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地層の堆積に関する見方や考え方を広げる地学指導 - 教科書に掲載されている地層に着目して - Geology teaching insights and ideas to expand on the deposition of strata - Focusing on the strata in the textbook - 近江 Ohmi , Tadashi 勝市立勝中学校 Katsuura Junior High School, Katsuura, Chiba, Japan [要約] 中学校1学年「大地の成り立ちと変化」の学習において,教室でも臨場感をもって実 感できる地学指導の開を行った。さらに,地層に対する理解をめ,地層の堆積に関 する見方や考え方を広げることをねらいとして,教科書に掲載されている地層(夷隅地 域の砂互層)の堆積環境や成因を推定する学習の指導計画及び教材を考案し,検証授 業を行った。 [キーワード] タービダイト,堆積,砂互層,臨場感,夷隅,太田代層 研究主題について 中学校学習指導要領解説理科編(文科学省 2008)では,地層の重なりと去の様子の学習 に関して,「地層の成因や堆積環境,生成年代を 推定することを通して,大地は長い時間と広い 空間の中で変化していることを理解させること がねらいである」としている。そのためには, 地層の成因や堆積環境の説明にした露頭を教 材化し,積極に用していくことが大切であ る。 千葉県中南には,第三紀鮮新世から第四紀 更新世にかけてい底で形成された 「砂互層」が数多く露頭として存在し,小学 さでいごそう 校及び中学校の教科書に,その露頭の写真が数 多く掲載されている。しかしながら,このよう に地質環境に恵まれている千葉県中南に位 置する夷隅地域の中学校においても,露頭観察 などの地域の教育資源を積極に用した指導 例は少なく,地層の学習に関する指導の難しさ を感じている教員も多い。その要因として,地 域に価値の高い露頭があっても,その成因や堆 積環境などの背景を教員が十分に認識できてい ないことや,生徒が地層の成因を学習する上で 乱しやすい内容があること等があげられる。 このため,授業で扱う地層に関する情報を整理 することが必要である。そして,指導のポイン トを明確にし,さらに学習を効果に補助する ための教材開を行うことが大切だと考える。 本研究では,しま模様の地層として教科書に 掲載されている夷隅地域の砂互層に着目し, いすみ 校外での露頭観察が困難な学校においても,臨 場感や実感を伴って,主体に地層の学習に取 り組むことのできる教材の開や指導方を追 究したい。さらに,砂互層の堆積環境や成因 を推定する学習を通して,大地の時間・空間 なダイナミッ クな変化を理解 し,地層の堆積 に関する科学 な見方や考え方 を広げる教材の 開や指導方 図1 教科書に掲載さてい夷隅 の追求をしたい 地域の砂泥互層 と考え,本主題を設定した。 研究目標 教科書に掲載されている地層に着目して,臨 場感のある空間な広がりを,教室でも実感で きる地学指導の有効性を明らかにする。 研究の実際 研究仮説 (1)映像資料と採取サンプルを組み合わせた 教材を用すれば,生徒に臨場感を与え,実感 55

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地層の堆積に関する見方や考え方を広げる地学指導---- 教科書に掲載されている地層に着目して -

Geology teaching insights and ideas to expand on the deposition of strata

- Focusing on the strata in the textbook -

近江 正

Ohmi , Tadashi

勝浦市立勝浦中学校

Katsuura Junior High School, Katsuura, Chiba, Japan

[要約] 中学校1学年「大地の成り立ちと変化」の学習において,教室でも臨場感をもって実

感できる地学指導の開発を行った。さらに,地層に対する理解を深め,地層の堆積に関

する見方や考え方を広げることをねらいとして,教科書に掲載されている地層(夷隅地

域の砂泥互層)の堆積環境や成因を推定する学習の指導計画及び教材を考案し,検証授

業を行った。

[キーワード] タービダイト,堆積,砂泥互層,臨場感,夷隅,太田代層

Ⅰ 研究主題について

中学校学習指導要領解説理科編(文部科学省

2008)では,地層の重なりと過去の様子の学習

に関して,「地層の成因や堆積環境,生成年代を

推定することを通して,大地は長い時間と広い

空間の中で変化していることを理解させること

がねらいである」としている。そのためには,

地層の成因や堆積環境の説明に適した露頭を教

材化し,積極的に活用していくことが大切であ

る。

千葉県中南部には,第三紀鮮新世から第四紀

更 新 世 に か け て 深 い 海 底 で 形 成 さ れ た

「砂泥互層」が数多く露頭として存在し,小学さでいごそう

校及び中学校の教科書に,その露頭の写真が数

多く掲載されている。しかしながら,このよう

に地質的環境に恵まれている千葉県中南部に位

置する夷隅地域の中学校においても,露頭観察

などの地域の教育資源を積極的に活用した指導

例は少なく,地層の学習に関する指導の難しさ

を感じている教員も多い。その要因として,地

域に価値の高い露頭があっても,その成因や堆

積環境などの背景を教員が十分に認識できてい

ないことや,生徒が地層の成因を学習する上で

混乱しやすい内容があること等があげられる。

このため,授業で扱う地層に関する情報を整理

することが必要である。そして,指導のポイン

トを明確にし,さらに学習を効果的に補助する

ための教材開発を行うことが大切だと考える。

本研究では,しま模様の地層として教科書に

掲載されている夷隅地域の砂泥互層に着目し,いすみ

校外での露頭観察が困難な学校においても,臨

場感や実感を伴って,主体的に地層の学習に取

り組むことのできる教材の開発や指導方法を追

究したい。さらに,砂泥互層の堆積環境や成因

を推定する学習を通して,大地の時間的・空間

的なダイナミッ

クな変化を理解

し,地層の堆積

に関する科学的

な見方や考え方

を広げる教材の

開発や指導方法 図1 教科書に掲載されている夷隅

の追求をしたい 地域の砂泥互層

と考え,本主題を設定した。

Ⅱ 研究目標

教科書に掲載されている地層に着目して,臨

場感のある空間的な広がりを,教室でも実感で

きる地学指導の有効性を明らかにする。

Ⅲ 研究の実際

1 研究仮説

(1)映像資料と採取サンプルを組み合わせた

教材を活用すれば,生徒に臨場感を与え,実感

55

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を伴った理解を深めることができるであろう。

(2)教科書に掲載されている砂泥互層の堆積

環境や成因を推定させれば,大地の時間的・空

間的なダイナミックな変化を実感し,地層の堆

積に関する見方や考え方が広がるであろう。

2 研究の方法

(1)検証単元に関する実態を把握する。

(2)千葉県内の地層学習に有効な露頭を調べ

る。

(3)検証授業の学習プログラムを作成する。

(4)地層学習に活用できる教材を開発する。

(5)検証授業の実施,分析を行う。

3 研究の具体的内容

(1)検証単元に関する実態調査

ア「地層」についての指導状況調査及び意識調

査(質問紙法,対象:小中学校34校の小中学校教員,

調査期間:平成22年6月,回答:小学校36名,中学校17

名)

