「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」¼‘算 … ·...

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研究主題「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」 Ⅰ 研究主題設定の理由 1 学習指導要領より 小学校算数科の目標は、次の通りである。 算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け, 日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数 的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度 を育てる。 また、中学校数学科の目標は、 数学的活動を通して,数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則についての理解 を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察し表現する能力を高める とともに,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感し,それらを活用して考えたり判断した りしようとする態度を育てる。 学習指導要領解説算数編・数学編の目標の改訂の要点として、次の事柄が挙げられてい る。算数科では、 (1)「算数的活動を通して」 算数的活動とは、児童が目的意識を持って主体的に取り組む算数にかかわりのある様々 な活動を意味している。 (2)「見通しをもち筋道を立てて考え、表現する能力を育てる」 考える能力と表現する能力とは互いに補完しあう関係にあるといえ、目標において考え る能力と表現する能力が並べて示されている。 (3)「進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる」 基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身に付けることと、身に付けた知識及び技能を 活用していくことが重視されている。 数学科では、 (1)「数学的活動の楽しさや数学のよさを実感することができるようにすること」 生徒が数学の学習に主体的に取り組むことができるようになるためには、数学的活動の 楽しさや数学のよさを実感することが大切であり、そのためには数学的活動を通して指導 することが重要である。 (2)「事象を数理的に考察し表現する能力を高めること」 事象を数理的に考察することは、日常生活や社会における事象と数学の世界における事 象とを対象とするものである。それぞれの特性をとらえ、事象を数理的に考察する能力を 高めるようにすることが必要である。 (3)「活用して考えたり判断したりしようとする態度を育てること」 新たに「活用して考えたり判断したりしようとする態度」を示すことで、数学を活用す ることの趣旨を明らかにし、生徒が数学を活用して考えたり判断したりする機会を設け、 その必要性や有用性を実感を伴って理解できるようにすることが重要であるとされた。

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Page 1: 「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」¼‘算 … · クティブ・ラーニング)」の視点による授業改善が求められている。

研究主題「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」

Ⅰ 研究主題設定の理由

1 学習指導要領より

小学校算数科の目標は、次の通りである。

算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,

日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数

的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度

を育てる。

また、中学校数学科の目標は、

数学的活動を通して,数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則についての理解

を深め,数学的な表現や処理の仕方を習得し,事象を数理的に考察し表現する能力を高める

とともに,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感し,それらを活用して考えたり判断した

りしようとする態度を育てる。

学習指導要領解説算数編・数学編の目標の改訂の要点として、次の事柄が挙げられてい

る。算数科では、

(1)「算数的活動を通して」

算数的活動とは、児童が目的意識を持って主体的に取り組む算数にかかわりのある様々

な活動を意味している。

(2)「見通しをもち筋道を立てて考え、表現する能力を育てる」

考える能力と表現する能力とは互いに補完しあう関係にあるといえ、目標において考え

る能力と表現する能力が並べて示されている。

(3)「進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる」

基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身に付けることと、身に付けた知識及び技能を

活用していくことが重視されている。

数学科では、

(1)「数学的活動の楽しさや数学のよさを実感することができるようにすること」

生徒が数学の学習に主体的に取り組むことができるようになるためには、数学的活動の

楽しさや数学のよさを実感することが大切であり、そのためには数学的活動を通して指導

することが重要である。

(2)「事象を数理的に考察し表現する能力を高めること」

事象を数理的に考察することは、日常生活や社会における事象と数学の世界における事

象とを対象とするものである。それぞれの特性をとらえ、事象を数理的に考察する能力を

高めるようにすることが必要である。

(3)「活用して考えたり判断したりしようとする態度を育てること」

新たに「活用して考えたり判断したりしようとする態度」を示すことで、数学を活用す

ることの趣旨を明らかにし、生徒が数学を活用して考えたり判断したりする機会を設け、

その必要性や有用性を実感を伴って理解できるようにすることが重要であるとされた。

Page 2: 「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」¼‘算 … · クティブ・ラーニング)」の視点による授業改善が求められている。

