成年後見 不動産 - frk一般社団法人不動産流通経営協会 平成25年度...

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一般社団法人不動産流通経営協会 平成25年度 研究助成事業 成年後見不動産 宮内 康二 (一般社団法人後見の杜 代表)

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Page 1: 成年後見 不動産 - FRK一般社団法人不動産流通経営協会 平成25年度 研究助成事業 成年後見と不動産 宮内 康二 (一般社団法人後見の杜

一般社団法人不動産流通経営協会 平成25年度 研究助成事業

成年後見と不動産

宮内 康二 (一般社団法人後見の杜 代表)

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もくじ

1.本調査研究の目的

2.本調査研究のまとめ

(1)不動産取引に関する後見利用の優位性

(2)不動産取引に関する後見報酬と手数料の比較

(3)後見に対する不十分な知識の可能性

3.後見の概要

(1)後見人の仕事

(2)後見の枠組み

(3)財産目録と年間収支表

4.後見実務における不動産の取り扱い

(1)権限対象

(2)取引の範囲

(3)事務書面

(4)家裁に対する居住用不動産処分の許可審判申立て文例

5.司法統計にみる居住用不動産売却の許可

(1)今まで(平成16年~平成25年)

(2)これから(平成26年~平成35年)

6.不動産取引に関する後見人等へのインタビュー

(1)後見:居住用不動産の売却

(2)保佐:居住用物件の賃貸借契約解除

(3)保佐:相続にからむ不動産売却

(4)後見:土地の売却(予定)

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7.中高年層に対するアンケート結果

(1)対象者属性

(2)集計結果

8.不動産業者に対するアンケート結果

(1)対象者属性

(2)集計結果

9.不動産事業者が見聞した後見に関する取引エピソード

(1)本人の意思確認

(2)用地買収

(3)逸失利益

(4)老齢期の婚姻

(5)類型変更

10.アンケート用紙

(1)中高年層に対するアンケート

(2)不動産事業者に対するアンケート

参考:~不動産業界における「後見人相談士」のススメ~

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1.本調査研究の目的

増大する認知症高齢者が所有する不動産を如何に取り扱うか、長寿国日本の

課題の一つであり、本調査研究の背景事情である。

認知症高齢者が所有する不動産については、以下のいずれかの形態である。

・判断能力が不十分な本人と、直接取引する

・実質的に、本人家族と取引する

・後見制度を利用して取引する

・取引しない

この実情について不動産事業者にうかがい、まとめるのが本調査の目的の一

つである。

物件を所有する、現状元気な中高年層は、将来における不動産の取り扱いに

ついてどのような意向を持っているのか、後見制度を利用するのか、などにつ

いても、アンケートを通じてまとめてみたい。

判断能力が不十分な人の代理人を規定する後見制度が誕生して約15年、の

べ30万人を超す人が利用してきた。預貯金の管理、老人ホームの手配、等に

あわせ、本人が住んでいた不動産の売却や貸し出し等が後見業務の主である。

後見制度を通じて取引される不動産件数は年々増加している。今後も、堅調に

増加するであろう。その数値について、司法統計をもとに整理し、推計する。

後見制度に絡む不動産取引の実際も知りたい。よって、後見人に対するヒア

リング、ならびに、後見人に絡む事例に関する不動事業者に対するインタビュ

ー、なども行う。

上記を通じ、後見と不動産について端的にまとめ、対策について若干提言す

ることを本調査の大きな目的とする。

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2.本調査研究のまとめ

本調査研究から総括できる視点を3点にまとめる。

(1)不動産取引に関する後見利用の優位性

今回の調査から、7割の不動産事業者が所有者の判断能力が不十分であるこ

とから物件の取引が滞った経験をもつこと(P43)、8割の不動産事業者が後

見人を付けずに判断能力が不十分な人の不動産取引をしたことがあること(P

44)、後見人を付けずに判断能力が不十分な人の物件を取り扱うに当たり、不

動産事業者にとって具体的で有効な対策が取られていないこと(P44)がわ

かった。

つまり、後見制度を使わないゆえ、不安定な不動産取引の実態が少なくない

ことがわかった。

他方、司法統計によると、被後見人等の居住用不動産売却等の取り扱い件数

は、平成16年1,355件(実績)、平成25年6,222件(実績)、平成3

4年21,592件(当研究にて推計)と増加の一途である。

その際の実質認容率は、過去10年において平均99.7%と、極めて高い

(P24)。逆に却下は、年間10件程度と極めて少ない。

つまり、後見制度を使うと、多少の時間はかかるにせよ、ほぼ確実に、不動

産取引ができるのである。

後見人を付ける費用が10万円前後に過ぎないこと、本人(任意後見の場合)

