日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究...

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31 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 ―動詞の語彙的アスペクトによる影響について― 陳 建瑋 キーワード:日本語のアスペクト、テイルの習得、語彙的アスペクト 1.はじめに 日本語のアスペクト形式「テイル」は下記のように 5 つの用法(吉川 1976寺村 1984;工藤 1995)を持ち、日本語学習者が学習する際に負担が大きく、 特に習得が難しい文法項目の一つだと言われている(白井 1998)。 (1) 動作の持続:山田さんは図書館で本を読んでいる (2) 結果の状態:財布が落ちている (3) パーフェクト:ご飯はもう食べている (4) 繰り返し:山田さんは毎朝ジョギングをしている (5) 単なる状態:学校の北側に高い山が聳えている これまでの日本語のテンス・アスペクトの習得研究は、大別して「文法的アス ペクト(grammatical aspect)」と「語彙的アスペクト(lexical aspect)」という 2 つの観点から論じられている。このうち、テイルの習得に関する研究の多くは 前者に属し、テイルの用法別の習得難易度に焦点をあてたものである。これに 対し、後者の観点から、テイルの使用と動詞に内在するアスペクトとの関係を 取り上げた習得研究は少ない。しかし、テイルの様々な文法的意味は、基本的 に動詞の語彙的意味特徴によって決定されるとされている(奥田 1977;工藤 1995)。また、小山(2004)でもテンス・アスペクトの習得における母語の役割 と影響を検討した結果、異なる母語の日本語学習者の共通する誤用には動詞の 語彙的アスペクトが関わると指摘している。このように、日本語学習者のアス ペクト習得を検討するうえで、動詞に内在するアスペクト的な意味との関係を 考慮に入れる必要がある。そこで、本研究では動詞の語彙的意味特徴の違いが 学習者のテイル習得に如何なる影響を与えるのかを検討した。その結果、学習 者の日本語レベルに関係なく、各動詞タイプの中で、「活動動詞」がテイルと結

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Page 1: 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 …日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33 2.2.問題の所在

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日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究

―動詞の語彙的アスペクトによる影響について―

陳 建瑋

キーワード:日本語のアスペクト、テイルの習得、語彙的アスペクト

1.はじめに

日本語のアスペクト形式「テイル」は下記のように 5 つの用法(吉川 1976;

寺村 1984;工藤 1995)を持ち、日本語学習者が学習する際に負担が大きく、

特に習得が難しい文法項目の一つだと言われている(白井 1998)。

(1) 動作の持続:山田さんは図書館で本を読んでいる。

(2) 結果の状態:財布が落ちている。

(3) パーフェクト:ご飯はもう食べている。

(4) 繰り返し:山田さんは毎朝ジョギングをしている。

(5) 単なる状態:学校の北側に高い山が聳えている。

これまでの日本語のテンス・アスペクトの習得研究は、大別して「文法的アス

ペクト(grammatical aspect)」と「語彙的アスペクト(lexical aspect)」という 2つの観点から論じられている。このうち、テイルの習得に関する研究の多くは

前者に属し、テイルの用法別の習得難易度に焦点をあてたものである。これに

対し、後者の観点から、テイルの使用と動詞に内在するアスペクトとの関係を

取り上げた習得研究は少ない。しかし、テイルの様々な文法的意味は、基本的

に動詞の語彙的意味特徴によって決定されるとされている(奥田 1977;工藤

1995)。また、小山(2004)でもテンス・アスペクトの習得における母語の役割

と影響を検討した結果、異なる母語の日本語学習者の共通する誤用には動詞の

語彙的アスペクトが関わると指摘している。このように、日本語学習者のアス

ペクト習得を検討するうえで、動詞に内在するアスペクト的な意味との関係を

考慮に入れる必要がある。そこで、本研究では動詞の語彙的意味特徴の違いが

学習者のテイル習得に如何なる影響を与えるのかを検討した。その結果、学習

者の日本語レベルに関係なく、各動詞タイプの中で、「活動動詞」がテイルと結

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32 陳建瑋

びつきやすいものであることを明らかにした。

2.先行研究と問題の所在

2.1.語彙的アスペクト

語彙的アスペクトとしては、Vendler (1967)の動詞 4 分類が最も広範に援用さ

れてきた(訳語は影山 1996 に従い、白井 1998:72-73 に基づく)。

(1) 状態動詞(State verb):動きがない状態を示すもの(desire, contain, love)。 (2) 活動動詞(Activity verb):動的かつ持続的なもの(run, walk, play)。 (3) 達成動詞(Accomplishment verb):動的かつ持続的、またそれ以上先へ進

めない動作の終結点があるもの(make a chair, build a house, paint a picture)。 (4) 到達動詞(Achievement verb):持続的ではなく、動的で限界性があるも

の(die, drop, realize)。

この 4 つの動詞は、表 1 に示すように「±動的(dynamic)」、「±限界的(telic)」、「±瞬間的(punctual)」という 3 つの意味的な要素の有無によって表すことが

できる。

状態動詞 活動動詞 達成動詞 到達動詞

動的(dynamic) - + + +

限界的(telic) - - + +

瞬間的(punctual) - - - +

表1 動詞別の意味要素(Andersen 1991:311)

例えば、状態動詞は「机の上にペンがある」のように外的な要因によって変

化がもたらされない限り、恒常的な静的状態を表すため、「動的」はもちろん、

「瞬間的」も「限界的」も「-」となる。それに対して、到達動詞の場合には、

「電気がつく」のように起点と終点がほぼ同時に捉えられるという瞬間的な状

況を表し、電気がついた瞬間という終了点があるため、3 つの要素がすべて「+」

となる。また、活動動詞と達成動詞は共に持続的な動きを表すため、「動的」が

「+」で、「瞬間的」が「-」となるが、「限界的」の点で異なる。すなわち、活

動動詞は該当の動作を意識的に止めるので継続できるため、「限界的」が「-」

であり、達成動詞は当該の変化が終了した時点で動きが止まるため、「限界的」

が「+」となる(白井 1998;小山 2004)。

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びつきやすいものであることを明らかにした。

2.先行研究と問題の所在

2.1.語彙的アスペクト

語彙的アスペクトとしては、Vendler (1967)の動詞 4 分類が最も広範に援用さ

れてきた(訳語は影山 1996 に従い、白井 1998:72-73 に基づく)。

(1) 状態動詞(State verb):動きがない状態を示すもの(desire, contain, love)。 (2) 活動動詞(Activity verb):動的かつ持続的なもの(run, walk, play)。 (3) 達成動詞(Accomplishment verb):動的かつ持続的、またそれ以上先へ進

めない動作の終結点があるもの(make a chair, build a house, paint a picture)。 (4) 到達動詞(Achievement verb):持続的ではなく、動的で限界性があるも

の(die, drop, realize)。

この 4 つの動詞は、表 1 に示すように「±動的(dynamic)」、「±限界的(telic)」、「±瞬間的(punctual)」という 3 つの意味的な要素の有無によって表すことが

できる。

状態動詞 活動動詞 達成動詞 到達動詞

動的(dynamic) - + + +

限界的(telic) - - + +

瞬間的(punctual) - - - +

表1 動詞別の意味要素(Andersen 1991:311)

