文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … ·...

JAPAN 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本創造20057

Upload: others

Post on 03-Feb-2020

1 views

Category:

Documents


1 download

TRANSCRIPT

Page 1: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

JAPAN

文化外交の推進に関する懇談会 報告書

「文化交流の平和国家」 日本の創造を

2005年7月

Page 2: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると
Page 3: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると
Page 4: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第一章 今なぜ「文化外交」か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.21 世紀の「文化外交」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

(1)自国についての理解促進とイメージの向上:「魅きつける力」を生かした

日本理解の促進と信頼獲得の重要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

(2)紛争回避のための異なる文化間・文明間の相互理解・信頼の涵養:相互理

解の難しさが際立つ時代を克服するために ・・・・・・・・・・・・・ 3

(3)全人類に共通の価値や理念の育成に向けての貢献:共通の価値観を形成す

る必要性の高まり -対アジア外交の要として ・・・・・・・・・・・ 3

2.文化外交の意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

3.文化外交の展開のための基本認識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(1)「外交空間」の広がり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(2)多様な現代日本文化発信の重要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(3)相互理解に向けた対話と交流の場:文化交流という「公共空間」の創造

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第二章 文化外交の3つの理念と3つの柱 ・・・・・・・・・・ 7 1.第一の柱:発信の理念に対する行動指針 ・・・・・・・・・・・・ 7

(1)日本理解への入り口としての日本語や現代日本文化 ・・・・・・・ 9 (2)「魅きつける力」をもった発信 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(3)具体的な取組み課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

(イ)日本語普及と日本語教育の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・10

(ロ)知的・文化的資産としてのコンテンツの振興と発信 ・・・・・・・・10

(ハ)情報の発信機能の充実 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

(ニ)対外的なメッセージの発信機能・広報活動の充実 ・・・・・・・・・11

(ホ)国際交流場面における体験的な日本文化発信 ・・・・・・・・・11

2.第二の柱:受容の理念に対する行動指針 ・・・・・・・・・・・・・12

(1)創造的受容とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

(2)文化交流という公益的活動を支える新たな仕組みの形成 ・・・・・12

(3)創造的受容の前提 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 (4)具体的な取組み課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

(イ)留学生の積極的な受け入れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

Page 5: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

(ロ)レジデンス型(滞在・交流)プログラムの推進 ・・・・・・・・・・14

(ハ)人材交流の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(ニ)知的交流の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

3.第三の柱:共生の理念に対する行動指針 ・・・・・・・・・・・・・14

(1)和と共生を尊ぶ心とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(2)多様な文化や価値の間の架け橋としての日本 ・・・・・・・・・・・15

(3)「文化という公共空間」を守り創造する日本 ・・・・・・・・・・・・16

(4)具体的な取組み課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

(イ)文明間対話の促進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

(ロ)日本の国際協力の基本理念の発信 ・・・・・・・・・・・・・・・17

(ハ)スポーツ交流推進のためのネットワーク整備 ・・・・・・・・・・17

(ニ)「文化財国際協力コンソーシアム(仮称)」の構築 ・・・・・・・・・17

第三章 明確な文化外交戦略を ・・・・・・・・・・・・・・・・・19 1.文化交流推進体制の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

(1)「文化外交推進会議(仮称)」の設置 ・・・・・・・・・・・・・・・・19

(2)文化交流のための体制の拡充と国際交流基金の活用 ・・・・・・・・・19

(3)人材育成と効果的活用を支える仕組みづくり ・・・・・・・・・・・19

2.重点対象地域 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

(1)東アジア地域 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

(イ)「インターネット世代」への働きかけ ・・・・・・・・・・・・・・20

(ロ)地方への事業展開の強化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

(ハ)知日派のネットワークの整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・20

(ニ)学生・教育交流の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

(ホ)共通する課題に関する対話の促進 ・・・・・・・・・・・・・・・21

(2)中東イスラーム地域 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

終わりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

(資料)

文化外交の推進に関する懇談会の開催について ・・・・・・・・・24

各会合で議論されたテーマ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

Page 6: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

1

はじめに 本懇談会は、我が国と諸外国の国民が、文化交流や文化の分野での国際協力を

通じて相互理解を深め、親日感を醸成することや、日本の有識者が地域研究・

知的交流を通じて発信力を高めることは、日本外交に幅と奥行きを持たせる上

で重要となっているとの認識の下、それらの基本的な在り方を検討することを

目的として、開催されたものである。

本懇談会は、7回の懇談会に加え、2回の国際文化交流関係団体・個人への

ヒアリングを実施し、毎回幅広い観点から活発な議論や検討が行われた。本報

告書は、その結果をとりまとめたものである。

本報告書では、今なぜ文化外交という視点が必要なのかについて述べると共

に、文化外交の「発信」・「受容」・「共生」の3つの基本理念とそれを実現

するための行動指針、さらに文化外交を推進するための体制や重点地域等につ

いて、課題と戦略を提言している。 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

共に、官民を問わず文化交流の担い手が連携して、本報告書の提言を実現に移

していくことを強く期待したい。

Page 7: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

2

第一章 今なぜ「文化外交」か 1.21世紀の「文化外交」 今日の世界を性格づける民主化と市場化の拡大及び IT革命の下、文化の領域

における国境を越えた交流と対話、そして協力が活発化している。その担い手

は多様であり、政府、地方自治体、企業やメディアのほか、NGO・NPOなどの非政府組織や芸術家、スポーツ選手、そして学者などの個人も含まれる。活性

化する文化交流活動は、国際社会における相互理解、世論形成、協力の基盤づ

くりにおいてますます重要な役割を占めつつある。 文化交流活動は、一方で国のイメージに大きな影響を与え、他方で地球規模

の困難な問題の解決や、世界の究極の平和や繁栄にもつながるという意味で、

極めて重要な外交的側面を有する。日本は文化交流のこうした側面に十分注目

した上で、その効果を最大にするため、国全体として明確な理念と方法論を確

立すべきである。その際に重要なことは官民を問わずあらゆるレベルの文化交

流の担い手が、相互に水平的かつ有機的に連携することである。それにより、

それぞれがそれぞれの目的を一層有効に果たすことができ、ひいては、それが

日本国民全体の利益になるということである。「文化外交」は、文化交流の自立

性と多様性を尊重しつつ、開かれた国益の実現のために多様な交流を促進する

ものである。 こうした意味での 21世紀の文化外交は、今日およそ次のような目的を追求することが求められている。 ・ 自国についての理解促進とイメージの向上 ・ 紛争回避のための異なる文化間、文明間の相互理解と信頼の涵養 ・ 全人類に共通の価値や理念の育成に向けての貢献

