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5　　トリニティセブン　７人の魔書使い The Novel

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しに火をおこす方法を禁きん

忌き

とされる手法から編み出した。空を飛ぶために異次元の技術を

取り入れることを躊ためら躇わなかった。時間を超こ

えるために人間よりも高次元の存在に交信す

ることを恐おそ

れなかった。

　

およそ通常の人では実行できない、狂きよ

気うき

とも呼べる実験や研究の結果。

　

近年ではついに、魔道と呼ばれる学問が成立するほどになっていた。

『世界の理ことわり』から最も離はな

れた大いなる『七つの大罪』。

『傲スペ

慢ルビア』『強アワリ

欲テイア』『嫉インウイデイア妬』『憤イ

怒ラ

』『暴グ

食ラ

』『色ルク

欲スリア』『怠アケ

惰デイア』。

　

人が生きる上で律するべきこれらの罪こそが『魔』に結びつくためのものであった。

　

それら七つの大罪を『書アー

庫カイブ』と呼び、研究し続けることで『魔』を学び、現世の改変と

後世の躍やく

進しん

のために伝えていく者たちのことを魔ま

道どう

士し

と呼ぶ。

　

そんな魔道士たちの中で、更さら

に魔道の究極に達した七人。

　

彼女らのことを『トリニティセブン』と呼んだ。

　

人は人の世で生きている限り『世界の理ことわり』に縛しば

られている。

　

手も触ふ

れずに物を動かすことはできないし、道具もなしに火をおこしたりもできない。

準備もなく空を飛ぶこともできなければ、時間を移動することは到とう

底てい

不可能だ。

　

有史以来、つまり人類が生まれて以来。その叡えい

智ち

は数々の神秘を解き明かし、大量に存

在していた『できないこと』の多くを克こく

服ふく

していった。

　

だがそれでも、人間が成し得ないことは多い。

　

そう『世界の理ことわり』に縛られている限り、人はその理ことわりの中でのみ存在を許されるのだ。

　

だが、一部の人間は盻眇世界の理ことわりに反する者たちは『魔ま

』を学んだ。

『魔』とは世界を構成する要素と真逆のもの。

　

通常生まれ得ない存在や現象を引き起こすためのもの。

　

俗ぞく

に鬼おに

、妖あやかし、怪かい

異い

などと呼ばれるものは全すべ

てこの『魔』による仕し

業わざ

だった。

　

彼らは手を触れずとも物を動かす術を気の遠くなるほど長い期間学び続けた。道具もな


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世界が暗黒に包まれていた。

　

何も見えない。何も聞こえない。何の気配も感じられない。

　

自分の体さえあるのかないのか分からないほどの絶対の孤こ

独どく

。

　

今、ここにいると……春かすが日アラタという自分自身の存在が実感出来ない。

　

だから盻眇なんとなく理解してしまう。

　

ここは世界の果て、なのだと。

　

やがてこの意志すらも消しよ

滅うめつしてしまい、何もかもがなくなってしまう。

　

それが世界の最さい

期ご

、なのだと。

　

俺はこんなものを望んでいるのだろうか。

　

俺はこんなものを引き起こすために生きているのだろうか。

　

俺はこんなもののために盻眇。

「違ちが

う」

　

あるかないか分からなかった体から、声が出た。

　

途と

端たん

に、自分というものがここに「在る」という理解が及およ

ぶ。

　

だとしたら、感覚はないが。

　

何も見えないが。

　

きっとこの先には何かが……眩

　

むにっ

　

伸の

ばした俺の手にほどよい弾だん

力りよくと心ここ

地ち

よい柔やわ

らかさを感じて。

　

俺の意識は急速に覚かく

醒せい

した。

◆　　　　　　

◆　　　　　　

◆　　　　　　

◆　　　　　　

◆

「うにゃん♪」


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愛らしい声が耳元で聞こえた。

　

俺の右手は俺の目の前で寝ね

ている少女の豊かな胸をわし摑づか

みにしている。

「アラタお兄さんったら……大だい

胆たん

だにゃあ♪」

「なるほどな」

　

