日本女子大学大学院学生特別研究奨励金...

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書 採択期間 2011 4 月~2012 3 2012 4 17 研究課題名 1930 年代から 1950 年代における村山知義の戯曲様式と思想の変遷についての研 申請者 所属・学年 文学研究科日本文学専攻 博士課程後期 1 鴨川 都美 指導教員 日本文学専攻 源 五郎 研究実績及び成果 2011 年度は、村山知義研究における一次資料の収集・整理に重点を置き、研究を進めていった。 村山知義には全集がなく、本人が編集した『村山知義戯曲集』上下巻(1971 年刊行)だけがまと まった作品集として存在している。そのため、研究対象としている 1930 年代から 1950 年代まで の評論や小説、戯曲は全く整理されておらず、主に雑誌『テアトロ』『新潮』『中央公論』『日本評 論』『世界』等を中心として、一次資料の収集を試みた。しかし、その膨大な資料を一年間で収集・ 整理することは大変難しく、2012 年度もこれを継続し、2012 年度中に一つの成果として発表し たいと考えている。 論文については、特に村山の描く女性たちに焦点を当て研究を進めた。 1952 年に発表された『死 んだ海』に登場する三人の女性たちが、どのように描かれていたのかを、 1932 年に発表された『志 村夏江』の女性像と比較し、検証した([論文]①)。 また、村山知義研究とは別に、これまで殆ど研究されることのなかった「白樺演劇社」につい て、その設立から『白樺』誌上に定期的に投稿されていた「白樺演劇社」記事を中心に、その意 義と成果、そして消滅に至るまでを詳しく調べ、まとめた。これについては、日本文学専攻『会 誌』(2012 7 月以降の刊行予定)に投稿する予定である。 また、外部での活動としては、所属する日本演劇学会の分会「近現代演劇史研究会」の例会に 毎月参加をし、井上ひさしの戯曲についての研究を深めていった。こちらも、原稿の締切が 3 末から 5 月末に延びたため、現在執筆中である。 [論文] ①村山知義「死んだ海」三部作―女たちの「愛情の問題」をめぐる一考察― (『國文目白』第 51 号 日本女子大学国語国文学会 2012 3 月発行) [その他] 2012 3 月末に原稿締切が予定されていた日本近代演劇史研究会刊行予定『井上ひさしの本』 (仮題)であるが、5 月末に締切が延期された。そのため、「井上ひさし『雨』論―世界の構 築と 転覆、そして自己抹殺―」(仮題)は現在執筆中である。 ②日本文学専攻の「日本女子大学大学院の会」刊行『会誌』第 31 号の原稿募集期限(例年 1 月末)が 6 月末に延びたため、「「白樺演劇社」設立から消滅まで「演劇社記事」を中心に」 2012 年度の発表となる。 以上

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 17 日

研究課題名 1930 年代から 1950 年代における村山知義の戯曲様式と思想の変遷についての研

申請者 所属・学年文学研究科日本文学専攻 博士課程後期 1 年

名 鴨川 都美

指導教員 所 属 日本文学専攻 氏

名 源 五郎

研究実績及び成果

2011 年度は、村山知義研究における一次資料の収集・整理に重点を置き、研究を進めていった。

村山知義には全集がなく、本人が編集した『村山知義戯曲集』上下巻(1971 年刊行)だけがまと

まった作品集として存在している。そのため、研究対象としている 1930 年代から 1950 年代まで

の評論や小説、戯曲は全く整理されておらず、主に雑誌『テアトロ』『新潮』『中央公論』『日本評

論』『世界』等を中心として、一次資料の収集を試みた。しかし、その膨大な資料を一年間で収集・

整理することは大変難しく、2012 年度もこれを継続し、2012 年度中に一つの成果として発表し

たいと考えている。 論文については、特に村山の描く女性たちに焦点を当て研究を進めた。1952 年に発表された『死

んだ海』に登場する三人の女性たちが、どのように描かれていたのかを、1932 年に発表された『志

村夏江』の女性像と比較し、検証した([論文]①)。 また、村山知義研究とは別に、これまで殆ど研究されることのなかった「白樺演劇社」につい

て、その設立から『白樺』誌上に定期的に投稿されていた「白樺演劇社」記事を中心に、その意

義と成果、そして消滅に至るまでを詳しく調べ、まとめた。これについては、日本文学専攻『会

誌』(2012 年 7 月以降の刊行予定)に投稿する予定である。 また、外部での活動としては、所属する日本演劇学会の分会「近現代演劇史研究会」の例会に

毎月参加をし、井上ひさしの戯曲についての研究を深めていった。こちらも、原稿の締切が 3 月

末から 5 月末に延びたため、現在執筆中である。

[論文] ①村山知義「死んだ海」三部作―女たちの「愛情の問題」をめぐる一考察―

(『國文目白』第 51 号 日本女子大学国語国文学会 2012 年 3 月発行) [その他] ①2012年3月末に原稿締切が予定されていた日本近代演劇史研究会刊行予定『井上ひさしの本』

(仮題)であるが、5 月末に締切が延期された。そのため、「井上ひさし『雨』論―世界の構

築と 転覆、そして自己抹殺―」(仮題)は現在執筆中である。 ②日本文学専攻の「日本女子大学大学院の会」刊行『会誌』第 31 号の原稿募集期限(例年 1

月末)が 6 月末に延びたため、「「白樺演劇社」設立から消滅まで―「演劇社記事」を中心に」

は 2012 年度の発表となる。

以上

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 「ペルシア絨毯」からみる近代ドイツ・イラン文化交渉史

―1880~1920 年代を中心として―

申請者 所属・学年史学専攻

博士課程後期 3 年 氏

名 田熊 友加里

指導教員 所 属 史学 氏

名 臼杵 陽

研究実績及び成果

本研究の目的は、東西文化交流史研究の新たな切り口として、1880~1920 年代ベルリンにお

ける「ペルシア絨毯」というモノの流行と収集によって、近代ドイツのオリエント研究がどのよ

うな影響を受け、ドイツ人のオリエント認識を形成したのかという点を分析することである。19世紀後半のドイツでは、アンティーク絨毯を専門とする学問「絨毯研究」が発展し、「ペルシア絨

毯」コレクションを中核にベルリン美術館イスラーム美術部門が創設された。私は、絨毯コレク

ションと関係の深い東欧ユダヤ系ブルジョワジーの James Simon(1851-1932)とその従兄弟

Eduard Simon(1865-1929)に着目し、彼らが「絨毯研究」を含むオリエント研究全体に果たした

役割を究明した。また、「ペルシア絨毯」の流通経路を解明するために、生産地・イランの絨毯工

房でフィールドワークを実施した。 研究を進めるにあたって、まず私は前年度までの研究経過と本研究課題を、日本中東学会第 27

回年次大会(2011 年 5 月、京都大学)で研究報告し、研究着眼点に対する評価と助言を得ること

ができた。次に、海外における研究調査を以下の通りに実施した。 (1)イラン・イスラム共和国およびトルコ共和国における実地調査(2011 年 9 月 7 日~20 日) ①イラン国立絨毯博物館にて、ベルリン美術館に現存していない絨毯と同類の 16~19 世紀製作

の「ペルシア絨毯」の比較調査を行うとともに、附属図書室で貴重な絨毯関係の資料を収集した。

②イラン・ゴム州ニールガー地区の絨毯工房(3 カ所)にて、絨毯製作現場の見学と織工へのイ

ンタビュー(ペルシア語)を行った。 ③トルコ国立トルコ・イスラーム美術博物館にて、「ペルシア絨毯」と同時期に織られたトルコ絨

毯の比較調査を行った。 (2)ドイツ連邦共和国およびデンマーク王国における文献調査(2011 年 10 月 17 日~26 日) ①ドイツ国立ベルリン美術館イスラーム美術部門附属図書館にて、日本では入手の困難な 新の

研究書と Simon 家の関連文献資料を複写・収集した。また、同美術館の名誉研究員 Jens Kröger教授と面会し、絨毯コレクション史の大家である同氏から研究指導を直接受ける機会に恵まれた。

②デンマーク・コペンハーゲン市内のデビット・イスラームコレクションで実地調査を行った。

同コレクションは陶器が中心であるが、設立者がユダヤ系デンマーク人ブルジョワジーという点

から、ドイツと北欧におけるユダヤ系収集家の事例を比較研究する上で非常に参考になった。 ③デンマーク国立コペンハーゲン大学附属テキスタイル研究所を訪問し、専門研究員の Cherine Munkholt 氏に織物研究の近年の動向についてのインタビュー(英語)を行った。 以上の海外調査を踏まえて得られた本研究の成果は以下の通りである。 ①Simon 家関係資料を分析した結果、James Simon のみならず、父 Isaak ならびに叔父 Louisの代から、1886 年に始まるオリエント考古学協会(会長は皇帝ヴィルヘルム 2 世)の発掘調査に

年間 3 万マルクに上る多額の資金提供を継続的に行っていたこと、さらに全ての発掘品を無償で

王立博物館に寄贈していたことが明らかになった。当時のドイツ内政を鑑みると、1840 年代以降

の産業革命化に伴う社会格差が深刻化しており、貧窮した農村部を中心に各地で反ユダヤ主義運

動が隆起していた。私はこのような社会的背景を踏まえた上で、Simon 家が東欧ユダヤ系移民の

出身というマイノリティーでありながら、当時の国家的事業であった発掘調査に膨大な資金を寄

贈することで、皇帝ヴィルヘルム 2 世からの政治的庇護を得ると同時に、陰ながらオリエント研

究を左右する重要な地位を構築していたと分析した。

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②ベルリン美術館所蔵の資料から、イラン国立絨毯博物館の設立(1978 年)の過程で、ベルリン

美術館キュレーターが派遣されていたことが明らかになった。当資料の発見は、19 世紀末から現

代に至る「ペルシア絨毯」を媒介とするドイツ・イラン文化交渉史を解明する貴重な手掛かりで

あるといえる。 以上の研究成果をまとめ、2012 年 3 月に、イスラム地域研究・若手研究者の会例会(題目「ベ

ルリン美術館イスラーム美術部門の創設(1904 年)と「絨毯研究」の発展」、東京大学)ならび

にイラン研究会年次大会(題目「19 世紀末ベルリンにおける絨毯コレクションの形成とその影響

―東欧 Simon 家の動向を手がかりに―」、東京外国語大学)で研究報告した。さらに現在、研究

論文を執筆中であり、2012 年度内に査読制の学術雑誌に投稿する予定である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 中世西瀬戸内海地域における在地勢力の研究―中央政権との関係を中心に―

申請者 所属・学年文学研究科 史学専攻

博士課程後期 3 年次

名小林 可奈

指導教員 所 属 文学部史学科 氏

名永村 眞

研究実績及び成果

本研究において、申請者は以下の実績・成果を挙げることができた。

まず拙稿「伊予河野氏と室町幕府―応永二十年代における河野通元の動向を中心に―」『四国

中世史研究』第 11 号、2011 年 8 月)において、伊予河野氏と中央政権(室町幕府)との関わり

については、これまで充分な検討がなされてきたとは言い難い。その一因として、室町前期にお

ける河野氏関連史料は比較的少ないことが挙げられる。中央政権の忽那氏に対する政治的・軍事

的評価を踏まえると、河野氏が幕府と如何なる関係を築き、またどの様な評価を受けていたのか

を検討せねばなるまい。そこで申請者は、当該期の河野氏と室町幕府との間に如何様なる交渉が

あったのか、という問題の一端を検討した。

さらに、なぜ西瀬戸内海地域が幕府より重要視されたのか、京都から瀬戸内海地域が如何様に捉えら

れていたのかを史料的に後付けた上で、室町前・中期における当該地域の持つ政治的特質の一端を検討

した(日本女子大学史学研究会 第 50回大会 口頭発表「中世における「外海」地域の特質」、2011年12月)。当該地域は京都の人間から「遠国」と見なされたが、当該地域の治安が幕府の政局を大きく左

右することもあり、幕府にとって政治的・軍事的にも重要な地域と認識されていた。つまり西瀬戸内地域の

入り口となる伊予国の在地領主と好誼の関係を持つことにより、幕府は当該地域の治安維持を期待したのでは

なかろうか。この検討作業の中で、当該地域の在地勢力同士が相互に牽制し合い、中央政権はその行為

に対し、当該地域の治安維持、海上航路の確保などを期待していたことが明らかとなった。

一方で、武家の「由緒意識」というテーマは国外においても関心が高い。近世における武家の「家伝」

編纂という行為を通して、忽那氏という一族が自らの「家伝」に如何様な由緒を求め、且つどの様に自己

認識していたのか、申請者はこの問題について一考した(The 2012 Annual Conference of the Association for Asian Studies、パネルセッション「Narrating the Past in Premodern Japan: The flexibility of the Yuisho (Historical Genealogy) and the Rewriting of the Past」、口頭発表論題「The Genealogy of the Samurai Family in Compilation of the Kaden in the Premodern Period: The Case of Kutsuna Clan」、2012年 3月、Toronto)。

忽那氏は天正十三年の四国攻めによって衰退した後、同氏が他家に再仕官したという記録は確認

できず、武家たる同氏の経歴は天正年間を下らぬ頃に終わりを迎えたと推測される。しかし江戸

前期の成立に掛かる「忽那島開発記」は、主に「忽那家文書」所収の中世史料を引用しながら、

中世における一族の歴史を丁寧に書き記している。氏の自己認識を求めるにあたり、一族の歴史

が記された「家伝」が重要な素材となることは言うまでも無い。そこで近世という時代の転換期

を迎え、帰農を選んだ武家が「家伝」編纂という行為に託したもの、つまり由緒意識を具現化し

た意味を考えたい。その一方で、明治期に忽那氏は「いわゆる海賊なり」との評価を受けたこと

により、現在でも忽那氏は「武家」ではなく「海賊」と見なすことが定説となっている。現代で

は当たり前とされる歴史的評価は、果たして氏の本来あるべき姿なのか。この検討課題について

も、忽那氏の一例を通して問題提起ができた。

その他、申請者は愛媛県大山祇神社における史料群の原本調査など、積極的に関連地域におけ

る現地調査・研究会への参加に努めた。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 30 日

研究課題名 中世地方寺社と在地社会―阿蘇山寺僧集団と修験道

申請者 所属・学年史学専攻博士課程後期3

年 氏

名 松本 晃世

指導教員 所 属 史学科 氏

名 永村 眞

研究実績及び成果

博士論文予備論文として、論題「室町期阿蘇山本堂造営と在地社会」を提出した(2012 年 1 月)。

以下内容を掲げる。 日本中世社会において地方寺社が在地社会の中で如何なる位置を保持し存続を図っていったの

か明らかにすることを研究目的とし、肥後国阿蘇社及び阿蘇山の僧徒集団を研究課題として設定

した。 阿蘇社の首長である阿蘇大宮司は中世の在地社会において権勢を振るったが、その背景には、

山上の僧徒集団の存在が大きく関わっているといえる。そこで、阿蘇山上の僧徒集団の組織と活

動から、在地社会における地方寺僧集団の成立及び自立化について検討考察を行った。 南北朝時代において阿蘇山衆徒は寄進物について阿蘇大宮司へ注進する義務があったが、その

一方で、次第にその統制から離れ、私財を蓄積していく傾向が見られる。衆徒の寺坊経営の財源

としては、寄進地により形成される所領があるが、南北朝期以降増加する、阿蘇山上への個人の

願念成就を期待する所領・供料の寄進によってその財源を広げていき、室町後期に至ると経済面

では大宮司を凌ぐに至ったといえる。

衆徒方が経済面で大宮司を凌ぐ様相は、室町期以降、大宮司方が衆徒より「御神物」として料

足を借用する事例が頻発していることにより示される。経済面における衆徒と大宮司の関係は、

阿蘇山上本堂造営の費用となる「本堂御造営物」を検討することでその一端を窺うことができる。

中世において寺社の造営が在地の経済に与える影響が多大であることは先行研究により明らか

であるが、地域や各々の寺社によってその方法は多様であった。寺社造営は地域にとって少なく

ない負担を伴うが、それと同時に経済的な効果も生まれるのである。阿蘇社及び山上本堂の場合

も、造営事業は阿蘇大宮司と山上僧徒集団の関係及び在地の経済に多大な影響を及ぼした。

室町期文明四年(1472)の阿蘇山本堂造営は、大宮司から守護菊地氏への打診によって一国平

均の棟別銭がかけられ行われた。それにより多大な本堂造営料則ち「本堂御造営物」が集積され

ることになり、大宮司方及び衆徒行者方の経済資本となり、更に利貸営業を行った可能性が確認

できる。このように「本堂御造営物」は、在地の経済活動の裾野を広げるものとなったのである。

特に衆徒行者方は、「本堂御造営物」を運用することで各院坊の私財として蓄積し、それによっ

て大宮司の統制を離れた独立した活動も可能にしていったといえる。

加えて、本堂造営の際、各所からの棟別銭徴収を可能にした一つの要因として山伏の存在が指

摘される。阿蘇山上には修験道の発展に伴い、衆徒・行者方各々に山伏がついたが、こうした遊

行性を伴う山伏の存在が在地との関係を形成し、阿蘇山の宗教活動を支えるものになったであろ

うことが考えられる。

以上のように、中世在地社会における宗教組織の活動は在地経済に多大な影響を与えるもので

あった。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 「春日権現験記」編纂過程の研究

申請者 所属・学年史学専攻・博士課程後期 2

年次 氏

名 坪内 綾子 印

指導教員 所 属 史学専攻 氏

名 永村 眞 印

研究実績及び成果

鎌倉時代成立の絵巻物「春日権現験記」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、以下「験記」)を素材と

し、その編纂過程及び意図の検討を目的として研究を行った。

「験記」成立に関わる史料を探す中で、平安院政期から鎌倉時代を通し春日社(現・奈良

県春日大社)社家や興福寺僧らにより作成された春日社社記類に着目した。5月に天理図書

館にて史料閲覧を行い、天理図書館所蔵の社記を「験記」編纂の契機となる史料と位置付け

た。この社記と「験記」に共通して収録される「承平託宣事」は、春日明神が自らの仏性と

藤原氏の官職の進止を主張した託宣の様子を語った話譚であるが、興福寺が春日社へ進出し、

藤原氏への影響力を強める切り札としてこの託宣が受容・利用された事から、この話譚を「験

記」第一話に掲げた意図を検討し、これを論文化した。論文は「興福寺の春日社進出と「承

平託宣」―「春日権現験記」巻一第一段「承平託宣事」を通して―」と題し日本女子大学史

学研究会編『史艸』第52号(2011年11月発行)に掲載された。

また、「験記」中でも解明の不充分な中盤から後半、興福寺僧を題材とした巻についての検

討を進めた。興福寺僧による春日信仰、また春日明神による興福寺・法相宗擁護という、春

日社・興福寺相互の関係を描いた後半巻は、鎌倉時代における神仏の関係という、博士論文

の中核として位置付けたい重要なテーマを含んでいるため、今後とも研究を継続する。

加えて、「験記」のカラー写真の調査を行った。原本である三の丸尚蔵館本「験記」は順次

修復中のため閲覧・写真入手は叶わなかったが、同本を精巧に模写した「験記」剥落模本(東

京国立博物館蔵、以下東博剥落模本)の写真の一部を入手することができた。現在「験記」

研究は閲覧の利便性が高い春日大社蔵本(江戸時代模写)を中心に行われているが、比較の

結果、春日本は詞書の衍文や誤脱が見受けられ、また挿絵も途中巻で現状模写から復原模写

へとの模写方針が変化しているなど、原本との差異が多く見られた。一方、東博剥落模本は

原本写真との比較において彩色・詞書の字体も含め極めて精緻な模写が行われていた。原本

に比べ筆致が勝るものではないが、現在原本は写真も含め部分的な公開にとどまることから、

東博剥落模本が「験記」の素材として研究に十分活用し得ることが明らかとなった。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 室町期における東大寺大勧進職の活動と存続について

申請者 所属・学年文学研究科史学専攻

博士課程後期2年 氏

名 山脇 智佳

指導教員 所 属 史学科 氏

名 永村 眞

研究実績及び成果

申請者は現在中世東大寺の大勧進職による造営活動について研究を行っている。室町期に大勧

進職を兼帯していたのは戒壇院であった。しかし戦国期の東大寺焼失以後、江戸期の再建まで大

勧進職の存在を確認することが出来ない。そのため室町期において如何にして大勧進職が存続し

消失するに至ったのか、その背景を探ることを試みた。

①論文

論文:本学史学研究会『史艸』第52号「「周防国吏務代々過現名帳」の成立」(p57~89)

