がんの放射線治療医が警告! 内部被ばくの影響を 軽視しては...

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がんの放射線治療医が警告! 内部被ばくの影響を 軽視してはならない 福島第一原発1号機が水素爆発する直前、原発直近の双葉町上羽鳥で毎時1590マイクロシーベルトの空間線量を計測した ことが発表された。原発事故によって住民がどれくらい被ばくしたのかはいまだに不明だ。内部被ばくの健康影響についても 議論が分かれている。今年1月「市民と科学者の内部被曝問題研究会」が発足。同研究会の理事でもある国立病院機構北海道 がんセンター院長・西尾正道さんは、臨床現場での経験をもとに内部被ばくの危険性を警告している。(10月6日、都内で行 われた「大地を守る会」主催の「放射能連続講座」の講演を編集・載録)                 (構成=編集部・温井) プロフィール▶にしお・まさみち 独立行政法人国立病院機構北海道 がんセンター院長。北海道函館市 出身。1974 年札幌医科大学卒業 後、国立札幌病院・北海道地方が んセンター放射線科勤務。1988 年同科医長。2004 年、国立病院 機構北海道がんセンターと改名後 も同病院に勤務、現在に至る。著 書に『がん医療と放射線治療』(エ ムイー振興協会)、『放射線治療医 の本音―がん患者2万人と向き 合って―』(NHK出版)、『放射 線健康障害の真実』(旬報社)な ど多数。 Nishio Masamichi ●国立病院機構北海道がんセンター院長 西尾正道 使20 20 使調1 4

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がんの放射線治療医が警告!内部被ばくの影響を軽視してはならない

福島第一原発1号機が水素爆発する直前、原発直近の双葉町上羽鳥で毎時1590マイクロシーベルトの空間線量を計測したことが発表された。原発事故によって住民がどれくらい被ばくしたのかはいまだに不明だ。内部被ばくの健康影響についても議論が分かれている。今年1月「市民と科学者の内部被曝問題研究会」が発足。同研究会の理事でもある国立病院機構北海道がんセンター院長・西尾正道さんは、臨床現場での経験をもとに内部被ばくの危険性を警告している。(10 月6日、都内で行われた「大地を守る会」主催の「放射能連続講座」の講演を編集・載録)                (構成=編集部・温井)

プロフィール▶にしお・まさみち独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター院長。北海道函館市出身。1974 年札幌医科大学卒業後、国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科勤務。1988年同科医長。2004 年、国立病院機構北海道がんセンターと改名後も同病院に勤務、現在に至る。著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、『放射線治療医の本音―がん患者2万人と向き合って―』(NHK出版)、『放射線健康障害の真実』(旬報社)など多数。

Nishio Masamichi

●国立病院機構北海道がんセンター院長

西 尾 正 道

 

私は長年、どうやったら放射

線で上手にがんを直せるかとい

う「放射線の表と光」の部分を

研究し実践してきました。やっ

と定年になり辞めようと思って

いたら、原発事故が起こった。

今度は必死に「放射線の裏と陰」

を勉強するはめになりました。

 

元々既存の日本の医療システ

ムには強い疑問を感じていまし

た。患者さん不在で目先の利益

や肩書を追い求める日本の医者

連中が嫌で、医局にも属せず、

大学卒業後に今の北海道がんセ

ンターに務めました。

 

以来ずっと臨床の現場でがん

の放射線治療に携わってきまし

た。ラジウムやセシウムなどの

小線源を使って治療するので、

私自身は相当被ばくしています。

 

最初の20年は、放射線で治る

のにがんを切除しようとする外

科医との戦いでした。後半の20

年は、効かない抗がん剤に固執

する内科医との戦いです。

 

放射線はがん治療にも有効で

すが、当然被ばくのリスクもあ

る。医療で使用する場合は診断

や治療など正当な理由があり、

無駄な被ばくをしないことを考

慮して最適に活用します。原発

事故での被ばくとはまったく意

味が異なりますので、医療被ば

くとの比較は詭弁です。

 

だから原発事故直後は、日本

政府や放射線医学総合研究所が

「緊急被ばく医療マニュアル」

に書かれている内部被ばくの計

測をするはずだと思っていまし

た。しかし実際はそうした最低

限のことすらせず、情報を隠し、

ウソまで言い、放医研の学者も

お上から通知がこなければまっ

たく動こうとしなかった。

 

