地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月...

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Page 1: 地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月 Ch楳h楴獵N敷s湯.480,p. -43,A畧畳琬1994 北海道ヲ勢多地域の温泉型金鉱床

地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月

�楳�瑳畎敷�����㌴���杵����

北海道ヲ勢多地域の温泉型金鉱床

八幡正弘1)

1.はじめに

温泉水からシリカとともに金が沈澱することがあ

る.また,同様のメカニズムで地質時代に形成され

た金鉱床は温泉型金鉱床と呼ばれ,近年ますます調

査カミ盛んになっている.温泉型金鉱床の生成過程の

研究の中で,とくに重要な点は地熱系と金鉱化作用

の関係であるが,この点については,すでに松久

(1987)により詳しく紹介されている.

ここでは,過去の地表付近での熱水活動の証拠

を,現在我々は野外でどのように観察し,認識でき

るのか?また,これらの証拠をもとにどのように

熱水活動史を組み立てうるのか?これを北海道勢

多地域で検討してみた.

なお,勢多鉱床の詳細については,八幡ほか

(1992),八幡・黒沢ほか(1994)および宮武ほか

(1993)を参照されたい.

2.勢多地域の地質概要

かみし1…1ろ

十勝平野北方の上士幌町勢多地域は,南北に伸長

する紋別一上士幌地溝帯の南端部に位置する(第1

図).紋別一上士幌地溝帯は,12Ma頃に形成され,

陸成の火山噴出物と湖沼性堆積物により埋積されて

おり,南方で十勝盆地と接する.

十勝盆地は,南部では中新世の海成層が分布する

が,北部では海成層は未発達である.鮮新世になる

と,十勝盆地全体におよぶ湖沼性~海性の盆地が形

成された.ここで扱う勢多地域は,鮮新世に入り十

勝盆地の湖岸線が一時的に北上した時期に,その湖

岸域となった地域である.この時期に陸性の火山噴

出物よりなるホロカピリベツ川層を,湖沼性堆積物

あし上る

よりなる足寄層が不整合におおった.この不整合の

年代は約3Maである.湖岸では熱水活動が活発で

あったが,湖岸線の北上および南下の過程で熱水活

動域も変化した.

一方,勢多地域には,セタ川東方の東部坑で確認

されたいくつかの断層がある.主要な2本の断層

は北北西一南南東走向を示し,西へ75傾斜の正断層

である、このうち,西側の断層は鉱化帯の形成に重

要な関与をしたと考えられる.

ユ)北海道立地下資源調査所1

〒060札幌市北区北19条西12丁目

3.熱水活動を示す現象

地表付近の熱水活動に伴って形成された温泉型金

鉱床の形成過程の解明は,陸上の火山活動・噴気活

動,湖水中での堆積作用と熱水の拡散,さらに地下

における熱水の上昇過程と拡散過程,そして,これ

らを規制する地質構造の解明など多くの要因を総合

的に検討することから始まる.

ここでは熱水活動を示す4つの現象について説

明する.

3.1珪質堆積物

足寄層勢多砂岩泥岩層中には熱水活動を示す5

つのタイプの珪質堆積物が認められる(第2図).

以下に,各タイプの特徴を述べる.

シリカシンター(Si1icasinter;タイプS-I):熱水

が地上に流出し,温度低下に伴いシリカが沈殿して

できた堆積物である.砂岩・泥岩中に介在される層

厚20~200cmの珪質堆積物である.

熱水の上昇あるいは水平方向への流動に伴うもの

と考えられる水平な空洞(写真1),やこれに連続す

る垂直方向の円筒状の空洞(径8-12cm;写真2)が

認められる.また,葉理の上面には繊条状の藻類の

痕跡と考えられる組織(Whiteeta1.,1989)が認めら

れるほか,葉理に直行するストロマトライトによる

と考えられる柱状の構造や植物の痕跡が観察され

る.基底部は下位の泥岩や砂岩と明瞭な境で接し,

キーワード:温泉型金鉱床,シリカシンター,熱水性爆発角礫

岩,勢多,カオリン鉱床,湖沼性堆積物

地質ニュース480号�

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北海道,勢多地域の温泉型金鉱床

一35一

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層勢多砂岩泥岩層

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東部鉱床

ゼオライトV

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目本海

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σ太平洋

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南部鉱床V

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第1図勢多地域の地質図

八幡ほか(1992)に一部加筆

まれに下位層の偽礫を含むことがある.上都では葉

理や弱いスランプ状の構造が認められ,わずかに水

流の影響を受けた痕跡が認められる.