2010年度に本学史学大会において報告した内容に加筆・修正を加えた。「周防国吏務代々過

現名帳」は、平安院政期から室町末期までの周防国国衙領の歴代国司名(大勧進職名)が記され

ており、その成立と作成された背景について考察を加えた。本史料は永禄10年(1567)から永禄

12年(1569)の間に、戒壇院長老照海によって作成されたのではないかと措定した。その背景に

は焼失した戒壇院の再興と共に、大内氏に替わり周防国を支配した毛利氏に対して、同院による

周防国知行の正当性と由緒を主張する意図があったのではないかと結論づけた。また本学大学院

学生特別研究奨励金を活用して得た成果を本論文の作成に反映させた。

②東京大学史料編纂所所蔵「周防得富文書」の調査

2012年2月8日に東京大学史料編纂所所蔵「周防得富文書」の原本調査を行った(以下「得

富文書」と称す)。

「得富文書」は室町中期から江戸前期にまで全35点の文書から成る。この度の調査で紙質・

法量等を記録すると共に、改めて記され内容について確認を行った。なお本学大学院学生特別研

究奨励金を本史料の調査に活用した。

得富家は室町期に周防国において東大寺の国衙候人を務め、室町期以降も東大寺の下で周防国

国衙領経営の一端を担っていた。本史料はすでに『山口県史』にて活字化されていることが知ら

れる。しかしこの度の調査で、江戸期の文書10点が同書内に記載されていないことを確認した。

この10点は室町期以降の周防国における東大寺の荘園経営を示すものである。この未翻刻の史

料から、東大寺領の検非違使に得富家の人間が東大寺沙汰所によって補任されていることが窺え

る。上記「周防国吏務代々過現名帳」からも徳富家は代々国衙領の検非違使を務めており、戦国

期以降も在地における国衙領経営の姿は殆ど変化がなかったものと思われる。

今後は上記の成果を踏まえた上で、引き続き室町期の大勧進職について研究を行う。同時に東

大寺造営に関与した戒壇院の寺内における役割を再検討し、造営組織の変化と造営活動について

言及することを試みたい。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 ミネラル代謝に関する研究 ‐食事性因子の検討‐

申請者 所属・学年 人間発達学専攻3年 氏

名 祓川 摩有

指導教員 所 属 食物学科 氏

名 五関 正江 教授

研究実績及び成果

【目的】骨を構成するミネラル成分である「カルシウム」や「リン」は骨代謝と深く関わっている。

食事からのリンの過剰摂取によりカルシウム吸収率が低下することが指摘されており、ミネラル代謝

における食事性因子の栄養学的視点からの研究が注目されている。カルシウムの研究は古くから進め

られているが、リンに関する研究は解明されていない点が多い。リン代謝に関与する酵素の1つであ

る、アルカリホスファターゼ(ALP: Alkaline phosphatase)は、リン酸エステルを無機リン酸とアルコ

ールに加水分解する反応を触媒する。ヒトでは、4種類の ALP アイソザイムが同定されており、臓器非

特異型 ALP、小腸型 ALP、胎盤型 ALP、germ cell 型 ALP に分類されている。骨組織中に存在する臓器

非特異型 ALP は、骨形成マーカーの1つであり、骨の石灰化において重要な役割を有し、骨量調節と

深く関わっている。小腸型 ALP については、以前我々が脂肪食 (日本女子大学大学院紀要 家政学研

究科・人間生活学研究科、18:61-67,2012) やビタミン K 投与により活性が増加すること(J Nutr Sci

Vitaminol. 57:274-279,2011.)を示し、食事性因子との関連が深いことを報告したが、その生理機能

については、未だ不明な点が多い。そこで、本研究では、ミネラル代謝に関わる食事性因子(カルシウ

ム、リン、ビタミン D、ビタミン K など)に着目し、ALP 活性に及ぼす作用を詳細に解析し、ALP の生

理機能やミネラル代謝における食事性因子の役割について明らかにすることを目的とした。

研究1(細胞実験)

【方法】臓器非特異型 ALP 遺伝子を導入させたマウス骨芽細胞様細胞(ST-2)を用いて、リン濃度を変

化させた培地で(リン濃度;0、0.5、1.0、1.5、2.0 mM)、それぞれ培養をした。培養開始 3日後に採

取し、ALP 活性を測定した。

【結果】リン欠乏培地(0 mM)で培養した細胞の ALP 活性が、リン濃度 0.5~2.0mM の培地で培養した

細胞に比べ、高値を示した。

研究2(動物実験)

【方法】6週齢 SD系ラットを雄雌共に、飼料中リン濃度が 0.15%の P 0.15%群、基準食(AIN93M)と同じ

0.3%の P 0.3%群(対照群)、0.5%の P 0.5%群および 1.0%の P 1.0%群に分け、14 日間飼育した。飼育期

間中にカルシウム・リン出納実験を行った。血中の各種骨代謝マーカーの測定、組織サンプル(骨、

肝臓、小腸、腎臓など)中の ALP 活性の測定、腰椎骨密度測定などを行った。なお、本研究計画につ

いては、本学動物実験倫理委員会の承認を得ている。

【結果】血中 ALP 活性において、雄雌共に各群間に有意な差は認められなかったものの、リン摂取量

の増加に伴い、減少傾向が見られた。雄では大腿骨の海綿骨密度において、P 0.5%群および P 1.0% 群

が P 0.3%群に比べ、それぞれ有意に低値を示した。一方、雌では骨幅において、P 0.5%群および P 1.0%

群が P 0.3%群に比べ、低値を示した。

【結論】in vitro および in vivo 系のどちらにおいても、リンが ALP 活性に影響を及ぼすことが示さ

れた。なお、その他の食事性因子については、現在解析中である。

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HSP70脂肪組織炎症

IL‐6

50 

100 

Con HF

HSP(pg/m

l)/脂

肪(m

g)

Fig.1 脂肪組織からのHSP70分泌

*

0

10

20

30

40

50

0ng/ml 200ng/ml 1000ng/ml

IL‐6(pg/m

l)/脂

肪(m

g)

HSP70濃度

Fig.2 脂肪組織のIL‐6分泌に及ぼすHSP70の影響

日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 3 日

研究課題名 肥満および合併症の免疫・炎症の視点からの解析と免疫栄養素による病態の調節

申請者 所属・学年人間生活学研究科人間発達学専攻

博士課程後期 2 年 氏

名 藤本 絵香

指導教員 所 属 人間生活学研究科人間発達学専攻 氏

名 佐藤 和人

研究実績及び成果

<目的>肥満は、近年、増加傾向にあり、糖尿病、高血圧、脂質異常症、動脈硬化性疾患等

の発症にもつながる。その基盤病態として、肥満による脂肪組織を中心とした全身性慢性炎

症の病態生理学的意義が注目されている。しかしながら、その詳細についてはいまだ不明な

点が多い。そこで、本研究では、免疫系など生体の恒常性維持において重要な熱ショックタ

ンパク質 (Heat Shock Protein: HSP)の視点から、肥満による脂肪組織の炎症状態および機

能的変化について解明することを目的とした。

<方法>C57BL/6J 雄マウスを用いて、5 週齢より飼育を開始し、6 週齢より普通食を与える

Con 群および高脂肪食(脂肪エネルギー比率 60%)を与える HF 群の 2 群に分けた。12 週間の

実験食の後、18 週齢で解剖し、体重および脂肪重量、糖代謝指標の測定、ならびに脂肪組織

培養実験を行った。

<結果>HF 群は、Con 群と比較して 14~18 週齢での体重、

ならびに解剖時の腹膜下脂肪、腎周囲脂肪、腸間膜脂肪、

皮下脂肪のいずれにおいても有意に高値であり、肥満の誘

導が確認された。糖代謝指標である血糖値および血清イン

スリン濃度もまた、HF群において有意に高値であった。脂

肪細胞産生因子では、血清アディポネクチン濃度には有意

差は認めなかったが、肥満による血清レプチン濃度の有意

な上昇を認めた。

脂肪組織培養実験では、HF 群において炎

症性サイトカインである IL-6 の脂肪組織か

らの分泌が上昇する傾向を認めた。一方で、

抗炎症作用を有するアディポネクチン分泌

は有意に減少した。さらに、脂肪組織からの

HSP70 分泌について検討したところ、肥満に

より HSP70 分泌の有意な減少が認められた

(Fig.1)。

分泌された HSP70 が脂肪組織に対して及

ぼす影響を検討するため、脂肪組織の培養液

に recombinant HSP70 を添加し、脂肪組織

が分泌する IL-6 の濃度を測定したところ、HSP70 を 1000ng/ml 添加した場合、添加をしなか

った場合と比べて IL-6 濃度が高値傾向であった (Fig.2)。

<結語>肥満では、脂肪組織における脂肪細胞や免疫系細胞からの 炎症性因子(IL-6、TNF-α等)の産生異常が指摘されている。 本研究により、これらの因子に加えて、脂肪組織から の HSP70 分泌が変化し、パラクライン、オートクライ

ン機構によりさらに脂肪組織における炎症病態を調節

する可能性が示唆された。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 前言語期の子どものコミュニケーション行動

申請者 所属・学年人間生活学研究科人間発

達学専攻 氏

名 宮津寿美香

指導教員 所 属 家政学部児童学科 氏

名 川上清子

研究実績及び成果

【研究経緯】

研究テーマである、前言語期の子どものコミュニケーション行動を探るため、1 組の乳幼児(1

歳代(観察開始時)の女児、以下女児)とその母親の相互交渉の様子を観察するため家庭訪問を行っ

た。これまで前言語期の研究は頻繁におこなわれているが、指さし行動が伴われる生後 9 か月か

らに注目されており、それ以前の時期はほとんど研究がない。初期から観察をすることで、更に

詳細にコミュニケーションの原点がわられると考える。従って、本研究は以前(奨励金採択前)か

ら行っていた観察に継続するかたちで、おこなわれた。

観察当初は、女児の他に以前から大学のプレイルームで観察していた 1 歳代男児とその母親の

観察も続行する予定だったが、先方の都合により不可能となった。観察場面は主に乳幼児と母親

の自由遊び場面であり、その際の観察時間は平均して約 20分間である。途中、乳児の体調や機嫌

が悪くなる場合は、中断したり休憩を入れるなどして行った。その後、母親と雑談がてら言語面

における女児の発達の様子や、日常生活における女児の行動についての特徴を簡単に聞いた。観

察はその時の母子の都合によって異なるが、月 3~4 回である。奨励金は観察に協力していただい

たお礼として、1 観察 3000 円としてお渡しするために使用した。

【現段階での結果や考察】

まだ詳細なデータはこれから分析していく予定であるが、現段階での見解としてまず、女児の

指さし行動が出現する 1 か月ほど前の観察において、母親の指さしが頻繁に行われている様子が

うかがわれた。また、指さし行動が発現され始めた時期のデータをみると、母親が対象を指さし

た後、女児も母親が指さした対象と同じものを指さすという現象もみられた。これまで、指さし

行動が起こる原理としては、子どもの内面的な発達に起因することに重きが置かれていたが、そ

れと同時に、外延的な要因、例えば、母親の行う指さしや行動が子どもの指さし行動の出現を引

き起こしている可能性もあるのではないかと推測する。今後、子どもの視線や、母親の声かけ、

また双方の指さしのタイミングや頻度などを分析する中で明らかになってくると考える。

また、以前別のデータでとっていた、同年代の男児のデータと見比べると同じ月齢でも指さしの

出現時期や、言語面の発達において違いがみられた。データ数の少なさから、明確なことは言い

難いが、性差や観察場所の環境の違いから前言語期のコミュニケーションに差がみられるのか、

今後検討課題である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 31 日

研究課題名 エコクリティシズムで再読するイギリス児童文学

申請者 所属・学年人間生活学研究科

人間発達学専攻・博士1年 氏

名 内藤 貴子

指導教員 所 属 人間生活学研究科 人間発達学専攻

名 川端 有子 教授

研究実績及び成果

実施計画で予定していた研究作業のうち,以下の点を進めることができた。研究実施内容と成果を,簡潔に報告する。

イギリス児童文学をエコクリティシズムの批評概念に照らして再読するに値する作品の収集・選定・解読作業を並行

して行い,研究ノートを逐次作成した。今年度対象とした作品で主なものは,1930~40 年代からは Alison Uttley の The

Country Child(1931 年),A Traveler in Time(1939 年),The Spice Woman’s Basket and Other Tales(1944 年),

Little Grey Rabbit Series(1929~1975 年),1950 年代からは Philippa Pearce の Minnow on the Say(1955 年),Tom’s

Midnight Garden(1958 年),Katharine Mary Briggs の Hobberdy Dick(1955 年),Rosemary Sutcliff の The Eagle

of the Ninth(1954 年),1990 年代~2011 年からは,Tim Bowler の River Boy(1997 年),David Almond の Skellig

(1998 年),Kit’s Wilderness(1999 年),Heaven Eyes(2000 年), Susan Price の The Sterkarm Handshake(1998

年),Eva Ibbotson の Journey to the River Sea(2001 年),Philippa Pearce の The Little Gentleman(2004 年)な

ど他多数。自然の要素や,自然表象としての登場人物たちが物語においてどのような役割を担い,何を描くことを可能

としているのかを考察した。Sue Purkiss の The Willow Man(2000 年),Michael Morpurgo の Running Wild(2009

年),Gill Lewis の Sky Hawk(2011 年)など,自然表象を中心に据えた新しい作品の調査・収集も進んだ。

なかでも Tim Bowler の River Boy について論じた「川の少年とは誰か?――River Boyにおける“figment”と自然表象」

は,日本女子大学児童文学研究・日月会における口頭発表(2011 年 8 月 24 日)と指導教員による指導を経て,日本イ

ギリス児童文学会の学会誌(審査付論文集)に投稿し掲載された(2012 年 2 月刊行 Tinker Bell 57 号 p.71-84)。本論で

は,子ども主人公が祖父の老いと死を受け容れていく背景に、自然の川がもたらす象徴的な意味と、川・川をとりまく

森林地・海といった自然に対するセンス・オブ・ワンダーを大きく関わらせて描かれている理由と、自然表象の機能を

詳細に考察した。現実の川と祖父の空想の産物としての川の重層性と,自然の循環性のなかにおける死生観を得て,命

の循環性,継続性,永遠性を実感した子ども主人公の成長を読み解くことで,川の自然表象が本作品において果たして

いる役割が明らかになった。また「ディヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』における“vision”と自然表象」(2012 年

前期投稿予定)では,日常生活圏に隣接したマージナルな自然領域(本作品では,イングランド北東部に実在する泥沼

地帯 Black Middens)が,親と離死別した子どもたちの内的世界の荒れ果てた状態の表象であり,同時に救いの場所と

もなりうることを,本批評理論の重要概念であるウィルダネスの視点から考察した。

いずれも再読にあたっては,常にエコクリティシズム批評理論に関する基本文献の解読と並行し,本批評概念を確か

めながらの作業だったため,批評概念の確認・形成が次第にできてきたこと,エコクリティシズムが適用される以前の

思考の枠組みでは捉えきれていなかった「自然と人間の関係性」が,本批評の観点を用いることで,児童文学作品から

新たに読み取れる可能性が確認できたこと,イギリス児童文学に表れた環境意識の変遷を俯瞰するため次年度も積み重

ねていく基礎作業の軌道づくりができたことも,今年度の成果である。作品の再読作業に伴い批評理論を具体的に適用

していくため,依拠できる論があるかどうか,児童文学文化をエコクリティシズムの視点から論じた論集 The Wild

Things: Children’s Culture and EcocriticismやEnts, Elves, and Eriador The Environmental Vision Of J.R.R. Tolkien

解読のほか,各学術誌・大学紀要等に掲載されている,エコクリティシズムの視点あるいはそれに近い視点から考察さ

れた児童文学作品についての論文の調査・収集・解読を,大学院演習の授業内で解読指導を受けつつ,個別研究でも進

めた。その結果,本批評方法が明らかにする「人間と自然との関係性」の研究が,「環境の世紀」の要請に即して本格的

に求められている一方で,未だ批評概念が定まっておらず,批評の方法として,特に児童文学には未だ十分に適用され

ていないことも明らかになった。そこで主に文学環境学会の学会誌に掲載の論文,海外雑誌に掲載の論文,環境文学に

関する書籍の収集・解読を通じて,一般文学に適用された本批評の概念を確認することにつとめ,現段階で獲得した視

点から思い及ぶ範囲での,不足の資料・視座の目途をつけることができた。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 保育者養成における音楽表現カリキュラムの構築に関する研究

申請者 所属・学年人間生活学研究科人間発達学

専攻博士課程後期 1 年 氏

名 古山 律子

指導教員 所 属 人間生活学研究科 氏

名 坪能 由紀子

研究実績及び成果

乳幼児と音楽教育に関する 1998 年 4 月から 2008 年 6 月までの約 10 年間の研究動向では,保育者

養成にかかわるものが圧倒的に多く,二つの視点が浮き彫りとなっている。一つは広く乳幼児の表現

を見取って育てる保育者の専門職性を問題にするものであり,二つ目は鍵盤楽器演奏や歌唱等の従来

からある音楽の専門技能を問題にするものである。主に二つの視点から進められてきた保育者養成教

育における音楽表現指導に関する研究は,より包括的な音楽表現カリキュラムの再検討、再構築を必

要としていると考える。したがって,これら二つを視野に入れながら,保育・音楽表現共に通底する

即興性という概念をもとに保育者養成における音楽教育・ピアノ指導の現状と課題を明らかにし,新

たな音楽表現カリキュラムの構築に向けた提言を行うことを目的として本研究を進めている。 本研究は,保育におけるピアノ導入とその軌跡に関する歴史的調査,及び保育者養成機関のシラバ

スを参考資料とした音楽表現カリキュラムの実態調査を行い,量的な指標の下研究全体の基盤をつく

る。次に保育における即興性,音楽表現教育における即興性という概念について理論的枠組みを述べ,

実践研究の分析の視点を提示する。さらに保育者養成機関等での授業及び幼稚園での実践を質的な研

究法を用いて分析し,新たな音楽表現カリキュラム構築の可能性を探ることとしている。1 年目である

今年度は,主な研究実績及び成果として以下の 4 点を挙げることができる。

1. 本研究の視点の一つである即興性に通底すると考えられるコードネームを活用した大学におけ

る音楽教育の実践的な試み:コードネームを活用した授業を集中的に実施し,その有効性や課

題・展望について探索する。ビデオ記録及び文字記録による観察及び分析を行い,コードネーム

を活用した実践的な授業方法の可能性を探る。こうした予備調査が次年度以降のカリキュラム開

発への布石になることと考えられる。 2. 幼稚園における日本の音階(わらべうた)をもとにした即興的な音楽活動の実施とその分析:数

名の音楽教育研究者らと共同研究を実施している即興的な音楽活動について,保育者養成機関の

音楽表現教育にも応用できる一事例となるよう実践のビデオ記録を詳細に記述し,質的に分析・

考察を行った。分析による成果は,日本女子大学大学院紀要(家政学研究科・人間生活学研究科)

18 号に「幼児の創造的な音楽活動の開発に関する研究Ⅶ-わらべうたの音構造をもとにした音

楽活動の分析・考察を通して-」と題して発表している。即興性を生かした音楽表現活動のカリ

キュラム構築にわらべうたの音階をもとにした一方法が浮き彫りとなってくる。 3. 国際会議におけるワークショップ発表:2011 年 9 月指導教員である坪能由紀子教授らと共に

「International Conference for Music Culture Intercommunion of Cross-Border Nation in Northeast Asian Region」に参加し,「日本の音楽教科書にみられる世界の音楽」と題したワー

クショップ発表を実施した。海外での発表を経験したことにより,自らの研究課題に関する新た

な視野が広がる有意義な研究成果となった。 4. 保育におけるピアノ導入とその軌跡に関する歴史的調査,及び保育者養成機関における音楽表現

教育の実態調査は継続中である。大学院学生特別研究奨励金により,図書購入を進めることがで

きた。資料収集及び読み取りを深めながら,歴史的背景を踏まえた現状における実態の把握につ

ながった。

博士課程後期一年次である今年度は,本研究における様々な試みの一年となった。一つの可能性と

して,日本の音階(わらべうた)をもとにした即興的な活動の展開が浮き彫りとなった点は成果とい

える。新たなカリキュラム構築に向け,次年度以降は実践研究及び文献研究をさらに精緻に行いたい。

保育者養成機関のシラバス等を参考資料とした音楽表現カリキュラムの実態調査をすすめ,量的な指

標の下研究全体の基盤をつくることも目指すこととする。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 28 日

研究課題名 江戸時代前期の小袖服飾に関する研究―三井家史料から見る町人服飾―

申請者 所属・学年

人間生活学研究科 生活

環境学専攻 博士過程後

名 沢尾 絵

指導教員 所 属 同上 氏

名 佐々井 啓先生

研究実績及び成果

2011 年度の研究実績は以下の通りです。 <論文> ① 三井文庫所蔵『染代覚帳』の考察(上)―江戸時代前期の染色価格について―

東京国立博物館研究誌『MUSEUM』635 号,p.7~p.23 2011 年 12 月 15 日 ② 三井文庫所蔵『染代覚帳』の考察(下)―染色および加工名称について―

