小学校における「対人関係スキル」習得のための …...Ⅲ-6.分析方法...

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- 1 - ソーシャルスキルトレーニング(以下 SST と表記する)は、社会生活上の望まし い思考判断や言動の仕方を習得するための 訓練である。主に、基本的生活習慣に関す るもの(日常生活スキル訓練)と、対人コ ミュニケーションに関するもの(対人関係 スキル訓練)とで構成される。 本校においても低学年や支援学級の児童 を対象に 「靴や傘の しまい方」 や「着席時 のよい姿 勢」などの 生活習慣に 関する SST を実践している。日常生活スキ ルを早期段階から積極的に指導することで 「気持ちよく学校生活を送る」とともに、 「社会に出てからも充実した人生を送れ る」児童の育成をめざしている。 一方、対人関係スキルについても積極的 SST の必要性を感じている。自分自身や 仲間、集団と折り合いをつけることに困難 を抱えている児童がいる。本校では、特に ギャングエイジをむかえ、対人関係が広が り始める中学年以降に、その困難さが顕著 になるケースが少なくない。 児童にとって、核家族化や少子化、地域 力の低下などの社会環境の変化により、対 人関係スキルを日常生活のみで十分習得す ることは難しくなってきていると思われる。 そこで学校教育の早期段階において対人 関係スキルの習得と補充に向けた意図的か つ積極的な SST 実践が必要なのではない かと考えるようになった。 小学生を対象とした「対人関係に関する SST プログラム」を作成・実践し、本プロ グラムの有効性と実践授業のあり方につい て検証する。 本研究における「対人関係スキル」は「子 どもの社会的スキル横浜プログラム (以下 YP とする ※1) 」の「仲間づくりスキル」を 参考にした。YP では「仲間づくりスキル」 の下位概念として「自己表現スキル」と「共 感・配慮スキル」の二つを挙げている。 資料1:子どもの社会的スキル YP 仲間づくりスキル プラスの暗示 相模原市立上溝南小学校  中園 真由美 小学校における「対人関係スキル」習得のための ソーシャルスキルトレーニング実践

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Page 1: 小学校における「対人関係スキル」習得のための …...Ⅲ-6.分析方法 プログラムの効果は、実践後のアンケー ト、授業記録(行動観察)及び学級担任か

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小学校における「対人関係スキル」習得のためのソーシャルスキルトレーニング実践

相模原市立上溝南小学校 中園 真由美

Ⅰ.はじめに ソーシャルスキルトレーニング(以下

SST と表記する)は、社会生活上の望まし

い思考判断や言動の仕方を習得するための

訓練である。主に、基本的生活習慣に関す

るもの(日常生活スキル訓練)と、対人コ

ミュニケーションに関するもの(対人関係

スキル訓練)とで構成される。 本校においても低学年や支援学級の児童

を 対 象 に

「靴や傘の

しまい方」

や「着席時

の よ い 姿

勢」などの

生活習慣に

関する SST を実践している。日常生活スキ

ルを早期段階から積極的に指導することで

「気持ちよく学校生活を送る」とともに、

「社会に出てからも充実した人生を送れ

る」児童の育成をめざしている。 一方、対人関係スキルについても積極的

な SST の必要性を感じている。自分自身や

仲間、集団と折り合いをつけることに困難

を抱えている児童がいる。本校では、特に

ギャングエイジをむかえ、対人関係が広が

り始める中学年以降に、その困難さが顕著

になるケースが少なくない。 児童にとって、核家族化や少子化、地域

力の低下などの社会環境の変化により、対

人関係スキルを日常生活のみで十分習得す

ることは難しくなってきていると思われる。 そこで学校教育の早期段階において対人

関係スキルの習得と補充に向けた意図的か

つ積極的な SST 実践が必要なのではない

かと考えるようになった。 Ⅱ.研究の目的 小学生を対象とした「対人関係に関する

SST プログラム」を作成・実践し、本プロ

グラムの有効性と実践授業のあり方につい

て検証する。 Ⅲ.研究の内容

Ⅲ-1.「対人関係スキル」の定義 本研究における「対人関係スキル」は「子 どもの社会的スキル横浜プログラム(以下

YP とする ※1)」の「仲間づくりスキル」を

参考にした。YP では「仲間づくりスキル」

の下位概念として「自己表現スキル」と「共

感・配慮スキル」の二つを挙げている。

資料1:子どもの社会的スキル YP 仲間づくりスキル

わぁ^^○○くんの

手のあげかたじょうずだね!