そういう腐りきった現状を見

て、腹が立ち色々調べました。

ですから私がお話するのはここ

1年半ぐらいで学んだ知識です。

 

まず基本的なことですが、放

射線には波長をもった電磁波と、

原子から出る小さな粒としての

粒子線の二つがあります。電磁

波の典型的なものはX線やガン

マ線。粒子線はベータ線、アル

原発事故が突きつけた

放射線の「裏と陰」

影響を受けやすい

臓器からやられていく

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ファ線、陽子線などです。

 

アルファ線は40ナノメートル、

ベータ線は数ミリぐらいしか飛

びません。アルファ線は紙1枚、

ベータ線はアルミニウムなどの

薄い金属板で止まります。ガン

マ線は鉛や厚い鉄の板でしか止

まらず飛距離は長い。

 

これら放射線が人体に及ぼす

影響の根本は「電離作用」です。

人間の体の60%は水で構成され

ています。その水分子H2Oは、

水素原子と酸素原子が微量な数

エレクトロンボルトの電気信号

でくっついています。

 

それに放射線が当たるとHO

とHに分離、ないしはH2O2

になって過酸化水素になる。こ

れが電離で、それによって生じ

た活性酸素(フリーラジカル)

が遺伝子を傷つける原因になる

わけです。これが放射線の及ぼ

す毒性です。

 

さらに人間の身体で放射線の

影響を受けやすいところについ

て法則があります。それは①細

胞分裂が盛んなもの、②増殖力、

再生能力が旺盛なもの、③形態

および機能の未分化なものです。

 

ちなみにがんの放射線治療は、

正常な細胞よりもがん細胞の分

裂が盛んなので、その差を利用

して成り立っています。

 

細胞分裂が盛んな臓器として

は、血液をつくり出している骨

髄があります。小腸も上皮細胞

が2~3日で入れ替わっていま

す。それから男性の生殖腺です。

水晶体もどんどん分裂していな

いと目の透明性が保てない。皮

膚も再生能力が盛んです。そし

て女性の場合は、卵巣にある卵

子は未熟で影響を受けやすい。

 

この原則を見ていくと、原爆

投下後の光景が分かるはずです。

骨髄がやられ、白血球や血小板

が減り、紫斑ができ、出血傾向

が続き、抵抗力がなくなり感染

症で死亡します。

 

あるいは腸がやられて体液バ

ランスが崩れ、下痢と嘔吐で電

解質バランスが崩れて命取りに

なる。つまり典型的に影響を受

けやすい臓器からやられている

わけです。

 

よく耳にすると思いますが、

人体への被ばくを評価する放射

線の単位があります。その基本

となるのがベクレル(Bq)で

す。1ベクレルは放射性物質か

ら放射線が1秒間に1個出るこ

とを意味します。つまり放射線

を出す能力、放射能の単位です。

 

吸収線量、1グレイ(Gy)

は、1キログラムのものに1ジ

ュールの熱を与える線量です。

さらに放射線の種類で人体に与

える影響が違いますので、それ

を補正するために設定されたの

が「放射線荷重係数」です。ボ

クシングでいえばアッパーカッ

トかジャブかによって人体への

影響が違うようなものです。

 

「吸収線量」と「放射線荷重

係数」の積は「等価線量」と呼

ばれています。また実際には人

体の組織によって放射線の感受

性が異なりますので、それを補

正するのが「組織荷重係数」です。

 

最終的にはこれらを加味し、

どのくらいの熱量の放射線が、

どういう種類で、どの組織にど

のくらい当たったのかを換算し、

それが人体への被ばく線量であ

る「実効線量」、シーベルト(S

v)という概念になります。

 

ただし、被ばくの影響は時間、

範囲、部位によって異なります。

時間的には急性と慢性の違いが

あります。広島や長崎の原爆は

急性被ばく、福島で今起きてい

るのは慢性の被ばくです。

 

範囲としては、全身か局所で

浴びるかの違いがあります。通

常は全身に10グレイ浴びたら即

死します。ところが肺がんの場

合、6倍の60グレイを肺に照射

しますが死にません。どのくら

いの体積に当たったかで人体の

影響は全く違います。

 

そして内部被ばくか外部被ば

くかでも影響は大きく違います。

 

内部被ばくと外部被ばくの違

いを考える際、波長としてのガ

ンマ線、X線と、粒子線として

のアルファ線、ベータ線の違い

を認識する必要があります。

 

