木質バイオマス内部非定常熱分解挙動のリアルタイム計測手 …...under...
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2014B1636 BL20B2
木質バイオマス内部非定常熱分解挙動のリアルタイム計測手法の構築 Development of Real-time Observation Method inside Woody Biomass
under Unsteady Pyrolysis
大徳 忠史, 大上 泰寛 Tadafumi Daitoku, Yasuhiro Ogami
秋田県立大学 システム科学技術学部 Akita Prefectural University
極細の数m から十数m 程度のセルロース繊維で構成される木質内部の熱分解挙動および伝熱
特性を解明することを目指し,特に,本研究課題ではリアルタイム可視化計測手法を構築するこ
とを目的とした.試料の熱分解過程の透過像を撮像間隔 1 s で撮影し,その透過強度の変化は透過,
熱重量計測による重量変化と対応していることを確認した.また,試験部は,高温雰囲気に曝さ
れたときの熱膨張対策を引き続き検討する必要があり,また,今回の実験では,熱分解過程の CT画像取得について,熱分解に伴う試料の収縮・変形により再構成が行なえなかったため,今後さ
らに実験手法を改良する. キーワード: 熱分解,木質バイオマス,透過計測
背景と研究目的: 固体の熱分解速度や燃焼速度は,固体燃焼における重要な特性値である.従来より,高分子化
合物の熱分解速度やその組成に関して,熱重量計測(TG)や示差熱量計測(DTA)が用いられている
[1]. ある程度の大きさを有する固体の燃焼および熱分解現象では,固体表面への入熱により表面か
ら発生する熱分解ガスに伴う気相燃焼と,固体表面での表面燃焼がおこる.気相燃焼と固体表面
での表面燃焼による発熱が熱源となり,固体表面から内部への熱分解を進行させる.固体の厚さ
方向(入熱方向)に温度分布をもつ不均一な系では,表面からの入熱量の変化により現象が変化する
と考えられる.しかしながら,固体燃料の内部構造や内部での現象の観測は困難であり,近年工
業用 X 線を用いた内部の可視化も行われ始めている[2]ものの,その厚さ方向の熱分解の様相につ
いて詳細なメカニズムの報告は無いようである. 可燃性固体の熱分解挙動のメカニズムを解明することは,植物・木質を起源とする未利用バイ
オマスの効率的な利用のみならず,防災や消火等の火災対策のための知見を得るためにも重要で
ある. 本研究では,植物由来の可燃性固体としてセルロース繊維で構成される木材を対象とする.
2014A 期では,熱分解過程のリアルタイム可視化計測の可能性を検討することを目的とし,撮像
間隔 1 s 以内を実現でき,試料の熱分解過程の透過像を十分な速度で撮影できることを確認した[3].また試作した装置の問題点抽出を実施した.2014B 期では,固体の燃焼現象のメカニズムについ
て,リアルタイムの熱分解挙動を試料内部の非破壊可視化計測により,その熱分解現象および伝
熱特性を解明することを目指し, 2014A 期での貴重な情報を反映させ,リアルタイム可視化計測
手法を構築することを目的とする. 実験: 図 1 に本実験で使用した SPring-8・BL20B2 ビームラインの構成を示す[4].BL20B2 は偏向電磁
石を光源とするビームラインで,5-113 keV の X 線が利用可能である.また,20 mm 以上の X 線
視野が有り,試料サイズにより数 m~100 m 程度の実効分解能での撮影が可能である.薄膜蛍
光板(シンチレータ)を用いて透過X線像を可視光像へ変換し,光学レンズ系により拡大されCMOSへ投影される.計測試料である可燃性固体として,市販ひのき材を用いた.図 2 に実験装置試験
部を示す.小型高温加熱炉を SPring-8 ビームラインの実験ハッチ内の X 線照射部とシンチレータ
http://support.spring8.or.jp/Report_JSR/PDF_JSR_26B/2014B1636.pdf
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間の回転ステージの上に設置し,熱分解過程にある木材の連続 X 線透過像を撮影した.試料は回
転ステージにセラミック製のピンを立て炉内へ挿入した.また,回転ステージと小型高温加熱炉
は独立しており,試料台のみが回転することにより X 線 CT 撮影も可能である.本実験では 500°C 付近まで昇温することから X 線透過窓はアルミ箔とした.高温加熱炉内は窒素雰囲気としノズル
ヒーターと補助ヒーターにより昇温した.ノズルヒーターからの高温窒素は整流メッシュを通り
炉内の流速は約 0.17 m/s とした.なお,窒素雰囲気とすることにより,気相での有炎燃焼は起こ
らない.熱分解前の試料の形状・サイズは直径 4 mm,高さ 3 mm 程度の円柱形状とした.X 線の
照射方向は,サンプルの径方向とした.本実験における検出器の空間分解能は,結像におけるピ
クセルサイズが 2.74 m 相当である.X 線のエネルギー値は,木材の主構成成分であるセルロー
ス(軽元素の炭素)の計測を主眼として 15 keV を選択した. 結果および考察: X 線 CT による可視化例
図 3(a),(b)は X 線 CT による木材試料の内部構造の可視化画像であり,図 3(a)は熱分解前,図
3(b)は熱分解後の内部の断面画像の一例を示している.なお,同一の試料ではないが,切り出した
木材は同一である.白い部分が X線を吸収し,暗い部分が X線を透過している領域を表している.
