倭漢朗詠集卷上 龍門文庫藏『和漢朗詠集』hagi/ko2-ryu...2 0 0 7. 0 7. 0 1 ~ 0 7....
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7.07.01
~07.04
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龍門文庫藏『和漢朗詠集』―本文テキスト冒頭部抄出―
本文目録
[
1オ]
倭漢朗詠集卷上
春立春。早春。春興。春夜。
子日
付若菜
。三月三日
付桃花
。暮春
。三月盡。
閏三月。鸎。霞。雨。梅
付紅梅
。
[
1ウ]
柳。花
付落花
。躑躅。款冬。藤。
夏更衣。首夏。夏夜。端午。
納涼。晩夏。盧
花橘。蓮。
ナウリヤウ
郭公。蛍。蝉。
[
2オ]秋
立秋。早秋。七夕。秋興。
秋晩。秋夜。八月十五夜
付月
九月九日
付菊
。九月盡。女郎花。萩。
蘭。槿。前栽。紅葉
付落葉
。鴈
付帰鴈
。
[
2ウ]
虫。鹿。露。霧。擣衣
冬初冬。冬夜。歳暮。爐火。
霜。雪。氷
付春氷
。霰。佛名。
春
[
3オ]立
春
逐ツテ
二
吹ヲ
一
潛ク
開ク
。不三
待タ
二
芳菲之
せ
ヤウヤ
ヒ
ノ
候ヲ
一
。迎
テ二
春ヲ
一
乍變。將ス三
希ト
二
雨露之恩
ヲ一
立春日内園使
進花賦公乘億
タチマチ―ンス
マサニ
ネカハム
ノ
ヲ
ン
吹を逐つて
潛
開く。芳菲の候を待たず春を迎へて乍
ちに變ず。將に雨露の恩を希はむとす。立
春の日、内園に花を
進
る賦。公乘億。
かぜ
お
やうやくひら
はうひ
こう
ま
はる
むか
たちま
へん
まさ
う
ろ
おん
ねが
りつしゆん
ひ
ないえん
はな
たてまつ
ふ
池凍
リノ
東頭
ハ
風度
ツテ
解。窓
ノ
梅ノ
北
トウ
トケ
面{
雨}
ハ
雪封
兎
寒シ
立春日里芸閣緒文友
藤篤茂
ヒ
ホウシ
池の凍
の東
頭は風度つて解く。窓の梅の北面は雪封じて寒し。立
春の日、里芸閣緒文友
篤茂
いけ
こほり
とうとう
かぜわた
と
まど
むめ
ほくめん
ゆきほう
さむ
りつしゆん
ひ
りうんかく
ぶんいう
とくぼ
[
3ウ]
とし乃うちにはるはきにけり一年を
こそとやいはむことしとやいわむ
在原元方以
上
亦
思
年
柳ニ
無兎
二
氣力
ノ一
條先動キ
。池
ニ
有リ
二
クシ
タ
ツ
ク
波ノ
文一
氷盡
ニ
開トケンタリ
府西池
白
ク
ク
柳
に氣
力なくして條先づ動く。池に波の文ありて氷
盡
く開けたり。府、西池、白
やなぎ
きりよく
えだま
うご
いけ
なみ
もん
こほりことごと
ひら
ふ
さいち
はく
今日
ヲ
不二
知一
誰計會ス
。春
ノ
風春
ノ
ケ
シラ
レカハカリア
せシ
水一時
ニ
來
ル添ヲ
同上
ジ
ラントハ
今日知らず誰か計
會せし。春の風春の水一時に來る
け
ふ
し
たれ
はかりあは
はる
かぜはる
みづいつし
きた
[
4オ]
夜
向兎
殘更
ニ
寒磬盡キ
。春生二
ルナヽムトシ
ケイ
ヌ
オツテ
香火
ニ一
曉爐燃
宿天台山寺立春作
良春道
ケ
ウ
ロ
モ
ユ
夜殘
更になゝむとして寒磬盡きぬ。春香
火に生つて曉爐燃ゆ
宿
天台山寺立
春作良
春
道
よるざんかう
かんけいつ
はるかうくわ
な
げうろ
も
