日本の製造業における生産性実態 ... -...

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Graduate School of Policy and Management Doshisha University 日本の製造業における生産性実態の考察 あらまし による )が より さい において より 活が する。 それが ある いうこ する そこに における さがある えるに たった。そこ を「 格:COMPANALITY」(カンパ ナリイテイ、Company personality いう するこ した。 第一 して あり、 ある え、それを するこ みた ある。 げてきた。 リーン し、 けて システム れてきた。そこ 、こ において しい ため 較、リーン によって、 位を確 した。そして、 から、 における大 して、 けをした。こ させたまま、それを いまま 営が われている いうこ ある。そこ にすれ められるかについて、そ 3つに けて、 して IE イン ダストリアル エンジニアリング いう を確 した。こうした における 、そ 確に った える。そしてイ ンプット によって、 トップクラス に位 きるこ 確か するこ きた。 をかかえ、そ んじ、それが っているこ らかに った。つまり、 さが、 かさ をさまた げ、 われる り、 COMPANALITY れてい いうこ が、か 確に ガイドラインが引けた える。 1.はじめに における 、そ いう らず、 における マネジメント ユニークさにおいて める った。 し、 るに った。 するこ あるし、フォーチュン ランキングにおける スト される ある。 よう に、 かさを、 較してみる らか 位を めざるを い。 たす 割について、 について する いか、 いう 題意 つに り、学位 して するこ した。 イメージ における

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Graduate School of Policy and Management, Doshisha University 251

日本の製造業における生産性実態の考察

坂 本  重 泰

あらまし

 筆者の国際的な仕事の場の経験によると、経済規模(力)が日本より小さい国においても、日本よりも豊かな社会、生活が欧州には存在する。それが何であるのかということを研究する中で、そこには企業経営政策実践における関心領域の広さがあると考えるに至たった。そこでそのための考え方を「社格:COMPANALITY」(カンパナリイテイ、Company + personalityの合成語)という言葉で表現することとした。 本稿はその第一歩としての研究報告であり、社格優位の背景には、生産性の国際水準優劣があると考え、それを解明することを試みたものである。 日本は太平洋戦争終結以降、歴史上希に見る飛躍的経済発展を遂げてきた。なかでも自動車産業はリーン生産を生み出し、世界の製造業から高い評価を受けて日本的生産システムとも呼ばれてきた。そこで、この論文においては、生産性の正しい理解のための考察、生産性の国際比較、リーン生産の生産性貢献評価によって、日本の製造業の国際比較劣位を確認した。そして、筆者の実践経験から、日本の製造業における大幅な生産性向上実績の実例を通して、先の国際比較劣位の裏付けをした。このことは大幅な生産性向上余地を潜在化させたまま、それを認知できないまま企業経営が行なわれているということである。そこで如何にすれば生産性向上が効果的に進められるかについて、その構成要素を3つに分けて、生産性向上方策としてのIE (インダストリアル エンジニアリング) という管理技術の有効性を確認した。こうした考察の結果、日本の製造業における生産性活動の特徴、その優位

達成の方向が明確になったと考える。そしてインプット低減によって、日本の製造業が世界トップクラスの生産性水準に位置できることの確かな可能性を試算することができた。 余剰労働力をかかえ、その結果国際比較劣位の低い生産性に甘んじ、それが低い収益性の原因となっていることが明らかになった。つまり、収益性の低さが、豊かさの原資の創出をさまたげ、経済性の競争強化に追われる余り、社格(COMPANALITY) 向上の企業行動が取れていないのではないのかということが、かなり明確になり今後の研究活動のガイドラインが引けたと考える。

1.はじめに

 戦後歴史における日本の経済発展は、その規模増大という結果のみならず、製造業におけるマネジメント行動のユニークさにおいても世界の注目を集める結果となった。国民の所得水準は上昇し、生活水準も飛躍的な向上を見るに至った。今や“世界企業”と評価の高い日本企業が存在することは事実であるし、フォーチュン誌の年次企業ランキングにおける日本企業のポストの高さも注目されるものである。 一方このような経済的発展とは対称的に、市民生活の豊かさを、欧米の水準と比較してみると日本の明らかな劣位を認めざるを得ない。豊かな社会の実現に企業が果たす役割について、企業政策について何か改善強化すべきものが存在するのではないか、という問題意識をもつに至り、学位論文として研究することとした。 そのイメージは人間における人格の形成であ

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坂 本  重 泰252

り、人格評価に準ずるものが企業にも存在すると考えるのである。人間が母親の体内にやどり、生まれ、成長し、成熟してゆくことに比喩を得ることができるもので、企業の成熟とは何であるべきなのかということの探求である。大量生産、大量消費、売上高や市場シェア至上主義の企業経営には欠けているものがある。それを研究で明らかにすべきであると考え、その課題は企業の経営姿勢、何を目的とした経営であるべきなのかを考察することであると考える。そこで新しい概念の出発点として、新しい言葉をつくることを考え、「社格、COMPANALITY(カンパナリイテイ、company + personalityの合成語)」と表現することとした。筆者の欧州各国における仕事の経験によると、経済規模(力)が日本より小さい国においても、日本よりも豊かな社会、生活が欧州には存在する。それが何であるのかということを研究する中で、企業がその経営における政策課題の対象領域の広さがあると考えるに至り、それが「社格、COMPANALITY」の優劣であると考えている。また、この社格優位を保つためには、健全な経営業績の達成と維持が不可欠であり、そのベースとなるのが企業における生産性水準優劣が強く関係していると考える。これまでの推移において飛躍的な生産性向上を達成してきたが、その国際水準優位達成が今日なお日本の製造業における重要な企業政策課題であることをここでは明らかにしたいと考える。 本稿においては、まず生産性の正しい理解のための考察、生産性の国際比較、日本的生産システムの知名度を世界に上げさせたリーン生産の生産性貢献評価も考察し、また、日本の製造業における大幅な生産性向上の実例を通して、結果として今日なお国際比較劣位にある日本の製造業の生産性実態を確認した。つまり日本の製造業においては、大幅な生産性向上余地を潜在化させたまま、それを認知できないまま企業経営が行なわれているということである。そこで如何にすれば生産性向上が効果的に進められるかについて、その構成要素を3つに分けて、生産性向上方策としてのIE (industrial engineering,インダストリアル エンジニアリング) という管理技術の有効性を確認した。こうした考察の結果、日本の製造業における生産性活動の特徴が明確になった。 そしてインプット低減によって、日本の製造

業が世界トップクラスの生産性水準に位置することの確かな可能性を試算することができた。余剰労働力をかかえ、その結果国際比較劣位の低い生産性に甘んじ、それが低い収益性の原因となっていることが明らかになった。つまり、収益性の低さが、豊かさの原資の創出を妨げ、経済性 の 競 争 強 化 に 追 わ れ る 余 り 、「 社 格 、COMPANALITY」向上の企業行動が取れていないのではないのかということが、かなり明確になり今後の研究活動のガイドラインが引けたと考える。 なお、本稿は「企業の成熟度・社格向上原理の探求:企業成熟過程のヒエラルキー探索」という研究テーマの一部を構成するものであることを付記させていただきます。

2.日本の生産性実態

2.1 生産性の考察

2.1.1 生産性の生立ち

 科学的管理の父と呼ばれるフレデリック・ウインスロウ・テイラー ( Fredric Winslow Taylor.1856-1915 )や、動作研究の功績を残したフランク・バンカー・ギルブレス ( Frank Banker Gilbreth )達は、当時 ,能率技師 ( efficiency experts )と呼ばれていた。彼らは今日のIEのパイオニア達であり、彼らが当時実践してきたことは、人間の努力による生産量(アウトプット)の増大であった。ところが、機械化が進展する中で人間の働きぶりだけではなく、機械の能率を測定する必要性が出てきた。人間のインプット時間( hour )がアウトプットに直接関係しなくなってきて、その状態におけるインプットとアウトプットの関係を能率という測定方法では十分に説明できないことになってきた。つまり、同じ労働時間(インプット)で、如何に多くの生産量(アウトプット)を産出するかだけではなく、同じ生産量を如何に少ない労働時間で産出するかということが、機械化の貢献となってきたのである。そこで、生産あるいは処理された製品やサービスを工数 (man-hour ) 当たりで求めることとし、それを生産性 ( productivity )と呼ぶこととなった。[Herbert 71] 日本ではマネジメント活動の啓蒙、普及団体

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日本の製造業における生産性実態の考察 253

として、社団法人・日本能率協会1が、1942年に当時の商工省によって設立された。そのネーミングに能率( efficiency )という言葉が使われたことも当然で、当時は日本産業振興のために産業の能率向上活動が盛んな時期であり、インプットに対する関心よりも、如何にアウトプットを増大するかということが経営者の関心事であったのだ。我が国においてはこうしたアウトプット増大が生産性向上であるという考え方が、今日まで継続しているとも言える。日本の製造業は明治維新以来殖産興業を目標にして、景気変動による浮沈はあったものの一貫して生産量の増大が唯一企業の成長であり発展であったのである。我が国においては能率という概念、つまりインプット低減よりも、アウトプット増大を生産性向上というとらえ方であった。ところが今日においては経済環境のトレンドが変わり、生産量の増大つまりアウトプットの増大が限定的となってきた。そして、最近ではインプット低減なくして生産性向上、業績の適正水準の維持ができない、すなわち失業率が悪化したとしても、企業の過剰労働力を社会に吐き出すという施策を実施することとなってきた。つまり、能率という考え方においてはアウトプットの増大施策の探求を生産性向上の優先課題としてきたものが、生産量の増大・拡大への期待がもてない状況になってくることによってインプット低減という経営施策なくして生産性向上、その高水準維持ができなくなってきたのである。このアウトプット増大、規模拡大を優先させ企業の成長、国家の発展として日本が実践してきた指向、施策は先進工業国の中でも独特のものである。生活水準の向上、時間や肉体的労力にゆとりを見出すという生産性向上の目的は、日本企業において余り議論され経営施策に明確に位置づけられることはほとんどなかったのである。ここに先進国へのキャッチアップ、殖産興業を重要課題

としてきた、日本独特の生産性に対する指向が存在するのである。

2.1.2  生産性の定義

 生産性 ( productivity ) はどのように定義されているのだろうか。 アメリカの I E技術者協会 ( Institute of IndustrialEngineers )によると、生産性は次ぎのとおり定義されている。2

1) 生産性はアウトプットに対するインプットの比

率として、あるいは測定、経験にもとづく標準、

あるいは指標と比較して、生産された仕事量と

して計算される仕事の相対的な測定である。期

待される仕事の出来高に対して、実際に生産さ

れた出来高の相対的な測定がよく行なわれる。

2) インプットあるいはすべての投入資源の量的お

よび質的結果である。生産性の測定でもっとも

良く使われるのは、一つのデイメンジヨンであ

るインプットに一測定尺度、アウトプットに一

測定尺度を設定し、測定する。それが生産性

(productivity)と定義され,一インプット労働量

当たりのアウトプットである(すなわち、投入

労働時間当たりの植えられた木の数など)。最

近のより広義の視点は価値測定が含まれてい

る、つまり労働生産性(labor productivity )、そ

れは労働者当たりの付加価値である。付加価値

アウトプットの値に対する事業活動の正味の貢

献と定義されている。

 生産性は製品やサービスをいかに効率的な有効性のもとで生産されたかということの一つの表現である。だから、物的あるいは経済単位で表現されることになる。 測定は一般的には生産されたアウトプットに

1 [日能 91] 日本能率協会は、1942年、産業界の要請に基づき、生産能率の増進を目的として日本工業協会と日本能率連合会とが合併し、新たに社団法人日本能率協会として発足した。当初、能率指導、教育、出版を中心に、主に戦時の増産支援の事業活動を行なった。その後企業経営の革新を通じて、産業はもとより社会の発展に貢献してきた。

2 [ANS 83] p.155 Institute of Industrial Engineers (IE技術者協会(USA))による生産性の定義の原文は以下のとおりである。1) A relative measure of work output calculated as the ratio of output to Input or as the quantity of work produced compared to a norm based onmeasurement, experience, or index. Often used as a relative measure of the actual work produced to the expected work output.2) The quantitative and qualitative results of the input or all resources. The most widely used productivity measure is one-dimensional (onemeasure of input and one measure of output) that defines it as PRODUCTIVITY - is output per labor input (e.g. number of tree planted peremployee hour, etc.). A broader and more modern view involves value measure, e.g., Labor Productivity - equals value added per employee.Value added is defined as the net contribution of the business to the value of the output.

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関して消費された労働の量によって行なう。企業内では、“労働”は(“仕事における人の労働”で測定)生産のもっとも重要な要素であり、それがもっとも容易に(雇われている人あるいは時間)測定ができるものである。企業では技術的あるいは組織的変化が、労働要因の有効性(effectiveness )と効率性 ( efficiency) の改善のために、労働時間を厳しく長くすることなく結果として多くのものを生産するために実施される。一方、パフォーマンス ( performance ) の向上は労働作業を“スマート”に達成することであり、中間および最終顧客の商品/サービスへの要求に応えるために生産プロセスを、より効率性の高いものに変えてゆくのである。 生産の要素は伝統的な“労働”(あるいは“人的資源”)、資本(“資金”および“建物、機械”の双方)、それに原材料に限定されるものではなく、残業による付加時間、使用スペース、その他すべての環境資源も含まれる。一方、新しいコンセプトとして“グリーン生産性 ( g r e e nproductivity)”というようなことが来るべき世紀に開発すべき有効な生産性測定として試されつつある。 生産性の測定においては物的生産性をもって測定するのが普通であるが、アウトプットを物的数量で把握できるもの以外は測定できない。つまり、定量化することのできないアウトプット、数量で把握できるものでも単位数量の質的な側面である規格や品質の違いをアウトプットに反映させることはできないし、サービス産業や第3次産業では物的産出量の計測はできない。そこで、全経済活動のアウトプットを物的数量では表現できず、OECD (Organ iza t ion fo rEconomic Co-operation and Development)の基礎データより国際比較を行なっているJPC(JapanProductivity Center, 社会経済生産性本部)によれば、アウトプットに実質付加価値としてのGDP

(gross domestic products, 国内総生産)を、また、各国の通貨で表現されているものを、購買力平価

(PPP, purchasing power parity)によって統一通貨として生産性の国際比較をおこなっている。3

i)アウトプットの考察 アウトプットとして測定される GDP であるが、何がGDPの内容かということが疑問である。製品であっても、サービスであっても、社会に正の貢献をするものとそうでない負の貢献のものとが同じ扱いである。たとえば、自動車の生産・販売活動やサービス活動はGDP増加への正の貢献だが、そのための企業活動の結果として生ずる環境保全設備や廃棄物処理場の建設は、GDP増大であるが負の貢献である。負の貢献は正の貢献活動の結果として生じたもので、社会にとって出きれば避けたい望ましくないものである。さらに、製造業で考えてみると、一般的には総生産金額は製品単価と製品数量の積となる。つまり、高額製品を数少なく作るのと、低額製品を数多く作るのとは、その積としての総生産金額は同じとなりうるのである。しかし、実際に消費し、使用するときに発生する費用はその差異とは明らかに異なったものとなる。たとえば、軽自動車と高級乗用車の価格差は10倍近い。しかし、ガソリン、税金、駐車料などの費用は自動車そのものの価格差のように大きくない。つまり、軽自動車は購入単価が大幅に安くても、維持費が大幅に安いということはなく、自動車を利用する段階における費用比較においては高級車と大差ないのである。つまり維持費用のGDP増大効果は、廉価な乗用車保有台数が多いほど大きいこととなる。また、国の産業構造やインフラストラクチュア ( infrastructure ) の水準によって、その整備に必要な国内生産金額の内容は各国間において相違、格差が歴然と存在することも事実である。公共投資のGDPに占める値は、日本の場合欧米の2倍以上占めていると言われている。また、ソフトウエア産業の生産金額増大について考えてみると、従来の製造業とは異なり、その増大に対する投入資源としての従業員の工数は、当初の開発に必要とする工数とその後のコピーに要する工数との間には大きな差がある。これらの産業活動の違いを、同じように扱ってはたして意味があるのだろうか。また、生産性向上に

3 [社会経済 98]1965年に開催された第13回国連統計委員会において、各国通貨で表現された国民勘定集計量の比較に伴う換算問題について議論が行なわれ、為替レイトを用いた換算による結果が多くの目的に不適切であることが合意された。そこで通貨の実質的価値をどのように表すか考えられたのがPPPで、国連国際比較プロジェクトとして実施計測されることとなった。その原理は同じもの(商品ないしサービス)を同じ分量だけ買うのにそれぞれの国でどれだけの通貨が要るかを調べ、それを等値して交換レイトを産出する。 PPPは 1US$あたり1980年には251.1円(為替レイト226.7円)、1995年は 181.2円(為替レイト94円)となっている。