2 現学習指導要領から次期改訂に向けて

現行の学習指導要領においては、子どもたちの「生きる力」の育成がより一層重視され、

学力においては、学校教育法第30条第2項に示された、いわゆる学力の三要素から構成

される「確かな学力」をバランスよくはぐくむことを目指し、教育目標や内容が見直され

てきた。その中で各教科において、言語活動の充実や体験活動等を重視することが行われ

てきた。その成果は、近年の国内外の学力調査の結果において改善傾向にあるとされてい

るが、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・

考察し説明したりすることなどに課題があるとされている。また、算数・数学においては、

学力はトップレベルにあるものの、学習に主体的に取り組む態度や算数・数学の楽しさや

学習する意義の実感などについても課題があるとされている。これらを踏まえ、次期学習

指導要領改訂に向けて育成すべき資質・能力は次の「3つの柱」として考えられている。

①「個別の知識・技能(何を知っているか、何ができるか)」

②「思考力・判断力・表現力等(知っていること・できることをどう使うか)」

③「学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)」

これらの育成に向けて、「問題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆるア

クティブ・ラーニング)」の視点による授業改善が求められている。

以上のことから、算数・数学の必要性や有用性を感じ、主体的に取り組む態度をより一

層育成するには、数学的な思考力・表現力のさらなる育成が必要と捉え、上記研究主題を

設定した。

Ⅱ 研究の内容と方法

1 主体的な学びについて

ア 「なぜ数学を教えるのか」

個人レベルで考えると、将来、数学を学習する必要がない人もいる。そこで、数学を学ぶこ

とを通して、意味のあることを学ばせたり、役立つ力を身に付けさせたりするようにする。数

学を学ぶことを通してつけられた力、考え方などが生きるようにすればよい。数学を学ぶこと

によって「論理的な思考力を伸ばす」ようにする。この視点に立つと、「どんな数学を教える

か」ということよりも、数学を「どのように教えるか」ということを考える方が問題になる。

教科書に書いてあることを解説しているだけでは、数学の知識は伝えられるが、論理的な思考

力を伸ばすことにはならない。

イ 「J.デューイの提言」

「教育の価値」は「教育を継続させる」ことにある。「教育を継続させる」ためには、「何の

ために学ぶか」の答えを「将来のため」というようなことにもっていってはいけない。学んで

いることの価値が、その場その場でわかるようにすることが大事である。

2 思考力・判断力の育成について

ウ 論理的な思考力

数学の解き方を覚えさせ、それで問題を解決できるようにすることがよく行われるが、それ

は思考力を伸ばすことにはなっていない。本当の問題解決力を伸ばしてもいない。それよりも、

知っていることをもとにして、物事を処理する力、問題を解決する力、論理的に推論すること

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ができる力が大切である。論理的な思考力を伸ばそうと思うならば、論理的な思考力がのびる

