我が国ものづくり産業が直面する課題と展望 1 - 経済産業省の… · 2018. 11....

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163 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望 グローバル競争が激化する中で、我が国の経済社会全 体における経営資源の有効活用を通じ、我が国産業にお ける生産性の向上を高めることが必要である。グローバ ル環境の変化に機動的に取り組むことを促す上では、バ リューチェーンの変化の可視化、限られた経営資源の 機動的な組換えを可能とするインフラの整備が必須。IT は企業の経営資源を効率化するだけでなく最大化するも のでもある。また、再編は企業間で経営資源の有効活用 を図るものである。 本項においては、IT や再編を通じた経営基盤の強化に ついて述べる。 (1)単なる業務効率化ではない、バリューチェー ンの見える化、収益につながる IT 投資の促進 近年、世界中のあらゆる「ヒト」「モノ」「サービス」 がインターネットとつながる中で、情報通信技術(IT) は生産性の向上のみならず、企業の成長の源泉となるイ ノベーション誘発源の役割も期待されている。 しかしながら、我が国ものづくり企業の中でも、IT 投 資を、単なる設備投資ではなく、将来の自社の成長に資 する戦略的投資と捉えているものの、その目的はコスト 削減や効率化が中心となっており、付加価値の高い製品 提供などに活用するなどの意識は相対的に低い状況にあ る(図 133– 1・2)。 47.2 52.8 0 20 40 60 80 100 固定費・義務的経費として捉えている 将来に向けた成長に資する投資と捉えている (%) (n=3,979) 資料:経済産業省調べ(14年1月) 図133–1 IT投資に関する捉え方 74.3 68.7 40.9 28.1 24.9 0.9 0 20 40 60 80 100 業務コストの削減 プロセスの効率化 顧客満足度の向上 競争優位の確保 新規事業・新製品の開発 その他 (%) (n=2,097) 資料:経済産業省調べ(14年1月) 図133–2 IT投資の目的 図2 応募企業の属性 資料:JETRO タイ 25% 製造業 58% サービス業 17% 卸売業・ 小売業 17% 農業・林業 1% 運輸業・郵便業 0% 建設業 2% 情報通信 5% 1,000 万円以下 32% 1,001 万円~3 億円 59% 3 億円超 9% 20 人以下 24% 21~300 人 65% 300 人超 11% ベトナム 15% インドネシア 13% その他 7% ブラジル 2% マレーシア 2% 台湾 2% カンボジア 2% インド 3% メキシコ 4% シンガポール 4% フィリピン 4% ミャンマー 5% ASEAN(国未定) 11% 進出先はタイ、ベトナム、インドネシアの順に多く、東南アジア地域の国々への進出 が大半を占めていますが、メキシコやブラジルなど中南米にも及んでいます。 >>>ASEAN地域を中心に進出しています どんな国・地域に進出する? 製造業に次いで、サービス業、卸売業・小売業、情報通信業と続いています。幅広 い業種の企業が新興国進出に向けて動き出しています。 >>>製造業が6割を占めています 業種は? 資本金1,000万円以下の企業が3割以上を占め、1,001万円~3億円の企業が約6 割となっています。 >>>資本金3億円以下の企業が9割以上 資本金の規模は? 従業員数が21~300人以内の企業が6割以上を占め、さらに20人以下の企業も2割を超え ています。従業員数が少数の企業も、新興国へ進出しようとする積極性がうかがえます。 >>>従業員数300人以下の企業が約9割 従業員数は? IT と外部資源の活用を通じた経営基盤の強化

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163

第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

グローバル競争が激化する中で、我が国の経済社会全体における経営資源の有効活用を通じ、我が国産業における生産性の向上を高めることが必要である。グローバル環境の変化に機動的に取り組むことを促す上では、バリューチェーンの変化の可視化、限られた経営資源の機動的な組換えを可能とするインフラの整備が必須。ITは企業の経営資源を効率化するだけでなく最大化するものでもある。また、再編は企業間で経営資源の有効活用を図るものである。

本項においては、IT や再編を通じた経営基盤の強化について述べる。(1)単なる業務効率化ではない、バリューチェー

ンの見える化、収益につながる IT 投資の促進近年、世界中のあらゆる「ヒト」「モノ」「サービス」

がインターネットとつながる中で、情報通信技術(IT)は生産性の向上のみならず、企業の成長の源泉となるイノベーション誘発源の役割も期待されている。

しかしながら、我が国ものづくり企業の中でも、IT 投資を、単なる設備投資ではなく、将来の自社の成長に資する戦略的投資と捉えているものの、その目的はコスト削減や効率化が中心となっており、付加価値の高い製品提供などに活用するなどの意識は相対的に低い状況にある(図 133– 1・2)。

47.2 52.8

0 20 40 60 80 100

固定費・義務的経費として捉えている将来に向けた成長に資する投資と捉えている

(%)

(n=3,979)

資料:経済産業省調べ(14年1月)

図133–1 IT投資に関する捉え方

74.3

68.7

40.9

28.1

24.9

0.9

0 20 40 60 80 100

業務コストの削減

プロセスの効率化

顧客満足度の向上

競争優位の確保

新規事業・新製品の開発

その他

(%)

(n=2,097)

資料:経済産業省調べ(14年1月)

図133–2 IT投資の目的

図2 応募企業の属性

資料:JETRO

タイ25%

製造業58%サービス業17%

卸売業・小売業17%

農業・林業 1%運輸業・郵便業 0%

建設業 2%情報通信 5%

1,000万円以下32%

1,001万円~3億円59%

3億円超9%

20人以下24%

21~300人65%

300人超11%

ベトナム15%

インドネシア13%

その他 7%ブラジル 2%マレーシア 2%

台湾 2%カンボジア 2%インド 3%メキシコ 4%

シンガポール 4%フィリピン 4%ミャンマー 5%

ASEAN(国未定) 11%

進出先はタイ、ベトナム、インドネシアの順に多く、東南アジア地域の国々への進出が大半を占めていますが、メキシコやブラジルなど中南米にも及んでいます。

>>>ASEAN地域を中心に進出しています

どんな国・地域に進出する?

製造業に次いで、サービス業、卸売業・小売業、情報通信業と続いています。幅広い業種の企業が新興国進出に向けて動き出しています。

>>>製造業が6割を占めています

業種は?

資本金1,000万円以下の企業が3割以上を占め、1,001万円~3億円の企業が約6割となっています。

>>>資本金3億円以下の企業が9割以上

資本金の規模は?

従業員数が21~300人以内の企業が6割以上を占め、さらに20人以下の企業も2割を超えています。従業員数が少数の企業も、新興国へ進出しようとする積極性がうかがえます。

>>>従業員数300人以下の企業が約9割

従業員数は?