(1)自国についての理解促進とイメージの向上:「魅きつける力」を生かした

日本理解の促進と信頼獲得の重要性 日本がいかなる国際貢献を行うにも、まずはアジア諸国をはじめとする世界

の人々から日本や日本人に対する信頼を得ることが不可欠である。そのような

信頼がなければ、日本理解を進展・深化させることはもとより、世界において

安定した経済活動を展開することも、政治的舞台において影響力を発揮するこ

とも難しい。情報化時代においては、ある国に対する良いイメージが、信頼の

形成に大きな影響を及ぼす。世界の人々の関心と興味を「魅きつける」多様な

文化の力を総合的に用いながら日本イメージの向上を図ることが、ますます文

化外交の重要課題となりつつある。

Page 8: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

3

(2)紛争回避のための異なる文化間、文明間の相互理解と信頼の涵養:相互

理解の難しさが際立つ時代を克服するために 今日ほど異なる文化間や文明間の相互理解の難しさが際立つ時代はない。グ

ローバル化と情報化によって「つながる」はずの世界は、至るところに深い「亀

裂」をかかえており、その亀裂は時として「9.11」のような地獄絵となって私たちの前に姿を現す。人類への挑戦であるテロリズムに対しては断固とした対応

をとるべきであることは当然である。しかし、それと同時に、価値観を異にす

る文明間や地域間の衝突や対立を緩和し回避するために、相互理解を推進し平

和的解決を図ることは、今日の国際社会が取り組むべき最大の課題の一つであ

る。 日本は長い時間をかけ、他の文化や文明と交流することを通して、日本文化

の伝統の土台を築いてきた。また西洋近代と自国の伝統の狭間で試行錯誤を重

ねながら近代化を達成してきた。文化交流は、近代国家日本の形成過程の重要

な要素であった。日本は、異なる文明間の矛盾や対立に悩みつつ、それを創造

的に克服してきた経験があるからこそ、自らのアイデンティティを守り、民族

の尊厳を保ちながら近代化を達成しなければならない非西洋社会の困難を理解

することができる。 このような立場を生かして、日本は「文化交流の平和国家」として、文明間、

イデオロギー間、宗教間等の対立に巻き込まれることなく、東西間や南北間、

国家間や地域間、そして文化間、文明間の相互理解を促進し、平和で安定した

国際・地域関係を築くために積極的な役割を果たすことができ、またそれが国

際社会から期待されている。 (3)全人類に共通の価値や理念の育成に向けての貢献:共通の価値観を形成

する必要性の高まり -対アジア外交の要として グローバル化の進展によって生活のあらゆる面で相互依存と一体化が進みつ

つある中で、文化の多様性を擁護し尊重しつつも、異なる文化や文明を背負う

人々の間に共通の価値観を形成する必要性が一層高まっている。特に日本は対

アジア外交において、相互理解と対話を進めることによって、共通の利益や価

値観を育て、地域としての一体感を醸成し、歴史認識をめぐり意見の相違のあ

る当該地域との間に安定した関係を築くことが必要であり、このための文化外

交の積極的な展開が特に求められる。 文化交流は政治・安全保障や対外経済関係、経済協力と並ぶ外交の重要な柱

の一つであると言われるがこれまで必ずしも十分な活用が行われてこなかった。

しかし相互理解の涵養や信頼の醸成という今日の差し迫った課題を解決するに

Page 9: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

4

は、文化交流を中心に据えた外交の積極的な展開が不可欠である。文化交流を

通じ日本及び日本人が外国によりよく理解され、信頼されることは、それ自体

日本の安全保障の重要な要素となるからである。 「文化交流の平和国家」日本を創造し、世界に向けて発信していくためには、

日本の特色を生かした文化外交を効果的かつ効率的に展開することが、今強く

求められているのである。 2.文化外交の意味 文化交流は、今日従来とは大幅に異なる重要な外交的意味を持つ。文化交流

は何よりも国や市民の対外イメージの向上に貢献し、国際社会での日本に対す

る好感度を上げることに寄与するものである。グローバル化と情報化の発達し

た世界にあっては、良好な対外イメージと好感度はその国の行動や主張に対す

る理解と共感の大きな基盤を形成する。それはまた国際世論における支持や賛

同となって現れる。政治・安全保障や経済活動といった問題に対しても、適切な

文化交流が伴わないと、その効果が十分に得られないことがある。なぜなら、

政治・安全保障や経済分野の外交交渉といえども、文化交流による不断の相互

理解が促進されることによって交渉相手国の世論と国際社会での支持を増すこ

とにつながり得るものであり、それが実際の交渉に及ぼす影響は少なくないか

らである。逆に、折角、経済援助などで多大の貢献をしているにもかかわらず、

適切な文化交流による相互理解が促進されないでいる場合には、援助の効果が

十分に発揮されずに終わってしまうことがある。様々なレベルでの文化交流を

通して、日本理解を推進することこそ政治・安全保障、対外経済関係、経済協

力といった外交的課題に取り組んでいくための効果的かつ現実的な外交手段で

ある。 市民レベルにおける理解促進 これは、一見、迂遠な道に見えてその実非常に効果的な方法である。何より

もそれは次に来る世代に対する日本への理解の深まりを準備することにほかな

らず、また中長期的に見たとき、相手国の一般市民の理解こそが政府や当事者

の態度に影響を与える最大の要因に他ならないからである。たとえ外国におい

て反日感情が時として高まることがあるとしても、それを上回る市民の「親日・

知日」層が存在すれば関係の安定は保たれるであろう。例えば、もし2002年

の日韓サッカー・ワールドカップや最近の韓流ブームがなければ、韓国におけ

る「反日」気運の盛り上がりによって、日韓関係はより悪化していた可能性が高

い。「韓流」ブームで韓国に関心を寄せている日本の一般市民の中には、「反日」

の最中にも韓国を訪れたり韓国語の学習を続けている者も多い。これは特殊な

Page 10: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

5

例とみなされてはならない。むしろ 21世紀世界においては「文化交流」の効果が国家・地域間の様々な困難を越えて現れることを理解する必要がある。 双方向の交流 文化交流は、もちろん、一方的なものではない。自国の文化を発信すると同

時に相手国の文化も様々なレベルで受容する努力をしなければならない。相互

に理解し合い、尊敬し合うことは、良好な国際関係を支える基礎となる。また

自国民が相手国を理解することは、外交を進める上での国内的な支えともなる。 「遅い情報」の重要性 今日の情報化・マスメディア時代において注意すべきことは、情報伝達のスピ

ードを競うあまり、情報の客観的正確さよりも表層的で一方的な伝達が行われ

る傾向が強いことである。しかし、政治・安全保障、経済などの分野と並んで文

化交流を主軸とする外交が必要とされるのは、一般的には情報のスピードが重

視される政治・安全保障などの分野においても、時間をかけた相手国と国民の理

解を必要とする情報や知識、すなわち「遅い情報」が存在するからである。そ

して、そうした理解を可能ならしめるためには、文化交流の形での外交活動が

有効であることを深く認識する必要がある。 3.文化外交の展開のための基本認識 (1)「外交空間」の広がり 今日、文化的背景を異にする人々の接触が広範囲に、また密接になることに