や家裁(法定後見の場合)から代理権を付与された者と取引することの確実性、

中高年の半数程度が後見利用に前向き(P38)であること、などを考えると、

後見人を付けて不動産取引をすることに、メリットこそあれデメリットはない

ように思われる。

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(2)不動産取引に関する後見報酬と手数料の比較

横浜家裁によれば、「被後見人の療養看護費用を捻出する目的で,その居住用

不動産を,家庭裁判所の許可を得て3000万円で任意売却した場合、(そのこ

とで後見人が得られる報酬は)約40万円~約70万円」である。

同じく、中高年層の半分強が、委託費について「有料」と回答した。あまり

に高いと思われる委託費(1000万円以上)を除くと、委託費は「平均53

万円」で、居住形態により44万円(夫婦暮らし)~63.6万円(家族暮ら

し)の範囲となった(P37)。

図らずも、横浜家裁の金額と被後見人等候補者の金額がほぼ同等となった。

残る課題は少なくとも二つある。

一つは、不動産業界で常識とされる手数料と、上記の家裁の運用上の金額お

よび本人の意向金額のバランスである。もし、不動産業界の金額が家裁及び本

人の金額より高いようなら、後見を使わない方が不動産業界として利益は出る。

逆に、不動産業界の金額が家裁及び本人の金額より安いなら、後見制度を使わ

ない理由はおよそなくなる。

もう一つは後見の手間である。これについては後見人や保佐人に対するイン

タビュー(P25~30)を通じて紹介したが、不動産以外の業務も後見人の

職掌範囲となることがわかる。後見人が負う手間も考慮する必要がある。

上記の課題をクリアーできれば、後見制度の利用は、費用的にも有効であろ

う。

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(3)後見に対する不十分な知識の可能性

不動産事業者からのアンケート回収率が思いのほか低かった(回収率25%、

P42)。実際、年間6千件程度の取引しかないのだから、後見人と取引をした

ことがなく、本調査に回答しかねた人は多いかもしれない。

翻って、本調査の回答者は、業界の中では比較的後見通と思われる。なるほ

ど、取引の当事者に対し後見制度の利用を勧めたことがある不動産事業者が8

割(P43)である。

一方、任意後見と法定後見では不動産取引の扱いが違うことを知っていたの

は回答者の3割(P45)に留まった。

このことから、不動産業界全体における、後見実務に対する知識の不十分性

は否めない。

「後見人相談士(P48~49)」のような研修や人材の導入が必要かもしれ

ない。

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3.後見の概要

後見の概要を捉える。

(1)後見人の仕事

後見人の仕事は、認知症や知的・精神障害者の代理人として、必要な医療や

介護等を手配し、被後見人の財産から適宜支払いを行うことである。

このため、本人の動産、不動産の管理や処分も後見人の仕事となる。

(2)後見の枠組み

後見は大きく「任意後見」、「未成年後見」、「成年後見」の3種に分かれる。

図 後見の枠組み

①「任意後見」

判断能力が衰えるかもしれない将来に備え、自分の意思で、誰を後見人にす

るか、その者に何を代理してもらうか、その際の報酬はいくらにするか等につ

いて、しかるべき人(受任者)と契約を結ぶ仕組みである。

「契約後見」とも呼ばれ、本人(委任者)の自主性が高く反映されるのが特

徴である。

当該契約の社会性を担保するために、公正証書で契約し、その内容は東京法

務局に登記(後見登記)される。

後見

任意後見

法定後見

未成年後見

成年後見

補助

保佐

後見

概念 制度・実務

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②「未成年後見」

親権者を失った未成年者を、20歳になるまで後見する仕組みである。

親権者の指示ないし家裁の裁量により、未成年者の祖父母等の親戚や法人を

含む第三者が未成年後見人になる。

③「成年後見」

認知症や知的・精神障害等により、任意後見契約ができないほどに、判断能

力が不十分になっている人の後見人を定めるものである。

本人、親族、居住自治体等の申し立てを受け、家裁が裁量で後見人を定める。

後見される人の判断能力が極めて不十分な場合を「後見類型」、中程度の場合

を「保佐類型」、軽度の場合を「補助類型」という。いずれも、本人(被後見人、

被保佐人、被補助人)の死亡もしくは回復により終了する。

死亡において、本人の遺産を相続人に引き継ぐことで後見は終了する。

(3)財産目録と年間収支表

後見人は、被後見人の財産を把握し、計画的にこれを取り扱うことが求めら

れる。

①財産目録

後見人は、その選任が確定してから1か月以内に、被後見人の財産を調査し、

財産目録を作成し、家裁に提出する義務がある。その目的は、後見人の権限で

ある代理権、同意権、取消権がどの財産や権利に及ぶかを明確にすることであ

る。また、後見人による被後見人の財産に対する簿外管理を防ぐことである。

なお、後見人に後見監督人がついている場合、この財産目録作成に対し後見

監督人は立会わなければならない。

②年間収支表

後見人は、被後見人の収支状況についても家裁に予定する必要がある。家賃

収入があれば収入欄にこれを記載し、ローンの支払いがあれば支出欄にこれを

記載することになる。

やり繰りにおいて、不動産を処分しないと生活ができないようであれば、不

動産を売却することも有り得る。

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(選任時-初回報告用) 平成○年(家)第○○○○号

財産目録(平成○年〇月末日 現在) 1 不動産

番号 所在、種類、面積 備考(変動事項等)

1 ○○県○○市○○町2番地 宅地 ○○.○○㎡ 自宅敷地

2 ○○県○○市○○町2番地 居宅 2階建て 自宅

3 ○○県○○市○○町4番地 宅地 ○○.○○㎡ H○/○より○○ら5名に賃貸中

4 3同所 所在 共同住宅 3階建て 同上

2 預貯金、現金

番号 金融機関・口座番号 種類 申立時金額 今回金額 備考(変動事項等)

1 ○○銀行○○支店

(○○○○)

普通 ○,○○○,

○○○円

○,○○○,

○○○円

公共料金等引落

賃料入金

2 ○○銀行○○支店

(○○○○)

定期 ○,○○○,

○○○円

○,○○○,

○○○円

ゆうちょ銀行(○○

○-○○○)

定額 ○,○○○,

○○○円

○○○,○○

○円

4 現金 現金 $○○,○○

0円 円貨購入、

1に入金

現金・預貯金総額 ○,○○○,

○○○円

○○,○○○,

○○○円

申立時との差額 +○,○○○,

○○○円

3 その他の資産(保険契約、各種金融資産等)

番号 種類(証券番号等) 金額(数量) 備考(変動事項等)

1 ○○(株)株式 ○,○○○株 ○○証券に預ける

2 ○○損保傷害保険(○○) ○○円

3 ○○生命 生命保険(○○) ○○円

4 負債

番号 種類(証券番号等) 金額(数量) 備考(変動事項等)

負債総額 円

作成日 平成○年〇月〇日

被後見人 甲野太郎

作成者 後見人 乙川冬子 ㊞

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(選任時-初回報告用)

平成○年(家)第○○○○号

被後見人の年間収支予定表 1 被後見人の収入(年金額決定書、確定申告書等を見ながら書いてください。)

種別 名称・支給者等 金額(円) 入金先通帳・頻度等

年金 厚生年金

国民年金・老齢年金

○,○○○, ○○○

○○銀行○○支店

○○○○○2か月に1回

賃料 目録3・4の不動産 ○,○○○, ○○○

5円、各月○○○, ○○○円

○○銀行○○支店

株式配当 ○○○, ○○○ 6月・12月

○○銀行○○支店

預金利息 ○○○, ○○○ ○○銀行○○支店

○○○○○ 8月

合計 ○,○○○, ○○○

2 被後見人の支出(納税通知書、領収書等を見ながら書いてください。)

