二次性白血病 (secondaryleukemia) secondary...

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比治山大学現代文化学部紀要,第13 号, 2 0C焔 Bu l .HijiyamaUniv.No.13 二次性白血病 (Secondaryleukemia) Secondary Leukemia 和泉奏己 田中公夫 τakaki IZUMI and Kimio TANAKA Abstract 161 We report a case the association ofspecific cytogenetic abnormalities with secondary leukemia. Therapyrelatedacutemyeloidleukemiasecondarytoinhibitorsoftopoismerase.The chemotherapeuticdrugmelphalaninducesbreakageofChromosomesregionsrearrangedin secondary leukemia. Chromosomeabnormalities insecondaryleukemiain-7/7q- -5/5q- t( 4 ; 11) (q21; q23) t (6; 11) (q27 ; q23) Keyword : Sekondary Leukemia Chromosome abnormalities. 1 .はじめに 癌の化学療法や放射線治療の進歩で,長期生存や完全治癒ができるようになった。しかし,その反 面,これらの療法後,原疾患の治療法に使用される抗癌剤や放射線に起因する白血病が生ずことがわ かっている O この白血病が,二次性白血病 (secondaryleukemia) や治療関連白血病 (therapy- relatedleukemia) と呼ばれている O 抗癌剤や放射線の細胞内の標的はDNA である o そのDNA 損傷が 新たな癌を引き起こすと考えられている O 抗癌剤では,アルキル化剤とトポイソメラーゼ E 阻害剤に より生ずる白血病に分けられる O それらは以下のような特徴がこれまで報告されている。 〈二次性白血病の病理,臨床的兆候の特徴〉 .FAB 分類では,分類不能の病型で, WHO 分類では新規にカテゴリー 3 t-MDS t-AML に分類さ れている。 -骨髄性白血病 (AML)の約10-20% が治療関連白血病である O -予後のよい病気では長期にわたり化学療法が行われる。よって,ホジキン病,多発性骨髄腫,皐丸 腫蕩,卵巣がん,肺小細胞ガンなどの予後の良い病気に二次性白血病が多く観察される O . de novo白血病に多くみられる染色体異常は治療関連白血病にも観察される,しかし,特徴的な染 色体異常は見つかっており,アルキル化剤関連白血病では 5 7 番染色体などの欠失型異常が多 い,またトポイソメラーゼ E 型阻害剤関連白血病では, 11 番染色体MLL 遺伝子を相手とする均衡 型転座が多い。ほかにt( 8;2 1)も観察される。アルキル化剤関連白血病の起因薬剤はアルキル化剤 が, トポイソメラーゼ E 型阻害剤関連白血病では, トポイソメラーゼ E 型阻害剤のポドフィロトキ シン (epipodophyllotoxin)CVP-16. VM -26) を含む化学療法が多い。 ・アルキル化剤関連白血病では,骨髄性増殖期 (MDS) を経過して, 4 -5 年の潜伏期を経る O 出る

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比治山大学現代文化学部紀要,第13号, 20C焔Bul. Hijiyama Univ. No.13, 2αぁ

二次性白血病 (Secondaryleukemia)

Secondary Leukemia

和泉奏己 田中公夫

τakaki IZUMI and Kimio TANAKA

Abstract

161

We report a case the association ofspecific cytogenetic abnormalities with secondary leukemia.

Therapy related acute myeloid leukemia secondary to in hibitors of topoismerase. The

chemotherapeutic drug melphalan induces breakage of Chromosomes regions rearranged in

secondary leukemia.

Chromosome abnormalities in secondary leukemia in -7/7q-, -5/5q-, t(4 ; 11) (q21 ; q23) ,

t (6; 11) (q27 ; q23)

Keyword : Sekondary Leukemia Chromosome abnormalities.