図2の露頭観察の実施状況については,小学

校では 約97%という高い実施率であったが,

中学校においては約35%という低い実施率であ

った。その理由について聞き取り調査を行った

ところ,中学校では,「時間的な制約が大きい」,

「学習内容に対応した様々な露頭が少ない」,「現

場の地層の堆積環境や成因など中学校で指導す

べき内容の理解が不足し指導に不安がある」等

を主な要因として,露頭観察を実施していない

教員が多いことがわかった。このことから,露

頭観察が困難なケースにおいても,臨場感や実

感が得られる教材を開発することが重要である

と考えた。

また,図3の砂泥互層の成因の認識について

は,実際とは異なる隆起・沈降の繰り返しが成

因だと考えたり,分からないと答えた教員が小

学校で約72%,中学校で約93%にのぼった。中

学校教員の方が数値が高くなった理由について

は,地域で行われた露頭の研修会への参加が中

学校教員の方が少なかったこと等があげられる

が,いずれしても砂泥互層の成因に対する認識

が不十分な教員が多い実態が明らかになった。

このことからも,地層の堆積環境や成因に関し

て,指導内容を整理することが急務であると考

えた。そこで,教科書に掲載されている夷隅地

域の砂泥互層について調査し,その堆積環境や

図2 露頭観察の実施状況について

図3 砂泥互層の成因の認識について

成因を推定する指導計画を考案し,それに基づ

く実践を通して,地層の堆積に関する見方や考

え方を広げさせることに重点を置いて,本研究

を進めることにした。

イ「地層」に関する知識・理解の事前調査

(質問紙法,対象:検証授業を行う中学校1学年生徒

67名,調査期日:平成22年9月30日)

河口付近の堆積の様子に対する問いでは,図

4のアのように,大きな粒の上に小さな粒が堆

積すると答えた生徒が約94% と多数を占めた。

これは,河口付近の堆積が流水の影響を受けて

沖合方向に広がっていくイメージと結びついて

いないことが大きな要因と考える。そこで,本

研究においては,特に地層の堆積条件を明確に

して,適切な認識がもてる実験,実習のあり方

を示したい。

問い.

河口付近に運ばれた

土砂は,一般的には次

のア,イのどちらのように

堆積しますか?

ア イ

図4 河口付近の堆積に関する質問

河口付近の堆積の様子

94%

6%

ア 不適切 イ 適切

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(2)千葉県内の露頭調査 について

表1 現地踏査の実施内容

調査地域 調査地点(主な調査対象)

県中南部地域 いすみ市文化とスポーツの森(太田代層の砂泥互層),勝浦中学校付近(勝浦層のシルト岩),勝浦市鵜

原海岸付近(黒滝層と清澄層との黒滝不整合,Hkタフ),大多喜町粟又(シロウリ貝化石),大多喜町

会所(黒滝層と安野層との黒滝不整合),亀山湖周辺(黄和田層の泥岩),鋸山周辺(稲子沢層中のHk

タフ,千畑層の礫,褶曲構造),上総湊周辺(長浜層の礫,岩坂層の火山灰層)

県北部地域 旧印旛高校付近(木下層の貝層)

県南部地域 南房総市フラワーパーク付近(褶曲構造,洗濯板状の地層),野島崎灯台付近(野島崎層の礫),鴨川市

江見海岸(江見層の泥岩,付加体),館山市赤山地下壕跡(鏡ヶ浦層の立体的な地層断面),館山市沼(沼

層のサンゴ化石)

銚子地域 犬吠埼周辺(白亜紀の砂泥互層),屏風ヶ浦付近(飯岡層の海食崖)

(3)検証授業の学習プログラム(全8時間扱い)

実 小単元名 ねらい 学習内容 映像資料 活用教材 モデル実験(実験,観践 ※採取サンプル 察,実習,演示を含む)

① 地層をつくる ○地層を構成する粒 ・地層を構成する粒 ・衛星画像(千葉県,いすみ市) ・左官砂 1 土砂のふるい分け

堆積岩 の種類や大きさが の大きさを調べる ・3D画像(いすみ市,勝浦市,

理解できる 銚子市,睦沢町)

② ○堆積岩の特徴を理 ・堆積岩の特徴を調 ・クローズアップ画 ※泥岩(いすみ市, 鴨川市) 2 堆積岩を調べる

解し,分類できる べる 像(勝浦市,鴨川市) ※凝灰岩(いすみ市)

・千葉県の地質図 ・堆積岩標本

③ 地層のつくり ○地層のつくりや広 ・露頭の写真及び採 ・クローズアップ画 ※砂岩,泥岩(いすみ市) 3 -1写真の地層の堆

がりを調べるため 取サンプルから各 像(いすみ市,勝浦中周辺露頭) 積岩を調べ,柱状図

地層の広がり に柱状図やボーリ 地層の堆積岩を同 を作成する

ング資料があるこ 定し,柱状図を作 ・ボーリング資料 3 -2学校の地下の様

とを理解できる 成する (勝浦中) 子を考察する

④ ○地層の広がりを知 ・離れている地層を ・衛星画像(鋸南町,君津市、 ※ Hk 凝灰岩(鋸南町, 4 -1離れた地点の凝

るには「かぎ層」 調べ,広がり方の 勝浦市) 君津市,勝浦市) 灰岩を比較する

が手がかりになる 規則性を考察する ・クローズアップ画 ・紙粘土地層模型 4 -2つながりのある

ことが理解できる 像(鋸南町,君津市、勝浦市) 地層を探す

⑤ 堆積岩や化石か ○化石の種類によっ ・千葉県内で採取し ・衛星画像(印西市,大多喜町) ※貝化石(印西市,大多喜町) 5 化石を調べる

らわかること て,当時の環境や た化石と示相化石 ・クローズアップ画 ・化石標本

年代を推定できる 及び示準化石標本 像(印西市, 大多喜町)

を調べる ・3D画像(化石サンプル)

⑥ 地層の変形 ○断層や褶曲が,大 ・断層や褶曲のでき ・衛星画像(勝浦市,鋸南町, ・地層の出現模型 6 -1地層が陸上で見

地の変動と関係し 方を調べる 宮城県) ・しゅう曲,断層 える理由(演示)

