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Page 1: 「学習する組織」による競争優位戦略 - PwC · 2017-03-22 · 出とも言い換えられる。このスキームこそが、学習する 組織が競争優位を生む源泉と考えられる。
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目次【第 1 回】競争優位戦略としての学習する組織    2

【第 2 回】学習する組織が実現するオペレーショナルエクセレンス    5

【第 3 回】学習する組織とロボティクスの融合    8

【第 4 回】アナリティクスを活用した学習する組織の構築    11

【第 5 回】学習する組織と人材育成のジレンマ    14

【第 6 回】(最終回)学習する組織のコミュニケーション媒体    17

所属 / タイトル

PwC コンサルティング合同会社 金融サービス事業部 ディレクター

主な経歴

金融サービス業界(銀行・証券・保険)のプロフェッショナルとして15年以上の経験を有し、経営コンサルタントとして、セールス・マーケティング戦略、オペレーション改革、人事・組織および教育・研修制度設計までの幅広い分野において、実務と理論に基づいたインサイトとソリューションを提供している。現職においては保険領域のオペレーショナルエクセレンスの推進リードとして、ビジネスデューデリジェンスやトランスフォーメーションデザイン、チェンジマネジメントのプロジェクト等を牽引する。専門誌や新聞等への論文寄稿やセミナー・カンファレンスの講師として活動も多数。

日本ファイナンス学会正会員、行動経済学会正会員英国ウォーリック大学大学院工学研究科修了。理学修士(品質工学)、MBA、ポストグラデュエートディプロマ(ファイナンス)、BA(経営学)

藤田 通紀(ふじた みちのり)