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よってGDPの価値が相対的に変化する点についても、機能が同じでも価格が変化しても、価格あたりの性能の変化をGDPのカウントに反映させる何らかの方法がないのである。アウトプットにおいては、近年、産業構造の変化や、社内外加工区分などの変化があり疑問もあるが、現在は付加価値を使っている。

ii) インプットの考察 インプットについては、人口一人当たり (percapita)や就労者数当たりといったマクロ的な測定が国際比較で行われる。社会経済生産性本部の日・米・独の三カ国の製造業における生産性国際比較においては、一人一時間当たり(当該産業の就業者総数 x 一人当たり年間総労働時間)の実質付加価値労働生産性を比較している。これは先の二つのインプット、すなわち、人口や就労者数よりも生産性水準の実態を表しているといえる。けれども、さらに考察すると投入労働時間では未だ正確な測定とは言えない。なぜならば、一人あるいは一時間当たりの労働の金銭的価値の違いが考慮されていないからである。たとえば、単位労働コストの問題である。企業がその競争力の優劣を把握することを目的とすれば、インプットとしての金銭的価値を含めた方が、より現実的な優劣比較ができるといえる。

 このように国際比較における生産性測定は、現在採用されている如何なる測定方法を用いても、マクロ的には問題はないがミクロ的には多くの矛盾が存在することは否めない。しかし、少なくとも製造業各社における生産性測定は、こうしたものよりもより正確な方法で測定されている。そのポイントは、アウトプットもインプッ

トも労働工数で測定するのである。つまり、アウトプットはその製品が如何なる金銭的価値を持つかに関わらず、それを生産するのに必要とする標準工数 4 で測定し、インプットは実際に投入された労働工数で測定する。また、間接部門単独対象には、それぞれのアウトプットを定義付けて、同様のインプットを使って測定する方法が技術的には確立されているが、製造業においては主体が生産部門であるのでアウトプットは直接部門の産出生産量を標準時間に換算測定した結果の出来高工数で把握し、インプットには間接部門を含めた総投入工数をあてて生産性測定をするのが実務的なものといえる。5 こうしたミクロ的な生産性測定比較は企業内あるいは同一産業内においてのみ可能であり、産業間や国際比較においては不可能なことであり、先に述べたマクロ的な測定法によらざるを得ないのが現実である。

2.1.3  生産性向上の誤解

 生産性とは生産高を一つの経営資源あるいは生産要素で除した商である。たとえば、生産高を資本、設備、原材料等に対比させるものに応じて、資本の生産性、設備の生産性、原材料の生産性が得られる。もっとも一般的な生産性の概念は、人間労働の生産性である。だから、特に限定されない生産性は労働生産性を意味する。労働生産性は生産高を労働時間で除した商である。この比率が科学的意味をもつのは、一方では分子に含まれる生産の技術的性質および条件が、他方では分母の計算に入る諸要素が明確にされる場合に限定される。ここで重要なことは、労働

4 世界で認知された標準時間測定技法(たとえば,MTM: Methods-Time Measurement)により設定された単位当たり数量の製品を製造するのに許容される標準時間に生産数量を乗じたもので、出来高工数(man-hour)で表現される。

5 間接部門については、本論文の主旨ではないので考察を深めることは避けるが、筆者が開発した考え方は以下の通りである。生産性という言葉の対象が生産部門を対象にしたものというとらえ方が一般的である。その結果生産部門で実践されているような方法、つまり、産出した仕事の成果を、それを得るために消費した労働工数で測定する方法では間接部門の生産性は測定できないという考え方である。時間で測ることのできない知的な仕事の部分を強調した反論である。この反論に対しては二つの考え方で測定ができると考える。一つは生産性の測定が業績向上に重要な意味を持たない対象、つまり生産性測定をすることが経営上の施策とする必要のない対象があるということ。(例えば、基礎研究やそれに近い研究部門という対象である。)次ぎに残りの対象間接部門については、その生産性を測定することが、経営施策として意義のある対象である。このような対象については、生産性を処理量(あるいは行動)生産性と貢献度(あるいは目的)生産性の二つのカテゴリーに分けて測定する。処理量生産性は直接部門の生産性測定と類似したものであり、ある産出成果を得るのに投入された工数で測定する。いま一つの貢献度生産性は間接部門毎にその部門の役割を測定可能なアウトプット(日本企業の実態は不明瞭であることが多い),それに関係する必要投入経営資源を定義付けして測定する。この二つの生産性の相乗積が間接部門の総合生産性である。たとえば、設計部門では図面作成枚数が処理量生産性のアウトプット、コストダウンや品質向上を織り込んだ設計によって得られる効果が、貢献度生産性のアウトプットである。購買部門であれば業者や発注アイテムの数が処理量生産性、購買費用(あるいは費用率)低減金額が貢献度生産性である。

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生産性は労働利用の総効果の尺度であって、労働そのものの提供する努力の尺度ではないということである。生産性は相互に依存し合う多数の要因の組み合わせによって影響をうけるものである。たとえば、使用設備の量と質、技術的水準、管理の良否、原料や部品の流通、扱う生産領域、生産諸単位の有効度に応ずる費用、そして労働者の職業的能力や努力である。 生産性という言葉は、国際的に権威のある機関、OECDによって、その用語が定義付けられたものであり、それを正しく使うべきである。 つまり、労働生産性は、労働利用の総効果の尺度であって、労働そのものの提供する努力の尺度ではないのである。労働をいかにうまく利用したかの尺度であって、労働者がいかに努力したかの尺度ではないということである。労働の強化によるものは、労働生産性向上とはいわない。

2.2 国際比較にみる日本の生産性

2.2.1 GNP2位、国際競争力16位のギャップ

 社会経済生産性本部は毎年、「労働生産性の国際比較」を発行している。その内容はOECD 6 の中の12カ国(日本、米国、ドイツ、フランス、英国、イタリア、オランダ、スウエーデン、スペイン、カナダ、オーストラリア、韓国)を対象にして、それら12カ国の、GDP(実質国内総生産付加価値)をアウトプットとし、国民一人当たりGDP、あるいは、就業者総数で割って国民経済生産性としている。また、IMD(Ins t i tu te fo rManagement Development)の発行する「The WorldCompetitiveness Yearbook」[IMD 99] においては、OECDを含めて広く世界47ヶ国の生産性国際比較を発表しているが、OECDの生産性算式に順じたものとなっている。さらにIMDでは288の評価項目に関し競争力を数値化し分析している。国際機関、各国・地域から得た統計データ、および世界各地のマネジメント職4160人(筆者も回

答に参加)を対象にした意識調査に基づくものである。1999年の日本の競争力は世界の中の16位。1998年の18位から上昇したが、95年、96年の4位に比べ、はるかに低いポジションとなっている。ここでの競争力は、国内経済、国際化、政府、金融、社会資本、企業経営、科学技術、および人的資源の8項目の評価である。96年と99年の比較で日本の顕著な低落項目は、国内経済と企業経営である。なかでも「企業経営」は、2位から26位という極端な順位の下落である。日本の国際比較における劣位は、この年報にも明確に現れている。

 日本が自らコントロールできる20の弱い評価項

目について、仮定の47ヶ国・地域の平均値 まで改善

したら、順位はどうなるかをみた。(中略)日本の順

位は16から8位に上昇することがわかった。7

そのなかで、日本の生計費と事業コストが高いことを指摘している。 日本は1969年にGNPは世界第二位となった。

(1969.06.10.発表)一方、戦後日本経済の発展の背景を探索するなかで、日本の製造業における生産システムの有効性が取り上げられ、それが競争力優位の源泉と表現された。そのきっかけとなったのは、文献『リーン生産方式が世界の自動車産業をこう変える』 [Roos, Womack & Jones90]という調査報告であった。 第二次大戦後、日本の製造業は欧米を生産性の師として一方的に学んできたもので、日本の自動車メーカーはもとより、誰もが世界をリードする生産性水準など意識したこともなかった。それが世界的に注目を集めるようになった。しかし、日本的生産システムの論理的なシステムとしての優位さは今も立証はできていないのである。つまり、日本の特徴的な量的規模の経済発展とその経済発展の重要な要因である生産性との関連性が十分につけられていないのである。歴史上まれにみる急速な経済発展を遂げ、世界第二位の経済大国となった日本、そのバックグラウンドに世界トップクラスの生産性、さらに

6 OECD, Organization for Economic Co-operation and Development: 現在29ケ国。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ベネルックス3ケ国、スウエーデン、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、スイス、アイスランド、アイルランド、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、トルコ、アメリカ、カナダ、日本、フィンランド、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、韓国。

7 [レイン99] p.24

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世界の産業界に広く知れ渡り普及していった日本的生産システムというユニークさの存在があるとなったのである。しかし、1992年以降の景気後退、8 バブルの崩壊以降今日に至る経済不況の実態は、これらの思いこみに警鐘を与える結果となっている。              近年の日本の製造業は、日本的生産システムについての海外での高い評価に甘んじ、国際比較にみる序列をよそに日本の生産性は高いのだという誤った存在感を持ってしまい、欧米諸国の優れた生産システムへの関心を怠ってきているのが実態である。それは日本的生産システム、その代表的なリーン生産の効用が何度も論じられる履修効果によるものといえる。日本の製造業全体が国際的にみた生産性は高いという理解は反省すべきことである。たとえばリーン生産は、自動車産業・トヨタにおける実践が高く評価されたものであった。しかし、他の産業においてもユニークな日本的生産システムによって高い

生産性を達成していると考えている実態も事実である。このことが、欧米先進国における生産性向上の歴史の中で展開してきた生産性向上技術である , インダストリアル・エンジニアリング(IE)9 技法の多くを、未だ実践できていないことの反省を謙虚にできないまま、学ぶべき基本的なIE技術の普及を妨げていることも事実である。

2.2.2 国際比較15位の生産性水準

 就業者一人一時間(インプット)当たりのGDP(PPPで測定)によるアウトプットで測定した労働生産性(labor productivity)の国際比較順位10 は15位で、世界トップのルクセンブルグは日本の150%の水準である。図表1は日本がキャッチアップの目標としてきた先・先進主要工業国11

を抜き出して、日本との比較をしたものである。そこに見られるとおり日本は劣位にあり、日本

8 バブル期:1988から1991.1992より景気後退1989年12月株価は38,915円まで上昇し、バブル経済はピークに達した。1990年秋には2万円にまで大幅下落し、バブル経済の崩壊が始まっている。その後景気は後退して、1992年には14,309円まで落ち込む。

9 Institute of Industrial Engineers (アメリカ インダストリアル エンジニア協会)の IEの定義は「人、物、設備およびエネルギーを総合したシステムの、設計、改善、設置に関する活動で、そのシステムから得られる結果を明示、予測、評価するために、工学的な分析、設計の原理、方法とともに数学、物理学および社会科学の専門知識および経験を活用するものである。」

10 各種測定による生産性の国際順位。

International Productivity

出所:IMD The World Competitiveness Yearbook Lausanne, Switzerland: IMD. 1999。

11 日本は1963年にGDP世界第二位を達成、1964年にOECDに加盟、その2年後に世界銀行が日本を先進国とみなすこととなった。よって、筆者は日本が先進国になる前の先進国を先・先進国と呼んで、日本と欧米の先進工業国との区別することとした。

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を 100%とするとフランス131%、アメリカ122%という水準の格差が存在する。対象を絞った製造業の生産性(productivity in industry)における比較においては15位、トップのイスラエルは日本の135%の水準である。[IMD 99] このように国際比較で劣位にある日本の生産性について、日本の経済発展、日本製品の国際競争力の強さや日本的生産システムが先・先進国にも採り入れられている実態からは疑問をもたれるかも知れない。けれども、どのような生産性指標を使った比較においても、日本の生産性は国際的にはトップクラスにはないのであって、日本が高い生産性向上率を達成してきたことは誇るとしても、その到達した水準の上に未だ高い生産性の各国が存在するのである。日本の生産性活動についての高い評価の背景には、日本の生産システムと呼ばれるものがあるのだが、システムと呼べる体系だったものが具体的に存在するわけではない。それは後述する日本的生産システムの代表格と扱われている「トヨタ生産方式」の社内訓練テキストを見れば明らかである。その国際的知名度が高まることによって、

イメージ(勝手な解釈での)としての生産性の高さが重なってしまったものである。

2.2.3 高い年次推移、低い絶対水準

 いま一つ日本の生産性が高いという評価には発端がある、それは生産性の推移に見ることができる。日本の製造業の1975年より1995年までのGDP/capitaは181%の伸びである。本当に日本の生産性は世界各国比較で高い水準にあるのだろうかという疑問に応えてくれるのが図表2である。上部の3本“a, b,およびc”の推移は日本の1975年を100としたときの向上率推移であり、それぞれ“一人当たりGDP”、“就労者当たりGDP”、そして“就労・投入工数(MH、マン・アワー)当たりGDP”である。

下部の3本の推移はGDPが世界一位のUSA各年度の水準を100 としたときの推移を示したものである。12 “工数(MH)当たりGDP”の水準は、1975年対比で1995年に248%の飛躍的な伸びを

図表 1 労働生産性国際比較

出所:IMD The World Competitiveness Yearbook Lausanne, Switzerland: IMD. 1999.GDP(PPP) per employee per hour in US$の日本対比より筆者がグラフ作成

12 [社会経済 98] p.13.GDPは購買力平価、PPPで産出した実質付加価値である。為替レイトは1990年の1$=¥195.5を使用。1990年の実際の平均為替レイトは1US$=¥144.8であった。

フランス�イタリー�アメリカ�ドイツ�ノルウェー�デンマーク�フィンランド�オランダ�カナダ�日本�スイス�

オーストラリア�英国�

スウェーデン�

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日本の製造業における生産性実態の考察 259

記録したのだが、米国( USA, 以下USと表示 )水準との対比では日本は未だUSの72%の水準である。つまり日本がUSの生産性水準に向上到達するためには、現状水準より139%の向上が必要である。産業別においては1975年対比における伸びは輸出産業である自動車において335%、電気機械では1,968%の伸びであるが、US対比ではそれぞれ84%および59%という低い水準である。このように生産性の伸び率は大幅であるが、USとの格差は未だ大きいのである。先・先進国対比の生産性水準は、今なお格差が存在するばかりでなく、推移にみる格差縮小は低調なものである。

2.2.4 周回遅れの懸念

 日本企業の生産性国際劣位や国内における自動車産業のTFP( total factor productivity )13 貢献の低い実態は、製品が華やかな国際競争優位を展開出来ていたとしても、そのベースとなる製造の諸施策において未だ大きな向上余地を残して

いることを認識すべきである。走っているトラックは同じで一歩前に出ているようだが、それが周回遅れの可能性があるのだ。 筆者が強調したいことは、リーン生産というネーミングのもとに紹介された日本的生産システムが、日本企業の生産の経営施策が唯一最善のごとき感覚を日本企業が持っていることへの疑問である。ましてや、リーン生産が有効なマネジメント技法であっても,国際比較にみる日本企業の優位さを示し得るシステム的特徴はないということである。(後記)従業員の自主的活動の良さが、小集団活動ひいては TQC( t o t a lquality control)活動ともてはやされ、日本における従業員管理、全組織的活動が注目をされ、それが欧米の先・先進国企業で導入されるのをみて、日本的生産システムの優秀さと自我自賛してきたのも事実である。さらに、こうした風潮のためにオーソドックスな生産性向上の技術であるIE、その基本的な生産性向上技法の導入が疎んじられている。14 その結果、先・先進国との生産性向上結果の比較において、依然劣位に甘んじてい

図表 2 生産性:対75年推移・対US水準

13 TFPは全要素生産性である。内容は(実質付加価値)/ (集計投入量指数)として計算する。14 日本の製造業においてIE活動の実践とそれによる生産性向上活動が疎んじられている実態は、以下のような実態を指すものであ

る。オーソドックスなIEというのは、基本的なIEとも呼ばれるもので伝統的なIE技術をさす。それは方法工学(メソッド・エンジニアリング, methods engineering )と作業測定(ワーク・メジャメント, work measurement )である。F.W. テイラーやF.B. ギルブレス等が開発したものがルーツとして、その後技術的な発展がされてきた。たとえば、その基本的IEの活動テーマの一つに作業測定がある。今日、作業測定についてはMTM ( Methods-Time Measurement )に代表される作業の標準時間設定技法が世界のIE関係諸団体によって公認されたものがある。生産作業に世界標準時間を設定し、生産管理の諸課題に活用するための経営管理のベースである。日本能率協会コンサルテイング(JMAC)が実施した調査(JMAC [1985][1995]『生産性測定実態調査報告書』JMAC)によると、この世界標準時間の日本での普及率は低く、欧米の73%に対して日本は47%( 1985年調査は36% )である。この10年間に簡便な作業測定技法が日本に導入されたことによって約10ポイントの向上は望ましい結果であるが、未だ低い状態である。

