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平成26年度 修士論文 日本製のテレビドラマに描かれる中国人の女性若者像 東京学芸大学大学院教育学研究科 総合教育開発専攻 情報教育コース 学籍番号 m13-3307 氏名 陳啓

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  • 平成26年度 修士論文

    日本製のテレビドラマに描かれる中国人の女性若者像

    東京学芸大学大学院教育学研究科

    総合教育開発専攻 情報教育コース

    学籍番号 m13-3307

    氏名 陳啓

  • 平成26年度 修士論文

    日本製のテレビドラマに描かれる中国人の女性若者像

    論文要旨

    本論文は、2008年から 2011年までの日本での日本製ドラマの中から視聴率、放送時

    間及び視聴可能の基準により、「月の恋人~Moon Lovers~」、「OL 日本」、「上海タイフ

    ―ン」の三つのドラマを選択し、登場する四人の中国人の若い女性のステレオタイプを

    明らかにするものである。内容分析の「イメージ・描写・判別分析」という技法を用い、

    黄琳・張琳・楊洋・劉秀美 4人の容姿、性格、生活環境をそれぞれ分析し、性格を明ら

    かにした。さらに、最初の貧困の場面と最後の場面までの変化及びそれに係わる人につ

    いての分析を行うことにより、四人全員が素朴で、三人が貧困の設定貧困の設定であっ

    た。さらに、仮説「中国人の若い女性が助けられる」を検証するために4人の登場人物

    の番組の進展に伴う変化及びその変化に影響を及ぼす日本人について分析を行った。

    研究対象としての中国人の若い女性四人が本人に「助けられる」という仮説について

    検証を行った。その結果、黄の容姿、生活環境、社会的位置づけの前後変化とそれを生

    み出す日本人野村に助けられる場面や、それと対照的に日本人女性の野村は「助けられ

    る」人物であると判断できなかったため、黄には仮説が検証された。張の容姿、生活環

    境、社会的位置づけの前後変化とその変化を生み出す日本人神崎や矢部に助けられる場

    面や、それと対照的に日本人女性の神崎は「助けられる」人物であると判断できなかっ

    たため、張は純粋でまっすぐに頑張る強い人でもあることより、張に仮説が一部検証さ

    れた。楊の容姿、社会的位置づけの前後比較及びその変化を生み出す日本人に「助けら

    れる」場面はあったが、生活環境に関しては検証されなかったため楊に仮説は検証され

    なかった。劉の容姿、生活環境、社会的位置づけの前後変化とその変化を生み出す日本

    人に助けられる場面や、それと対照的に、日本人女性の二宮は「助けられる」人物であ

    ると判断できなかったため、劉に仮説は検証された。この結果を俣野の論文と比較し、

    共通点と相違点及び相違点の原因について述べた。

    この3つのテレビ番組の中でも、中国人の若者女性の一部が「助けられる」と描写さ

    れていることが明らかになった。このような描写は「紋切り型」の描写となっているこ

    とより、日本製テレビドラマにおいはこれから中国の若者女性に関する描写を単一な傾

    向を避けるように努力するべきだと考えられる。

    キーワード:ステレオタイプ、日本製テレビドラマ、中国の若い女性

  • 目次

    1. はじめに .................................................................................................... 1

    1.1 研究背景 ................................................................................................ 2

    1.2 ステレオタイプ ...................................................................................... 6

    1.3 研究目的 ................................................................................................ 9

    1.4 仮説の設定 ........................................................................................... 10

    1.5 研究方法:内容分析 ............................................................................. 11

    2. 分析方法 .................................................................................................... 15

    2.1 分析対象の選定 .................................................................................... 15

    2.2 分析対象 .............................................................................................. 18

    2.3 分析の枠組み ....................................................................................... 23

    3. 分析結果 .................................................................................................... 26

    3.1 外見・容姿 ........................................................................................... 26

    3.2 性格・行動 ........................................................................................... 33

    3.3 生活環境・社会的位置づけ .................................................................. 58

    3.4 分析結果のまとめ ................................................................................ 62

    4. 考察 ........................................................................................................... 72

    4.1 仮説の「中国人の若い女性が助けられる」の検証 .............................. 72

    4.2 先行研究との比較 ................................................................................ 85

    5. 結論 ........................................................................................................... 88

    参考文献 ........................................................................................................... 91

