「資質・能力」の3つの柱を関連させることで高ま...

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独立行政法人教職員支援機構 次世代型教育推進センター作成資料 (平成29年6月試案) 内容ベースから資質・能力ベースへ 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けなが ら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につな げる「主体的な学び」 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考 えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・ 考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報 を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考 えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」 「主体的な学び」を実現する子供の学ぶ姿 「深い学び」を実現する子供の学ぶ姿 「対話的な学び」を実現する子供の学ぶ姿 3つの柱で 再整理された 「資質・能力」 「変化が激しく、予測が困難な時代」に生きる児童生徒には、既存の知識 を習得・活用するだけでなく新たな知識を創出しながら、よりよい社会と幸 福な人生を切り拓き、持続可能な社会や未来の創り手となるための「生きる 力」を育成することが目指されています。そのために、不断の授業改善によっ て、児童生徒に「資質・能力」を育成することが求められています。 児童生徒が「資質・能力」(何ができるようになるか)を身に付けるためには、 「学習内容」(何を学ぶか)についての「学びの過程」(どのように学ぶか)を質 的に改善・工夫することが重要です。 表面では、「資質・能力」と「『学びの過程』の質的改善」について説明します。 【知識の理解の質】を高めることについて、国語科と大工さんの例で説明します。(の内容は、それぞれ共通しています。) 効果的な改善のためには、児童生徒の姿を特定の視点からだけで見るのではなく、3つの視点での「育成したい姿」に照らし合わせて捉え、その分析に応じた手立てを講じる必要があ ります。そのために、3つの視点相互の関連(◎)を理解した上で、教師の支援(◆)に生かすことが大切です。 裏面の指導例は、それぞれの視点から見た「授業改善のポイント」を示していますが、他の視点からの要素も併せもっています。 大工さんは、施主の願いを実現し、 その幸せのために家を造りたいとい う思いに支えられて家を造ります。 家を造るためには、設計図に基づきながら も、土地の状況、周辺の環境等を総合的に 捉えながら思考・判断・表現することが求 められます。 思考・判断・表現等を繰り返しながら知識・ 技術が習熟・熟達するに連れて、頭や身体 の中にある道具箱が整理され、知識や技術 という道具を取り出しやすくなっていきま す。使うたびに道具が磨かれたり新たに道 具が増えたり、道具箱自体が増えたりしま す。さらには、大きな道具箱の中に小さな 道具箱が入ることもあります。複数の道具 の機能が一体化し新たな道具が生まれる場 合もあります。 「資質・能力」は、社会で発揮でき、未来につながる力として、上記のように3つ の柱(「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」) で再整理されました。知・徳・体にわたる「生きる力」全体を捉えて、共通する重 要な要素を示したのです。 また、改訂の基本方針には「知識の理解の質を更に高め、確かな学力を育成する こと。」と示されています。「資質・能力」は知識の量とともにその質に支えられて いることに留意する必要があります。 「学びの過程」は、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3つの視点か ら質的に改善・工夫されることが求められています。 3つの視点については、総則の解説で次のように説明されています。 3つの視点は「学び」の本質として重要な点を異なる側面から捉えたもので、優 れた教育実践に共通する普遍的な視点です。 一方で、3つの視点は児童生徒の「学びの過程」では相互に関連し合っており、 その関連に着目する必要があります。例えば、 「対話的な学び」に課題が見られるとき、 その要因は、「対話的な学び」に向けた指導方法や型にだけではなく、児童生徒の学 びが主体的になっていなかったり深い学びに向かっていなかったりすることにある ことも少なくありません。 【知識の理解の質】を高めるとはどういうことか。「資質・能力」の3つの 柱相互の関連を踏まえながら、表面の右記(上段)で説明します。 それぞれの視点から見て「学びの過程」を質的に改善していくための指導例を、裏面 で紹介します。さらに、3つの視点相互の関連について、表面の右記(下段)で説明します。 