日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買 の...

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日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買 の意識・行動に関する一考察 誌名 誌名 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 ISSN ISSN 13470159 著者 著者 劉, 然 森高, 正博 金, 鍾和 王, 聡 福田, 晋 巻/号 巻/号 69巻1号 掲載ページ 掲載ページ p. 19-29 発行年月 発行年月 2014年2月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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  • 日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察

    誌名誌名 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌

    ISSNISSN 13470159

    著者著者

    劉, 然森高, 正博金, 鍾和王, 聡福田, 晋

    巻/号巻/号 69巻1号

    掲載ページ掲載ページ p. 19-29

    発行年月発行年月 2014年2月

    農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

  • 九大農学芸誌 (Sci.Bull. Fac. Agr., Kyushu Univ.) 第 69巻第 1号 19-29 (2014)

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    日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の

    米購買の意識・行動に関する一考察

    劉 然 1.森高正博2・金 鍾和3

    王 聡1・福田晋2*

    九州大学大学院農学研究院農業資源経済学部門農業資源経済学講座食料流通学研究室

    (2013年10月31日受付, 2012年11月11日受理)

    A Study on the Consumer Awareness and Behavior of Rice Purchasing in

    Singapore as an Export Market of Japanese Rice

    Ran Lru1, Masahiro MORITAKA 2, Jong-hwa KIM3, Cong WANG1 and Susumu FUKUDA 2ホ

    Laboratory of Food Marketing, Division of Agriculture and Resource Economics, Department of Agriculture and Resource Economics, Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka 812-8581, Japan

    はじめに

    1 .日本産米の圏内市場の動向

    現在,日本国内の米市場は縮小傾向にある.食糧管

    理制度のもとでは,米は農家自身の保有米を除いて全

    量を政府が買い取る仕組みであったため,過剰な米は

    政府在庫の増大につながり,その処理により食管赤字

    が生まれた. 1970年にはその解決策として,米の生産

    調整が本格化し,国内の米生産量は 1970年で1268.9

    万トンであったものが, 2010年には847.8万トンまで

    に大きく減少することとなった(表 1).

    1994年には米経済の枠組みを根本的に変える食糧法

    が公布,一部の条項を除き翌1995年に施行され,これ

    に伴い食糧管理法は廃止された.食糧法の導入により,

    これまで規制された米の小売への参入は実質的に自由

    になり,卸売に関しでも参入に必要な要件は緩和され

    た.また新たな米政策改革を受けた 2004年の食糧法の

    改正は,食糧法制定よりも大きな意味を持ち,農家に

    とって米がほかの農産物と全く無差別の商品になった

    ことを意味し,米販売の完全自由化の幕開けとなった

    (福田, 2004).

    圏内の米政策は以上のような経緯をたどったが,次

    に米の消費動向や価格動向を考察する.米の生産調整

    が開始された時期である 1970年から 2010年までの一人

    当たりの年間米消費量を見ると, 1970年には95.1kgで、

    あったが, 2010年には半数近くの59.5kgにまで減少し

    ている(表1).加藤ら (2011) によると,消費量の減

    少の要因としては,高度経済成長による食生活の欧米

    化,減反や生産調整などの農業政策による米価引き上

    げが挙げられる 一方,一人当たり購入価格を見ると,

    上述したように政府は米価を引き上げるために生産調

    整を実施したが,近年の統計データから見れば,わず

    かであるが, 1990年以降下落傾向にある 以上より,

    日本産米の国内市場は縮小傾向にあると言える.

    1九州大学大学院生物資源環境科学府農業資源経済学専攻食料流通学研究室

    2九州大学大学院農学研究院農業資源、経済学部門農業資源経済学講座食料流通学研究室

    3忠南発展研究院

    1 Laboratory of Food Marketing, Department of Agriculture and Resource Economics, Graduate School of

    Bioresource and Bioenvironmental Science, Kyushu University

    2 Laboratory of Food Marketing, Division of Agriculture and Resource Economics, Department of Agriculture

    and Resource Economics, Faculty of Agriculture, Kyushu University

    3 Chungnam Development Research Insti tute * Corresponding author (E-mail: [email protected])

    19

  • 20 ら然翠1

    日本国内における米の生産・消費・価格動向表 1

    域別の輸出量・輸出額も示した日本産米の輸出先は

    近年では台湾,香港が圧倒的に大きく,過半を占めて

    いたが, 2010年からはシンガポールが台頭し香港に次

    いで2位となり,香港,シンガポールの2国で過半を

    占めることになった.藤野 (2012) によれば, 2011

    年は,香港とシンガポール両国が原発事故に伴う米の

    輸入規制を行わなかったこともあって全体の65%を占

    めるに至った.

    このように,シンガポールへの日本産米輸出の急速

    な拡大を指摘できる.農林水産省によると,重点化

    国・地域の中においてシンガポールが既に急成長グ

    ループに位置付けられている.

    1 .研究課題

    上述したとおり,シンガポールは日本産米の輸出市

    場として急拡大しており,極めて重要視されている状

    態にある.よって,以下では,まず第 1に文献資料と,

    様々なデータベースを利用し,シンガポールが日本産

    米の重要な輸出先のーっとなる要因を考察し,日本産

    米のシンガポール市場シェアを拡大するために,シン

    ガポールにおいてのマーケテイング調査の必要性を明

    らかにする.

