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「企業の独占禁止法コンプライアンス強化に向けた日米欧における競争法違反発覚後の実務調査」報告書(概要)
令和元年7月
経済産業省
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はじめに ~なぜ競争法違反疑いの判明時に備えた準備が重要か~
日本企業であっても、米国やEUなどの海外競争法違反の調査対象となりえ、米国・EUでは特に厳しい制裁が科され得る(下記図)。
万一、自社(グループ会社含む)に競争法違反の疑いが生じた場合、企業関係者(役員・法務担当者等)の初動対応の如何によって、企業価値毀損の有無・程度が左右され得る。
企業関係者においては、競争法違反の疑義が生じた場合に備えて、当局調査への対応、弁護士の選定・相談、社内での調査・調整等を迅速かつ適切に行うために、事前に、米・EUの競争法上の手続や運用、一般的に考えられる対応の全体像を理解し、必要な準備をしておくことが重要。
米国当局から高額な罰金(左図)、EU当局から高額な制裁金(右図)を受けた日本企業上位5社
【出典】反トラスト局公表資料(https://www.justice.gov/atr/sherman-act-violations-yielding-corporate-fine-10-million-or-more)を基に作成
【出典】公正取引委員会「日米欧における競争法違反事件の処理状況等」(2018年3月末現在)を参考に作成。制裁金額は決定当初額。
対象商品・役務 対象事業者罰金額
(百万米$)
1 自動車部品(2012FY) 矢崎総業 470
2自動車用防振ゴム製品
(2014FY)ブリジストン 425
3自動車用ワイヤーハーネス等(2012FY)
古河電工 200
4自動車用ワイヤーハーネス等(2012FY)
日立オートモーティブシステムズ
195
5自動車用ワイヤーハーネス等(2012FY)
三菱電機 190
対象商品・役務 対象事業者制裁金額
(百万ユーロ)
1 TV用ブラウン管(2012FY) パナソニック 252
2 自動車用ベアリング(2014FY) NTN 201
3ファスナー・取付金具
(2007FY)YKK 150
4ゲーム機・ゲームソフト
(2002FY)任天堂 149
5 自動車海上輸送(2018FY) 日本郵船 141
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米国:反トラスト法(antitrust law)
米国で一言に競争法(反トラスト法)といっても、シャーマン法、連邦取引委員会(FTC)法、クレイトン法(ロビンソン・パットマン法)とあり、所掌も異なる。
本調査では日本企業でも制裁事例の多い、シャーマン法で規定する「ハードコアカルテル規制」を中心に解説する。
シャーマン法(所管:米国司法省反トラスト局) 第1条: 競争を減殺させる合意の禁止 第2条: 競争を減殺させる単独の企業による独占化行為の禁止
連邦取引委員会(FTC)法(所管:米国連邦取引委員会) 不公正な競争方法を一般的に禁止
クレイトン法(ロビンソン・パットマン法)(米国司法省反トラスト局) 価格差別(顧客がその競争事業者よりも効率的に競争できるような価格の設定)等の禁止
ハードコアカルテル規制(価格カルテル等)
<参考①:法体系の枠組>
<参考②:反トラスト法の執行機関>
米国司法省反トラスト局(Department of Justice, Antitrust Division)
シャーマン法及びクレイトン法違反事案を調査及び訴追(刑事・民事)する権限を有する。ハードコアカルテルを刑事訴追する執行方針をとる。
⇒ハードコアカルテルを規制するシャーマン法は反トラスト局のみが執行権限を持つ。
米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission)
ハードコアカルテル以外の反トラスト法違反を調査する権限等を有する。
⇒刑事訴追すべきハードコアカルテルの違反事実を察知した場合は反トラスト局に送付する
※上記に加え、州司法長官や一般市民が、反トラスト法違反による被害を根拠として、民事損害賠償請求を提起することができる。
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米国:ハードコアカルテルによる制裁
刑事罰
個人:100万ドル以下の罰金若しくは10年以下の禁錮刑又はその併科
➡ 米国では、実際に反トラスト法により実刑が科される事案があり、日本人も収監された例が
多く存在する。実刑の対象となった個人の平均収監月数は、2012~2014年度で25か月