この小さい体に大きな夢バストを備えた少女は倉くら

田た

ユイ。

　

王立ビブリア学園で共に学ぶ友達のひとりだ。

　

目覚める際に何かを握にぎ

ろうとする。そして誰だれ

か女の子がいればその胸を摑んでしまう。

それが俺の癖くせ

ということか。我ながらいい癖だな。

「さて、ユイがいるということは……」

　

胸は握ったまま、俺は首だけごろりと後ろに向けてみた。

　

俺の体の丁度左側には、俺に寄り添そ

うようにして少女がくっついていた。

　

神かん

無な

月づき

アリン。こいつもまた俺の友達のひとりだし……。

「バレてしまったようね、だんな様」

　

無表情な視線と口調で俺の伴はん

侶りよ

であると主張している少女だった。

「うん、二人ともパジャマは着ているんだな」

「まあねん♪」

　

以前にもこの二人は勝手に俺のベッドに潜もぐ

り込んできたが、その時は全ぜん

裸ら

だった。

　

あれはあれで気持ち良かったし目の保養にもなった。

「裸はだかで添い寝するとリリス先生が怒おこ

るもの」

　

そしてその時、やっぱり思いっきり怒られたのだ。

　

なので、今回はパジャマを着ている。なら平気という理り

屈くつ

だ。よし。

「うむ。じゃあ安心して寝るとしよう眄」

「はーい♪」「了りよ

解うかいよ、だんな様」

　

俺が両手に花という状態で、再び眠ねむ

りに入ろうとしたところで……。

　

バーン眄

「アラタ眄　

またユイさんとアリンさんを連れ込んでいませんか眞」

　

勢いよく扉を開けてやってきたのがその『リリス先生』こと浅あさ

見み

リリスだった。

　

俺と同い年でありながら、天才的な魔道の才能と努力によって教職位を得たほどの才女

で、その外見の美しさもさることながらスタイルの良さも凄すさ

まじいことになっている。

　

そして、そのパジャマ姿もかなり大人っぽいもので、こうして見ているだけで大変眼福


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になるレベルでその胸むな

元もと

は鮮あざ

やかに盛り上がっていた。

「おう、リリス」

　

最も

早はや

見た瞬しゆ

間んかんにこちらの状じよう

況きようは分かるだろう。

　

なんせ俺の右手はまだユイの胸を揉も

んでいる。

「あ……あぅあぅ眄」

　

そんな俺たちの姿を見て、リリスは顔を赤くして指差した。

「ふむ」

　

リリス的には今回の添い寝的な不純異性交遊を叱しか

りたいのだろうが、以前の言いつけを

守っている二人を見て、その点に関しては許したいという教師的甘さが発動し、何を言っ

ていいのか分からないのだとみた。

　

とはいえこのままだと、結局は不純異性交遊が苦手なリリスに激げき

怒ど

されてしまう。

　

そうなれば、俺は再び痛い目をみてしまうかもしれない。

　

あんまり痛いのは好きじゃない俺としては、上う

手ま

いこと誤ご

魔ま

化か

すしかない。

　

よし。

「すまなかったリリス。最初にリリスを連れ込むべきだったな」

「えっ……眞」

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カアアアッ、と耳まで真っ赤になるリリスの顔を見て俺はガッツポーズした。

「それじゃあ、ユイはおにーさんの足元にくっつくから、リリス先生に上半身を交代して

あげるねん♪」

「私はだんな様の背中を譲ゆず

る気はないわ」

　

ユイがスススッと布ふ

団とん

の中に移動し、アリンは俺の背により強く寄り添った。

　

このベッドサイズなら、頑がん

張ば

れば三人まで添い寝は頑張れるということか。

　

この王立ビブリア学園寮りようにあるベッドが大きくて良かった。

「よし、こい眄」

「行きません眞」

　

真っ赤になったリリスがかぶっていた帽ぼう

子し

を投げつけてきて。

　

ぽふっ。

「おうふっ」

　