東京国立博物館研究誌『MUSEUM』636 号,p.7~p.21 2012 年 2 月 15 日 ③ 江戸時代前期の染色名称の考察―小袖雛形本と『染代覚帳』を中心に―

日本女子大学大学院紀要 第 18 号, p.151~p.159,2012 年 3 月 19 日

<口頭発表> ① 「三井家史料『染代覚帳』考―天和年間の小袖染色と価格―」(於東京)

服飾文化学会 第 12 回総会・大会 ② 「三井文庫所蔵史料にみる江戸時代前期の染織」(於京都)

日本家政学会 服飾史・服飾美学部会 第 3 回研究会

当該研究は、江戸時代前期の染織の解明をテーマとして掲げております。その一環として、2011年度は、三井文庫に所蔵される『染代覚帳』をもとに、江戸時代前期の町人層を中心とした人々

の小袖染色に関連した研究を行いました。結果として、江戸時代前期の染色名称や価格に関して、

一定の成果を得て、新たな知見を示すことができました。今後、江戸時代前期の染織に関する研

究を、今年度の成果を軸として進めていく計画でおります。 研究に際しては、公益財団法人三井文庫をはじめ、東京国立博物館、日本銀行貨幣博物館

鶴見大学などの諸先生方など、多方面の方々からご助言を得る機会にも恵まれました。投稿論文

については掲載まで予想以上の期間を要しましたが、特別研究奨励金のおかげで諸研究・発表の

準備から完成まで、無理なく行うことができました。この場をお借りして御礼申し上げます。

Page 14: 日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書...日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書 採択期間 2011年4 月~2012 年3

34

95

166

282

52

21

97

57

55

4

4

50

110

49

9

36

12

48

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

単独住宅複合

その他

1950年

以前

1950

年代

1960

年代

1970

年代

1980

年代

1990

年代

2000

年代

2010

年以

降不

都営住宅

UR都市機構

区営・公社

民間住宅

複数複合(住宅)

その他(寮・母子寮)

子ども・教育施設

その他の施設

複数複合(住宅以外)

住宅複合

その他

図 1 開設年別施設形態

日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年4月 2 日

研究課題名 集合住宅計画における子育て支援施設の複合の地域社会への効果について

申請者 所属・学年生活環境学専攻

博士課程後期 3 年 氏

名 江川 紀美子

指導教員 所 属 住居学科 氏

名 定行 まり子

研究実績及び成果

今年度、東京都におけるこれまでの保育所の施設形態について調査を行った。東京都において

は、1970 年代に開設された保育所が も多

く、次いで 1960 年代である。また、保育所

単独施設は、1960 年代までは概ね 60%であ

ったが、1970 年代以降 50%~40%まで減少

している。複合施設では、住宅との複合が多

いが、2000 年以降はその他の施設との複合形

態が多いことが判明した。住宅との複合施設

の内では、1990 年代までは都営住宅との複合

が多かったが、2000 年代には、民間住宅との

複合施設が 64%に上り、近年は民間住宅に複

合されることが多いことが分かった(図 1)。 また、施設の複合形態は、自治体による差

異が大きいことが判明した。特別区では単独

施設が平均 43%であるのに対し、市部では約

80%である。複合施設では、住宅の複合が多

い自治体は、千代田区(40%)、港区(50%)、墨田区(46%)、江東区(60%)、足立区(43%)

である。港区、墨田区、江東区では、単独施設よりも住宅の複合が多いことが明らかとなった。

また、保育所待機児童が多い現在、既存施設を転用した保育施設の整備がなされており、集合

住宅の空き店舗や住戸を活用した保育施設の事例が見られることを明らかにした。待機児童対策

として既存施設の活用は方策の一つといえるが、保育施設の基準を満たす施設を確保することが

難しく、改修工事に際しては建築確認の手続きに関する課題があることが判明し、今後の課題で

ある。 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災発生当日とその後の状況の把握を行った。その結果、

昼寝から起きる時間で、東京においては比較的安全を確保しやすい状況であったことが判明した。

その後の避難については、園内にとどまるべきか、屋外へ避難するか、判断に困惑したことが明

らかとなった。また、園外に避難してどこか安全なのか、責任者はその都度判断を迫られたこと

が推察される。施設建物の建築年、構造だけでなく、周辺建物の状況や地域の状況にも因ること

が考えられ、どこに避難すれば安全かを事前に確認・検証し、避難マニュアル等を作成する必要

性と共に、状況に応じて臨機応変に対応できるよう細かい設定のもと、避難訓練をしておく必要

があると考えられる。また、避難するのに適した公園等があっても、多くの施設が避難場所とし

て利用すると、混雑などが原因で、子どもの安全の確保が難しいことが想定できるため、地域と

の連絡や連携なども必要であることが明らかとなった。 これらの研究実績をもとに、2011 年度、「中高層集合住宅における地域施設の複合化に関する

研究-保育所等子どもに関連する施設に着目して-」と題した博士論文をまとめ、学位を取得し

た。また、財団法人こども未来財団平成 23 年度児童関連サービス調査報告書「東日本大震災にお

ける保育所・学童保育所の被災実態と防災避難に関する研究」(主任研究者:定行まり子)を共同

でまとめた。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 15 日

研究課題名 日中定年差別に関する研究

申請者 所属・学年人間生活学研究科生活環

境学専攻 3年 氏

名 孔 令亜

指導教員 所 属 人間生活学研究科 氏

名 堀越栄子

研究実績及び成果

中国では定年年齢が男女で五~十歳の格差が残されている。女は早期に定年を迎えることで、

早い段階から年金を受給できる権利を有する一方で、定年年齢が若いことにより、昇進の頭打ち

や生涯年収の低下が問題であると指摘されている。また、過去の意識調査では、調査対象者の属

性が明らかにされておらず、こうした意識を規定する要因分析が進んでいない。

本研究は、中国の定年年齢についてこれまでの法及び行政規定の流れを整理し、分析を加えた。

さらに、筆者が実施したアンケート調査に基づき、「一般労働者」と「女性処幹・高知」の双方に

ついて男女同年齢定年制への賛否とその理由について分析し、男女同年齢定年に関する次の提案

を行いたい。

第1に、女性の定年年齢は、男女同年齢定年を規定しつつも、工人(50、55、60 歳)、幹部(55、

60 歳)ともに自由に選べるようにするべきである。それは、「一般労働者」と「女性処幹・高知」

の男女同年齢定年への賛成割合(それぞれ 34.3%、38.6%)と反対割合(それぞれ 37.5%、20.4%)

がどちらも少数ではないためである。選択肢を増やすことで選べる可能性の幅を広げることがで

きる。

第2に、男女同年齢定年は、先に「女性処幹・高知」の女性エリート層、次に「一般労働者」

と、段階的な立法をすすめることが望ましい。筆者の調査からは、「一般労働者」の男女同年齢定

年に対する反対は「女性処幹・高知」の 20.4%の 2 倍弱の 37.5%であるため、「一般労働者」よ

り「女性処幹・高知」に対しての立法を進めやすいと思われる。また、賛成派は、若い層と高学

歴層に多かったことを考えると、将来的には賛成派が増えてくることが考えられる。

第3に、就業環境の整備やワーク・ライフバランスの推進である。これは、性別役割分業の実

態を改善し、スムーズに男女同年齢定年立法をすすめる基盤的役割を果たす。男女同年齢定年に

反対する人びとの背景には「保護か平等か」、「性別役割分業」、「男女の自然の差異」という論点

が横たわっている。また現実的に考えて、女性たちは仕事と家庭の二重負担を背負っている場合、

そこから解放されたいと考えることは自然である。

第4に、雇用政策の充実である。「女性処幹・高知」の男女同年齢定年に対し、男女同年齢定年

は若者の就職の機会を妨げるという意見がある。年齢にかかわらず、性別にかかわらず労働の権

利と機会の確保は必要である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 29 日

研究課題名 高齢者の QOL 向上をサポートする衣服設計システムの開発

申請者 所属・学年 人間生活学研究科・3 年 氏

名 じょん そゆん

全 昭玧

指導教員 所 属 人間生活学研究科 氏

名 大塚 美智子

研究実績及び成果

1.目的 加齢とともに体形が変異する高齢者にとって身体機能を補う機能を持った衣服が必要である.そこ

で,高齢者の動作や姿勢に適合した衣服パターンの設計のための基礎研究とし,立位姿勢と座位姿勢

に,上肢上挙姿勢,歩行姿勢を加えてより詳細な三次元人体データを採取し,比較・分析した. 2.方法 被験者は,首都圏在住の65歳以上の健康な高齢女性30名で,平均年齢70.13±3.79歳,身長153.2cm,

体重52.37kgである.非接触三次元人体計測器を用い,専用のステッカータイプのランドマーカをはり,

形状を計測した.立位姿勢は ISO 20685に準拠して計測し, 各姿勢の平均値から 寸法変化率を求め, 姿勢による体形特徴を比較・検討した.そして,断面重合図から姿勢による体形特徴を検討した. 3.結果 3.1 姿勢による寸法変化 高齢女性の立位姿勢と座位姿勢による寸法の変化を検討した結果,乳頭・前水平ウエスト線長さで

-6.97%,後ウエスト点・臀部後突距離で 8.79%変化し,立位姿勢時より座位姿勢時に乳頭・前水平ウ

エスト線長さが短くなり,臀部の体表長は伸び,1%水準で有意な差がみられた.上肢上挙姿勢は,他

の姿勢より乳頭高が高く,乳頭・ウエストライン距離は長くなり,背丈は短くなることがわかった. 3.2 姿勢による上半身部位の変化 高齢女性の立位姿勢と座位姿勢による上半身部位の変化を捉えた結果,背部後突・頚椎前方距離と頚

椎・右頚側前方距離は,立位姿勢時より座位姿勢時の値が大きく,背部後突・後ウエスト点前方距離と

頚椎・ 背部後突垂直距離の項目は,立位姿勢時の値が大きかった. 3.3 姿勢による腹部の変化 高齢女性の立位姿勢と座位姿勢による腹部の変化について検討した結果,胴位と腹位における前後

側面の寸法の変化がみられた.胴位においては,後径の変化はなかったが,立位姿勢時より座位姿勢

時に前径(4.42%)と側径(4.08%)が増加し,胴囲が座位姿勢時に大きくなった.腹位においては,前径

と後径は両姿勢の間に差がなかったが,側径(2.35%)は立位姿勢時より座位姿勢時に増加し,腹囲が座

位姿勢時に若干大きくなった. 3.4 断面重合図による姿勢の比較 各姿勢の胸位,胴位,腹位の水平断面を重ねた図から,各姿勢に対して全体的な形状はほぼ類似し

ているが,立位姿勢の後面は,各部位のシルエットの差がはっきりするが,上肢上挙姿勢と座位姿勢

は差が少なく,後面が平らであることがわかった. 4.まとめ 高齢女性は姿勢により体形の変化がみられ,特に立位姿勢時より座位姿勢時により上半身部位が前

傾,前湾すること,胴囲が大きくなることが明らかになった. 5.研究実績

1)「三次元計測による高齢者の姿勢変化と体型特徴との関係‐2」日本繊維製品消費科学会(2011年)での口頭発表 2)「三次元計測による高齢者の姿勢変化と体型特徴との関係」日本家政学会平成 23年度被服構成学

部会でのパネル発表

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 生活の場としての学童保育所のよりよい空間のあり方について

申請者 所属・学年人間生活学研究科生活環

境学専攻・博士課程 3 年 氏

名 山崎 陽菜

指導教員 所 属 家政学部住居学科 氏

名 定行 まり子

研究実績及び成果

2011 年 3 月 11 日に起こった東日本大震災を受け、関東 1 都 3 県(東京都・千葉県・茨城県・

栃木県)および東北 3 県(岩手県・宮城県・福島県)の自治体担当課へのアンケート調査、東北

3 県に所在する学童保育所へのアンケート調査を実施した。併せて、施設対象のヒアリング調査

も行った。ただし、沿岸部および原発 30km 圏内の 34 市町村は除いている(表 1)。 自治体対象アンケートによると、東京都では建物被害が 1 件もなく、東北 3 県と関東 3 県では、

被害件数にあまり差がない。これは、沿岸部や原発 30km 圏内にアンケートを配布していないこ

とも影響している。県別にみると、福島県、茨城県、栃木県では地震が原因となった被害のみで

あることに対し、岩手県と千葉県では液状化による被害、宮城県では津波による被害、宮城県と

岩手県では火災による被害が加わっている(表 2)。東北 3 県の学童保育所対象アンケートによる

と、建物被害は、「耐震済」よりも「耐震なし」で被害数が多い。「学童保育は耐震の補助がなく

各施設に任されている」といった意見もあり、耐震診断や耐震化の立ち遅れが見受けられる。 管轄の自治体に、当日の教育委員会との連絡の有無を聞いたところ、連絡を取った自治体は全

体で 3 割にも満たなく、一番多い東京都でも約 5 割、福島県では 1 割を超えない。一方、学童保

育所では、小学校と連絡を取った施設が 7 割を超えることから、所管同士の連絡はほとんど取っ

ておらず、現場同士での連絡や情報交換に頼らざるを得ない状況であったことが明らかとなった。

これらの調査により、東北 3 県で、耐震改修工事が行われている施設が 3 割に満たないことと、

耐震化していない施設で被害数が多い実態から、耐震診断の実施や構造強度の向上が急務である。

また、ライフライン被害を受けても運営しなければならない現状が見られたことから、どのよう

な状況におかれていたとしても保護者の就労などにより、開設が必要な施設であることが明らか

となった。そのためにも、建物の安全性や設備を整備していくことが重要である。 震災当日の避難行動では、通学路で被災した場合の責任の所在が明らかでなく、子どものみの

自主的な避難も少なくない。今回の地震発生時刻が 1 時間遅ければ、下校時間に重なり通学路で

被災する子どもが増大していたことが考えられる。通学路だけでなく、どこで被災したとしても

「どのように守っていくべきか」を小学校、学童保育所、地域が一体となって話し合い、連携し

ていくことが必須である。この実態は、普段からの小学校との連携の弱さなど学童保育所が抱え

る課題が浮き彫りになったと言える。 これらの成果は、平成 23 年度児童関連サービス調査研究事業報告書(財団法人こども未来財団)

としてまとめたと共に、2012 年 3 月に開催された日本建築学会シンポジウムで発表した。

東京都 千葉県 茨城県 栃木県 岩手県 宮城県 福島県 全体

配布数 55 53 44 30 24 21 40 267回収数 32 33 17 20 14 11 21 148回収率(%) 58.2 62.3 38.6 66.7 58.3 52.4 52.5 55.4

岩手県 宮城県 福島県 全体

配布数 211 206 304 721回収数 94 90 96 280回収率(%) 44.5 43.7 31.6 38.8*岩手県、宮城県の沿岸部および福島県の原発30km圏内にある34市町村を除く。

期間:2011年5月~11月対象施設:東京都内学童保育所 27か所千葉県、栃木県の学童保育所 5か所

自治体対象アンケート

学童保育所対象アンケート ヒアリング調査

地震 火災 津波 液状化

岩手県 8 6 1 1福島県 5 5宮城県 6 4 1 1茨城県 7 7栃木県 7 7千葉県 9 7 2東京都 0

原因被害件数

表 1:調査概要 表 2:各自治体での建物被害の原因

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 2 日

研究課題名 19 世紀後半から 20 世紀初頭アメリカの衣生活

申請者 所属・学年 人間生活学研究科 2 年 氏

名 太田 茜 印

指導教員 所 属 被服学科 氏

名 佐々井 啓 印

研究実績及び成果

2012 年 8 月 26 日より 9 月 7 日までアメリカ・ニューヨークに行き、ニューヨーク公立図書館

にて資料収集を行った。日本国内の図書館及び研究機関に所蔵されていない雑誌を中心に資料を

収集し、分析した結果を論文「20 世紀初頭ニューヨーク上流階級の衣生活」(国際服飾学会誌)

及び、「20 世紀前半アメリカにおける婦人雑誌と服飾記事の傾向」(日本女子大学大学院人間生活

学研究科紀要)として投稿した。

収集した資料はさらに分析を続け、論文にまとめてゆく予定である。

収集した主な資料

*Good Housekeeping 婦人雑誌、家庭総合誌 *THE MODERN PRISCILLA 婦人雑誌、手芸関連誌 *McCall’s パターン会社発行のファッション誌 *Butterick Quarterly パターン会社カタログ *Housewives Magazine 婦人雑誌、家庭総合誌 *Magazine Circulation and Rate Trends 1937-1955 アメリカ広告主協会発行の雑誌の発行部

数・売上等の調査資料。アメリカの主要な 64 の雑誌についての毎年のデータがまとめられている

*Social Register ニューヨーク社交界の名簿、住所録だけでなく出生、死亡、婚姻、婚約、旅行

等の記載があり、ニューヨーク上流階級の人々の生活が克明に記されている 掲載された論文 23.5.20 太田茜 「20 世紀初頭ニューヨーク上流階級の衣生活」国際服飾学会誌 39 号

p.12-18 24.3.19 太田茜 「20 世紀初頭アメリカにおける婦人雑誌と服飾記事の傾向」日本女子大学大

学院紀要家政学研究科・人間生活学研究科 第 18 号 p.

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 20 世紀初頭現代ファッションへの転換期におけるフランスモードにみられる異国

趣味に関する研究

申請者 所属・学年人間生活学研究科生活環境

学専攻博士後期課程 2 年 氏

名 佐藤 恭子

指導教員 所 属 被服学科 氏

名 佐々井 啓

研究実績及び成果

採択期間の主な研究実績としては、国内での学会発表二つに加え、海外での研究発表およびそ

の報告、また紀要の執筆を行った。日本家政学会第 63回大会では「モード誌にみる異国趣味の受

容」と題して口頭発表を行った。次に、国際服飾学会第 30回大会にて「バレエ・リュスとモード

の東洋趣味の関係」について口頭発表を行った。これらの口頭発表では、いくつかの問題点の指

摘を受け、論文執筆にあたり今後補強していくべき点や新たに追及するべき領域について明らか

になった。また 8 月 24 日、ヘルシンキ、アールト大学で開催された国際学術研究会において「The

Second Japonism in France: East Meets West」と題した口頭発表を行い、12 月 10 日にはこの

学術研究会の様子について報告を行った。アールト大学で発表した題目については、考察を深め

た上で日本女子大学大学院紀要家政学研究科・人間生活学研究科第 18 号に執筆した。上記の発表

は奨励金申請時の実施計画に基づくものであり、同時に博士論文の内容に大きく関わる発表であ

り、とりわけ前者二つの発表は中核をなすものである。さらに、学年末にはフランス国立図書館

およびパリ市フォルネイ図書館にて、1920 年代を中心とする貴重資料の収集を行い、次年度の研

究の素材となるものを集められた。

採択された研究費はアールト大学での口頭発表に関する諸経費の他、上記の口頭発表を今後さ

らに吟味し論文としてまとめるための書籍等資料の購入の一部として利用された。

平成 23年 5月 29日 口頭発表「モード誌にみる異国趣味の受容」日本家政学会第 63会大会(於:和洋女子大学)

平成 23 年 6 月 9 日 口頭発表「バレエ・リュスとモードの東洋趣味の関係」国際服飾学会第 30 回大会(於:学

習院女子大学)

平成 23 年 8 月 24 日 口頭発表「The Second Japonism in France: East Meets West」国際服飾学会学術研究会

(於:ヘルシンキ、アールト大学)

平成 24年 3月 20 日 論文「モードにおける日本と西洋の交流~80年代フランスを中心に~」日本女子大学大学

院紀要人間生活学研究科 18号

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 27 日

研究課題名 人の暮らしのためのホームファシリティマネジメント

申請者 所属・学年生活環境学専攻

博士課程後期1年 氏

名 浅見 美穂

指導教員 所 属 住居学科 氏

名 定行 まり子

研究実績及び成果

<2011 年度に行った調査> 調査 1. 住まいの空間構成の変化と住まい方の変化の分析(2009,2010 年度調査) 調査 2. ライフスタイルの変化と住まいの機能についてのまとめ 調査 3. 住まいの取得・維持管理・リフォーム・費用に関する予備調査 調査 4. 町内会における地域防災アンケートの実施と分析 調査 5. 個別事例ヒアリング調査の実施と分析

調査 1 と調査 2 は、修士課程からの継続した調査である。三世代の暮らしの変化の事例から,

ライフステージごとの空間構成と拡大・増加する生活機能,減少・消滅する生活機能の整理を行

い、住まいの管理における一般的な傾向をたどることができた。これらの調査と考察は 8 月に研

究 1 に、10 月に研究 2 に、3 月に研究 3 にまとめて発表、提出をした。 調査 3 は、日常的に積み重ねている調査である。全国の家計調査などのデータや横浜市の人口