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るのである。欧米の企業や社会に見られる豊かな社会構築への企業施策の実践が疎んじられながら、“外国に学ぶことなし”という驕りも存在した。日本的生産システムの知名度向上に比例して、そのことがそのまま日本の国際優位性という誤解を助長してきたのは事実であり、反省をすべき段階にあるといえる。しかし、国際比較における劣位の日本の現状は、トラック競技における周回遅れの同列走行であったことをいま反省すべきであると考える。日本的経営と欧米のやり方という単純な二者択一では望ましい方策を手に入れることはできない。原点に戻って生産性向上、収益性向上そして新しい社格向上という視点での企業政策の実践が重要な時代になってきていることを認識してゆかなければならない。 売上増大、市場シェア拡大という量的増大が、企業にとって豊かさを約束してくれる訳ではない。豊かさは量ではなく質的向上、つまり収益性の向上によってもたらされると考える。日本企業の国際比較における収益性の低さも特徴的である。設備投資中心の生産性向上で、収益性を犠牲にして自社優位を狙う姿勢に反省を必要としているといえる。日本製造業の生産性水準は、先・先進国に比較して未だ低い。しかし、このことは多くの生産性向上余力を含み資産としてもっているということである。このような筆者の見方に対して反論されるのは、日本の自動車産業は世界トップの生産性水準を達成しているからこそ、国際競争力が高く、世界市場で自動車先進国の欧米の自動車メーカーを相手に優位を保っているではないかというものである。いま

一つは、日本の製造業には大きな生産性向上余地は残っていないというものである。 また、低額商品、付加価値の低い製品での生産性向上は、その生産活動の厳しさに比較して、そこから得られる経営業績貢献、すなわち収益性貢献には明らかなハンデイを負っていることとなる。

2.3 リーン生産の生産性貢献の評価

2.3.1 トヨタ生産システムの生立ち

 リーン生産は日本の代表的な自動車メーカーであるトヨタ自動車(トヨタ)に主として由来するものであり、「トヨタ生産システム」と呼称されてきた。それは、のちに「リーン(lean)生産システム」といわれ、今世紀初頭に大量生産方式として確立されたフオード・システムを超えるものとして位置付けられてきた。 トヨタ生産システム( 以下トヨタ・システム )のベースであるJIT生産の生い立ちは、1950年東洋工業(現在のマツダ)で新郷重雄(当時、日本能率協会のコンサルタント)が、生産能力向上のためにネック工程のプレス機の品種切替時間短縮改善の依頼を受けた。そして、段取作業の内容を機械を止めて行う内段取りと、その他の外段取りに区分することを考案した。その結果飛躍的な段取時間の短縮を実現したのである。その後1957年に三菱重工業広島造船所を経て、1969年にトヨタ自動車・車体部で、1000トンプレスの段取りをトヨタで4 時間のものがフォルクス

5年間の生産性向上率を比較すると、年率5%を超える生産性向上率の実績を上げたと答えた企業数は、作業測定実施企業では回答企業の64%、非実施企業では49%で明確な差がでている。また、日本の電機メーカー5社とアメリカのウエスタン・エレクトリックの生産現場に入り調査した詳細な生産性比較報告書がある。その内容は、経営コンサルタントの私の製造現場での経験を重ねてみて、日本の工場の実態を把握した評価の高いものである。そこでは、4つの神話と5つの現実がまとめられている。 神話1:アメリカより欠勤率が低い、神話2:アメリカよりも企業への忠誠心が強い、神話3:アメリカ人よりよく働く、というもので日本の生産現場の実態が誇張されてアメリカに伝えられているというものである。そして、現実1:アメリカ人より作業員1人当たりの生産技術者の数が多い、現実2:作業員を選別して採用している、現実3:厳密な年功序列賃金制による利点がある、現実4:勤続年数が同じでも給料額には相当な差がある、現実5:独特の資本構造になっているなどと、今まで紹介されていなかった現実を取り上げている。「作業ペースは、かって私が訪問したウエスタン・エレクトリックの工場よりも遅いように思われた。これは日本のどの企業の工場へ行っても同じであった」という。日米の工場管理でもっとも異なる点は、現場作業者のSOP( Standard Operation Procedure, 作業標準書)が設定されず、世界標準の作業ペースの標準時間が設定されてない企業が日本には多いことである。また、IE( Industrial Engineering )技術者が望ましい高い生産性の作業手順を設定せず、作業者まかせの方法を容認している。工作機械の切削条件の決定が作業者に負かされていることも多く、その結果世界標準を100%とすると、例外なく日本の工場の標準達成率は50ないし60%である。そして、約1年をかけた作業測定システムの構築と標準作業の実践で、100ないし120%、すなわち2倍の生産性向上を達成しているのである。また、生産をサポートするスタッフの数はウェスタン・エレクトリックが作業者8人に対して1人、日本では4人に1人という2倍のスタッフが配置されている。日本は生産性や品質を高く維持するために極めて多くのサポート・スタッフを配置しているのである。[Weiss 84] pp.121-124

 

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日本の製造業における生産性実態の考察 261

ワーゲンでは2時間でやっている、何としてもこれを追い越せというトップの指示をきっかけに取り組み、半年後に1時間30分まで短縮した。この経験がその後発展し、シングル段取り、すなわち1桁の分の時間内に段取りを実践するまでに発展してゆくのである。段取時間が短くなれば、経済的な生産ロット・サイズは小さくても不経済な生産とはならず、段取時間がゼロだと一台づつ異なったものを生産しても一切の生産上の非効率は発生しないのである。トヨタ・システムの論理は、「徹底したムダの排除」によって達成される。そして、ムダの排除は、「ジャスト・イン・タイム」(just in time, jit, ジット)と「自働化」の二つのコンセプトを通じて可能になったのである。[森本 99] ニンベンの自働化はトヨタ独特の考え方であり、機械そのものの自動化ではない。そのような自動化では設備の不都合によって多くの不良品を作ってしまい、ムダを生み出してしまう。そこで、トヨタではその自動機の限界を克服するために、異常時に機械が自動的に停止することを考えたのである。「ポカよけ」と呼ばれるのもその一つの方法である。このような自働化は設備そのものの高度な自働化を指向するわけではないので、高額の設備投資を必要とせず、作業者の配置においても、ほとんど発生することのないトラブルに備えて作業者の配置をする必要がなく、トラブルで機械が停止したときには作業者が、その都度そこに移動してくれば良いこととなるのである。 そして、この効用がコスト低減、欠陥ゼロ、在庫ゼロ、製品品種の拡大可能性を実現できるのだから経営業績への効果が大きいということである。さらに在庫低減はカンバン制度、品種の増大は大量顧客対応(マス・カスタマイゼーション、mass customization) へと発展している。しかし、それは労働生産性の向上を直接狙ったものではなく、経済的な生産ロット・サイズを小さく

するためであった。しかし、製造業における総作業時間の中に占める段取り時間の大きさは、シングル段取りが実施される以前においても一般的には15%以下で、段取り時間の短縮による生産性向上効果は大きくないといえる。 部品製造メーカーからの部品調達においては、必要な物と量を必要な時に納入させるジャスト・イン・システムを確立し、過剰生産および余剰在庫の削減を図ったのである。これはアッセンブリー・メーカー側からみた徹底したムダの排除であり、有効に機能した反面で、ジャスト・イン・タイムに最終組立ラインに部品を納入する点で、協力会社では長時間労働が強いられ、組立ラインへの供給遅れによるペナルテイ金銭負担を避けるために予備在庫を持ちながら、アッセンブリー・メーカーの人達には、それを隠すとか、配送トラックが交通渋滞による納品時刻遅延のリスク回避のために早めに配送地点の近くに到着し、そこで運転手が納品時間に合わす時間調整をするという、明らかに協力会社の時間的、費用的負担がこのシステムを支えている面があったことも事実である。

2.3.2 リーン生産の生産性向上成果

(1) 10年でわずか200%向上 トヨタ・システムによる生産性向上成果の一つの例を紹介しよう。図表3はアイシン精機の生産性向上実績である。約10年間の生産性向上実績を示したものである。その生産性指数(計算方法不明)によると、10年間で2倍(200%)の生産性向上を達成、すなわち、年率約7%の生産性向上を10年間継続した結果である。この年間7%は一般的な向上率からいえば顕著なものとはいえない。 たとえば、インダストリイ・ウイーク(Industry

図表3 アイシン精機の生産性向上実績

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Week, US) 誌の "ベストから学ぶ(Lesson from theBest)" (図表4)によると、US製造業の生産性向上率の平均は5年間でプラス約90%(2倍)の水準)であり、10年では約4倍の生産性向上率であり、今後5年間の生産性向上のベンチマークとしての目標値は5年間で300%、つまり3倍という高いものである。筆者の経験によれば、生産性向上を意図的に経営施策として推進している企業であれば、年率約10%以上あり、優良企業においては年率25%以上の生産性向上率を継続的に実践している。5%前後の向上率であれば特に生産性向上施策を経営の重点課題としなくとも達成できる水準である。トヨタグループの中核企業、リーン生産を徹底しているトヨタ直系の企業における生産性向上率の実績としては大変興味深いデーターであるが、生産性向上実績におけるリーン生産のユニークさは全く認められないと言える。

(2) 研究論文にみる成果 リーン生産の一般的な考察はこの論文の関心ではないし、多くの研究がすでに行なわれてきたことであるので、新たな考察の価値はないものと考える。ただ、労働生産性についてリーン生産がどのように貢献があったのかについては、興味を覚えることである。 リーン生産に関する研究論文に示されている労働生産性の比較数値をまとめたのが図表5である。 何れの論文においても、日本自動車産業の生産性は高く組立所要工数は少ないという数値である。しかし、生産内容の詳細が示されていないこのような数値を即座に信ずることはできない。

この比較には対象とする車がどの様に同じ車として比較できるのかという設計仕様、製造面における内外作の工数比率、1台当たりの付加価値などは一切説明されていないし、「時間」という単位の定義付けも定かではない。仕事量は時間 (hour)ではなく、経過時間とそこに投入された人数を乗じた延べ時間、つまり工数(man-hour)で測定するのが正しい。よってこの時間数が延べの作業量を表しているかどうかも明確ではない。製造業では工数という測定メジャーが日常的に使われているのに、それが採用されていないということには、データの不備を指摘せざるをえない。また、組立作業の範囲をどの様に類似とみることができるのか。つまり、組立作業とよぶ作業内容の均一性が立証されていない。特にバーグレン [Berggren 94] の資料によると、日本にある日本車工場おける大量生産車と高級車の所要工数が、同じ9.1時間という明らかな矛盾が存在している。 一方、生産性と自動化率の比較15 においては、日本の工場は自動化率は高く、台当たり時間も少ないというものである。その比較において、欧米では日本と同様の自動化を行っても、「人手による組立作業から未熟な直接労働者を減らしただけ、非直接的な技術要員を増やすことになるからだ。自動化よりもリーンな組織を取り入れるのが先決である。」[Berggren 94]日本の工場での間接要員が欧米より少ないという、この点については同意できない。日本企業の製造をサポートするスタッフ要員の数は、電機業界の比較調査であるが、スタッフ:作業者の比率は、USが1:8に対して、日本では1:3~4と約2倍の

図表 4 ベストの生産性実態

出所:Industry Week ”Lesson from the Best” February 16, 1998. p.28~36

15 [Roos/James/Jones 90] 邦訳p.119

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日本の製造業における生産性実態の考察 263

図表5 世界の自動車工場の工数比較

サポートスタッフを投入しているという結果がでている。つまり高品質も高い機械の稼動率も生産性も、直接作業者を支える多くのスタッフの存在によって達成されているのであり、こうした間接要員の工数をどのように評価したのかも定かだではない。 [Weiss 84]

(3) 自動車産業の製造業TFPへの貢献 小集団活動やリーン生産に対する先・先進国の関心を、日本の生産システムの絶対的優位性とらえるのは早計である。そのやり方に良さのあることを否定するものではないが、日本のやり方をコピーしているとして、果たして日本のやり方が先・先進国の水準と並んだとか、それを越えたと考えるのは誤りである。なぜかといえば、生産性国際比較において劣位(前掲の図表1,2)にある事実を忘れてはならないと考える。ましてや製造業・産業別TFP上昇率の各業種の寄与(図表6)に見られるとおり、リーン生産実践の中心的存在である自動車産業、その属する輸送機械産業の製造業全体の生産性向上貢献は、必ずしも顕著ではない。 筆者の日本および欧州での生産性向上へのサポート経験からみると、日本で生まれたリーン

生産が欧州企業に普及している事実をとらえて、あたかも、日本の生産性水準は高く、その源泉はリーン生産をはじめとする日本的生産システムにあるとする日本企業の思いこみに対する疑問である。リーン生産そのものの経営業績貢献があるからこそ広く普及してゆくわけであるが、だからといって日本の製造業の生産性施策策定にあたり、欧米に学ぶことなしというのは疑問である。筆者がボルボ(VOLVO)社のイエーテボリ工場(スウェーデン)で生産性向上のサポートをしていたある時に、某メーカーの幹部が工場をみる機会があった。そして、次ぎの日、新聞に工場見学所感が紹介されていた。その見出しは

“何も学ぶことなし”というものであった。日本から約10,000kmも離れた国で、日本の価値観で見ること自体意味のないことであるのだが、こうした発言の背景は国際競争における優位さ、その背景にリーン生産を生み出し、実践しているという自負があるのだろう。ユニークな実態は、作業環境、従業員への QWL (qual i ty ofworking life) 配慮の職場作り、ユーテイリイテイ施設の設置方法、食堂、福利厚生施設など、先進国としての誇りを感じさせる経営管理が実践されていることである。

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 たとえば,最近アメリカにおいて日本食ブーム、醤油の評価が高くなったといわれている。すると即座に日本料理がアメリカの食卓メニューを塗りかえるのかとか、醤油が日常的に使用されるよう変化したと早合点するのと似ている。従来の調味料に比較して醤油はユニークな味覚であるということであって、従来のものにとってかわられる訳ではない。市民権をやっと得たというレベルのことでしかないのである。 日本の生産性の国際格差について、何が課題か少し考えてみよう。それはマネジメントの構築におけるシステム思考にあると考える。経営実務における成功体験を、個別の経験にするのではなく、いかに汎用(ユニバーサル)化するかということが大切である。そして、結果よりも結果にいたるプロセスを標準化したシステムを構築する。その標準化されたシステムを、企業内に周知徹底させる。そして成果に弱点があれば、すでに構築されたシステムそのものを見直し強化するという思考が日本人には弱い。このシステム思考がマネジメント実務において定着しない

限り、トピックとしての優れた成果がいくつあっても、それはバラツキの存在に過ぎず組織全体の水準(レベル)を向上することには弱点が存在する。良好なマネジメントの要素は、バラツキの低減と平均レベルの向上である。このようなシステム思考でのマネジメント・システム構築に日本と欧米の格差が歴然と存在するのである。

 筆者の製造業における経験からしても全く同感である。日本企業はトピックとしての優れたものを持っているにもかかわらず、それをシステムとして普遍化し、客観的な表現で具現化することが弱いために、なかなか他に転移されないのである。リーン生産と呼ばれるものも、USの企業が関心をよせ、実践することによって容易に理解でき導入実践できるシステムとなり、欧米に普及している。しかし、それは日本企業の実践するオリジナルなものとは似て非なるものである。このことは後述の「トヨタ生産方式」の社内訓練テキスト内容をみれば、容易に理解できることである。

図表6 全要素生産性・TFPへの各業種の貢献

出所:『エコノミスト臨時増刊:’97経済白書総特集』1997年8月4日号 毎日新聞社 p.188

その他�

71-'75 76-'80 81-'85 86-'90 91-'95

輸送機械�

電機機械�

年度�

一次金属�

化学�

食料品�

一般機械�

3.0%

2.0%

1.0%

0%

-1.0%

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日本の製造業における生産性実態の考察 265

2.3.3 トヨタ・システムの考察

(1) 社内テキストにみるトヨタ・システム トヨタ生産システム(生産方式とも呼ばれる)とは、どのような概念、技法および思想がベースにあるのだろうか。図表7は、「トヨタ生産方式」の社内訓練マニュアルの目次である。 その内容の特徴は以下のように整理することができる。 ¡. 極めて基礎的なIE改善技法のスポット的紹介。IEの改善視点を羅列的に、実践経験があったと思われることをスポット的に集大成している。トヨタ生産方式の改善技術としてのユニークさを見出すことはできない。 ™. 精神論強化の意気込みが見える。ムダという言葉そのものは当然であるが、論語問答のような論法での改善の必要性を説いている。 £. 生産性という用語が見られない。タイトルは“原価低減のための”となっているが、これがトヨタ生産システムの基本テキストである。つまりコスト(原価)低減への改善実施の関心であり、生産性向上が目的ではないのである。 ¢ . 有効性(e f f e c t i v e n e s s)と効率性