IT と外部資源の活用を通じた経営基盤の強化3

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 【参考】投資による生産性向上・効率化のベストプラクティス事例

 <三菱重工業(株)>一品ものと言われる機械分野において、設計から、

生産・販売までの流れをリアルタイムで監視する ITシステムを導入。シミュレーションなども活用し、受注・仕掛の無駄を省くなど、生産性の大幅な向上を実現。

IT 投資による生産性向上・コスト削減・効率化の視点も重要であるが、グローバルで競争が激化し、既存製品を効率的に生産し、販売するだけで勝ち抜くことが困難な状況の中では、我が国ものづくり企業が更なる発展を目指す上で、「今ある業務の効率化」など「守りの IT 投資」一辺倒から脱却し、市場環境変化への迅速な対応、新規顧客の獲得、新規製品の開発など「攻めの IT 投資」へ転換することが求められる。

これまでの IT 投資の内容を見ると、米国は「攻めのIT 投資」が多い一方、日本は「守りの IT 投資」が多い。さらに、経営層の意識としても、米国は「製品やサービス開発強化」「ビジネスモデル変革」が上位である一方、日本は「IT による業務効率化/コスト削減」に主眼が置かれている状況であり、IT 関連技術の動向に対する理解も、米国と比較すると大きく劣後している(図133–3・4・5)。

資料:(一社)電子情報技術産業協会、13アンケート調査

0% 10% 20% 30% 40% 50% 0% 10% 20% 30% 40%

製品/サービス提供の迅速化/効率化

新規製品/サービスの開発

意思決定の迅速化

社内情報共有の容易化

顧客の嗜好やニーズの把握

新規顧客の獲得

市場環境変化への迅速な対応

人件費の削減

既存顧客の維持

将来の市場動向/トレンド予測

社外情報提供効率化/提供量増大

社内業務効率化/労働時間減少

調達費用のコスト削減

社内業務効率化/労働時間減少

市場環境変化への迅速な対応

既存顧客の維持

新規顧客の獲得

製品/サービス提供の迅速化/効率化

社外情報提供効率化/提供量増大新規製品/

サービスの開発顧客の嗜好やニーズの把握

調達費用のコスト削減

将来の市場動向/トレンド予測

その他

社内情報共有の容易化

人件費の削減

意思決定の迅速化

最も効果があった 2番目に効果があった

3番目に効果があった

守りのIT投資(主に社内向け)

攻めのIT投資(主に社外向け)

米国(n=194) 日本(n=216)

攻めの投資 守りの投資

図133–3 ITがこれまでもたらした効果の日米比較                  (上位3つ)

10.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

22.4%

49.2%

17.6%15.3%15.3%12.9%

11.8%

10.6%

日本(n=85)

事業内容/製品ライン拡大による会社規模が拡大したため

法規制対応のため市場や顧客の変化への迅速な対応

利益が増えているからモバイルテクノロジーへの投資

新たな技術/製品/サービス利用

未IT化業務プロセスのIT化のためITによる顧客行動/市場分析強化定期的なシステム更新サイクル

プライベートクラウドの導入のため

売上が増えているから

10.6%9.4%

5.9%3.5%

1.2%

20.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50%

28.8%

41.0%

26.9%26.3%23.7%

19.2%

16.7%16.0%

15.4%

米国(n=156)

未IT化業務プロセスのIT化のため売上が増えているから会社規模が拡大したため

定期的なシステム更新サイクル市場や顧客の変化への迅速な対応プライベートクラウドの導入のため

モバイルテクノロジーへの投資

ITによる顧客行動/市場分析強化新たな技術/製品/サービス利用事業内容/製品ライン拡大による

利益が増えているから法規制対応のため

15.4%9.6%9.0%

7.7%1.3%

27.6%

ITによる業務効率化/コスト削減ITによる製品/サービス開発強化

ITによる業務効率化/コスト削減

ITによる製品/サービス開発強化

ITを活用したビジネスモデル変革

ITを活用したビジネスモデル変革

資料:(一社)電子情報技術産業協会   「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果(13年10月)

図133–4  IT 予算を増額する企業における、増額予算の用途

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第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

また、米国企業は自社に多数の IT エンジニアを抱えるが、日本企業は少数かつ分社化して切り離したり、アウトソーシングするケースも多く、外部に依存している。IT 投資のアウトソーシングは、多くが SIer(システムインテグレーターの通称)に依存するため、過度な

手作り志向となり、古いシステムが残存したり、外部との連携性が低いシステム構成となり、結果的に IT の戦略活用の阻害要因になっているとの指摘もある(図133–6・7)。

0% 10%

日本(n=216)

20% 30% 40% 50%

「聞いた事がない/あまりよく知らない」の割合

プライベートクラウド

パブリッククラウド

ソーシャルネットワーク

モバイルのビジネス利用

ビッグデータ

45.8%9.3%

42.6%2.1%

25.9%3.6%

21.8%3.6%

45.8%1.0%

米国(n=194)

資料:(一社)電子情報技術産業協会   「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果(13年10月)

図133–5  IT 関連技術の動向に対する理解

2004

日本はデータ分析能力を有する人材の供給が他国と比較して低水準となっている

0

5

10

15

20

25 United States

Compoundannual growthrate, 2004-08,%

ChinaIndiaRussiaBrazilPolandUnited KingdomFranceRomaniaItalyJapan

3.9

10.4

1.56.212.82.5

-14.432.918.9-5.3

(千人)

05 06 07 08

資料:McKinsey Global Institute 「Big data : The next frontier for innovation , competition , and productivity」2011.5

図133–7 データ分析能力を有する人材の供給状況                 (上位10カ国)

資料:(独)情報処理推進機構   「グローバル化を支えるIT 人材確保・育成施策に関する調査」調査報告書

図133–6  IT サービス(システムの設計・構築・運用)     の支出状況

米国 日本

ユーザーIT部門(内製)

ITサービス企業(外注)

ユーザーIT部門(内製)

ITサービス企業(外注)

IT技術者数 72% 28% 25% 75%

ITサービス支出 41% 59% 29% 71%

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ものづくりのノウハウを持つ強みを生かしたビッグデータの活用で海外に負けない生産性の高い工場を実現 富士通(株)

製造業の需要想定の高度化取組 ~ ARIMA モデルを用いた需要想定~

富士通(株)は日本の製造業を支援するために、「ものづくりソリューション」と呼ぶサービスを新たにスタートさせた。これらのサービスは同社自身の工場が海外工場に負けない高生産性を追求する中で得られたノウハウを提供するものである。

