%)

    Top10%論文数割合 スイスデンマーク

    オランダ

    英国

    ベルギー

    スウェーデン

    オーストリア

    ノルウェー

    オーストラリア

    フィンランド

    イタリア

    ドイツ

    米国

    カナダ

    フランス

    欧州等14か国中国

    韓国

    日本

    (注目度)日本の立ち位置、現状

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1.2

    1.4

    1.6

    1.8

    2

    1990

    1992

    1994

    1996

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    CNCI

    CNCIスイス

    デンマーク

    オランダ

    ベルギー

    オーストリア

    スウェーデン

    ノルウェー

    フィンランド

    英国

    オーストラリア

    イタリア

    カナダ

    ドイツ

    フランス

    米国

    欧州等14か国中国

    韓国

    日本

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 13

    ●日本のQ1論文数は停滞し、他国に追い抜かれた。

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    0

    50,000

    100,000

    150,000

    200,000

    250,000

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    Q1論

    文数

    Q1論文数

    米国

    中国

    英国

    ドイツ

    フランス

    カナダ

    イタリア

    オーストラリア

    日本

    スペイン

    韓国

    0

    10,000

    20,000

    30,000

    40,000

    50,000

    60,000

    70,000

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    Q1論

    文数

    Q1論文数拡大図

    英国

    ドイツ

    フランス

    カナダ

    イタリア

    オーストラリア

    日本

    スペイン

    韓国

    (Q1論文数)日本の立ち位置、現状

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 14

    0

    2000

    4000

    6000

    8000

    10000

    12000

    1981

    1984

    1987

    1990

    1993

    1996

    1999

    2002

    2005

    2008

    2011

    2014

    論文数

    JIF階層別臨床医学誌の日本の論文数(整数カウント、3年移動平均)

    JIF24(n=9)

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    1400

    1600

    1800

    1981

    1984

    1987

    1990

    1993

    1996

    1999

    2002

    2005

    2008

    2011

    2014

    論文数

    拡大図

    ●2000年を超えた頃からJIF6以上の臨床医学誌に掲載される日本の論文数が激減。研究活動に負荷がかかると、まず、質の高い論文から減り始めることが示唆される。

    注)2019年4月2日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、Clinical Medicine、整数カウント、3年移動平均値。

    (臨床医学、JIF階層別論文数)日本の立ち位置、現状

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 15

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    20

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    2010

    2012

    2014

    2016

    Glob

    alBa

    selin

    eとの差(%)

    日本の大学群別理工系Q1論文数割合(Global Baselineとの差)

    G7

    東大・京大

    国立規模大

    (n=29)Global Baseline

    私立規模大

    (n=6)私立規模中小

    (n=31)国立規模中小

    (n=23)

    注)2019年6月19日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingよりデータ抽出。文献種:原著、分野分類法:ESI、整数カウント、3年移動平均値。

    ●日本の大学の理工系Q1論文数割合は低下し、中でも中小規模国立大学の落ち込みが最も大きかった。

    -20

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    Glob

    alBa

    selin

    eとの

    差(%

    主要国理工系Q1論文数割合(Global Baselineとの差)

    オランダデンマークスイスオーストラリア英国スペインベルギースウェーデン米国ドイツ欧州14か国フィンランドオーストリアカナダフランスイタリアノルウェー韓国中国日本

    (理工系、Q1論文数割合)日本の立ち位置、現状

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 16

    (Highly Cited Researchers: HCR )

    ●日本のみHCRが激減(クラリベイト・アナリティクス社学術ラウンドテーブル(2019年7月)の発表資料)

    2014年と2018年の比較

    日本の立ち位置、現状

  • 目次 1. 日本の研究力の現状2. 論文数は何によって決まる

    のか?

    3. 注目度は何によって決まるのか?

    4. The Tyranny of Metrics

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 17

  • ●各国の大学論文数は政府支出大学研究費と強く相関

    y = 7.9095x + 345.35R² = 0.8095

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    0 50 100 150 200 250 300 350

    人口百万

    あたり論

    文数

    人口あたり政府支出大学研究費(ドル/人)

    主要国における2010年政府支出大学研究費と2014論文の相関

    政府支出大学研究費の多い順デンマークスイス

    ノルウェースウェーデンオーストリアフィンランドオランダ

    オーストラリアカナダドイツ

    アイルランドフランスポルトガル

    米国ベルギー英国

    イスラエル韓国

    スペインニュージーランド

    ■日本チェコギリシャポーランドハンガリー南アフリカメキシコ中国

    注)クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから2017年7月9日に、 OECD.Statより2017年12月15日にデータ抽出。文献種原著、分野分類法ESI.、2013-2015年の平均値。 政府支出大学研究費の単位はドル(購買力平価実質値2010年基準)、OECD諸国を中心に人口300万未満の小国家を除く28か国で分析。

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 18

    論文数を左右する要因 (研究資金)

