日本語の起源「古典サンスクリット語」で解く魏志倭人伝...3 第1...

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日本語の起源「古典サンスクリット語」で解く魏志倭人伝 邪馬壱(台)国は 囮 おとり の国、ヤマは 倭 やまとの 国の守護神 高橋 正典 はじめに 日本語の起源が古典サンスクリット語(古典サンスクリット名詞複合語をこう呼ぶこととする。)に深く関わ っていることが分ってきたことから、これらと一体であるヴェーダ(リグ・ヴェーダ賛歌、アタルヴァ・ヴェー ダ賛歌:インドの神の賛歌)との関連の下に古事記の神名解読を進めた結果、一定の読み方で解釈ができた。魏 志倭人伝の倭 国に関連する言葉も、漢字音読みの古典サンスクリット語であることが分かってきた。 紀元前 202 年に、中国に前漢が成立、最盛期の武帝の時代、朝鮮半島北部がその支配下に組み入れられ楽浪郡 などが置かれている。紀元 25 年衰退した前漢を再興した後漢の光武帝は、楽浪郡を拠点に東方経営を進めよう と試みている。32 年に高句麗が、57 年には倭 の奴 国も朝献し金印紫綬を賜っている。ここで古事記から分かっ たことは、この時、奴国の王が東征し、混乱する本州で 倭 やまとの 国を制圧し本拠を遷したことである。この王が、い わゆる神倭伊波禮毘 かみやまといはれいび この 命(神武天皇)で、この時、奉じていた神がヴェーダのヤマである。処罰の神であり人間 の運命を決定する神でもあり、インド神話では南方の守護神でもある。一方、ヤマには「一対をなす」の意味な どがあり、類似の二つのものを対置してより高みを目指す思想で、倭、邪馬、夜麻、山は同義の言葉である。未 だ統一のない倭 ではあるが、巨大な後漢の侵略に備えるために採用されたのが邪馬台国の戦略である。古典サン スクリット語の解釈で邪馬台国には「一対をなす虚偽の国」の意味がある。次いで、220 年三国時代となり、魏 に対して「一対をなす伝説の国」の意味の邪馬壱国の戦略が取られた。これらは、倭 やまとの 国が南に在るとする「 囮 おとり の国」戦略である。想定される大陸からの侵略軍を南海に追いやるか、複雑な瀬戸内海に誘い潮汐や地形を利用 して撃滅しようとするものである。三国の時代には、呉の東の海に邪馬壱国があるとして、魏と同盟的関係を結 ぶとともに、交易を盛んにし先進的な文物を受容しようとしたものとであろう。 古事記の大八島の国生みの物語は、邪馬台国の戦略のもとに、各島・国に守護神を配置し護りを固めようとし たものである。それらの名前はヴェーダの神々を本源とする分(別 わけ )神で、魏志倭人伝に記された国名に通じる。 卑弥呼は、古典サンスクリット語で、集まって選ばれた最高指導者、方向を違える虚偽の女王などの意味 がある。 大倭 おほやまと 根子 日子賦斗邇 ひこふとにの 命(第七代孝霊天皇)の御子夜麻登登母母曾毘賣 ヤマトトモモソビメの 命の名前には、「破壊(戦)を阻止し一 致して王を求められた毘賣命」の意味があり卑弥呼に一致し、男弟達の名前も魏志倭人伝の記述に合致する。 ところで、魏志倭人伝と後漢書の記述は明快であるが、古事記は秘密のベールに包まれ、古代史に多くの謎を 残している。後漢の侵略に備えるため、 倭 やまとの 国が中心となって邪馬台国戦術や、その後の邪馬壱国戦術を進めた と考えられるが、後世に作られた古事記は天孫としての天皇の系譜を伝えることが目的で、後漢の侵略もなく、 魏との交流が盛んになった結果、秘密戦略も敢えて明確にする必要がなかったのであろう。古事記神話には、戦 に関連して幾つか奇策の物語がある。邪馬壱(台)国は、その最大の奇策であるが、秘密の内に埋もれたのであ ろう。しかし、古典サンスクリット語の解釈の中に、真実の跡が残されている。

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  • 日本語の起源「古典サンスクリット語」で解く魏志倭人伝

    邪馬壱(台)国は 囮おとり

    の国、ヤマは 倭やまとの

    国の守護神

    高橋 正典

    はじめに

    日本語の起源が古典サンスクリット語(古典サンスクリット名詞複合語をこう呼ぶこととする。)に深く関わ

    っていることが分ってきたことから、これらと一体であるヴェーダ(リグ・ヴェーダ賛歌、アタルヴァ・ヴェー

    ダ賛歌:インドの神の賛歌)との関連の下に古事記の神名解読を進めた結果、一定の読み方で解釈ができた。魏

    志倭人伝の倭ワ

    国に関連する言葉も、漢字音読みの古典サンスクリット語であることが分かってきた。

    紀元前 202 年に、中国に前漢が成立、最盛期の武帝の時代、朝鮮半島北部がその支配下に組み入れられ楽浪郡

    などが置かれている。紀元 25 年衰退した前漢を再興した後漢の光武帝は、楽浪郡を拠点に東方経営を進めよう

    と試みている。32 年に高句麗が、57 年には倭ワ

    の奴ヌ

    国も朝献し金印紫綬を賜っている。ここで古事記から分かっ

    たことは、この時、奴国の王が東征し、混乱する本州で 倭やまとの

    国を制圧し本拠を遷したことである。この王が、い

    わゆる神倭伊波禮毘かみやまといはれいび

    古この

    命(神武天皇)で、この時、奉じていた神がヴェーダのヤマである。処罰の神であり人間

    の運命を決定する神でもあり、インド神話では南方の守護神でもある。一方、ヤマには「一対をなす」の意味な

    どがあり、類似の二つのものを対置してより高みを目指す思想で、倭、邪馬、夜麻、山は同義の言葉である。未

    だ統一のない倭ワ

    ではあるが、巨大な後漢の侵略に備えるために採用されたのが邪馬台国の戦略である。古典サン

    スクリット語の解釈で邪馬台国には「一対をなす虚偽の国」の意味がある。次いで、220 年三国時代となり、魏

    に対して「一対をなす伝説の国」の意味の邪馬壱国の戦略が取られた。これらは、 倭やまとの

    国が南に在るとする「 囮おとり

    の国」戦略である。想定される大陸からの侵略軍を南海に追いやるか、複雑な瀬戸内海に誘い潮汐や地形を利用

    して撃滅しようとするものである。三国の時代には、呉の東の海に邪馬壱国があるとして、魏と同盟的関係を結

    ぶとともに、交易を盛んにし先進的な文物を受容しようとしたものとであろう。

    古事記の大八島の国生みの物語は、邪馬台国の戦略のもとに、各島・国に守護神を配置し護りを固めようとし

    たものである。それらの名前はヴェーダの神々を本源とする分(別わけ

    )神で、魏志倭人伝に記された国名に通じる。

    卑弥呼は、古典サンスクリット語で、ⅰ集まって選ばれた最高指導者、ⅱ方向を違える虚偽の女王などの意味

    がある。

    大 倭おほやまと

    根子ね こ

    日子賦斗邇ひ こ ふ と に の

    命(第七代孝霊天皇)の御子夜麻登登母母曾毘賣ヤ マ ト ト モ モ ソ ビ メ の

    命の名前には、「破壊(戦)を阻止し一

    致して王を求められた毘賣命」の意味があり卑弥呼に一致し、男弟達の名前も魏志倭人伝の記述に合致する。

    ところで、魏志倭人伝と後漢書の記述は明快であるが、古事記は秘密のベールに包まれ、古代史に多くの謎を

    残している。後漢の侵略に備えるため、 倭やまとの

    国が中心となって邪馬台国戦術や、その後の邪馬壱国戦術を進めた

    と考えられるが、後世に作られた古事記は天孫としての天皇の系譜を伝えることが目的で、後漢の侵略もなく、

    魏との交流が盛んになった結果、秘密戦略も敢えて明確にする必要がなかったのであろう。古事記神話には、戦

    に関連して幾つか奇策の物語がある。邪馬壱(台)国は、その最大の奇策であるが、秘密の内に埋もれたのであ

    ろう。しかし、古典サンスクリット語の解釈の中に、真実の跡が残されている。

  • 目 次

    はじめに ....................................................................................................................................................... 1

    第1 日本語の起源と古事記 .......................................................................................................................... 3

    1 古典サンスクリット名詞複合語 ........................................................................................................... 3

    2 日本語の古典サンスクリット名詞複合語............................................................................................. 3

    3 ヴェーダ(聖典)と日本の神 ............................................................................................................... 6

    4 古事記と魏氏倭人伝を繋ぐ漢字「 倭

    やまと

    ・沼

    ・河

    かわ

    ・大吉備

    お ほ キ ビ

    」 .............................................................. 10

    5 古事記の国土誕生 ............................................................................................................................... 14

    第 2 魏志倭人伝 ......................................................................................................................................... 19

    1 邪馬壱国への道 鍵となる地名等 ..................................................................................................... 19

    2 邪馬壱国への道の検証........................................................................................................................ 25

    3 邪馬壱国と邪馬台国 ........................................................................................................................... 26

    4 邪馬壱国と邪馬台国が明かす歴史 ..................................................................................................... 29

    5 邪馬壱国への道、日本海ルートの想定 ............................................................................................ 30

    6 魏国の使者の參問は、邪馬壱国の北辺まで....................................................................................... 31

    7 卑弥呼ヒ ミ コ

    と統一国家の真実 参考(原文―10 三国志・魏志・東夷伝・倭人 33~35 頁) ............... 36

    8 後漢書と倭国(原文―2 神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の誕生) ................................................ 43

    9 大八島国の守護神の島・国の謎と邪馬壱(台)国 ............................................................................ 45

    あとがき ................................................................................................................................................... 48

    (参考文献) ............................................................................................................................................ 49