たとえば、ノートブック PC を生産している島根工場(富士通島根)では、多能工が受け持つ生産工程(セル生産)を仮想空間で事前に徹底的にシミュレーションして、生産効率が最善になる工程ラインを見出している。また、製造コストを最小化するために、人が行っていた作業を6軸ロボットなどに置き換えて行っているなど、既に海外と比較しても戦える状態になっているが、さらなる効率化を目指すには、「頻発停止」、いわゆる「チョコ停」に対する対策が必要となる。ここをなんとか解決したいと、同社はビッグデータ解析を試みた。自社工場ということもあり、ありとあらゆるデータを入手し、現場のエンジニアとアルゴリズム解析班が一緒になって、総力を挙げたビッグデータ解析に取り組んだ。その結果、島根工場の「チョコ停」の原因を突き止めることに成功し、その改善アプローチを同社の国内外すべての工場に適用することで、大幅な生産性向上、コストダウンが可能となった。

同社は IT 企業であると同時に、ものづくり企業でもあり、福島ではデスクトップ PC も生産するなど国内生産にこだわっている。ものづくりで脈々と培ってきたノウハウがあり、現場のエンジニアが持つ気づきや知見がビッグデータの分析に生きてくる。ビッグデータの時代だからといって、コンピュータにデータを投入すれば何かができるわけではなく、エンジニアの知見とデータ分析が合わさって新たな付加価値が得られると考えている。

日本企業にとって利益率の向上は喫緊の課題である。そのためには、手っ取り早いコストカットに向かうのではなく、的確な需要想定を踏まえて、需要に見合った生産を行うことで、在庫が過剰に積み上がり採算割れでの販売を余儀なくされる事態を避けることが重要である。

需要を想定する上で、最近注目されているビッグデータ解析など、必ずしも大掛かりな IT 投資を必要とするものばかりではない。例えば、1970 年代に提唱され発展してきた ARIMA(Auto Regressive Integrated Moving Average)モデル(注)という数理処理技術を用いれば、過去 100 日分の販売実績データがあれば 10~ 20 日後の需要を高精度で予測可能という。(注)本モデルは、季節変動等の一定の規則を持つ部分(Auto Regressive(自己回帰))と、不規則に変動

する部分(Moving Average(移動平均))で構成される変動量を予測するもの。このように簡易かつ高精度な需要予測を行うことにより、作り過ぎを防ぐことができ、生産・在庫管理に革

新をもたらすことが期待される。こうした取組が単なるコストカットや効率化という見方ではなく、マーケティングにも活かされ、経営の改革を実現するものとして捉えられることが重要である。

以上のように、ビッグデータの活用に注目されるなど、企業のグローバル化などによって、取り扱う情報が爆発的に増大する中で、個々のシステムの情報を連携させ、見える化する仕組みを構築し、迅速な情報提供により、経営層の意思決定スピードを向上させることが期待される。そのためには、IT 投資に際しての経営層の意識改革を行うととも、データ分析能力を有する人材の供給・育成を促すことが重要である。

写真:ノートブックPCを生産している島根工場

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第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

期待される CIO の役割

事業の縦割りとバリューチェーンの見える化のために果たす IT の役割

日本でなぜ戦略的な IT 投資が進まないか、その原因の一つに CIO(最高情報責任者)の役割があるといわれている。

IT 投資はすべての部門に共通のものである。横断的な役割といってもよい。ここを横断的に対応しようとすれば、一定のマネジメント権限の付与が必須となる。また、経営者のコミットメントのある中期経営戦略等と一体になった対応が必要となる。

一方、これまでの対応を見ると一定上限の予算の管理を任されるという形の CIO が多かった。これに対して、一部自動車メーカーにも見られるように外国での進出を契機に社内システムを統一化し、また、経営戦略と一体となった形で予算の執行を行う例も見られる。

各部門や拠点各様のシステムの社内統合が重要であることは言うまでもなく、それに取り組む企業は増えつつある。一方、IT そのものはツールであり、ビッグ・オープンデータを踏まえ生産現場、販売現場等でどう活用していくか、これまでのやり方を変えさせるため、どのように現場のマインドを変えさせるか。その用途の発見についてはリーダーシップの発揮に加え、現場との密なコミュニケーションが期待される。CIO の役割の深化、リーダシップの発揮に期待したい。

「売りたいのに物を作ってくれない」、「物を作っても売ってくれない」、営業と製造の現場でよく交わされている会話である。一方、現在の製造業の日本回帰事例を見ると、日本の市場を念頭に短納期(富士通島根のPC の例など)でのビジネスを行う例がある。

よく生産性という場合、工場の現場での生産性のみを指す場合が多いが、実はトータルに占める生産の時間はわずかである。生産性の現場のみならず、物流等を含めた業務の効率化が日本の製造拠点の高度化にとって大きな意味を持っている。

この業務の効率化にあたり、IT の採用による「見える化」が貢献している。ある食品・飲料メーカーの例であるが、工場では鮮度を高く生産していたものが実際に店頭に届くまでに時間がかかってしまい、顧客価値を損じている例が見られた。そこで IT 等によりサプライチェーン全体の見える化を図り、どこに無駄があるかを明らかにすることができた。また、製造現場内の事例であるが、化学メーカーのプラントの IT 化(ダイセル生産方式が代表)も製造現場の縦割りの回避に貢献している。サプライチェーン、バリューチェーンの見える化を通じて無駄を省くということが徹底されている。

業務横断的な IT の活用により、鳥瞰的な視点からの見える化が図られ、縦割り的な業務の打破、全体最適の達成につながることが期待される。

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「ものを所有させないビジネス」、オペレーティングリースの活用の可能性

IT で共有されうる生産情報のバウンダリー、「工場での生産ラインとつながった環境対応、リサイクル」

2013 年 6 月に閣議決定された日本再興戦略においても、リース手法を活用した設備投資支援策がかかげられており、その具体策として、オペレーティングリースを活用した支援策を導入したところである。オペレーティングリースとは資産の使い手(生産者、事業者)に資産の所有をさせない方法である。資産がリース会社の所有になることで貸借対照表への計上が必要でない方式(ライトアセット方式)であり、銀行の与信を超えた産業金融の多様化につながるところはいうまでもない。こうした支援策は IHI の航空機向けの研究開発など初期に利益を生みにくい投資に活用されており、今後の利用拡大が期待されるところである。一方、このライトアセットの側面だけではなく、「もの(資産)を所有させない」という特徴を踏まえた新しい製造業ビジネスの発展の可能性を秘めている。

工作機械(たとえば、DMG 森精機の MORINET)、自動車(たとえば、マツダのつながるクルマ)などの分野において、利用者情報を IT を活用して収集しようとする優れた取組がみられるが、製品の所有は利用者になっており、プライバシーへの配慮等から情報収集ができないケース、費用負担が売り手の前提となったりするケースもあり、完全な情報収集が可能となっているわけではない。