よって、日常生活や情報空間など、ありとあらゆるところで生じる異文化間の

出会いや交流が、広い意味での「外交空間」として大きな影響力と重要性を持

つようになっている。外交の相手は、単に国や政府に限られるものではなく、

相手国の国民や市民、メディア、また NGO・NPO、教育・研究機関など、多様な対象を視野に入れて行う必要がある。 (2)多様な現代日本文化発信の重要性 このような多様な対象に向けて、日常生活から伝統芸術まで、広く多様な現

代日本の文化を的確に発信して魅力ある日本の姿を効果的に伝えるとともに、

世界の日本理解を深めることが、今最も強く求められる。 今日、生活様式から芸術までを含む現代日本文化全体に対して寄せられてい

る関心や注目、憧れは、日本の文化が持つ魅力に発するものであるとはいえ、

望めばいつでも得られるというものではない。日本はこのような「追い風」を

しっかりと受けとめ、それを最大限に活用し、このような関心が一過性の流行

Page 11: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

6

に終わらず、日本理解の促進とイメージの向上、さらには好意的で安定的な国

際的環境を醸成していく力につながるよう、機を逸することなく意識的に取り

組まねばならない。 (3)相互理解に向けた対話と交流の場:文化交流という「公共空間」の創造 文化交流は異なる文化間や文明間のみならず、過去の人類の文化的遺産を将

来世代の文化の多様で創造的発展のために引き継ぐという意味で、過去と未来

をつなぐ役割も担う。文化交流や異なる文化間・文明間の対話の場とは、まさ

に国際的な「公共空間」である。日本はこのような文化交流という「公共空間」

を積極的に創り出すだけでなく、多様な文化を受容する開かれた国であり社会

となることを通して、「文化交流の平和国家」としてのイメージを強く世界に訴

えることが望まれる。 ここに述べたような文化外交の死活的重要性を認識せず、持てる知的・人的・

物的資源を最大限に生かしうる体制の整備を行わず、文化外交を今本気で展開

しなければ、国際社会における日本の存在感は急速に薄れてしまうであろう。 文化外交による日本理解の促進や日本に対する信頼の獲得は、それ自体が最

終目標ではない。その先には国際社会の平和共存と発展、また来る世代の望ま

しい社会の追求に日本が積極的な役割を果たすというはるかに大きな課題があ

る。それは地道で継続的な取組みを必要とする困難な課題である。しかし、人

類社会の平和と発展のために、日本は長期的視野に立って、その実現を図るべ

く着実かつ戦略的、効率的に歩を進めていかなければならない。文化外交への

新たな取組みはその第一歩である。

Page 12: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

7

第二章 文化外交の3つの理念と3つの柱 自文化の「発信」、異文化の「受容」、そして相互交流を通して多様な文化的

価値観の「共生」を目指していくことは、いつの時代にも、豊かで真に意味の

ある「文化交流」の基本である。グローバル化と情報化が進み、「文化交流」を

取り巻く世界的な状況が大きく変化している今日、日本はどのような「発信」、

「受容」そして「共生」を目ざして文化交流に取り組んでいくことが望ましい

のだろうか。 「発信」、「受容」、「共生」という文化交流の3つの「基本理念」を示し、日

本が自らの文化や社会の特色や強みを活かしながら、それらの理念を具体的か

つ効果的に実現していくための行動の指針となる「3つの柱」、そして具体的な

取組み課題について、以下に述べる。 行動指針となる「3つの柱」と具体的な取組み課題 3つの基本理念

1.発信:文化発信を通した「21世紀型クール」の提示 2.受容:文化創造の場の育成につながる「創造的受容」 3.共生:「多様な文化や価値の間の架け橋」としての貢献

1.第一の柱:発信の理念に対する行動指針 「21 世紀型クール」の追求として、日本語の普及と、ポップカルチャーや現代アート等を糸口に、世界における「日本のアニメ世代」の育成を積極的に

図り、奥行きと広がりのある日本文化へのさらなる関心を発展させよう。

文化交流を通した社会モデルの追求:「21世紀型クール」 「クール」とは「かっこいい」という意味である。日本のマンガ、アニメ、

ゲーム、音楽、映画、ドラマといったポップカルチャーや現代アート、文学作

品、舞台芸術等は「ジャパン・クール」と呼ばれ、世界の若者世代の人気を博

している。また、食やファッションに代表される日本の生活文化も海外で幅広

く普及している。しかし日本が文化交流を通して伝え発信していく魅力は、単

にそれがかっこいいということにとどまるものではない。ジャパニメーション

(日本のアニメ)が、まさに日本という国から生まれてきたことからも示され

るように、日本の現代文化は、伝統文化をその基礎・背景として持っているか

Page 13: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

8

らこそ、「クール」たりえるということができる。また、ハイブリッド技術のよ

うな環境と先端技術の融合、ロボット技術に見られるような美しく、人にやさ

しい技術、循環型社会の実現等の環境に関わる政策などは、面白さ、楽しさ、

美しさ、健康など身近な生活の中の幸福追求に密接に関わりながら、同時に自

然や環境と調和しつつ、持続的に物心両面における豊かな生活を創り上げてい

くという、世界がこれから発展させるべき一つの社会的なありかたであり、21世紀に追求すべき人類の目標である。これを「21 世紀型クール」という社会モデルとして提示し、その実現を図るという課題が、日本の文化交流、文化発信