ていることを理解 ・クローズアップ画 実験装置 6 -2しゅう曲や断層

できる 像(勝浦市,鋸南町,宮城県) のでき方を調べる

⑦ 地層はどのよう ○粒の大小による水 ・れき,砂,泥の水 ・クローズアップ画 ※砂岩,泥岩(いすみ市) 7 -1流水中での泥,

にしてつくられ 中での動きの違い 中での動き方の違 像(いすみ市) ・土砂の粒の動き 砂,れきの動き方を

るか を理解できる いを調べる を調べる実験装 調べる

○地層のでき方や重 ・河口付近では土砂 置 7 -2河口付近の堆積

なり方の規則性を がどのように堆積 ・水路実験装置 のようすを調べる

理解できる するかを調べる

⑧ [発展]しま模 ○砂泥互層の成因や ・しま模様の地層が ・クローズアップ画 ・過去の地形模型 8 -1しま模様の地層

様の地層(砂泥 堆積環境,生成年 どのような環境で 像(いすみ市,有孔虫化石) ・土石流発生装置 の堆積環境を調べる

互層)から分か 代を理解できる どのようににして ・VTR(タービダイト) 8 -2しま模様の地層

ることは何か できたかを調べる のでき方を調べる

(4)地層学習に活かせる教材の開発

ア 臨場感をもって実感できる映像資料と採取サンプルを活用した教材の開発

(ア)クローズアップ映像と採取サンプルを組み合わせた教材の開発

衛星画像(Google Earth) 採取サンプル

図5 クローズアップ映像(いすみ市文化とスポーツの森) ↓

モデル実験【3 -1堆積岩の同定, 3 -2柱状図づくり, 7 -1水中での粒の動き】

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衛星画像から採取サンプルまで段階的にクロ

ーズアップさせた映像をプロジェクタでスクリ

ーンに投影し,映像で提示した採取サンプルを

実際に用いてモデル実験を行った。衛星画像は,

Google Earth(www.google.co.jp)を用いれば,

露頭の場所が確認できる程度の画像を提示する

こともできる。クローズアップ映像は,生徒が

実際に地層に近づいていくイメージを意識しな

がら,デジタルカメラで段階的に撮影した。こ

の映像教材を活用することによって,大きな視

点をもたせる場面から,細かな観察の視点をも

たせる場面まで,一連の流れで提示することが

できる。さらに,映像で提示した採取サンプル

を使用することによって,臨場感をもって実感

できる実習が可能となると考えた。

(イ)3D映像の作製

3D映像は,授業で扱う露頭をデジタルカメ

ラで撮影し,フリーソフトの Anaglyph Maker

(http://www.stereoeye.jp/)を使って加工すれば,

一枚の写真か

らでも簡単に

作製ができる

(図6)。3D

映像の活用法

については,

3D映像をプロ 図6 作製した露頭の3D映像

ジェクタでス

クリーンに投

影し,それを

市販の3Dメ

ガネ(図7)

を使って各生

徒が見る形態で 図7 使用した3Dメガネ

行った。この教材を活用することによって,立

体的なイメージをもたせる資料提示がしやすく

なると考えた。

イ 地層の堆積に関する教材の開発

研究仮説2より,地層の堆積に関する見方や

考え方を広げることをねらいとして,次の(ア),

(イ)に示す教材の開発を行った。

(ア)地層の堆積に関する基本的な理解を深め

る教材の開発

地層の堆積に関する学習の指導の流れを表2

のように整理した。ここでは,特に「土砂の流

水中での動き」から「河口付近の堆積」に関連

づける指導に重点を置いた。また,流水中での

表2 地層の堆積に関する学習の指導の流れ

土砂の動きの違

いを調べるため

に,図8の教具

を開発した。こ

れは,市販の発

泡素材のボール

皿の中央に小型の 図8 流水中での粒の動き

紙コップを接着

させたものであ

り,簡単に製作

ができる。使用

法は容器に水と

土砂の粒をひと

つまみ入れ,ス 図9 河口付近の堆積の様子

プーン等で一定の速さでかき混ぜ,粒が動く速

さや深さを調べる手順で使用する。この教具を

用いることによって,れき,砂,泥の流水中で

の動きの違いが確認でき,れきが陸に最も近く,

泥が沖合まで流されるイメージを考察すること

が可能となると考えた。また,金属レールとト

レイを利用した河口付近の堆積の様子を再現で

きる教具(図9)を製作し,検証実験に活用し

た。

(イ)砂泥互層の堆積環境や成因を推定する学

習に生かせる教材の開発

砂泥互層の堆積環境や成因を推定する学習に関

する指導の流れを表3のように整理した。ここ

では,砂泥互層の堆積環境を推定するための根

拠となるa~cの実習を行い,その結果より,

堆積環境を考察させる指導に重点を置いた。ま

た,夷隅地域の砂泥互層の堆積環境を推定する

ための教具として,砂泥互層が堆積した当時(約

80万年前)の房総半島の立体地形模型(図10)

を製作し活用した。これは堆積当時の地形図(地

質調査総合センター)を参考に型取った紙粘土

を木板(30×30cm)の上に乗せて,水彩絵の

具で着色したものであり,安価に製作できる。

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表3 砂泥互層の堆積環境や成因を推定する学習の指導

の流れ

この立体

的な教具

を用いる

こ と に

よって, 図10 堆積当時の房総半島の立体地形模

当時の堆積環境を考察

しやすくなると考え

た。さらに,砂泥互層

の成因である海底での

砂と泥を含む土石流

が,級化層理(下部がきゆうかそうり

粗粒で上部へ行くに 図11 土石流-砂泥互層発生装置

つれ細粒へ変化する堆積構造)をつくる様子を

再現するために図11の教具を活用した。これは,

アクリルパイプの中に粒度の異なる2種類のカ

ラーサンドと水を入れ,両端をゴム栓で閉じた

ものであり,簡単に製作できる。この教具を用

いることによって,土石流が発生する様子や砂

泥互層ができる様子を再現でき,砂泥互層の成

因が理解しやすくなると考えた。

(5)検証授業の実施・分析

勝浦市立勝浦中学校第1学年2クラス,計67

名に対して検証授業を行い,その有効性を分析

した。

ア 映像資料と採取サンプルを活用した授業

について

(ア)クローズアップ映像と採取サンプルを組

み合わせた教材を活用した学習(実践②,実践

③,実践④,実践⑤,実践⑦)

観察や実習のポイントを明確にし,実感させ

ることを主なねらいとして,衛星画像から段階

的にクローズアップさせた映像と採取サンプル

を組み合わせた教材を活用した。これにより,

観察や実習に対する意欲が高まり,実感しなが

ら学習内容への理解が深められたことが資料1

や図12から分かった。

資料1 生徒の感想(太字は実感できたことを示す記述)

・空から近づいていくような映像が楽しかった。

・調べる物がどんな場所にあったか映像でわかりや

すかった。

・昔の化石をさわれてすごくうれしかった。

・砂や泥の粒の大きさが手触りの違いでよく分かっ

た。

図12 授業後の意識調査 図13 堆積岩の採取サンプル

(イ)3D映像を活用した学習(実践①,実践

⑤)

野外実習以外でも臨場感をもたせることをね

らいとして,地層の学習に3D映像を活用した。

多くの生徒が3Dの立体映像を通して,地層の

つくりや奥行きに着目し,地層の学習に興味を

もって取り組めたことが資料2や図14から分か

った。

資料2 生徒の感想(太字は実感できたことを示す記述)

・地層がとびだして見えてびっくりした。

・3Dで立体的に地層がみれたので,地層の形が分

かった。

・アンモナイトは手で触れそうな感じがした。

・3Dをもっと使って授業をしてほしい。

図14 授業後の意識調査 図15 3D画像を見る様子

イ 地層の堆積に関する授業について

(ア)地層の堆積に関する基本的な理解を深め

るための学習(実践⑦)

河口付近の堆積に関して,事前調査では,94

%の生徒が誤った認識をしていた。そのため適

切な 認識がもてる指導の流れを考案した。さ

らに補助するための教具を開発し,活用した。

流水中の粒の動きに関する実験は,堆積と運搬

を学習する上で効果があり,れき・砂・泥の流

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水中での動きの違いか

ら,れきが最も岸側に,

泥が沖合側に運ばれるこ

とに気づき,それに関連

させて河口付近の堆積の

しかたを理解した生徒が 図16 授業後の意識調査

多かったことが資料3や図16から分かった。

資料3 生徒の感想(太字は実感できたことを示す記述)

・粒の大きさがちがうと流され方もちがうことがわ

かった。

・泥はなかなかしずまないのが不思議だった。

・れきは底の方で動きづらく,泥は水中で流れにの

って動くことがよく分かった。

・今まで思ってたこととは違い,河口付近では,近

い方かられき,砂,泥の順に並ぶことがわかった。

(イ)砂泥互層の堆積環境や成因を推定する学

習(実践⑧)