俺の顔面に優やさ

しくヒットしたのだった。

「全くもう……」

　

リリスはそのまま部屋の床ゆか

に座り込むと、クッションを抱だ

いてムスッとしていた。

「んー、今度はリリス先生も誘さそ

った方がいーい眤」

「そういうことで怒っているのではありません、ユイさんっ眄」

「……難しいのね」

　

そして、そんなリリスの前に女子二人は正座させられている。

　

割と見る光景なので、既すで

に「いつものこと」になっていた。

「まあまあ、リリス。俺も実際助かったんだし」

「助かった……ですか眤」

　

ベッドの上にいる俺が告げると、リリスは首を小さく傾かし

げる。

「ユイとアリンちゃんがベッドに入る時、おにーさんはすっごくうなされていたの。汗あせ

も

いっぱい出てて……」

「良くない魔力の波動も感じたわ。だから、少しだけでも私たちがその魔力を中和できる

ように、力を与あた

えていたのよ」

「そうだったのですか……」

　

リリスがすっかり信じ込んでいる。魔力を与えて貰もら

うだけなら、実は手を握るだけでも

いいとかいうのを実は俺も知っていた。だが、ここはリリスがそれに気付かないようにし


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みじみとしているのが正解だ。

「ありがとうな、悪夢みたいなものを見てたから、マジで助かったよ」

「ううん、ユイはおにーさんのためなら何でもするからね眄」

「私はだんな様の伴侶だもの」

　

二人がきっぱりと言い切ってくれる。アリンとユイはストレートに好意を向けてくれる

ので、俺としては嬉うれ

しい限りだった。

「……ん眤　

ですが、アラタの部屋に忍しの

び込まないとアラタがうなされていたことは分か

りませんよね眤」

「しまったバレちゃった」

「夜よ

這ば

いしに来たというのはもう言い逃のが

れできないわ」

「ユイさん、アリンさんっ眄」

　

結局叱られることになる二人。

　

……しかし、最近ちょくちょく悪夢を見るようになったな、と思い返す。

　

原因はやっぱり、俺が『魔王候補』だからなのだろう。

　

どんどん、この世界にとって危険な存在である『魔王』に近付いている……。

　

それが理由なのだとすれば、悪夢はいつか現実になってしまうのだろうか眤

「おや、シリアスな顔をしてるっスね」

　

そんな俺に、真上から声がかかった。

「ん眤　

その声は」

　

上を見るが……そこには誰もいない。

「あれ眤　

今、レヴィさんの声が……」

　

リリスやユイ、アリンもきょろきょろと天てん

井じようや部屋の中を見回している。

　

すると。

「ふふふ、ここっスよ眄」

　

バサッ眄　

と、部屋に備え付けのもう一個のベッドの掛か

け布団が舞ま

い上がり。

「パジャマパーティー、激写です眄」

　

そのベッドの上にはいつの間にか、さっき話しかけてきたポニーテール娘むすめの風かざ

間ま

レヴィ

と、今カメラを握ってパシャパシャとフラッシュをたいている金きん

髪ぱつ

ツインテールのセリナ

＝シャルロックがいた。

　

ちなみにレヴィは和風の寝ね

間ま

着き

姿で、セリナは洋風のパジャマ姿だ。

「いつの間にそっちのベッドにっ眄」

「自分、ニンジャっスからね。忍び込んだり攪かく

乱らん

したりは大得意っスよ」


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答えにはなっていないが、確かにさっきの声は上から聞こえた。なのに、実はベッドの

中にいたなんて……。

「すげえな、ニンジャ」

「すごいでしょう」

　

素す

直なお

に感心すると、得意げに胸を張っている。

「ふはーっ、ユイさんたちに付き添って部屋に入ってからこっちのベッドに隠かく

れ続けるの、

なんか大変でしたー」

　

そしてあっさりネタばらしをしてくれるセリナはいいヤツだ。

「レヴィさんとセリナさんまで夜中にこの部屋に眤」

「ええ、リリス先生。なので、アラタさんがうなされていたのも、魔力が乱れていたのも、

本当のことっス。これは心配っスね……」

「え、ええ……それは……そうですね……」

　