たとえばX線でレントゲンを

撮ったとしても、1回突き抜け

てフィルムに当たるだけです。

注射器は梱包してから大量に

2万グレイのガンマ線などをか

けて滅菌しています。1回突き

抜けるだけですから放射線は残

留しません。

 

しかし陽子線治療の場合、が

んがある部位に放射線をかけ、

直後にPET(陽電子放出断層

撮影)で写真を撮ると、組織が

放射化された状態で映っていま

す。粒子ですから止まったとこ

ろに残留している。まさにこれ

が内部被ばくと外部被ばくとの

決定的な違いです。

 

たとえば悪性リンパ腫や白血

病の治療で骨髄移植をする場合

は、2グレイの放射線を朝夕2

回3日間、合計で12グレイ全身

照射します。米国では、全身被

ばくの急性放射線障害による致

死線量を7グレイとしているに

も関わらず、この治療で死ぬこ

とは一切ありません。

 

なぜなのか? 

外部被ばくだ

けで、放射線が突き抜ける一過

性のものだからです。つまり「7

グレイで人は死ぬ」と言う場合、

最大の問題は内部被ばくなので

す。

 

137、134とヨウ素131

は、ベータ線とガンマ線を発し

ます。ストロンチウムはベータ

線、プルトニウムはアルファ線

内部被ばくと外部ひばくの違い

外部被ばく

内部被ばく

アルファ線やベータ線は飛ぶ距離が短い

放射性物質

放射性物質

アルファ線やベータ線の影響も受ける

ガンマ線

ガンマ線

ガンマ線

α線(40 μm)

β線(1 ~ 10 mm)

体内組織

時間・範囲・部位で

異なる被ばく影響

生物検定でしか

分からない内部被ばく

5 Actio December 2012

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です。

 

放射性物質を取り込んだ内部

被ばくの場合、人体に影響を与

えるのはアルファ線・ベータ線

が中心になりますが、放射線の

飛距離が非常に短いので、取り

込まれた周辺の細胞にしか影響

しません。

 

ただ、その場所にずっと留ま

って放射線を出し続けるわけで

すから一番やっかいです。とこ

ろが体外から計測するWBC

(ホールボディカウンター)は

ガンマ線しか測れない。甲状腺

にサーベイメータを当ててもベ

ータ線は測れません。また空間

線量率もガンマ線のみです。

 

ですから体内のアルファ線、

ベータ線を測ろうと思ったらバ

イオアッセイ(生物検定)が必

要です。爪、毛髪、尿を計測す

るしかないわけです。ところが

福島原発事故が起こった時、住

民の尿をランダム抽出して測定

し、被ばく量を換算することさ

えしませんでした。

 

当時は食品ではなく空気中に

飛散した放射性物質が問題だっ

たわけですから、ベンチレーシ

ョン(換気量)で換算すれば、

どのくらい被ばくしたかが分か

ったはずです。それさえ行なわ

なかったこの国の政府は本当に

腐っていると思います。

 

日本の放射線障害防止法やそ

の他の国内規則は、ICRP(国

際放射線防護委員会)の勧告値

に基づいて作られています。医

者や看護師の教科書もICRP

の知識に依拠しています。

 

ICRPは広島、長崎の原爆

被ばく者のデータをもとに、発

がんリスクについて「しきい値

なし直線モデル」を否定し、低

線量被ばくの影響評価は過小で、

また内部被ばくをほとんど考慮

していません。

 

その根本原因は、原爆被害を

調査したABCC(原爆傷害調

査委員会)と、その業務を引き

継いだ放射線影響研究所のやり

方がデタラメだったことです。

まず被ばく者の定義を爆心地か

ら2キロ以内にいた人に限定

し、それより遠くの人は「被ば

くしていない」として「被ばく

者」との比較対象にしたことで

す。この2キロの境は、推測さ

れる線量が約100ミリシーベ

ルトです。つまり2キロ以遠の

人をまともに調査していないの

ですから、100ミリシーベル

ト以下のデータが作れるわけが

ないのです。

 

しかも残留放射線や放射性降

下物で内部被ばくした人を調査

対象としていません。さらに

1950年10月1日以降生きて

いる人たちを調査し、それ以前

の死亡者は除外しています。

 