  • ●各国の大学論文数は研究従事者数(FTE)および研究人件費(FTE)と強く相関

    y = 0.8099x - 50.77R² = 0.7633

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    0 1,000 2,000 3,000 4,000

    2013

    年論文数(/人口百万)

    2011年研究従事者数(FTE)(/人口百万)

    研究従事者数(FTE)と論文数の相関

    y = 10.692x + 251.57R² = 0.8887

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    0 100 200 30020

    13年

    論文

    数(/

    人口百

    万)

    2011年研究関係人件費(ドル/人口)

    研究人件費と論文数の相関

    人口当り論文数の多い順、△は推定研究従事者給与/国民平均給与<0.75の国

    スイスデンマークノルウェー

    △オーストラリアフィンランドオランダ

    △ニュージーランド

    ベルギーオーストリアアイルランド

    △英国イスラエル

    ドイツポルトガルスペイン韓国

    フランスチェコイタリアギリシャ

    ハンガリー△ポーランド

    ■日本△スロバキア

    チリトルコ

    注)クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから2017年7月9日に、 OECD.Stat 、Main Science and Technology IndicatorsおよびDataset: Average annual wagesより2017年12月28日にデータ抽出。人件費の単位は購買力平価実質値2010年基準(ドル)、国民平均給与の単位は購買力平価実質値2016年基準(ドル)。推定研究従事者給与は、研究人件費/FTE研究従事者数とした。人口はUnited Nationに基づく。 回帰分析は推定研究従事者給与/国民平均給与<0.75の国(△)を除いて行った。

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 19

    論文数を左右する要因 (FTE研究従事者数、研究人件費)

  • 注)クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから2017年7月9日にの論文数データ抽出。 OECD.Stat 、Main Science and Technology Indicatorsより2017年12月28日にデータ抽出。費用の単位は購買力平価実質値2010年基準(ドル)。人口はUnited Nationに基づく。“研究活動費”とは“current cost”の訳。

    ●各国の大学論文数は研究活動費(current cost)と相関するが、研究施設設備費との相関は不良

    y = 12.87x + 608.68R² = 0.6268

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    0 50 100 150 200

    2013

    年論文数(/人口百万)

    2011年研究活動費(ドル/人)

    研究活動費と論文数の相関

    y = 13.936x + 1109.8R² = 0.0862

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    0 20 40 60 80 100

    2013

    年論文数(/人口百万)

    2011年研究施設設備費(ドル/人)

    研究施設設備費と論文数の相関

    県空う活動費の多い順

    デンマーク

    オーストリア

    フィンランド

    ノルウェー

    オーストラリア

    スイスオランダ韓国ドイツ日本

    ベルギー

    イスラエル

    アイルランド

    ポルトガル

    チェコ

    ニュージーランド

    英国フランススペイントルコ

    ポーランド

    イタリアギリシャ

    スロバキア

    ハンガリー

    チリ

    研究施設設備費の多い順英国スイス日本

    オーストラリア

    チェコオランダ

    オーストリア

    アイルランド

    ポーランド

    ニュージーランド

    ノルウェー

    フランスドイツ

    スロバキア

    スペイン

    イスラエル

    イタリアトルコ

    デンマーク

    韓国

    ポルトガル

    フィンランド

    ベルギー

    ハンガリー

    チリギリシャ

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 20

    論文数を左右する要因 (研究活動費、施設・設備費)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 21

    目的変数 2013国際共著1/2補正論文数増加率説明変数 2011研究人件費増加率, 2011研究活動費, 2011研究施設設備費データ数 18重回帰式 2013国際共著1/2補正論文数増加率= 0.4499*2011研究人件費増加率+0.1598*2011研究活動費+0.0576*2011研究施設設備費+1.4994寄与率 0.791重相関係数 0.889自由度調整済み 0.864

    残差正規性のSW検定確率 0.8405残差の正規性ありとみなす。重回帰式の検定利用可能とみなす。

    重回帰式の有効性の検定F検定値 17.6573自由度 3 , 14確率値 0.0000重回帰式は有効であるといえる。

    AIC 64.598DW比 2.043

    ●各国の大学論文数の増加には大学研究人件費の増加が最も大きく寄与

    2013国際共著1/2補正論文数増加率 偏回帰係数 標準化係数 t検定値 自由度 確率値 相関係数 偏相関係数2011研究人件費増加率 0.4499 0.6639 4.4727 14 0.0005 0.848 0.767

    2011研究活動費 0.1598 0.2827 1.9493 14 0.0716 0.654 0.4622011研究施設設備費 0.0576 0.1354 1.0764 14 0.3 0.32 0.276

    切片 1.4994 0 2.9842 14 0.0099R^2 0.791 R 0.889 調整済R 0.864

    y = 1x + 0.0002R² = 0.791

    -2

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    0 2 4 6 8 10

    論文

    数増加率(%)

    論文数増加率予測値(%)