プラスの暗示子どもの言動を“意味づけ”する

相模原市立上溝南小学校 中園 真由美

小学校における「対人関係スキル」習得のためのソーシャルスキルトレーニング実践

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適切な

思考・判断の仕方

振る舞い方が

分からない

自信低下

二次障害(自己肯定感の著しい低下)

(無意識の)(結果としての)

問題行動 叱責怒られる意味が分からない

指導が浸透しない定着しない

悪循環この悪循環を断ち切る

支援が出来ないだろうか?

適切な思考判断の仕方

や振る舞い方を

スキルとして

習得

((SSTSST))

自信“イケテル感”自己肯定感やる気

意欲

適切な思考判断思考判断

や適切な振る舞い適切な振る舞い

ができる

褒められる

力を発揮

好循環

よって本論文では、「対人関係スキル」を

①自分の気持ちを適切に表現できる ②相手の気持ちに適切に共感・配慮できる

スキルであると定義し、研究を進める。 Ⅲ-2.アセスメント

本校の第1学年、第3学年、支援学級の

児童(5学級、計120名)を対象に、「学

校生活についてのアンケート ver5(※2)」

及び「児童の行動観察」、「担任からの聞き

取り」により対人関係スキルの育成状況に

ついての実態調査を行なった。なお上記児

童及び学級集団を対象とした理由は以下の

通りである。 ・ ギャングエイジのまっただ中で友人関

係の広がりやそれに伴う対人トラブル

が増えつつあり、指導実践のニーズに

適うと考えたため(第3学年児童) ・ 対人関係スキルに関する個別の教育的

ニーズがあり、通年して SST に取り組

んでいるため(支援学級児童) ・ 本プログラムでは、自他の感情などの

抽象概念を扱う。よって3年生集団と

比較することで発達段階上の早期導入

が可能な時期を検証できると考えたた

め(第1学年児童) Ⅲ-3.実態調査の結果

調査から、以下のようなことがわかった。 ・ 感情の分化が未発達で、内在する感情

表現のバリエーションが少ない。その

ため自分の感情を言葉で適切に表現し

たりコントロールしたりすることが難

しい児童がいる。特に「怒り」感情の

コントロールが難しく突然“キレて”

乱暴な言動に走ることがある。 ・ どの児童も「友だちと仲良くしたい」

という思いを持っている。しかし不適

切な自己表現や友だちとの関わり方に

よって思いがけないトラブルに発展し

ているケースがある。 ・ 対人トラブルを繰り返し、二次障害(自

己肯定感の低下など)の兆候が見られ

る児童がいる。 例)友だちに間違いを指摘されたとき、

「ムッ」とした気持ちがみるみると

「激怒」へと膨らみ、衝動的に相手

に暴力を振るってしまうが、その興

奮状態を自分ではどうにも抑えき

れない。

Ⅲ-4.研究仮説

調査結果から、小学校段階における「対

人関係」のつまずきは、児童本人の性格や

人格に起因するものではなく、「対人関係ス

キル」の 未学習 ・誤学習

によると

ころが大

きいので

はないか

と見当を

つけた。 (資料2:悪循環) その上で、次のような仮説を立てた。

研究仮説 小学校における早期段階で、適切な「自

己表現」や「共感・配慮」の仕方をスキル

として学習することにより、「対人関係スキ

ル」の向上が期待できるのではないか。

(資料3:好循環 )

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Ⅲ-5.SST プログラムの概要 実態と仮説を踏まえ、学校教育の早期段