子供の学ぶ姿を「受動」から「能動」へ変容させる 問題意識の触発      イ 単元を貫く課題の設定 ウ 個の問いや考えの明確化 学習の可視化(構造的な板書) 多様な学び方の提供  カ 学びの振り返り、次への意欲 知識及び技能の活用場面の設定 既習内容と関連付けた思考の促進 知識及び技能の概念化   エ 学びの振り返り 話を聞き合うことのできる人間関係の構築(支持的風土のある学級) 必然性や必要感のある話合いの場の設定 話合い活動の目的に応じた学習形態 内容・情報の可視化・操作化など思考を深めるツール等の活用 興味や関心 を高める 知識及び 技能を 概念化する 多様な情報 を収集する 自分の考え を形成する 互いの考え を比較する 共に考えを 創り上げる 新たなものを 創り上げる 先哲の考え方を 手掛かりとする 協働して 課題解決する 自分の思いや考え と結び付ける 思考して 問い続ける 思考を表現に 置き換える 知識及び技能 を活用する 知識及び技能 を習得する 多様な手段 で説明する 見通しを 持つ 自分と 結び付ける 粘り強く 取り組む 振り返って 次へつなげる 学びに向かう力や問題意識を 触発する様々な工夫 次への意欲 次への意志 各教科固有の 見方・考え方 が働く 学習プロセス の構想と工夫 子供の「主体的な学び」に向かう姿 勢を育み、自己の考えを広げたり深め たりすることのできる対話の工夫 聞 く 話 す 考える 「資質・能力」(何ができるようになるか)について 「資質・能力」の3つの柱を関連させることで高まる【知識の理解の質】 「主体的・対話的で深い学び」を視点にした、「学びの過程」の質的改善 「『学びの過程』 (どのように学ぶか)の質的改善」について 学びを人生や社会に生かそうとする 「学びに向かう力、人間性等」の涵養 生きて働く 「知識及び技能」の習得 未知の状況にも対応できる 「思考力、判断力、表現力等」の育成 にたとえると 手立て の例 手立て の例 手立て の例 「深い学び」と 「対話的な学び」 児童生徒は、対話や協働 によって考えを深めたり 作品等の質を高めたりし ます。その結果、対話や 協働のよさも実感するこ とができます。 児童生徒が、自他の考え の理由や根拠、考え方や 作り方のよさを理解した り、既習事項との関連を 把握したりできるような 支援が重要です。 「主体的な学び」と「深い学び」 児童生徒は、意欲が高まると、 粘り強く学習し深く追究しよう とします。その結果、学びの手 応えを実感し、新たな課題に向 けて学習や追究を連続させよう とします。 児童生徒にとって意味のある「振 り返り」の場を適切に位置付け、 学びの成果と課題の自覚を促す とともに、次への見通しをもた せることが重要です。  「主体的な学び」と「対話的な学び」 聞いてもらえた喜びや認めてもらったうれ しさ、誰かの役に立った自己有用感は、児 童生徒の意欲を高めます。また、考えの違 いが生じると互いの考えの理由や根拠を知 りたくなります。そして、違いを乗り超え て納得解や最適解を得たときには感動を覚 えることすらあります。 話合いを活性化させるためには、学習形態 やツールだけではなく、学習課題や話題に 児童生徒にとっての必然性をもたせること が重要です。 裏 面 指導例1 裏 面 指導例3 裏 面 指導例2 【中学校3年国語】の例で「知識・技能」を道具に見立てると A教諭は、紀行文『奥の細道』において、生徒に、俳句づくりに人生をかける松尾芭蕉の情熱を、自分自身とつなげながら2つの道具(情報比較法と 場面関係付け法)を使って読み深めてほしいと考えていました。 学びを方向付ける「学びに向かう力、人間性等」を引き出すA教諭 冒頭の「旅立ち」の場面では、芭蕉の「旅そのものが人生」という人生観が述べられています。A教諭は、生徒が自分自身とつなげながら読むために、 「あなたにとっ て旅とは何か。人生とは何か。」と問い、生徒の多様な思いや考えを表出させました。そのため、生徒には、芭蕉と自分自身とを比べながら読む構えが生まれていました。 道具を使って「思考・判断・表現」する生徒 「旅立ち」の場面での学習の後、「平泉」の場面で「なぜ芭蕉は涙を落したのか。」という学習課題を巡って話し合いました。多くの生徒は、数の情報の共通点や違いを捉える情報比較法という道具を使いながら、下記のように考え、表現しました。 そんな中、B男が「そんなんじゃ泣けるわけない!僕だったら泣けない!」と発言し自分の考えを下記のように表現しました。 「おー」という声が上がった直後、A教諭は、複数の場面相互の関係を捉える場面関係付け法の活用に向けて準備していた支援を取りやめ、B男の使った道具を 「B男方式・場面関係付け法」とネーミングしました。文学的文章を読むときに使っていた道具を古典の紀行文にも使ったB男に多くの生徒が驚きました。そして、 その後、生徒は、次の「立石寺」の場面で2つの道具を使いこなそうと意識しました。一つは、「立石寺」で芭蕉が詠んだ俳句の推敲前後を比較しながら芭蕉の俳 句への情熱を読み深める情報比較法、もう一つは、「立石寺」と「旅立ち」「平泉」との関係を捉える場面関係付け法です。 頭の中の道具箱を整理しながら、道具の汎用性を高める生徒 単元末、A教諭は、生徒に頭の中の道具箱の整理を促しました。生徒は、自分自身とつなげながら読んでいたことも、人物と読者である自分とを比べる「比較法」 の一つであることを自覚し、すべての道具が「関係付け」という大きな道具箱の中に入っていることに気付いていきました。 その後、生徒は、様々な文章を読むときに、整理された道具箱の中から様々な道具を選択したり新たな道具を仕入れたりしながら、それらを駆使することを一 層意識するようになりました。 【知識の理解の質】が高いとは、❶「学びに向かう力、人間性等」に方向付けられながら❷「思考力、判断力、表現力等」を発揮す ることによって、❸「知識・技能」が相互に関連付けられるとともに、深い理解を伴ったものとして習得され、他の場面や状況にお いても自在に活用されやすい状態にまで高まって身に付いていることです。 比較法 道具箱 情報比較法 場面関係付け法 人物と自分との比較 関係 付け 北上川や衣川の自然は残っているのに対して、義経や弁慶、藤原氏等、人間や人工の建造物は滅 びていることが描かれている。人間のはかなさを悲しんでいる涙だ。 情報比較法 「旅立ち」の場面で、芭蕉は昔の歌人に憧れ、旅をしながら俳句の道を究めようとしていた。 「平泉」の場面では、憧れの歌人・杜甫の詩『春 望』の境地を自分も実感し名句を作ることができた。憧れの歌人に近付けた自己実現の涙だ。「平泉」で「旅立ち」の願いが実現したのだ。 場面関係付け法 新潟県教育庁中越教育事務所 平成31年3月 授業改善 リーフレット 学習指導要領の理解を深める! 2019