例えば、状態動詞は「机の上にペンがある」のように外的な要因によって変

化がもたらされない限り、恒常的な静的状態を表すため、「動的」はもちろん、

「瞬間的」も「限界的」も「-」となる。それに対して、到達動詞の場合には、

「電気がつく」のように起点と終点がほぼ同時に捉えられるという瞬間的な状

況を表し、電気がついた瞬間という終了点があるため、3 つの要素がすべて「+」

となる。また、活動動詞と達成動詞は共に持続的な動きを表すため、「動的」が

「+」で、「瞬間的」が「-」となるが、「限界的」の点で異なる。すなわち、活

動動詞は該当の動作を意識的に止めるので継続できるため、「限界的」が「-」

であり、達成動詞は当該の変化が終了した時点で動きが止まるため、「限界的」

が「+」となる(白井 1998;小山 2004)。

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33

2.2.問題の所在

Shirai(1995)、Shirai & Kurono (1998)の実験 1 では、3 名の初級中国人学

習者を対象に、テイルの使用と語彙的アスペクトの関係を考察し、日本語学習

者は日本語母語話者よりテイルと活動動詞を結びつけやすいことを指摘してい

る。しかし、これらの調査ではいずれもテイルの使用された動詞タイプの頻度

しか提示されておらず、動詞タイプ別の正誤用の使用状況について更なる検討

はされていない。また、学習者の日本語レベルの説明は教育機関での学習時間

数しか明示されていない。しかし、たとえ同じ学習時間数(8 ヶ月間)を受け

たとしても、習熟度には大きな個人差があり、必ずしも同じレベルに達せられ

るわけではない。このように、調査対象者の日本語レベルの説明と統制に不十

分な点が見られる。

また、小山(2004)では、中国話者、韓国話者、その他の話者(非漢字圏)

の留学生各 25 名を対象に、四肢選択式の文法テストで動詞とアスペクトマーカ

ー(テイル)の結びつきについて調査した。その結果、学習者の母語と日本語

レベルに関係なく、活動動詞よりも到達動詞のほうがテイル形式を付与しにく

いということを示している。 一方、同じくテイルの使用と語彙的アスペクトの関係を検討した菅谷(2002)

では、Shirai(1995)、Shirai & Kurono (1998)の実験 1、小山(2004)とは異

なる結果を得ている。菅谷(2002)は自然環境で日本語を習得してきたロシア

語、英語、フランス語母語話者各 1 名を対象に、OPI の発話分析を行った。そ

の結果、テイルに関しては母語に進行形のないロシア語話者の場合は活動動詞

に多く用いられているが、母語に進行形のある英語とフランス語話者の場合は

到達動詞に多く使用されている、という異なる使用傾向が報告されている。し

かし、菅谷(2002)は Shirai(1995)、Shirai & Kurono (1998)の実験 1 と同じ

ように調査人数がわずか 3 名しかなく、対象者間の個人差が大きいため、異な

る結果が出ている可能性があると考えられる。 また、これらの研究とは異なる視点から、「パーフェクト」、「習慣 1」と

いった用法の習得に注目した調査がある(三村 1999;Shirai 2002b)。三村(1999)では、初級から上級までの日本語学習者 121 名を対象に多肢選択式の文法性判

断テストを行い、「未来パーフェクト」と「現在パーフェクト」の文脈における

動詞とテイルの結びつきについて調査した。その結果、いずれも活動動詞のほ

うが到達動詞よりテイルの選択率が高いことが指摘されている。また、Shirai(2002)は、「習慣」の意味でタ、テイル、テイタが使われている場合について

分析し、タは到達動詞、テイルとテイタは活動動詞に共起しやすいことを指摘

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している。この 2 つの調査結果は、同じテイルの用法でも語彙的アスペクトに

よって学習者のテイルの使用に影響を与えることを示唆している。しかし、三

村(1999)と Shirai(2002)では、テンス・アスペクト形式における動詞タイプ

別の使用頻度のみが報告されており、それ以外の使用状況について言及されて

いない。 以上の先行研究から分かるように、従来のテイル習得に関する研究には 3 つ

の問題点がある。第一に、三村(1999)と小山(2004)以外の研究では、初級

レベルの日本語学習者のみを対象とした場合が多いために、学習者の習熟度の

違いによる影響は判断できない。第二に、活動動詞と到達動詞の 2 動詞の比較

のみに注目したために、テイルの全体的な使用状況が反映されていない。第三

に、学習者の使用した動詞タイプのテンス・アスペクト形式(タ、テイル、テ

イタ)の分布状況のみを調査したものが多く、動詞タイプ別の正誤用の使用状

況、および誤用パターンを調べたのは菅谷(2002)しか見当たらない。このよ

うに、テイルの習得過程における動詞の語彙的アスペクトの影響に対する調査

はまだ不十分とは言える。そこで、本研究ではこれらの問題を踏まえ、テイル

の使用に影響する要因として学習者の日本語レベルと動詞タイプを設定し、以

下の 2 点を研究課題として調査を行う。

(1) 学習者の日本語レベルにより、動詞タイプの違いがテイルの使用に如何

なる影響を与えるか。

(2) 学習者の日本語レベルにより、テイルの使用された動詞タイプ別の使用

傾向には如何なる差異があるか。

3.調査方法

3.1.データ:作文コーパス

調査に際しては「台湾人日本語学習者コーパス」(CTLJ)2を利用し、台湾人日

本語学習者の作文データを収集して検討した。CTLJ に収録されている作文デ

ータは、2003 学年度から 2008 学年度までに集められた作文で、全部 22 種類の

テーマで 1563 篇ある。このうち、今回分析した作文データは、2007 学年度後

期に収集された「社会問題」3というテーマである。その中から、日本語能力試

験 1 級、2 級、3 級 4合格者それぞれ 40 名ずつ選択し、合計 120 名の台湾の大

学で日本語を専攻する大学生を対象とした。

3.2.分析方法

本研究では、①「使用頻度」に加え、②「正用」と③「誤用」、さらに「誤

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している。この 2 つの調査結果は、同じテイルの用法でも語彙的アスペクトに

よって学習者のテイルの使用に影響を与えることを示唆している。しかし、三

村(1999)と Shirai(2002)では、テンス・アスペクト形式における動詞タイプ

別の使用頻度のみが報告されており、それ以外の使用状況について言及されて

いない。 以上の先行研究から分かるように、従来のテイル習得に関する研究には 3 つ

の問題点がある。第一に、三村(1999)と小山(2004)以外の研究では、初級

レベルの日本語学習者のみを対象とした場合が多いために、学習者の習熟度の

違いによる影響は判断できない。第二に、活動動詞と到達動詞の 2 動詞の比較

のみに注目したために、テイルの全体的な使用状況が反映されていない。第三

に、学習者の使用した動詞タイプのテンス・アスペクト形式(タ、テイル、テ

イタ)の分布状況のみを調査したものが多く、動詞タイプ別の正誤用の使用状

況、および誤用パターンを調べたのは菅谷(2002)しか見当たらない。このよ

うに、テイルの習得過程における動詞の語彙的アスペクトの影響に対する調査

はまだ不十分とは言える。そこで、本研究ではこれらの問題を踏まえ、テイル

の使用に影響する要因として学習者の日本語レベルと動詞タイプを設定し、以

下の 2 点を研究課題として調査を行う。

(1) 学習者の日本語レベルにより、動詞タイプの違いがテイルの使用に如何

なる影響を与えるか。

(2) 学習者の日本語レベルにより、テイルの使用された動詞タイプ別の使用

傾向には如何なる差異があるか。

3.調査方法

3.1.データ:作文コーパス

調査に際しては「台湾人日本語学習者コーパス」(CTLJ)2を利用し、台湾人日

本語学習者の作文データを収集して検討した。CTLJ に収録されている作文デ

ータは、2003 学年度から 2008 学年度までに集められた作文で、全部 22 種類の

テーマで 1563 篇ある。このうち、今回分析した作文データは、2007 学年度後

期に収集された「社会問題」3というテーマである。その中から、日本語能力試

験 1 級、2 級、3 級 4合格者それぞれ 40 名ずつ選択し、合計 120 名の台湾の大

学で日本語を専攻する大学生を対象とした。

3.2.分析方法

本研究では、①「使用頻度」に加え、②「正用」と③「誤用」、さらに「誤

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 35

用」の下位分類として④「非使用」と⑤「過剰使用」に分類し、この 5 つの使

用状況を分析の指標 5として検討した。各指標の定義と使用例を表 2 のように

示す。その際、コーパスに出現するテイルとテイルの非使用の語を数え上げる

「延べ語数(token frequency)」と、各動詞タイプの生産性を測る指標である「異

なり語数(type frequency)」との両方について分析した 6。

表2 テイルの正用と誤用のパターンの定義と使用例

注1:下線が引かれた部分は学習者の誤用で,括弧の部分は筆者が訂正したものである.注2:「N1-1」の「N1」は一級合格者を指し,「1」は作者番号を示すものである.以下同様.