の背景にあるということを、様々な媒体を用いて海外の人々にわかりやすい解

説を加えながら、明確にメッセージとして伝えていく必要がある。 近年、日本のコンテンツや生活文化が各国の一般市民、特に、若者世代を中

心に好感をもって受け入れられており、それが日本や日本人、また日本製品に

対する印象を高め、さらには経済を活性化する推進力ともなっている。ある国

や社会に対して国民の間に好意的な印象が広がることは、外交関係においてそ

の国に対してとりうる政策の選択肢を広げるという、大きな政治的波及効果を

持つことにもなる。魅力ある文化の創造と発信は、新しい形の国力や外交力の

源泉として捉えられなければならない。 日本はこれまで、特に現代日本文化に対する諸外国からの高まる関心に対し

て、十分に応えてきたとは言いがたい。日本に対する現在の関心や興味を一過

性の流行で終わらせることなく、中長期的に日本理解の促進と親日感の醸成に

つなげ、経済活動や政治的関係においても好意的な国際環境を安定的に醸成し

ていく力に育てていくことが強く求められる。また、そのための積極的で明確

な政策的取組みが必要である。 それには、①多様化する日本への関心や日本語学習の需要に応えられるよう

日本語の一層の普及を図ること、②マンガ、アニメ、ゲーム、音楽、映画、ド

ラマといったポップカルチャーや現代アート、文学作品、舞台芸術、食やファ

ッション等の現代日本文化に関する情報を積極的に発信して、日本に対する高

まる関心に応え、世界に将来のよき日本理解者たるべく「日本のアニメ世代」

を育成すること、③「魅きつける力」をもつ文化発信を行うために、日本全体

で人材を育成し、技術力を最大限に生かした発信の取組みを強化すること、が

求められる。 このような戦略的かつ重点的な文化発信を通して、現代日本文化を入り口に、

日本への広く深い関心を呼び起こし、多様な日本文化への関心を発展させてい

かなくてはならない。これが第一の柱である。

Page 14: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

9

(1)日本理解への入り口としての日本語や現代日本文化 ・ 現代日本文化の発信を強化することには、日本の文化伝統の一面を示すこと

も含まれる。例えば、日本の自動車に伝統的な「ものづくり」の技が受け継

がれているように、マンガやアニメ、ゲームなど日本のコンテンツの繊細で

丁寧なつくりにも、伝統の技が受け継がれ生かされている。日本のコンテン

ツやポップカルチャーは日本の伝統や技の新たな「表現」である。 ・ これまで日本の文化交流においてはどちらかというと伝統文化の交流や発

信に重点がおかれていたが、現代日本文化を積極的に発信することで、諸外

国の人々が日本に対して関心を持つことのできる「入り口」を増やし、そこ

から、より深い日本理解につながる、多様な道筋を創り上げていくことが効

果的である。このことは、いわゆる狭い意味での「文化」の面での交流に限

られず、例えば、産業部門での人的交流や観光も、日本の「ものづくり」の

技や心を海外に発信する上での効果は高い。 ・ そのためには常に新しい発想と表現の源となる伝統的な日本文化を維持、振

興していくことは当然必要であり、また様々な「入り口」から日本に関心を

抱いた人々が、これまで経験したことのない日本文化の別の側面を経験し体

験できるような仕組みを工夫し、整えていくことが望まれる。 ・ 日本語を学ぶことは対日理解にとって最も基本的で効果的なものである。日

本語教育においても、多様化する学習目的や動機、関心や興味に対応し、研

究者や芸術家等だけでなく、より広い層の人々を対象にすることで日本に関

心を持つ人々の層を広げ、日本理解につなげていく必要がある。 (2)「魅きつける力」をもった発信 ・ 効果的な文化発信が今日ほど難しい時代はない。情報がいたるところに氾濫

している今、発信する内容は言うまでもなく、発信のしかたそのものが人を

「魅きつける」ものでなければ、情報は効果的に伝わらない。 ・ 「魅きつける力」をもった発信をするためには、情報の収集力や分析力を格

段に高め、それぞれの国や地域、人々の置かれた状況を深く理解し、必要と

されている情報を的確に提供することができる仕組みを整えることが不可

欠である。 ・ 魅力的な情報、魅力的な発信の場、魅力ある人材を創り出すことを重要課題

として、日本のデザイン力を海外拠点の建物に生かしたり、ポップカルチャ

ーを日本語教育の教材開発に活用し、内外で活躍する芸術や学術、スポーツ

やポップカルチャーなどの領域の人材を登用するなど、多彩な文化力を生か

した日本全体の取組みによって、発信の魅力と効果を高めることが望まれる。 ・ 理念とモノ、「ことば」や行動が一体となった、具体的かつ体験的な文化交

Page 15: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

10

流を、日本の特色ある交流の形として展開する必要がある。よく日本は、モ

ノや行動が強い発信力を持つ一方で、「ことば」による表現や伝達が苦手だ

と言われる。強みを生かした体験的な文化交流を進めながら、同時にそれら

を「ことば」や「概念」にして論理的に説明するために、一層の努力をしな

ければならない。 ・ 日本の文化発信や学術交流を担う海外文化拠点の体制は欧州先進諸国のそ

れに比して十分とは言えない。既存の施設を一層有効に活用しつつ、文化発

信のための仕組みをさらに整えるべきである。 (3)具体的な取組み課題 (イ)日本語普及と日本語教育の推進 ・ 現在世界の 127カ国・地域でおよそ 235万人もの人々が日本語を学んでおり、学習の動機や目的は従来にも増して多様化している。

・ 多様化する日本語学習の目的や動機、関心や興味に応えられる、魅力的な

教材開発や教育の質の向上、人材育成や教育機会の確保など、日本語教育

と日本語普及の推進を図る。 ・ その際、日本語の美しさを評価しその魅力の効果的な伝達方法について議

論を深める。そのため、「日本語サミット(仮称)」の開催などを検討する。 ・ 日本語教育に関して包括的に戦略を立て、日本語の発信体制を具体的に整

えるために、後述する「文化外交推進会議(仮称)」において検討する。 (ロ)知的・文化的資産としてのコンテンツの振興と発信 ・ 日本のコンテンツ、及び食やファッション等の生活文化を、日本の主要な