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Page 1: 「資質・能力」の3つの柱を関連させることで高ま …...内容ベースから資質・能力ベースへ 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けなが

独立行政法人教職員支援機構次世代型教育推進センター作成資料

(平成29年6月試案)

内容ベースから資質・能力ベースへ

 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」

 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」

 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」

A 「主体的な学び」を実現する子供の学ぶ姿

C 「深い学び」を実現する子供の学ぶ姿 B 「対話的な学び」を実現する子供の学ぶ姿

3つの柱で再整理された「資質・能力」

 「変化が激しく、予測が困難な時代」に生きる児童生徒には、既存の知識を習得・活用するだけでなく新たな知識を創出しながら、よりよい社会と幸福な人生を切り拓き、持続可能な社会や未来の創り手となるための「生きる力」を育成することが目指されています。そのために、不断の授業改善によって、児童生徒に「資質・能力」を育成することが求められています。

 児童生徒が「資質・能力」(何ができるようになるか)を身に付けるためには、「学習内容」(何を学ぶか)についての「学びの過程」(どのように学ぶか)を質的に改善・工夫することが重要です。 表面では、「資質・能力」と「『学びの過程』の質的改善」について説明します。

◦【知識の理解の質】を高めることについて、国語科と大工さんの例で説明します。(❶~❸の内容は、それぞれ共通しています。)

◦�効果的な改善のためには、児童生徒の姿を特定の視点からだけで見るのではなく、3つの視点での「育成したい姿」に照らし合わせて捉え、その分析に応じた手立てを講じる必要があります。そのために、3つの視点相互の関連(◎)を理解した上で、教師の支援(◆)に生かすことが大切です。◦裏面の指導例は、それぞれの視点から見た「授業改善のポイント」を示していますが、他の視点からの要素も併せもっています。