正用

例:テレビ番組ではなく、新聞ニュースさえ大ざっぱになっていきます(なってきています)。(N2-17)

例:昔想像できないことは今コンピュータがあれば全てができているらしい(できる)。(N2-8)

例:毎日インタネットで新聞を読んでいる。(N1-1)

非使用

過剰使用

テイルを使用すべきところに使っていない誤用

テイルを使用すべきではないところに使用した誤用誤用

調査の手順は、まず、作文の中でテイルの使用された箇所、および使用すべ

き箇所を抽出した。抽出された部分を「活動動詞」、「達成動詞」、「到達動詞」、

「状態動詞」の 4 つに分類し、動詞タイプ別の使用、正誤用、非使用、過剰使

用の頻度と比率を計算した。その結果を表 3 と表 4 に示す。なお、テイルの使

用された動詞タイプ別の使用状況の調査が本稿の目的であるため、テンスが間

違っていてもアスペクトとして正しければ正用と認めて扱った。

そして、学習者の日本語レベルによって動詞の語彙的アスペクトがテイルの

習得に如何に影響するかを検討するために、学習者の日本語レベルと動詞タイ

プの 2 要因を学習者のテイルの使用に影響する要因として「決定木分析

(decision tree analysis)」7によって分析した。決定木分析では、この 2 つの要

因の影響を同時に考察することができる。結果を樹木に描いてくれ、有意な影

響を持つ要因が強いものから順に現れるので、複数の要因の階層性を視覚的に

検討できる。また、学習者の日本語レベルによる動詞タイプの使用傾向、及び

動詞タイプ別の使用頻度に差異があるかどうかを検討するために、カイ二乗分

布を用いた「適合度検定(chi-square test of goodness-of-fit)」と「独立性の検定

(chi-square test of independence)」を行った 8。

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36 陳建瑋

延べ語数 異なり語数 使用率 延べ語数 異なり語数 正用率 延べ語数 異なり語数 誤用率

活動動詞 63 49 0.409 61 48 0.859 10 9 0.141達成動詞 8 7 0.052 6 5 0.600 4 3 0.400到達動詞 43 23 0.279 39 19 0.709 16 16 0.291状態動詞 40 15 0.260 35 15 0.814 8 2 0.186

合計 154 94 1.000 141 87 0.788 38 30 0.212活動動詞 67 48 0.432 63 45 0.875 9 8 0.125達成動詞 8 8 0.052 8 8 1.000 0 0 0到達動詞 48 29 0.310 44 28 0.698 19 13 0.302状態動詞 32 13 0.206 25 13 0.735 9 4 0.265

合計 155 98 1.000 140 94 0.791 37 25 0.209活動動詞 28 24 0.431 25 21 0.758 8 8 0.242達成動詞 7 7 0.108 4 4 0.571 3 3 0.429到達動詞 19 11 0.292 16 10 0.533 14 12 0.467状態動詞 11 5 0.169 8 5 0.667 4 1 0.333

合計 65 47 1.000 53 40 0.646 29 24 0.354注1:各指標の比率は延べ語数によって計算したものである.

注2:使用頻度は,テイルの使用された箇所(正用と過剰使用)の頻度を計算したものである.

二級合格者

(n=40)

三級合格者(n=40)

一級合格者(n=40)

正用 誤用

表3 日本語レベルによる動詞タイプ別の使用率と正誤用(n=120)

日本語能力で分けたグループ

動詞タイプ使用頻度

延べ語数 異なり語数 非使用率 延べ語数 異なり語数 過剰使用率 延べ語数 異なり語数

活動動詞 8 7 0.800 2 2 0.200 10 9達成動詞 2 2 0.500 2 2 0.500 4 3到達動詞 12 12 0.750 4 4 0.250 16 16状態動詞 3 2 0.375 5 1 0.625 8 1合計 25 23 0.658 13 9 0.342 38 29

活動動詞 5 4 0.556 4 4 0.444 9 8達成動詞 0 0 0 0 0 0 0 0到達動詞 15 10 0.789 4 4 0.211 19 13状態動詞 2 2 0.222 7 2 0.778 9 3合計 22 16 0.595 15 10 0.405 37 24

活動動詞 5 5 0.625 3 3 0.375 8 8達成動詞 0 0 0.000 3 3 1.000 3 3到達動詞 11 10 0.786 3 3 0.214 14 12状態動詞 1 1 0.250 3 1 0.750 4 1合計 17 16 0.586 12 10 0.414 29 24

注:各指標の比率は延べ語数によって計算したものである.

二級合格者(n=40)

三級合格者(n=40)

動詞タイプ非使用 過剰使用 合計

一級合格者(n=40)

日本語能力で分けたグループ

表4 日本語レベルによる動詞タイプ別の誤用パターン(n=120)

4.調査結果

4.1.テイルの習得における日本語レベルと動詞タイプの影響

まず、学習者の日本語レベルの違いによるテイルの習得状況とその使用され

た動詞タイプの使用状況を考察するために、決定木分析の従属変数としてテイ

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36 陳建瑋

延べ語数 異なり語数 使用率 延べ語数 異なり語数 正用率 延べ語数 異なり語数 誤用率

活動動詞 63 49 0.409 61 48 0.859 10 9 0.141達成動詞 8 7 0.052 6 5 0.600 4 3 0.400到達動詞 43 23 0.279 39 19 0.709 16 16 0.291状態動詞 40 15 0.260 35 15 0.814 8 2 0.186

合計 154 94 1.000 141 87 0.788 38 30 0.212活動動詞 67 48 0.432 63 45 0.875 9 8 0.125達成動詞 8 8 0.052 8 8 1.000 0 0 0到達動詞 48 29 0.310 44 28 0.698 19 13 0.302状態動詞 32 13 0.206 25 13 0.735 9 4 0.265

合計 155 98 1.000 140 94 0.791 37 25 0.209活動動詞 28 24 0.431 25 21 0.758 8 8 0.242達成動詞 7 7 0.108 4 4 0.571 3 3 0.429到達動詞 19 11 0.292 16 10 0.533 14 12 0.467状態動詞 11 5 0.169 8 5 0.667 4 1 0.333

合計 65 47 1.000 53 40 0.646 29 24 0.354注1:各指標の比率は延べ語数によって計算したものである.

注2:使用頻度は,テイルの使用された箇所(正用と過剰使用)の頻度を計算したものである.

