地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー...

6
地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワークの試作と地下水位計測への適用 1* 2 2 2 1 員  (270-1194 1646) 2 センサテクノロジ (739-0153 4-22) *E-mail:[email protected] によりバッテリー きる センサーネットワーク センサーを ネッ トワーク ,多 まっている.こ センサーネットワークが きれ コスト よるモニタリング きる.そこ センサーネットワークを し, 位モニタリ ング した する. Key Words: wireless sensor network, ground environment, monitoring, ground water level 1.緒言 センサーネットワーク 1)2)3) 10 m まれる モニタリング きる かった.こ ため センサー ネットワークを モニタリングに する 4) し, 題があるこ している.1) せる する 2) センサーネットワークを するこ 3) を確 する うち 1) 2) 題について らず すこ きる い, いた より,以 ている 4) a) いた がほぼ 100%,つまり するま し, * 1 -80dBm あるこ b) -80dBm きる 300m あるこ c) するこ によ * 1 じる 1mW 0dBm し,y = 10 log x(y: x: ) がある. じる ネットワー クが きるこ 3) 題に対 するため, モニ タリングに センサーネットワークを し,さらに, 位モニタリング により センサーネットワーク するこ して, った する. 2.無線センサーネットワークの試作概要 モニタリングに ンサーネットワークを けて概 す. (1) 子機 (Converter) の概要 -1 ブロック し,CPU,メモリー, (radio frequency circuit)(clock)I/O ポート される.-1 をま める. 1) いセンサーが 2) きるこ ある. センサーネットワーク IC タグ ,セン サーを 蔵する一体 あるが, するセンサー よう がかかる

Upload: others

Post on 22-May-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

地盤環境モニタリング用の無線センサーネットワークの試作と地下水位計測への適用

池川 洋二郎 1∗,坊田 信吾 2,青木 寛 2,三木 和秀 2

1 正会員 電力中央研究所 地球工学研究所 (〒270-1194 千葉県我孫子市我孫子 1646)

2 新川センサテクノロジ 開発部 (〒739-0153 広島県東広島市吉川工業団地 4-22)

*E-mail:[email protected]

省電力化によりバッテリー稼動が期待できる無線センサーネットワークは,複数のセンサーを無線ネッ

トワークで結ぶ手法で,多数の分野で応用研究が始まっている.この無線センサーネットワークが表層地

盤の地下水位や傾斜などの計測に利用できれば,電源線や通信線の構築コストの低減と設置工期の短縮に

よるモニタリングの合理化が期待できる.そこで無線センサーネットワークを試作し,地下水位モニタリ

ングへの適用性を検証したので概要を報告する.

Key Words: wireless sensor network, ground environment, monitoring, ground water level

1.緒言

従来の無線センサーネットワーク1)2)3)は通信距離が

10数 mと短いなど,応用研究中のもので,長期計測が

望まれる地下水位や傾斜など地盤の環境のモニタリング

に利用できるものではなかった.このため無線センサー

ネットワークを地盤環境モニタリングに適用する方法を

提案4)し,次の課題があることを示している.1)野外で

実用性が高く通信距離がのばせる無線通信法を利用する

こと,2) 野外で実用的な無線センサーネットワークを

構築すること,3) 従来の計測精度と信頼性を確保する

こと.

以上の課題のうち 1)と 2)の課題については,免許が

要らず通信距離をのばすことが期待できる特定小電力無

線を使い,評価用の通信機を用いた野外での通信試験に

より,以下の知見を得ている4).a)用いた通信機の場合,

通信成功率がほぼ 100%,つまり通信が成功するまでの

試行回数を最小化し,省電力化が可能な電界強度*1の最

小値が-80dBmであること.b)電界強度が-80dBm以上

確保できる最大通信距離が 300mであること.c)電界強

度を指標に通信経路を決定することで,地形や植生によ

*1 受信で生じる電力 1mW を 0dBm と定義し,y = 10 log x(y:

電界強度,x:電力)の関係がある.

る通信障害が生じる野外に信頼性の高い無線ネットワー

クが構築できること.