以上のことから,シリカシンターは陸域,一都浅

い水域で形成したと考えられる.このシリカシンタ

ーは最大のもので東西150m,南北200mの広がり

一がある.

薄層理珪質堆積物(Thinbeddedsi1iceousdeposit;

タイプS-I[):慈水が湖水中に流入し,急激な温度

低下によりできた堆積物である、平行葉理や斜交葉

1994年8月号

理を伴う泥岩や細粒砂岩中に介在される層厚数Cm

以下の珪質堆積物である(写真3).基底部は下位層

と明瞭な境界で接し,内部には弱い葉理が認めら

れ,葉理に沿って不透明鉱物が配列していること,

さらに,上面の形は全般に不観則な面で時々フレー

ム構造(粘土層等の細粒堆積物の上面にできる炎の

ような堆積構造)が認められることから,この堆積

物は熱水から沈澱したシリカに富んだゲル状物質が

湖底に堆積したものと考えられる.

珪質ブロック(Si1iceousblock;タイプS一皿):上�

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一36一

八幡正弘

珪質複合堆積物(S-V〕

シリカシンターのブロックを含んだり,

シリカシンターを介在する

、一一驚二二ニニム撃義簑

¢0

薄層理珪質堆穗物g

/(・一11)・・"スランプ構造を伴う砂岩.泥岩?シリマき三㌃

砂岩芝__、髪秦誘麦タ

ガレントリップルなどの

1只仙■、甘・'・一・りクロスラミナ欄められる砂岩

シリカシンタニ.瀦.砂岩の第・図珪質堆積物の形成モデル

プロヅ帷含む凝灰岩(s_111〕八幡・黒沢ほか(1994)

写真1シリカツソターの断面.水平な葉理と葉理に平行

な空隙が見られる.

記の珪質堆積物や珪化岩のブロックがより上位の地

層中に見られることがある.すなわち,勢多砂岩泥

岩層下部の厚層の砂岩や軽石凝灰岩中には,シリカ

シンター様の径2~30cmあ珪質角礫や珪質な砂岩

泥岩の角礫が含まれる.この珪質角礫は,火山

噴火や熱水性の爆発により,いったんできたシリカ

シンターや湖底堆積物が破壊され,砂岩や凝灰岩中

に取り込まれたものと考えられる.

熱水性爆発角礫岩(Hydrothema1exp1osionbrec-

cias;タイプS-V):熱水活動が最も活発だったこ

とを示す証拠のひとつである.東都鉱床付近では,

砂岩・泥岩を切るパイプ状の角礫岩が産する(写真

4).境界は80㌧90切傾斜で,やや不鏡則である.

角礫岩は主に径2~20cmの珪化した砂岩や泥岩の

角礫よりなり,シリカシンター起源とみられる角礫

も少量含まれる.礫の間は空洞であることが多く,

この空洞中には後の熱水作用に伴う石英が晶出して

いる.露頭では幅3m程度しか認められないが,

周囲の堆積物の乱れは約50mの範囲に及んでいる.

写真2薄層理珪質堆積物を介在する湖沼性堆積物.平行

葉理と斜交葉理の他,小断層が見られる、

写真3薄層理珪質堆積物を介在する湖沼性堆積物.斜交

葉理(カレントリップル)の断面.

地質ニュース奥80号�

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北海道,勢多地域の温泉型金鉱床

一37一

写真4湖沼性堆積物(左)と石英脈(左上のやや水平な部

分)を切る熱水性爆発角礫岩(右).

また,砂岩中の石英脈が角礫パイプに切られている

関係も認められる.

類似の角礫岩は中央鉱床付近でも見られる.角礫

は下位層のホロカピリベツ川層の珪化岩などからな

り,一部の角礫中には石英脈が認められる.角礫岩

の上位には砂岩や植物化石を産する泥岩が重なって

いる.