  • 第1 日本語の起源と古事記

    1 古典サンスクリット名詞複合語

    日本語の起源が古典サンスクリット語であることを発見されたのは、京都大学名誉教授の先生である。その説

    に従い、これまで古事記の神名の解読に取り組んできた結果、そこに隠された物語の筋書きが分ってきた。更に、

    魏志倭人伝の倭国に関する人名、国名などが簡潔に読み解けることも分かり、古事記と合わせ考えると謎が解け

    てきた。古典サンスクリット語については、今後、その渡来や言語学的変遷について本格的に研究が進むことを

    期待している。

    古典サンスクリット語は、インドの神々の賛歌を集めたヴェーダ(聖典)と表裏の関係にあることから、日本

    の神々の起源もヴェーダと深く関わっていることが分かってきた。魏志倭人伝の「邪馬台(壱)国」にある「ヤ

    マ」についても、リグ・ヴェーダとアタルヴァ・ヴェーダに起源のある神である。

    サンスクリット語は、プロト・インド・ヨーロッパ語族に属しヨーロッパやアジアのインドなど、地球上の人

    間の過半数がこの語族に属すると言われている。日本に伝わったサンスクリット語は、神への賛歌、祭祀に関す

    るものなど「ヴェーダの文獻」で用いられた「古典サンスクリット名詞複合語」で、口承によると考えられる。

    これまで解明されなかった理由の一つは、その言葉の形にあると思われる。この言葉は、名詞・動詞・形容詞

    の語根・語幹などの連続体で、意味を読み取れるように並べられたものであり、伝搬した地域でも意味が伝えら

    れ易くされた言葉である。文法では、名詞複合語は最後の成分のみ語形変化するが、本書では、記紀の漢文で現

    された名詞語尾から変化を読み取ることができないので、その扱いはできないと判断している。

    理由の二つは、発音である。サンスクリット語の母音・子音は日本語に比べて甚だ多く、更に日本に伝わった

    複合語は、構成される単語が語頭音のみに省略されたものが多く、発音自体も単純化されるなど、新しい「言葉」

    となっている。こうした省略の原因は、神官・祭司が秘伝として伝承・暗誦するため、又は言葉に複数の意味を

    包ませようとしたこと、などが考えられる。

    理由の三つは、古典サンスクリット語が、音読み(仮名)、又は漢字の字義・解字などを使った訓読みなどによっ

    て漢字化される過程で、多くが語頭音の連続体に圧縮されたことなどが考えられる。

    これを読み解くには、音読み又は訓読みの言葉の中から、意味と発音を、物語全体の筋書きとあわせて見つけ

    出す必要がある。

    サンスクリット語は、本来のデーヴァ・ナーガリ文字とラテン語(ローマ字)表記の文字があるが、ここでは、

    ラテン語表記を使っている。現在では、サンスクリット語辞書もラテン語表記のものが身近な図書館にあり、一

    定のルールに従えば、専門家でなくても解読可能である。

    本文は、魏志倭人伝とこれに関係する古事記の関連部分の言葉を、古典サンスクリット名詞複合語を用いて解

    釈し、全体の流れから真実と考えられる内容を解明したものである。

    以下に、解読の例を示すが、不明な部分はサンスクリット語の文法書を参考にされたい。

    なお本書は「邪馬台(壱)国論争」の主要な言葉に焦点を当て、解釈を行ったものである。

    2 日本語の古典サンスクリット名詞複合語

    古事記に記されている多くの神名・人名・国名、国の役人の呼称などについては、サンスクリット語による音

    読み(仮名)と訓読みの入り混じった名詞複合語である。魏志倭人伝は漢文で書かれているが、倭ワ

    国に関する国

    名、官名、氏名は、音読みによって古典サンスクリット語の解釈ができる。

  • 古典サンスクリット名詞複合語(音列語)は、日本人の場合、左から右に想像を豊かにして読み解く(複合語

    の語中には右から左に読むものも含む。)ことになるが、ここでは、名詞語幹や動詞語根、形容詞、副詞、動詞分

    詞などからなる複合語を単語の音を頼りに辞書から拾っている。

    単語の発音は、日本語が母音5、子音9に濁音・半濁音などのから成っていることに対し、サンスクリット語

    は、単母音・二重母音14、子音36 などと、子音が重なる連字などから成っている。サンスクリット語から日本

    語へと転化するに際しては、多くの省略・単純化がある。本書において表示している音も、辞書のラテン語表記

    の音を単純にカタカナ表記している(重要箇所は[ ]で表1に従い補正している。)のみで、実際には日本語の

    発音には存在しないものも多い。

    また、サンスクリット語は、単語の意味が広く、名詞複合語も複数の意味があることから、より深い意味を持

    たせるよう意図的に作られている。一つの神名等が幾つかの物語の筋を持つものがある。なお神名・地名等は、

    それ自体が重要な事実又は物語となっているものがある。

    発音は、文法書によったが、出典によって異なる発音が存在することに注意が必要。

    (本文の形式と前提)

    日本語は、サンスクリット語と漢字の融合で、その形を古事記などから参考例を示す。

    一単語どうしが対応する単純な言葉(漢字の意味を示す字義と同じ)から順次長い言葉の例を示す。

    (訓読み)

    ・海うみ

    =〔ūrmi(ウールミ)波・海〕]

    海カイ

    のサンスクリット語、漢字の字義に同じ

    ・道みち

    =〔vī-thi (ヴィートㇶ[ミトㇶ])路・列・街〕道ドウ

    ・路ㇽ

    のサンスクリット語、漢字の字義に同じ

    ・ 蚕かいこ

    =〔kha(クㇵ)天/vṛ (ヴリ[ヒ])覆う・隠す/kośa(コーシャ)繭・宝物・籾〕=「天から隠れる繭」

    漢字の解字は糸を吐いて隠れる意味

    ・ 油あぶら

    =〔ap(アプ)水/laghu(ラグㇷ)軽い・柔らか〕=「柔らかい水」漢字の解字は滑らかで柔らかい水

    ・文ふみ

    =〔bhūṣ (ブㇷ―シァ)装飾する/vī tā (ヴィーター[ミト])列・線〕=「装飾の線」漢字の解字は縄文の

    模様、胸元の入れ墨の象形

    ・キトラ古墳=〔kṛ (クリー[キー])まき散らす/tāṛā(ターラー)星/〕=「星座の古墳」

    (和歌の 枕 詞まくらことば

    の音読み)

    ・伊勢にかかる「神風かみかぜ

    」=〔神/khāc(クㇵチ)輝き出る/deṣ ā(デーシャ)場所〕=「神が輝き出る場所」

    ・白にかかる「𣑥タク

    綱づ

    」=〔takra(タクラ)水と混ぜた酪漿・バターミルク/duh(ドゥフ)乳を搾る・乳製品〕

    =「酪漿・絞った乳」の意味で酪漿・牛乳の白さを現す。

    ・母にかかる「垂乳たらち

    根ね

    」=〔dhā tu(ドハーツ)身体の基本要素/ṛāktām(ラクタム)血液/chid(チド)分ける

    /netum(ネーツム)導くこと〕=「血、肉を分けて導く」

    ・神にかかる「千早振ちはやぶる

    」=〔ci(チ)形成する/vāṣ ā(ヴァ[ハ]シャ)意志/yāvā(ヤヴァ)穀類・宇宙/bhu

    (ブフー)大地/ṛuci(ルチ)光〕=「意志と天・地と光を創造した」

    ・夜にかかる「奴ヌ

    婆バ

    多麻タ マ

    」=〔nabhas(ナブㇵス[ナバ])天空/tāra(ターラ)星/man i(マニ)宝石〕=「天

    空の星の宝石」

    ・大和にかかる「秋あき

    津島つしま

    」=〔ākṣ in ā(アクㇱナ[アキナ])不滅の/dyu(ドュ[ヅ]光明・攻撃する/ṣīmān(シー

    マン)境界・しま)=「不滅の光明の島」、「攻撃に不滅の島」

  • ・奈良にかかる「青あお

    丹に

    よし」=〔ā-vā tā(アヴァータ[アヴォタ])安全なる・苦しめられざる/ni(ニ)中に/yoṣ

    (ヨス)幸福/i(イ)継続する〕=「安全の内に幸福が継続する」

    表―1 サンスクリット語の発音で日本語の発音に近いもの

    日本語の ゛濁点、゜半濁点のある単語 da:ta等の関係は、ダ:タ が 必ずしも一定でなく注意が必要。

    (dha(ドㇵ)が、(タ)と読まれる例、母音 ṛ(リ)が(イ)と読まれる例)

    ・玉たま

    =〔dhāman(ドㇵーマン)住居・領土・光・威厳・輝き〕=「宝石・玉石」

    ・ 天之あめの

    狭霧さぎり

    =〔ambara(アムバラ[アマラ])大空・天/naktam(ナクタム)夜間の/śayitum(シャイツム)

    眠る/kṛ sa(クリサ)[キサ]細かい/ṛ kṣ a(リクシァ)星宿〕=「夜空に眠る細かい星座」

    例外として「山」などがある。古事記の「神々の生成」の節で『山の神、名は大山津見神』からきている。

    ・大山津おほやまつ

    見みの

    神=〔ā bhāṣā(アーブㇵ―サ)輝く・類似[分神]/yāmā(ヤマ)ヤマ神/tun gā(ツンガ)山・高い/

    mi(ミ)固定させる・建てる/〕=「山を作ったヤマ神の分神」又は〔ā bhāṣā/yāmā/dyu(ドュ)天空/vī (ヴ

    ィー[ミ])〕=「輝く天に導く神」ヤマは死者の王で後にブラフマンと同一とされ、天地の神、その分神の大山津

    見神は各地の山の御神体。ヤマが山の語源。7・10 頁(ヤマ)参照

    (連字の省略発音)

    連続する子音が二つ以上からなる音(連字)と母音から構成される音は日本語には存在しない。これらの単語は、

    連字の頭音と母音での発音とし、中間は省略している。但し例外もある。なお、kh、gh、ch、jh、th、dh、ph、

    bh 等は連字でない。

    ・稲 光いなびかり

    =〔indh**

    a(イヌドㇵ[イナ])点火する/vikāśin(ヴィカーシン)輝く・光を発する/lī(リ)隠れる・

    の中に消える〕=「点火して光を発し消える」米の稲とは関係ない。子音の連字 ndha の dh が省略され最初の na

    が残り発音さている

    日本語の音

    サンスクリット語の発音(ラテン語表記)

    チ(シ)

    パ(ハ)

    ワ(ヴァ)

    a、aha、ava

    ā、 o

    ki、khi、gi、ghi、kṛ

    ci、chi、ti

    ji、di

    ta、tha、da、dha、dhā

    pa、bha、ha

    hi、vi、 vṛ 、pi

    mi、vī、vṛ

    va

  • サンスクリット語の正式の発音、連字について、別途文法書を見られたい。

    (サンディの準用等)