ように配慮した指導をすることが大切である。

エ 問題解決力

一般に、問題解決力といわれているものは、「解き方を知らない問題を解く力」である。解

き方を知らない問題が出たとき、それにどう対処するか、その姿勢を身に付けることが大事で

ある。問題を解くとき、問題のパターンを見抜いて問題の解き方を適用するのではなく、もっ

と一般的に、問題に対処する考え方や態度を身に付けることに配慮して教えることが大事であ

る。「解き方を知らない問題」にぶつかったときの方針、姿勢を「問題解決のストラテジー」

という。問題のパターンに応じた解き方を教えるのではなく、「一般的にこういった態度でい

ると良い」という考え方を教えることである。そのようなものの一つとして、「似た問題を思

い出してみる」というものがある。似た問題で、解いたことのある問題を思い出し、似た問題

の解き方や考え方から解法への示唆を得ようとするものである。あるいは、「後ろ向きに考え

る」というものもある。これは、答え(結論)を導くためには何が必要か、それに必要なものは

何かというように、答え(結論)の方から戻って考えていく考え方である。これらは、問題にア

プローチするときの考え方、姿勢といったものなので一般的な問題を解けるようにしたいと思

ったら、個々の問題の解き方を教えるよりも、難しい問題にアプローチするときの考え方を使

っていろいろ試してみるように教えていくとよい。

2 研究の内容と方法

上記の提言をふまえ、本研究では次のような仮説を立てた。

【仮説1】問題場面や課題設定の工夫

小学校高学年以上の算数・数学の内容は必ずしも実生活に直接的に役立つものであると

は限らない。これより、児童生徒の中には、「算数・数学は試験のためにするもの」と考え

る傾向がある。教師の説明した内容を覚えればよいという受け身型の学習になってしまう。

このような学習では、算数・数学を学ぶ価値を実感することはできない。児童生徒が「な

ぜそうなるのだろう」「解いてみたい」と思うことで初めて算数・数学を学ぶ価値を実感し、

ひいては数学的な思考力が育っていくと考えられる。そこで、児童生徒に「論理的な思考

力」を身に付けさせるために、問題場面や課題設定の工夫をすることにより、児童生徒が

主体となった授業を展開することができると考えられる。

【仮説2】問題解決活動、練り上げ活動の工夫

ただ問題の解法を教える授業や答えの教えあいのみとなってしまうようなグループ活動

では、思考力・表現力の育成に結びつかない。他者の意見を通して、自分の考えを振り返

り、より考えを深めていくことが思考力の育成につながり、その深めた考えを他者に伝え

ることで、表現力が高まっていくと考えられる。そこで、問題解決活動や練り上げ活動を

工夫することにより、思考力・表現力を育成することができ、「解き方を知らない問題」に

取り組む姿勢の育成にもつながるのではないかと考えられる。

【検証方法】

仮説の検証として、以下の項目について2回ずつ検証し、児童・生徒の変容を検証する。

ア 「論理的な思考力を身に付けるために数学は役に立つと思いますか。」という項目で

アンケートをとる。

イ 論理的思考力を検証するための問題を設定し解かせる。

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Ⅲ 実践例

1 小学校第5学年 「分数のたし算とひき算」

(1) 研究主題との関わり

【仮説1】問題場面や課題設定の工夫

手立て① 液量図を使って問題場面を提示することで、なぜ異分母分数の場合にはそ

のまま計算できないのかを視覚的に捉えさせる。

手立て② 前時までの振り返りを行うことで、見通しをもたせる。

【仮説2】問題解決活動、練り上げ活動の工夫

手立て① 罫線が入った図を用いて考えさせることで、通分することの意味を捉えや

すくし、自分の考えを明確にさせる。

手立て② B評価(式のみの説明)の児童から発表させ、次にA評価(図を含む説明)

の児童に図を用いて発表させることで、理解を確実にする。

(2) 指導と評価の計画(○は本時)