    また,報告書,先行研究などの文献では,輸出促進

    に向け,輸出先のーっとしてシンガポールの重要性が

    研究課題と方法

    2. 日本産米の輸出の現状

    さて, 2013年4月に農林水産省によって公布された

    「農林水産物・食品輸出促進に向けて(案)Jによると,

    世界の食の市場拡大への対応としては,今後 10年で倍

    増が見込まれる世界の食市場に,日本の農林水産物・

    食品が展開できる環境を整備し,日本の「食文化・食

    産業」の海外展開と日本の農林水産物・食品の輸出促

    進を同時に推進するとしている.その輸出の方向性に

    関しては,食市場の拡大が見込まれる国・地域に輸出

    することにより, 1兆円目標を達成するように,重点

    的に支援する品目及び重点的に開拓する国・地域を設

    定する指針が示された.設定された重点品目の中の一

    品目として米があげられている.日本の農産物輸出額

    は2011年で2652億円であり,加工品を除いて品目別

    に見ると,金額ベースではリンゴ (64億円),牛肉 (34

    億円)が大きく,次いで米(援助米を除き 6億8300万

    円, 2129トン)となっている(藤野, 2012). 表2は

    近年の日本産米の輸出実績を示している その中の輸

    出合計を見ると,日本産米の輸出量,輸出額ともに

    2002年からの 10年間で継続的に増加していることが

    わかる.上述した国内においての縮小傾向と逆の推移

    である.

    ところで,先に言及した輸出の方向性において,米

    のような重点品目の設定のみならず,重点的に開拓す

    る閏・地域が設定された.表2に,近年の主要国・地

    百万円

    2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年

    数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額

    輸出合計 444 216 376 191 408 234 634 320 967 427 940 527 1294 641 1312 545 1898 691 2129 683

    台湾 286 112 201 79 183 77 413 169 593 161 450 175 453 168 333 115 271 95 183 66 香港 78 42 75 42 115 64 99 57 155 74 218 119 341 172 481 206 654 249 779 256

    シンガポール 26 21 33 25 63 45 63 35 63 40 92 48 173 81 185 79 334 126 598 183

    アメリカ 24 18 20 20 6 15 16 25 128 99 41 71 26 49 17 28 39 25 46 24

    中国 。。。1 18 5 。。2 7 72 43 90 52 30 14 96 43 。。

    単位:トン

    日本産米の輸出量・輸出額の推移(全体及び主要国・地域別)表 2

    LqJFrizza量量

    Egz量Baa--量

    資料財務省「貿易統計」より筆者作成註:援助用と推察される数量を除く

  • 日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察 21

    指摘されている.しかし,有利な輸出環境を整備する

    ためのシンガポールにおけるマーケティーグ・リサー

    チを本格的に実施した研究はない. したがって,シン

    ガポールにおける米市場の実態なかんずく米消費者に

    ついての情報はほとんど把握されていないと言える.

    したがって,第2にシンガポールにおいて行った消費

    者アンケート調査に基づき,シンガポールの米消費者

    の購買行動の実態を明らかにする

    2.研究方法・データ

    研究方法に関しては,上述した第l課題にアプロー

    チするために,先行研究と既存資料・二次データを踏

    まえて検討する.第2課題に対しては,調査期間は

    2013年1月17,18日の2日間であり,調査場所はシン

    ガポールに立地する伊勢丹ORCHARD屈のスーパー及

    び J-MARTというスーパーの庖内であり,そこでの米

    消費者アンケート調査の結果から考察する.日本産米

    の消費者をサンプルとして含めるために,いずれの調

    査庖舗も日系スーパーである。対面式のアンケートで,

    伊勢丹スーパーから 247件と J-MARTから 163件,合

    計410件の調査票を回収した収集したデータを計量

    的に分析し,考察を加えた.

    日本産米の輸出拡大に対するシンガポール米市場の重要性

    1 .シンガボール経済の急速な発展

    シンガポール共和国は,マレ一半島の南端,東南ア

    ジア諸国の中心に位置し, 710平方キロの島艇に約500

    万の人口を抱える都市国家であり,経済連携協定

    ASEANとTPPの原加盟国である.公用語は英語,マ

    レ一語,中国語などであるが,ビジネスや行政,高等

    教育の場では英語が共通語として使用されており,欧

    米諸国との関係を深める上でシンガポールの強みと

    なっている.

    経済的にシンガポールはアジアのみならず世界的に

    も高く評価されている. しかし,シンガポールは狭小

    な都市国家であり,国土・資源の少なさは日本以上で

    ある. 1965年にマレーシア連邦から分離独立後,天然

    資源はほとんどなく,すべての食料や水さえも外国か

    らの輸入に依存せざるを得ない環境にある シンガ

    ポール経済で最も着目すべきは,依然として高い海外

    依存度であろうと言われている.例えば,米はシンガ

    ポール居住者の主食であるにもかかわらず,シンガ

    ポール国内で米は生産されていないため,ほぼすべて

    海外からの輸入に依存し,輸入量がおおよそその市場

    規模となる. 2008年の貿易額を見ると,輸出総額が

    3369.7億ドルでGDPの約1.8倍,輸入総額が 3168.8

    億ドルで貿易依存度が約350%と香港と並んで世界

    トップクラスとなっている(高原, 2010). シンガポー

    ル経済は極度の外需依存体質であるが,世界に影響を

    与えるグローパル国家として発展していく条件は様々

    にある 東南アジアの交通の要衝という地理的位置,

    l、イテクに特化した技術・工業力,海運・航空・通信

    における優れたインフラ,高いレベルの教育に裏づけ

    られた優秀な労働力,中国系,マレ一系,インド系な

    どからなる多民族・多文化社会,公用語になっている

    英語,税制から規制緩和まで企業支援にぬかりのない

    効率的政府,かの日本をも凌ぐ犯罪率の低さ,経済成

    表3 東・東南アジア諸国の一人当たり GDPの推移単位 ドル

    1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2011年

    中国 114 178 315 298 360 635 957 1,777 4,515 5,439

    中国香港 963 2,306 5,703 6,562 13,271 23,474 24,932 26,105 31,784 34,161

    日本 2,016 4,628 9,377 11,539 25,388 42,847 37,633 36,172 43,374 46,407

    韓国 284 623 1,719 2,432 6,291 11,892 11,598 17,959 21,063 23,067

    シンガポール 925 2,558 4,989 6,816 12.874 25,006 24,063 29,402 44,704 50,087 ブルネイ 1,623 8,457 29,513 18,233 13,963 16,346 18,351 26,249 31,010 40,301