品目 支払先等 金額(円) 月額・使用通帳等

生活費 水道光熱費、電話代、

食費、被服費

○,○○○, ○○○ ○○, ○○○/月

療養費 訪問介護サービス、

おむつ第、入院費

○,○○○, ○○○ ○○○, ○○○/月

住居費 0

税金 ○○○, ○○○

保険料 火災保険

生命保険

介護保険

国民健康保険

○○, ○○○

○○, ○○○

○○, ○○○

住宅ローン 0

合計 ○,○○○, ○○○

※収支が赤字となる場合は、この枠内に対処法を記載して下さい。

作成日 平成○年〇月〇日

被後見人 甲野太郎

作成者 後見人 乙川冬子 ㊞

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4.後見実務における不動産の取り扱い

後見実務における不動産取り扱いの要点をおさえる。

(1)権限対象

本人の不動産が、後見人の権限対象になっていなければ、後見人は不動産に

ついて手を付けることはできない。そのことの確認は、登記事項証明書におけ

る代理行為目録や同意行為目録を見れば明らかである。

①代理権

後見人等に付された代理権は、代理行為目録に記載され、登記される。

記載行為については、後見人等が、本人のために、代理することができる。

後見類型の場合、すべての法律行為について代理権が付された格好になる。

判断能力が残存する保佐類型と補助類型の場合、申立てにおいて必要な行為を

申請し、家裁が決定した行為についてのみ代理権を行使することができる。

記載以外の行為については越権、無権となるので取引においては留意する必

要がある。下記文例1の補助人は、被補助人の不動産に対する代理権は保有し

ないから、不動産業界はこの補助人からの要請に応じてはならない。

文例1 ある補助人の代理行為目録

代理行為目録

1.預貯金に関する金融機関との一切の取引(解約・新規口座の開設を含む。)

2.年金その他の社会保障給付の受領

3.入院費の支払

4.介護契約(介護保険制度における介護サービスの利用契約、ヘルパー・家事援助者等

の派遣契約等を含む。)の締結・変更・解除及び費用の支払

5.要介護認定の申請及び認定に関する不服申立て

6.福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約等を含む。)の締結・

変更・解除及び費用の支払

7.医療契約及び病院への入院に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払

8.税金の申告・納付

9.以上の各事務の処理に必要な費用の支払

10.以上の各事務の処理に関連する一切の事項

以上

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下記文例2における保佐人は、被保佐人が誰かの不動産を借りることの代理

権のみ保有している。

したがって、被保佐人本人の不動産を売却することの代理権はないのだから、

不動産業界はこの保佐人からの要請に応えてはいけない。

これに応えることは事務上の瑕疵となる。

文例2 ある保佐人の代理行為目録

代理行為目録

1.他人の不動産に関する(借家)契約の締結・変更・解除

2.預貯金に関する金融機関との一切の取引(解約・新規口座の開設を含む)

3.保険契約の締結・変更・解除

4.保険金の請求及び受領

5.定期的収入の受領及びこれに関する諸手続き(年金・障害手当その他社会保障給付)

6.定期的支出を要する費用の支払い及びこれに関する諸手続き(公共料金・保険料)