砂泥互層の堆積環境や成因を推定するため

に,堆積岩の種類,含まれる化石,立体地形模

型から当時の環境を調べる学習を行った。そし

て,土石流から砂泥互層ができる様子を調べる

実験を行った。その結果,生徒は堆積当時の環

境が深い海底にあったことや,土砂が海底谷にかいていこく

沿って沖合まで運ばれたことを知ることができ

た。また,自ら教具を使って,土石流が流れる

様子や砂泥互層ができる様子を確認することが

できた。これらの実践が,生徒の地層の堆積に

関する見方や考え方の広がりにつながったこと

が資料4や図18から分かった。

資料4 生徒の感想(太字は実感できたことを示す記述)

・房総半島が深い海底にあったなんてすごいと思

った。

・自分たちの地域にあるしま模様の地層が土石流

でできたことが分かってよかった。

・大きい粒だけだとまっすぐ落ちるのに,小さい

粒が入ると,うずをまいて落ちることが不思議

だった。

・勝浦にある地層を自分でも調べてみたいと思う。

図17 授業後の意識調査 図18 堆積環境を考察した記述

Ⅳ 研究のまとめ(成果・課題)

しま模様の地層の堆積環境を考察した記述

できていた, 87%

できていなかった,

13%

1 成果

(1)クローズアップ映像や3D映像を活用し

た地層学習は,教室においても生徒に臨場感を

もたせることができた。さらに,映像で提示し

た採取サンプルを,生徒が実際に触れながら実

習することにより,実感を伴った理解につなげ

られた。

(2)房総半島における砂泥互層の堆積環境や

成因を推定する学習について,指導の流れや重

点を整理した指導計画を作成し,臨場感のもて

る補助教具を活用しながら授業実践したことに

より,教科書に掲載されている地層への理解を

深め,地層の堆積に関する見方や考え方を広げ

ることができた。

(3)地層学習において,臨場感をもって実感

できる学習プログラムを開発,実践したことに

より,地層に対する関心が高まり,野外にある

露頭を直接調べてみたいという生徒の心情を高

めることができた。

2 課題

(1)千葉県内の北部地域や南部地域において

も地層の堆積環境や成因に関する情報を整理す

る。

(2)地層学習に有効な露頭について,臨場感

を与えられる資料提示の方法をさらに検討する。

参考文献

1)千葉県(1997年),『千葉県の自然史 本編 千

葉県の大地』

2)徳橋秀一(2002年),『タービダイトの話』

実業公報社

3)前田四郎(1993年),『新・千葉県 地学の

ガイド』コロナ社

4)近藤清造(1992年),『千葉の自然をたずね

て』築地書館

参考コンテンツ

1)千葉県総合教育センター 千葉県地学教育研

究会(2008年),『マルチメディア教材 千葉県の地

層探検』

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高等学校の理科課題研究におけるガイドブック活用の試み

Practical Use of Guidebook on Scientific Theme Study in High School

小泉 治彦

KOIZUMI, haruhiko

千葉県立我孫子高等学校

Chiba Prefectural Abiko High School

〔要約〕:高等学校において理科課題研究を進めるにあたり、これまで各学校独自に試行錯誤しながら生

徒の指導に当たってきた。今回、千葉県立柏高等学校での経験をもとに課題研究のためのノウハウを「理

科課題研究ガイドブック」という冊子にまとめた。さらに、各校においてこの冊子が課題研究を進める

際に有効に活用されているかどうか、現在検証を進めている。

〔キーワード〕 課題研究、SSH、課題研究指導、ガイドブック

1.はじめに

全国の SSH(スーパーサイエンスハイスクール)

指定校を中心に、理科における課題研究(テーマ研

究)に取り組む学校が増加している。また、物理や

地質、天文、生物など各分野の学会において、高校

生による発表会が企画されている。さらに、平成 24

年度からは新学習指導要領において、高等学校理数

科で課題研究が必修の扱いとなる。

このような状況の中で、課題研究に取組む各学校

では、指導者が試行錯誤を繰り返しながら生徒の指

導に当たってきた。しかし、課題研究指導の経験の

ない教員が多いにもかかわらず高校における課題研

究指導のための手引きも見当たらず、教員のスキル

不足のために生徒の意欲を十分に活かしきれない場

合もあった。

本発表では、筆者が千葉県立柏高校で実践した課

題研究指導をもとに、課題研究の進め方と身につけ

るべきスキルをまとめた冊子を紹介し、その活用状

況について考察する。

2.柏高校における課題研究の指導

千葉県立柏高校は、平成 16 年より 5 年間、文部

科学省よりSSHに指定され(2 年間は継続指定)、

さまざまな取組みを実施してきた。その中で、理数

科(各学年 1 クラス)を対象とした課題研究「サイ

エンスラボ」において、物理・化学・生物・地学の

各分野についてのグループ研究を実施し、各種の発

表会でその成果を発表してきた。

研究指導はテーマの分野により基本的にその科目

の教員が担当し、一人が担当するグループ数は最大

3つまでとした。SSH 指定当初、課題研究の指導経

験のある教員は全くおらず、文字通り試行錯誤の連

続であった。テーマの決め方、仮説の立て方、検証

の進め方、発表の仕方、論文のまとめ方など、課題

研究のさまざまな面について指導者も生徒と一緒に

学んでいく状況であった。そのような中で教員集団

は、他校の発表会見学や合同発表会での成果発表な

どを通してノウハウを学び、課題研究指導のスキル

を向上させていった。

平成 21 年 4 月から翌年 2 月にかけて、課題研究

を進める上でのノウハウをまとめたプリント「サイ

エンスラボ通信」を、理数科生徒および教員対象に

原則毎週発行した(A4 判両面刷り)。テーマを決め

る段階から研究をまとめて発表するまで、その時期

に必要な知識や留意事項などを生徒にもわかるよう

な書き方でまとめた。また、各項目の具体的な内容

については深入りせず、課題研究の全体像が把握で

きるような書き方を心掛けた。さらに、地学関係の

知人やメーリングリストを通じて、「通信」のメール

配信も行った。

3.課題研究によって身につく力

「通信」を執筆するにあたり、課題研究によって

身につく能力を以下の 5 つに分類し、それぞれの能

力を伸ばす観点から内容を選んで記述した。

1)課題設定能力

61

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自分が疑問に思ったことを、実験・観察・調査な

どによって検証できる仮説にまとめ、その実験・観

察・調査の方法や手順を正しく組み立てられる能力

2)情報活用能力

図書館・インターネット・学校・各種機関等を通

じて、コンピューター・英語等を駆使し、場面に応

じて必要な知識や情報を選択・収集し、それを活用

できる能力

3)調査実験能力

問題解決のための実験・観察・調査の方法を考案

し、それを計画・日程に従って自己管理しながら実

行する能力

4)評価総合能力

実験・調査の結果を吟味・評価し、グラフや数式

を使いながら考察して、研究の成果をまとめる能力

5)発表伝達能力

日本語・英語・数式・発表ソフト等の言語や手段

を用いて研究内容を発表し、相手にその主旨を効果

的に伝える能力

4.ガイドブックの編集

これらの「サイエンスラボ通信」の内容を年度末

に再編集し、「理科課題研究ガイドブック」として冊

子にまとめた。

内容を編集するにあたり、小倉(2004)で紹介さ

れたイギリスの GCSC コースワークでの評価基準

や、CASE 理論等を参考にしながら、上記の 5 つの

能力、さらには「比例」「比較」「確率」「条件統制」

などの科学的思考における基礎能力についても気づ

くことができるような内容とした。

さらに、平成 22 年 9 月、千葉大学のご厚意によ

り、ガイドブックを同大学先進科学センターから印

刷・配布する機会を得ることができた。

●問合せ先 千葉大学高大連携企画室

http://koudai.cfs.chiba-u.ac.jp/guidebook.html

5.ガイドブックの活用状況

千葉大学の HP を通じてガイドブックの配布を受

けた 34 校に対して実施したアンケートのうち、21

校分の結果の一部を表1に示す。

Q1 ガイドブックを使用したのは誰か

生徒が使用 17

教員が使用 17 その他 4 (複数回答)