しゆくてんだいさんじりつしゆんさくりやうしゆんだう
袖ひちてむすひし水のこほれるを
はるたつ今日の風やとくらん
貫之
春立といふはかりにやみよし野の
山もかすみてけふハミゆらん
平定文家哥合
壬生
忠峯
[
4ウ]早
春
氷消二
田地
ニ一
蘆錐短
シ
。春入二
枝
キヘテ
スイ
條ニ
一
柳眼仾ル
寄樂天
元禎
デウ
カ
ンタレリ
氷
田地に消えて蘆錐
短
し。春枝條に入つて柳
眼低れり
樂
天に寄す元禎
こほりてんち
き
ろすいみじか
はるしでう
い
りうがん
た
らくてん
よ
げんてい
先ツ
遣テ
二
和風
ヲ兎
一
報せシム
二
消息
ヲ一
。續教
兎二
シム
アリ
サ
マ
ツイデ
シム
啼鳥
ヲ一
説シム
二
來由
ヲ一
春生白
トカ
ユ
先づ和
風をして消
息を報ぜしむ。續で啼鳥をして來由を説かしむ
春
生
白
ま
くわふう
せうそく
ほう
つい
ていてう
らいいう
と
しゆんしやう
はく
東岸西岸之柳。遅速不二
同一
。
チ
ソ
ク
[
5オ]
南枝北枝之梅。開落已
ニ
異
春生逐地形序
慶保胤
ノ
コトンナリ
東岸西岸の柳
。遅速同じからず。南枝北枝の梅。開落已に異んなり。春の生ることは地
形に逐
ふ
慶保胤。
とうがんせいがん
やなぎ
ちそくおな
なんしほくし
むめ
かいらくすで
こと
はる
な
ちぎやう
したが
けいはういん
紫塵
嬾蕨人
ニ
拳二
手ヲ
一
。碧玉
ノ
ヂンノモノウキ
ヒ
ニキル
キ
寒蘆錐脱
ス二
嚢
和早春晴後野
相公
キアシ
リタツ
ロヲ
紫塵の嫩き
蕨
は人手を拳る。碧
玉の寒き蘆は錐
嚢
を脱す
和早春晴後野相公
しぢん
わか
わらび
ひと
て
にぎ
へきぎよく
さむ
あし
きりふくろ
だつ
氣霽
テハ
風梳
ルクシケツル二
新柳
ノ
髮ヲ
一
。氷消
テハ
波洗
フ二
舊苔
ノ
鬚ヲ
一
。
早春賦春暖都良香
ハレ
ケツ
カミ
リ
キウ
ヒケ
氣霽ては風新
柳の髮を梳る。氷
消ては波舊
苔の鬚を洗ふ
早
春の賦春
暖
都
良
香
き
はれ
かぜしんりう
かみ
けづ
こほりきえ
なみきうたい
ひげ
あら
さうしゆん
ふ
はるあたたか
みやこのよしか
[
5ウ]
庭增
せハ
二
氣色
ヲ一
晴ノ
沙緑ナリ
。林變
スレハ
二
容輝
ヲ一
宿雪紅
ナリ
草樹暗迎春紀納言
シヨク
ハレ
イサゴ
リ
シ
ヨ
ウ
キ
ノコンノ
イ
庭氣
色を増せば晴の沙
緑
なり。林
容
輝を變ずれば宿
雪
紅
なり。草
樹暗
迎
春
紀納言
にはきしよく
ま
はれ
いさごみどり
はやしようくゐ
へん
のこんのゆきくれなゐ
さうじゆあんげうのはる
きのなごん
いはそゝくたるひのうゑのさハらひの
もえいつる春になりにけるかな
志貴皇子
谷風にとくるこほりのひまとに
うちいつるなみやはるのはつはな
源當澄
みわたせハひらのたかねに雪きえて
わかなつむへく野はなりにけり
無盛
今回、龍門文庫藏『和漢朗詠集』の冒頭から「春」の「立春・早春」の箇所を提示した。この箇所
で注目しておきたい漢詩に[5オ]の「紫塵
嬾
蕨人
ニ
拳二
手ヲ
一
。碧玉
ノ
寒蘆錐脱
ス二
嚢
和早春晴後野
相公
」がある。これにつ
ヂンノモノウキ「
ヒ
ニキル
キ
キアシ
リタツ
ロヲ
いては、拙論「『下學集』における字形相似の文字―『和漢朗詠集』所収句の表記字体語注釈から―」〔駒澤短大