【 執筆者プロフィル 】

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「学習する組織」による競争優位戦略

2

1.はじめに

 近年ほど保険会社が競争優位性を維持し続けることが

難しい時代は無いかもしれない。各社は新商品投入で凌

ぎを削り、チャネル戦略では販路のマルチ化を迫られて

いる。一方で、セールスを支えるオペレーションやシス

テム(基盤)は、より生産性・効率性を求められ、断続

的なアウトソーシングや改善・改革が行われてきてい

る。

 特に保険のオペレーションでは、AI やクラウドを活

用したデジタルソリューションの台頭により、業務内容

や使用ツールだけでなく、働き方そのものが変わろうと

している。近代においては、演算機やタイプライター、

パソコン、イメージワークフローなどの登場により、そ

の都度オペレーションが変化してきたが、多くの金融機

関はそれらを使いこなし、オペレーターの生産性・効率

性を飛躍的に向上させた。しかし、現在のロボティクス

を代表とするデジタル革命は、「ヒト」が行ってきた業

務そのものの代替とも成り得ることから、オペレーター

に求められるコンピテンシーやケイパビリティの一部が

不要となる一方、新たに高い水準の対応力を要求する部

分もあるといえるだろう。

 デジタル革命は、経営者の視点においては、より利便

性の高い環境を構築する事になり、それによって競争優

位を高める(または維持する)ことになるだろう。一

方、オペレーターにとっては、労働に対する脅威とな

り、ヒトとしての新しい価値を生み出すことに失敗すれ

ば、リプレイスメントの対象にもなり得る。

 では、新しい価値を生み出すためには、何が必要であ

ろうか?その一つの答えになり得るのが「学習する組

織」だ。

2.学習する組織

 学習する組織とは、外部環境の脅威や内部環境に求め

られる変化に対応するために、現状を正しく理解し、改

善点を見出し、そのあるべき姿に適応できる組織のこと

である。その学習は継続的であり、その企業の文化へと

昇華する必要がある。学習する組織が生み出すのは創造

的なアイディアであり、イノベーションといえるものか

もしれない。つまり、企業にとっては内在化された付加

価値であり、見えざる経営資源となり得るものだといえ

るだろう。

 学習する組織は、ピーター・センゲ博士が提唱した組

織開発のアプローチである。それ以前は、長い間、組織

変革(以下、チェンジ)の考え方やアプローチは、組織

の健全性と有効性を高める目的のために議論され、実施

されてきた。しかしながら、チェンジの多くは失敗した

り、途中で頓挫したりすることが多かった。その理由の

主なものとして、チェンジに対する個人・組織の抵抗が

挙げられることが多い。では、その抵抗はなぜ生まれる

のだろうか。

 組織のリストラクチャリングやリエンジニアリング

は、保険会社のオペレーションの領域で、初めに検討さ

れるイニシアチブである。このチェンジおいては、個人

や組織は機械的なプロセスの一つと見なされ、また処理

単位毎に分解・細分化される。うまく機能していないプ

ロセスだと判断された場合には、修理・交換(リプレイ

スメント)の対象となる。この様なチェンジは、経営者

視点から見たときには、組織の健全性や有効性に資する

のだが、現場の視点からはメリットを感じないどころ

か、人間性を無視されているように感じることにつなが

る。

 一方で、学習する組織は、修理・交換ではなく、実務

から学習する(アクション・ラーニング)ことによって

個人と組織の学習能力を開発・発展させ、組織の健全性

や有効性を高めることを主眼としている。前述の組織リ

ストラクチャリングの一つである BPR(ビジネスプロ

セスリエンジニアリング)が工業的手法の応用であるの

に対し、学習する組織は、生命システム論、認知行動科

【第 1回】

競争優位戦略としての学習する組織

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「学習する組織」による競争優位戦略

3

学、組織論、心理学、リーダーシップ論などの行動心理

を基にした科学的知見を軸としているのが特徴である。

 学習する組織では、個人と組織を一つの生命システム

と捉えている。経営者、管理職、従業員の行動・言動

は、全て組織内の振動・鼓動である。そのため、外部リ

ソース(外部コンサルタントやシステムベンダ)を用い

た場合、組織内に融合できるか異物として拒否反応を示

すかによって、生命システムの挙動は異なってくる。拒

否反応はしばしば抵抗となるが、必ずしも、それらはマ

イナス要素ばかりとは言えない。学習する組織は、外部

からの新しい刺激を認知し学習することで、自己の持つ

強みと融合させる力があると考えられている。これは、

自らが足りていない行動や意識を認識し、より効果の高

い行動や意識に変換していく作用を生む学習の機会の創

出とも言い換えられる。このスキームこそが、学習する

組織が競争優位を生む源泉と考えられる。

3.組織変革に見る「学習する組織」の優位性

 競争優位の観点から、機械的な組織変革と学習する組

織での組織変革を比較してみたい(図1)。

 まず、社員の個性について、機械的な組織変革では考

慮せず、また労働単位についても個人差の無いヘッドカ

ウント(HC)もしくは工数(FTE)として認識され、

計算の対象になる。一方、学習する組織の個人は、個性

および能力が加味された労働単位として扱われる。ま

た、機械的な組織は、修理・交換によるマイナスの無い

組織を目指すのに対し、学習する組織は個人・組織の学

習による相互効果により、付加価値のある組織を作り出

す。

 そのため、変革への抵抗は機械的な組織変革に比べ、

学習する組織でははるかに小さく、変革そのものを学習

機会と捉える。プロジェクトとは、チェンジ・イニシア

チブであり、単純な改善・改革、BPO(ビジネスプロ

セスアウトソーシング)、BPR ではない。BPO や BPR

はコスト削減効果を生み出すが、チェンジ・イニシアチ

ブは付加価値を創出する。それゆえに、学習する組織は

変化に対するしなやかさを持つ組織であり、不確実性を

増す環境下においても強みを発揮できる。

 冒頭に述べたように、今後はロボティクスの台頭など

より、ヒトの労働そのものがリプレイスされていく事態

が予測されている。機械的な組織改革は労働主体を、ヒ

トからロボットに変更するのに対し、学習する組織はロ

ボットという新しい労働主体との融合を目指すかもしれ

ない。言い換えれば、ロボットそのものを組織の一部と

して認識し、より高い付加価値を生み出す組織を形成す

る可能性がある。

 ここで、機械的な組織変革と学習する組織に近い組織

変革を例示で対比してみたい。

 保険会社 A は、自社のオペレーション部門のコスト

が高いという理由で、同部門のスキルの高い主力クラス

を、地方の派遣社員とリプレイスメントを行った。その

結果、一時的なコスト削減効果はあったが、新商品投入

や制度変更のたびに、外部支援を仰ぎ、自社での対応力

及び学習サイクルをほとんど失った。地方で一部正社員

の採用を開始したが、ケイパビリティと蓄積された知識

は既に失われているため、単純なコスト増を生んでし

まっている。

 一方、保険会社 B は、地方への移転及びアウトソー

シングを利用しながら、中核社員に関してはより高度な

図1 組織変革の違い機械的な組織変革 学習する組織(組織変革)

社員の個性 考慮しない 考慮する

労働単位 一律のHC/ FTE 能力によって異なる評価

変革のドライバー 修理・交換 学習(個人・組織の相互効果)

バリュープロポジション マイナスの無い組織 付加価値のある組織

変革への抵抗 大きい 少ない(学習要素と見なす)

アプローチ トップダウン トップダウン/ボトムアップ

主な施策 単純な BPO、BPR など チェンジ・イニシアチブ

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「学習する組織」による競争優位戦略

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オペレーションとオペレーション企画・推進に集約させ

た。スキルの高い主力クラスは、新商品・制度変更や継

続的な品質向上について常に検討する体制ができ、コス

ト削減と変化に対して強い付加価値のあるオペレーショ

ン組織を作り出した。

 保険会社 A が機械的な組織変革であるのに対し、保

険会社 B は学習する組織に近い組織変革を実行してい

る。保険会社 B は、他社に比べて競争優位を保ってお

り、フロントラインをサポートするオペレーションを維

持している。

 事例にも示されているように、保険会社は競争優位戦

略として学習する組織を取り入れていく必要があると考

える。組織の学習は個人の学習よりもはるかに大きい効

果を生みだす。それゆえに、他社が構造上の優位性を

持っていたとしても、処理能力・改善能力により他社を

凌駕することもできる(オペレーショナルエクセレン

ス)。

 ドラスティックな変革が進む中にあっては、洞察や先

見性といったものにより、新しい技術やイノベーション

を生み出す力や、生じるリスクを回避する能力を向上さ

せることが、優位性を保つことにつながる。それは、競

争的市場の機微を捉え、自らの戦略へ適用できる力を意

味しているだろう。既成概念やルールにとらわれること

なく、組織が学習することで変化に対応し、創造的に競

争優位を確立していくことが求められているといえる。

 次回は、その競争優位の源泉である「学習する組織が

実現するオペレーショナルエクセレンス」について、深

く議論を深めていきたい。

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「学習する組織」による競争優位戦略

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1.はじめに

 第 1 回では、競争優位戦略としての学習する組織が、

不確実性を増す環境下において他社と差別化され、機械

的組織変革を行う保険会社から優位性を保つことが可能

であることを論じた。ここで重要なことは、マーケット

の中において継続的成長を遂げることが生き残る保険会

社の大きな要素の一つであるならば、組織の学習は時限

的であってはならず、継続性が必要だという点だ。

 継続性は組織文化への定着とその継承(発展)を意味

している。たとえば、現場レベルでの自主的な改善活動

を示す QC(品質管理)活動などは学習する組織の継続

性を示す一例かもしれない。

2.改善プロジェクトの定着

 最初に、改善プロジェクトが一過性に終わってしまう

ケースについて考えてみたい。

 改善プロジェクトを導入した保険会社 C は、品質工

学の専門家を外部招聘(しょうへい)し、自社にシック

スシグマ(注)を導入しようとした。シックスシグマの

上位概念であるマスターブラックベルト(MBB)を有

する外部専門家は、約半年かけて、オペレーション担当

のマネジャークラスの教育を行った。結果、受講者は全

てグリーンベルトを取得し、専門家は保険会社 C のマ

ネジメント層に、「貴社に品質改善の基礎的基盤が備

わった」と報告した。しかしながら、現場の改善が行わ

れたのは取得直後の一部の部署・社員のみで、管下の部

下や同僚に影響を与えることはできず、単年度のコスト

削減の結果だけにとどまった(一部の工数の削減)。

 このような結果になるのはなぜだろうか?