Q2 無料配布の場合の来年度以降の使用予定

使用したい 16

今回のみとしたい 2 未定 2

Q3(“使用したい”と回答した学校)

有料配布の場合の価格

価格によらず使用したい 1

価格による※ 9

HP 掲載の PDF を使用 4

未定 4

【※の内訳】

~300 円 7

~500 円 2

もっと高いと予想

していた 1

Q4 感想(抜粋)

・とても優れたもので、今後、課題研究のスタンダ

ードになると思います。

・必要事項がコンパクトにまとまっていて、時間数

に余裕のない授業で使いやすい。

・成果をまとめる部分が特に役立ちました。一通り

研究・発表が終わってから読ませると、より実感を

伴って理解できるのではないかと思っています。

今回のガイドブックは、一般的な事項をコンパク

トにまとめることを意識して編集した。しかし、生

徒に渡しただけではなかなか活用されないのが実情

である。実際の研究指導の場面で、より使いやすく

指導しやすいものにするよう、今後も内容や活用法

を検討していきたい。

参考文献

小倉 康(2004):英国における科学的探究能力育

成のカリキュラムに関する調査,国立教育政策研究

表1 ガイドブックについてのアンケート

図1 理科課題研究ガイドブック

62

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小学校における技術士による発展的な科学技術の授業

Some progressive Education on the Science and Technology for Elementary School by Professional Engineers

山下 六男 三好 正夫(発表者) 保坂 俊雄

YAMASHITA, Mutsuo MIYOSHI, Masao (Speaker) HOSAKA, Toshio (社)日本技術士会

The Institution of Professional Engineers, Japan [要約] 理科教育の在り方が問われる中で、長年、産業界で活躍した技術士がその経験を基に小学校の高

学年児童に対して特別授業を実施した。「科学の現実社会での活用に関する講座」として、3 人の技術士

がその専門分野を踏まえてそれぞれにテーマを選び、工夫した実験を取り入れて児童に実験をさせなが

ら、生活のなかにある身近な技術を理解させ理科に興味を抱かせる授業を行ったが、今回は、東邦大学

のCST養成プログラムの一環として行ったので、授業終了後に、CSTの長期研修生の先生方や学生

方と授業内容についての意見交換を行った。.総じて、この試みは理科教育の在り方を模索する上で有意

義であったとの評価をいただいた。生活に密着している技術を小学校高学年むけに実験を交えて判り易

く説明することで、子供たちに理科に対する興味を湧かせ、関心を抱かせることを目的にした授業だっ

たがその効果は大きかったと言える。 [キーワード] 小学理科特別授業、技術士、生活での技術活用、 1. はじめに

文部科学省所管の技術士法に基づく資格を

有する技術士集団である日本技術士会として、

後進を育てることは重要な役割である。平成

20 年から文部科学省が始めた理科支援員等

配置事業による小学校高学年に対する理科特

別授業が始まったのを機会に技術士会として

は「科学技術基本計画支援実行委員会」を中

心にして事業への参加を推進することにした。

日本技術士会提携千葉県技術士会としても、

千葉県教育委員会の呼び掛けに応じていち早

く「理科支援センター」を立ち上げて態勢を

つくり事業に参加した。その結果、22 年まで

の 3 年間に県下の小学校で延べ 150 校程度の

理科特別授業の実績をあげることができた。

23 年度からは事業仕分けによりこの特別授

業は廃止になったが、学校現場からは継続を

望む声が多く挙がっていることから、積み重

ねたノウハウを踏まえて千葉県技術士会独自

の理科支援システムの構築を試み教育庁指導

課のご支援をいただいて県下の小学校に授業

一覧を配布していただき継続して実施をして

いる。さらに活動の範囲を広げることを模索

している中で、東邦大学のCST養成プロジ

ェクトへの参加による特別授業が実現した。 2. 研究の目的

CST養成プログラムの一環として、新しく

技術士法に基づく技術士がその経験を踏まえ

て小学校において現実社会で活用されている

テーマについての特別授業を実施して、その

効果、児童の反応を確かめることを目的とす

る。

63

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3. 研究の方法 小学校の理科授業のなかで、3 人の技術士が

それぞれ特別授業を行った。その概略は次の

通りである 1) テーマ「土の保水力を比べてみよう」 講師 山下六男 (千葉県技術士会) 補助講

師 中村憲司(千葉県技術士会) 日時 平成 22 年 11 月 30 日(火) 場所 船橋市立坪井小学校 理科室 小学 5年生 3 クラス 土の種類による保水量の違いを特製の実験装

置を使って児童に比較実験をさせてその結果

をグラフ化(見える化)してその相違を考えさ

せ、チームごとに発表させることにより集中力、

協調性、考察力、コミュニケーション力を体得

させる。 長期研修生、学生との意見交換のなかで、特製

模型型河道流水実験器を用いて「川の水が増え

るとどうなるだろう」という実験の紹介を行っ

た。 2) テーマ「冷やすしくみとエコ加熱ヒート

ポンプを調べよう」 講師 三好正夫(千葉県技術士会) 日時 平成 22 年 12 月 17 日(金) 場所 習志野市立実籾小学校 理科室 小学6年 3 クラス 外の冷たい空気の熱をくみ上げて熱くする

ことができることを、圧縮発火器の実験を通し

て体得させ、このしくみが太陽の熱を利用して

いるエコ加熱であり、地球温暖化を防ぐ有力な

手段であることを理解させながら、部屋の暖房

や、お湯を作ることなど、すでに生活のなかで

利用されていることを紹介する。 長期研修生、学生との懇談のなかで、「ヒー

トポンプの基礎知識」について概略の説明をし

てから授業についての意見交換を行った。 3) テーマ「夢のリニアモーターカーについ

て考えよう」

講師 保坂俊雄(千葉県技術士会) 日時 平成 23 年 1 月 17 日(月),1 月 18 日(火) 場所 船橋市立小栗原小学校 理科室 小学5年 5 クラス

電気磁気の応用としてリニアモーターの原

理実験をチームごとに行わせてその結果をシ

ートに記入させることなどを通して、原理と利

用について学習するとともに次世代の乗り物

として注目を集めるリニアモーターカーにつ

いて紹介して科学技術に対する夢を育ませる。 長期研修生、学生との懇談のなかで、リニア

モーターの分類と種類及び応用分野について

概略の説明をしながら授業及び実験の更なる

工夫などについての意見交換を行った。 4. 結果と考察 結果は、実施した小学校の児童、担任の先生

方、校長先生からも、また、CSTに参加され

た長期研修生の先生方、さらに 学生の方々から

良い評価を得られたと思う。理科授業の在り方

が問われているなかで、長年産業界で、製品開

発や研究の分野で活躍した技術士がその経験

を基に授業を行うことは、児童に、科学技術が

身近なものでその恩恵を受けて生活している

ということを強く印象つけることにつながっ

たと思う。それは、授業時の児童の眼の輝き、

熱心さ、授業後に児童から提出してもらった感

想文からも明確である。特別授業だけに、その

印象は将来とも児童の記憶に強く印象付けら

れて、科学技術への関心を高めることに大きく

貢献できたものと信じる。

64

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教員のミュージアムリテラシーについて―科学博物館における学校利用促進方策―