7.相続の承認・放棄

8.介護契約その他の福祉サービス契約の締結・変更・解除及び費用の支払い

9.要介護認定の申請及び認定に関する不服申し立て

10.福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約等を含む)の締結・

変更・解除及び費用の支払い

11.医療契約及び病院への入院に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払い

12.税金の申告・納付

13.以上の各事務の処理に必要な費用の支払い

14.以上の各事務に関連する一切の事項

以上

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②同意権

保佐人や補助人に付された同意権は、同意行為目録に記載され、登記される。

記載行為については、保佐人等が、取引の相手方に、事前同意の意思を伝え

ることで、本人が主体的に行う行為を確定することができる。逆に言えば、保

佐人等はその行為について取消権を行使することができなくなる。つまり、取

引が確定する。保佐人等が知らないで、本人が主体的に行った行為については、

事後同意(追認)もしくは取消を、取引の相手方に対し、保佐人等が行うこと

になる。同意行為目録に記載された行為については、催告するなどして、契約

を確定することが求められる。

下記文例3の保佐人は、不動産についての同意権を有していないから、不動

産業界は、この保佐人からの要請に応じてはならない。

他方、下記文例4の補助人は、不動産についての同意権を有しているから、

不動産業界は、この保佐人からの要請に応じることができる。

文例3 ある被保佐人の行為に対する同意行為目録

同意行為目録

1 通信販売(インターネット取引きを含む)又は訪問販売による契約の締結

2 一件あたり10万円以上の物品・サービスの購入

以上

文例4 ある被補助人の行為に対する同意行為目録

同意行為目録

1 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること

2 金5万円以上の物品の購入をすること

以上

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(2)取引の範囲

代理行為目録および同意行為目録に記載され得る内容は、以下の通りである。

①代理行為目録

・本人の不動産の売却

・本人の不動産の担保権設定

・本人の不動産の賃貸

・他人の不動産の購入

・他人の土地を借りる

・他人の家を借りる

・住居等の新築、増改築、修繕に関する請負契約の締結・変更・解除

②同意行為目録

・本人所有の土地又は建物の売却

・本人所有の土地又は建物についての抵当権の設定

・新築,改築,増築又は大修繕

・民法602条に定める期間を超える賃貸借

(3)事務書面

任意後見の場合、上記(2)の行為については、任意後見契約にある通りに

実行すればよく、家裁の許可などは不要である。

法定後見の場合は、本人の居住用不動産について、上記(2)の行為を行う

にあたり、事前に、家裁に申請し、許可を得なければならない。この手続きを

しないで、上記(2)の行為を行った場合は、後見人による越権、無権の行為

となる。その際の事務書類のひな型(東京家裁、横浜家裁)を後続に添付する。

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(4)家裁に対する居住用不動産処分の許可審判申立て文例

本人の居住用不動産を扱うに当たり、家裁に出す申し立て書の文例を記す。

①成年被後見人等の居住用不動産処分の許可審判申立

申立ての趣旨

成年後見人である申立人が成年被後見人に代わって、別紙物件目録記載の各不動産を別紙

売買契約書(案)の通り、売却をすることを許可する旨の審判を求める。

申立ての理由

1.申立人は平成〇年〇月〇日、御庁において成年被後見人の成年後見人に選任された。

2.成年被後見人は現在、〇○病院に入院中であるが、本年〇月から介護付有料老人ホー

ムに入居することとなった。

3.同ホーム入居時に一時金○万円、月々約〇万円の施設使用料の負担が生ずる。

4.別紙物件目録記載の各不動産は入院前、被後見人が単身居住していたものであり、先

に提出した財産目録のとおり、被後見人には預貯金等流動資産が乏しく、本件売却に

より入居一時金等の財源を確保する必要がある。

5.買受申込書記載の金額は、近隣相場に相当し妥当である。

6.よって、売却の許可を得たく本申立てに及ぶ。 以上

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②被保佐人の居住用不動産処分の許可審判申立書

申立ての趣旨

申立人が、被保佐人の居住用区分建物につき、別紙売買契約書(案)のとおり売却するこ

とを許可する旨の審判を求める。

申立ての理由

1.被保佐人甲野太郎について、御庁より、保佐開始の審判がされ、申立人が保佐人に就

いた。

2.上記保佐開始事件につき、御庁より保佐人に対し、本人の居住用不動産の処分の代理

権が付与されている。

3.被保佐人は、加齢により自立的生活が困難となったため、介護付高齢者施設に入所し、

別紙目録記載の本人所有の居住用不動産は空き家となり、今後、被保佐人が同不動産

に居住する可能性はない。

4.被保佐人は、自宅を売却処分のうえ、売却代金を施設における月々の費用及び将来の

医療費に確保したい意向を有している。

5.よって、別紙売却契約書案記載のとおり、本人の居住用不動産を売却することの許可

を求める。

以上

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③補助人の同意権付与審判申立

申立ての趣旨

被補助人は以下の行為をするにもその補助人の同意を得なければならないとの審判を求め

る。

新築、改築、増築又は大修繕をすること。

申立ての理由

1.申立人は、御庁より平成〇年〇月〇日被補助人の補助人に選任された。同時に、補助

人に対し、遺産分割手続について代理権が付与された。

2.被補助人は、住所地で自己が所有する建物に住み、一人暮らしを続けているが、同建

物は建築後40年が過ぎ、大規模な修繕を行う必要性が生じた。

3.しかし、被補助人は大規模な修繕に係る高額な契約に関しては、その契約締結等の能

力について不十分である。

4.そこで、本申立てに及ぶ。なお、被補助人も、補助人に本件同意権を付与することに

同意している。

以上

④居住用不動産処分許可審判の主文

申立人が、成年被後見人に代わって、下記の行為をすることを許可する。

成年被後見人と(株)〇○との間で締結する継続的金銭消費貸借契約に基づき、

同人が同法人に対して負担する債務の担保として、成年被後見人が所有する別紙物件目録

記載の不動産に対して次の通り根抵当権を設定すること。

(1)極度額 〇○万円

(2)被担保債権の範囲 継続的金銭消費貸借契約による債権

(3)債務者 成年被後見人

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5.司法統計にみる居住用不動産売却

後見等を通じ、家裁に対し、本人の居住用不動産売却の許可申請が何件ほどあ

るのか、また、どれくらいの割合で認容されるのか。

これらについて、司法統計をもとに、直近10年について整理した。

(1)今まで

①総数(当該年処理案件総数)

増加傾向にある。平成16年の1,451件から平成25年の6,550件へ、

10年間で4.56倍に増加、年ごとの増加率は平均で114%である。

表 居住用不動産売却許可申請申立て(既済)

平成 総数 認容 却下 取下げ その他

16 1,451 1,355 5 84 7

17 1,729 1,623 9 91 6

18 2,278 2,142 12 117 7

19 2,865 2,723 5 137 0

20 3,433 3,266 7 150 10

21 3,727 3,524 11 185 7

22 4,406 4,170 19 209 8

23 5,028 4,761 10 235 22

24 5,830 5,556 9 251 14

25 6,550 6,222 10 293 25

合計 37,297 35,342 97 1,752 106

②認容

増加傾向にある。

平成16年の1,355件から平成25年の6,222件へ増加している。

③却下

年ごとにばらつきがある。5件~19件の範囲で推移している。

却下の理由は一般的に、不動産売却に関する本人の意思が否定的、不動産売却

の必要性の欠如、不動産売却手続きの相当性の欠如、などと言われる。

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④取下げ

増加傾向にある。

平成16年の84件から平成25年の293件へ増加している。

⑤実質認容率

正確性を期すため、認容÷総数ではなく、認容÷(総数-取下げ-その他)を

もって実質認容率を計算した。

その結果、10年間の実質認容率の平均は99.7%である。

表 実質認容率の推移

平16 平17 平18 平19 平20 平21 平22 平23 平24 平25

99.6% 99.4% 99.4% 99.8% 99.8% 99.7% 99.5% 99.8% 99.8% 99.8%

(2)これから

過去10年間の実績を踏まえ、今後10年の認容件数を推計した。

平成28年に取扱件数はおよそ1万件となり、平成34年には2万件を超える。

1件当たり3千万円とすると、平成25年の約2000億円から、平成35年

の約7500億円の規模となる。

表 後見を通じた居住用不動産売却の認容件数の推計

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

件数

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25

6.不動産取引に関する後見人等へのインタビュー

不動産取引を扱ったことのある後見人と保佐人に実例をヒアリングした。

それら4件について、以下、記述する。

インタビュー概要

事例 類型 取引内容

(1) 後見 居住用不動産の売却

(2) 保佐 居住用物件の賃貸借契約解除

(3) 保佐 相続にからむ不動産売却

(4) 後見 土地の売却(予定)

(1)