❶�大工さんは、施主の願いを実現し、その幸せのために家を造りたいという思いに支えられて家を造ります。

❷�家を造るためには、設計図に基づきながらも、土地の状況、周辺の環境等を総合的に捉えながら思考・判断・表現することが求められます。

❸�思考・判断・表現等を繰り返しながら知識・技術が習熟・熟達するに連れて、頭や身体の中にある道具箱が整理され、知識や技術という道具を取り出しやすくなっていきます。使うたびに道具が磨かれたり新たに道具が増えたり、道具箱自体が増えたりします。さらには、大きな道具箱の中に小さな道具箱が入ることもあります。複数の道具の機能が一体化し新たな道具が生まれる場合もあります。

 「資質・能力」は、社会で発揮でき、未来につながる力として、上記のように3つの柱(「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」)で再整理されました。知・徳・体にわたる「生きる力」全体を捉えて、共通する重要な要素を示したのです。 また、改訂の基本方針には「知識の理解の質を更に高め、確かな学力を育成すること。」と示されています。「資質・能力」は知識の量とともにその質に支えられていることに留意する必要があります。

 「学びの過程」は、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3つの視点から質的に改善・工夫されることが求められています。 3つの視点については、総則の解説で次のように説明されています。

 3つの視点は「学び」の本質として重要な点を異なる側面から捉えたもので、優れた教育実践に共通する普遍的な視点です。 一方で、3つの視点は児童生徒の「学びの過程」では相互に関連し合っており、その関連に着目する必要があります。例えば、「対話的な学び」に課題が見られるとき、その要因は、「対話的な学び」に向けた指導方法や型にだけではなく、児童生徒の学びが主体的になっていなかったり深い学びに向かっていなかったりすることにあることも少なくありません。

 【知識の理解の質】を高めるとはどういうことか。「資質・能力」の3つの柱相互の関連を踏まえながら、表面の右記(上段)で説明します。

 それぞれの視点から見て「学びの過程」を質的に改善していくための指導例を、裏面で紹介します。さらに、3つの視点相互の関連について、表面の右記(下段)で説明します。

子供の学ぶ姿を「受動」から「能動」へ変容させるア 問題意識の触発      イ 単元を貫く課題の設定 ウ 個の問いや考えの明確化エ 学習の可視化(構造的な板書) オ 多様な学び方の提供  カ 学びの振り返り、次への意欲

ア 知識及び技能の活用場面の設定イ 既習内容と関連付けた思考の促進ウ 知識及び技能の概念化   エ 学びの振り返り

ア 話を聞き合うことのできる人間関係の構築(支持的風土のある学級)イ 必然性や必要感のある話合いの場の設定 ウ 話合い活動の目的に応じた学習形態エ 内容・情報の可視化・操作化など思考を深めるツール等の活用

興味や関心を高める

知識及び技能を概念化する

多様な情報を収集する自分の考え

を形成する

互いの考えを比較する

共に考えを創り上げる

新たなものを創り上げる

先哲の考え方を手掛かりとする

協働して課題解決する

自分の思いや考えと結び付ける

思考して問い続ける

思考を表現に置き換える

知識及び技能を活用する

知識及び技能を習得する

多様な手段で説明する

見通しを持つ

自分と結び付ける

粘り強く取り組む

振り返って次へつなげる

学びに向かう力や問題意識を触発する様々な工夫

次への意欲次への意志

各教科固有の見方・考え方

が働く学習プロセスの構想と工夫

 子供の「主体的な学び」に向かう姿勢を育み、自己の考えを広げたり深めたりすることのできる対話の工夫

聞 く 話 す

考える

「資質・能力」(何ができるようになるか)について

「資質・能力」の3つの柱を関連させることで高まる【知識の理解の質】

「主体的・対話的で深い学び」を視点にした、「学びの過程」の質的改善

「『学びの過程』(どのように学ぶか)の質的改善」について

学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」の涵養

生きて働く「知識及び技能」の習得

未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力等」の育成

にたとえると

手立ての例

手立ての例

手立ての例

「深い学び」と「対話的な学び」

◎�児童生徒は、対話や協働によって考えを深めたり作品等の質を高めたりします。その結果、対話や協働のよさも実感することができます。◆�児童生徒が、自他の考えの理由や根拠、考え方や作り方のよさを理解したり、既習事項との関連を把握したりできるような支援が重要です。