 改善プロジェクトの捉え方が、改善=継続性を持つ活

動と認識されず、一つの時限的プロジェクトとして認識

されたことが想定される。また、学習が個人を対象とし

たものであり、組織への展開ができなかったこともある

だろう。

 しかし、仮に個人学習であったとしても、継続性が備

わっていた場合はどうだろうか。プロジェクトは、外部

専門家の手を離れたとしても、保険会社 C 内において

内製化されて定着した可能性もある(前述の QC 活動化

などのように)。また、個人の継続的な学習は他者に影

響を与え、組織としての学習の導線になる可能性もある

のである。

 それゆえに、改善プロジェクト導入は改善の方法論の

導入ではなく、継続的な改善活動であるとの認識がまず

必要であり、その定着化と発展、言い換えれば、組織と

しての文化の定着を図ったものであるとの位置付けが必

要だといえる。機械的な組織改革ではなく、学習する組

織を目指した組織改革でなければ本来の目的を達成しな

いことが分かる。

 経営学や品質工学において、このような現場の継続的

改善により組織の生産性・効率性が高まること、また現

場力が競争優位の源泉となること(の状態)をオペレー

ショナルエクセレンスと称する。そのため、オペレー

ショナルエクセレンスは、組織の末端までそのオペレー

ションやプロセス、組織の改善を追求しようという考え

方が浸透していることが必要となる。こうした考え方

は、一般には、「現場力」と呼ばれることもある。

 近年では保険会社においてもオペレーショナルエクセ

レンス戦略を取る会社が増えてきている。オペレーショ

ナルエクセレンスは、新商品のローンチや販売チャネル

戦略拡大、また顧客や代理店との直接的なコミュニケー

ションを軸とした施策とは異なり、内部の品質向上、生

産性・効率性の向上による競争優位を見いだす点が特徴

的である。オペレーション生産方法の見直し、新商品の

期間短縮などの生産性・効率性を追求することにより、

【第 2回】

学習する組織が実現するオペレーショナルエクセレンス

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優位性の構築を目指している。

 よく知られているリーン生産方式などはその代表例で

あり、ムリ・ムダ・ムラの無いオペレーションの構築を

文化として醸成するまで昇華しており、その方式を取り

入れた企業はオペレーショナルエクセレンスを達成して

いる企業と見なすことができるだろう。

 ここで再び、外部専門家を招聘した前述の保険会社 C

の例を見てみたい。

 オペレーショナルエクセレンスは、競争優位戦略の一

つで、他社との品質・スピード・コスト側面で差別化を

図ることを主眼とする。そのため、品質工学の方法論を

導入することが多く、シックスシグマは汎用性が高く導

入する企業も多い(一方で、シックスシグマに傾倒しな

い組織も多い)。C 社は学習する組織に対して、シック

スシグマを導入し、継続的な改善の文化を醸成したので

はなく、シックスシグマそのもの(の一部)について組

織学習を行ったと言える。

 オペレーショナルエクセレンスを実現している企業の

多くは、競争優位を維持しているが、それはシックスシ

グマなどの品質工学の方法論を一度学習したことが理由

ではない。競合他社が模倣することができない差別化

(短期間ではたどり着くことができない現場力)を、時

間をかけて醸成することで、オペレーショナルエクセレ

ンスを実現し、持続力のある優位性を保持しているから

だ。

 このことからオペレーショナルエクセレンスを実現し

ている企業は、二つの要素(図2)で成り立っているこ

とが分かる。

 一つは現場力であり、もう一つは品質工学などの方法

論だ。現場力が学習する組織であるならば、品質工学の

方法論を導入することは組織学習であるといえる。しか

し、留意しなければならないことは、組織学習に

よって培われた知識が学習する組織を生み出すわ

けではないということだ。学習する組織とは末端

まで浸透している組織文化そのものであり、知識

習得と同義ではない。ただし、学習する組織は新

しい方法論を学び、取り入れ、活動に応用してい

くことから、学習する組織は組織学習を能動的に

行うのである。

3.オペレーショナルエクセレンスの実現

 あらためて、保険会社がオペレーショナルエクセレン

スを実現するために必要なことは何なのだろうか。

 現在の品質工学では、データやチャートが見える化さ

れ、管理可能なツールとして商品化されている。また、

改善の基準値・目標値を設定することで、効果・効能に

ついて数量的な評価と測定が可能である。それ故にオペ

レーショナルエクセレンスの実現のために、品質工学の

方法論をオペレーションに導入することから始める保険

会社が多い。

 しかし、定量的な方法論による施策は、コスト削減を

中核としたプロジェクトにおいては機械的な組織改革に

近しい取り組みとなり、結果、時限的効果にとどまる

ケースが少なくない。特に保険会社のオペレーション領

域では長い間、「変わらないこと」が安定したプロセス

を実現することを意味していたことからも、働いている

オペレーターが急にシックスシグマを受け入れ、継続的

な活動として取り組んでいく選択をするかは大いに疑問

がある。

 そのため、この方法論を導入しても競争優位を得られ

なければ、それはオペレーショナルエクセレンスの実現

とはいえず、一過性の改善プロジェクトにすぎないこと

になる。

 つまり、オペレーショナルエクセレンスを実現するの

は、変化と新しい取り組みに対して柔軟かつしなやかな

に対応できる個人や組織の「態度」であって、方法論そ

のものではない。個人や組織の態度変容は、学習の場の

供給ではなく、継続的な学習による文化醸成によって成

立する。高い現場力と優位性はこのような取り組みに

よって生み出されるといえる。

図2 オペレーショナルエクセレンスの二つの要素

現場力(学習する組織)

現場力(学習する組織)

品質工学(組織学習)品質工学

(組織学習)

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「学習する組織」による競争優位戦略

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 例示として、オペレーショナルエクセレンスをシック

スシグマのチェンジマネジメントと併せて導入しようと

している保険会社 D の取り組みを紹介したい。

 D 社は以前から、全てのプロジェクトが外部委託会社

任せであった。その一方で、オペレーション部門の中に

外部から知識移転をした教育・研修を用いて意識変革を

実行した(意識改革プロジェクト)。結果、教育・研修

の効果は当初あまり見られなかったが、取り組み始めて

から 2 年目に少しずつ変化が出ている。システム改革プ

ロジェクトにアサインされたメンバーが、改善のための

アイデアを出し、自らがデザインしたいビジネス側の要

件を明確に伝えるようになった。また、現場改善キャン

ペーンも併せて実施すると、オペレーターから 2 週間で

数百件ものアイデアが出てきている。D 社の取り組み

は、社長や広報部も巻き込んで現在も進行中だ。

 本稿においては、学習する組織がオペレーショナルエ

クセレンスに大きな作用を及ぼすことについて論じてき

た。ここでも、意識・態度・文化の重要性について、多

く触れてきた。変化の激しい時代ではあるが、目先の効

果を狙うのではなく、「急がば回れ」の精神で、変化に

柔軟な組織をつくり、現場力を高めることに根気よく、

継続的に取り組んでいくことが必要だといえる。

 (注)1990 年代後半、米国の電子・通信機器メーカー

が自社製品の品質レベルと日本企業の品質の高さの差の

原因を追究する中から体系化された経営品質改革手法。

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「学習する組織」による競争優位戦略

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1.はじめに

 ロボティクスは何を私たちにもたらすのだろうか。あ

る識者は生産性と効率性の新たなる打ち手と表現し、ま

たある科学者は労働の場の搾取であると指摘する。保険

会社がイメージするロボティクスを用いたソリューショ

ンとは、保険事務オペレーションの工場制機械工業化で

あろう。つまり、事務オペレーションの処理プロセスを

労働者に頼るのではなく、その一部もしくは全部の機械

化・自動化を目指すことである。

 確かに機械化は、労働者(人間)が持つヒューマンエ

ラーを回避(もしくは低減)させることで、生産工程の

安定稼働を支え、処理工程そのもののバラつきを収束さ

せる。この機械による労働力は、工数そのものであり、

ヒトの労働代替となり、労働者の業務は失われる。で

は、ヒトは、どのようにロボティクスと向き合っていく

べきなのか。

 本稿では、現在保険会社の多くが最も興味を持つテー

マの一つともいえるロボティクスによるオペレーション

の自動化、いわゆる RPA(Robotics Process Automation)