    論文数増加率予測値と実測値の相関

    注)重回帰分析はCollege Analysis ver6.6、Masayasu Fukui, Fukuyama Heisei Univ.による。

    論文数増加率の多い順

    ポルトガル

    韓国

    チェコ

    アイルランド

    ノルウェー

    スペイン

    デンマーク

    オランダ

    スイス

    ベルギー

    オーストリア

    イタリア

    ハンガリー

    ドイツ

    フィンランド

    フランス

    イスラエル

    日本

    (増加率は10年間の年平均増加率)

    論文数を左右する要因 (重回帰分析)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 22

    ●教員の研究時間は、国公私立大学とも2002年から2008年にかけて減少し、教育時間等が増加。私立大が最も研究時間が少ない。(文科省データより)

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    100%

    2002年2008年2013年2002年2008年2013年2002年2008年2013年

    国立大学 公立大学 私立大学

    大学等教員の職務活動時間割合(国公私立大学別)

    その他の職務(学内事務等)

    社会サービス:その他(診療活動等)

    社会サービス教育関連

    社会サービス研究関連

    教育

    研究

    注)神田由美子、富澤宏之: 大学等教員の職務活動の変化-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年、2008年、2013年調査の3時点比較-、科学技術・学術政策研究所、調査資料;236、4月-2015、のデータに基づき作図。国立7大学:北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学。

    論文数を左右する要因 (研究時間、国公私大別)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 23

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    100%

    2002年 2008年 2013年 2002年 2008年 2013年

    国立7大学 その他の国立大学

    大学等教員の職務活動時間割合(国立7大学とその他の国立大学)

    その他の職務(学内事務棟)

    社会サービス:その他(診療活動等)

    社会サービス教育関連

    社会サービス研究関連

    教育

    研究

    ●国立大学において教員の研究時間の減少は中小規模大学ほど著しく、旧帝大との格差が拡大した。(文科省データより)

    注)文献4-1)神田由美子、富澤宏之: 大学等教員の職務活動の変化-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年、2008年、2013年調査の3時点比較-、科学技術・学術政策研究所、調査資料;236、4月-2015、のデータに基づき作図。

    論文数を左右する要因 (研究時間、大学規模別)

  • ●保健系では診療活動等の時間が増えて研究時間が減少、工学系では教育と産学連携活動等の時間が増えて研究時間が減少。理学系は比較的軽傷。

    0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%

    100%20

    02年

    2008

    2013

    2002

    2008

    2013

    2002

    2008

    2013

    2002

    2008

    2013

    2002

    2008

    2013

    2002

    2008

    2013

    理学 工学 農学 保健 人文・社

    会科学

    その他

    大学等教員の職務活動時間割合(学問分野別)

    その他の職務(学内事務等)

    社会サービス:その他(診療活動

    等)

    社会サービス教育関連

    社会サービス研究関連

    教育

    研究

    注)神田由美子、富澤宏之: 大学等教員の職務活動の変化-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年、2008年、2013年調査の3時点比較-、科学技術・学術政策研究所、調査資料;236、4月-2015、のデータに基づき作図。

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 24

    論文数を左右する要因 (研究時間、分野別)

  • 0

    10,000

    20,000

    30,000

    40,000

    50,000

    60,000

    70,000

    2002年 2008年 2013年

    推定母集団数(人)

    所属組織の学問区分別推定教員数

    人文社会系

    理学

    工学

    農学

    保健

    その他

    ●推定教員数は保健系では増えているが、他の分野は減少~停滞。(文科省データより)

    注)神田由美子、富澤宏之: 大学等教員の職務活動の変化-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年、2008年、2013年調査の3時点比較-、科学技術・学術政策研究所、調査資料;236、4月-2015、のp13図表2-2{FTE調査の属性別の教員数」より、推定母集団数に基づき著者が作図。

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 25

    論文数を左右する要因 (推定教員数、分野別)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 26

    y = 0.5637x - 0.4676R² = 0.5473, n=35

    -10-505

    101520253035

    -20 0 20 40 60論文数増加度(

    2011

    -16)

    医師数増加度(2010-15)

    国立大学の医師数増加度と

    臨床医学論文数増加度の相関

    02000400060008000

    100001200014000160001800020000

    2001

    2003

    2005

    2007

    2009

    2011

    2013

    2015

    人数・件数・金額(億円)

    国立大学病院収益・医師数・論文数の推移

    医師数(35大学)

    臨床医学論文数各大

    学合計附属病院収益(億円)

    臨床医学論文数計

    (重複を除く)歯科医師数(35大学)研修医マッチ数

    研修歯科医マッチ数

    ●法人化後の国立大学附属病院の収益は増加を続け、医師数も2010年以降増加。

    そして医師数が多く増加した病院ほど臨床医学論文数も増加。(研究時間減が研究

    従事者増で補われた。)