(efficiency)の論理区別がされていない。作業方法の変更、設備機械の導入や自動化とそれを使っての能率の向上活動の区別が全くされていない。理論など不要、何でも工数を下げることができればそれで良しということであろう。 v. 人間尊重をうたっているが、緊張感を強いている。かんばん、ポカ(バカ)ヨケ、あるいはアンドンという方法で現場管理は効率的に行なえるが、そこで働く作業者へのプレッシャー、緊張感は増大するのではないのか。 「乾いたタオルを絞る」とか、「絞ったタオルも時間がたてば湿る」と、俗にいわれるトヨタイズムとその実践が具体的に認識できる内容である。トヨタ生産方式は、システムとしての特徴を持ったものではない。つまりトヨタという企業イズムの中でのみ効果を発揮できるものである。だから、それが他社に対しての優位性を持たせるものだということができる。多くの企業で採用されている「かんばん」という形の部分は、トヨタ・システムのあくまでも一部分であり、コピーのできる部分にすぎないといえる。その真髄、凄さはむしろ精神的な部分の素地が違うととらえるべきであろう。さらに、コスト競争力の強化こそが、トヨタ生産方式の唯一の達成目的であることもよく理解すべきである。

図表7 トヨタ生産システム・訓練テキスト目次

第一章 トヨタ式工数低減法第一節 トヨタ式生産システムの特徴と二本の柱

1-1トヨタ式生産システムのめざすもの1-2トヨタ式生産システムの二本の柱

1-2-1ジャスト・イン・タイム

1-2-2自動化第二節 トヨタ式生産システムの基本的な考え方

2-1経営に直結した全社的 IE2-2科学的態度2-3実践的な活動2-4「経済性」が判断のすべて

2-5現場の位置付けが明確2-6変化への即応性を重視

第三節 工数低減と原価低減3-1工数低減の目的は原価低減3-2ダがムダを招く3-3経済的有利性の考え方

3-3-1余力がある状態と無い状態3-3-2埋没費用

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3-3-3継続して発生する費用と一時的に発生する費用3-3-4率の使い方

3-4まとめ第四節 工数低減と品質

4-1品質について

4-2品質は工程で造り込む4-3品質は改善の真価4-4不良と検査4-5検査工の真のねらい4-6バカヨケ

第五節 工数低減と安全

5-1安全はすべてに優先5-2工数低減と安全の関係5-3安全な生産現場への第一歩5-4安易な自動化がケガを生む5-5ある機械工場での実例5-6ワンタッチ起動は危険か

第六節 工数低減と人間関係6-1トヨタ式生産システムの基盤は人間尊重6-2真の人間関係は相手の身になって6-3信頼関係は改善活動への全員参加

第七節 工数低減活動のすすめ方7-1現場作業の中身の認識

7-2造り過ぎのムダ7-3タクトの考え方7-4作業の再配分7-5改善の順序7-6その他の注意事項

7-6-1見てわかる現場にしておく

7-6-2ライン・ストップを恐れない7-6-3人の減らし方

第八節 工数低減と監督者8-1監督者の役割8-2異常による管理8-3ライン・ストップの考え方

8-4改善の実施8-5監督者としてこころが心掛けること8-6監督者のライン入りについて

第二章 能率第一節 能率とは

1-1効率と能率

1-2目的は原価低減1-2-1稼動率と可動率1-2-2真の能率と見かけ(計算上)の能率1-2-3「生産量=必要数」が大前提

第二節 個々の能率と全体の能率2-1一人一人の作業の能率

2-1-1動くと働く2-1-2労働密度2-1-3自動化と自働化

2-2ライン作業の能率2-2-1作業者間のバランス2-2-2相互の助け合い

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日本の製造業における生産性実態の考察 267

(水泳と陸上のリレー)2-3工場全体の能率

2-3-1平準化生産2-3-2小ロット生産

第三節 能率向上はムダの排除で

3-1能力の浪費はムダ3-2ムダの種類

3-2-1造りすぎのムダ3-2-2手待ちのムダ3-2-3運搬のムダ3-2-4加工そのもののムダ

3-3ムダ発見が高能率の第一歩第三章 標準作業第一節 標準作業

1-1標準作業について1-2標準作業と作業標準1-3標準作業と監督者

第二節 標準作業の作成2-1標準作業の三要素

2-1-1サイクル・タイム2-1-2作業順序2-1-3標準手待ち

2-2部品別能力表

2-3標準作業組合せ票による組み合せ2-4設備能力と作業の組み合わせ

2-4-1ライン編成2-4-2もう一つの作業の組み合わせ

第三節 作業要領書3-1作業容量書について

第四節 作業指導書4-1-1 作業指導書について

第五節 標準作業にもとづく作業のすすめ方第四章 かんばん方式第一節 かんばんについて

1-1かんばんの誕生

1-2原価低減活動は居候絶滅運動1-3居候絶滅運動の第一歩は目で見る管理1-4目で見る管理のための重要な道具「かんばん」

第二節 かんばんの精神2-1現場の徹底的観察が大前提

2-2合理性追求と人間尊重の両立2-3改善に向かって不断の努力を2-4物事はきめたとおりには動かない

第三節 かんばんとは3-1かんばんの機能3-2こんなものも「かんばん」

3-3こんなものにもかんばんは使える第四節 かんばんのルール

4-1第一のルール:不良品は後工程へ送らない4-2第二のルール:後工程がとりにくる4-3第三のルール:後工程が引き取った量だけ生産する4-4第四のルール:生産は平均化する

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 日本企業の一般的な発想として、たとえばコストダウンの展開にあったって、そのアプローチをシステムとして確立し、その考え方をきっちりと関係者に周知徹底させる努力をし、それがどのように望ましい姿、目標の到達度かというパフォーマンスを測定することへの関心は薄い。トヨタ・システムにもそれはない。つまり日本企業の生産性向上活動は、重要と考え付く課題、方策を無作為に対処するランダムアプローチであって、系統的に対応するシステマテイック・アプローチとの対極にある方法である。このマニュアルの構成、内容も正にマネジメントが気づいたこと、経験したことを厳しいコントロールによって徹底させようとするものにすぎないのである。なぜ、その厳しさが要求されるのかといえば、システム化の不備を補うためである。マネジメントが強引な力と、統制(コントロール)強化を従業員に強いることによって成果を上げ得るもので、非効率なマネジメント行動といえる。

(2) 良好な労使協調の成果   トヨタでのトヨタ・システムで成果を上げてきてことで忘れてはならないことは、1940年代末に経験したトヨタの大争議のあと、豊田一族と労働組合の妥協により、終身雇用と会社の業績に応じてボーナスを支給するという労使協調路線の確立という事実があったことである。従業員はトヨタ・コミユニテイの一員となったのである。さらに組合側は、仕事の中身に文句を言わない。積極的に改善策を講じて会社の利益を上げるよう努めるという点であった。このような生産性向上の労使協調路線は、その後のトヨタの発展、業績の基本的背景になっているとい

える。このことはトヨタの会社基本理念にも読み取る事が出来る。そこには「社内外の総力を結集し『世界のトヨタ』として着実な発展を期する」とある。 トヨタ・システムのベースはIEである。IEの定義 によれば、「社会科学および経験を活用する技術である」という部分がある。実施経験の豊富さが成果を上げることに関係するというものである。トヨタにおけるトヨタ・システムの成功は、そこで働く経営者・管理者の業績向上の意気込みの強さ、そして従業員の忠誠心の高さが成否の重要な分岐点であったといえる。トヨタ・システムあるいはJITで短期間に成果を上げたいずれの企業においても、その社内気風はまさにファッショ的マネジメントそのものである。JITは意気込み、精神論で成果をあげてきた部分が多く、たとえば、USにおけるリーン生産という名の下に体系化し普遍化されたものには、この日本人独特の精神構造とそのマネジメント・スタイルには立ち至ることが出来ていない。このような精神面の特徴、特にトヨタにおけるその徹底さは、再現性のある方法論として捉えることはまったく不可能といえる。アメリカ育ちのリーン生産は、トヨタ・システムから転移することのできる形の部分を取り上げ、まとめたものにすぎず、それは、トヨタ・システムとは異なったものであるというのが正しいといえる。

(3) IE要素技術の一側面活用 日本の製造現場を見るときに、機械化・自動化、作業者の機敏な動きといった目に見える印象をもって生産性を評価するならば、国際比較順位劣位で先・先進国とのギャップに疑問がでてくることであろう。しかし、生産現場の実態を

4-5第五のルール:かんばんは微調整の手段である4-6第六のルール:工程を安定化・合理化する

付 記 作業の仕方の移り変わり第一節 機械の配置

1-1単独の配置 -一人一台持ち-

1-2機種別の配置 -一人二台持ち-1-3工程順の配置1-4流れ生産方式の台頭

出所:「原価低減のためのトヨタ式生産システム -トヨタ方式 -」トヨタ自動車社内訓練資料より)

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日本の製造業における生産性実態の考察 269

見てその生産性の水準を適切に評価することは、生産性の専門家においても極めて難しいことであり、そのような評価をすることはありえない。たとえば、如何に作業者が早いスピード

(efficiency, 効率を構成する一要因)で作業遂行をしていたとしても、標準作業方法の内容が無効な作業を容認したものであれば生産性は高くない。一方、一見低調な作業態度に見えても、作業標準の内容が良く検討され、高度なもので、その標準の遵守が徹底されておれば、見かけのスピードの観察結果が低くても生産性水準が高いことはよくあることである。   日本の製造業が世界市場で優位なビジネス展開をするようになり、たとえば日本的生産システムが欧米の人達に注目されるようになって、結果として西欧モデルの良い点を取り入れて、その上に日本的なものを付加するという思考が後退して来ているようである。先・先進国で生産性向上実績を上げてきたオーソドックスな生産性向上の技術の実践を軽視するという、生産性向上施策についての不都合な選択をしているのが日本の製造業の現実である。つまり、日本的生産システムといえる転移可能な明確なシステム、良好な結果を得るための再現性のあるシステムが存在するわけではない。それよりもその課題評価、あるいは誤解に基づく過信が今日の日本の生産性を考える時の課題である。90年代に至る日本経済の成長の勢いは特筆されるべきものであったが、バブル崩壊後の長期不況にみまわれている日本の実態は、今更ながら日本の強さとは何であったのかという疑問を投げかけざるを得ない。まさに「ひ弱な日本:Japan: The FragileSuperpower」 [Gibney 75]という表現が当を得ているといえるのである。

 数年前まで“日本的経済”こそは独特の合理性を

備えた優れたシステムであると豪語していたエコノ

ミストたちが、手のひらを返したように、“日本型経

済”は特殊であるばかりでなく、もはや時代遅れの

不適切なものだと論じはじめた。16 

 日本の強さとは一体何だったのかという疑問である。その内容は結局のところ規模の経済における、拡大経済の恩恵による量的増大であり

質的成長ではなかったのである。

3.実例:日本企業における生産性向上実績の考察

3.1 生産性優良企業の実態

 日本製造業の生産性水準は、生産性先進国に比較して未だ多くの生産性向上余力をもち、向上できる方策を放置したままの含み資産というべきものをもっている。そこで、以下に日本企業の生産性実態を、筆者の経験より考察してみる。 日本能率協会制定の総合生産性優秀賞の審査にあたり、大学教授、企業出身の専門家、そして経営コンサルタントの3人の組み合わせで応募企業を訪問。筆者は経営コンサルタントの立場で、第一回(1985年)より第四回(1989年)まで審査に参加。その経験の中から、2つの例によって、日本の代表的な製造業の生産性実態の一側面を紹介したい。 最初に紹介するのは、国際競争力の強い日本屈指の自動車メーカーである。審査時のもっとも印象的なことは、生産性向上の取り組みがランダム・アプローチであり、システマテイックでオーソドックスな生産性向上技法の実践がされていない。たとえば、労働集約的な乗用車の組立ラインにおける作業配分のアンバランスが放置されている。そのために、明らかに猛烈な作業実態の工程があるかと思えば、手待ちを余儀なくされている工程が存在する。つまり、客観的な業務量測定基準に基づく作業配分と、ライン・バランシングの検討過程が不十分なのである。このような実態でのライン・バランス効率は、筆者の経験によれば理論的なベストの 100% に対して70%前後と評価することができ、残り30%は作業配分のアンバランスによるロスとなっている。組立ラインは約250 人の作業者が配置されているので、約75人の作業量は全く作業配分のアンバランスのためにムダに消費されているのである。この企業ではリーン生産を実践し、欧米企業との組立工数比較で優位であるといわれているが、その現場実態からは容易に認めることは難解である。しかし、審査結果は、生産性優秀賞の

16 [佐伯 98] p.14

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坂 本  重 泰270

授賞となった。 次の例は、通信機器メーカーでの経験で、その生産性水準の低さは特徴的であった。株式一部上場企業の、パソコンを含む通信機器の生産部門である。総合生産性優秀賞の授賞が、その後の本格的な生産性向上活動のスタートとなったのである。審査講評で「貴社は受賞されることになるでしょう。すると多くの企業から見学依頼、その応対ということになるでしょうが、生産現場は見せない方が良いですよ。」とうのが私の講評であった。その後、社長からこの講評の真意を聴き、その対応のアドバイスを求められた。その後、本格的な生産性向上プロジェクトが数年にわたって展開され、300%以上の大幅な生産性向上を達成したのである。 これらは日本における生産性活動の代表的な優秀企業として、総合生産性優秀賞を受賞した企業である。しかし、その生産性水準は決して高いものではないのが実態である。日本企業の生産性が、国際比較で劣位にあることは、このような実態からも容易に理解できると考える。 そこで、以下に筆者が経営コンサルタントとして、企業の生産性向上を直接サポートした企業における、大幅な生産性向上実績を紹介したい。

3.2 企業における生産性向上実例

 ここで紹介するのは、現在名証2部上場企業MK社である。1933年に創業された射出成形機およびホットプレス機の専門メーカーで、この業界の日本における草分けの企業である。創業当初は従業員15人、その後増大し4年後の1937年に80人、1940年に190人、太平洋戦争勃発時の1941年には倍増、1944年には800人と創業約10年で急成長した。この業界の草分け企業であるだけにその技術力は高く、1962年に大河内記念技術賞、1964年には科学技術長官賞などを受賞、常に高く評価されてきた名門企業である。なかでも記憶に新しいのは、“絵の出るレコード”と言われたビデオ・デイスクは,同社の射出成形機が世界ではじめて量産製造できる機械となったのである。 石油ショックで1971年に151百万円の赤字経常、1974年に会社再建支援のため主力銀行の取締役が当社副社長に就任した。種々の改革政策のなか1974年末に総従業員数の約50%に相当する206名の希望退職を実施、再建の柱とした。その後景気上昇、安定成長の兆しを予測し、生産性向上によって対応するという計画が生まれ、1975年生産直接部門を対象にMC( ManagementControl )プロジェクト活動が開始された。その結

図表8 MK社の生産性の経営業績貢献:1976年度を100として

3.50

3.00

2.50

2.00

1.50

1.00

0.50

0.00

1973 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84

年度�

変化率�

(0.50)

(1.00)

生産性 売上/人�

利益 利益/人�

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日本の製造業における生産性実態の考察 271

果図表 8 にみられるとおり一人当たり売上で、1976年を1.00とすると、1979年1.55、1980年1.97、そして1984年には2.83(2.83倍)という生産性向上を達成したのである。この間1973年には従業員は最高で760名、売上75億円であったものが、1975年以降従業員数は450名弱、その水準で売上は最高の138億円を達成した。当然、銀行債務もゼロに業績は急回復した。生産直接部門における標準時間で測定した労働生産性は、この間562%の上昇を達成した。[MK 昭 61] このケースは特異なものではなく、同様の結果は図表 10に見られるとおりで、各社においても達成されている。このことは裏を返せば大幅な生産性向上余地を認知されないまま放置されていたということである。