これに対して、オペレーティングリースでは所有者がリース会社であり製品利用の情報を容易に集めうる。利用者にとって製品が個々の利用者のビジネスにとってさほど重要でないケース、たとえば自動販売機の設置や複写機の設置などがあるが、これを全体として所有者が見た場合、利用情報の全体の収集を通じて、場所の置き方、利用の在り方などの解析が可能となり、新しいビジネス提供の在り方が可能となる。また、メンテナンスといった管理業務を付帯サービスとして提供することも可能となり、製造業の新しいビジネスモデル作りに貢献することが期待される。また、将来的には工作機械等への活用も期待される。

生産現場での IT の活用に詳しい学識者によれば、M2M(Machine to Machine)といった IT の活用は事業者による工場内活用がまずは中心となるといわれている。特に大企業に対して、工作機械メーカーは、遠隔で生産機械の稼働の情報を取得するのには困難を感じているケースが少なくない。一方、(株)小松製作所のKOMTRAX に代表されるように建設機械では、広範な情報収集がなされているが、この生産情報収集のあり方の差をどのように考えればよいであろうか。

これは、利用者側にとってのメリットとデメリットの比較による。特にデメリットの問題が大きい。生産現場は企業にとってコスト面も含めた生産面の差別化の場とされている。設備内製やラインの内部調整も進んでおり、容易にアウトソースするという状況にはない。工場の生産現場を容易に他社に見せたくないというのは当然といえば当然である。このような現場においては、上記の学識者の指摘の通り、その企業内での情報収集を行うことが適切な対応になりうる。一方、工事、鉱山の現場においては、生産性を上げるための対応はすべて建機、鉱山機械の生産性、オペレーションの工夫によっている。このため、建設機械・鉱山機械メーカーへのオペレーションのアウトソースは合理的な行動となっている。

同じような事例を工場の現場で見た場合、可能性があるのは環境対応、リサイクルの側面である。例えば、パナソニックがランナーリサイクル(プラスチック樹脂成型品のランナー部分の再利用)をビジネス化させようとしている。このような領域は外部にノウハウがあるだけでななく、工場の生産現場にとっても直接の生産性、品質に関わるものではなく、外部との提携が比較的容易なようである。経営資源に乏しい中小企業にニーズがあるのはもとより、継続的な関係構築を通じて、このような領域から将来的には産業機械メーカーによる工場生産現場の情報収集・解析が進んでいくことが期待される。

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第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

(2)事業再編を通じた外部経営資源の活用我が国の製造業は、国内需要の減少や新興国の経済発

展、国際競争の激化、技術革新といった事業環境の大きな変化に直面している。従来、我が国の企業は経営資源を抱え込む傾向があり、また人材育成や研究開発、生産などの面で「自前主義」を重んじる考えが強いとされてきた。しかしながら、急激な事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対応するためには、外部の経営資源を活用して、人材や技術、製品、ブランド、更には事業ポートフォリオに至るまで機動的に組み替えることが求められている。外部経営資源の活用方法の一つが事業再編である。以下では、特に M&A 注 1(合併・買収)の観点から我が国における事業再編の現状とその在り方について分析する(なお、本項で取り上げる事業再編は M&A に限ったものではないが、M&A を念頭に置くこととする)。

①我が国における事業再編の現状我が国における M&A 実績の推移を見ると、「全産業」

及び「製造業」ともに 90 年代後半以降年々件数が増加してきたが、2008 年のリーマンショックに伴い減少したものの、足下では再び増加基調に転じている。また、金額ベースの実績では、大型案件の影響を受けるため振れが大きくなっており、直近の 2013 年では 8.3 兆円と前年から約3割減少している。M&A の形態別の件数では、「買収」が M&A の中心となっている一方、「合併」は非常に少ない。但し、2000 年前後に金融業界で再編が活発化した頃、「合併」による経営統合が行われたため、「全産業」の金額ベースは大幅に膨らんだ(図133– 8・9・10・11)。

注1 本項で取り上げる M&A に係る統計・アンケート結果は、以下4形態を集計の対象としている。

   「合併」:2社以上が合併契約で1社になること。   「買収」:(既存株主からの)株式取得、増資引受、株式交換により、50%超の株式を取得

    すること。但し、50%以下でも経営を支配する場合は含む。   「事業譲渡」:資産、従業員、のれんなどからなる「事業」の譲渡。2社間での既存事業の

      統合も含む。   「資本参加」:(既存株主からの)株式取得、増資引受、株式交換により、50%以下の株式

      を取得すること。但し、子会社になる場合は除く。

213 277 247 361715 628 554 473 664

900 879 785 648 522 509 467 541668102 137 213

270

335 381 432 423477

408 462410

425359 310 249 272

295

230235 278

378

447 498 597 638

830

110911501127

1050

865734 812

870940

5674 68

107

96 80 85 70

70

88 8779

69

5746 40

4534

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1996 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

合併 買収 事業譲渡 資本参加

(件)

0.8 0.91.2

2.3 2.54.3

1.6 3.7

3.3 3.5

10.96.6 6.9

3.9 2.87.1

8.4

4.5

0.7 0.40.3

11.2

4.7

0.7

0.30.5

4.6 3.8

0.6

1.6 1.0

1.60.2

1.20.6

1.2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

1996 97 98 992000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

合併 買収 事業譲渡 資本参加

(兆円)

資料:レコフ社のデータベースより経済産業省作成 資料:レコフ社のデータベースより経済産業省作成

図133–8 我が国におけるM&A実績の推移(全産業、件数ベース)

図133–9 我が国におけるM&A実績の推移(全産業、金額ベース)

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170

なお 90 年代後半以降、M&A 実績が増加している背景としては、M&A のソフトインフラとも言うべき法制度の整備が進んだことが一因と考えられ、以下に例を挙げる。

(ア)持ち株会社の解禁1997 年 12 月の独占禁止法の改正によって、純

粋持ち株会社の設立が可能となった。これにより、他社を組織上存続させたまま持ち株会社の傘下に入れることが可能となり、事業再編・経営統合の手法の選択肢が増えることとなった。また、企業を分割・分社化した上で持ち株会社の傘下に入れて一体的な経営を行うことが可能となり、不採算事業の売却などの事業再編も行いやすくなったと考えられる。

(イ)簡易合併手続きの承認簡易合併手続きとは、比較的小規模な被合併法人

との合併や 100%出資子会社との合併などにおいて、合併法人が自社の合併承認株主総会を省略し、取締役会で合併契約書を承認することができる制度であり、1997 年に導入された。簡易合併に反対する株主が有する株式数が発行済み株式総数の6分の1未満であれば適用されるため、合併を促す効果が考えられる。

(ウ)株式交換・株式移転制度株式交換制度とは、ある企業の株主が保有する全

ての株式を、親会社となる企業の株式と交換することで親子関係を構築するための手法である。また、株式移転制度とは持ち株会社を新たに設立する際に、子会社となる企業の株主が保有する全ての株式