「主体的な学び」と「深い学び」◎�児童生徒は、意欲が高まると、粘り強く学習し深く追究しようとします。その結果、学びの手応えを実感し、新たな課題に向けて学習や追究を連続させようとします。◆�児童生徒にとって意味のある「振り返り」の場を適切に位置付け、学びの成果と課題の自覚を促すとともに、次への見通しをもたせることが重要です。 

「主体的な学び」と「対話的な学び」 ◎�聞いてもらえた喜びや認めてもらったうれしさ、誰かの役に立った自己有用感は、児童生徒の意欲を高めます。また、考えの違いが生じると互いの考えの理由や根拠を知りたくなります。そして、違いを乗り超えて納得解や最適解を得たときには感動を覚えることすらあります。◆�話合いを活性化させるためには、学習形態やツールだけではなく、学習課題や話題に児童生徒にとっての必然性をもたせることが重要です。

裏 面指導例1

裏 面指導例3

裏 面指導例2

【中学校3年国語】の例で「知識・技能」を道具に見立てると A教諭は、紀行文『奥の細道』において、生徒に、俳句づくりに人生をかける松尾芭蕉の情熱を、自分自身とつなげながら2つの道具(情報比較法と場面関係付け法)を使って読み深めてほしいと考えていました。❶ 学びを方向付ける「学びに向かう力、人間性等」を引き出すA教諭

 冒頭の「旅立ち」の場面では、芭蕉の「旅そのものが人生」という人生観が述べられています。A教諭は、生徒が自分自身とつなげながら読むために、「あなたにとって旅とは何か。人生とは何か。」と問い、生徒の多様な思いや考えを表出させました。そのため、生徒には、芭蕉と自分自身とを比べながら読む構えが生まれていました。❷ 道具を使って「思考・判断・表現」する生徒

 「旅立ち」の場面での学習の後、「平泉」の場面で「なぜ芭蕉は涙を落したのか。」という学習課題を巡って話し合いました。多くの生徒は、複数の情報の共通点や違いを捉える情報比較法という道具を使いながら、下記のように考え、表現しました。

 そんな中、B男が「そんなんじゃ泣けるわけない!僕だったら泣けない!」と発言し自分の考えを下記のように表現しました。

 「おー」という声が上がった直後、A教諭は、複数の場面相互の関係を捉える場面関係付け法の活用に向けて準備していた支援を取りやめ、B男の使った道具を「B男方式・場面関係付け法」とネーミングしました。文学的文章を読むときに使っていた道具を古典の紀行文にも使ったB男に多くの生徒が驚きました。そして、その後、生徒は、次の「立石寺」の場面で2つの道具を使いこなそうと意識しました。一つは、「立石寺」で芭蕉が詠んだ俳句の推敲前後を比較しながら芭蕉の俳句への情熱を読み深める情報比較法、もう一つは、「立石寺」と「旅立ち」「平泉」との関係を捉える場面関係付け法です。❸ 頭の中の道具箱を整理しながら、道具の汎用性を高める生徒  単元末、A教諭は、生徒に頭の中の道具箱の整理を促しました。生徒は、自分自身とつなげながら読んでいたことも、人物と読者である自分とを比べる「比較法」の一つであることを自覚し、すべての道具が「関係付け」という大きな道具箱の中に入っていることに気付いていきました。 その後、生徒は、様々な文章を読むときに、整理された道具箱の中から様々な道具を選択したり新たな道具を仕入れたりしながら、それらを駆使することを一層意識するようになりました。

 【知識の理解の質】が高いとは、❶「学びに向かう力、人間性等」に方向付けられながら❷「思考力、判断力、表現力等」を発揮することによって、❸「知識・技能」が相互に関連付けられるとともに、深い理解を伴ったものとして習得され、他の場面や状況においても自在に活用されやすい状態にまで高まって身に付いていることです。

比較法

道具箱

情報比較法

場面関係付け法

人物と自分との比較

関係付け

 北上川や衣川の自然は残っているのに対して、義経や弁慶、藤原氏等、人間や人工の建造物は滅びていることが描かれている。人間のはかなさを悲しんでいる涙だ。 情報比較法

 「旅立ち」の場面で、芭蕉は昔の歌人に憧れ、旅をしながら俳句の道を究めようとしていた。 「平泉」の場面では、憧れの歌人・杜甫の詩『春望』の境地を自分も実感し名句を作ることができた。憧れの歌人に近付けた自己実現の涙だ。「平泉」で「旅立ち」の願いが実現したのだ。 場面関係付け法

新潟県教育庁中越教育事務所 平成31年3月

授業改善リーフレット学習指導要領の理解を深める!