二級合格者

(n=40)

三級合格者(n=40)

一級合格者(n=40)

正用 誤用

表3 日本語レベルによる動詞タイプ別の使用率と正誤用(n=120)

日本語能力で分けたグループ

動詞タイプ使用頻度

延べ語数 異なり語数 非使用率 延べ語数 異なり語数 過剰使用率 延べ語数 異なり語数

活動動詞 8 7 0.800 2 2 0.200 10 9達成動詞 2 2 0.500 2 2 0.500 4 3到達動詞 12 12 0.750 4 4 0.250 16 16状態動詞 3 2 0.375 5 1 0.625 8 1合計 25 23 0.658 13 9 0.342 38 29

活動動詞 5 4 0.556 4 4 0.444 9 8達成動詞 0 0 0 0 0 0 0 0到達動詞 15 10 0.789 4 4 0.211 19 13状態動詞 2 2 0.222 7 2 0.778 9 3合計 22 16 0.595 15 10 0.405 37 24

活動動詞 5 5 0.625 3 3 0.375 8 8達成動詞 0 0 0.000 3 3 1.000 3 3到達動詞 11 10 0.786 3 3 0.214 14 12状態動詞 1 1 0.250 3 1 0.750 4 1合計 17 16 0.586 12 10 0.414 29 24

注:各指標の比率は延べ語数によって計算したものである.

二級合格者(n=40)

三級合格者(n=40)

動詞タイプ非使用 過剰使用 合計

一級合格者(n=40)

日本語能力で分けたグループ

表4 日本語レベルによる動詞タイプ別の誤用パターン(n=120)

4.調査結果

4.1.テイルの習得における日本語レベルと動詞タイプの影響

まず、学習者の日本語レベルの違いによるテイルの習得状況とその使用され

た動詞タイプの使用状況を考察するために、決定木分析の従属変数としてテイ

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 37

ルの「正誤用」の使用状況を設けた。また、テイルの使用状況を予測する独立

変数としては、学習者の日本語レベルと 4 つの動詞タイプの 2 つのデータから

なる名義尺度を設定して分析を行った。その結果、図 1 のデンドログラムが得

られた。図 1 の最上部にあるノード 0 が示すように、作文データの中で取り上

げられたテイルの語数は合計 438 語である。このうち、学習者の正用頻度は 334回で全体の 76.3%、誤用の頻度は 104 回で全体の 23.7%を占めている。ノード

0 から伸びているのは、最初の変数として設定された学習者の日本語レベルを

表すノード 1 とノード 2 である。このうち、「一級合格者」と「二級合格者」の

2 グループの間に正誤用の差異は見られなかったが、この 2 つのグループ(ノ

ード 1,正用率が 78.9%;誤用率が 21.1%)を合わせると、全体的な正用率が

「三級合格者」(ノード 2,正用率が 64.6%;誤用率が 35.4%)のグループより

はるかに高い、という有意差が示されている[x2 (1)=7.525, p<.05]。それは、中級

段階から、学習者のテイルの習得状況は止まっており、たとえ学習者の日本語

の習熟度が上級段階に達してもあまり変化がない、ということを意味している。

また、3 つのグループのうちノード 2 の「三級合格者」を除くほかの 2 つのグ

ループが動詞タイプの違いによる影響を受けている。ノード 1 の「一級合格者」

と「二級合格者」の 2 グループにおいては、テイルの全体的な正用率が 78.9%に達しているが、4 つの動詞タイプの中で、ノード 3 に含まれた「活動動詞」(正

用率が 86.7%;誤用率が 13.3%)の正用率がノード 4 に含まれた「達成動詞」、

「到達動詞」、「状態動詞」の 3 種類の動詞(正用率が 73.7%;誤用率が 26.3%)

より高く、両者間に有意な差が見られた[x2 (1)=8.701, p<.05]。

Page 8: 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 …日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33 2.2.問題の所在