Museum Literacy for school teachers

高安 礼士

TAKAYASU,Reiji

(財)全国科学博物館振興財団

Foundation of Japan Science Museums

[ 要約 ]長年,博学連携や融合がいわれているが,なかなか学校の博物館利用が進まない。新しい学

習指導要領において「課題解決型学習」が強調され,博物館利用が記載されていることに注目し,そ

の利用促進の元となる教員のミュージアムリテラシーに関する調査研究を行ったので,その理論的構

造とリテラシー養成等の提言を紹介する1)。この研究では学校教育で重要な「学習指導要領」と「博

物館における各プログラム」の関係を再検討し,学校利用促進のための条件やさらに学校利用のみな

らず広く一般の利用者の立場に立った今日的な「博物館利用」の在り方,すなわち「ミュージアムリ

テラシー」に根ざした科学系博物館における教育普及活動を調査研究した。本発表では,教員の持つ

べき資質能力としての「ミュージアムリテラシー」を提案する。

[キーワード]ミュージアムリテラシー,科学博物館,教員,学習指導要領 1.ミュージアムリテラシーとは何か

1)博物館に関わる「リテラシー」:ミュージア

ムリテラシーの基本的理解

キャロル・スタップ(Carol B. Stapp)は,「基

本的なミュージアムリテラシーとは,資料(もの)

を解釈する能力を意味し,十分な『ミュージアムリ

テラシー』とは,博物館の所蔵資料やサービスを,

目的を持って自主的に利用する能力を意味する」と

している(Stapp [1984] 1992,p112)2)。それと同

時に,博物館側は,「利用者が,展示や出版物,プロ

グラム活動から図書館,研究コレクションや職員の

専門家としての知識まで,目的を持って自主的に博

物館の全ての資源を利用することができるようにす

べきである」と述べている(Stapp [1984] 1992,p117)。

つまり,ミュージアムリテラシーとは,利用者,博

物館のどちらか一方のみが行動・実践することによ

って成立するのではないと理解されている。

2)行為のプロセスを含む「リテラシー」

「~ができること(能力)」といった意味に表さ

れるように,リテラシーを定義することに,権威性

が付きまとうことは避けられない(菊池 2004)。具

体的に述べるならば,博物館側が一方的に利用者に

対してリテラシーを求めるようなことがあれば,利

用者にとっては博物館利用の障壁になりかねない。

また,リテラシーとは,具体的な文脈・関係の中で,

多様な相が存在することも指摘されている(森田

2006)。したがって,ミュージアムリテラシーを定義

する主体は,リテラシーを求める対象に作用する自

らの権威性や意図に対して,より自覚的になる必要

がある。それに加えて,行為の結果(「~ができるこ

と」)としてのリテラシーにとどまらない,リテラシ

ーを獲得する行為のプロセスも存在する。

3)相互関係論としてのミュージアムリテラシー

本研究においては,教員ないしは利用者のみにリ

テラシーを求め,議論するのではなく,博物館側の

利用支援(利用者のアクセス可能性)の問題として

も扱っていくこととした。すなわち,博物館が一方

的にリテラシーを押しつけるのではなく,博物館が

果たす役割(できる/できないこと)や蓄積した資

源,教員/利用者による博物館利用の具体的行為の

双方に着目することが不可欠という立場である。こ

うした視点に立つことによって,ミュージアムリテ

ラシーが成立する具体的環境とリテラシーの内実が

明らかになる。

以上の前提となる考え方や課題を踏まえた上で,

この研究においては,ミュージアムリテラシーとは,

「何らかのコミュニティに属するミュージアムと教

員/利用者が,(1)相互のルール・役割・道具(資源

65

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となるものごとや考え方)の内実を理解し,互いに

働きかけを行うことであり,(2)それぞれの活動の境

界を越えた働きかけを通じて育まれ,蓄積されてい

く活動の在り方・考え方の形態である」としている。

2.学習指導要領と博物館の利用

1)新しい学習指導要領の特色

指導要領の改訂は,その時々の社会の変化を踏ま

え,ほぼ 10 年に一度のタイミングで行われている。

新しい指導要領は,数学,理科等を中心に内容を前

倒しして実施するとともに,小学校は平成 23 年,中

学校は平成 24 年,高等学校は平成 25 年から全面実

施することとなっている。特に理科に関しては,①

科学に関する基本的概念の一層の定着を図り,科学

的な見方や考え方,総合的なものの見方を育成する

こと,②科学的な思考力・表現力の育成を図ること,

③科学を学ぶ意義・有用性を実感させ,科学への関

心を高めること,④科学的な体験,自然体験の充実

を図ること,を改訂の要点としている。

指導要領の改訂に伴い各教科とも内容が充実し,

表-1 小学校・中学校の学習指導要領における博物館等の扱い 【小学校】

社会「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.41

1 (2) 博物館や郷土資料館等の施設の活用を図るとともに,身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにす

ること。

理科「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.70

1 (3) 博物館や科学学習センターなどと連携,協力を図りながら,それらを積極的に活用するよう配慮すること。

図画工作「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.87

2 (5) 各学年の「B 鑑賞」の指導に当たっては,児童や学校の実態に応じて,地域の美術館などを利用したり,連携を図ったりすること。

総合的な学習の時間「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.111

2 (6) 学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携,地

域の教材や学習環境の積極的な活用などの工夫を行うこと。

【中学校】

社会 [歴史的分野] 「3 内容の取扱い」p.38

(1) カ 日本人の生活や生活に根ざした文化については,政治の動き,社会の動き,各地域の地理的条件,身近な地域の歴史とも関連付

けて指導したり,民俗学や考古学などの成果の活用や博物館,郷土資料館などの施設を見学・調査したりするなどして具体的に学ぶこ

とができるようにすること。

社会 [歴史的分野] 「3 内容の取扱い」p.39

(2) イ(内容(1)の)イについては,内容の(2)以下とかかわらせて計画的に実施し,地域の特性に応じた時代を取り上げるようにすると

ともに,人々の生活や生活に根ざした伝統や文化に着目した取扱いを工夫すること。その際,博物館,郷土資料館などの施設の活用や

地域の人々の協力も考慮すること。

理科「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.72

1 (5) 博物館や科学学習センターなどと積極的に連携,協力を図るように配慮すること。

美術「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.84

2 (2) 各学年の「B 鑑賞」の題材については,日本及び諸外国の児童生徒の作品,アジアの文化遺産について取り上げるとともに,美術館・

博物館等の施設や文化財などを積極的に活用するようにすること。

総合的な学習の時間「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」p.117

2 (6) 学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携,地

域の教材や学習環境の積極的な活用などの工夫を行うこと。

*下線は筆者による。

**表中 p.は文部科学省発行小学校・中学校の指導要領における各項目の掲載頁を示す。

(小川義和:新学習指導要領と博物館の利用,博物館研究,458(1),pp.2-5,2010)