階(小学校低学年程度)の児童を対象とし

た「対人関係スキル習得のための SST プロ

グラム」(以下 SST プログラムとする)を

以下の2本柱で作成した。

SST プロ

グラ

対人関係スキル 第 1 プログラム 第 2 プログラム

「自己表現スキル」

の習得に関する

プログラム

「共感・配慮スキル」

の習得に関する

プログラム

Ⅲ-5-1.SST プログラムのねらい (1)第1プログラムのねらい

◎ 感情をコントロールする方法を学

び、自分の感情を適切に認識・表現

できるようにする。 自分の感情を客観視する。 自他の感情の捉え方の違いを知る。 感情の分化を促し、感情表現のバ

リエーションを増やす。 感情コントロールの方法を知る。 (2)第2プログラムのねらい

◎ 互いに共感・配慮しあおうとする態

度を養う。 対人関係に関する望ましい思考判

断や振る舞い方について知る。 より良い対人関係を築こうとする

態度を育成する。 Ⅲ-5-2.SST プログラムの手立て (1)第1プログラムの内容 ~「自己表現スキル」習得の手立て~

単元名:「感情のボリュームをコントロール

しよう」 ①感情のチャンネルを作ろう。

②こんなときどんな気持ち? ③感情をコントロールする方法を考えよ

う。

①「感情のチャンネル」を作ろう。 悲しみ・怒り・喜びに関するそれぞれの

「感情のチャンネル」を作る。例えば同じ

「怒り」でも、イライラ・不満・くやしい・

激怒など程度の異なる感情がある。“感情の

チャンネル数”を増やすことで感情の分化

を促す。 例:「怒りのチャ

ンネル」づくり 「イライラ」「ブチ

ッ、キレた!」「ウ

ムムがまんだ」「ム

ー、いやだ」「ウッ、くやしい」「この~!

仕返ししたい」という6つ表情カード(資料

4:表情カード ※3)を、自分にとって怒り

の度合いが小さいもの(レベル1)から大

きいもの(レベル6)へと並べる。 そして各々の「怒りレベル」になるのは

具体的にどのような場面なのかをシートに

記入する。

(例:レ

ベル4=

友だちに

嫌なあだ

名で呼ば

れ た と

き) (資料5:チャンネルシート) ②こんなときどんな気持ち?

ロールプレーイング活動を行う。児童の

実際の対人トラブルに基づく寸劇を作成し、

教師と抽出児童とで演じる。周りの児童は

主人公と自分とを重ね合わせることで「こ

のときのぼく/わたしの気持ちは何レベ

ル?」かを客観的に考える。

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資料6:ロールプレイング台本例(給食場面にて)