38 陳建瑋

x 2 (1)=7.525, p < .05

テイルの使用状況

ノード 0カテゴリ % 頻度

合計 100.0 438

日本語レベル

正用 76.3 334誤用 23.7 104

一級合格者;二級合格者 三級合格者

頻度

合計

ノード 1 ノード 2カテゴリ % 頻度 カテゴリ % 頻度

正用 64.6 53誤用 21.1 75 誤用 35.4 29正用 78.9 281

達成動詞;到達動詞;状態動詞活動動詞

正用 73.7 157誤用 13.3 19 誤用 26.3 56正用 86.7 124

図1 各グループにおける動詞タイプによるテイルの「正、誤用」の使用状況について

   の決定木分析

合計 48.6 213

18.7 82

動詞タイプ

x 2 (1)=8.701, p < .05

合計 81.3 356

ノード 3 ノード 4カテゴリ % 頻度 カテゴリ %

合計 32.6 143

また、学習者の日本語レベルと動詞タイプとの 2 要因がテイルの使用に影響

する度合いを検討するために、学習者の日本語レベルを決定木の最初の変数と

せずに分析を行った。その結果、2 要因のうち、テイルの使用された動詞タイ

プの違いによる有意な影響のみが見られた[x2 (1)=11.475, p<.01]。決定木分析で

最初の変数を設定していない場合には、特定の変数がテイルの使用状況を有意

に予測しなければ、決定木には表示されない。しかし、図 1 で学習者の日本語

レベルの違いは、テイルの使用を有意に予測した[x2 (1)=7.525, p<.05]、というこ

とが既に判明している。そのため、学習者の日本語レベルの違いはテイルの使

用に影響すると考えられる。なお、テイルの使用された各動詞タイプの正誤用

の使用状況は恐らく初級段階から既に定着しており、いずれの段階においても

その使用状況が著しく変わらない 9ために、図 2 では「学習者の日本語レベル」

は表示されなかったのだと考えられる。以上により、テイルの使用においては、

動詞タイプの違いの影響が学習者の日本語レベルの違いの影響より強く、学習

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38 陳建瑋

x 2 (1)=7.525, p < .05

テイルの使用状況

ノード 0カテゴリ % 頻度

合計 100.0 438

日本語レベル

正用 76.3 334誤用 23.7 104

一級合格者;二級合格者 三級合格者

頻度

合計

ノード 1 ノード 2カテゴリ % 頻度 カテゴリ % 頻度

正用 64.6 53誤用 21.1 75 誤用 35.4 29正用 78.9 281

達成動詞;到達動詞;状態動詞活動動詞

正用 73.7 157誤用 13.3 19 誤用 26.3 56正用 86.7 124

図1 各グループにおける動詞タイプによるテイルの「正、誤用」の使用状況について

   の決定木分析

合計 48.6 213

18.7 82

動詞タイプ

x 2 (1)=8.701, p < .05

合計 81.3 356

ノード 3 ノード 4カテゴリ % 頻度 カテゴリ %

合計 32.6 143

また、学習者の日本語レベルと動詞タイプとの 2 要因がテイルの使用に影響

する度合いを検討するために、学習者の日本語レベルを決定木の最初の変数と

せずに分析を行った。その結果、2 要因のうち、テイルの使用された動詞タイ

プの違いによる有意な影響のみが見られた[x2 (1)=11.475, p<.01]。決定木分析で

最初の変数を設定していない場合には、特定の変数がテイルの使用状況を有意

に予測しなければ、決定木には表示されない。しかし、図 1 で学習者の日本語

レベルの違いは、テイルの使用を有意に予測した[x2 (1)=7.525, p<.05]、というこ

とが既に判明している。そのため、学習者の日本語レベルの違いはテイルの使

用に影響すると考えられる。なお、テイルの使用された各動詞タイプの正誤用

の使用状況は恐らく初級段階から既に定着しており、いずれの段階においても

その使用状況が著しく変わらない 9ために、図 2 では「学習者の日本語レベル」

は表示されなかったのだと考えられる。以上により、テイルの使用においては、

動詞タイプの違いの影響が学習者の日本語レベルの違いの影響より強く、学習

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 39

者のテイル使用に影響を与える主要な要因であることがわかった。また、ここ

では調査全体としてはテイルの使用に「活動動詞」(正用率が 84.7%)の正用率

が他の 4 種類の動詞(正用率が 70.6%)より高い、という有意差が示されてい

る。

テイルの使用状況

ノード 0カテゴリ % 頻度

正用 76.3 334誤用 23.7 104合計 100.0 438

動詞タイプ

x 2 (1)=11.475, p < .01

ノード 1 ノード 2カテゴリ % 頻度 カテゴリ % 頻度

活動動詞 達成動詞;到達動詞;状態動詞

正用 84.7 149 正用 70.6 185誤用 15.3 27 誤用 29.4 77合計

図2 「日本語レベル」と「動詞タイプ」の2要因がテイルの「正、誤用」の   使用状況に影響する度合いについての決定木分析

40.2 176 合計 59.8 262

最後に、学習者の日本語レベルと動詞タイプとの 2 要因はテイルの誤用パタ

ーンに如何に影響しているのかをさらに検討するため、非使用と過剰使用の 2つの誤用のパターンを従属変数として分析した結果が図 3 である。調査全体と

しては、テイルの誤用においては、非使用の頻度は 64 回で全体の 61.5%であり、

過剰使用の頻度は 40 回で全体の 38.5%であることが示されている。その誤用の

状況が等確率に起こるか否かを検討するために、カイ二乗分布を使った適合度

検定を行った結果は有意となっている[x2(1)=5.538, p<.05]。つまり、学習者の犯

したテイルの誤用は過剰使用より非使用のほうがより頻繁に起こっている。こ

こでは、テイルの使用された動詞タイプの違いによる影響のみが見られた。要

するに、学習者の日本語レベルの違いはテイルの誤用傾向に影響しないことが

わかった 10。4 つの動詞は誤用傾向の違いによって 2 つの子ノードに分岐する。

その中で、ノード 1 の「活動動詞」と「到達動詞」の 2 つの動詞タイプ(非使

用率が 73.7%;過剰使用率が 26.3%)における非使用率のほうが過剰使用率よ

り高いのに対し、ノード 2 の「達成動詞」と「状態動詞」の 2 つの動詞タイプ

(非使用率が 28.6%;過剰使用率が 71.4%)では過剰使用率のほうがより高い、

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40 陳建瑋

という有意差が示されている[x2(1)=17.594, p<.001]。

テイルの誤用状況

ノード 0カテゴリ % 頻度非使用 61.5 64

過剰使用 38.5 40

図3 「日本語レベル」と「動詞タイプ」の2要因がテイルの誤用パタ   ーンに影響する度合いについての決定木分析

過剰使用 26.3 20 過剰使用 71.4 20合計 73.1 76 合計 26.9 28

カテゴリ % 頻度 カテゴリ % 頻度

合計 100.0 104

動詞タイプ

x 2 (1)=17.594, p < .001

活動動詞;到達動詞 達成動詞;状態動詞

ノード 1 ノード 2

非使用 73.7 56 非使用 28.6 8

4.2.日本語レベルによる動詞タイプ別の使用状況

学習者の日本語レベルによるテイルの使用された各動詞タイプの使用状況

を観察するために、学習者の日本語レベル(1 級~3 級)を独立変数として設定

し、テイルの「正誤用」の使用状況と「非使用と過剰使用」の誤用パターンを

従属変数としてそれぞれ決定木分析を 4 回実施した結果、「正誤用」の使用状

況においても「非使用と過剰使用」の誤用傾向においても、いずれも学習者の

日本語レベルの違いによる影響が見られなかった。言い換えれば、テイルの使

用された各動詞タイプの使用状況と誤用パターンは学習者の日本語レベルの違

いにかかわらず、初級段階から定着しており、中・上級段階に達してもあまり

顕著な変化はない、ということを意味している。 4.3.日本語レベルによる動詞タイプ別の使用傾向

ここでは、調査全体で使用された動詞タイプの使用傾向(表 5)と、テイル

の使用された動詞タイプの使用傾向(表 6)を比較して、両者の間に如何なる

共通点と相違点があるのかを考察した。

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40 陳建瑋

という有意差が示されている[x2(1)=17.594, p<.001]。

テイルの誤用状況

ノード 0カテゴリ % 頻度非使用 61.5 64

過剰使用 38.5 40

図3 「日本語レベル」と「動詞タイプ」の2要因がテイルの誤用パタ   ーンに影響する度合いについての決定木分析

過剰使用 26.3 20 過剰使用 71.4 20合計 73.1 76 合計 26.9 28

カテゴリ % 頻度 カテゴリ % 頻度

合計 100.0 104

動詞タイプ

x 2 (1)=17.594, p < .001

活動動詞;到達動詞 達成動詞;状態動詞

ノード 1 ノード 2

非使用 73.7 56 非使用 28.6 8

4.2.日本語レベルによる動詞タイプ別の使用状況

学習者の日本語レベルによるテイルの使用された各動詞タイプの使用状況

を観察するために、学習者の日本語レベル(1 級~3 級)を独立変数として設定

し、テイルの「正誤用」の使用状況と「非使用と過剰使用」の誤用パターンを

従属変数としてそれぞれ決定木分析を 4 回実施した結果、「正誤用」の使用状

況においても「非使用と過剰使用」の誤用傾向においても、いずれも学習者の

日本語レベルの違いによる影響が見られなかった。言い換えれば、テイルの使

用された各動詞タイプの使用状況と誤用パターンは学習者の日本語レベルの違

いにかかわらず、初級段階から定着しており、中・上級段階に達してもあまり

顕著な変化はない、ということを意味している。 4.3.日本語レベルによる動詞タイプ別の使用傾向

ここでは、調査全体で使用された動詞タイプの使用傾向(表 5)と、テイル

の使用された動詞タイプの使用傾向(表 6)を比較して、両者の間に如何なる

共通点と相違点があるのかを考察した。

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 41

使用頻度 比率 使用頻度 比率 使用頻度 比率 使用頻度 比率

一級合格者 421 0.316 212 0.159 353 0.265 347 0.260

二級合格者 412 0.331 169 0.136 315 0.253 350 0.281

三級合格者 241 0.332 91 0.126 161 0.222 232 0.320

合計 1074 0.325 472 0.143 829 0.251 929 0.281

表5 日本語レベルによる動詞全体の使用傾向

適合度検定の結果活動動詞 達成動詞 到達動詞 状態動詞日本語能力で

分けたグループ

x 2 (3)=68.959, p <.001

x 2 (3)=102.411, p <.001

x 2 (3)=81.108, p <.001

独立性の検定の結果 x 2 (6)=14.413, p < .05

注:各項目の使用頻度は,延べ語数によって計算たものである.

調査全体においては、各グループにおける 4 つの動詞タイプの使用頻度が等

確率に起こるか否かを検討するために、カイ二乗分布を使った適合度検定を 3回行った結果、3 つのグループはいずれも有意となっている。また、学習者の

日本語レベルによる動詞全体の使用傾向に差異があるか否かを考察するため

に、カイ二乗分布を使った独立性の検定を行った結果も有意であった [x2

(8)=14.413, p<.05]。つまり、学習者の日本語レベルの違いによって全体的に使

用された動詞の使用傾向が異なっている。さらに、各グループにおける 4 種類

の動詞タイプの比較(2 つずつの組み合わせが 6 種類ある)を適合度検定で行

った結果、二級合格者[x2(1)=12.943, p<.001]と三級合格者[x2(1)=15.920, p<.001]のいずれにおいても「到達動詞」よりも「活動動詞」のほうがより多く用いら

れた、という使用傾向が見られた。これに対し、一級合格者においては「活動

動詞」と「到達動詞」の 2 動詞の使用にそのような差異は認められなかった[x2

(1)=5.974, p<.05]11。

使用頻度 比率 使用頻度 比率 使用頻度 比率 使用頻度 比率

一級合格者 63 0.409 8 0.052 43 0.279 40 0.260

二級合格者 67 0.432 8 0.052 48 0.310 32 0.206

三級合格者 28 0.431 7 0.108 19 0.292 11 0.169

合計 158 0.422 23 0.061 110 0.294 83 0.222

x 2 (3)=40.338, p <.001

x 2 (3)=48.381, p <.001

x 2 (3)=15.923, p <.01

独立性の検定の結果 x 2 (6)=5.058, p =.536, n.s.