知的・文化的資産の一つと位置づけ、その積極的な情報発信を図る。 ・ その際、あらゆる分野のコンテンツ産業関係者は、長期的視野に立った取

組みが文化交流の拡大に必要となることにも留意しつつ、短期的な収入確

保ではなく、長期的にシェアを維持・拡大していくことを念頭においた国

際展開を図るべきである。 ・ コンテンツ領域における技術や表現上の強みを、日本語教育など、他の様々

な文化情報の発信の際に最大限に活用する。特に映像による情報の伝達は

極めて効果的であり、より積極的な活用を図る。 ・ 関連業界は、ポップカルチャーに関する観光の受け入れを積極的に図る。

国は、ポップカルチャーにおけるワーキングホリデーの受け入れや、「日本

ポップカルチャー年(仮称)」の設定、ポップカルチャー大使の派遣など、

現代日本文化の発信力を高める環境づくりを検討する。 ・ 国際音楽祭や国際映画祭等の機会を活用して積極的に日本の魅力ある文化

Page 16: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

11

を海外に発信するため、積極的な支援を行う。

(ハ)情報の発信機能の充実 ・ 在外公館や(独)国際交流基金の海外事務所等の海外拠点そのものが日本

の魅力的な文化の発信拠点となるよう、適切な人材の配置や、魅力的な空

間の演出を図る。特に、在外公館や(独)国際交流基金の海外事務所等に

おいて、アートマネジメントや学術関係者を含む有識者とのネットワーク

作り等、文化交流に関連する能力を向上させ、専門的、効果的な文化交流

を推進する。 (ニ)対外的なメッセージの発信機能・広報活動の充実 ・ 伝統文化から現代文化、生活文化や地方文化を含め、日本文化に関する総

合的なウェブサイトを充実させる。国や地方、文化交流に関わる多様な主

体が連携しながら、魅力的で分かりやすいサイトにする。 ・ 国は関係機関と協力して、文化交流に関わっている多様な主体間の情報交

換や連携を促すとともに、海外の人々が日本の文化活動について把握し、

接触や交流をはかりやすくなるよう、日本の文化交流活動関係の情報を総

合的に、発信・共有する仕組みを整える。 ・ 日本文化、特に歌舞伎や能、狂言、茶道、華道、武道といった日本の伝統

文化を外国人によりよく理解してもらうには、当該言語への翻訳や、映像

等の利用、解説によって理解の手助けを図るなどの様々な方法が考えられ

る。このような広義の「翻訳」を効果的に行うために、国は関係機関と協

力して、内外の知恵を結集して具体的な方策を検討する。 ・ 情報を伝えるとは、それを相手の自由な解釈にだけゆだねるのではなく、

日本の捉えかたやものの見かたを伝えるということを意味し、それによっ

て理解が一層深められる。その際、特に不可欠なのは、活字媒体に代表さ

れる論理的な言語による表現である。国は関係機関と協力して、効果的な

日本に関する広報や情報の伝達を推進するため、それぞれの媒体の特徴を

活かしつつ、対外的なメッセージの発信機能の充実を図る。 (ホ)国際交流場面における体験的な日本文化発信 ・ 政府の公式行事等において、日本料理の提供や日本文化の発信を積極的に

行うなど、来日した人々が日本文化を体験的に理解する機会を増やし、効

果的な日本文化の発信を行う。

Page 17: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

12

2.第二の柱:受容の理念に対する行動指針 様々な分野における異文化交流の担い手を積極的に受け入れ、「創造的受容」

を通して日本を活力あふれた「文化創造の拠点」にしよう。

文化の理解や新たな文化の創造は、究極的には人が出会い、共に暮らし、共

に働き、経験を共有することから生まれる。情報化とグローバル化が進み、国

境を越えた人々のネットワークが容易につくられる時代であるからこそ、一層

人々が「場所と経験」を共有することは大きな意味と重みを持つ。新たな文化

の創造は人類全体、そして国際社会の将来の豊かな発展を支える力であり、文

化の自由な交流空間を創り出していくことは、それ自体国際社会に対する積極

的な貢献である。 また、多様な人々に開かれ、それらが自由に交流できる空間のある社会は、

新たなものを生み出す創造力と活力を持つ。 日本はこれまで諸外国から知識や技術、文物を貪欲にとり入れ、それらを独

自に発展させながら新たな文化を生み出してきた。このような「受容」だけで

はなく、今後は積極的に文化交流という「公共空間」を自ら創造・提供し、そ

こで多様な人々が共に生き、経験を共有することを通して相互理解を深め、一

体感を醸成し、さらには、多様な人々との交流が自らの社会に変化を促し、活

性化の原動力となるような「創造的受容」へと転換を図る必要がある。 そのために、芸術家やポップカルチャーの担い手、研究者や留学生、メディ

ア関係者をはじめとして様々な分野の異文化交流の担い手を積極的に受け入れ、

国際社会に対しても地域社会に対しても開かれた文化交流の空間を創りだし、

日本を 21世紀の「文化創造の拠点」にしていかなければならない。これが第二の柱である。 (1)創造的受容とは ・ 「創造的受容」とは、知識や技術、文物等をとり入れるという一方通行の「受

容」ではなく、文化が自由に交流することのできる公共空間を生み出し、交

流を通して価値の共有や一体感の醸成を図り、また地域社会の変化や活性化

を促すなど、創造的方向性をめざして人や文化の「受容」を図ることを意味

する。 (2)文化交流という公益的活動を支える新たな仕組みの形成 ・ 異文化の積極的な受容を図る際には、政府や企業、学界や市民などの多様な

Page 18: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

13

主体間の連携からさらに進む必要がある。文化交流や文化の創造的発展とい

う公益的活動を支えるためには、広い意味での「公」の創造と育成を図るこ

とが必要であるという意識が、広く国民全体に共有されなければならない。 ・ そのために、政府には地方や民間の様々な団体や、ボランティア・グループ

等、既存の仕組みをより一層効果的に活用し、その活動を支えるための、環

境作りを行うことが求められる。他方、住居の確保等、生活の立ち上げを図

るにあたっては日本国内の意識や慣行等が壁になって、外国人の受け入れが

進まないという状況に対して、国民自らが積極的に意識改革を図る必要があ

る。 ・ 「創造的受容」に向けて受け入れが積極的に行われることにより、公益的活

動を支える仕組みの形成を誘発し、国内の意識改革を牽引していくべきであ

る。 (3)創造的受容の前提 ・ 日本そのものが文化的に豊かで創造力に溢れた社会でなければ、文化交流の

担い手を積極的に日本に受け入れようとしても、彼らを「魅きつける」こと

はできない。また、日本人自身が日本文化をよく理解し大切に思う気持ちが

なければ、仮に多くの人々を受け入れたとしても真に豊かで創造的な交流は

望めない。日本国内において文化の育成と創造を図ることや、日本人自身に

よる日本文化理解を促進することは、創造的受容の土台であり前提である。 (4)具体的な取組み課題 (イ)留学生の積極的な受け入れ ・ 留学生は日本文化のよき理解者として将来の知日家となるだけでなく、そ

の知識や活力が日本社会を支え、日本語や日本文化を世界に広めてくれる、

将来の日本文化の担い手となる人材である。「留学生受け入れ 10万人計画」の目標を達成した今、米英を参考に、より質の高い人材を確保することに

重点を置くことにより、積極的な受け入れを推進する。 ・ 優秀な人材を引きつけ、来日した学生が暖かく迎えられ充実した生活を送

れるよう、産官学民が協力して奨学金の支給や宿舎の確保等の環境整備を

推進する。特に宿舎については既存の建物等を利用できるよう、関連主体

が柔軟な制度の見直しを行い、各主体間の連携を図りつつ効果的かつ効率

的な受け入れを推進する。また、日本国民がホームステイに一層積極的に

なるために必要な措置をとることも必要である。

Page 19: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

14

(ロ)レジデンス型(滞在・交流)プログラム(注1)の推進 ・ あらゆる分野の文化人、芸術家、またスポーツ関係者等も含めた「レジデ

ンス型プログラム」(いわゆる「アーティスト・イン・レジデンス」を含む)