    注)医師数等については、国立大学病院データベースセンターおよび国立大学付属病院長会議の提供による。データ集計方法が異なる大学及び、データの不連続な大学を除いた35大学のデータ。論文数データはクラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingより2017年6月9日抽出。文献種原著。分野分類法ESIのClinical Medicineの論文数、及び、分野分類法WoSの歯科口腔医学(Dentistry, Oral Surgery & Medicine)の論文数を示す。附属病院を有する42国立大学の論文数の合計と、42大学間の共著論文の重複を除いた論文数を示した。表示年の前後3年の移動平均値。

    論文数を左右する要因 (附属病院、医師数)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 27

    y = -0.0366x + 0.907R² = 0.4633

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    0.6

    0.7

    0.8

    0.9

    0 5 10 15 20

    2015

    年医師

    1人あたり論文数

    2014年医師1人あたり手術件数

    医師1人あたり手術件数と論文数の相関(国立大学附属病院長会議のデータに基づく)

    ●医師の診療負荷が大きい病院ほど臨床医学論文数は少ない

    y = -0.001x + 0.8835R² = 0.3357

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    0.6

    0.7

    0.8

    0.9

    0 100 200 300 400 500 600 700 800

    医師

    1人あたり論文数

    医師1人あたり入院延べ患者数

    医師1人あたり入院延べ患者数と論文数の相関(国立大学附属病院長会議のデータに基づく)

    注)前図と同様に、医師数等については、国立大学病院データベースセンターおよび国立大学付属病院長会議の提供による。

    論文数を左右する要因 (附属病院、診療負荷)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 28

    0

    0.05

    0.1

    0.15

    0.2

    0.25

    1989

    1990

    1991

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    G6 人

    口あたり臨床医学論文

    数に対

    する割

    大学規模別人口あたり臨床医学誌論文数/G6平均値(整数カウント、3年移動平均)

    大規模国立

    大(n=14)

    中小規模国

    立大(n=28)

    私立大(n=29)

    新医師臨床研修

    診療報酬プラス

    診療報酬マイナス

    国家公務員定削

    大学院重点化

    交付金削減+借金償還

    国立大法人化

    医学部学生定員増

    地域医療崩壊

    ●臨床医学の競争力が最も大きく低下したのは中小規模国立大、次いで大規模

    国立大、私立大も低下したが最小⇒国立大、特に地方に大きなダメージを与えた

    要因が想定される。

    論文数を左右する要因 (附属病院への各種負荷、大学群別)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 29

    人、時間、金研究従事者数(研究者数+研究支援者数): Head Count (HC)研究時間

    研究時間を加味した研究(従事)者数:Full Time Equivalent (FTE)研究資金 研究人件費⇒OECDでは研究人件費をFTEで計算

    研究活動費

    研究施設・設備費

    負荷に対する余力、代替手段の有無 小規模大学の方がダメージが大きい。さらに「選択と集中」政策が追い打ち。

    論文の英語化の余地のある分野では、データベースに登録される論文数が増える可能性

    論文数カウント法の違い共同研究に名前を連ねることができれば、整数カウントの論文数は増える。(他のカウント法では必ずしも増えない。)

    論文数を左右する要因 (まとめ)

    寄与率

    5:2:

    1

    ●研究従事者数と研究時間の確保が最も大きく論文数を左右する。

  • 目次 1. 日本の研究力の現状2. 論文数は何によって決まる

    のか?

    3. 注目度は何によって決まるのか?

    4. The Tyranny of Metrics

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 30

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 31

    y = -0.0001x + 1.2825R² = 0.0009

    0.5

    0.7

    0.9

    1.1

    1.3

    1.5

    1.7

    1.9

    0 100 200 300 400

    CNCI

    論文数/1000

    論文数とCNCIの相関(2014-16年平均)

    (論文数と国際共著)注目度を左右する要因

    注)2017年11月15日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから論文数データ抽出。文献種原著、分野分類法ESI、整数カウント法、2014-16年の平均値。

    CNCIの大きい順スイス

    デンマークオランダベルギー

    アイルランドスウェーデンフィンランドノルウェー

    英国オーストリアオーストラリア

    カナダドイツイタリア

    ニュージーランドギリシャ米国

    フランスイスラエルスペインポルトガルハンガリー

    チリチェコ中国

    スロバキア韓国■日本

    ポーランドメキシコロシアトルコ

    ●従来から言われているように、各国の論文数は注目度と相関しないが、

    国際共著率は注目度と相関する。1人の研究者の論文数を増やすと1990年代のオーストラリアでの報告のように、論文の質が下がる。しかし・・・・

    y = 0.0158x + 0.4261R² = 0.6251

    0.5

    0.7

    0.9

    1.1

    1.3

    1.5

    1.7

    1.9

    0 20 40 60 80

    CNCI

    国際共著率(%)

    国際共著率とCNCIの相関(2014-16年平均)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 32

    y = 0.0587x + 0.8517R² = 0.7923

    0.5

    0.7

    0.9

    1.1

    1.3

    1.5

    1.7

    1.9

    2.1

    0 5 10 15 20

    CNCI

    20-24歳人口千人あたり論文数

    20-24歳人口千人あたり論文数とCNCIの相関(2014-16年平均)

