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e ラーニングに関する学術および技術の研究と振興| eIJ |2018 1
全国医療従事者のための
山梨 OQT医療安全 eラーニング
Yamanashi-OQT Patient Safety E-Learning for healthcare workers throughout Japan
奥津康祐 1),2)、藤森玲子 1),3)、今泉光代 1),4)、渡辺久子 1),5)、清水恵子 1),6)、北原克晃 1),3)、
野口美奈子 1),7)、市村琴美 1),8)、保坂栄子 1),7)
Kosuke Okutsu1),2), Reiko Fujimori1),3), Mitsuyo Imaizumi1),4), Hisako Watanabe1),5), Keiko Shimizu1),6),
Katsuaki Kitahara1),3), Minako Noguchi1),7), Kotomi Ichimura1),8), Eiko Hosaka1),7) 1
要 旨
山梨OQT医療安全eラーニングは、山梨県の医療施設で医療安全教育に使われるPowerPoint教材等をもとに開発さ
れ(Adobe Captivate 等でオーサリング)、CD-R に収め全国の希望医療施設に低額で配布されている医療安全教材であ
る。2017年度版の主教材は60項目で看護を中心に医療安全の主要領域を網羅する。副教材は読み物形式で30話ある。
この教材作成プロジェクトである山梨 OQT(非営利：2011 年発足)は 2016 年に日本最大の医療安全系学会の日本医療
の質・安全学会(第11回学術集会)でベストプラクティス賞(優秀賞)を受賞した。山梨OQTでは他にも医療安全啓発ポ
スターの作成・医療安全研修の開催をしている。山梨OQTは経験豊富な医療職および医療安全の大学研究者のみで構
成され、業者の関与もなく IT 専門職もいない。CD-R であるのは電子カルテ等個人情報を扱う医療現場ではインター
ネット遮断 PC が多いからである。一教材 5～20 分程度で業務の合間に行いやすい。本教材は各施設の担当者が“教
師”として合否判定する形で、従来の教育に組み込むことで教育担当者層の負担が減る(担当者に ICT技術は不要)。つ
まらない、面倒くさい、難しい、怖いというイメージの医療安全分野でも、イラスト多用で若者も楽しくわかりやすく
学べ、かつキーワード等で山梨県に愛着が持てる。公・私立やグループ・系列の枠組みを超えた地域施設の連携の下、
地域の潜在能力を形にし、明るくポジティブに学ぶ医療安全教育の革新・革命を目指している。
Abstract
Yamanashi-OQT Patient Safety E-Learning has been produced for healthcare facilities in Japan by Yamanashi-
OQT. So far, Yamanashi-OQT has been joined by nurses, a pharmacist, a clinical engineer, and a researcher in charge
of patient safety, and has gathered expertise in patient safety through various forms such as PowerPoint
presentations from healthcare facilities in Yamanashi Prefecture. The e-learning materials are composed of 60 main
modules and 30 nursing stories. Yamanashi-OQT creates the materials in Adobe Captivate and Adobe InDesign,
writes them to CD-R, and distributes them in small amount to healthcare facilities throughout Japan. The reason
for distributing the materials on CD-R is that many PCs in healthcare facilities are banned from accessing the
internet for security reasons. Learners can complete each material in 20 minutes at the most, allowing them to study
between activities at work. The person in charge of training in individual healthcare facilities gives a grade for each
material, so the materials can be easily implemented into the education program of every healthcare facility and the
burden of developing individual programs can be eased. Although patient safety is a topic often imagined to be boring,
bothersome, difficult, and even scary, the materials have been designed to be easy to understand, containing many
1)山梨OQT Yamanashi-OQT 2)東京女子医科大学 Tokyo Women's Medical University 3)北杜市立甲陽病院 Hokuto Municipal Koyo Hospital
4)大月市立中央病院 Otsuki Municipal Central Hospital 5)山梨赤十字病院 Yamanashi Red Cross Hospital
6)西都児湯医療センター Saito Koyu Medical Center 7)市立甲府病院 Kofu Municipal Hospital 8)甲府共立病院 Kofu Kyoritsu Hospital
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illustrations such as manga, in order to keep learners happy and keen to learn. Additionally, Yamanashi-OQT has
made posters and held workshops on the topic of patient safety. Yamanashi-OQT has tried to make potentiality of
countryside visible through regional cooperation with the goal of healthcare staff learning happily and positively.