3.3 生産性向上方策の3要因

 いずれの企業も過去において、生産性向上を疎んじていたわけでは決してなく、それなりの生産性向上技法の導入、そして例外なく小集団

(グループ)活動は実施していた。しかし、それらの生産性向上成果は、必ずしも経営業績を支えるというレベルのものではなかったのである。たとえば, MK社において、経営業積への直接的貢献を果たせたのは、有効な生産性向上活動を実践したからに他ならないのである。そこで実践されたことは、IEという生産性向上技術のエンジニアリング展開そのものであった。つまり、技術として確立された生産性向上アプローチの実践活動である。

 生産性は以下の三要因の相乗積で表現することができる。生産性 = 製造方式 (Me t h o d s ) x 実施効率(Performance) x 計画・管理 (Utilization)である。それぞれをM、P、およびUと略して表現する。このように3つの要因に分けることによって、より多くの生産性向上の選択肢を描きうることになるばかりでなく、3要因の相乗積という点

で一つの要因が向上したとしても、他の要因が低下するということの相乗積としての総合生産性の効果を高める施策の選択に役立つのである。

3.3.1 M面の生産性向上

 M面はさらに機械・設備対象のハード・ウエアとその運転操作、作業標準などのソフト・ウエアに分けることができる。設備投資はハ-ド・ウェア、作業改善はソフト・ウエアである。M面の生産性活動における一般的なアプローチは、現状の不都合を解消する、あるいは他社の成功事例を導入するというのが主要なものである。前者を改良(waste elimination)、後者を改善 (betterimprovement)と呼ぶ。たとえば、リーン生産では生産プロセスにおけるムダをなくすことを徹底している。これらは現状からのある種のレベルアップは期待できるものの、相対的な競争有利の実現に過ぎず、その有効さの期待持続期間も限定されたものとなってしまう。 そこで転換すべき方策は革新 (innovation)の実践である。創造性を高めた生産性の絶対値優位への挑戦である。もっとも有効な活動主体は、生産部門ではなく設計段階、開発段階であることは当然であるが、生産段階で現状のムダや不都合を解消するというアプローチではなく、生産活動内容をインプットおよびアウトプットの定義付けから、白紙の状態で新しく考えて、新しい生産システムの設計(デザイン、design)を行う。生産プロセスよりも、生産目的、基本的な製造方式について,高度生産性を追求することを優先させるのである。このための実務技法が MDC (エム・デー・シー、methods design concept )17 と呼ばれるものである。[坂本 91][Sakamoto 94] MDCの導入実践では、配置人員を30~50%の低減を、機械・設備の投資なしに実現されている。(図表10)

17 [坂本 91]筆者の開発した製造方式(M、methods、メソッド)面の生産性向上技法である。MDC(Methods Design Concept)技法は、以下のように定義付けされている。「生産性向上の種々の目標を達成するための、設定された目標達成指向で、新しい作業方法をデザインするための体系だったアプローチである。」そしてその特徴は、①設定された目標指向のアプローチ、 ②体系だてられたシステマテイックなアプローチ、 ③作業あるいは業務遂行目的、つまりその機能追求のアプローチ、 ④大幅な生産性向上成果達成の可能性を十分にもっている、 ⑤少額投資あるいは投資金額を考慮条件とした展開、である。

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坂 本  重 泰272

3.3.2 P面の生産性向上     過去に日本の生産性実態を調査するために、US の生産性の専門家達が日本の大手電機メーカーに滞在、現場の詳細な調査が行なわれたことがあった。この内容は日本の生産現場の実態を実に詳細に把握したものとして評価のたかいものである。

 日本企業への訪問でもっとも驚いたのは、初め

ての会社訪問で C 社の工場現場を見たときであっ

た。そこへ行くまでは、日本の工場ではべらぼうに

速いペースで作業が行なわれているものと信じてい

たのに、そうではなかった。作業ペースはかって私

が(筆者注:著者は生産関係の著名な経営コンサル

タント)訪問したウエスタン・エレクトリックの工

場のペースより遅いように思われた。これはどの工

場にいっても同じだった。[ウエイス 98]

  これと類似の経験を筆者はもっている、それは住宅メーカーSK社の現場であった。ブロック化された住宅をコンベアラインで流している。その時作業者は部品を取りに行きラインに戻るという動作を走って遂行しているのである。工場管理者は、その作業者の行動をほめてはいたが、管理者やスタッフとして標準作業方法や標準時

間を使った適正な作業量の不備を認識する気配は全くなかった。 DF社では約1年半のパフォーマンス向上推進により(図表9)、工場全体のパフォーマンスを約40%から120%に300%(3倍)という大幅な生産性向上を達成している。製造作業について世界標準であるMTM によって標準時間を設定し、そこに織り込まれている「唯一最善の方法」

( The One Best Way )を生産現場で実践することによってパフォーマンス(P)面の生産性向上を実現する。 技術標準時間 ( engineered standardtime )の設定とそれに基づく管理を実践していない状態のパフォーマンスは、一般的には標準を100%とすると50~ 60%であり、それが適切な管理行動によって110~135%に多くの企業で向上されている。(図表10)つまり、約200%の生産性向上ができるのである。    このベースとなる標準時間の普及率はどのような実態であろうか。作業測定についての国際比較実態調査 [日本能率協会コンサルテイング 95,85]によると、技術的標準時間をともなう作業測定の実施状況は、事業所単位で日本では調査回答会社数256社の47%(カッコ内は1985年のデータ:36%。)、欧米は調査会社回答会社137社の73%(79%)という実態である。日本では未だ作業量の世界標準として認められた適正標準の設定と作

図表9 DF社作業パフォーマンス推移グラフ

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日本の製造業における生産性実態の考察 273

業実施状況の測定は、約半分の事業所で実施されているにすぎない。従業員3000人以上の企業における実施状況は89%と高いが、300~ 3000人未満の企業では41~65%と低い。IEの基本的な技術である作業測定の実践がなされていないことは、作業実施段階のP面の標準対比評価ができず、生産性の測定も的確に行なえないことになる。 パフォーマンスが向上する要因は次ぎのとおりである。 ① 標準作業方法の無視をなおす ② 微小なアイドル時間の排除 ③ 機械・設備の標準運転条件の徹底 ④ 標準の作業ペースを守るというものである。作業測定実施以前はこれらが作業者の判断に任されており、管理者や監督者が指導・監督する基準をもたずに現場管理をしているわけで、実質的には程度の低い管理を容認しているのである。そうした実態が、技術標準時間をすべての作業に設定し、それを常に作業者が実践してゆくことによって、パフォーマンスが向上するのである。

3.3.3 U面の生産性向上 

 あと一つの生産性要因は、計画やその管理にかかわるものである。たとえば、設備管理が適切に行なわれていないために、機械を稼働できないとか、生産計画や管理がまずいために無用な切り替え作業が発生する。このように生産計画・管理、設備管理、品質管理といったことが、適切に高い水準に維持されていないと、MやP面の生

産性が高くとも総合的な生産性においては、それらの効用を低下させることになる。U面の生産性向上余地は、一般的には20ないし30%というもので、MやP面に比較すると小さい。U面は材料、機械・設備、品質といった広く組織諸機能の効率的運用実態の有効性を示している。

 図表10に示すのは、IE技法の活用による製造方式(M)面および作業測定によるパフォーマンス(P)面の改善による生産性向上実績である。いずれも新規設備投資的な内容による生産性向上ではないので、収益性の向上にも貢献する生産性向上成果である。

3.4 日本におけるIEの普及と発展

3.4.1 経営業績貢献のIE

 第二次大戦後、廃墟に化した生産設備の体制整備には新しい設備が不可欠であり、ゼロからの出発にあたり世界最高水準の設備導入を図ってきた。このことは同じ歴史的経緯を経た以前の西ドイツにも当てはまることである。また、製品開発の実践は欧米の既存製品の徹底した改良、改善が中心的であり、いくつかのユニークな日本の開発があるといってもそのルーツは例外なく欧米にあったといえる。原材料から製品にいたる処理変化を通じて製造業が成り立っているわけであるが、その過程での競争で、日本企業の得意とするところは、価格競争力であり、そのためのコスト競争力である。「同レベルの品格水準であれば、日本製品は安い」というものである。

図表10 各社における生産性向上成果

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坂 本  重 泰274

一方、開発競争力やもっと次元の高い事業競争力という点においては、日本企業は依然として劣位に立っている。(この点については、別論文で生産性のステージ展開として考察する)このようなことを基本にした製造業の経営業績は、投資収益性(ROI、return on investment )やROE( return on equity )の低さを容認せざるを得ない結果となっている。市場シェアや売上ランクで国際比較の高位置を占めている日本企業であっても、いわゆる、収益性の水準には格差を認めざるを得ない低さである。 一方、設備投資にたよることなく、大幅な生産性向上、それも省力(所要人員減)改善を達成している企業が多い。その方法は生産性向上の技術であるIEの実践である。第二次大戦後アメリカが日本産業界に多くの知識転移をしてくれたのがIEの諸技法であった。ところが日本の製造業においては、IEがエンジニアリングとしての活用実践ではなく、単なる改善の技法という捉え方と普及をしてきたのである。小集団活動がその典型例である。エンジニアリング的アプローチの基本的要件は、測定である。測定なくしてエンジニアリングは存在しない。すなわち、エンジニアリングとは組織だった方法論と再現性を備えていることが必須である。IEにおける測定とは、作業測定 ( work measurement )という領域である。日本の製造業における作業測定の普及率は、欧米に比較して大変低い状況にある。 生産性の向上はアウトプットの生産高増大、あるいはインプットの投入経営資源の低減によって達成できる。前者は企業外部要因による部分が多く、企業内努力での実効を挙げる確実性は減じられることになる。それに対して後者のインプット低減による生産性向上は、企業の内部努力によって達成できるという実効効果の面での優位さがある。そして、インプット低減には配置人員低減や作業処理時間を短縮するという生産性向上成果があるが、時間短縮はその成果はその成果の活用という点で虚益化される嫌いがある。そこで実益化しやすい成果は、配置人員を低減することである。自然退職不補充、配置転換あるいは組織人員低減によって生産性向上成果を顕在化、実益化しやすいといえる。このような配置人員単位の低減は、現状作業方法の無駄を減らすというレベルのアプローチでは達成できるものではない。それよりも設計(デザイ

ン)アプローチによって、まったく新たに作業方法を開発するという方法が有効である。配置人員低減のインプット低減によって、経営業績直結の生産性向上アプローチ実践の可能性を経営者は見逃している。 この例にみられる設計・アプローチのIE活動によるインプット低減と、売上増大のアウトプット増大の業績貢献を考えてみよう。たとえば、年間売上高300億円の中規模企業を考えてみよう。一般的には売上高利益率は3%前後なので、利益は約10億円である。一方生産性向上の利益貢献を考えてみると、先に示した生産性向上実例に見られるとおり、全従業員800人、直接部門人員を40%減、直接部門人員が全体の60%とすると、全社対象の人員低減貢献は24%、約200人となる。非正規従業員の場合で年間給与が200万円として年間4億円の支払い給与の低減、正規従業員の場合は年間給与を700 万円とすると年間支払い給与は14億円の低減となる。実際に企業が負担する労務費および関連費用は、従業員一人当たり福利厚生費、諸手当などを含めると支払給与額の2倍と想定できる。よって、正規従業員の場合200人の人員低減は、年間約28億円の企業負担費用の軽減となる。この金額は利益額の増大に直結できるものである。これと同等利益金額を、営業活動の売上増大によって生み出すとすると、売上高利益率を3%とすると、売上高は現状の約3倍の約900 億円に増大するのに等しい。このような規模の生産性向上成果を1ないし2年で達成することの確実性の高さに比較して、同じ期間に売上高を300%(3倍)向上することは大変困難である。つまり、同額の利益の増大に当たり、内部努力に依存できる生産性向上は、外部要因に負うところの売上増大よりも、実効可能性の高い施策であるといえる。

3.4.2 IE活動の発展

 生産性向上技術であるIE(インダストリアル・エンジニアリング)の、わが国における発展を概括してみよう。 わが国で生産性向上活動が起こったのは1916年である。この年農商務省は生産における能率向上の知識修得のため、荒木東一郎をアメリカに派遣し、テイラーの科学的管理法を学ばせた。

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日本の製造業における生産性実態の考察 275

その後 1921 年には上野陽一も渡米し、帰国後1923年から日本橋梁株式会社などで能率研究を実践した。1919年には伍藤卓雄によってリミットゲージシステムが導入され、生産管理の一歩が始まり、後に日本能率協会の初代会長となり民間の能率向上運動に大きな足跡を残した。1931年には日本工業協会が商工省産業合理局の後援で設立され、政府主導型の能率向上運動として展開されることとなった。1935年には早稲田大学工学部に工業経営学科が設置され、生産管理を学問的に研究し、教育する場が誕生した。そして、戦時動員期の1942年に商工省の斡旋により社団法人日本能率協会が設立され、生産能率運動は本格的普及段階に移行することとなった。 わが国の企業がアメリカにおける生産管理技術の進歩とその高さを知ったのは、1948年のGHQ( general head quarter )によって行われた統計的品質管理手法の導入であった。GHQは占領行政の執行上障害となっている電信電話網の遅れが、真空管製造技術の欠陥にあることに気づき、民間通信局(CCS)を通じて統計的品質管理の技術導入をさせた。1950年頃からアメリカ流の管理技術の研究熱が急速に高まり、CCS講座、原価管理、WF (work factor)、MTM(methods-time measurement)、TWI (trainingwithin industry)などが普及した。日本の製品の品質向上についても、それが「QC運動によってのみもたらされたわけではない。IEを中心とした経営管理の理論と技法の導入が上げられる。」18

1948年にはアメリカ、イギリス両国は生産性協議会を設立し、わが国でも1955年に財団法人日本生産性本部が設立され、第一回訪米視察団が派遣された。[中川・森川・由井 昭 49] 日本的経営の代表である品質管理 ( qualitycontrol, QC )は、そのルーツは1950年に来日したW. E. Deming(デミング)によって紹介された統計的品質管理が始まりである。その翌年日本科学技術連盟(通称「日科技連」)によりデミング賞が創設され、その前後から日本工業規格( JIS )も整備された。1960年代になると、全社的にQCに取り組む総合的QC( total quality control, TQC )へ移行するが、トヨタ自動車工業では同時期にQC本部設置、といったことを先駆として、日本

企業に広くQC活動が導入されることになる。ちなみに、第一回QC大会が開催されたのは、この時期である。

 日本ではこれにやや遅れてZD運動が広く展開さ

れるようになった。その先駆は日本電気であり、そ

れに三菱重工業、三菱電機、住友金属工業、芝浦製

作所、日本陶器、日本車両、京浜急行電鉄等が続く。

このような情勢を受けて、日本能率協会による第一

回ZD大会が開催されて、その動きを一層助長する

ことになった。(中略) 産業構造審議会は1960年代

に、「IEの進め方」を提言し、日本的経営の充実に側

面から先見的支援を行っている。また、日本能率協

会、日本生産性本部、日科技連、労働科学研究所等

による企業横断的な外部専門組織からの支援の充実

が進んだことを、見逃すべきではない。19

 このように日本産業の生産性向上活動は、科学的管理法ひいてはIEの導入が少なくともきっかけとなっていたことは、何ら疑問の余地のないところである。しかし、今日においても、生産性向上活動における欧米企業と日本企業との比較における明確な相違点といえば、日本企業の多くにおいてはIEの普及と定着は、未だにその導入期にあるということである。この背景には、生産性向上よりも生産量の増大が本命で、その対応施策は設備投資であるという経営者の判断があり、一方、従業員との調和を大事にする日本人の「間人主義」[濱口 96] にもとづく職場活動としてのサークル、小集団活動の実態がある。こうした活動の欠点は、仕組みの面が弱く、参加者の精神面がとかく強調されることである。そして、こうした全員参画型の活動の活発さはあっても、その結果としての生産性水準は、国際比較劣位、売上や市場シェアが増大しても収益性の低い実態に甘んじることとなっているのである。 日本における生産性に関する管理技術の歴史は、太平洋戦争終結後1980年代に至るまでは、まさにアメリカを中心とするマネジメント技術の導入時期であり、多くのプロフェッシヨナルが我が国を訪れ、欧米のマネジメント技術を紹介し、海外出版原書の翻訳出版が盛んに行なわれ、また多くの日本の企業人が欧米へマネジメント

18 [森本 99_1] p.9519 [森本 99_2] 前掲書 p.80

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坂 本  重 泰276

技術の視察にも出かけた時代であった。こうした経緯を経て1980年代後半頃より単なる海外のマネジメント技術の導入期を越えて、少なくとも日本的な特徴を備えたマネジメント技術が応用開発され、導入実践されるようになっていった。リーン生産はその一つであって、他にも幾多の日本で生まれた管理技術があり、労働生産性の向上における製造業への貢献については、むしろリーン生産以外のもので、たとえば、国際的に見とめられた技術的標準時間による労働量管理のPAC (performance analysis and control)[門田 昭45]による監督者の指導・監督内容の改善による