    注目度を左右する要因 ( (20-24歳)人口あたり論文数)

    注)2017年11月15日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから論文数データ抽出。文献種原著、分野分類法ESI、整数カウント法、2014-16年の平均値。人口は国際連合による。

    CNCIの大きい順スイス

    デンマークオランダベルギー

    アイルランドスウェーデンフィンランドノルウェー

    英国オーストリアオーストラリア

    カナダドイツイタリア

    ニュージーランドギリシャ米国

    フランスイスラエルスペインポルトガルハンガリー

    チリチェコ中国

    スロバキア韓国

    ■日本ポーランドメキシコロシアトルコ

    ●(20-24歳)人口あたり論文数と注目度は相関する。これはいったいどう解釈すればいいのだろうか?

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 33

    (20-24歳)人口は、その国の教育の規模の代理変数と考える。 大学生数の方が教育規模の代理変数としては適していると考えられるが、国単

    位の場合には、その国の“大学”の定義の違いにより、むしろ誤差が大きくなる可

    能性。(日本の専門学校にあたる高等教育機関を“大学”に含めている国もありう

    る)

    (20-24歳)人口あたり論文数は、教育の規模に対する研究の規模の大きさ、つまり研究環境の良さを反映する代理変数と考える。

    研究時間 教育時間 研究の規模/教育の規模

    33% 66% 0.550% 50% 166% 33% 275% 25% 380% 20% 4

    注目度を左右する要因 (研究の規模≒研究環境)

  • 34

    国別の論文数の分布(各国の世界シェア)を考慮し、各国の世界シェアで除した規格化を行うと、自国

    からの引用が大きいことがより強く表れる。日本や中国が青くなるのは、各大学にとって、日本や中国

    からの引用が日本や中国の論文数から想定される数よりも低いことを表す。

    各大学の国別の引用数の割合(自大学引用除く) ※論文数の多い順に本分析の対象国を掲載。中国は対象国以外で論文数が多い国であるため参考のため掲載。(各国の論文数世界シェアはUSA 25.6%, UK 7.5%, GERMANY 6.9%, JAPAN 5.0%, FRANCE 4.7%, CANADA 4.4%, CHINA 20.8%)

    割合高割合低

    USA UK GERMANY JAPAN FRANCE CANADA CHINA

    USA Harvard 1.60 1.43 1.31 0.82 1.21 1.32 0.60

    MIT 1.59 1.51 1.51 1.02 1.35 1.22 0.87

    UK UCL 1.23 2.19 1.59 0.79 1.50 1.37 0.58

    Oxford 1.27 2.21 1.67 0.87 1.53 1.35 0.67

    GERMANY Heidelberg 1.28 1.70 2.42 1.01 1.75 1.24 0.63

    Tech Munich 1.09 1.38 2.45 0.89 1.39 1.05 0.75

    JAPAN Kyoto 1.04 1.22 1.49 3.09 1.33 0.89 1.08

    Tokyo 1.14 1.40 1.67 2.82 1.50 0.98 1.00

    FRANCE Sorbonne 1.25 1.79 1.98 1.08 2.74 1.25 0.65

    Paris Diderot 1.36 2.01 2.23 1.27 3.09 1.38 0.60

    CANADA British Columbia 1.32 1.62 1.41 0.85 1.41 2.18 0.68

    Toronto 1.39 1.54 1.36 0.82 1.30 1.76 0.63

    Source : Web of Science Core Collection (SCIE, SSCI, 2019年4月時点)Document Type :Article, Review出版年 : 2014-2019

    注目度を左右する要因

    ●引用と所在国の関係(クラリベイト・アナリティクス社学術ラウンドテーブル(2019年7月)の発表資料)

    (自国論文引用傾向)

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには?

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 35

    注目度を左右する要因

    自国論文引用傾向⇒研究者コミュニティーの規模の大きい国の論文、および国

    際共著論文は被引用数が多くなる。

    (国際)共著で被引用数が多くなるのは、連携による「質」の向上以外に、

    「質」以外の要因も大きい可能性

    論文数はその国の研究者コミュニティーの規模を反映する代理変数と考えられる。

    ならば、論文数とCNCIが相関しても良いはずであるが、相関が認められない!? しかし、もう少し良く見てみよう。論文数と国際共著率は逆相関している。国際共

    著率の影響を取り去った場合に、論文数がCNCIに影響を与えている可能性は否定できないのでは?

    y = -0.0774x + 57.782R² = 0.1914

    01020304050607080

    0 100 200 300 400

    国際共著率(%)

    論文数/1000

    論文数と国際共著率(2014-16年平均)

    (論文数)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 36

    注目度を左右する要因 (重回帰分析、研究規模、国際共著)