本論文では 3) の課題に対応するため,地盤環境モニ

タリングに適用可能な無線センサーネットワークを試作

し,さらに,地下水位モニタリングへの適用により無線

センサーネットワークの実用性を検証することを目的と

して,検討を行ったので概要を報告する.

2.無線センサーネットワークの試作概要

本章では,地盤環境モニタリングに適用可能な無線セ

ンサーネットワークを子機と親機に分けて概要を示す.

(1)子機 (Converter)の概要

図-1には子機のブロック図を示し,CPU,メモリー,

無線通信用の高周波回路 (radio frequency circuit),時

計 (clock),I/O ポートなどで構成される.表-1 には,

子機の仕様をまとめる.

この子機の特徴は,1)既存の信頼性の高いセンサーが

利用可能なこと.2)免許が要らない特定小電力無線が利

用できることである.

従来の無線センサーネットワークや IC タグは,セン

サーを内蔵する一体型であるが,地盤表面や地盤内部で

利用するセンサーは,水中のような圧力がかかる過酷な

Page 2: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

CPU I/O

RF Circuit

Memory -Firmware -Data

Antenna

Clock

Battery

Sensor

Battery

A/DI/O

図-1 Converter(子機) のブロック図 (網掛けのブロックは,本事例では未使用)

環境で利用できるよう様々な技術が使われた特殊な製品

である.このように信頼性,耐久性,高精度が要求され

るセンサーを一体化することは容易ではない.

無線通信は,特定小電力無線 (2.45GHz帯)を利用し,

13チャンネル利用できる.利用地点で他の 2.45GHz帯

の無線通信が利用されている場合は,空きチャンネルを

利用する.

センサーは,最大 8個のセンサーを接続することがで

きる.ただし,センサーが必要な電力や特性はセンサー

毎に異なるため,試験的な利用により,長期運用に必要

なバッテリーの容量や特性の検討が必要である.

図-2 には子機の基本制御を行うファームウェア

(firmware)*2のフロー図を示す.子機の電源投入後,

RS232C経由でセンサー側のデータを読込み,メモリー

に保存する.その後,節電のため,時計だけが動くス

リープ状態となる.この後のフローは,センサーのデー

タを読取るフローと,データを親機に送信するフローに

分けられる.

センサーのデータを読取るフローでは,子機は 6時間

ごとに,スリープ状態から起動し,子機側のメモリー上

のデータと照合しながら,センサーから新しいデータを

読込む.同時に子機用のバッテリー電圧を測定し,節電

のためスリープ状態に戻る.バッテリー電圧は,バッテ

リー性能の管理に用いる.また,センサー側の計測イン

ターバルはセンサー側で設定する.

データを親機に送信するフローでは,30 秒毎に親機

からコマンドの有無を 1秒間確認する.起動コマンドが

*2 ハードウェアの基本的な制御を行うために機器に組み込まれたソフトウェアで,ROMやフラッシュメモリーに記録される.

表-1 Converter(子機)の仕様

ワイヤレス通信

通信周波数 2.45GHz

(2402~2482MHz)

13 channels

デジタル入力

水位計 Model 4677 (OYO)

入力点数 1

インターフェース RS-232C

センサアクセス 6時間周期

アナログ入力 本事例では不使用

チャンネル数 8

電源仕様

定格 9Vdc、3W(Max.)

環境仕様

使用温度範囲 0~50℃

外形

外形寸法(mm) 120(D)× 220(W)× 80(H)

質量 Max. 1.6kg

あれば,起動し,次のコマンドを待つ.コマンドは子機

固有の IDを持ち,コマンドが識別される.親機に計測

値を送信するコマンドが出されれば,データを送信し,

親機はデータをメモリーに保存する.また,他の子機の

データを中継するコマンドが出された場合は,中継を行

う.10秒間,コマンドが無ければ,再び,スリープ状態

に戻る.

(2)親機 (Depot)の概要

図-3には親機のハードウェアのブロック図を示す.親

機は子機との通信と,データ閲覧用 PC と通信を行う.

親機は恒常電源と LANなどの通信設備がある箇所を想

定する.親機は,無線通信用の高周波回路 (RF circuit),

時計,CPU,メモリー,LANに接続する I/Oポートな

どで構成される.電源はアダプターから AC を入力す

る.表-2には,親機の仕様をまとめる.