③感情をコントロールする方法を考えよ

う。 ここでは感情を自分でコントロールする

具体的方法について考える。例えば怒りの

レベルが6になってしまったとき、大きな

けんかやトラブルに発展する前にその怒り

をレベル4や3へと下げる方法はないか考

える。そして具体的なコントロール方法の

アイディアを友だちと共有しあう。

(2)第2プログラムの内容 ~「共感・配慮スキル」習得の手立て~

単元名:「“なかよし名人カルタ”を作ろう」 ①ソーシャルスキルカルタで遊ぼう。 ②なかよし名人カルタを作ろう。

①ソーシャルスキルカルタで遊ぼう。 ソーシャルスキルカルタは、基本的生活

習慣・あいさつ・学習規律などの生活スキ

ルを、五七五の軽快なリズムと分かりやす

いイラストとで楽しく学ぶことができる市

販教材である(※4)。 今回はその中から対人関係に関する内容

のカルタを精選し、五七五の音読・暗唱活

動やカルタ取りゲームをおこなう。目と耳

と口を使って、対人関係に関する望ましい

思考判断や振る舞い方について知る機会と

する。 ②「なかよし名人カルタ」を作ろう。

対人関係に関す

る悩みを共有しあ

った後、どうすれば

お互いに仲良くす

ごせるか考える。 資料7:カルタシート

その際、3年生には1年生の悩みを紹介し

「“なかよし名人のコツ”を1年生へ伝授し

てあげてほしい」旨を伝えた上で、(1年生

は次年度入学の新1年生のために)対人関係

のコツを考え、五七五のリズムとイラストで

表す活動を行う。 Ⅲ-6.分析方法

プログラムの効果は、実践後のアンケー

ト、授業記録(行動観察)及び学級担任か

らの聞き取りの内容を分析することで、児

童に対人関係スキルの向上的変容が見ら

れたかどうかを検討する。 Ⅲ-7.実践の様子 本校第1学年、第3学年、支援学級を対

象とし、道徳および生活単元学習の時間に

授業実践を行なった。 Ⅲ-7-1.第1プログラムの実践の様

子 第1プログラムは、感情という目に見え

ない抽象概念を扱うものであったが、表情

カードやチャンネルシートを用いた具体的

操作活動や、実際の生活場面をモチーフと

したロールプレイングを取り入れたことに

より、支援学級や1年生を含めた全ての対

象児童にとって取り組みやすい活動となっ

た。よって、小学校の早期段階においても

十分可能なプログラム内容であったと考え

る。 (1)感情のチャンネルを作ろう。

表情カードを

並び替える活動

では、瞬時にカ

ードの順番を決

定する児童、試

行錯誤し何度も

並びを変更する児童、6枚全てをレベル6

に重ねて配置する児童など、思い思いに自

分のチャンネルづくりに取り組んでいる様

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子が見られた。その後出来上がったシート

を友だち同士で見合うと、児童は自分と友

だちとの違いに驚いていた。「○○さんはな

ぜこのカードをレベル6にしたの?」「レベ

ル6になるのは具体的にどんなとき?」と

理由や背景を聞き合う中で、自他の感情に

客観的に向き合いながら意見を交流し合う

様子が見られた。 (2)こんなときどんな気持ち?