1 .はじめに

癌の化学療法や放射線治療の進歩で,長期生存や完全治癒ができるようになった。しかし,その反

面,これらの療法後,原疾患の治療法に使用される抗癌剤や放射線に起因する白血病が生ずことがわ

かっている O この白血病が,二次性白血病 (secondaryleukemia)や治療関連白血病 (therapy-

related leukemia) と呼ばれている O 抗癌剤や放射線の細胞内の標的はDNAであるo そのDNA損傷が

新たな癌を引き起こすと考えられている O 抗癌剤では,アルキル化剤とトポイソメラーゼE阻害剤に

より生ずる白血病に分けられる O それらは以下のような特徴がこれまで報告されている。

〈二次性白血病の病理,臨床的兆候の特徴〉

.FAB分類では,分類不能の病型で, WHO分類では新規にカテゴリー 3のt-MDS,t-AMLに分類さ

れている。

-骨髄性白血病 (AML)の約10-20%が治療関連白血病である O

-予後のよい病気では長期にわたり化学療法が行われる。よって,ホジキン病,多発性骨髄腫,皐丸

腫蕩,卵巣がん,肺小細胞ガンなどの予後の良い病気に二次性白血病が多く観察される O

. de novo白血病に多くみられる染色体異常は治療関連白血病にも観察される,しかし,特徴的な染

色体異常は見つかっており,アルキル化剤関連白血病では 5,7番染色体などの欠失型異常が多

い,またトポイソメラーゼE型阻害剤関連白血病では, 11番染色体MLL遺伝子を相手とする均衡

型転座が多い。ほかにt(8;21)も観察される。アルキル化剤関連白血病の起因薬剤はアルキル化剤

が, トポイソメラーゼE型阻害剤関連白血病では, トポイソメラーゼE型阻害剤のポドフィロトキ

シン (epipodophyllotoxin)CVP-16. VM -26)を含む化学療法が多い。

・アルキル化剤関連白血病では,骨髄性増殖期 (MDS)を経過して, 4 -5年の潜伏期を経る O 出る

162 和泉 嘉己・田中公夫

病系はALLなどリンパ性白血病は少なく,骨髄性白血病 (AML)が多い。骨髄性異形性症候群

(MDS) とAMLM2が多く,ついで, AMLM4, M5であるo

-巨赤芽球性変化や異常巨核球が観察される。三血球系の異常を持つ。感染と出血を起こしやすく化

学療法には不良であるロ

・トポイソメラーゼE型阻害剤関連白血病では,骨髄性増殖性期 (MDS)を経過せず,潜伏期 1・3

年で, AMLM4 (骨髄単球性), M 5 (単球性)が多い。化学療法には良好である o 以上のこれの関

係は表 lにまとめて示した。

この論文では,これまで,私たちが経験した,二次性白血病症例の染色体異常と,病型,細胞形態

の関係について調べ,特に放射線治療関連白血病についてはまだ不明の点が多いため,特徴を明らか

にするために,これまでの文献例と比較した。

2.患者と方法

患者試料:二次性白血病は広い意義では,原疾患から自然経過で移行した白血病も含まれるが,この

報告では除外した。それらは慢性骨髄増殖性疾患 (MPD)(慢性骨髄性白血病,真性赤血球増加症,本

態性血小板血症,原発性骨髄線維症),と骨髄性異形性症候群 (MDS),発作性夜間血色素尿症

(PNH)である O それらは急性骨髄性白血病 (AML)に移行することがあるo

この研究では,これまで,われわれが経験した21名の患者の染色体,病型,細胞形態を検査し,こ

れらの関係を調べた。染色体観察では一部の症例では 蛍光インサイチュハイプリダイザエーション

(in situ hybridization) FISH、法も併用して観察した。 FISH法については以前の論文で詳しく述べた。

3.結果と考察

(1) 細胞形態

これまで, 21名の二次性白血病患者を経験した。表2に原病気,発生した白血病型と原疾患から二

次性白血病が発症するまでの期間を示した。細胞形態を図 1(A) (B)に治療後に白血病を発症したい

はゆる二次性白血病(小児AML)の骨髄像で示した。

(2) 染色体検査

これまで, 21名の患者の染色体を検査した。結果を表2に示した。原疾患の内訳は,乳がん 2名,

胃がん 6名,喉頭がん3名,子宮頚がん 2名,子宮がん 2名,皮膚がん l名,肺がん 2名,尿細管が