注:各項目の使用頻度は,延べ語数によって計算したものである.

表6 日本語レベルによるテイルの使用された動詞タイプの使用傾向

適合度検定の結果活動動詞 達成動詞 到達動詞 状態動詞日本語能力で

分けたグループ

一方、テイルの使用においでは、各グループにおける 4 つの動詞タイプの使

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42 陳建瑋

用頻度が等確率に起こるか否かを検討するために、適合度検定を行った結果は、

いずれも有意であった。しかし、学習者の日本語レベルによる動詞タイプの使

用傾向に差異があるか否かを独立性の検定で分析した結果は有意ではなかった

[x2 (8)=5.058, p=.536, n.s.]。換言すれば、テイルの使用においては、4 つの動詞

タイプのうち使用頻度が最も高いのは「活動動詞」であり、次に「到達動詞」

と「状態動詞」の 2 動詞、使用頻度が最も低いのは「達成動詞」であるという

使用傾向は、学習者の日本語レベルの違いに関係なく共通して見られた。

5.総合的考察

前節では、学習者の日本語レベルの違いにより、テイルの習得状況とその習

得過程に見られる動詞タイプの使用状況を考察するために、テイルの正誤用を

予測する要因として、学習者の日本語レベルと動詞タイプの 2 要因の影響の仕

方について検討した。その結果、2 要因ともテイルの使用に有意な影響力を持

っていることが示された。この 2 要因のうち、動詞タイプの違いはテイルの使

用に最も強く影響しており、学習者のテイルの習得に影響を与える主要な要因

であると結論付けられた。一方、学習者の日本語レベルの違いは二次的な影響

として認められた。学習者のテイルの習得状況においては、初級段階から中級

段階まで学習者のテイルの習得はかなり進んでいたが、中級段階以後学習者は

日本語レベルが上級段階に達してもテイルの習得状況は顕著な伸びが見られな

かった。初級段階においては、テイルの使用された 4 種類の動詞タイプ間の使

用状況は殆ど同じで、顕著かつ有意な差異はなかったが、中・上級段階におい

ては、動詞タイプの違いによる有意な影響が見られた。 また、動詞の語彙的アスペクトの違いはテイルの使用に如何なる影響を与え

るのかを考察するために、中・上級段階における動詞タイプの違いによる使用

状況を検討する。まず、テイルの使用された動詞タイプの使用状況では、4 つ

の動詞タイプのうち、「達成動詞」、「到達動詞」、「状態動詞」の 3 種類の動詞よ

り「活動動詞」のほうがより正確に用いられた、という使用状況が観察された。

また、テイルの使用された動詞タイプ別の使用頻度の分析結果により、いずれ

のグループにおいても、「活動動詞」の使用率(一級合格者の使用率は 40.9%;

二級合格者の使用率は 43.2%;三級合格者の使用率は 43.1%)が最も高いもの

であった。学習者が初級段階からすでに生産的にテイルを「活動動詞」に使い

こなし、中・上級段階に至っても依然として高い使用率と正用率が維持されて

いることから、「活動動詞」は 4 つの動詞タイプの中で最もテイルと結びつきや

すいものであると判断できる。

Page 13: 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 …日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33 2.2.問題の所在

42 陳建瑋

用頻度が等確率に起こるか否かを検討するために、適合度検定を行った結果は、

いずれも有意であった。しかし、学習者の日本語レベルによる動詞タイプの使

用傾向に差異があるか否かを独立性の検定で分析した結果は有意ではなかった

[x2 (8)=5.058, p=.536, n.s.]。換言すれば、テイルの使用においては、4 つの動詞

タイプのうち使用頻度が最も高いのは「活動動詞」であり、次に「到達動詞」

と「状態動詞」の 2 動詞、使用頻度が最も低いのは「達成動詞」であるという

使用傾向は、学習者の日本語レベルの違いに関係なく共通して見られた。

5.総合的考察

前節では、学習者の日本語レベルの違いにより、テイルの習得状況とその習

得過程に見られる動詞タイプの使用状況を考察するために、テイルの正誤用を

予測する要因として、学習者の日本語レベルと動詞タイプの 2 要因の影響の仕

方について検討した。その結果、2 要因ともテイルの使用に有意な影響力を持

っていることが示された。この 2 要因のうち、動詞タイプの違いはテイルの使

用に最も強く影響しており、学習者のテイルの習得に影響を与える主要な要因

であると結論付けられた。一方、学習者の日本語レベルの違いは二次的な影響

として認められた。学習者のテイルの習得状況においては、初級段階から中級

段階まで学習者のテイルの習得はかなり進んでいたが、中級段階以後学習者は

日本語レベルが上級段階に達してもテイルの習得状況は顕著な伸びが見られな

かった。初級段階においては、テイルの使用された 4 種類の動詞タイプ間の使

用状況は殆ど同じで、顕著かつ有意な差異はなかったが、中・上級段階におい

ては、動詞タイプの違いによる有意な影響が見られた。 また、動詞の語彙的アスペクトの違いはテイルの使用に如何なる影響を与え

るのかを考察するために、中・上級段階における動詞タイプの違いによる使用

状況を検討する。まず、テイルの使用された動詞タイプの使用状況では、4 つ

の動詞タイプのうち、「達成動詞」、「到達動詞」、「状態動詞」の 3 種類の動詞よ

り「活動動詞」のほうがより正確に用いられた、という使用状況が観察された。

また、テイルの使用された動詞タイプ別の使用頻度の分析結果により、いずれ

のグループにおいても、「活動動詞」の使用率(一級合格者の使用率は 40.9%;

二級合格者の使用率は 43.2%;三級合格者の使用率は 43.1%)が最も高いもの

であった。学習者が初級段階からすでに生産的にテイルを「活動動詞」に使い

こなし、中・上級段階に至っても依然として高い使用率と正用率が維持されて

いることから、「活動動詞」は 4 つの動詞タイプの中で最もテイルと結びつきや

すいものであると判断できる。

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 43

「到達動詞」においては、その使用率(一級合格者の使用率は 27.9%;二級

合格者の使用率は 31%;三級合格者の使用率は 29.2%)はいずれのグループに

おいても「活動動詞」に次ぐものであった。各グループにおける異なり語数で

は、用いられた動詞の種類も多かったが、中・上段階においては「持つ」(使用

頻度と使用率において、一級合格者が 15 回で 34.9%;二級合格者が 10 回で

20.8%)という特定の動詞とテイルが強く結びついていて頻繁に使用された傾

向が見られ、非使用の誤用状況(一級合格者が 1 回;二級合格者が 2 回)は殆

どなく、その正用率は極めて高かった。

(1) そのようなコースによって、学生たちは本当に何か勉強したかという疑

問を持っている人がたくさんいる。(N1-15) (2) この現象を見ると、これは学生たちに対して、正しい教育か、なんか不

安な気持と疑問を持っている。(N2-13)

また、動詞タイプの違いによるテイルの誤用パターンの分析結果により、「到達

動詞」(例 3)は「活動動詞」(例 4)と同じく、非使用のほうがより頻繁に起こ

っている。

(3) その原因は大学の学校が増えていって、学生の人数が少なくなります(少

なくなっている)。(N2-39) (4) 以前、公立図書館についての記事を読んだことがあります。管理をよく

していないようで、きたないし、うるさいと書かれました(書かれてい

ました)。(N1-11)