類型:後見

取引内容:居住用不動産の売却

①背景

・成年被後見人(以下、本人)は70代の女性。子はない。

・本人は、夫と小料理屋を営んできた。夫死亡後、小料理屋を数年継続するも

閉店とした。ともない、お店と土地を売却し、そのお金でマンションを購入、

一人暮らしを始めた。旅行等を楽しんでいた。

・要介護状態になってからは、介護サービスを利用し在宅生活を続けた。しか

し、認知症により、住まいはゴミ屋敷となってきた。老朽化した給湯設備を

修理することもできず、近所での徘徊もみられた。

・夫婦とも国民年金を払わなかったため本人は無年金で収入はない。これを補

てんするに、実兄から経済援助を受けてきたが、その実兄から、「今後は、経

済面ならびに生活面の支援はできない」と言われるようになった。

・これを受け、本人の担当ケアマネジャーは、在宅生活の継続は困難と判断し

た。また、財産管理と施設入所契約のため、後見人が必要とも判断し、現在

の後見人を候補者とする後見開始の申立てにつないだ。

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②後見開始申立て

・ケアマネジャーから相談を受けた後見人候補者(現 後見人)は、

グループに入居すること

本人所有のマンションを売却し生活資金を確保すること

将来は生活保護を受給することも視野、

などをメインに後見プランを策定しつつ、本人との事前面談を数回行った。

・後見の申し立ては、本人の実兄が行った。

・後見開始申し立て時点での本人の預金は約40万円であった。

③選任後の業務:グループホーム

・特別養護老人ホームも検討したが、待機者が多かったことと、認知症の状態

を鑑み、グループホームに入居することとした。

・後見人は、ケアマネジャーや自治体からの紹介を受け、グループホームを2

カ所見て、そのうちの一つに決めて契約した。

・入居時に、グループホームから、2か月分(ひと月17万円)の予納金を求

められた。ただ、これを払うと、本人の現金が枯渇するため、後見人は、本

人に代理して予納を留保してもらうようグループホームと交渉した。その結

果、承認され、入所契約を結ぶことができた。

・本人は、最初の2週間ほどは落ち着かなかったが、その後は安定した暮らし

をしているように見受けられる。後見人は、月1回のペースで本人の様子を

うかがっている。

④選任後の業務:居住用不動産の売却

・後見人は、グループホーム費用を含む生活費捻出するため、本人名義のマン

ション売却を行うことにした。これについて後見人は本人に説明し、本人は

了解した。

・平成4年に2千万円で購入したマンションは65平方メートル、2LDKで

ある。売却した平成26年には築40年で、固定資産評価額は650万円で

あった。不動産の仲介業者による査定は実勢価格600~650万円だった

が、ゴミ屋敷状態であったことから、大掃除を含むリフォーム費用が掛かる

という説明であった。また、仲介業者自身は買わない旨、後見人に伝えた

・後見人は、その仲介業者に買い手を探すよう委託した。結果、不用品の処分

およびリフォームを請け負う条件で、300万円で買うという業者を紹介さ

れた。後見人は、その条件を妥当と考え、その買取業者と、家庭裁判所の居

住用不動産処分許可がおりることを効力発生要件とする停止条件の条項つき

の売買契約を結んだ。

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⑤家庭裁判所の許可

・本人の居住用不動産処分許可申請にあたり、申立書、登記事項証明書、物件

の現状写真(ゴミや傷みがあることを示すため)、査定書(固定資産税評価額、

周辺事情として近くで売り出している物件のちらし3~4枚)、停止条件付条

項付き売買契約書を提出した。

・申立てから1週間で許可の審判がおり、契約の効力が発生した。

⑥契約の執行と精算

・物件明け渡し前に、買取り業者から、後見人が手付金として30万円を受領

した。

・マンションには本人の残置物が山積していた。後見人が本人と話し合ってそ

れらの捨てる、捨てないの選別をおこなった。

・後日、後見人は、本人の残置物を廃棄した業者から、残置物の処分費用は

150~160万円と聞いた。

・手付金の1週間後に残りの270万円を受け取った。買取り業者から「被後

見人の口座に振り込むか」聞かれたが、後見人は現金で受取り、直ぐに被後

見人の口座にこれを振り込んだ。

・270万円を受け取る協議のなかで、マンション管理費を日割り計算し精算

した。当年分の固定資産税1年分は本人が一旦支払い、日割り計算で精算し

て、買取業者から現金で返金を受けた。鍵を買取り業者に渡して契約を執行

した。

・その1週間後に登記が完了した。登記申請費用は買い取側が負担した。

・不動産の仲介手数料は約15万円であった。これは後見人が、被後見人の財

産から支払った。

・本件においては譲渡益が出ていないため、確定申告は行わなかった。

⑦家裁に対する事務報告と後見報酬

・その後、後見人は家裁に後見事務の年次報告を行うとともに、報酬付与の申

し立てをした。

・後見事務報告の主なものは、グループホーム入居、不動産売却、月1回の訪

問および見守りならびにお小遣いの手渡し、銀行口座の名義変更、である。

・報酬付与の求めに対し、家裁から、報酬額を25万円とする旨の審判がおり

た。(平均すると月2万円程度であることがわかる。)

・この時点で本人の財産は約40万円しかなかったため、今のところ後見人は

これを受け取ることを留保している。)

以上

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(2)

類型:保佐

事案:居住用物件の賃貸借契約解除

①背景

・被保佐人(本人)は70代女性。子はない。実弟はいる。

・離婚後、URの賃貸住宅で、平成6年から約20年独居生活をしていた。

・本人はデイサービスを利用していた。ある日、手首を骨折していることにデ

イサービスの職員が気付いた。本人は骨折した自覚がなかったことから、

診察した医師より、認知症の疑いがあるといわれた。

・これを受け、在宅生活は困難と判断したデイサービスの職員が保佐開始申立

てにつないだ。

②保佐開始申立ておよび審判

・申立人は実弟であった。

・現在の保佐人を、保佐人候補者として保佐開始の申し立てを行った。

・グループホーム入所の予定に伴い、住んでいた賃借物件の契約を解除する必

要があるため、「賃貸借契約の解除」の代理権付与を申し立てた。

・保佐開始、保佐人選任、代理権付与などの選任は、2週間程度でおりた。

③家庭裁判所からの許可

居住用物件の賃貸借契約解除の申し立てに対する家裁からの許可は数日でお

りた。

④URの契約解除及びグループホーム入居

・URの賃貸住宅を解約した。

・あわせて、グループホーム入所を果たした。

・家裁による契約解除の許可審判から、明け渡しおよび入所までの期間は、

1か月半程度であった。

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(3)