を、親会社となる持ち株会社の株式と交換するものである。いずれも 1999 年に導入された。

(エ)会社分割制度会社分割制度とは、企業が事業部門を分離する

際に従来必要であった裁判所が選任した検査役による検査や債権者の同意を不要とするものであり、2000 年に導入された。採算が悪かったり、非中核部門として位置付けられたりした事業部門を切り離した上で、独立させたり、他企業と合併させたりすることが容易となった。

以上のような法改正や制度導入は、M&A などの事業再編を促進し、また再編を円滑化する効果があったものと推測される。

また、M&A の国内外市場別の実績推移(製造業、件数ベース)を見ると、件数及び比率ともに多いのは日本企業同士の M&A である「IN-IN」型である。一方、我が国製造業の海外展開に対する意欲の高まりを受けて、日本企業による外国企業に対する M&A である「IN-OUT」型も増加基調で推移している(図 133–12・13)。

117 152 124 166268 260 237 203 231

296 259 244 242 182 194 165231 210

5960 93

152

182 188 211184

194171

179136 151

153 11686

85 110159 136159

196

243 223 273239

276

383 399370 398

273 259 327341 375

13 12 12

19

16 12 11

21 17

19 12

10 11

11 8 7

11 11

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

199697 98 99200001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

合併 買収 事業譲渡 資本参加

(件)

0.6 0.40.5

0.8

0.80.7

0.60.4

1.51.6

5.23.1 4.2

1.51.2

4.4

2.3 1.8

0.60.2

0.1

0.1

0.60.5

0.00.3

1.3 1.4

0.1

0.5

0.7

0.1

0.1

0.8

0.2 0.9

0

1

2

3

4

5

6

7

1996 97 98 992000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

合併 買収 事業譲渡 資本参加

(兆円)

資料:レコフ社のデータベースより経済産業省作成 資料:レコフ社のデータベースより経済産業省作成

図133–10 我が国におけるM&A実績の推移(製造業、件数ベース)

図133–11 我が国におけるM&A実績の推移 (製造業、金額ベース)

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171

第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

②我が国製造業の事業再編に対する認識M&A の実績の有無(過去3年間)及び M&A に対する

企業の関心の有無を尋ねると、大企業では「実績がある」との回答比率が 38.5%を占める一方、中小企業では 7.6%に留まっている(図 133–14)。「実績がない」企業の内、実績はなくとも関心がある企業の比率が高いのは大企業であり、中小企業では関心自体が無いことがわかる。M&A の実績が無い理由としては、「関心はあるが、実績がない」企業では、「M&A の相手先となる魅

力的な企業が見つからない」との回答比率が高く、特に大企業では 73.0%に達している。一方、「実績がなく、関心もない」という企業では回答が分散しており、

「M&A の相手先となる魅力的な企業が見つからない」との回答の他、ノウハウや資金など経営資源の欠如が挙げられている。また、「自社単独で競争に勝てる」との回答比率も高く、中小企業では 31.2%を占めている(図133–15)。

136

166

46

175

142

43

185

155

48

247

169

117

374

230

105

416

179

88

484

166

82

462

121

64

499

156

63

582

219

68

600

191

58

519

157

84

531

193

78

422

139

58

340

165

72

322

210

53

362

258

48

408

228

70

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1996 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

「OUT-IN」型 「IN-OUT」型 「IN-IN」型

(件)

39.1

47.7

13.2

48.6

39.4

11.9

47.7

39.9

12.4

46.3

31.7

22.0

52.8

32.4

14.8

60.9

26.2

12.9

66.1

22.7

11.2

71.4

18.7

9.9

69.5

21.7

8.8

67.0

25.2

7.8

70.7

22.5

6.8

68.3

20.7

11.1

66.2

24.1

9.7

68.2

22.5

9.4

58.9

28.6

12.5

55.0

35.9

9.1

54.2

38.6

7.2

57.8

32.3

9.9

0

20

40

60

80

100

199697 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

「OUT-IN」型 「IN-OUT」型 「IN-IN」型 (%)

備考:「IN-IN」型は日本企業同士のM&A。「IN-OUT」型は日本企業による、外国企業に対する M&A。「OUT-IN」型は外国企業による、日本企業に対する M&A。資料:レコフ社のデータベースより経済産業省作成

図133–12 M&Aの国内外市場別の実績推移 (製造業、件数ベース)

図133–13 M&Aの国内外市場別の実績比率の推移(製造業、件数ベース)  

38.5

7.6

30.7

29.8

30.7

62.5

0 20 40 60 80 100

大企業

中小企業

(n=205)

(n=3,846)

実績がある 関心はあるが実績がない 実績がなく関心もない

(%)

備考:1. M&A の実績の対象は過去3年間。   2.本件での事業再編の実績は、合併、買収、事業譲渡、資本参加の実績を対象に集計。

資料:経済産業省調べ(14年1月)

図133–14 M&A に関する実績の有無及び関心の有無

12.1 16.4 16.4 4.8 5.2 2.6 3.4

73.0 27.6

46.4

13.5

3.2

25.9 6.4

31.2

19.0 24.1 22.0 26.4

0

20

40

60

80

100

関心はあるが、

 実績がない

(n=63) (n=58) (n=1,089) (n=2,207)大企業 中小企業

M&Aに関するノウハウがない

自社単独で競争に勝てる

自社がM&Aの相手として評価されないM&Aの相手先となる魅力的な企業が見つからないM&Aに対する社内の抵抗が大きいM&Aをする十分な資金がない

(%)

実績がなく、

 関心もない

実績がなく、

 関心もない

関心はあるが、

 実績がない

備考:「図133-14」において、「関心はあるが実績がない」、「実績がなく関心もない」と回答した   企業を対象。

資料:経済産業省調べ(14年1月)

図133–15 M&A の実績が無い理由 

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172

M&A の実績がある企業における M&A の目的では、「同一・類似事業の規模拡大」が 61.4%と最も多く、その他にも「事業の取り込み」を目的とした M&A の回答比率が多かった(図 133–16)。一方、「事業の切り離し」を目的とした回答比率は相対的に低い。企業は M&A にあたっては、同一事業であろうが異なる事業であろうが、事業の取り込みをその主たる目的としており、不採算事業や非中核事業であっても事業の切り離しに対する

意識は乏しいことがうかがえる。また、M&A で得られた経営資源及び得られなかった

経営資源を挙げてもらうと、「設備等の有形固定資産」や「販売網」といったハード面や、ソフト面でも「技術・ノウハウ」は得られたとの回答比率が高かったが、「ブランド力や知名度」「組織改変力」は得られなかったとの回答比率が高かった(図 133–17)。

事業再編を実施する企業は、自社が属する業界及び自社の事業に対してどのような認識を抱いているのか。まず、自社が属する業界の事業環境についての認識と再編の必要性を尋ねると、自社が属する業界が「過当競争に陥っている」及び「過剰設備に陥っている」という認識である企業の方が、業界再編が必要であるとの考えが強い(図 133–18)。一方、(過去3年間に)事業再編の実