について論じたい。

2.RPAの応用

 はじめに RPA の技術がどのように応用されるかにつ

いて議論したい。

 保険の事務オペレーションを簡単に表すと、①書類受

付②書類仕訳(事務チェック含む)③書類記載内容の

データ入力④引受査定(環境査定、医務査定など)⑤保

険証券作成・発送―の五つのプロセスに大別できる。

RPA は技術的にこれらの全てのプロセスに応用可能で

あると考えられている。

 ① 書類受付を電子化する

 ② (現物帳票がある場合)書類仕訳は開封後、スキャ

ン(電子化)し自動仕分けさせる(※)

 ③ スキャンされた書類記載内容を自動で読み取る(※)

 ④ ルールエンジン(査定条件)による自動査定を行う

 ⑤ 顧客データを印刷工程へ転送し、証券作成後、発送

(もしくは電子証券をメール配信)

 ※①が実施された場合には不必要な工程

 保険会社の事務企画部門にいる読者は、本件について

は必ず検討しているか、既に一部は実施しているのが通

常であろう。RPA を導入している場合であっても、一

部の例外対応や、現物書類が無くならないことによる労

働者によるプロセスおよびそれらに関わる不備対応が

残ってしまっているのも事実であろう(図3参照)。

 次に、RPA の効果について考えたい。

 保険事務オペレーションは、多くは正社員(インソー

ス)ではなく、派遣契約もしくは業務委託契約によるア

ウトソースによる実務運用が主になっている。また、

データ回線ネットワークによるロケーションフリー化に

より、必ずしも本社内にオペレーション事務を集約させ

る意味もなくなっている。

 つまり、多くの保険会社は、アウトソースによってコ

スト削減を享受しており、そのベネフィットドライバー

は次の通りである。

 ▽ 人件費(インソース)と外部委託費用の差分

 ▽ スペースコスト(本社スペースコスト)削減

 ▽ 前記の事務オペレーション専門業者による生産性向

 RPA の効果を考える際に、必ず議題に上るのがアウ

トソースによるコスト削減効果との比較である。保険

マーケットが縮小する国内においては、RPA へのシス

テム投資をコスト回収出来ない可能性も論じられてい

る。しかしながら、RPA においてはコストにフォーカ

スするのは近視眼的であり、以下のような観点から、そ

の効果はフィナンシャルベネフィットだけでは表せない

と指摘する声もある。

 ▽ RPA はトランザクションボリュームに労働対価が

連動しない

【第 3回】

学習する組織とロボティクスの融合

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「学習する組織」による競争優位戦略

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 ▽ RPA は採用・教育の必要性が無い

 ▽ RPA の多くはメインフレームやインフラ投資のよ

うな大規模開発が必要ない

 このことから、ロボティクスはプロセスの自動化によ

る効果だけでなく、労働者に対して必要な HRM(特に

人事・採用・教育・管理)への工数の大幅削減(その分

システム工数は増加)へ寄与することにより、非生産部

門コスト(中間コスト)の圧縮につながると考えられて

いる。

3.学習組織との関係

 では、競争優位戦略としての学習組織とはどのように

関連付けるのか。

 第 1 回および第 2 回において、競争優位戦略として学

習組織の有用性について論考してきた。その優位性につ

いては疑う余地はないが、RPA の導入は労働者が関与

するプロセスの一部もしくは全部をリプレイスしてしま

うものである。RPA は労働者の働く場を奪ってしまう

だけでなく、組織としての学習効果(機会)を減らすこ

とにつながり、優位性が失われることにはならないだろ

うか。

 ここで考えなければいけないのが、次の 2 点である。

 ① RPA は機械学習を行うためのデータトラックが可

能であること(ヒトの永続記憶に該当)

 ② 組織の枠組みをヒトだけではなく、ヒト+ロボット

で捉えること(組織概念のパラダイムシフト)

 まず、RPA は AI(人工知能)ではなく、自動化の仕

組みを指すが、プロセスがシステム化されていることに

より BPM(Business Process Management)の付加が

容易になり、労働者に対する BPM より非常に容易で正

確になる。ヒトの場合は、労働時間ではなく休憩時間や

ミーティングなどの非稼働時間を差し引いた実質稼働時

間を計算しなければならない。また、そのトラックされ

たデータは永続的記憶となり、例えば AI を導入すれば

永続的記憶による機械学習を実現することができる。

 また、機械学習は「組織としての知」と見なすことが

できることから、学習する組織の枠組みは「ヒト」に加

えて「ロボティクス」もくくることが妥当ではないか。

この場合、組織論としてのパラダイムシフトが起こり、

保険の事務オペレーション組織の工場制機械工業化を加

速する可能性がある。

 では、ロボティクスを含めた学習する組織化から、ヒ

トはどのような役割を期待されるのだろうか。その代表

的なものを列挙したい。

 1.資源再配分

 ▽ 人的資源のリアロケーション(コア業務へ資源の重

点投資)

 ▽ R & D(新商品開発)などへの予算の拡大(商品

戦略への移行)

 ▽ 価格競争力の向上(保険料の引き下げ)

 2.求められる人材

 ▽ 人材の高度専門化(データサイエンティスト、アー

キテクトの必要性)

 ▽ 創造的で革新的な領域へのチャレンジ(クリエー

ティブな人材)

 ▽ 業務の専門家(例外ケースのみを扱う業務領域のス

ペシャリスト)

 3.学習する組織の在り方

 ▽ 即時データ化されるため、ライブ感のある学習サイ

クルの実現

 ▽ 外部委託ではなくインソース(社員とロボティク

ス)による組織体制の刷新(※人材の外部委託化に

よる BPO ベンダとの協業から、ロボティクスの外

部委託化による RPA / AI ベンダとの協業へ変更

することが想定される)

 ▽ ロボティクス・イノベーションによる学習する組織

の加速化(学習ケイパビリティーの拡張性)