    インドネシア 82 248 526 569 679 1,109 773 1,258 2,952 3,495

    マレーシア 343 819 1,913 2,138 2,612 4,632 4168 5,499 8,691 9,977 フィリヒ。ン 209 404 764 630 797 1,186 1,048 1,205 2,140 2,370

    タイ 200 365 705 769 1,547 2,833 1,997 2,828 4,934 5,318

    東・東南アジアの一人当たり 209 435 862 961 1,677 2,814 2,556 3,140 5,262 5,987 GDP平均値

    資料国連 iNationalAccounts Main Aggregates DatabaseJより著者作成

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  • 22 翠i

    長によって達せられた高い生活の質などである(阿部,

    2011). このような条件をフルに発揮した上で,シン

    ガポールは国土・資源の不足を克服し,新しい強みを

    作りつつあり,わずか数十年で世界の先進工業国のー

    っとして急成長したまた,アジアのIT先進国家とし

    て, 1997年のアジア金融危機を乗り切った後にも,順

    調な経済発展を続けている(食, 2003). 2009年の国

    際経営開発研究所 (IMD) による「世界競争力ランキ

    ング」で首位を獲得するなど,国際機関やシンクタン

    クなどから高い評価がなされている.

    次に,シンガポール経済のパフォーマンスを考察す

    る.経済発展の実態を説明するために,東アジア及び

    東南アジアに属する 18ヶ国の, 1970年から 2011年ま

    での一人当たり GDPのデータによって検証する.表3

    に示されている 10ヶ国は, 18ヶ国から,東・東南ア

    ジアの一人当たり GDP平均値を基準として,相対的

    に低いレベルに位置している 8ヶ国を除いた後のもの

    である.それによると,アジア諸国の中で,シンガポー

    ルの一人当たり GDPは持続的に増加し, 2010年には

    じめて日本を超え, トップになっている. 2013年,シ

    ンガポールの一人当たり GDPが約56,600ドルで,依

    然としてアジア諸国で最も高い地位にある.

    このように,シンガポール経済の急速な発展を踏ま

    え,シンガポールは十分に魅力的な貿易拠点であると

    言える.それは日本産米の有力な輸出先としての条件

    の一つであると思われる.

    2. シンガポールにおける日本産米の需要拡大志向

    近年,日本産米が海外において人気が出てきた需要

    サイドの背景として,以下の三点が指摘されている.

    ①アジアの経済成長と高所得層の拡大,①日本食レス

    トランの展開,①日本米への高評価である(藤野,

    2010) .シンガポールが日本産米の有望な海外マーケッ

    トの一つであるという点について,上述した三点から

    検証しよう.

    然ら

    まずは,経済の成長と高所得層の拡大である.この

    点については、上述したとおりであり,シンガポール

    居住者の一人当たり GDPが東・東南アジアにおいて

    首位にあり,高所得者が数多く存在している状況は言

    うまでもないことであろう.

    次に,日本食レストランの展開である. 2010年11

    月9日付けのシンガポール地元紙「ストレーツ・タイ

    ムズJは,全人口の約60%が,一週間に少なくとも一度外食をしており,外食に依存する傾向がもっと強く

    なっていると伝えた.一般的に,シンガポールの家庭

    は,自宅で調理して,一家だんらんで食事をすること

    が少ない国だとも言われている (JETROシンガポー

    ル・センター, 2010). また,近年シンガポールでは

    日本食が人気を博しており,日本食の飲食底の数は

    600軒,あるいはそれ以上とも言われている ジャン

    ルは様々で,ホテルなどに立地する高級和食から

    チェーン后,とんかっ,焼き肉,牛井,カレー,お好

    み焼き,沖縄料理,ラーメンなど専門屈も進出してい

    る (JETRO農林水産・食品部, 2012). 日本食の飲食

    庖が普及するに伴い,日本食をメニューとして,取り

    入れている家庭が徐々に増えており, ["手巻き寿司」を

    はじめとした日本食メニューが人気で,自宅で日本食

    の調理をする際には,日本産米を使用する傾向がある.

    最後に,日本産米への高評価に関することである.