ん(腸脱がん)1名 悪性リンパ腫2名であった。 1名は胃がんと尿管がんをともに持った。

また,原疾患の治療では,アルキル化剤は, MMC, ADR,オンコピン, 2Fu, 5Fuエンドキサ

ン,ラステットなどで 6名, トポイソメラーゼ E型阻害剤はVP16,など2名,放射線治療は11名

(表2にRadiationと記載しである)であった。この中 l例には これらのうちの三個で治療されてい

た。 4名は二次性白血病と判断されたが,治療薬が不明であった。

アルキル化剤関連白血病では, AMLM2, M4が各2例出現していた。トポイソメラーゼE型阻

害剤AMLM4が2名,であった。この治療薬と病系の関係の結果は,ア16番染色体逆位(inv(16))こ

れまでの報告とよく一致した。また放射線治療では, AMLM5 b, M2, M4が2例, MlかM2,

M1, M4?M1?かM4?,AML (FAB不明)とCML,MLであった。放射線治療では,特定の病系

はなくて,多くの病系が出現していた。

二次性白血病(Secondaryleukemia) 163

表 1 二次性白血病の特徴

トポイソメラーゼ阻害剤関連

3年以内

無し

AMLM4, M5

比較的良好

t (4;1l)

t (1l;I9)

t (6;1l)

t(9;1l) t (3;21)

t(8;21)

t(15;I7)

t(8;I6)

t(6;9)

inv(16)

表2 二次性白血病患者に見られた染色体異常

特 徴

薬剤投与から発症までの期間

MDS先行の有無

二次性白血病の病型

治療効果

多く観察される染色体異常

アルキル化剤関連

5-7年

有り

AMLM1, M2

不良

"ー7Idel(7q)"" -51 del (5q)" deI(17p)

del(l2p)

del(20q) ,ー18"

"+8"

dup(lq)

連一関一療一治一噛出q

-

q

F

加一?無??-?

"-7/deI(7q)"

"ー5/der(5q)"

del(20q)

症例N 年齢・性原疾患 原疾患の治療0.

39F 乳癌 Radiat町、:14.92Gy ;町lastectomy

255M 胃癌

癌性次・

二一日一M

癌問一期一

性の一で一

次ま一現

一手

一出一引

14年 M2

MMC, 6mg ; gastorectomy

3 68M 喉頭癌 Radiation: 3.4 Gy; 7年

laryngorectomy

4 68M 喉頭癌 3年

Radiat悶l:6Gy;laryngealpolypectomy

5 65F 子宮癌 Radiat附記8.492Gy 4年

6 74F ML 4年

Radiation ?

7 69M 喉頭癒 R剖iation? 2.5年

8 56M ML ADR, Radiation: 3.6年

VP16; 2FU, PCZ, PSL

9 7lF 子宮癌 Radiat問、coガンマ線 9.7年

10 64F 乳癌 7.3年

乳房切除、

フルエード内服

11 7lF 子宮癌 Radiation coガンマ線 6.3年

;Iシドキサシ

12 91M 皮膚癌 12.3年

13

14 -癌

尿

M

M

nLFb

poιu

Radiation coガンマ線

;どシ/'I.二一Jf"、

オンコピシ;BTIC,ACVU

胃癌摘出術

15

16

64M 肺癌

74M 胃癌

胃癌摘出術;

尿菅癌はtuRBT手術

;手術後VP-16内服

不明

17 ιF

ツ-

;

切司:部分

mMWい部

U

U宮

不左

αuy子占癌

小胞癌{百

M

M

山18

19

Radiat町、:Coガンマ線

却 65M 肺癌

O年 ML

胃癌から13年、 M4

尿細菅癌から3年

0.1年 M4Eo

O年 M2

1.6年 M3

二次性癌の染色体異常

M2

45氾,-A,t (Bq;Dq+) 146,XX 42,XY,ー7,-13,-17, -18,ー21,+nlar,t(5;7) (q11;q32),

t(8;21) (q22;q22) 146,XY"ー7,+nlar,t (5:13) (q32;q13),

t(8;21) (q22;q22)ょ(9;22)(q34;q11) ,add (17q) (q?l)