そのICRPですら、1シー

ベルトの放射線を浴びた場合、

5・5%がん死が増えると認め

ています。さらに今年発表され

た放射線影響研究所の論文では、

50年余りの追跡調査の結果を明

らかにしています。これによれ

ば、1シーベルト浴びた人のが

ん死は、被ばく当時30代の人で

42%増加、20代の人は54%増加

している。50年のスパンで調査

すると、過剰がん死の割合がひ

と桁増えるわけです。

 

日本政府は「100ミリシー

ベルト以下についてがんリスク

はない」と言っていますが、そ

うした低線量でも影響が出るこ

とを示す論文が多数あります。

 

カナダのマギール大学チーム

は2009年の論文で、血管造

影やCTなどの検査を受けた心

筋梗塞の患者8万2千人を調査

した結果、10~40ミリシーベル

トの医療被ばくでは、10ミリシ

ーベルト上がるごとに発がんリ

スクが3%ずつ上がると発表し

ています。

 

世界で一番権威のある医学雑

誌「ランセット」に今年掲載さ

れた論文では、CTを受けた子

どもの白血病・脳腫瘍リスクに

ついて、50ミリシーベルトの被

ばくでリスクが3倍になってい

ると報告されています。

 

さらに15カ国の原子力施設労

働者40万人以上のがんリスクを

追跡調査した結果、全がん死の

リスクが約10%増加、白血病で

死亡するリスクが約20%増加し

たことが分かっています。

 

日本でも文科省の管轄下にあ

る放射線影響協会が、日本の原

発施設労働者20万3904人を

調査し、その結果が3・11の1

年前に発表されています。全が

ん死が4%、肝臓がん死が13%、

肺がん死が8%増えていると報

告しています。この原発労働者

の平均累積線量は13・3ミリシ

ーベルトです。

 

ところが文科省はこのがん増

加の原因を、「原発労働者は喫

煙率、飲酒率が高いから」と結

論づけた。きちっとした医学的

データで有意な結果が出ても、

それを放射線の影響にはしない。

これが日本政府の基本的なスタ

ンスです。

 

さらに原爆被ばく者と、チェ

ルノブイリでの被災者・原発労

働者の超過死亡リスクを比較し

たデータがあります。これを見

ますと、急性の原爆被ばく者よ

りも慢性被ばくのチェルノブイ

リ被災者や原発労働者のリスク

が高い。被ばく量が同じ場合、

少ない線量を長期間浴びた方が

むしろ発がん率が高くなること

を物語っているわけです。

 

こうした学術論文で発表され

ている低線量被ばくの影響につ

いて、ICRPは全て無視、あ

るいは隠蔽しています。

 

放射線の影響は、ある量以上

の放射線を被ばくすると起きる

「確定的影響」と、低レベルの

被ばくでもある確率で発生する

「確率的影響」があります。

 

低線量被ばくで問題となるの

は、後者の「確率的影響」=晩

発性障害です。これを考える上

で参考になるのは、低線量の小

線源によるがんの治療例です。

 

私が治療したある患者さんは、

口の中に悪性黒色腫が広がり、

手術できない状態でした。悪性 『放射線健康障害の真実』

低線量被ばくリスクを

示す多くの論文

原爆傷害調査委員会は

デタラメだった

傷ついた遺伝子は

何世代も引き継がれる

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黒色腫は最も治りにくいがんの

ひとつです。そこで上あごを

覆うようなプロテーゼを作って、

小さな放射線を出す粒を患部に

密着照射しました。腫瘍の黒色

は徐々に消え、数年経ってよう

やく元の色に戻りました。

 

つまり大量に放射線を当てな

ければ、がん細胞もすぐには死

なない。遺伝子が傷つき、分裂

する過程で死滅するのです。

 

逆に考えれば、放射線で少し

傷ついた遺伝子があっても生き

残り、数回の分裂後に死滅した

り、あるいは障害が生じる可能

性もあるわけです。人間でいえ

ば死滅しない遺伝子が引き継が

れ、次の世代に先天障害が発生

する原因にもなり得る。低線量

被ばくにはそういうリスクがあ

ります。

 

ちなみに人間の身体では、1

日5000個ぐらいのがん細胞

ができかかっていますが、正常

な抵抗力があればがんにならな

い。たとえがんになって1㎝の

がんが見つかったとしても、そ

れは10億個の細胞の集団ですか

ら、その大きさになるまで時間

がかかります。被ばくしてもす

ぐにがんができるわけではない

のです。同時に今健康障害が起

きていないからと言って安全だ

とも言えません。

 