    目的変数 CNCI

    説明変数 20-24歳人口千人あたり論文数, 論文数/1000, 国際共著率

    データ数 32

    重回帰式 CNCI = 0.0387*20-24歳人口千人あたり論文数+0.0011*論文数/1000+0.0107*国際共著率+0.3688寄与率 0.934

    重相関係数 0.967

    自由度調整済み 0.963

    残差正規性のSW検定確率 0.7590

    残差の正規性ありとみなす。

    重回帰式の検定利用可能とみなす。

    重回帰式の有効性の検定

    F検定値 132.9269

    自由度 3 , 28

    確率値 0.0000

    重回帰式は有効であるといえる。

    AIC -72.367DW比 2.207

    CNCI 偏回帰係数 標準化係数 t検定値 自由度 確率値 相関係数 偏相関係数20-24歳人口千人あたり論文数 0.0387 0.5866 8.8936 28 0 0.89 0.859

    論文数/1000 0.0011 0.3023 5.5212 28 0 -0.029 0.722国際共著率 0.0107 0.5326 7.367 28 0 0.791 0.812

    切片 0.3688 0 5.4304 28 0R^2 0.934 R 0.967 調整済R 0.963

    y = 0.9997x + 0.0004R² = 0.9342

    0.5

    0.7

    0.9

    1.1

    1.3

    1.5

    1.7

    1.9

    2.1

    0.5 1 1.5 2CN

    CI実測値

    CNCI予測値

    重回帰分析によるCNCIの予測

    ●教育に対する研究の規模(≒研究環境)、研究者コミュニティーの規模(論文数)、

    国際共著率の3つで、注目度のほとんどが決定される。その寄与の比率は6:3:5。

  • ●多くの国で研究所のCNCIの方が大学のCNCIよりも高い傾向。研究所の方が研究時間が確保され、研究環境が良いと考えられる。

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    米国 英国 ドイツ 日本 フランス カナダ イタリア 韓国

    CNCI

    主要国における大学と研究所のCNCI

    大学 研究所

    注) 2018年7月3日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから論文数データ抽出。文献種原著、分野分類法ESI、CNCI:Category Normalized Citation Impact。2012-2016年の5年間の論文について分析。

    注目度を左右する要因 (研究所と大学)

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 37

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 38

    注目度を左右する要因 (企業との共同研究)

    基礎と応用の融合・産学官連携が最も注目度の高い論文を生み出すといういうのだが・・・

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 39

    注) 2018年7月6日クラリベイト・アナリティクス社InCites Benchmarkingから論文数データ抽出。文献種原著、分野分類法ESI。Research Area: [Chemistry, Engineering, Computer Science, Materials Science, Physics] 。

    注目度を左右する要因 (企業との共同研究)

    企業共著は、臨床医学で最も注目度が高い一方、理工系分野では最も低くなる。「産学官連携が最も注目度の高い論文を生み出す」という一般化はできない!!

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    全分野 臨床医学 理工系5分野

    Top1

    0%論文

    数割

    合(%)

    Harvard Universityの共同研究先と注目度

    全論文

    非共著論文

    全共著論文

    大学共著論文

    研究所共著論文

    企業共著論文

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 40

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    1981

    1983

    1985

    1987

    1989

    1991

    1993

    1995

    1997

    1999

    2001

    2003

    2005

    2007

    2009

    2011

    2013

    2015

    RCT論

    文数

    割合

    臨床医学論文に占めるRCT論文の割合

    英国

    カナダ

    ドイツ

    米国

    フランス

    イタリア

    韓国

    日本

    中国

    注目度を左右する要因 (臨床医学、RCT割合)

    注)2019年4月16日、PubMedよりRCT論文を抽出し、PMIDをダウンロード。InCitesBenchmarkingにアップロードし各種論文指標を分析。分野分類法ESI文献種原著。3年平均値。

    ●各国とも臨床医学論文の中で無作為化比較試験(RCT)の占める割合が増えている。

  • 41

    トップ1%論文数割合の高い順ベルギースイス

    ノルウェーカナダ

    デンマーク英国

    フランスオーストリアオランダ

    スウェーデンスペインギリシャ

    フィンランドオーストラリア

    イタリアイスラエル

    ドイツポーランド♦米国ブラジルインド台湾■日本▲韓国●中国トルコ

    ●各国の臨床医学誌論文の注目度(トップ1%論文数割合)は、RCT割合と正相関する。

    y = 0.2257x - 0.1224R² = 0.693

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    0 5 10 15 20 25

    トップ

    1%論文数割合

    RCT割合

    RCT割合とトップ1%論文数割合(整数カウント)の相関(2016年)

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには?