図3 外部委託とロボティクスの違い書類受付 書類仕訳 データ入力 引受査定 保険証券作成

外部委託 対応 対応 対応(オフサイト) ― 印刷会社対応

ロボティクス 電子化 不要 不要 自動化 自動化

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「学習する組織」による競争優位戦略

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 ヒトとロボティクスは協業していくが、保険会社で働

くヒト(特にオペレーション領域)は、専門性や創造性

を持ち合わせた領域を、またロボティクスは業務分野を

担当していくと考えられる。また、引受査定における判

断業務においても(これはレギュレーションの制約はあ

ると考えられるが)、技術的には経験に基づく知識(ト

ラックされていくデータ)により、精度の高い判断が即

時になされるだろう(アルゴリズムによるパターン化な

どを想定)。

 ロボティクスがもたらすものは、私たちの働き方への

変化である。これは、製造業における産業革命にも近し

い考え方なのかもしれない。それにより、オペレーショ

ン工程は機械化され、働く人材の再配置が行われる。再

配置された資源は、新しい価値を生み出す専門性を求め

られることにより、組織としての学習環境およびケイパ

ビリティーは向上していく。つまりは、組織改革なの

だ。

 最後に、ロボティクス導入を目指す保険会社に懸念が

あるとすれば、「ロボティクス導入が組織改革である」

と捉えていない点である。仮に機械化・自動化したとし

ても、ヒトに専門性・創造性がなければ学習する組織と

しての融合はなされない。それどころか、機械によって

職場を失った労働者による労働争議につながるかもしれ

ない。もしくは、必要ではない人材を抱えることで、人

件費とシステム開発費用を二重に計上することになるか

もしれない。

 では、どのような組織や人事制度が求められるのであ

ろうか。このジレンマに対応するためには何が必要にな

るのか。第 5 回および最終稿において、さらなる議論を

進めたい。

Page 12: 「学習する組織」による競争優位戦略 - PwC · 2017-03-22 · 出とも言い換えられる。このスキームこそが、学習する 組織が競争優位を生む源泉と考えられる。

「学習する組織」による競争優位戦略

11

 なぜ学習する組織にアナリティクスが欠かせないの

か。第 3 回でも論じたロボティクスに代表されるテクノ

ロジーの進化は、外部環境の脅威や内部環境に求められ

る変化により、日々加速を続けており、保険会社はその

変化への柔軟な対応(しなやかな組織)を求められてい

る。

 しかし、変化への対応において、保険会社自身がその

現状認識を正しく行っていない場合、どういうことが起

きるだろうか。

 保険会社 C は、あるべき姿を模索し続ける会社であ

り、将来像を明確にして日々プロジェクトを通じて「あ

るべき姿」を目指す取り組みを行っている。しかし、売

り上げは一向に上がらず、目先の一時的なコスト削減を

繰り返してしまう。経営者は、現場から上がってくる指

数各種をにらみながら、さらに次の打ち手を考える日々

である。これが、その典型的な事例ではないだろうか。

 主要な問題点として、現状を正しく理解できていな

い、もしくは、現状を正しく反映していないデータや

データ分析方法を用いていることが想定される。変化へ

の対応には、「現状の正しい理解」による「課題の発見」

と「改善点の特定と改善実行」そして、今後生

じ得るであろう「未来の予測」が重要になる

(図4参照)。

 学習する組織に必要なのは、トラックされて

いくデータであるが、統計的もしくは数学的処

理が誤っていた場合には、誤った意思決定を

行ってしまう可能性もある。その意味で、アナ

リティクスとは学習する組織において学習その

ものに影響を与える最も重要な機能であるとい

えるのだ。

 日本の製造業のカイゼン活動による品質向上

が、統計的分析(アナリティクス)をベースに

したものであることを世界に発信したのは、エ

ドワード・デミング博士である。デミング氏は、製造工

程における管理において、統計的な手法が必須であるこ

とを強調していた。

 そもそもこのアナリティクス手法は、生産工程の実態

を把握するものであった。つまり、今どの(品質)水準

で製造プロセスが推移しているかを作業者が理解し、目

標水準以下であった場合には、作業者全員が理解すると

いう手はずである。

 デミング氏のアプローチはそのヒストリカルデータを

統計解析し、その製造ラインの業務処理能力(スピード

やエラー率など)を予測することによって製造工程のマ

ネジメントを実現することであった。これは、かの

PDCA サイクルの原型であり、「現状の正しい理解」に

よる「課題の発見」と「改善点の特定と改善実行」およ

び「未来の予測」を実現しているのである。

1.「現状の正しい理解」の重要性

 現状の正しい理解のための分析には何が必要なのであ

ろうか。保険の事務オペレーションで考えてみたい。

【第 4回】

アナリティクスを活用した学習する組織の構築

図4 アナリティクスを活用した学習する組織へのサイクル

「未来の予測」「未来の予測」「現状の正しい理解」

「現状の正しい理解」

「改善点の特定と改善実行」

「改善点の特定と改善実行」

「課題の発見」「課題の発見」

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「学習する組織」による競争優位戦略

12

 ▽ データは End to End で管理されているか

 ▽ 一部のプロセスを外部委託している場合に、それら

も含め一貫性のあるデータ管理をしているか

 ▽ データが取得できるインフラが整備されているか

 ▽ オペレーションプロセスにおける各種ベンチマーキ

ングは存在しているか

 ▽ ベンチマークを達成できる人員構成およびコンピテ

ンシーは整備されているか

 ▽ データは適切な方法で統計処理され、かつその分析

結果を正しく理解できる人材が配置されているか

 以上のように、現状の正しい理解には、パフォーマン

スデータのカバレッジ、ツール、およびベンチマークに

加え、それらを支える人員構成や解析するための専門性

が要求される。

 一方で、現状を正しく理解できないアナリティクスの

特徴としては以下が挙げられる。

 ▽ 取得できるデータが部分的であり、補足は想定値

(感覚値)を用いている

 ▽ 分析対象および方法が適切ではない

 ▽ 統計分析の知識不足

 これらは、網羅性および一貫性が無いアナリティクス

結果を生じさせるだけでなく、組織設計そのものを誤っ

た方向に導いてしまうリスクがある。特に、学習する組

織を目指した場合には、現状を正しく認識しないことに

より、立ち上げるプロジェクトや施策を打ち間違えるこ

とで、結果の伴わない改善活動を強いるケースもある。

2.「課題発見」に必要なもの

 保険会社に往々にして見られる事例として、分析その

ものよりも、まず正しいデータを取得するための整備

(システム導入やデータの整備加工)に時間を費やし、

企画チームといわれる部門の仕事は、取得したデータを

集計することに追われているケースがある。その結果、

データ・アナリティクスではなくデータ・コレクション

で 1 カ月が終わってしまうことも少なくない。

 保険会社の事務オペレーションの活動をデータで説明

するために、1 カ月の活動結果が前月より良かったのか

悪かったのかという指標が多く散見され、基礎データに

近い数値を眺めながら結果を討議することになる。この

アプローチでは、課題発見には至らず PDCA サイクル

は機能しないだろう。課題発見なき組織は学習する組織

とはいえず、目標無き(もしくは現状の組織を反映して

いない想定目標の設定された)オペレーション活動にい

そしむこととなる。

 課題発見には、正しい分析がタイムリーに行われる必

要があることは自明だ。ロボティクスなどの機械工業化

されたオペレーション導入を学習する組織の「学習」に

取り込むためには、このデータ取得および分析可能な環

境を整えることが非常に重要である。

3.「改善点の特定と改善実行」に対するデータ・アナリティクス

 保険会社における事務オペレーションのカイゼンは、

事務エラーゼロや積み残しを減らすなどのいわゆるス

ローガン的なものであることが多い。このスローガン

は、意識向上には非常に有益であるが、組織体制とそれ

らを支えるシステムインフラが十分なのか過剰なのかは

分からない。また、その目標が到達可能なのか、もしく

は既に到達しているものなのかも分からない。

 結果として、外部委託の際に KPI に基づく SLA

(Service Level Agreement)が外部委託会社による詳細

調査によって定義されたり、もしくは銀行窓販チャネル

のように代理店側から要求された指標をベースにする事

務オペレーションの基準値を設定する場合が少なくな

い。

 データ・アナリティクスが整備された状況であれば、

次のような効果が考えられる。

 ▽ 改善点の目標値が定量的に設定される(ヒストリカ

ルデータを基にした分析結果など)