  • 1

    1. はじめに

    古くから日本人の生活の一部にテレビ、雑誌、新聞、ラジオの四つの媒体が

    浸透してきている。中でも、特に大きな影響力があると言われているのがテレ

    ビである。テレビは電源をつけてチャンネルを選ぶだけで、情報が流れてくる

    利便性があり、視聴者は受動的に情報を受けることが一般的である。

    日本のテレビドラマは 1953 年にテレビ番組が生まれて以来、絶えずテレビ番

    組の中では人気を集め、今はほかの種類のテレビ番組と比べ、常に番組平均世

    代視聴率の一番高いテレビ番組となり、あらゆる番組の中で一番日本中の注目

    を集める存在と言っても過言ではない。絶大な人気を誇るテレビドラマも一つ

    のマスメディアとして、当然その受容者の日本人に大きな影響を及ぼし続けて

    いる。

    近年、中国と日本の間では「戦略的互恵関係」を築こうとして、両国とも努

    力をしている中、日本製テレビドラマにも中国人役が続々と登場する傾向がみ

    られる。特に 2008 年から 2011 年の間、日中友好の発展に伴い、日本製ドラマ

    に登場する中国人役の登場人物が頻繁に姿を現し、多くの日本人に「今の中国

    人の様子」を伝えてきている。

    本稿では、日本のテレビドラマに登場する人物の中から、中国人若者に注目

    したいと考え、2008 年から 2011 年までの日本人気ドラマの「月の恋人~Moon

    Lovers~」、「OL 日本」、「上海タイフ―ン」に登場する中国人の若い女性の役を

    取り上げ、今の日本のテレビに描かれる中国若者のステレオタイプを分析し、

    日本のテレビが視聴者にどんな中国人若者のイメージを築いているのかを明ら

    かにする。

  • 2

    1.1 研究背景

    本研究の背景として、近年、特に 2008 年から 2011 年の間に、日中両国の

    経済や政治関係が進む中、日本国民へ最大の影響力を持つと言われるテレビ

    ドラマの現状を示す。

    まずは近年の日中関係について説明する。2007 年の安倍晋三訪中・温家宝

    訪日でそれぞれ共同プレスを発表して日中両国は「氷を砕いて溶かして」き

    た。そして、日中条約 30 周年の 2008 年には胡錦濤国家主席が来日し、暖か

    い春を迎えて当時の日中関係を表現した「戦略的互恵関係」の包括的推進に

    関する日中共同声明が発表された。つまり、2008 年に日中関係がピークに達

    した。当時日本外務省が発表した「最近の日中関係と中国情勢」のレポート

    にも日中友好の傾向がみられる。

    図1 近年の日中間の首脳会談及び相互訪問の数

    最近の日中関係と中国情勢,外務省,平成25年4月

  • 3

    図 1 から、2007 年から 2009 年に日中間の首脳会談がピークを迎えたと考え

    られる。

    図 2 1975 年から 2012 年までの訪日中国人数と訪中日本人数の変化

    最近の日中関係と中国情勢,外務省,平成25年4月

    図 2 の 1975 年の日中国交正常化から 2012 年までの日中両国の民間交流の図

    を見ると、2010 年に訪日中国人数と訪中日本人数の合計が過去最大となった。

    つまり、日中国交正常化から 30年以上経つ 2007年から 2011の間に、日中両国

    の政府と民間の交流が盛んに行われた。そこで、日本のテレビドラマも「中国

    ブーム」を迎えた。よって、本研究では 2007 年から 2011 年の間の日本製テレ

    ビドラマを研究対象として取り上げることにした。

    一方、近年のインターネットは若い年齢層において影響力が増えているが、

    若い世代からお年寄りの全年齢層の日本国民に一番の影響力を持つのはやはり

    テレビであろう。平成 24 年末のインターネット利用者数は、平成 23 年末より

    42万人増加して 9,652万人(前年比 0.4%増)、人口普及率は 79.5%(前年差 0.4

  • 4

    ポイント増)1と比べ、社団法人デジタル放送推進協会の調査によると、平成 22

    年12月の時点で地上デジタルテレビ放送対応受信機の世帯普及率はもう約95%

    となり、明らかにインターネットより大きな影響を持っている。

    図 3 地上デジタルテレビ放送対応受信機の世帯普及率

    地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査の結果 - 総務省,平成 23年 3月

    日本全体にも大きな影響力を持つテレビでは毎日さまざまな番組が放送され

    る中、テレビドラマは娯楽番組と並び一番の視聴率を誇る。テレビドラマには、

    ほかのメディアと比べて比較にならないほど巨大な視聴者が存在している2。テ

    レビドラマは日本人の人々の生活のあらゆるところまで影響を及ぼしていると

    言っても過言ではない。これまでにもドラマが描く登場人物の言動や価値観、

    性役割、ライフスタイル、家族の在り方など多様なものが分析され、視聴者へ

    の影響が論じてきた。受け手はそれぞれ、その社会的文化的背景から能動的に

    番組のメッセージを解読し、時には送り手が予想しなかった形で大きな影響を

    1 情報通信白書,総務省,平成 25 年版 2 「テレビドラマのメッセージ」,岩男寿美子,勁草書房,p2

  • 5

    受けることがある。そうした影響は、番組が制作された国のみにとどまるもの

    ではない、国境を越えた視聴者に様々なメッセージを届けるテレビ番組を理解

    し、その限界を考えたい。

    多くの日本人にとって、日常生活で中国の若者と身近に接触する機会は必ず

    しも多くはない。多様なメディアを媒介として各国の実像が伝達されている現

    在、人々の中国の若者に対するイメージ形成にマスメディア、とりわけテレビ

    の果たす役割は非常に大きいと考えられる。そこで 2007 年から 2011 年までの

    テレビドラマで中国ブームが盛んである中、テレビドラマに登場する中国人役

    はもちろん日本人の中国若者に対するイメージの形成には大きな影響を及ぼし

    ている。では、果たしてテレビで中国若者はどのように描かれているのであろ

    うか。テレビにおける中国の若者の描写は、このメディアの特質上、ステレオ

    タイプ的になりがちである。

  • 6

    1.2 ステレオタイプ

    ステレオタイプという言葉の語源はギリシャ語で「固定した,固い,安全な」

    を意味するstereoと「印象や特徴を伝える動作」であるtypeとが組み合わされ

    た言葉で、本来は18世紀末にフランスで発明された印刷方法、または鉛版を意

    味していたが、Lippmanより、社会心理学・社会学的概念として用いられるよう

    になった。ステレオタイプは、その単純化・画一化ゆえに、実際とは異なって

    いたり歪んでいたりして、実物を性格に反映したものではなく、強い感情的要

    素と結びつく事が多いのである。

    私たちはこの複雑な世界をグループ化し、カテゴリー化することで理解して

    いる。したがって、カテゴリー化は自然な認知過程の一部であり、人間にとっ

    て必要なことである。しかし、カテゴリー化の後に、あるグループに属する全