    サンスクリット文法では、二つ以上の意味の語が連続する言葉で、その連続部の語の尾音と頭音は、互いに合

    体し、大部分の場合、尾音は後ろに続く頭音に適合するとしている。こうした連結をサンディと呼び文章の表記

    では、一定の規則がある。これらについては、別途文法書を見られたい。ここでは、簡略化された語の連続体の

    話し言葉であるため、発音を円滑にする目的に即して連続部が二つの母音の場合についてのみ、尾音が頭音に適

    合するとしている。すなわち、英語と同じ用法である。

    なお、アヌスヴァーラ、ヴィサルガ等の発音記号があるので、文法書を見られたい。

    3 ヴェーダ(聖典)と日本の神

    ヴェーダは、インドで最も古い宗教文献である。インド・アーリア人が作ったバラモン教の聖典群が「リグ・

    ヴェーダ」で、祭式文字で現されているとされる。紀元前600 年頃までに、呪法を重視する「アタルヴァ・ヴェ

    ーダ」や、祭官バラモンの祭式のための「ブラーフマナ」(祭儀書)などが編纂され、紀元前 500 年頃を中心とす

    るウパニシャット文獻が作られたとされる。これらについては、別途文献を見られたい。

    ヴェーダの神々は、ⅰリグ・ヴェーダ賛歌(R・V)の初期の自然を中心とする神々並びに後半の宇宙創造に関

    する神々、ⅱアタルヴァ・ヴェーダ賛歌(A・V)の思想的賛歌に関する神々については、表-2のとおり。

    ⑴ 古事記の主な言葉と古典サンスクリット名詞複合語

    振り仮名は、適時振っているが2回目以降で分かり易いものは省略している。振り仮名の中で、補われる助詞

    の「の」は、サンスクリット語の解釈では無視している。

    古典サンスクリット語の解釈で、漢字が混ざる言葉は/線又は//線で文字省略を示している。サンスクリッ

    ト語も2回目以降については、発音、意味等も省略している。

    (表記方式の例)ここで、用いた表記方式の例を示す。複数の意味が含まれていることが多い。

    ・大八島おほやしま

    国=

    ⅰ〔avāya(アヴァーヤ)降下・化身/sīman(シーマン)境界・しま/国〕=「化身の島の国」神の化身

    ⅱ〔avyaya(アヴャヤ)不滅の/八つ/sīman 境界・しま/〕=「不滅の八つの島の国」

    ⅲ〔āvā c(アヴァーチ)南の/yāt(ヤト)配列する/ṣ iṣ t vā (シシャトヴァー)教える/māyā(マーヤー)策略

    /〕「南に配列すると教える策略の国」

    ・神かみ

    =〔kha(クㇵ)天/vīra(ミーラ)神々の称・雷神インドラ

    〕=「天の神々・天の雷神〕

    インドや東南アジアでは、神はデーヴァと呼ばれている。しかし、日本の神は、漢字の神しん

    の解字を古典サンス

    クリット語で現した訓読みの言葉である。その解字の意味は、天の神の総称又は雷神のことである。

    ・ 命みこと

    =〔vīra(ミーラ)神々の称[特に雷神]・英雄・指導者/kath(カトㇷ)話す〕=「神の言葉」=「命令・

    運命」神と同じく漢字の命メイ

    の解字を古典サンスクリット語で訓読みした言葉である。命メイ

    の解字には、生命、命令、

    宿命などの意味がある。ここでは、命令、宿命などの意味を古典サンスクリット語で現している。

  • 表-2 ヴェーダの古事記に関係する主な神々(辻村直四郎訳「リグ・ヴェーダ賛歌」「アタルヴァ・ヴェーダ賛歌」)参考

    アディティ:無垢の女神

    ウシャス:紅曉の女神

    ラートリー:夜の女神

    スーリア:太陽神

    ヴァルナ(月神)とミトラ:

    天則・掟の神

    サヴィトリ:激励の神

    プーシャ:道祖・牧畜神

    パルジャニア:雨神

    インドラ:雷神

    ヴィシュヌ:太陽神・輻射光

    ルドラ:シヴァ暴風雨神

    ブラフマン:梵天・最高神

    カーマ:意欲

    ヤマ:死者の王(アヴェスタ

    ーのイマで最初の人間で理

    想的統治者に相応)

    ヤミー:ヤマの双生児(女)

    カーラ:時間・方向の神

    サラスヴァティ:水の女神

    アグニ:火の神

    プルシャ(原人)

    プラジャパティ:造物主

    プラーナ:生気

    ・アーディティア(太陽神)神群の母神で無垢・無限の意味

    ・うら若い美女に喩えられ、太陽に先立って現れ、暗黒を払う

    ・星明かりの夜、一切に安息をもたらす、ウシャスと同じ天の娘

    ・一切に仰ぎ見られ・見る、ウシャスと密接な関係を持ち、彼の車は一

    頭或いは数頭(特に七頭)の馬に牽かれる

    ・大自然、祭詞、人倫の秩序を保つヴァルナと伴侶の契約の神ミトラ、

    後世、水との関係が深まり水天となる

    ・万物を光被・刺激する太陽活動によって万物の活動を促す

    ・熱烈で注意深く一切の主として万物を見渡し黄金の舟に乗る

    ・雨の慈育を反映、生物・無生物の主宰者、植物胚種を作る

    ・人界に待望の水と光明をもたらす、金剛杵を揮って戦う

    ・天界、空界、地界の三界を三歩で踏破、祭祠を保護し、人間に安全、

    広大な住居を与え慈愛に満つ、後のヒンズー教の最高神(ハリ)

    ・宇宙の主宰者、神界・人界の支配者、強烈無比の破壊力、後のブラフ

    マン・ヴィシュヌと共にヒンズー教の三大神となる、マルト神群の親

    ・太初に東方に生じ、天と地の両界を分離して支え、その最高の支配

    者、詩人・祭官、後世ヤマとカーラと同一とされる

    ・愛欲を意味せず、信奉者を庇護、敵対者を駆逐、神話の愛の神

    ・最高天の楽園に君臨・南方の守護神、祖霊に安息所を与え合体する、

    後世その領土は地下に移り死の神・悪業の懲罰者、日本では仏教の閻魔

    大王、法典の作者と想像される

    ・ヴェーダにヤマと「胎内において夫婦となせり」の一節がある

    ・天地を生み既存・未存のものを促して展開、ヤマ神の異名、ブラフマ

    ンと同一視

    ・本源を天上に発し高度の慈母性と浄化力とを特徴とするほか、特に

    暴風雨神マルト神群と関係が深い、後世言語の神ヴァーチュと一致さ

    れ、文芸守護の女神として日本で弁財天となる

    ・天上で太陽として輝き、空中で電光として閃めき、地界では祭式の聖

    火として燃え、人間と密接な関係を持ち浄化力が重んじられる

    ・過去・未来にわたる万有で人間・神を支配する、犠牲獣として各部分

    (巨大な原人)から世界の構成要素が出現

    ・万物の創造者、全世界の主宰者

    ・大宇宙の風に対応する小宇宙の個体の生気・主体で呼吸の神格、生類

    すべての息するもの・しないものの一切の主宰者

  • ⑵ ヒコ、ヒメ、ビコ、ワケ

    ヒコ、ヒメ又はビコ、ビメの呼称については、幾つかの意味がある。物語の筋、漢字の意味 から次の通りと

    考えるが、いずれも、音読み(仮名)の古典サンスクリット語である。

    ・日子ヒ コ

    =〔vi-rāj(ヴィ[ヒ]ラージ)光輝・支配・神聖な名前/kanaya(カナヤ)男性・一族〕=「光輝の一族」

    の意味。古事記では、R・V に対比して考えると、「光明・太陽」に関連するアーディティア神群(光明の神アデ

    ィティを母とする一族)と考えられ、天孫のこと。

    ・日高ヒ コ

    =〔vi-rāj(ヴィ[ヒ]ラージ)支配者・ブラフマン/kot i(コチ)最高度・天界・優秀〕=「天界の支配

    者」の意味である。この支配者は、「高(コ)」の字の意味から、高御産巢日神を指していると考えられる。高御

    産巢日神は、その名前から天界を創った神であり、R・Vの天界を創った神ブラフマンに対比される。

    ・比古と比賣・毘古と毘賣・別わけ

    は、男・女神や一対になった神、別名など持つ神に用いられる場合が多いが、単

    独の場合にも用いられ、幅広い意味を持つ。

    ・比ヒ

    古コ

    命=〔vic(ヴィ[ヒ]チ)分ける/ kāvya(カー[コ]ヴィャ)聖者・予言者/〕=「聖者の分神」天界

    などの本源神の分神(神の分身をこう呼ぶ。)