そしてニンジャ的誘ゆう

導どう

が始まっていた。男子の部屋に女子が寝間着でやってきているこ

とに関して、リリスはどんどん上手いこと流されそうになっている。

「確かに、魔力が自分の中で暴走する時や、何かの影えい

響きようを受けた時などは、夢という形で

警告が発せられることもありますが……」

「そういうことってあるのか。っていうか、みんなも経験あるのか眤」

　

俺が尋たず

ねると、そこにいたみんなが静かに笑った。

「『魔ま

』について勉強するっていうのは、自分の中には全く存在しない要素を『テーマ』

として無理矢理理解するように学んだり、取り入れたり、想像したり、納なつ

得とく

したりってい

う作業の繰く

り返しなんです」

　

リリスの言葉は優しいのに、視線はどこか遠いものを見つめているようだ。

「んー、自分の中に全く存在しない、かあ……」

　

俺のテーマである『支イン

配ペル

』。これは俺の中に全く存在しない要素だったのだろうか。確

かに誰だれ

かを支配したいなんてこれっぽっちも思ったことはない。みんなのびのびと、自分

のやりたいことをやって。生きたいように生きて。ありのままの人生を歩んでくれた方が、

俺としては嬉しい。

　

だけど、俺は魔道士として過ごすうちにそれだけじゃダメだと気付かされている。

　

理り

不ふ

尽じん

に、俺の大事なものを根こそぎ奪うば

うかもしれない『崩壊現象』や、魔道士により

発生する様々な事件。そういったものを全部まとめてなんとかするには、俺がいっそ世界

をまるごと支配しよう、そう思ったのだ。

　

だけど、支配なんて実は何をどうすればいいか分からない。


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だからこそ、俺のテーマとしてはピッタリだった、ということなのか眤

「私はつい最近も悪い夢を見たから、だんな様の温ぬく

もりを求めに来たの」

　

アリンが挙手して言い出した。

「っておい、大だい

丈じよ

夫うぶ

なのかアリン眤」

「今のところは安定しているわ、だんな様。それに、落ち着けるようにユイにも手伝って

貰っているもの」

　

アリンがユイを見ると、ユイは得意げにニッコリ笑う。

「ユイは夢についてはエキスパートだからねん眄　

おにーさんが苦しんでたのも、ユイの

おっぱいのおかげですぐに治ったでしょ眤」

「確かに。すげえなおっぱい」

「えへへ♪」

「そ、そういう治し方はいけません眄」

　

リリスが真っ赤になって声を荒あら

らげているが、ユイのおかげで……あの真っ暗な寂さび

しい

空間から助けて貰ったのも確かだ。

「ありがとな、ユイ、アリン」

「あ……うん、おにーさんのためなら、ね……」

「私はだんな様の伴はん

侶りよ

だもの……」

　

二人が頰ほお

を染めるのを見てるだけで嬉しくなるわけだが。

　

さておき、アリンが悪夢を見ているというのは気になって仕方ない。だけど、アリンは

どんな夢なのか、どう苦しいのかをあっさり話してくれるだろうか眤

「ここは、アラタさんに自分たちの経験を語るってのはどうっスか、リリス先生眤」

　

レヴィが挙手して、そんな助け舟ぶね

を出してくれた。

「んー……確かに。このまま解散して眠ねむ

っても、その悪夢……つまり、魔力の乱れに対し

ての対処方法が見み

出いだ

せないと大変というのはありますしね」

　

リリスは顎あご

に手を当てて考え込むと……。

「では、特別授業です」

「やったぁー、パジャマパーティーだねん♪」

「違ちが

います眄　

これは、ちゃんとアラタやアリンさんの悪夢をですね……」

「実はこのセリナ＝シャルロック、こんなこともあろうかと、大量のお菓か

子し

と飲み物を既

にご用意してあります眄」

　