類型:保佐

事案:相続にからむ不動産売却

①背景

・被保佐人(本人)は70代男性。子も配偶者もない。

・既に、本人は施設に入所していた。自宅に戻る予定はなく、施設入所前まで

住んでいた自宅は空き家になっていた。自宅は1戸建てで、敷地と1階部分

は本人所有、2階部分は実姉所有であった。

②遺産分割協議

・2階部分を所有していた実姉が死亡した。

・相続財産(2階部分)に対する相続人は本人以外に、実姉の子2名がいた。

相続人らは、2階部分を本人が相続し、かつ、敷地および上物を売却し、

その現金を遺産として分割することとした。

・相続人である実姉の子の求めにより、遺産分割協議に同席した司法書士が、

本人に認知症の疑いを持った。そして、「本人に後見人がつかない限り協議は

整わない」としたため、その日の協議は不調に終わった。

・これにより遺産分割協議を主な目的とする保佐開始の申立てをするに至った。

③保佐開始申立ておよび審判

亡実姉の子らが本人の保佐人になる方法もあったが、亡実姉の後見人を本件保

佐人がしており亡実姉の子らからの信任も有ったので、本件保佐人をその候補

者とする保佐開始申し立てを行った。審判はスムーズに下りた。

④遺産分割協議

保佐人が本人を代理し、遺産分割協議を調え、建物を本人の単独所有として相

続した。

⑤家裁への許可申し立て

他の案件同様に必要書類を家裁に提出後、1週間で許可が下りた。

⑥不動産売却と税金

・本物件の固定資産評価額は1,500万円、近傍の物件の取引価格は1,10

0~1,300万円、本件売却価格は1,200万円だった。

・ともなう税金は、一度、本人が納め、後日、他の相続人から徴収する予定。

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(4)

類型:後見

取引内容:土地の売却(予定)

①背景

・被後見人(本人)は66歳男性。知的障害。配偶者も子もない。

・「食べる」行為ができず、胃ろうを造設し、現在は入院中である。

・本人は、4年前の親族死亡により土地を取得した。その際、親族間で熾烈

な争いがあった。

・その土地は現在更地である。本人の実妹が、草取りをし、不法投棄等がされ

ないよう管理している。

・当初、この実妹が本人の後見人だった。しかし、実妹が入院中にその夫が本

人の財産を使い込んだため家裁により、実妹が後見の職を解任され、現在の

後見人が選任された。

②家庭裁判所からの指導

ある日、現在の後見人が家裁に呼ばれ、裁判官から、本人所有の土地を売却し、

現金化することを勧められた。理由は、本人が死亡して、その土地が相続財産

となった場合、また、親族間で争いになるであろうから、とのことであった。

③後見人の考え

後見人は、入院中の病院から本人を退院させ、介護の行き届いた施設に入所さ

せたいと考えていた。しかし、障害年金だけでは入所費を賄えないことから、

土地を売却し、その現金を介護等にあてたいと考えていたので、家裁の指導に

従うことにした。

④現状

・その後、家裁から、「しばらく親族の動きをみたいので、直ぐには売却しなく

てよい、ただし、本人が死亡する前には売却するように」指示を受けた。

・後見人としては、そのタイミングを1~2年内と考えており、本人の世話を

している実妹等と話し合い、反対の意向がなければ業者を探して対象物件を

査定し、買い手を探すことを予定している。

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7.中高年層に対するアンケート

中高年層に対し、自宅や後見利用に関する意識調査を行った。

以下、結果を示す。

(1)対象者属性

居住地域:東京都内および埼玉県内

対象人数:164人

年齢:平均69.5歳、最年少30歳から最高齢85歳

(2)集計結果

①現在、誰と住んでいますか?

有効回答 164人/164人=100%

回答 人数 割合%

独り暮らし 20 12%

夫婦暮らし 73 45%

家族暮らし 70 43%

夫婦暮らしと家族暮らしがそれぞれ4割強で、独り暮らしが1割強である。

独り暮らし

夫婦暮らし

家族暮らし

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②現在のお住まいは、以下のどの形態ですか?

有効回答 163人/164人=99.4%

回答 人数 割合%

自分の持家 119 73%

家族の持家 36 22%

賃貸 9 6%

その他 1 1%

備考:アンケート回答者が土地所有、その息子が上物所有:1人

アンケート回答者と家族で土地建物を共有:1人

回答者自身の持家率が7割強、回答者の家族の持ち家率が2割強につき、持ち

家率は9割を超える。賃貸は5%である。

自分の持家

家族の持家

賃貸

その他

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③現在のお住まいを売ったり、そこから退去する可能性はありますか?

ア.全体

有効回答 159人/164人=97%

回答 人数 割合%

あると思う 35 22%

ないと思う 124 78%

8割の人が、現在の住まいに住み続けることを想定している。

2割の人が、現在の住まいから離れることを想定している。

イ.居住形態別の比較

回答 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

あると思う 22% 44% 15% 24%

ないと思う 78% 56% 85% 76%

独り暮らしの人の半数弱が現在の家から離れることを想定している。

夫婦暮らしの場合、離れることを想定しているのは1~2割で、8割強が現在

の家から離れることはないと想定している。

家族と暮らしている場合、4分の1が離れるであろうとし、4分の3は現状維

持を想定している。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族暮らし

夫婦暮らし

独り暮らし

全体

あると思う

ないと思う

あると思う

ないと思う

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④想像して下さい、あなたは認知症になりました。現在のお住まいを売ったり、

退去する作業ができません。誰にしてもらいたいですか?

ア.全体

有効回答 161人/164人 98%

回答 人数 割合%

家族に頼む 137 85%

友人に頼む 7 4%

弁護士や司法書士に頼む 7 4%

頼める人はいない 10 6%

家族に頼むとする人が85%である。

頼める人がいないとする人が16人に1人程度いる。

家族に頼む

知人に頼む

弁護士や司法書士に頼む

頼める人はいない

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イ.居住形態別の比較

回答 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

家族に頼む 85% 72% 86% 88%

友人に頼む 4% 11% 4% 3%

弁護士等に頼む 4% 6% 3% 6%

頼める人はいない 6% 11% 7% 3%

自宅を処分することになったら、8割前後が家族に頼むとしている。

独り暮らしの2割弱が「家族以外(友人や弁護士等)に頼む」とする一方、

夫婦や家族と暮らしている人で家族以外に頼む人は1割に届かない。

独り暮らしの1割が、そのようなことを頼める人はいないとしている。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族暮らし

夫婦暮らし

独り暮らし

全体

頼める人はいない

弁護士等に頼む

友人に頼む

家族に頼む

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⑤上記④(自分が認知症になり自宅の処分などができず、それを誰かに委託す

る際)において、いくらでしてもらいたいですか?