各学級の対人トラブルの具体的場面を題

材にした台本を作成し、ロールプレーイン

グを行なった。実際にロールプレイングを

体験する児童は実態調査をもとに各担任と

相談して抽出した。その他の児童も劇の主

人公に自分を重ね合わせて「もし自分だっ

たらこのときの怒り(悲しみ/喜び)のレ

ベルはどれくらいか?」を考え、自作のチ

ャンネルシートに指を差して示した。その

後「友だちに嫌なあだ名で呼ばれたとき、

私の怒りレベルは4くらいかな」「えー!僕

だったら絶対レベル6!」など意見を交流

し合う中で、自分と他者とでは物事の感じ

方や受け取り方が異なることに気づくこと

ができていた。 (3)感情をコントロールする方法を考え

よう。 はじめに「怒りのレベルが6になること

が悪く、レベル1が良いというわけではな

い」ことや、「それぞれが抱く素直な感情は

自然なものであり、大切にすべきものであ

る」ことを伝えた上で、感じ方の善し悪し

ではなく、その表出・表現の仕方の善し悪

しによってトラブルに発展することがある

のではないかと児童に投げかけた上で次の

活動に入った。 ここでは特に「怒り」の感情をコントロ

ールする方法について取り上げた。怒りを

重点的に扱った理由は実態調査の結果(Ⅲ

-3)に記した通り、対象児童の対人トラ

ブルの多くが、怒りの感情表現の不適切さ

が引き金になっていると考えたからだ。 まず各々の「怒りのレベルが6になるの

はどのようなときか」を互いに共有しあっ

た後、「どうしても6になってしまいそうな

ときにはどうしたらよいか」というアイデ

ィアを考えた。児童からは「目をつぶって

深呼吸する」「野球の素振りをしてすっきり

する」「家族や先生に相談する」「図書室な

ど静かな部屋に行って気持ちを切り替え

る」という具体的な方法から、「そもそも友

だちをレベル6の怒りにさせないようにみ

んなで気をつけあおうよ」という級友への

提案まで、前向きなアイディアが活発に出

された。 Ⅲ-7-2.第2プログラムの実践の様子

第2プログラムでは、友だちや後輩の悩

みに共感し、友だちを傷つけずにお互いに

仲良くするためにはどうすればよいかとい

うことを児童一人ひとりが懸命に考える姿

が見られた。 (1)ソーシャルスキルカルタで遊ぼう カルタ活動はゲームとしての要素も強

く多くの児童にとって楽しい時間となって

いた。またソーシャルスキルカルタは諸感

覚(主に耳と目)を使って対人関係に関す

る望ましい思考判断や具体的言動を知識と

して自然に身につけることができる有効な

ツールだと感じた。 五七五のリズムは児童にとって覚えやす

い。例えば「ぶつかった わざとじゃなく

ても ごめんなさい」というカルタがある。

児童同士のトラブルにおいて「わざとでは

ないから自分は悪くない」というかたくな

な主張により互いの気持ちがすれ違うケー

スがある。「例え故意でなくても、相手を思

いやる声かけが自分からできると、気持ち

のよい関係を築ける」ということを早期段

階で「あたりまえのスキル」として身につ

けておく。すると中学年以降、よりスムー

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ふりかえりアンケート

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

1 2 3 4 5 6 7 8

ズに対人関係を拡大していけるのではない

かと感じた。実際、日常場面でも「わざと

じゃなくても・・・?」と担任が声をかけるこ

とにより、自分から素直に「ごめんなさい」

と言うことができ、けんかに発展する前に

気持ちよく解決できたケースがあった。 (2)なかよし名人カルタを作ろう。

「なかよし名人になるためのコツを後輩

へ伝授する」という形態をとったことで、

児童は張り切って活動に取り組むとともに、

「友だちと仲良くするとはどういうこと

か」ということをより客観的に見直すこと

ができていた。 ソーシャルスキルカルタの一覧表を提示

し「良いと思うものはどんどんまねして取

り入れてよい」と伝えたところ、1年生を

含め全ての児童が何かしら自作の“なかよ

し名人カルタ”を書いて提出することがで

きた。五七五のリズムは児童にとって分か

りやすく創作意欲をかきたてる活動だった

といえる。児童が作っ

たカルタの内容にはど

れも「友だちと仲良く

しよう」という温かな

思いが溢れていた。

資料8:児童の作品

児童の作品は学級通信を通して保護者へ

も紹介された。家庭と学校とが連携し共通

理解し合うことで学習内容のさらなる定着

を図った。

資料9:児童のカルタ作品(学級通信の一部)

Ⅳ.結果と考察 Ⅳ-1 アンケート結果から見るプログ

ラムの効果についての検証 プログラム終了後に5段階評定と自由記

述によるアンケートを実施した。評定項目

は平均3以上を肯定的評価、3未満を否定

的評価と判断した。

資料10:アンケート結果1

アンケート結果から、第1・第2プログ

ラム共に肯定的評価が得られた。特に共通

項目の①「楽しく道徳の授業ができました

か」で 4.7 ポイントが得られたことから(グ

ラフの横軸1)、本プログラムは対象児童の

発達段階やニーズに合った実践であったと

判断する。 また自由記述欄においても、自己表現や

共感・配慮の仕方について、これまでの自

分を客観的に省みた上で「よりよい対人関

係を築いていこう」とする前向きな意識の

変容が見られた。この点から、本プログラ

ムは対人スキルに関する児童の向上的変容

に一定の効果があったのではないかと考え

る。

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資料11:アンケート結果2

資料12:アンケート結果(自由記述の一部抜粋) Ⅳ-2 個人の変容からみるプログラム

の効果の検証 ① A さんについて

3年生のAさんは聡明で活発な児童であ

る。自分から積極的に友だちと関わること

ができる一方、衝動的・攻撃的な言動をコ

ントロールすることが難しく、友だちとの

些細なやり取りが大きなけんかやトラブル

に発展することがあった。 実践授業でのAさんは、積極的に挙手す

るなど終始主体的に活動に参加している様

子が見られた。自作のカルタには友だちの

悩みに共感し、応援しようとする A さんの

優しい気持ちが表れていた。

・ともだちの こまっていること たすけよう

・ともだちの ゆめをおうえん がんばって

資料13:Aさんの作った「なかよしカルタ」

またアンケートには細かい文字でびっし

りと自らの思いを書き込んでいた。そこに

は自分自身のこれまでのトラブルを客観的

かつ内省的に捉え、自分自身のあり方や友

だちとの接し方をよりよく変容させたいと

願うAさんの姿勢が見て取れた。

いかりのチャンネルの授業では、いかりのレベ

ル6をどんどん減らしていこうと思いました。

クラスのみんなへ。ぼくの嫌な悪口を言わない

で下さい。ぼくも言っちゃうときがあるかもしれ

ません。そのときはとめて下さい。お願いします。

「ふりかえりアンケート」

質問項目(※有効数n=106)

① 楽しく道徳の授業ができましたか。4.7

② 「怒りのチャンネル」を作って自分

の気持ちについて考えることができ

ましたか。

4.0

③ 怒りのレベルを下げる方法を考える

ことができましたか。 4.1

④ クラスの友だちがどういうときに

「レベル6」になるか知ることがで

きましたか。

4.2

⑤ グループの友だちと一緒に楽しくカ

ルタゲームができましたか。 4.0

⑥ 1年生(来年の1年生)のために「な

かよしカルタ(五七五)」を作るこ

とができましたか。

4.4

⑦ 友だちと仲良くするための“友だち

名人”のコツを考えることができま

したか。

4.1

⑧ 学習した友だち名人のコツをつかっ

てこれから友だちと仲良くできそう

ですか。

4.2

①自己認識・表現の向上的変容に関する記述

・わたしの心は中園先生と道徳の勉強をしてちょっと

変わったと思います。がんばるぞ!!