45,XY,-9,deJ(5) (pll),del(4) (q21) ,del (8) (q24) ,

del (9) (q32) ,+ 1-84dmin

48,XY, -1, -1,+3,ー10,-14, -18,+add (l) (q32) ,

+der (1) t (1;3) (q32;q22) ,der (4)t (4;8) (q25;q13),

t (9;22) (p22;q11) ,der(14)t (13;14) (q11;q11)

46,XX,t (9;22) (q34;qll) 46,XX, -4, -5,add (6) (p23) ,del (7) (q22q35) ,add (8) (p23)

戸i(8)(qlO) ,ー9,add(17)(pll)

46,XY,-15,del(20) ((q11q12)六nlarx2

46,XY, add (1) (p22) ,del (l) (q12) ,del (3) (p11), -5,ー7,

deJ(l2) (p11),-17,-17,・2O,+nlar1,+mar2,+mar3

46,XX

46,XX,dup(1) (q25q44) ,del (4) (q25q28) ,del (5) (ql3q31),

,I(ll) (qlO),add(l2) (p11),deJ(l3) (ql2q14) ,-14,+17

,der(l9)t (?11;19) (q13;q13)

41,XX,ー5,ー7,ー15,-20,ー21,-22,+2r/41,XX, -5, -7,ー11

,ー19,-20, -21,+nlar

ML

CML

M4

AML

M4

M1orM2?

AML

(FAB不明)

M1

M4?

45,XY,ー7,/46,XY

46,XY

46,XY,inv(l6) (p13.3q22)

46,XY,inv(l6) (pl3q22)

46,XY,-8,ー11,+nlarl,+mar2145,XY, -6,ー18,-21

,+mar1,+mar2

5.9年 M2

36年 M1?orM4

46,XYょ(15;17)(q22;q11) 146,XY,idem,t(5:l9) (q22;q13)

45,XY,ー21/45,XY,idem,add(?9) (q22)

?年

不明

258M 胃癌 不明 ?年

ML:悪性リンパ腫,太字:放射緩治療,イタリック :f古学療法

M6

46,XX

44,Y,-X,inv(4) (p1判35),-5,del(7)(ql1) ,add (13) (q34)

,add(l7) (p11) ,-19,add (21) (pll),+nlar

46,XY,t(8;21) (q22;q22) 不明

164 和泉嘉己・田中公夫

これらの二次性白血病で観察された染色体異常は,アルキル化剤関連白血病の 6名(症例 2,8,

11, 12, 17, 18)では,モノソミー 7(-7) 2名,モノソミー 5(-5) 1名, 5番染色体欠失(del(5))

1名,モノソミー21(一21),-13, del (13)が 1名であった。序論で述べたように,これまでもアルキ

ル化剤で 5番 7番の染色体異常が多く出現する事が知られている事と一致した。

また, トポイソメラーゼE型阻害剤関連治療白血病2名(症例 8,14)では, AMLM4が出現して,

add(l), -5,ー7などの欠失が,もう l名では, 16番染色体逆位の異常(inv(16))が観察された。これ

は, トポイソメラーゼE型阻害剤関連治療白血病で転座型異常が多く出現するとの報告と一致した。

放射線治療関連の白血病(症例 1,4, 5, 6, 7, 8, 9, 11, 12, 19)では,数多くの異常が観

察され,特徴的な異常や切断数はみられないが,各症例がt(Bq;Dq); del(5), del(9);der(l),

der (4)t (4 ; 8), der (14)t (13; 14), t (9; 22) (q34 ; q11);ー5,del(7), add (6), add (8), add (17);寸5,