珪質複合堆積物(Si1iceouscomp1exdeposit;タイ

プS-V):熱水の爆発や流出が水中で連続的に進行

し,シリカの沈殿が未固結の粗粒堆積物中で行なわ

れた場合に形成する.東都鉱床付近に認められ,石

英からなる径5-30cmの円~亜角礫や砂岩ブロッ

クの問を充填した不規則な砂状の石英よりなり,シ

リカシンターなどを伴う.礫の量に比し礫問を充填

した石英の量が多い.砂質ブロックの産状は軟らか

な状態で引きちぎられたことを示し,かなり浅い水

域,一部陸域での連続的な熱水活動で形成したもの

と考えられる.また,内部に同心円状の縞状構造を

有する珪質堆積物が認められることは,未固結堆積

物中に熱水が連続的に供給され,急冷によりシリカ

の沈殿が生じたものと考えられる.

3.2粘土層

粘土質な地層は,堆積後に熱水変質作用を受けた

と解釈されることが多い.しかし,付近の後背地で

熱水活動が進行し粘土質岩が形成されると,そこか

ら粘土粒子が周辺の湖沼や後背湿地に供給されるこ

ともあるだろう.ここではこのように解釈された粘

土層について述べる.

1994年8月号

勢多砂岩泥岩層下部にはいくつかの地点でまとま

った粘土層が認められる(第3図).この粘土層の

成因を解析するための唯一の露頭がセタ川にある.

第4図にその露頭のスケッチを示した.この露頭

では上流側にホロカピリベツ川層の凝灰角礫岩を原

岩とする珪化岩が分布する.この珪化岩は氷長石を

含み,その左端で黄褐色の粘土化部を伴い,断層関

係で左側の粘土層と接する.粘土層の下半部は白~

灰青色粘土と黄鉄鉱・白鉄鉱を含む珪質泥岩の細互

層よりなる.ひとつの堆積ユニットは層厚1~6

Cmで,上方に向かって次第に泥質になり,最上部

では黄鉄鉱・自鉄鉱が濃集している.各ユニット毎

の境界面はシャープである.上半部はスラソブ構造

を有する粘土層で,これらの中に黄鉄鉱の集合より

なる円礫や珪質泥岩のブロックが多く取り込まれて

いる.これらの粘土層の薄片観察の結果,粘土層中

には1~3mmの粒子が不規則に含有される.粒子

は粘土化した凝灰岩片や黄鉄鉱などであり,葉理な

どの堆積構造に沿って配列している.鉱物組成はカ

オリン鉱物・スメクタイト・石英・カリ長石(氷長

石)・黄鉄鉱で,各単層毎にこれらの量比は異たる.

通常の熱水系では非平衡なカリ長石とカオリン鉱物

の共存を説明するには,後背地の石英一氷長石帯か

ら氷長石が,また,酸性変質帯からカオリン鉱物が

別々にもたらされたと考える方が理解しやすい.こ

れらの粘土粒子が後背地から供給される要因として

は,湯沼の熱水上昇量の増加や雨などによる河川水

量の急増が考えられる.とくに,各ユニットの上方

粗粒化はこれを示している.

3.3変質帯

ホロカピリベツ川層の変質帯は珪化帯・カオリン

帯・カオリンースメクタイト帯・スメクタイト帯・

ゼオライト帯(モルデン沸石・斜プチロル沸石)より

なる、中央鉱床の大成坑では坑口より230mに珪

化帯が分布し,これを取り囲みカオリン帯とカオリ

ンースメクタイト帯が認められる.前述の中央鉱床

の熱水性爆発角礫岩はこの珪化帯の直上に分布して

いる・これらの珪化帯は溶脱型で,黄鉄鉱・白鉄鉱

のほか一部に明磐石を伴う.