作業者能率の2倍以上の大幅な向上、 作業者配置人員のベースになる作業方法を技術的なデザイン・アプローチによって新しく設計することによって所要配置人員半減を可能としたMDC、機械操作・運転する作業者自身がその設備・機械の保全を自ら行ない「チョコ停」と呼ばれる微小な運転上のトラブルを解消して設備の稼働率を向上させたTPM (total productive maintenance)などがあり、また、トヨタ生産システムを含め何れもが欧米(特にUS )からの紹介されたIE技術の応用実践であったことも見逃すべきではない。

図表11 日本におけるIE技術の導入史

1942 ~ 1950  「経営学理論」(藻利重隆)、「日本工場管理の諸問題」(日本能率連合会)刊行(1943)「能率道講話」(上野陽一)刊行(1947)

GHQによるCCS(民間通信局)の品質管理実施(1948)CCS講座(第1回)開催(1948)「アメリカ経営学」(古川栄一)刊行(1948)PM(preventive maintenance, 設備保全)システム(1949)「事務能率」、「生産能率」誌(日本能率協会)刊行(1949)TWI(Training Within Industry)の研究、労働省(1949)「能率学原論」(上野陽一)、「新工場管理」(馬新七郎)、「労働白書」、「技術白書」刊行(1949)

TWI養成講習会(第1回)開催(1950)デミング博士、セミナー開催(1950)Work Factor(WF)分析法導入(1950)「経営ハンドブック」(古川栄一編)、「WF動作時間標準法」(クイック。上田武人訳)刊行(1950)

1951~1960 WF法実施・研究発表会開催(1951)デミング賞新設、日科技連(1951)

WSP(Work Simplification Program, 作業簡素化計画)紹介(1951)OR(Operations Research)セミナー開催(1951)「産業文明における人間問題」(E.メイヨー。勝木・村本訳)、「アメリカの経営技術」(野田信夫)、「インダストリアル・エンジニアリング(上)(下)」(日本生産性本部。訪米視察団のアメリカにおける IEの総合的な報告書)刊行(1951)

WF技師養成講座開講(1953)

ダイレクトコステイング紹介(1953)MAPI(投下資本分析)紹介(1953)ジュラン博士、品質管理セミナー開催(1954)「工場改善の技術」(新郷重夫)刊行(1954)インベントリー・コントロール(科学的在庫管理)紹介(1955)WF研究発表大会(第一回)開催(1955)

REFA(ドイツ産業連盟)文献、第1巻「標準作業のきめ方」、第2巻「標準時間の求め方」翻訳、刊行(1955)

日本生産性本部設立(1955)訪米視察団派遣(第一回)(1955)「工場管理」誌刊行(1955)タガード招聘、WF(WFインストラクター・コース)、IE講習会、工場診断実施(1956)

ビジネス・ゲーム紹介(1956)

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日本の製造業における生産性実態の考察 277

ハーバード・慶応義塾大学トップマネジメントセミナー(第1回)でケースタデイ紹介(1956)旭ガラス、成果配分方式「ラッカープラン」導入(1956)「現代の経営」(P.ドラッカー。野田一夫訳)「MTM、メソッド・タイム・メジャメント」(メイナード他、林茂彦訳)刊行(1956)MTM(Methods-Time Measurement)法導入(1957)

OR(Operations Research)学会設立(1957)IEコース(第1回)開催(1957)スミス招聘、PM(preventive maintenance)の実地指導(1958)トップマネジメントセミナー(第1回)日本生産性本部(1958)WF全国大会開催(1959)マーケテイング研究講座(第1回)開催(1959)

日本 IE協会設立(1959)鉄鋼連盟、IE委員会設置(1959)「ワークスタデイ便覧」(ILO、日本生産性本部監訳)「IEの基礎」(藤田彰久)刊行(1959)メンテナンスショー(第1回)開催(1960)キャニング、クーンツ招聘(1960)

欧州トップマネジメント視察団派遣(第1回)日本能率協会(1960)「動作時間研究」(バーンズ、大坪壇訳)、「経営のための標準時間」(日本能率協会)刊行(1960)

1961~1970 WF部会解消、IE部会として発足(1961)アメリカの IE専門家、マンデル、バーンズ両博士来日(1961)「設計管理」、「購買管理」、「バリュウーアナリシス」、「スキャンロンプラン」、「ORとシステムズエンジニアリング」刊行(1961)

トヨタ自動車、全社的QC開始(1961)「動作時間研究の理論と実際」(マンデル、村松他訳)刊行(1961)メイソン・ヘアー招聘(1962)日本CIOS協会設立(1962)日科技連、QCサークル結成を提唱(1962)SE & EDP コース開始(1963)

「ワークデザイン」翻訳刊行(1963)PM優秀事業場表彰制度発足(1964)PERT, CPM注目集める「PERT」、「WF入門」刊行(1964)ZD運動の啓蒙、普及開始。日本電気ZD運動実施。「ZD計画」(日本能率協会)(1965)日本VE協会設立(1965)

訪米ZD経営技術研修チーム派遣(1966)「ワークデザイン」(G.ナドラー、村松他訳)刊行(1966)ZD部会発足(1967)マンデル博士、PPBS(Project Planning of Business Strategy)開催(1967)「経済性工学」(千住鎮雄)、「発想法」(川喜多二郎)刊行(1967)PAC(performance analysis and control)システムの普及(1968)

ZD全国大会(第1回)開催(1968)RWF通信講座開始(1968)マテリアル・マネジメント・ショー(第1回)(1968)東芝、ワーク・システム・デザインを導入(1968)VE全国大会(第1回)(1968)「仕事と人間性」(ハーズバーグ。北野訳)刊行(1968)

海外訪日チーム受け入れ(APO:アジア、REFA、RKW:いずれも西ドイツ)(1969)フォアマン計画の総合推進活動展開(1970)日米マネジメント・フォーラム:人間と組織開催(1970)

1971~1980 「日本能率年報:初版」(全日本能率連盟)刊行(1972)メントファクター技法導入(1970年)「1ダースなら安くなる」(ギルブレス Jr. , 上野他訳)刊行(1972)

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坂 本  重 泰278

PAC導入企業のコンサルタント・サポート増大(1973)IE資格認定制度導入(1973)「IEと現代経営」、「実践グループKJ法入門」刊行(1973)IE士養成コース開設(1974)「作業測定の実際」、「事務改善入門」刊行(1974)

ACME(Association of Consulting Management北米マネジメント・コンサルタント大会参加(1976)「部品中心生産管理」(栗山仙之助)刊行(1976)WF法韓国へ紹介(1976)EC4ヶ国(独、仏、英、ベルギー)企業の工場診断実施(1977)ゼロベース計画導入(1977)

VRP(部品半減化による製品コストダウン)開発(1977)「日本能率年報:第2版」(全日本能率連盟)刊行(1977)自主開発技術によるコンサルタント・サポート増加(1978)「トヨタの現場管理」刊行(1978)AMA(American Management Association)と共同でJMAが「日本セミナー」開催(1979)ホワイトカラー生産性総合研究委員会スタート(1980)

「オードリックス」(門田武治)刊行(1980)「IEの見方・考え方」(坂本重泰)刊行(1980)1981~ 1990 国際大会「生産性と品質向上の国際会議」開催(1982)

「MOP-オフイス生産性向上の新技法」(坂本重泰)刊行(1982)QM(Quality Management)の普及活動開始(1984)KI計画(ホワイトカラー生産性革新を総合的に推進)の提言活動(1984)ホワイトカラー生産性研究所設置(1985)

「日本能率年報:第3版」(全日本能率連盟)刊行(1986)ZD20周年記念国際大会開催(1987)「ノンストック生産」(新郷重夫)刊行(1987)「MOST:新しい標準時間の設定法」(S.サンデイン、坂本重泰訳)刊行(1987)

1991~ JMA、AMA、MCE共同開催で、「マネジメント・イノベーション国際会議」をロンドンで開催(1991)「企業市民」、「市民主義経営」、「メイナード・IEハンドブック」(翻訳)刊行(1995)

(出所:以下の文献、資料を参考にして製造部門の生産性向上活動に関係のあるものを年代順に筆者が整理した。文献については上記資料の他に生産性向上の技術・IE(Industrial Engineering)の基礎的なものを含めた。全日本能率連盟『日本能率年表 三版』1986年、日本能率協会『JMA50年(1942~ 1991)の歩み』1991年、日本能率協会『まねじめんと60年』1972年、日本能率協会『日本能率協会コンサルテイングの歩み』1980年、日本能率協会『経営と共に。日本能率協会コンサルテイング技術40年』1982年。)

 図表11は、第2次大戦後の日本における生産性に関わる出来事、セミナー、文献などを10年毎のスパンで集めたものである。現在に至るまでどのようなマネジメント技術を外国から導入し、やがて日本人のオリジナリテイのあるものへと変化してきたかという様子が読み取れる。

3.4.3 科学的管理法の誤解

 今日の生産性向上の考えと方法(マネジメント技術)に大きな貢献をした科学的管理法について、その適用と実践において誤解があるようだ。その代表的なマネジメント技術は標準時間

の設定と、作業者の能率、すなわち標準時間に対する達成度・パフォーマンスの測定である。それがいかなるものであるのか。

 大量生産方式のもとでは、インダストリアル・エ

ンジニアが作業標準を作成しスーパーバイザーに渡

す、スーパーバイザーは適当に作業を書き換えて労

働者に渡す、労働者は通常は指示を無視して自分の

したいように作業をする、2直の全労働者が同じよ

うに自分のしたいように作業をするし、作業をコン

トロールする権限がないので、製品の品質は保証で

きない、以上のようである。それに対してNUMMI

(トヨタとGMの合弁で作った工場)では、現場作業

者が作業標準を自分たちで作成しており、それが、

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日本の製造業における生産性実態の考察 279

安全の向上、作業意欲の向上、さらには品質と効率

の向上をもたらしていると評価する。科学的管理法

の常識的理解に対しては、科学的管理法の手法を利

用することが問題なのではなく、エンジニアが作業

標準を作成し労働者に押し付けることが問題であり、

逆に現場作業者が作業設計を行えば、労働者が作業

を理解し、熟練を向上させ、創造力を高めることが

できるという。20

 このような現場管理が一般的なものではないことを、筆者の経験から述べたい。先にパフォーマンス管理の生産性貢献を述べた。標準時間をすべての作業に設定し、そのあるべき姿の標準を維持することによって生産性を向上するのが、パフォーマンス面である。日本企業における筆者の経験によれば、図表9および10に示されているように、約2倍(200%)の生産性向上を、P面のみで達成している。それでは如何にして向上しているのか。その要は第一線監督者の役割と行動である。その実践において、第一線監督者(フォアマン)は次ぎのような作業員への指導・監督を徹底、実践している。

1フォアマンは常に現場にいる2フォアマンは作業者を自ら直接指導・監督

する3フォアマンの作業者への指導は具体的でな

ければならない4フォアマンは強く、自分の考えを職場に徹

底させる 実質的な監督者として、担当現場における作業者の指導監督専念体制の確立である。従来は監督者とは名ばかりの実態で、第一線監督者としての本来業務とは言いがたい雑務に多くの時間をとられ、事務処理、庶務、会議、直接作業などに大半の勤務時間を消費(筆者の調査結果では、概してフォアマンの指導・監督時間比率は勤務時間中の約50%以下である)していたのである。この実態を改め、勤務時間の90%以上職場におり、作業者一人一人を木目細かく指導・監督するのである。生産現場での優秀な作業者であ

り、長い職場経験をもった優秀な作業者が、第一線監督者としてはその経験を必要としない雑務に追われている実態を変革するのである。その内容はF. W. テイラーの科学的管理法の実践に他ならないといえる。21

 標準時間の設定は、当然“唯一最善の作業方法”を発見し、その内容を生産現場で実践できる作業標準としてインダストリアル・エンジニアが行なう。標準作業方法の内容は詳細な作業手順を、世界的に普及している作業測定技法であるMTMによって動作単位(人間行動の最小の分析・測定の粗さ)に定義付けされる。作業者に時間当たりの生産すべき数量を示し叱咤激励するものではなく、どのような作業方法・動作を実践すべきかを示したものであり、さらに管理上の便宜を考えて時間に置き換えたものが標準時間である。MTMの単語のMとTの間をつないでいるのはこのことを表現したものである。つまり作業方法(Methods)を設定すれば、その作業方法に従って作業時間(Time)を設定できるという意味である。

4.日本の製造業における生産性活動の特徴

4.1 長時間労働

 法定労働時間は週当たり、日本、US、イタリアは40時間、英国、ドイツは48時間、ただし、ドイツは上限で実際は労働協約で35時間である。欧州ではワーク・シェアリングの意図で、ドイツでは1578時間(1995年)、フランスでは2000年1月1日より年間39週、週労働時間を35時間になる。年間総労働時間は 1 , 3 6 5 時間である。

(Business Week, May 3, 1999)日本の製造業の総労働時間は1993年に1963時間となり、2000時間をきることとなった。そして、1997年は1891時間で、好景気に支えら増加傾向にあるUSと同等水準である。しかし、産業別格差は大きく、機械は2048時間、自動車は2008時間を越えている。

20 [萩原 /公文 99] p.23321 [上野 昭 32] pp.235-236

F.W.テイラーの科学的管理法における管理者の4ケ条 (1) 工員の仕事の各要素につぃて、科学を発展せしめ、旧式の目見当のやり方をやめる(2) 科学的に工員を選び、これを訓練し教育し発達させる(3) 発展させた科学の原理に合わせてすべての仕事をやらせるように、管理者は工員と心から協動することを要する(4) 仕事と責任とが管理者と工員との間にほとんど均等に区分される

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坂 本  重 泰280

日本の労働時間は長く、残業は慢性化、公式統計には表れないサービス残業も存在し、一人当たり月間平均約6.9時間である。(社会生産性本部)このように長時間労働のインプット増加が、GDPの押し上げに貢献していることは明らかである。長く働き、多くを作り出してきたのであり、基本的には今も変わることがない。日本企業の労働時間短縮は、多分に営業状況に負うところが多い。現に不況下であっても自動車や電気機器産業の総労働時間は、全産業平均を越えている。日本の製造業にとって時短とはマイルドなリストラ方策である。休日や、休暇というものは残業の予備軍であって、需要が増大すれば即座に労働時間を増やす、そのことを労働組合も容認するという状況にある。だから、傾向として年間総労働時間は減少しているが、その目的、必要性というものは国際的な流れにそうものの、ひとたび好況になれば企業の操業水準の維持ということが優先されて、時間外労働を増やして対応するという体質になっている。 労働時間短縮について国際労働機構(ILO)は勧告165号で、「1日あたりの労働時間の漸進的短縮」を特に留意すべき措置に上げている。「社会生活基本調査」(総務庁統計局)によると、週休1日の場合、男性は1986年の平均労働時間が8時間45分、91年が8時間29分、96年は8時間36分と減っている。しかし、完全週休2日制の場合、1986年の1日の平均労働時間は、男性は1986年8時間31分、91年 8時間49分、96年8時間39分、女性は8時間39分、6時間52分、6時間47分という経過をたどり漸増傾向にあるといえる。これは週休2日とするために平日に労働時間を増やす無理をしていることが考えられる。週休2日の進展が、1日の労働時間の増加につながっている傾向が見られるのである。日本

政府は年間の総実労働時間1800時間の達成を公約している。その内容は週40時間労働制の遵守、年次有給休暇の取得促進、所定外労働の削減をその3本柱にしているが、1日の労働時間削減の視点は入っていない。特に家事を担う女性にとっては、年間労働時間の短縮と同時に1日の労働時間の短縮が課題である。

4.2 設備投資指向の生産性

4.2.1 設備投資の経済規模増大貢献

 「近代経済における生産性の向上は、明らかに肉体労働によって達成されたものではない。むしろ、今日の産業が示す高い生産性は、常に肉体労働を無くそうとする努力、言いかえれば肉体労働者を何か別のもので置き換えようとする努力の結果としてもたらされたものである。肉体労働者にとって代わった第一のものは、いうまでもなく、資本設備、つまり機械力である。」22というように、設備・機械が生産性向上に果たしてきた貢献を否定するものではないが、日本の製造業には特徴的なものがある。 日本の製造業における設備投資指向の生産性向上について、別の観点としてジニ係数23 がある。資本金規模別の付加価値増加の程度についてのジニ係数(1996年度法人統計)をみると、製造業が最も高く0.724、全産業平均は0.6255に比較して高い位置にある。この数値は1に近いほど資本規模と付加価値の関連が強いことを意味しており、日本企業では資本金の増加、規模が大きくなればなるほど大きな付加価値を生み出す結果となっている。一方、従業者数と付加価値の関係は、これは労働生産性に関係するものであ

