多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … ·...

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多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝動脈内抗生剤注入療法 によって奏功した1中部徳洲会病院 初期研修医 2田中 源八

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Page 1: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝動脈内抗生剤注入療法

によって奏功した1例

中部徳洲会病院 初期研修医 2年 田中 源八

Page 2: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

【序文】

肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い高頻度に敗血症を併発し、予後の悪い疾患であった。

しかし近年の画像検査の進歩に伴う早期発見が可能と、

抗生剤の進歩、ドレナージ療法・動注療法の導入により、

現在は以前と比較し予後の良いものとなった。

今回、多房性化膿性肝膿瘍に対する穿刺ドレナージ法と

経カテーテル的肝動脈内抗生剤注入療法を行い奏功した1例を経験したため報告する。

Page 3: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

【本日のスケジュール】

・症例検討

・当院における肝膿瘍

・肝膿瘍とは?

・肝膿瘍治療の現在

・Take Home Message

Page 4: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

【症例】 81歳 男性 身長:152㎝ 体重:49.2㎏ BMI:21.3

主訴 : ふらつき

現病歴 来院日2ヵ月前、食思不振と心窩部痛のため当院受診。

精査の中、経過観察の方針となった。

翌月, 関西の大学病院で壊死性胆嚢炎の診断にて胆嚢摘出術施行。その後問題なく生活してはいたものの、認知が強く眠剤を大量に隠れて内服する日々。患者もふらつきが強く、近医受診し血液検査に

おいて肝酵素上昇認めたため、薬剤性肝障害の疑いにて紹介受診となった。

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【既往歴】

#壊死性胆嚢炎 #萎縮性胃炎

#高血圧 #糖尿病 #不安神経症

【生活・社会歴】

喫煙:never

飲酒:焼酎2.3杯/日

職業:農業

ADL:完全自立

コミュニケーション等も問題ない

Key Parson:同居している息子 (娘は関西に在住)

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【内服歴】

近医CLより

トリアゾラム 0.25㎎

クロチアゼパム 5㎎

アムロジピン 2.5㎎

シタグリプチンリン酸塩水和物 50㎎

ランソプラゾール 15㎎

【アレルギー歴】 特記事項なし

【家族歴】 特記事項なし

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【来院時vital sign】

血圧:93/50mmHg

脈拍:107回/分

体温:36.8度

SpO2:98%(大気下)

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【身体所見】 意識レベル:E4V5M6

General appearance Good

眼瞼結膜:黄染あり 口腔内 :乾燥なし 比較的清潔

頚部 :リンパ節腫脹なし 頸静脈怒張なし

心音 :整

呼吸音 :清 左右差なし

腹部 :平坦・軟 圧痛なし 腸蠕動音亢進・減弱なし

tapping painなし Murphy陰性

肝叩打痛なし

背部 :CVA叩打痛なし

皮膚 :全身に黄疸あり

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【来院時 検査所見】

GOT 61 IU/L

GPT 52 IU/L

γGTP 139 IU/L

LDH 168 IU/L

ALP 961 IU/L Alb 2.3 g/dL

T-Bil 7.6 mg/dL

BUN 30.1 mg/dL

Crea 1.23 mg/dL

CRP 24.23 mg/dL

WBC 18500 /μ

Hb 11.7g/dL

PLT 84000/μ

PT-秒 14.2秒

APTT 39.1秒

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【来院時腹部造影CT】

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【来院時腹部造影CT】

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【入院後経過】

入院後1日目

エコーガイド下に経皮経肝ドレナージ

MEPM 1g q12hrで抗菌薬を静脈注射で投与開始

入院後2日目 門脈塞栓に対してヘパリン12000単位/日 持続静脈注射開始

入院後4日目 紹介状の過去培養よりKlebsiella pneumoniae

CMZ 1g q8hr にdeescaration

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【入院後4日目 follow up 腹部造影CT】

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【入院後経過】

入院後5日目 総肝動脈に肝動脈注入カテーテル留置

CMZ 1g q8hr で肝動注

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【入院後5日目 follow up 腹部造影CT】

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【入院後経過】

入院後9日目 抗菌薬投与を 静脈内 CMZ 1g q8hr

肝動注 MEPM 1g q12hr に変更

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【入院後経過】

入院後18日目: 抗菌薬off

入院後19日目: 肝動脈注入カテーテル抜去

入院後20日目: 経皮経肝ドレナージ抜去

入院後31日目: 全身状態良好により退院

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【入院後19日目 follow up 腹部造影CT】

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入院時 入院後4日目 入院後13日目 入院後23日目

【入院後主要血液検査項目の推移】

GOT GPT ALP(X10) T.Bil CRP WBC(X1000)

GOT

GPT

ALP

CRP WBC

T.Bil

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【本日のスケジュール】

・症例検討

・当院における肝膿瘍

・肝膿瘍とは?