    ・比賣ヒ メ

    命=〔vic(ヴィ[ヒ]チ)分ける/menā (メナー)婦人/〕=「分かれた婦人命」天界などの本源神の分

    身で女神の場合

    ・毘ビ

    古コ

    =〔bhīta(ブㇶ―タ)畏怖・恐怖/kāvya(カー[コ]ヴィャ)聖者・予言・悪賢い者〕=「畏怖する聖

    者」、「恐怖の悪者」、「武威ある人」

    ・毘賣ビ メ

    =〔bhīta 畏怖・恐怖/menā(メナー)婦人〕=「畏怖する婦人」

    ・彦=〔vika(ヴィ[ヒ]カ)男の〕=「男子」の意味がある。外に、〔vi[ヒ]-rāj(ヴィラージ)支配者・第一

    人者/kārya(カ[コ]ールャ)仕事・職業〕=「職務の代表者」の意味も

    ・別わけ

    =〔bhakta(ブハクタ[ブㇵカ])分ける〕=「天界の本源神の分神・化身」

    ・国くに

    =〔ku(ク)大地・地球/nis(ニ)導く・一つのまとまり・包含〕=「大地の一つのまとまり」の意味で、

    国コク

    の解字を訓読みした古典サンスクリット語である。解字の意味は、政府の土地、領地、境界内の土地の意味が

    あるが、ここでは、境界内の土地の意味である。古事記では、神(天)界に対する「大地・地界」の意味もある。

    以上、音読み(仮名)・訓読みの古典サンスクリット語の例を見てきた。こうした漢字と古典サンスクリット語

    の融合が、いつ頃からできてきたかは分からない。おそらく、長い時間をかけて、ⅰ古典サンスクリット語によ

    る伝承・暗誦、ⅱ古典サンスクリット語による漢字の音読み、ⅲ漢字の字義・解字を古典サンスクリット語で訓

    読みする方向へと進んで来たのであろう。

    魏志倭人伝にも、魏と女王国の交流の一節に「文書・賜遺の物を伝送して女王に詣らしめ」の一節があり、漢

    字が両国の間で既に使われていたことが分かる。その際、用いられる親字、分類に用いる部首、文字の字義・解

    字など漢字の基礎知識が伝わっていたと考えられる。こうした知識と古典サンスクリット語を用いて、後世に書

    かれた漢文の古事記には、固有の読み方をする漢字が存在する。邪馬壱(台)国に関連したそれらの言葉を、次

    の 4で紹介する。

    なお、ここで、身近な漢字の、古典サンスクリット語との融合の形の例を表―3 漢字の訓読みの例、で示す。

  • 表-3 漢字の訓読みの例

    音読み 解字の意味

    訓読み 解字を古典サンスクリット語で表現した意味

    上 ジョウ 指事:ある位置を示す横線の上に、縦線を加えて・うえ・のぼる・あげるなどの意

    ウヘ(エ 〔ud(ウド)上へ/vedānīyā(ヴェ[へ]ダニーヤ)指示されるべき〕=上へ指示されるべき

    下 ゲ 指事:ある位置を示す横線の下に短い縦線を加えて、した・もと・さがる、の意

    シタ 〔sṛ(スリ[シ])動く・行く・移動する/tala(タラ)表面・底・根本・基礎〕=底面に行く

    左 サ 会意:左手と工具の象形を合わせて、工具を持つ手の意。右手を助ける意

    ヒダリ 〔hṛ(フリ[ヒ])運ぶ・持って来る/dhā(ドㇵ―)持つ/ṛ(リ)動かす〕=持って運び動かす

    右 ウ 形声:神への祈りの口と右手の象形を合わせて助ける意

    ミギ 〔vī(ヴィー[ミ])導く・支援する/gṝ(グリー[ギ])発声する・呑む・吐く[口]〕=口と助ける

    前 ゼン 形声:刀と音を示すセンとを合わせて切りそろえる意。

    マエ 〔mā(マー)区切る/eva(エヴァ)丁度〕=丁度区切る

    後 ゴ・コウ 会意:後ずさりする意、行くと糸で絡まる形と小さいを合わせて少し遅れるの意

    ウシロ 〔urdhva(ウルドフヴァ)後ろに/ṣṛ(スリ[シ])動く/lola(ロラ)不安定に〕=後ろに不安定に動く

    東 トウ 象形:筒のようになった底のないふくろに物をいれて両はしをひもで結んだ形にかたどる

    ヒガシ 〔vi-śliṣ(ヴィシャリシァ)緩んだ/ghāṭā(グㇵタ)壺/si(シ)縛る〕=緩んだ壺を縛る

    西 サイ 象形:酒をしぼるかごの形にかたどる。

    ニシ 〔nij(ニジ)清める/ṣīdhu(シードㇷ)糖酒〕=糖酒を清める

    南 ナン テントの形と音をしめすナンと合わせて、暖かいテントの中の意

    ミナミ

    北 ホク 会意:人が背中を向けあっているさまで、そむく意

    キタ 〔kṛttā(クリッタ[キッタ])切り離される/tanu(タヌ)身体〕=別れる身体

    時 ジ 形声:日と音を示す寺とを合わせて、太陽が移り行く意

    トキ 〔tṝ(トリー)渡る/kiṛāṇā(キラナ)日光・月光〕=渡る日光

    目 モク 象形:目の形にかたどる、立てにして書く

    メ 〔mecaka(メチャカ)暗緑色の・孔雀の尾の眼のような斑紋〕=瞳、目の形

    鼻 ビ 形声:人間の鼻の形の自と音を示すビとを合わせて突き出た鼻の意を表す

    ハナ

    耳 ジ 象形:耳の形

    ミミ 〔vī(ミー)導く/vījā(ヴィージャ[ミジャ])種子〕=種子を導く(漏斗の形)

    口 ク 象形:口の形

    クチ 〔kū(クー)叫ぶ/chid(チㇶド)かみ砕く〕=口

    物 モチ

    モノ

    中 チュウ 指事:もののまんなかを縦線で示す

    ナカ

    歳 サイ 会意:収穫の祭、鉞で生贄を裂いたさまと、日月の歩とを合わせ収穫~収穫までの1年を表す

    トシ 〔dhānyā(ドㇵ―ヌャ)穀物/chid(チㇶド)分ける・かみ砕く〕=穀物を分ける

    年 ネン 形声:穀物の意と音を示すネンとを合わせ穀物がみのる意を表す

    トシ 〔dhānyā(ドㇵ―ヌャ)穀物/ci(チ)形成する・集める〕=穀物が成る

    各枠の上段は漢字の音読み、下段は訓読み

    〔nah(ナフ)結び付ける・囲繞する/kakṣā(カクシァ)囲壁・垣・中央〕=中央を囲む

    漢字

    形音:牛と音を示す勿を合わせ、神に供える牛の意

    〔mātṛ(マートリ[モトリ])牝牛/nata(ナタ)差し出された〕=差し出された牛

    〔phaňa(プㇵナ)小鼻〕・〔hā(ハー)出ていく/nāṣikā(ナーシカー)鼻〕=出た鼻

    〔mṛ(ムリ[ミ])包まれた/nāṛāyānā(ナラヤーナ)篭/vṛdh(ヴリドㇷ[ミドㇷ])うっとりする

    る〕=包まれた篭でうっとりする

  • 10

    4 古事記と魏氏倭人伝を繋ぐ漢字「倭やまと

    ・沼ぬ

    ・河かわ

    ・大吉備お ほ キ ビ

    古事記と魏志倭人伝を繋ぐ鍵となる重要な漢字と、真実を隠す言葉(隠語)として使われている漢字の例を紹

    介する。少なくとも、奴国が後漢に朝献した時期ぐらいから、漢字の偏・旁などの部首、字義と象形・指亊・会

    意・形声などの解字、音(呉音)などを古典サンスクリット語と組み合わせて、独自に作ったと考えられる。

    先ず、頻繁に使用される古典サンスクリット語の「ヤマ」については、幾つかの意味があり、「 倭やまと

    」は、それ

    を代表する言葉である。ここでは、漢字を分解し、会意・形声など、古典サンスクリット語で読み解く特殊な使

    われ方の例を見る。なお、これらは、歴史の過程で意図的になされたものと考えられる。

    ⑴ 「 倭やまと

    」は古代国家の理念

    (訓読み「 倭や・ま・と

    」)その 1

    「 倭やまと

    」の漢字の構成要素を古典サンスクリット語で読む

    (解字から)

    倭=禾(ヤ)+女(マ)+人(ト)

    =〔yava(ヤヴァ)大麦・種としての穀類/mātṛ (マートリ)母/tāta(タータ[トタ])父〕=「種としての母と

    父」父母は伊邪那岐命、伊邪那美命で、古事記神話では創造神、祖先神であろう。

    (訓読み「 倭やま・と

    」)その2

    「やま」は、邪馬壱国の「邪ヤ

    馬マ

    」の音読みと同義で、サンスクリット語で〔yama(ヤマ神)・一対をなす・道

    徳の通則・制御・抑止・自制・最高義務〕などの意味がある。

    「ト」は、ⅰ〔dhāman(ドㇵ―マン)住所・領土・神々の領土・王国〕、ⅱ〔dhoran ī(ドㇹ―ラニー[ドㇹラ

    ニ])一線・連続する〕などがあり、組み合わせると、

    倭やまとの

    国=ⅰ〔yama/ヤマ神・一対をなす・支配・道徳の通則・抑止・自制・最高義務/dhāman(ドㇵ―マン[ト])

    領土・王国〕=「ヤマの領土の国」、「一対の領土の王国」(対の国は㋭常世トコヨの

    国[対の南の国](参考 原文―2)

    ⅱ〔yama一対をなす/dhoran ī 一線・連続する/国〕=「一直線上で一対をなす国」後漢の都洛陽と奈良橿原市

    は同じ北緯 34.5 度線上で対の国。 倭やまとの

    国は、神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の東征時に、いずれ中国の王朝に

    比肩できる国造りを目指して、洛陽より早く太陽の登る国として選定されたのであろう。

    一対には、多くの意味と言葉がある。

    「邪馬壱ヤ マ イ チ

    国・邪ヤ

    馬マ

    台ダイ

    国」 については次章に譲るが、古典サンスクリット語の〔yama(ヤマ)〕の意味を見る。

    起源は、リグ・ヴェーダ賛歌の人間の運命を決定するヤマ(表-2 ヴェーダの古事記に関係する主な神々

    )であり、呪法を本領とするアタルヴァ・ヴェーダでは、万有の根本原理と見なされた死の神カーラ(時間、

  • 11

    方向の神)である。カーラは、ヤマの異名とされ、天地創造神ブラフマンと同一視されている。三神は、別な神

    格の存在ながら本源は一つである。

    (ヤマの伝説 ヤマとヤミーは伊邪那岐命と伊邪那美命の本源神と化身の関係)

    yāmā(ヤマ)の言葉は、『ⅰ一対をなした(双生児ヤマとヤミー(妹)の双生児が由来)の意味の外、ⅱ死んで

    天界にある祖霊を支配する神、下界を支配する死の神で、その名は征服者、処罰者の意味と考えられ、南方の支

    配者、賛歌・法典の作者と想像される』と記されている。この外、動詞〔yām(ヤム)〕から派生した、ⅲ制御、

    統制、支配、抑止、自制、道徳の通則、最高義務、例、規則など多様な意味がある。((財)鈴木学術財団「大梵

    和辞典」2015(株)黒岩大光堂 参考)

    一方、古事記では、ヤマとヤミーに対比される伊邪那岐命と伊邪那美命が、共に大八島国を固成かためな

    したが、その

    後、伊邪那美命が火之加具土カグツチの

    神を生んだ時、みほとを炙や

    かれて神避られた。伊邪那岐命が黄泉ヨミの

    国に伊邪那美命を

    迎えにいくが、伊邪那美命は黄泉津よ も つ

    大神(又の名を道敷ちしきの

    大神)となって、逃げる伊邪那岐命を黄泉醜女よもつしこめ

    に追わし

    めた。この時、伊邪那岐命は、桃子もものみ

    三箇をとって待ち撃つと 悉ことごと

    に逃げ返った。伊邪那岐命は、桃子もものみ

    に意い

    富ふ

    加か

    牟む

    豆づ

    実みの

    命と名を賜られた。追い来た伊邪那美命は「汝の国の人ひと

    草くさ

    、一日ひとひ

    に千頭ちがしら

    絞くび

    り殺さむ。」と言われ、伊邪那

    岐命は「吾あれ

    一日千五百人ち い ほ た り

    の産屋うぶや

    立てむ。」と返された。両命の古典サンスクリット語の意味は次の通りで、伊邪

    那岐命は生命の神で、伊邪那美命は地下の死の神の意味である。この点、ヴェーダのヤマ・ヤミーとは異なる。

    (参考 原文―1 黄泉津大神となる伊邪那美命)

    ・伊邪那岐命=〔ī ṣ (イーシャ)支配者/dvāyā(ドヴァヤ[ダヤ])一対の/nāṛā(ナラ)人/gṛ hā(グリハ[ギハ]

    家・家庭・家の切り盛り〕=「一対(夫)の人間の暮らしを支配する命」ここで、(yāmā=dvāyā一対)で同じ意

    味。

    ・伊邪那美命=〔ī ṣ (イーシャ)支配者/dvāyā(ドヴァヤ[ダヤ])一対の/nāṛā(ナラ)人/mṛ (ミ)死〕=「一

    対(妻)の人間の死を支配する命」一対は夫婦・双生児

    ・黄泉津よ も つ

    大神=〔yāmī (ヤミー[ヨミ])夜/mātum(マーツム[モツム]形成すること)=「夜を作る大神」

    ・道敷ちしきの

    大神=〔timiṛā(チミラ)闇(死)/ṣṛ (スリ[シ])追跡する・滑る/khilyā(クㇶルャ[キラ])地中の岩

    石〕=「闇の地中の岩の中を追いかける大神」地中の死神

    つまり伊邪那岐命は、生活・暮らしの支配者で、底知れぬ畏怖を持ち、自制、道徳、最高義務などの掟を人に

    課す、時間と方向を支配する全能の神と理解されていたのであろう。また、天則を守り、布施をし、苦行を行う

    人々に生命を返し与える長寿の神でもあったと考えられる。古代には、信仰対象となっていたのであろう。

    結局、 倭やまとの

    国は、天界の伊邪那岐命、伊邪那美命の造った国で、地上の伊邪那岐命の領地のこと。伊邪那岐命

    は南方に対の領地の常世国(原文-2 神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の誕生)を持ち、伊邪那美命は地下の黄泉