統計、住まいや町づくりに関連する法制度などから,統計的に既に明らかになっている事項や新

しい世の中の動向についての情報を確認している。 以上の調査を前提として、今年度は新たに、横浜市戸塚区内の前田町町内会を拠点に置く調査

を展開することができ、個別の住まい調査に繋げられた。当町内会の副会長は、地域における防

災活動に携わるキーマンであり、これまでも学童や小学校施設の調査に協力していただいている。

調査 4 では,8 月に前田町町内会全世帯 1275 世帯に向けて「地域防災アンケート」を行った。

東日本大震災後、防災に対する意識や日頃からの備え、住まいや周辺環境への注意喚起などを盛

り込んだ内容とし、326 世帯(25.5%)の回答を得た。アンケート結果は報告書にまとめ、12 月

に町内会全戸に配布した。 調査 5 では、調査 4 のアンケートにおいて調査協力に賛同していただけた居住者に、10 月から

1 月にかけて個別訪問調査を実施した。調査項目は、家族の居住歴、リフォーム工事歴、現状の

住まいの耐震診断などである。戸別訪問調査を 11 件、住まい調査を 3 件実施することができた。

町内会での個別調査のデータは、1月から 3 月の研究 4 の対象者 4 件の再訪問調査と合わせて

分析中である。横浜市内の計 21 件の家族と住まいの居住歴から、人の暮らしのライフサイクルの

変化と、住まいの変化について分析・考察を行い、次年度初めに日本建築学会に投稿予定である。

さらに 3 月 11 日には、町内会主催の防災セミナーとして「大規模地震にどう備えるか」を開催

していただき、防災や耐震、リフォームについて話をする機会を得られた。76 名の参加者があり、

次年度の詳細個別調査や地域との関連性の分析に繋げることができた。 研究 1:定行まり子,沖田富美子,大髙真紀子,鈴木佐代,江川紀美子,浅見美穂:三世代の暮らしの変遷と住まいの機能の変化に

関する研究-子ども時代のライフスタイル比較を通して,住宅総合研究財団研究論文集 No.38,研究論文 No.1008,研究 2:浅見美

穂,定行まり子:女子大生とその家族の三世代の子ども時代の暮らしについて-ライフスタイルの変化からみる住まいの機能に

関する考察 その1-,女子大生とその家族の現代の暮らしについて-ライフスタイルの変化からみる住まいの機能に関する考

察 その2-,2011 年度日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), p253-256, 2011 年 8月,研究 3:浅見美穂,定行まり子:家

族が住み続ける住まいについての考察―女子大生とその家族の暮らしを対象として―,日本女子大学大学院家政学研究科・人間

生活学研究科紀要第 18号 p87-98,研究 4:住み手のライフステージの変化と耐震対策-横浜市における耐震改修事例の考察 そ

の1-:浅見美穂,児玉達朗,雨森隆子,定行まり子,2009 年度日本建築学会大会関東支部研究報告集,P241-244, 2010 年 3月

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 14 日

研究課題名 開発過程における伝統的染織文化の検証

申請者 所属・学年 人間生活学研究科 1 学年 氏

名 川口 えり子

指導教員 所 属 家政学部被服学科 氏

名 増子 富美

研究実績及び成果

2011 年 10 月 11 日から 26 日まで、ベトナム国とラオス国にて、タイ系民族の伝統的染織文化

変遷の調査を実施した。特別研究奨励金は、そのための渡航費および現地調査の際の交通費の一

部に充てた。 <研究実績>

ベトナム国では、タイ系民族の経浮紋織技法による胸覆い布の現状を研究するために、以下の

調査を実施した。 1. タインホア省とホアビン省の白タイおよび黒タイが居住する4村を訪問し、その活用実態と

過去の変遷を調査した。 2. その技法を、ホアビン省のラック村で検証した。 3. ホアビン省のムオン民族のコム村を訪問し、上記技術に関してタイ系民族との関連を調査し

た。 4. 上記に関しての資料を収集した。 ラオス国では、タイ系民族を中心とした人々の伝統染織と政府の政策との関わりについての研

究を進めるために、以下の調査を実施した。 1. ラオス商工会議所の指導を受けた手工芸協会主催による「Lao Handicraft Festival(10 月

19 日から 23 日の 5 日間開催)」にて、伝統染織の活用実態を調査した。 2. Phaeng Mai Gallery 運営の「琉球藍染ワークショップ」(10 月 22 日から 24 日)に参加して、

琉球藍染について研修した。 3. 伝統染織の商品化に関わった主要人物への聞き取り調査を実施した。 4. 政府官庁や国連機関、開発援助機関を訪問し資料の収集を行った。 <成果>

帰国後、以下2件に関しての研究を進めることができた。 1. ラオス国での調査結果および収集資料を検証し、ラオス国の伝統染織の変容段階に関して明

らかにすることができた。その内容を、「ラオス伝統染織の変容段階についての一考察」とす

る報文にまとめ、服飾文化学会誌へ投稿中である。 2. ベトナム国での調査結果および収集資料を検証し、伝統染織技術の伝承に及ぼす要因につい

て考察を進めることができた。その結果を、「タイ系民族の経浮紋織による胸覆い布から検証

した伝承の要因-ベトナムとラオスの比較-」とする報文にまとめており、近日中に服飾文

化学会誌への投稿を予定している。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 ワークライフアンバランスの解消―国際比較の視点から―

申請者 所属・学年 生活環境学専攻 1 年 氏

名 御手洗 由佳

指導教員 所 属 家政経済 氏

名 住澤 博紀

研究実績及び成果

2011 年度前半は、主に生活時間の国際比較に関する海外の文献や雑誌の収集にあたり、先行調

査の研究や今後の新たな研究への示唆とした。

また、国内のワークライフバランスに関する研究として、修士論文で行った、日本における育児

期の男性の生活時間推移の比較と内閣府調査の個票データを用いた育児期の男性の二極化に関す

る研究論文を発表し、本学人間生活学研究科紀要第 18号(2012 年 3月刊行)に掲載された。

2011 年 10 月からは、日本女子大学現代女性キャリア研究所にリサーチアシスタント(RA)と

して採用され、研究活動を広げた(2012 年度も採用継続予定)。

この中で女性の再就職に関するプロジェクトの一環として、「女性のキャリアに関する調査」(2011

年 11 月 11 日~11 月 13 日にかけてインターネット上で実施)を行い、本調査の調査票設計から

調査へ携わった。この調査の結果については、現在分析を進めている。報告書に関しては来年度

(2012 年度)初めに発行する予定で進めている(概要版は 2012 年 3 月研究所のニューズレター

を発行した。)さらに同プロジェクトの一環として行われた、本学のリカレント課程生へのインタ

ビュー調査に参加した。これらの調査を生かし、本学リカレント課程への新たなプログラム開発

の提案をすることを目標に分析を進めている。さらに、同時に、同研究所のホームページ上に掲

載されている女性とキャリアに関する社会調査データベースの拡大化も行った。本年度新たに約

70 件の調査データを加えた。

学外活動としては、他に、御茶ノ水女子大学の WORK=FAM 事務局へ出向き、「アメリカにおける

ワークライフバランス」講演会や、同事務局が実施したアメリカでの調査の分析報告会に参加し

た。また、2012 年 3 月 17 日、18 日に大阪商業大学で開かれた日本行動計量学会の合宿セミナー

に 1 泊 2 日の出張で出向き、国際比較におけるデータ分析や分析手法について学び、国際比較に

関する調査の限界や問題点について知見を深めた。

今年度は保育所・幼稚園などへのアンケート調査や行政へのヒアリング、学会口頭発表などを

予定していたが、資金面などの都合から実施することができなかった。これは来年度の課題とし

て取り組みたい。

今年度は研究所のプロジェクトの参加、調査を通して、日本の女性の一般的なライフコース、

転職もしくは休職によりワークライフバランスをとっている実態が見えてきたことが研究の成果

といえる。

来年度は日本の 5 年に 1 度の生活時間調査が発表される年度でもあり、長期的に見たワークラ

イフバランスのあり方と時間に注目したワークライフバランスといった点を、仕事をしない人も

含めた働き方の選択という観点からさらに深めた研究を行っていきたい所存である。

本年度、日本女子大学特別研究奨励金を授与していただき、研究を深められましたことに感謝い

たします。今後もこの研究を生かし、より一層、研究活動に精進してまいります。この場を借り

て御礼とさせていただきます。ありがとうございました。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 31 日

研究課題名 浮浪・乞食・売春婦をめぐる社会福祉と刑事政策の役割分担

申請者 所属・学年人間社会研究科社会福祉

学専攻博士課程後期 3 年 氏

名 副島 望

指導教員 所 属 人間社会学部 社会福祉学科

名 岩田 正美

研究実績及び成果

博士論文「刑事政策における福祉的機能―明治前期の浮浪・乞食を中心として―」の作成を進

め、ドラフトの提出に至った。現在ドラフトの審査中である。博士論文の研究テーマを深めると

ともに浮浪・乞食・売春婦をめぐる社会福祉と刑事政策の接点として以下のような研究を進めて

おり、現段階での見解を述べる。 売春婦をめぐる処遇は、基礎文献の収集および売春防止法制定前の基礎資料の読み込みを行っ

た。従来の研究では早期の制定を急ぐ国会議員のグループと、更生施設の充実を待ってから設立

すべきという財務省の対立や、推進派の持つ「売春する女」への差別意識に焦点があてられてい

た。申請者は売春婦の統制を担当する警察、更生保護の分野に焦点をあてて調査を続けている。

「刑事政策的な観点から見て、売春婦をめぐる諸問題解決に効果的な方法」がどのように議論さ

れ、法律制定過程に反映されていったのかに注目する。 明治期からの警察による貧民対策の実践をまとめたところ、警察はたびたび貧民に介入してい

る。まずは伝染病を防止する目的での衛生警察、戸籍整備のための戸口調査を経て、下層社会の

実態把握のために細民調査を行うようになる。こうした警察の活動、とくに細民調査は社会事業

史においても注目される所である。昭和初期までの警察や刑事政策関連雑誌を調べると、「貧民授

産論」に関する記事や論考を多く発見することができる。いずれもヨーロッパの制度の紹介が多

いが、日本にも同様の制度が必要ではないかとの提案、もしくは日本の制度改革の参考や今後の

研究課題として扱われている。これらの警察による「貧民授産論」は福祉関係雑誌で掲載された

それと比較すると、より具体的で貧民への介入が積極的である。警察による「貧民授産論」は、

警察の強制力を背景にして取り組むことができるためであろうが、労働能力のある者への強制労

働の提案も警察では活発になされていることが分った。 更生保護制度全体への検討として、戦前・戦中・戦後の更生保護制度に大きな役割を果たした

森山武市郎氏の研究を行っている。森山氏は更生保護(当時の言葉では司法保護)のみならず、

少年保護や少年犯罪についても積極的に政策を提案していた関係から、児童福祉の分野にも深く

関わっていたことを明らかにできた。 また、研究会等の参加で更生保護および社会福祉史の研究を深めた。東京社会福祉史研究会に

は引続き参加して社会福祉史の理解を進めた。2011 年 11 月に南高愛隣会主催のセミナー「司法

と福祉の新たな連携をめざして 罪を犯した障がい者・高齢者の協働支援のあり方を考える」に

参加し、現代の課題と新たな試みである地域生活定着支援センターの理念や動向について考察す

る機会を得た。同年 12 月にも厚生科学研究「触法・被疑者となった高齢・障害者への支援の研究」

を聴講する機会を得、当該分野における 新の研究を学ぶことで、歴史的研究が今こそ必要とさ

れていることを再確認した。 「救うべき者」と「処罰すべき者」の境に興味があって刑事政策と社会福祉の関連を調べたが、

刑事政策においては処罰を行いながらも救済に関心を抱く意見が少なくない。これは、刑事政策

の目的の一つ「社会の安寧を守るため」が救済と通じていると考えられる。刑事政策と福祉の役

割分担とは、両者の間に何らかの意見交換の場があったというよりも、刑事政策の中で発見され

た福祉的処遇の必要な者への対策を刑事政策が業務の拡大によってこれを担った、という仮定に

達した。今後はこの仮説の検討作業に入りたい。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 現代日本における社会的排除の実態とその政策的背景

申請者 所属・学年社会福祉学専攻

博士後期課程 2 年 氏

名 大岡 華子 印

指導教員 所 属 社会福祉学専攻

教授 氏

名 岩田 正美 印

研究実績及び成果

ホームレスや元ホームレスの人々がホームレス状況に陥った要因や背景を明らかにするととも

に、地域で単身生活を行なう上で様々な問題の状況やそれに対する支援方法などを分析するため

に、ホームレス支援の NPO に週 1 回程度定期的にかかわり、研究を進めていった(成果①)。

同時に、他のホームレス調査や生活困窮者に対する調査研究などを参考にしながら、分析枠組

みの検討を行なっていった。加えて、社会政策や社会福祉制度からの排除に焦点を当てる上で、

社会保障制度や社会福祉制度が抱えている課題について欧米状況も含めて文献等を通して、研究

を進めていった(成果②)。

成果①

定期的に関わった NPO の 2010 年度の新規の相談件数は 729 件で、20 代~40 代の新規の相談者

が前年度と比較して 2 倍になっている。雇用情勢の悪化等により稼動年齢とされる方々が生活に

困窮する状況が生じていることが伺える。本人からの相談が全体の 64%を占め、次いで司法関係

の機関からの相談が 14%、福祉関係の機関等が 4%となっていた。支援の内容としては、住所設

定、通院の同行、年金の申請、債務整理の補助、障害者手帳の申請、介護保険の申請等の専門的

な支援のみならず、金銭管理の助言、掃除や食事など日常生活に関する助言など専門的な支援に

限らず生活全般に対して支援を行なっていた。しかし、支援にあたって、様々な課題も抱えてい

ることが明らかになった。1 つには、NPO の主な活動地域である I区の面積は練馬区と同じである

が、要支援者が生活しているアパートは駅から離れておりため、職員は車で巡回を行なっている。

しかし訪問に際し、片道 30 分~1 時間程度要するなど、実際の支援よりも移動に要する時間が長

くなることが少なくない。2つには、I 区における障害者自立支援法の基づくグループホームの

設置状況を例にとれば、精神障害者が入居可能なグループホームはなく(2012 年 2 月現在)、精

神障害者等が退院した場合など、社会資源が不足している状況がある。また、通所施設に通って

もすぐにやめてしまうなど、既存の施設をしてもうまくいかない場合もあることが明らかになっ

た。

成果②

イギリスにおいては、1997 年に内閣府に Social Exclusion Unit(SEU)が設置され、2002 年

には副首相府に移管され、2006 年には、首相直属の戦略室に吸収され、より小さな Social

Exclusion Task Force となり、2010 年に廃止された。ブレア政権は、1997 年以降、「社会的排除」

という言葉を用いることによって、イギリス国内の貧困、失業、福祉への依存といった重層的な

社会問題の要因を、職業と所得を基準とした社会階層に求めることをあえて回避し、特定の「リ

スク」に焦点を合わせ、それを解消する政策努力を試みた。しかし、ブレア政権下の雇用政策は、

賃金労働に就くことを「包摂」の前提条件としている点において、ワークフェア的色彩が濃く、

就労義務を打ち出して行くアメリカのワークフェア政策に近かった。また、結果の平等ではなく、

機会の平等を重視した。あわせて、イラク問題で、首相官邸、ブレアの首相官邸主導の手法が批

判の対象となり、ブレア自身の評価が失墜した。レビタスも指摘するように、社会的排除の定義

自体が柔軟性を持っていたため、明瞭性欠けていたなど SEU 自体も当初から課題を抱えていた。

その結果、制度にするにあたって、社会的排除の概念的な曖昧さ(多義性)を隠すことが出来ず、

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排除に抗する政策が曖昧さ(多義性)や矛盾を含み、結果としてニューレーバーの政策自体が矛

盾した性質をもつことになった。上記のことから、イギリスにおいては、「社会的排除」という概

念を用いて政策が行なわれたが、当初からの問題や政権交代もあり、社会的排除という視点では

難しい点もあったことが明らかになった。

参考文献:山口二郎他(2005)『市民社会民主主義への挑戦』日本経済評論社、2005 年

近藤康史(2008)『個人の連帯』勁草書房

梅川正美他(2010)『イギリス現代政治史』ミネルヴァ書房

Levitas, Ruth (2005) The Inclusive Society? Social Exclusion and New Labour(2nd ed) , Basingstoke:Palgrave

Macmillan

・2011 年度研究業績

大岡華子「第二章 事業実績報告」『貧困を背景とした犯罪をなくすための緊急一時シェルター

事業―居宅生活安定にむけた社会福祉士によるコーディネート支援―』平成 22年度三菱財団社会

福祉事業・研究助成報告書

大岡華子・金子充「第四章 結びにかえて」『貧困を背景とした犯罪をなくすための緊急一時シ

ェルター事業―居宅生活安定にむけた社会福祉士によるコーディネート支援―』平成 22年度三菱

財団社会福祉事業・研究助成報告書

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 社会的排除の観点から見た都市貧困地域のメカニズムに関する研究

―韓国、チョッパン地域を中心として-

申請者 所属・学年人間社会研究科社会福祉

学専攻博士後期課程2年 氏

名 黄 英ファンヨン

遠ウォン

指導教員 所 属 人間社会研究科 氏

名 岩田正美 印

研究実績及び成果

チョッパンやその地域の形成過程に関する文献研究とともにソウル、デジョン、ブサンなどの「チョッパン相談

所」の役割と実情について訪問調査をする予定であった。なお、韓国の都市低所得層密集地域であるチョッパ

ン地域の地域再生方法について探るために参考となる日本の低所得層密集地域でのフィールドワークも実施

する予定であった。その結果は次のようである。

(1)韓国の居住福祉及びチョッパン地域の現況把握

1)居住福祉関連機関の調査

①城北居住福祉センター訪問・買上げ賃貸住宅視察(生活者インタビュー)

②野宿者タシソギ支援センター訪問・ソウル駅界隈巡見

③seed:s (社会的企業支援の中間組織、若年層の社会的企業家育成支援)

④城東住民会・地域自活センター・ノンコル信用協同組合(住民自身によるコミュニティバンク)訪問及び住民との交流

⑤韓国都市研究所・ソウルサブセンター訪問及び専門家によるレクチャーなど

2)チョッパン地域及び関連機関の(仮)調査

施設名 インタビュー 施設名 インタビュー

デジョン相談所 スタップ:2 人

チョッパン(家庭)訪問:7件)

ブサン相談所

(ドン区)

スタップ:1 人

チョッパン(家庭)訪問:6件)

ソウル 相談所

(ドンイ 洞)

スタップ:1 人

チョッパン(家庭)訪問:4件)

デグ 相談所 スタップ:2 人

ブサン相談所

(ジン区)

スタップ:1 人

チョッパン(家庭)訪問:3件)

ブサンホームレス

相談センター

スタップ:1 人

論文の本調査を実施するための予備調査を実施し、調査項目などについて設定する段階である。

(2)日本の地域再生活動の把握

1)4 地区(浅香・矢田・加島・平野)共同まちづくり研究会の活動

①研究会: 4 回参加し、地域住民による地域再生活動と研究者によう研究報告などの研究会活動を学習

②調査に参加

:浅香・加島両地区にお住まいの皆さんの生活実態や要望についてお聞きし、生活の改善と新たなまちづく

りに向けた取り組みを考える際の参考にするための調査

:調査員として 2 日間参加し、地域住民への聞き取り調査実施(15 世帯)

2)その他

:国立社会保障・人口問題研究所、板橋福祉事務所など訪問を通じた日本の貧困問題に対する政策に関し

て学習。 ふるさとの会主催シンポジウム(大都市における困窮者支援の現状と課題)、日本地域福祉学会(コミ

ュニティ再生への多様な取り組み)など参加を通じた学習など。

4地区まちづくり研究会の調査の結果、若年層・中堅ファミリー層の地区外転出による地区人口の

高齢化、再スラム化のおそれ、ライフスタイルに見合う居住ニーズへの対応が困難などの地域の

問題について分かるようになり、居住、医療・福祉、雇用、多文化共生型のインクルーシブなま

ちづくりモデルの創生のような地域再生方向に関してより深く考えることができた。

現在、このような日本の地域再生の動向に関して整理しており、韓国地域福祉学会に投稿するた

めに準備している。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2011 年 3 月 31 日

研究課題名 イギリス児童福祉における独立アドボケイトの意義と課題

申請者 所属・学年人間社会研究科社会福祉

学専攻博士後期課程1年 氏

名 栄留里美

指導教員 所 属 人間社会研究科

社会福祉学専攻教授 氏

名 林浩康

研究実績及び成果

1)研究計画上の本年度の課題

イギリスの独立アドボケイトとはソーシャルワーカーとは別に、意思決定及び権利侵害の際に、

子どもの意見表明を支える存在である。この独立アドボケイトの成立過程、根拠法、ファミリー

グル―プ・カンファレンス及び苦情解決における具体的な活動内容、独立アドボケイトの養成・

資格制度と労働環境、政権交代後の独立アドボカシーサービスの動向について明らかにし、その

意義と課題を明らかにする。

2)研究計画の本年度の実践

1)で挙げた課題については、資料の分析、昨年行ったインタビュー(共同研究)本奨励金助

成によるインタビュー調査によって明らかした。それらを本年度の業績(下記4)参照)として

論文及び学会にて発表した。

本奨励金は、①独立アドボケイトに関するイギリスの研究者である Jane Dalrymple 氏、実践者

Hilary Horan 氏の来日講演会出席(東京及び大阪)及び同ニ名へのインタビュー調査を目的とし

た交通費・参加費・宿泊費、②この調査報告を目的とした学会参加費に使用した。

3)本奨励金による研究成果

講演出席及びインタビュー調査によって、独立アドボケイトが子どもの意思決定参加をサポー

トするために、具体的にどのようなプロセス、言葉かけ、導入の遊び、道具の利用を行うのか詳

細に明らかになった。さらにこの成果を学会で発表することができた。また、講演会内のワーク

ショップを通じて、具体的な養成方法を目の当たりにすることができ、養成方法についてより深

く学ぶ機会となった。

4)本年度の業績

・栄留里美(2011a)「第1章イギリスの子ども政策における参加とアドボカシー」,堀正嗣編『イ

ギリスの子どもアドボカシー ―その制度と実際』明石書店, 35-45. ・栄留里美(2011b)「第5章ウィルトシャー州における独立アドボケイトの実際-ファミリー・

グループ・カンファレンスを中心に」, 堀正嗣編著『イギリスの子どもアドボカシー ―その制

度と実際』明石書店,101-116. ・栄留里美(2011c)「第6章ファミリーグループ・カンファレンスにおける独立アドボケイトの

意義と課題」堀正嗣編著『イギリスの子どもアドボカシー ―その制度と実際』明石書店, 117-129.