程度、2015~2017年度で10か月程度。
法人:違反行為ごとに1億米ドル以下の罰金
なお、罰金額は、違反行為による総利得額の2倍又は被害を与えた総損失額の2倍まで引き上げられることがある。
民事罰
集団訴訟(クラスアクション)等による三倍額損害賠償請求など
その他
証拠隠滅や司法妨害に対する厳格な制裁
冒頭で、反トラスト法違反による高額な罰金が科された例を示したが、法令では以下のような制裁措置が規定されている。
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米国:競争法違反時の刑事手続きの流れ
司法省による刑事手続きの流れは以下のような流れで進む。
各段階での注意点等を抑えておくべきであり、ここでは重要ポイントに絞って解説する。
①立入調査
and/or ②サピーナ③刑事調査 ④起訴
司法取引の合意による解決【随時】
FBIの捜査官が捜索令状を執行し、通常は朝6時~夜10時までに実施される。
企業は平時から立入調査に備え調査対応担当者を決めておき、実際に立入調査を受けた際には可及的速やかに競争法に詳しい弁護士に対応を相談すべき。(可能な範囲で同席を依頼。)
捜査官が、文書を閲覧・押収しようとする場合、被疑事業者は、弁護士依頼者間秘匿特権(後述)により、当該文書の閲覧又は押収を防げるかどうかを確認する。※1
捜査官が、立入調査に立ち会っている役職員等に、任意でインタビューをすることがある。任意のため、回答義務はないが、被疑事業者にとってもメリットとなる質問もあるので、内容は要精査。
証拠隠滅や調査妨害には厳格な制裁が科され得る※2ので、役職員等が、不注意にでも疑われる行為をしないよう、社内で周知徹底すること。
① 立入調査
※1 それにも拘わらず捜査官が当該文書を押収する場合には、他の文書と区別して封筒等に入れ、封がなされることを確認する。※2 司法妨害罪の制裁は、法人:50万米ドル以下の罰金、個人:20年以下の禁錮(なお、カルテルでは10年以下の禁錮)や罰金
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米国:競争法違反時の刑事手続きの流れ
立入調査の有無に拘わらず、被疑事業者に対し、サピーナ(subpoena)と呼ばれる文書提出命令が出されるのが一般的。
被疑事業者は、サピーナを受領したら、直ちに弁護士に相談のうえ、関係する役職員等に文書保存通知を行い、必要な文書等の保存を行う。
通常、米国外で保存されている文書に提出義務はないが、破棄した場合には司法妨害罪となり得る
ため注意が必要。
②サピーナ(Subpoena、文書提出命令)
FBI捜査官連邦政府執行官
米国内の名宛人の事業所
事業所に持参する方法が一般的
SUBPOENA TO TESTIFY BEFOREA GRAND JURY
サピーナで求められる文書・情報の一例
被疑事業者の資本関係・組織図、対象製品にかかる経営方針・営業責任者・価格決定方法、対象製品にかかる売上高・見積書・契約書・価格表、同業他社とのコミュニケーション、被疑事業者の決算書・事業計画・税務申告書・文書管理方針・・・・etc
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米国:競争法違反時の刑事手続きの流れ
③刑事調査
■当局による事情聴取 司法省反トラスト局等の職員が、関係者の事情聴取を行い、供述報告書を作成することがある。
事前予告の有無はケースによって異なり、事情聴取には弁護士の立会いが可能。
■起訴前に行う反トラスト局とのやり取り 反トラスト局は、一定程度捜査が進んだ段階で、被疑事実のキーパーソンと考えられる役職員を
特定し、企業側弁護士に伝えることが一般的。この際、司法省が企業側弁護士に対し、一定のキーパーソンについては企業との利益相反があることを理由に、独自の弁護士をつけるよう示唆することがある。
反トラスト局は、適宜、企業側弁護士に対し、司法取引の交渉を行う意図があるかどうかの打診を行うことが一般的。
④起訴
米国では、検察官が起訴する権限を有する日本とは異なり、一般市民で構成される大陪審が起訴する権限を有している。
反トラスト局は、起訴後も、被疑事業者の弁護士に対し、適宜、司法取引の交渉を行う余地があるかの打診をしてくることが一般的。
米国:競争法違反時の刑事手続きの流れ(参考)
日本企業が証拠隠滅等により司法妨害罪に問われた事案
CASE 内 容 結 果
A社
A社の幹部Xは、カルテルの共謀者の事務所に立入調査がなされていることを知った後、部下らに対し、米国及び日本において違反行為に関連する文書及び電子データを隠匿及び隠滅するよう指示。