 ▽ 改善実行による変化予測が可能になる(必要となる

工数およびコストの算出)

 ▽ 改善点および改善効果の予測から、プロジェクトや

施策の評価を事前に行うことが可能になる

 ▽ 効果をファイナンシャルベネフィットに置換ができ

 また、副次的効果として、営業に営業目標があるよう

に、オペレーションチームにもオペレーション改善目標

(アナリティクスによって導き出された達成可能な目標)

を設定することができ、各チームや個人への改善能力の

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「学習する組織」による競争優位戦略

13

評価や報酬制度への適用など、人事・組織の再構築へ寄

与することが可能になる。つまり、学習する組織を支え

る人事・評価モデルへの布石となると考えらえる。

4.アナリティクス活用の「未来の予測」とあるべき姿へ(学習組織化)

 未来の予測が最もしやすいのは、ヒューマンエラーも

システムエラーもない組織と外部環境の変化もない世界

であろうが、実際にはそのようなわけにはいかない。し

かし、ロボティクスを効果的に導入した学習する組織

は、ヒューマンエラーを回避するだけでなく、機械学習

によって精度の高いインプットを可能にし、資源を専門

性・創造性のある人材にリアロケーションすることを可

能にする。

 例えば、オペレーションの変化への順応度が評価・分

析可能な状態であれば、新商品や新チャネルを開発・開

拓した場合のオペレーションエリアの弾力性を組織で共

有することができる。もしくは、その場合に必要なコン

ピテンシー(欠けているピースを工数ではなくコンピテ

ンシー評価可能とする)を把握し、必要な人材の募集要

項へ正しく反映できるだろう(フィットギャップの回

避)。

 冒頭であるべき姿を模索し続ける保険会社 C の例を

取り上げたが、以上の考察との比較により、必要な人材

(もしくはロボティクス・ソリューション)が明確(性

格)でない点をお気付きいただけたのではないだろう

か。アナリティクスの活用は学習する組織の組成の第一

歩にもなり得るものであると同時に、アナリティクスの

ケイパビリティーは、あるべき姿を想像(創造)するこ

とに大きく貢献できるものといえるだろう。

 次回は、ロボティクス(およびアナリティクス)を含

めた学習する組織の在り方について人事・組織論から論

じていきたい。

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「学習する組織」による競争優位戦略

14

1.はじめに

 アウトソーシングやロボティクスの進行による組織の

在り方の変化は、人材育成に影響を及ぼしていく。戦略

性に乏しい外部委託はコスト削減をもたらすものの組織

的な知の損失を招くと指摘する声がある反面、外部委託

を活用するビジネスモデルに切り替えることで、業務と

開発・企画を完全に切り離す経営スタイルも台頭してき

ている。

 今後、ロボティクスの活用が進むにつれ、業務そのも

のの知識よりもプロセス設計やプロセス管理に関するス

キルがより求められることになるかもしれない。必要と

される人材やそのコンピテンシーの変化は、人材育成

(方針やプログラム)に大きな影響を与えると考えられ

る。

 保険会社の人材育成についてはどうだろうか。保険の

資格試験やコンプライアンス研修、もしくは営業教育研

修(新商品研修含む)を除く学習の機会および学習プロ

グラムは、時代の変化に応じて改訂や新規に作成が行わ

れているだろうか。また、保険会社の戦略に基づいた人

材育成は実現できているだろうか。人材育成の多くは個

人のスキル向上に資するトレーニングに偏り、学習する

組織を目指すラーニングではないかもしれない。

 本稿においては、将来の組織に必要な人材育成の実現

に向けたハードルやギャップをジレンマと位置付け、学

習する組織と人材育成のジレンマについて、「従来のト

レーニング」と「学習する組織へのラーニング」との比

較を通じて論じていきたい。

2.従来のトレーニングとは

 従来のトレーニングは、個人の能力開発に資するもの

であり、その効果や成果は個人成果・報酬に結び付くも

のとして考えられてきた。これは成果主義の導入と共

に、生産性・効率性を高めるためのスキル向上を目的に

定着したものであり、工場型の事務オペレーションモデ

ルにも適用可能である。

 例えば、保険事務オペレーション(初期)研修におい

ては、知識面と実務面で以下のようなプログラムが用意

される傾向があるだろう。

 ▽ 知識:保険・オペレーションに関わるものに加え、

業務処理をする際に必要なシステム・ツールの内

容・プログラムなど

 ▽ 実務:業務処理(PC の打鍵や事務書類チェック、

ロジスティクスなど)の研修や OJT によるコーチ

ングなど

 このようなプログラムは、業務ごと・プロセスごとに

暗黙知が形成されるため、知識伝達範囲は部門・組織毎

の細分化・独立した知識となる傾向が強い。また、業務

マニュアルや手順書には無い独自の処理方法を「個人

ノート」のような形で管理するオペレーターも存在し、

生産性・効率性は高まるが知識が属人化する傾向もあ

る。

 原則として、トレーナーが上席であることが多く、ト

レーニングにおいてはヒエラルキー構造が生まれ、上席

(もしくはスーパーバイザーなどの実質的なリーダー)

による支配・統制的な管理によるリーダーシップで運営

される。統制が取れていることにより、日々の業務が安

定する力が高い反面、組織的なしなやかさは失われる傾

向がある(事務オペレーションの硬直性)。

 新商品対応や新しい規制に対応する際などの新しい知

識伝達のコミュニケーションは一方通行(モノローグ)