・栄留里美(2011d)「第7章ウェールズにおける苦情解決制度と子どもアドボカシー」, 堀正嗣

編著『イギリスの子どもアドボカシー ―その制度と実際』明石書店, 131-144. ・栄留里美(2011e)「第9章子どもアドボケイトの養成と提供」, 堀正嗣編著『イギリスの子ど

もアドボカシー ―その制度と実際』明石書店, 163-181. ・栄留里美(2011f)「児童福祉における苦情手続きとアドボカシー~ウェールズを事例として~」日本

子ども家庭福祉学会全国大会、口頭発表、熊本学園大学,2011 年 6 月.

・栄留里美(2011g)「子ども参画のあり方について ~イギリスでの実践を参考に」第 17回日本

子ども虐待学会いばらき大会,分科会「日本型ファミリーグループ・カンファレンス」内、つくば

国際会議場,2011 年 12 月.

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4月 4日

研究課題名 児童福祉・教育政策における連携の歴史的課題

申請者 所属・学年社会福祉学専攻博士課程後

期 2 年 氏

名 駒崎 道 印

指導教員 所 属 氏

名 岩田 正美 印

研究実績及び成果

1)研究題目

「児童福祉と教育行政連携政策の歴史的課題」を修正→「戦後児童福祉政策における連携課題の

一考察~青少年問題(1949~56 年)においてなぜ総合政策が可能になったのか~」 2)研究計画本年度の実践

①文献研究:戦後の児童福祉政策をとりまく、行政改革や省庁再編に関して、行政学の文献にあ

たった。特に、総合政策と政策実施にともなう「調整」「総合調整」概念、「行政の現実」につい

ての概要を中心に調べた。また同じ流れで、戦後改革の「教育行政」の「現実」と教育行政の特

色についての文献にあたった。青少年問題・資料発掘は現在進行中。 ②学会報告等:研究業績欄参照 ③インタビュー調査準備:文献や関係者へのヒアリングから、研究対象当時を知る元厚生省児童

局専門官、元代中央青少年問題協議会メンバーの方にインタビュー調査を依頼することができた。

1 月に 2 名、3 月に 1 名のインタビュー終了。 3)研究計画の本年度の達成

①テーマの焦点化 入学当時、主なテーマが「児童福祉と教育行政連携政策の歴史的課題」という大きなものだっ

たため、具体的な研究題材を絞り切れずにいた。修士論文作成過程で、戦後の青少年問題が、行

政間連携を基盤とした児童福祉の総合政策理念を継承しているように推測される点があり、1949年の「青少年問題協議会」の成立過程に焦点をあてる意義があると考えた。しかし、同時に、同

じ連携課題の幼保問題も、現代に続く連携課題が明白であり、「幼保一元化政策における二元体制

の課題」の先行研究のレビューを行った。戦前、戦時中の幼保問題の研究も多く、幼保問題は戦

後の理念や政策構想以前からの課題であり、先行研究の数も多く、同一テーマに対して行政学か

らのアプローチも多いことがわかった。 しかし青少年問題は、戦後の児童福祉政策と近い関係性があるにもかかわらず、先行研究が見

当たらない。そして戦後誕生した「児童福祉」行政が 1951 年に断念した児童の総合政策(戦後

児童福祉政策の理念「児童福祉の基本原理」と省庁間連携を基盤)が、1949 年~1956 年「青少

年問題」において可能になったのかという疑問に対する分析も行われていない。この問題を分析

することによって、現在に続く「連携」課題の歴史的要因を明らかにしたいと考えた。 ②研究の視点・枠組み構築

修士から継続していた入学時のテーマより、教育行政に関する文献や、その行政特色分析も必

要と考えて行っていたが、児童福祉と教育行政という二省間の連携ではなく、行政間連携を基盤

にした「児童の総合政策」に視点を定めることにした。よって、教育行政分析は概観にとどめる

ことにした。 また、戦後 1948 年の第三次吉田内閣の行政改革や省庁設置法等が、現在に続く行政の所管や

連携システム、政策に大きな影響を及ぼすことから(1952 年被占領終了から 1955 年体制に至る

機構改革含む)、戦後の機構改革という視角から児童福祉政策、児童の総合政策の現実をとらえた

いと考える。

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4)残された課題(研究内容および研究の進め方)

①論文投稿:修士論文を修正し、来年度 4 月に投稿(学会発表したもの)する予定である。これ

は博士論文の基礎となるものなので、なるべく早く完成する予定である。 ②資料発掘:博士論文における具体的な題材となる「青少年問題協議会」の資料、関係各省庁で

行われた合意形成資料については、引き続き今年度内に発掘の努力をし、その結果研究の方向性

を改めて検討する予定である。 ③論文作成: 本年度は 1949 年から 1951 年の児童福祉政策や児童憲章、青少年問題等の関係性

を整理し、青少年問題協議会が総合政策の調整機関となる過程を児童福祉行政側から考察し研究

ノートを作成する。 ④インタビュー調査:厚生省児童局、中央青少年問題協議会の元構成メンバーへのインタビュー

は、可能なかぎり来年度内に対象者を探索し、調査依頼を行う。 5)研究業績 学会報告 ・ 2011 年 10 月社会福祉学会 第 59 回秋季大会にて「児童福祉・教育行政の『連携』における

歴史的課題~児童の総合政策にむけた占領期・児童福祉行政の歩み~」を発表。 ・2012 年 2 月東京社会福祉史会にて「戦後児童福祉政策における連携課題の一考察~青少年問題

対策協議会の形成過程1(1949)について~」を発表。

執筆 駒崎道(2012)「教育現場・児童養護施設におけるリストラティブ・アプローチ第 6 回年次大会

(イギリス・ヨーク)参加報告」『修復的アプローチ海外での取り組み報告書』日本社会事業大学

33-50

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 -特別支援学校高等部「生徒急増化」における外的要因の研究-(仮称)

申請者 所属・学年教育学科

博士課程後期 3 年 氏

名 遠 藤 俊 子

指導教員 所 属 教育学科 氏

名 岩 木 秀 夫

研究実績及び成果

Ⅰ、研究の背景

2007 年、わが国における特殊教育は、学校教育法改正を受けて特殊教育から特別支援教育に変換さ

れた。以来 5年が経過するが、特別支援教育の対象者は、「発達障害」の概念拡大もあり、年々増加の

一途をたどっている。具体例として、2000~2009 年間の義務教育段階では、特別支援学校 1,3 倍、特

別支援学級 1,9 倍、通常学級 2,1 倍である。一方、後期中等教育段階における生徒増加には、一転し

て「知的障害」特別支援学校高等部での急増化、軽度「発達障害」生徒(=就学基準に該当せず障害

手帳を所持しない層)の増加という、義務教育段階と異なる特徴がみられる。

2008 年文部科学省は、特別支援学校の生徒急増化の要因を、保護者の障害受容・特別支援学校の専

門性への評価によると発表した。一般的には、欧米と比較して、日本では特別な学校に学ぶ生徒の割

合が低いことから(日本 0,6%、フィンランド 3,7%:2009 年資料)、この減少を、制度導入を契機に

“おきるべくしておきた事象”と捉える傾向にある。しかし、少子化で就学人口自体が減少するなか、

生徒増加が「知的障害」「後期中等段階」という教育制度の特定なカテゴリーでおきる現象であるとす

ると、その現象を解釈し説明する論理が求められる。

Ⅱ、研究の成果

本研究では、以下の課題を設定し、「知的障害」特別支援学校高等部における生徒急増化について、

政策的なメカニズムという視点から増加の実態・要因・今後の展望について考察した。

課題 1 では、“特殊教育から特別支援教育”に至る制度的変遷について、通説である通常教育に 6%

在籍する発達障害児とサラマンカ声明以降の国際動向への対応という理由に加え、新自由主義教育改

革の制約を受けた“新しい理念と枠組み”すなわち戦後 2 回目のパラダイム転換という視点から説明

した。しかし、過去のパラダイムを充分に転換できない現状を顧みるならば、それは、特別支援教育

構想が、障害者の人権保障の前進(学習権保障と教育的統合)と社会保障の後退という相矛盾する基

盤にたっていることを、特別支援教育に関わる予算執行状況から検証した。特別支援教育の制度成立

と現状の課題点については、社会福祉基礎構造改革、義務教育の構造改革と連動するものであること

を示した。今後は、地方分権化の各自治体が、“就学前から就労まで”の一貫した生涯保障を、知恵と

工夫でどのようにシステム構築するのにかかっている。

課題 2 については、「知的障害」特別支援学校高等部の生徒増加に関する先行研究、および特別支援

学校・分教室・単置型特別支援学校(神奈川県下 52校)を対象とした質問紙調査を用いて考察した。

質問紙調査の内容は、特別支援学校への生徒の移動状況(規模・就学経路・就学理由)、および増加に

伴う教育現場の問題点・教員の意識についてである。調査結果からは、軽度判定の手帳を所持者かつ

適応行動の障害を理由に(通常教育を経由して)知的障害教育へ就学する生徒が多いことが分かった。

【研究課題 1】特別支援教育構想の捉え直し-到達点と課題について-

【研究課題 2】「知的障害」特別支援学校高等部にみる「生徒急増化」の実態把握

【研究課題 3】「生徒急増化」に関する政策的な要因分析

【研究課題 4】Jモデル(日本型インクルーシブ教育システム)実現についての考察

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課題 3では、上記の生徒層(所謂「つくられた知的障害者」)の移動状況に着目し要因分析した。

(1)地域的要因-都市化現象としての増加理由

公的資料(学校基本調査 1997~2009 年)を用いて、特別支援学校高等部在学者の増加率を算出した後、

都道府県別に経年比較し、全体的な増加傾向を調べた。その予測結果では、増加は全国的規模で生じ

る一方、2005 年以降、大都市圏を含む都道府県で増加が漸次進行しており、都市化現象としての側面

があることが分かった。さらに、都市化現象としての増加を仮説として、近年の高校改革・高校教育

政策(高校再編など)からの影響を探った。相関係数からは、中程度の相関がみられた都道府県が 10

県あった。ケース数が少なく、結果の解釈には慎重を要するが、大都市を含む大・中規模県では、

高校再編が増加要因の一部あると

考えられた。

(2)政策・行政的環境要因-政策理念・行政環境・教育課程・現場状況に関わる増加理由

ここでは、(1)の都道府県別増加率の経年比較をもとに、高校教育政策との影響が強いと予測され

る事例として神奈川県。一方、都市化現象と関わらず一定して特別支援学校在学者数が高い事例とし

て滋賀県。以上2つの典型事例を質的調査によって比較することで、より詳細な政策状況と生徒急増

加の関連性を明らかにした。

①神奈川県下、”新しいタイプの高校”での聞き取り調査および参与観察―(2011 年 7 月~継続中)

神奈川県は、90 年代後半からインクルージョンの展開を目指した「地域資源ネットワーク研究」を

公表する一方、高校改革では“円錐型統合”とよぶ定時制・課題集中校の削減を積極的に行い、その

結果「発達障害」および特別な教育ニーズをもつ生徒の就学先を狭めることになった。現在、その対

応策として、インクルーシブ教育を想定したクリエイティブスクール 3 校、通信制 1 校、定時制 1 校

が新設されている。

研究では、支援部教員の聞き取り調査から各校の教育課程・進路指導・生徒の実態・教員の意識か

ら、インクルーシブ教育の推進状況と課題を明らかにし、それと特別支援学校高等部の生徒増加とど

のように繋がるのかを分析した。(現在調査は継続中であるが)調査結果からは、教育予算の問題、行

政と現場の理念のズレ、教員間の意識の対立、就労指導の難しさが明確になり、インクルーシブ教育

の限界性が現場から浮かんできた。

②滋賀県下、特別支援学校を中心とした聞き取り調査―(2012 年 2 月~継続中)

滋賀県については、特別支援学校における専攻科運動や就労開拓支援員の実態、県立長浜高校の実

践(インクルーシブ教育の推進状況)、また地域福祉圏構想(地域支援ネットワークの推進状況)につ

いて聞き取ることで、行政による特別支援教育推進策の影響と生徒増加の関連性を考察する予定であ

る。

課題 4 については、増加の対応策である 2006 年文部科学省通知(「特別支援学校の在学児童生徒等

の増加に伴う大規模化・狭隘化への対応について」)について、J モデル構築の研究成果を視野に入れ

検討したい。

Ⅲ、今後の展望

本研究は後期中等教育に焦点化して考察している。だが、最近の増加傾向は、特別支援学級にシフ

トされてきている。特別支援学級での増加状況についても、当事者・保護者の就学理由や障害児教育

に対する意識変化、転学理由(通常級から支援級への転学者に対して)、義務教育諸学校における校内

システムの課題を明確化するなど、内部要因として整理する必要があるだろう。

Ⅳ、本年度の研究実績

・ 研究誌投稿-題目「特別支援学校における生徒増加に関する一考察」(2011 年 5月)

・ 研究発表 -日本特殊教育学会(2011 年 9 月)

日本発達障害支援システム学会(2011 年 12 月)

<2005~09 年の状況> 相関係数 r=.472p,=.169

*生徒増加率と高校削減率の相関がみられた都道府県

愛知・広島・埼玉・東京・神奈川・奈良・新潟・鹿児島・岡山

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Ⅴ、その他

<論文構成> 序章:本研究の意義と課題 第 1 節 政策としての特別支援教育-問題の所在- 第 2 節 先行研究の検討 第 3 節 本研究の課題と研究方法

第 1 章:特別支援教育をめぐる歴史的理解と評価 第 1 節 世紀転換期における「特殊教育」の改革要求 第 2 節 特別支援教育に至る制度的変遷-到達点と課題- 第 3 節 地方分権と特別支援教育のゆくえ 第 2 章:特別支援学校・学級における「生徒急増化」の実態 第 1 節 後期中等教育段階での増加実態 第 2 節 義務教育段階での増加実態 第 3 節 特別支援教育に対する保護者の意識変容について 第 4 節 調査結果の考察 第 3 章:「生徒急増化」にかかわる外部要因について-学校基本調査の分析より- 第 1 節 分析結果にみる地域傾向 第 2 節 地域傾向の背景にある「生徒急増化」-仮説生成- 1.高等学校教育改革との関連性 2.就労不安による“職業的社会化”への期待

第 4 章:「生徒急増化」にかかわる地域事例の検討-神奈川県- 第 1 節 神奈川県における特別支援教育の特色および実施状況 第 2 節 高等学校再編計画と「生徒急増化」との関連性 第 3 節 質的調査による関連性の検証 1.“新しい高校”におけるインクルーシブ教育の実態 2.“新しい高校”と特別支援学校分教室・特等特別支援学校における教育環境の比較 3.調査結果の考察

第 5 章:「生徒急増化」にかかわる地域事例の検討-滋賀県- 第 1 節 滋賀県における特別支援教育の特色および実施状況 第 2 節 “職業的社会化”と「生徒急増化」との関連性 第 3 節 質的調査による関連性の検証 第 6 章:「生徒急増化」にかかわる地域事例の比較検討 第 1 節 質的調査結果のまとめ-神奈川県・滋賀県の比較検討- 第 2 節 政策環境の相違点-教育環境整備・教育課程整備の責任- 第 3 節 「生徒急増化」問題-解決への指針- 終章:J モデル実現に向けて-今後の方向性について-

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 28 日

研究課題名 中学校理科及び高等学校生物における生物の保全教育の変遷

申請者 所属・学年教育学専攻・ 博士課程 3 年

名 加藤美由紀

指導教員 所 属 教育学 氏

名 田部俊充教授

研究実績及び成果

これまでの研究により、中学校理科第 2 分野と高等学校生物の教科書に見られる生物の保護に

関する記述は、利用する生物の保護・保全から生態系の保全、生物多様性保全へと変遷が見られ

ることを示し、種の多様性と生態系の多様性を重視する 1970 年代の自然保護教育から、種の多

様性と生態系の多様性に加えて遺伝子の多様性を重視する 1990 年以降の生物多様性保全教育へ

と移行してきたことを明らかにした。中学校理科第 2 分野教科書にみられる生物の保護の変遷に

ついては、中学校理科教科書 100 冊を調査し、環境教育 vol.20-2 に発表した。ひき続き、高等学

校生物教科書 90 冊について調査を行い、高等学校生物教科書にみられる生物の保護の変遷につい

て、2011 年 11 月に発行された生物教育 vol52(3)に掲載された。これらの報告に関しては、自然

保護から生物多様性保全へと変遷したことに加えて、生物多様性国家戦略に挙げられている生物

多様性の 3 つの危機の構造について中学校高等学校教科書にどのように記載されているかについ

て調査を行っている。 教科書の記述が、自然保護から生物多様性保全へと変化したことに伴い、生物を保全するとい

う概念についてハンス・ヨナスの概念を中心に整理し、生物の種が進化してきた時間軸と、分化

した種が相互作用によって築き上げた生態系の空間軸をなるべく損なわないように共存するとい

う保全の概念を整理した。そして、生物多様性保全教育に着目し、生物多様性の 3 つの要素であ

る生態系の多様性と種の多様性と遺伝子の多様性に関して中学校高等学校教科書にどのように記

述されているかについて調査を行った。中学校理科第 2 分野教科書 150 冊には、生物多様性とい

う語は見られなかったが、平成 10 年学習指導要領版教科書 2 冊に生物多様性保全につながる記述

がみられた。また、高等学校生物教科書 103 冊のうち、生物多様性という語が登場したのは平成

16 年発行の教科書であったが、昭和 48 年発行の教科書から生物多様性の概念が見られた。ここ

で、この3つの生物多様性が、高等学校教科書のどの章に記載されているかについて着目したと

ころ、遺伝子の多様性と種の多様性については集団遺伝学につながる分類と進化の章に記載され、

種の多様性と生態系の多様性については個体群生態学や群集生態学につながる生物の集団の章に

記載されていること、また、生物多様性保全については、生物の集団の章の 終頁に記載されて

いることを明らかにした。このように、3 つの生物多様性から成る生物多様性という1まとまり

の概念が、別々の章で学習されていることで概念と概念をもとにした保全方法がつながりにくい

ことが考えられる。特に、遺伝子の多様性については、初めて学習する生徒にとっては、別々の

章で説明されている概念をもとに生物多様性保全について考察しにくいことから、教師が意識し

て生物多様性の概念と保全方法をつなげて説明する必要性が示唆された。 後に、この生物多様性を保全するための学習項目として、生物多様性の概念と保全方法につ

いて考察するために、アメリカ合衆国保全生物学会の保全教育委員会から推奨された保全リテラ

シーガイドラインの項目と日本の中学校理科第 2 分野高校生物教科書との照応を確認した。その

結果、生物多様性保全方法については、中学校理科第 2 分野教科書高校生物教科書ともに体系化

されていないことが示されたため、2012 年 1 月の日本生物教育学会で発表した。 また、これらの生物の保全に関する教育への変遷について、自然保護教育による生態系の概念

の定着に加えて、進化の時間軸を意識させる生物多様性保全教育について整理し、中学校と高等

学校の連携を意識した生物多様性保全教育について博士論文にまとめた。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 教師の成長研究-授業リフレクション研究を基盤とした質的研究-