時 学習活動 主な評価規準

1 ・大きさの等しい分数のつくり方を考える。

考大きさの等しい分数間にあるきまりを見出し、

大きさの等しい分数のつくり方を考えている。

技大きさの等しい分数をつくることができる。

2 ・「約分」の意味と約分の仕方をまとめる。

関約分すると分数の大きさが分かりやすいことの

よさに気付いている。

知分数の性質を使った、大きさの等しい分数の見

つけ方を理解している。

3 ・「通分」の意味と通分の仕方をまとめる。 技異分母の分数を通分することができる。

知分数の性質を使った、分数の大きさの比べ方を

理解している。 4 ・三つの分数の通分の仕方を考える。

⑤ ・異分母の分数の加法計算の仕方を考える。

考異分母の分数の加法計算の仕方について、分母

をそろえることの意味を考え、説明している。

技異分母の分数の加法計算ができる。

6 ・異分母の分数の減法計算の仕方を考える。

考異分母の分数の減法計算の仕方について、分母

をそろえることの意味を考え、説明している。

技異分母の分数の減法計算ができる。

7 ・異分母の分数で約分ができる場合の加減計算

の仕方を考える。

技異分母の分数の加減計算(約分あり)ができる。

知答えが約分できるときは約分すると大きさが分

かりやすいことや、分母を最小公倍数にすると

計算しやすいことを理解している。

8 ・帯分数の加法計算の仕方を考える。

考帯分数の加法計算の仕方を、帯分数の構造や既

習の真分数の計算を基に考え、説明している。

技帯分数の加法計算ができる。

9 ・帯分数の減法計算の仕方を考える。 考帯分数の減法計算の仕方を加法計算の仕方を基

に考え、説明している。

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技帯分数の減法計算ができる。

10 ・分数と小数の加減混合計算の仕方を考える。

知分数と小数の加減混合計算では、小数を分数で

表せばいつでも計算できることを理解してい

る。

11 ・分数を用いた時間の表し方を考える。 技時間の単位を変えて分数で表すことができる。

12 ・学習内容の習熟 技学習内容を適用して、問題を解決することがで

きる。

13 ・学習内容の理解 知基本的な学習内容を身に付けている。

(3) 本時の目標

異分母の分数の加法計算の意味を理解し、その計算ができる。

(4) 本時の展開

学習活動 留意点(*)評価(□)支援(→)

1 問題をとらえる。

2 課題をとらえる。

3 自力解決をする。

*液量図を使って問題場面を視覚的

にとらえさせる。

*解決の見通しをもたせる。

*式だけではなく、図を使って説明

できるように促す。

分母がちがう分数のたし算のしかたを考えよう。

牛乳が1/5L入ったびんと、1/10L入った

びんがあります。

あわせると何Lになりますか。

1/5+1/10 = 2/10+1/10 = 3/10

1/5+1/10 = 2/10+1/10 = 3/10

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4 話し合う。(ペア)

5 話し合う。(全体)

6 まとめる。

A通分して計算し、図を使って説明

を書いている。→発表用のシート

に書かせる。

B通分して計算している。→図で説

明できるように支援する。

C通分ができない。誤答、または手

がつかない。→通分の仕方をふり

返らせる。

*B評価の児童から説明させる。次

にA評価の児童の図を説明させ式

と対応させる。

考異分母の分数の加法計算の仕方に

ついて、分母をそろえることの意

味を考え、説明している。

【発表・ノート】

*単位分数のいくつ分で計算できる

ことをおさえる。

分母がちがう分数のたし算は通分して計算する。

隣の児童に自分の考えを説明する。

C:分母が違うから通分して計算

したよ。

C:1/5Lの方を10等分する

と1/5は2/10になります。

そうすると、

2/10+1/10=3/10に

なります。

C:1/10が(2+1)で計算できます。

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2 中学校第3学年

単元名 「平行線と線分の比」

① 教材観

本単元では、図形の相似の概念を明らかにし、図形の性質を論理的に確かめ、数学的

に推論することの必要性や方法等の理解を深め、論理的に考察し表現する能力を伸ばす

ことや、立体の相似の意味を理解し、図形の計量ができるようにする。

小学校の算数科においては、第6学年で、図形についての観察や構成などの活動を通

して、縮図や拡大図について学習している。中学校数学科では、これらの学習の上に立

って、第1学年では三角形や多角形などについて形が同じであることの意味をさらに明

確にしてきた。第2学年では、三角形の合同条件を用いて三角形や平行四辺形の基本的

な性質を論理的に確かめることを学習している。第3学年では、三角形の相似条件など

を用いて図形の性質を論理的に確かめ、数学的に推論することの必要性や意味及び方法

の理解を深め、論理的に考察し表現する能力を伸ばしていきたい。

② 指導観(研究主題との関わり)