これに対し,足寄層の変質帯は,珪化変質帯を主

とし,一都にカオリンースメクタイト帯およびスメ

クタイト帯が認められる.珪化岩は溶脱型が主で,

一部に付加型を伴う.砂岩や含礫砂岩中では一部に�

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一38一

八幡正弘

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足寄層

勢多砂岩泥岩部層

下部

水平赤一リングの投影

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が座ヨ中~鮒砂岩国粘土層

□繊砂岩・瀦日シ1カシンター

〔S-1〕

。/醐↑孔井

第3図東部鉱床付近の地質断面図

八幡・黒沢ほか(1994)

罫灘1

厘コ赤口カピリベツ川層

(凝灰角礫岩〕

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スランプ構造を伴う粘土層

断層粘土

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上部

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珪質泥岩と1

粘土層の互層1

足寄層

珪化岩

粘土化岩

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珪化した角礫

を含省粘土層

、ド層

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赤ロカピリペツ川層

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第4図

セタ川右岸の堆積性粘土層の露頭スケッチ

八幡・黒沢ほか(1994)

石英の水平脈が認められ,その周辺が硬質になって

いる・変質鉱物は石英・氷長石・黄鉄鉱のほか,カ

オリン鉱物やスメクタイトを伴うことがある.

また,湖沼堆積物が未固結の段階で珪化Lたと解

釈される珪化岩がある.これは薄層理珪質堆積物が

多い場合に認められ,シリカに富んだゲル状物質が

湖底や間隙水中に拡散し,堆積物の基質を充填した

ことによる.なお,この場合も後からの溶脱が認め

られることが多い.

さらに,足寄層の藻岩山溶岩の一都は,粘土化変

質が著しく,スメクタイトを主とする粘土化岩に変

質している.

3.4石英脈

熱水からの直接の生成物である石英脈は東部鉱床

付近と南都鉱床付近の勢多砂岩泥岩部層中に認めら

れる.主な石英脈の走向は北北西一南南東で,東に

50~90傾斜し,脈幅は一般に10~20cmである.

玉ずい質石英を主とし,黄鉄鉱が少量含まれ,脈際

では母岩の砂岩・泥岩とやや不観則な面で接してい

ることが多く,母岩が比較的軟がい状態の時に移成

したと考えられる.

また,地下の探鉱の結果,多数の石英脈が確認さ

れた(八幡ほか,1992;宮武ほか,1993≡通商産業

省資源エネルギー庁,1994).中でも重要なのは東

都鉱床から中央鉱床にかけて確認された2条の平

行な石英脈帯である.今後の探鉱によりその実態が

明らかになると思うが,ここでは東側の石英脈帯を

主要鉱化帯①と,西側の石英脈帯を主要鉱化帯②と

呼ぶことにする。主要鉱化帯①は黄鉄鉱・白鉄鉱を

伴う石英脈が主で,脈の周辺には明磐石を産し,そ

の北方延長都は中央鉱床の珪化帯・カオリン帯に一

致する.

地質ニュース480号�

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北海道,勢多地域の温泉型金鉱床

一39一

湯沼

珪化帯湯沼

≧」:1≡:;γ、,。13-1.

カオりン帯

カオリンースメク多イド帯

熱水性爆発角礫岩

シリカシンター

水平脈

二三手二漸

第5図

Q一

Q一

勢多鉱床の変質帯と熱水活動域の分布

\初期の湖底

これに対し,西側の主要鉱化帯②は石英一氷長石

脈を主とし,東側に比し金品位が高い.広域調査の

5MAHB-2孔ではコア長12.0m(脈幅もこれに近

似)で平均金品位9,49/t,銀品位126,49/tであった

(通商産業省資源エネルギー庁,1994).

4.湖岸付近の熱水活動の変遷

以上の熱水活動を示す現象と層位関係や堆積相の

特徴などをもとに,勢多鉱床の変質帯と熱水活動域

の分布をまとめると,第5図のようになる.鉱化

帯の形成過程を考える上で,図中の湖岸線の位置は

重要な意味を持っているので,以下に湖岸線の移動

と熱水活動との関係について述べる.

4.1湖岸線がまだ南にあった時(第6図一A)

ホロカピリベツ川層は,後期中新世から鮮新世前

期の陸域での火山活動により形成された安山岩溶岩

火山角礫岩や石英安山岩質軽石凝灰岩からなる.