    注)2019年4月16日、PubMedよりRCT論文を抽出し、PMIDをダウンロード。InCites Benchmarkingにアップロードし各種論文指標を分析。分野分類法ESI文献種原著。3年平均値。

    注目度を左右する要因 (臨床医学、RCT割合)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 42

    重回帰分析結果

    目的変数 2016トップ1%論文数割合

    説明変数 2016企業共著率, 2016国際共著率

    データ数 40

    重回帰式 2016トップ1%論文数割合 = 0.3085*2016企業共著率+0.0437*2016国際共著率-0.9725

    寄与率 0.876重相関係数 0.936自由度調整済み 0.933

    残差正規性のSW検定確率 0.8021

    残差の正規性ありとみなす。

    重回帰式の検定利用可能とみなす。

    重回帰式の有効性の検定F検定値 131.2151自由度 2 , 37確率値 0.0000

    重回帰式は有効であるといえる。

    AIC 146.925DW比 2.493

    ●RCTに限ると、注目度は企業共著率と国際共著率で約9割が説明でき、その寄与の強さは、4対1となり、企業共著率の寄与の方が国際共著率よりも大きくなる。

    2016トップ1%論文数割合

    偏回帰係数 標準化係数 t検定値 自由度 確率値 相関係数 偏相関係数

    2016企業共著率 0.3085 0.7778 10.0499 37 0 0.922 0.8562016国際共著率 0.0437 0.2169 2.8021 37 0.008 0.734 0.418切片 -0.9725 0 -1.2507 37 0.2189R^2 0.876R 0.936調整済R 0.933

    y = 1x + 5E-07R² = 0.8764

    -5

    0

    5

    10

    15

    20

    -5 0 5 10 15 20

    実測値

    予測値

    重回帰式によるトップ1%論文数割合(整数カウント)の予測

    注目度を左右する要因 (臨床医学、RCT、企業共著率)

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 43

    ●注目度は研究環境(≒教育に対する研究の規模)を反映し、その悪化を論文数よりも鋭敏に反映するようである。

    大学への負荷

    研究従事者数減少(研究規模の縮小)

    論文数の減少

    研究環境の悪化(教育に対する研究規模の縮小)

    注目度の低下

    注目度を左右する要因 (研究環境、考え方)

    論文完成度低下、独創的アイデアの論文化の遅れ等

    HCRの減少

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 44

    注目度を左右する要因

    注目度指標

    質以外の注目度指標を左右する要素

    注目度指標に反映される質

    注目度指標では測れない質

    研究環境(研究時間、研究支援者数など)、連携

    自論文引用、自国論文引用傾向

    研究者コミュニティーの規模(大国、大圏域が有利)

    共著論文引用効果、超国際多機関共著効果

    HCR出現確率

    臨床医学でのRCT割合と製薬企業共著率

    論文カウント法 分野分類法 高JIFジャーナル効果 べき乗効果

    (まとめ)

  • 目次 1. 日本の研究力の現状2. 論文数は何によって決まる

    のか?

    3. 注目度は何によって決まるのか?

    4. The Tyranny of Metrics

    2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 45

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 46

    ●測定基準への執着は、実績を測定し、公開し、報酬をあたえなければいけないという、一見避けようのないプレッシャーからくるものだ。だが、それ

    が実はあまりうまくいかないという証拠は突き付けられている。

    ●本書は、測定の害悪について語るわけではない。経験に基づく個人的判断の代わりに標準化された測定を使おうとする際に起こる、意図せぬ好ましくない

    結果について語る本だ。問題は測定ではなく、過剰な測定や不適切な測定だ。測定基準ではなく、測定基準への執着なのだ。

    ●測定は個人であれ組織であれ、自らの実績を評価

    する手助けになるはずだ。だが、こうした測定が報酬や懲罰の基準として使われるようになると、つまり測定基準が成果主義や格付けの判断基準になる

    と、問題が生じ始める。

    2019年4月29日日本語訳本発刊、著者はアメリカ・カトリック大学歴史学部教授。専門は近代ヨーロッパの知性史、資本主義の歴史

    測定評価基準の弊害

    Tyranny:専制政治・暴政

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 47

    ●2018年に各国立大学に説明された新しい評価・資源配分

    基幹経費の配分指標会計マネジメント改革状況

    教員一人当たり外部資金獲得実績

    若手研究者比率

    運営費交付金等コスト当たりTOP10%論文数人事給与・施設マネジメント改革状況

    3分類ごとに評価(①地域貢献等、②専門野等、③世界卓越等)

    成果を中心とする実績状況に基づく配分• 変動幅90%~110%(激変緩和)• 約700億円(2020年以降、配分割合・変動幅を順次拡大)• 機能強化経費の基幹経費化分 約300億円以内• 上記の他、KPI評価に基づき、約300億円を再配分• 来年夏ごろまでに、教育研究や専門分野別の特性等を踏まえた客観・共通指標を検討、

    その結果を2020年度に活用

    多額の運営費交付金によって支えられているので、厳格な評価とそれに基づく資源配分が必要

    (政府の国立大学共通指標案)測定評価基準の弊害

    「若手教員比率」という指標の不適切性については拙著「科学立国の危機」に詳述

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 48

    ●運営費交付金等コスト当たりTOP10%論文数

    ●教員一人当たり外部資金獲得実績

    運営費交付金には研究経費以外に教育経費等が含まれ、その比率は大学間で異なる。

    教員は研究以外に、教育、社会貢献、診療等にも時間を費やしており、その比率は大学間で異なる。

    研究時間+教育時間+診療時間+その他の時間

    研究成果

    教育や診療等の比重が高い大学ほど不利になる指標

    つまり

    (指標の不適切性)測定評価基準の弊害

    教員あたりや運営費交付金あたりの定量指標は不適切であり、資源配分の基準に絶対に使ってはいけない!!