ア.全体

有効回答 102人/164人 62%

金額 人数 割合%

0円 45 45%

2万円 1 1%

10万円 17 17%

20万円 2 2%

30万円 6 6%

40万円 1 1%

50万円 12 12%

70万円 1 1%

100万円 8 8%

150万円 1 1%

200万円 1 1%

500万円 1 1%

1000万円 1 1%

2000万円 1 1%

3000万円 1 1%

約半分が、無料で自宅の処分などをお願いしたいとしている。

有料の場合、10万円~100万円が全体の有料全体の84%である。

最安値は2万円、最高値は3000万である。

備考:

自宅の処分手数料に1000万円以上は高すぎるとも考えられるので、

下記においては、1000万円以上(3件)を割愛した整理(下記②-ウ:補正

後)も行う。

左記(金額)以外の回答

・ケースバイケース…1人

・(売値の)半分…1人

・(売値の)7%…1人

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イ.居住形態別の比較(補正前)

金額 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

無料とした割合 45% 18% 54% 41%

平均金額 157万円 173万円 248万円 63.6万円

最少金額 2万円 10万円 10万円 2万円

最大金額 3000万円 1000万円 3000万円 500万円

独り暮らしの場合、無料でお願いしたいとする人は2割に満たず、8割強がお

願いするなら有料としている。その際の委託金額の平均は173万円、最小値

10万円、最大値1000万円である。

夫婦や家族と暮らす場合、無料でお願いしたい人は約半分である。

残りの約半分は、お願いするなら有料とする。その際の委託金額の平均は、

夫婦暮らしの場合243万円、家族暮らしの場合63.6万円である。

ウ.居住形態別の比較(補正後)

金額 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

無料とした割合 45% 20% 56% 41%

平均金額 53万円 55万円 44万円 63.6万円

最少金額 2万円 10万円 10万円 2万円

最大金額 500万円 150万円 200万円 500万円

本調査において、委託費を1000万円以上とする回答が3件あった。所在は、

独り暮らしに1件(1000万円)、夫婦暮らしに2件(2000万円と300

0万円)であり、家族暮らしにはない。

これら3件を割愛し、全体を整理したところ、委託費の平均が、全体で50万

円前に収まる。最大金額も、150万円~500万円となる。

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⑥不動産の取り扱いを含め、認知症になるかもしれない将来に備え、成年後見

制度を通じて、後見人を使おうと思いますか?

ア.全体

有効回答 160人/164人 98%

回答 人数 割合%

使おうと思う 89 56%

使わないと思う 69 43%

どちらともいえない 2 1%

将来的な後見の利用について、半分強が利用する、半分弱が利用しないと回答

している。

使おうと思う

使わないと思う

どちらともいえない

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イ.居住形態別の比較

回答 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

使おうと思う 56% 65% 57% 52%

使わないと思う 43% 35% 41% 48%

どちらともいえない 1% 0% 2% 0%

将来的な後見の利用について、居住形態別でみると、独り暮らしの場合は65%

が後見を利用すると回答している。

それ以外の場合は5割強が利用すると思うとしている。

独り暮らしの場合、3分の1が利用しないとしている。

家族暮らしの場合、約半分が利用しないとしている。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族暮らし

夫婦暮らし

独り暮らし

全体

使おうと思う

使わないと思う

どちらともいえない

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⑦自宅を担保に現金を借り入れ、生活費に充てながら、亡くなったり、

住まなくなったら家を手放す方法があります。興味ありますか?

ア.全体

有効回答 160人/164人 98%

回答 人数 割合%

興味ある 71 44%

興味ない 89 56%

いわゆる「リバースモーゲージ」については、半分弱が興味あり、半分強が興

味なしと回答している。

興味ある

興味ない

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イ.居住形態別の比較

回答 全体 独り暮らし 夫婦暮らし 家族暮らし

興味ある 44% 50% 49% 39%

興味ない 56% 50% 51% 61%

リバースモーゲージについて、居住形態別にみると、独り暮らしと夫婦暮らし

の場合、約半分が興味を示している。

家族暮らしの場合は、4割が興味を示し、6割が興味を示していない。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

家族暮らし

夫婦暮らし

独り暮らし

全体

興味ある

興味ない

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8.不動産事業者に対するアンケート

不動産事業者に対し、判断能力が不十分な人の不動産に関する取引および後見

人との取引に関するアンケート調査を行った。

以下、結果を示す。

(1)対象者属性

対 象:関東及び近郊の不動産事業者

回答率:25%(40社のうち10社)

(2)集計結果

①判断能力が不十分な高齢者との取引内容について、頻度が高いと思われる順

に、ご回答ください。

回答

1位 売却 (ポイント1.0)

2位タイ 購入・借り (ポイント3.286)

4位 貸し (ポイント3.286)

5位 担保権の設定(ポイント4.143)

備考:1位を5点、5位を1点として合計し順位を出した。

不動産事業者の経験ないし心象として、判断能力が不十分な高齢者の不動産取

引ついては、それを売却することが最も多いとされる。

本人名義で新しい不動産を購入すること(購入)、他人の不動産を借りること(借

り)が同率で、貸し(本人の不動産を貸すこと)、(本人の不動産に対する)担

保権の設定と続く。

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②所有者の判断能力が不十分であることから、物件の取引が滞った経験はあり

ますか?

回答 人数 割合%

滞りあり 7 70%

滞りなし 3 30%

不動産事業者の7割が、所有者の判断能力が不十分であることから、物件の取

引が滞った経験があるとしている。

③所有者の判断能力が不十分であることから、成年後見制度の利用を勧めたこ

とはありますか?

回答 人数 割合%

後見推奨あり 8 80%

後見推奨なし 2 20%

不動産事業者の8割が、成年後見制度の利用を勧めたことがあるとしている。

滞りあり

滞りなし

後見推奨あり

後見推奨なし

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④所有者の判断能力が不十分であっても、成年後見制度を使わずに(後見人を

付けずに)、物件を取引したことがありますか?