その後、同社の別の幹部2名も日本にある文書及び電子データを隠匿及び隠滅するよう指示。
1億3,500万$の罰金(司法取引)
幹部を起訴
B社 B社の幹部Yは、FBIがB社の米国子会社の立入調査を行ったこと
を知り、大量の電子メールおよび電子データを隠滅。
Yに対し、1年1か月の実刑(司法取引)
C社
C社の幹部Zは、FBIがC社の米国子会社の立入調査を行ったことを知った後、従業員に対し、米国その他の場所に存在する競争法違反の証拠となり得る電子データ及びハードコピー文書を隠滅するよう指示。
その結果、隠滅された電子データ及びハードコピー文書の一部について、復元することが不可能なものとなった。
1,770万$の罰金(司法取引)
幹部を起訴
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刑事秘匿特権が認められるための要件:
① コミュニケーションであること
② 特権対象者間(弁護士と依頼者間など)でなされるものであること
③ 秘密であること
④ 法的助言を求める目的であること
弁護士と依頼者との間の通信について、一定の要件を充足する場合、当局を含む第三者に開示する必要はないという依頼者の権利。(Attorney-Client Privilege)
当局の立入調査を受けた場合に、直ちに秘匿特権により保護されるべき文書であることが主張できるよう、予め他の文書から区別して保管することが望ましい。
立入調査への備え:
• メールの題名や文書の頭に「Privileged & Confidential」と記載するなど、当該文書自体から秘匿特権の対象となり得ることを明記。
• 企業が秘匿特権の対象と考える文書を、ハードコピー文書であれば一つのキャビネットに保管し、電子データであれば特定のフォルダーに保存するなどして、他の文書から区別して保管。
※ 不合理に秘匿特権による保護を主張すると制裁の対象となり得るので、必ず専門家と相談すること。
米国:競争法違反時に留意すべき事項(弁護士依頼者間秘匿特権)
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米国:競争法違反時に留意すべき事項(リニエンシー、司法取引)
リニエンシー及び司法取引は、いずれも一定の違反行為を認めることを前提に、訴追免除や刑罰の減軽がされる制度。
一定の違反行為を認めること等を前提に、刑事訴追が免除される制度(アムネスティとも呼ばれる)。
米国のリニエンシーは、第1番目の申請者のみ※。第2番目の申請者以降は、司法取引の合意により、罰金の減額等の恩恵を享受できる。
リニエンシー申請者は、積極的かつ継続的に反トラスト局の調査に協力する義務がある。
リニエンシーは違反行為の自認が前提。違反行為により被害を受けたとする私人による集団訴訟(クラスアクション)において、リニエンシー申請者は、かかる違反行為の存在を争うことはできない。
リニエンシー
刑事手続における当局との和解手続。被疑事業者が一定の違反行為を自認することを条件に、反トラスト局は、そうでない場合と比較して軽い刑罰(罰金額の軽減等)による求刑を行う。
陪審裁判等による膨大な手間と費用等を回避するために、多くの案件が司法取引によって解決される。
司法取引は、起訴前及び起訴後のいずれでも可能。
どのタイミングで司法取引を行うべきかは事案次第。極めて専門的な判断であり、当局との巧みな交渉が必須。同分野で経験豊富な弁護士に相談することを推奨。
司法取引
※ 日本は申請順位に応じて課徴金が減免され、順位により減免率が変動する。
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欧州(EU):EU競争法
EU競争法は、主に欧州連合の機能に関する条約(EU機能条約)第101条、第102条等で定められている。
本調査では米国同様、日本企業でも制裁事例の多い、同条約第101条※で規定する「ハードコアカルテル規制」を中心に解説する。
○EU機能条約第101条
加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ、域内市場の競争の機能を妨害し、制限し、若しくは歪曲する目的を有し、又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定、事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって、特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは、域内市場と両立しないものとし、禁止する。
a 直接又は間接に,購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を決定すること