放射線の健康障害については

LET(線エネルギー付与)の

違いも重要です。これは同じエ

ネルギーの放射線でも、まばら

に当たるのと密に当たるのでは

細胞の障害の程度が違うという

ことです。

 

X線やガンマ線は低LETの

放射線で、フリーラジカルの度

合いがまばらなので細胞も修復

しやすい。ところが同じ量でも

アルファ線のような高LETの

放射線だとフリーラジカルの度

合いが密になり、修復が困難で

細胞の障害が大きくなります。

LETの高い順に並べると、医

療用のX線が一番低いのに対し、

核分裂生成物の放射線が最も高

いのです。

 

さらに内部被ばくの問題には

細胞周期も関わってきます。G

0期(休止期)にある細胞が、

DNAの合成準備期(G1期)

に入り、DNA合成期(S期)、

分裂準備期(G2期)、分裂期(M

期)を経て細胞分裂します。そ

の中でG2期とM期が最も放射

線の影響を受けやすいのです。

 

X線、ガンマ線は一回突き抜

けるだけですが、放射性物質を

体内に摂り込めば、周囲の細胞

に継続して放射線を浴びせるこ

とになりG2期、M期の細胞に

確実に当たることになります。

低線量でも内部被ばくの方が影

響は大きいということです。

 

さらに考慮しなければいけな

いのは、放射線のエネルギーが

非常に大きいことです。体内の

電気化学的反応は数エレクトロ

ンボルトですが、医療用のX線

はキロエレクトロンボルトの世

界です。しかしこれは0・25㎜

の鉛のエプロンで9割防げます。

 

ところがセシウムなどの小線

源を使う場合は、メガエレクト

ロンボルトの世界です。そのた

め5センチの鉛の衝立を介して

仕事をしています。このエネル

ギーの違いがなぜ語られないの

でしょうか。

 

人体の中の電気信号が1円単

位の取引だとするならば、放

射性物質の放射線はそこに

100万円単位の取引が入って

きたようなものなのです。

 

関連することですが、放射線

影響の評価単位が不適切という

問題もあります。例えば吸収線

量を表す1グレイとは、1キロ

あたり1ジュールの熱量を与え

る放射線の量です。

 

原爆のデータでは、人間は8

シーベルトの全身被ばくで全員

死にますが、8シーベルトは8

ジュールですので、体重60キロ

グラムの人なら全部で480ジ

ュールの熱量で死亡することに

なります。1カロリー=4・18

ジュールですから115カロリ

ー、つまり熱量換算で考えれば、

おにぎり一つ食べたら全員死ぬ

ことになる。こんな馬鹿な話は

ありません。

 

つまり熱量換算による放射線

の評価では、生体内における生

物学的な変化をまったく説明で

きないのです。これはもう科学

の限界、物理学の限界、生物学

の限界です。分子・原子レベル

の問題を考慮しない評価尺度自

体が、そもそもおかしいわけで

す。

 

さらに線量の全身化換算によ

る低減という問題があります。

アルファ線は半径40ナノメート

ル周辺の細胞にしか影響がなく、

その細胞ががん化したらがんに

なる。ところがこの量を全身の

細胞60兆個で換算するから、大

したことがないとなる。たとえ

るならば目薬1滴を全身投与量

としているに等しい。こういう

線量評価の計算は全くデタラメ

です。

 

しかしこうした内部被ばくの

問題はほとんど語られていませ

ん。医者の多くは、ICRPの

知識に依拠した教科書を信じて

当たり前だと思っているからで

す。

 

今は科学本来の、真実を追及

する姿勢が欠けていると思いま

す。原点は現実を見ていくこと

です。チェルノブイリ事故など

でどういう被害が出ているかを

冷静に見ていくことから出発す

るしかない。

 

日本は54基も原発を作りまし

たが、今後は中国やインドで多

くの原発建設が計画されていま

す。そこで事故が起きれば日本

にも放射性物質が飛んできます。

まさに21世紀は放射性物質との

戦いの時代です。こうした時代

においては、外部被ばくだけで

なく内部被ばくもきちんと考慮

して対応することが必要なので

す。

LETの違いによる細胞影響の違いトラックに沿ってラジカルを生成する度合い

低LET放射線X線、ガンマ線

高LET放射線中性子線、アルファ線

医療用X線と内部被ばく

の影響は桁違い

科学的根拠がない

現在の線量評価計算

7 Actio December 2012