セリナがベッドの上を示すと、そこには確かにお菓子やジュースがいっぱいあった。

「あああ、もう……」


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「ははは、まあ、息いき

抜ぬ

きがてらっスよ」

　

レヴィがしょんぼりしているリリスの肩かた

をポンポン、と叩たた

いている。

　

まあ、格式張った授業形式よりは確かに、気楽に勉強出来そうで助かる。

「で、アリンはどんな悪夢を見てるんだ眤」

「ん……最近、『槍やり

』を手に入れたから、そのせいよ」

　

アリンは自分の左手薬指に嵌はま

っている指輪を見せて、目を閉じる。

「……あれは、だんな様が丁度、検けん

閲えつ

官の任務に駆か

り出されている時のことだったわ」


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私には何もなかった。

　

最初の記き

憶おく

は暗黒の中。

　

ただそこに闇やみ

があり、それ以外には何もない。

　

だけど、そんな闇の中に盻眇いきなり、『私』というものが存在することに気付いた。

　

それが、私の最初の記憶だった。

　

どうして闇の中にいたのか。そこが一体なんだったのかは分からない。

　

ただ、そこに『自分』がいることを認にん

識しき

して、意識した。

　

自分が存在していることに気が付いた。

　

そう認識した時盻眇。

　

目の前が、開けた。

　

そこには、どこまでも続く青い空と、緑の草原が広がっていた。

　

一体どうしてこんな場所にいるのか。

　

何が起きてこんなことになったのか。

　

そもそも私は何者なのか。

　

全すべ

て分からないまま、一歩を踏ふ

み出した時に。

　

足に伝わる草の感かん

触しよくとか。

　

頰ほお

を撫な

でる風の流れとか。

　

鼻をくすぐる空気の匂にお

いとか。

　

そういったものの全てに。

　

この世界に在るもの全てに感動して。

「あ……」

　

何な

故ぜ

か、涙なみだが溢あふ

れた。

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「これが最近また見るようになった、私の始まりの記憶の夢。そうしてどこか分からない

場所を彷さまよ徨っていた時に、ここの学がく

園えん

長ちように会ったのよ」

　

私が話すと、みんなは多少驚おどろいた顔をしていた。

　

だんな様を見てみると、驚いてはいるものの『同情心』とか『警けい

戒かい

心』みたいなものは

一いつ

切さい

浮う

かんでいないように見える。

　

ただ単に『へえー』というだけの表情。

　

そんな彼は私の番つがいと言われているけれど、本当の意味はよく分かっていない。

　

ただ……。

「ん眤　

どうしたアリン眤」

「ううん。だんな様の顔を見ていただけよ」

　

彼が私を見て、気にしてくれて、話しかけてくれる。

　

それだけで胸がドキドキして頰が熱くなった。

　

これがきっと妻になる者が持つトキメキというものに違ちが

いない。

「アリンさんも私のように、異世界のような場所から来たのでしょうか……」

　

リリス先生が顎あご

に手を当てる、いつもの悩なや

むポーズで呟つぶやく。

　

確かリリス先生は別の世界で生まれて、この世界に飛ばされた人間らしい。

　

そちらの世界は先生の父親でもある別世界の『魔ま

王おう

』によって滅ほろ

ぼされたそうだから、

そういう意味では、私の見た暗黒の場所も終わった世界だったのかもしれない。

「そういえば、学園長はいきなり私の前に現れて、迎むか

えに来たとか言い出したわ」

「いつも胡う

散さん

臭くさ

い人ですけど、それは本当に危険度の高い胡散臭さですね」

　

リリス先生の言葉にみんなも『うんうん』と頷うなずいている。

　

当時の私は確か、まだ八歳とかそのくらいだった。

　

確かに、色んな意味で危なかったのかもしれない。

「ちなみに今から数年前だけど、学園長の外見はまるで変わっていなかったわ」

「そういえばあの人、ずっと全く変わってないっスねえ。まあ、高位の魔道士ともなると、

不イモ

老ータルの魔術くらいはデフォルトになるらしいっスからね」

　

レヴィが口にする。

　