66

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授業時数が増加している。小学校の場合,国語,社

会,算数,理科,体育の時数が1割程度増え,総合

的な学習の時間の時数が減った。6 年間全体として

5367 時間が 5645 時間に増え,週当たりのコマ数が

低学年で 2 コマ,中高学年で 1 コマ程度増加する。

中学校の場合,国語,社会,算数,理科,外国語,

保健体育の時数が1割程度増え,総合的な学習の時

間が減るとともに選択教科等がなくなった。全体と

して 3 年間で 2940 時間が 3045 時間に増え,週当た

りのコマ数が各学年で 1 コマ程度増加する 3)。

中学校指導要領理科を例にすると,小学校からの

一貫性に配慮し,科学の基本的な見方や概念を柱に

第 1 分野と第 2 分野を構成し,基本的な概念の一層

の定着を図るとともに両分野共通で自然環境と科学

技術の関係を扱うなど,総合的な見方を育成するも

のとなっている。内容は,「電気量」「イオン」「放射

線」「生物の進化」「遺伝の法則」「日本の天気」「自

然環境の保全と科学技術の利用」等の約 30 の項目が

新たに追加された。そのため3年間の授業時数が290

時間から 385 時間に増加している。

2)新しい学習指導要領における博物館の扱い

新しい学習指導要領では,各教科・科目によって

博物館の扱いは多少異なるが,児童生徒の実感を伴

った理解を図るために,豊富な資料や情報を提供し

てくれる貴重な存在として博物館等を指導計画上に

位置付け,授業における博物館の活用を促している。 新しい指導要領における博物館等の活用に関す

る記述は,小学校の社会,理科,図画工作,総合的

な学習の時間,中学校では社会,理科,美術,総合

的な学習の時間で見られる。例えば小学校理科につ

いては,指導計画の作成と内容の取扱いの部分で「博

物館や科学学習センターなどと連携,協力を図りな

がら,それらを積極的に活用するよう配慮するこ

と。」の記述が見られる。中学校理科では「博物館や

科学学習センターなどと積極的に連携,協力を図る

ように配慮すること。」が新たに加わっている。これ

らは理科の各分野の目標や内容が十分に達成できる

ように指導計画の作成に当たって配慮する事項とし

て扱われている。 3)学校と博物館との連携の現状

学校側の利用意識と現状については,小学校は中

学校に比較し博物館利用が盛んのようである。平成

15 年度の教育課程実施状況調査によれば,児童生徒

の博物館等に対する意識は学年が進むにつれて,低

くなる傾向がある。また学校教員に対するアンケー

ト調査 4)からは, 1 年間に博物館等を体験学習とし

て活用したことのある学校の割合が,小学校全教科

で 84%,中学校(理科の場合に限る)で 14%とな

っている。一方,博物館等を授業で活用しにくい理

由について,小中学校共通の課題としては博物館へ

の距離(小学校 70%,中学校 65%,以下同様),博

物館活用時間の確保(46%,65%),交通費・入館

料費用等(47%,51%)があげられている。なお中

学校では教科間での調整の困難さ(40%)もあげら

れている。学校にとって,多忙な学校教育の中で博

物館を活用することは特別で,日常的に授業で活用

されているとは言えない。 博物館からみると半分以上の博物館で学校利用

が行われており,連携はある程度進んでいると理解

しているが,学校からみると「数ある利用機関の一

つ」に過ぎず,その上「使いにくい」「効果が少ない

(敢えて声に出してはいないが)」と考えている。 実態調査からは,行政機関としての「博学連携」

の大きな枠組みや制度の整備,バス利用などの交通

機関の整備,学習プログラムにおける教員と学芸員

の役割分担の共通理解などがそれぞれの段階におけ

る課題と認識できた。 ① 学校の博物館利用に関しては,遠足等の学校行

事による利用や社会科見学・総合的学習での利

用は行われているが,「博物館の利用の仕方」

や「生涯を通じて博物館を利用する導入学習」

「教員自身の授業研究のための利用方法」等の

「利用のためのオリエンテーション」が行われ

ていない。 ② 博物館資料の利用や学芸員の活用に対する期

待はあるが,具体的な手法については一部の教

員の利活用に限られている。 ③ 教員の博物館活用に対する知識・理解が進んで

いないため,「学校に不足している学習教材や

分野」に対する要望のみが高い。 ④ また,博物館利用に対する学習効果を疑う声も

教員経験 10 年未満の教師に多い。

67

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これらの原因の一つに「博物館の学びと学校教育

の学び」の質の違いがある。 今回の調査でわかったことの一つに「体系的に学

ぶ」ことはどちらも必要なことと考えており,「課題

発見・解決型の学習」の必要性はどちらも認めてい

ることなので,これらを連携の中心概念として展開

することが解決の糸口になると考えられる。

3.博物館における学び

1)その特質

「博物館における学び」の最も基本となるもの

は展示である。展示はいかに作られるか,また学習

者はどのように学ぶか。展示はストーリーによって

構成されているが,「知識を要約したものというより

むしろ,多数の声からなるものである。」(ジョージ・

ハイン,鷹野他訳「博物館で学ぶ」p226)と理解さ

れている。科学博物館においても,自然史博物館は

特にそうである。理工系博物館も歴史的資料を扱っ

て,遡及的言説の場合は特にそのようになる。科学

の原理を説明する「展示装置」はどうか。一見する

と一直線に結論を導く「実験装置」のように見える

が,観覧者との関係性でいうと一義的な解釈ばかり

が成り立つわけでもなく,これもある範囲で「多数

の声からなる」モノであるといえる。つまり,多く

は時代という社会的文脈と個人文脈に基づく「学び」

となる。 博物館の学びの特質は,「体験的な学び」「自主的

な学び」「非集団的な学び」「生涯学習としての学び」

と考えられる。博物館は学校教育とは異なり,幅広

い年齢層の学びが展開される点が特徴である。訪れ

る人は様々な年齢であり,また多様な経験を持って

いる。このような人々の多様性を考慮する必要があ

る。人々の人生に比較し,ほんの一瞬の博物館体験

の影響はごくわずかであるが,博物館の体験はその

後のより深い理解の土台を提供しうるものである。 このようなことから「博物館における学び」は,

時代と個々の人々の生活体験等に基づく「文脈に基

づく学び」,すなわち「構成主義的な学び」となる。 2)構成主義的な学びとは

構成主義的な学びとは,学習者の既に持っている

さまざまな概念に根拠をおく学習である。根拠をど

こにおくかによって,その学びの内容は大きく異な

るものとなる。例えば,太平洋戦争時代の科学博物

館における学びはどのようなものとなるか,想像す

ればわかることであろう。社会的文脈は「国家とい

う文脈」にほとんど近くなり,個人文脈は軽視され

るであろう。「社会的文脈・普遍的価値文脈」と「個

人的文脈」はシーソーのように「天秤にかけられる」

ものである。

今の時代は何を求めるか。科学分野においては

「自然の知識体系」と「社会の問題を解決する手段」

の両面が求められており,さらにそれらを「個人的

な文脈の中で学ぶ」ことが必要となっている。この

ような時代では,「構成主義」の授業には「科学コ

ミュニケーション」の手法や知識が役立つ。これか

らの理科教育には,構成主義に基づく学習理論と科

学コミュニケーションによる「学び」の統制が必要

であろう。

3)サイエンスコミュニケーションはミュージア

ムリテラシーが支える

このような学びは「サイエンスコミュニケーショ

ン」として展開されうるものである。また,サイエ

ンスコミュニケーションは,単に科学技術の知識を

易しく解説する問いことではなく,さまざまな部脈

に基づく「交流」(異文化交流)を行うものである。

特に現代の科学技術が「知識探求型」よりも「課題

解決型」になっていることからその総合性が求めら

図-2 学習理論の分類

68

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れることとなっている。 このサイエンスコミュニケーションは,科学博物