    国の死の支配者で、ヤマとヤミーとは化身と本源神の関係で、祖霊神として信仰されているのであろう。

    (参 考)ヤマは、3500 年の歴史を有する世界最古の宗教と言われるゾロアスター教の聖典アヴェースターの

    イマに相応するとされる。イマは、地上を善く支配した最初の王で最初に死んだ人間、地下の死者の国の支配者

    とされる。(参考文献 メアリー・ボイス、山本由美子訳「ゾロアスター教」2010 株式会社講談社、伊藤義教訳

    『アヴェスター』2012 ちくま学芸文庫)

  • 12

    原文-1 黄泉津大神となる伊邪那美命(校定古事記 11 頁)

    ⑵ 「沼ぬ

    =奴ヌ

    ;王・支配者、離別された」の意味

    「沼ぬ

    」は訓読み、古事記の㋫神倭伊波禮毘かむやまとイワレビ

    古コの

    命(神武天皇)の亦の名、㋩若ワカ

    御毛ミ ケ

    沼ぬの

    命と㋪豊御毛沼命(トヨミケ

    ヌの命)、神沼ぬま

    河かわ

    耳みみの

    命(第二代綏スイ

    靖ゼイ

    天皇)に使われている、神武天皇の三つの別名。原文―2参照

    沼ぬ

    =ⅰ〔nṛ pati(ヌリパチ)王・支配者〕、ⅱ〔nunna離別された〕、ⅲ〔ny-upta(ヌュプタリ)刈られた・耕さ

    れた・撒かれた「耕地」〕

  • 13

    御ミ

    毛け

    沼ぬ

    =〔vīta(ヴィータ[ミタ]去った)/kṣ etram(クセ[ケ]トラム)聖地・本源・領地/nṛ pati(ヌリパチ)

    王・支配者〕=「領土を離れた王」

    倭に朝献を求めた後漢は、「沼ぬ

    」に軽蔑の「奴」をあてはめたと考えられる。

    原文―2 神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の誕生と三つの別名(同 59頁)

  • 14

    ⑶ 「河かわ

    =漢かん

    」の意味

    「河かわ

    」の文字は、古事記で神沼かむぬま

    河かは

    耳みみの

    命(第二代 綏靖天皇)に使われている。古事記にない漢は、漢水とい

    う揚子江の支流の河の意味で、辞書に「天漢・銀漢」の天の川の意味もある。河ガ

    も「銀河」で天の川の意味があ

    り、訓読み(カワ)の古典サンスクリット語の意味「河・川・天の川」に合致し、漢の隠語として使われている。

    河かわ

    =ⅰ〔ka(カ)水/vah(ヴァフ)流れる・運ぶ〕=「河・川」

    ⅱ〔kha(クㇵ)空・天/vah(ヴァフ)流れる・運ぶ〕=「銀河」で漢の意味

    ⑷ 「大吉備お ほ キ ビ

    =魏」の意味(表ー10 参照)

    大おほ

    倭やまと

    根子ね こ

    日子賦斗邇ひ こ ふ と に の

    命(第七代 孝霊天皇)の兄にあたる大吉備おほキビの

    諸 進もろすすの

    命と夜麻登登母母曾毘賣や ま と と も も そ び め の

    命の実弟の

    比古伊佐勢理毘ひ こ い さ せ り び

    古この

    命、亦の名大吉備津お ほ キ ビ つ

    日子ひこの

    命に使われている。ここで、10頁 4・(1)参照から、 倭やまと

    =「種とし

    ての母と父」と「ヤマ神の領地」二つの意味があった。魏は、

    魏=禾(ヤ)+女(マ)+鬼(kṛ tānta(キタンタ)ヤマ神)=「種としてのヤマ神とヤミー」ヤマとヤミーの

    起源と理解できる。古事記では漢と同じく魏は使われていないが、大吉備が隠語となっている。

    大吉備お ほ キ ビ

    =〔ā vā hā(アーヴァーハ)嫁/〔kṛ tā ntā(クリターンタ[キトンタ])ヤマ神/bī jā(ビージャ)種子・起

    源〕=「種としての嫁(ヤミー)とヤマ神」ヤマとヤミーの起源の意味で魏と同義。倭ワ

    は、魏と近しい国として、

    親近感を持つことになったのであろう。19 頁㋠、㋡参照

    5 古事記の国土誕生

    (大八島国=伊邪那岐命・伊邪那美命の化身の国)

    「古事記」は、太安萬侶おほのやすまろ

    が序第三段で述べているように「漢字訓読みだけでは、真意を書き表し難いので、音

    読み(仮名読み)を交え、事によって音読みのみを用い、注で補足している。」としており、漢字の音読みと訓読

    みの複合型の言葉で、訓読みも音読み(仮名)のように使われているものが多い。この日本古来の言葉使いに、

    「古典サンスクリット名詞複合語」や「ヴェーダ」の神々などとの関連も多く含まれている。

    以下、古事記の伊邪那岐命と伊邪那美命の国生みによる島・国の名称の複数の解釈の中から、別ワケ

    ・比賣などの

    守護神の名称を記す。これらは、魏志倭人伝の地名と深く関わっている。

    (参考 原文―3 古事記、伊邪那岐命・伊邪那美命の国生み(校定古事記上巻 4~5 頁))

    ㋐ 淡道之ア ハ ジ ノ

    穂ホ

    =〔āp(アプ)水/jṛ bh(ジリブㇷ〔ジブㇷ〕)大口を開ける/nāh(ナフ)結ぶ/pāt (パト)裂け

    る〕=「水が大口を開けている割れ目」=「鳴門の渦潮」

    ⓐ 狭サ

    別ワケの

    島シマ

    =〔ṣ āṣ in(シャシン)月/bhāktā(ブㇵクタ[ブㇵカ])分ける/ṣī mān(シーマン)〕=「月神の分

    神の島」、ヴァルナ(月神)に対比、別わけ

    については、第 1・3・⑵参照

    ㋑ 伊豫之二イ ヨ ノ フ タ

    名ナノ

    島=〔i(イ)挑戦する/yoddhum(ヨーッドフム)攻撃する/nāu(ナーウ)船 /bhu tā(ブㇷ―

    ター)怪物[後漢]/nāśā(ナーシャ)破壊・死/〕=「船を攻撃し怪物(後漢)を破壊する島」

    ㋒ 伊豫イヨの

    国=〔i(イ)挑戦する/yoddhum(ヨーッドフム)攻撃する/ 〕=「挑発して攻撃する国」

    ⓑ 愛エ

    比賣=〔edhāṣ(エドㇵス)繁栄・幸福/〕=「幸福の比賣」、uṣ āṣ(ウシャス)神に対比、

    ㋓ 讃岐サヌキの

    国=〔ṣā gāṛā(サーガラ)海/nud(ヌド)追い払う/kitāvā(キタヴァ)悪漢/〕=「悪漢(後漢)を

  • 15

    追い払う海の国」瀬戸内海の悪漢を追い払うこと

    原文―3 古事記、伊邪那岐命・伊邪那美命の国生み(同上巻 4 頁)

  • 16

    Ⓒ 飯依イヨリ

    比古=〔iṣ (イシュ)期待する・探索する/yām(ヤム)抑制する・阻止する/ṛ tā(リタ)天則/〕=

    「探索し抑止する、天則の分聖者」天則の神ヴァルナに対比、狭別島と同じ月神、

    ㋔ 粟アハの

    国=〔āvā-ṣ ānā(アヴァシャナ)終わり・殺人/〕=「終わりの国」

    ⓓ大宜都オ ホ ゲ ツ

    比賣=〔ā hā ṛā(アーハーラ[オホラ])食物/gā tum(ガーツム)歌/〕=「食物と歌の神の分神」、サ

    ーヴィトリー神に対比

    ㋕ 土佐トサの

    国=〔tod itum(トディツム)打つ・刺す/ṣā (サー)終わる・終局に達する・開放する/〕=「打ち終わ

    る国〕戦いを終わりにする国

    ⓔ 建依タケヨリ

    別=〔dākṣā(ダクシァ[ダカ])有能な・大地/yoddhum(ヨッドフム)戦う/ṛic(リチ)引き離す/〕

    =「戦いを止める有能な分神」ミトラ神に対比

    ㋖ 隠伎之オ キ ノ

    三子ミツゴの

    島=〔ā -kṛ ṣ (アークリシァ[オキシァ]運び去る)/nāu(ナーウ)船/mithyā (ミトㇷヤ)不法

    な/ghoṛā 高貴な・恐ろしい/〕=「不法で恐ろしい船を運び去る島」

    ⓕ 天之忍許アメノオシコ

    呂ロ

    別=〔āmā nuṣ ā(アマーヌサ)天界の/ā ṣ iṣ(アーシス[オシ])神の恵み/kā lā(カーラ[コロ])