2019

Page 2: 「資質・能力」の3つの柱を関連させることで高ま …...内容ベースから資質・能力ベースへ 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けなが

2 学びの過程を構成する

4 対話的な学びを支えるもの 生徒同士の意見交換は、生徒が自分の立場を決めて、その根拠を調べ、理由をまとめることが土台となります。また、対話的な学びを通して考えを深める場面においては、教師は前もって生徒の主張を把握し、反論意見を引き出しそうな主張を取り上げて、要所要所で投げかけることが対話を活性化させます。

4 深い学びを支えるもの 知識や事象を相互に関連付ける対話的な学びの深まりと、考えに根拠を持って主張する主体的な学びの充実が重要です。教師は、「見方・考え方」をどう発揮させ、「深まり」を創り出すか、計画的に授業を展開します。また、授業において子供の反応を見ながら、考える視点を焦点付ける臨機応変な対応力も求められます。

3 学びの実際

「授業改善のポイント」1 単元で育みたい資質・能力を3つの柱それぞれについて明確にする。2� 身近な問題として課題をとらえ、自分の考えをもち、対話を通して考えを深める学びの過程を構成する。3� 対話的な学びを通して、多面的・多角的に考え、自分なりの納得解を獲得する場を設ける。

「授業改善のポイント」1 培いたい数学的な「見方・考え方」を、教師が具体的にイメージする。2 「見方・考え方」をどこでどう働かせるか意識して、学びの過程を構成する。���3� よりよい解法に洗練させていくための意見の交流や議論など、主体的・対話的な学びの中で、深い学びが実現されるようにする。

授業改善のポイント1� 児童生徒が、問題を見いだすような事象を提示し、目的や必要性を意識して取り組めるような課題を設定する。� (興味・関心を高める)2� 既習内容や生活経験などを想起させたり、提示したりして、児童生徒がそれらと関連付けながら学習を進めることができる。� (見通しをもつ)3� 児童生徒が自分の学びや変容を自覚したり、新たな課題を発見する場面を設定する。� (振り返って次につなげる)

1 目指す資質・能力を明確にする 身に付けさせたい資質・能力を明確にし、それを踏まえて「主体的な学び」を実現する生徒の姿を具体的に想定して、�改善に取り組むことが求められています。

1 単元で育む資質・能力を明確にする 1 数学的な見方・考え方を明確にする 「深い学び」の実現には、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせることが重要です。算数科の場合、その際には、知識を相互に関連付けてより深く理解すること、情報を精査して考えを形成すること、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることを目指します。

①�複数の事柄をある観点から捉え、それらに共通点を見いだして一つのものとして捉え直すこと②�固定的、確定的なものと考えず、絶えず考察の範囲を広げ新しい知識や理解を得ようとすること

2 学びの過程を構成する

3 学びの実際●�地図の上で㋐7㎝+10㎝と㋑7㎝5㎜+9㎝7㎜のどちらが近いか?(短いか?)が問題となりました。㋐は17㎝で合意されましたが㋑の表し方で意見が分かれます。

●�考え方の「違い」を比較させ、議論を引き起こすことをねらいます。

2 学びの過程を構成する〈実態〉�長さと長さを加える活動で単位換算(㎜から㎝へ)の理解が困難。 ●子供の感覚から導かれる結果と、たどり着いてほしい表記のズレに気付かせる。��●�算数は正答が決まっているものではなく、「正しい」と実感できる結果を探す活動だと感じてほしい。→考えを比較する活動。判断は子供。教師は判断の状況をつくる。●�「どうして?」「なぜ?」が生まれたら、ズレを焦点化し、子供同士の議論を引き起こす。疑問を解決する中で、知識の「良さ」や「限界」を明らかにしていく。

3 学びの実際⑴「興味・関心を高める」事象の提示

●�はかりは何グラムを示すだろうか?