回答 人数 割合%

後見無取引あり 8 80%

後見無取引なし 2 20%

不動産事業者の8割が、所有者の判断能力が不十分であっても、成年後見制度

を使わずに(後見人を付けずに)、物件を取引したことがあるとしている。

⑤上記④「後見無取引の経験」において「ある」場合、どのような手続きや方

法で取引されましたか?

回答

・司法書士と長男の判断に従い

・本人による申請

・代理人を信頼して

不動産事業者にとって、具体的で有効な対策が取られていないことがわかる。

⑥後見人がついたことで、かえって面倒になったことはありますか?

回答 人数 割合%

後見による面倒あり 4 40%

後見による面倒なし 6 60%

不動産事業者の4割が、後見人がついたことで、かえって面倒になったことが

あるとしている。

後見無取引あり

後見無取引なし

後見による面倒あり

後見による面倒なし

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⑦上記⑥「後見人がついたことで、かえって面倒になったことはありますか?」

において「ある」場合、どのようなことで面倒になりましたか?

回答

・監督人(弁護士)が口を出し、後見人(司法書士)に影響を与えた

・時間がかかる

・後見人の意向が強く主張され、後見人のペースで取引誘導された

後見人や監督人の関与により、複雑な取引になったり、時間がかかることがわ

かる。

⑧法定後見と任意後見では、不動産の取り扱いの手続きが異なることを御存知

ですか?

回答 人数 割合%

相違既知 3 30%

相違不知 7 70%

不動産事業者の3割が、法定後見と任意後見では、不動産の取り扱いの手続き

が異なること(任意後見の場合、家裁の許可は不要)を知っており、残りの7

割が知らないとしている。

相違既知

相違不知

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9.不動産事業者が見聞した後見に関する取引エピソード

(1)本人の意思確認

被後見人の親族から、「本人(被後見人)の不動産を売って現金にしてほしい」

と依頼を受けた司法書士後見人が、認知症で寝たきりの本人の枕元で「売って

もいいか」と聞いた。

これを受け本人が「うん」と言ったため、司法書士後見人はこれを家裁に報

告し、家裁は売却許可をした。

これを、「本人の意思確認」と言えるのか、疑問が残っている。

(2)用地買収

行政による用地買収にともない、地権者の親族が、地権者の後見人になった。

「用地買収」のためと思って後見人になったが、用地買収以外の後見業務が

多く、また、用地買収後も後見業務が継続しており、後見人になったことを後

悔しているケースがあった。

(3)逸失利益

既に老人ホームに入居した姉が住んでいたマンションを賃貸に出すことを目

的に、その妹を候補者とする保佐開始申立てを行った。しかし、妹は選任され

ず、司法書士が保佐人になった。

加えて、その保佐人は、マンションを賃貸に出すことを1年近く放置してお

り、「逸失利益」が発生している。

保佐人もなれず、財産を有効に活用できず、姉に申し訳ない、どうすればよ

いかという相談を妹から受けたことがある。

(4)老齢期の婚姻

不動産を所有する、配偶者を無くした、認知症が始まっている老齢者が、知

り合って間もない異性と再婚するケースを数件見てきた。

後見人がついてから籍を入れたケース、後見人が就く前に籍を入れたケース、

のいずれもあった。

いずれのケースにおいても、被後見人が新しい配偶者にそれなりの感情を持

っていることから、後見人も苦労しているように見受けられる。

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(5)類型変更

被保佐人である親と、その保佐人である子の共有物件が二つあった。

一つは、貸し駐車場である。これについては問題なく、それまで通り運営さ

れていた。

もう一つは駅前の商業ビルである。老朽化が激しく、テナントを維持するに

は、600万円程度の修繕を要した。

この修繕について、保佐人が家裁に申し立てたところ、家裁が被保佐人の病

室を訪ね、修繕について確認すると「しなくてよい」という意向を受けた。こ

のため家裁は保佐人に対し、当該物件の修繕を良しとしない旨伝えた。

これについて保佐人は異議を申し立てた。

そうすると家裁は職権である弁護士を追加の保佐人として選任した。

そしてその保佐人は、今までの保佐を取消し、新たに後見を開始する申立て

を行った。併せて、後見人監督人の申請を行った。

その結果、それまでの被保佐人は成年被後見人になった。子は、保佐人から

成年後見人になった。もう一人の保佐人であった弁護士は、成年後見監督人と

なった。

これにより、親の意向に左右されることなく、大規模修繕が行われた。

物件を動かすために、いろいろな工夫があることを知ったが、本人の意思は

どうなるのか気になった。親子関係もあまりよくないみたいだったし。

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10.アンケート用紙

(1)中高年層に対するアンケート

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(2)不動産事業者に対するアンケート

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研究代表者

宮内康二(みやうちこうじ) 昭和46年生まれ

後見に関する研究実績

・「成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究」

厚生労働省 平成 23~24 年度 科学研究費補助金障害者対策総合研究事業

・「地域における親族後見支援の試み」

厚生労働省 平成 22~24 年度 老人保健健康増進等事業

・「成年後見の推進と管理」

経済産業省 平成 22~24 年度 医療・介護周辺サービス産業創出調査事業

後見に関する著書

・ 地域後見の実現「市民後見養成の歩み」(加除出版、2014)、共著

・ 成年後見制度が支える老後の安心(小学館、2010)、単著

・ ジェロントロジー - 加齢の価値と社会の力学(きんざい、2005)、単著

後見に関する講演実績

自治体、高齢者や障害者のご家族、医療福祉業界、金融不動産業界、自治会・民生委員、

社会福祉協議会、シルバー人材センター、小学校・高等学校・大学、調停委員、後見N

PO法人、親族後見人、専門職後見人、他

略歴

・㈱ニッセイ基礎研究所研究員

主に高齢者の生活調査、ケアマネジャーの業務分析、ほか

・東京大学ジェロントロジー寄付研究部門(現 高齢社会総合研究機構)

ゼネラルマネジャーとして部門の立ち上げ及び各種事業の企画・運営

・東京大学医学系研究科特任助教

主に市民後見人養成講座の企画実施、ほか

・東京大学政策ビジョン研究センター特任助教

主に市民後見人養成講座の企画実施、後見に関する調査研究、ほか

所属団体

・日本成年後見法学会

・American Institute of Financial Gerontology