績がある企業とない企業について、自社業界の事業環境に対する問題意識を比較すると、「過当競争に陥っている」及び「過剰設備に陥っている」という問題意識について、実績がある企業とない企業の間にはほとんど差が無く、問題意識自体が必ずしも事業再編を大きく誘引するものではないことがうかがえる(図 133–19)。

61.4

29.7

25.6

8.9

6.1

8.3(n=360)

0 20 40 60 80

同一・類似事業の規模拡大

異なる事業の補完・相乗効果

新たな事業への投資

不採算事業の切り離し

非中核事業の切り離し

その他

(%)

事業の取り込み

事業の切り離し

図133–16  M&Aの主たる目的

備考:複数回答。資料:経済産業省調べ(14年1月)

0

20

40

60

80 (n=332)得られた経営資源 (n=266)得られなかった経営資源 (%)

設備等の有形固定資産

技術・

ノウハウ

優秀な人材

ブランド力や知名度

販売網

組織改変力

その他

図133–17  M&Aで得られた経営資源・   得られなかった経営資源

備考:複数回答。資料:経済産業省調べ(14年1月)

52.3

14.3

67.2

24.2

47.7

85.7

32.8

75.8

0

20

40

60

80

100

そう思う そう思わない そう思う そう思わない

(n=2,693) (n=1,296) (n=1,453) (n=2,533)

過当競争に陥っているか 過剰設備に陥っているか

(業界再編が必要だと)思わない (業界再編が必要だと)思う(%)

図133–18 自社業界の事業環境認識

資料:経済産業省調べ(14年1月)

71.6

45.2

67.0

35.6

「過当競争に陥っている」と思う

「過剰設備に陥っている」と思う

0 20 40 60 80(%)

(過去3年間に事業再編の)実績がある企業(n=363)

実績がない企業(n=3,605)

図133–19 自社業界に対する問題意識

資料:経済産業省調べ(14年1月)

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173

第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

自社事業についての認識を M&A の実績の有無毎に集計すると、M&A の実績がある企業のほうが全般的に自社事業に対して問題意識を抱いている傾向が強い。自社事業の課題解決手法の一つとして、事業再編に取り組んでいる可能性がある。また、ここでの事業再編実績は必ずしも海外企業に対する M&A であるとは限らないが、特に海外における販売・生産・サービス拠点や人材、製品ラインナップなど海外関連の事業拡大が必要だと認識されている(図 133–20)。

M&A を実施するに際して、企業は多くの課題を解決する必要があり、またその負担を嫌って M&A に対して消極的との指摘もある。M&A を実施する前の段階での課題や阻害要因を尋ね、実績及び関心の有無に応じて集計すると、経営陣や既存株主、取引銀行、取引先(納入先、顧客)などステークホルダーの説得を課題とする割合は低く、また実績や関心の有無による差はほとんど無い(図 133–21)。いずれもこれらステークホルダーに対する説得を課題と考える割合は約2割程度に留まっており、M&A を実施する上でステークホルダーの説得が制約となると考えている企業は、多くはない。

一方、課題として認識されている割合が高いのは、「経営トップによる意思決定や経営判断」「M&A にかかるビジョンや戦略の策定」「M&A を推進するための人材・組織体制の不足」「M&A に必要な資金工面」といったハード面・ソフト面全般に係る項目である。これら項目は実績の有無によって課題と認識している回答割合に約2割程度の差があり、実績が無い企業のほうが課題であるとの認識割合が高いことから、M&A に関心があっても実施に二の足を踏ませる一因となっているものと考えられる。

M&A 実施後の段階における課題では、企業風土や従業員、人事体系、システム等の統合・融和に関する項目の多くが課題として認識されている一方、経営陣の融和はその回答比率が低い(図 133–22)。また、設備や人員の過剰・重複に関する項目の回答比率は、統合・融和に関する項目に比べて低くなっており、M&A 後の課題として相対的に負担が重いとは見なされていないことがうかがえる。

0

20

40

60

80

100

同一事業での規模拡大が必要だ

海外販売拠点の拡充が必要だ

海外生産拠点の拡充が必要だ

海外サービス拠点の拡充が必要だ

海外で活躍できる人材の拡充が必要だ

海外での製品ラインナップの拡充が必要だ

不採算事業の切り離しが必要だ

非中核事業の切り離しが必要だ

新規事業への進出が必要だ

(過去3年間に事業再編の)実績がある(n=350) 実績がない(n=3,496)

(%)

図133–20 自社事業に対する問題意識

資料:経済産業省調べ(14年1月)

図133–22 M&A の実施後の課題

20.7

44.5 46.6 44.5 40.0

21.4 18.3

43.4

0

20

40

60

経営陣の融和

従業員の融和

企業風土の統合

人事・

給与・

組織

体系等の統合

システムの統合

過剰人員

既存設備や事業拠点の

重複や過剰

M&Aによる効果の

測定・

評価

(n=290) (%)

資料:経済産業省調べ(14年1月)

0

20

40

60

80

実績がある(n=298)

関心はあるが実績がない(n=1,058)

実績がなく関心もない(n=1,937)

(%)

経営トップによる

意思決定や経営判断

M&Aにかかるビジョンや

戦略の策定

M&Aを推進するための

人材・組織体制の不足

M&Aに必要な資金工面

経営陣の説得

既存株主の説得

取引銀行の説得

取引先(納入先、顧客)の説得

独占禁止法

図133–21  M&A の実施前の課題

資料:経済産業省調べ(14年1月)

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174

企業による事業再編の円滑化を図る税制の創設

なお、M&A に伴う従業員の処遇では、「従業員はほぼそのまま雇用している」との回答が 86.6%に達しており、雇用面に十分配慮している様子がうかがえる(図133–23)。「従業員はほぼそのまま雇用している」と回答した企業に対して、雇用維持のために取り組んだこと

を尋ねると、「給与・賃金の引き下げ」が 10.7%、「他事業所への配置転換」が 68.4%であり、主に賃下げではなく配置転換によって雇用を維持していることがわかる(図 133–24)。

事業再編促進税制(特定事業再編投資損失準備金)は、「日本再興戦略(平成 25 年6月 14 日閣議決定)」の着実な実行のために施行された産業競争力強化法に規定する計画認定を受けた事業者を対象とする支援措置の一つであり、他社と連携して合弁会社を設立するなど、お互いの強みを活かして成長を目指す取組を支援する税制である。

これは、産業競争力強化法における「特定事業再編計画」の認定を受けた事業者が、合弁会社に対する出融

86.6 13.4

0 20 40 60 80 100

従業員はほぼそのまま雇用している 従業員数を減らしたことがある

(%)

(n=358)