    ての物や人に同じ特性をあてはめてしまうことがある。これはステレオタイプ

    化と呼ばれ、ジャーナリストのLippmanが1922年に初めて使用したとされる。

    Lippman(2007)は、「私たちはたいていの場合、見てから定義しないで定義し

    てから見る」と述べ、私たちの頭の中にある「絵」が、外界を処理する際によ

    く人を誤って導くとしている。この「絵」 がまさにステレオタイプである。

    ステレオタイプ研究の流れについて紹介する。ステレオタイプに関しては、

    古くから研究されたが、社会心理学におけるステレオタイプ研究の潮流は、大

    別して2つ挙げることができる(唐沢,2001)。その第一は「古典的なアプロー

    チ」で、多くの人によって思い描かれた「画像」の内容を記述することが主な

    目的であった。その代表例としては回答者集団のうち何%の人がある特性が対

    象集団に当てはまると答えるかを数える方法で、集団レベルで共有された信念

    であるという特徴をよくとらえているが、なぜこのような心理的プロセスを経

    てステレオタイプが形成されるのかという問題の解決策として、ステレオタイ

    プの第二の潮流「認知的アプローチ」が生まれた。人間が情報処理を行う限り

    当然のように生まれる一般的な傾向の産物として、ステレオタイプの形成過程

    が理解されるようになった。認知的アプローチの研究はステレオタイプの形成

    や変容、維持にかかる認知的な過程とその性質と、その結果産出される表象の

  • 7

    実態を明らかにするうちに、「カテゴリー化」の効果に関する研究は多くの成

    果を上げた。つまり物事をカテゴリーに分類すると、同一カテゴリー内の成員

    については互いの類似性を、また異なるカテゴリー成員間には相異性を、それ

    ぞれ拡大する傾向があることが知られた。冒頭に挙げたステレオタイプの性質

    とする「単純化・画一化」もこのようにカテゴリー化過程の結果として説明す

    ることができる。一方、「古典的なアプローチ」の「内容」についての新しく検

    討が行われる領域の一つは「カテゴリー表象」である。この考え方を援用する

    と、社会的カテゴリーの表象にも、成員間に分布する「典型的」あるいは「体

    表的」特徴というパラメーターだけではなく、「変動性」の認知に関する情報も

    含まれていると考えることができる。このような「集団変動性」の研究がきっ

    かけとなって、社会的カテゴリーに関する表象の形成に関する議論は格段に進

    歩してきた。我々が社会的なカテゴリーや集団、特定の役割を持ち人々に対し

    ても既有知識を当てはめて情報処理をしていると示した。そしてステレオタイ

    プの活性化の適用過程は多くの認知的資源が動員されている可能性を示唆する

    研究結果もある。将来の研究においては、ステレオタイプの対象となる集団の

    成員が、他者からステレオタイプ的に扱われることに対してどのような心理的

    な反応を示すかについて吟味する必要があると思われる。

    Lippman(2007)も当時指摘したように、私たちは「文化が既に定義したも

    のを選び、それを私たちの文化によってステレオタイプ化された形で知覚しが

    ちである」。つまりステレオタイプの問題は、一度形成されるとそれに合った

    情報のみを選んで認知し、情報を歪めて取り入れてしまうため、事実の正確な

    把握を難しくすることにある。また、そのことが偏見につながり差別を生むこ

    とが、異文化コミュニケーションの大きな障害となっている。

    メディアのステレオタイプに関して、テレビコマーシャルやアメリカのテレ

    ビドラマによる人種差別と偏見問題や欧米メディアに見る日本報道や在日フィ

    リピン人女性表象などが多く研究された。近藤恭子の「歪んだ鏡に写った日本」

    (2004)はイギリスで日本伝統文化を宣伝する大きなイベント(Japan 2001)

    を控えているときに、イギリスのテレビでJapan Weekと銘打って日本関連の番

    組を流すことをきっかけに、イギリスから西欧のメディアが写した日本につい

    てリサーチし、「日本蔑視記事」を結果として挙げ、その背景や原因について

  • 8

    の研究である。俣野裕美の「1990 年代の米国製テレビドラマにおける中国系女

    性像」(2013)と「中国系アメリカ人女性の表象──テレビドラマ,Ally McBeal

    を例に──」(2012)の二つの論文は米国の映画やテレビドラマなどのエンター

    テイメント作品はその絶大な人気とは裏腹に、人種的マイノリティの描き方に

    対して様々な問題点を指摘し、アメリカのメディア業界では一般的に,白人が

    優位な立場に立ち,白人以外のマイノリティ達は不利な状況におかれる傾向に

    あると述べた。特にアジア系の人々が映画やテレビドラマに登場することは非

    常に稀であり,その表象のされ方は,常にネガティブ,またはステレオタイプ

    的である。この研究においては、研究対象は常に「米国」に救済されるアジア

    系女性日本として表象され、白人支配の正当化に手助けをしていると述べてい

    る。メディアに関しても、特にテレビコマーシャルに登場する外国人(欧米人)

    のステレオタイプが多く研究された。日吉の「テレビ広告における外国人登場

    人物像に関する実証的研究」(1997)は民権運動を背景に民族的「少数派」が表

    現される機会は増したが、それをキャンペインとしてとらえるメディアの姿勢

    のなかで固定したイメージが生まれるとともに、次第に減少していったという

    ことを述べている。唐牛祐輔と楠見孝(2009)の「潜在的ジェンダーステレオ

    タイプ知識と対人印象判断の関係」の研究では、ステレオタイプ的知識連合は、

    プライムへの事前接触が対人判断に与える効果に強く関連することを示した。

    しかし日本のメディアに登場する中国人についてはまだまだ空白の現状である。

    このような状況を踏まえて、本研究では複数の日本テレビドラマ作品を取り

    上げ,ストーリー全体の中で登場する中国若者に焦点をあてる。テレビドラマ

    のストーリーが発展していく中、共有する特徴とほかの登場人物との関係の築

    き方を分析し、日本テレビドラマの中国の女性若者のステレオタイプを明らか

    にする。

  • 9

    1.3 研究目的

    日中両国は、長い歴史のある「一衣帯水」で切っても切れないお隣同士の関

    係にある。しかし、さまざまな複雑な原因で両国関係は本来あるべき親しさで

    はない。それを改善したいと思い、これからの交流が一層多くなると見込まれ

    る日本と中国人の若者のお互いの理解を深めようと思う。日本人は誰でも身近

    に中国若者がいるとは限りないので、多くの人々が持つ中国人のイメージは、

    日本で著しく普及されたテレビからではないだろうか。

    本研究では、人々の中国人の若者のイメージ形成に影響をあたえる重要な要

    因の一つとして、テレビの連続ドラマを取上げ、テレビドラマで中国人の若者

    女性はどのように描かれているのかを分析する。果たして、テレビドラマが伝

    える中国人の若者女性像は、ステレオタイプになっているのであろうか。

    俣野裕美の「1990 年代の米国製テレビドラマにおける中国系女性像」(2013)