図-4 には親機の基本制御を行うファームウェアのフ

ロー図を示す.親機に電源を投入後,子機及び PCから

のコマンド待ちの状態になる.

子機に新たに保存されたデータを 1時間毎に読取るフ

ロー,PCからの子機のデータを読取るコマンドが出さ

れた時のフロー,20分毎に PCから親機のメモリーに保

存されたデータの検索コマンドが出された時のフローに

分かれる.親機のメモリーにあるデータ検索コマンドの

Page 3: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

図-2 Converter(子機) のファームウェアのフロー図

CPU

RF Circuit

Memory - Firmware - Data

Antenna

Clock

10Base-TI/O

Adapter100V

図-3 Depot(親機)のブロック図

フローで,検索で指定される未送信のデータがある場合

には,指定されたデータを PCに送信する.また,検索

で指定されるデータがない場合は,子機からのデータが

正常に送信されていないため,子機のデータを読取るフ

ローを実施する.

ここで検討するシステムでは,独自の通信手順 (プロ

トコル)を用い,インターネットで使われる TCP/IPと

の互換性はないため,LAN 経由でのハッキングやウイ

表-2 Depot(親機)の仕様

ワイヤレス通信

通信周波数 2.45GHz

(2402~2482MHz)

13 channels

通信速度 160kbps(Max.)

Depot-PC間通信

インターフェース Ethernet(10Base-T)

電源仕様

定格 9Vdc、3W(Max.)

ACアダプタにより入力

環境仕様

使用温度範囲 0~50℃

外形

外形寸法(mm) 110(D)× 160(W)× 60(H)

質量 Max. 1.0kg

図-4 Depot(親機)のファームウェアのフロー図

ルスなどのリスクは低い.

3.地下水位モニタリングへの適用

本章では,地下水位モニタリングに試作した無線セン

サーネットワークを適用した事例の概要を示す.

図-5には子機 (converter)と計測孔を用いた地下水位

計 (water level sensor)を中継箱 (relay box)内で接続し

た模式図を示す.子機側は,垂直に立てた鋼材に子機,

バッテリー,ダイポールアンテナ (dipole antenna) を

取り付ける.仮設であるが,数年間の利用で転倒しない

ようにワイヤーで固定する.水位計は計測孔 (borehole)

の孔口からセンサーを吊り下げて設置する.

図-6 には親機 (Depot) の設置模式図を示す.親機は

Page 4: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

Relay box

Battery

Tensional wire

Converter

Dipole antenna

borehole

Water level sensor

2m

図-5 Converter(子機)の設置模式図

NotePC

Depot

Dipole antenna

LAN

図-6 Depot(親機)の設置模式図

LANを経由して NotePCと接続,親機のアンテナは計

測小屋の屋根に取り付ける.

(1)通信試験による配置計画

本節では,地形や植生による無線通信の障害を回避す

るために行った通信試験4)の概要を示す.

図-7 には無線ネットワークの通信経路の平面図を示

す.細い実線の曲線は自動車で機材搬入ができる舗装路

(Paved road),下線の付いた数字は標高 (m),二重丸◎

は地下水位の計測孔 (Borehole) の位置である.対象地

域の地形は①と②の南側が頂部になる東西方向の尾根

と,⑧から⑥に下る尾根がある.標高差は最大約 50mの

起伏のある地形で,さらに 10 数 m から 5~6m の高さ

Borehole

Wired

Wireless

Paved road

Hut

図-7 無線通信経路の平面図

の雑木林がある.①-⑩は子機 (Converter) のアンテナ

位置,⑫と⑬は計測小屋 (Hut)の中に置く親機のアンテ

ナ位置である.子機は送受信による転送機能とセンサー

のデータを読込む機能があり,白抜きの⑨⑩は,送受信

の機能だけを使う中継機 (子機) で,①~⑧は,転送機

能とセンサー値の読込み機能の両方を使う子機である.

実線は有線通信のケーブル敷設経路,破線は無線通信を

示す.

