地中音測定装置による『水みち』の探査技術 · 2019. 4. 3. ·...

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地中音測定装置による『水みち』の探査技術 三条市長嶺地内に位置する大平ため池と大平温水ため池は、面積11.5haを受益とする農業用ため 池である。平 成 2 1 年 度より「 県 営ため池 等 整 備 事 業   長 嶺 大 平 地 区 」において、両ため池の堤 体 改 修 及び周辺整備を行っている。 平 成 2 5 年 度にため池の堤 体 改 修 工 事が完了し、試 験 湛 水を行ったところ、上 池である大 平 温 水ため 池堤体端部から湧水が数カ所確認された。湧水の発生位置は貯水位に連動している一方、堤体下流に 設けられた観測孔で降雨時に地山の地下水が高くなることも観測されたことから、湧水の水元がどこか、 また地下をどのように流れているかの想定が難しく、堤体への影響や対策工についての検討に当たり、地 下 水の流れ( 水みち)を把 握することが必 要となった。ここでは、今回の調 査 方 法として採 用した地中音 測定装置による探査について紹介する。 水みちでわかっているものは出口のみ で、入口、途中経路が不明であった。また、 ため池周辺には風化泥岩の露頭があり、 地山の広い範囲が水を通しやすい状態 にあると予測された。 調 査 方 法としては、トレーサ試 験による 入口の特定や、電気探査による地下の水 分の分布状況の推定が検討されたが、い ずれも確実性や経済性などが課題となっ た。そこでこれまで堤体での実例は無い が、簡易な方法で地下流水音を直接聴く ことができる地 中 音 測 定 装 置による探 査 三条地域振興局農業振興部 1. 概  要 2. 調査の経緯、方法 (図-1)大平温水ため池 標準断面図及び湧水位置 (図-2)大平温水ため池 平面図 ※湧水はため池の貯水位の 変化に連動している 8

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Page 1: 地中音測定装置による『水みち』の探査技術 · 2019. 4. 3. · 今回の調査及びその結果に基づく対策工事を行う中で、地下の水みちを推定するにあたって地中水

地中音測定装置による『水みち』の探査技術

三条市長嶺地内に位置する大平ため池と大平温水ため池は、面積11.5haを受益とする農業用ため池である。平成21年度より「県営ため池等整備事業 長嶺大平地区」において、両ため池の堤体改修及び周辺整備を行っている。

平成25年度にため池の堤体改修工事が完了し、試験湛水を行ったところ、上池である大平温水ため池堤体端部から湧水が数カ所確認された。湧水の発生位置は貯水位に連動している一方、堤体下流に設けられた観測孔で降雨時に地山の地下水が高くなることも観測されたことから、湧水の水元がどこか、また地下をどのように流れているかの想定が難しく、堤体への影響や対策工についての検討に当たり、地下水の流れ(水みち)を把握することが必要となった。ここでは、今回の調査方法として採用した地中音測定装置による探査について紹介する。

水みちでわかっているものは出口のみで、入口、途中経路が不明であった。また、ため池周辺には風化泥岩の露頭があり、地山の広い範囲が水を通しやすい状態にあると予測された。

調査方法としては、トレーサ試験による入口の特定や、電気探査による地下の水分の分布状況の推定が検討されたが、いずれも確実性や経済性などが課題となった。そこでこれまで堤体での実例は無いが、簡易な方法で地下流水音を直接聴くことができる地中音測定装置による探査

三条地域振興局農業振興部

1. 概  要

2. 調査の経緯、方法

(図-1)大平温水ため池 標準断面図及び湧水位置

(図-2)大平温水ため池 平面図

※湧水はため池の貯水位の 変化に連動している

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Page 2: 地中音測定装置による『水みち』の探査技術 · 2019. 4. 3. · 今回の調査及びその結果に基づく対策工事を行う中で、地下の水みちを推定するにあたって地中水

について、地質コンサルタントから提案があり、試みることとした。地中音測定は、地下を流れる水に含まれる気泡が地下水の移動に伴って破裂する際に生じる「ポコポ

コ」や「ボコボコ」といった曝気音を測定するもので、測定箇所ごとの音の強弱をマッピングすることで水みちを平面的に把握することができる。

次に地中音測定装置の仕組みについて説明する。機器構成は、上記の図―3に示す。装置は①ピックアップセンサー②測定記録部③ヘッドホンで構成さ

れている。各部の機能は下記のとおりである。

①ピックアップセンサー本体の加速度センサーが、底面部に伝わる微弱な地中の音(振動・曝気音)を検出し、電気信号に変

換して測定記録部へ出力する。加速度センサーの底面部と地面が接する地点を中心に半径10mの範囲の音を検出することができる。

②測定記録部ピックアップセンサーから出力された電気信号を内部処理して元の音へ再変換と音の強弱を数値化す

ることで、聴覚と視覚で水音を測定するものである。内蔵メモリーには800測定分を記録することができる。記録された音情報はパソコンなどへ出力することができる。

また、ピックアップセンサーが曝気音と同時に検出する砂礫の摩擦音などさまざまなノイズを信号処理の段階でカットする。

(図-3)地中音測定器のイメージ

ヘッドホン

測定記録部

ピックアップセンサー

※地表に聴診器をあてて地下の脈を探るイメージです

地中の音約10m

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③ヘッドホン測定中に記録部が処理した音をリアルタイムで聴くものである。

本地区での調査、測定は下記のとおり行った。① 大平温水ため池堤頂部で、堤軸方向に湧水に近い位置から5m間隔で8 点を測定② 湧水の位置から地山側に、地中水音が強まる方に範囲を拡げながら測定③ 複数回測定を実施し、繰り返し測定される値を採用(異常値を除外)

調査結果は、図−4のとおりとなった。地中水音の大きい部分は堤体と地山の境界付近に限局的に現れて、これが湧水箇所につながってい

た。このことから、堤体の外側地山の水を通しやすい風化泥岩内に水みちが形成されたものと推定した。そこでこの水みちを閉塞するため堤体へ薬液注入工(図−5 、6 参照)を施すこととした。薬液注入工施工後に、あらためて試験湛水を行ったところ、ため池からの漏水は認められなかった。

3. 調査結果の活用

(図-4)測定結果 平面図

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今回の調査及びその結果に基づく対策工事を行う中で、地下の水みちを推定するにあたって地中水音を直接測定する技術が有効であることが明らかとなった。

集中豪雨の増加とともに、地下水に起因する災害が多発している。ため池のみならず、斜面や道路などさまざまな場所の防災減災対策へ応用することが期待できる。探査・調査技術として参考にしていただければ幸いである。

4. 最 後 に

(図-5)湧水対策工法・薬液注入工計画平面図

(図-6)薬液注入工計画断面図

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