を文化交流の重要課題の一つとして位置づけ、積極的に検討する。 ・ その際、レジデンス型プログラムが地域の活性化につながるよう、既存の

組織や仕組みを積極的に活用する。特に住居や文化活動の場所が確保でき、

効果的な交流・創造活動を展開しうるよう、地方自治体を含め産官学民の

柔軟な連携のもとでその環境作りを図る。 (ハ)人材交流の推進 ・ 将来の交流の柱となるような重要人物の日本滞在や日本研究や知的対話の

機会を与えるための工夫を積極的に図る。特にメディア関係者に対しては

重点的にこのような機会の提供を図る。 (ニ)知的交流の推進 ・ 既存の政策研究・地域研究機関の国際的なプレゼンスを強化するために、

研究機関のネットワークを充実させる。また、各研究機関は、海外の研究

機関との連携を促進するため、外国人職員の採用等について、より柔軟な

対応を図り、国際的な学術誌を発行する等の学術交流の拡充のための取組

みを検討する。 3.第三の柱:共生の理念に対する行動指針 「和と共生を尊ぶ心」を普遍的な日本のメッセージとして世界に伝え「多様

な文化や価値の間の架け橋」をめざそう。

それぞれの国や社会の歴史や伝統に根ざした文化に敬意を払い、その多様性

を尊重することは、国連・ユネスコが最重要課題の一つとして取り上げる文化

の多様性の擁護にも示されているように、今日の世界における基本的ルールで

ある。同時に、多様な文化を背景とする人々の相互交渉がますます密になる時

代にあって、異なる文化や文明の間で共有しうる価値を見出していく必要性も

また、これまでになく高まっている。「対話を通した多文化の共生と価値の共有」

は、現在の文化交流にもっとも期待される課題である。 しかし情報化が進んだとはいえ、今日の国際社会においては、政治体制の相

違や、様々な形での絶え間ない紛争等により、現実に「対話」を行う場と環境

Page 20: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

15

を確保することすら容易なことではないことが多い。こうした世界において、

日本独自の貢献はどこに求められるのか。 日本は「和と共生を尊ぶ心」という、日本がこれまで受け継ぎ、発展させて

きたものを土台としながら、それが今日の世界にとって持つであろう普遍的な

意義を伝えるとともに、「多様な文化や価値の間の架け橋」として異なる文化や

価値の共生をめざす「対話」の実現に向け、文化という公共空間を守り創造す

る役割を積極的に果たしていく任務がある。これが第三の柱である。 (1)和と共生を尊ぶ心とは ・ 「和」ということばには、調和や平和、平等、思いやりの心、また融合や共

存といった意味が緩やかに包含されている。日本は文化交流を通して、古く

はアジア諸地域に、近代以降は主に西洋諸国に学び、そこから多様な文化や

文明を吸収し、融合させながら今日の日本文化の土台となるものを築き上げ

てきた。「和」とは、日本文化の成り立ちの姿そのものである。また、モノ

を大切にする循環型社会や、ハイブリッドカーに見られるような、自然や環

境と共存する技術や生活を創り上げてきたこと、さらに武道をはじめとする

日本の伝統的スポーツにおいても、勝負のみにこだわるのではなく相手を敬

い、思いやる心が重視されるなど、「和と共生を尊ぶ心」とは、伝統文化や

現代文化を問わず、日本の思想や生きかたの中に連綿と受け継がれてきたも

のであり、また、産業技術や生活文化の発展を促す発想の源となってきたも

のである。 ・ 同時に、「平和」や「共生」は、日本が戦争等の歴史の教訓に学び、今日ま

で考え続け、現在においても追求しつづけている価値でもある。その意味で

は、「和と共生を尊ぶ心」とは、日本が過去から受け継いできたものである

と同時に、今後も継承し、発展させ、あらたに創り上げていこうとする価値

である。 ・ 日本は、日本の思想や生活文化、技術及び歴史に学んだ経験を伝え共有する

ことを通して、平和の追求や、自然環境との調和、他を思いやる心、といっ

た「和と共生を尊ぶ心」を、21世紀の世界が必要とする普遍的な価値たりうることを示し、同時にその追求に向けて積極的な役割を担っていく必要があ

る。 (2)多様な文化や価値の間の架け橋としての日本 ・ 今日、調停し、仲介し、媒介することが求められているのは、文化や文明を

異にする国や社会間の対立や葛藤だけではない。世代間、技術と自然、伝統

と近代、グローバル化への対応と固有文化の保護との間など、様々に異なる

Page 21: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

16

価値や領域の間に横たわる矛盾や対立を調停し、仲介することは大きな課題

である。 ・ 日本は非西洋社会の一員として、自らの伝統と西洋近代との間で試行錯誤を

積み重ねながら、アジアにおける近代化の先駆者であり続けてきたという独

自の立場を生かし、また自然との調和を図りつつ生活の質を向上させてきた

経験を他と共有することなどを通して、多様な文化や価値の間の架け橋の役

割を果たすことができる立場にある。またそのような貢献が世界から期待さ

れてもいることを忘れてはならない。

(3)「文化という公共空間」を守り創造する日本 ・ 各文化には固有性を越えた人類共通の財産という側面がある。文化間・文明

間の対話の場や、文化が交流する場は、国際的な政治情勢や政治的関係にい

かなる困難があろうとも、人類全体の将来世代の創造的発展を支え促す国際

的な公共的空間として擁護され育てられる必要がある。 ・ また、文化は過去から継承されたものを土台にしながら、新しいものを生み

出す。バーミヤンにおける仏像の破壊や、イラクの戦争混乱時の博物館の略

奪などは、文化的遺産や作品が物理的に失われたというにとどまらず、過去

の歴史や記憶が失われたことで当該地域だけでなく、人類全体の将来世代の

豊かな文化の発展の土台が大きく損われた。こういう損失を二度と繰り返さ

ないために、文化の公共性が広く国際的に認識されなければならない。 ・ 日本は過去と未来の双方を見つめながら、その継承と創造的発展の環境や条

件を整えるために、文化間、文明間の対話や交流の場と機会を確保し、人類

の歴史的遺産の保護と、新しい文化の育成のために、一層積極的役割を果た

す必要がある。 ・ 「文化交流の平和国家」を標榜する日本が国際貢献、特に紛争地域の復興支

援を行うにあたっては、経済面での協力と人道支援に加えて、文化財協力等

の文化への支援・貢献を一体として行うことにより、より大きな効果が生ま

れるものと考えられ、これを国家の理念として掲げるべきである。 ・ このような考えの下、今日の国際情勢の不安定さを考慮し、平時だけでなく

紛争時や緊急時に機動的に歴史的遺産の保護や修復等に関与できるよう、柔

軟で臨機応変な対応が可能な態勢を整えることが求められる。 (4)具体的な取組み課題 (イ)文明間対話の促進 ・ 日本を文明間対話のための場として位置づけ、戦略を立てて対象地域や追