    と「中国系アメリカ人女性の表象──テレビドラマ,Ally McBealを例に──」

    (2012)の二つの論文においては、アメリカのメディア業界では一般的に,白

    人が優位な立場に立ち,白人以外のマイノリティ達は不利な状況におかれる傾

    向にあると述べ、研究対象は常に「米国」に救済されるアジア系女性として表

    象され、白人支配の正当化に手助けをしていることを示している。そこで本研

    究では日本のテレビドラマにも似たようなこと、つまり登場人物の中国人若者

    女性を不利な状況に置き、日本人に助けられる状況に置かれる傾向があるので

    はないかと想定し、検証していきたい。

  • 10

    1.4 仮説の設定

    本研究では日本製テレビドラマに登場する中国人の若い女性がどのように

    描かれているのを明らかにすることを研究目的として研究を行うために中国

    人の若い女性は日本人に助けられる」という仮説を設定した。

    仮説を検証する際に、ある人物の容姿・外見と生活環境・社会的位置づけ

    の二つの点の成長を促進できる助けを「助ける」と定義する。つまり、他人

    に自分の容姿・外見と生活環境・社会的位置づけが上向きに変化することに

    助けられることを「助けられる」とする。具体的に言うと、外見・容姿につ

    いては「キレイになる」、「おしゃれになる」などで、生活環境・社会的位置

    づけについては「家族が団欒する」「(仕事や勉強など)能力の向上」、「知識の

    増加」、「より良い仕事に就く」などである。こうした結果を得ることができ

    れば、仮説が検証されたと考えられる。

  • 11

    1.5 研究方法:内容分析

    新聞、雑誌、テレビなどのいわゆるマスメディアから受け手にもたらされ

    るされる情報を研究対象とした研究の多くが用いた研究方法は内容分析であ

    る。内容分析とはマスメディア研究やコミュニケーション研究などの社会科

    学において、雑誌や新聞記事等の文章の内容や、テレビ番組の内容、コミュ

    ニケーション内容(メッセージ)を、客観的かつ数量的に分析するための研究

    方法である。

    たとえば西別府厚子と岩男壽美子(2005)の「テレビドラマの社会心理学

    的研究:内容分析を中心として」の研究論文の中での登場人物(人間でなく

    ても登場人物と表記)に焦点を当てた分析では、各登場人物ごとにコードす

    る研究方法をとった。つまり登場人物が5人いれば5人分のコーディングと

    なる。全部で53ある分析項目には、主役か脇役か、性別や年齢などといった

    個人の特性、家事・育児への参加、悪玉か善玉かといったタイプ、人生観(社

    会活動志向の仕事・勉強型か、個人志向の趣味型か、家族志向のマイホーム

    型か)、暴力や性的行為に関係があるかどうか、違法行為があるか、などが含

    まれる。先行研究では、魅力的⇔魅力的でない、親しみやすい⇔親しみにく

    い、など21対のSD項目が用いられた。しかし内容分析は膨大な情報を扱うた

    め、信頼性を高めるため事前に訓練を受けた複数のコーダーが必要となり、

    見落としのないように番組を繰り返し視聴しながらコーディングを行うこと

    になる。このような内容分析の方法は多様な分析項目を設定し、多角的な分

    析を可能とした。「テレビドラマの社会心理学的研究:内容分析を中心として」

    の研究では、番組分析について番組の形式・種類・トーン・結末・ストーリ

    ーの現実性・テーマ・主なる情景設定を分析し、登場人物分析については名

    前・主役や脇役・性別・年齢・国籍・階層・職業。家事(育児)への参加・

    タイプ(善玉か悪玉)・深刻さ・人生観・登場人物の違法行為の有無・性的行

    為など様々な角度から分析することのほかにも暴力描写分析や性描写分析に

    ついて53項目で全般的に分析することを行った。しかし本研究ではなるべく

    一人で研究することを念頭に置き、しかも比較的に単純で具体的な研究対象

    (三つのテレビドラマに登場する四人の中国人の若者女性)の登場人物分析

  • 12

    の単一分析となり、膨大な情報を扱う割には、カテゴリーや変数は少ないた

    め、内容分析を完全に用いることは行わない。

    しかし研究の客観性を保証するため、実証研究の内容分析のテクニックを

    使うことは避けられない。内容分析における分析技法は「頻度」、「関連性・

    相関・クロス表」、「イメージ・描写・判別分析」、「コンティンジェンジ

    ー(随伴)分析」、「クラスター分析」、「文脈的分類法」の6つである。分

    析結果を要約するために用いられる、もっとも普通のデータ表示形態は頻度

    分析である。その次によく用いられるデータの表示形態は変数間の関係であ

    る。そのような関係は、ある変数の値とほかの変数の値の共起の頻度のクロ

    ス表に見られる。データ内部の複雑な多次元的構造を検証するには多変量解

    析の手法が利用できる。特定な事物や、個人や、思想や、出来事に焦点を当

    てて、それらがどのように描写されたり、概念化されているか、そのシンボ

    ル的なイメージはどのようなものかを見つけ出そうとする内容分析の研究は

    イメージ・描写・判別分析という技法を使うことが多い。コンティンジェン

    ジー(随伴)分析は、メッセージにおけるシンボルの共起のパターンから、

    ある情報源における関連性のネットワークを推測することを目的としている。

    クラスター分析とはデータを概念化する作業を容易にすることを目的に、大

    きな共起表が示す膨大な情報の中でいくつかの概念が非常に似ており、相互

    関連しているため、それらを見つけ出し、同一のものとして扱う技法である。

    文脈的分類法は、データに含まれるある種の冗長性を取り除き、それによっ

    て根底にある概念を抽出するための多変量解析の手法である。一つの例を挙

    げると、リーダーシップの知覚に関する研究の中では、毛沢東夫人の演説に

    文脈的分類法をかけると、この演説の一部分が固定的フォーマットで標準化

    されたと示された。「イメージ・描写・判別分析」では「属性、頻度のプロ

    フィール、分布上の特徴」及び「関連性」の二つのアプローチがある。「属

    性、頻度のプロフィール、分布上の特徴」というアプローチを用いて対象人

    物のイメージを研究する場合、その対象に関連のあるすべての事項を記録し

    て集計し、それらをカテゴライズして各カテゴリーにおける出現頻度を図に

    まとめる。そうすることによって研究対象のプロフィールが明らかになる。

    尚、関連性/非関連性は、選択された概念の生起する度合を評価するための統

    計的概念である。

  • 13

    「イメージ・描写・判別分析」では「属性、頻度のプロフィール、分布上

    の特徴」と「関連性」の二つのアプローチがある。「属性、頻度のプロフィ

    ール、分布上の特徴」というアプローチを用いてある対象人物のイメージを

    研究する場合では、その対象に関連のあるすべての事項を記録し、集計し、

    それらをカテゴライズし、一つのカテゴリーにどれぐらいの頻度で出現して

    いるのかを図にまとめる。そうすることによって研究対象のプロフィールが

    明らかになる。関連性/非関連性は、選択された概念の生起する度合を評価す

    るための統計的概念である。

    そこで本研究の研究目的としては、3つの日本製テレビドラマに登場する4

    人の登場人物はどのように描写され、「助けられる存在」に概念化されてい

    るかについて研究したいと考えているからには、彼女たちの容姿・外見、生

    活環境・社会的位置づけと性格・行動に関する分析をすることが必要となる。

    そのためには四人の登場人物に焦点を当て、四人に関連のあるすべての事項

    をデータに整理し、「イメージ・描写・判別分析」の技法の「属性、頻度の

    プロフィール、分布上の特徴」というアプローチを使い、四人のイメージを

    明らかにする。そして「助けられる存在」として描かれているかどうかを判

    明するには「関連性」のアプローチを使い、四人は「助けられる存在」とい

    う特定なイメージとの関連性をどれくらい持っているかを示す必要がある。

    したがって、本研究では「イメージ・描写・判別分析」という内容分析の技

    法を使うことにした。

    本研究と同じくテレビドラマの登場人物関する研究である。俣野裕美の

    「1990 年代の米国製テレビドラマにおける中国系女性像」(2013)の論文に

    おいては、メディア作品の分析は時に主観性が指摘されることがあり3、客観

    性をいかに担保するかが問題になると述べている。本研究は体系的に中国の

    若者像を他の登場人物との関係性の中で捉えることを目的としているため、

    これらを重視して分析方法を設定した。まず,作品中で中国系女性が登場す

    る場面の台詞を全て文字に書き起こした。その資料を元に,中国系女性と他

    の登場人物との間で繰り返されるパターンを抜出し,一覧が可能となるよう

    に表を作成するという方法をとった。

    3 藤田真文(2006)「ギフト,再配達-テレビ・テクスト分析入門」,せりか書房,p5

  • 14

    本研究も俣野裕美の「1990 年代の米国製テレビドラマにおける中国系女性

    像」(2013)の研究からヒントを得た:アメリカ製のドラマのなかで中国系女

    性は「助けられる人物」として描かれているのであれば、日本製のテレビド

    ラマも中国人の若者女性を「助かられる人物」として描いているのであろう。

    そこで本論文では俣野のこの論文の研究結果を念頭に置いて、研究方法につ

    いても参考にした。

    本研究では内容分析と俣野裕美の「1990 年代の米国製テレビドラマにおけ

    る中国系女性像」(2013)の研究論文の方法をもとに、本研究の目的と焦点に

    合わせて新たな研究方法をとった。

  • 15

    2. 分析方法

    2.1 分析対象の選定

    テレビドラマ番組にはできるだけ視聴率を上げたいと送り手が認知した受

    け手の好みやニーズ、スポンサーの意向、制作費のなど様々な要因がそれぞ

    れ関わっている。そこで、その影響をできるだけ抑えるため、異なる条件で

    制作されたテレビドラマを選択し、複数のドラマを研究対象として取り上げ

    るようにした。

    研究対象とする作品を選定する際、古くから数ある日本製のドラマの中か

    ら中国役が登場した全てのドラマ作品を把握、分析することには困難が伴う

    ことが判明した。中国人若者の役が登場していても、名前も挙がらない端役

    の場合には、作品を見つけることが難しい。これらのことを克服するため、

    本研究では日中交流が盛んであった2008年から2011年までの日本製テレビド

    ラマから研究対象を選定することにした。2008年から2011年の日本製テレビ

    ドラマの中で、中国人の若い女性役が主要登場人物かゲストとして登場する

    テレビドラマで探したところ、2008年の「OL日本」(22:00-22:54,8.1%)・

    「上海タイフーン」(21:00-21:58,7.0%)・「特命係長 只野仁 ファイナ

    ル」(23:15 - 24:15,10.3%)、2009年の「RESCUE〜特別高度救助隊」(19:56

    - 20:54,10%)・「遥かなる絆」(21:00 - 21:58,7.72%)・「ギネ 産婦

    人科の女たち」(22:00 - 22:54,11.7%)、2010年の「月の恋人~Moon Lovers

    ~」(21:00-21:54,16.8%)・「絶対零度」(21:00 - 21:54,14.4%)・

    「日本人の知らない日本語」(23:58 - 24:38,3.32%)、2011年の「カルテ

    ット」(24:55-25:25,1.6%)が該当し(括弧の中の数字は主な放送時間

    及び平均視聴率)、表2.1にまとめてみた。

  • 16

    表2.1 中国人の若い女性が登場するテレビドラマ(2008-2011)

    年度 番組 放送時間 放送回数 平均視聴率 DVDの有無

    2008 OL日本 22:00-22:

    54

    12 8.1% 有

    2008 上海タイフー

    21:00-21:58 6 7.0% 有

    2008 特命係長 只野

    仁 ファイナル

    23:15 -

    24:15

    2 10.3% 有

    2009 RESCUE〜特別

    高度救助隊

    21:00 -

    21:54

    9 10% 有

    2009 遥かなる絆 21:00 -

    21:54

    6 7.72% 無

    2009 ギネ 産婦人科

    の女たち

    22:00 -

    22:54

    9 11.7% 有

    2010 月の恋人~

    Moon Lovers

    21:00-21:

    54

    8 16.8% 有

    2010 絶対零度 21:00 -

    21:54

    11 14.4% 有

    2010 日本人の知ら

    ない日本語

    23:58 -

    24:38

    12 3.32% 有

    2011 カルテット 24:55-25:

    25

    9 1.6% 無

    そして作品の選定においては次の岩男の基準を用いた。

    岩男4は、番組制作者は視聴者の好みを推定し、高視聴率をあげることを意

    図して番組を制作しているから、高視聴率の「ドラマ」番組は視聴者の好み

    をより的確に反映していると述べている。したがって、本研究では特に低視

    4西別府厚子, 岩男壽美子 テレビドラマの社会心理学的研究:内容分析を中心として, 武蔵工業大学環境情報学部紀要

    7号, P79-89, 2006

  • 17

    聴率である「日本人の知らない日本語」(3.32%)、と「カルテット」(1.6%)

    を研究対象から外した。

    高視聴率の番組に作り上げるため、テレビ局の制作側は視聴者のニーズを

    推定し、できるだけ夜のプライムタイム(21~23 時)でドラマを放送すると

    思われるため、プライムタイムで放送されるドラマはより的確に視聴者の好

    みを反映すると考えられる。したがって、本研究では社会への影響力が大き

    い、公共放送と民間放送(地上波テレビ)の連続ドラマにてプライムタイム

    (21~23時)で放送された作品を取り上げた。「OL日本」(22:00-22:54)、

    「上海タイフーン」(21:00-21:58)、「月の恋人~Moon Lovers~」(21:

    00-21:54)、「遥かなる絆」(21:00 - 21:58)、「ギネ 産婦人科の女たち」

    (22:00 - 22:54)、「絶対零度」(21:00 - 21:54)が該当した。

    そして、中国人若者女性の役者が準主役以上で出演していることによって、

    作品のから登場人物の背景、性格、およびストーリーの発展に生まれる変化

    は、登場人物の研究に必要不可欠である。そのために、1話だけにゲストとし

    て名前も挙がらない端役の若い中国人女性役だけが登場する「ギネ 産婦人科

    の女たち」と「絶対零度」を研究対象から外すことにした。

    最後に、正確に作品を把握できて、視聴、分析を可能にするため、DVDもし

    くはビデオ化作品であること、という基準を設けた。そこで「遥かなる絆」

    という作品を探したところ、視聴できるような作品を見つけ出すことができ

    なかったため、残された NHK 総合の「上海タイフーン」、日本テレビの「OL

    日本」と 2010 年に放送されたフジテレビの「月の恋人~Moon Lovers~」の

    三つの作品を取上げることにした。

  • 18

    2.2 分析対象

    今回の研究では、日中交流の盛んである時期の2008年から2011年までの4

    年間に地上波テレビのテレビ局で放映された連続ドラマの中から、2008年に

    放送されたNHK総合の「上海タイフーン」、日本テレビの「OL日本」と2010

    年に放送されたフジテレビの「月の恋人~Moon Lovers~」を取上げた。

    選択された三つの日本製テレビドラマの基本データについて紹介する。

    表1.4 各ドラマの基本データ

    ドラマ名 制作会社 制作年度 脚本家

    上海タイフーン NHKエンタープライズ 2008 福田靖

    OL日本 AXON,日本テレビ 2008 中園ミホ

    月の恋人~Moon

    Lovers~

    フジテレビドラマ制作

    センター

    2010 浅野妙子、池上純哉、

    高橋幹子、山上ちはる

    制作会社、制作年度と脚本家の角度から、この三つのドラマを取り上げる

    理由を説明する。

    三つのドラマはそれぞれ異なる制作会社による作られたものである。「上

    海タイフーン」を作った NHKエンタープライズという制作会社は NHKアーカ

    イブスのような情報・文化・教養番組、NHK正月時代劇をはじめとするドラマ・

    時代劇、海外ドラマの日本語版制作、アニメーション番組、子供番組のさま

    ざまなテレビ番組やラジオ番組を制作している会社である。「OL日本」を作

    った AXONという制作会社は劇場映画制作、情報番組、バラエティ番組、ドラ

    マ、報道番組やスポーツ番組のテレビ番組制作、CMなどのコンテンツ制作を

    携わっている制作会社である。「月の恋人~Moon Lovers~」を作ったフジ

    テレビドラマ制作センターはフジテレビの自社制作で、バラエティ制作セン

    ターと情報番組センターとともに制作著作・フジテレビに所属している。フ

    ジテレビのドラマを手がけている制作会社である。研究対象とする三つのド

  • 19

    ラマはこの三つの制作会社が作った多様な番組の中の典型的な番組である。

    日中交流の盛んである時期の 2008年から 2013年までの 6年間に地上波テ

    レビのテレビ局で放映された連続ドラマという選択基準に合わせ、この三つ

    のドラマの制作年度はそれぞれ 2008年と 2010年のもので、最近のものであ

    り、しかも同じ期間に中国人を取り上げた他の番組はない。

    「上海タイフーン」を手がけた脚本家の福田靖は多くの番組を制作してお

    り、体表作としては「ガリレオ」「HERO」「救命病棟24時シリーズ」「龍馬

    伝」などである。「OL日本」を手がけた脚本家の中園ミホは2007年にはドラ

    マ「ハケンの品格」の脚本で放送文化基金賞を、2008年には日本女性放送者

    懇談会の「放送ウーマン賞2007」、橋田壽賀子賞作品賞をそれぞれ受賞した。

    2013年、「はつ恋」、「Doctor-X 外科医・大門未知子」で、第31回向田邦子

    賞を受賞した。連続ドラマの代表作には、フジテレビの「Age,35 恋しくて」

    「やまとなでしこ」「スタアの恋」、日本テレビの「anego」「ハケンの品格」

    などがある。「月の恋人~Moon Lovers~」を手がけた脚本家の浅野妙子は

    1994年、「無言電話」で第7回フジテレビヤングシナリオ大賞の佳作を受賞し

    た。その後、「ラブジェネレーション」「神様、もう少しだけ」「大奥」「ラ

    スト・フレンズ」など、数々の話題作を発表した。三人ともテレビ番組の代

    表的な脚本家である。

    三つのドラマのあらすじについて紹介する。

    「上海タイフーン」は日本で行き場を失った一人の30代の女性を主人公に、

    文化、習慣の違いにもまれ、複雑な競争社会に立ち向かい、切実に生き抜き、

    やがては国籍を超えた人間関係を得て、自分の「幸せのかたち」を見つける

    物語である。女主人公野村美鈴はもともと日本のアパレル会社で働いて、中

    国上海での出張をきっかけに仕事も婚約者も失った。復讐を決意した野村は

    再び上海へ行き、新たなスタートを切りたいと考え、いろいろな困難と向き

    合い、最後は中国で十年ぶりに父親と会うことができ、国境を越えた仲間や

    ソウルメイトを手に入れ、夢を実現するストーリーである(図4)。

  • 20

    図4 「上海タイフーン」

    「上海」のホームページより

    「OL日本」は中国でのアウトソーシングの成果を視察して帰国した会社員神

    崎島子が所属する総務課の仕事は中国に移され、人事部と経理部の業務の 50%

    以上は中国に移管されることになった。。それと同時に、中国の人材派遣会社・

    杭州人材有限公司からやって来た中国人研修生も日本の総務課で研修を始める。

    日本人と中国人が混ざって仕事をし始める時に、異文化が衝突して、うまく行

    かなかったが、だんだんお互いが理解しあい、仲良くなっていくと同時に、自

    分たちの生きる道を探す物語である(図 5)。

  • 21

    図5 「OL日本」

    「OL」のホームページより

    「月の恋人~Moon Lovers~」の男主人公葉月蓮介は家具店の社長として、

    中国上海へ出店したが、1号店開店により閉鎖を迫られる工場で働く中国人たち

    が建設反対を訴え、座り込みを断行していた。その頃に、葉月蓮介は工場で働

    いていた劉シュウメイと出会った。デザイナとして葉月蓮介の会社で働く二宮

    真絵美は蓮介と学生時代からの知り合いで蓮介に信頼されて唯一蓮介に意見で

    きる存在である。蔡風見は蓮介の有能な部下で、日本からは蓮介を追いかけ、

    モデルの大貫柚月も上海まで乗り込んだ。「月の恋人~Moon Lovers~」はこの

    五人のラブストーリーが展開していくという物語である(図 6)。

    図6 「月の恋人~Moon Lovers~」

    「月」のホームページより

  • 22

    この三つの作品に登場する四人の中国人女性の登場人物はすべて中国(台

    湾)人役者が出演しており、実際に中国でとったシーンもたくさんある。こ

    の三つの作品に登場する中国人の若者女性役の黄琳(フアン・リン)、張琳

    (チャン・リン)、楊洋(ヤン・ヤン)、劉秀美(リュウ・シューミ)の四

    人を対象にして、詳しく分析する。

  • 23

    2.3 分析の枠組み

    分析方法として、三つの日本製テレビドラマにおける四人の登場人物がど

    のように描写され、「助けられる存在」に概念化されているかを明らかにす

    ることが目的である。そのために、彼女たちの容姿・外見、生活環境・社会

    的位置づけ及び性格・行動に関する分析を行う必要がある。故に四人の登場

    人物に焦点を当て、四人に関連するすべての事項をデータ化して整理し、「イ

    メージ・描写・判別分析」の技法の「属性、頻度のプロフィール、分布上の

    特徴」というアプローチを用い、四人のイメージを明らかにする。そして「助

    けられる存在」として描かれているかどうかを明らかにするために「関連性」

    のアプローチを用い、四人が「助けられる存在」という特定なイメージとの

    関連性をどの程度持っているかを示す必要がある。したがって、本研究では

    「イメージ・描写・判別分析」という内容分析の技法を用いることにした。

    本研究の分析方法について紹介する。三つのテレビドラマに登場する中国人

    の若者女性四人を研究対象に、四人が登場する場面のすべての台詞を書き起

    こし、その資料を元に彼女たちの容姿・外見、生活環境・社会的位置づけ、

    性格・行動の三つの角度と容姿・外見、生活環境・社会的位置づけの前後対

    比について分析し、四人が最初に登場する時にはステレオタイプとなってい

    るかどうか、最後には「日本人に助けられる存在」となっているかどうかを

    判断する。具体的な分析方法は内容分析で、俣野の分析方法を基づいて、ド

    ラマの中の具体的な人物の設定や台詞をすべて書き起こした資料を分析する

    という方法を取った。

    分析を容易にするために、操作的定義をいくつかする。容姿・外見に関し

    ては、「すっぴん、あるいは薄い化粧である」・「髪の毛は地色で染めたり

    してスタイリングしていない」・「服装は時代遅れである、あるいは何5着以

    下しかない」の三つの条件のうちに二つを満たせば「素朴」であると判定す

    る。生活環境・社会的位置づけに関しては、「農村出身」・「家庭の家計が

    一人稼ぎに頼っている」・「お金に困っている」という三つの条件のうちの

    二つを満たせば「貧困」であると判定する。

  • 24

    客観性を担保するため、性格については複数の人で分析を行った。さらに

    性格の分類の枠組みと基準については、登場する場面から現れるすべての性

    格要素をまとめ、たとえば「他人に助けられる」・「他人に決められる」場

    面の回数が5回あるなら無力だと判断、「他人を助ける」・「自分より先に他

    人を考える」場面が5回あるならやさしいと判定する。つまりそれぞれの性格

    が表す場面が5回以上あれば、その性格を持つと判断する。

    具体的な分析に入る前に、まず四人の基本背景について紹介する。

    「上海」の黄琳は上海で暮らしている現役高校生である。母親と二人暮ら

    しをしているため、母親の稼ぎで家計を立てている。日本に出稼ぎに行った

    きりの父親に会いに行くために、黄は日本語を勉強している。しかし母親か

    らの理解が得られず、いつも父親のことで母親と喧嘩している。そこで「上

    海」の女主人公の野村と出会い、お互いに励まし、最後は野村が作ったアパ

    レルのブランドのモデルになり、上海コレクションのステージに立ち、父親

    と会うこともでき、日本へと留学する夢にも成功した。

    「OL」の張琳は貧困な中国湖南省の山奥の農村の出身で、両親が身を粉に

    して働き、大学へ行かせた。卒業してから中国の杭州人材有限公司(アウト

    ソーシング会社)に就職し、そして女主人公の神崎の働いている日本会社で