不老不死くらい当たり前にできなくては魔道士としてはまだ半人前。

　

そんな言葉を、どこかで聞いた気もした。

「そういや、リベル学園の学園長はロリっ子だったもんな」

　

だんな様が思い出すように言うのを聞いて、ついでに若返りの術みたいなものも必要な


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のが女性魔道士なのかもしれない。

　

まだまだ学ばなければならないことはたくさんあるみたいだ。

「それで、学園長に連れられてこの学園に来たんですか眤」

　

セリナがメモ用紙を取り出しながらずいずい体を乗り出している。

　

この好こう

奇き

心しん

の強さは魔道士としても大事なもので、見習った方がいいと私たちトリニテ

ィセブンも彼女には一目置いている。

「そうね。ここに来る途とち

中ゆう

、しょっちゅう謎なぞ

の魔物に襲おそ

われまくったけれど」

「謎の魔物眤」

「そういえば聞いたことがあるねっ」

　

ユイがぽんっと手を叩たた

く。

「学園の外にも、正体不明、解アナラ

析イズ

不能な魔物が出ることがたまにあるって」

「あれは私が外に出たからよ」

「えええっ眄」

　

ユイがビックリしてくれたので、なんだかしてやったりという気分になった。

「私がこの学園の敷しき

地ち

外に出ると、発見、確認されていたような魔物ではなく、誰だれ

も見た

ことがないような魔物たちが現れるみたい。倒たお

せる時はあっさり倒せるけれど、倒せない

時は放置して逃に

げるしかないような魔物もいたわ」

「え。それって、学園長が、ですか眤」

　

セリナの顔が青ざめる。

「ええ。学園長が『これは無理だ。逃げるよ』って」

「ぱ、『大パラデイン

魔公』クラスの学園長が勝てないレベルの魔物って眄」

　

ビックリしているセリナの横で、静かに話を聞いているレヴィ。彼女はなるべく誰にも

バレないように、たまにこっそり鋭するどい視線をしている時がある。まあ、こうしてバレてい

るのだけど。あんまり知られたくないのだろうから、特に言わないことにしている。

「おそらく『外アナザーワン

なる魔』っスね」

　

そして、その知識量にもいつも驚かされた。

　

彼女は、私たちが誰も知らないようなことをとっくに知っている。

　

それは今まで『この世の影かげ

』として過ごしてきた彼女だからこその知識なのか、それと

も、研究効率がとても素す

晴ば

らしいからなのかは分からない。

「そう、レヴィが正解。流さすが石ニンジャだわ」

「ふふん、ニンジャは物知りっスから」

　

得意気におちゃらけているけれど『外アナザーワン

なる魔』について私が知ったのも、本当につい最


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近のことだった。

　

もしも、この人がだんな様の敵になったら。

　

そんなことを考えると、得も言われぬ不安が過よぎ

る。

「その『外アナザーワン

なる魔』ってのはなんなんだ眤　

アリンの大ファンか眤」

「似たようなものよ。でも、もう私の周りには出ないから安心してだんな様」

「お、そうなんだな。アリンが狙ねら

われなくて良かったよ」

　

心から安心して言ってくれるだんな様に、私の心は再び温かくなった。

「それはどうしてなんですか眤」

　

リリス先生の疑問に、私は自分の指輪を見せる。

　

魔道書『黄ラグ

昏･ナ

のユグ

真ドラ

説シル

』。

　

それがこの指輪の内に封ふう

じられている私の魔道書。

「私は私の槍やり

を手に入れる為ため

に、あの場所に向かったから」

「あの場所、ですか……眤」

「そう。この……私がこの世界に降り立った時から持っていた魔道書『黄ラグ

昏･ナ

のユグ

真ドラ

説シル

』の内

なる世界盻眇『世界樹図書館』よ」

　

私は語り始める。

　

私が私と向き合い、そしてあの槍を手にした時のことを。

続きは11月8日発売のドラゴンコミックスエイジにて！

©KENJI SA

ITO, AKINARI N

AO 2014

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