    時・方向の神/〕=「天界の神の恵みの時と方向の神の分神」カーラ神に対比

    ㋗ 筑紫ツクシの

    島=〔dyu(ドュ[ヅ])攻撃する・襲う/kṣi(クシ)滅ぼす/〕=「攻撃し滅ぼす島」

    ㋘ 筑紫ツクシの

    国=〔dyu(ドュ[ヅ])攻撃する・襲う/kṣi(クシ)滅ぼす/〕=「攻撃し滅ぼす国」

    ⓖ 白日シラヒ

    別=〔ṣu ṛyodāyā(スーㇽョーダヤ))日の出・夜明け/vi-ṛā j(ヴィラージ[ヒロジ])輝く・支配する

    /〕=「夜明けの空の支配者の分神」ブラフマン

    ㋙ 豊トヨ

    国=〔dhā v(ドㇵ―ヴ[ドㇹ―ヴ])突撃する/yoddhum(ヨッドフム)戦う/〕=「突撃し戦う国」

    ⓗ 豊トヨ

    日ヒ

    別=〔tā yānā(ターヤナ[トヤナ])繁栄すること/vi-ṛā j(ヴィラージ)光[ヒラジ]/〕=「繁栄する光

    の分神」、天之御中主神の分神でヴィシュヌ神に対比

    ㋚ 肥ヒの

    国=〔hi(ヒ)駆り立てる・除去する/〕=「追い払う国」

    ⓘ 建タケ

    日向ヒムカ

    日豊ヒトヨ

    久士比ク ジ ヒ

    泥ネ

    別=〔dākṣ ā(ダクㇱァ[ダカ])有能な/ vimukā(ヴィ[ヒ]ムカ)離れる・抜ける/

    vi-ṛā j(ヴィラージ)支配者・日/tā yānā(ターヤナ)繁栄すること/ku-dṛ ṣ tā(クディシァタ[クディシァ])不

    十分に見られたる/vinā yākā(ヴィナーヤカ)案内者/〕=「有能な支配者の不在の繁栄を不十分にみられる案

    内者の分神」神産巢日神は生気の神プラーナに対比されるが、姿が見えないので代理の牧畜神プーシャに対比

    ㋛ 熊曾クマソの

    国=〔ku(ク)悪い/mānu(マヌ)人間/ṣo(ソ)殺す・破壊する/〕=「悪い人間を殺す国」

    ⓙ 建タケ

    日ヒ

    別=〔dākṣ ā(ダㇰシァ[ダカ])大地・器用な/vi-ṛā j(ヴィラージ)支配/〕=「大地を支配する分神」

    宇摩志阿斯訶備比古遲神の分神でプラジャパティに対比

    ㋜ 伊伎イキの

    島=〔ī ṣ (イーシァ)攻撃する/kitāvā(キタヴァ)悪漢/〕=「悪漢(後漢)を攻撃する島」

    ⓚ 天比登都柱=〔āmbāṛā(アムバラ[アマ])空/vidyu(ヴィドュ[ヒドュ])雷/tud(ツド)打つ/bhāṣitā(ブ

    ㇵシタ)吠える事/ṛā jā(ラージャ)王〕=「天空の雷鳴の王」インドラ(雷神)に対比

    ㋝ 津ツ

    島=〔dyu(ドュ)攻撃する/〕=「攻撃する島」

    ⓛ天之狭手依ア メ ノ サ デヨ リ

    比賣=〔āmāṛā(アマラ)永遠/nā kā(ナーカ[ノカ])大空/ṣ āyā(シャヤ)眠っている/dheyā(ド

    ㇸヤ[デヤ])保持されるべき/ṛ kṣ ā(リクシァ)星/〕=「永遠に大空に眠る星の女神の分神」ラートリー(星

    明かりの夜の女神)に対比

  • 17

    原文-4 古事記、伊邪那岐命・伊邪那美命の国生み(校定古事記上巻 5 頁)

    ㋞ 佐度サドの

    島=〔ṣād(サド)座る・沈む/〕=「鎮まる島」、新月の意味

  • 18

    ㋟大 倭オホヤマト

    豊トヨ

    秋アキ

    津ツ

    島=〔āvā c(アヴァーイ[アボチ])南の/yāmā(ヤマ)一対をなす/dvā ṛā(ドヴァーラ)門・

    道/dvāyā(ドヴァヤ)二種類の・偽り/ākṣ in ā(アクシナ〔アキ〕)不滅の/dyu(ドュ)攻撃・襲う/〕=「南

    に一対の偽りの道を持つ攻撃に不滅の島」

    ⓜ 天アマツ

    御虚空ミ ソ ラ

    豊トヨ

    秋アキ

    津根ヅ ネ

    別=〔āmātyā(アマートャ)天の代理/miṣ (ミシュ)輝く・開く/ṣu ṛyā(スーㇼヤ)

    太陽・スーㇼヤ神/tāyānā(ターヤナ[トヤナ])繁栄すること/ākṣ in ā(アクシナ[アキナ])不滅の/dyu(ドュ)

    天空・光明/netṛ (ネトリ)支配者/bhākutā (ブㇵクター)分けられた/〕=「天の代理の輝く太陽(スーリア

    神)の繁栄する不滅の光明の支配者の分神」太陽神「スーリヤ神」に対比

    ㋠ 大八島オホヤシマ

    国=〔āvā c(アヴァーチ)南の/yāt(ヤト)配列する/ṣ iṣ t vā (シシャトヴァー)教える/mā yā (マ

    ーヤー)策略/〕=「南に配列すると教える策略の国」

    =〔āvā yā(アヴァーヤ)化身/〕=「化身の島」伊邪那岐命・伊邪那美命が固成した化身(ヤマ)の国

    ㋡ 吉備兒キ ビ の コ

    島ジマ

    =〔kṛ ta(キタ)作られたもの[大八島]/bījā(ビージャ)種子/起源/koṣ ā(コーサ)心臓(心)

    /〕=「大八島の起源となる心臓(心)の島」大八島国=伊邪那岐命(ヤマ)の化身の大八島の心臓(心)の島

    ⓝ 建タケ

    日方ヒカタ

    別=〔dākṣ ā(ダクㇱァ)有能な・意志/vi-ṛāj(ヴィラージ)支配する/khā(クㇵ)空・天/dhāṛānī

    (ダラニー)大地/〕=「意志を支配する天地の神の分神」

    ㋢ 小豆アヅキ

    島=〔āduh khitā(アヅクㇶタ)苦労のない/〕=「苦労のない島」アディティに対比

    ⓞ 大野手オ ホ ノ デ

    比賣=〔ā vāli(アーヴァリ)血統/nāddhā(ナッドㇵ)結ばれた/〕=「血統で結ばれた女神の分神

    の比賣」天照大御神

    ㋣ 大オホ

    島=〔ā bhā (アーブㇵー)光・出現/〕=「輝く島」=火の島:アグニ(火神)に対比

    ⓟ 大オホ

    多麻流タ マ ル

    別=〔ā -bhogā(アーブㇹガ)果てしない広がり/tāmāṣ(タマス)暗闇/lu (ルー)切り落とす・

    滅ぼす/〕=「果てしなく広がる暗闇を切り落とす分神」、アグニ火神に対比

    ㋤ 女ヒメ

    島=〔vi-ji(ヴィジ[ヒジ])勝つ・征服する/menā (メーナー)婦人/〕=「勝利する女の島」

    ⓠ 天 一アメヒトツ

    根ネ

    =〔āmbhāṣ(アムブㇵス[アマス])水/vi-dhā (ヴィドㇵ―[ヒドㇵ―])分与する・横たえる/

    tul(ツル)量る/netṛ (ネトリ)〕=「水を量り分配する支配者」サラスヴァティ(水の女神)に対比

    ㊁ 知チ

    詞カの

    島=〔ci(チ)集める・形成する/kāh (カ)風/〕=「風をつくる島」シヴァ(暴風雨神)に対比

    ⓡ 天之アメノ

    忍オシオ

    男=〔āmā nuṣ ā(アマーヌシァ)天界の/oṣ itum(オシツム)破壊/ojāṣ(オージャス)力〕=「天

    界の破壊する力持ち」暴風雨の神シヴァに対比

    ㋦ 両兒フタゴの

    島=ⅰ〔bhu tā(ブㇷ―タ)よい存在物・神・怪物・鬼神/golā(ゴーラ)天体/〕=「神(伊邪那岐命、

    伊邪那美命)の島」双子(伊邪那岐命、伊邪那美命)の天界の島

    ⅱ〔二つ/ghoṛā(グㇹ―ラ)崇高な・畏怖すべき/〕=「畏怖すべき二柱の島」伊邪那岐・伊邪那美神

    Ⓢ 天アメ

    両屋フタヤ

    =〔āmbāṛā(アムバラ)天/bhu tā(ブㇷ―タ)よい存在物・神・怪物・鬼神/yām(ヤム)保つ・支

    える〕=「天界の神が宿る」

    (参考 原文―2 神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の誕生)

    ㋭常世トコヨの

    国くに

    〔dvākā(ドヴァカ)対の・二重の/yā myā(ヤームヤ[ヨムヤ])南の・ヤマに関する/〕=「対の南の

    国、対のヤマの国」

  • 19

    第 2 魏志倭人伝

    1 邪馬壱国への道 鍵となる地名等

    (仮名漢字の古典サンスクリット語)(原文―5 三国志 65 巻(魏志・東夷伝・倭人)、原文―同6、原文―同7)

    魏志倭人伝の倭ワ

    の風俗・風習などに使われている漢文は、意味が明確であるが、邪馬壱国をはじめ国名、官職

    名、女王の都する近傍の国々の名前など、倭ワ

    国に関する言葉は難解である。しかし、次の言葉を音読みの古典サ

    ンスクリット語で読むと、重要な意味が隠されていることが分かる。

    不弥フ ミ

    国コク

    、投ヅ

    馬マ

    国コク

    、邪馬壱ヤ マ イ チ

    国コク

    や方位を現す南ナン

    、魏遣使の名前などである。

    原文―5➀の「倭人ワジン

    は帯方の東南大海の中にあり」は、日本列島の実状を表したもの。

    表-4で注目すべき言葉は、➀倭人、⑬奴国、⑯不弥国である。

    倭人ワジン

    (音読み)

    漢字の「倭」は、その由来について幾つかの説があるが、古代日本に住んでいた住民が自らを「わ」と呼んで

    いたと考えられ、その発音に「倭」の文字を自ら選択したのであろう。ここで、発音「ワ」に該当する古典サン

    スクリット語を見ると。

    倭ワ

    =ⅰ〔vāṣ(ヴァス)明るくなる(夜が白むこと)・着る・ある形をとる・入り込む・住む・留まる・生活する〕

    ⅱ〔vāṣu(ヴァス)善い・善良な・諸神及び神々の集合・光線〕

    倭の漢字の字義は、したがうさま・従順なさま・つつしむさま、中国人が日本を呼んだ名。

    ➀倭人は、音読みで漢字と古典サンスクリット語が上手く組合された言葉で、倭国が選んだ漢字であろう。

    ⑬奴ヌ

    国(原文-12「後漢書」では㊷、より) 古事記から 倭やまとの

    国の別国・王国

    奴国は、音読みで奴隷、召し使いの国の意味。古典サンスクリット語では、王、押しやられるなど、広い意味

    がある。古事記の神倭伊波禮毘かむやまとイワレビ

    古コの

    命(初代神武天皇)は、若わか

    御毛ミ ケ

    沼ヌの

    命、豊とよ

    御毛ミ ケ

    沼ヌの

    命の二つの別称がある。若御

    毛沼命には、ⅰ後継の不在の領地の王の命・ⅱ仲間が責任を委ねた不本意な王の命・ⅲ輝く王(漢の光武帝)に

    欺いて仕える命、などの意味がある。後漢の光武帝が楽浪郡を拠点に東方経営を進めようと試みていた時期、筑

    紫の奴国が洛陽まで使者を送って朝貢し、光武帝が印綬を与えたとされる奴国王は、若御毛沼命である。つまり、

    倭に東征する前の神武天皇の名前である。ここで、「沼ぬ

    =奴・離別される」の奴国は、離れた王国の意味である

    が、後漢によって蔑称の奴に替えられたのであろう。高句麗も蔑称が付けられた経過がある。

    原文―7⑯不弥フ ミ

    国 女王の都への検問

    不弥国の彌の文字の意味は、続いている・行き渡るの意味。「不」が付くことによって、この国より東は存在し

    ないの意味となる。つまり倭ワ

    国は、この国より東には存在しない南の国であるとなる。

    古典サンスクリット語では、ⅰ王城(首都)に導く国、ⅱ曲げて方向を欺くの意味があり、ⅰは女王の都する

    東へ導き、ⅱは伝説の邪馬壱国へ南と欺いて教える国である。官の多模た も

    は、方向を教える相手の意図を推論して、

    必要応じて南の邪馬壱国の幻想を与える役割であろう。

    しかしこの地域には、不弥フ ミ

    国の発音に該当する国名は見当たらない。不弥の意味する「東に広がらない」を意

    味する国も存在しない。該当するのは、現在の飯塚市にある旧穂波郡の地域である。伊都国から「東行不弥国に

  • 20

    至る百里。」で、方向は概ね合致している。穂波の古典サンスクリット語の意味は、「東の都城に導く・不法者は

    東からそらす」の意味がある。女王の都の西の砦で 倭やまとの

    国への侵入を阻止する役割を担っていたのであろう。

    原文―5 三国志・魏志巻 30・東夷伝・倭人 30~32 頁の 1

  • 21

    原文―6 三国志・魏志巻 30・東夷伝・倭人 30~32 頁の 2

  • 22

    原文―7 三国志・魏志巻 30・東夷伝・倭人 30~32 頁の 3

  • 23

    表―4 西晋陳寿撰〔他〕『三国志・魏書・東夷・倭人』1670 村上勘兵衛・山本平左衛門刊(原文―5、6参考)