軽石凝灰岩の多くはゼオライト化し,モルデン沸石

や斜プチロル沸石が生成している.これを切って酸

性変質帯が形成された.中心部から珪化帯→カオリ

ン帯→カオリンースメクタイト帯→スメクタイト帯

である、珪化帯の中には硫酸酸性変質を示す明磐石

を伴う.この時期に地表部で熱水性爆発があったか

どうかは明らかでない.しかし,湖岸線①はまだ南

にあり,上記の熱水変質帯は地表に露出していたと

考えられる.

4.2湖岸線の北上(第6図一B)

鮮新世の中頃になると,南方の十勝盆地の湖岸線

1994年8月号

が北上し,前述の熱水活動域に達した(湖岸線②).

この時点で足寄層の堆積が開始した.堆積物は砂岩

やシルト岩が多く,基底部では上方粗粒化し,その

上位には上方細粒化ユニットが繰り返し重なり,細

粒相中には斜交葉理(カレントリップルやウェーブ

リップル)や平行葉理が発達する.また,堆積ユニ

ット単位でスランプ構造がみとめられることがあ

る.

ところで,この堆積作用の期間中,熱水活動を示

す現象がいくつかある.ひとつは,湖岸線②の北側

に分布する熱水性爆発角礫岩である.熱水活動の活

発化に伴い地下での熱水圧が高まると,爆発し地表

付近の帽岩を噴き飛ばし,その場所や周辺に角礫を

飛散させる.この熱水性爆発角礫岩が前のステージ

の珪化帯の直上で広く分布する.角礫岩のほとんど

は下位の珪化岩よりなり,中には石英脈を伴うこと

もある.2つめは,前述の堆積性粘土層が湖沼性堆

積物中や基底都に介在されることである.これらの

粘土層は,陸域での“地獄"のような粘土化変質帯

から運搬された粘土粒子が,湖岸からそれほど遠く

ない湖底で堆積したと考えられる.

たお,この後,熱水性爆発角礫岩は湖沼性堆積物

により覆われていることから,湖岸線はさらに北上

したと判断される(湖岸線③).さらに,この時期こ

熱水の上昇をもたらしたNNW-SSE方向の弱線

が,より明瞭になり,主要鉱化帯①の形成を開始し

た.

4.3湖岸線の南下(第6図一C)

湖沼性堆積物は次第に上方粗粒化し,熱水性爆発�

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八幡正弘

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策6図

勢多地域における湖岸線の移動と熱水活動域との関係

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北海道,勢多地域の温泉型金鉱床

一41一

角礫岩やシリカシンターの分布からも,湖岸線が南

下していることを示している(湖岸線④).とくに,

この時期に浅い湖底で熱水活動が連続的に行なわ

れ,珪質複合堆積物を形成した.

ところで,前のステージで形成した主要鉱化帯①

を利用して,上記の熱水活動域が拡大したと考えら

れるが,このステージに鉱化帯に沿った2本の断

層が形成された.

4.4陸域化と火山活動(第6図一D)

2mの層厚を示すシリカシンターは南部鉱床付近

に分布し,その広カミりは南北200mにおよぶ.陸

上で形成したシリカシンターの分布は,湖岸の南下

を示す(湖岸線⑤).

一方,このステージになると,セタ川上流で安山

岩の噴火があり,その噴出物は南部鉱床付近まで達

している。その年代は1.8Maである.地表付近の

熱水活動は終息にむかったが,主要鉱化帯②の氷長

石のK-Ar年代が1.6Maである(通商産業省資源エ

ネルギー庁,1994)ように,地下では熱水活動が引

き続き,主要鉱化帯②の形成と安山岩質火山噴出物

のスメクタイト化が行たわれたと見られる.

たお,勢多地域全体でみると,南部鉱床と西部鉱

床,東部鉱床と中央鉱床,そして,北部鉱床がそれ

ぞれ湖岸線に斜交するNNW-SSE方向に伸長し,

全体として雁行配列をしている.このことが上記の

湖岸線の移動や熱水活動域の変化と関係していると

考えられるが,今後の課題としたい.