申請者 所属・学年人間社会研究科

博士課程後期 2年 氏

名 芥川 元喜

指導教員 所 属 人間社会研究科 氏

名 澤本 和子

研究実績及び成果

(1)研究の目的

「授業リフレクション研究(A Study of a Self-Reflective Method for Teachers)」(1995)は、

澤本和子を中心に様々な実践が行われている。臨時採用教師の成長研究(2003)、初任者教師の成

長研究と筆者自身も関わり、授業リフレクション研究を実践してきた。しかし、教師は、経験年

数を重ねると校務負担が増加し、自己の授業を発話プロトコルでおこし、自己リフレクションを

行ったり、メンター(mentor)と対話リフレクション(dialectical reflection)を行ったりする時

間が持てなくなってきている現実がある。これでは実践のやりっ放しが増加し、研究や研究会で

知識として学ぶことはできても、自らの実践を客観的に振り返るということができない。

そこで、なんとか教師が、時間のないなかで自己の実践を授業リフレクションする方法はない

ものか検討を続け、研究を行ってきたのが本研究である。

大学生が分析を行った自己の授業について、大学生と対話するなかでリフレクションすること

ができるのではないかと考え、取り組んだ。また、大学生が行った授業分析記録から自己の授業

をリフレクションし、見つめなおすことができないかと考えた。もし、こうした授業リフレクシ

ョンが可能であれば、これまでのように時間を要することもなく、自己のリフレクションが可能

になるだろう。そして、大学生の授業研究指導に協力しながら自分の実践を振り返る、リフレク

ションする手法を開発した。

そして、この開発研究については、第27回日本教育工学会全国大会において、発表を行い

(3a-109-01)、様々な意見を頂き、新たな知見を得ることができた。

(2)方法

大学生が授業を撮影記録し、発話プロトコルをおこし、授業分析を行う。また、この授業で扱

った教材についても教材研究を行う。この分析作業中には授業者である教師(芥川)は参加せず、

大学の授業時間に大学教員(澤本)が指導を行う。授業分析を終了後、大学生と授業者で大学生

の質問に答える形で対話を行う。そして、その大学生との対話を授業者がリフレクションし、自

己の実践としての変化や意識の変容があったのかを検討する。また、この変化や意識の変容につ

いてのデータについてより精度を高めるために、メンター(大学教員・澤本)と授業者による対

話リフレクションを行い、さらに検討を行った。

(3)考察

授業者は、メンターとの対話リフレクションのなかで変容のあったことを明らかにしている発

言がある。

【授業者】

(メンターとの対話リフレクションより)

・今年3月の大学生とのインタビューをリフレクションしても、あの当時の自己の発言に違和

感を持つ。

・物語文で問題作りをしたことや、オープンエンドの形式にした場面など、今の自分が「おか

しい」と感じる場面さえあった。

・「今の自分ならこうするだろう」という明確なものさえ持った場面もあった。

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授業実践から1年が経つが、この僅かな時間のなかでも教師として変容し、教材観などが変容

していることが明らかになった。このように考えると、大学生という第三者による授業分析から

の授業リフレクションも可能であると考える。

(4)成果と課題

1)成果 新しい授業リフレクション研究の開発

大学生が授業研究に校内に入ることは多くある。教師は大学生に授業を提供する、大学生に指

導するという意識が強いはずである。しかし、今回の大学生の授業分析を軸に授業リフレクショ

ンをして、授業を提供している教師自身も学ぶことができると考える。このように考えると、教

師と大学生との共同研究のなかから、教師も授業リフレクションができる新しい形での「授業リ

フレクション研究」を提案できたと考える。

ただ、そのためには大学生の分析も大学教員の指導のもと、ある程度の精度の高さも求められ

ると考える。本授業を分析した大学生は、大学教員の指導のもと(2010年度・人間社会学部・

授業研究論)で、本授業で扱った教材についての教材研究を教員同等レベルに丁寧に行っていた。

こうしたことが、教師と共同に対話をし、リフレクションできるデータづくりの要因になったと

考える。

2)課題

工学会の全国大会発表の際にも話題になったが、大学生が教育現場に入る意義や、成果の一般

化を図るために、さらなるデータの精査が必要である。小学校教員でも本研究の対象は中堅教師

であったが、初任教師や熟練教師への成果など、さらなる工夫や取り組みが必要である。また、

教師のリフレクションの方法も、今回のように様々な方法でできないか、考察中である。こうし

た視点を持ちつつ、今後も継続して授業リフレクション研究に取り組みたい。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 感化院から児童自立支援施設に至る施設における子育ち・子育て ─「教護理論」の検証─

申請者 所属・学年 教育学専攻・D2 氏

名 武 千 晴

指導教員 所 属 教育学専攻 氏

名 岩木 秀夫

研究実績及び成果

申請書に記した、①研究目的、方法、内容と、②2011 年度の研究計画は以下の通りであった。

① 博士課程では「教護理論」の検証を行うことを 終的な目的とする。

1.に書いた通り、これまでの研究は、文献研究を中心とした「教護理論」の捉え直しにその

主軸が置かれていた。今後は理念としての「教護理論」が、実際はどのように実践されて来たの

か、それを明らかにすることを目的とし、実証研究へと移行して行きたいと考えている。 ② その為に、本年度は調査研究を主体とした研究活動を行う。

具体的には、(a) 2006 年度に行った悉皆調査の分析と検証を行い、報告書を作成し、調査協力

者へフィードバックすること、次に、(b) これまで継続してきた聞き取り調査及び参与観察を強

化し、データ化することを計画している。 まず、②についての実績及び成果を報告する。 (a) 2006 年度に行った悉皆調査の分析と検証を行い、報告書を作成し、調査協力者へフィード

バックすること → 悉皆調査の報告書は 3 月 20 日に発行された。報告書は随時研究協力者(児童自立支援施設、

以下施設)職員、及び元施設職員へ郵送しており、現在 4/5 程度の発送が済んでいる。 また、報告書の発送と同時に施設資料を譲って欲しい旨、お願いをした所、多くの施設が

ご協力下さった。資料は随時返送されており、現在はの受け取り・整理を行っている。 報告書の発送に伴い、また新たな人脈(研究フィールド)が構築されつつあることも大き

な成果であった。

(b) これまで継続してきた聞き取り調査及び参与観察を強化し、データ化することを計画して

いる。 → 2011 年度は、予算の都合もあり、遠方の施設、また、新たな施設への調査及び参与観察は

難しい状況であった。しかし、関東地方の施設職員を中心に、継続したヒアリング、勉強会

への参加、施設訪問、施設行事への参加等を行い、今後の調査研究フィールドの開拓、調査

協力者への理解に努めた。 また、過去に行ったインタビュー調査及び参与観察のデータ化については、(a)の報告書の

作成を優先したため、着手していたが、思ったように進まなかった。2012 来年度以降の課

題としたい。 その他、2011 年度は国際犯罪学会、日本司法福祉学会、日本教育社会学会に参加し、特に日本

教育社会学会においては、(a)で述べた調査結果の一部を口頭発表の場にて報告した。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012年3月31日

研究課題名 日本女子大学校における米国リベラル・アーツの影響 -成瀬仁蔵の目指したもの―

申請者 所属・学年人間社会研究科・教育学

専攻・博士課程後期 2 年 氏

名 長野な が の

和子か ず こ

指導教員 所 属 人間社会研究科

名 片桐芳雄教授

研究実績及び成果

①先行研究の検討

○A明治・大正期の女子教育についての先行研究を幅広く詳細に検討

○B成瀬仁蔵の教育観について先行研究を検討

○c米国リベラル・アーツの教育観についての先行研究を検討

②学会参加

教育史学会第55回大会(京都大学、2011年10月1~2日)において研究発

表並びに意見交換

研究発表題目:日本女子大学校における「実践倫理講義」―『日本女子大学校長成

瀬仁蔵先生述 実践倫理講話筆記』の検討から―

③論文投稿

教育史学会機関誌『日本の教育史学』へ投稿(審査中)

投稿論文題目:日本女子大学校における「実践倫理講義」―『日本女子大学校長

成瀬仁蔵先生述 実践倫理講話筆記』の検討から―

④成果の総括

○A先行研究の検討では、上記①の3つの観点から、それぞれの先行研究の切り口、

アプローチ、方法を比較検討した。

○B教育史学会第55回大会で研究発表を行った。

○c教育史学会機関誌『日本の教育史学』へ論文を投稿(審査中)した。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 日本人元「慰安婦」における一考察

申請者 所属・学年人間社会研究科 現代社会論

専攻 博士後期課程一年

名 岩元省子

指導教員 所 属 人間社会研究科 氏

名 成田龍一

研究実績及び成果

1研究業績

1. 戦後制作された映画作品(主に戦争映画)を中心として日本人「慰安婦」が描かれているも

のを映画雑誌(『近代映画』『日本映画』『映画芸術』」)に特化し、1940 年代後半から 1970 年

代後半に的を絞り、抽出した。その結果、12 作品の日本人「慰安婦」描写のある作品を発見

することができた。しかしながら、それぞれの叙述の質・量に関して研究・分析対象資料と

しては成立することが難しいと判断できた。

2. 戦後直後に発売された大衆娯楽雑誌「カストリ雑誌」による「慰安婦」描写のある記述の作

品を分析する。この雑誌に記載される作品には、元軍人による戦争体験記などが掲載されて

おり未開拓な資料として大変貴重であった。 しかし「カストリ雑誌」の希少性により十分

な冊数での分析を行うには、膨大な時間と労力が必要で現時点では研究成果を出すことが難

しいと判断できた。

3. 個別研究成果の報告を本研究科の 2つのゼミ(成田ゼミ、遠藤ゼミ)にて計 4回。

4. 静岡大学黒川みどりゼミと成田ゼミとの合同ゼミにて黒川みどり著『描かれた被差別部落―

映画のなかの自画像と他者像―』岩波書店、2011 年、の書評発表。

5. 早稲田大学文学研究科所属の学生が主体となって運営する社会史研究会において研究発表を

1 回。

6. 成田ゼミにおいて戦後日本社会における思想の通史となる代表的 3 つのテキスト(久野収・

鶴見俊輔・藤田省三『戦後日本の思想』岩波書店、2010 年(初版 1959 年)、『思想』8 No.1048、

岩波書店、2011 年。『江藤淳 1960』中央公論社、2011 年。)の輪読発表を計 3回行った。

7. 上記以外の研究活動として学会・シンポジウムへの参加。

① 歴史学会シンポジウム (2011 年 5 月、於・青山学院大学)

② 戦争 X文学シンポジウム (2011 年 9月、於・早稲田大学)

③ 日本アジア関係史研究部会 (2011 年 10 月、於・早稲田大学)

④ ジェンダー史学会 (2011 年 12 月、於・明治大学)

⑤ 現代思想学会 (2011 年 12 月、於・早稲田大学)

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 12 日

研究課題名 戦後日本における 1930 年代(前後)像の多様な語られ方 (-戦争を「体験」した知識人の、1950 年代を中心とした諸言説を通じて-)

申請者 所属・学年

人間社会研究科 現代社会論専攻 博士課程後期 2 年次

名 山之城 有美

指導教員 所 属 人間社会研究科 現代社会論専攻

名 成田 龍一

研究実績及び成果

帝国主義時代における戦争が避けられない「危機の時代」であった1930年代前後は、近代西欧文明の弊害

を超克すべく、日本的なるものの考察が深まった時期である。その為、死と隣り合わせの精神状態のもと、自己

の生命を民族や国家の中で、どう位置付け、意義を持たせるかが切実な問題として、当時の諸思想に反映されて

いる。かつての危機の時代には、国家の本質として「国家生命」が想定されることで滅私奉公の哲学が合理化し

てしまい、民族や国家のもとに個人の生命の犠牲が正当化されてしまう状況が起こっていた。本研究においては、

「近代」と直接的に対峙する「危機の時代」が、戦後日本において、どの様なスタンスで語られているのかを考

察することを目的とした。その際には、物心ついた頃に戦争を「体験」した世代が、戦後においてその「経験」

をどの様に語っているのかに着眼し、特に1950年代を中心に扱うことを検討した。全体主義に抗して成立し

てきたとされる戦後の思想の多様性を具体的に追うことで、本質的には、広い意味で「近代」像の考察を試みる

こととする。様々なジャンルの思想を通じて、様々な学問の方法論を知ることで、今後、広い意味での諸学問の

橋渡しとして貢献してゆければとも考えている。

方法としては、日本の言説空間を代表する月刊誌『思想』(岩波書店)に戦後に掲載された論文の中で、直接的

または間接的に1930年代像を語っているとされるものを選び、誰が、何を通じて、どの様に語っているかを、

発見しつつ分析することとした。語られている実質的テーマを分析した上で、戦後の社会状況との相関関係を解

釈し、 終的に現在から見た考察を心がけた。本研究は、今後さらに、研究対象を戦後約70年間に広げると、「戦

後における1930年代像の語られ方の変容」を考察することも可能となる見込みである。

今年度は、月刊誌『思想』(岩波書店)に戦後掲載された論文の中でも、特に、「1930年代に活躍した思想

家(西田幾多郎、和辻哲郎、三木清、田辺元、九鬼周造、折口信夫、柳田国男など)の思想が、戦後においてど

う語られてきたのか」をテーマに、論文を資料として研究を行った。その際に、1930年代前後の思想のキー

ワードである、「全体・永遠」と「個・瞬間」などの本来は対立する概念の調和のさせ方について、戦後約70年

間、社会状況の変化と共に、(「生命」の捉え方の軌跡として)どの様に語られ直されてきたのかの大まかな特徴

を掴む事が出来た。今後は、「1930年代に活躍した思想家」以外のカテゴリー(心理、教育、国家権力、法、

マスコミなど)での語られ方も発掘しつつ、研究を進めてゆく予定である。

研究報告は、以下、いずれも、早稲田大学で行った。まず、「「自己存在」をめぐる危機意識へのアイデンティ

ティーの相対的変容 ―1930年代前後の日本の諸言説に対して、戦後の人々がどのような距離感を形成して

きたのかを通じて―」の構想発表である。そして、「尾崎秀実「東亜協同体」の理念とその成立の客観的基礎」、「検

事訊問調書」、(『アジア主義』所収)」の研究発表である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 4 日

研究課題名 大学生の人格形成過程の心理学的特徴をめぐって‐自己実現を目指す学生支援の模索‐

申請者 所属・学年 心理学専攻 D2 氏

名 中山 あゆみ

指導教員 所 属 心理学科 氏

名 鵜養 美昭 先生

研究実績及び成果

社会状況の変化の中、大学へ入学する学生は多様化し、その様々なニーズに対応した学生支援

の取り組みが活況を呈している。筆者が取り上げてきた課題は、一定のコミュニティにおける青

年の人格形成過程であり、その心理学的特徴の検討によって、青年の訴える問題の意味を広く理

解することである。青年期の発達課題とその獲得に資する学生支援について、問題意識を明確化

し、個々の青年の臨床支援に有用な知見を集積していきたい。その第一段階として 2011 年度は、

本研究の位置付けや今後の方向性を探るため、学校心理臨床におけるグループワークの取り組み

を先行研究等で調べ、その内容をまとめた(2011 年度心理相談室紀要第 10 巻)。その結果、厳格

な定義やマニュアルに基づいたグループワーク実施の難しさが明らかとなった。

また筆者は生活ぐるみの学生支援の可能性を持つ大学寮での学生支援に着目し、寮生支援につ

いて検討を重ねてきた。修士論文(2010 年度修士論文「寮生の体験過程の心理的特徴をめぐって

‐自己実現を目指すY女子大学の寮生支援の模索‐」)では寮生の体験過程についての研究を行っ

た結果、対象とした寮(本学楓寮)での生活は自己理解や自己実現という青年期の発達課題獲得

に影響を及ぼしており、学生支援に果たす有機的な機能が明らかとなった。しかしその一方で、

固定的・閉鎖的な対人関係から不適応状態になる寮生の存在も明らかとなり、このような問題点

に対応した新たな支援策(グループワークの導入、寮外の上位システムからの介入など)を模索

した。 この知見を踏まえ 2010 年 3 月には、新たな寮生支援の試みとして「コミュニケーションスキル・

ワークショップ」を実施した(日本女子大学大学院人間社会研究科紀要 17,131‐141,「大学寮に

おけるコミュニケーションスキル・ワークショップの試み‐今後の寮生支援の方向性:研究ノー

ト‐」)。本ワークショップは、小講義とグループワークを活用した体験学習とで構成された。

参加者に対する質問紙調査の結果より、今回の試みの短期的な効果として、1.「安心できる肯定

的な人間関係の体験」、2. 「自分や相手の気持ちへの気づき」、3. 「グループワークの知識・

技術の習得と実践」があげられた。中長期的な効果としては 4.「寮内の対人関係の改善」、や 5.

「学内の関連部署への橋渡し」などが予測された。この寮生支援プログラムは、第二回(2011 年

1 月)、第三回(2012 年 1月)と継続して実施しており、それぞれの事後調査の結果から、次年度

に向けてプログラム内容の再検討を行っている。

具体的には、当初 3 月に実施していたワークショップを、第二回からは 1 月末に変更した。こ

れは、参加状況や事後アンケートの結果から、新入寮生を迎える直前である 3 月は、寮生の心理

的負担が大きく、またプログラムの内容を個々の寮生の中で吟味する時間が十分でないことが示

唆されたためである。また第三回からは、それまでカウンセリングセンター長鵜養教授と筆者の

2 名で行っていた実施者を拡大し、新たに院生 5 名を加えた。これによって小グループセッショ

ンが可能となった。また三回のプログラム実施を通して、時間帯や参加人数、場所や食事等の状

況が、事前に把握しきれない部分があり、これは前述した厳格なグループワーク実施の難しさに

もつながるものである。コミュニティに根付くことを第一に考えたプログラムの実施が、そのコ

ミュニティの活性化に繋がると筆者は考えている。

この寮生支援プログラムは導入段階である。今後もワークショップとその効果検証をくり返し

実施し、寮生のニーズに応じた支援体制の構築と効果の検証を進め、大学、寮といったコミュニ

ティ全体で把握できるような支援体制を提案していきたい。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 5 日

研究課題名 韓国と日本における、女性のアイデンティティの生涯発達の比較研究

申請者 所属・学年人間社会研究科

心理学専攻・D2 年 氏

名 盧 回男 印

指導教員 所 属 心理学科 氏

名 岩立 志津夫 印

研究実績及び成果

1.「ライフキャリア志向性に影響を及ぼす家族環境と個人特性要因の検討-日韓比較を通して」 →原著論文として日本キャリア教育学会に投稿した結果、修正再審査であったため、現在修正

中である。 2.研究 1.青年期のアイデンティティ発達及びライフキャリア志向性について日韓比較 →①日本での調査実施について-配布質問紙を完成し③「ライフキャリア志向性尺度」の完成を

待っている(実施期間調整中)。 ※実施期間調整中の理由:

・③「ライフキャリア志向性尺度」の再構成が必要であったため ・基礎作業(資料・情報収集、予備調査など)を慎重に充分進めていく必要があったため ・調査に必要な研究費の不足のため

②韓国での実施について-日本の質問紙の韓国語への翻訳を検討している。 ③「ライフキャリア志向性尺度」の再構成について-尺度の一般化を目標に現在質問紙調査を

実施している。 3.研究 2.女子青年におけるライフスタイルについての探索的研究 本年度は、ライフスタイルとアイデンティティとの関係,ライフキャリア志向性との関係を

検証のための準備を整えることを目的とした。 →女子青年のライフスタイルのタイプ分けのための予備調査は終了した。

それを参考に作成した選択肢を研究 1 の質問紙調査へ追加した。 日本女子大学生のライフスタイルの偏りについての質問紙調査を計画中である。

予備調査を基に、女子の将来展望(ライフスタイル・ライフキャリアを含む)について縦断的面

接を引き続く予定である。 実際社会で活躍しているキャリアウーマンを対象にしたキャリア意識調査進行中である。

私は、女性のアイデンティティの発達という視点から,①親の娘への影響,②幼児期から青年

期,成人期にいたる時期での自律性の発達,③成人期のアイデンティティの発達での家庭の役割,

についての研究を長期的に計画し、複数同時進行させている。 そのため、今年度は全ての調査の結果まで求めることは困難であった。 来年度は一部の分析可能な結果を求めることができると思うので学会発表なども行っていく予