図133–23  M&A に伴う従業員処遇

資料:経済産業省調べ(14年1月)

10.7

68.4

9.8

13.2

38.5

0 20 40 60 80

給与・賃金の引き下げ

他事業所への配置転換

他社(子会社を含む)への出向

ワークシェアリンク ゙

その他

(%)

(n=234)

図133–24 雇用維持のための取組

備考:「図133-23」において、「従業員はほぼそのまま雇用している」と回答した企業を対象。資料:経済産業省調べ(14年1月)

均 等 取 崩 額

※事業者は特定会社に対する出融資額の70%を限度 に準備金を積み立て損金算入可

○積立限度額は、特定株式等の取得価額の70%○積立期間は最長10年間 ただし、特定会社の営業利益が3期連続黒字となった場合、積立期間は終了。

(例えば、9年目に特定会社が解散した場合)

設立時の出資額の70%以内

融資額の70%以内

増資額の70%以内

事業者(出資会社)の税務処理

※青色申告書を提出する法人に限定

【益金算入】

【損金算入】

準備金の積み立て

1.次のいずれかに伴い取得する特定会祉の株式(出資を含む) ①設立若しくは資本金の額等の増加に伴う金銭の払込み、②合併、③分社型分割、④現物出資2.特定会社に対する貸付金に係る債権

特定株式等

○積立期間終了日の翌事業年度から原則5年間で準備金残額の均等額を取り崩し○ただし、次のような場合には、準備金を一括して取り崩す

 ・ 特定株式等を全部又は一部譲渡した場合(一部の場合は譲渡相当部分) ・ 特定株式等の帳簿価額を減額した場合(減額相当部分)

 ・ 特定会社もしくは事業者が解散した場合

 ・ 青色申告書の提出の承認を取り消された場合

準備金の取り崩し

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

割分社会

等資出銭金

崩 取 括 一

(例)3年目に融資、7年目に増資をするケース

資料:経済産業省作成

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175

第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

資額を損失準備金として積み立てた場合、損金計上することができるものである(積立限度額は出融資額の70%、積立期間は計画の認定を受けた日から最大 10 年間)。積立期間が終了すれば、終了日の翌事業年度から原則5年間にわたって積立期間終了時の準備金残高を均等に取り崩すこととなる。本税制の活用により、法人税の繰延効果を得ることができ、その資金を更なる成長に向けた投資などの取組に回すことが出来る。また、事業再編促進税制のほか、認定を受ければ、合併や増資などに係る登録免許税の軽減や計画の実施に必要な資金に対する長期・低利融資といった金融支援など様々な措置の適用も可能となる。

三菱重工業(株)と(株)日立製作所は、2014 年2月に、それぞれ売上高の8割強、6割を占める主力部門である火力発電関連の事業を分割し、新会社を設立した。新会社である三菱日立パワーシステムズ(株)は、「特定事業再編計画」の認定第1号である。三菱重工が保有する大型ガスタービン事業と東南アジアや中東での販路、日立が保有する中小型ガスタービン事業と欧州やアフリカでの販路といった両者の強みを生かし、顧客ニーズへの対応やサービスを更に強化し、火力発電システム分野におけるグローバルトップのリーディングカンパニーとなることがねらいである。また、新日鐵住金(株)と東邦チタニウム(株)が、2014 年3月に、新会社である日鉄住金直江津チタン(株)を設立した際にも認定を受けている。同社では、今後需要の拡大が見込まれる航空機分野向けのチタン合金の製造に対応すべく、新日鐵住金より多様なスクラップが活用でき原料選択における競争力のある EV 炉を、東邦チタニウムより成分の均質性が確保できる VAR 炉を持ち寄り、世界的に競争力がある素材製造基盤を構築する予定である。

こうした支援措置を講じることで、企業による事業再編の円滑化を図り、我が国の経済社会全体における経営資源の有効活用を通じた我が国産業における生産性の向上を目指す。

③我が国製造業における事業再編の類型(ア)事業再編の意義と目的

我が国の製造業は、国内における需要の減少や国際競争の激化、技術革新、新興市場の成長といった事業環境の大きな変化の下で、新たな成長を目指さねばならない。我が国企業の競争力の向上及び収益性の改善を目指す上で、ここでは次の2つの観点から考える。

(a)世界で戦えるボリュームの確保まず、世界市場における各企業の位置づけを考え

ると、エレクトロニクスや自動車などの分野を中心に「グローバルメジャー」と呼ばれる、個別の事業分野や市場で大きな地位を占めている巨大企業が存在している。これに対して我が国の製造業では、たとえ企業全体の規模は大きくても個々の事業規模では必ずしも十分ではなかったり、相対的に規模の劣る企業が多数存在したりすることで先進国や新興国の企業に対して劣勢を強いられているケースがある。市場自体の規模のいかんに係わらず、我が国企業も個々の事業分野における商品力、生産力、販売力及び設備投資・研究開発投資などの面で、世界で戦えるように企業規模の拡大と体力強化が求められている。

(b)稼ぐことのできる「バリューチェーン」の構築もう一つは、個々の企業が自分自身の付加価値を

どこで見出すか、換言すれば、どの領域で利益を上

げていくのかということである。我が国製造業の利益率は、他国と比べて低い(図 133–25・26)。その理由の一つとして、我が国企業の場合は生産には強くとも、開発、調達、生産、販売というバリューチェーン全体を通じて稼ぐ力が弱いということが指摘されている。自社が不足している機能の強化や、バリューチェーンを活用した新しいビジネスモデルの導入などを進めることが必要であり、また、市場の変化に対応した事業の組み替えも必要となってくる。我が国製造業は、収益に貢献するバリューチェーンを構築することで企業価値を高めることが求められている。

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事業再編は、再編の当事者である複数の企業がそれぞれ有している有形無形の経営資源を統合し、企業の目的に沿って最適化することを通じて、事業環境の変化への対応や更なる成長を目指そうとするものである。従って、以下では事業再編を「世界で戦えるボリュームの確保」と、「バリューチェーンの構築による企業価値の向上と利益の確保」という2つのパターンに整理する。前者は、主に従来と同一の事業領域において活動することを前提に企業規模やシェアの拡大を目指すことから「ヨコの再編」、後者は主に川上から川下までの新たなバリューチェーンの強化を基本とすることから「タテの再編」として位置付ける。「ヨコの再編」とは、事業領域が重なる企業が、

企業全体または一事業部門を統合するパターンである。これによって、当該事業の規模を拡大して経営基盤を確保したり、シェアを拡大して市場での地位を向上させたりすることを目指すものであり、さらに次の2通りの類型が想定される。

(a)成長指向型の事業再編これは、企業の積極的な成長戦略を実現すること

を目的として事業再編を位置付けるものであり、同じ領域にある生産設備・拠点、技術、人材、販売網、のれん、資金といった様々なハード及びソフトの経営資源を統合することによってグローバル生産への対応、巨大市場や成長市場への展開、技術力・開発力の強化、製品群の充実などを進める。