b 生産,販売,技術開発又は投資を制限し又は統制すること
C 市場又は供給源を割り当てること
d 取引の相手方に対し,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
e 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること
※ EU機能条約第101条では、価格カルテルや市場分割カルテル等のハードコアカルテルを禁止している。
<参考:EU競争法の執行機関>
欧州委員会 各加盟国の競争当局
欧州委員会が特定の案件について調査を行う旨の決定を行うと、加盟国の競争当局は当該案件については執行を行わない。
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欧州(EU):制裁等の措置
冒頭で、EU競争法違反による高額な制裁が科された例を示したが、欧州委員会は法令において、以下のような制裁措置を規定している。
排除措置命令
制裁金賦課命令
被疑事業者の直近事業年度における総売上高10%を上限に制裁金を課すことができる。
実務上は、被疑事業者の直近事業年度の関連売上高の30%以下×継続年数+エントリー・フィー※(関連売上高の15%~25%)に、増減要素(たとえば、再度の違反による増額、効果的な審査協力に対する減額)を加味した金額を算出する。
なお、「事業者」とは当該違反行為をした法人が所属するグループ全体であり、制裁金が莫大なものとなり得る。
履行強制金
親会社の責任
EU競争法のもとでは、親会社が子会社に対して「決定的な影響力」(decisive influence)を行使していた場合には、子会社の行為についても責任を負う場合がある。
日本企業(親会社)は、自身が違反行為を行わない場合であっても、EU競争法に違反する行為を行った子会社の責任を負う場合があることに留意する必要あり。
※エントリー・フィー:違反行為の継続年数に関わらず(違反行為への参加自体により)課される上乗せ部分
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欧州(EU):欧州委員会による行政調査
ハードコアカルテルについて、欧州委員会は積極的に立入調査を行う傾向にある。
欧州委員会は、被疑事業者の役職員に対し、任意の事情聴取を求めることがきる。事情聴取の冒頭に、事情聴取の法的根拠及び目的、並びに回答が任意であることが伝えられる。事情聴取時の録取は、録音の方法によって行われることもある。
⇒ 事情聴取には弁護士の同席が認められる。被疑事業者は、極力、弁護士の同席を確保する。
立入調査
和解手続開始異議告知書(簡易版)
和解決定
異議告知書 答弁書 口頭審理 欧州委決定
欧州委員会による和解手続参加の打診及び被疑事業者の応諾
和解の合意が見込めない場合
行政調査~決定手続きの流れ
<立ち入り調査のポイント>
事前の予告なしに、欧州委員会の調査官等が事業所等に現れる。 調査官は、立入調査決定による権限の範囲内で、被疑事業者の
事業所等にある文書等を閲覧し、文書等のコピーを押収する。 調査官が、立ち会っている役職員にインタビューをすることがある。 その日のうちに立入調査が完了しない場合には、事業所や記録等
に封印(seal)がなされる。
早急に弁護士に連絡し、可能な限り、弁護士に同席してもらう。
調査官が、文書を閲覧ないし押収しようとする場合に、必要に応じ、弁護士依頼者間秘匿特権(後述)を主張し、閲覧等しないよう求める。
調査官からインタビューを求められた役職員は、自己負罪拒否特権に反しない限り、回答する必要がある。インタビューには、弁護士の同席が認められている。
調査妨害によって制裁金が賦課された事例
CASE 内 容 結 果
A社
欧州委員会が立入調査を実施後に、立入調査で収集した文書を保管した部屋を封印した。
翌日、調査官が当該部屋に戻ったところ、封印が一度剥がされていたことが判明した。
欧州委員会は、立入調査時の封印が剥がれたことを理由にA社に対して制裁金を課した。
3,800万ユーロの制裁金
B社C社
欧州委員会は、被疑事業者のキーパーソンの電子メールアカウントに関し、調査官以外の者がアクセスできないよう要求し、パスワード等を設定。
しかしながら、当該キーパーソンがアクセスできるよう設定が変更されていたこと、被疑事業者の役職員が当該メールアカウントに送付されるメール全てをコンピューター・サーバーに迂回させるようIT担当に指示していたことが発覚。
欧州委員会は立入調査の妨害があったとしてB社およびC社に制裁金を課した。
250万ユーロの制裁金
欧州(EU):欧州委員会による行政調査(参考)