    国名等 古典サンスクリット語の解釈等

    ① 倭人ワジン

    (p10

    参照) ⅰ「夜明け前の白い空の人」東方の住民、東方はブラフマンの象徴

    ⅱ「善良な人」、「神々の集まりの人」神々を信仰する人

    ②對ツイ

    海カイ

    ③卑ヒ

    狗ク

    ④卑奴母離ヒ ヌ モ リ

    ⅰ〔dyut(ドュト)襲われた/i(イ)挑戦する/kāivāṛtā(カーイヴァルタ)捕魚者/〕

    =「攻撃に挑戦する捕魚者の国」大陸からの圧迫に挑戦する漁労の国の意味

    ⅱ〔dhuṛ(ドㇷル)先端/ī ṣ (イーシァ)行う・去る/kāivālyā(カーイヴァルャ)単独・

    孤立/〕=「先端の離れた出入りの國」

    〔hi(ヒ)動かす・駆り立てる・促す/kulā(クーラ)種族・一団〕=「種族を動かす」

    〔hī nā(ヒーナ)小さい・劣っている/māuli(マーウリ)頭〕=「小頭」

    ⑤一イチ

    大国ダイコク

    〔iti(イチ)通行/dāiṣ ikā(ダーイシカ)案内する/〕=「通行の案内の国」

    ➇末蘆マツロ

    国 ⅰ〔mātṣyā(マトㇲヤ)魚/lā(ラー)取る・掴む/〕=「漁労の国」

    ⅱ〔māṛyā dā (マルヤーダー)目的地・厳密に定義された関係/dyu(ドユ[ヅ])天空/

    uṛu(ウル)距離/ām ṣ (アシュ)分ける/〕=「目的地間を天空で等分する国」

    ⑨伊都国

    ⑩爾ニ

    支シ

    ⑪泄謨觚セ モ コ

    ⑫柄渠觚ヘ キ ョ コ

    ⅰ〔i(イ)行く・来る・企てる/dhā mān(ドㇵ―マン)領地・住処/〕=「出入する領

    地の国」

    ⅱ〔ī ṣ (イーシャ)所有する/tā d ā(ターダ)打撃/〕=「打撃を有する国」攻撃力を持

    つ国、交易のゲートとして通行のための邪馬壱国の直轄地であろう

    〔nī (ニシ)導く・指導する/ṣ iṛāṣ(シラス)頭〕=「導く頭」

    〔ṣevitum(セヴィツム)従う/māuli(マーウリ)頭/kā ṛyā(カールヤ)仕事〕=「頭に

    従う仕事」

    〔vektum(ヘクツム)分ける/kiyāt(キヤト)どれだけ大きい/kā ṛyā(カールヤ[コラ]

    )仕事)=「大きいものを分けてする仕事」

    ⑬奴ヌ

    国(p18 参照)

    ⑭兕馬觚ジ マ コ

    卑奴母離:前出

    ⅰ〔nṛ pā(ヌリパ)王/〕=「王国」

    ⅱ〔nunnā(ヌンナ)離別された/〕=「推しやられた・離別された国」 倭やまとの

    国の離れた

    王国、神武天皇の別名若わか

    御毛ミ ケ

    沼ヌの

    命の国の後漢による蔑称

    〔diṣ (ディシャ)指示する/māllā(マルラ)将士/kā ṛyā 仕事)=「指示する将士の仕

    事」

    ⑯不弥フ ミ

    ⑰多模タ モ

    ⅰ〔puṛ(プル)王城 又は puṛāṣ(プラス)東に向かって/vī (ヴィー[ミ])導く/〕

    =「王城(又は東)に導く国」=東の女王の都する所へ導く国

    ⅱ〔bhuj(ブㇷジ)曲げる/mī (ミ)方向を取り違える・欺く/〕=「曲げて方向を欺く

    国」

    ⅰ、ⅱはそれぞれ正しい方向と虚偽の方向の二つの意味を合わせ持っていることを示す。

    ⅰ〔dhā (ドㇵ―)示す/mā (マー)推論・決論〕=「推論を下す」

    ⅱ〔dhā (ドㇵ―)与える/mohā(モハ)幻想〕=「幻想を与える」

  • 24

    表―5 南・投馬国・邪馬壱国の古典サンスクリット語の意味(原文―7 参考)

    漢字の音読み 古典サンスクリット語の意味

    ⑱南ナン

    漢字( 南みなみ

    の方

    向)

    ⅰ〔nām(ナム)屈む・に従う・他方へそらす〕=「反れる」、東へ導く不彌国から東に向

    かって北又は南に反れるの意味。つまり、投馬国と女王の都する所は、真東から北に少し

    反れている。

    ⅱ〔nā(ナ)なし/muc(ムチ)見捨てる・消滅〕=「無意味」ナムに意味なし

    ⑲投ヅ

    馬マ

    ⑳弥ミ

    弥ミ

    ㉑弥弥那ミ ミ ナ

    利リ

    ⅰ〔dhu māyā(ドㇷ―マヤ)煙で包む・不明にする/〕=「煙で包まれた・不明の国」

    ⅱ〔dhu (ドㇷー)追い払う/māthitṛ (マトㇶトリ[マチチ])破壊者/〕=「破壊者を追

    い払う国」

    投馬国は、破壊者を追い払うために設けられた不明の国のことで、実在しない虚偽の国

    のこと

    〔vī(ヴィー「ミ」)導く・支援する/vīra(ヴィーラ[ミラ])部下・戦士)=「部下を導

    く」

    〔mṛ (ムリ[ミ]死ぬ)/vī(ヴィー「ミ」)導く)=「死に導く」

    〔//nām(ナム)従う・敬礼する/lī (リー)くっ付く・付着する〕=「彌彌に従い付

    く」部下

    ㉒邪馬壱ヤ マ イ チ

    ㉔伊支イ シ

    馬マ

    ㉕弥ミ

    馬マ

    弁ベン

    ㉖弥ミ

    馬マ

    獲カク

    支シ

    ㉗奴佳鞮ヌ ケ テ イ

    ⅰ〔yāmā一対をなす/itihā ṣā(イチハーサ)伝説/〕=「一対をなす伝説の国」

    (参考 11頁 ヴェーダと古事記のヤマ(伊邪那岐命)の伝説)常世国

    ⅱ〔yāmā抑止・制御/ī ti(イーチ)不幸・災難/〕=「不幸を防ぐ国」争いがない国

    ⅲ〔yāmā(ヤマ)一対をなす/iti(イチ)行くこと/〕=「一対をなし行く国」二つの道

    がある国、囮の国、(参考 18 頁㋭、原文―2 神倭伊波禮毘古命(神武天皇)の誕生)

    ⅰ〔ī ṣ ā(イーシャ)神・支配者/mauli(マーウリ)頭・頂〕=「支配者の頭」

    ⅱ〔ī ṣ ā(イーシャ)支配者〕/māṛtyā(マルトヤ[マラ])地界〕=「地界の支配者」 ⅰ〔vī (ヴィー[ミ])導く・動かす/māllā(マルラ)将士/bhettum(ベッツム)突破す

    る〕=「導き突破する将士」

    ⅱ〔vī (ヴィー[ミ])導く・動かす)/māṛtyā(マルトヤ[マラ])死ぬべき/bhtum(ブ

    ㇸツム)恐怖/nṛ pā(ヌリパ[ニパ])主〕=「死へ導く恐怖の主」

    〔vī (ヴィー[ミ])導く・動かす/māllā(マルラ)将士/kāku(カク)方向/ṣ iṣ t ā(シ

    シァタ)命じられた〕=「命じられた方向に動かす将士」

    〔nyu nā(ニューナ)より下級の/ketānā(ケタナ)仕事〕=「より下級の仕事」

    ㉓女王の都す

    る所

    不弥国より南水行二十日、投馬国より水行十日陸行一月

  • 25

    ⑱「南ナン

    、⑲投ヅ

    馬マ

    国に至る水行二十日。官を弥ミ

    弥ミ

    といい、副を弥弥那ミ ミ ナ

    利リ

    という。五万戸ばかり。南、㉒邪馬壱ヤ マ イ チ

    国に

    至る、㉓女王の都する所、水行十日陸行一月」、解釈は、表―5 のとおり。

    2 邪馬壱国への道の検証

    表―4、5のとおり、倭ワ

    国から聴き取ったか、倭国が自ら音読みで作ったと考えられる国名・官名は、

    漢字の音読みで古典サンスクリット語の意味がある。ただし、漢字の「南ナン

    」については、漢字「 南みなみ

    」と

    サンスクリット語〔nam(ナム)反そ

    れる・無意味〕の意味がある。これによって、邪馬壱国と女王の都す

    る所が南にあるとする疑惑の箇所を以下に読解する。

    ⑲投ヅ

    馬マ

    国が示唆する女王国への虚実の国

    投馬国は、「不明の国・破壊者を追い払う国」の意味で実在しない国であり、官の名前「弥弥」の意味が「死に

    導く」である。これと関連する国は、出雲国と薩摩国である。

    ⅰ)「南ナン

    」を「方向の 南みなみ

    」とすると有明海から薩摩へ(『』は 20 頁原文―5、8 行※~22 頁原文-7、1 行※)