    研修生として働くことをきっかけに、初めて国から出て、日本人の同僚と毎

    日過ごすことになった。「OL」に登場するもう一人の若者女性楊洋は上海市

    出身の女の子で、張と同じく研修生として日本に来た。この二人は日本で働

    き、日本人と衝突することもあるものの、だんだんお互いに理解することが

    でき、日本人の友達もできた。

    「月」の劉秀美は江西省の出身で、もともとは上海で出稼ぎ労働者として

    主人公が買収した家具工場で働いていた。病気で寝たきりな母親と二人暮ら

    しであり、劉は薬代から生活費までやりくりしている。そこで工場が買収さ

    れ、家計がかなり苦しい状態で、立ち退きも通告された状況の中、やむを得

    ず主人公葉月の新しい会社でモデルとして働き始める。劉は連絡を取り合っ

    ていない父親がいて、現在は日本で暮らしている。本人はいつか父親に会い

  • 25

    に日本へ行きたいと思っているため、近所の人から日本語を少し学んでいる。

    モデルの仕事で日本へ行き、だんだん有名になり、父親と会うこともできた

    と同時に葉月との間にも恋が芽生える。しかしうまくいかず、最後は中国に

    帰り、女優になった。

  • 26

    3. 分析結果

    3.1 外見・容姿

    テレビドラマは何話もストーリーが続くことによって、俳優は何回も登場

    し、その髪形や服装もストーリーの進展に合わせて変わっていく。本研究で

    外見を研究する際には、中国人若者が最初に登場するシーンに力を入れ、ス

    トーリー全般に合わせ、一人一人の容姿を分析する。

    ここで四人の一番特色のあるテレビドラマの中での姿を画像で見せる。

    図3.1.1 「上海」の黄琳

    「上海」第2話 43分25秒より

    図3.1.2 「OL」の張琳と楊洋

    「OL日本」のホームページにより

  • 27

    図3.1.3 「月」の劉シュウメイ

    「月」第一話より

    三つのドラマの中で、最初に登場する時の髪形や服装を一番の基準とした

    理由は、視聴者が最初に受けた視覚の刺激が一番強く、短い時間で第一印象

    が形成され、視聴者の記憶に残る時間がより長い5ためとされていることによ

    るのである。そして四人それぞれの最初に登場する時と最後に登場する時の

    容姿・外見にも大きな変化が見られる。

    3.1.1 髪形

    研究対象の四人がそれぞれのテレビドラマの第一話に登場する時の髪形に

    ついては表3.1.1の通りである。

    表3.1.1 登場人物の髪型

    色 形

    黄琳 黒 ストレートの二つ結び

    張琳 黒 ストレートの一つ結び

    楊洋 黒 三つ编みの一つ結び

    劉秀美 黒 三つ編み

    5植木理恵,『出会いをドラマに変える 2 分の法則 第一印象の心理術』,東洋経済新報社,2006,

    P23

  • 28

    四人の髪形をまとめてみると、ほぼ黒の髪色で、比較的に簡単な髪形をし

    ている。共通点は全員長い髪で、ほぼすべてが一番簡単な黒の一本結びか三

    つ編みということである。

    しかしストーリーの流れに合わせて、変化を遂げる。最後に登場する時に

    は四人とも最初の登場と一変して、セッティングされた散らし髪となってい

    る。その中にも一番の変化を見せたのは劉秀美である。劉が最初に登場する

    時には乱れた三つ编みで、髪色も黒であったが、だんだん茶色くなり、おし

    ゃれな髪形になっていく。

    3.1.2 化粧状態

    「上海タイフーン」(以下は「上海」と略す)の主要人物として登場する黄

    琳を演じる女優は可愛らしい顔を持ち、主に薄い化粧で登場する人物である。

    「OL日本」(以下は「OL」と略す)に登場する二人の女性張琳と楊洋の容

    貌については、すっぴんを特徴としている。二人の化粧状態を説明するため

    に、日本に研修生として働きはじめたとき、同じ女性の日本人先輩の神崎と

    矢部を家に招いた場面を例として挙げる。

    例:「OL日本」第一話 46分50秒

    楊:「神崎さん、質問があるよ。神崎さんも矢部ちゃんも部長も、みんな

    なんで働くときに化粧するの?」

    神崎:「それはOLの身だしなみかなー」

    矢部:「すっぴんはちょっとね、会社だし、男の目もあるし。」

    張:「すっぴんダメですか?」

    楊:「中国では働く女みんなすっぴんだよ。化粧して働くのはホステスだ

    け。」

    神崎:「中国ではそうでも、日本では…」

    楊:「日本のOLなんかおかしいよ。何十分もトイレで化粧してて、なんか

    びっくりした!仕事に化粧するのは本当に必要?中身のほうが大事だよ

  • 29

    ね!」

    神崎と矢部:無言

    この場面では日本人と中国人の若者女性の化粧意識が激しくぶつかるシー

    ンである。まとめてみると、日本の若者女性にとって化粧は毎日の仕事に必

    要不可欠なものであることに比べ、中国の若者女性は、化粧は「ホステス」

    しかしない、まるで中国では化粧をする人はまともじゃないという風に描か

    れる。つまり、仕事するときに、日本人の若者女性は化粧するのが当たり前

    のようであるが、まともな中国の若者女性は決して化粧しないで、すっぴん

    で出勤するのが当然であるとされている。

    「月の恋人~Moon Lovers~」(以下は「月」と略す)に登場する劉秀美

    が第一話で最初に登場するのは、男主人公の葉月蓮介が上海で会社を進出す

    るために、上海で元々ある工場を買収し、撤去しようとする時、工場で働い

    ていた中国人の人が抗議をするシーンである。劉は「工場を返せ」と叫びな

    がら、葉月が乗っている車の窓を強く叩く。髪の毛が汚れた顔に散乱して、

    ほかの抗議者に押さられ顔を葉月の車窓にぶつけ、葉月はそれに対して嫌な

    顔で「きったない」と言うシーンである。このシーンから、劉は自分の外見

    を完全に無視し、工場のことしか考えない心境が現れる。第一話の劉の容貌

    に関しては、化粧はもちろん、清潔すら保たない人物だと思われる。

    3.1.3 服装

    「上海」に登場する若い女性黄琳が第二話に登場する時には大きなリュッ

    クを背負って、白いシャツと赤いズボンを着ている。ストレートの二つ结び

    の髪形と合わせて、素朴でかわいいらしい女の子のイメージを視聴者に持た

    せ、そしてそのイメージをストーリー全般に貫いたとわかる。最後の6話に黄

    琳は日本人主人公がデザインした洋服を着、モデルになり、上海コレクショ

    ンのステージに立ち、変身を遂げた。

    「OL」に登場する中国農村出身の若い女性張琳が最初に登場する時には日

  • 30

    本へと旅立つときである。大量な荷物を抱え、赤いリュックを背負い、色褪

    せたデニムジャケットと赤いズボンを着ている。「OL」に登場するもう一人

    の女性は上海出身の楊洋である。楊は張より家庭が裕福なので、普通のTシャ

    ツとデニムジーンズを着ている。日本の会社に着き、すぐに研修生の赤い制

    服に着替える。日常着について、張はほぼ黄ばんだシャツで、楊は紺色のジ

    ャージーである。二人とも一度もスカートを着たことがない。場面に応じて

    毎回違う服装(一話に平均5回)に着替えるほかの日本人役と比べ、服装につ

    いてほぼ変化のない二人である。その中、一回だけ変化を遂げた姿を見せた

    場面を例として挙げる。

    例:「OL」第8話16分46秒

    矢部:「きれいな絵柄だねー!」

    張:「これ矢部ちゃんの服です。」

    楊:うなずく

    矢部:「え!?あ、本当だー」

    楊:「この間ごみの日に捨てたから、拾っといたの。」

    矢部:「ハ、わたし洋服いっぱい持ってんのに、つい買っちゃうんだね。あ

    ー!」何か思い出した様子。

    出勤の時間

    神崎:すっかり変わった二人の中国人女の子を見てびっくりした表情。「ど

    うしたの、その服?」

    矢部:「じゃーん!」

    楊:「イメチェンだよ!」

    神崎:「すごくかわいい!似合ってる!」

    矢部:「やっぱりかわいいね!」

    神崎:「あ、この服…」

    矢部:「わたしのを貸したんです。二人ともいつも同じ服ばっかりだから。

    メークも私がしたんですよ!どうあるか?」

    神崎:「すごくかわいい!」

    楊:「でしょ!」

    張:「恥ずかしいです。」

  • 31

    そして四人の中で一番服装に変化がみられるのは「月」の女主人公として

    登場する劉秀美(以下は劉と略す)である。劉のすべての服装は大きく四種

    類に分けることができる。それは一話に登場する時の工場の作業服、有名に

    なる前の日常着、モデルをやる時のドレス、有名になった後の日常着である。

    ストーリーの流れに合わせて、劉の服装もだんだん派手になっていく。特に

    「日本に行く前」と「日本に行った後」の対比から見るとわかりやすい。一

    番特徴が最初に登場する時の作業服と最後に上海へと帰る時の白いワンピー

    スである。

    服装の変化は劉が服装に対する態度の変化に基づいているのである。最初

    の劉は工場を守るため、個人の外見は全然気にしてはいなかった。1話と2話

    から、劉が友達と一緒に葉月に抗議をしているシーンなど三つのシーンを取

    り上げた。

    「月」 第一話9分40秒

    友:「シュウメイ、あたし汗臭くない?」

    劉:匂いを嗅いで「大丈夫よ。みんなも泊りだもの。それよりこれで工場が

    戻るの?」

    「月」 第二話25分31秒 日本人の友達の二宮真絵美と電話で服の相談

    劉:「真絵美さん、今社長から電話あった。」

    二宮:「おー、んで?」

    劉:「これから行くから、したくして待ってろ、言われた。」

    二宮:「じゃデートってこと?」

    劉:「一緒に食事するって言ってた。」

    二宮:「あーそう、よかったじゃない。待ってたでしょ、電話。」

    劉:「困ったよ。わたしどうすればいい?」

    二宮:「どうすればいいったら、もう、待っていればいいんじゃないの?」

    劉:「でも、着るもの何にもない。真絵美さん、助けてー」

    二宮:電話に応じて、助けに来た。「ね、シュウメイ、中国から持ってきた

    ものはないの?」

  • 32

    劉:「あるよ。全部地味。」

    二宮:「あー、確かに地味だねー、これねー」

    「月」 第二話 46分 31秒 葉月と買い物し、きれいな服を着ている劉

    女子高生:「ね、あの子超かわいくない?絶対モデルだよね。」

    男子大学生:「超美人発見!何あれ足ヤバくね?」

    OL:「すごいきれいじゃない?羨ましいあのスタイル!あの服着たい!」

    葉月:「何で後ろに歩いてんだよ。」

    劉:「恥ずかしい、人に見られるのは好きじゃない。」

  • 33

    3.2 性格・行動

    性格・行動に関しては、研究対象とする四人の登場場面をすべて抽出し、

    それぞれの場面が示す四人の性格とその回数を表3.2.1にまとめた。それぞれ

    の性格が表す場面が5回以上あれば、その性格を持つと判断する。

    表3.2.1 四人の登場回数と性格の割合

    登場回

    数(通

    算)