になり、報告や通達などの形を取ることが多く、ディス

カッションやブレーンストーミングはあまり用いられる

ことがない。そのため、ここでは組織へのロイヤリ

ティーの高い人材が求められ、その人材に対してブレ幅

の生じない、事務オペレーションを実現する人材管理が

求められる。これは、学習そのものが、ブレ幅のある人

材への影響を統制する役割が一部あることを示している

(価値観の一元化)。

【第 5回】

学習する組織と人材育成のジレンマ

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「学習する組織」による競争優位戦略

15

 これは、動機付け理論でいうところの外発的動機付け

に該当する。

3.学習する組織でのラーニングとは

 では、学習する組織へのラーニングはどうであろう

か。

 学習する組織でのラーニングは、組織内文化創造への

取り組みと言える。学習目的は、知識・経験・スキルを

個人成果・報酬に直接結び付けるものではなく、組織的

発展を目的とした共有化にある。そのために暗黙知が属

人化するのではなく、機能やプロセス横断的に知識伝達

されることにより、形式知化を経由することなく組織と

して知識・経験が蓄積される(オペレーショナル・エク

セレンスにおける現場力の向上)。

 また、学習組織構造はフラット型であり、トップダウ

ンではなく有機的なネットワークによって構成される。

そのため、リーダーシップには、学習の場の創造やディ

スカッション、ブレーンストーミングを支援する能力が

求められる(サーバント・リーダーシップ)。

 意思伝達が対話・会話の中から生まれてくることか

ら、学習思考は「ロジック(論理性)」だけでなく、「イ

ンプロビゼーション(即興性)」が求められ、物事や事

象に対して機敏に対応できる状態にあることが、あるべ

き姿として捉えられる。

 学習する組織は「しなやかな組織」の一つの重要な要

件であるが、学習思考が即興的である点もそれを示して

いる。

 スタッフには、オペレーション業務への対応能力だけ

ではなく、創造性が要求され、学習は将来のあるべき姿

を常に検討し続ける作業として位置づけられ

る。価値観としては、多元的なものを受容し、

現場の雰囲気がスタッフを鼓舞していくような

内発的動機付けを要素として持っていることが

望まれる。

4.人材育成へのジレンマ

 人事部や人材開発部が、機能やプロセスが異

なる労働環境下において、実践的な教育・研修

プログラムを提供することは、実際には非常に難しい。

そのため、人材育成は階層別研修や法定研修などの管理

可能なものに偏り、一貫性や連続性のないプログラムと

なる傾向にある。

 学習する組織において、将来のあるべき姿に向けた

(そこで求められるコンピテンシーやスキルセットを定

義した)戦略的学習環境の重要性を説くことは容易だ。

しかし、その実現は前記のように人事部・人材開発部で

は限界があるだろう。

 一方、現場に教育・研修の機能を持たせた場合はどう

だろうか?