國文第
号〕をお読み願いたい。この論文をこの場でお渡しする。
36
また、『和漢朗詠集』の注釈書資料は、室町時代に多く參見する。『和漢朗詠集私注』〔内閣文庫藏〕や『和漢
朗詠集註』を以て、まだ解決が及んでいない詩句や和歌の語句についても今後検討を進めていきたい。
〈文字資料〉
鎌倉時代写『和漢朗詠集』
「塵」と「莖」
伊都内親王筆「塵」文字
赤井清編『行草大字典』の「塵」文字一覧
『事林廣記』所載の「麝」と「塵」の行草文字
宮内庁書陵部蔵『和漢朗詠集』の「塵」乃至「莖」文字
『和漢朗詠集』断簡資料〔卷下「閑居」〕の「莖」文字
見レハ
二
天台山之髙巖
ヲ一
。四十五尺
ノ
浪白
シ
望メハ
二
長安城之遠樹
ヲ一
。百千
ノ
カ
ン
シヤク
ミ
ジ
ユ
万莖
ノ
薺青
シ
春生霽宮中序
順
カウ
ナツナ
天台山の高
巖を見れば。四十五尺の浪白し。長
安
城の遠
樹を望めば。百千萬莖の薺
青し
てんたいせん
かうがん
み
ししふごしやく
なみしろ
ちやうあんじやう
ゑんじゆ
のぞ
はくせんばんかう
なづなあを
順じゆん
「嬾」と「嫩」
鎌倉時代写『和漢朗詠集』頭註『廣韻』の「嫩」文字と語注記
嬾奴困反。弱也。
○
嫩弱也。奴困切。
『新撰字鏡』の「嬾」と「嫩」の文字及び語注記
嬾
落旱反。惰也。懈怠也。
嫩奴用反。弱。
観智院本『類聚名義抄』の「嬾」と「嫩」の文字及び語注記
嬾
懶
二正。力但反。オコタル、オロカナリ、
牛ウシ、牛クサシ、イトフ、
禾ラン
嬾
谷夿同。
嫩拶
二谷尽字
牛ウシ、牛クサシ
奴鈍反
龍谷大学蔵『字鏡集』の「嬾」と「嫩」の文字及び和訓
×「嫩」の文字未収載
嬾
懶同
ラ
俗
ヲロカナリ
イトフ
モノクサシ
ヲロカ
ヲコタル
モノウシ
慶長一五年版『倭玉篇』の「嬾」と「嫩」の文字及び和訓
嬾
モノサシ
嫩
ワカシ
ラ
ト
ン
イトフ
ヨロシ
コヽロウシ
モノウシ
広本『節用集』の「嫩」文字及び語注記〔※『下學集』の語注記を継承する〕
○
若シヤク
[去入]。稚チ
[去]。鄰トン
[去]此字或作レ
嬾。各別也。本朝朗詠集
ニ
有二
樂天
カ
句一
云。紫莖
ノ
嫩蕨人拳レ
手。
ワカシ
同
同
世俗因
テ二
字形相似
タルニ
一
呼テ
レ
嫩ヲ
作二
嬾ノ
讀ト
一
。大誤也。况句
ノ
意モ
亦タ
失二
蕨ノ
用ヲ
一
。子細可レ
笑レ
之。一件蓙
ノ
字モ
亦
ニ
ヨン
ヨミ
シ
作レ
塵。是大誤也。嗚呼一句
ノ
中ニ
誤ル
二
二箇
ノ
字ヲ
一
何ノ
義ソヤ
哉矣〔態藝門
④⑤〕
コレ
コ
250
易林本『節用集』
稚
嫩
ワカシ
同
天正十八年本『節用集』の「嫩」文字
黒本本『節用集』の「嫩」文字
若
嫩
稚
若
嬾
稚
ワカシ
ワカシ
ワカシ
ワカシ
同
同
増刊『下學集』の「嬾」文字
龍門文庫藏『節用集』の「嬾」文字
若
稚
嬾
若
嬾
稚
ワカシ
同
同
ワカシ
ワカシ
ワカシ
※室町時代の古写本『節用集』類にあっては、当に『下學集』編者東麓破衲が指摘していた字形相似に基づく
誤写が顕著に和訓「わかし」の標記字に表出し始めている。
二条為氏卿書冩『和漢朗詠集』二軸〔尊敬閣文庫藏〕他コレクシ
ョン
『和漢朗詠抄』鎌倉末期写
伝正韵筆
嘉禎四年・正元二年・
弘安五年本奥書有
二帖