    高評価の内容としては,①日本産米に対する「安全JI安心J,①高品質,①美味しさということになっている(藤野, 2010). それらの欲求を満足させた結果として,

    周知の通り,日本産米のCIF価格は相対的に高い.そ

    のため,米輸入国の市場においては,日本産米は常に

    高所得消費者層向けの商品と位置づけられている.表

    4には,東南アジアにおける米輸入主要5ヶ国(イン

    ドネシア,カンボジア,シンガポール, ミャンマー,

    マレーシア)のCIF価格の推移を示している.シンガ

    ポール向け輸入米のCIF価格はそれらの米輸入国間で

    最も高い水準に位置している。 CIF価格が相対的に高

    表4 東南アジア米輸入主要国のCIF価格の推移

    単位:千ドル/トン

    2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

    インドネシア 0.21 0.19 0.20 0.26 0.27 0.29 0.33 0.43 0.44 0.53

    カンボジア 0.13 0.16 0.13 0.17 0.18 0.22 0.29 0.28 0.36 0.82

    シンガポール 0.26 0.24 0.33 0.39 0.41 0.42 0.47 0.79 0.80 0.80

    フィリピン 0.17 0.18 0.19 0.26 0.30 0.30 0.36 0.80 0.59 0.63

    マレーシア 0.27 0.27 0.29 0.28 0.31 0.34 0.39 0.73 0.51 0.54

    資料:F AOST A T iDetailed Trade MatrixJより筆者作成

    先日前hbL量以度成縁結磁思量

    E

  • 日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察 23

    表5 シンガポールにおける米輸入量の主要国別推移

    &ジャポニカ米・インディカ米の凡その市場シェア

    単位 トン

    主にジャポーカ米 主にインディカ米

    オーストラリア 中国 日本 アメリカ ノ口入三口t市場シェア ベトナム インド ミャンマー タイ 合計 市場シェア2001年 4428 1702 80 3490 9700 2.34% 123237 20912 42731 217440 404320 97.66%

    2002年 2268 1659 53 3381 7361 1.58% 66768 124383 62029 205126 458306 98.42%

    2003年 2508 2072 48 3319 7947 2.56% 78739 28777 19907 174505 301928 97.44%

    2004年 2313 832 68 4943 8156 2.96% 49826 37379 912 178886 267003 97.04%

    2005年 2400 644 136 5552 8732 4.05% 17796 26448 1929 160783 206956 95.95%

    2006年 2539 1356 78 4423 8396 3.26% 53064 29164 3578 163143 248949 96.74%

    2007年 2781 1681 93 5412 9967 3.40% 65395 36965 1624 179391 283375 96.60%

    2008年 3085 1731 183 6514 11513 4.39% 26915 23174 2802 197752 250643 95.61 %

    2009年 2252 2837 184 3646 8919 3.53% 33491 42523 3584 164279 243877 96.47%

    2010年 1785 2455 304 5645 10189 3.61 % 73044 42854 2457 153777 272132 96.39%

    資料 F AOST A T iDetailed Trade MatrixJより筆者作成

    い日本産米にとっては,シンガポールは明らかに有望

    な海外マーケットであると言える.

    3 シンガポールにおける日本産米市場拡大のため

    のマーケティング・リサーチの必要性

    (1)インディカ米の高い市場シェア

    米の品種は,日本産米のようなジャポニカ米と,タ

    イ産米のようなインディカ米に大別される シンガ

    ポールにおいては,インディカ米が圧倒的に大きな市

    場シェアを持っている.表5には,主にジャポニカ米

    をシンガポールに輸出しているオーストラリア,アメ

    リカ,日本,中国の4ヶ国,及び,主にインディカ米

    を輸出しているタイ,インド, ミャンマー,ベトナム

    の4ヶ国の米輸出量の推移を示しており,それに基づ

    き, 2種類の米の凡その市場シェアを算出した.ジャ

    ポニカ米の市場シェアは増加しているものの,イン

    ディカ米が依然として9割以上を占めている現状にあ

    る.この現状は,ジャポニカ米の中のーっとしての日

    本産を,シンガポール市場でシェア拡大するためには,

    輸出環境整備の一環として,十分なマーケティング・

    リサーチを実施する必要があるということを示唆して

    いる.

    表6 各国産ジャポニカ米の小売価格単位 :Sドル

    2011年9月 2011年 11月 2012年2月 単位 種類/商品・ブランド名 庖舗名

    日本 48.00 48.00 48.00 5kg 岩手あきたとまち M

    日本 69.80 5kg 魚沼産乙しひかり M

    日本 75.00 5kg 魚沼産こしひかり新米 M

    日本 29.90 2kg 魚沼産こしひかり M

    日本 31.00 2kg 魚沼産こしひかり新米 M

    日本 60.80 65.50 5kg 亀田製菓新潟産こしひかり N/F

    日本 20.90 20.90 20.90 2kg 青森つがるロマン N/F

    日本 61.80 5kg 亀田製菓新潟産こしいぶき N/F

    米国 19.90 18.80 18.80 2.5kg こしひかり M

    米国 10.00 10.00 10.00 2.5kg Kokuho Rice N/F

    ベトナム 15.95 15.95 15.95 5kg こしひかり M

    オーストフリア 7.90 7.90 2.5kg こしひかり N/F

    オーストフリア 12.50 12.50 5kg Calrose Rice N/F

    資料 JETROシンガポール事務所発「シンガポールの農林水産物・食品小売価格 (2012年2月時点)Jより註1:1Sドル=(2011年9月20日)60.23円, (2011年11月21日)59.09円, (2012年2月15日)62.41円(出所シンガポー

    ル通貨金融庁)註2 明治屋 (M),NTUC FairPrice Finestブキ・ティマ庖・ (N/F)

  • 24 翠1

    (2)他国産ジャポニカ米との価格差の存在

    表5に示しているように,シンガポールの米市場に

    おいては,ジャポニカ米の多くはオーストラリア,ア

    メリカなどの日本以外の国から輸入されている.それ

    はジャポニカ米の中にも,他国産と日本産の聞で大き

    な価格格差が存在しているからである.表6は2012年

    2月時点で行われたシンガポールの農林水産物・食品

    小売価格調査によって得られた各国産のジャポニカ米

    商品の小売価格である.日本産の小売価格は,銘柄に

    より幅があるものの, 2キロ 205ドル前後, 5キロ 50

    -755ドルで,販売されている.一方で、,米国産2.5

    キロは日本産の2キロよりも安く,それらは米国産の

    中の高級品種である.米国産の他にもベトナム産,

    オーストラリア産なども販売され,非常に安価なジャ

    ポニカ米が扱われている.日本産米の流通費用のヒア

    リング結果から,シンガポールでの小売価格は, 日本

    の生産者の出荷額の約2.62倍になっている (JETRO

    然ら

    農林水産・食品部, 2012). このような安価な競合財

    の存在は,日本産米のシンガポールにおける市場拡大

    の函難さを示している.そのような状況で,将来のシ

    ンガポール市場に適合する日本産米のマーケテイング

    戦略を策定するためには,シンガポールの米市場なか

    んずく米消費者の購買行動の実態を明らかにしなけれ

    lぎならなL入

    シンガポールにおける

    米消費者の購買行動の実態

    先述したとおり,本研究では,シンガポールにおけ

    る米市場の重要性を理解した上で,米消費者の購買行

    動について考察するために,シンガポールにおいて米

    消費者を対象としたマーケテイング・リサーチを行っ

    た.以下では,その410サンプルを利用し,計量的な

    分析を行い,その結果を考察する.