 シックスシグマのように、本部主導による部門を巻き

込んだ方法論と文化を醸成させるようなプログラムを導

入することはできるが、部門内で日々の業務の中から生

まれてくる知識・経験の伝達(共有化)には、そのため

のスキームが存在しないという難しさがあるだろう。教

育・研修の管理・運営スキームを持たない現場において

は、本部から部門への権限移譲だけでは目的を達成でき

ないといえる。

 オペレーション本部において、意識改革プロジェクト

などによって現場のメンバーを対象としたディスカッ

ションやブレーンストーミングなどの研修が行われる

が、いまひとつ定着がはかばかしくない理由の一つもこ

の点にある。

 この学習する組織と人材育成ジレンマを解くヒントの

一つは、前述のサーバント・リーダーシップによる場の

創造(提供)にあると考える。

 現場への定着化は投資として考える必要があり、その

果実が実るまで継続するリーダーシップの辛抱強さが大

切になる。

図5 人材育成へのジレンマジレンマ 内容

目的 文化創造ではなく能力開発の一環

研修内容 実践的ではない

研修範囲 管理可能な研修に限られる

研修主体 本部での一括管理

権限移譲 堅守管理機能を持たない

研修の実施効果 定着化しない

研修頻度 単発で一貫性が無い

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「学習する組織」による競争優位戦略

16

 従来のトレーニングの目的は統制が管理しやすいオペ

レーションの実現であり、しなやかに対応できる(オペ

レーショナル・エクセレンス)組織とは大きく価値観が

異なる。オペレーターの仕事に対するパラダイムシフ

ト、すなわち文化創造のためには、文化を創造できるク

リエイティブな人材の育成が必要であり、それは一夜で

成し遂げることができるものではない。

 リーダーシップの断固たる信念の下、「変わるまで続

ける」コミュニケーションが大切であるといえる。

 その意味でサーバント・リーダーシップは、学習する

組織において「オペレーショナル・エクセレンス(現場

力)」を高めるためのリーダーシップの方法論として、

注目していく必要がある。

 次回の最終稿においては、学習する組織を実現するた

めの人材育成において、いかに知識・経験を伝達してい

くのか(方法や場を含め)について、コミュニケーショ

ンの観点から議論を深めていきたい。また、コミュニ

ケーションそのものが「学習」であることを定義し、学

習する組織における意思伝達の在り方について論じた

い。

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「学習する組織」による競争優位戦略

17

1.誰がコミュニケーションするのか

 学習する組織の構築において、コミュニケーション経

路および媒体は重要な要素をなす。コミュニケーション

経路とは、組織内の情報伝達ネットワークを指し、コ

ミュニケーション媒体は会議やメール/ SNS、またチェ

ンジマネジメントや QC 活動のようなアクティビティー

を意味する。言い換えると、コミュニケーション経路

は、部署や部門において情報や知識の伝達(送受信)に

必要なネットワーク網、また、コミュニケーション媒体

とは、情報や知識の伝達(送受信)の手段である。学習

する組織の構築においては、コミュニケーション経路と

媒体を整備するに当たり、社員のアクセシビリティー

(参加のしやすさ)やコンテンツ(内容の質)も十分に

考慮する必要があると言える。

 第 5 回において論じたように、従来のトレーニングは

学習する組織の構築の手段とはならなかった。従来のト

レーニングは、生産性や効率性を高めるためのトップダウ

ンであり、コミュニケーション経路は指示命令系統と変わ

らなかった。言い換えれば、情報・知識の伝達ではなく、

上席からの指示そのものであった。これは、一方通行(モ

ノローグ)なコミュニケーションの典型であろう。

 コミュニケーションの語源をたどると、コミュニケー

ションとは相互理解・相互作用のことを指すと言われ

る。従来型のトレーニングを含めたトップダウンの指

示・伝達が一方通行(モノローグ)であるならば、それ

はコミュニケーションには該当しないと言えるだろう。

それどころか、コミュニケーションというよりは組織統

制であり、自由な発想の抑制につながる可能性を含むも

のである(もちろん、規則・規定などのトピックによっ

ては有効な手段である)。

2.情報の発信者を見てみよう

 ヒエラルキーの構造から言えば、従来は上席(もしく

はガバナンス機能を有する部門)が中心である。まれ

に、パルスサーベイ(意識調査)を実施し、ボトムアッ

プからの情報収集(現場の声の収集)を行うケースもあ

る。しかし、パルスサーベイの多くは経営のメッセージ

が現場に浸透しているかどうかを確認することに使われ

ることが大半だ(発信した指示に対する理解を確認する

目的)。

 一方、学習する組織においては、コミュニケーション

は前述の「モノローグ」に対して「ダイアローグ」であ

る。つまり、情報(知識・経験を含む)伝達(コミュニ

ケーション経路)は、送受信の両方をつなぐネットワー

ク網である必要がある。

 また、コミュニケーションの媒体は、モノローグから

ダイアローグな環境を提供するために、参加のしやすさ

(アクセシビリティー)と内容の質(コンテンツ)に加

え、即興性(インプロ)に富んでいるものが望ましい。

オーガナイザーが上席や管理部門であったとしても、情

報発信者は上席だけではなく、そのコミュニケーション

の場に参加している全員が対象となるだろう。

 学習する組織を構築するために必要な基礎的基盤

(ファンダメンタルズ)の整備とは、このコミュニケー

ション経路と媒体を継続して利用し、保険会社の企業文

化にまで昇華させることを指す。

3.学習する組織における主なコミュニケーション媒体

 学習する組織を支えるコミュニケーション媒体の主な

ものとして、以下の三つが考えられる。

 ① SNS 機能(テキストによるコミュニケーション)

 ②参加型会議(各種会議体)

 ③ コミュニケーションアクティビティー(チェンジ

マネジメント、QC 活動やトレーニングなど)

 まず、SNS 機能。もはやこれを利用していない読者

【第 6回】(最終回)

学習する組織のコミュニケーション媒体

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「学習する組織」による競争優位戦略

18

は存在しないだろう。ただし、業務報告・連絡、もしく

は日常の組織活動の中で積極的に利用しているオペレー

ターはどれだけいるのだろうか(業務外の雑談などは除

く)。

 例えば、顧客と事務オペレーターのコミュニケーショ

ン媒体として、積極的に SNS を導入している保険会社

もある。ただし、保険会社からの情報発信が多く、モノ

ローグに偏重している傾向も否めない。顧客からの

SNS などを含めた問い合わせ手に対し、ダイアローグ

で対応できるコンタクトセンターの将来的な必要性は、

誰しもが予測し得るところだ。ダイレクトセールスやア

フターサービス(保全など)のコンタクトポイントに関

して、SNS の迅速性と即興性、そして利便性を応用し、

そのダイアローグの中からベストプラクティスや失敗例

などをストックし、学習する組織の構築の一助にできな

いだろうか(VOC なども含め)。

 また、オペレーターや上席への連絡・相談は、簡便な

SNS で済ませたい。メリットとして、まずデータ(会

話履歴が残る)が転送・保存可能であり、その後、暗黙

知を形式知化することが可能になる。また、上席が会議

などで離席している場合のタイムロスに関しても、SNS

で即時的にジャッジ・意思決定を仰ぐことができれば、

ある程度軽減できる。その後の会議設定や相談・コーチ

ングに不必要な時間を費やす必要もない。ただし、今後

の上席は、この即時的・連続的な意思決定(判断)能力

をコンピテンシーとして求められることになり、必要な

スキルセットは変わってくると想定される。

 二つ目に、参加型会議の設定は学習する組織において

有効である点を挙げたい。

 会議の形態としてはウェブを通じたものでもいいし、

会議の現場とウェブ参画のミックスでもいい。参加型会

議において重要なことは、情報(個人で育んだ知識・経

験)を自ら発信できる場の創出であり、必ずしもきれい

な資料と印象的なプレゼンテーションを行う場である必

要がない点である。会議にあまりにも多くの準備を費や

す保険会社の企画部門などでは、事前準備事項を基にし

た調整型会議を執り行うことで、事なかれ主義の元凶と

なっている可能性があることを考えると、好対照であ

る。

 即興性に富み、相手の発想を理解しようとする姿勢、

また自ら変わろうとする参加者のチェンジマインド(課

題を持って会議や業務に臨む姿勢)は、学習する組織の

文化を育成する上でも重要な要件の一つである。

 最後に、コミュニケーションアクティビティーについ

て言及したい。

 前述の通り、学習の場としてのコミュニケーションア

クティビティーは、知識創造の場でもある。学習する組

織とは、知識を「学ぶ」だけでなく、学ぶための知識を

「創造」し続けなければいけない。たとえば、「営業によ

る商品企画会議」「現場のオペレーターによる改善改革

提案」「女性による働き方改革」などの取り組みは良い

例である。

 一方、通常業務を持っている社員だけで独自にこのよ

うな会議を開催することは難しいだろう。会社の方向性

および評価が整備されていない限りは(つまりアクティ

ビティーが公式と認められる)、いくら良いアイデアで

あったとしても具現化するのは難しい。

 保険会社 E は、抵抗勢力の多い中、大幅な組織改革

を行った。事務オペレーション部門の役割・責任を変更

し、徹底した外部委託化および自動化を図り、社員には

難易度が高く複雑な業務だけが残った。チェンジ(業務

変革)を実行した企画担当者はマーケットから高い注目

と評価を浴びた。その一方で、難易度が高く複雑な業務

だけを任されるオペレーターにはストレスが募った。

 トップダウンで行われる改革にはコミュニケーション

アクティビティーが無い場合がある。その場合、知識創

造はおろか、意識変革がされないまま業務が改革され

参加型会議参加型会議

SNS機能SNS機能

0202コミュニケーションアクティビティーコミュニケーションアクティビティー

0303

0101

コミュニケーション媒体

コミュニケーション媒体

図6

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「学習する組織」による競争優位戦略

19

る。この保険会社 E の改革はその例とも言え、結果的

には単発で終わり、継続的な改善はされなかった。残っ

た社員が、その後の改革(変化)に対して抵抗するよう

になったからである。

4.最後に

 コミュニケーションはダイアローグである。その経路

は送受信が可能なネットワークでなければならない。そ

の経路を実現させるためには、ファンダメンタルズであ

る媒体を構築する必要がある。しかし、その参加者が問

題意識を持ち、自ら得た知識・経験を発信しなければ、

学習する組織は成立しない。言い換えれば、コミュニ

ケーションとは知の交換の場であり、学習の場であると

言える。そのためには、ファンダメンタルズを構築する

と同時に、そこに参加する社員のチェンジが必要とな

る。

 保険会社が競争優位性を保つことは難しい時代になっ

ている。それ故に、単純なリペアやリプレイスメントで

はなく、実務の中でのアクションラーニングを通じた個

人と組織の能力開発は、優位性の維持・向上の大きなド

ライバーとして期待される。そのドライバーはすなわ

ち、本稿で論じた「学習する組織」である。本拙稿が保

険会社のマネジメントの皆さまの一助となれば幸いであ

る。

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「学習する組織」による競争優位戦略

20 制作 保険毎日新聞社

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