求課題などを決め、様々なレベルでの文明間の対話を促進させる。そのた

Page 22: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

17

め、国内に文明間対話のための拠点を整備するとともに、随時「文明間対

話」会議を開催する。 ・ スポーツや芸術、ポップカルチャー、それに建築なども文明の重要な構成

要素に違いなく、それ自体、文明の融合状況を提示するという側面を持つ。

これらの具体的な活動や存在を総合的、積極的に用いながら、特色ある文

明間対話を実現させる。 (ロ)日本の国際協力の基本理念の発信 ・ 日本は政府開発援助の目的に「国際社会の平和と発展への貢献」を掲げて

取り組み、また地球温暖化対策の一環として温室効果ガスの削減を義務づ

ける「京都議定書」の策定と採択に指導的役割を果たした経験を有するな

ど、平和の追求や自然との共生を基本理念に国際協力を推進してきた。こ

のような日本の理念や立場は、さらに国際社会に理解され、浸透する必要

がある。これらの理念が、「和と共生を尊ぶ心」に支えられた日本の国際貢

献に対する姿勢でありメッセージであることを強く発信し、効果的な伝達

を図る。 (ハ)スポーツ交流推進のためのネットワーク整備 ・ 今日、スポーツが異文化間の相互理解を深める上で果たす役割はきわめて

大きい。例えば武道などの伝統的スポーツの指導は、単なる技術指導では

なく、それを通して日本の心を伝え、日本に対する興味や関心、理解を深

める役割を果たす。 ・ その一例として、イラク復興支援の一環として、アテネ五輪を初めとする

国際大会出場選手やコーチに対する強化訓練協力を行い、それがイラク人

選手の好成績につながり、復興途上にあったイラク市民の精神的支えにな

ったことが挙げられる。 ・ 日本の伝統的な武道をはじめとするスポーツを通じた交流が果たしうる異

文化・異文明間の相互理解における意義や役割を明確にし、それを平和外

交推進の手段の一つに位置づけ、関連する機関や諸団体、企業や大学等が

協力し合いながら効果的なスポーツ交流を推進するためのネットワークを

整備する。 (ニ)「文化財国際協力コンソーシアム(仮称)(注2)」の構築 ・ 日本が、より一層効果的に有形・無形の文化財の保護や、文化遺産の保存

修復等を通した国際協力を行っていくには、官民が適切な役割分担の下、

連携を深める必要がある。関係各機関の情報を集約・交換して効果的活用

Page 23: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

18

を図るとともに、緊急時の文化財の保護・修復支援等を機動的に実施する

ことも視野に入れた仕組みを整えなければならない。そのために、継続的、

機動的で効果的・効率的な国際協力実施に向けた調整を行うメカニズムを

構築する。その際、「文化財国際協力コンソーシアム(仮称)」の実現は有

益であろう。

Page 24: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

19

第三章 明確な文化外交戦略を 1.文化交流推進体制の整備 (1)「文化外交推進会議(仮称)」の設置 ・ 本報告書に掲げた3つの柱に基づく諸政策を実施していくには、全体的視野

に立ち、効果的で無駄のない文化交流を展開するための戦略的政策を具体的

に立案、策定する必要がある。その際には、海外各地域・主要国のニーズや

実情を踏まえた効果的な政策を戦略的に策定することが極めて重要である。

さらに、文化交流の担い手が多様化している今日、それぞれの強みを生かし

つつ、各組織のネットワークや知見を有機的に活用しながら文化外交を展開

することは極めて重要である。国内国外を一体として連続的に視野に入れた

政策的連携を図り、多様な主体間の調整を行いつつ、戦略的な政策の立案と

効果的な政策実施を図るため、関係省庁、政府関係機関及び企業や民間の文

化交流の専門家と学識者からなる「文化外交推進会議(仮称)」を政府部内

に設置する。 (2)文化交流のための体制の拡充と国際交流基金の活用 ・ 文化外交によって日本が今日国際社会に果たすべき役割は大きく、国際社会

の期待も高い。文化交流は、短期的にその効果が現れることは稀であるかも

しれないが、世界各国に対して日本が「魅きつける力」を発揮出来る分野に

おいて官民が一体となって、中長期的に取組みを進め、継続的に資源を投入

しなければ、日本が、世界中の人が訪れたい、働きたい、住みたいと思う魅

力と存在感のある国となり、新しい躍動の時代を迎えることは難しくなると

考えられる。 ・ 資源投入面での官民の関連機関の環境作りにあたっては、日本語教育やポッ

プカルチャー分野等、必要性が従前より増大している分野に重点をおく。 ・ 特に戦略的かつ効果的な文化交流の実施には、高い専門性と蓄積された知見

やネットワークの活用が必要であり、(独)国際交流基金を、官民をつなぐ

組織として機能の充実と最大限の活用を図っていくことが肝要である。 (3)人材育成と効果的活用を支える仕組みづくり ・ 今日の文化外交の課題は、平和と共生、文化情報の効果的受発信から文化の