「状態動詞」は「到達動詞」と同じように、その使用率(一級合格者の使用

率は 26%;二級合格者の使用率は 20.6%;三級合格者の使用率は 16.9%)が「活

動動詞」に次ぐものであった。初級段階から「思う」(使用頻度と使用率におい

て一級合格者が 19 回で 47.5%;二級合格者が 15 回で 46.9%;三級合格者が 7回で 63.6%)はテイルと強く結びついていて、繰り返し用いられているのが観

察された。それゆえに、「思う」による過剰使用が起こった比率(「思う」によ

る過剰使用の割合は一級合格者が 100%;二級合格者が 85.7%;三級合格者が

100%)も極めて高かった。具体的には学習者が自らの意見と感想を書く場合に、

主観的な判断を表す「思う」を使わずに誤って客観的な確認・記述を表す「思

っている」を使用してしまうというような過剰使用がよく見られた。

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44 陳建瑋

(5) そのような規定は必要ではなく、学生たちにもっと多くの選択を与える

ほうがいいと思っている(思う)。(N1-15) (6) いくらお金があっても、人間にとって大切な「心」を失わないように努力

したいと思っている(思う)。(N2-29)

また、上述した 3 動詞の高使用率に対して、「達成動詞」(使用頻度と使用率

において一級合格者が 8 回で 5.2%;二級合格者が 8 回で 5.2%;三級合格者が

7 回で 10.8%)の使用率はわずか全体の 6.1%に過ぎず、4 つの動詞タイプのう

ち使用頻度が最も低いものであった。これに関しては、西・白井(2004)でも日

本語母語話者の会話におけるテイルの使用例を分析した結果、テイルの使用さ

れた動詞タイプのうち、「達成動詞」に使用された頻度は、わずか全体の 3.09%(16 回)12 しかなかった、という同じ使用傾向が観察された。また、「達成動

詞」も「状態動詞」と同じく、過剰使用のほうが起こりやすいという誤用パタ

ーンが観察された。

(7) お金がないのに、品物は高いです。でも、品物を買ってなければなりま

せん(買わなければ)。(N3-7)

最後、調査全体の動詞タイプの使用傾向の分析結果、学習者の習熟度が上が

るにつれ、各動詞タイプはより均衡的に用いられることがわかった。これに対

し、テイルの使用には、学習者の日本語レベルの違いにかかわらず、いずれも

「活動動詞」は最も多く用いられたという普遍性があった。このことから、同

じ「動的」の要素を持つ動詞でも、「限界的」の要素がある限界動詞である「達

成動詞」と「到達動詞」より、学習者はテイルと「限界的」の要素のない非限

界動詞である「活動動詞」を結びつけやすい、ということがわかった。その理

由としては、テイルの使用において、非限界動詞は常に動作の継続しか表さな

いのに対し、限界動詞は常に結果の継続(例:鍵がそこに落ちている)を表す

とは言えず、動作の継続(例:太郎がいすを作っている)を表す場合もある。

そのため、学習者は非限界動詞より限界動詞のほうを処理する際に負担が大き

いために、使うべき箇所で使わずに誤用を引き起こしてしまうと考えられる。

従って、学習者にとって動作しか表さない非限界動詞である「活動動詞」より、

動作と変化をどちらも表す限界動詞である「達成動詞」と「到達動詞」のほう

がテイルと結びつきにくいと考えられる。

Page 15: 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 …日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33 2.2.問題の所在

44 陳建瑋

(5) そのような規定は必要ではなく、学生たちにもっと多くの選択を与える

ほうがいいと思っている(思う)。(N1-15) (6) いくらお金があっても、人間にとって大切な「心」を失わないように努力

したいと思っている(思う)。(N2-29)

また、上述した 3 動詞の高使用率に対して、「達成動詞」(使用頻度と使用率

において一級合格者が 8 回で 5.2%;二級合格者が 8 回で 5.2%;三級合格者が

7 回で 10.8%)の使用率はわずか全体の 6.1%に過ぎず、4 つの動詞タイプのう

ち使用頻度が最も低いものであった。これに関しては、西・白井(2004)でも日

本語母語話者の会話におけるテイルの使用例を分析した結果、テイルの使用さ

れた動詞タイプのうち、「達成動詞」に使用された頻度は、わずか全体の 3.09%(16 回)12 しかなかった、という同じ使用傾向が観察された。また、「達成動

詞」も「状態動詞」と同じく、過剰使用のほうが起こりやすいという誤用パタ

ーンが観察された。

(7) お金がないのに、品物は高いです。でも、品物を買ってなければなりま

せん(買わなければ)。(N3-7)

最後、調査全体の動詞タイプの使用傾向の分析結果、学習者の習熟度が上が

るにつれ、各動詞タイプはより均衡的に用いられることがわかった。これに対

し、テイルの使用には、学習者の日本語レベルの違いにかかわらず、いずれも

「活動動詞」は最も多く用いられたという普遍性があった。このことから、同

じ「動的」の要素を持つ動詞でも、「限界的」の要素がある限界動詞である「達

成動詞」と「到達動詞」より、学習者はテイルと「限界的」の要素のない非限

界動詞である「活動動詞」を結びつけやすい、ということがわかった。その理

由としては、テイルの使用において、非限界動詞は常に動作の継続しか表さな

いのに対し、限界動詞は常に結果の継続(例:鍵がそこに落ちている)を表す

とは言えず、動作の継続(例:太郎がいすを作っている)を表す場合もある。

そのため、学習者は非限界動詞より限界動詞のほうを処理する際に負担が大き

いために、使うべき箇所で使わずに誤用を引き起こしてしまうと考えられる。

従って、学習者にとって動作しか表さない非限界動詞である「活動動詞」より、

動作と変化をどちらも表す限界動詞である「達成動詞」と「到達動詞」のほう

がテイルと結びつきにくいと考えられる。

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 45

6.おわりに

本研究では、台湾人日本語学習者を対象に、テイルの習得過程において、学

習者の日本語レベルと動詞の語彙的アスペクトを、テイルの使用に影響する要

因として検討した。その結果、2要因ともテイルの使用に有意な影響力を持って

いることが示された。2要因のうち、動詞の語彙的アスペクトによる影響が最も

強く、学習者のテイル使用に影響を与える主要な要因であることが判明された。

テイルの習得は中級段階からすでに定着しており、学習者が上級段階に達して

もテイルの習得はそれ以上進まない、という習得状況が観察された。一方、4つの動詞タイプの中で、「活動動詞」は学習者にとって最もテイルと結びつき

やすいものであることがわかった。

以上の結果が得られたが、本研究は語彙的アスペクトの観点のみから検討し

たものであるが、第二言語としての日本語のアスペクト習得に影響する要因と

してテイルの用法も考慮に入れ、テイルの習得における動詞タイプとテイルの

用法との関係が如何なるものであるかについても分析を試みる必要がある。ま

た、本研究ではテイルの使用例が少なく、4 つの動詞タイプ別の違いを見るに

はまだ不十分な量であるため、今後より多くの学習者を対象とした研究が必要

である。

1 これは既述した「繰り返し」の用法に相当するものである。

2 CTLJ は“The Corpus of Taiwanese Learner of Japanese”の略称で、台湾成功大

学 外 国 語 文 学 系 の 黄 淑 妙 副 教 授 が 作 成 し た コ ー パ ス

(http://corpora.flld.ncku.edu.tw)である。CTLJ には台湾における 13 の大学

で日本語を学ぶ学習者の作文が、電子化されタグ付けされた上で収録され

ている。詳細は黄(2009)を参照。

3 「社会問題」は、今の社会について不満に思うことを具体的なテーマに設

定して、その考え方や解決方法について書いてもらったものである。

4 なお、「社会問題」というテーマに収集された 3 級合格者の作文データはわ

ずか 18 名しかなかったため、残った 22 名の作文データは筆者が 2012 年

10 月 7 日から 10 月 20 日までの 2 週間に、旧式の日本語能力試験 3 級とほ

ぼ同じレベルである新式の日本語能力試験 N4 級を取得した大学生(台湾

の大葉大学と中華大学の日本語専攻の学生)を対象に収集したものである。

Page 16: 日本語のアスペクト形式「テイル」の 習得に関する横断研究 …日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 33 2.2.問題の所在