    表7 回答者の属性

    調査項目 カテゴリー 度数 構成比 無回答 調査項目 カテゴリー 度数 構成比 無回答

    10 -19歳 7 1.8% お米 377 97.4%

    20 -29歳 64 16.4% 主食 その他 10 2.6% 23

    30 -39歳 116 29.7% 合計 387 100.0%

    年齢40 -49歳 134 34.4% 1人 28 6.8%

    50 -59歳 13.3% 20

    2人 70 17.1 % 52

    60 -69歳 14 3.6% 3人 98 23.9%

    70歳以上 3 0.8% 4人 125 30.5% lロb、雪ロt 390 100.0% 5人 51 12.4% 男 59 14.4%

    世帯人数6人 21 5.1 %

    性別 女 7人 8 。

    350 85.6% l 2.0% i口L三ロ十l 409 100.0% 8人 4 1.0%

    ベルギー l 0.2% 9人 2 0.5% 中国 24 5.9% 10人 2 0.5% オランダ l 0.2% 12人 1 0.2% インド 1 0.2% 合計 410 100.0%

    インドネシア 6 1.5% -S $1,500 8 2.2%

    日本 116 28.4% S $1,501- 10 2.8% 韓国 18 4.4% 5 $3,000

    出身国・地域マレーシア 13 3.2%

    2 5 $3,001 - 72 20.2% ニュージーフンド 0.2% S $5,000

    フィリピン 4 1.0% 家庭月収 5 $5,001 - 68 19.0% 53

    シンガポール 212 52.0% S $8,000

    台湾 5 1.2% S $8,001 - 77 21.6% タイ 1 0.2% S $10,000

    イギリス 2 0.5% S $10,000- 122 34.2%

    アメリカ 3 0.7%

    合計 408 100.0% 合計 357 100.0%

    資料 「お米の購入に関する消費者アンケートJ(2013年1月実施)より筆者集計作成ど

    も, t a

    i

  • 日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察 25

    1 .回答者の属性

    本調査の回答者の属性は表7のようになる 分析に

    使われるサンプルは全410件であるが,質問項目ごと

    に無回答のサンプルがあるので,集計結果における構

    成比はそれらの無回答サンプルを除いて計算されてい

    る.年齢に関しては, 30 ~ 39歳が 116人 (29.7%),

    40~49歳が 134人 (34 .4%)で, 60%以上を占めてい

    る.回答者は主に中年層に集中していることがわかる.

    性別は女性が350人 (85.6%) と大宗を占めている.

    周知の通り,シンガポールはアジアの中で最も多民族

    化が進んだ都市であるので,回答者の出身は多様で、,

    日本人が 116人 (28.4%),シンガポール人が212人

    (52.0%),それ以外の国の人が80人 (19.6%) となっ

    ている.主食は米である.回答者の世帯人数の分布を

    見ると, 4人以下に 78.3%が集中しており,少人数家

    庭となっている.家庭の所得は, iS $8,001 ~

    S $10,000J という階級に位置しているのが77人

    (21.6%),最も高い階級 is$10,000 ~ Jが122人(34.2%)であり,最頻値となっている. したがって,

    回答者は,シンガポールの中でも相対的に高所得層に

    偏っていると言える.

    2.米購買の実態

    次に米購買に関する調査項目について考察する.表

    8,表9と表10に示しているように,本調査では以下

    の米矯買に関する調査項目を設定した. i米の購入先の固定の有無J,iよく利用する米購入先(複数選択可)J, i米の産地・ブランドの固定の有無J,iよく購入しているお米の種類Jと「よく購入している米の価格帯」である(表8). さらに, i米の産地・ブランドの固定」に関しては,具体的に固定されている産地あ

    るいはブランドについても回答を得ている(表9). そ

    して, i食昧J,i香りがあるかどうかJ,i価格」などのような米購入時の選択基準について 19項目を設定し

    た(表10).

    まずは「米購入先の固定の有無」について考察する

    過半数の回答者は購入先を固定しているが, 1底舗に

    こだわらず,主に 2,3庖舗に固定している.屈舗類型

    表8 米購入に関する項目の集計結果

    調査項目 カテゴリー 度数 構成比 無効回答i調査項目 カテゴリー 度数 構成比 無効回答

    ほぼ1庖舗 123 30.1 % 固定していない 166 40.5%

    米の購入2~3庖舗 172 42.1 % 米の産地・ 産地図のみ固定 160 39.0%

    先の固定固定してない 114 27.9% 1

    ブ、ランド ブランドのみ固定 16 3.9% 。の有無 その他 。0.0% の固定の 産地国・ブランド 68 16.6%

    有無 どちらも固定

    メロ"三ロiト 409 100.0% 合計 410 100.0%

    米屋 21 3.0% ジャポニカ米精米 236 65.0% ディスカウント・ストア 7 l.0% よく購入し ジャポニカ米玄米 33 9.1 % スーノ~- 296 42.7% ている米の インディカ米精米 85 23.4% 47 デパート内のスーパー 255 36.7% 種類 インディカ米玄米 9 2.5%