⑵ 課題を追究するための「見通しをもつ」

●��説明をする上で、根拠として使えそうな既習事項を挙げてみよう。

⑶ 「次につなげる」振り返り 実験の結果、ウ(磁石2個分の重さがかかる)に近い値になった結果を受けて、

指導例1

ア 21g(土台と磁石�1個分の重さ)イ 28g(土台と磁石1.5個分の重さ)ウ 35g(土台と磁石�2個分の重さ)

興味・関心を高める 生活経験による「素朴概念」と理科の学習による「科学概念」など自分の経験や既習事項と結び付けて考えることができる場面を提示します。

左のように意見が分かれた。「浮いた磁石の重さ」の捉え方に違いありそうだ。

見通しをもつ◦�追究の観点を焦点化します。◦�関連する既習事項を想起させたり、それに関わる情報や資料などを提示したりすることで仮説を立てることができるようにします。

振り返って次につなげる 予想した数値に関わらず、自分の根拠について見直すように促し、より適切な根拠に基づき仮説を立て、その検証のための実験へと追究をつなげていきます。

 各教科等の指導に当たって、単元で育む資質・能力を明確にし、その資質・能力が偏りなく実現されるようにすることが求められています。

T2: 市の魅力が増えるのですね。「選ぶ権利」を主張する人たちは、それでも市のものを買わないのですか。反論のある人はいますか。

T4: みんなの意見を参考に、今後の消費生活についての考えを発表しましょう。

17㎝2㎜と16㎝12㎜どちらが正しい?

結局、㋐の17㎝と比べてどちらが近いの?

イヤ、違うでしょう。

17㎝2㎜です。

17㎝2㎜と17㎝なら17㎝の方が近い。

B: 同じ品物なら安いところで買いたいです。一人の子供を育てるには多額の費用がかかります。それにもうすぐ消費税も上がります。将来のためには、少しでも安く買い物をしたいと思います。(「選ぶ権利」を選択)

D: 市内で見つからないものは、市外の大型店で買いたいと思います。でも、市内の店で買うことの大切さも分かりました。市の将来のことを考えると市内で買えるものは、市内で買い物をしなければならないと思いました。 (「選ぶ権利」を選択)

どっちも正しいよ。同じだよ。

16㎝12㎜じゃないかな。

【中学校3年理科】

第1分野「力と運動~浮かせた磁石の重さの仮説検証実験~」公民的分野「消費者の権利や責任と地域経済」 「長さ」

【中学校3年社会】 【小学校2年算数】

 学びの過程(理科では「探究の過程」)を踏まえ、「主体的な学び」を実現する生徒の姿を想定して指導を構想することが大切です。

これまでの経験で考えると、浮いている物体の重さはないはずだ。 (素朴概念)

次のことを使って説明できそうだ。  ⒜作用・反作用 ⒝つり合い ⒞重力

・予想した数値が結果と違った原因はどこにあったのだろうか。・ 予想した数値は合っていたが、根拠としてさらに加えな

くてはいけないことがありそうだ。

A: 市内でもっと買い物をする人が増えれば、イベントが増えて市が盛り上がります。市の魅力もアップします。(「市内のお店で買うこと」を選択)

C: そもそも消費税が上がるのは、デフレが進んで税収が減ったからだとインターネットで調べて分かりました。自分のことだけでなく、社会のことも考えて買い物をすることが大切だと思います。 (「市内のお店で買うこと」を選択)

仮説→ア 21g「浮いている磁石は下の磁石と反発し静止しているので重力はかからないだろう。」

浮いている物体にも、作用・反作用の法則が成り立つはずだ。 (科学概念)

4 主体的な学びを支えるもの 課題や問題の設定においては、問題意識を誘発し、児童生徒自らが既有の生活経験や学習内容を基にして課題や問題を見いだすことができるようにすることが大切です。また、振り返りについては、それまでの学習を基に新たな見通しがもてるように、授業の終末だけに限らず、適切な場面で効果的に行うことが大切です。