・肝膿瘍治療の現在

・Take Home Message

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【当院5年間における肝膿瘍罹患者】

・罹患者 : 7人

・年齢 : 53歳~95歳 平均年齢78歳

・男女比 : 5:2

・血液検査所見:6症例において肝胆道系酵素上昇

全症例においてCRP/WBC上昇

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【当院5年間における肝膿瘍罹患者】

・起因菌 :Klebsiella 4例

菌なし 2例

培養未提出 1例

・治療例 :抗菌薬(MEPM・ABPC/SBT・CMZ)

経皮経肝ドレナージ 3例

肝動脈注入療法 2例

・治療経過 :奏功5例

死亡2例(死因:胆管癌・敗血症)

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【本日のスケジュール】

・症例検討

・当院における肝膿瘍

・肝膿瘍とは?

・肝膿瘍治療の現在

・Take Home Message

Page 24: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

【What’s 肝膿瘍?】

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【疫学】

・男性 : 女性 = 3.3 : 1.3

・高齢者・糖尿病罹患者に多い

・アジア特に台湾に多い446/100000人

・日本では18~20/100000人(約2万5000人)

Clin Infect Dis. 2004 Dec 1;39(11):1654-9

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【臨床症状】

・発熱 90.5%

・悪寒 61.8%

・腹痛 55.2%

・嘔気・嘔吐 20.2%

・咳・呼吸困難 16.4%

・腹部膨満 6.9%

Am J Gastroenterol. 2010 Feb;105(2):328-35

胆嚢炎?

胆管炎?

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【原因菌・感染経路】

・もっとも頻度が多いのはKlebsiella spp

・単一菌のみ検出 44%

複数菌検出 25%

検出ができなった 31%

・経胆道感染 or 腹膜炎からの直接播種 or 血行性

Clinical Infectious Diseases 2004;39 1654-9

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【検査所見】

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白血球増多 好中球増多 AST上昇 ALT上昇 ALP上昇 Bil上昇

化膿性肝膿瘍に対する血液検査所見

Clin Infect Dis 2004 QJM.2002 Dec;95 Am J Gastroenterol.2010

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【本日のスケジュール】

・症例検討

・当院における肝膿瘍

・肝膿瘍とは?

・肝膿瘍治療の現在

・Take Home Message

Page 30: 多房性化膿性肝膿瘍に対する 穿刺ドレナージ法と経カテーテル的肝 … · 肝膿瘍は本来良性の疾患ではあるが、発見・診断の遅延に伴い

【肝膿瘍に対する治療】

抗菌薬:first choice・投与期間として

明確に定められているものはなし

穿刺ドレナージ法:適応の明確な基準はなし

肝動注療法:適応の明確な基準はなし

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【小松らの研究】

日消外会誌 28(5):1014・1015,1995

単発単房性 21例 :抗菌薬 + 穿刺ドレナージ

→全例有効

多発 or 多房性 29例 :抗菌薬 + 穿刺ドレナージ + 肝動注

→16例中15例有効

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【小松らの研究】

日消外会誌 28(5):1015・1016,1995

肝動注を行った16例の抗菌薬投与

投与量 :通常の全身投与量

投与方法:持続静注 10例 間歇動注 6例

16例中6例肝動注のほかに他種抗生剤の全身投与

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【小松らの研究】

日消外会誌 28(5):1018,1995

動注療法の安全性

穿刺部の出血報告なし

胃・十二指腸の動脈への抗生剤流入による潰瘍形成なし

高濃度抗生剤投与による肝機能障害なし

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【本日のスケジュール】

・症例検討

・当院における肝膿瘍

・肝膿瘍とは?

・肝膿瘍治療の現在

・Take Home Message

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【Take Home Message】

・肝膿瘍に対しまず抗菌薬投与と穿刺ドレナージ法を!

・多発性もしくは多房性の場合は肝動注療法の併用を!

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ご清聴ありがとうございました

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【小松らの研究】

日消外会誌 28(5):1014・1015,1995

単発単房性 21例 :抗菌薬 + 穿刺ドレナージ で全例有効

単発多房性 13例 :抗菌薬 + 穿刺ドレナージ で3例有効

抗菌薬 + 穿刺ドレナージ + 肝動注療法 で10例有効

多発単房性 12例 :抗菌薬のみで1例有効

抗菌薬 + 穿刺ドレナージ で1例有効

抗菌薬 + 穿刺ドレナージ + 肝動注療法 で10例有効

多発多房性 4例 :抗菌薬 + 穿刺ドレナージ で1例有効

抗菌薬 + 穿刺ドレナージ + 肝動注療法 で3例有効