創造的発展にいたるまで極めて多岐にわたっている。これらの課題を見据え

ながら文化交流を推進していくには、産官学民が連携して、教育プログラム

を形成するなどして、専門的人材を育成することが急務である。 ・ 日本の魅力を海外に伝える外国人、又は、日本文化の発展に貢献した外国人

Page 25: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

20

等、日本の魅力の伝道師となりうる人材について、表彰・叙勲など、積極的

に支援を行う。 ・ 日本全体で魅力ある日本の文化情報を発信するには、それぞれの分野の専門

的人材の柔軟な活用を図る必要がある。文化交流の担い手として海外に派遣

された専門家が、帰国後に元の職場に復帰しやすくする仕組みを整えるなど、

人材の効果的活用が進む環境が必要である。 2.重点対象地域 (1)東アジア地域 ・ 文化外交において、東アジア地域を重点対象地域の一つと位置づけて、積極

的かつ戦略的な文化交流を展開すべきである。 ・ この地域の諸国間には歴史認識を巡る問題をはじめとして困難な問題が数

多く存在している。一方で、日本は、長い歴史にわたる思想、知識、技術等

の交流を通じて、東アジア地域と多くの文化や価値観を共有している。この

地域が平和的に共存し発展することは日本のみならず、世界の安定的発展に

とって不可欠であり、日本が過去の歴史の教訓の上に戦後60年に亘って平

和国家としての国際貢献を続けてきたこと、そしてこれからも信頼関係を大

切にして世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることを丁寧に説明し

ていくと共に、文化交流や対話、文化の面での国際協力等を通して対日理解

を促進し域内の諸国との信頼感を深め、ひいては将来の「共同体」の形成に

向けて共通の利益や価値観、一体感を醸成していくことが肝要である。この

ため、以下のような施策の実施が求められる。 (イ)「インターネット世代」への働きかけ ・ 東アジア地域では、生活水準の向上や都市文化の発展により、若年層(い

わゆる「インターネット世代」)の間で、日本のポップカルチャーや生活

文化が人気を得ているが、これらの対象層の関心対象が日本文化の表層の

みに留まらず、より深い日本への理解につながる様に工夫する。 (ロ)地方への事業展開の強化 ・ 東アジア諸国の地方においては、日本人や日本文化に触れる機会も非常に

少ないが、日本語や日本社会への潜在的関心は少なくないので、日本の紹

介事業を重点的に行う。 (ハ)知日派のネットワークの整備 ・ 東アジア地域では、研究・留学その他の理由で滞日経験を有する者が各国

Page 26: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

21

各界において活躍していることが多い。これらの日本滞在経験者の動向を

把握し、知日派の核となる彼らを日本との交流に生かす取組みを行う。ま

た、日本との交流、協力のために草の根レベルで尽力してきた市民は数多

く存在するが広く知られていない。よって、こうした業績を再評価するた

めの取組みを実施する。 (ニ)学生・教育交流の推進 ・ 学生・教職員の交流を通じて次世代を担う若者の国境を越えた人的交流を

拡大することは、多様性を有する東アジア地域の相互理解と友好親善の基

盤を強化し、共同体意識の醸成を促進する上で重要である。東アジア諸国

の相互理解、ひいては将来の「東アジア共同体」形成も視野におきつつ、

東アジア地域内の学生・教員交流や共同研究を推進するための具体的取組

みを実施する。 (ホ)共通する課題に関する対話の促進 ・ 東アジア地域は、環境、福祉、男女共同参画等、共通する課題を抱えてい

る。よって、「アジアにおけるパートナー」として、アジアの新しい時代

と共同体作りに貢献するための対話と交流を進めていく。そのため、NPO・NGO 関係者や、地方の国際交流・協力関係者、地方紙記者、映像制作関係者、新進アーティスト等、これまで交流の少なかった各分野の若手・中

堅リーダー間の交流と対話を促進する。 ・ また、異文化教育も東アジア地域に共通する課題であり、「和と共生」を

東アジア地域において実現するため、その方法論と実践例について専門家

の交流を活発に行う。

(2)中東イスラーム地域

・ 数次の文化ミッションを派遣し日本アラブ対話フォーラムなどでも交流の

実をあげている中東イスラーム地域についても、東アジア地域に準じる重点

対象地域として引き続き重視していく。

(注1) レジデンス型プログラムとは、国内外から関係者を一定期間招へい

して、滞在中の創作・研究活動を支援する事業をいう。アーティスト・

イン・レジデンスが最も代表的な例。 (注2) コンソーシアムとは、一つ一つの団体では解決出来ない問題につい

Page 27: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

22

て、複数の企業や団体が共同で情報交換し、問題解決の方法を探ること

によって、その企業や団体全体の利益を図ろうというもの。

Page 28: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

23

終わりに 最後に、本懇談会メンバーとしては、この報告書に盛り込まれた提言が、官

民を問わず、全ての日本国民の意識を高めると共に、今後各担い手によって着

実に実施されることを強く希望する。

Page 29: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

24

文化外交の推進に関する懇談会の開催について

平成16年12月2日 内閣総理大臣決裁

1.趣旨 我が国と諸外国の国民が、国際文化交流を通じ、お互いの理解や信頼を

高めるとともに、文化の分野での国際協力を進めることにより、親日感を

醸成し諸外国との友好関係を増進し、世界文化の多様性を維持・発展させ、

もって、世界の平和と繁栄に貢献することは、日本外交に幅と奥行きを持

たせる上で極めて重要であり、その在り方について、幅広い視点から、総

合的な検討を行うことが必要である。また、日本における地域研究、知的

交流の在り方について検討を行うことは、日本の有識者の発信力を高め、

外交の基盤をより堅固なものとするために重要である。 このため、内閣総理大臣が、高い識見を有する有識者の参集を求め、「文

化外交の推進に関する懇談会」(以下、「懇談会」という。)を開催する。 2.構成 (1)懇談会は、別紙に掲げる有識者により構成し、内閣総理大臣が開 催する。

(2)内閣総理大臣は、有識者の中から懇談会の座長を依頼する。 (3)懇談会は、必要に応じ、構成員以外の関係者の出席を求めること ができる。

3.庶務 懇談会の庶務は、外務省の協力を得て、内閣官房において処理する。

Page 30: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

25

(別紙)

文化外交の推進に関する懇談会メンバー

青木 保(座長) 法政大学大学院特任教授

安藤 忠雄 建築家・東京大学名誉教授

王 敏 法政大学教授

岡本 真佐子 国士舘大学教授

マリ・クリスティーヌ 異文化コミュニケーター

高原 明生 東京大学教授

田波 耕治 国際協力銀行副総裁

東儀 秀樹 雅楽師

ロジャー・パルバース 作家・東京工業大学教授

平山 郁夫(顧問) 東京芸術大学長

福原 義春 株式会社資生堂名誉会長

黛 まどか 俳人

宮島 達男 現代美術家・京都造形藝術大学教授

山内 昌之 東京大学教授

山折 哲雄 国際日本文化研究センター名誉教授

山崎 正和(顧問) 東亜大学学長

山下 泰裕 東海大学教授

Page 31: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

26

「文化外交の推進に関する懇談会」

各会合で議論されたテーマ

1.第一回(12月7日)

○ 座長選任、委員自己紹介、総論

2.第二回(1月14日)

日本の文化・思想の魅力の発信

○ 日本文化に対する世界の共感、特に、東アジア地域の連帯

感を高めるために日本文化をいかに効果的に紹介するかにつ

いて議論。

3.第三回(1月27日)

文化外交の構想力の源泉としての知的交流・地域研究

○ 国際世論への影響力確保のための知的交流、地域研究の重

要性につき議論。

※ 国際文化交流関係団体・個人へのヒアリング

○ 第一回(2月8日)

・ 国際文化会館常務理事 加藤 幹雄

・ 地域創造理事長 遠藤 安彦

・ 文化財研究所国際文化財

保存修復協力センター長 青木 繁夫

・ 日本料理アカデミー会長 髙橋 英一

・ ヒューマンメディア社長 小野打 恵

○ 第二回(2月16日)

・ アーツ・イニシアティヴ

トウキョウ・ディレクター 小澤 有子

・ EU Japan Fest日本委員会 古木 修治

事務局長

・ 国際交流基金企画評価部長 坂戸 勝

・ 能楽協会観世流代表常務理事

(重要無形文化財総合指定者) 坂井 音重

・ 丸紅経済研究所長 杉浦 勉

Page 32: 文化外交の推進に関する懇談会 報告書 文化交流の平和国家 日本 … · 本報告書を契機として、全ての日本国民の文化外交に対する認識が高まると

27

4.第四回(3月1日)

文明間対話、民間や地方との連携

○ 多様な文明の尊重、受容の世紀へと世界を導くための文明

間対話の重要性につき議論。

○ 民間ベース、地域レベルでの交流、協力を促進し、これと

連携し、日本全体としての文化外交に取り組むことの重要性に

ついて議論。

5.第五回(3月14日)

文化・スポーツ協力の効果的活用

○ 途上国の国造り、紛争後の復興における文化・スポーツ協

力の意義及び文化発信の足掛かりとしての効果的活用につき

議論。

6.第六回(5月25日)意見のとりまとめに向けての議論

7.第七回(7月11日)報告書とりまとめと小泉総理への提出

○ 報告書を正式に採択。小泉総理に青木座長より手交。

(了)