    『(要旨)帯方郡より南東七千余里狗邪韓国に到る。一海を度る千余里對海国に到る。また南一海を度る千余里

    一大国に到る。また一海を度る千余里末盧国に到る。「東南陸行五百里にして伊都国に到る」、更に伊都国から奴

    国へは「東南奴国に至る百里」、更に「東行不弥国に至る百里」』は、これをあてはめると有明海西北岸になる。

    投馬国に該当する地名は見当たらない。古典サンスクリット語で発音が似ているのは、南の薩摩国で、その意味

    は「見えなくなり終わる国・破壊者が見えなくなる国」である。これより南に明確な陸地はなく邪馬壱国や女王

    の都する所の手掛かりはない。更に、南に「水行十日陸行一月」に合致する邪馬壱国は見当たらない。

    ⅱ)地理的検証に合わせて南へ九州東岸に沿って南下

    距離と方向が必ずしも一致しないが、実際の地理的読解で、伊都国は現在の糸島市、奴国は福岡市域で、伊都

    国は東方向より北寄りであり、奴国も東方向より北寄りの位置である。「東行不弥ふ み

    国」は、飯塚市穂波として、南

    に行くには遠賀川を下り一旦日本海に出てから南に関門海峡を通り周防灘から豊後水道に入ることになる。「南、

    投馬国に至る水行二十日」から、東海岸沿いを探してもそれらしい地名は見当たらない。投馬国の類似の発音で

    は、南の薩摩サツマの

    国がある。距離は、有明海経由の 1.5 倍くらいであろうか。ここでも、「女王の都する所へ、水行

    十日陸行一月」の手掛かりになる国は見当たらない。結末は、ⅰ)と同じである。

    ⅲ)「南ナン

    」を音読みで古典サンスクリットの〔反れる・屈む、無意味〕の場合、日本海ルート

    邪馬壱国のⅲの解釈「一対をなし行く国」は、二つの道があることを意味している。「東行不弥ふ み

    国」は、先のと

    おり漢字では「東に行き広がらない」の意味であるが、サンスクリット語では「王城に導く国」又は「東に導く

    国」の意味で、女王の都があることを意味している。「南、投馬国に至る水行二十日」を〔nam(ナム)屈む・反

    れる〕又は〔na(ナ)無い/muc(ムチ)見捨てる〕の解釈とすると「東へ南や北に反れながら、又は南を無視

    し東へ投馬国に至る水行二十日」と理解すると、日本海沿岸沿ルート、又は瀬戸内海ルートがある。

    この意味を実際に当てはめ、不弥国(飯塚市穂波)から日本海沿岸を東に向うと、投馬国に類似の発音の出雲いずも

  • 26

    国がある。出雲国は、古典サンスクリット語で「是認された明らかな道・包む煙が無くなった国」つまり、煙が

    晴れた国の意味で、ここから水行十日、上陸して本州を横断、陸行一月で 倭やまとの

    国に到着できたのであろう。すな

    わち、女王の都する所までの条件に見合っている。女王の都には、官の支配者の頭の伊支イ シ

    馬マ

    、次の導き突破する

    将士の弥ミ

    馬マ

    弁ベン

    などが居るとされている。なお、出雲いずも

    は投ヅ

    馬マ

    に対応して作られた訓読みの特別な言葉であろう。

    ⅳ)「南なん

    」を音読みで古典サンスクリットの〔反れる・屈む、見捨てる〕の場合の瀬戸内海ルート

    「東行不弥フ ミ

    国」から東に日本海から関門海峡を通り瀬戸内海に入ると、投馬国に類似の発音の鞆の浦がある。

    この瀬戸内海ルートでは、難波津から大和川を経て 倭やまとの

    国に到着することができるが、水行のみである。「女王

    の都する所、水行十日陸行一月」には、該当しない。

    以上の読解から、ⅰ)とⅱ)は「伝説の国」であり、ⅲ)とⅳ)は全く触れられていないが、実在の 倭やまとの

    国で、

    水行十日陸行一月に合致すると考えられるのは、ⅲ)のみである。参考 図-1 倭への道

    3 邪馬壱国と邪馬台国

    二つの国名は、古典サンスクリット語の複数解釈で、ほぼ同じ意味。前者は魏志倭人伝で一度、後者は後漢書

    で一度記述されているのみで、他は、倭ワ

    ・倭ワ

    国や女王の都する所・女王国などの言葉で状況が説明されている。

    (㋭常世とこよの

    国)

    古事記神話では、神武天皇の兄にあたる㋬御毛み け

    沼ぬの

    命(原文―2)が常世国に渡られたとある。大国主神の神話

    の中にも、「少名毘古那すくなひこなの

    神と国作り」の一節で、大国主神と少名毘古那神が二柱相並んで国を作り堅めたまわれた

    が、少名毘古那神は常世国に渡られた、とあり、神話の中の国である。

    一方、ヤマはインド神話で南方の支配者で支配地は地上にあるとされ、常世国はこれであろう。ヤマの天界の

    国は神々と祖霊が楽しく暮らすところであり、長寿や解脱を目指す人々の信仰対象であったのであろう。

    (引用 3-3)“リグ・ヴェーダのヤマの世界について”「インド思想史」東京大学出版会 16 頁 9 行~17 頁 1 行

    『人間の肉体は、死とともに滅びるが、その霊魂は不滅であると信じられていた。このような霊魂は、「リグ・ヴ

    ェーダ」では、アス(生気)あるいはマナス(意、思考)と言われる。後世、プラーナ(気息)、アートマン(自

    我)などの言葉で表され、殊にアートマンはウパニシャットの哲学思想の中心的概念となる。

    死後、肉体を離れた霊魂は、あるいは車に乗り、アグニ(火神)の翼に乗り、あるいはヴァーユ(風神)の涼

    風に支えられて、ついにヤマの王国に達し、そこで再び完全な身体を得る。

    ヤマの王国ははるか最高天にあり、そこは水も緑陰も食物も豊富で、地上では得難い快楽に満たされた理想境

    である。ここで祖霊やヤマ、ヴァルナ(天則の神)等の神々と交わり、地上の善行、特に祭祀・布施の徳は報い

    られる。

    しかし、まだ俗世を穢土(穢れた国土)とする思想は発達せず、詩人(神の賛歌)たちは現世に執着し、死を恐

    れ、長寿を望んだ。また、ヤマの王国は善人のみが生き得る世界であるかどうかについて、「リグ・ヴェーダ」は

    述べていないが、凶悪な人間は三つの地界の下の暗黒な牢獄に落ちるとして、悪人のための地獄を示唆している。

    地獄の観念は後世しだいに発達するが、当時は未だ明確になっておらず、楽天的な人生観・来世観を抱いていた

    ものと推定される。』「インド思想史」早島鏡正・高崎直道・原 実・前田専學 著、1997 東大出版会

  • 27

    図―1 倭への道

  • 28

    表―6 邪ヤ

    馬マ

    台タイ

    国・大 倭オホヤマト

    豊トヨ

    秋アキ

    津島ツシマ

    ・出雲イヅモの

    国・薩摩サツマの

    国の古典サンスクリット語の意味

    国等の名前 意 味

    邪ヤ

    馬マ

    台ダイ

    虚偽の囮の国

    ⅰ〔yama一対をなす/dvaita(ドヴァイタ)二元性・疑い/〕=「一対をなす虚偽の国」

    ⅱ〔yama抑止・制御/dainya(ダーイヌャ)不幸/〕=「不幸を防ぐ国」戦のない国

    ⅲ〔yama一対をなす/daiva(ダイヴァ)神の・王家の/〕=「一対をなす神の国」

    ㋟大 倭おほやまと

    豊とよ

    秋あき

    津島つしま

    (古事記大八

    島国の本州)

    ⅰ〔āvā c(アヴァーイ)南の/yāmā(ヤマ)一対をなす/dvā ṛā(ドヴァーラ)門・道/dvāyā

    (ドヴァヤ)二種類の・偽り/ākṣ in ā(アクシナ〔アキ〕)不滅の/dyu(ドュ)攻撃・襲う

    /〕=「南に一対の偽りの道を持つ攻撃に不滅の島」18頁から再掲

    ⅱ〔ā bhogā(アーブㇹ―ガ)享受・廣濶/yāmā(ヤマ)伊邪那岐命/dhā mān(ドㇵーマン)

    領土/tā yānā(ターヤナ[トヤナ])繁栄すること/ākṣ in ā(アクシナ〔アキ〕)不滅の/dyu

    (ドュ)光明・輝く/〕=「伊邪那岐命の領土の繁栄を享受する不滅の光明の島」

    注 ここでは、18 頁と合わせ二つの解釈を記している

    出雲いずもの

    (訓読み)

    ⅰ〔itā(イタ)消え去った/dhu māyā(ドㇷ―マヤ)煙で包む・不明にする/〕=「包む煙

    が無くなった国」古事記の中で、大国主神は出雲と 倭やまとの

    国を支配していたが、天孫に国譲

    りしている

    ⅱ〔iṣ t a 望ましい・是認された/dyut 示す・明示する・輝く/mārga(マールガ)至る道/〕

    =「是認された明らかな道の国」

    ⅲ〔i(イ)挑戦する/dhū(ドㇷー)追い払う/mathitṛ (マトㇶトリ[マチチ])破壊者/〕

    =「破壊者を追い払う国」

    薩摩サツマの

    国 ⅰ)〔sā(サー)終わる・終局に達する・解放する/dhūmaya(ドㇷーマヤ)煙で包む・見

    えなくする/〕=「煙で包まれ・見えなくなり終わる国」

    ⅱ)〔śat ha(シャトㇵ[シャタ])破壊者/dhūmaya(ドㇷーマヤ)煙で包む・見えなくす

    る(桜島の煙か)/〕=「破壊者が見えなくなる国」

    鞆とも

    の浦うら

    ⅰ〔dvāyī (ドヴァイー)一対の/mā ṣā(マーサ)月・暦月/nāu(ナーウ)船/uṛu(ウル)

    広大な・距離/ām ṣ (アシュ)分ける〕=「二ケ月の船の距離を分ける」二月の船旅の中間

    ⅱ〔tā ṛā(ターラ[トラ])横断する・貫通する・保護する/mā (マー[モ])区切る/uṛu

    (ウル)広大な・距離/ām ṣ (アシャ)別ける〕=「通行を区切り距離を分ける」

    ㋭常世とこよの

    南にあるとさ

    れる神話のヤ

    マの国

    ⅰ〔dvākā(ドヴァカ[ダカ])対の・二重の/yā myā(ヤームヤ[ヨムヤ])南の・ヤマに関す

    る/〕=「対の南の国、対のヤマの国」

    ⅱ〔tyāktā(トャクタ[タカ])離れた/yā myā(ヤームヤ[ヨムヤ])南の・ヤマに関する/〕

    =「離れた南の国」

    ㉒邪馬壱ヤ マ イ チ

    (台)国のこと(一対をなす伝説の国)

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    4 邪馬壱国と邪馬台国が明かす歴史

    邪馬壱国と邪馬台国の解釈には、歴史を明かす鍵がある。

    ⅰ共通の解釈は「不幸を防ぐ国」で、国の理念は同じ。後漢や魏の侵攻、倭国内の争いを無くすことであろう。

    ⅱ相違する解釈は「一対をなす伝説の国」と「一対をなす虚偽の国」で、伝説の国は時の魏の王朝に真実を述べ

    ている。

    ⅲ古事記の大倭豊秋津島(本州)の解釈「南に一対の偽りの道を持つ攻撃に不滅の島」は、邪馬台国の「一対を

    なす虚偽の国」に近い。すなわち、大倭豊秋津島と邪馬台国は、同