館においての現実場面ではほとんど「ミュージアム

リテラシー」と同意語である。というのも,このミ

ュージアムリテラシーもまた,「利用者」と「博物

館職員」(学校教育との関係ではそこに教師が加わ

る)のすべての人々にとって必要な能力だからであ

る。これらに共通するのは,「異文化コミュニケー

ション」性であり,社会的・個人的文脈に基づく学習

であり,そのためには,学習者の「既習の概念・知

識」を学習の出発点とする構成主義的学習となる。

4.教員のミュージアムリテラシー

これからの教員に求められる「ミュージアムリテ

ラシー」を教員が博物館を利用する際に必要な「基

礎的な能力」とし,それらを考えるに当たっては「教

員に求められる資質能力」, ICOM が提言する

「Museum Basics」,教員としての教科の専門性に

基づく「教科領域に関する専門知識(領域専門性)」

の集合の積を求め,教員の研修内容を定めた。 そこで,ミュージアムリテラシーとは,「何らか

のコミュニティに属するミュージアムと教員・利用

者が,(1)相互のルール・役割・道具(資源となるも

のごとや考え方)の内実を理解し,互いに働きかけ

を行うことであり,(2)それぞれの活動の境界を越え

た働きかけを通じて育まれ,蓄積されていく活動の

在り方・考え方の形態である」とした。 教員のミュージアムリテラシーとは,教員個人が

博物館を利用する知識・スキルとともに「教員とし

ての資質能力」をも必要とするものであり,その意

味では「社会リテラシー」を必要とするものである。

ここではそれらの様々な資質能力のうち,ごく基礎

的な部分に限ることの重要性を認識し,現職教員の

行うことのできる研修や仕事上で向上させることの

できる「教員のためのミュージアムリテラシー」(表

-2)を提案する。 これらのことから,教員に対しては, ① 博物館に対する全体理解が必要 ② 博物館における学習活動の効果の証明 ③ 教育委員会等の理解の元に「組織的連携体制」

の構築が必要 ④ 授業で役立つ具体的なプログラムが必要 などで構成される「教員のためのミュージアムリ

テラシー」として体系的に研修することが必要であ

ろう。 そこで,ミュージアムリテラシーとは,「何らかの

コミュニティに属するミュージアムと教員・利用者

が,(1)相互のルール・役割・道具(資源となるもの

ごとや考え方)の内実を理解し,互いに働きかけを

行うことであり,(2)それぞれの活動の境界を越えた

教員として持つべき資質能力 1. 基本的な資質能力 (1)人間性 (2)教養 2.児童生徒を直接的に指導する

資質能力 (3)実態を把握する資質能力 (4)指導する資質能力 3.児童生徒を間接的に指導する

資質能力 (5)環境に対処する資質能力 (6)事務を処理する資質能力 (7)望ましい人的環境をつくる資

質能力

博物館の基礎・基本

教科領域・専門領域

教員としての資質・能力

博物館の基礎・基本 1.ミュージアムを知る

・ミュージアムの定義,機

能,活用,倫理

2.ミュージアムと利用者

3.コレクションの充実と手

入れ

4.ミュージアムと建築

5.ミュージアムと経営

図-3 教員のミュージアムリテラシーの構成

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働きかけを通じて育まれ,蓄積されていく活動の在

り方・考え方の形態である」とした。 教員のミュージアムリテラシーとは,教員個人が

博物館を利用する知識・スキルとともに「教員とし

ての資質能力」をも必要とするものであり,その意

味では「社会リテラシー」を必要とするものである。

ここではそれらの様々な資質能力のうち,ごく基礎

的な部分に限ることの重要性を認識し,現職教員の

行うことのできる研修や仕事上で向上させることの

できる「教員のためのミュージアムリテラシー」(表

-2)を提案する。

これらのことから,教員に対しては,

① 博物館に対する全体理解

② 博物館における学習活動の効果

③ 教育委員会等との「組織的連携体制」の構築

④ 授業で役立つ具体的なプログラム

などで構成される「教員のためのミュージアムリ

テラシー」として体系的に研修することが必要であ

ろう。

定義 博物館法、ICOMの定義

種類 館種、設置者、法規上の区分

数 国内

収集 収集方法の種類、収集地との関係等

保管 記録管理、整理、保存修復等

調査研究 調査研究の意義、方法等

展示 展示の種類、計画、手法等

教育普及 教育普及活動の理念、手法等

資料 資料の定義・区分(法規より)

職員 館長、学芸員、事務系職員、ボランティア等

建物・設備 博物館建築の特徴、必要な設備

基準 「博物館の望ましい基準」

倫理(行動規範) ICOM倫理規程の原則

使命・方針 各館の設置目的・基本理念、運営方針

行財政制度 独立行政法人、指定管理者制度、新公益法人制度等

課題 その時々の諸課題

2.1 地域の博物館の把握

2.2 テーマ別の博物館の把握

2.3 個々の博物館の把握

3.1 展示の把握

3.2 資料の把握

3.3 調査研究成果の把握

3.4 諸活動の把握

1博物館を知る

1.1 博物館という機関の理解

1・2 博物館の役割の理解

1.3 博物館の構成要素の理解

1・4 博物館の価値観の理解

1.5 博物館の実情の理解

当該地域に所在する博物館

館種別の博物館の所在、専門館の所在

特定の博物館に関する情報入手(ウェブの活用等)

3博物館を使う

個々の博物館の展示構成(展示解説図録等による)

収蔵資料の内容(収蔵品目録、データベース等の活用)

紀要、調査研究報告書等

教育普及活動、地域との連携活動(年報等のよる)

表-2 教員のためのミュージアムリテラシーの体系

参考文献等 1) 高安礼士・他(2010),財団法人 新技術振興渡辺記念会科学技術調査研究助成(平成 21 年度下期)「科学系博物館の学校

利用促進方策調査研究報告書-教員のミュージアムリテラシー向上プログラム-」,(財)全国科学博物館振興財団

報告書のダウンロード HP:http://saas01.netcommons.net/kahaku/htdocs/

2) Stapp, C. 1984 “Defining Museum Literacy”, Roundtable Reports 9(1), pp.3-4.

Reprinted in: Nichols, SK. 1992 ‘Patterns in Practice: Selections from the Journal of Museum Education’ Walnut

Creek: Left Coast Press, pp.112-117.

3)授業時数の詳細は以下の学習指導要領に関するサイト参照。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/index.htm

4) 国立科学博物館,2009:小・中学校と博物館の連携に関するアンケート調査報告書<小・中学校編>

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