22 [ドラッカー 昭37] p.5323 [平凡社 98] 

ジニ係数とは以下のとおり。 所得や資産の分布の不平等を計測するためにイタリア人ジニ( C. Gini )が1936年に考案した一指標。すなわちジニ係数とは,所得の組合せ(yi,yj)をすべての構成員について考え,その差(絶対値)の平均額を平均所得 μ で除した値の半分である。半分にするのは,所得のペア(yi,yj)と(yj,yi)の所得差が双方ともに考慮されているからにほかならない。したがって,たとえばジニ係数が0.4に等しいとき,任意に選びとった2人の間の所得差は全体としてみれば平均所得の40%に相当していることになる。ジニ係数は完全平等のとき最小値0をとり,所得が1人に集中している完全不平等のとき最大値(1- 1/n)をとる。 ジニ係数はローレンツ曲線を用いて図示可能である。すなわち均等分布線(対角線)とローレンツ曲線で囲まれた月形の面積の2倍にジニ係数は等しい。なおローレンツ曲線が交差する場合,ジニ係数とは異なる不平等の順序づけが他の指標(たとえば変動係数,これは標準偏差を平均所得で除した値)を用いると可能である。他の指標と比較すると,ジニ係数は中間所得階層の所得の動きに最も敏感であることが知られている。 ジニ係数は産業の集中度や貧困の程度を計測する場合にも転用されている。なおジニ法則Gini’s law は分布の型を経験に基づいて特定化したものであり,ジニ係数とは無関係である。

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日本の製造業における生産性実態の考察 281

るが、資本金の大小による生産性格差は製造業では0.2133と小さく、資本をかけてもなかなか生産性は上がらないことになる。 [社会経済98] 図表12は1975年から5年間隔での生産性・労働時間および設備投資の推移を示している。1975年基準の伸び率によると、設備投資伸び率に対する総生産性指数の上昇変化の追随性が見られる。図表13においても経済成長率に対するTFP(生産性)上昇率・資本および労働増加寄与

をみると、生産性と資本増加寄与が大きく貢献しているが、恒常的に資本増加寄与が経済成長率に対して高い寄与をしていることがわかる。つまり、日本の経済規模増大は基本的には設備投資、増強によって達成されてきたのである。

図表 12 生産性・労働時間・設備投資

図表13 生産性向上率: 労働・資本・TFP

2064 2108

134

1975 1980 1985 1990 1995

157

100

2110

157

2052

204

1913

218

総生産性指数�

182

218

288設備投資伸び率�

0 1.0 2.0

3.7% 1.3% 3.6%

8.6%

3.8%

-0.3% 1.7% 0.7%

1.7%

1947~1974

1980's

1991~2000

0.7% 1.1%

3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 %

労働増加寄与� 資本増加寄与� 生産性:TFP上昇率�

2.0%

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坂 本  重 泰282

4.2.2 設備投資金額圧縮ケース

 設備投資額の低減圧縮の事例を、HB社の生産性向上プロジェクト活動から紹介しよう。HB社ではIE技術の活用による生産性向上活動が推進され、少ない費用(投資という言葉に匹敵しない少額)で着実な成果を上げていた。そうした折に増産にからまる設備投資計画が起案された。それまで、製造部門の依頼に基づいて、機械設備に詳しい製造技術者が仕様決定、見積もり、設計を行なっていた。それを仕様決定の段階でプロジェクトに移し、IE技術の活用によって基本設計を行なうこととなった。その事例を2件紹介しよう。従来はハード中心の検討であったが、プロジェクトでは管理、運用面のソフト面の検討、アイデア出しを強化することとなり、投資金額の圧縮に貢献することができた。

事例1 噴霧増粒設備の増設 この事例の起案理由は以下の通りである。 P製品噴霧増粒製品の増産設備を、現行設備に並列設置し新規導入設備と同時運転可能な体制を整備する。現在年間5トンの製造量であるが、新規受注は将来的に年間50 トンと予測される。そこで現行設備の2~2.5倍の製造能力の新規設備を導入することによって、受注増に対応する。 現在製造能力不足分は加工を外部に委託しており、そのための支払い費用はトン当たり250万円である。また、社内加工費はトン当たり40万円である。製造能力の向上により30トン/年を製造すると見積もると、その分の自社取り込みによる外部委託費用の節減は6,300万円となる。 プロジェクトの検討内容は、現行自社設備の稼働率向上、加工技術の見直しを含めて外注委託費用の低減を図る。具体的には、

a 新規設備の機能分解を実施し、オーバースペックを回避する

b 既存設備について使用経験より技術的評価をする

c 既存設備の能力向上d 操業体制の変更がポイントであった。

 検討の結果、起案3,500万円であったものが、1,500万円でよいこととなった。オーバースペックについては、現在の設備は転動流動層方式で

あるが、当社の製品仕様としては、コーテイング精度の水準と顆粒化が容易で廉価な流動層の方式で十分なことが解り600 万円、市販機械のスペックをそのまま認めない発注仕様の機能の絞込みによって1,200万円、運転環境条件の改善で200万円のそれぞれ低減が可能となった。

事例2 T製品の増産設備 この事例の起案理由は以下の通りである。2000年以降の需要予測に基づき、海外需要を含めた市場予測を行い、投資リスクの回避を含め、現有設備の効率的運転方法の考察により、効果的な投資案の時期、金額および規模を検討する。 起案は年間生産量22,200トン、投資金額15億円の投資案件である。 プロジェクトでは、

a 現状の設備の時間当たり生産能力の平均値とバラツキ低減によって能力10%向上

b 現在収率重視(3.2トン /バッチ)の運転を、速度重視として1.01トン/時間を1.08トン /時間に上げる。その結果収率は3.0トン / バッチに低下するが、時間当たり0.07トン増えることによって7%能力向上

c ロスの低減によって3%能力向上 この結果、原案は現在ある925トン/月の設備2基分に相当する大型設備1基増設であったものを、答申案ではまず現設備の能力を上記の改善で20%能力向上し1110トン/月、2基として、その上に小型の1110トン/月の新規設備を導入。原案の3700トン/月に対して答申案は3330トン/月と400トン/月下がるが、この原案能力が必要になるのは、今後順時増量となり約10年後の予測。これから10年については、今後技術革新や予測の精度向上も考えられ、現在時点で問題にならないということで、答申案の実施となった。投資額は原案の15億円を10億円に圧縮することができた。

 ここに紹介したように、製造技術中心の設備機械導入による能力向上の見方から、IEの管理・運用面の検討によって、機械設備の外部からの調達に頼らない生産能力向上部分が明らかになり、投資総額の圧縮につながったものである。 日本の製造業が設備投資指向で増大する需要に対応してきたものを、管理面を考慮したIEの活用によって、同じ需要増大に対して投資金額

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日本の製造業における生産性実態の考察 283

を圧縮できる可能性があるということを紹介する一例である。

4.3 高いULC( Unit Labor Cost, 単位労働コスト)

 価格競争力を考えるとき、生産性が高ければ競争力が強い訳ではなく、賃金水準が生産性水準以上に高ければ弱くなる。発展途上国が国際競争力を持ち得るのは、先進国よりも生産性は低いがそれ以上に賃金水準が低いことによるのである。つまり、価格競争力のパラメーターは生産性と賃金の水準である。ULCは支払賃金総額を労働生産性で除して求められる。(JPC では、

(支払い名目給与総額)÷(当該年の実質付加価値額)で求めている。) ULCが悪化するのは、生産性が低いか給与が高いかの二つの要因である。生産性についてはすでに考察してきた通り、日本は先・先進国対比では低い状況にある。一方、給与水準については、日本の給与水準の高さが論じられるが、豊かさの視点に立てば労働者が受け取る給与金額の大きさではなく、その給与金額の購買力である。購買力についてはPPP(購買力平価)が生産性の国際比較に使われている。1980年の為替レイトは226.7¥/$でPPPは251.1¥/$で、その比率(PPP/為替レイト)は1.11であり、1995年の為替レイト94¥/$、PPP 181.2¥/$で、その比率は1.93とお

よそ2倍になっている。つまり円の価値が倍増していることになる。これは1985年には1ドル($)=218円(¥)であったものが、1988年のプラザ合意による円高で、1$=128¥になった流れをうけてのことである。 ULCは低いほうが国際競争力をもつが、1985年にはUS比較で73%であったものが、1985年秋のプラザ合意以降上昇し、1995年には円高為替レイトの推移で1.7%の上昇に留まったものの、1998年にはUSの150%と割高になっている。この要因は賃金そのものの上昇もあるが、生産性向上率によるものである。USが生産性向上が時間当たり賃金の上昇率を越えているのでULCが低下し、競争力を持つにいたっている。1975年から1995年まで自国通貨でのULCはUSおよびドイツが1975年対比で40ないし50%上昇しているのに対して、日本は10ないし20%の範囲で横ばいであるが、ドル・ベースに換算すると1975年対比日本は335%、ドイツが264%と大幅に向上、これは1985年秋のプラザ合意による円とマルクの為替レイトの高騰によるものである。国際的競争力はこの面では大幅に損なわれたことになる。 図表14は大手商社系列の食品製造業DF 社の例である。決算数期にわたり慢性的な赤字企業であったが、1995年に生産性向上プロジェクトを組織し推進した結果約150 名体制であった生産現場が、同じアウトプット生産量に対して100名を割り込む少ない配置人員に低減されて、6

図表14 DF社・ULCの経常利益貢献

95 96 97 98 99

経常利益:四半期(万円)�

四半期�

経常利益(万円)�

ULC(円)/MH

ULC(¥/MH)

3,000�2,500�2,000�1,500�1,000�500�0�

(500)��(1,000)�(1,500)�(2,000)�(2,500)�(3,000)�(3,500)�(4,000)�(4,500)�(5,000)

11,000�10,000�9,000�8,000�7,000�6,000�5,000�4,000�3,000�2,000�1,000�0

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ケ月後に念願の単月決算で黒字達成、そして1997年度以降は毎期連続黒字決算となった。その背景も期中単月での最繁忙期に335 百万円であったのが、200百万円という約40%という大幅な売上低下状況での増益黒字決算である。設備投資によらない製造方式面改善による省人と、標準時間によるパフォーマンス向上で、大幅な生産性向上活動を達成したのである。この結果1995年にはULCは 12000円 /時間の水準であったものが、1999年末には2600円 /時間の水準へと大幅に改善されたのである。24

4.4 低い収益性

 日本の生産性向上の特徴はROA( return onassets, 投下資本利益率 )にもみることができる。図表15に見られるとおり、GDPの向上と総資本の向上はほとんど同じ推移をし、その反面ROAが低下している。すなわち、日本の経済大国、GDP増大は先にも触れたことであるが設備投資によるところが大きく、その結果収益性を低下

させる経済規模拡大となっている。ROAのパラメーターは、売上、コストおよび有形固定資産である。この有形固定資産の内容は、建物、機械・装置、仕掛・在庫などである。なぜ日本のROAが低いのだろうか。ROAのパラメーターの中で、建物については日本の工場が欧州の工場よりも充実したものとはいえない。たとえば、スウエーデンの工場では、作業現場事務所においても、十分な断熱材と扉も窓も二重ないしは三重の幅層ガラスで、騒音も外気温もシャットアウトである。日本でこのような現場事務所は見たことがない、つまり建物に日本の工場が欧米企業よりも金を使っていることは考え難い。仕掛・在庫について日本では、“カンバン・システム”でその水準を低く抑えてきた。すなわち、これら二要因に日本企業が多くの費用をかけていることは考えにくく、結局、その他の生産機械・装置に多くの費用を費やし、それが収益性を悪化させていると言える。1997年現在、世界全体で712,000台の産業ロボットがあり、その内413,000台(58%)が日本で稼動している。このことが日本の製造業がいかに新鋭設備を導入しているのかを象徴

24 計算の根拠は次の通りである。作業者への月間支払い給与に対して、標準時間で換算した処理作業量の比率がULC(単位労務費)である。よって、同じ処理作業量に対してメソッド面改善による所要配置人員の低減、および、その人数におけるパフォーマンスの向上による標準時間換算の処理作業量が増大すれば,月間支払い労務費の1人1時間当たりは相対的に低減されることになる。つまり、標準時間という尺度でみると、これら生産性向上以前は相対的に割高な労務費であったことになる。DF社の実績においては、年度毎の定期昇給は4%前後であり、この給与水準の向上はULCの向上にはたらいているのは当然である。

図表15 総資本・GDP・ROAの推移

GDP

総資本�

'85年対比%�

ROA

年度�

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日本の製造業における生産性実態の考察 285

的に示すものである。 収益性を悪化させずに生産性を向上する方策はあるのだろうか。IEのメソッド改善技法MDC[坂本 91]導入の各社ではそれを実現している。GL社では193人を低減、そのために要した設備変更の費用は総額約397 百万円で一人低減当たり費用は206万円であった。その結果、3年間の直接労務費低減成果は実績で2651百万円である。一方同社では通常設備投資の費用対効果の分岐点を3年間の労務費金額としている。年間の直接労務費と福利厚生費などを含めると作業者一人当たり年間約1200万円の労務費負担となり、3年では一人低減に当たり3600万円がペイできる金額となり、その仮定で計算すると193人の配置人員の低減に6948百万円の投資を許容させることとなる。実に17.5倍もの設備投資を許容することになる可能性があったことになる。同社における収益性( ROI , return on investment)改善は、1989年40%であったものが、1989年に60%と1.5倍の向上となった。

4.5 企業規模格差および産業間格差

4.5.1 企業規模格差

 図表16にみられるとおり、日米の企業規模比較での特徴的なことは、いずれも中小企業の生産性水準は低い。しかし、日本の中小企業の労働生産性水準が、大企業の39.7%という実態は、USでは65.5% であるのに比較して顕著な差といえる。中小企業の産業界構成比率が高く、従業員数の54.2%を占めている日本の産業構造においては、この中小企業の低い生産性実態は明らかに、日本産業全体の生産性を低下させているといえる。

4.5.2 産業間格差

 日米産業別の生産性比較では、図表17にみられるとおり、その生産性格差が大きい。1975年対比伸び率は、電気機械、化学工業の 1219%、1105%という驚異的な伸び、自動車、精密機械、

図表16 日米製造業生産性の規模間格差

図表17 製造業生産性の産業間格差

出典:中小企業庁、「中小企業白書平成5年版」をもとに作成。

出典:「労働生産性の国際比較、1998年」、社会経済生産性本部、1998年より作成。

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鉄鋼といった日本の輸出産業においては約300%の伸びを示しているUS比較の生産性水準は鉄鋼、化学工業を除いて劣位にある。食品、衣料という産業には小規模企業が多いことも、生産性が低い要因であると考えられるが、明らかに業種別格差は大きい。これは筆者の経営コンサルタントの経験でもいえることで、精密機械、食料品、衣服といった業種からの生産性向上のサポート依頼は少なく、また生産性向上方策のセミナーへの参加者もほとんどなかったことから、生産性への関心の低さの一端がうかがえる。あるいは、生産性向上目的を新鋭機械設備投入でまかなってきたのだろう。例えば、先に紹介したGL社(食品製造)における従来の生産性向上対策は、設備導入とパート労働者や外国人労働者にたよった施策が中心であり、見かけの労務費が安い労働力に頼っており、単位労働コストの有効性という考えは弱かったという経験がある。それに対して鉄鋼業界は業界独自の鉄鋼IE連盟という組織をもち、「鉄鋼のためのインダストリアル・エンジニアリング」という専門誌を発行して、日本の鉄鋼業界全体の生産性水準の向上努力をしてきている。その結果USを凌ぐ明らかに高い水準を保つに至ったのである。自動車や電気機械業界など世界に顧客をもつ産業の生産性向上率は大きい結果となっている。 これら二つの格差を通じていえることは、生産性向上に取り組む体制、方法、あるいは、経営者の生産性への関心の程度の差が、生産性向上実績に現れているとも言える。たとえば、食品業界はかって新製品と宣伝販売で市場を確保してきたものが、その方策に限界がみられるようになってきた。つまり、従来国際企業との競争場面がなかったものが、最近は価格やコスト競争で業績貢献をする施策の必要性が高まってきている。その結果、生産性向上への経営施策が行なわれるようになってきている。