Yamanashi-OQT won the Best Practice Award of Excellence among 187 subjects at the 11th Annual Congress of
Japanese Society for Quality and Safety in Healthcare in 2016.
キーワード： eラーニング、医療安全、地域連携、マンガイラスト、非営利
key word : e-learning, Patient Safety, regional cooperation, manga, non-profit
1． はじめに
山梨 OQT(オーキューティー)医療安全 e ラーニング
は、山梨OQTが開発・頒布している医療安全教材であ
る (1),(2),(3),(4)。山梨県の医療施設で医療安全教育に使われ
るPowerPoint教材などをもとに開発されている。山梨
OQTは、2011年に発足して以降、山梨県内医療施設で
医療安全管理者等医療安全に携わる看護師、薬剤師、臨
床工学技士および大学教員(県外)がメンバーとなってい
る。メンバーには、プログラマーやアプリ開発者といっ
た IT専門家はいない。まったくの IT素人集団である。
2016 年 11 月 20 日、日本医療の質・安全学会第 11 回
学術集会では、賞選考対象187演題の中から「ベストプ
ラクティス賞(優秀賞)」を受賞している。
2． 山梨OQTのこれまで
このeラーニング教材作成プロジェクトは、2011年、
医療安全研究の大学教員が Adobe 社の e ラーニングオ
ーサリングソフトウェアである Captivate の存在を知
ってプロジェクトを思いつき、縁のあった学術団体・山
梨医療安全研究会に提案したことから始まった。科研費
も獲得した(文科省科研費 24790519)。第 1 回会合は
2011年12月10日に行われ、まずは手近なもの、簡単
なものから作っていこう、という方針となり、翌4月に
試用版(本教材8項目)を完成させた。本教材の項目数は、
各年度開始時点で翌2013年は20、2014年は32、2015
年は43、2016年は54、2017年は60、というようにこ
つこつ増やされている(2016 年度から全項目音声付き)。
当初はプロジェクト名はなかったが、教材が本格的パッ
ケージとなった2015年度の途中から、世界に売り出せ
る名前にする、当時のメンバー数が9人である、という
ことで、「OQT9」(オーキューティーナイン)とした。ち
なみに、OQTとは、Originalityにあふれ、Qualityの
高い Tool を作る、という思いが込められている。その
後、メンバー数に入れ替わりがあることと、全国展開を
本格的に行うために地域色を出すということで、2016
年度版から「山梨OQT」となった。
3． 「山梨OQT医療安全eラーニング」の内容
2017 年度版は、本教材(60 項目)および副教材
「ANZENむじ子めぢ子 看護の法と倫理を学ぶ！」(全
20話)、「むじ子＆めぢ子 さらっと学ぶ医療安全と倫理
と法」(全10号)および看護師国家試験(第105回)アプリ
からなり、CD-Rで配布されている(価格は税込2,500円。
同一施設内であれば利用人数制限なし。全国どの医療施
設も購入可)。電子カルテ等個人情報を扱う医療現場で
はインターネット遮断 PC が多い(場合により USB 接
続も不許可)からである。Adobe Acrobat Reader DCお
よびAdobe Flash Playerがインストールされていれば
使用できるため、大多数のPCで利用可能で、インター
ネットが遮断されていても使うことができる(主に
Adobe Captivateで作成しているため、容易にSCORM
対応に変更可能である)。また、啓発教材として「メヂカ
ルめぢ子医療安全奥義集」をインターネットで無料公開
している。
本教材は主に新人看護師向けで作成されているが、医
療安全の基本という点で新人看護師以外でも活用可能