5.地溝帯の形成と金鉱化作用

さて,北海道には金鉱床が多く分布する.その形

成過程において,火山活動が重要な役割を演じてい

ることは疑いない、第7図に北海道における中期

中新世以降の古地理図を示した.勢多鉱床を含む東

都北海道の多くの金鉱床は,紋別一上士幌地溝帯や

その周辺に認められる.金鉱化作用の広域的な変遷

を検討する場合,この地溝帯の形成過程を考慮する

必要がある.

北海道では日高山脈の上昇ヒより周辺の堆積盆地

の発達や火山活動のスタイルが規制されている.日

高帯北部の上昇が顕著になった16Maの頃には,

紋別から十勝にかけてはN-S性の海成堆積盆地が

できた.しかし,12Maの頃の広域的上昇により,

1994年8月号

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第7図北海道における中期中新世以降の古地理図

日高山脈から紋別・十勝北部は陸化し,火山活動が

広域的に始った.この時,南北系の紋別一上士幌地

溝帯ができた・鮮新世には地溝帯は十勝北部地域で

はわずかにその形態を残したが,同時に知床火山列

方向の火山活動が始った.勢多鉱床は地溝帯南端部

の鮮新世火山活動が活発であった地域に位置する.�

Page 9: 地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月地質ニュース480号,34-43頁,1994年8月 Ch楳h楴獵N敷s湯.480,p. -43,A畧畳琬1994 北海道ヲ勢多地域の温泉型金鉱床

一42一

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第8図紋別一上士幌地溝帯の構造と金鉱化帯の分布

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北海道,勢多地域の温泉型金鉱床

一43一

一方,地溝帯やその周辺の金鉱化帯は,第8図

に示したように,地溝帯縁辺部やその外側,あるい

は地溝帯内の小規模な盆地の縁や地塁上の隆起都に

分布する。鉱化帯のいくつかは地表で形成された温

泉型金鉱床である(八幡・久保田ほか,1994).各

々の金鉱化作用が各盆地のどのような位置にあった

か,あるいは湖岸線との関係や火山体との位置関係

などを明らかにするには,さらに詳しい調査を要す

る。また,鉱化作用の年代は13(一14)Maから0.3

Maで,北で古く南で新しい(八幡・久保田ほか,

1994).このことは火山活動域が北から南へと移動

していることと調和的である(八幡一西戸,1990).

このように北海道東都地域では,地溝帯という地

温勾配が高く火山活動が激しい地質区で,活発な噴

気・熱水活動が進行し,広範な金鉱化作用をもたら

した.しかし,これらの金鉱化作用の実態の解明に

は,多くの残された課題がある.

6.おわりに

温泉型金鉱床は,野外の観察から成因についてい

ろいろなことがわかる鮮床のひとつである.層位学

や堆積相の検討は重要な検討手法である.とくに勢

多のように新しい時代の鉱床では,放射年代の測定

により形成時代はわかるが,個々の現象の前後関係

については測定値の誤差範囲に入る例が多く判断が

難しい.この場合,野外の産状にもとづく判断の方

が重要になる.

現在,ボーリングにより探鉱が進められるととも

に,変質作用や鉱石鉱物の検討,あるいは同位体組

成の検討も行なわれている.これらの成果を期待し

たし・.

謝辞:勢多鉱床の研究にあたっては,北海道立地下

資源調査所の共同研究者,金属鉱業事業団の「広域

調査北海道北部B」およびr構造解析総合調査委員

会」の各委員の方々に多くの点を教えていただい

た・また,北海道大学の石原舜三教授には本論を執

筆する機会を与えて頂いた.ここに記して感謝の意

を表します.

文献

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湯������

宮武修'・西川信康・山本邦仁・中村研治(1993):東部北海道上

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tersofPaleozoicageinnorthQueens1and,Australia.Gω1o馴,

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の各鉱化帯の特徴と形成年代=金鉱化作用のイメージづくり

≡.平成5年度広域地質構造調査報告書r構造解析総合調

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八幡正弘・西戸裕嗣(1990):東部北海道“北見グリーソタフ地域"

の新第三系とその特徴.春日井昭教授退官記念論文集,47-

��

YA旦ATAMas出iro(1994);Hotspdnggo1ddepositinthe

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〈受付:1994年4月25日〉

1994年8月号