図-8 には図-7 の無線通信経路を模式的に示す.①~

⑩の子機は,網掛けで示す恒常電源や通信設備が無い

地域に設置し,バッテリーで動作する.⑫~⑬の親機と

データ閲覧用 PCは,恒常電源と LANが利用できる計

測小屋に設置する.

図-9 には図-7 の山頂に位置する⑧地点から⑨を見た

状況で,距離は約 300m である.⑨ (中継機) は斜面頂

部で周囲の植生が伐採され,各方向から見通すことがで

きる.

図-10には⑧地点での⑨との通信試験で,アンテナを

⑨の方向に向け,電波の受信強度を計測している状況を

示す.

また,2.45GHz帯は免許や認可が不要な解放された周

波数帯である.このため,無線 LANや様々な通信機器

で利用されている.このため,子機および親機の設置箇

所で,他の 2.45GHz 帯の電波状況をスキャナーを用い

Page 5: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

PC

LAN

Converters work by batteries.

Wireless

Converter

Depot

図-8 無線通信経路の模式図

Slope with shot concrete.

図-9 ⑧地点から⑨を見た写真 (⑨の箇所は植生が伐採され見通しが良い斜面頂部,距離約 300m)

図-10 ⑧地点での⑨に向けた通信試験

Battery Box

Converter

Tensional wire

Dipole antenna

図-11 ①②地点の converter,①~⑩地点には同様の設備を設置

Dipole antenna

図-12 計測小屋へのアンテナの設置状況

て確認した.

(2)設置と運用

図-11には図-5に示す子機を野外に設置した状況を示

す.同様の子機を図-7の①~⑩の白丸○の箇所に設置し

た.また,計測小屋に設置する親機のアンテナは図-12

のように,図-7の⑫~⑬の白丸○の箇所に設置した.

図-13 には図-6 に示すように計測小屋内に設置した

データ閲覧用 PC,親機 2台,LANの Hubの状況を示

す.図-14には,閲覧用 PCで計測結果の時間-水位の関

係を出力した例を示す.

本論文を提出するまでの約 7ヶ月間,水位計のデータ

が無線で送信されることを確認し,無線センサーネット

ワークの機能が正常に働くことを確認した.

4.結語

本報告では既存のセンサーが利用可能で,免許がいら

ない特定小電力無線が利用できることを特徴とする無

線センサーネットワークの試作概要を示した.また,通

信試験に基づき無線通信経路を構築した後,試作した無

Page 6: 地盤環境モニタリング用の無線センサー ネットワー …library.jsce.or.jp/jsce/open/00019/2007/36-0207.pdf地盤環境モニタリング用の無線センサー

Depot

Hub

図-13 PCと DEPOの設置状況

図-14 時間-水位グラフの例

線センサーネットワークを地下水位モニタリングに適用

し,実用性を事例により確認した.

AN EXPERIMENTAL WIRELESS NETWORK SYSTEM FOR GROUND

ENVIRONMENT AND ITS APPLICATION FOR GROUND WATER LEVEL

MEASUREMENTS

Yojiro IKEGAWAWA, Shingo BODA, Hiroshi AOKI and Kazuhide MIKI

Wireless sensor network connects many sensors by wireless radio network and it is possible to

work by battery. If the wireless sensor network can be used for monitoring of ground environments,

the cost for conventional wiring of power cables and communication cables will be down and the

construction time for the monitoring system can be shortened. Then our experimental wireless

sensor network is applied for ground water level measurements for verification of its applicability.

参考文献

1) Glaser, S.D., Shoureshi, R., and Pescovitz, D., Fron-

tiers in sensors and sensing systems, Proc. of Smart

Structures and Systems, Vol.1, No.1, pp.103-120,

2005.

2) 尾造宏之,高橋健一,宮下充史:センサーネットワーク技

術の現状と電気事業への適用,電力中央研究所調査報告

(R03011),2004.3.

3) 鬼村邦治:気象・水文センサーのネットワークセンシン

グ,計測と制御,第 43巻,第 9号,2004.9.

4) 池川洋二郎,Steven D. Glaser,唐崎 健二,伊藤 一誠,

青木 寛,澤田 昌孝:ユビキタス地盤環境モニタリングの

提案と通信試験の結果,第 35回岩盤力学に関するシンポ

ジウム, 2005.1.