    コンビニ 39 5.6% 合計 363 100.0%

    生協 5 0.7% ~ S $3.00 52 13.8%

    通信販売 4 0.6% S $3.01 ~ 4.00 27 7.2%

    農家(グループ)から購入 I 0.1 % S $4.01 ~ 5.00 50 13.3% よく利用

    ウェットマーケット 20 2.9% S $5.01 ~ 6.00 55 14.6% する米購

    直売所 7 1.0% 。 S $6.01 ~ 7.00 30 8.0% 入先(複

    家族・親戚からもらう 8 1.2% S $7.01 ~ 8.00 27 7.2% 数回答) よく購入し

    八百屋 5 0.7% ている米の

    S $8.01 ~ 9.00 30 8.0% 34

    ネット販売 8 1.2% 価格稽

    S $9.01 ~ 10.00 39 10.4%

    団購 3 0.4% S $10.01 ~ 12.00 19 5.1 %

    卸売市場 11 1.6% S $12.01 ~ 15.00 15 4.0%

    その他 4 0.6% S $15.01 ~ 18.00 13 3.5%

    S $18.01 ~ 22.00 11 2.9%

    合計 694 100.0% S $22.01 ~ 8 2.1 % d口b、三口iト 376 100.0%

    資料:rお米の購入に関する消費者アンケートJ(2013年1月実施)より筆者集計作成

  • 26 容1

    別では, J-MARTのようなスーパーが296人 (42.7%)

    と,伊勢丹スーパーのようなデパート内のスーパーが

    255人 (36.7%),よく利用されている.次に, 1よく購入している米の種類」の集計結果を見ると,ジャポ

    ニカ米を選んだ人数は269で, 7割以上になっている.

    これは,調査場所が日系スーパーであることと関わっ

    ており,普通のスーパーと比べ,ジャポニカ米の取扱

    然ら

    量が多く,買い物に来る消費者はジャポニカ米への関

    心度も相対的に高くなるためと考えられる.購入して

    いる米の価格帯について見ると, 1-S $6.00J以下の

    価格帯を選択したのは184人で, 48.9%となっており,

    低価格帯に偏っていることが明らかである.先にシン

    ガポールにおいて日本産米に対して安価な競合財が存

    在していることに触れたが,よく購入されている米が

    表9 米産地・ブランドの固定に関する記入回答の結果

    固定されている産地図・地域 度数 構成比 ; 固定されているブフンド 度数 構成比

    Calrose Rice l オーストラリア 2.4% 12 4.5%

    Kangaroo Calrose Rice 1

    中国 1 0.4% 牡丹 1 1.2%

    亀田製菓新潟産こしひかり 1 t みつひかり l E E 北海道産ななつぼし 2 B

    ' 亀田製菓新潟産ごしいぶき l B E 北海道産ゆめぴりか 3 B

    ' むせん米新潟産こしひかり 1 ' B 岩手あきたこまち l '

    日本 120 44.9% 岩手ひとめぼれ 1 28.0%

    ' 秋田県産あきた乙まち 5 ' 目 新潟産こしひかり 2 目

    ' 丹波産有機あいがも米 1 目目 徳島産こしひかり 1 ' 目 日本米 1 目

    ' 宮城県産つや姫 1 ' ' 八重原米 1 E

    ' Brown Rice Mix l : Golden Eagle Thai Jasmine Rice l

    Flying Man Fragrant Rice 1

    Golden Phoenix Jasmine rice 2

    タイ 88 33.0% SongHe Brown Rice l 40.2%

    Songhe Noble Pine Crane 1

    ROY AL UMBRELLA 16

    SONG HE 8

    Golden Phoenix Jasmine rice 2

    乙しひかり 19

    アメリカ 23 8.6% Kokuho Rice

    OKOME ShortGrain Rice

    1

    2 28.0%

    Uncle Ben's Rice 1

    イギリス 1 0.4% インドネシア 1 0.4% E

    韓国 10 3.7% B E マレーシア 2 0.7% ' 自

    台湾 5 1.9% . ' ベトナム 2 0.7% ' . インド 2 0.7% . ' メロ泳三ロt 267 100.0% Jロ泳三ロiト 82 100.0%

    資料 「お米の購入に関する消費者アンケートJ(2013年1月実施)より筆者集計作成

  • ーーに

    F

    M

    Uい川山

    MhfL山υKH尚院隣同院指麟磁値圏EE

    日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察 27

    低価格帯に偏っている結果は,回答者の中にはジャポ

    ニカ米に固定している人数が多いものの, 日本産以外

    のジャポニカ米にこだわる消費者もある程度存在して

    いることを示唆していると考えられる.

    次に, r米の産地・ブランドの固定」に関する項目について考察する.表8において,産地・ブランドの

    固定がある人数は「固定していなLリと回答した 166

    人 (40.5%) を除いた後の244人で,約6割である.

    表9には,固定されている産地とブランドについて整

    理した.固定されている産地の内訳をみると,イン

    ディカ米の代表的生産国であるタイ米が33.0%を占め

    ている.最高値の日本産は44.9%を占めている.アメ

    リカとオーストラリアもある程度みられた 一方で,

    固定されているブランドについて見ると,タイ産米の

    ブランドが最も多く, 40.2%を占めている.日本産米

    について見ると,非常に多くのブランドが選択された

    が,アメリカ産のブランドと同じ, 28.0%を占めてい

    る. 日本産米は確実に一部の消費者が購入している.