    やさし

    家族思

    い・親孝

    勤勉・真

    面目

    無力・助

    けられ

    率直・飾

    らない

    性格と

    無関係

    黄琳 24 9 8 3 6 0 5

    張琳 57 25 7 12 8 4 8

    楊洋 56 26 0 11 0 18 9

    劉秀美 50 16 20 0 20 4 16

    この表3.2.1について、以後、それぞれ登場人物ひとりひとりについて、登場

    場面全てでどのように性格が判断されたかを示す。

    3.2.1 「上海」黄琳

    黄琳が登場する24回の場面の主な内容から判断された性格は以下の通りで

    ある。

    表 3.2.1.1 黄の登場場面

    場面 判定された性格

    家族

    い・親

    孝行

    勉・

    真面

    力・助

    けら

    れる

    直・飾

    らな

    性格

    と無

    関係

    1 日本の大学から中国へと帰省

    する

  • 34

    2 父のために母と喧嘩し、泣く ○ ○

    3 父との写真を見て泣く ○ ○

    4 野村の買い出しに手伝い、野

    村と友達になる

    5 知らない人に野村をさりげな

    くほめる

    6 野村が首になったのを知る ○

    7 野村が日本へ帰るのを惜しむ ○

    8 勉強中、野村を心配する ○ ○

    9 野村から「あきらめない」と

    伝えられる

    10 太極拳をやる ○

    11 遠藤に日本語を教わり、父へ

    の思いを話し、「いつも空港に

    行って、日本行きの飛行機を

    眺めるしかない」、母とまた喧

    嘩、母に「聞きたくない」「お

    母さん、もうやめて」

    ○ ○ ○

    12 父のことを野村と相談したい

    ができない

    ○ ○

    13 母と喧嘩し家出し、父を思い、

    空港で飛行機を眺める

    ○ ○

    14 日本語を勉強する ○

    15 野村の洋服のデザインにアド

    バイスを出す

    16 野村たちのためにただで借り

    てくれる作業場を見つける

    17 仕事する人たちに差し入れを

    持ってくる

    18 遠藤たちとご飯しながら野村

    のことについて話す

    19 野村たちがデザインした洋服 ○

  • 35

    を試着、モデルに決定

    20 店をオープンした野村を励ま

    21 お客さんのこない店のことを

    心配する

    22 モデルになり、ステージに立

    つことを手紙で父に伝う

    23 父に会いたい気持ちを母に話

    24 野村たちのおかげでモデルと

    してステージに立ち、父にも

    会い、ステージで泣く

    ○ ○

    以上の場面を表 3.2.1.2 にまとめた。

    表 3.2.1.2 黄が登場する場面

    場面と回数 性格

    父を思う×8 家族思い

    父に会いたくでも自分の力では会え

    ない×6

    無力

    日本語を勉強する×3 勤勉・真面目

    他人のことを心配する×2 やさしさ

    他人を手伝う×3 やさしさ

    野村によってやっと父と会うことが

    できる

    無力

    他人をほめる やさしさ

    他人を励ます やさしさ

    他人との別れを惜しむ やさしさ

    差し入れを持ってくる やさしさ

    黄の性格を明らかにするために、いくつかの場面を例にして説明する。

    優しい性格を示す例1:「上海」第2話 43分11秒

  • 36

    野村:「上海蟹、4ハイください。」

    店主:野村が外国人だとわかった。「50元。」

    野村:「安くして。」

    店主:「ダメだよ。50元でも安い。50元だよ。」

    野村:高いと知りながらしょうがなくお金を払おうとする。

    黄:急に現れる。「これ20元ね。」

    店主:「バカ言うな。」

    黄:「ほかの人にいくらで売るか、ここで見てる。」

    店主:しょうがなく、「じゃあ、いいよ。」

    黄:野村に「20元でいいって。」

    野村:「よかった!おかげで安く買えた。ありがとう。上海の人に親切にし

    てもらったのはあなたが初めてよ。」

    黄:微笑む。

    優しい性格を示す例2:「上海」第6話 11分27秒 野村がお店をオープンし

    たものの、なかなかお客さんが来ないときの場面

    黄:勉強中、心配そうな顔で窓から野村のお店を見つめる。

    母:飲み物を持ってきて「少し休んで。」

    黄:目をお店から逸らさない。「うん。」

    母:「お客さんはまだ?」

    黄:「そうなの」

    12分13秒 夜になって野村が店を閉める。

    野村:独り言で悲しそうに「は…どうしたらいいの、チェリードラゴンを上

    海中の人に知ってもらう。」一人でローリングプレイをやり始める。「まあ、

    かわいいスカート!でしょう!チェリードラゴンよ!そんなブランドどこで

    知ったの?それはね…全然思いつかない!」

    黄:急に現れる。「美鈴!」

    野村:びっくりする。「違うよ、琳ちゃん!私大丈夫だから!ちょっと考え

    ることをしただけ!」

    黄:「美鈴さんたちは絶対成功します!チェリードラゴンはいつか上海コレ

    クションに出ます。」

    野村:「上海コレクション…?」

  • 37

    黄:うなずく。

    野村:笑って「夢みたいな話。でもそうなったら素敵ね!」

    黄と野村:笑いあい。

    「上海」というテレビドラマから黄の一番伝わる特徴は父への思いである。

    2話で最初に登場する時にも視聴者に強い印象を残した。黄は野村と同居人の

    日本人の遠野麻里の部屋の窓から見える隣に住んでいる。

    家族思い性格を示す例1:「上海」第2話 31分01秒

    野村:「あー、洗濯も忘れてた。」洗濯物をとり、黄が一人で庭で涙を流し

    ながら写真を見つめているのを見た。「あの子、向かいのうちの子でしょう?」

    遠藤:「え?あー、琳ちゃん?」

    野村:「琳ちゃんって言うんだ。」

    遠藤:嘆いて「またお母さんと喧嘩したのかなー。いつもお父さんのことで

    やり合っているんです。」

    野村:「お父さん?」

    遠藤:「うん、日本に出稼ぎに行っているだって、もう何年も行ったきりら

    しくって…やっぱり寂しんじゃないですか。」

    黄:古い父とのツーショットの写真を見つめる。涙を拭く。

    家族思いの性格を示す例2:「上海」第4話 19分24秒

    母:「五年間、一度も帰らないなんて変よ!」

    黄:「お父さんは頑張ってるのよ!」

    母:「日本で遊んでるんだわ。」

    黄:「聞きたくない!」

    母:「私が毎日どんな思いでいるか知りもしないで、そんなに父さんが大事

    なら、出ていけばいいわ!」

    黄:「もうやめて!」

    38分50秒 母と喧嘩した黄は家出。野村と遠藤は空港のそばで飛行機が飛ん

    でいるのを見つめる黄を見つける。

    遠藤:「お父さんに会いたいのね!」

    黄:うなずく。「お父さんは寝る間も惜しんで働いている。私のために…で

  • 38

    も会いたい!お父さんに会いたい!」

    遠藤:「きっと、お父さんは決めたのよ。琳ちゃんを大学に入れるまで帰ら

    ずに頑張ってるって。琳ちゃんが頑張れば、また三人で暮らせる日が必ず来

    るわ。」

    黄:無言で泣く。遠藤たちと一緒に母親の元に帰る。

    家族思い性格を示す例3:「上海」第6話 27分35秒 チェリードラゴンの洋

    服を上海コレクションに出すことを決め、黄もそのショーのモデルとして決

    められた後、野村が帰る途中黄に呼び止められた。

    黄:窓を開け「美鈴、待って!」

    野村:「琳ちゃん!」

    黄:「私はショーに出るのを、お父さんに見てもらいたいの。お父さんに出

    紙を書いてもいい?」

    野村:「もちろん!」

    黄:「ありがとう!」

    36分15秒 ショーが始まる前に

    黄:「お父さんは?」

    母:「まだ連絡がないの。」

    41分30秒 黄がステージに立ち、キレイになり、変身を遂げる。観客席が驚

    嘆し拍手する。父親が観客の中から現れるのを気づき、黄がステージの上で

    驚き、動かなくなる。父と見つめ合い、涙を流し、ステージで倒れる。観客

    が騒ぐ。ショーの出資者の曹飛がステージに上がる。泣いている黄を慰める。

    曹:「お父さんが来てるんだね。さあ、立って。」倒れている黄を起こす。

    遠藤たちに「彼女のお父さんが客席にいる。」黄に「美鈴から聞いてるよ。5

    年ぶりに顔を見たんだろ?」

    黄:泣きながら「ごめんなさい。」

    遠藤:「琳ちゃん、おいて。」黄をステージから連れ去る。

    曹:観客に「ただいまのアクシデントを心からお詫びします。野村が5年も離

    れ離れだった親子をここで再会させた。……ショーを再開しましょう!」

  • 39

    3.2.2 「OL」張琳

    張が登場する57回の場面の主な内容とそれから伝わる性格は以下の通りであ

    る。

    表3.2.2 張の登場場面

    場面 判定された性格

    家族思

    い・親孝

    勉・

    真面

    力・助

    けら

    れる

    直・飾

    らな

    性格

    と無

    関係

    1 家族の人と別れを告げ、泣

    きながら「パパママ、元気

    でね」

    2 成田空港で両親からの荷物

    をなくし、神崎に助けを求

    める:

    ○ ○

    3 研修生として東慶商事に入

    り、部長の関西弁に関して

    質問する

    ○ ○

    4 神崎から勉強し始め、掃除

    の仕事も平気でやる

    ○ ○

    5 神崎とのタイピングの勝負

    で勝つ

    6 神崎にお礼を言いたいた

    め、家まで招く

    7 神崎や小旗と会社へ行く道

    で会話

    8 不可能だと思われる内容を

    一晩中で覚え、「もっと教え

    てください」

    9 親にお金を送るために会社

    のルールを破ってコンビニ

    ○ ○

  • 40

    のアルバイトをする

    10 神崎がアルバイトのことに

    ついて張の家に訪ね、張は

    両親への思いを話す

    ○ ○

    11 夜遅くまで働き、家に帰っ

    ても勉強する

    12 アルバイトが発覚し、「お金

    が必要」

    ○ ○

    13 会社に辞めさせられる ○

    14 停電でデータの修復に一晩

    中手伝う

    ○ ○

    15 泣きながら中国に帰る際

    に、課長のおかげで引き止

    められる

    16 寿退社について初めて知る ○

    17 「次の仕事を教えてくださ

    い!」

    18 節約のために歩いて帰る ○

    19 会社で料理し、みんなに分

    け、「一生懸命働けば、明日

    はきっといい日になる」

    ○ ○

    20 神崎が寿退社すると知り、

    悲しむ

    21 神崎の退社のためにお祝い

    をする

    22 招待されたのにお金をとら

    えるとこについて疑問

    23 カラオケで他人の歌を勝手

    に歌う

    24 両親のために家を建ててあ

    げるのは夢

    25 矢部の引っ越しに手伝う ○

  • 41

    26 矢部を励ます ○

    27 神崎の弁当をほめる ○

    28 みんなと会社のことについ

    て話す

    29 小旗と仕事について話す ○

    30 大龍のために通訳、矢部に

    気を使う

    31 会社の代わりに謝る ○

    32 無関係の他人を同情する ○

    33 課長を茶化する ○

    34 「課長はやさしい人です」 ○

    35 試食会を自ら手伝おうとす

    36 「屋台頑張ります!」 ○

    37 泣きながら日本人に「思っ

    ていることを言ってくださ

    い」

    ○ ○

    38 課長を褒める ○

    39 「ここ、教えてください」 ○

    40 「今の言葉をマニュアルに

    書きます」

    41 「もっと教えてください」 ○

    42 神崎から「マニュアルより

    大事なこと」を教わる

    43 矢部を励ます ○

    44 神崎の仕事をただで手伝う ○

    45 野呂主任を心配する ○

    46 新しい仕事に入る ○

    47 病気する部長のことを心配

    する

    48 みんなのために運動会の鉢

    巻を作る

  • 42

    49 運動会は雨で中止 ○

    50 「中止ですか?でもみんな

    すぐ離れ離れになります

    よ!」

    51 日中友好マニュアルの作り

    に手伝う

    52 手伝いとしてセミナーでコ

    ントをやる

    53 楊と日本に残るかどうかに

    ついて喧嘩

    54 マニュアル完成、お祝いさ

    れる

    55 みんなのこれからの行く道

    について聞く

    56 涙を流しながらみんなに感

    謝する

    ○ ○

    57 中国で日本人を紹介する指

    導者となる

    ここからは「OL」に登場する一人の中国人研修生の張琳が無力、助けられ

    るシーンを分析する。

    張琳は中国湖南省の山奥の農村から日本の女主人公神崎島子の会社に研修

    生として成田空港までやってきた。神崎は出迎えに行ったが、とっくに到着

    済みなのになかなか張の姿が見えなかったため、神崎が出口の手前の椅子に

    座った。その時に不安そうな顔で一人の女の子(張)が出てきた。

    張の性格の無力を示す例1:「OL」第1話 17分40秒

    張:泣きそうな顔で「助けてください!」

    神崎:「え!?」

    張:神崎の手を掴んで「助けてください。」

  • 43

    神崎:「ちょっと、私、人待ってるから、ここ動けないのよ。」

    張:さらに泣きそうな顔になる。

    神崎:しょうがなく、「なに?どうしたの?」

    張:「私の荷物ありません!私の荷物どこ行きましたかわかりません!」

    神崎:張が抱えている荷物を見て「荷物、あるじゃない?」

    張:泣く。「これじゃない、もう一つ…」中国語で「それは両親からもらっ

    た大切なものだから、なくしたら生きていられない!」

    神崎:「中国語わからないのよ、日本語で言ってくれる?」

    張:声もたてないで泣く。「私の荷物、助けてください!」

    神崎:「わかったから、落ち着いて!」張を連れて案内所に聞きに行ったが、

    向こうが手一杯なので対応できなかった。張に「大丈夫、きっと見つかるか

    ら!」

    張:神崎において行かれると思い、不安な顔になる。

    神崎:「私が一緒に探しますから!」

    張:やっと安心して、「ありがとうございます。」

    神崎が彼方此方聞きまわって、最後まで責任を持って張の荷物を探し出し

    た。張は自分の荷物を見て大泣きした。

    張の性格の無力を示す例2:「OL」第2話 41分13秒 両親へお金を送るため

    に張はこっそり夜のコンビニのアルバイトをしている。結局は会社に発覚、

    張を中国に帰らせることになった。しかし張は一週間かけて作ったデータの

    回復作業を手伝い、見事完成したという仕事能力に感心し、課長が部長に「張

    さんは必要だ」と言い、空港で帰り際の張さんを呼び止めた。

    張:「私、日本好きでした。あの会社の人たち、好きでした。」

    マネージャの小旗:「まあ、またチャンスがあったら日本にいらっしゃい。」

    張:「はい。さようなら。」出発口へ向かう。

    小旗:自分に「一生無理だろうな…せっかく日本語勉強したのにな…」

    神崎:走ってくる。「待って、張さん!帰っちゃダメ。」

    張:「神崎さん!」

    神崎:「もう一度、一緒に、働こう!あなたのスキルが必要だって、課長が部

    長に言ってくれたの。一緒に働こう!」

    張:大きくうなずく。泣く。

  • 44

    神崎:「さあ、行こうか。張さん?」

    張:声もたてないで泣く。「ありがとうございます。ありがとうございます!

    ありがとうございます!」

    しかし、張という人物は無力さだけではない。張はやさしくて純粋な人の

    例を二つ挙げる。

    張の優しい性格を示す例1:「OL」第1話 45分43秒 神崎と同僚の矢部が退

    社。その日に会社で日本語のタイピングの試合で張に負けた神崎は、中国の

    研修生に負けるとは思わなかったので、落ち込んでいる。会社の外で楊洋が

    待っている。

    楊:「神崎さん、ね、一緒に来て!琳琳がお礼したいって。」

    神崎:「お礼?」

    楊:「うん!琳琳がね、アパートでごちそう作って待ってるから!だから一

    緒に来てよ!」

    神崎:「お礼をしてもらうようなこと、私何もしてない…」

    矢部:「先輩、ごちそうしてもらいましょうよ!」

    48分40秒 三人が張のアパートに到着。ご飯を食べている。

    張:「神崎さん、今日はありがとうございました。」

    神崎:「なに?」

    張:「わざと私に勝たせてくれました。神崎さん、私たちが会社にいられる

    ように…」

    神崎:「違う。私は…」

    張:頭を振る。「最初に会った時から、やさしいいい人です。成田空港で荷

    物一緒に探してくれました。」

    神崎:「それは仕事で、あなたのこと部長に頼まれたから…」

    張:「神崎さん一生懸命探してくれました。」

    楊:「今日もわざと負けてくれましたね。神崎さん、ありがとう!」

    張:「このご恩は一生忘れません。」

    この場面では張と楊がやさしくて純粋な人だと判断される。神崎から本人

    の覚えのないちょっとした優しさをもらったら、感謝の気持ちを心にこめて、

  • 45

    お礼をしたいと言う。

    張の優しい性格を示す例2:「OL」第2話 12分35秒 お昼休みなのに、神崎