なものが多くある(項目は表 1 参照)。Flash 埋め込み
PDF 形式で、スタンドアロン型「アプリ」になってい
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る。ボタンを次々クリックして進めていく形式で、動画
を流しっぱなしにして見たことにするようなズルはで
きない。数多くのイラストが入り、音声付きでキャラク
ターの講師による講義スタイルになっており、つまらな
い、面倒くさい、難しい、怖いというイメージの医療安
全分野(新卒看護師は医療事故への不安を強く持ち、3年
で 3 割が辞めるといわれる)＊註12でも、イラスト多用で
若者も楽しくわかりやすく学べるようになっている。1
教材あたり長くても15～20分程度で、刻々と病状変化
のある患者を対象として時間管理が難しく、情報管理で
インターネットが遮断されている医療の特殊な現場環
境でも、業務の合間に学習しやすくなっている。また、
各教材の最後にキーワードが表示され、受講者がそのキ
ーワードを教育担当者(教育を実施する教育担当者は事
前に把握できる)に伝え合格をもらう、という形になっ
ている。合格をもらうごとにハンコをもらうので、いわ
ばハンコ集めゲームである。なお、キーワードの代わり
に、施設の役職者の氏名や採用医薬品を調べて報告する
という項目もある。さらに、Word形式で知識確認試験
案も用意しており、その施設に応じた内容にアレンジし
て試験をしてもらい、試験の合否はその施設で行っても
らう。つまり、「eラーニング」が先生ではなく、その施
設の教育担当者が先生になる形を採用している(図 1 参
照)。副教材は印刷して使う読み物である（表2・図2参
照）。「ANZENむじ子めぢ子 看護の法と倫理を学ぶ！」
は新人看護師むじ子とめぢ子をダブル主人公とするラ
イトノベル形式、「むじ子＆めぢ子 さらっと学ぶ医療安
全と倫理と法」は 4 年目を迎えた 2 人の対話形式であ
る。「メヂカルめぢ子医療安全奥義集」は啓発ポスター
および解説集である(5)。国試アプリは看護師国家試験の
アプリである(図3参照)。
Ａ 医療安全全般
(18題)
なぜヒヤリハットを書くの / 医療安全に関する国の取り組み / 5S / チームコミュニケーションツー
ル / SBAR / SBARを実践してみよう / 危険予知トレーニング / 医療システムの複雑さ-持参薬を例
に- / 看護業務と事故発生要因 / 医療事故発生のメカニズムと防止対策：認知的特性の視点から / 医
療事故発生のメカニズムと防止対策：集団的特性の視点から / 事故分析① / 事故分析② / 事故分析
③ / 患者参加型医療安全 / 医療事故時の対応 / 医療事故の紛争解決 / 学習度確認試験Ａ
Ｂ 薬・注射・輸血
(14題)
薬剤の確認 1 / 薬剤の確認 2 / 与薬確認の 6R / お薬の雑学 / 抗がん剤投与の基本手順 / 抗がん剤
の取り扱いについて / インスリンの基礎知識 / インスリンの注射手順-インスリンペン型・自己注射
- / 麻薬1：基礎知識 / 麻薬2：麻薬施用者と麻薬管理者 / 麻薬3：看護師が麻薬を扱う上での注意
点 / 輸血実施手順の概要 / 輸血事故の防止 / 学習度確認試験Ｂ
Ｃ 機器・機械
(15題)
静脈血採血：基本手順 / 達人ナース：静脈血採血編 / 鋭利器材の取り扱い / チューブトラブルを防
ぐ / 手術時の異物遺残を防ぐ / 輸液ポンプとシリンジポンプ / 人工呼吸器1：基本原理 / 人工呼吸
器2：構造 / 人工呼吸器３：換気モード / 人工呼吸器4：トラブル / NPPV(非侵襲的陽圧換気) / パ
ルスオキシメーター / ＤＣの基本 / MRI装置の基本 / 学習度確認試験C
Ｄ 療養上の世話・
その他
(13題)
転倒・転落 / 達人ナース：ベッド周りでの転倒・転落 アセスメント編 / 離床センサーの選び方と
アセスメント / 身体拘束について / 食事介助と口腔ケア：総論 / 食事介助と口腔ケア：環境づくり
とポジショニング / スキントラブル：表皮剥離 / 患者確認 / 達人ナース：患者確認編 / 感染対策の