・やさしい心を持つことができそうです。

・暴力を振るったり、すぐ怒ったり、すぐ泣いたり、

それをすこしずつやめられるようにしたい。

・いままで、ちょっとけんかしすぎだったかなぁ。

・ぼくはたまにしか友だちと遊びません。ぼくもさそ

えるようにがんばるので、みんなもさそってくださ

い。

・ちょっと怒りやすい性格を直したいです。

②共感・配慮の向上的変容に関する記述

・私は、もっとみんなと遊べたらいいのになといつも

思います。だからこれからはチクチク言葉を使ったり

せずに、みんなと仲良くしたいです。

・「思いやりのあるクラス」を目標にしたい。

・このクラスは怒りのチャンネルが6になるときもあ

るけど、1のときはみんなすごくやさしい。

・妹をいじめるのをやめたいです。

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ぼくが暴力をやってもやり返さないで下さい。ぼ

くは今いるともだちを大切にします。

ぼ く は 暴 力 を

ふるいました。友

達に悪口も言いま

した。それからい

ろいろなことをし

ました。これから

先生の話を聞いて努力したいです。けんかもしな

いようにしたいです。これからは頑張ります。

資料 14:Aさんのふりかえりアンケート記述(抜粋)

② B さんについて 同じく3年生のBさんは、学年相応以上

の冷静さと落ち着きを感じさせる児童で、

周りからも「大人っぽい」と一目置かれて

いるようなところがある。 本授業にも淡々

と取り組んでいる印象であったが、自作の

カルタ作品とふりかえりアンケートの記述

には、より良い対人関係を願う B さんの思

いと決意が書かれていた。

・ はげますと きもちがいいね ふたりとも

・ あいさつは 心すてきに へんしんだ

資料15:Bさんの作った「なかよしカルタ」

クラスのみんなへ。みんな友だちと遊んでいて

楽しそうだね。わたしもいれてほしいなと思って

いてもなかなか声をかけられないからみんなか

ら声をかけてくれるとうれしいな。いつもたのし

そうなことをやっているなと思っているよ。声を

かけてね。よろしくね。

わたしへ。今のわたしのままではあまりともだ

ちができないよ。気軽に話ができる友だちがいれ

ばそこからどんどん勇気がわいて念願の友だち

1000人くらいできるかもしれないよ。声をか

ければどんどんきもちが伝わって、ともだちが出

来るんだから声をかけなよ。声をかけるのは今だ

よ。

資料 17:Bさんのふりかえりアンケートの記述(抜粋)

Ⅴ.成果と今後の課題 本校において「対人関係」に焦点を当て

たSST実践は初の試みであったが、1年

生や支援学級の児童にも主体的な取り組み

ができたことから、学校教育の早期段階で

の導入が可能なプログラム内容であったと

言える。 またアンケートや行動観察などの分析結

果から「より良い対人関係を築こう」とす

る児童の前向きな意識の変容が確認できた。

さらに、ソーシャルスキルカルタを用いた

取り組みや自作のカルタを作る実践を通し

て、児童は良好な対人関係を築く上で必要

となる「望ましい思考判断や具体的言動の

仕方」について学ぶことができた。 以上、児童に向上的な変容が見られたこ

とから、「自己表現」や「共感・配慮」の方

法を学ぶSSTを学校教育の早期段階で取

り入れることは、児童が「対人関係スキル」

を身に付ける上で一定の効果があることだ

と結論づけたい。 ただし、今回の実践は単発のプログラム

である。スキルの確実な定着のためには継

続的な取り組みが不可欠である。 また、早期段階にこの SST を経験した児

童がその後どのような成長をしていくのか

という分析も含め、長期的視野での「対人

スキルの般化」を今後の研究課題とし、さ

らなる実践の工夫を重ねていく決意である。 ○参考文献と資料

※ 1 子どもの社会的スキル横浜プ

ログラム理論編(三訂版) ※ 2 YP 学校生活についてのアンケ

ート ver5 3ページ目 質問①~⑫ ※ 3 表情カード(株)クリエーショ

ンアカデミー ※ 4 五色ソーシャルスキルカルタ

東京教育技術研究所