研究主題

主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業

本単元では、セパレートコースを5レーン引くという課題を取り上げる。普段何気な

く用いている平行線の引き方を、数学的根拠を基に検証していく。実際の学校生活で直

面する問題であり、生徒にとって馴染み深い題材である。このような題材を取り上げる

ことで、生徒がその課題に取り組む価値を感じられると思われる。また、問題の提示方

法を教師が実際にセパレートコースを引く映像を生徒に見せた後、斜めの線を引いた場

合、平行線を引くことが出来るのかを検証する。その際に必要になる知識である、平行

線と線分の比を事前に指導しておくことにより、生徒は初めての問題に既習の内容を活

用して取り組むことになる。このことにより、平行線と線分の比の間にある性質への考

えが深まり、思考力の向上につながると思われる。また、グループで話し合う際、自分

の考えを効果的に伝える必要が出てくる。相手に分かりやすい説明を考え、実践するこ

とにより、数学的表現力を育成することが出来ると思われる。

③ 展開

学習活動(○)

指導上の留意点(・)と

評価の観点(●)

問題1

直線 lの上にセパレートコースを5レーン分作る

には、どのようにして線を引けばよいですか。1レ

ーンの幅は 1.2m とする。

・体育祭等で使われるセパレート

コースがどのように引かれて

いるのかを生徒に問いかける。

生徒たちにとって馴染み深い

題材である。あらためて問いか

けることによって、生徒たち自

身が疑問を持つことが考えら

れる。これにより生徒主体での

授業を展開できると考えられ

る。

課題;平行線を引く方法について考え合おう 導入(5分)

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○個人で問題1に取り組む。(自力解決活動)

理由

線分 AB と線分 CD に 1.2m ずつ等間隔に点を取り、それらを結ぶ

ことにより、それぞれの線分の比が等しくなる。線分の比と平行線

より、このとき引いた線が平行になる。

問題2

問題1において、線分 CD を線分 BC に対して斜めに引いた場合、

平行な線は描けますか。また、その理由は。

理由

線分 CD が線分 BC に対して垂直でなくても、等間隔で6つの点

を取り、線分 AB 上の点と結べば、線分の比と平行線より、この

とき引いた線が平行になる。

・ビデオをもとに途中まで描き方

を確認する。

・定規を使って、等間隔の点を取

ってもよい。

●線分の比と平行線を用いて、平

行線を描き、その理由を説明で

きる。[見方・考え方]

A:平行線を描き、理由を説明で

きる。

➡線分ABも垂直でない場合を考

える。

B:平行線を描くことが出来る。

➡その理由を数学的に説明させ

る。

C:描くことが出来ない。

➡平行線を引くために必要な情

報をもう一度確認する。

展開(15分)

A

B

A

B

展開(15分)

C

D

C

D

l

l

斜め線を 1.2cm ずつ等間隔

に区切っても、平行線が引け

ない。なぜだろう?

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Ⅳ 研究の成果

今回の仮説の検証として、児童・生徒へのアンケートと、思考力・表現力の観点で事前テス

トと事後テストを実施し、分析した。

1 小学校における検証の結果と分析

(1) 【仮説1】について

アンケートの集計結果より

算数は好きですか

物事を順序立てて考える力を身

に付けるために、算数は役に立

つと思いますか

事前 事後 事前 事後

はい 24% 35% 65% 47%

どちらかといえば、はい 41% 12% 29% 47%

どちらかといえば、いいえ 35% 47% 6% 6%

いいえ 0% 6% 0% 0%

上記の結果を見ると、「算数は好きですか」という質問に対して、「はい」「どちらかといえば、

はい」と答えた児童は 65%から 47%に減少し、「いいえ」「どちらかといえば、いいえ」と答え

た児童が 35%から 53%に増加してしまった。単元を通して、【仮説1】の問題場面や課題設定

の工夫を行ってきたが、アンケート結果から、算数は「好きですか」という質問に対して、否

定的な回答をした児童が増えたため、必ずしも主体的に学ぶ児童の育成にはつながらなかった

ということが言える。しかしながら、論理的な思考力を身に付けるためには、算数は有用だと

感じている児童は大多数であることが分かった。

問題3

線分PQを3:2に分ける点Xを求めなさい。

□解答

●平行線と線分の比の考え方を

用いて、線分を分けることがで

きる。

[見方・考え方]