del(20); add (1), del(3), -5 ,ー 7,del(12), -17,ー20;ー5,ー7,-20, -21; -7;などで複雑な異常が

みられ 2名(症例13,19)は染色体異常は観察されず,正常核型であった。この頻度は,通常AML

の約40%が正常核型を示すんので,はるかに少ない頻度である。このなかで, 4名に 5,7番染色体

のモノソミーか欠失が, 3名に20番の異常モノソミーか欠失 (del(20), -20)が観察された。なかで

も 5番, 20番染色体に異常が多いことは, 1.5km以内の近距離での広島で、の原爆被爆者がこれまで,

観察されており,興味がある。

他に, FABの病系に特異的異常であるt(8; 21), t(15; 17)が各 l例づつに,しかし,この異常

が見つかった症例の治療歴は不明であった。 inv(16)が前に述べたように 2例のトポイソメラーゼE

型阻害剤関連治療白血病にみつかった。興味あることに l例はー 5. -7の異常とともに, t( 8 ;

21), t( 9 ; 22)を持った。これまで t(8 ; 21) , t( 9 ; 22)をともに持つ報告例は世界でも数例程度の

報告しかない。 1例(症例 3)にはdoubleminute (DMs)染色体がみられた。代表的な染色体異常を図

2,図 3,図 4に示した。

(3) FISH法解析

21名中 8名はFISH法を用いて,出現した二次性白血病の染色体異常をさらに詳しく調べた。それ

らの多くは, 2 -3個以上の染色体が,異常に関与しており,大変複雑な異常を示したが,そのなか

で,興味ある新しい事実がみつかった。それは図 2(A)に模式図に示すように,染色体一部領域が他

の複数の染色体異常部位に移動する現象である, Segmental ]umping translocation (S]T)である O こ

れらFISH法で調べた 8名のなかの 4名において, ABL癌遺伝子を含む染色体領域が他染色体に移

動することがみつかった(図 2B, C) 0 図2Bに悪性リンパ腫からM2になった症例の染色体上にOで

ABL遺伝子の存在部位を示している。代表的なFISHの画像を図 3(A),に示した。ここではABL遺

伝子の細胞内にシグナルが3個観察された。 3個目のシグナルは 図2Cの図に示すように他のマー

カー染色体上に移動していた(この症例をFISH法で調べると,図 2CにOでABL遺伝子の存在部位

を示している)。この用な例は他の染色体領域にも観察される。図3(B), (C)は二次がんではないが,

他の悪性リンパ腫に観察された11番染色体11q23領域のCD3やMLL遺伝子を含む領域のS]Tである o

ここではCD3遺伝子のシグナルが 1細胞あたりに 6個存在下した(図 3Bの右の細胞内)0 図3Cで

はそのシグナルが11番以外の複数の染色体上に存在していることをFISH法の写真で示した。また 1

例(症例 3)では, double minute (DMs)染色体が観察された。その症例ではMYC癌遺伝子が増幅

していることが,サザン法で確認されている。この機構には細胞分裂ごとに,姉妹染色体分体交換が

生じ, ABL遺伝子を含む領域が移動することが考えられる O これらのことから,二次性白血病では,

治療薬によるDNA損傷のために,ゲノム不安定性を誘導するなど,なんらかの理由で,がん化過程

に影響を及ぼして,出て来た白血病に複雑な染色体異常が観察される O 高線量の放射線に被曝してで

二次性白血病(Secondaryleukemia) 165

きた,原爆被爆者の白血病にも 1例にS]Tが観察されている(図 5B)o放射線治療白血病では,酒井

らは,国立がんセンター症例中の147例中に二次性癌が観察され,軟部組織肉腫が39例 (26%),白血

病は第2位で23例(16%)であったo その他,英国での強直性脊椎炎のX線治療患者,米国での真性

赤血球増加症 (PV)での32p治療患者に白血病が多く出現している。その他,乳がん,卵巣がん,子

宮がんの放射線治療後に白血病が多く出現すると言われている D われわれの経験し,観察した二次性

白血病,原爆被爆者白血病と自然白血病のよく観察される異常を図 5Aにまとめてみた。二次性白血

病では, 11q23 (CD 3)領域の重複 9番染色体9q34のABL遺伝子のS]T,7番染色体のモノソミー

が比較的多く観察された。これら違う発がん因子ががん化過程に寄与していると考えられる。

参考文献

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3.友安茂・柿本綱之 二次性白血病の発病要因と治療・予防 Medicinavo1.34, noムpp1108・