定である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 16 日

研究課題名 女性の離職と復職をめぐる葛藤についての検討

申請者 所属・学年人間社会学研究科 心理学

専攻 博士課程後期 2 年 氏

名 柳生 奈遠子

指導教員 所 属 人間社会学研究科

心理学専攻 氏

名 鵜養 美昭

研究実績及び成果

1970年代以降,人々のライフスタイルが多様化している。特に女性の選択の幅は広がった。し

かし,社会には女性の新しい生き方や価値観に添う受け皿が十分に用意されていない(岡本,

1994)。後藤・廣岡(2003)の研究でも,女性が,実際に持つ価値基準と期待される価値基準が異

なるために葛藤を感じていることが示された。つまり現代女性は伝統的性役割感に縛られた中で

“主体的”な選択をするという矛盾を抱えている。そこにはいずれの選択をしても葛藤を感じる

可能性が高いという現代女性のあり方の難しさがあるのではないか。

母親になるという選択においても同様のことが言える。平山(1998)は,女性にとって母親に

なることは選択肢の一つとなり,母親としてだけでなく,個人としての生き方・生活を求めてい

ると指摘する。この平山の指摘を裏付けるように,既婚女性の就業率は近年増加傾向にある。一

方で,既婚女性の就業率の増加は深刻化する少子化の一要因として挙げられており,女性が働き

ながら出産・育児をするというライフコースをとりにくい現代社会の職場環境・育児支援の問題

点を浮き彫りにしている。

以上の問題意識を元に,筆者は修士論文において,個々人にとっての母親になる体験を整理し

ながら,ライフコースが個別化・複雑化したことでおこる問題点について検討した。そこで多く

の対象者が語った,閉塞感に焦点を当てその後の研究を行なうこととした。

研究調査ではポスト子育て期にさしかかる40代女性を対象にインタビューを行った。語りの中

では,夫や子供という周囲の重要な他者により環境・状況が変わっていったが,その変化に対し

家族を中心に考えながら,趣味の世界を広げたり,家事・育児に専念したり,仕事を持ち始めた

りと自分らしい生き方を選択している様子が見て取れた。この結果は,修士論文の対象者が語っ

た「自分のことができないことへの不満」とは違う結果であった。

また,平行して女性のキャリア形成や自己実現に関する研究についてレビュー調査を行った。

女性研究が盛んに行われ始めた1980年代では,男性と同じように働きキャリアアップを目指すこ

とが理想とされ,その視点から女性が仕事をしていく際の問題点や葛藤が論じられていた。しか

し,徐々に女性らしく柔軟に環境の変化に対応しながら働くことの重要性が見いだされていった

ようである。

この社会変化にも関わらず,修士論文の対象者と当研究の対象者の語りに違いが現れたことに

注目しさらに検討を行った。検討を行なう過程で,前研究と当研究の対象者の出身大学の違い,

自己形成背景の違いが指摘されたため,より詳細に修論対象者と当研究での対象者との比較をし

た。結果,修論対象者の場合は専門学生として学んでおり,仕事につくことに高い価値を置き,

大学で職業人としての自己を育てていた。他方,当研究の対象者は,大学4年間のうちに自己の再

検討をおこない,職業や役割に依らない自己を育むことができていたと考えられる。当研究の対

象者は確固たる自己を持っていたが故に,どのような状況/役割にも柔軟に対応できたのであろ

う。

このようなアイデンティティ形成の違いによって,母親となった女性の語りに差が現れうると

いう今回の結果は,質問紙等で表面に現れる葛藤や問題を扱ってきた研究や,母親と個のアイデ

ンティティを対立する物として論じてきた従来の母親研究では見られなかったものである。今後

は自己実現につながるアイデンティティ形成の過程をつぶさに調査することが必要であろう。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012年 4月17日

研究課題名 学習課題を用いたラットの環境エンリッチメント評価とその評価方法の開発

申請者 所属・学年 心理学科 D2 氏

名 安江 みゆき

指導教員 所 属 心理学科 氏

名 小山 高正

研究実績及び成果

これまでの研究によって、ラットを用いた環境エンリッチメント研究では、実験室内での飼育

環境と、野外での飼育環境のそれぞれに利点があることがわかった。本研究は、実験室内で行わ

れる学習課題は、管理された実験室内で飼育されたラットを用いることが実験環境への適応や動

機づけという点で合理的であることがわかったことをふまえ、実験室内でラットにエンリッチメ

ント環境を経験させ、のちに学習課題を与えて統制群と比較することにより、生育環境が学習課

題に与える効果をみる、一連の研究である。学習課題には、これまでに評価課題として筆者がそ

の評価方法を検討してきたシドマン型回避学習課題、放射状迷路課題のほか、オープンフィール

ドを用いた行動量試験などでテストバッテリーを組み、総合的評価を行う。

本年度は、まず実験室内でのラットのエンリッチメント環境を作成し、そこでラットを飼育・

繁殖して行動観察をおこなった。作成するエンリッチメント環境は、空間や形状、遊具などの物

理的環境と、社会的環境を組み合わせ、ラット本来の行動が引き出されるように特に餌の与え方

に工夫をしたものを、飼育室内に制作した。制作にあたっては、エンリッチメント環境で動物飼

育をてがけている横浜動物園を見学し、環境エンリッチメントに関する情報を集めた。エンリッ

チメント、通常飼育のそれぞれの環境で繁殖させたラットを用い、シドマン型回避学習課題、放

射状迷路課題、オープンフィールド内行動量試験などを与え、その結果を比較することで室内の

環境エンリッチメントを評価する過程で、本年度は離乳期に行動試験を行った。現在、データの

解析中である。この結果は、日本心理学会第 76 回大会で発表予定である。

また、シドマン型回避学習の反応タイプが個体特有のものであるのか、訓練によって変化して

いくのかを、過去のデータを再分析して明らかにし、Animal2011 においてポスター発表「ラッ

トのシドマン型回避学習課題における学習プロセス」、日本心理学会第 75 回大会においてポスタ

ー発表「ラットにおける放射状迷路の学習戦略」、を行った。また、「ラットを用いた環境エンリ

ッチメント評価研究の意義」を日本女子大学大学院人間社会科紀要第 18 号に投稿し、2012 年 3

月に刊行された。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 1 日

研究課題名 妊娠期から産後 1 年半にわたる、経産婦と初産婦の養護性と育児不安に関する縦断的な変化

申請者 所属・学年人間社会研究科 心理学専攻

博士課程後期 1 年 氏

名 井上 真由美

指導教員 所 属 人間社会学部 心理学科 氏

名 岩立 志津夫

研究実績及び成果

【方法】修士論文の研究で調査協力を求めていた 147 名の妊婦に、引き続き、産後 1 年半まで郵送による質問紙での調査協力

を求めた。質問紙は、家族構成や就業状況などが書かれたフェイスシート 1 枚と、養護性、母性理念、母性不安、抑うつ、育児

動機、対児感情に関する尺度、A4 用紙で 6 枚であった。産後半年の際はこれにエジンバラ産後うつ病質問紙 A41 枚を加えて構

成した。全て記名自記式、5 段階評定である。調査協力者には、妊娠初期、または中期から、後期、産後 1 週間、半年、1 年半

の 6 回もしくは 5 回質問紙による調査協力を求めた。現在 59 名の調査協力者が産後 1 年半までの調査を終えている。調査協力

者全員が産後 1 年半までの調査を終えるのは、現段階では 2013 年 10 月の予定である。

【結果】 妊娠初期から産後約 1 週間までの 4 回分の回答が得られた 37 名の妊婦のデータで、出産経験(2)×時期(4)による 2

要因分散分析を行った。養護性や母性に関する尺度では、ほぼ主効果や交互作用が認められる結果とはならなかった。抑うつに

関する尺度では主効果や交互作用が認められる結果がでたので、抑うつに関する尺度に重点を置き、分析を続けた。①出産場所、

②流産経験という要因で、①時期(4)×出産場所(助産院、病院)、②時期(4)×流産経験(有、無)による 2 要因分散分析を行った。

①出産場所 表 1 に出産経験、出産場所別の平均年齢、SDS(自己評価抑うつ尺度)得点、人数を示した。時期(4)×出産場所(2)

による 2 要因分散分析を行った結果、病院に通院していた初産婦で時期による単純効主果が認められた。多重比較の結果、妊娠初期が中期よ

り有意に SDS 得点が高かった( p<.05)。また、妊娠初期は産後1w より有意に SDS 得点が高かった( p<.05)。

②流産経験 表 2 に出産経験、流産経験別の平均年齢、SDS(自己評価抑うつ尺度)得点、人数を示した。時期(4)×流産経験(2)

による 2 要因分散分析を行った結果、流産経験のある経産婦で交互作用が認められた( p<.05) 。多重比較の結果、流産経験有の妊婦の産

後1wは、妊娠初期、中期、後期よりそれぞれ有意に SDS 得点が高かった( p<.05)。さらに、妊娠後期は中期より有意に SDS

得点が高かった( p<.05)。

【考察】花沢(1992)は「一般不安は妊娠時期による変動はほとんど見られない。妊娠、分娩、育児などに関する妊娠特有の不安は妊娠初期に高く、その後は安定する。」

と報告している。「抑うつ状態の割合は初産婦の方が経産婦より多い」という多くの先行研究もある。

妊娠初期は流産の危惧、つわりが もつらい時期であるため、ストレスが高くなった。妊娠中期は安定期に入り。流産の可能性が下がり。心身ともに安定してくる時期

である。そのためストレスが下がったと考えられる。妊娠後期は出産が現実的になってくる。初産婦には未知の体験で不安やストレスが募り、経産婦は入院中の上の子ど

ものことが気がかりとなってくる時期である。さらに胎児の成長が著しく、腹部が急に多きくなり、妊婦の運動が制限されてくる時期でもある。そのため。ストレスが上

がったと考えられる。産後直後は新生児に合わせた不規則な睡眠などで少しストレスが上がったと考えられる。

西脇・神林・箆伊ら(2002)も「妊娠初期は内分泌環境の変化が著しい時期、中期は適応、後期は腹部増大が著明であり、分娩を予想する時期」と述べていた。大西・吾

妻(2007)は「出産に対する不安には身体症状(切迫早産、めまい)が影響を与えていた。」と述べていた。以上のことから、妊娠中に不安を感じることは単純に「心理的変化」

に作用されるのではなく、「身体的変化」にも大きく作用されることがわかる。

【今後の予定】今後は引き続きデータを集め、妊娠・出産の時期(妊娠初期・中期・後期・産後 1 週間・半年・1 年半)と出産経

験(経産婦・初産婦)による差を検討していく。また、周囲のサポートの有無、妊娠中の悪阻などの症状の重さなど、どのような

要因が影響するのかを検討する。

初期 中期 後期 1w初産婦 助産院 平均 29.73 2.62 2.36 2.30 2.36

SD 2.69 0.53 0.33 0.28 0.40病院 平均 28.00 2.82 2.44 2.68 2.41

SD 4.64 0.40 0.46 0.28 0.38経産婦 助産院 平均 34.40 2.48 2.29 2.41 2.41

SD 3.60 0.49 0.51 0.52 0.47病院 平均 30.00 2.35 2.20 2.35 1.80

SD 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00全員 助産院 平均 32.74 2.53 2.31 2.37 2.39

SD 3.97 0.51 0.46 0.45 0.45病院 平均 28.33 2.74 2.40 2.63 2.31

SD 4.23 0.41 0.43 0.29 0.426

31

11

5

20

1

表1 出産経験、出産場所別の平均年齢、SDS得点、人数

年齢時期

人数初期 中期 後期 1w

初産婦 無 平均 29.77 2.68 2.33 2.41 2.37SD 3.11 0.45 0.34 0.25 0.37

有 平均 26.67 2.70 2.63 2.47 2.43SD 3.79 0.67 0.41 0.56 0.49

経産婦 無 平均 34.06 2.54 2.36 2.45 2.35SD 3.94 0.50 0.52 0.54 0.52

有 平均 34.75 2.18 1.98 2.25 2.51SD 2.22 0.16 0.16 0.28 0.11

全員 無 平均 32.20 2.60 2.34 2.43 2.36SD 4.16 0.49 0.45 0.44 0.46

有 平均 2.48 2.40 2.26 2.34 2.48SD 5.09 0.52 0.44 0.43 0.33

30

7

表2 出産経験、流産経験別の平均年齢、SDS得点、人数

年齢時期

人数

13

3

17

4

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 年 月 日

研究課題名 課題解決に適した学生グループの構成要素について

申請者 所属・学年人間社会研究科心理学専攻

博士課程後期 1 年 氏

名 小川 友季

指導教員 所 属 心理学科 氏

名 鵜養 美昭 教授

研究実績及び成果

<論文発表> 修士論文の成果を学会誌にて発表準備段階。 <調査研究状況> 学生グループの課題解決をより効率的に行うために必要な要素をさらに詳細に検討するため、

以下の実験調査を行った。

方法

まず修士論文において明らかになった、課題解決に も適したグループメンバーの構成に基づ

いて、5 人 1 組のグループを 6 個作成し、各グループに課題解決のグループワークを実施した。

グループワークの実施中は、実験者及び研究協力者が参与観察をした。グループワーク終了後、

各被験者に自記式の振り返りシートを記入してもらい、後日、課題解決の結果および振り返りシ

ートの内容を、研究協力者と共に検討した。

結果

各グループの課題解決の結果および、各被験者が回答した振り返りシートの結果は分析の途中

である。今回は課題解決の結果と、各グループのグループメンバーの役割認識の一致率に焦点を

当てていく予定である。概ね、役割認識が一致しているほど、課題解決の結果は良いということ

が今のところ明らかとなった。 前回の実験の際に実施した自記式の振り返りシートとは異なり、新たに「これまでどんなグル

ープ活動の経験があるか」また「これまでのグループ活動ではどのような役割をとることが多か

ったか」という項目も足した。この結果、これまでのグループ活動で「リーダー」の役割をとる

ことが多かった、と答えた被験者は、同じグループの他のグループメンバーよりもグループ活動

に対する満足度が低いことが明らかとなった。

今後の予定

引き続き、各グループの課題解決の結果と、各グループの相互役割認識の程度を比較検討して

いく。そして、グループで作業する際にグループメンバーにとって重要なこと、またグループを

編成する側にとって重要なことを明らかにし、まとめていく予定である。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 7 日

研究課題名 対人関係訓練による集団変容の可能性

― 集団成熟度と対人関係訓練との関連 ―

申請者 所属・学年 心理学専攻 博士課程後期 1 年 氏

名 柴田 菜生

指導教員 所 属 心理学専攻 氏

名 鵜養 美昭

研究実績及び成果

集団研究が実施されている領域では主に効率主義を基底としているため学習効率・利潤追求等

の目標を掲げた研究が多い。けれども、それらとは異なった集団研究におけるニーズがあること

もまた事実で、臨床実践的な集団との関わりの中で集団の病理の治療、集団の成熟(発達)など

の観点から集団を査定し、関わり、集団変容促進に関わる臨床心理業務に役立つツールが求めら

れている。グループダイナミックスの研究は主に実験的に行われており、臨床的な観点からの集

団査定をテーマとした研究は少ない。そこでより現実に近い状態の集団に対して実験的に検討さ

れた手法を用いた場合、集団の特性や状況を表すのにそれらの手法が集団を分析する上でどれほ

どの効果を発揮するのかを検討した。その結果、現実に近い形の集団討議においても実験的分析

ツールが発話分類に有効であると導き出されたことから、これらの分析ツールを用いて集団臨床

心理業務に必要な査定方法、介入方法、介入効果測定などの精度を高める研究を実施している。

前回の実験調査では実験的分析ツールの検討と並行して、集団の成熟度についても検討した。

集団の成熟度とは『問題の発見から解決行動および振り返りに至るまでの自律の程度』と定義さ

れている。すなわち集団を構成している人員にとって、より有益な集団へと変容促進を促すこと

の目標の1つとして集団の成熟度を高めることがあげられるのである。こういった集団の成熟度

は対人関係訓練の有無、回数、および内容によって変化することが前回の調査で示唆されたこと

から、集団の成熟度における対人関係訓練の影響について、より細分化した実験調査を実施した。

実験 A:対人関係訓練の有無・強弱による集団成熟度の影響について

親和性の均一な小集団を、対人関係訓練なしグループ・対人関係訓練弱レベルグループ・対人

関係訓練強レベルグループの 3 つに分類した。各グループに集団意思決定課題に取り組んでもら

い、その際の集団討議の様子および発話を先の実験で用いた分析ツールを用いて分析。それらを

もとに対人関係訓練の強弱による集団の成熟度を検討することとした。結果については、現在分

析中。

実験 B:対人関係訓練の有無に関する縦断的実験調査

ゼミ活動を共有しているメンバーで構成された集団の活動を縦断的に記録し、年次毎に集団意

思決定課題を実施した。実験課題実施後集団構成員に対し、課題について・対人関係訓練および

ゼミ活動について個別聴き取り調査を実施。集団成熟度により強く影響を与えたと考えられる対

人関係訓練の選定基盤とする。 1回目集団意思決定課題

学科カリキュラムでは対人関係に関する論理学習が中心で体験学習未経験者と経験者が混在し

ている状態。ゼミ課外活動はゼミコミュニティ運営、および社会貢献活動(こころの教育相談員、

子育て支援、学生ボランティア等)を実際に体験し始めた段階。 2回目集団意思決定課題

学科カリキュラムにて論理的学習を経て体験学習的対人関係訓練を実施。さまざまなゼミ課外

活動(ゼミコミュニティ運営、社会貢献活動(こころの教育相談員、子育て支援、学生ボランテ

ィア等)、学内行事企画運営参加等)を経次的に複数回実施した段階。現在、継続的に調査中。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 15 日

研究課題名 「つきまとい」の心性について

申請者 所属・学年人間社会研究科(心理学専

攻) 博士課程 1 年 氏

名 高井 彩名

指導教員 所 属 心理学科 氏

名 飯長 喜一郎

研究実績及び成果

今年度は、博士課程前期において行った研究を礎に、「つきまとい」の全容を明らかにするため、

質的研究部分を中心に研究を行なっていこうと考えていた。また、母集団を拡大し、記述式質問

紙調査および面接調査を行ない、「つきまとい」行為へのさらに詳細なプロセスの図式化、プロセ

スの多様性、あるいは今までの研究で見いだせなかった、新たな概念抽出を試みようと計画して

いた。 今年度の研究計画に入る前に、今年度行う研究の元となる前年度の研究を見直していたところ、

今年度の研究を始める前に、前年度研究時に独自に作成し使用した、「つきまとい」尺度における

再分析の必要性を見出した。 前年度の研究においては、「つきまとい」尺度の因子分析をする際、男女別で分析する必要性は

見られなかった。そのため、研究協力者全員のデータをもとに因子分析を行ない、その結果「つ

きまとい」尺度項目において3つの行動因子を見出すこととなった。しかしながらこれより先、

「つきまとい」の全容を明らかにしたり、今後さらに進展した量的研究を行ったりしていくにあ

たり、男女において「つきまとい」因子の差異が発見された場合には、予備調査段階と本調査段

階の間に存在する整合性が損なわれる可能性が出てきた。 というのも、前年度の研究において、「つきまとい」尺度項目作成のための予備質問紙調査、お

よび尺度項目選定のための予備質問紙調査において、青年期女性のみを対象に行なった。これは、

男性よりも女性の方が「つきまとい」や「ストーキング」による恐怖に対する閾値が低いと考え

たためであった。そして、その予備調査をもとに、選定された尺度項目を用い、本調査を行った。

その後は上記の通り、全協力者のデータをもとに因子分析を行ったが、今後男女における「つき

まとい」行動の有無や程度、性格特徴との関連を考察していくにあたり、もしも男女に「つきま

とい」行動における差異が仮定されたのであれば、比較条件が対等でないとして成立しなくなっ

てしまうのである。そうなれば、前年度の研究における本調査全てが無効になってしまう可能性

につながってしまうということになる。 そのため、今年度はまず、前研究のデータ分析の見直しから研究が始められることとなった。

研究において行なわれた全分析方法を丁寧に見直し、また、結果や考察の段階で不備がなかった

かなど、かなり詳細な研究の見直しを行った。結果、かなりの時間を要したものの、多少の修正

は行ったが大きな不備は見つからなかった。 よって今年度は前年度研究の再検討、修正等に費やすこととなった。なお、次の研究を行うに

あたり、よりこの研究分野の発展を目指すべく、来年度においてはまず、前年度の研究をまとめ、

雑誌に投稿を行う予定である。

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採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4月 18 日