A:線分を3:2に分けることが

できる。

➡4:3に分ける点を求めさせ

る。

B:直線 PRを引くことに気付く。

➡直線PRを5つに等分すること

に気付かせる。

C:求めることができない。

➡直線 PR を引くことに気付かせ

る。

まとめ(15分)

P Q

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(2) 【仮説2】について

事前テスト 事後テスト

思考力・表現力に観点をおいた事前テスト

と事後テストは、全国学力・学習状況調査にお

いて無解答率が高かった問題を使用した。この

結果を見ると、A判定の児童が 12%→35%に増

加し、B判定の児童が 24%→47%へ、C判定の

児童が 64%→18%に減少した。【仮説2】の問

題解決活動や練り上げ活動の工夫を行うことが

直接結び付いているとは限らないが、思考力・

表現力の育成に一定の効果が得られた。

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事前テストと事後テストの結果

2 中学校における検証の結果と分析

(1) 【仮説1】について

アンケートの集計結果より

以下の①~③の項目について実施した。

4「好き(思う)」

r 3「どちらかというと好き(思う)」

2「どちらかというと嫌い(思わない)」

1「嫌い(思わない)」

図 1 数学調査アンケート

①「数学は好きですか」を見ると、1(嫌い)と答えた生徒の人数が6月の9人に対して、

2月は7人に減少している。この仮説の検証授業によって、今まで数学が嫌いだった生徒の

意識は若干向上したのではないかと思われる。

②「数学の授業は好きですか」を見ると、4(好き)と3(どちらかというと好き)と答えた生徒が

6月の21人に対して、12月は22人となっており、若干の向上は見られるものの、ほと

んど変化が見られない。本仮説の検証授業が、生徒の主体性を向上させるものではなかった

と考えられる。

③「論理的な思考力を身に付けるために数学は役に立つと思いますか」を見ると、2(どち

らかというと嫌い)と1(嫌い)と答えた生徒に減少の傾向がみられる。また、4と答えた生徒が

6月の10人から12月の14人に増加している。このことより、本仮説の授業により、「論

35

12

47

24

18

64

0% 50% 100%

事後テスト

事前テスト

A判定 B判定 C判定

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理的な思考力を身に付けるために数学は役に立つ」とより強く考える生徒が増加し、数学へ

の意識が高まったことがわかる。

(2) 【仮説2】について

事前テスト(6月実施) 事後テスト(12月実施)