基本 / 看護業務上の危険と防止策 1：ラテックスアレルギー / 看護業務上の危険と防止策 2：電離
放射線被曝 / 学習度確認試験D
表1：本教材項目一覧
註 1 病院看護職員の離職率が全体で 10.9%、新卒で 7.8%(6)、「職場における悩みや不満」として「医療事故を起こさないか不安」を選択した割合
が20～24歳で81.1%(1位)(7)、3年間にミスやニアミスを起こしたことがあるかないかで「ある」を選択した割合が82.9%(8)、といった各種調査もあ
る。
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オープニング画面
教材選択画面
教材のトップページ
教材(
写真・音声付き)
イラストも豊富
アニメーション
見やすい図説
理解しやすい図説
啓発
方言
クイズ形式(
三択)
クイズ形式(
空欄補充)
クイズ形式(
四択)
クイズ形式(
空欄補充)
クイズ形式(
照合)
クイズ形式(
照合)
口頭報告形式
各課題最後のキーワード
図1：本教材画面(一部)
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『ANZENむじ子めぢ子 看護の法と倫理を学ぶ！』
第1話 安全へともに踏み出す第一歩：医療安全研修(医療法6条の
12、医療法施行規則1条の11第1項)
第2話 医療記録の保存(医療法21条1項、医療法施行規則20条)
第3話 看護対象者との信頼関係(看護者の倫理綱領3条) 第4話 看護者への信頼とは(看護者の倫理綱領13条)
第5話 看護師の自己の行為の責任と能力の認識(看護者の倫理綱領7
条)
第6話 人間としての尊厳・権利の尊重と安全(看護者の倫理綱領1
条)
第7話 継続学習による能力の維持・開発(看護者の倫理綱領8条) 第8話 環境問題に取り組む(看護者の倫理綱領14条)
第9話 看護対象者の安全確保(看護者の倫理綱領6条) 第10話 患者の知る権利・自己決定権(看護者の倫理綱領4条)
第11話 平等に看護を提供する(看護職者の倫理綱領2条) 第12話 ヒヤリハットと体調管理(看護者の倫理綱領12条)
第13話 “患者のため”と診療の補助(保健師助産師看護師法5条) 第14話 主治の医師の指示(保健師助産師看護師法37条)
第15話 患者の秘密・個人情報を守る①(看護者の倫理綱領5条) 第16話 患者の秘密・個人情報を守る②(保健師助産師看護師法42条
の2)
第17話 協働して看護を提供する(看護者の倫理綱領9条) 第18話 研究活動(看護者の倫理綱領11条)
第19話 より質の高い看護の基準作り(看護者の倫理綱領10条) 最終話 看護における社会貢献(看護者の倫理綱領15条)
『むじ子＆めぢ子 さらっと学ぶ医療安全と倫理と法』
第1号 社会の中の看護 第2号 医療安全①：定義と制度
第3号 医療安全②：組織としての対策 第4号 医療安全③：個人としての対策
第5号 倫理①：定義と歴史 第6号 倫理②：各種概念1
第7号 倫理③：各種概念2 第8号 法①：総論
第9号 法②：法的責任1 第10号 法③：法的責任2
表2：副教材項目一覧
図2：副教材（一部）
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国家試験形式(
設問)
国家試験形式(
結果)
図3：看護師国家試験アプリ
めぢ子(Medico) むじ子(Mujiko) まじ果(Magica)
みじ花(Mijika) もじろう(Mojiro) しづ子(づ子ちゃん:Duko-chan)
図4：山梨OQTキャラクター
4． 教材作成のプロセス(9),(10),(11),(12)
まず、医療安全の書籍の目次等を参考に、これから作
っていく項目リストと各項目の作成担当を決め、各メン
バーは自身の割り当てられた部分について、院内の教材
やマニュアル、あるいは専門書や学会ガイドラインなど
を収集する。それをメンバー同士メールで情報共有し、
ある程度の案をまとめる。次に検討会(年3、4回開催)で