(b)体力強化型の事業再編これは、企業の経営基盤の強化や体質改善を主

たる目的として事業再編を位置付けるものである。ハード及びソフトのさまざまな経営資源を統合した

上で、最適な再配置や効率的な活用、規模の効果の発揮、重複部分の整理統合などを通じて生産性の向上や固定費の削減、投資力及び開発力の確保などを目指す。

2つの類型は厳密に分けられるものではないが、実際の事業再編事例ではどちらかに比重を置いているものが多いと考えられる。

一方、「タテの再編」とは、新たな成長機会を獲得するために、事業領域が異なる企業及び部門を統合することによってバリューチェーンの強化や事業の多角化を実現させるものである。自社には欠けている事業及び経営資源を外部から取り込み、自社と統合することによって、新たな収益の柱となる事業の確保・育成、異分野への進出、事業ポートフォリオの組み替え、新しいビジネスモデルの実現(例えば、川上から川下までのワンセット型の事業展開やソフトとハードが融合したサービスの提供)などを目指すものである。

なお、「ヨコの再編」と「タテの再編」の両方の特徴を有する事業再編も考えられ、企業が強く成長を指向するとともに、事業領域の拡大やポートフォリオの組み替えといった体質改善に同時に取り組もうとしている場合が該当する。

(イ)事業再編の手段長らく我が国における事業再編の手段としては、

2社以上の企業が契約によって1社になる「合併」や、株式取得、増資引受、株式交換等の手段によって 50%以上の株式を取得する「買収」が一般的であった。これらは当該企業及び企業グループ全体が丸ごと事業再編の対象となるケースである。一方、

日本 米国 ドイツ

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(%)

図133–26 日米独企業の売上高利益率比較(全規模製造業)

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1990 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10

日本 米国 ドイツ

(%)

図133–25 日米独企業のROA比較(全規模製造業)

備考:1.ROA=税引前当期純利益/総資産、売上高利益率=税引前当期純利益/売上高。   2.日本の値は年度。出所:内閣府「平成25年度年次経済財政報告」原出所:財務省「法人企業統計年報」、U.S Census Bureau“Quarterly Financial Report”、European Comittee of Central Balance Sheet Data Offices “Bach Database”より作成。

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第1章

第3節事業環境が変化する中での「稼ぐ力」向上

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

近年では企業内の一事業部門のみを対象とする事業再編が注目を集めており(この場合の事業部門は、子会社・関連会社のように組織上は別会社であるが実質的には本社の一部門と同じ位置付けであるようなケースも含まれ、必ずしも本社内部の組織のみを指しているわけではない)、事業部門単位による合併や買収も行われている。

以下では、一企業または企業グループ全体が対象となり、また一企業または企業グループ間で行われる事業再編を「『本体企業』間の事業再編」と位置付ける。一方、一企業全体ではなく企業内の一事業部門のみを対象とし、また企業内の一事業部門間で行われる事業再編を「『部門・事業』間の事業再編」と位置付けて、両者を事業再編の「手段」の観点から整理することとする。

(a)「本体企業」間の事業再編「本体企業」間の事業再編では例えば、「合併して

新しい企業が生まれる場合」、「一方の企業が他企業を完全買収して自社の一部門とする場合」、「一方の企業が買収や資本参加によって自社の子会社・関連会社とする場合」、及び「当事者企業が共同で持ち株会社を設立してその傘下に入る場合」などがある。合併の場合は組織上も完全に一体的な経営が行われるが、その他の場合では、親会社・子会社として形式的に組織上は分かれるが、実質的にはグループとして一体的な経営が行われる。

(b)「部門・事業」間の事業再編もう一方の手段として、「部門・事業」間の事業

再編をここでは取り上げる。「部門・事業」間の事業再編は、母体となる企業内の一事業部門同士が事業再編の当事者であり、「本体企業」間の事業再編の場合と同様、合併や買収の形態が取られる。また、事業再編に際して対象事業の母体企業からの分割が同時に行われる場合もある。事業再編後の経営方法としては、再編前に双方の当事者がそれぞれ属していた企業(母体企業)との距離感からいくつかのパターンが考えられるが、ここでは「母体企業」と、事業再編によって新たに誕生した「新会社」との関係に基づいて、次の2つのケースに整理する。

【母体企業の戦略部門の場合】再編によって生まれた新会社の事業が、母体企業ない

しそのグループ全体の戦略事業の一つとして位置づけられている場合は、母体企業が将来にわたって出資関係を維持し、再編後も経営に直接的に関与する。連結子会社などの形で、資本面でも事業面でも母体企業と一体的な経営が行われている場合が典型的である。

【母体企業の戦略部門でない場合】もう一つは、新会社の事業と母体企業の事業の関係が

希薄となり、独立的、自立的な経営が行われる場合である。母体企業から見ると、「選択と集中」の結果として事業を切り離した場合などが相当する。資本関係は維持しても持分法適用会社にとどめる等、経営への関与が弱いこともある。

(c)「母体企業」から見た「部門・事業」間の事業再編の重要性「部門・事業」間の事業再編における「母体企業」

と「新会社」の関係を整理すると、「母体企業の両者とも新会社の経営に関与する場合」、「母体企業の一方が経営に関与し他方が関与しない場合」、「母体企業がいずれとも関与しない場合」の3通りがある。その違いは、「母体企業」がそれまで自社ないし自社グループ内に抱えてきた当該事業をどのように位置付けたかによって生じる。

上述のように、我が国の製造業は先進国や新興国の企業と厳しい競争を強いられ、利益率は低い水準にとどまっている。近年では、そうした厳しい競争環境に対して積極的な対策を講じることなく、手をこまねいているうちに事業価値を毀損してしまうケースも散見される。まず企業は、自社ないし自社グループが保有する各事業について競争力、利益率、将来性などの視点から的確に評価し、その方向性を決めることが重要である。企業が戦略事業として位置付けていたとしても、事業規模が小さく競争に耐えられない場合は、他社との事業統合によって競争力や投資力・成長力を確保することも有効である。また、成長性も利益率も低い事業では、事態が一層厳しくなる前に自社から切り離して他社と統合させて自社の関与を弱める一方、自社は経営資源を強みのある事業に集中させることも選択肢である。母体企業の関与が弱まった結果、事業再編された「部門・事業」が責任感を持った自立的な経営を行えるようになることも考えられる。

こうした点から、「部門・事業」間の事業再編は大きな意義を有するものである。特に我が国企業は欧米企業と比べて自社が行ってきた事業を切り離すことが苦手であるとも指摘されており、「部門・事業」間の事業再編を通じた選択と集中は、企業として極めて重要な経営課題であると言えよう。