    しかし,インディカ米の市場シェアが圧倒的に大きく,

    さらにアメリカ産,オーストラリア産の安価なジャポ

    ニカ米が存在しているシンガポールの米市場において

    は,日本産米のブランドは未だ大きなシェアを占めて

    いない現状が確認できたタイ産米 rROYAL

    UMBRELLAJ及びアメリカ産米「こしひかりjと比

    べると, 日本産米の多くのブランドの中でそこまで高

    い購買量シェアを持つのは一つもない.よって,シン

    ガポールの米市場において,日本産米は現在,導入期

    にあると言える.

    次に,米購入時の選択基準に関する調査結果につい

    て考察する.ここではシンガポールに収集した410の

    全サンプルを使用しておらず, 389の有効サンプルの

    み使用している.米購入時にそれぞれの選択基準を重

    視する程度を 5段階 (5.非常に重視する, 4.重視する,

    3. 気にするが重視しない, 2. 気にしない,l.全く

    気にしなL冶)で測定した結果を表10に示している.そ

    の19の選択基準について評価得点の平均値と標準偏差

    を計算し,平均値の降順で示している.

    表 10からは, r食味J,r香りがあるかどうかJ,r産

    表 10 米購入時の選択基準に関する集計結果

    (シンガポール及び日本福岡都市圏の場合の比較)

    2013年 シンガポールにおける 2005年 日本福岡都市圏における米消費者アンケート調査の結果 米消費者アンケート調査の結果

    選択基準 平均値 標準偏差 選択基準 平均値 標準偏差

    食味 4.35 0.659 産年 4.00 0.918

    香りがあるかどうか 3.81 1.051 精米年月日 3.92 1.000

    産地国 3.80 0.918 価格 3.77 0.765

    長粒か短粒か 3.71 0.990 単ーかブレンドか 3.72 1.026

    インディカ米かジャポニカ米か 3.67 0.981 購入先への信頼 3.51 1.071

    価格 3.56 0.822 評判 3.33 0.956

    購入先への信頼 3.48 0.943 産地 3.29 0.864

    メーカーへの信頼 3.47 1.097 品種 3.29 0.874

    商品名 3.38 0.879 食味 3.29 1.096

    新米かどうか 3.31 1.055 商品名 3.21 0.871

    精米年月日 3.22 1.080 特別栽培米や有機米 3.14 1.045

    一袋の重量 3.20 0.906 栽培履歴が分かる 2.79 1.043

    評判 3.08 1.038 袋重量 2.63 1.098

    認証 3.03 1.093 無洗米である 2.42 1.316

    広告宣伝 2.70 0.946 広告宣伝 2.24 0.865

    無洗米かどうか 2.61 1.113 袋に記載の宣伝文句 2.17 0.911

    配達してくれる 2.46 1.208 配達してくれる 2.09 1.175

    米袋デザイン 2.40 0.893 米袋デザイン 1.83 0.804

    袋に載せている宣伝 2.31 0.859

    資料:Iシンガポールにおけるお米の購入に関する消費者アンケートJ(2013年1月実施)及び「福岡市,北九州市,久留米市の3都市における家庭用消費米に関する消費者アンケートJ(2005年3月下旬-4月上旬実施)より筆者作成

  • 28 ~ll

    地図」など美味しさに関わる基準が米の購入時に重視

    されている傾向が明らかである.また, I長粒か短粒かj

    と「インディカ米かジャポニカ米かjのような品種関

    係の基準に対しては比較的重視される傾向がある. I価

    格」の評価得点の平均は3.56で,一般的に気にされて

    いるようである. I購入先への信頼J,Iメーカーへの信頼J,I評判」のような信頼性関係の基準,及び「新米かどうかJ,I精米年月日」のような鮮度関係の基準ともに気にされるが重視されていない傾向であった.

    平均値3.00以下の選択基準については,米購入時に気

    にされていないと考えられている.しかし,単に評価

    得点の高低から判断し,以上のような結論を出すこと

    はあまり厳密で、はない.

    また,表 10には2005年4月に福岡県産米マーケティ

    ング研究会において企画され,行われた福岡都市圏の

    3市(福岡市,北九州市,久留米市)における米消費

    者アンケート調査の中での, 日本人消費者の米購入時

    の選択基準に関する調査結果も,示している.中に含

    まれている選択基準の項目は少々違っているが,非常

    に類似した調査である.シンガポールにおいての調査

    結果と比べると, I産年JI精米年月日」のような鮮度関係の基準,及び「価格Jがシンガポールの状況と異なり,非常に重要視されている. I産地J,I品種J,I食味」がともに平均値3.29で,気にされているが,シン

    ガポールにおいての少なくとも 3.60以上の得点と比較

    すると,重視の程度が明確に低い.I購入先への信頼性j

    「評判jの得点があまり高くないで,これはシンガポー

    ルの場合と似ている.それに,シンガポールと同様,

    日本も, I無洗米かどうかJ,I配達してくれるJ,I広告宣伝」などのような付加価値あるいは個別情報関係

    は 3.00以下の基準となっている

    お わ り

    本論文では,日本産米についての国内市場が縮小傾

    向にある一方,海外輸出拡大を目指していることを背

    景に,日本産米の重要な輪出先のーっと思われるシン

    ガポールを対象に課題を提出し,日本産米の輸出拡大

    を達成するために,シンガポールにおける米市場の開

    拓は非常に大切であることを,シンガポール自身がそ

    もそも魅力的な貿易拠点であること,シンガポールに

    おける日本産米の需要拡大志向の存在,という 2つの

    側面から明らかにした.そして,シンガポールの米市

    然 ら

    場を対象とし,マーケティング・リサーチを行う必要

    性についても,論証した.その上で,マーケテイング・

    リサーチに基づき,シンガポールにおける米消費者の

    購買行動の実態を考察し,シンガポールの米消費者の

    プロフィール像及び米購入の実態を把握した.