その案をもむ。検討会はおおむね土曜日にメンバーの所
属施設の会議室で、プロジェクターで資料を示しながら
行う。そこでは、各自の施設で実際どう行われているか、
どういった機器を使っているか、どういった人物(職種
や地位)がその行為を実施しているか、といった情報交
換をしながら、どうやって教えると効果的か等を検討す
る。知識のみならず経験も重要な要素となる医療安全の
特質を踏まえ、「医療安全の達人」だったらどうするだ
ろうかを考え、ノンテクニカルスキル、もとい達人技も
教材として見える形にする。ちなみに、この情報交換の
中で、メンバー自身新たな気づきもある。「教科書」の
理想を押し付けることがあってはならないため、現場に
即した形にするにはどうしたらよいか頭を悩ませるこ
とも少なくない。他に、「～～しない」で終わりにする
のではなく、対策まで書くなど、禁止・ネガティブで終
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わることなくポジティブにする、あるいは、一番印象に
残すべきポイントをどこにするか、どうやってインパク
トを与えるか、短い時間で正しく学べるか、といった実
践性の確保にも気を配る。メンバーは施設・組織こそ違
えど、現場の悩みを共有する仲間であるため、建前や理
想だけ言って終わりということではなく、実践のための
意味のある真摯な、さらには自由闊達、和気あいあい、
まさにブレインストーミングが実現した高生産性の議
論がなされる。ここで投入される無形の知恵や教育ノウ
ハウこそが山梨 OQT の大きな強みである。検討会後、
Adobe Captivateでサンプル的にアプリ化し、さらにそ
れをメール上で議論しながら教材を確定する＊註2。この
アプリ化の段階で文章や画像の無断掲載がないか等の
著作権のチェックも行う。
5. 教材作成以外の活動
教材づくりとは別に医療安全に関する研修会もほぼ
毎年開催している。2012 年度は医療安全教材の作り方
(2 回)、2014 年度はこの e ラーニングでの教育方法、
2015年度は効率的な組織内医療安全教育の構築、2016
年度は医療事故裁判例の分析(3回、なお講師の一人に弁
護士を招聘)をそれぞれ行い、主に県内から毎回10～40
数人が受講者として参加している(2017 年度は投稿時
計画中)。さらに、年一回程度、主に東京方面に“研修”旅
行をして、メンバー同士の親睦も深めている。戦略会議
でのブレインストーミング発生に必要不可欠である。
6． プロジェクトの意義
このプロジェクトは、各施設の医療安全教育を、各施
設からの知恵や教育ノウハウを出し合う形で補完しあ
うものである。地域のそれぞれの施設が持っている知的
財産を集めて、地域に還元していく試みである。地域が
地域の潜在力を活用し明るくポジティブに自前・自力の
教育活動を推進している事業である。メンバーは多少の
入れ替わりがあるが、これまで山梨県内の市立(3 市)、
県立、日本赤十字、民医連、徳洲会の病院の医療者が入
っている。世界的にもまれな、公立・私立やグループ・
系列の枠組みを超えた、地域での知的財産的連携による
大掛かりな、しかし非営利の医療安全教材の開発である。
このプロジェクトが目指す教育の形は、「eラーニング」
が先生ではなく、あくまでも現場の教育担当者が先生と
なることである。ハンコを押して合格を出すのも、施設
の実態に適合した形にアレンジした試験を出すのも、修
了証を渡すのも、その施設の教育担当者である。「eラー
ニング」が先生になってしまえば、現場での“教師―生徒”
関係がなくなってしまう。現場で教育できないとなれば、
教育のため施設外へ、たいていは都会へ出ていくことと
なり、そうであればそもそも都会の病院、大病院に勤め
てしまえばよいということになりかねない上、その施設
が培ってきた文化も継続しない。今の時代、特に地方で
は病院はどこも人手不足であり、こと医療安全に関する
教育担当者層の負担はとても大きい。日々を乗り切るこ
とに追われ、自前の教育で立派な医療人を育てたり、将