主体的な学びの視点から見た授業改善 対話的な学びの視点から見た授業改善 深い学びの視点から見た授業改善

指導例2

提示した事象

指導例3

�はかりに固定したストローに穴が開いた赤い磁石を通した。更に青い磁石を追加したらこの磁石は浮いた。

課 題

振り返り

次時に向けた課 題

「浮いた磁石の重さがどのようなるか」を明らかにして、はかりが示す数値になる理由を説明しよう。

実験の結果を受け仮説の妥当性を検討し、根拠として正しいと考えられる点、修正が必要と思われる点を書いてみよう。

振り返りを基にして浮いてる磁石の重さがはかりにかかる理由を考え、それを確かめるための実験計画を立てよう。

過 程 課題の把握 課題の探究 課題の解決

生徒の姿既有の知識や経験と結び付け、事象に対する興味・関心を高める。

仮説を立てたり、結果を予想したりして、見通しをもって実験・観察を行う。

探究の過程を振り返り、次の課題を発見したり、新たな視点で事象を捉えたりする。

1時間

①理解する 課題を設定する

・地域経済の課題� ・市の人口 �・家計と消費� ・消費者の権利・�課題の設定 「市内のお店で買うこと」と「(消費者が店や商品を自由に)選ぶ権利」のうち、私たちの生活を豊かにするかのはどちらか。

2時間 ②調べる ・市役所の人から地域活性化の取組などについて話を聞く。

・立場を決めて、その根拠になることを多様な方法で調べる。1時間

③自分の考えを まとめる

・�「市内のお店で買うこと」と「消費者の選ぶ権利」のどちらを優先することが生活を豊かにするのか、根拠を基に理由をまとめる。

1時間 ④深める ・�それぞれの意見を説明し、その後、意見交換を経て、今後の消費行動に

ついて自分の考えをまとめる。

<学びに向かう力、人間性等>●�自分たちの住む市を、老若男女全ての世代の市民にとって住みよい町にするために、責任ある消費行動について追究しようとする態度を養うとともに、その大切さについての自覚を深める。

<知識及び技能>●�消費者の権利や責任について理解するとともに、経済活動には、我々の生活を向上させるという意義があることを理解する。●�身近な消費生活を調べたり、諸資料を基に経済活動の意義を調べたりして、自分の考えをまとめる技能を身に付ける。

<思考力、判断力、表現力等>●�消費が自分の生活や社会に与える影響を説明したり、議論したりすることにより、今後の消費生活について多面的・多角的に考察し、自分の考えを深めることができる。

<学びに向かう力、人間性等> 力の働きによる物理現象に興味をもち、科学的に追究しようとする態度を養う。

T1:Aさんの意見を説明してください。

T3:これに対する反論はありませんか。

どうして?

17㎝と16㎝12㎜なら16㎝12㎜の方が近い。

事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え(見方)、  根拠を基に筋道を立てて考え、統合的①、発展的②に考えること(考え方)

◦�対立するアイディアが生まれることを期待した問題場面・数値の設定◦�子供のアイディアを許容し、議論の土台にあげる。

◦�比較させ、違いを鮮明にする。◦�どちらが適しているかを比較する観点を焦点付ける。

●�「解決したい」の思いに後押しされる主体的な議論を通して、根拠を基に考察し新しい知識を創る考え方がさらに豊かになっていきます。●�「量」としては同じでも、「表記」が違えば判断が変わることがあるとの議論を経て、17㎝2㎜と表した方が間違いにくいと結論付けられました。深い学びの実現によって、「単位換算」「繰り上がり」の本質的な意味を子供自身が発見していきます。

●�考えと考えの違いや共通点など、関係に着目する見方を鍛えていきます。●�最も重要なのは「問題」がその考え方・方法で解決できるかどうかです。何を解決すべきなのか、根源的な「問題」を焦点化していきます。

◦�「問題」と考え方を関係付ける。◦�判断の基準となる「問題」に立ち返る。

根拠を基にした対話を通して、課題を解決する。

互いの意見を比較し、�多面的・多角的に考えて、納得解を形成する。

7g 14g14g

17㎝2㎜も16㎝12㎜も同じなんだから、両方とも17㎝の方が近くなるはずだよ。

同じ長さでも、17㎝2㎜の方が、間違いにくいね。