研究課題名 職場における現代の性差観に関する研究

申請者 所属・学年 心理学専攻 D2 氏

名 松本 実祐

指導教員 所 属 心理学学科 氏

名 飯長 喜一郎

研究実績及び成果

職場における現代の性差観がどのようなものであるかについて追究した。昨今の研究を振りかえる

と、現代の性差観について様々な方向から複雑性が唱えられているものの、実態は把握できていない

と考えられたため、個人の中にある複雑な性差観がどのようなものであるかについて調べる必要があ

ると考えた。そこで、個人が社会をどのように認識しているかを把握できるレプテストとそれに基づ

く面接調査を行った。特に、公的場面の中でも代表される“職場”について考えてみると、日本で

は、サポート職に女性を優先して雇用する会社も多く、職場は性別による区別がまだ多く見られ

る領域であり、職場の持つ性差観が個人に大きく影響するとも言える。さらに、女性については、

就職活動をする時点で、結婚をしても仕事を辞めないように言われるなど、“女性”というだけで

仕事へのハンディを抱えることもある。そのように考えると、職場においては、女性のほうが性

差観についてネガティブな考えを持つことが多いと考えられる。

そのため、女性は“職業選択”をする際に、それぞれの職場に見られる性差観を考慮し職業を

選択すると思われる。そのように考えると、同じような性差観を持ったものが、同種の職場を選

択すると考えられ、職場によって性差に対する考え方・視点も異なってくると思われる。

そこで、本研究では就業女性の性差観について追究していくこととした。このような研究をす

ることで、現代日本の性差観が明らかとなり、現代でも問題となっている就業と育児の問題など

にも有用な視点を提供できると思われる。

本研究の目的としては、以下の 2 点を挙げる。

1. 働く女性が現代の性差観をどのように捉えているかを明らかにする。個人の持つ現代

性差観の複雑性を追究するためには、レプテストを用いて個人の視点に着目する必要がある

と考える。

2. また、現代女性の複雑な性差観にそれぞれの職場環境も影響していると考えられること

から、働く女性の性差観は職場によってどのように違うかを検討していくこととする。

レプテストは 21名に行われ、そのうちの 4名に詳しい面接を行った。

結果については、現在分析中であるが、大きく以下の 2 点が挙げられる。1 点目は、職場とい

う社会的場面でも伝統的にある性差観(「女性は守られるべきもの。」など)は捨てきれないとい

うことである。これは、男女平等の判断基準を場面によって分けているという先行研究の考え方

と矛盾するものである。また、2 点目は、そのような伝統的な性差観は、男性と同等に働こうと

する職種ほど目立っているということである。平等を望んでいる女性が、逆に女性であることを

利用することで活躍できる状況があるように感じられる。

これらの結果を今後さらに追究し、まとめていく。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 平成 24 年 4 月 16 日

研究課題名 西生田キャンパスにおける乳児実験室の立ち上げと知覚的体制化の 実験の実施

申請者 所属・学年人間社会研究科心理学専攻

博士課程後期 1 年 氏

名 山﨑悠加

指導教員 所 属 人間社会学部

心理学科 氏

名 金沢 創

研究実績及び成果 本研究では、日本女子大学西生田キャンパスでの乳児実験室の立ち上げと、乳児の知覚的体制化の知覚についての検討を行うことを目的とした。申請者の研究テーマは乳児を対象とした研究を行うことであるが、申請者の入学時には西生田キャンパスには乳児実験室が完備されていなかったため、構内で乳児研究を実施することは不可能であった。研究を行っていく上で、実験を行うための設備や環境を整えていくことが重要であると考え、また自身の研究を進めるフィールドを増やす必要があると考えたため、指導教員の金沢創先生のご指導の下で西生田キャンパスに乳児実験室を立ち上げることとした。 本年度は、実験室の設備を整えることを中心とした。はじめに実験ブースの組み立てと実験に使用するコンピュータ・モニタ・録画用のビデオシステムの準備実験室を行った。実験設備が整ったところで、実際に2011年4月中旬頃より保護者と乳児に大学まで来ていただき実験に参加していただいた。こちらの保護者と乳児については、2012 年 2 月下旬まで定期的に乳児実験に参加していただいた。また実験の運営にあたっては金沢研究室の院生 2 名が中心となり、金沢ゼミの学部生の有志を募り、実験スタッフとして手伝いをしていただいた。実験設備および実験の運営システムについては本年度の活動の中で完成させることができたが、実験参加者の確保についてはまだ課題が残されているため次年度にはきちんとしたシステムを構築したいと考えている。さらに次年度には本年度よりも多くの参加者を集め、実験の件数を増やしていきたいと考える。 また自身の研究テーマについては、本年度は 7-8 ヶ月児の色と形の共感覚的知覚についての実験を行った。Spector & Maurer(2011)は、読み書きを覚える前の子どもも成人も普遍的に、曲線性の図形は白色を、鋭利な図形は黒色を連想させることを示し、このような色と図形の結びつきは、「良い」・「悪い」の感情価に基づくことを示唆した。本研究では、Oyama et al.(2008)が形の象徴性を検討するために作成した図形のうち「幸福」を象徴する図形(使用図形 16 種類の中で happiness 1 位)と「恐れ」を象徴する図形(使用図形 16 種類の中で fear / destruction 2 位、anxiety / anger 3 位)を用いて、7-8 ヶ月児の色と形の共感覚的知覚について検討した。実験では選好注視法を用いた。実験は happy 条件と fear 条件と baseline 条件の 3 条件から構成された。happy 条件では灰色の背景の上に、happy 図形を描画した。画面の左右どちらかに、2 つの白色の happy 図形を配置し、もう半分には 2 つの黒色の happy 図形を配置した。fear 条件では、灰色の背景の上に fear 図形を描画した。画面の左右どちらかに、2 つの白色の fear 図形を配置し、もう半分には 2 つの黒色の fear 図形を配置した。baseline 条件では灰色の背景の上に、縞図形を描画した。画面の左右どちらかに、2 つの白色の縞図形を配置し、もう半分には 2 つの黒色の縞図形を配置した。もし乳児が Spector & Maurer(2011)が示した色と形の共感覚的知覚をするのであれば、happy 条件では baseline 条件よりも白色の図形を選好し、fear 条件では baseline 条件よりも黒色の図形を選好することが予測された。実験の結果、7-8 ヶ月児は happy 条件においても fear 条件においても baseline 条件よりも黒色の図形を選好した。これらの結果から、乳児は fear 条件でのみ Spector & Maurer(2011)が示した色と形の共感覚的知覚をすることが示唆された。 【学会発表】 山﨑悠加・金沢創・山口真美 (2011). 乳児における幾何学的錯視の知覚. 日本赤ちゃん学会 第 11 回学術集会(中部学院大学) 山﨑悠加・安 珠喜・金沢 創・山口真美 (2011). 乳児における色と形の共感覚的知覚について. 日本基礎心理学会第 30 回大会(慶応義塾大学)

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 2 月 22 日

研究課題名 イギリスにおける日本美術受容―1862 年第二回ロンドン万国博覧会から 1910 年

日英博覧会まで―

申請者 所属・学年 博士課程後期 4 年 氏

名 粂 和沙

指導教員 所 属 文化学科 氏

名 馬渕明子

研究実績及び成果

2011 年度研究実績

・論文「十九世紀末英国における産業デザインとジャポニスム―幕末明治の美術工芸の影響を中

心に―」『鹿島美術研究』28 号別冊、2011 年 11 月刊行(業績 1) ・コラム「ロイヤル・ウースター社のジャポニスム―英国の美術産業と日本」『もてなしの悦び―

ジャポニスムのうつわで愉しむお茶会』展図録、三菱一号館美術館、2011 年 6 月刊行(業績 2)・展覧会評「The Cult of Beauty: The Aesthetic Movement 1860-1900」『ジャポニスム研究』31号、2011 年 11 月刊行(業績 3) ・作家・作品解説執筆および海外における型紙所蔵リスト編集「Katagami Style」展、三菱一号

館美術館、2012 年 4 月刊行予定(業績 4) ・川崎市民アカデミー講師「ジャポニスムと陶磁の美しさ――東西美術交渉の魅惑」(第二回:イ

ギリスの日本美術コレクターとジャポニスム、第 3 回:ジャポニスムの工芸と産業デザイン、第

10 回:万国博覧会と林忠正による美術交流)(業績 5) 成果

前期は「着想の受容」として、イギリスにおいて日本の美術工芸が現地の産業デザインにどの

ようにして取り上げられたのか、代表的な産業デザイナーおよび製造業者を複数取り上げ、それ

ぞれのジャポニスムの作例、および日本の美術工芸との関連について調査・研究を行なった。こ

うした研究内容については、論文および展覧会カタログにおいてすでに報告済みである(業績 1、2 および 4)。また、川崎市の生涯学習講座において、イギリスのジャポニスムをテーマに 3 回の

講座を担当し、自らの研究を一般に向けて還元することができた(業績 5)。 6 月には、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された The Cult of Beauty: The

Aesthetic Movement 1860-1900 展にあわせたシンポジウム、Imaging Japan: Anglo-Japanese Influences on British Design を聴講し、第一線で活躍するジャポニスム研究者の研究発表の聴講

に加えて、彼らから貴重なアドヴァイスを受けることもできた。これについては、展覧会の内容

とともに『ジャポニスム研究』に報告を行なった(業績 3)。研究発表の内容はもちろん、こうし

たコネクションもまた今後の研究に活かしてゆきたい。 2012 年 1 月に、今回の助成を受けた調査では、パリ(国立図書館)、ロンドン(National Art Library, British Library, Art and Design Archive)を中心に、日本の開国後、日本の美術工芸が

どのように市場に出回っていたのか、売立目録、美術商に関する一文献、美術雑誌等の資料収集

を行なった。2012 年秋に本学の紀要および雑誌『美術史』への投稿を目標に、今回の調査内容を

まとめてゆく予定である。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 04 月 05 日

研究課題名 味覚の好き嫌いの記憶保持機構の成熟に対する雄性ホルモンの作用メカニズムの

解明

申請者 所属・学年理学研究科 物質・生物機

能科学専攻 3 年 氏

名 鈴木 惠雅

指導教員 所 属 理学研究科 氏

名 宮本 武典

研究実績及び成果

マウスに新奇の味(CS)を呈示した後、内臓不調(US)を経験させると、CS は危険な味だと認識

し忌避するようになる。この一連の学習を味覚嫌悪学習といい、この時マウスは嫌悪記憶を獲得

する。一方、US を伴わずに CS のみ摂取させ続けると、CS は安全だと再学習し、再び好むよう

になる。この学習を安全性の再学習といい、新たな記憶(安全記憶)の獲得によって、嫌悪記憶が想

起されにくい状態となる。これまで、性成熟前に去勢を行った雄マウスに雄性ホルモンであるテ

ストステロンを投与すると、安全記憶の保持が強化されることを示唆してきた。味覚嫌悪学習の

メカニズムは明らかになりつつあるが、その後の安全性の再学習に関わる脳部位やメカニズムの

分子機構については不明な点が多い。そこで、記憶保持機構の成熟に対する雄性ホルモンの作用

を解明するため、①安全記憶を貯蔵する脳部位、②テストステロンの作用部位および③作用時期

について RT-PCR 法や realtime PCR 法を用いて遺伝子レベルで検証することを 2011 年度の目

的とした。 ①貯蔵部位の検証:味覚嫌悪学習と同様の情動学習の一種である恐怖条件付けにおいて、嫌悪記

憶の中枢は扁桃体、安全記憶の中枢は前頭前野腹内側部であると提唱されている。味覚嫌悪学習

およびその後の安全性の再学習時にも、これらの脳部位に、長期記憶の形成に関与する転写因子

CREB の遺伝子発現が認められたことから、安全記憶の貯蔵部位である可能性が示唆された。 ②テストステロンの作用部位の検証:扁桃体および前頭前野腹内側部の両部位で、テストステロ

ンの受容体であるアンドロゲン受容体遺伝子の発現が認められ、テストステロンの作用部位と成

り得ることを確認した。 ③テストステロンの作用時期の検証:予備的実験で、雄マウスの血中テストステロン濃度は性成

熟前の 3 週齢後期に一過性のピークを有し、その後の性成熟期に向けて上昇することが示唆され

ている。そこで、性成熟前後の血中テストステロン濃度とアンドロゲン受容体遺伝子量の関係か

ら、テストステロンの作用時期を検証するため、未成熟である 2 週齢から性成熟を迎えた 7 週齢

の前頭前野腹内側部および扁桃体で、経時的な発現量を検証した。その結果、血中テストステロ

ン濃度の一過性の上昇に対応して、性成熟前である 4 週齢で遺伝子発現量が高まる一方、性成熟

期終盤である 7 週齢直前では、遺伝子発現量が 4 週齢以前と同じ低いレベルまで減少した。これ

らの結果は、性成熟前に一過性に上昇するテストステロンによってアンドロゲン受容体遺伝子発

現量が増加した結果であると示唆する。性成熟前の脳がテストステロンに曝露されることが、前

頭前野腹内側部および扁桃体におけるテストステロン感受性を飛躍的に高め、安全記憶保持機構

の形成を促進する重要な役目を担っている可能性がある。 このテストステロンの制御機構の実体を明らかにするため、神経回路の変化の直接観察が可能

な培養脳切片を用いた実験を計画中である。 以上の成果は、2011 年度に開催された第 15 回日本行動神経内分泌研究会(東京)、8th

International Brain Research Organization (IBRO) World Congress of Neuroscience (Florence)、第 34 回日本神経科学大会(神奈川)、日本動物学会第 82 回大会(北海道)、日本味と匂

学会 第 45 回大会 (石川県)、The 9th International Symposium on Molecular and Neural Mechanisms of Taste and Olfactory Perception (Fukuoka) にて発表し、第 15 回日本行動神経

内分泌研究会にて、2011 Student Presentation Award を受賞した。

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 3 月 2 日

研究課題名 ヒメミカヅキモの有性生殖時に機能するレクチン標的分子の解析

申請者 所属・学年 物質・生物機能科学専攻 氏

名 堀 早知恵

指導教員 所 属 物質・生物機能科学専攻 氏

名 関本 弘之 教授

研究実績及び成果

本研究では Con A とその標的分子に着目し、ヒメミカヅキモの有性生殖過程において Con A と結合

する分子を単離・同定することを目的としている。本年度は以下の解析を行った。 (1) Con A 標的分子の合成時期と局在解析 ペア形成細胞に FITC-Con A を与え、Con A 標的分子の合成時期を調べた。接合突起形成前の細胞

でも両接合型細胞の中間にシグナルが観察され、これは突起の形成が進むにつれて強くなっていった。

さらに突起における Con A 標的分子の詳細な局在を調べるために FITC-Con A とカルコフロールで共

染色した細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、両者のシグナルは一致せず、Con A 標的分

子は細胞壁の 外層に局在していた。 (2) Con A 標的分子を含む細胞画分の回収とその可溶化 (1)の結果から、目的の Con A 結合分子は接合突起細胞壁に含まれることが強く示唆された。そこ

で、細胞を破砕し、FITC のシグナルを指標とした遠心分画を行ったところ、接合突起細胞壁は 1,000 x g の沈澱画分に含まれることが示された。さらに標的の分子を回収するためにこの画分を数種類の界

面活性剤で処理したところ、10% SDS または 7 M Urea でほぼ可溶化されることが示唆された。 (3) 標的分子を含む画分の解析 2種類の性分化細胞(mt+、mt-)を単独または混合して培養し、(2)で得られた接合突起を含む細

胞壁画分を回収し、MS/MS によるプロテオーム解析を進めた(名古屋大山田力志助教との共同研究)。

ヒメミカヅキモの EST データを基にして含まれているタンパク質の同定を行った結果、接合時のみで

細胞壁に蓄積するタンパク質を少なくとも4種得ることができた。これらの中に Con A 標的分子が含

まれることが期待されたものの、本年度内に候補を絞り込むことはできなかった。今後は分子同定に

向け、Con A アフィニティーカラムを用いた分子の絞り込みを検討する必要がある。 なお、以上の結果を含め、レクチンがヒメミカヅキモの有性生殖に及ぼす影響、及びヒメミカヅキ

モ接合過程における Con A 標的分子の生理特性について、現在、2 報の投稿論文を執筆中である。 学会発表など ① 堀早知恵、阿部淳、関本弘之「ヒメミカヅキモの接合過程で関与する Con A 標的分子の解析」新学術領域「藻

植物アロ認証」第 3 回領域会議(京都)2011 年 6 月 ② 堀早知恵、阿部淳、佐藤眞美子、関本弘之「ヒメミカヅキモの接合過程に関与する Con A 標的分子の局在と機

能」第 75 回日本植物学会(東京)2011 年 9 月 ③ Sachie Hori, Jun Abe, Mamiko Sato and Hiroyuki Sekimoto 「Effect of lectin on the sexual reproduction of Closterium peracerosum-strigosum-littorale complex」 The 6th Asian pacific phycological forum(Yeosu, Korea)October 2011 ④ Jun Abe, Sachie Hori, Hiroyuki Sekimoto 「Stable transformation system for a unicellular charophycean alga, Closterium peracerosum-strigosum-littorale complex」 The 6th Asian pacific phycological forum(Yeosu, Korea)October 2011 受賞 ①Best Student Poster Awards in the 6th Asian Pacific Phycological Forum. Hori, S., Abe, J., Sekimoto, H.: Effect of lectin on the sexual reproduction of Closterium peracerosum-strigosum-littorale complex.

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日本女子大学大学院学生特別研究奨励金 成果報告書

採択期間 2011 年 4 月~2012 年 3 月 2012 年 4 月 6 日

研究課題名 シダ植物配偶体の形態進化と菌共生

申請者 所属・学年物質・生物機能科学専攻 博士課程後期 2 年

名 迫田 曜

指導教員 所 属 理学部 物質・生物科学科

名 今市 涼子

研究実績及び成果

「心臓形配偶体のクッション層数と菌との関係」を明らかにするために以下の実験を進めた。 野生配偶体の採集

幅広い系統に属するシダ類心臓形配偶体を採集するため、日本国内では静岡県、京都府、沖縄

県、国外ではマレーシアで野外調査を行い、計 536 個体の野生の心臓形配偶体を採集した。これ

までに、シダ類の系統で原始的なグループに属するリュウビンタイ類のリュウビンタイ 15 個体、

ゼンマイ類のゼンマイ 10 個体、シロヤマゼンマイ 5 個体、比較的基部に位置するウラジロ類のコ

シダ 8 個体、木生シダ類のキジノオシダ 25 個体、オオキジノオ 14 個体、そして派生的な分岐群

である広義ウラボシ類に属するヤワラシダ 5 個体、ミゾシダ 10 個体、ヌリトラノオ 13 個体、ホ

ラシノブ 15 個体、オオバイノモトソウ 20 個体、ナチシダ 5 個体、シシガシラ 4 個体、ノキシノ

ブ 5 個体、ジュウモンジシダ 3 個体、ベニシダ 10 個体、オオベニシダ 11 個体、タニイヌワラビ

4 個体、ヘラシダ 5 個体、計 12 科 14 属 18 種 187 個体について葉緑体 rbcL 遺伝子を用いた分子

同定により種を特定できた。 アーバスキュラー菌(AM 菌)感染率とクッション層の比較

リュウビンタイ(52 個体)、ゼンマイ(42 個体)、シロヤマゼンマイ(28 個体)、コシダ(18 個体)、クロヘゴ(44 個体)、キジノオシダ(36 個体)、オオキジノオ(30 個体)、ミゾシダ(28 個体)、ジュウ

モンジシダ(99 個体)、ヌリトラノオ(3 個体)について内生菌の観察を行ったところ、内生菌は AM菌でクッション内層に局在していることが観察された。それぞれの AM 菌感染率は、リュウビン

タイ 96%、ゼンマイ 95%、シロヤマゼンマイ 73%、コシダ 61%、クロヘゴ 73%、キジノオシダ

61%、オオキジノオ 80%、ミゾシダ 61%、ジュウモンジシダ 2%、ヌリトラノオ 0%であったこと

から、AM 菌の感染率は 95%以上のグループⅠ、61~80%のグループⅡ、0~2%のグループⅢの

3 つのグループに分かれる可能性が示された。 それぞれのクッション層数についてみてみると、リュウビンタイは約 15 層(7 個体)、ゼンマイ

は約 11 層(8 個体)、シロヤマゼンマイは約 7 層(3 個体)、コシダは約 8 層(2 個体)、クロヘゴは約

6 層(2 個体)、キジノオシダは約 5 層(3 個体)、オオキジノオは約 7 層(2 個体)、ミゾシダは約 5 層

(3 個体)、ジュウモンジシダは 3 層(1 個体)、ヌリトラノオが 4 層(1 個体)だった。t 検定を行うと、

リュウビンタイ・ゼンマイ 2 種と、その他の種では有意差(p<0.05)がみられたことから、クッシ

ョン層数は 10 層以上のリュウビンタイとゼンマイのグループ A と、3~8 層のその他の種のグル

ープ B の 2 グループに分かれる可能性が示された。クッション層数で AM 菌感染率グループⅡと

Ⅲを分けることができなかったが、配偶体の初期形態に注目すると、グループⅡの配偶体は初期

に多層の塊状になるのに対し、グループⅢは細胞層が 1 層の糸状になることが観察され、初期に

多層化するか否かが感染率に影響している可能性があることが示された。 このことから、配偶体の AM 菌感染率の減少には、クッション層数の減少と配偶体の初期形態

が重要である可能性が示された。今後は AM 菌感染率とクッション層数の関係についてさらに検

証するため観察する個体数を増やすとともに、グループⅡとⅢに属する種の配偶体を用いて、配

偶体の初期形態と AM 菌感染率の違いについて調べる予定である。 以上の結果については、日本植物学会第 75 回大会(2011 年 9 月)と日本植物分類学会第 11 回大

会(2012 年 3 月)において、口頭発表を行った。