    以上の研究結果を踏まえ,次のような残された課題

    がある.まずは,上述した米購入時の選択基準の多く

    は,消費者個々の米に対する欲求1)のあらわれである

    と捉えることができる.これをさらに深く掘り下げて,

    米消費者のニーズ2)がどのようなものであるか明らか

    にすることが重要である.また,主にジャポニカ米を

    購入する消費者層と,主にインディカ米を購入する消

    費者層の購買行動やニーズの差異,あるいは,主に日

    本産を購入する消費者層と,競合ジャポニカ米を購入

    する消費者層での差異についても明らかにする必要が

    ある.これらの課題を明らかにすることができれば,

    シンガポールに適合するマーケティング輸出戦略の策

    定に対しては重大な意義がある.

    要 約

    近年,日本産米の国内市場が縮小しつつある一方で、,

    日本産米の海外への輸出が増加傾向で推移している.

    政府は米の輸出に力を入れており,国別の特性・状況

    に応じた明確な戦略に基づく最適なマーケティング体

    制・手法の構築を通した海外市場でのシェア拡大を目

    指している.シンガポールは重要な輸出先市場のーっ

    と考えられているが,その存立基盤がどこにあるかに

    ついての詳しい検討は少ない.そして,シンガポール

    におけるマーケテイング・リサーチに基づき,米消費

    者の購買行動の実態を明らかにする先行研究も多くな

    い.そのため,本論文ではそれらの課題に狙いを定め

    て論述を展開していく.

    キーワード:米消費者,マーケテイング・リサーチ,

    日本産米,シンガポール,輸出

    文 献

    Tsorng-Chyi Hwang 2001 Rice import competition

    and demand allocation in Hong Kong and

    Singapore. In “Food Security in Asia Economics and Policies", ed.by Wen S.Chern,Colin Andre

    Carter,Shun-yi Shei, Edward Elgar Pub, pp.163-

    178

    1) I欲求Jとは,人のニーズが具体化したもので,文化や個人な性格によって異なる(月谷異紀訳・ PhilipKotler . Gary Armstrong, 2001).

    2) Iニーズ」とは欠乏を感じている状態である(月谷虞紀訳・ PhilipKotler . Gary Armstrong, 2001).

  • 日本産米の輸出市場としてのシンガポール消費者の米購買の意識・行動に関する一考察 29

    Thomas Hertel,Terrie Walmsley,Ken ltakura 2001

    Dynamic Effects of the “New Age" Free Trade Agreement between Japan and Singapore". GTAP

    Working Papers

    月谷填紀訳 2001 Philip Kotler, Gary Armstrong : コトラーのマーケティング入門(第4版) 株式会社ピアソン・エデュケーション,東京, 7頁

    福田 晋 2004 新たな米政策と九州における米販売

    戦略.農業市場研究, 13 (2) : 35-44

    福岡県水田農業推 進 協 議 会 ・ JA福 岡 中 央

    会 2006 福岡県産米マーケティング・リサーチ

    報告書:福岡県産米マーケティング・マネジメン

    トによる販売戦略

    藤野信之 2010 米輸出の動向と展望.農林金融,

    2010年 12月:44-57 藤野信之 2012 日本産米を恒常的に購入する富絡層

    の増加が鍵を握る一直近におけるコメ輸出の実態

    一.農業経営者, 2012年6月号〈特集): 26-28 磯島昭代 1998 米購入時の選択基準と消費者像一消

    費者意識調査による分析ー農業経営研究, 1998

    年度:22-32

    木南苅苅・古浮慎一・木南章 2009 中国における

    消費者の日本産米の購買行動. 日本農業経済学会

    論文集, 2009年度・ 279-286

    加藤久和研究会 2011 民間販売会社の参入とコメの

    輸出の促進. ISFJ政策フォーラム 2011発表論文

    農林水産省 2008 日本産米の輸出状況について

    農林水産省総合食糧局 2008 日本産精米の輸出につ

    いて

    日本貿易振興機構 (JETRO) シンガポール・センター

    2010 市場・トレンド情報:拡大する日本産米市

    場一本物志向が需要を高める. 2010年 12月

    日本貿易振興機構 (JETRO)農林水産・食品部 2012

    年度主要国・地域における流通構造調査=コメ編

    = 2012年12月農林水産省 2013 農林水産物・食品の輸出促進に向

    けて(案)

    阿部一明 2011 東アジアのグローパル都市:シンガ

    ポールと香港.東邦学誌, 40 (1) : 1-17

    高原俊之 2010 シンガポールの経済発展と経済政策

    -FDIのインパクトと受入促進策を中心に一.京

    都大学公共政策大学院修了生リサーチペーパー

    集, 2010年度:39-46

    両社 ~肉強 2003 シンガポールの経済発展と人的資源開発に関する一考察産業総合研究, 11: 43-58

    Summary

    In recent years, the domestic market of Japanese Rice is in areduction tendency, while its export is

    expanding year by year. The government of Japan is putting its back into the rice export to increase the

    share of the market abroad. Therefore the optimum marketing strategy based on the condition of each

    rice export destination country is extremely expected. Singapore, as one of these destination countries,

    is commonly accepted, but so far how and where should we detect its significance as a rice import coun-

    try especially in Asia has not been expounded clearly yet. And through reading the documentary records

    before, it is found that the circumstances of consumer behavior of rice purchasing in Singapore has ei-

    ther not been clari五edaccording to a real marketing research. Consequently, in this paper, these two

    tasks are going to be made clear.

    Key words: export, Japanese Rice, marketing research, rice consumer, Singapore