来を担う若者にとって魅力ある職場づくりをしていく
余力があまりない。そのような中、山梨OQT医療安全
eラーニングは教育担当者層の負担を減らし、かつ、教
育の水準を保ちつつその施設の現場の教育をサポート
するツールになる。また、本教材の中でところどころ山
梨県の方言が出てくる。キーワードはすべて山梨県の観
光、特産、歴史といった山梨県関連であり、山梨県の医
療施設で働く若者が山梨県をより詳しく知り、愛着をも
ってもらうためである。医療安全は良い医療の土台であ
る。どこの施設でもしっかりやらなければならないし、
完璧は難しいが全くできないものではない。身近で心が
ける医療安全は、しっかりやれば山梨県内でも、全国で
も、そして世界中どこでも通じるものである。武田信玄
が甲斐国から天下を目指したように、日本の漫画が世界
を席巻しているように、山梨OQTもプロジェクトをど
んどん大きくし、山梨の力で全国を、全世界を目指して
いこうと努力している。こぴっとがんばるじゃん！(山
梨の方言で「たくさんがんばるぞ！」)3
3註2 教材製作用ソフトウェア等は、2017年度製作時は、主として、eラーニングオーサリングはAdobe Captivate 9、副教材作成はAdobe InDesign CS6、イ
ラスト制作はAdobe Illustrator CS6、音声合成は声の職人2 for Edius、主教材使用フォントはHG-丸ゴシックM-PRO(商用購入)である。
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資 料
(1)山梨 OQT 医療安全 e ラーニング Facebook
https://www.facebook.com/yamanashioqt/
(2)奥津康祐、藤森玲子、今泉光代、渡辺久子、清水恵
子、北原克晃、野口美奈子、市村琴美、山梨OQT医
療安全 e ラーニングプロジェクトの歩み-山梨から
全国・世界へ-、病院安全教育、4(6)、pp.58-64(2017)
(3)奥津康祐、藤森玲子、今泉光代、渡辺久子、清水恵
子、北原克晃、野口美奈子、市村琴美、品川潤、各
施設における e ラーニング教材の活用と効果(前
編)、病院安全教育、5(1)、pp.10-16(2017)
(4)奥津康祐、藤森玲子、今泉光代、渡辺久子、清水恵
子、北原克晃、野口美奈子、市村琴美、品川潤、各
施設における e ラーニング教材の活用と効果(後
編)、病院安全教育、5(2)、pp.74-79(2017)
(5)メヂカルめぢ子医療安全奥義集
http://www.okutsukosuke.com/medico/
(6)日本看護協会医療政策部(編)、日本看護協会調査研
究報告<91>2017 2016年看護職員実態調査、日本看
護協会、p.25(2017)
(7)日本看護協会政策企画部(編)、日本看護協会調査研
究報告<83>2010 2009年看護職員実態調査、日本看
護協会、pp.29-31(2010)
(8)日本医療労働組合連合会、看護職員の労働実態調査
「報告書」、医療労働、臨時増刊(2017 年 10 月)、
pp.41-24(2017)
(9)奥津康祐、藤森玲子、今泉光代、渡辺久子、清水恵
子、北原克晃、野口美奈子、市村琴美、病院安全教
育、山梨 OQT 医療安全 e ラーニングプロジェクト
プロジェクトの原動力となる情報交換と教材検討
の会議、病院安全教育、5(3)、pp.100-105(2017)
(10)奥津康祐、やってみよう！院内教育用 e ラーニン
グ教材の自前作成【基礎編】教材作成の心得とさま
ざまなソフトの特徴、看護人材育成、14(3)、pp.72-
77(2017)
(11)奥津康祐、やってみよう！院内教育用 e ラーニン
グ教材の自前作成【実践編 1】教材の骨格を作る、
看護人材育成、14(4)、pp.112-117(2017)
(12)奥津康祐、やってみよう！院内教育用 e ラーニン
グ教材の自前作成【実践編 2】教材を完成させる、
看護人材育成、14(5)、pp.122-127(2017)