. 1110,1997

4. M. Eguchi et al, Int ] Hematol. 78, 390-401, 2003

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6. K. Tanaka and N. Kamada, Leukemia and Lymphoma 29,563-575,1998

7. K. Tanaka et al, Blood 89, 596-600, 1997

8. K. Tanaka and N. Kamada, Atomic bomb-induced leukema, pp.27-30, IES Sympo. 2003

9.酒井邦夫他悪性腫療の放射線治療後における二次発がん 日本医学放射線学会誌46,811-818,

1986

図説明

図1 骨髄細胞の形態

図2 (A) S]Tの機構の模式図 9番染色体のABL遺伝子が複数の染色体部位に移動する O

S]TはHSR,DMsと同様の遺伝子増幅の 1形態である o (B)症例 8; ABL遺伝子のS]Tが見ら

れた。 oがABL遺伝子に存在場所,複数個所に見られる o (C)症例 7; ABL遺伝子のS]Tが

見られた。 oがABL遺伝子に存在場所 2個のマーカー染色体 (marl, 2)の個所に見られる D

図3 FISH解析 (A)症例 7; 1細胞内に 3個のABL遺伝子シグナルあり, S]Tが見られた。 (B)

悪性リンパ腫症例(この表以外の) ; CD3遺伝子のS]Tが見られる O 細胞内にCD3遺伝子が

6個ある o (C)悪性リンパ腫症例(この表以外の) ; CD3遺伝子が 11番染色体以外の複数

のヵ所に観察される O 染色体上の赤いシグナルがCD3遺伝子

図4 (A)症例 6,(B)症例15,(C)症例3のDMs(double minute)染色体が多数みられる口最大84

個観察された。黒い点がDMsで、ある。

図5 (A)二次性白血病,原爆被爆者白血病,非非被ばく自然白血病の染色体異常の比較, (B)二次

性白血病,原爆被爆者白血病のABL遺伝子のS]Tによる遺伝子増幅の頻度比較S]Tは特に二次

性白血病に多くみられたO

和泉莞己(社会臨床心理学科)

田中 公夫((賊環境科学技術研究所生物影響部)

(2006. 10. 12 受理)

泉 夫>>-.t->. 中田己

図 1

莞和166

9

a世側、• Marker chromosomes DMs

~o' .、,.-'¥~今

(A)

~~ 炉 、吉 凶白色・・

g

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'h

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22

(C)

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図 2

~(

(8)

, ‘.

1

-二次性白血病 (Secondaryleukemia) 167

(A)

FISH DAPI

(8) (8)

(C)

図 3

168

《マ号zが 御、・:f〆

a程il、ヘ

e

13

19

部分重複

I 欠 失11q231

(CD3) I CD3YAC 再構成

MLL 遺伝子内再構成

9q34 (ABL)遺伝子増幅

Monosomy7

・‘守,e霊長、l

2 3

宅'島 h 〆、 γ 噌吃

ア 8 9

復員

14 ld

20 21

(A)

ロ 原爆被爆者白血病 . 二次性白血病

和泉 嘉己・田中公夫

e、が9・r

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守鎌 あ一 " ... .'、e‘轟-

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裕 17 18

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(C)

図4

80(%)

)J )) 2

}i 11 6 7

義違 喜善13 14

語辞聾 書室

19 20

二次性白血病

原白爆血被病爆者

非被曝白血病

11 1<< 3 4

'1 11 I1 8 9 10 11

議事 主主 芝草

ld 16 17

4島 .. <<;与

21 22

(8)

症例数 ABL 遺伝子増幅

8 陽陰性性 3※ 05 75%)

7 陽性 1※(14.3%) 陰性 6

12 O

ロ非被曝白血病 ※ 1名の同一症例を含む

IC 5

12

事義

18

ま義XY

染複色雑体型異常

3 4

6

3

(A)原爆被爆者白血病,二次性白血病の遺伝子異常の比較 (B)二次性白血病,被爆者白血病にみられたABL遺伝子増幅

図5