5.生産性試算

 ここまで生産性についての一般的考察、そして日本および日本の製造業の生産性水準の実態について述べてきた。そして、経済規模大国日本であっても、生産性水準は先・先進国比較では劣位であることも言及してきた。また、筆者のコン

サルタントとしての実務経験のケースを紹介することによって、日本の製造業は今日なお大幅な生産性向上余地をもっている、その結果としていろんな業種において大幅な生産性向上を達成している事実も紹介してきた。 こうしたことを踏まえて一つの考察を試みたい。つまり、どのような仮定を設定すれば日本の生産性水準は国際比較優位になれるかということである。その試算を以下にまとめた。 生産性(PPPでのGDP)/MH、つまり労働1時間当US$およびJP¥・GDPの国際比較によれば、フランス33.06(128)、ドイツ31.96(124)、イタリア31.93(124)、US 30.64(119)などで日本25.76(100)で6位である。(図表18)そこでアウトプットは同じとして、インプットを変えるという仮定で生産性向上を試算し、その水準順位が如何に向上するか見てみよう。

試算 1:残業0での生産性向上 残業(所定外およびサービス)の実数は、それぞれ月間12.5および6.9時間である。(社会生産性本部、日経99.5.27)残業を0にすれば1MH(工数)あたり29.59で順位は5位となる。慢性的な残業の存在は日本の特徴的のものである。 すでに職についている労働者が残業なしで働いた場合に約260 万人の新規雇用創出効果が発生する可能性があるという試算がある。1999年3月現在の完全失業者数は、330 万人であるから、その4分の3程度の雇用吸収力があることになる。(社会経済生産性本部の発表:日経、99.5.27)その根拠は、残業をしても給与を受け取らない形で、実際に発生しているサービス残業

(月間平均6.9時間)を無くして、必要な仕事を新規採用で賄えば新たに約90万人の人材需要が発生、残業が給与に反映する所定外労働時間(月間12.5時間)をゼロにすれば約170万人となり、合計260万人の雇用創出となっている。残業は一人当たり労働時間の増大であり、同じGDPアウトプットとしてこれら残業を0にできれば、それだけ生産性は向上することになる。

試算 2:過剰雇用の解消での生産性向上  現在の公式統計に見られる失業率は、5%弱である。また、企業がかかえている過剰雇用、つまり潜在失業を含めたとき失業率は8%を超えるという試算がある。また、欧州における最近の平

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日本の製造業における生産性実態の考察 287

均失業率は、約8%である。そこで、失業率8%での過剰雇用数は8.12百万人と想定することができる。(日銀雇用判断DI 指数より第一生命試算。1999年)この企業のかかえる過剰雇用を0にするとその分インプットが低減し、同じGDPアウトプットに対して1MH当たり29.40とわずかに向上するものの、順位は5と変わらない。 失業は現状の産業構造に対する余剰であり、それは新産業の必要性、その産業への余力労働力である。よって、企業の生産性向上活動によって余力労働力を創出、社会へ排出することは中・長期的には望ましいことである。このことが極めて短期間に、大量におこるとすれば、その対応

そ ご

に齟齬をきたし一時的な社会負担が生ずることになる。つまり、日常の継続的な生産性向上によって、既存の生産対応に余剰労働力を生み出すことは望ましいことであり、それが継続的に健全に行われておれば、社会への排出の前に、企業内の新規活動に充当し望ましい展開が可能となる。バブル崩壊後の最近のリストラという名のもとでの余剰労働力の社会へ排出の問題は、これまでの経営者の生産性向上戦略の誤算によるものといえる。 大幅な生産性向上余地をかかえている日本の製造業の実体からすれば、余剰人員を企業内に抱えて低い生産性を容認しているともいえる。デンマークの友人の紹介で、以前、日本在住のデンマーク大使であった人とコペンハーゲンの自宅で話す機会があった。「日本での経験で印象に残ることは何ですか?」、しばらく考えられて、

「人口が多いことですね」と言われた事を思い出す。先進国に仲間いりした国でUSを除きもっとも人口の多い国である。大量生産、大量販売にあたり、多い消費者の存在は魅力的であった。しかし、少子化が進む日本で、その価値判断は変えて行かざるを得ないのではないか。量的な拡大を意図した生産性活動よりも、生活の質を向上する生産性向上とは何であるかの答えをもとめてゆくべきである。

試算 3:上記1および2の総合低減による生産性向上

 試算結果は、33.80となり現在トップのフランス(33.06)を僅かに超えてトップとなる。この条件での試算は、筆者の経験でも明らかなように、欧州の工場における残業0の勤務実態および欧州の失業率水準においてはトップレベルの生産性水準を達成できることとなるのである。 昨今の日本の失業率は、US 並みの4%台

(1999年2月、4.6%、約310万人が完全失業。社会としての雇用調整の仕組みが望まれる。欧米のレイオフ制、その問題は先任権( seniority )による若年齢者が優先的にレイオフ対象となる)ということが、注目されている。US並に憂慮すべき悪い状態になってきているというものである。25  一方、USの産業において、90年代前半に人員削減をしなかった大企業はほとんどないといっても過言ではない。経済は拡大しているのに失業率は90年の5%から92年に7%に上昇。「雇用なき回復」と呼ばれた。95年以降は6%をきり、現在は4%代と30年来の低水準を維持している。しかし、その後も大企業の人員削減は続いているのだが、新興企業が雇用を吸収、それが新興企業をさらに活性化させ、新たな雇用を生むという好循環が生まれている。 生産性を向上させるのにアウトプットに対するインプットの相対的関係を改善する方策をとる、つまり経済が後退状態にあるときに生産高に対して投入労働量が多ければ、それをインプットの労働量を低減するしか方策はない。短期的には、たとえその余剰労働力の吸収場所がなかったとしても、企業が余剰を抱えたままで健全な発展をすることは考えられない。この試算結果は、このことの有効性を示しているのである。 日本の生産性水準を国際比較優位にもってゆくためには、企業がかかえる余剰労働力(潜在も含めて)の社会への排出が必要である。日本の失業率が低いということの裏にかくれた生産性を下げる要因としての認知、顕在化なくして国際水準優位の生産性には到達できないことを認識すべきである。 USよりもイギリスおよびヨーロッパ各国の失

25 [BW 99] pp.38-39主要国の失業率(1998年実績)の失業率は、France:11.9、Germany:9.4('99.05:10.7)、UK:6.3、Netherlands:4.1、US:4.5、JPN:4.0。 France:2000年1月1日より、週39時間を35時間にする。 日本の失業率は、1994から1997年度までは3%前後であったが、1998年度第2四半期より4%を越える水準になった。

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業率は慢性的に高く、その値は10ないし15%がノーマル状態であるとも言える。そこで、生産性の国際比較において、その就労者数を少なく(失業者数を多く)できれば、同じGDPアウトプットに対して生産性は向上する。その結果日本の国際比較における生産性序列は向上することになる。今日の実態としては、多くの企業がリストラという名のもとに、潜在的な過剰労働力を企業から放出して、自らの企業の存亡をかけている。そこでの問題は、一つにはそうした企業は、経済成長が活発であった時期に、その需要増大を設備や労働時間や人員の増大でまかない、生産性の向上によって増大する需要を吸収するということを行ってこなかったことに原因がある。つぎに、生産性の経営に果たす貢献を正しく理解した経営戦略をとって来なかったことである。過剰設備においても同様のことがいえる。量的

増大追随型の失敗が現下の過剰労働力や過剰設備の廃棄という、実りなき選択肢しか残されていない段階にきてしまった結果、それがリストラクチヤリングである。生産性戦略の明らかな失敗である。 これらは単純な条件設定における国際比較の生産性水準試算であるが、日本企業はトップクラスになれる可能性は十分にあり、そのためには現状の約 1/3、76% の水準にインプット工数

(MH)を低減する生産性向上を実現しなければならない。このインプット低減を優先させる視点が大切である。日本の製造業は、後発国として、先・先進国へのキャッチ・アップという形でアウトプット増大の可能性を追い続けることができた。つまり、生産性向上はアウトプット増大指向であったものを、現状のアウトプットを維持して、それに必要なインプット低減を実践し、

図表18 試算:生産性向上可能性

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その結果顕在化した余剰労働力を活用する新たなアウトプットを創出することを課題にしてゆく。筆者の経験の企業における生産性向上では、常にこのアプローチをとっており、生産性向上に有効であることを経験している。このインプット低減優先のアプローチの有効性は、内部管理で対応できることへの対応を優先させ、その次ぎの段階で、余剰インプットを新しく創出するアウトプットの増大に投入するもので、成果を実益化しやすい。一方、逆のアプローチであるアウトプット増大指向の生産性向上は、その成果を満たすアウトプット増大という外部環境の保証がない限り、生産性向上成果が虚益化してしまうことになる可能性が大きいからである。インプット低減の生産性向上余地が、日本の製造業において如何に大きいかということと、その実現の可能性はすでに述べた通りである。最近の日本経済におけるGDPがプラス傾向にあるが、失業率はマイナス傾向は望ましい産業構造転換の兆候である可能性を示しているといえる。つまり、従来産業のリストラによって失業率は増大するが、新しい産業の創出によってGDPの増大を計るのである。

6.これからの生産性活動の方向性

 生産性の向上はインプットの低減とアウトプットの増大の組み合わせで可能となる。生産性試算において、ノーマルな欧米の就労実績を前提にすれば、日本も世界トップクラスの生産性水準を達成できることは確認できた。そこで、今後の生産性活動の取り組みについてまとめる。(1) インプット低減の生産性向上活動を優先させ

る(2) 会社の役割と社会の役割の明確な区分の自覚(3) 生産性測定システムの再構築(4) アウトプット増大の再雇用市場の増大(5) 社格意識の経営

(1) インプット低減の生産性向上活動を優先させる

 インプット低減が企業に生産性向上の実益をもたらせるのは、企業の内部努力のみで達成できるという点である。同じ生産量、売上高に対して必要な経営資源(人、時間、設備機械、エネル

ギー)の投入を低減するのである。外部条件の変更なしに実践できる生産性向上活動である。また、こうした生産性向上活動を定常的に実践しておれば、短期間に大幅なインプット削減、つまりリストラは不必要である。 生産性向上の望ましい順序は、アウトプット一定でのインプット低減、次ぎに低減された余剰インプットでの新しいアウトプットの創出、そしてこれらインプット低減とアウトプット増大の組み合わせでの施策の探索、実施である。こうしたことの具体例として、有効な生産性向上技法を導入すれば、大幅な投入労働力の削減を限定された低額費用で実現できていることも示してきた。

(2)会社の役割と社会の役割の明確な区分の自覚 終身雇用、良い人材は社内に抱え込むという発想からは、企業の存続のためとはいえ従業員を解雇することの社会へのインパクトを懸念する経営者が多いことは事実である。ここで「会社」と「社会」の役割を明確にして、マクロで長期的な視点での企業政策は何であるかを考えるべきである。  インプットの低減が、人、つまり従業員数の低減であれば、その低減分は社会に放出されることもあるが、日本の場合はそのほとんどは新規採用の抑制と、退職者の不補充という形である。そのために職場毎のミクロでの生産性向上は達成されても、工場や会社の組織人員の実質的な低減には時間がかかる。日産の2万人削減について、「米国では『えっ、4年間もかかるの?』とほとんど笑い話になるでしょう。」[ソロス 99]というように、日本企業の従業員数低減は保守的対応である。 会社が事業存続できなくなればもっと大きな社会的インパクトを与えてしまう。だから、会社の使命を果たすための従業員の削減と、それを受け止める社会の役割は明確に割りきって対応されるべきものであろう。従業員を減らして企業の健全な存続をはかる。その結果失業が増えることに対しては社会保障の仕組みとしての受け皿で対応すべきである。高い生産性なくして企業の存続優位性は保証されない。そのためには余剰能力の顕在化は必須の条件である。 

(3) 生産性測定システムの再構築

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坂 本  重 泰290

 生産性向上政策を企業が考えるにあたり、日本企業の弱点は適切な生産性測定システムを持っていないことである。経営成果の測定単位は金額、物量(重量、台数、個数など)、がよく使われているが、企業内でのミクロ的な生産性測定においては時間(hour)あるいは延べ時間としての工数(man-hour)が適切である。あるアウトプットを処理するのに必要とする経営資源は、金額や物量には必ずしも比例しない。例えば、鉄と金の素材価値は金が高価であるが、それを加工して付加価値をつけた場合の金額は必ずしも金製品が高い訳ではない。また、産出成果のアイテム毎のインプットの測定となれば、時間や工数を測定把握する以外に方法はなく、それと等価値という点でもアウトプットの測定は時間や工数が望ましい。そして、アウトプットには世界で認められた技術的標準時間 (engineered standardあるいは engineered standard time) で産出経営成果を測定する。この標準時間導入普及度が日本は大変低い状態にあり、生産性実態の客観的な測定ができていないために、生産性構成要素の一つであるP (performance)面の生産性向上余地を放置しているのである。“測定なくしてマネジメントなし”と考える。つまり、標準に対する実績の達成度を測定することによって、その差異がマネジメント課題としてクローズアップできるのである。

(4) アウトプット増大の再雇用市場の増大 経済白書(1999年版)で情報化社会のもたらす雇用面の影響を試算している。情報化による雇用削減効果は、90~97年で日本194万人、米国248万人。反対に情報化が新たな雇用を生み出した効果は、日本の172万人に対して米国は588万人だった。差し引き日本は22万人の雇用機会の減少、米国は340万人の増加と試算している。

「IBMは20万人を削減したが、その20万人はデルコンピューターなど他社にとって優秀な人材を確保する絶好の機会だった。」[ソロス 99] 再雇用市場を作ることが先で、それによる人減らし結果は、新しい企業にとっての貴重な人材、人的資源の提供、確保となるのである。 同じ事業を低い生産性のまま継続することは、あるいはその事業の量的拡大を基調とした企業政策では、その企業の存続の問題にとどまらず、社会全体の生産性向上、新しい事業、雇用の発展

への足かせになってしまいかねないのである。

(5) 社格意識の経営 日本はもっと良くなれる、もっと豊かになれる、なぜなら豊かさに重点をおいた経営をしてこなかったからである。第二次大戦後、欧米化を最優先に進め、その結果日本的の本当の良さは後回しにされてきた。ほとんどのことがアメリカナイズされてきたのである。その結果、予測できたが経験したことのない社会的課題を多くかかえる結果となってしまった。 「競争」の強化、すなわち、企業経営努力の中心視点を各個企業水準の向上に置き、社会水準の向上を否定するものではないが、そこに経営行動の軸足を置いてきたわけではない。近代的な工業社会が生まれて未だ約200 年の実態において、競争の方法は未熟なものといわざるを得ない。すなわち、意図的競争で敗者を疎んじる、意図的競争が主流である。敗者を弁護する必要などないが、国内生産で競争力がないので労務費の安い他国で生産を行い漁夫の利を得ようとするような戦略であったとすれば、望ましいとはいえない。

7.おわりに

 遠くは明治維新以来の殖産興業、そして第二次大戦以降の先進工業国へのキャッチアップが日本の製造業の課題であり、そのことを見事にクリアして世界のなかの先進工業国、経済大国となった。そして、生産性向上に対して戦後はとりわけUSのサポートを軸として、多くのことを学び、日本人独特の限りない探求心と向上心で工夫をしてきた。そして、そのひとつのの有効な応用がリーン生産システムであった。しかし、それがもてはやされるのと機を一にして、日本の生産性は高い、世界に冠たるものと言うある種の誤解に基づく自信、ひいては日本企業のある種の驕りとなってしまった。 一方、生産性の国際比較によると依然と先進国との格差は大きく、量的に見た経済規模の向上結果の割には、質的評価としての収益性においてはこれまた欧米先進国には格差が歴然としている。ということは、日本の生産性水準あるいは向上余地は大幅なものである。こうした結果

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日本の製造業における生産性実態の考察 291

に至ったのは、生産性向上技術であるインダストリアル・エンジニアリングの実践を軽視して、需要の増大という量的拡大対応、つまり設備投資主導の生産性向上を展開してきたことによるものである。その結果、増産対応は出来たものの設備投資に伴う費用負担のために、低い収益性を容認する結果となってしまったのである。 生産性の向上目的は、企業の競争力を向上させるだけではなく、人間が遂行するのにふさわしくない作業の改善であり、QWL (quality ofworking life、働き甲斐) への貢献、生活水準の向上であるべきなのだが、日本の実態は、欧米諸国との差を認めざるを得ない。このことは実質的な、国際比較優位につながる生産性向上策を強化する必要性を示唆するものであり、試算に示したように国際比較トップを狙える可能性をもっているのである。こうした現状の認識の弱さ故に、その格差はこの20年来埋められていないのである。

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