X 線 CT 像より木材試料中の繊維(導管)一本一本の認識が可能である.熱分解後では木材試料は
Energy keV 15
Pixel size m/pixel 2.76
Distance between sample and detector mm 62
Imaging interval s 1
表 1.測定条件
Nitrogen Nozzle heater
Mesh Specimen
Aluminum film Ceramic heater
X-ray
Rotation Stage
Bending Magnet
8GeV Electron Beam CMOS Camera Monochromator
Cross slit
Synchrotron Radiation Beam Monitor
Monochromatic X-ray
High speed shutter
図 1.BL20B2 ビームラインの概要
図 2.試験部詳細
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断面直径で熱分解前の 67%程度に収縮している.また,拡大画像から,熱分解により中空の導管
繊維も収縮していることが分かる.
X 線透過計測 計測結果の一例として,昇温速度 50 °C/min における熱重量計測の温度と試料の重量変化の結果
に,同じく昇温速度 50 °C/min で熱分解する過程のリアルタイム X 線透過計測による透過像を温
度で対応させ,図 4 に示した.熱重量計測による試料の初期重量は,今回のリアルタイム X 線透
過計測で用いた試料の初期重量と比較的近いものを用いている.熱重量計測の結果から 300°C か
ら重量が減少を始め,350°C 付近でさらに大きく重量が変化していることが分かる.400°C に達す
ると初期重量の約 60%まで重量が減少している.X 線透過計測による透過像と対応させてみると,
透過像 A から C では試料の変化は観察されない.図 4 からは分かりにくいが,透過像 D では Cに対して収縮していた.また透過像 E は,明らかに収縮しており,熱重量計測による重量変化と
対応している. 図 5 は,図 4 に対応する透過像 A から E の試料の高さ中心部での幅方向の X 線透過量を示して
いる.この図から,熱分解の進行により透過像の輝度値が低下しており,X 線が透過しやすくな
っていることが分かる.また,透過像 D から E の過程で収縮量が増大していることが分かる. 本実験では試料が熱分解する過程で,上述のように試料が収縮・変形するため,X 線 CT で再
構成が困難な状況であった.円柱状の試料を用いたことから,軸対称と仮定し X 線透過像に対し
て逆アーベル変換を試みた.図 6(a),(b)に,昇温速度 50 °C/min,10 °C/min における X 線透過像
図 3.X 線 CT による木材試料内部の可視化画像
(a)熱分解前 (b)熱分解後
500 m 500 m
0 100 200 300 4000
10
20
Temperature ℃
Wei
ght m
g
A
E
D
CB
図 4.熱重量計測と X 線透過計測との対応関係
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に対して逆アーベル変換を行なった結果を示す.試料断面の吸光度分布(r)[-]は木材試料断面の密
度分布を示していると考えられる.いずれの条件においても雰囲気温度上昇に伴い(r)[-]は減少し
ている.350°C 以上になると昇温速度 50 °C/min の場合では(r)[-]は大きく減少するのに対し,昇
温速度 10 °C/min では緩やかに減少していくことが分かる.特に昇温速度 50 °C/min の場合,試
料外側の変化が大きいように思われるが,木目付近で X 線の吸収量が大きくなるなどの影響もあ
り,更なる実験および計測手法の改善が望まれる. 今後の課題: BL20B2 ビームラインにおいて,木質バイオマスの熱分解過程をリアルタイムで可視化計測で
きるシステムを構築した.今回は,撮像時間間隔 1 s で行なったが,より速い撮影が可能であるこ
とから,今後試みたい.今回の実験では,熱分解過程の CT 画像取得について,熱分解に伴う試
料の収縮・変形のため再構成が行なえなかったことから,今後,熱分解の進行を途中で止める間
欠的非定常実験を試みる. 参考文献: [1] 例えば, 日本エネルギー学会編: バイオマスハンドブック 第 2 版, オーム社. [2] 渡部、岡崎、燃焼学会誌, 55-172, 24 (2013). [3] 大徳忠史、大上泰寛、平成 26 年度 産業新分野支援課題・一般課題(産業分野)実施報告書
(2014A), 2014A1588. [4] S. Goto et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 682-685, (2001).
0 1000 20000.7
0.8
0.9
1
Position, pixel
Tran
smis
sion
intn
sity
, -
A B C D E
図 5.熱分解過程にある試料の透過像の X 線透過強度の変化
0 1 20
1
2
3
4
5
6
r mm
(r
) -
30℃ 100℃ 200℃ 300℃ 350℃ 400℃ 450℃
0 1 20
1
2
3
4
5
6 30℃ 100℃ 200℃ 300℃ 350℃ 400℃ 450℃
r mm
(r
) -
図 6.逆アーベル変換による X 線透過強度(を反転した値)の変化
(a)昇温速度:50 °C/min (b)昇温速度:10 °C/min