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欧州(EU):弁護士依頼者間秘匿特権
弁護士と依頼者との間の通信について、一定の要件を充足する場合、当局を含む第三者に開示する必要はない。
米国の制度との重要な違いとして、通信の一方当事者が、EU域内の法曹資格を有する社外弁護士である必要がある。
立入調査への備え:
• 当局の立入調査を受けた場合に、直ちに秘匿特権により保護されるべき文書である旨主張できるよう、他の文書から区別して保管すべき。
たとえば、メールの題名や文書の頭に「Privileged & Confidential」や「Privileged &Confidential – Communication to EU External Counsel」と記載するなど、当該文書自体から秘匿特権の対象となり得ることを明記する。
企業が秘匿特権の対象と考える文書を、ハードコピー文書であれば一つのキャビネットに保管し、電子データであれば特定のフォルダーに保存するなどして、他の文書から区別して保管する。
※ 不合理に秘匿特権による保護を主張すると制裁の対象となり得るので、必ず専門家と相談すること。
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欧州(EU):リニエンシー
被疑事業者が違反行為を申告することを前提に、一定の条件のもと、制裁金の減免が認められる制度。
免除は最初の申請者のみ。免除の場合のみ、仮の順位を取得するマーカー制度あり。
減額が適用される場合、欧州委員会が定める減額率の範囲内で、提供された情報がもたらす付加価値、要件を充足する情報を提供した時期等を勘案して、調査手続の最終段階で決定する。
減額申請順位
減額率
第1位 30%~50%
第2位 20%~30%
第3位以下 20%以下
<減額申請の順位と減額率>リニエンシー申請時の留意点
リニエンシー申請者は、最終的に制裁金減免の恩恵を享受するためには、積極的かつ継続的な協力義務を果たす必要がある点に注意。
<協力義務の例>
• 欧州委員会の質問に迅速に回答し、要求された資料を提出すること
• 役職員に対する事情聴取に応じること
• 新たに知った違反行為に関する事実に関する情報を提供すること
• リニエンシー申請をしたことや提供した事実を第三者に漏洩しないこと
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欧州(EU):和解手続
被疑事業者が一定の違反行為を認めることを条件に、欧州委員会が制裁金を一律
10%減額※し、簡易迅速な方法により制裁金を課す制度。和解協議は、通常、複数
回行われる。
欧州委員会が和解手続を採用するか否かの広い裁量を有している。
被疑事業者は、和解手続に応じる義務はなく、また一度応じた和解手続を離脱するこ
とも可能。
※ リニエンシーにより制裁金減免がなされる場合でも、和解手続による制裁金10%減額の効果を享受できる。
被疑事業者は、以下の事項を含む和解案を提示する必要あり:
違反行為に対する法的責任を明確に認めること
欧州委から課せられ得る制裁金の上限を理解し、受諾すること
欧州委から異議について十分に告知及び聴聞の機会を与えられたこと
欧州委の記録開示及び口頭審理を求めないこと
EUの公用語で受領すること
和解手続きにおける留意事項
終わりに
欧米の競争法違反(ハードコアカルテル)は、同業他社との競争機微情報の交換など、事業者が意図せずに違反行為を行い、当局から指摘を受けて初めて当事会社が認識することが多い。
万が一、自社(グループ会社含む)に競争法違反の疑いが生じた場合、専門家のアドバイスを得ながら初動対応を迅速に行うことが非常に重要。
仮に、競争法手続きに関する知識なしに行動してしまった結果、カルテル違反による罰則・制裁金が課されるだけでなく、追加的な問題を引き起こす可能性があることを社内で共有しておくことが重要。
いたずらに違反を恐れて萎縮するのではなく、適切な初動対応を採ることによって、最小限のダメージで当局との対応乗り切ることが可能。
緊急時に、迅速かつ適切な対応ができるよう、平時に、米国及びEUの制度・手続を習得し、実務上の対応策を準備しておくことが求められる。
また、今後、日本においても、事業者の協力度合いを考慮した課徴金制度や弁護士と依頼者の間のやりとりに配慮する制度(いわゆる「弁護士・依頼者間秘匿特権」類似の制度)が導入される予定。
本報告書で取りまとめた欧米での実務対応を参考とし、国内のコンプライアンスが向上することを期待している。
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