図2の結果より、A 評価の生徒が6月の調査では8人だったのに対し、12月の調査では

18人に増えていることが分かる。それに伴って、C、D、 無解答の割合が減少していること

が分かる。特に、説明が不十分だと思われる D 評価の生徒の人数が8人から3人に減少してい

る。これより、今まで論理的な説明が不得意だった生徒に対して、本仮説の授業の効果があっ

たと思われる。すなわち、仮説①「問題場面や課題設定の工夫」と、仮説②「問題解決活動、

練り上げ活動の工夫」により、生徒の思考力と表現力が向上したと捉えることができる。

本研究の主題「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」は成果を上げるこ

とができたといえる。

図2 評価分布

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Ⅴ 今後の課題

1 小学校

本時の授業において一番の課題点は、挙手する児童がとても少なかったことである。今回

の研究において、中村光一先生のご指導をもとに考えると、授業の導入から展開、練り上げ、

まとめに至るまで、教師の発問が正答だけを答えさせるようなものになってしまったことが

大きな要因として考えられる。具体的には、前時の振り返りで「分母をそろえることを何と

いいますか。」や「できるだけ小さな数の分数にすることを何といいますか。」という発問を

した。さらに、問題解決の見通しを持たせる段階では、「どうすれば解けそうですか。」とい

う発問をしたことで児童から「通分する。」という答えしか返ってこなかった。これらの流れ

から児童の思考は広がらずに狭くなってしまったと考えられる。改善策としては、ヒントは

あまり与えずにとにかく自由に考えさせ、通分する、小数にするなど複数の考え方を取り上

げながらまとめていく展開をすることである。さらに、前述のアンケート調査において数値

が下がってしまったこともこれらのことが起因していると考えられる。

これらの課題点を踏まえ、児童が主体的に学ぶためには、子どもたちがこの問題を解決し

たいと思うような単元の指導計画を見直すことと、もっと自由に子どもに思考させるには、

子どもの思考を揺さぶるような発問や授業展開を追究していくことが必要と感じた。

2 中学校

(1)研究仮説の課題

研究成果にもあるように、本研究では研究主題を基にの成果を上げることが出来た。し

かし、12月の検証においても、C,D 評価の生徒が合計5名いる。また、無解答の生徒も

依然7名いることが分かる。今後の課題としては、このような生徒への支援と、無解答の

生徒に対しての授業での課題提示の工夫が考えられる。

(2)教師の課題

本研究による授業において、生徒が課題に取り組む際に、教師が机間指導を行った。そ

の際、次のような間違いをしている生徒がいた。「斜め線に 1.2cm ずつ等間隔で印をつけ

ていく。」この方法では、平行線を引けない。生徒は当然このことに疑問を感じるのである

が、生徒が課題に取り組むうえで感じる疑問点に対して、教師が個別に教え過ぎてしまっ

た。 本来このような疑問点を全体で取り上げ考え合うことによって、生徒が主体となって

課題解決に取り組む姿勢を育てていくのであるが、それが出来ていなかった。その原因と

して、教師の準備不足が考えられる。この改善策として次の事柄が挙げられる。事前に教

材研究をより綿密に行い、生徒がどの部分で疑問に感じ、つまずくのかを予測する。授業

中にその疑問点や間違いが生徒から出たら、どう全体で取り上げていくのかを事前に考え

る。

今後の授業では、以上の点に加え、生徒が疑問に感じたこと、発言したことを大切にし

ていくことが重要である。生徒が挙手し、発言したことによって、生徒自身が「良かった」

と思えるようにフォローする。そのための教材研究が求められてくる。この課題を来年度

では繰り返さないように日々の授業に取り組んでいきたい。

Page 14: 「主体的な学びを通して、思考力・表現力を育成する授業」¼‘算 … · クティブ・ラーニング)」の視点による授業改善が求められている。

研究にあたり、御指導をいただきました東京学芸大学 中村光一先生をはじめ、所属の学

校長様、所沢市立教育センター指導主事 原 雅一先生、御支援、御協力いただきました

多くの方々に心より感謝申し上げます。

【参考文献】

「小学校学習指導要領解説 算数編」 文部科学省

「中学校学習指導要領解説 数学編」 文部科学省

「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料【小学校算数】」

国立教育政策研究所教育課程研究センター 教育出版

「初等科数学科教育学序説」「中等科数学科教育学序説」 杉山吉茂著 東洋館出版

「民主主義と教育」J.デューイ著 松野安雄訳 岩波文庫

「算数教育指導用語辞典」日本数学教育学会 教育出版

「小学校算数主体的・協働的な学びを実現するアクティブ・ラーニングを

目指した授業展開」 笠井健一編著 東洋館出版

「中等科数学科教育学序説」杉山吉茂 東洋館出版社

「平成27年度全国学力・学習状況調査」文部科学省

「平成26年度全国学力・学習状況調査」文部科学省

「平成25年度全国学力・学習状況調査」文部科学省