    測定が困難な要素(この場合はFTE)を無視してしまうことで弊害を生じる不適切な指標となってしまう!!

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 49

    注目度指標の適切な使い方

    参考値として用いて社会に影響を与えた研究者をポジティ

    ブ評価する。

    研究環境を鋭敏にとらえる指標として活用し、研究環境の

    改善に生かす。

    注目度指標の不適切な使い方

    資源(特に基幹経費)配分の実績評価基準にする。

    (注目度指標の使い方)測定評価基準の弊害

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 50

    なぜ注目度指標を資源配分の指標に使うといけないのか?注目度では測れない「質」の高い研究をしている研究者・研究機関の資源が削減される。

    良いとは言えない研究環境でがんばっている研究者・研究機関の資源が削減される。⇒良い研究環境の大学がますます良くなるかもしれないが、不良の研究環境の大学はますます悪くなって、再起不能に。

    自国論文引用傾向、研究者コミュニティーの規模、分野分類法、論文カウント法、国際超多機関共著など質以外の多くの要因に左右され、資源配分の基準にするための要件を満たしているのか疑問。

    数値目標必達(自己目的化)のために生じる、さまざまな不都合例えば、国際共同研究先の選別や、注目度が高くならないと想定されるドメスティックな研究課題を避けることなど。

    そもそも論として、仮に頑健性(robustness)の高い成果指標を用いるにしても、その傾斜に応じて資源の傾斜配分をして、どれだけ研究生産性が上がるのか、根拠が示されていない。

    (注目度の使い方)測定評価基準の弊害

  • 2019/7/28 日本の科学研究の失速を食い止めるには? 51

    おわりに

    大学・研究機関への示唆研究環境(≒教育に対する研究の規模)の維持に最大限の努力をすること)

    研究従事者数および研究時間の確保を最優先政策事項にすること

    研究環境(研究時間等)のモニタリングを行うこと

    研究現場において数値目標・基準(metrics)の本質や弊害を見抜くデータ分析力を高めること

    政府へのお願いEvidence-based Policy Making (EBPM)の根拠とするデータの本質、信頼性、及びそれに基づいて資源の傾斜配分をした場合の効果

    及び弊害等について、行政担当者と分析担当者、研究現場の関

    係者がフランクに吟味する場の設定

    日本の科学研究の失速を食い止めるには?��ー「科学立国の危機」ー目次●論文分析方法●論文の量的指標(volume)●論文の質的指標(quality)スライド番号 6スライド番号 7スライド番号 8スライド番号 9スライド番号 10●論文数(近似分数カウント)は2004~05年頃をピークにして国公立大、公的研究所の論文数が減少。私立大学には比較的軽く、公的研究機関や大学に重い負荷がかかったことが想定される。スライド番号 12スライド番号 13スライド番号 14スライド番号 15スライド番号 16目次●各国の大学論文数は政府支出大学研究費と強く相関●各国の大学論文数は研究従事者数(FTE)および研究人件費(FTE)と強く相関●各国の大学論文数は研究活動費(current cost)と相関するが、研究施設設備費との相関は不良●各国の大学論文数の増加には大学研究人件費の増加が最も大きく寄与●教員の研究時間は、国公私立大学とも2002年から2008年にかけて減少し、教育時間等が増加。私立大が最も研究時間が少ない。(文科省データより)●国立大学において教員の研究時間の減少は中小規模大学ほど著しく、旧帝大との格差が拡大した。 (文科省データより)●保健系では診療活動等の時間が増えて研究時間が減少、工学系では教育と産学連携活動等の時間が増えて研究時間が減少。理学系は比較的軽傷。●推定教員数は保健系では増えているが、他の分野は減少~停滞。 (文科省データより)スライド番号 26スライド番号 27スライド番号 28スライド番号 29目次スライド番号 31スライド番号 32スライド番号 33スライド番号 34スライド番号 35スライド番号 36●多くの国で研究所のCNCIの方が大学のCNCIよりも高い傾向。研究所の方が研究時間が確保され、研究環境が良いと考えられる。スライド番号 38スライド番号 39スライド番号 40●各国の臨床医学誌論文の注目度(トップ1%論文数割合)は、RCT割合と正相関する。●RCTに限ると、注目度は企業共著率と国際共著率で約9割が説明でき、その寄与の強さは、4対1となり、企業共著率の寄与の方が国際共著率よりも大きくなる。●注目度は研究環境(≒教育に対する研究の規模)を反映し、その悪化を論文数よりも鋭敏に反映するようである。スライド番号 44目次スライド番号 46●2018年に各国立大学に説明された新しい評価・資源配分スライド番号 48スライド番号 49スライド番号 50おわりに