46 陳建瑋

5 テイルの正用、非使用、過剰使用の分類は、筆者と三人の日本語母語話者

の判断によって行ったものである。

6 「延べ語数」とは、語の重なりを無視し、分析対象のコーパスの出てくる

全ての語を数え上げていった結果、得られた語数のことである。「異なり

語数」とは、語彙が重なった場合は、1 語としてまとめて数えた語数であ

る。ここで述べた延べ語数と異なり語数は、テイルが使われた、或いは使

われるべきところの動詞を数え上げて得られた回数である。例えば、「食べ

ている」と「食べていた」の場合なら、延べ語数は 2 であり、異なり語数

は 1 である。

7 「決定木分析」は複数の独立変数によってある一つの従属変数を予測する

多変量解析の一つである。詳細は玉岡(2012)を参照。また、本研究では

IBM SPSS Decision Trees, ver. 19.0J (SPSS Inc. 2010) を用いた。

8 「適合度検定」は、観測された頻度分布が確率分布と同じであるかどうか

を検定するものである。一方、「独立性の検定」は、2 変数のクロス集計表

に基づき、2 変数間の関連性を調べるものである。両者ともカイ二乗(x2)

分布と呼ばれる理論上の分布に漸近的に従う検定統計量を用いた統計的仮

説検定の総称である、「カイ二乗検定(chi-square tests)」に含まれる種々の

検定の一つである(玉岡 2012)。

9 この点については、後述した 4.2 節での「日本語レベルによる動詞タイプ

別の使用状況」でも同じ結論が得られた。

10 学習者の日本語レベルを決定木の最初変数として設定して分析を行った結

果でも、有意ではなかった[x2(1)=0.457, p=1.000, n.s.]。

11 一級合格者における「活動動詞」と「到達動詞」の p 値は Bonferroni の補

正を行った有意水準(0.05/6)より高いために、有意ではないと判断した。

12 回数は延べ語数、比率は筆者が計算したものである。

参考文献

奥田靖雄(1977)「アスペクトの研究をめぐって―金田一的段階―」『宮城教育

大学国語国文』8,51-63 影山太郎(1996)『動詞意味論―言語と認知の接点―』ひつじ書房

工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクスト』ひつじ書房

小山悟(2004)「日本語のテンス・アスペクトの習得における普遍性と個別性―

母語の役割と影響を中心に―」小山悟・大友可能子・野原美和子(編)『言

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46 陳建瑋

5 テイルの正用、非使用、過剰使用の分類は、筆者と三人の日本語母語話者

の判断によって行ったものである。

6 「延べ語数」とは、語の重なりを無視し、分析対象のコーパスの出てくる

全ての語を数え上げていった結果、得られた語数のことである。「異なり

語数」とは、語彙が重なった場合は、1 語としてまとめて数えた語数であ

る。ここで述べた延べ語数と異なり語数は、テイルが使われた、或いは使

われるべきところの動詞を数え上げて得られた回数である。例えば、「食べ

ている」と「食べていた」の場合なら、延べ語数は 2 であり、異なり語数

は 1 である。

7 「決定木分析」は複数の独立変数によってある一つの従属変数を予測する

多変量解析の一つである。詳細は玉岡(2012)を参照。また、本研究では

IBM SPSS Decision Trees, ver. 19.0J (SPSS Inc. 2010) を用いた。

8 「適合度検定」は、観測された頻度分布が確率分布と同じであるかどうか

を検定するものである。一方、「独立性の検定」は、2 変数のクロス集計表

に基づき、2 変数間の関連性を調べるものである。両者ともカイ二乗(x2)

分布と呼ばれる理論上の分布に漸近的に従う検定統計量を用いた統計的仮

説検定の総称である、「カイ二乗検定(chi-square tests)」に含まれる種々の

検定の一つである(玉岡 2012)。

9 この点については、後述した 4.2 節での「日本語レベルによる動詞タイプ

別の使用状況」でも同じ結論が得られた。

10 学習者の日本語レベルを決定木の最初変数として設定して分析を行った結

果でも、有意ではなかった[x2(1)=0.457, p=1.000, n.s.]。

11 一級合格者における「活動動詞」と「到達動詞」の p 値は Bonferroni の補

正を行った有意水準(0.05/6)より高いために、有意ではないと判断した。

12 回数は延べ語数、比率は筆者が計算したものである。

参考文献

奥田靖雄(1977)「アスペクトの研究をめぐって―金田一的段階―」『宮城教育

大学国語国文』8,51-63 影山太郎(1996)『動詞意味論―言語と認知の接点―』ひつじ書房

工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクスト』ひつじ書房

小山悟(2004)「日本語のテンス・アスペクトの習得における普遍性と個別性―

母語の役割と影響を中心に―」小山悟・大友可能子・野原美和子(編)『言

日本語のアスペクト形式「テイル」の習得に関する横断研究 47

語と教育:日本語を対象として』くろしお出版,153-164 黄淑妙(2009)『日本語習得の達成度分析―「台湾人日本語学習者コーパス」

(CTLJ)の構築と分析を中心に―』致良出版社,213-236 白井恭弘(1998)「第 3 章 言語学習とプロトタイプ理論」奥田祥子(編)『21

世紀の民族と国家 第 8 巻 ボーダーレス時代の外国語教育』未来社,

69-108 菅谷奈津恵(2002)「日本語のテンス・アスペクト習得に関する事例研究―自然

習得をしてきた露・英・仏語母語話者を対象に―」『第二言語としての日本

語の自然習得の可能性と限界』平成 12-13 年度科学研究費研究成果報告書,

102-114 玉岡賀津雄(2012)「統計」近藤安月子・小森和子(編)『研究社日本語教育事

典』研究社,317-336 寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版,114-146 西由美子・白井恭弘(2004)「会話のける「テイル」の意味:アスペクト二構

成要素理論による分析」南雅彦・浅野真紀子(編)『言語学と日本語教育 3』くろしお出版,231-249

三村由美(1999)「第 2 言語としての日本語のパーフェクトの習得」『言語文化

と日本語教育』17,48-59 吉川武時(1976)「現代日本語動詞のアスペクトの研究」金田一春彦(編)『日

本語動詞のアスペクト』むぎ書房,155-327 Andersen, R. W. (1991) Developmental sequence: The emergence of aspect marking in

second language acquisition. IN T. Huebner & C. A. ferguson (Eds.), Crosscurrents in Second Language Acquisition and Linguistic Theories, Amsterdam: John Benjamins, 305-324

Shirai, Y(1995)Tense-aspect marking by L2 learners of Japanese,In D. MacLaughlin & S. McEwen(Eds.), BUCLD 19:Proceedings of the 19th annual Boston University Conference on Language Development, Somerville, MA: Cascadilla Press, 575-586

Shirai, Y. & Kurono, A. (1998) The acquisition of tense-aspect marking in Japanese as a second language. Langage learnint, 48, 245-279

Shirai, Y.(2002)The prototype hypothesis of tense-aspect acquisition in second language, In R. Salaberry & Y. Shirai(Eds.), The L2 acquisition of tense-aspect morphology, Philadelphia: John Benjamins, 455-478

Vendler, Z. (1967) linguistics in philosophy, Ithaca, NY: Comell University press.